説明

真空ポンプ

【課題】ベーンとロータの摺動部の潤滑性を向上させることができる真空ポンプを提供すること。
【解決手段】円筒状のシリンダを有するケーシング1と、シリンダ内に偏心して回転自在に設けられて径方向に案内溝が形成されたロータ2と、案内溝に摺動自在に取り付けられてロータ2の回転時に先端がシリンダの内周部に摺接するベーン3と、シリンダ内にロータ2およびベーン3を収容した状態でケーシング1の開口部を閉塞するフレーム5とを備え、ベーン3の軸方向端面に対応するケーシング1あるいはフレーム5の表面にオイル溝8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にトラックや乗用車に搭載され、大気圧よりも低圧力の真空を発生させる真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼル車両に搭載されたバキュームブレーキブースタの負圧発生源としての車両用サーボブレーキ装置の真空ポンプにおいて、ベーン(ブレード)側面部の摩擦を低減するために、ベーン側面部と摺動するロータのベーン溝側面部に溝を設け、ベーンとロータとが摺動するときにその摺動部の潤滑性を向上させるようにした構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−100667号公報(第3−4頁、図1−4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示された従来の真空ポンプは、
(1)ロータの摺動部にオイル溜めの溝を設けているため、ベーンとロータの接触面積が少なくなり、面圧が増加する、
(2)ロータの溝内にオイルを充填させるには抵抗が大きく、十分にオイル溜めの効果が発揮できない、
(3)ロータとベーンの摺動部に断続的に溝を設けているため、ベーンとロータの摺動部に油膜が形成されにくい、
などの不都合があり、ベーンとロータの摺動部の潤滑性を期待するほど向上させることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、ベーンとロータの摺動部の潤滑性を向上させることができる真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明の真空ポンプは、円筒状のシリンダを有するケーシングと、シリンダ内に偏心して回転自在に設けられて、径方向に案内溝が形成されたロータと、案内溝に摺動自在に取り付けられて、ロータの回転時に先端がシリンダの内周部に摺接するベーンと、シリンダ内にロータおよびベーンを収容した状態でケーシングの開口部を閉塞するフレームとを備え、ベーンの軸方向端面に対応するケーシングあるいはフレームの表面にオイル溝を有している。ロータとベーンの接触面積を広くしてこれらの間の面圧を下げることができる。また、オイル溝がケーシングあるいはフレームの表面に形成されているため、このオイル溝内にオイルを充填させる場合の抵抗を小さくすることができ、オイル溝のオイル溜めの効果を高めることができる。さらに、ロータとベーンとの摺動部を凹凸のない平面とすることができるため、油膜が形成されやすい。以上により、ベーンとロータの摺動面の潤滑性を向上させることが可能となる。
【0006】
また、上述したオイル溝は、ロータがケーシングあるいはフレームと当接するシール面よりも長いことが望ましい。これにより、オイル溝を介してシール面を挟んだロータの内部空間と外部空間の間を導通させることができるため、オイル溝の両端部において圧力差が生じ(ロータ内部空間の方が外部空間よりも常に圧力が高い)、オイル溝内にオイルを流すことが容易となる。
【0007】
また、上述したオイル溝は、ロータとケーシングの最小ギャップ位置から反回転方向に90°から180°までの範囲に設けられていることが望ましい。これにより、ベーン側面部の摩擦が最も大きい位置においてオイル溝からオイルを供給することが可能になり、特に低速回転域でのベーン音の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を適用した一実施形態の真空ポンプについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、一実施形態の真空ポンプの軸方向断面図である。また、図2は、一実施形態の真空ポンプの径方向断面図である。
【0009】
これらの図に示すように、本実施形態の真空ポンプは、ケーシング1、ロータ2、ベーン3、フレーム5を含んで構成されている。ケーシング1は、ポンプ室を形成するためポンプハウジングであり、円筒状のシリンダを有している。ケーシング1の一方の軸方向端面は開口しており、この開口部がフレーム5によって閉塞される。また、他方の軸方向端面にはベアリング9が配置されており、このベアリング9にシャフト6が支持されている。シャフト6には、スプライン等の嵌合方式によりロータ2が嵌合している。また、ロータ2は、径方向に沿った案内溝としての複数のロータ溝部7を有しており、このロータ溝部7に摺動可能な状態でブレードとしてのベーン3が配置されている。
【0010】
フレーム5は、一部に吸入口50が形成されており、この吸入口50を介してケーシング1と反対側に逆止弁52が取り付けられている。この逆止弁52は、ケーシング1のシリンダ内に空気を吸入するとともに、その逆方向の空気の流れを遮るためのものである。
【0011】
