説明

直線性微細炭素繊維及びそれを用いた複合体

【課題】 母材と混合したときに優れた分散性を示し、外力により容易に配向することができる微細炭素繊維およびその繊維を用いた複合体の提供。
【解決手段】 中空構造を有し、繊維外径が1〜1000nm、アスペクト比が5〜1000、BET比表面積が2〜2000m2/g、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.1〜2であり、繊維の長手方向に対して屈曲度が30度以下の直線性を有し、サスペンジョン法で測定した異方性磁化率が1×10-4以上である直線性微細炭素繊維、及びそれを用いた複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性のよい直線性を有する微細炭素繊維(直線性微細炭素繊維)に関する。さらに詳しく言えば、気相法微細炭素繊維を不活性雰囲気中、2000℃以上の高温で熱処理した後粉砕して繊維同士が絡みあった凝集状態や繊維の分岐状態が解消された直線性微細炭素繊維、それを用いた微細炭素繊維のみが配向した複合体及び微細炭素繊維とマトリックス樹脂の両方が配向した複合体に関する。
【0002】
本発明の直線性微細炭素繊維は、樹脂などの母材中への分散性に優れ、樹脂複合体調製時に磁場等の外力を印加することにより炭素繊維を特定方向に配向させることができ、さらにマトリックス樹脂を特定方向に配向させる作用を有する。この樹脂複合体は、導電性、熱伝導性、摺動性等を改善するために使用するフィラー材として、あるいはFED(フィールド・エミッション・ディスプレー)用の電子放出素材として、更には透明電極、電磁遮蔽、配向膜などの材料として有用である。
【背景技術】
【0003】
微細炭素繊維は、優れた強度、弾性率、導電性等を有することから各種の複合材料に使用されている。近年のエレクトロニクス技術の発展に伴ない、電磁波遮蔽材、静電防止材用の導電性フィラーとして、あるいは樹脂への静電塗装のためのフィラーや透明導電性樹脂用のフィラーとしての用途が期待されている。また、摺動性、耐磨耗性が高い材料として電気ブラシ、可変抵抗器などへの応用も期待されている。さらに、高導電性、高熱伝導性、耐エレクトロマイグレーションを有するため、大規模集積回路(LSI)等のデバイスの配線材料としても注目を浴びている。
【0004】
従来の有機繊維を不活性雰囲気中で熱処理して、炭化することにより製造されているポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース炭素繊維などは繊維径が5〜10μmと比較的太く、導電性があまりよくないため、主として樹脂やセラミックス等の補強材料として広く用いられている。
【0005】
1980年代に遷移金属触媒下で炭化水素等のガスを熱分解して生成する気相法炭素繊維の研究がされるようになり、この方法により、繊維径が0.1〜0.2μm(100〜200nm)程度で、アスペクト比10〜500程度の炭素繊維が得られるようになった。
【0006】
例えば、ベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリアガスとともに高温の反応炉に導入し、基盤上に生成させる方法(特開昭60-27700号公報(特許文献1))、浮遊状態で生成させる方法(特開昭60-54998号公報(特許文献2))、あるいは反応炉壁を基板として成長させる方法(特開平7-150419号公報(特許文献3))等による微細炭素繊維が開示されている。
【0007】
さらに、この微細炭素繊維は2000℃以上で熱処理を行うことにより結晶性が非常に発達し(容易に黒鉛化し)、導電性が向上するため、樹脂用フィラーや二次電池の添加材等の導電性フィラー材として使用されるようになった。
【0008】
これらの微細炭素繊維は、形状や結晶構造に特徴があり、グラフェンシート(炭素六角網面)の結晶が年輪状に円筒形に巻かれ積層した構造を示し、その中心部には極めて細い中空構造を有する。また、2000℃以上で熱処理した炭素繊維は、繊維断面が多角化し、その内部に間隙が生成する場合もある。
【0009】
これらの微細炭素繊維は直径が細いので大きなアスペクト比を有し、通常これらの微細炭素繊維は互いに絡まりあって毛玉のような凝集体を形成している。
【0010】
例えば、反応炉壁を基板として用いてCVD法(Chemical Vapor Deposition)により微細炭素繊維を成長させた場合には、反応炉壁から成長した微細繊維上に触媒金属を有する原料液が連続的に供給されるため、微細炭素繊維を基板としてさらに微細炭素繊維が成長し、樹氷のような生成物が得られる。
【0011】
上述のような大きなアスペクト比を有する微細炭素繊維や樹氷のように分岐した微細炭素繊維は繊維同士の相互作用が大きいため、繊維が絡まり合ったり、噛み合って毛玉やブロック状の凝集体を形成している。したがって、樹脂やセラミックス等の母材と微細炭素繊維との複合材料を調製する場合、母材中に微細炭素繊維を均一に分散させることができず、所望する電気的、熱的、機械的特性を得ることができない。
【0012】
実際、これら毛玉やブロック状に凝集した低い嵩密度を有する微細炭素繊維と樹脂を混練した複合体の薄片を光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡で観察すると、微細炭素繊維の凝集体に起因する黒点が多数観察される。樹脂中に分散しないで残ったこれらの凝集体は複合体中の熱伝導性、導電性の経路としてほとんど寄与しない。したがって、複合体中に熱伝導性、導電性の経路を形成するためにはシュミレーション等により計算した濃度よりも過剰量の微細炭素繊維を添加しなければならない。このように樹脂に微細炭素繊維を多量に添加した場合、樹脂の弾性力の低下や樹脂と基板との密着性低下を招いてしまうという新たな問題が発生する。
