説明

真空ピンセット

【課題】 真空ピンセットを構成する吸着シールと保持部材との接合構造の安定性を高めるとともに保持性能を長期に渡り維持可能とする。
【解決手段】 負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットにおいて、一方の面に溝11が形成され、溝11の底部11aに開口するとともに真空ポンプに連通する通路17を備えた吸着シール保持部材4と、溝11に嵌合する形状を有するベース部5B及び、ベース部5Bから突設され、内面が通路17と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁6を備えた吸着シール5とを有し、溝11の側面には溝11の長手方向に沿って保持部材凹条16が形成され、ベース部5Bの側面には保持部材凹条16に対応する吸着シール凸条15が形成され、ベース部5Bには、外周壁6の内面と通路17とを連通する連通孔9が穿設された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンセットの先端部として使用され、吸着面を対象物に接触させて負圧にすることで当該対象物を吸着保持する真空ピンセットに係り、特に半導体ウェハや、柔軟なエンボス加工されたシート、薄い保護紙類及び、コンパクトディスク等の薄板(ディスク)を確実に吸着保持するのに適した真空ピンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
負圧を利用して対象物を吸着保持する真空ピンセットとして、図9に示すように、ピンセット本体である掴持部31と、掴持部31の先端に設けられたピンセット先端部である吸着具32とからなる真空ピンセットが提案されている。掴持部31の内部には吸着具32と真空ポンプ37とを連通する吸気流路33が形成され、掴持部31の外面には該吸気流路33を大気解放する切換えスイッチ34が設けられており、また吸着具32は、対象物を吸着する吸着シール35と、吸着シール35を保持して吸気流路33に連通する吸着シール保持部材36とから構成されている。吸着シール35は、吸着時に対象物表面と吸着シール表面との間を負圧に維持できるように、搬送対象物の表面形状に適合して密着するべく弾力性をもった材質からなり、吸着シール保持部材36は金属あるいは硬質性樹脂等の剛性のある材料から形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、この種の真空ピンセットのうち、軸心にセット孔が形成され、その外周に非記録面を有するコンパクトディスク等の環状の薄板を、非記録面において吸着することができる吸着具として、環状の吸着シールと、同じく環状の吸着シール保持部材とからなる真空ピンセットの吸着具が本出願人によって提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−68362
【特許文献2】実公平4−9271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の真空ピンセットでは、吸着シールと吸着シール保持部材との接合が接着剤により行われていたため、接着剤の耐久力を超えた荷重が加わると接着面が解離して吸着シールが落下する恐れがあった。また経年劣化による接着剤の耐久力低下に伴い、吸着シールが落下する危険性が増大するので、定期的に吸着シールを交換する等のメンテナンスが必要であった。
【0005】
そこで本発明では、これら従来技術の課題を解決し得る真空ピンセットであって、真空ピンセットを構成する吸着シールと保持部材との接合構造の安定性を高めるとともに保持性能を長期に渡り維持することができる真空ピンセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、一方の面に溝が形成され、該溝の底部に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、前記溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、前記溝の側面には該溝の長手方向に沿って凹条または凸条が形成され、前記ベース部の側面には前記凹条または凸条に係合する凸条または凹条が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを連通する連通孔が穿設された構成とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、一方の面に2つの溝が形成され、該2つの溝の間に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、前記2つの溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、前記2つの溝の側面には各溝の長手方向に沿って凹条または凸条が形成され、前記ベース部の側面には前記凹条または凸条に係合する凸条または凹条が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを連通する連通孔が穿設された構成とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載された真空ピンセットにおいて、前記連通孔が開口する前記溝の底部または該底部に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記連通孔は前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する構成とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項2に記載された真空ピンセットにおいて、前記連通孔が開口する前記2つの溝の間または該溝の間に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記連通孔は前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する構成とする。