説明

直動装置

【課題】摺動部の剥離により生成した金属片を確実に検知できる直動装置を提供する。
【解決手段】リニアガイド装置は、転動体転動溝10を有し軸方向に延びる案内レール1と、転動体転動溝10に対向する転動体転動溝11を有するスライダ2と、転動体転動溝10,11で形成される転動体転動路14内に転動自在に装填された転動体3と、を備えており、転動体3の転動を介してスライダ2が軸方向に直線移動可能とされている。そして、摺動部の剥離により生成した金属片が溜まりやすい部分に、金属片を検知する陰陽一対の電極20A,20Bが間隔をあけて配されている。すなわち、電極20A,20Bがサイドシール5に取り付けられ、電極20A,20Bの両先端が、案内レール1の転動体転動溝10に対向し且つ転動体転動溝10から僅かに離れた位置に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン等の直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ,リニアガイド装置等の直動装置を駆動すると、軌道面や転動体の表面(摺動部)に剥離が生じる場合がある。この剥離により生成した金属片は異物として作用するため、直動装置に振動,寿命低下等の問題が発生するおそれがあった。そこで、金属片の生成を検知するシステムが提案されている。
例えば、特許文献1には、アコースティックエミッションセンサ(以降はAEセンサと記す)を備えるリニアガイド装置が開示されている。リニアガイド装置を駆動した際に、軌道面と転動体との間に金属片を噛み込むことにより振動が発生すると、その振動がAEセンサにより検出され、異常が検知されるようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、案内レールの軌道面上にある潤滑剤の色調変化や軌道面の輝度変化を検知するセンサを備えるリニアガイド装置が開示されている。金属片により潤滑剤の色調変化や軌道面の輝度変化が生じると、その変化が前記センサにより検出され、異常が検知されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−263775号公報
【特許文献2】特開2002−106785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リニアガイド装置を駆動した際には、転動体同士の衝突や転動体と転動体循環路内壁との衝突による振動が発生することに加えて、リニアガイド装置の近傍に配置された他の装置や機械からも振動が発生するため、金属片により発生した振動をAEセンサで的確に区別して検出することは容易ではなかった。
また、潤滑剤の色調や軌道面の輝度は、雰囲気の影響で変化する場合があるので、特許文献2に記載のリニアガイド装置は、半導体製造装置や液晶製造装置に使用されるようなクリーンルーム内の清浄な雰囲気内でしか使用できないという問題があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、摺動部の剥離により生成した金属片を確実に検知できる直動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の直動装置は、軌道面を有し軸方向に延びる案内部材と、前記案内部材の軌道面に対向する軌道面を有するとともに前記両軌道面の間に転動自在に配された複数の転動体の転動を介して軸方向に相対直線移動可能に前記案内部材に支持された可動部材と、を備える直動装置において、摺動部の剥離により生成した金属片が溜まりやすい部分に、前記金属片を検知する陰陽一対の電極を間隔をあけて配したことを特徴とする。
【0006】
間隔をあけて配された陰陽両電極の間に電圧を印加しておけば、両電極間に金属片が挟まれた際に通電が生じるので、この通電により金属片を検知することができる。両電極は金属片が溜まりやすい部分に配されているので、軌道面や転動体の表面の剥離により生成した金属片を確実に検知することができる。
また、本発明に係る請求項2の直動装置は、請求項1に記載の直動装置において、前記案内部材の軌道面又は前記可動部材の軌道面に対向し且つ該軌道面から離れた位置に前記電極を配したことを特徴とする。
【0007】
電極を軌道面の近傍に配すれば、金属片が両電極間に挟まりやすいので、金属片をより確実に検知することができる。電極は軌道面から離れた位置に配されており、軌道面に接触していないので、両電極間に金属片が挟まらないかぎり通電は生じない。
さらに、本発明に係る請求項3の直動装置は、請求項1又は請求項2に記載の直動装置において、前記電極は磁性を有することを特徴とする。
【0008】
電極が磁性を帯びているため金属片が接触しやすいので、金属片をより確実に検知することができる。
