説明

真空蒸着装置、蒸着源、成膜室、蒸着容器交換方法

【課題】蒸着材料が劣化しにくい真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】本発明の真空蒸着装置1は、真空槽11とボックス21とを有しており、真空槽11はボックス21に通路14を介して接続されている。交換用の蒸着容器31bは内部空間が蓋33で密閉されている。蓋33は、蒸着容器31bをボックス21内部に搬入し、該内部空間が不活性ガスで置換されてから開けられるので、有機材料32が劣化しない。蒸着容器31bはボックス21に挿入されたグローブ36で把持され、真空槽11内部を移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機EL(Electro Luminesence)素子の有機薄膜の成膜には、真空蒸着装置が用いられている。
真空蒸着装置は、真空槽と、加熱手段とを有しており、真空槽内部に真空雰囲気を形成した状態で、容器(坩堝)に収容した蒸着材料を、該真空雰囲気中で加熱して蒸気を発生させ、該蒸気を基板の表面上に到達させて薄膜を成膜する。
【0003】
通常、成膜中は真空槽内部は真空雰囲気に維持されるが、蒸着材料を補充する場合は、真空槽内部を一旦大気圧に戻し、真空槽を大気雰囲気に接続し、蒸着容器を真空槽外部に取り出し、蒸着材料が収容された新たな蒸着容器と交換する。
蒸着容器を交換後、真空槽を大気雰囲気から遮断し、再び真空雰囲気を形成してから、新たな蒸着容器に収容された蒸着材料を加熱し、成膜を再開する。
【0004】
ところで、有機EL素子の有機薄膜を成膜する場合、蒸着材料として有機材料を用いるが、該有機材料は一般に化学的に不安定であり、大気に触れると大気中の酸素や水分と反応して劣化してしまう。
蒸着容器を交換する際には、真空槽が大気雰囲気に晒されるので、蒸着容器に収容された有機材料が劣化し、その結果、有機EL素子の発光強度が劣ったり、発光の寿命が短くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−297564号公報
【特許文献2】特開2004−149846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、蒸着材料を劣化させずに、蒸着容器の交換や、蒸着材料の補充が可能な真空蒸着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、ボックスと、前記真空槽と前記ボックスとを接続する通路とを有し、前記通路には、開状態では前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを接続し、閉状態では前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを遮断する開閉部材が設けられ、前記開閉部材が開状態では、前記真空槽と前記ボックスとの間で、前記通路を通って蒸着容器が搬出入可能に構成され、前記ボックスの少なくとも一部は移動可能であり、前記ボックスの前記少なくとも一部が移動したときに、前記ボックスの内部空間を外部雰囲気に接続する開口が形成されるように構成され、前記開口を通って、前記ボックスの内部空間と、前記ボックスの外部空間との間で前記蒸着容器が搬出入可能にされ、前記ボックスには、前記ボックスの内部空間に配置された前記蒸着容器を把持するグローブが気密に挿入された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記真空槽と、前記ボックスには、真空排気系と、ガス供給系とがそれぞれ接続された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記真空槽の内部空間と、前記ボックスの内部空間は、前記ガス供給系の大気よりも高い圧力の陽圧雰囲気に接続されるように構成された真空蒸着装置である。
本発明は蒸着源であって、真空容器と、第一の開閉部材と、第一の接続部材とを有し、前記第一の接続部材は前記第一の開閉部材を介して前記真空容器の開口に接続され、前記第一の開閉部材が開状態のときに、前記真空容器の内部は前記第一の接続部材の開口に接続され、前記第一の開閉部材が閉状態のとき、前記真空容器の内部は前記第一の接続部材の前記開口から遮断され、前記真空容器の内部には、有機材料が収容された蒸着容器が配置された蒸着源である。
本発明は蒸着源であって、前記蒸着容器の周囲に配置されたヒーターを有する蒸着源である。
本発明は蒸着源であって、前記真空容器には、赤外線を透過する透明な窓が形成された蒸着源である。
