直動転がり案内ユニット
【課題】 スライダから下面シールが脱落しない直動転がり案内ユニットを提供する。
【解決手段】 ケーシング1の両端に一対のエンドキャップ2を固定したスライダSと、一対のエンドキャップ2間に掛け渡す下面シール6とからなり、エンドキャップ2には嵌合凸部12を設ける一方、下面シール6には挿入孔10を形成し、挿入孔10に嵌合凸部12を嵌合させて下面シール6をスライダSに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、下面シール6の長手方向両端面には脱落防止突起9を設ける一方、スライダSには、下面シール6をスライダSに固定した状態で、脱落防止突起9が入り込む孔または凹みからなる保持部14を設け、この保持部14を構成する孔または凹みと、脱落防止突起9の外周との間に隙間を維持する構成にした。
【解決手段】 ケーシング1の両端に一対のエンドキャップ2を固定したスライダSと、一対のエンドキャップ2間に掛け渡す下面シール6とからなり、エンドキャップ2には嵌合凸部12を設ける一方、下面シール6には挿入孔10を形成し、挿入孔10に嵌合凸部12を嵌合させて下面シール6をスライダSに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、下面シール6の長手方向両端面には脱落防止突起9を設ける一方、スライダSには、下面シール6をスライダSに固定した状態で、脱落防止突起9が入り込む孔または凹みからなる保持部14を設け、この保持部14を構成する孔または凹みと、脱落防止突起9の外周との間に隙間を維持する構成にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライダに無限循環路を形成するとともに、この無限循環路に組み込んだ転動体を転動させることによって、スライダがレール上を摺動する直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動転がり案内ユニットとして、特許文献1または2に記載された発明が知られている。これらの発明は、ケーシングの両端にエンドキャップを固定したスライダに、ボールまたはころからなる転動体を転動自在に保持させる。そして、当該スライダをレール上に跨がせるとともに、レールの側面に形成した軌道面上に転動体を転動させて、スライダをレールに対して相対移動させるものである。
このように、スライダがレールを跨る構成の直動転がり案内ユニットにおいては、レール側面とスライダとの間に隙間が形成される。そして、このレール側面とスライダとの間に形成される隙間から、ダストが侵入してしまうと、転動体の転動に伴って当該ダストをスライダ内に巻き込んでしまう。このようにダストがスライダ内に入り込んでしまうと、スライダのスムーズな摺動を長期に亘って維持することができなくなってしまう。
【0003】
そこで、レール側面とスライダとの間に形成される隙間からダストが侵入しないように、スライダに下面シールを固定して、レール側面とスライダとの間に形成される隙間が露出しないようにしている。
このように、ダストの侵入を防ぐ下面シールは、次のようにしてスライダに固定される。すなわち、下面シールの長手方向両端面近傍には挿入孔を形成する。一方、ケーシングの両端に設けたエンドキャップには、スライダをレールに跨がせたときに当該レール側面の近傍に位置する部分に、嵌合凸部を突出させる。そして、この嵌合凸部に下面シールの挿入孔を嵌合させることによって、下面シールをスライダの摺動方向に沿って保持するようにしている。
【特許文献1】特開平5−164128号公報
【特許文献2】特開2003−322151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の直動転がり案内ユニットは、その使用環境によってはスライダがレールに沿って摺動する際に激しい振動を伴う場合がある。このように激しい振動を伴っても下面シールがスライダから脱落しないようにするために、下面シールの挿入孔と嵌合凸部との寸法関係をきつくして、下面シールががたつかないようにしている。
ところが、上記のように挿入孔と嵌合凸部とをきつく嵌合させようとすると、両者を嵌合させる際の圧入力を大きくしなければならない。具体的には、嵌合凸部を挿入孔に臨ませた状態で、下面シールを力強く押し込んで、当該嵌合凸部を挿入孔に貫通させる。
【0005】
直動転がり案内ユニットにおいては、軽量化やコスト低減等の観点からエンドキャップを樹脂で形成している場合が多く、樹脂製のエンドキャップに形成した嵌合凸部に、上記の如く大きな外力を作用させると、嵌合凸部に亀裂が入ってしまうことがある。
例えば、大型の直動転がり案内ユニットにおいて、スライダをレールに組み込む場合には、当然のこととしてスライダの重量も増す。こうした重量の大きなスライダを運搬する際に、当該スライダを持ち上げようとして下面シールに大きな外力が作用すると、やはり嵌合凸部を破損させてしまうことがある。
さらに、下面シールを取付ける際に嵌合凸部に傷がつかないとしても、下面シールは嵌合凸部に対して応力を作用し続ける状態で固定されているので、この応力によって、徐々に嵌合凸部が劣化してしまう。
【0006】
しかし、下面シールがスライダに保持された状態では、嵌合凸部の劣化具合や破損の有無を確認することができないため、実際に下面シールがスライダから脱落するまで、嵌合凸部の劣化に気付くことはない。つまり、下面シールがスライダから脱落する前に、エンドキャップやスライダを交換することは難しい。
したがって、多くの場合、下面シールがスライダから脱落した後に、エンドキャップやスライダを交換することとなるが、下面シールがスライダから脱落すると、この脱落した下面シールによってさまざまな悪影響がもたらされる。
例えば、直動転がり案内ユニットを上下方向に何段も設置している装置において、その装置の稼働中に下面シールが脱落すると、脱落した下面シールが、その下方のスライダに噛みこんでしまい、スライダやレールが故障するおそれがある。
【0007】
また、平面上に多数のレールが敷き詰められている装置において、隣り合うレール間に下面シールが脱落してしまうと、装置の稼動を停止させたうえにレールを取り外す等して、当該装置から下面シールを除去しなければならない。