さらに、本発明に係る請求項4の直動装置は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の直動装置において、前記金属片を前記電極に引き付ける磁石を備えることを特徴とする。
磁石により金属片が電極に引き付けられるので、金属片をさらに確実に検知することができる。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項5の直動装置は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の直動装置において、前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の電極の間に前記金属片が挟まることによって生じる通電を検知する通電検知手段と、を備えることを特徴とする。
なお、本発明は種々の直動装置に適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,ボールスプライン等である。また、本発明における案内部材及び可動部材とは、直動装置がボールねじである場合にはねじ軸及びナット、同じくリニアガイド装置である場合には案内レール及びスライダ、同じく直動ベアリングやボールスプラインである場合には軸及び外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の直動装置は、摺動部の剥離により生成した金属片を確実に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る直動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る直動装置の一実施形態であるリニアガイド装置を示す斜視図である。また、図2は、図1のリニアガイド装置を軸方向から見た正面図(ただし、エンドキャップを省略して図示している)であり、図3は、図2のA−A断面図である。
軸方向に延びる横断面略角形の案内レール1上に、横断面形状が略コ字状のスライダ2が軸方向に相対直線移動可能に取り付けられている。なお、案内レール1が本発明の構成要件である案内部材に相当し、スライダ2が本発明の構成要件である可動部材に相当する。
【0012】
この案内レール1の上面と両側面1a,1aとが交差する稜線部には、軸方向に延びる断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝からなる転動体転動溝10,10が形成され、また、案内レール1の両側面1a,1aの中間位置には、軸方向に延びる断面ほぼ半円形の凹溝からなる転動体転動溝10,10が形成されている。この転動体転動溝10の内面が、後述する転動体3が転動する軌道面を構成している。
【0013】
また、スライダ2は、スライダ本体2Aと、その軸方向両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bと、で構成されており、さらに、スライダ2の両端部(各エンドキャップ2Bの端面)には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口をシールするサイドシール5,5が装着されている。
さらに、スライダ本体2Aの両袖部6,6の内側面の角部には、案内レール1の転動体転動溝10,10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11,11が形成され、両袖部6,6の内側面の中央部には、案内レール1の転動体転動溝10,10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11,11が形成されている。この転動体転動溝11の内面が、後述する転動体3が転動する軌道面を構成している。
【0014】
そして、案内レール1の転動体転動溝10,10,10,10と両袖部6,6の転動体転動溝11,11,11,11とで、断面ほぼ円形の転動体転動路14,14,14,14が形成されていて、これらの転動体転動路14は軸方向に延びている。なお、案内レール1及びスライダ2が備える転動体転動溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上などであってもよい。また、転動体転動溝10,11の断面形状は、前述したように単一の円弧からなる円弧状でもよいが、曲率中心の異なる2つの円弧を組合せてなる略V字状(ゴシックアーク形状溝)でもよい。
【0015】
さらにまた、スライダ2は、スライダ本体2Aの袖部6,6の肉厚部分の上部及び下部に、転動体転動路14と平行をなして軸方向に貫通する断面円形の貫通孔からなる転動体戻し路13,13,13,13を備えている。