【0013】
樹脂複合体の機械的特性の低下を招くことなく電気的、熱的、機械的特性を効率よく発現させる方法として、樹脂中に微細炭素繊維を配向させる方法がある。この方法によれば、わずかな微細炭素繊維の添加で樹脂中に導電性、熱伝導性の経路を形成することができる。
【0014】
繊維を配向させる方法としては、一方向に圧力を印加しながら成形する方法がある。例えば、前述の微細炭素繊維の樹脂混合物を押出機により加圧成形することにより、樹脂中の微細炭素繊維を押し出し方向に配向させることができる(特開2001-250894号公報(特許文献4))。この方法では混練する際に剪断応力が発生するため、ある程度凝集体を破壊することができる。しかし、積極的に凝集体を破壊する操作を行っていないので、凝集体は依然として残存してしまう。また、成形体中の繊維の配向度を顕微鏡で詳細に観察すると、樹脂中の微細炭素繊維は全体的に押し出し方向に対して平行に配向しているが、それらの繊維の大半は押し出し方向に対して±30度の範囲で傾斜して配向している。さらに樹脂複合体の特性を改善するためには、繊維の配向度を高める必要がある。
【0015】
繊維を配向させるための別の手段としては、熱硬化性樹脂などの中に微細炭素繊維を添加し、磁場を印加する方法(特開2002-88257号公報(特許文献5),特開2001-322139号公報(特許文献6),特開2002-273741号公報(特許文献7))がある。これは微細炭素繊維の繊維軸方向と繊維径方向の磁性が異なるという特性を利用したものである。繊維軸方向に平行な磁化率は繊維の径方向の磁化率よりも反磁性が小さく、反磁性体は磁場を排除するようにして系のエネルギーを安定化するため、反磁性磁化が最低になる方向、すなわち繊維軸が磁場の方向に配向する。
【0016】
しかし、従来のカーボンナノチューブなどの微細炭素繊維は、非常にアスペクト比が大きく、しかも湾曲しているため、樹脂に混ぜたあと磁場を印加しても十分な配向性を得ることができなかった。また、凝集した微細炭素繊維の場合、ファンデルワールス力で付着している程度の微細炭素繊維は磁場により配向させることができるが、互いに絡まりあった微細炭素繊維は配向させることができない。さらに、分岐した繊維の場合、分岐した繊維が互いに干渉しあい磁場方向への再配列を阻害してしまう。その結果、成形体の物性の異方性すなわち磁場配向方向と磁場に垂直な方向の特性比が小さくなってしまう問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭60−027700号公報
【特許文献2】特開昭60−054998号公報
【特許文献3】特開平07−150419号公報
【特許文献4】特開2001−250894号公報
【特許文献5】特開2002−088257号公報
【特許文献6】特開2001−322139号公報
【特許文献7】特開2002−273741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、樹脂などの母材と混合したときに優れた分散性、密着性、導電性、熱伝導性、摺動性を発揮させるために、気相法により合成した微細炭素繊維を原料とし、2000℃以上の温度で熱処理することによりグラファイト構造を発達させた後、軽度の粉砕処理を行って凝集体や繊維の分岐を解消し、外力により容易に配向することができる直線性微細炭素繊維及びそれを用いた樹脂複合体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
磁場等の外力を印加して母材中の微細炭素繊維の配向性を向上させるためには、第一に微細炭素繊維の繊維軸方向(長手方向)と径方向の異方性磁化率(繊維軸方向と径方向の磁化率の差)を向上させること、第二に繊維同士の干渉・相互作用を低減させ、母材中で微細炭素繊維を自由に回転や移動させることができなければならない。
【0020】
これら問題を解決するために、本発明者らは炭化水素等を熱分解して得られた微細炭素繊維を2000℃以上の高温で熱処理を行い、結晶を発達させた後粉砕処理を行うことにより繊維同士の相互作用が小さな直線性微細炭素繊維を得られることを見出した。また、この直線性微細炭素繊維を樹脂中に添加し、磁場等を印加することにより繊維およびマトリックス樹脂が高度に配向した樹脂複合体を作製できることを見出し、その複合体が優れた導電性、熱伝導性を有することを確認した。
【0021】
すなわち、本発明は母材中に高度に配向し得る以下の直線性微細炭素繊維及びその樹脂複合体を提供するものである。
【0022】
1.繊維の長手方向に対して屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維。
2.中空構造を有し、繊維外径が1〜1000nm、アスペクト比が5〜1000、BET比表面積が2〜2000m2/g、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.1〜2である前記1記載の微細炭素繊維。
3.微細炭素繊維の一部に破断面を有する前記1または2に記載の微細炭素繊維。