本発明は成膜室であって、真空槽と、第二の開閉部材と、第二の接続部材とを有し、前記第二の接続部材は前記第二の開閉部材を介して前記真空槽の開口に接続され、前記第二の開閉部材は、前記真空槽の前記開口を閉塞する弁体を有し、前記弁体を開けた開状態のときに、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の開口に接続され、前記弁体を閉じた閉状態のとき、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の前記開口から遮断され、前記閉状態の前記弁体と、前記第二の接続部材の開口との間の空間には、真空排気系が接続された成膜室である。
本発明は、前記蒸着源と、成膜室とを有し、前記成膜室は、真空槽と、第二の開閉部材と、第二の接続部材とを有し、前記第二の接続部材は前記第二の開閉部材を介して前記真空槽の開口に接続され、前記第二の開閉部材が開状態のときに、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の開口に接続され、前記第二の開閉部材が閉状態のとき、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の前記開口から遮断され、前記第一、第二の接続部材の前記開口周囲は気密に密着する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記第二の開閉部材は、前記真空槽の開口を閉塞する弁体を有し、閉状態の前記弁体と、前記第二の接続部材の前記開口との間の空間には、真空排気系が接続された真空蒸着装置である。
本発明は、真空槽の内部空間に真空雰囲気を形成し、前記真空槽の内部で、第一の蒸着容器に収容された蒸着材料を加熱して、蒸気を前記真空槽の内部空間に放出させて、基板表面に薄膜を形成した後、前記第一の蒸着容器を、蒸着材料が充填された第二の蒸着容器と交換する方法であって、予め、前記真空槽に、通路を介してボックスを接続しておき、前記薄膜を形成する際は、前記通路を開閉部材で閉状態にして前記真空槽の内部空間を前記ボックスの内部から遮断し、前記ボックスの内部には、真空排気と、不活性ガスの供給を行って、大気圧よりも高い陽圧雰囲気を形成し、前記真空槽の内部には、不活性ガスの供給を行って大気圧よりも高い陽圧雰囲気を形成してから、前記開閉部材を開状態にして、前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを接続し、前記第一の蒸着容器を前記第二の蒸着容器と交換した後、前記開閉部材を前記閉状態にし、前記真空槽の内部空間に真空雰囲気を形成する蒸着容器交換方法である。
【発明の効果】
【0007】
蒸着材料を補充する際や、蒸着容器を交換する際に、蒸着材料は大気に曝されないので、劣化しない。蒸着材料が劣化しないから、発光強度が強く、寿命が長い有機EL素子が得られる。補充される蒸着材料は蒸着容器ごと運搬されるから、従来の補充方法に比べて大気と接触する確率が低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1(a)の符号1は本発明第一例の真空蒸着装置を示しており、真空蒸着装置1は、真空槽11と、グローブボックス20と、通路14とを有している。
グローブボックス20は、ボックス21とグローブ36とを有している。
【0009】
ボックス21の内部空間と、真空槽11の内部空間は、仕切り部材15によって仕切られている。仕切り部材15には、一端が真空槽11の内部空間と面し、他端がボックス21の内部空間と面する貫通孔が設けられており、その貫通孔で通路14が構成されている。
【0010】
通路14にはバルブのような開閉部材17が設けられており、開閉部材17を閉じた閉状態では、通路14が閉塞され、真空槽11の内部空間とボックス21の内部空間とが遮断され、開閉部材17を開けた開状態では、通路14が開放され、真空槽11の内部空間とボックス21の内部空間とが接続される。
【0011】
真空槽11には真空排気系19が接続されている。開閉部材17を閉状態にし、真空槽11内部を真空排気すると、真空槽11内部に真空雰囲気が形成される。
真空槽11内部にはヒーター等の加熱手段39が配置されている。図1(a)は、真空雰囲気が形成された真空槽11内部に、蒸着容器31aが配置された状態を示しており、この状態では蒸着容器31aは加熱手段39と接触している。
【0012】
真空槽11には、不図示の搬送室が接続されており、成膜対象である基板は、真空槽11内部の真空雰囲気を維持したまま、搬送室から真空槽11へ搬入され、蒸着容器31aの上方位置で不図示の基板ホルダに保持される。
【0013】