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、一方の面に溝が形成され、該溝の底部に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、前記溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、前記溝の底部または該底部に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する連通孔が穿設された構成とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、一方の面に2つの溝が形成され、該2つの溝の間に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、前記2つの溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、前記溝の間または該溝の間に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する連通孔が穿設された構成とする。
【0012】
また、請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれかの真空ピンセットにおいて、前記溝が環状をなす構成とする。
【0013】
また、請求項8に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれかの真空ピンセットにおいて、前記吸着シール保持部材に形成された挿入孔に挿入され、前記通路を前記負圧源に連通する扁平横断面の吸気管を更に有する構成とする。
【0014】
また、請求項9に係る発明は、請求項8に記載された真空ピンセットにおいて、前記吸気管は一方の側面に吸気孔が穿設され、当該吸気孔を介して前記通路が前記負圧源に連通された構成とする。
【0015】
また、請求項10に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれかの真空ピンセットにおいて、前記ベース部の底面に複数の突起が形成された構成とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、吸着シール保持部材の少なくとも1つの溝の側面と、吸着シール保持部材の当該溝に嵌合する吸着シールのベース部の側面とに、凸条または凹条が設けられたことによって、一方の部材の凸条または凹条と他方の部材の凹条または凸条とが係合し、吸着シールと吸着シール保持部材とが、接着剤を要せずに接合されることが可能となった。接着剤が使用されないため、接着厚の不均一性による空気漏れや接着面の劣化がなく、定期的な取替えを含むメンテナンスが不要となるとともに、吸着シールの交換も容易になる。また、接着剤が対象物に付着する恐れが皆無であるため、半導体ウェハやコンパクトディスク等の高い清浄性が要求される場面での使用に適する真空ピンセットが得られる。さらに、外周壁の外側から、溝とベース部との嵌合面を通って通路へ流れ込む空気漏れも、凹条と凸条とが係合することによって効果的に防止される。
【0017】
請求項3および請求項4に記載の発明によれば、それぞれ請求項1および請求項2の構成に加えて、吸着シール保持部材と吸着シールとの嵌合面に負圧源と連通する小溝が形成されたことによって、吸着時に吸着シールと対象物表面に囲まれた空間が負圧になるのと同時に、吸着シール保持部材と吸着シールとの間にも負圧の空間が生じる。そのため吸着シールは吸着シール保持部材に吸着され、対象物の荷重は吸着シールの凹条あるいは凸条のみでなく小溝に面する部分によっても吸着シール保持部材に伝達される。これにより、吸着シールが吸着シール保持部材から落下する虞が低減される。また、吸着シール保持部材に形成された通路とベース部に穿設された連通孔とが小溝を介して連通されるため、連通孔を任意の位置に設けることが可能となり、部品交換時等に吸着シールを位置合わせする手間も省かれる。
【0018】