ロータ2は、ケーシング1に設けられたベアリング9に支持されているシャフト6に嵌合しており、このシャフト6とともに一体になって回転する。このロータ2は、径方向に形成された複数の案内溝としてのロータ溝部7を有しており、各ロータ溝部7にベーン3が設けられている。複数のベーン3は、ロータ溝部7のそれぞれに摺動自在に挿入されており、ロータ2が回転すると、遠心力の作用によってロータ溝部7内を径方向外側に飛び出し、先端(外周端)がシリンダ内周部4に摺接しながらロータ溝部7内を往復移動する。それぞれのベーン3の先端がシリンダ内周部4に摺接した状態で、シリンダ内周部4、ロータ2の外周部および周方向に隣接する2つのベーン3、およびフレーム5によって区画された空間がポンプ室10となる。
【0012】
また、上述したベアリング9は、ケーシング1の軸方向端面においてシリンダの中心位置から偏心した位置に配置されており、このベアリング9と同心状にフレーム5に取り付けられたメタルベアリング11とによって2点支持されたロータ2が、シャフト6の先端のギヤ12を介してエンジン(図示せず)の駆動力を受けて回転する。このようにしてロータ2が回転すると、シリンダ内周部4、隣接する2つのベーン3、フレーム5によって区画されたポンプ室10の体積が変化し、体積が最も小さくなって圧縮された内部空気を吐出口54から吐出することにより、真空ポンプとして動作する。
【0013】
ところで、本実施形態では、ベーン3の軸方向端面に対応するフレーム5の表面にオイル溝8が形成されている。このオイル溝8は、ロータ2がフレーム5と当接するシール面(図2ではロータ2の外径よりの同心円a、bで挟まれた領域がリール面を示している)よりも長く設定されている。また、オイル溝8は、ロータ2とケーシング1の最小ギャップ位置Pから反回転方向に90°から180°までの範囲に設けられている。なお、図2に示す例では、1本のオイル溝8が形成されているが、複数本を形成するようにしてもよい。また、オイル溝8の最適な位置は、ベーン3の枚数やケーシング1の形状等により異なるため、各種耐久試験を行った後にベーン側面の摩耗が大きくなった位置に一致させることが望ましい。
【0014】
このように、本実施形態の真空ポンプでは、ベーン3の軸方向端面に対応するフレーム5の表面にオイル溝8を有しており、ロータ2とベーン3の接触面積を広くしてこれらの間の面圧を下げることができる。また、オイル溝8がフレーム5の表面に形成されているため、このオイル溝8内にオイルを充填させる場合の抵抗を小さくすることができ、オイル溝8のオイル溜めの効果を高めることができる。さらに、ロータ2とベーン3との摺動部を凹凸のない平面とすることができるため、油膜が形成されやすい。以上により、ベーン3とロータ2の摺動面の潤滑性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、オイル溝8は、ロータ2がフレーム5と当接するシール面よりも長く設定されており、オイル溝8を介してシール面を挟んだロータ2の内部空間と外部空間の間を導通させることができる。これにより、オイル溝8の両端部において圧力差が生じ(ロータ2内部空間の方が外部空間よりも常に圧力が高い)、オイル溝8内にオイルを流すことが容易となる。
【0016】
また、オイル溝8は、ロータ2とケーシング1の最小ギャップ位置Pから反回転方向に90°から180°までの範囲に設けられており、ベーン側面部の摩擦が最も大きい位置においてオイル溝8からオイルを供給することが可能になり、特に低速回転域でのベーン音の発生を防止することができる。
【0017】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、フレーム5にオイル溝8を形成したが、ベーン3の軸方向端面に対応するケーシング1の表面、あるいはフレーム5とケーシング1の両方の表面にオイル溝8を形成するようにしてもよい。また、オイル溝8の形状は、オイルの流れを実験等によって確かめながら適宜変更することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態の真空ポンプの軸方向断面図である。
【図2】一実施形態の真空ポンプの径方向断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ケーシング
2 ロータ
3 ベーン
4 シリンダ内周部
5 フレーム
6 シャフト
7 ロータ溝部
8 オイル溝
9 ベアリング
10 ポンプ室
11 メタルベアリング
12 ギヤ
50 吸入口
52 逆止弁
54 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシリンダを有するケーシングと、
前記シリンダ内に偏心して回転自在に設けられて、径方向に案内溝が形成されたロータと、
前記案内溝に摺動自在に取り付けられて、前記ロータの回転時に先端が前記シリンダの内周部に摺接するベーンと、
前記シリンダ内に前記ロータおよび前記ベーンを収容した状態で前記ケーシングの開口部を閉塞するフレームと、
を備え、前記ベーンの軸方向端面に対応する前記ケーシングあるいは前記フレームの表面にオイル溝を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1において、
前記オイル溝は、前記ロータが前記ケーシングあるいは前記フレームと当接するシール面よりも長いことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記オイル溝は、前記ロータと前記ケーシングの最小ギャップ位置から反回転方向に90°から180°までの範囲に設けられていることを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91973(P2009−91973A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262822(P2007−262822)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】