蒸着容器31aには蒸着材料である有機材料32が収容され、有機材料32は真空槽11内の真空雰囲気に曝されている。加熱手段39に通電し、蒸着容器31aを加熱すると、有機材料32が加熱され、有機材料32の蒸気が発生し、基板の表面に有機薄膜が形成される。
【0014】
基板表面に所定膜厚の有機薄膜が形成されたところで、真空槽11内部の真空雰囲気を維持したまま、有機薄膜が形成された基板を真空槽11から搬送室へ搬出し、搬出室から新たな基板を真空槽11へ搬入して基板ホルダに保持させて基板を交換し、交換した新たな基板の表面上に有機薄膜を形成する。
基板の成膜と、基板の交換の間、真空槽11の内部は真空雰囲気が維持されるから、有機材料32は大気に曝されない。
蒸着容器31a内の有機材料32が所定量未満になる前に、使用済みの蒸着容器31a(第一の蒸着容器)を、新たな蒸着容器(第二の蒸着容器)と交換する。
【0015】
次に、真空蒸着装置1に、交換用の蒸着容器を搬入する工程について説明する。
ここでは、仕切り部材15は、ボックス21の壁の一部と真空槽11の壁の一部が密着して構成されている。
図1(a)の符号13と23は、仕切り部材15の真空槽11側の部分と、ボックス21側の部分をそれぞれ示しており、ボックス21を真空槽11に取り付けた状態では、ボックス21側の部分23の通路14周囲に真空槽11側の部分13が密着し、ボックス21の内部空間は外部空間から遮断されている。
【0016】
ボックス21には、真空排気系29と、ガス供給系28と、ベントバルブ37が接続されている。後述するように、ボックス21内部に大気圧よりも高い陽圧雰囲気が形成されている場合は、開閉部材17を閉状態にしたまま、真空排気系18とガス供給系28のバルブを閉じた状態で、ベントバルブ37を開放し、ボックス21内部の圧力を大気圧と略等しくする。
【0017】
ボックス21は一部又は全部が移動可能になっている。開閉部材17を閉状態にしたまま、ボックス21の一部又は全部を移動させて、ボックス21を真空槽11から離すと、ボックス21の壁と仕切り部材15の間、ここでは、ボックス21の壁と、仕切り部材15の真空槽11側の部分13との間に、開口38が形成され、ボックス21の内部空間が外部空間に接続される(図1(b))。
【0018】
内部に有機材料32が収容され、該有機材料32が収容された空間が、蓋33で気密に密閉された交換用の蒸着容器31bを予め用意しておく。
交換用の蒸着容器31bが開口38を通過可能なように、ボックス21と真空槽11の隙間を大きく開け、交換用の蒸着容器31bを、開口38を通過させて、真空蒸着装置1の外部からボックス21内部に搬入してから、不図示の固定部材でボックス21を真空槽11に取り付け、ボックス21の内部空間を外部空間から遮断する(図2(c))。
【0019】
交換用の蒸着容器31bを搬入する時には、ボックス21内部には大気も浸入するが、開閉部材17は閉状態に維持されているから、真空槽11内部には大気が浸入しない。
開閉部材17の閉状態を維持し、ボックス21の内部空間を外部空間から遮断したまま、ベントバルブ37を閉じ、真空排気系29によりボックス21内部を真空排気し、大気を排出する。
【0020】
真空槽11にはガス供給系18が接続されている。真空槽11に接続されたガス供給系18と、ボックス21に接続されたガス供給系28は、不活性ガスが充填されたタンクを有している。
ボックス21内部に所定圧力の真空雰囲気が形成されたら、真空排気系29の排気速度を落とし、ガス供給系28のバルブを開け、ガス供給系28から不活性ガス(例えばN2)を供給し、ボックス21内部を不活性ガスで置換する。
【0021】
ボックス21内部を不活性ガスで置換するには、ボックス21の内部に真空雰囲気を形成せずに、真空排気と不活性ガスの供給を同時に開始してもよいが、真空雰囲気を形成してから、不活性ガスを供給した方が、ガスの置換効率が良い。
【0022】
ガス供給系18、28は不活性ガスを圧縮するコンプレッサ(不図示)を有しているか、不活性ガスが充填されたタンクの内部圧力が大気圧よりも高くされている。いずれの場合も、ガス供給系18、28の少なくとも一部には、大気圧よりも高い陽圧雰囲気が形成されている。
【0023】
ガス供給系28のバルブを開けた状態では、ガス供給系28の陽圧雰囲気にボックス21の内部空間が接続されるから、ボックス21の内部に大気圧よりも高い陽圧雰囲気が形成される。
ボックス21内部に陽圧雰囲気が形成されたら、ガス供給系28のバルブを開けたまま、真空排気系29のバルブを閉じ、ベントバルブ37を開けて、陽圧雰囲気を維持する。
【0024】
真空槽11には、上述したように真空雰囲気が形成されている。開閉部材17を閉じたたまま、真空排気系19の排気速度を落とし、真空槽11に接続されたガス供給系18のバルブを開けて、真空槽11の内部空間を、ガス供給系18の陽圧雰囲気に接続すると、ガス供給系18から不活性ガスが真空槽11内部に供給されて、真空槽11内部に陽圧雰囲気が形成される。