このように、下面シールがスライダから脱落すると、脱落したスライダによって装置が故障したり、脱落した下面シールを除去するために装置の稼動を停止したりしなければならないという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、スライダから下面シールが脱落しない直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定したスライダと、上記一対のエンドキャップ間に掛け渡すとともに、ダストの侵入を防止する機能を備えた下面シールとからなり、上記エンドキャップには嵌合凸部を設ける一方、上記下面シールには挿入孔を形成し、この挿入孔に上記嵌合凸部を嵌合させて下面シールをスライダに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、上記下面シールの長手方向両端面には脱落防止突起を設ける一方、上記スライダには、下面シールをスライダに固定した状態で、脱落防止突起が入り込む孔または凹みからなる保持部を設け、この保持部を構成する孔または凹みと、上記脱落防止突起の外周との間に隙間を維持する構成にしたことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、スライダの摺動方向両端面に、エンドキャップと別体からなる側面シールを固定するとともに、この側面シールに上記保持部を形成したことを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、上記ケーシングおよびエンドキャップからなるスライダが、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する一対の側部とを備えてなる一方、上記下面シールは平板状にしてなり、上記ケーシングにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には傾斜面を形成する一方、上記エンドキャップにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には段差部を形成し、しかも、この段差部は上記傾斜面よりも側部先端側に突出する寸法関係を維持してなり、かつ、この段差部に上記嵌合凸部を形成するとともに、この嵌合凸部に上記下面シールの挿入孔を嵌合させたとき、下面シールが段差部に圧接するとともに、上記傾斜面と下面シールとの間に隙間を維持することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、下面シールには、ケーシングの傾斜面に対向する部分に弾性突部を形成するとともに、この弾性突部によって傾斜面と下面シールとの隙間を小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1〜4の発明によれば、下面シールの長手方向両端面に設けた脱落防止突起を、スライダに設けた保持部に入り込ませたので、嵌合凸部の劣化により下面シールを保持できなくなったとしても、脱落防止突起が保持部に引っ掛かる。このように、下面シールに設けた脱落防止突起が、スライダの保持部に引っ掛かるので、スライダから下面シールが脱落することがない。
また、下面シールをスライダに固定した状態で、保持部と脱落防止突起の外周との間に隙間を保つようにしたので、嵌合凸部の嵌合に脱落防止突起が干渉することがない。したがって、通常状態においては、嵌合凸部が下面シールをしっかりと保持することができ、また脱落防止突起と保持部との寸法関係をある程度ラフにすることができる。
特に、第4の発明によれば、下面シールに対して、それをケーシング側に押し付けるように応力が作用しても、弾性突部がケーシングに接触することによって、嵌合凸部に作用する力を軽減することができる。したがって、レールへのスライダ組み込み時における外力等によって、嵌合凸部が劣化するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図10を用いて、この発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態の直動転がり案内ユニットは、軌道面r,rを側面に形成したレールR上をスライダSが摺動する。
このスライダSは、ケーシング1の両端にエンドキャップ2,2を固定しており、これらケーシング1とエンドキャップ2,2とには、ころからなる複数の転動体3が無限に循環する無限循環路が形成されている。具体的には、ケーシング1は、本体部1aと、この本体部1aの両端から直角に突出する一対の側部1b,1bとからなる。また、上記エンドキャップ2も、上記ケーシング1と同様、本体部2aと、この本体部2aの両端から直角に突出する一対の側部2b,2bとからなる。つまり、スライダS全体としても、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する側部を備えることとなる。
【0015】
そして、上記無限循環路は、上記ケーシング1の側部1b,1bおよびエンドキャップ2の側部2b,2bに亘って形成されており、この無限循環路内にころからなる複数の転動体3が転動自在に組み込まれている。
なお、上記無限循環路には潤滑油を含有した含油スリーブ4が組み込まれており、上記転動体3が含油スリーブ4内を転動することによって、当該転動体3が潤滑される。
また、スライダSの摺動方向両端面、つまり、エンドキャップ2,2におけるケーシング1とは反対側の面には、当該エンドキャップ2,2と別体からなる側面シール5,5を固定している。この側面シール5,5は、レールRの軌道面r,rに接触するリップ部を備えており、転動体3を介して軌道面r,rに塗布された油がスライダSの摺動範囲内から漏れ出さないように、また、軌道面r,r上のダストがスライダS内に入り込まないようにシール機能を果たす。
【0016】
さらに、スライダSの一対の側部(1b,1b,2b,2b)先端であって、レールRの軌道面r,r近傍に位置する部分には、下面シール6が固定されている。
この下面シール6は、図2、図3に示すように、金属製の芯金7の外周にゴム等の弾性部材8をコーティングしてなる。芯金7は、平坦部7aと、この平坦部7aの幅方向に傾斜する傾斜部7bとからなる。そして、この芯金7の平坦部7aには、その長手方向の中ほどにおいて、図3(a)に示すようなゴム注入孔7cが3箇所形成されている。
芯金7をコーティングする弾性部材8は、上記ゴム注入孔7cを貫通して弾性突部8aを形成する。つまり、下面シール6は、芯金7の外周に弾性部材8をコーティングしているが、一方の面(図中上側の面)には弾性部材8を薄くコーティングし、この薄くコーティングした面側に、ゴム注入孔7cを介して弾性突部8aが部分的に突出するようにしている。これに対して、上記弾性突部8aが突出する側の面とは反対側の面(図中下側の面)には、弾性部材8を所定の厚さにコーティングし、下面シール6全体として平板状になるようにしている。
【0017】
また、下面シール6には、その一方の幅方向端部(図中右側端部)に第1リップ部8bを形成するとともに、他方の幅方向端部(図中左側端部)に第2リップ部8cを形成している。ただし、上記第1リップ部8bは、図2に示すように、下面シール6の長手方向全長に亘って形成しているのに対し、上記第2リップ部8cは、下面シール6の両端部近傍には形成していない。言い換えれば、第2リップ部8cは、下面シール6の中ほどにしか形成していない。この第2リップ部8cが形成されない部分は、エンドキャップ2の厚さに相当するようにしているが、その詳細は後述することとする。
なお、図中符号8dは弾性部材8によって形成される圧接部である。この圧接部8dは、下面シール6の両端部近傍において、芯金7の傾斜部7b先端に位置するが、その詳細についても後述することとする。
【0018】