請求項5および請求項6に記載の発明によれば、吸着シールが接着剤や粘着剤によって吸着シール保持部材に接合されている場合において、請求項3,4の発明の効果と同様に、吸着シールが対象物を吸着した時に、小溝が負圧状態となって吸着シールと吸着シール保持部材とを吸着する効果が発揮されるため、接着剤等に作用する荷重が低減されて接合安定性が向上される。したがって、対象物を吸着した吸着シールが吸着シール保持部材から落下する虞が低減される。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、真空ピンセットの平面形状が環状とされることによって、真空ピンセットが、セット孔の外周であって記録面の内周側に非記録面を有するコンパクトディスク等の薄板を、その重心となる非記録面において均等に吸着保持することが可能となるため、吸着シールの外周壁の一部に偏って荷重がかかることがなくなり、環状の薄板を安定して吸着するのに適した真空ピンセットが得られる。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、吸着シール保持部材を負圧源に連通する吸気管の断面形状が扁平にされることによって、吸気量が確保されながら吸気管及び吸着シール保持部材が薄型に形成された真空ピンセットが得られる。これにより、例えば6インチシリコンウェハでは一般に4〜5mm間隔等、8インチシリコンウェハでは6〜7mm間隔等の小さなピッチで収納容器に収納されているシリコンウェハを保持・搬送するときに、真空ピンセットがこのような狭小なスペースに挿入されて被吸着物を吸着・保持することが可能となる。
【0021】
請求項9に記載の発明によれば、吸気管と吸着シール保持部材との通路が、吸気管の端部でなく側面に穿設した開口を介して連通されることによって、薄型且つ小型に形成された吸着シール保持部材においても、吸気管の吸着シール保持部材への挿入長が長く確保され、接合部の強度が増大される。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、これまでは被吸着物を吸着したときに、被吸着物がベース部の底部に密着し、離脱するのが容易でないことがあったが、ベース部の底面に複数の突起が形成されたことにより、被吸着物の離脱が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
[第1実施形態]
≪第1実施形態の構成≫
図1は第1実施形態に係る真空ピンセットを分解して底面側から見た斜視図を、図2は第1実施形態に係る吸着シール保持部材を連結部の一部を破断して示す底面図を、図3は第1実施形態に係る真空ピンセットの縦断面図を示している。図1〜3に示すように、真空ピンセット先端ユニット1は、負圧源となる真空ポンプ(図示せず)へと連通する吸気チューブ2と、吸気チューブ2が連結した真空ピンセット3とからなり、真空ピンセット3は、支持体であって硬質樹脂材料で形成された吸着シール保持部材4と、吸着シール保持部材4に接合され、シリコンゴム等の弾性材料で形成された吸着シール5とから構成されている。静電気による弊害を防止するため、これらは全て導電性素材から構成されている。
【0025】
吸着シール保持部材4は、連結部4Aと、吸着シール5を支持する保持部4Bとからなる。連結部4Aは、吸気チューブ2が連結される雌ねじ孔18と、雌ねじ孔18に螺着された吸気チューブ2に連通する通路17と、雌ねじ孔18の側面に直交するように形成された留めねじ孔12bと、留めねじ孔12bに螺合して吸気チューブ2を固定する留めねじ12とを備えている。保持部4Bは、中央に空孔13を有する環状の平面形状をなし、底面に吸着シール5のベース部5Bを受容する環状の溝11が形成されている。溝11の底部11aには、その幅方向の中央部分に溝11に沿う環状の小溝14が更に形成されており、小溝14は通路17と連通している。溝11の側壁11bには、吸着シール5のベース部5Bに設けられた吸着シール凸条15が係合する保持部材凹条16が壁に沿って形成されている。
【0026】
吸着シール5は、環状の平面形状を有し、吸着シール保持部材4の溝11に一部が受容されるベース部5Bと、ベース部5Bの受容される側と反対側の面をなす吸着パッド7と、吸着パッド7の両側面から吸着パッド7が対象物(被吸着物)に面する方向に末広がり状に付設された外周壁6と、保持部材凹条16に係合するべくベース部5Bの側壁に形成された吸着シール凸条15とを有する。外周壁6は吸着パッド7の側壁の下端から所定の距離を置いた位置に付設されているため、外周壁6と側壁との間に間隙8が形成される。またベース部5Bは、吸着パッド7からその背面まで貫通して小溝14に連通する連通孔9と、連通孔9が穿設された位置の吸着パッド7に、吸着パッド7を分断するように形成された連通溝10とを有する。
【0027】
吸着シール5のベース部5Bが吸着シール保持部材4の溝11に受容され、吸着シール凸条15が保持部材凹条16に係合することで、吸着シール5と吸着シール保持部材4とが接合されて真空ピンセット3を構成する。
【0028】
図4に真空ピンセット3がシリコンウェハ21の対象物平面20に吸着した状態の吸着シール5の縦断面図を示す。吸気チューブ2の内部と、通路17と、小溝14と、連通孔9と、連通溝10と、間隙8とが連通しているため、これらは全て吸着時に負圧源によって負圧にされる。間隙8によってシリコンウェハ21(被吸着物)が吸引されるので、弾性の外周壁6は、対象物平面20が吸着パッド7に接触するまで変形する。その際、外周壁6の内面に外周壁吸着平面6Bが形成される。
【0029】
≪第1実施形態の作用効果≫