【0025】
ボックス21の壁のうち、仕切り部材15以外の部分は、片面が外部空間に露出しており、片面が外部空間に露出する部分に貫通孔が形成されている。グローブ36はその貫通孔に気密に取り付けられ、指部分がボックス21の内部に突き出され、使用者はボックス21の外部からグローブ36に手を差し入れ、ボックス21内部で作業可能になっている。
【0026】
真空槽11内部とボックス21内部の陽圧雰囲気を維持したまま、開閉部材17を開状態にし、グローブ36又は不図示の搬送器具で、使用済みの蒸着容器31aを把持して、真空槽11からボックス21へ搬出する。
【0027】
交換用の蒸着容器31bをグローブ36で把持し、グローブ36で把持したまま蒸着容器31bを真空槽11内部へ搬入するか、ボックス21内部の不図示の搬送手段まで蒸着容器31bを移動させて、該搬送手段によって蒸着容器31bを真空槽11内部へ搬入する(図2(d))。
交換用の蒸着容器31bを真空槽11へ搬入する前か、真空槽11に搬入した後に、グローブ36で蓋33を開けて、蒸着容器31bに収容した有機材料32を陽圧雰囲気に曝す。
【0028】
真空槽11の内部とボックス21の内部は、不活性ガスで置換されており、しかも、真空槽11の内部とボックス21の内部には陽圧雰囲気が形成されているから、外部から大気が進入しない。従って、有機材料32は酸素や水と接触せず、劣化しない。
真空槽11内部に、交換用の蒸着容器31bを配置し、該蒸着容器31bに収容された有機材料32を、真空槽11の内部空間に露出させたまま、開閉部材17を閉状態にする。
開閉部材17を閉状態にしたまま、真空槽11への不活性ガスの供給を停止し、排気速度を上げて、真空槽11内部に所定圧力の真空雰囲気を形成してから、加熱手段39に通電して、成膜を開始する。
【0029】
ボックス21に搬入された使用済みの蒸着容器31aについては、上述したように、開閉部材17を閉じたまま、ボックス21の一部又は全部を移動させて開口38を形成すれば、ボックス21の外部に取り出すことができる(図3(e))。使用済みの蒸着容器31aを取り出す時には、交換用の新たな蒸着容器31cをボックス21内部に搬入してもよい。
以上は、ボックス21の内部空間を外部空間に接続する開口38を、ボックス21の壁と仕切り部材15の間に形成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
例えば、図4に示す真空蒸着装置2のグローブボックス40は、壁と、該壁のうち、片面がグローブボックス40の内部空間と面し、反対側の面が外部空間に面する部分に形成された貫通孔16と、該貫通孔16を開閉可能な蓋27とを有している。
【0031】
蓋27で貫通孔16を覆った閉状態では、グローブボックス40の内部空間が外部空間から遮断されるが、蓋27を貫通孔16から移動させ、貫通孔16を外部空間に露出させた開状態では、貫通孔16がグローブボックス40の外部空間に露出し、グローブボックス40の内部空間を外部空間に接続する開口が、グローブボックス40の壁に形成される。
【0032】
また、加熱手段は真空槽11の外部に配置してもよい。例えば、加熱手段がレーザー照射装置の場合、加熱手段を真空槽11の外部に配置し、真空槽11の壁に赤外線が透過可能な窓部を設け、真空槽11の外部からレーザー光を照射し、窓部を通過させて、真空槽11内部に配置された蒸着容器31の有機材料32に入射させ、有機材料32を蒸発させてもよい。
尚、陽圧雰囲気の圧力は、大気圧よりも高ければ特に限定されないが、大気圧+数%、即ち、101325Paよりも1000Pa〜9999Pa高い圧力であれば、ボックス21に大気が浸入し難く、しかも、陽圧雰囲気の形成が容易である。
【0033】
次に、本発明第二例の真空蒸着装置について説明する。
図5の符号5は本発明第二例の真空蒸着装置を示しており、この真空蒸着装置5は、真空容器51と、真空槽71と、接続装置45とを有しており、真空容器51と真空槽71は接続装置45によって互いに接続されている。
接続装置45と真空容器51の間、及び接続装置45と真空槽71の間には、第一、第二の開閉部材52、72が配置されている。
【0034】
第一、第二の開閉部材(弁)52、72は、第一、第二の弁箱54、74と、第一、第二の弁体56、76とを有している。
真空容器51と真空槽71にはそれぞれ開口55、75が設けられている。
【0035】
第一、第二の弁箱54、74は底壁部分(弁座)が、真空容器51の開口55周囲と、真空槽71の開口75周囲に密着しており、弁座に設けられた開口が、真空容器51の開口55と、真空槽71の開口75に連通し、第一、第二の弁箱54、74の内部空間が、真空容器51の内部空間と真空槽71の内部空間にそれぞれ気密に接続されている。