4.微細炭素繊維の結晶内あるいは結晶表面にホウ素を0.001〜5質量%含有する前記1乃至3のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維。
5.微細炭素繊維の表面の少なくとも一部分に導電体層及び/または微量の磁場に対して応答する金属または磁性体層を有する前記1乃至4のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維。
6.含酸素官能基を繊維表面に含有する前記1乃至5のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維。
7.異方性磁化率が1×10-4以上である前記1乃至6のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維。
8.微細炭素繊維全体に対して前記1乃至7のいずれかひとつに記載の屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維を10体積%〜90体積%含む微細炭素繊維。
9.前記1乃至8のいずれかひとつに記載の屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維と樹脂からなる母材中に外力を印加して、微細炭素繊維のみを一方向に配向させてなる微細炭素繊維・樹脂複合体。
10.前記1乃至8のいずれかひとつに記載の屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維と樹脂からなる母材中に外力を印加して、微細炭素繊維およびマトリックス樹脂の両方を一方向に配向させてなる微細炭素繊維・樹脂複合体。
11.前記1乃至8のいずれかひとつに記載の屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維と樹脂からなる母材中に外力を印加し、一方向に並んだ微細炭素繊維に誘起され、マトリックス樹脂も微細炭素繊維と同一方向に配向した微細炭素繊維・樹脂複合体。
12.前記1乃至8のいずれかひとつに記載の屈曲度が30度以下の直線性を有する微細炭素繊維と樹脂からなる母材中に磁場を印加し、一方向に並んだ微細炭素繊維に誘起され、マトリックス樹脂も微細炭素繊維と同一方向に配向した微細炭素繊維・樹脂複合体。
13.直線性を有する微細炭素繊維を1〜30質量%含む前記9または10に記載の微細炭素繊維・樹脂複合体。
14.微細炭素繊維以外に、繊維外径5〜50μmの炭素繊維を5〜80質量%含む前記9乃至11のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体。
15.樹脂が、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である前記9乃至11のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体。
16.直線性を有する微細炭素繊維を含む樹脂組成物に外力を加えることを特徴とする微細炭素繊維が一方向に配向された微細炭素繊維・樹脂複合体の製造方法。
17.外力が磁場である前記16に記載の微細炭素繊維・樹脂複合体の製造方法。
18.前記9乃至15のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体を用いた導電性材料。
19.前記9乃至15のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体を用いた熱伝導性材料。
20.前記9乃至15のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体を用いた摺動性材料。
21.前記9乃至15のいずれかひとつに記載の微細炭素繊維・樹脂複合体を用いた繊維強化構造材料。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の直線性微細炭素繊維の構造を説明するための模式断面図である。
【図2】実施例1で調製した粉砕前の分岐状微細炭素繊維の走査電子顕微鏡写真(15000倍)である。
【図3】実施例1で得た粉砕後の直線性微細炭素繊維の走査顕微鏡写真(15000倍)である。
【図4】四端子法による抵抗測定法の説明図である。
【図5】実施例4で得た磁場方向に配向した直線性微細炭素繊維および樹脂の光学顕微鏡写真(400倍)である。
【符号の説明】
【0024】
1 直線性微細炭素繊維
2 屈曲度
3〜6 端子
7 定電流源
8 電圧計
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の直線性微細炭素繊維は、樹脂などの母材と混合したときに優れた分散性、配向性、導電性、熱伝導性、摺動性を発揮させるために気相法で製造した微細炭素繊維の熱処理条件及び粉砕条件の検討を進める中で見出された。本発明の直線性微細炭素繊維は繊維同士の相互作用が小さいため磁場等の外力を印加することで容易に配向し、さらにマトリックス樹脂の配向性を向上させる作用を有する。
【0026】
本発明の微細炭素繊維・樹脂複合体は優れた電気伝導性、熱伝導性、摺動性を示すため、導電性材料、熱伝導性材料、摺動性材料、繊維強化構造材料などとして使用することができる。
【0027】
本発明の直線性微細炭素繊維は、透明電極用のフィラー、電子機器の放熱部材、伝熱部材、マイクロギアなどの精密機器の摺動部材として用いることができるだけでなく、電磁遮蔽、二次電池などの導電付与材やFED用のエミッターとしても用いることができる。また、OPCドラム、プリント基板などの表面に導電性を付与させる材料としても用いることができる。
