説明

真空蒸着装置および真空蒸着方法ならびに蒸着物品

【課題】ホスト材料に対するゲスト材料の割合が非常に小さい場合、ワークの表面に蒸着するゲスト材料の割合やゲスト材料の分布状態を精度良く保つことが困難である。
【解決手段】真空チャンバ11と、この真空チャンバ11内に配される第1および第2の蒸着源16,17と、これら第1および第2の蒸着源16,17から供給されるゲスト材料14およびホスト材料15が表面に蒸着される基板13を真空チャンバ11内にて固定状態で保持するワーク保持手段33とを具えた本発明による真空蒸着装置10は、第1の蒸着源16とワーク保持手段33に保持される基板13との間に位置して基板13の表面に対するゲスト材料14の蒸着量をホスト材料15の蒸着量よりも低減させるための遮蔽部材18と、この遮蔽部材18を第1の軸線O2回りに回転させると共に第2の軸線O1に関して運動させる遮蔽部材駆動機構19と、この遮蔽部材駆動機構19を介して遮蔽部材18を駆動する単一の駆動モータ25とをさらに具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面に第1および第2の蒸着材料を蒸着するための真空蒸着装置および真空蒸着方法ならびにこれによって得られる蒸着物品に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着装置は、真空チャンバ内に蒸着材料を収容した蒸着源とワークとを対向状態で配置し、真空チャンバ内を減圧した状態で蒸着源を加熱し、蒸着材料を溶融させて蒸発または昇華により気化した蒸着材料をワークの表面に堆積させるものである。このようにしてワークの表面に成膜された蒸着層は、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子などの機能層などを作成する際にも利用されている。特に、第1の主たる蒸着材料であるホスト材料に対して第2の微量な蒸着材料であるゲスト材料をドープする場合、ホスト材料とゲスト材料とを同一真空チャンバ内で同時に蒸着させる共蒸着法が一般的であり、特許文献1にその具体的な方法が開示されている。
【0003】
特許文献1において、蒸着層におけるゲスト材料の割合をホスト材料の例えば1/100程度に設定する場合、ワークの表面に対するホスト材料の蒸着速度に対してゲスト材料の蒸着速度を1/100に設定することで、目的とする割合の蒸着層を形成することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−193217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークに形成される蒸着層において、ホスト材料に対するゲスト材料の割合が小さい、例えば1/100程度の場合、ゲスト材料用の膜厚モニタをホスト材料用の膜厚モニタよりもその蒸着源に近接させて配置することにより、ゲスト材料の見かけ上の蒸着速度を高め、ゲスト材料の蒸着速度をモニタリングしやすくすることができる。しかしながら、ホスト材料に対するゲスト材料の割合が非常に小さい、例えば1/1000以下となるような場合、ゲスト材料用の膜厚モニタをその蒸着源に近接させて配置したとしても、その検出限界(毎秒0.001Å)近傍での共蒸着処理となるため、ホスト材料に対するゲスト材料の割合やゲスト材料の分布状態を精度良く保つことが困難となる。
【0006】
なお、特許文献1では穴状またはメッシュ状の開口部を備えた遮蔽板以外に、ワークとなる被蒸着基板も回転することで、基板の表面に成膜されるゲスト材料の分布むらを改善している。しかしながら、真空蒸着装置の真空チャンバ内にそれぞれ2つの駆動源を組み込む必要があり、真空チャンバ内の機構が複雑となってしまう。特に、表面に蒸着層が形成されるワークを駆動することは、これに伴って駆動機構から発生する不純物がワークの表面に付着する可能性があるため、決して好ましいこととは言えない。
【0007】
特許文献1に開示された技術とは別な方法として、ホスト材料が収容された蒸着源の加熱温度を高めてホスト材料の蒸着速度を意図的に上げ、ゲスト材料が収容された蒸着源の加熱温度を可能な限り低下させてゲスト材料の蒸着速度を制御可能な最低速度に保つことも考えられている。しかしながら、この方法ではホスト材料の加熱温度を必要以上に上げなければならず、ホスト材料に分解などの変質が生じてしまう可能性がある。
【0008】
(発明の目的)