第一、第二の弁体56、76は第一、第二の弁箱54、74の内部に配置されている。第一、第二の弁体56、76はロッド59、79に接続されている。ロッド59、79は不図示の移動手段に接続され、移動可能になっている。
【0036】
ロッド59、79を移動させると、第一、第二の弁体56、76が一緒に移動し、開口55、75に着座して、真空容器51の内部空間と真空槽71の内部空間を、接続装置45から遮断する閉状態と、第一、第二の弁体56、76が第一、第二の弁箱54、74の開口上から移動して、真空容器51の内部空間と真空槽71の内部空間を、接続装置45に接続する開状態に変化する。
【0037】
真空槽71は真空排気系89に接続されている。図5では、第一、第二の弁体56、76が開状態にされ、真空容器51の内部空間と、真空槽71の内部空間とが接続装置45を介して接続されており、真空排気系89によって、真空槽71の内部空間と、真空容器51の内部空間は予め真空排気され、所定圧力の真空雰囲気が形成されている。
【0038】
真空容器51の内部には、有機材料32が収容された蒸着容器65が配置されている。蒸着容器65には加熱手段であるヒーター66が取り付けられている。ヒーター66は端子67に接続され、端子67は一部が真空容器51の外部に気密に導出され、電源69に接続されている。
【0039】
第一、第二の弁体56、76を開状態にしたまま真空排気を続け、真空容器51内部と、真空槽71内部の真空雰囲気を維持し、電源69からヒーター66に通電して、有機材料32を加熱し、真空容器51の内部空間に有機材料32の蒸気を発生させる。
有機材料32の蒸気は、第一の弁箱54の内部と、接続装置45と、第二の弁箱74の内部を通って、開口75から真空槽71の内部空間に放出される。
真空槽71内部の開口75上方位置には基板ホルダ77が配置され、基板ホルダ77と開口75との間の位置にはシャッター49が配置されている。
【0040】
基板ホルダ77には予め基板7が保持されている。開口75からの蒸気放出速度が安定したところで、シャッター49を、基板ホルダ77と開口75の間の位置から移動させると、蒸気が基板7に到達し、基板7の表面に有機材料32の薄膜(有機薄膜)が形成される。
真空槽71には不図示の搬出入室が接続されており、基板7は、真空槽71内部と、真空容器51内部の真空雰囲気を維持したまま、真空槽71内部に搬出入されるようになっている。
【0041】
基板7表面の有機薄膜が所定膜厚まで成長したら、基板7を基板ホルダ77から外し、搬出入室から搬入した新たな基板7を基板ホルダ77に保持させて、基板の交換を行い、新たな基板7の表面に有機薄膜を成膜する。
基板7の交換と、有機薄膜との成膜を繰り返し、複数枚の基板7に有機薄膜を形成する。基板7を交換している間と、有機薄膜を成膜している間、真空容器51内部と真空槽71内部は真空雰囲気が維持されるので、真空容器51の内部の有機材料32は劣化しない。
【0042】
有機材料32の量が所定量未満になる前に、シャッター49を閉じ、ヒーター66への通電を停止して成膜を終了し、第一、第二の弁体56、76の両方を閉状態にする。
【0043】
接続装置45は第一、第二の接続部材61、81とを有している。第一、第二の接続部材61、81は、例えば筒状であって、一端が第一、第二の弁箱54、74に気密に接続され、他端の開口62、82周囲が他の部分より張り出してフランジ部となっている。
第一、第二の接続部材61、81は、開口62、82が連通するように、ネジ等の固定部材88で固定され、開口62、82周囲のフランジ部が直接、又は、Oリング等の密閉部材89を挟んで密着し、第一、第二の接続部材61、81の内部空間が気密に接続されている。
【0044】
第一、第二の弁体56、76を閉状態にしたまま、端子67を電源69から取り外し、固定部材88を第一、第二の接続部材61、81から取り外す。
第一の接続部材61は第一の開閉部材52を介して真空容器51に固定されており、固定部材89を取り外した状態で、真空容器51を移動させると、第一の開閉部材52と、第一の接続部材61とが真空容器51と一緒に移動し、第一の接続部材61が第二の接続部材81から分離して、開口62、82が外部空間に露出する。
【0045】
上述したように、第一、第二の弁体56、76が閉状態では、接続装置45が真空容器51の内部空間と、真空槽71の内部空間から遮断されている。即ち、真空容器51の内部空間と、真空槽71の内部空間は、第一、第二の接続部材61、81から遮断されているから、開口62、82が外部空間に露出しても、真空容器51の内部と真空槽71の内部には大気が浸入しない。