【0028】
本発明の直線性微細炭素繊維について添付図面(図1〜3)を参照して説明する。微細炭素繊維は添付図面において模式的に実線で示す。図1は直線性微細炭素繊維の模式図である。繊維の長手方向の延長線(図1中の1)とのずれを屈曲度(図1中の2)と称し、その屈曲度が30度以下のものを直線性微細炭素繊維と定義する。好ましい屈曲度の範囲は、1〜30度であり、より好ましくは2〜25度である。また、集合体としての炭素繊維には様々な屈曲度を有するものが存在するが、屈曲度が50度以上のものを実質的に含まないものが好ましい。屈曲度が30度以上の微細炭素繊維の場合、磁場などの外力を印加させた時に繊維同士が接触し合い、樹脂中で微細炭素繊維が配向しにくくなる。
【0029】
気相法により合成した微細炭素繊維をアルゴン雰囲気下2800℃で熱処理したものは、図2の走査電子顕微鏡写真(15000倍)に示すように、一本の微細炭素繊維から四方八方に複数の微細炭素繊維が成長している。さらに隣接する微細炭素繊維同士が結合しているものも見られる。このような分岐状微細炭素繊維の状態では繊維を一本一本単離して利用することができない、すなわち樹脂などの母材中に均一に分散させることも外力により配向させることもできない。
【0030】
図3は、気相法により合成した微細炭素繊維をアルゴン雰囲気下2800℃で熱処理した後、高速回転式ミルで粉砕して、分岐や繊維同士の結合、凝集を解消したものの走査電子顕微鏡写真(15000倍)である。この直線性微細炭素繊維は繊維同士の相互作用が小さいため樹脂中に均一に分散することができる。さらに磁場を印加することで高度に配向させることができる。
【0031】
上述のように本発明の直線性微細炭素繊維は、気相法で製造された微細炭素繊維を不活性雰囲気中2800℃で熱処理をした後、粉砕処理を行うことにより得ることができる。例えば、短時間の衝撃力粉砕では、微細炭素繊維の凝集部および分岐部を解消し、樹脂中に分散しやすい微細炭素繊維を得ることができる。さらに衝撃力、圧縮力、せん断力、摩擦力を微細炭素繊維に長時間与えると、アスペクト比の小さな微細炭素繊維を得ることができる。微細炭素繊維のアスペクト比を小さくすることで繊維を樹脂中に配向させるのに必要な時間を短くすることができる。
【0032】
本発明に用いる微細炭素繊維は、一般的には、有機遷移金属化合物を用いて有機化合物を熱分解することにより得ることができる。
微細炭素繊維の原料となる有機化合物は、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、エチレン、アセチレン、エタン、天然ガス、一酸化炭素等のガス及びそれらの混合物も可能である。中でもトルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0033】
有機遷移金属化合物は、触媒となる遷移金属を含むものである。遷移金属としては、周期律表第IVa、Va、VIa、VIIa、VIII族の金属を含む有機化合物である。中でもフェロセン、ニッケロセン等の化合物が好ましい。
また、助触媒として硫黄化合物を用いることができる。硫黄化合物としては硫黄、チオフェン、各種チオール等が使用できる。
【0034】
微細炭素繊維は、上記有機化合物、有機遷移金属化合物及び必要に応じて助触媒を水素などの還元性ガスと混合し、800〜1300℃に加熱した反応炉へ供給し、反応させて得る。
有機化合物と還元性ガスとの比率を調整することにより、得られる炭素繊維の径を制御することができる。
【0035】
反応炉への原料供給は、原料をガス化して反応炉に供給する方法、原料溶液を液体のままキャリアーガス(還元性ガス)で噴霧して反応炉へ供給する方法、キャリアーガスの一部をパージガスとして気化させて反応炉へ供給する方法などで行うことができる。好ましいのは、液体のままキャリアーガスで噴霧して反応炉へ供給する方法である。
【0036】
樹脂などの母材との密着性を向上するために、不活性雰囲気中で900〜1300℃で熱処理(焼成)を行い、微細炭素繊維の表面に付着したタールなどの有機物を除去することができる。
さらに、微細炭素繊維の異方性磁化率を向上させるために、微細炭素繊維を不活性雰囲気下で2000〜3500℃の熱処理を行い、結晶を発達させることができる。
【0037】
使用する熱処理炉は2000℃以上、好ましくは2300℃以上の目的とする温度が保持できる炉であればよく、通常の、アチソン炉、抵抗炉、高周波炉他の何れの装置でもよい。また、場合によっては、粉体または成形体に直接通電して加熱する方法も使用できる。
【0038】
熱処理の雰囲気は非酸化性の雰囲気、好ましくはアルゴン、ヘリウム、ネオン等の1種もしくは2種以上の希ガス雰囲気がよい。熱処理の時間は、生産性の面からは出来るだけ、短い方が好ましい。特に長時間加熱していると、燒結し固まってくるので、製品収率も悪化する。従って、成形体等の中心部の温度が目標温度に達した後、1時間以下の保持時間で十分である。
【0039】
