説明

真空紫外発光素子及び中性子検出用シンチレーター

【課題】フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用できる新たなリチウムガラスからなる真空紫外発光素子及び散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能な中性子検出用シンチレーターを提供する。
【解決手段】リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスからなる真空紫外発光素子及び中性子検出用シンチレーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用できる真空紫外発光素子、及び爆縮プラズマからの散乱中性子などの中性子検出を好適に行うことが可能な中性子検出用シンチレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
高輝度紫外発光素子は、半導体分野、情報分野、医療分野等における先端技術を支える材料であり、近年では、記録媒体への記録密度の向上を始めとする多くの需要に応えるべく、より短波長で発光する紫外発光素子の開発が進められている。この短波長で発光する紫外発光素子としては、窒化ガリウム等の材料による発光波長300nm台の発光素子が提案されており(非特許文献1参照)、また、近年では高純度六方晶窒化ホウ素結晶による発光波長215nm台の発光素子が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
発光波長が200nm以下の真空紫外発光素子は、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌等にも好適に使用できるため、開発が望まれているが、かかる真空紫外発光素子を得ることは容易ではない。
【0004】
真空紫外領域における発光特性は、材料中の不純物の影響を受けやすく、また、たとえ真空紫外領域に発光のエネルギー準位を有する材料であっても、より低いエネルギー準位に基づく長波長での発光が支配的である、非輻射遷移による損失が甚大である等の理由により、所望の真空紫外発光を得られない場合が数多く見受けられる。
【0005】
したがって、真空紫外領域における発光特性を予め予測することは極めて困難であり、このことが真空紫外発光素子の開発における大きな障壁となっている。
【0006】
さらに、真空紫外線は多くの物質に吸収される性質を有しており、発光素子からの発光を、発光素子自身が自己吸収するという問題があるため、材料の選択に著しい制限を受ける。
【0007】
かかる現状において、真空紫外発光素子のわずかな例として、ネオジウムを含有するフッ化物結晶が知られている(非特許文献2参照)。しかしながら、結晶を作製するには長時間かけて安定に温度を管理する必要があり、不純物を含まない大型で高品質な結晶を安定に製造することが困難であった。
【0008】
一方、散乱中性子計測用シンチレーターとして、ガラスシンチレーター材料の開発がなされている。レーザー核融合において、核融合燃焼率は爆縮プラズマでの燃料面密度ρR(プラズマ密度×プラズマ半径、)に強く依存する。そこで散乱中性子を計測することで、このρRの値を求めることが考えられた。しかし、爆縮プラズマからは散乱中性子と比べて多量の1次中性子やX線が放出されるため、遅れて出てくる散乱中性子のみを分離して検出することは困難であった。そこで、散乱中性子にのみ感度を強くした材料が求められている。さらに、遅れて出てくる散乱中性子を、先に出てくるX線及び1次中性子と分離して計測するため、短い発光寿命が求められる(特許文献2)。
【0009】
特許文献2にはガラス材料20Al(PO−80LiFに対してPrFが添加されたリチウムガラス材料からなる中性子検出用シンチレーターが記載されている。Liによる中性子捕獲反応を利用して中性子を検出するリチウムガラスシンチレータでは、爆縮プラズマからの中性子の測定に用いる場合に、1次中性子nよりも低エネルギーの散乱中性子nに対し、Liでの反応断面積の共鳴ピークが後方散乱中性子のエネルギーとほぼ一致する。したがって、爆縮プラズマからの中性子のうちで、燃料面密度ρRに対応する散乱中性子を選択的に高効率で検出することができる。さらに、特許文献2では紫外領域に発光を持つプラセオジウムを発光核に使用しており、この時の発光の減衰定数は19nsである。よって、その高速応答性により、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能である。しかし、より正確に散乱中性子数を測定するためにはより時間分解能を向上させる必要があるため、より短い発光寿命のシンチレーターが求められている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−228886号公報
【特許文献2】特開2010−261753号公報
【非特許文献1】Iwaya.M et al、“High−power UV−light−emitting diode on sapphire” Japanese Journal of Applied Physics Part1−Regular Papers Short Notes & Review Papers 42,400(2003).