【0046】
図6は第一、第二の接続部材61、81が分離した状態を示しており、第一の接続部材61と、第一の開閉部材52と、真空容器51とからなる蒸着源50が、第二の接続部材81と、第二の開閉部材72と、真空槽71とからなる成膜室70から分離している。
有機材料32が収容された交換用の蒸着源を用意しておく。
【0047】
図7の符号50bは交換用の蒸着源を示しており、交換用の蒸着源50bは、蒸着容器65に有機材料32が所定量を超える量収容された以外は、成膜室70から分離された使用済みの蒸着源50と同じ構成を有しており、同じ部材には同じ符号を付す。
交換用の蒸着源50bの第一の弁体56は閉状態にされ、真空容器51の内部空間は外部空間から遮断されている。真空容器51の内部空間は真空雰囲気が形成されるか、N2ガス等の不活性ガスで置換され、不活性ガス雰囲気が形成されている。
【0048】
いずれの場合も、真空容器51内の酸素ガス濃度と水分濃度は、大気雰囲気と比較して非常に小さくなっており、しかも、真空容器51の内部空間は外部から遮断され、大気が浸入しないから、真空容器51内の有機材料32は劣化しない。
交換用の蒸着源50bの第一の弁体56と、成膜室70の第二の弁体76を閉状態にしたまま、第一の接続部材61を、第二の接続部材81に固定部材89で固定して接続装置45を形成し、交換用の蒸着源50bを成膜室70に取り付ける。
【0049】
図8は交換用の蒸着源50bを成膜室70に取り付けた状態を示している。接続装置45の内部には、第一の接続部材61を第二の接続部材81に固定する時に大気が入り込むが、第一、第二の弁体56、76は閉状態になっているので、大気は真空容器51の内部と真空槽71の内部に浸入しない。
ここでは、第二の接続部材81は真空排気系89に接続されている。上述したように、第二の接続部材81は第二の弁箱74に接続され、第二の弁体76は第二の弁箱74の内部にあるから、第二の接続部材81の開口82と、閉状態の第二の弁体76との間の空間が、真空排気系89に接続されている。
【0050】
第一、第二の弁体56、76を閉状態にしたまま、真空排気系89を動作させると、第一、第二の弁体56、76の間の空間から大気が除去される。
第一、第二の弁体56、76の間の空間に所定圧力の真空雰囲気が形成されたところで、第二の弁体76を閉状態にしたまま、第一の弁体56を開状態にし、真空排気を続ける。
真空容器51内部に上述した不活性ガス雰囲気が形成されている場合は、不活性ガスが真空容器51の内部から排気される。
【0051】
真空槽71の内部には所定圧力の真空雰囲気が形成されている。真空容器51内部の圧力と、真空容器51と第二の弁体76の間の空間の圧力が、真空槽71の内部圧力と略等しくなったところで、第一の弁体56を開状態にしたまま、第二の弁体76を閉状態から開状態にし、真空槽71の内部空間を、真空容器51の内部空間に接続する。
【0052】
上述した端子67を電源69に接続し、ヒーター66を電源69に接続しておく。第一、第二の弁体56、76を開状態にしたまま、真空槽71内部の真空排気を続け、ヒーター66に通電して有機材料32を加熱すれば、基板7への有機薄膜の成膜を再開できる。
有機薄膜の成膜中、第二の接続部材81に接続された真空排気系89の真空排気を続けてもよいし、停止してもよい。
尚、成膜室70から分離された使用済みの蒸着源50は、例えば、図9に示すようなグローブボックス90の内部に搬入して、有機材料32を補充することができる。
【0053】
このグローブボックス90は、ボックス91と、ボックス91に気密に挿入されたグローブ96とを有している。ボックス91には、真空排気系99が接続されており、使用済みの蒸着源50を、第一の弁体56を閉状態にしたまま、ボックス91内部に搬入し、ボックス91の内部空間を外部空間から遮断し、真空排気系99を動作させて、ボックス91内部を真空排気する。
【0054】
ボックス91内部の圧力が、使用済みの蒸着源50の真空容器51内部の圧力と略等しくなったところで、真空排気を続けながら、第一の弁体56を開け、真空容器51の内部空間を、ボックス91の内部空間に接続する。
【0055】
真空排気を続け、ボックス91の内部と、真空容器51の内部の真空雰囲気を維持するか、排気速度を落とし、不図示のガス供給系から、ボックス91内部に不活性ガス(例えばN2)を供給して、ボックス91内部と真空容器51内部に不活性ガス雰囲気を形成する。
【0056】
ボックス91内部と真空容器51内部の、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気を維持しながら、ボックス91内に予め配置された有機材料32を、直接又は容器に入れた状態でグローブ96で把持し、蒸着容器65の内部に補充する。