本発明の直線性微細炭素繊維は中空構造を有し、繊維外径が1〜1000nm、好ましくは10〜200nmであり、アスペクト比が5〜1000、好ましくは5〜500,より好ましくは10〜200であり、比表面積(BET法による)が2〜2000m2/g、好ましくは10〜200m2/gであり、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下、好ましくは0.336〜0.340nmであり、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.1〜2であって、炭素繊維にホウ素等をドーピングしない場合(後述)は0.1〜0.5が好ましく、炭素繊維にホウ素等をドーピングした場合は0.6〜1.5が好ましい。また、本発明の直線性微細炭素繊維の異方性磁化率は1×10-4以上、好ましくは2×10-4以上が良い。
【0040】
BET比表面積が2000m2/gを超えると母材が十分に繊維を被覆することができず、複合体を作製した場合、電気伝導性、熱伝導性、機械的強度の劣化を招くので好ましくない。
繊維長と繊維外径の比であるアスペクト比が1000を超えると長繊維を樹脂に分散させ外力を印加して配向させた場合、繊維が互いに接触しあい十分な配向性を得ることができない。
X線回折法のd002が0.345nmを超えると黒鉛結晶が全く発達していないので十分な異方性磁化率(例えば、1×10-4以上)が得られず、微細炭素繊維の磁場配向が起こりにくい。
【0041】
樹脂などの母材に対する分散性を向上させるために凝集や分岐を有する黒鉛化微細炭素繊維を解砕・粉砕処理する。微細炭素繊維の凝集部および分岐部を解消し、樹脂中に分散しやすい微細炭素繊維を得るためには、粉砕機としてはパルペライザ、ノボロータ、ピンミル、ターボミル、遠心分級ミル、アニュラー等を用いることができる。さらにアスペクト比の小さな易配向性の微細炭素繊維を得るためには、粉砕機としては振動ミル、ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、コロイドミル等を用いることができる。粉砕処理を行うことにより、本発明の直線性微細炭素繊維は、繊維の表面に分岐が切断された面や繊維の端面に破断面を有する。
【0042】
微細炭素繊維の結晶をさらに発達させ、導電性を向上させるために、不活性雰囲気下で2000〜3500℃の熱処理を行う際に炭化ホウ素(B4C)、酸化ホウ素(B23)、元素状ホウ素、ホウ酸(H3BO3)、ホウ酸塩等のホウ素化合物を微細炭素繊維に混合してもよい。
【0043】
ホウ素化合物の添加量は、用いるホウ素化合物の化学的特性、物理的特性に依存するために限定されないが、例えば炭化ホウ素(B4C)を使用する場合には、粉砕後の微細炭素繊維に対して0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲である。ホウ素化合物を添加して熱処理することにより、微細黒鉛化炭素繊維の炭素の結晶性(層間隔d002)が向上し、導電性が向上する。
【0044】
微細炭素繊維の結晶内あるいは結晶表面に含まれるホウ素量としては0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%である。微細炭素繊維の導電性や樹脂との親和性を改善するには、好ましくは0.1質量%以上のホウ素が必要である。また、グラフェンシートに置換し得るホウ素量は3質量%程度であるのでそれ以上、特に5質量%以上のホウ素はホウ素炭化物やホウ素酸化物として存在し、導電性の低下の要因となりうるので好ましくない。
【0045】
導電性及び/または異方性磁化率を向上させるために、微細炭素繊維の表面の少なくとも一部分に導電体層及び/または微量の磁場に対して応答する金属または磁性体層を設けることができる。例えば、微細炭素繊維を粉砕する際に、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属やそれらの金属間化合物または金属酸化物の微粒子を混合し、メカノケミカル的に微細炭素繊維表面に付着させることができる。
また、CVD法、PVD法(Physical Vapor Deposition)、電着メッキ、化学メッキ、溶融金属の射出、ゾルゲル法などにより、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属やそれらの金属間化合物または金属酸化物を微細炭素繊維表面に析出させることもできる。
【0046】
微細炭素繊維の親水性を改善し、母材との親和性を向上させるために微細炭素繊維を酸化処理して繊維表面に含酸素官能基、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、キノン基、ラクトン基を導入することもできる。酸化処理法としては大気中500℃〜700℃での熱処理による空気酸化、オゾン、オキソ酸、過酸化水素などの過酸化物、臭素、塩素などのハロゲン等の酸化剤を用いる方法が挙げられる。
【0047】
本発明の微細炭素繊維には、屈曲度が30度以下の直線性を有する上記微細炭素繊維を10〜90体積%有するものも含まれる。
【0048】
本発明の樹脂複合体に用いる直線性微細炭素繊維の添加量としては、1〜30質量%が好ましい。添加量が1質量%未満であると、樹脂複合体中に十分な導電性、熱伝導性の経路をつくることができない。一方、添加量が30質量%を超える高濃度になると母材中に微細炭素繊維同士が接触しあい、微細炭素繊維が移動・回転することが困難となり、十分な配向性を得ることができなくなる。
【0049】
本発明の樹脂複合体に用いる樹脂としては、特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを用いることができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂などを用いることができる。
【0050】
微細炭素繊維が配向に要する時間は樹脂の粘度に依存し、マトリックス樹脂の粘度が高くなるほど微細炭素繊維が磁場方向に移動するのに多くの時間を要する。本発明の樹脂複合体に用いる樹脂の粘度は、1〜1000パスカルセカンド(Pa・s)が好ましく、5〜100Pa・sがより好ましい。
【0051】
本発明の樹脂複合体中の微細炭素繊維を配向する方法としては、押し出し成形のような流動、剪断を利用する方法や磁場や電場を利用する方法がある。その中でも直線性でかつ黒鉛結晶の発達した微細炭素繊維の異方性磁化率を利用する磁場配向法が、効率よくしかも高度に繊維を配向することができるため好ましい。
磁場発生手段としては、永久磁石、電磁石等が挙げられる。また、磁場の磁束密度は0.1〜50テスラの範囲が好ましく、好ましくは0.5〜30テスラ、より好ましくは1〜20テスラがよい。
【0052】
本発明の樹脂複合体中のマトリックス樹脂を配向させる方法は、磁場などにより直線性微細炭素繊維を配向させながら、熱硬化性樹脂の場合は硬化させることにより、熱可塑性樹脂の場合は溶融温度(Tm)付近でアニール処理(熱処理)することにより行うことができる。これにより、マトリックス樹脂は、直線性微細炭素繊維を核として繊維の長手方向に配向する。
【0053】
本発明の樹脂複合体は、前記微細炭素繊維以外に、繊維外径5〜50μmの炭素繊維を5〜80質量%含んでいてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明するが、なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものでない。
なお、繊維直線性(繊維の長手方向に対する屈曲)については走査型顕微鏡にて観察した明視野像から、直線性を有する微細炭素繊維の長手方向に対する屈曲を画像解析により計測した。
【0055】
異方性磁化率の測定方法については
(1)SQUID法(超伝導量子干渉素子測定、例えば、精密磁気測定装置MPMS−XLNS7min(日本カンタムデザイン社製)がある。)、
(2)磁気回転トルクメータ法、
(3)サスペンジョン法
の代表的な3つの方法があり、それぞれ求めた値はほぼ一致することが実験的にも確かめられている(Jpn. J. Apply. Phys. Vol. 40, 2237 (2001))。
サスペンジョン法は、例えば繊維を溶媒中に分散させ(溶媒の密度を繊維と同じに調整する、一般には水に臭化カルシウムを溶解させて密度を調整する。)、これを例えば電磁石TM−WV8615MRC−156(玉川製作所製)を用いて磁場で回転配向させる。このときに回転速度、アスペクト比、溶媒の粘度より、異方性磁化率を計算することができる。
具体的には、異方性磁化率χaは次式より算出できる。
【数1】

η:溶媒の粘度
F(D):アスペクト比などから算出する形状因子
μ0:真空中の透磁率
B:磁束密度
τ:回転時間
【0056】
実施例1:直線性微細炭素繊維の製造
ベンゼンとフェロセンと硫黄を質量比92:7:1の割合で混合し、原料液を調製した。この原料液をキャリア水素ガスにより1200℃に加熱した反応炉(内径100mm、高さ2500mm)に噴霧した。このときの原料供給量は10g/min、水素流量は60L/minである。
上記方法で得られた反応生成物150gを黒鉛製坩堝(内径100mm、高さ150mm)に充填し、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間焼成した後、アルゴン雰囲気中2800℃で1時間黒鉛化し、反応生成物を得た。この反応生成物(分岐状黒鉛化炭素繊維)の平均直径は200nm、アスペクト比は150、BET比表面積は10m2/g、X線回折法のd002は0.339nm、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)は0.15であった。この反応生成物の走査電子顕微鏡写真(15000倍)を図2に示す。
この反応生成物60gと直径10mmのステンレス製ボールを内容積2000cm3のステンレス製容器に入れ、中央化工機製振動ミル(MB1型振動ミル)により10分粉砕処理を行い、平均直径が200nm、アスペクト比が50、繊維の主軸に対する屈曲度が20度以下の微細黒鉛化炭素繊維を得た。この微細黒鉛化炭素繊維の走査電子顕微鏡写真(15000倍)を図3に示す。
この微細黒鉛化炭素繊維の異方性磁化率をサスペンジョン法で測定したところ、3.11×10-4であった。
【0057】
実施例2:直線性微細炭素繊維の製造
ベンゼンとフェロセンと硫黄を質量比92:7:1の割合で混合し、原料液を調製した。この原料液をキャリア水素ガスにより1200℃に加熱した反応炉(内径100mm、高さ2500mm)に噴霧した。このときの原料供給量は10g/min、水素流量は200L/minである。
上記方法で得られた反応生成物150gを黒鉛製坩堝(内径100mm、高さ150mm)に充填し、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間焼成した後、アルゴン雰囲気中2800℃で30分黒鉛化し、平均直径が20nm、アスペクト比が150の分岐状黒鉛化炭素繊維を得た。
この炭素繊維60gと直径10mmのステンレス製ボールを内容積2000cm3のステンレス製容器に入れ、中央化工機製振動ミル(MB1型振動ミル)により10分粉砕処理を行い、平均直径が20nm、アスペクト比が50、繊維の主軸に対する屈曲度が20度以下の微細黒鉛化炭素繊維を得た。