そして、図2に示すように、下面シール6の長手方向両端面には、上記弾性部材8によって形成される脱落防止突起9を突出させるとともに、下面シール6の両端部近傍には挿入孔10を形成している。この挿入孔10は、図3(b)に示すように、芯金7の平坦部7aおよびこの平坦部7aの両面をコーティングする弾性部材8を貫通している。また、上記挿入孔10は、芯金7に対応する部分の内壁に弾性部材8によるガイド部10aを設けるとともに、このガイド部10aを図中上側から下側に向かって徐々に厚くして傾斜させている。
上記の構成からなる下面シール6は、挿入孔10を介してスライダSに固定されるが、その詳細は次の通りである。
【0019】
すなわち、図4,5に示すように、エンドキャップ2の側部2b,2bの先端であって、当該一対の側部2b,2bの対向面側には段差部11,11を形成している。この段差部11は、上記下面シール6の厚さ相当分だけ、側部2bの先端から凹んでおり、側部2bの先端面と直角に交わる圧接面11a、この圧接面11aから斜めに傾斜する傾斜部11b、および傾斜部11bに連続するとともに、側部2bの先端面と平行な平坦部11cとを備える。そして、側部2bの先端面から、段差部11の平坦部11cまでの深さを、上記下面シール6の厚さとほぼ等しくしている。
上記平坦部11cには、側部2bの先端面側に向かって嵌合凸部12を突出させている。この嵌合凸部12は、その先端から基端側に徐々に幅広になる掛止部12aを形成するとともに、この掛止部12aを下面シール6の挿入孔10に貫通させて、当該掛止部12aに下面シール6を保持するようにしている。
【0020】
図6,7を用いて下面シール6をスライダSに固定する過程を具体的に示す。
図6に示すように、下面シール6は、弾性突部8aを形成した面をスライダS側(ケーシング1およびエンドキャップ2側)に向けるとともに、エンドキャップ2の側部2bから突出する嵌合凸部12先端に、下面シール6の挿入孔10を臨ませる。
このまま下面シール6を図中x方向に移動させると、嵌合凸部12の掛止部12aが、ガイド部10aを弾性変形させながら挿入孔10に進入する。この状態からさらに下面シール6の端部を、エンドキャップ2の段差部11に押し付けると、図7に示すように、掛止部12aが、芯金7の掛止面7dに引っ掛かるようにして下面シール6を保持する。
【0021】
また、上記のように掛止部12aが掛止面7dに引っ掛かった状態では、下面シール6の圧接部8dが、芯金7の傾斜部7bと、段差部11の圧接面11aとの間に圧入される寸法関係を維持している。
したがって、下面シール6は、掛止部12aが掛止面7dに引っ掛かることと、圧接部8dが圧接面11aに圧接する圧接力とによって、段差部11の平坦部11cに密着し、その両端がエンドキャップ2にしっかりと固定される。
なお、図6,7中に点線で示すケーシング1は、その側部1b,1bの先端であって、当該一対の側部1b,1bの対向面側に傾斜面13を形成している。言い換えれば、ケーシング1には、エンドキャップ2の段差部11に対応する部分に傾斜面13を形成している。そして、図からも明らかなように、ケーシング1とエンドキャップ2とを固定したとき、段差部11が傾斜面13よりも側部2b先端側に突出するようにしている。
【0022】
したがって、エンドキャップ2(段差部11)に下面シール6の端部が圧接した状態において、ケーシング1(傾斜面13)と下面シール6中ほどとの間には隙間hが維持される。
そして、下面シール6に形成した弾性突部8aは、上記傾斜面13に向かって突出することとなるが、このように弾性突部8aが突出することによって、傾斜面13と下面シール6との間に形成される隙間hを小さくするようにしている。
このように、弾性突部8aによって、隙間hを部分的に小さくしたのは、下面シール6を図中上方に押し上げる力が作用しても、嵌合凸部12が折れたり、あるいは亀裂が入ったりしないようにするためである。
【0023】
例えば、下面シール6を図中上方に押し上げる場合として、スライダSを運搬する場合が考えられる。人手によってスライダSを持ち上げる際に、下面シール6の第1リップ部8b側に指が入り込んだ状態でスライダSを持ち上げると、第1リップ部8bが図中上方に押し上げられる。
このとき、下面シール6は、その両端部近傍、すなわちエンドキャップ2,2に対応する部分において、嵌合凸部12と、圧接部8dとによってスライダSに圧接保持されている。しかし、下面シール6のケーシング1に対応する部分では、第2リップ部8cがケーシング1に接しているだけの状態にある。そのため、弾性突部8aが形成されていないと、ケーシング1と下面シール6との対向間隔が大きくなってしまう。
このように、ケーシング1と下面シール6との対向間隔が大きい状態で、上記の如く下面シール6を図中上方に押し上げる力が作用すると、下面シール6のケーシング1に対応する部分に大きな変形が生じ、その変形がエンドキャップ2の嵌合凸部12に亀裂を発生させたり、あるいは掛止部12aを欠けさせたりしてしまう。
【0024】
そこで、この実施形態においては、ケーシング1に対応する部分における下面シール6の変形を防止するために、弾性突部8aによって下面シール6と傾斜面13との隙間を小さくしている。したがって、仮に第1リップ部8b側を図中上方に押し上げる力が作用したとしても、弾性突部8aが傾斜面13に当接して、下面シール6が変形しない。このように、下面シール6の変形を防止することによって、下面シール6に作用する応力が嵌合凸部12に影響しないようにしているのである。
また、上記のように、下面シール6をスライダSに固定すると、第1リップ部8bの先端が、レールRの側面に僅かに接触するとともに、第2リップ部8c先端がケーシング1の傾斜面13に接触する。したがって、レールRの側面とスライダSの側部との間に形成される隙間を、スライダSの摺動方向全域に亘って防ぐことができる。
【0025】
そして、上記スライダSの摺動方向両端面には、エンドキャップ2,2と別体からなる側面シール5,5を固定していること上記した通りであるが、この側面シール5,5には、図8に示すように、凹みからなる保持部14,14を形成している。
この側面シール5,5も、ケーシング1およびエンドキャップ2,2と同様、本体部5aと、この本体部5aの両端から直角に突出する一対の側部5b、5bとを備えている。そして、上記保持部14,14は、側部5b,5b先端であって、当該一対の側部5b,5bの対向面側に形成されている。
【0026】
図9に、ケーシング1、エンドキャップ2、および側面シール5の相対関係を示す。ケーシング1の側部1b先端には傾斜面13が形成されており、エンドキャップ2の側部2b先端には、上記傾斜面13よりも側部先端側に突出するように段差部11が形成されている。つまり、ケーシング1の側部1b先端およびエンドキャップ2の側部2b先端には、レールR側を部分的に切り欠いた部分が存在する。これに対して、側面シール5の側部5b先端には、上記のような切り欠き部がない。したがって、図9に示すように、ケーシング1側から側面シール5側に向かってスライダSを見ると、ケーシング1の側部1b先端からエンドキャップ2の側部2bが僅かに臨み、さらに、エンドキャップ2に形成した段差部11から側面シール5の保持部14が臨むこととなる。