【非特許文献2】A.C. Cefalas et al、“Intense vacuum ultraviolet emission at 172 nm from LaF3:Nd3+ crystals” Microelectronic Engineering 57,93(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、真空紫外領域で高輝度発光し、発光寿命が短いリチウムガラスからなり、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用できる新たな真空紫外発光素子を提供することを目的とする。また、爆縮プラズマからの中性子のうち、散乱中性子を選択的に高効率で検出するとともに、その高速応答性により、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能な中性子検出用シンチレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、爆縮プラズマからの中性子のうち、散乱中性子を選択的に高効率で検出でき、且つ、より短い発光寿命を有し、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能な中性子検出用シンチレーター材料につき種々検討した結果、LiFの含有量が高くても容易に製造することができるガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFを添加することによって、真空紫外領域で高輝度発光することを見出した。
【0013】
さらに、ガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFを添加したリチウムガラスは発光寿命がより短く、その高速応答性により、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能な中性子検出用シンチレーターとして適用できる可能性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスからなることを特徴とする真空紫外発光素子である。更に他の発明は、該リチウムガラスからなることを特徴とする中性子検出用シンチレーターである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の真空紫外発光素子は、真空紫外領域で高輝度発光し、発光寿命が短いリチウムガラスからなり、フォトリソグラフィー、半導体や液晶の基板洗浄、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等に好適に使用することができる。また、爆縮プラズマからの中性子のうち、散乱中性子を選択的に高効率で検出するとともに、その高速応答性により、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能な中性子検出用シンチレーターとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の真空紫外発光素子及び中性子検出用シンチレーターについて説明する。
【0017】
本発明の真空紫外発光素子及び中性子検出用シンチレーターは、リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスからなる。本発明で用いる該リチウムガラスはリチウムガラス材料20Al(PO−80LiFにNdF又はErFが添加されたものである。リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFは、LiFが80±5モル%、残部がAl(POからなるガラスである。リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFとしては、Al(POが20モル%、LiFが80モル%からなるリチウムガラス材料であることが好ましい。
【0018】
リチウムガラス材料は、真空紫外領域で高い透過率を持つことが知られているLiFを原料に用いられており、Li同位体を高濃度に含有させることができるLiの含有量が高いので中性子検出用シンチレーターとしても有用である。
【0019】
LiFの含有量が多くなると、高い紫外透過能が期待できるものの、ガラス形成能と化学的安定性の低下が問題となる。そこで、高い紫外透過能を維持したまま、LiFが多くてもガラス化でき、化学的にも安定となるように、フツリン酸系のリチウムガラスの中から20Al(PO−80LiFをリチウムガラス材料として選択した。
【0020】
中性子検出用シンチレーターとして用いる際には、Liの同位体比を20%以上とすることが好ましい。Liの同位体比を20%以上とすることによって、中性子に対する検出効率を充分に高めることができるが、さらに検出効率を高める目的で、50%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが最も好ましい。Liの同位体比を調整する方法としては、Li同位体が所期のLiの同位体比まで濃縮された原料を用いる方法、或いはあらかじめLiが所期のLiの同位体比以上に濃縮された原料を用意し、該濃縮された原料と天然の同位体比を有する汎用の原料を混合して調整する方法が挙げられる。
【0021】
本発明で用いる上記リチウムガラスはNdF又はErFが添加されており、それぞれ178〜200nmの範囲、165〜185nmの範囲の真空紫外領域で発光する。従って、このようなリチウムガラスは真空紫外発光素子として好適に用いることができる。また、通常、Er3+を添加した場合は禁制遷移が優勢であるため、その発光寿命は1μs程度と遅い。しかしこのリチウムガラス材料では許容遷移が優勢となるため、発光寿命が早くなる。Nd3+を用いた場合は4.5ns、Er3+を用いた場合は3.9nsと更なる高速応答性を持つ。従って、このようなリチウムガラスを中性子検出用シンチレーターに用いることにより、散乱中性子を1次中性子やX線から分離して測定することが可能となる。また、このような高速応答性は、前記したように爆縮プラズマからの散乱中性子の測定に用いる場合に限らず、中性子測定において一般に有効である。
【0022】
上記のリチウムガラスにおいて、リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対するNdF又はErFの添加量は、発光量と濃度消光の兼ね合いから0.1モル%以上10モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることがさらに好ましい。これにより、上記した真空紫外領域で発光し、高速応答性を有する真空紫外発光素子や中性子検出用シンチレーターを好適に実現することができる。