本実施形態では、吸着シール5が吸着シール凸条15と保持部材凹条16の嵌合によって吸着シール保持部材4に固定されるため、接着剤の省略が可能となる。そのため、接着厚の不均一性による空気漏れや接着面の劣化が生じることがなく、定期的な取替えを含むメンテナンスが不要となるとともに、吸着シール5の交換も容易になる。また、接着剤がシリコンウェハ21に付着する恐れが皆無であるため、高い清浄性が確保される。さらに、外周壁6の外側から、溝11とベース部5Bとの嵌合面を通って通路17へ流れ込む空気漏れも、保持部材凹条16と吸着シール凸条15とが嵌合することによって効果的に防止される。
【0030】
また吸着シール5と吸着シール保持部材4との間に小溝14が形成され、吸着時に小溝14が負圧になるために、吸着シール5は吸着シール保持部材4に吸着される。シリコンウェハ21の荷重は吸着シール5を介して吸着シール保持部材4に加わることから、小溝14を有さない場合には荷重が吸着シール凸条15のみにかかるが、小溝14が吸着シール保持部材4と吸着シール5とを密着させる吸着力を生じるため、小溝14を有さない場合よりも吸着シール5と吸着シール保持部材4との接合性が増し、吸着シール5の落下が防止される。また小溝14は溝11内に全周に渡って形成されているため、吸着シール5が吸着シール保持部材4に取り付けられる際に、連通孔9と通路17とは、その位置が一致しなくても小溝14を介して連通される。したがって、装着位置の誤差による吸着不可能な不良品が発生することはない。また装着時の手間も省かれる。
【0031】
真空ピンセット3の平面形状が環状とされることによって、セット孔の外周であって記録面の内周側に非記録面を有するコンパクトディスク等の薄板が、その重心となる非記録面において均等に吸着保持されるため、吸着シール5の外周壁6の一部に偏って荷重がかかることがなくなり、環状の薄板を安定して吸着するのに適した真空ピンセット3が得られる。
【0032】
また吸着シール5は、吸着パッド7とその両側の外周壁6とが2列の間隙8を形成し、両間隙8が連通溝10を介して連通孔9と連通されるので、吸着シール5が対象物平面20に吸着した時に、連通孔9周辺の小さな面積にしか吸着作用が働かずに吸着力が低下するような現象が発生することもない。すなわち、間隙8が確実に吸着シール5の全周に渡って負圧となるので、吸着シール5が所定の吸着面積を確保して安定した吸着能力を発揮することができる。また、外周壁吸着平面6Bは柔軟であるため、対象物平面との適合性が高く、吸着シール5は対象物平面20における気密性を保って対象物の吸着を確実に行うことができる。
【0033】
このように、溝11とベース部5Bとの嵌合面の空気漏れが効果的に防止されるとともに、外周壁6の対象物平面との適合性も高くなっているため、真空ピンセット3は、例えばエンボス加工されたシートや薄い保護紙に表面を保護された対象物をも吸着保持することが可能である。
【0034】
[第2実施形態]
≪第2実施形態の構成≫
次に第2実施形態について説明する。なお、説明においては第1実施形態と異なる点について重点的に説明し、第1実施形態と重複する説明については省略する。図5は第2実施形態に係る真空ピンセットを一部分解して平面側から見た斜視図を、図6は第2実施形態に係る真空ピンセットを吸着シールの一部を破断して示す底面図を、図7は図5中のVII矢視図を、図8は第2実施形態に係る真空ピンセットの縦断面図を示している。
【0035】
図5に示すように、真空ピンセット先端ユニット41は、横断面が扁平に形成された吸気チューブ42と、吸気チューブ42が連結する真空ピンセット43とからなり、真空ピンセット43は、吸着シール保持部材44と、吸着シール保持部材44に接合された吸着シール45とから構成されている。本実施形態の吸気チューブ42は、外径4.5mm、内径4.0mmのステンレスパイプに0.4mm厚のスペーサを挿入し、これを押圧することによって扁平断面形状に成形されている。吸着シール保持部材4は電気伝導率の小さな硬質樹脂から形成されており、吸着シール5はフッ素系の導電性ゴムから形成されている。
【0036】
図5に示すように、吸気チューブ42の一方の平面には吸気孔60が穿設されている。吸着シール保持部材44は、中央に空孔53を有する環状の扁平形状をなしている。吸着シール保持部材4には、図5,図7に示すように、横断面が扁平な吸気チューブ42が一方の扁平面が露出するように挿入されるべく、吸気チューブ挿入孔44cが形成されている。そして吸気チューブ42の露出する面と反対側の扁平面が対向する吸気チューブ挿入孔44cの平面部分には、通路57と導電用孔60とが穿設されている。吸気チューブ42は、吸気チューブ挿入孔44cに挿入されて接着剤で接合されることによって、吸着シール保持部材44に連結される。なお、接着剤にはステンレスに対する接着性の高いポリイミド樹脂が用いられ、高温接着されている。
【0037】
図6,図8に示すように、吸着シール保持部材4は、底面に吸着シール45のベース部45Bを受容する2つの環状の溝51,52が形成されている。2列の溝51,52は同心に配置され、これらの間には、溝51,52に沿った環状の小溝54が更に形成されている。前述した通路57は、2つの溝51,52の間、すなわち小溝54の底部に形成されている。一方、導電用孔60は、内側の溝51の底部に形成されている。吸気チューブ42が挿入された状態において、吸気孔42cと連通孔49とは平面視において一致する。溝51,52の側壁51b,52bには、保持部材凹条58,59が壁に沿って形成されている。
【0038】