または、有機材料32が収容された新たな蒸着容器をグローブ96で把持し、使用済みの蒸着源50の蒸着容器65と交換し、蒸着源50に有機材料32を補充する。
いずれの場合も、有機材料32の補充は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気で行われ、該雰囲気の酸素濃度と水分濃度は大気に比べて非常に低いから、有機材料32が劣化しない。
【0057】
有機材料32の補充が終了したら、第一の弁体56を閉状態にしてから、蒸着源50をボックス91から搬出し、交換用の蒸着源として使用する。
【0058】
第二の例の真空蒸着装置5においても、成膜している間と、蒸着容器(蒸着源50)を交換している間と、蒸着源50に有機材料32を補充している間に、有機材料32が大気と接触せず、有機材料32が劣化しない。
【0059】
以上は、加熱手段(ヒーター)が真空容器51の内部に配置された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、加熱手段がレーザー照射装置95の場合は真空容器51の外部に配置してもよい(図10)。 この場合、真空容器51の壁の少なくとも一部に赤外線を透過する窓部材98を設け、レーザー照射装置95からのレーザー光が、窓部材96を通過して、有機材料32に照射されるようにする。
【0060】
尚、第一、第二例の真空蒸着装置1、5で、真空槽11、ボックス21、及び真空容器51に不活性ガスを供給する場合、不活性ガスは、有機材料32を科学的に劣化させないものであれば特に限定されず、N2ガスと、Arガスと、Krガスとからなる群より選択されるいずれか1種類以上を用いることができる。この中でもN2ガス(乾燥N2ガス)が取り扱いの容易さや価格の面で最も好ましい。
【0061】
本発明の真空蒸着装置1、5に用いられる有機材料としては、有機EL素子の有機薄膜用材料があり、例えば、電荷移動材料、電荷発生材料、着色剤、電子移動材料等である。
【0062】
また、蒸着材料は有機材料に限定されず、蒸着材料として無機材料等を用いることもできる。本発明の真空蒸着装置1、5は、有機薄膜の成膜だけでなく、真空蒸着成膜に広く用いることができる。
【0063】
第一、第二例の真空蒸着装置1、5で蒸着容器を交換するタイミングは特に限定されないが、一般に、蒸着材料(有機材料)の量が少なくなりすぎると、蒸気の放出速度が不安定になり、膜厚均一性が劣るので、蒸着容器内の有機材料が所定量未満になる前に交換する。具体的には、予め決めた枚数の基板の成膜が終了した時、又は、蒸着容器に残留する有機材料の量を測定し、その残量が所定量に達したら、蒸着容器を交換する。
また、一つの成膜室70に2つ以上の蒸着源50を接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a):第一例の真空蒸着装置の成膜途中の状態を示す断面図、(b):交換用の蒸着容器を搬入する工程を説明する断面図
【図2】(c)、(d):交換用の蒸着容器をボックスから真空槽に搬入する工程を説明する断面図
【図3】(e):使用済みの蒸着容器を取り出す工程を説明する断面図
【図4】第一例の真空蒸着装置の他の例を説明する断面図
【図5】第二例の真空蒸着装置の成膜途中の状態を説明する断面図
【図6】蒸着源を成膜室から分離させた状態を説明する断面図
【図7】交換用の蒸着源を説明する断面図
【図8】交換用の蒸着源を成膜室に取り付けた状態を説明する断面図
【図9】蒸着源に有機材料を補充する状態を説明する断面図
【図10】第一例の真空蒸着装置の他の例を説明する断面図
【符号の説明】
【0065】
1、5……真空蒸着装置 11……真空槽 17……開閉部材 21……ボックス 18、28……ガス供給系 19、29……真空排気系 14……通路 31a〜31c……蒸着容器 36……グローブ 38……開口 50……蒸着源 51……真空容器 52……第一の開閉部材 61……第一の接続部材 62……第一の接続部材の開口 70……成膜室 71……真空槽 72……第二の開閉部材 81……第二の接続部材 82……第二の接続部材の開口 89……真空排気系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、ボックスと、前記真空槽と前記ボックスとを接続する通路とを有し、
前記通路には、開状態では前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを接続し、閉状態では前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを遮断する開閉部材が設けられ、