【0023】
なお、以下においては、必要に応じて、リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFを、APLF80と略記する。また、NdF又はErFがnモル%で添加されたリチウムガラスを、それぞれAPLF80+nNd、APLF80+nErと略記する。
【0024】
リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスは、例えば、以下に示す製造例の方法によって製造することができる。まず、目的とする組成比に対応する調合比により、各原料(Al(PO、LiF、NdF又はErF)を用意する。そして、それらの原料を、ガラス状カーボンのルツボ中において、溶融温度850〜13000℃、溶融時間15分〜3時間、窒素雰囲気の条件下で溶融する。溶融は、揮発による組成変動の影響を極力抑制するため、より低温かつ短時間で均一に溶融できる条件とすることが好ましい。その後、ルツボを炉から取り出して、黒鉛板上に置き、ルツボとともに融体を急冷し、ガラス化させ、さらにガラス転移温度近傍でアニールを行って、目的とする組成のリチウムガラスを作成する。
【0025】
得られたリチウムガラスは所望の形状に加工して真空紫外発光素子及び中性子検出用シンチレーターとすることができる。本発明の真空紫外発光素子は、電子線或いはFレーザー等の適当な励起源と組み合わせることにより、真空紫外光発生装置とすることができる。かかる真空紫外光発生装置は、フォトリソグラフィー、殺菌、次世代大容量光ディスク、及び医療(眼科治療、DNA切断)等の分野において、好適に使用できる。
【0026】
また、本発明の中性子検出用シンチレーターは、Li同位体を高濃度に含有させることができ、中性子に感度の高いリチウムガラスを使用しているため、光電子増倍管やイメージインテンシファイアを組み合わせることにより、特許文献2と同様に核融合爆縮プラズマからの中性子検出を始め、その高速応答性より、その他様々な分野での中性子検出に用いることができる。
【0027】
本発明の中性子検出用シンチレーターを用いて中性子測定装置とするには、(1)本発明の中性子検出用シンチレーターを含む中性子検出部と、(2)測定対象の中性子の入射に応じて中性子検出部から発せられるシンチレーション光を検出する光検出部と、(3)中性子検出部からのシンチレーション光を光検出部へと導光する導光光学系とを備えた装置とすればよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0029】
実施例1
まず、Al(PO20モル%、LiF80モル%に対して、NdF1モル%となるように調合した原料12gを、ガラス状カーボンのルツボ中において、溶融温度1000℃、溶融時間30分、窒素雰囲気の条件下で溶融し、その後、ルツボを炉から取り出し、黒鉛板上に置き、ルツボとともに融体を急冷し、ガラス化させ、さらにガラス転移温度近傍でアニールを行って、リチウムガラスAPLF80+1Ndを作成した。
【0030】
得られたリチウムガラスを直径22mm、 厚さ8mmの円盤状に加工して下記の発光特性測定用の試料とした。
【0031】
真空紫外領域対応のストリークカメラと分光器を用いた、図1に示す測定装置を用いて試料の発光特性(発光スペクトル、発光寿命)を調べた。真空紫外光は酸素によって吸収されてしまうため、計測系はすべて真空中で行った。試料を直径22mmの面がレーザー照射面となるように試料チャンバーに設置し、励起光源として波長157nmのフッ素レーザーを試料の照射面に45度の角度で照射した。この時の試料の照射面からの、レーザーの光軸に対して90度横の方向の発光を分光器で分光し、ストリークカメラで時間分解して検出した。上記の実験の結果得られたAPLF80+1Ndの波長範囲170〜200nmにおける発光スペクトルを図2に示す。発光スペクトルのピーク波長は187nmであった。また、187nmの発光の時間分解スペクトルを図3に示す。APLF80+1Ndの発光寿命は4.5nsであった。
【0032】
実施例2
原料としてAl(PO20モル%、LiF80モル%に対して、ErF1モル%となるように調合した原料12gを用いた他は実施例1と同様にして、リチウムガラスAPLF80+1Erを作成し、発光特性を調べた。
【0033】
APLF80+1Erの波長範囲163〜193nmにおける発光スペクトルを図4に示す。発光スペクトルのピーク波長は170nmであった。また、170nmの発光の時間分解スペクトルを図5に示す。APLF80+1Erの発光寿命は3.9nsであった。
【0034】
実施例に示したように、リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスは、真空紫外領域で発光し、真空紫外発光素子として好適に使用できる。また、その発光寿命は特許文献2に記載されている19nsより短いものであり、中性子検出用シンチレーターとして用いた場合、爆縮プラズマからの中性子の測定において、時間分解能を向上させることができ、より正確に散乱中性子数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本図は、発光スペクトルと発光寿命の測定装置の概略図である。
【図2】本図は、本発明のNdドープリチウムガラスからなる真空紫外発光素子の発光スペクトルである。
【図3】本図は、本発明のNdドープリチウムガラスからなる真空紫外発光素子の発光寿命である。
【図4】本図は、本発明のErドープリチウムガラスからなる真空紫外発光素子の発光スペクトルである。
【図5】本図は、本発明のErドープリチウムガラスからなる真空紫外発光素子の発光寿命である。
【符号の説明】
【0036】
1 ストリークカメラ
2 分光器
3 試料チャンバー
4 励起光源
5 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスからなることを特徴とする真空紫外発光素子。
【請求項2】
リチウムガラス材料20Al(PO−80LiFに対してNdF又はErFが添加されたリチウムガラスからなることを特徴とする中性子検出用シンチレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−43823(P2013−43823A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185182(P2011−185182)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】