【0027】
そして、下面シール6をスライダSに固定したとき、上記保持部14は、スライダSに固定された下面シール6の軸線上に位置するとともに、下面シール6の両端面から突出させた脱落防止突起9(図2参照)が、上記保持部14に入り込むようにしている。
また、図10に示すように、保持部14を構成する凹みに脱落防止突起9が入り込んだとき、当該凹みと脱落防止突起9の外周との間に隙間が維持される寸法関係にしている。
【0028】
このように、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間を維持することで、嵌合凸部12のみで下面シール6を保持するようにしている。つまり、下面シール6をスライダSに固定したとき、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間ができるということは、脱落防止突起9は下面シール6の保持に何ら寄与しないこととなる。下面シール6をスライダSに固定する役割を、嵌合凸部12のみに持たせ、脱落防止突起9に持たせなかったのは次の理由からである。
すなわち、仮に、脱落防止突起9を保持部14に圧入させて、脱落防止突起9に嵌合凸部12と同じ役割を持たせてしまうと、下面シール6は、嵌合凸部12と脱落防止突起9との双方で固定されてしまう。このように、2箇所で下面シール6を保持してしまうと、下面シール6に外力が作用したときに、その外力を逃がしにくくなってしまい、嵌合凸部12や脱落防止突起9が破損しやすくなってしまう。そこで、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間を維持することで、下面シール6に作用する外力を逃がすようにしたのである。
【0029】
そして、上記した脱落防止突起9は、嵌合凸部12が破損して下面シール6を保持できなくなった場合のみに機能する。つまり、嵌合凸部12が破損すれば、当然のこととして下面シール6を保持することができなくなり、下面シール6はスライダSから脱落する。しかし、この直動転がり案内ユニットにおいては、嵌合凸部12が破損して下面シール6を保持できなくなったとしても、脱落防止突起9が保持部14に引っ掛かる。したがって、下面シール6がスライダSから脱落してしまうことがなく、下面シール6の脱落がもたらす装置への種々の悪影響を防ぐことができる。
なお、脱落防止突起9外周と保持部14との隙間の大きさは、特に限定されるものではないため、脱落防止突起9や保持部14の寸法関係をある程度ラフにすることができる。
【0030】
また、この発明の最大の特徴は、下面シールの両端部に形成した脱落防止突起によって、下面シールがスライダから脱落するのを防止する点にある。
したがって、下面シールの形状は必ずしも平板状にしなければならないわけではなく、その断面形状等は特に限定されない。
また、エンドキャップや、下面シールを保持するための嵌合凸部、さらには下面シールに形成する挿入孔の形状も上記実施形態に限らない。いずれにしても、エンドキャップに形成した嵌合凸部と、下面シールに形成した挿入孔とによって、下面シールをスライダにしっかりと固定できればよい。
【0031】
なお、上記実施形態においては、転動体をころで構成した場合について説明したが、転動体としてボールを用いてもよいこと当然である。
また、上記実施形態においては、弾性突部が下面シールの長手方向に断片的に形成されているが、一つの弾性突部をケーシングと対面する範囲で下面シールの長手方向に連続的に形成しても構わない。
さらには、上記実施形態においては、下面シールの脱落を防止するための保持部を側面シールに形成したが、この保持部はエンドキャップに一体に形成してもよく、また、凹みではなく孔で形成してもよい。いずれにしても、下面シールの両端面に形成した脱落防止突起が入り込むとともに、当該脱落防止突起の外周との間に隙間ができる寸法関係であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】直動転がり案内ユニットの斜視図である。
【図2】下面シールの斜視図である。
【図3(a)】図2のIII(a)−III(a)線断面図である。
【図3(b)】図2のIII(b)−III(b)線断面図である。
【図4】エンドキャップの平面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】下面シールを固定する過程を示す図である。
【図7】下面シールの固定状態を示す図である。
【図8】側面シールの平面図である。
【図9】ケーシング、エンドキャップ、側面シールの側部の部分拡大図である。
【図10】側面シールの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ケーシング
1a,2a 本体部
1b、2b 側部
2 エンドキャップ
5 側面シール
6 下面シール
8a 弾性突部
9 脱落防止突起
10 挿入孔
11 段差部
12 嵌合凸部
13 傾斜面
14 保持部
スライダ S
h 隙間
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライダに無限循環路を形成するとともに、この無限循環路に組み込んだ転動体を転動させることによって、スライダがレール上を摺動する直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動転がり案内ユニットとして、特許文献1または2に記載された発明が知られている。これらの発明は、ケーシングの両端にエンドキャップを固定したスライダに、ボールまたはころからなる転動体を転動自在に保持させる。そして、当該スライダをレール上に跨がせるとともに、レールの側面に形成した軌道面上に転動体を転動させて、スライダをレールに対して相対移動させるものである。
このように、スライダがレールを跨る構成の直動転がり案内ユニットにおいては、レール側面とスライダとの間に隙間が形成される。そして、このレール側面とスライダとの間に形成される隙間から、ダストが侵入してしまうと、転動体の転動に伴って当該ダストをスライダ内に巻き込んでしまう。このようにダストがスライダ内に入り込んでしまうと、スライダのスムーズな摺動を長期に亘って維持することができなくなってしまう。
【0003】
そこで、レール側面とスライダとの間に形成される隙間からダストが侵入しないように、スライダに下面シールを固定して、レール側面とスライダとの間に形成される隙間が露出しないようにしている。
このように、ダストの侵入を防ぐ下面シールは、次のようにしてスライダに固定される。すなわち、下面シールの長手方向両端面近傍には挿入孔を形成する。一方、ケーシングの両端に設けたエンドキャップには、スライダをレールに跨がせたときに当該レール側面の近傍に位置する部分に、嵌合凸部を突出させる。そして、この嵌合凸部に下面シールの挿入孔を嵌合させることによって、下面シールをスライダの摺動方向に沿って保持するようにしている。