吸着シール45は、吸着シール保持部材44の溝51,52に受容される2列の突条を備えたベース部45Bと、ベース部45Bの2列の突条と反対側の面がなす吸着パッド47と、ベース部45Bに付設された外周壁46と、保持部材凹条59,59に係合するべくベース部45Bの突条の側面に形成された吸着シール凸条55,56とを有する。ベース部5Bには、吸着パッド7をなす面からその背面まで貫通して小溝14に連通する連通孔49が形成されるが、本実施形態ではベース部5Bの厚さが非常に薄いため、連通孔49は吸着パッド7を分断するように形成された連通溝50に包含される形となっている。
【0039】
また吸着シール45は上面に突起する導電部61を備えており、この導電部61が吸着シール保持部材44に穿設された導電用孔60に挿入されるように、吸着シール45は吸着シール保持部材44に嵌装される。吸着シール45が吸着シール保持部材44に嵌装された状態では、導電部61は吸気チューブ42の表面に接触しているため、吸着シール45が帯電しても電子が吸気チューブ42に導出されてシリコンウェハ21に放電することが防止されている。なお、導電用孔60は導電部61よりも大きな面積に形成されている。吸着シール45は更に、被吸着物が吸着パッド47に粘着するのを防止するべく、吸着パッド47の表面(ベース部45Bの底面)に略円錐形状の複数の突起62を備えている。複数の突起62は、吸着パッド47の幅方向中央に等間隔に配置されている。
【0040】
≪第2実施形態の作用効果≫
本実施形態では、第1実施形態に示す作用効果の他、以下のような作用効果を発揮する。すなわち、吸着シール保持部材44に2つの溝51,52が形成され、2つの溝51,52の間に小溝54が形成されていることにより、図8に示す真空ピンセット43の高さ(厚さ)H2は、図3に示す真空ピンセット3の高さH1よりも低く形成され得る。したがって、狭小なスペースにも真空ピンセット43を挿入することができるようになる。また、吸気チューブ42の断面形状が扁平にされ、吸着シール保持部材44への連結が、吸着シール保持部材44への挿入・接着により行われたことで、吸気チューブ42の吸気量が確保されながらも、吸気チューブ42とその連結部とが薄型化され、真空ピンセット43全体の薄型化が可能となっている。
【0041】
このとき、吸気チューブ42の一方の扁平面が露出する形態とされることにより、吸気チューブ42と吸着シール保持部材44との連結部の強度低下が懸念される。ところが、吸気チューブ42の先端ではなく、吸気チューブ42側面に穿設された吸気孔42cを介して吸着シール保持部材44が連通されることによって、吸気チューブ42の吸着シール保持部材44への挿入長が長く確保されて、連結部の強度が増大される。
【0042】
また、吸着シール45の静電気対策として、突起状の導電部61が吸気チューブ42に接するようにされているが、導電用孔60が導電部61よりも大きく形成されているため、吸着シール5を吸着シール保持部材4に取り付ける際の位置合わせが容易とされている。更に、従前の吸着パッド47ではパッド面が平面であったために、シリコンウェハ21の吸着時にウェハが吸着パッド47に密着し、離脱時に時間遅れが生じる障害があったが、吸着パッド47の表面に複数の突起62が設けられたことにより、パッドとウェハの密着面積が小さくなって密着力が低下されるとともに、弾性変形した突起62の復元力がウェハを押し離すために、シリコンウェハ21が即座に離脱されるようになる。
【0043】
ここまで2つの実施形態について説明してきたが、上記2実施形態は本発明の真空ピンセットの一例を示すものであって、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、吸着シールと保持部材とを凸条及び凹条を嵌合させることにより固定して、吸着シールと保持部材との間に吸気路となる小溝を有さない形態としてもよい。また、吸着シールと保持部材とを凸条及び凹条による係合によらず、接着剤によって固定して、吸着シールと保持部材との吸着力となる小溝を更に有する構成としてもよい。また真空ピンセットの平面形状を上記の環状に替えて、T字型やU字型あるいは直線型としてもよい(前記特許文献2を参照)。また吸着シールと保持部材との接合手段である凸条及び凹条の形状を、一部あるいは大部分で断続的にして、凸部あるいは凹部を一列に並べたような形態としてもよい。このような形態とすることにより、吸着シールが環状であったとしても、吸着シール保持部材に取付け後、吸着シールが自由に回転することを防止することができる。また保持部材に形成した小溝を吸着シール側に形成する等、保持部材と吸着シールの間に空間が形成されて負圧が作用する構成としたものも本発明の技術範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態の真空ピンセットの構成を示す分解傾斜図である。
【図2】第1実施形態の吸着シール保持部材を一部破断して示す底面図である。
【図3】第1実施形態の真空ピンセットの縦断面図である。
【図4】第1実施形態の真空ピンセットが搬送対象物に吸着した状態を示す縦断面図である。
【図5】第2実施形態の真空ピンセットの構成を示す分解傾斜図である。
【図6】第2実施形態の真空ピンセットを一部破断して示す底面図である。
【図7】図5中のVII矢視図である。
【図8】第2実施形態の真空ピンセットの縦断面図である。
【図9】従来の真空ピンセットの概略構成を一部破断して示す底面図である。
【符号の説明】
【0045】
3,41 真空ピンセット
4,44 吸着シール保持部材