本発明の主たる目的は、基板などのワークの表面に2種類の蒸着材料を同時に蒸着させる際に、ゲスト材料となる一方の蒸着材料の割合がホスト材料となる他方の蒸着材料に対して非常に少ない場合、例えば1/1000以下であっても、ゲスト材料をワークの表面に対してより均一な分布にて高精度に製膜することができる真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ゲスト材料の割合がホスト材料に対して非常に少ない、例えば1/1000以下程度であっても、ゲスト材料がより均一な分布にて高精度に製膜された蒸着物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態は、真空チャンバと、この真空チャンバ内に配される第1および第2の蒸着源と、これら第1および第2の蒸着源から供給される第1および第2の蒸着材料が表面に蒸着されるワークを前記真空チャンバ内にて固定状態で保持するワーク保持手段とを具えた真空蒸着装置であって、前記第1の蒸着源と前記ワーク保持手段に保持されるワークとの間に位置してワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料の蒸着量よりも低減させるための遮蔽部材と、この遮蔽部材を第1の軸線回りに回転させると共に第2の軸線に関して運動させる遮蔽部材駆動機構と、この遮蔽部材駆動機構を介して前記遮蔽部材を駆動する単一の駆動源とをさらに具えたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、第1の蒸着源とワーク保持手段に保持されるワークとの間に遮蔽部材が介在する結果、ワークの表面に付着する第1の蒸着材料の量が第2の蒸着材料に対して大幅に抑制されることとなる。また、遮蔽部材が第1の軸線回りに回転すると共に第2の軸線に関して移動する結果、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の付着分布がより均一化される。
【0012】
本発明の第1の形態による真空蒸着装置において、遮蔽部材が第1の蒸着材料を通過させるための複数の開口部を有するものであってよい。この場合、遮蔽部材の表面の面積に対する開口部の面積の合計が1%未満の場合、基板への付着膜の膜厚むらが生じやすくなる。また、遮蔽部材の表面の面積に対する開口部の面積の合計が50%を越えると、蒸着材料の遮蔽効果が薄れてしまう。従って、遮蔽部材の表面の面積に対する開口部の面積の合計は、1%から50%の範囲にあることが好ましい。
【0013】
また、遮蔽部材が円板であって、第1の軸線がこの遮蔽部材の表面に対して垂直にその中心を通り、第2の軸線が第1の軸線と平行であって、第2の軸線に関する遮蔽部材の運動が第2の軸線回りの遮蔽部材の回転であってよい。この場合、開口部以外の部分から蒸着材料が通過するようなことがない限り、特に遮蔽部材の厚みに制限はない。
【0014】
本発明の第2の形態は、真空チャンバ内に配された第1および第2の蒸着源から供給される第1および第2の蒸着材料を真空チャンバ内に固定されたワークの表面に蒸着させる真空蒸着方法であって、第1の蒸着源から供給される第1の蒸着材料の一部を遮る遮蔽部材を第1の蒸着源とワークとの間に配するステップと、この遮蔽部材を相互に異なる2つ以上の軸線に関してそれぞれ移動させるステップとを具えたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第2の形態による真空蒸着方法において、遮蔽部材の移動がこの遮蔽部材の表面を含む平面内にて行われることが好ましい。この場合、遮蔽部材の移動が第1の軸線回りに自転するステップと、この第1の軸線と平行な第2の軸線回りに公転するステップとを含むものであってよい。ここで、遮蔽部材の第1および第2の軸線回りの回転速度がそれぞれ1rpmに満たない場合、基板への付着膜の膜厚むらが生じやすくなる。また、遮蔽部材の第1および第2の軸線回りの回転速度がそれぞれ100rpmを越えると、蒸着物の蒸気流が乱されてしまい、基板へ蒸着物が到達しなくなってしまう。従って、遮蔽部材の第1および第2の軸線回りの回転速度は、それぞれ1rpmから100rpmの範囲にあることが好ましい。
【0016】
また、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着速度が毎秒0.0001Å未満の場合、ドープ量が不足し第1の蒸着材料の発光効率が低く、所望の発光が得られない。逆に、ワーク表面に対する第1の蒸着材料の蒸着速度が毎秒0.1Åを超えると消光が起こり、結果発光効率が低くなってしまう。従って、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着速度は、毎秒0.0001Åから毎秒0.1Åの範囲にあることが好ましい。さらには、毎秒0.0005Åから毎秒0.01Åであることがより好ましい。
【0017】