【特許文献1】特開平5−164128号公報
【特許文献2】特開2003−322151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の直動転がり案内ユニットは、その使用環境によってはスライダがレールに沿って摺動する際に激しい振動を伴う場合がある。このように激しい振動を伴っても下面シールがスライダから脱落しないようにするために、下面シールの挿入孔と嵌合凸部との寸法関係をきつくして、下面シールががたつかないようにしている。
ところが、上記のように挿入孔と嵌合凸部とをきつく嵌合させようとすると、両者を嵌合させる際の圧入力を大きくしなければならない。具体的には、嵌合凸部を挿入孔に臨ませた状態で、下面シールを力強く押し込んで、当該嵌合凸部を挿入孔に貫通させる。
【0005】
直動転がり案内ユニットにおいては、軽量化やコスト低減等の観点からエンドキャップを樹脂で形成している場合が多く、樹脂製のエンドキャップに形成した嵌合凸部に、上記の如く大きな外力を作用させると、嵌合凸部に亀裂が入ってしまうことがある。
例えば、大型の直動転がり案内ユニットにおいて、スライダをレールに組み込む場合には、当然のこととしてスライダの重量も増す。こうした重量の大きなスライダを運搬する際に、当該スライダを持ち上げようとして下面シールに大きな外力が作用すると、やはり嵌合凸部を破損させてしまうことがある。
さらに、下面シールを取付ける際に嵌合凸部に傷がつかないとしても、下面シールは嵌合凸部に対して応力を作用し続ける状態で固定されているので、この応力によって、徐々に嵌合凸部が劣化してしまう。
【0006】
しかし、下面シールがスライダに保持された状態では、嵌合凸部の劣化具合や破損の有無を確認することができないため、実際に下面シールがスライダから脱落するまで、嵌合凸部の劣化に気付くことはない。つまり、下面シールがスライダから脱落する前に、エンドキャップやスライダを交換することは難しい。
したがって、多くの場合、下面シールがスライダから脱落した後に、エンドキャップやスライダを交換することとなるが、下面シールがスライダから脱落すると、この脱落した下面シールによってさまざまな悪影響がもたらされる。
例えば、直動転がり案内ユニットを上下方向に何段も設置している装置において、その装置の稼働中に下面シールが脱落すると、脱落した下面シールが、その下方のスライダに噛みこんでしまい、スライダやレールが故障するおそれがある。
【0007】
また、平面上に多数のレールが敷き詰められている装置において、隣り合うレール間に下面シールが脱落してしまうと、装置の稼動を停止させたうえにレールを取り外す等して、当該装置から下面シールを除去しなければならない。
このように、下面シールがスライダから脱落すると、脱落したスライダによって装置が故障したり、脱落した下面シールを除去するために装置の稼動を停止したりしなければならないという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、スライダから下面シールが脱落しない直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定したスライダと、上記一対のエンドキャップ間に掛け渡すとともに、ダストの侵入を防止する機能を備えた下面シールとからなり、上記エンドキャップには嵌合凸部を設ける一方、上記下面シールには挿入孔を形成し、この挿入孔に上記嵌合凸部を嵌合させて下面シールをスライダに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、上記下面シールの長手方向両端面には脱落防止突起を設ける一方、上記スライダには、下面シールをスライダに固定した状態で、脱落防止突起が入り込む孔または凹みからなる保持部を設け、この保持部を構成する孔または凹みと、上記脱落防止突起の外周との間に隙間を維持する構成にしたことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、スライダの摺動方向両端面に、エンドキャップと別体からなる側面シールを固定するとともに、この側面シールに上記保持部を形成したことを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、上記ケーシングおよびエンドキャップからなるスライダが、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する一対の側部とを備えてなる一方、上記下面シールは平板状にしてなり、上記ケーシングにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には傾斜面を形成する一方、上記エンドキャップにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には段差部を形成し、しかも、この段差部は上記傾斜面よりも側部先端側に突出する寸法関係を維持してなり、かつ、この段差部に上記嵌合凸部を形成するとともに、この嵌合凸部に上記下面シールの挿入孔を嵌合させたとき、下面シールが段差部に圧接するとともに、上記傾斜面と下面シールとの間に隙間を維持することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、下面シールには、ケーシングの傾斜面に対向する部分に弾性突部を形成するとともに、この弾性突部によって傾斜面と下面シールとの隙間を小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1〜4の発明によれば、下面シールの長手方向両端面に設けた脱落防止突起を、スライダに設けた保持部に入り込ませたので、嵌合凸部の劣化により下面シールを保持できなくなったとしても、脱落防止突起が保持部に引っ掛かる。このように、下面シールに設けた脱落防止突起が、スライダの保持部に引っ掛かるので、スライダから下面シールが脱落することがない。
また、下面シールをスライダに固定した状態で、保持部と脱落防止突起の外周との間に隙間を保つようにしたので、嵌合凸部の嵌合に脱落防止突起が干渉することがない。したがって、通常状態においては、嵌合凸部が下面シールをしっかりと保持することができ、また脱落防止突起と保持部との寸法関係をある程度ラフにすることができる。
特に、第4の発明によれば、下面シールに対して、それをケーシング側に押し付けるように応力が作用しても、弾性突部がケーシングに接触することによって、嵌合凸部に作用する力を軽減することができる。したがって、レールへのスライダ組み込み時における外力等によって、嵌合凸部が劣化するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図10を用いて、この発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態の直動転がり案内ユニットは、軌道面r,rを側面に形成したレールR上をスライダSが摺動する。