一方、図3に示すように、断面略コ字状のエンドキャップ2B,2Bは、スライダ本体2Aとの当接面(裏面)に、転動体転動路14とこれに平行な転動体戻し路13とを連通させる半ドーナッツ状の湾曲路15を有しており、これら転動体転動路14と転動体戻し路13と両端の湾曲路15,15とで、略環状の転動体循環路が形成されている。この転動体循環路内には、例えば鋼球からなる多数の転動体(ボール)3が転動自在に装填されている。なお、各転動体3の間にスペーサーを介装してもよい。
【0016】
案内レール1に組みつけられたスライダ2を案内レール1に沿って軸方向に移動させると、転動体転動路14内に装填されている転動体3は、転動体転動路14内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動体転動路14の一端に達すると、エンドキャップ2B内に備えられたタング部によって転動体転動路14からすくい上げられ、湾曲路15へ送られる。
湾曲路15に入った転動体3はUターンして転動体戻し路13に導入され、転動体戻し路13を通って反対側の湾曲路15に至る。ここで再びUターンして転動体転動路14に戻り、このような転動体循環路内の循環を無限に繰り返す。
【0017】
このようなリニアガイド装置を駆動すると、転動体転動溝10,11や転動体3の表面(以降は、これらを摺動部と記すこともある)に剥離が生じる場合がある。この剥離により生成した金属片は異物として作用するため、リニアガイド装置に振動,寿命低下等の問題が発生するおそれがある。そこで、このリニアガイド装置には、金属片の生成を検知するシステムが備えられている。
すなわち、このリニアガイド装置には、金属片を検知する陰陽一対の電極20A,20Bが備えられており、さらに両電極20A,20B間(陽極20Aと陰極20Bとの間)に電圧を印加する電圧印加手段(図示せず)と、電極20A,20B間の通電を検知する通電検知手段(図示せず)と、が接続されている。
【0018】
摺動部の剥離により生成した金属片の多くは、潤滑剤であるグリース中に分散するが、このグリースはサイドシール5のうち転動体転動溝10と接触する部分及びその近傍部分に滞留しやすいので、これらの部分に金属片が溜まりやすい。よって、摺動部の剥離により生成した金属片を確実に検知するためには、電極20A,20Bはこの部分に設置するとよい。詳述すると、電極20A,20Bをサイドシール5に取り付け、電極20A,20Bの両先端を、案内レール1の転動体転動溝10に対向し且つ転動体転動溝10から僅かに離れた位置に配した。
【0019】
電極20A,20Bの両先端は、サイドシール5の軸方向端面の近傍に配されているが、軸方向いずれの側の端面の近傍でもよい。すなわち、図3に示すように、両サイドシール5,5に挟まれた空間(つまり、スライダ内部空間)に面した端面の近傍でもよいし、その反対側である、外部に面した端面の近傍でもよい。
両電極20A,20Bは前記電圧印加手段に接続されており、この電圧印加手段によって両電極20A,20B間に電圧が印加されているが、陽極20Aの先端と陰極20Bの先端との間には間隔があけられており接触していないし、これら両先端は転動体転動溝10に接触していないので、両電極20A,20B間は通電していない。
【0020】
両電極20A,20Bは、鉄,ニッケル,銅等の導電性を有する素材で構成されており磁性を帯びているので、近くの金属片が引き寄せられるようになっている。そして、金属片が電極20A,20Bの両先端に接触し、両電極20A,20B間を接続すると(両先端の間に金属片が挟まると)通電が生じるので、前記通電検知手段によりこの通電が検知され、金属片の生成が検知される。このように通電により金属片を検知するので、振動や雰囲気の影響を受けて金属片の検知に不都合が生じることはない。
このようなリニアガイド装置は、各種製造装置や、加工機械,測定機械等のような各種機械に適用することができる。
【0021】
なお、直動装置の種類や使用条件等により、生成する金属片の大きさは異なるので、電極20A,20Bの先端の間隔は生成する金属片の大きさに応じて適宜設定すればよい。また、電圧印加手段及び通電検知手段は、リニアガイド装置の外部に設置して両電極20A,20Bと配線により接続してもよいし、スライダ2に設けてもよい。
通電の検知は、ランプの点灯又は点滅、警報音の発生、文字の表示等の周知の方法によって通知されるようにすればよい。このような通知を行う通知手段は、リニアガイド装置に設けてもよいし、リニアガイド装置の外部に設置して、通電検知手段と有線又は無線で接続してもよい。
【0022】