【0058】
実施例3:直線性微細炭素繊維の製造
ベンゼンとフェロセンとチオフェンを質量比91:7:2の割合で混合し、原料液を調製した。この原料液をキャリア水素ガスにより1200℃に加熱した反応炉(内径100mm、高さ2500mm)に噴霧した。このときの原料供給量は5g/min、水素流量は60L/minである。
上記方法で得られた反応生成物150gを黒鉛製坩堝(内径100mm、高さ150mm)に充填し、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間焼成した後、アルゴン雰囲気中2800℃で30分黒鉛化し、平均直径が200nm、アスペクト比が1200の分岐状黒鉛化炭素繊維を得た。
躍進機械製作所製ミクロジェットを用いて、粉砕羽が10000rpmで回転している回転ミルに得られた炭素繊維を100g/minで通過させ粉砕処理を行い、平均直径が200nm、アスペクト比が900、繊維の主軸に対する屈曲度が20度以下の微細黒鉛化炭素繊維を得た。
【0059】
比較例1:比較用微細炭素繊維の製造
ベンゼンとフェロセンと硫黄を質量比92:7:1の割合で混合し、原料液を調製した。この原料液を180℃で気化させ、キャリア水素ガスにより1200℃に加熱した反応炉(内径100mm、高さ2500mm)に供給した。このときの原料供給量は10g/min、水素流量は60L/minである。
上記方法で得られた反応生成物150gを黒鉛製坩堝(内径100mm、高さ150mm)に充填し、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間焼成した後、アルゴン雰囲気中2800℃で1時間黒鉛化し、平均直径が200nm、アスペクト比が150の湾曲した黒鉛化炭素繊維を得た。
この炭素繊維60gと直径10mmのステンレス製ボールを内容積2000cm3のステンレス製容器に入れ、中央化工機製振動ミル(MB1型振動ミル)により10分粉砕処理を行い、平均直径が200nm、アスペクト比が50、繊維の主軸に対する屈曲度が40度以上の微細黒鉛化炭素繊維を得た。
表1に実施例1〜3及び比較例1の微細黒鉛化炭素繊維の繊維径とアスペクト比と屈曲度をまとめて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例4:
実施例1で調製した直線性微細黒鉛化炭素繊維10質量%と不飽和ポリエステル樹脂90質量%を混合し真空脱気して樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を所定の金型に投入し、磁力線の向きが成形体の厚み方向に一致するように磁場(磁束密度10テスラ)を印加して成形体中の微細黒鉛化炭素繊維を充分配向させた後加熱硬化させて、厚み2.0mm×縦20mm×横20mmの板状の樹脂複合体を得て、磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、導電率及び熱伝導率を以下の方法により評価した。結果を表2に示す。図5に磁場方向に配向した微細炭素繊維・樹脂複合体の光学顕微鏡写真(400倍)を示す。
【0062】
(1)磁場印加時の微細炭素繊維の配向性
スライスした試料を光学顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡により観察して磁場に平行な方向と微細炭素繊維の配向角度とその割合を微細炭素繊維と磁場方向のなす角度が±10度の範囲にある微細炭素繊維の割合が80%以上のものを○、60%以上のものを△、50%未満のものは×として評価した。
【0063】
(2)導電率
四端子法により樹脂複合体の導電率を求めた。図4に四端子法による導電率の測定方法を示す。図4において外側の二つの端子(図中3,6)から定電流源(図中7)を用いて、試料に一定の電流(I)を流す。等間隔(W)に設けた内側の二つの端子(図中4,5)を用いて、これらの端子間の電圧(V)を入力インピーダンスの高い電圧計(図中8)で測定する。これらの値から導電率(σ)を数式(1)に基づき算出した。
【0064】
【数2】

【0065】
(3)熱伝導率
熱交流法により樹脂複合体の熱伝導率を求めた。試料を電極で挟み、一方の電極に交流電圧を印可することにより、試料の片面を加熱する。他方の電極の抵抗変化から温度変化を検知する。応答の遅れから温度変化(ΔT)の位相差(Δθ)を求めた。数式(2)により熱拡散率(α)を算出し、数式(3)により熱伝導率(λ)を求めた。
【0066】
【数3】

Δθ:温度変化の位相差
f :加熱周波数
d :サンプル厚
α :熱拡散率
【0067】
【数4】

λ :熱伝導率
α :熱拡散率
Cp:熱容量
ρ :密度
【0068】
実施例5:
実施例2で調製した微細黒鉛化炭素繊維10質量%と不飽和ポリエステル樹脂90質量%を実施例4と同様にして板状の樹脂複合体を得た。得られた試料について実施例4と同様に(1)磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、(2)導電率、(3)熱伝導率を評価した。結果を表2に示す。
【0069】
実施例6:
実施例3で調製した微細黒鉛化炭素繊維10質量%と不飽和ポリエステル樹脂90質量%を実施例4と同様にして板状の樹脂複合体を得た。得られた試料について実施例4と同様に(1)磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、(2)導電率、(3)熱伝導率を評価した。結果を表2に示す。