このスライダSは、ケーシング1の両端にエンドキャップ2,2を固定しており、これらケーシング1とエンドキャップ2,2とには、ころからなる複数の転動体3が無限に循環する無限循環路が形成されている。具体的には、ケーシング1は、本体部1aと、この本体部1aの両端から直角に突出する一対の側部1b,1bとからなる。また、上記エンドキャップ2も、上記ケーシング1と同様、本体部2aと、この本体部2aの両端から直角に突出する一対の側部2b,2bとからなる。つまり、スライダS全体としても、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する側部を備えることとなる。
【0015】
そして、上記無限循環路は、上記ケーシング1の側部1b,1bおよびエンドキャップ2の側部2b,2bに亘って形成されており、この無限循環路内にころからなる複数の転動体3が転動自在に組み込まれている。
なお、上記無限循環路には潤滑油を含有した含油スリーブ4が組み込まれており、上記転動体3が含油スリーブ4内を転動することによって、当該転動体3が潤滑される。
また、スライダSの摺動方向両端面、つまり、エンドキャップ2,2におけるケーシング1とは反対側の面には、当該エンドキャップ2,2と別体からなる側面シール5,5を固定している。この側面シール5,5は、レールRの軌道面r,rに接触するリップ部を備えており、転動体3を介して軌道面r,rに塗布された油がスライダSの摺動範囲内から漏れ出さないように、また、軌道面r,r上のダストがスライダS内に入り込まないようにシール機能を果たす。
【0016】
さらに、スライダSの一対の側部(1b,1b,2b,2b)先端であって、レールRの軌道面r,r近傍に位置する部分には、下面シール6が固定されている。
この下面シール6は、図2、図3に示すように、金属製の芯金7の外周にゴム等の弾性部材8をコーティングしてなる。芯金7は、平坦部7aと、この平坦部7aの幅方向に傾斜する傾斜部7bとからなる。そして、この芯金7の平坦部7aには、その長手方向の中ほどにおいて、図3(a)に示すようなゴム注入孔7cが3箇所形成されている。
芯金7をコーティングする弾性部材8は、上記ゴム注入孔7cを貫通して弾性突部8aを形成する。つまり、下面シール6は、芯金7の外周に弾性部材8をコーティングしているが、一方の面(図中上側の面)には弾性部材8を薄くコーティングし、この薄くコーティングした面側に、ゴム注入孔7cを介して弾性突部8aが部分的に突出するようにしている。これに対して、上記弾性突部8aが突出する側の面とは反対側の面(図中下側の面)には、弾性部材8を所定の厚さにコーティングし、下面シール6全体として平板状になるようにしている。
【0017】
また、下面シール6には、その一方の幅方向端部(図中右側端部)に第1リップ部8bを形成するとともに、他方の幅方向端部(図中左側端部)に第2リップ部8cを形成している。ただし、上記第1リップ部8bは、図2に示すように、下面シール6の長手方向全長に亘って形成しているのに対し、上記第2リップ部8cは、下面シール6の両端部近傍には形成していない。言い換えれば、第2リップ部8cは、下面シール6の中ほどにしか形成していない。この第2リップ部8cが形成されない部分は、エンドキャップ2の厚さに相当するようにしているが、その詳細は後述することとする。
なお、図中符号8dは弾性部材8によって形成される圧接部である。この圧接部8dは、下面シール6の両端部近傍において、芯金7の傾斜部7b先端に位置するが、その詳細についても後述することとする。
【0018】
そして、図2に示すように、下面シール6の長手方向両端面には、上記弾性部材8によって形成される脱落防止突起9を突出させるとともに、下面シール6の両端部近傍には挿入孔10を形成している。この挿入孔10は、図3(b)に示すように、芯金7の平坦部7aおよびこの平坦部7aの両面をコーティングする弾性部材8を貫通している。また、上記挿入孔10は、芯金7に対応する部分の内壁に弾性部材8によるガイド部10aを設けるとともに、このガイド部10aを図中上側から下側に向かって徐々に厚くして傾斜させている。
上記の構成からなる下面シール6は、挿入孔10を介してスライダSに固定されるが、その詳細は次の通りである。
【0019】
すなわち、図4,5に示すように、エンドキャップ2の側部2b,2bの先端であって、当該一対の側部2b,2bの対向面側には段差部11,11を形成している。この段差部11は、上記下面シール6の厚さ相当分だけ、側部2bの先端から凹んでおり、側部2bの先端面と直角に交わる圧接面11a、この圧接面11aから斜めに傾斜する傾斜部11b、および傾斜部11bに連続するとともに、側部2bの先端面と平行な平坦部11cとを備える。そして、側部2bの先端面から、段差部11の平坦部11cまでの深さを、上記下面シール6の厚さとほぼ等しくしている。
上記平坦部11cには、側部2bの先端面側に向かって嵌合凸部12を突出させている。この嵌合凸部12は、その先端から基端側に徐々に幅広になる掛止部12aを形成するとともに、この掛止部12aを下面シール6の挿入孔10に貫通させて、当該掛止部12aに下面シール6を保持するようにしている。
【0020】
図6,7を用いて下面シール6をスライダSに固定する過程を具体的に示す。
図6に示すように、下面シール6は、弾性突部8aを形成した面をスライダS側(ケーシング1およびエンドキャップ2側)に向けるとともに、エンドキャップ2の側部2bから突出する嵌合凸部12先端に、下面シール6の挿入孔10を臨ませる。
このまま下面シール6を図中x方向に移動させると、嵌合凸部12の掛止部12aが、ガイド部10aを弾性変形させながら挿入孔10に進入する。この状態からさらに下面シール6の端部を、エンドキャップ2の段差部11に押し付けると、図7に示すように、掛止部12aが、芯金7の掛止面7dに引っ掛かるようにして下面シール6を保持する。
【0021】
また、上記のように掛止部12aが掛止面7dに引っ掛かった状態では、下面シール6の圧接部8dが、芯金7の傾斜部7bと、段差部11の圧接面11aとの間に圧入される寸法関係を維持している。
したがって、下面シール6は、掛止部12aが掛止面7dに引っ掛かることと、圧接部8dが圧接面11aに圧接する圧接力とによって、段差部11の平坦部11cに密着し、その両端がエンドキャップ2にしっかりと固定される。
なお、図6,7中に点線で示すケーシング1は、その側部1b,1bの先端であって、当該一対の側部1b,1bの対向面側に傾斜面13を形成している。言い換えれば、ケーシング1には、エンドキャップ2の段差部11に対応する部分に傾斜面13を形成している。そして、図からも明らかなように、ケーシング1とエンドキャップ2とを固定したとき、段差部11が傾斜面13よりも側部2b先端側に突出するようにしている。
【0022】
したがって、エンドキャップ2(段差部11)に下面シール6の端部が圧接した状態において、ケーシング1(傾斜面13)と下面シール6中ほどとの間には隙間hが維持される。