本発明の第3の形態は、本発明の第1の形態による真空蒸着装置を用いるか、あるいは本発明の第2の形態による真空蒸着方法によって得られる蒸着物品であって、第2の蒸着材料の蒸着量に対して第1の蒸着材料の蒸着量が1/1000以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の真空蒸着装置によると、第1の蒸着源とワーク保持手段に保持されるワークとの間に位置してワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料の蒸着量よりも低減させるための遮蔽部材と、この遮蔽部材を第1の軸線回りに回転させると共に第2の軸線に関して運動させる遮蔽部材駆動機構と、この遮蔽部材駆動機構を介して前記遮蔽部材を駆動する単一の駆動源とを具えているので、第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料の蒸着量に対して極端に小さく設定しても、ワークの表面に対して第1の蒸着材料を均一に分布させることができる。しかも、特許文献1に開示された真空蒸着装置よりも駆動機構および駆動源が簡便となるため、蒸着中に発生する不純物を抑制して高品質の蒸着膜をワークの表面に形成することができる。
【0019】
前記遮蔽部材が第1の蒸着材料を通過させるための複数の開口部を有する場合、この開口部を介して第1の蒸着材料をワーク側に供給させることができる。特に、遮蔽部材の表面の面積に対する開口部の面積の合計が1%から50%の範囲にある場合、ワークの表面に付着する第1の蒸着材料の割合を第2の蒸着材料に対して調整することができ、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料よりも極端に少なくすることが可能となる。
【0020】
遮蔽部材が円板であって、第1の軸線がこの遮蔽部材の表面に対して垂直にその中心を通り、第2の軸線が第1の軸線と平行であって、第2の軸線に関する遮蔽部材の運動が第2の軸線回りの遮蔽部材の回転である場合、遮蔽部材駆動機構をより簡単な構造にすることができる。
【0021】
本発明の真空蒸着方法によると、第1の蒸着源から供給される第1の蒸着材料の一部を遮る遮蔽部材を第1の蒸着源とワークとの間に配し、この遮蔽部材を相互に異なる2つ以上の軸線に関してそれぞれ移動させるようにしたので、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料よりも極端に小さくすることができ、しかもワークの表面に対して第1の蒸着材料を均一に分布させることが可能となる。
【0022】
遮蔽部材の移動をこの遮蔽部材の表面を含む平面内にて行う場合、真空チャンバ内における第1の蒸着材料の蒸気の流れに乱れが発生しにくくなり、ワークの表面に対して第1の蒸着材料をより均一に分布させることができる。特に、遮蔽部材の移動を第1の軸線回りに自転させ、この第1の軸線と平行な第2の軸線回りに公転させる場合、遮蔽部材を駆動させるための機構を簡単な構造にすることができる。また、遮蔽部材の第1の軸線回りの回転速度や遮蔽部材の第2の軸線回りの回転速度を1rpmから100rpmの範囲に設定した場合、真空チャンバ内における第1の蒸着材料の蒸気の流れに乱れが発生しにくくなり、ワークの表面に対して第1の蒸着材料をより均一に分布させることができる。
【0023】
ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着速度を毎秒0.001Åから毎秒0.005Åの範囲に設定した場合、ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料よりも極端に少なくすることができる。
【0024】
本発明の蒸着物品によると、第2の蒸着材料の蒸着量に対して第1の蒸着材料の蒸着量が1/2000以上となるような場合であっても、第1の蒸着材料が均一に分布した高品質の蒸着物品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を有機EL(ELECTROLUMINESCENCE)材料の基板への成膜に応用した一実施形態について、図1〜図3を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本実施形態における真空蒸着装置の概念を図1に示し、その遮蔽部材駆動機構の平面形状を模式的に図2に示し、そのIII−III矢視断面構造を図3に示す。本実施形態における真空蒸着装置10は、内部に真空チャンバ11を画成する容器12と、真空チャンバ11内に連通するようにこの容器12に連結されて真空チャンバ11内を所定の真空度に保持するための図示しない真空ポンプとを具えている。容器12には、ワークとなる基板13を出し入れしたり、次に述べる第1および第2の蒸着材料、つまりゲスト材料14およびホスト材料15を第1および第2の蒸着源16,17にそれぞれ供給するための開閉可能な図示しない扉が形成されており、この扉を介して真空チャンバ11内にアクセスすることができるようになっている。