【0070】
比較例2:
比較例1で調製した微細黒鉛化炭素繊維10質量%と不飽和ポリエステル樹脂90質量%を実施例4と同様にして板状の樹脂複合体を得た。得られた試料について実施例4と同様に(1)磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、(2)導電率、(3)熱伝導率を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
比較例3:
実施例1で調製し微細黒鉛化炭素繊維10質量%と不飽和ポリエステル樹脂90質量%を混合し真空脱気して樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を所定の金型に投入し、磁場を印加させずに加熱硬化させて、厚み2.0mm×縦20mm×横20mmの板状の樹脂複合体を得た。得られた試料について実施例4と同様に(1)磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、(2)導電率、(3)熱伝導率を評価した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
実施例7:
実施例1で調製した直線性微細黒鉛化炭素繊維5質量%とポリカーボネートを95質量%混合した樹脂組成物を所定の金型に投入し、10℃/minで300℃まで昇温し、300℃で60分保持し、磁力線の向きが成形体の厚み方向に一致するように磁場(磁束密度3テスラ)を印加した。その後、10℃/minで室温まで冷却し、厚み2.0mm×縦20mm×横20mmの板状の樹脂複合体を得た。磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、樹脂の配向性をエックス回折により評価した。結果を表3に示す。
【0074】
微細炭素繊維と樹脂の配向性については、エックス線回折による配向の秩序度S(オーダーパラメーター)により評価した。
【数5】

θ:配向の軸からのずれの角度
繊維または高分子の配列が完全にランダムな場合はS=0となる。繊維または高分子が配向するにしたがいSは1に近づき、完全に配向している(θ=0)場合、S=1となる(共立出版,液晶ポリマー,小出直之・坂本国輔著,1988年,15と16ページ参照)。
【0075】
実施例8:
実施例1で調製した直線性微細黒鉛化炭素繊維5質量%とポリカーボネートを95質量%混合した樹脂組成物を所定の金型に投入し、10℃/minで300℃まで昇温し、300℃で60分保持した。その後、10℃/minで220℃に降温し、220℃で120分保持し、磁力線の向きが成形体の厚み方向に一致するように磁場(磁束密度3テスラ)を印加した。その後、10℃/minで室温まで冷却し、厚み2.0mm×縦20mm×横20mmの板状の樹脂複合体を得た。磁場印加後の微細炭素繊維の配向性、樹脂の配向性をエックス回折により評価した。結果を表3に示す。
【0076】
比較例4:
ポリカーボネートを所定の金型に投入し、10℃/minで300℃まで昇温し、300℃で60分保持した。その後、10℃/minで220℃に降温し、220℃で120分保持し、磁力線の向きが成形体の厚み方向に一致するように磁場(磁束密度3テスラ)を印加した。その後、10℃/minで室温まで冷却し、厚み2.0mm×縦20mm×横20mmの板状の樹脂成型体を得た。磁場印加後の樹脂の配向性をエックス回折により評価した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有し、繊維外径が1〜1000nm、アスペクト比が5〜1000、BET比表面積が2〜2000m2/g、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.1〜2であり、繊維の長手方向に対して屈曲度が30度以下の直線性を有し、サスペンジョン法で測定した異方性磁化率が1×10-4以上である直線性微細炭素繊維。
【請求項2】
微細炭素繊維の一部に破断面を有する請求項1に記載の直線性微細炭素繊維。
【請求項3】
微細炭素繊維の表面の少なくとも一部分に導電体層及び/または微量の磁場に対して応答する金属または磁性体層を有する請求項1または2に記載の直線性微細炭素繊維。
【請求項4】
含酸素官能基を繊維表面に含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の直線性微細炭素繊維。
【請求項5】
微細炭素繊維全体に対して請求項1乃至4のいずれかに記載の直線性微細炭素繊維を10体積%〜90体積%含む微細炭素繊維。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の直線性微細炭素繊維を1〜30質量%含む複合体。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−84316(P2010−84316A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286759(P2009−286759)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【分割の表示】特願2004−88647(P2004−88647)の分割
【原出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】