前記開閉部材が開状態では、前記真空槽と前記ボックスとの間で、前記通路を通って蒸着容器が搬出入可能に構成され、
前記ボックスの少なくとも一部は移動可能であり、前記ボックスの前記少なくとも一部が移動したときに、前記ボックスの内部空間を外部雰囲気に接続する開口が形成されるように構成され、
前記開口を通って、前記ボックスの内部空間と、前記ボックスの外部空間との間で前記蒸着容器が搬出入可能にされ、
前記ボックスには、前記ボックスの内部空間に配置された前記蒸着容器を把持するグローブが気密に挿入された真空蒸着装置。
【請求項2】
前記真空槽と、前記ボックスには、真空排気系と、ガス供給系とがそれぞれ接続された請求項1記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記真空槽の内部空間と、前記ボックスの内部空間は、前記ガス供給系の大気よりも高い圧力の陽圧雰囲気に接続されるように構成された請求項2記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
真空容器と、第一の開閉部材と、第一の接続部材とを有し、
前記第一の接続部材は前記第一の開閉部材を介して前記真空容器の開口に接続され、
前記第一の開閉部材が開状態のときに、前記真空容器の内部は前記第一の接続部材の開口に接続され、前記第一の開閉部材が閉状態のとき、前記真空容器の内部は前記第一の接続部材の前記開口から遮断され、
前記真空容器の内部には、有機材料が収容された蒸着容器が配置された蒸着源。
【請求項5】
前記蒸着容器の周囲に配置されたヒーターを有する請求項4記載の蒸着源。
【請求項6】
前記真空容器には、赤外線を透過する透明な窓が形成された請求項4記載の蒸着源。
【請求項7】
真空槽と、第二の開閉部材と、第二の接続部材とを有し、
前記第二の接続部材は前記第二の開閉部材を介して前記真空槽の開口に接続され、
前記第二の開閉部材は、前記真空槽の前記開口を閉塞する弁体を有し、
前記弁体を開けた開状態のときに、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の開口に接続され、前記弁体を閉じた閉状態のとき、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の前記開口から遮断され、
前記閉状態の前記弁体と、前記第二の接続部材の開口との間の空間には、真空排気系が接続された成膜室。
【請求項8】
請求項4乃至請求項6のいずれか1項記載の蒸着源と、成膜室とを有し、
前記成膜室は、真空槽と、第二の開閉部材と、第二の接続部材とを有し、
前記第二の接続部材は前記第二の開閉部材を介して前記真空槽の開口に接続され、
前記第二の開閉部材が開状態のときに、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の開口に接続され、前記第二の開閉部材が閉状態のとき、前記真空槽の内部は前記第二の接続部材の前記開口から遮断され、
前記第一、第二の接続部材の前記開口周囲は気密に密着する真空蒸着装置。
【請求項9】
前記第二の開閉部材は、前記真空槽の開口を閉塞する弁体を有し、
閉状態の前記弁体と、前記第二の接続部材の前記開口との間の空間には、真空排気系が接続された請求項8記載の真空蒸着装置。
【請求項10】
真空槽の内部空間に真空雰囲気を形成し、前記真空槽の内部で、第一の蒸着容器に収容された蒸着材料を加熱して、蒸気を前記真空槽の内部空間に放出させて、基板表面に薄膜を形成した後、
前記第一の蒸着容器を、蒸着材料が充填された第二の蒸着容器と交換する方法であって、
予め、前記真空槽に、通路を介してボックスを接続しておき、
前記薄膜を形成する際は、前記通路を開閉部材で閉状態にして前記真空槽の内部空間を前記ボックスの内部から遮断し、
前記ボックスの内部には、真空排気と、不活性ガスの供給を行って、大気圧よりも高い陽圧雰囲気を形成し、前記真空槽の内部には、不活性ガスの供給を行って大気圧よりも高い陽圧雰囲気を形成してから、
前記開閉部材を開状態にして、前記真空槽の内部空間と前記ボックスの内部空間とを接続し、前記第一の蒸着容器を前記第二の蒸着容器と交換した後、
前記開閉部材を前記閉状態にし、前記真空槽の内部空間に真空雰囲気を形成する蒸着容器交換方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−111916(P2010−111916A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285273(P2008−285273)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】