【0027】
容器12内、つまり真空チャンバ11の下部には、カップ状をなす第1および第2の蒸着源16,17が相互に所定距離だけ離れて配されており、これら第1および第2の蒸着源16,17には、基板13の表面に蒸着されるゲスト材料15およびホスト材料15がそれぞれ収容される。これら第1および第2の蒸着源16,17には図示しない加熱手段がそれぞれ組み込まれ、これら加熱手段によりゲスト材料14およびホスト材料15がこれらの蒸気を発生するような温度にまでそれぞれ独立に加熱されるようになっている。
【0028】
上述したゲスト材料14およびホスト材料15として、本実施形態では有機EL材料や有機太陽電池用材料などの有機材料、ならびにリチウム、セシウム、フッ化リチウムおよびこれらの1つ以上を含む合金などの金属を採用することができる。また、上述した有機EL材料としては、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン(TPD)、4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、キナクリドン、ルブレン、オキサジアゾール、バソクプロイン、バソフェナントロリンなどを挙げることができる。有機太陽電池用材料としては、ペリレン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体などを例示することができる。なお、本実施形態において用いられる基板13としてのワークは、ガラス、樹脂、金属など任意のものを用いることができ、特に制限すべきものはない。
【0029】
第2の蒸着源16,17の直上には、基板13の表面に対するゲスト材料14の蒸着量をホスト材料15の蒸着量よりも低減させるための遮蔽部材18がその駆動機構19と共に配されている。
【0030】
本実施形態における遮蔽部材18は円板状をなし、ゲスト材料14を通過させるための複数の開口部20が所定間隔で格子状に配列している。遮蔽部材18の板厚や開口部20の径およびこれらの間隔などは、基板13の表面に蒸着されるホスト材料15の蒸着量に対するゲスト材料14の蒸着割合に応じて変更することが必要であり、開口部20をランダムに配列させることも有効である。また、開口部20の形状は円形に限定されるものではなく、ゲスト材料14が通過し得る任意の形状の貫通領域でありさえすればよい。遮蔽部材18の表面の面積に対する開口部20の面積の合計、つまり開口率は、1%から50%の範囲に設定される。
【0031】
本実施形態における遮蔽部材駆動機構19は、円形の穴21が形成されたベース板22と、この円形の穴21に隣接してベース板22に回転自在に取り付けられた駆動歯車23と、この駆動歯車23と噛み合った状態でベース板22に対して回転自在に収容される従動歯車24とを具えている。駆動歯車23には駆動モータ25が連結されており、この駆動歯車23を所望の回転速度にて駆動することができるようになっている。従動歯車24には、遮蔽部材18が回転自在に嵌合する偏心穴26が形成されており、従動歯車24の回転中心O1(本発明における第1の軸線に相当する)に対し、偏心穴26の中心O2(本発明における第2の軸線に相当する)がオフセットされた状態となっている。この場合、偏心穴26の中心O2のオフセット量、つまり偏心量は、開口部20の配列間隔に対して無理数となるような関係に設定することが好ましい。ベース板22の穴21の下端部には径方向内側に突出するフランジ部27が形成され、このフランジ部27と従動歯車24との間の穴21の内周面には従動歯車24と同じ歯形を持つ内歯歯車部28が形成されている。先の遮蔽部材18には、従動歯車24の偏心穴26に対して回転自在に嵌合される筒部29が形成され、この筒部29の先端面には複数本のビス30を介して環状の抜け止め板31が装着され、従動歯車24の偏心穴26に対して遮蔽部材18が抜け外れないようになっている。また、遮蔽部材18の外周面にはベース板22に形成された内歯歯車部28の一部と噛み合う外歯歯車部32が形成されており、これにより遮蔽部材18は従動歯車24の回転に伴い、フランジ部27の上を摺動しながら内歯歯車部28に対して転動するような複合運動を行う。つまり、遮蔽部材18は、駆動歯車23の駆動回転により、その中心軸線O2を中心とする自転運動と、遮蔽部材18の中心軸線O2と平行な従動歯車24の中心軸線O1を中心とする公転運動とをフランジ部27の表面に沿って行う。この場合、従動歯車24の回転速度(遮蔽部材18の公転速度)に対する遮蔽部材18の回転速度の比が余り大きく異ならないように、従動歯車24の有効径に対する遮蔽部材18の外歯歯車部32の有効径を設定し、2つの軸線O1,O2回りの遮蔽部材18の回転速度がそれぞれ1rpmから100rpmの範囲に収まるように設定することが好ましい。