そして、下面シール6に形成した弾性突部8aは、上記傾斜面13に向かって突出することとなるが、このように弾性突部8aが突出することによって、傾斜面13と下面シール6との間に形成される隙間hを小さくするようにしている。
このように、弾性突部8aによって、隙間hを部分的に小さくしたのは、下面シール6を図中上方に押し上げる力が作用しても、嵌合凸部12が折れたり、あるいは亀裂が入ったりしないようにするためである。
【0023】
例えば、下面シール6を図中上方に押し上げる場合として、スライダSを運搬する場合が考えられる。人手によってスライダSを持ち上げる際に、下面シール6の第1リップ部8b側に指が入り込んだ状態でスライダSを持ち上げると、第1リップ部8bが図中上方に押し上げられる。
このとき、下面シール6は、その両端部近傍、すなわちエンドキャップ2,2に対応する部分において、嵌合凸部12と、圧接部8dとによってスライダSに圧接保持されている。しかし、下面シール6のケーシング1に対応する部分では、第2リップ部8cがケーシング1に接しているだけの状態にある。そのため、弾性突部8aが形成されていないと、ケーシング1と下面シール6との対向間隔が大きくなってしまう。
このように、ケーシング1と下面シール6との対向間隔が大きい状態で、上記の如く下面シール6を図中上方に押し上げる力が作用すると、下面シール6のケーシング1に対応する部分に大きな変形が生じ、その変形がエンドキャップ2の嵌合凸部12に亀裂を発生させたり、あるいは掛止部12aを欠けさせたりしてしまう。
【0024】
そこで、この実施形態においては、ケーシング1に対応する部分における下面シール6の変形を防止するために、弾性突部8aによって下面シール6と傾斜面13との隙間を小さくしている。したがって、仮に第1リップ部8b側を図中上方に押し上げる力が作用したとしても、弾性突部8aが傾斜面13に当接して、下面シール6が変形しない。このように、下面シール6の変形を防止することによって、下面シール6に作用する応力が嵌合凸部12に影響しないようにしているのである。
また、上記のように、下面シール6をスライダSに固定すると、第1リップ部8bの先端が、レールRの側面に僅かに接触するとともに、第2リップ部8c先端がケーシング1の傾斜面13に接触する。したがって、レールRの側面とスライダSの側部との間に形成される隙間を、スライダSの摺動方向全域に亘って防ぐことができる。
【0025】
そして、上記スライダSの摺動方向両端面には、エンドキャップ2,2と別体からなる側面シール5,5を固定していること上記した通りであるが、この側面シール5,5には、図8に示すように、凹みからなる保持部14,14を形成している。
この側面シール5,5も、ケーシング1およびエンドキャップ2,2と同様、本体部5aと、この本体部5aの両端から直角に突出する一対の側部5b、5bとを備えている。そして、上記保持部14,14は、側部5b,5b先端であって、当該一対の側部5b,5bの対向面側に形成されている。
【0026】
図9に、ケーシング1、エンドキャップ2、および側面シール5の相対関係を示す。ケーシング1の側部1b先端には傾斜面13が形成されており、エンドキャップ2の側部2b先端には、上記傾斜面13よりも側部先端側に突出するように段差部11が形成されている。つまり、ケーシング1の側部1b先端およびエンドキャップ2の側部2b先端には、レールR側を部分的に切り欠いた部分が存在する。これに対して、側面シール5の側部5b先端には、上記のような切り欠き部がない。したがって、図9に示すように、ケーシング1側から側面シール5側に向かってスライダSを見ると、ケーシング1の側部1b先端からエンドキャップ2の側部2bが僅かに臨み、さらに、エンドキャップ2に形成した段差部11から側面シール5の保持部14が臨むこととなる。
【0027】
そして、下面シール6をスライダSに固定したとき、上記保持部14は、スライダSに固定された下面シール6の軸線上に位置するとともに、下面シール6の両端面から突出させた脱落防止突起9(図2参照)が、上記保持部14に入り込むようにしている。
また、図10に示すように、保持部14を構成する凹みに脱落防止突起9が入り込んだとき、当該凹みと脱落防止突起9の外周との間に隙間が維持される寸法関係にしている。
【0028】
このように、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間を維持することで、嵌合凸部12のみで下面シール6を保持するようにしている。つまり、下面シール6をスライダSに固定したとき、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間ができるということは、脱落防止突起9は下面シール6の保持に何ら寄与しないこととなる。下面シール6をスライダSに固定する役割を、嵌合凸部12のみに持たせ、脱落防止突起9に持たせなかったのは次の理由からである。
すなわち、仮に、脱落防止突起9を保持部14に圧入させて、脱落防止突起9に嵌合凸部12と同じ役割を持たせてしまうと、下面シール6は、嵌合凸部12と脱落防止突起9との双方で固定されてしまう。このように、2箇所で下面シール6を保持してしまうと、下面シール6に外力が作用したときに、その外力を逃がしにくくなってしまい、嵌合凸部12や脱落防止突起9が破損しやすくなってしまう。そこで、脱落防止突起9の外周と保持部14との間に隙間を維持することで、下面シール6に作用する外力を逃がすようにしたのである。
【0029】
そして、上記した脱落防止突起9は、嵌合凸部12が破損して下面シール6を保持できなくなった場合のみに機能する。つまり、嵌合凸部12が破損すれば、当然のこととして下面シール6を保持することができなくなり、下面シール6はスライダSから脱落する。しかし、この直動転がり案内ユニットにおいては、嵌合凸部12が破損して下面シール6を保持できなくなったとしても、脱落防止突起9が保持部14に引っ掛かる。したがって、下面シール6がスライダSから脱落してしまうことがなく、下面シール6の脱落がもたらす装置への種々の悪影響を防ぐことができる。
なお、脱落防止突起9外周と保持部14との隙間の大きさは、特に限定されるものではないため、脱落防止突起9や保持部14の寸法関係をある程度ラフにすることができる。
【0030】
また、この発明の最大の特徴は、下面シールの両端部に形成した脱落防止突起によって、下面シールがスライダから脱落するのを防止する点にある。
したがって、下面シールの形状は必ずしも平板状にしなければならないわけではなく、その断面形状等は特に限定されない。
また、エンドキャップや、下面シールを保持するための嵌合凸部、さらには下面シールに形成する挿入孔の形状も上記実施形態に限らない。いずれにしても、エンドキャップに形成した嵌合凸部と、下面シールに形成した挿入孔とによって、下面シールをスライダにしっかりと固定できればよい。
【0031】
なお、上記実施形態においては、転動体をころで構成した場合について説明したが、転動体としてボールを用いてもよいこと当然である。