5,45 吸着シール
5B,45B ベース部
6,46 外周壁
7,47 吸着パッド
8 間隙
9,49 連通孔
10,50 連通溝
11,51,52 溝
13,53 空孔
14,54 小溝
15,55,56 吸着シール凸条
16,58,59 保持部材凹条
17,57 通路
20 対象物平面
21 シリコンウェハ(被吸着物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、
一方の面に溝が形成され、該溝の底部に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、
前記溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、
前記溝の側面には該溝の長手方向に沿って凹条または凸条が形成され、前記ベース部の側面には前記凹条または凸条に係合する凸条または凹条が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを連通する連通孔が穿設されたことを特徴とする真空ピンセット。
【請求項2】
負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、
一方の面に2つの溝が形成され、該2つの溝の間に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、
前記2つの溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、
前記2つの溝の側面には各溝の長手方向に沿って凹条または凸条が形成され、前記ベース部の側面には前記凹条または凸条に係合する凸条または凹条が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを連通する連通孔が穿設されたことを特徴とする真空ピンセット。
【請求項3】
前記連通孔が開口する前記溝の底部または該底部に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記連通孔は前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通することを特徴とする請求項1に記載の真空ピンセット。
【請求項4】
前記連通孔が開口する前記2つの溝の間または該溝の間に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記連通孔は前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通することを特徴とする請求項2に記載の真空ピンセット。
【請求項5】
負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、
一方の面に溝が形成され、該溝の底部に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、
前記溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、
前記溝の底部または該底部に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する連通孔が穿設されたことを特徴とする真空ピンセット。
【請求項6】
負圧を利用して被吸着物を吸着保持する真空ピンセットであって、
一方の面に2つの溝が形成され、該2つの溝の間に開口するとともに負圧源に連通する通路を備えた吸着シール保持部材と、
前記2つの溝に嵌合する形状を有するベース部及び、該ベース部から突設され、内面が前記通路と連通して被吸着物との間に負圧領域を形成する外周壁を備えた吸着シールとを有し、
前記溝の間または該溝の間に対向する前記ベース部の面には、前記溝の長手方向に沿って小溝が形成され、前記ベース部には前記外周壁の内面と前記通路とを前記小溝を介して連通する連通孔が穿設されたことを特徴とする真空ピンセット。
【請求項7】
前記溝が環状をなすことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の真空ピンセット。
【請求項8】
前記吸着シール保持部材に形成された挿入孔に挿入され、前記通路を前記負圧源に連通する扁平横断面の吸気管を更に有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の真空ピンセット。
【請求項9】
前記吸気管は一方の側面に吸気孔が穿設され、当該吸気孔を介して前記通路が前記負圧源に連通されたことを特徴とする請求項8に記載の真空ピンセット。
【請求項10】
前記ベース部の底面に複数の突起が形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の真空ピンセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−85285(P2008−85285A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335990(P2006−335990)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(595081747)フロロメカニック株式会社 (7)
【Fターム(参考)】