【0032】
本実施形態では、本発明における第2の軸線O1を円板状をなす遮蔽部材18の回転中心軸線O2と平行に設定し、この第2の軸線O1回りに遮蔽部材18を公転させるようにしたが、第2の軸線を第1の軸線O2と直行方向に設定し、この第2の軸線に沿って遮蔽部材18を往復移動させるようにすることも当然可能である。この場合、遮蔽部材18は第1の軸線回りの回転運動と、第2の軸線と平行な方向に沿った往復直線運動との複合運動を行うこととなる。
【0033】
なお、2つの駆動モータを用いて自転運動と公転運動とをそれぞれ独立に制御するようにしても良い。
【0034】
真空チャンバ11の上部には、第1および第2の蒸着源16,17から供給されるゲスト材料14およびホスト材料15が表面に蒸着される基板13を固定状態で保持するワーク保持手段33が設置されている。このワーク保持手段33は、蒸着作業中に基板13に対して何らかの悪影響を与えることなく、基板13を安定して保持することができるような構成を有するものであれば、どのようなものであってもよい。本実施形態では、特許文献1のように蒸着作業中に基板13を駆動する必要がないので、ワーク保持手段33をシンプルな構造のものにすることができ、基板13を駆動することによってその駆動機構などから発生する不純物による悪影響を最小限に抑えることができる。この場合、第1の蒸着源16から供給されるゲスト材料14は、遮蔽部材18を介して基板13の表面に達し、第2の蒸着源17から供給されるホスト材料15がそのまま基板13の表面に達するため、基板13の表面にはホスト材料15がゲスト材料14よりも多量に付着堆積することとなる。この場合、ゲスト材料14およびホスト材料15がそれぞれ基板13の表面に均一に分布するように、第1および第2の蒸着源16,17と、遮蔽部材18と、ワーク保持手段33との位置を適切に設定することが望ましい。
【0035】
なお、上述した第1の蒸着源16,17と遮蔽部材駆動機構19との間の遮蔽部材駆動機構19の直近には、第1の蒸着源16から供給されるゲスト材料14の割合、つまり遮蔽部材18の開口部20を介して基板13に成膜されるゲスト材料14の膜厚を推定するためのゲスト材料用膜厚センサ34が配されている。また、上述した第2の蒸着源17とワーク保持手段33との間のワーク保持手段33の直近には、第2の蒸着源17から供給されるホスト材料15の分量、すなわち基板13に成膜されるホスト材料15の膜厚を推定するためのホスト材料用膜厚センサ35が配されている。水晶振動子などを用いたこれら膜厚センサ34,35からの検出信号は、図示しない演算処理装置に出力され、第1および第2の蒸着源16,17に対する加熱手段の作動や、駆動歯車23の回転速度などにフィードバックされ、所望の蒸着速度にて成膜がなされるように制御される。
【0036】
次に、本発明の効果を確認するため、上述した真空蒸着装置10を用い、以下の実施例1,2に記す構成にて基板13の表面に有機EL材料の成膜を行い、しかる後、ホスト材料15に対するゲスト材料14のドープ量D(%)と、このゲスト材料14の膜厚分布のばらつきΔ(%)とを算出した。比較のため、比較例1として上述した遮蔽部材18を公転させずに同じ有機EL材料の成膜を行い、同じようにホスト材料15に対するゲスト材料14のドープ量D(%)と、このゲスト材料14の膜厚分布のばらつきΔ(%)とを算出した。また、比較例2として遮蔽部材18を用いずに同じ有機EL材料の成膜を行い、そのドープ量D(%)とばらつきΔ(%)とを算出した。
【0037】
なお、ホスト材料15に対するゲスト材料14のドープ量Dは、ゲスト材料用膜厚センサ34から推定されるゲスト材料14の膜厚をtg、ホスト材料用膜厚センサ35から推定されるホスト材料15の膜厚をthとすると、D=(tg/th)×100で表される。また、本実施形態におけるゲスト材料14の膜厚分布のばらつきΔは、基板13の表面の任意の16箇所の部分をそれぞれサンプリングし、液体クロマトグラフィーによって基板13の表面の任意の16箇所から最大ドープ量Dmaxの箇所と最小ドープ量Dminの箇所とを抽出することにより、Δ={(Dmax−Dmin)/Dmax}×(1/2)で表される。
【実施例1】
【0038】
遮蔽部材18として開口率、すなわち遮蔽部材18の表面の面積に対する開口部20の面積の合計の割合が10%のステンレス鋼板を用いた。また、ゲスト材料14としてルブレン(5,6,11,12-テトラフェニルナフタセン)を用い、ホスト材料15としてトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)を採用した。さらに、基板13として一辺が50mmの正方形状をなし、かつ厚みが0.7mmのガラス板を用いた。