また、上記実施形態においては、弾性突部が下面シールの長手方向に断片的に形成されているが、一つの弾性突部をケーシングと対面する範囲で下面シールの長手方向に連続的に形成しても構わない。
さらには、上記実施形態においては、下面シールの脱落を防止するための保持部を側面シールに形成したが、この保持部はエンドキャップに一体に形成してもよく、また、凹みではなく孔で形成してもよい。いずれにしても、下面シールの両端面に形成した脱落防止突起が入り込むとともに、当該脱落防止突起の外周との間に隙間ができる寸法関係であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】直動転がり案内ユニットの斜視図である。
【図2】下面シールの斜視図である。
【図3(a)】図2のIII(a)−III(a)線断面図である。
【図3(b)】図2のIII(b)−III(b)線断面図である。
【図4】エンドキャップの平面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】下面シールを固定する過程を示す図である。
【図7】下面シールの固定状態を示す図である。
【図8】側面シールの平面図である。
【図9】ケーシング、エンドキャップ、側面シールの側部の部分拡大図である。
【図10】側面シールの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ケーシング
1a,2a 本体部
1b、2b 側部
2 エンドキャップ
5 側面シール
6 下面シール
8a 弾性突部
9 脱落防止突起
10 挿入孔
11 段差部
12 嵌合凸部
13 傾斜面
14 保持部
スライダ S
h 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定したスライダと、上記一対のエンドキャップ間に掛け渡すとともに、ダストの侵入を防止する機能を備えた下面シールとからなり、上記エンドキャップには嵌合凸部を設ける一方、上記下面シールには挿入孔を形成し、この挿入孔に上記嵌合凸部を嵌合させて下面シールをスライダに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、上記下面シールの長手方向両端面には脱落防止突起を設ける一方、上記スライダには、下面シールをスライダに固定した状態で、脱落防止突起が入り込む孔または凹みからなる保持部を設け、この保持部を構成する孔または凹みと、上記脱落防止突起の外周との間に隙間を維持する構成にした直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
スライダの摺動方向両端面には、エンドキャップと別体からなる側面シールを固定するとともに、この側面シールに上記保持部を形成した請求項1記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
上記ケーシングおよびエンドキャップからなるスライダは、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する一対の側部とを備えてなる一方、上記下面シールは平板状にしてなり、上記ケーシングにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には傾斜面を形成する一方、上記エンドキャップにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には段差部を形成し、しかも、この段差部は上記傾斜面よりも側部先端側に突出する寸法関係を維持してなり、かつ、この段差部に上記嵌合凸部を形成するとともに、この嵌合凸部に上記下面シールの挿入孔を嵌合させたとき、下面シールが段差部に圧接するとともに、上記傾斜面と下面シールとの間に隙間を維持する構成にした請求項1または2に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
下面シールには、ケーシングの傾斜面に対向する部分に弾性突部を形成するとともに、この弾性突部によって傾斜面と下面シールとの隙間を小さくする構成にした請求項3記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項1】
ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定したスライダと、上記一対のエンドキャップ間に掛け渡すとともに、ダストの侵入を防止する機能を備えた下面シールとからなり、上記エンドキャップには嵌合凸部を設ける一方、上記下面シールには挿入孔を形成し、この挿入孔に上記嵌合凸部を嵌合させて下面シールをスライダに固定する直動転がり案内ユニットにおいて、上記下面シールの長手方向両端面には脱落防止突起を設ける一方、上記スライダには、下面シールをスライダに固定した状態で、脱落防止突起が入り込む孔または凹みからなる保持部を設け、この保持部を構成する孔または凹みと、上記脱落防止突起の外周との間に隙間を維持する構成にした直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
スライダの摺動方向両端面には、エンドキャップと別体からなる側面シールを固定するとともに、この側面シールに上記保持部を形成した請求項1記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
上記ケーシングおよびエンドキャップからなるスライダは、本体部と、この本体部の両端から直角に突出する一対の側部とを備えてなる一方、上記下面シールは平板状にしてなり、上記ケーシングにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には傾斜面を形成する一方、上記エンドキャップにおける側部先端であって、当該一対の側部の対向面側には段差部を形成し、しかも、この段差部は上記傾斜面よりも側部先端側に突出する寸法関係を維持してなり、かつ、この段差部に上記嵌合凸部を形成するとともに、この嵌合凸部に上記下面シールの挿入孔を嵌合させたとき、下面シールが段差部に圧接するとともに、上記傾斜面と下面シールとの間に隙間を維持する構成にした請求項1または2に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
下面シールには、ケーシングの傾斜面に対向する部分に弾性突部を形成するとともに、この弾性突部によって傾斜面と下面シールとの隙間を小さくする構成にした請求項3記載の直動転がり案内ユニット。
【図1】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−223975(P2008−223975A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66513(P2007−66513)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
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