なお、本実施形態においては、電極20A,20Bはサイドシール5に取り付けてあるが、スライダ本体2Aやエンドキャップ2Bに取り付けて、両先端を転動体転動溝10の近傍まで延ばしてもよい。また、本実施形態においては、電極20A,20Bをスライダ2側に取り付けて、電極20A,20Bの両先端を案内レール1の転動体転動溝10に対向させたが、電極20A,20Bを案内レール1に取り付けて、電極20A,20Bの両先端をスライダ2の転動体転動溝11に対向させてもよい。この場合は、電圧印加手段及び通電検知手段は、リニアガイド装置の外部に設置して両電極20A,20Bと配線により接続してもよいし、案内レール1に設けてもよい。
【0023】
さらに、電極20A,20Bは、1つの転動体転動溝10,11に対して一対配してもよいが、二対以上配しても差し支えない。
さらに、図3に示すように、磁石22を電極20A,20Bの先端の近傍に設けてもよい。磁石22が設けられていれば、電極20A,20Bの磁性が強まるとともに、磁石22に引き付けられることにより金属片が電極20A,20Bの先端に引き寄せられるため、金属片をさらに確実に検知することができる。磁石22は、永久磁石でもよいし電磁石でもよい。
【0024】
磁石22を配する場所は、金属片を電極20A,20Bの両先端に引き寄せることが可能であれば特に限定されるものではないが、以下のようにするとよい。図3のように、電極20A,20Bの両先端が、サイドシール5の軸方向両端面のうちスライダ内部空間に面した側の端面の近傍に配されている場合には、磁石22は、サイドシール5の外部に面した側の端面に取り付ければよい。反対に、電極20A,20Bの両先端が、サイドシール5の軸方向両端面のうち外部に面した側の端面の近傍に配されている場合には、磁石22は、サイドシール5のスライダ内部空間に面した側の端面に取り付ければよい。
【0025】
さらに、グリースは、案内レール1の表面のうち、軸方向に移動してきたスライダ2が反転する折り返し部分及びその近傍部分に滞留しやすいので、これらの部分に金属片が溜まりやすい。よって、電極20A,20Bはこの部分に設置してもよい。
図4を参照しつつ詳述すると、電極20A,20Bを案内レール1に取り付け、電極20A,20Bの両先端を、案内レール1の表面のうち前記折り返し部分及びその近傍部分に対向し且つ案内レール1の表面から僅かに離れた位置に配した。電極20A,20Bの両先端は、案内レール1の転動体転動溝10に対向するように配してもよいし、転動体転動溝10以外の表面に対向するように配してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る直動装置の一実施形態であるリニアガイド装置の構造を示す斜視図である。
【図2】図1のリニアガイド装置を軸方向から見た正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】軸方向に移動してきたスライダが反転する折り返し部分及びその近傍部分を示す案内レールの側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 案内レール
2 スライダ
2A スライダ本体
2B エンドキャップ
3 転動体
10 転動体転動溝
11 転動体転動溝
20A,20B 電極
22 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面を有し軸方向に延びる案内部材と、前記案内部材の軌道面に対向する軌道面を有するとともに前記両軌道面の間に転動自在に配された複数の転動体の転動を介して軸方向に相対直線移動可能に前記案内部材に支持された可動部材と、を備える直動装置において、摺動部の剥離により生成した金属片が溜まりやすい部分に、前記金属片を検知する陰陽一対の電極を間隔をあけて配したことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
前記案内部材の軌道面又は前記可動部材の軌道面に対向し且つ該軌道面から離れた位置に前記電極を配したことを特徴とする請求項1に記載の直動装置。
【請求項3】
前記電極は磁性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の直動装置。
【請求項4】
前記金属片を前記電極に引き付ける磁石を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の直動装置。
【請求項5】
前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の電極の間に前記金属片が挟まることによって生じる通電を検知する通電検知手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−92204(P2009−92204A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265828(P2007−265828)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】