【0039】
第1および第2の蒸着源16,17に対する加熱手段として抵抗加熱方式の加熱手段を用い、ゲスト材料14およびホスト材料15をそれぞれ温度300℃に加熱し、真空チャンバ11内の真空度を10-5Paに保持しつつ、ゲスト材料用膜厚センサ34に基づいて設定されるゲスト材料14の蒸着速度が0.1Å/sになるように設定すると共にホスト材料用膜厚センサ35に基づいて設定されるホスト材料15の蒸着速度が1Å/sとなるように設定した。遮蔽部材18の自転速度を10rpm、公転速度を7rpmに設定し、ホスト材料15に対してゲスト材料14が0.1%ドープされた蒸着層を得た。なお、この実施例1では遮蔽部材18の外歯歯車部32が一回転する度に駆動モータ25の動作を反転することで、公転運動の正逆回転動作を繰り返すようにした。
【実施例2】
【0040】
遮蔽部材18として開口率が5%のステンレス鋼板を用いた。また、ゲスト材料14としてルブレン(5,6,11,12-テトラフェニルナフタセン)を用い、ホスト材料15としてトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)を採用した。さらに、基板13として一辺が50mmの正方形状をなし、かつ厚みが0.7mmのガラス板を用いた。
【0041】
第1および第2の蒸着源16,17に対する加熱手段として抵抗加熱方式の加熱手段を用い、ゲスト材料14およびホスト材料15をそれぞれ温度300℃に加熱し、真空チャンバ11内の真空度を10-5Paに保持しつつ、ゲスト材料用膜厚センサ34に基づいて設定されるゲスト材料14の蒸着速度が0.1Å/sになるように設定すると共にホスト材料用膜厚センサ35に基づいて設定されるホスト材料15の蒸着速度が1Å/sとなるように、遮蔽部材18の自転速度を20rpm、公転速度を10rpmに設定してホスト材料15に対してゲスト材料14が0.05%ドープされた蒸着層を得た。自転速度と公転速度との速度比は遮蔽部材18と従動歯車24とのピッチ円径の比率の変更により設定し、公転の動作は実施例1と同様である。
【0042】
(比較例1)
遮蔽部材18として開口率、すなわち遮蔽部材18の表面の面積に対する開口部20の面積の合計の割合が10%のステンレス鋼板を用いた。また、ゲスト材料14としてルブレン(5,6,11,12-テトラフェニルナフタセン)を用い、ホスト材料15としてトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)を採用した。さらに、基板13として一辺が50mmの正方形状をなし、かつ厚みが0.7mmのガラス板を用いた。
【0043】
第1および第2の蒸着源16,17に対する加熱手段として抵抗加熱方式の加熱手段を用い、ゲスト材料14およびホスト材料15をそれぞれ温度300℃に加熱し、真空チャンバ11内の真空度を10-5Paに保持しつつ、ゲスト材料用膜厚センサ34に基づいて設定されるゲスト材料14の蒸着速度が0.1Å/sになるように設定すると共にホスト材料用膜厚センサ35に基づいて設定されるホスト材料15の蒸着速度が1Å/sとなるように設定した。遮蔽部材18の外歯歯車部32と駆動歯車23との噛み合い位置にて駆動モータ25を動作することで、遮蔽部材18が自転運動だけを行う配置とした。遮蔽部材18の自転速度を10rpmに設定し、ホスト材料15に対してゲスト材料14が0.1%ドープされた蒸着層を得た。
【0044】
(比較例2)
遮蔽部材18を用いず、ゲスト材料用膜厚センサ34に基づいて設定されるゲスト材料14の蒸着速度が0.01Å/sとなるように設定した以外、上述した実施例1と同じ条件にてガラス板の表面に蒸着膜を形成した。
【0045】
これらの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、本発明により製膜を行った場合、従来の技術を用いた場合と比較すると、ゲスト材料14のドープ量のばらつきが少なく、安定した膜厚の蒸着層を形成できることを確認できた。また、遮蔽部材18に複合的な運動を与えることにより、ゲスト材料14の膜厚のばらつきも小さくすることが可能であることも確認できた。
【0048】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による真空蒸着装置の一実施形態を模式的に表す概念図である。
【図2】図1に示した真空蒸着装置における遮蔽部材駆動機構の部分の平面図である。
【図3】図2中のIII−III矢視断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 真空蒸着装置
11 真空チャンバ
12 容器
13 基板
14 ゲスト材料
15 ホスト材料
16 第1の蒸着源
17 第2の蒸着源
18 遮蔽部材
19 遮蔽部材駆動機構
20 開口部
21 穴
22 ベース板
23 駆動歯車
24 従動歯車
25 駆動モータ
26 偏心穴
27 フランジ部
28 内歯歯車部
29 筒部
30 ビス
31 抜け止め板
32 外歯歯車部
33 ワーク保持手段
34 ゲスト材料用膜厚センサ
35 ホスト材料用膜厚センサ
1 従動歯車の回転中心
2 偏心穴の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、この真空チャンバ内に配される第1および第2の蒸着源と、これら第1および第2の蒸着源から供給される第1および第2の蒸着材料が表面に蒸着されるワークを前記真空チャンバ内にて固定状態で保持するワーク保持手段とを具えた真空蒸着装置であって、
前記第1の蒸着源と前記ワーク保持手段に保持されるワークとの間に位置してワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着量を第2の蒸着材料の蒸着量よりも低減させるための遮蔽部材と、
この遮蔽部材を第1の軸線回りに回転させると共に第2の軸線に関して運動させる遮蔽部材駆動機構と、
この遮蔽部材駆動機構を介して前記遮蔽部材を駆動する単一の駆動源と
をさらに具えたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記第1の蒸着材料を通過させるための複数の開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材の表面の面積に対する前記開口部の面積の合計が1%から50%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が円板であって、前記第1の軸線がこの遮蔽部材の表面に対して垂直にその中心を通り、前記第2の軸線が前記第1の軸線と平行であって、前記第2の軸線に関する前記遮蔽部材の運動は、前記第2の軸線回りの前記遮蔽部材の回転であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
真空チャンバ内に配された第1および第2の蒸着源から供給される第1および第2の蒸着材料を真空チャンバ内に固定されたワークの表面に蒸着させる真空蒸着方法であって、
第1の蒸着源から供給される第1の蒸着材料の一部を遮る遮蔽部材を第1の蒸着源とワークとの間に配するステップと、
この遮蔽部材を相互に異なる2つ以上の軸線に関してそれぞれ移動させるステップと
を具えたことを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項6】
前記遮蔽部材の移動がこの遮蔽部材の表面を含む平面内にて行われることを特徴とする請求項5に記載の真空蒸着方法。
【請求項7】
前記遮蔽部材の移動が第1の軸線回りに自転するステップと、この第1の軸線と平行な第2の軸線回りに公転するステップとを含むことを特徴とする請求項6に記載の真空蒸着方法。
【請求項8】
前記遮蔽部材の第1の軸線回りの回転速度が1rpmから100rpmの範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の真空蒸着方法。
【請求項9】
前記遮蔽部材の第2の軸線回りの回転速度が1rpmから100rpmの範囲にあることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の真空蒸着方法。
【請求項10】
ワークの表面に対する第1の蒸着材料の蒸着速度が毎秒0.0001Åから毎秒0.1Åの範囲にあることを特徴とする請求項5から請求項9の何れかに記載の真空蒸着方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4の何れかに記載の真空蒸着装置を用いるか、あるいは請求項5から請求項10の何れかに記載の真空蒸着方法によって得られる蒸着物品であって、第2の蒸着材料の蒸着量に対して第1の蒸着材料の蒸着量が1/1000以下
であることを特徴とする蒸着物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127074(P2009−127074A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302265(P2007−302265)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】