説明

真空蒸着装置および真空蒸着装置の運転方法

【課題】スプラッシュが発生しても、長尺帯状基材に付着するのを防止でき、かつ、長尺帯状基材に蒸着されていない部分の発生をできるだけ少なくすることができる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】長尺帯状基材を連続走行させる基材搬送装置3と、ルツボ4内の蒸発材料を加熱する加熱装置51,52と、蒸発材料をルツボ4に供給する蒸発材料供給装置7と、開閉シャッター6と、溶湯量検知装置81と、温度検知装置82と、制御手段9とを備える。開閉シャッター6は、長尺帯状基材とルツボ4との間に進退可能に配置され、進出位置においてルツボ4と長尺帯状基材との間を遮断して蒸発材料が長尺帯状基材に付着するのを阻止する。蒸発材料をルツボ4に供給する際には、長尺帯状基材の走行を停止し、かつ、長尺帯状基材とルツボ4との間を、開閉シャッター6で遮断する。成膜工程時は、蒸発材料のルツボ4への供給は行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内で、基材搬送装置により連続走行する長尺帯状基材に、ルツボ内で溶融された蒸発材料の蒸発分子を蒸着する真空蒸着装置に関する。特に、長尺帯状基材へのスプラッシュの付着を防止できる真空蒸着装置および真空蒸着装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺帯状基材を連続走行させながら、蒸着を行う場合、特許文献1および特許文献2に示すように、真空チャンバー内において電子銃から電子ビームを発生させ、ルツボ内に収容した蒸発材料に衝突させてこれを溶融させ、溶融した溶湯から蒸気を蒸発させて基材に蒸着させる方法が行われている。
【0003】
長尺帯状基材に、連続で長時間にわたり蒸着を行う真空蒸着装置では、蒸発材料を溶湯として収容するルツボへ、固形状の蒸発材料を継続して供給するようになっている。
【0004】
ところが、固形状の蒸発材料を供給管を介してルツボ内に供給する際に、固形状の蒸発材料がルツボ内の溶湯表面へ衝突してスプラッシュが生じる場合がある。このスプラッシュにより、飛散する溶湯が長尺帯状基材に付着し、製品不良が生じたり、長尺帯状基材に付着したスプラッシュが突起物となって蒸着装置の部品(ロールなど)が損傷したりする場合がある。さらに、スプラッシュにより長尺帯状基材に突起物が発生した場合には、長尺帯状基材を蒸着後に巻取りリールに巻き取った際に、突起物と重なる他の部分にも傷が生じてしまう。
【0005】
スプラッシュによる不具合の対応方法としては、前記した特許文献1に示すように、固形状蒸発材料を供給する供給装置の供給管に湾曲部を形成することにより、蒸発材料を湾曲部に衝突させて、ルツボ近傍で蒸発材料の落下スピードを減速させ、溶湯の飛散をできるだけ小さくする方法がある。
【0006】
また、特許文献2に示すように、ルツボと長尺帯状基材との間に、長尺帯状基材へのスプラッシュの付着を防止するためのシャッターと、ルツボで発生したスプラッシュを検知する検知器とを設け、スプラッシュを検知したときに、スプラッシュ防止用シャッターを閉じるようにした真空蒸着装置がある。
【0007】
【特許文献1】特開平5-339716号公報
【特許文献2】特開平9-143735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スプラッシュは、段階的に蒸発材料の温度を上昇させてルツボ内の蒸発材料の全てが溶融されて溶湯の状態となっているときは、溶湯表面に揺れが生じないので発生しない。しかしながら、長尺帯状基材に連続成膜を行う場合には、ルツボ内に固形状の蒸発材料を供給しながら行う必要があるので、材料供給時に固形状の蒸発材料が溶湯表面に衝突すると溶湯表面に揺れが発生してしまう。
【0009】
特許文献1に示す真空蒸着装置では、固形状蒸発材料のルツボへの供給速度は減速されるが、依然としてルツボ内の溶湯表面は、固形状蒸発材料が供給された時に揺れてしまうのでスプラッシュを完全に無くすことはできない。さらに、固形状蒸発材料をルツボに供給した際、固形状蒸発材料が溶湯よりも温度が低いので、この固形状蒸発材料が急激に加熱されることによってもスプラッシュが発生してしまう。
【0010】
また、特許文献2に示す真空蒸着装置では、スプラッシュの発生を検知器で検知し、スプラッシュが発生したときに、シャッターを閉じるようにシャッターの制御を行っている。しかしながら、特許文献2の真空蒸着装置では、スプラッシュを検知器で検知し、この検知結果をシャッターを駆動制御する制御装置に送り、制御装置からシャッターのアクチュエータに閉鎖の指令が出されるため、スプラッシュの発生からシャッターが閉じるまでに時間を要する。その結果、スプラッシュの発生からシャッターが閉じるまでに要する時間が、スプラッシュがシャッターを通過してしまうまでの時間よりも長くなると、スブラッシュが長尺帯状基材に付着してしまう。
【0011】
また、特許文献2の真空蒸着装置では、スプラッシュが発生して、シャッターが閉じている間においても、長尺帯状基材を走行させ続けるため、シャッターが閉じている間は、長尺帯状基材は蒸着されず、長尺帯状基材の途中に膜が形成されていない部分が生ずる。この膜が形成されていない部分は不良品となってしまうという問題もある。
【0012】
そこで、本発明は、スプラッシュが発生しても、長尺帯状基材に付着するのを防止できながら、長尺帯状基材に蒸着されていない部分の発生をできるだけ少なくすることができる真空蒸着装置およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の真空蒸着装置は、真空チャンバー内で、基材搬送装置により連続走行する長尺帯状基材に、加熱装置によりルツボ内で溶融された蒸発材料の蒸発分子を蒸着する真空蒸着装置において、蒸発材料供給装置と、開閉シャッターと、溶湯量検知装置と、温度検知装置と、制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
基材搬送装置は、長尺帯状基材が巻かれた繰り出しリールと、蒸着された長尺帯状基材を巻き取るリールとを有し、これらリールをモータを用いて回転させることにより、長尺帯状基材を連続走行させるようになっている。
【0015】
加熱装置としては、電子銃、ヒータ、誘導加熱装置などが挙げられる。好ましくは、電子銃によりルツボ内の蒸発材料に電子線を照射して蒸発材料を直接加熱するとともに、ルツボをヒータで加熱するようにすることが好ましい。電子銃とヒータを併用する場合には、ルツボ内に固形状の蒸発材料が供給された時、蒸発材料を速く溶融するために、電子銃で加熱しながらヒータによっても蒸発材料を加熱し、蒸発材料が蒸発可能温度となったときに、ヒータを停止して、電子銃のみで加熱することが好ましい。
【0016】
蒸発材料供給装置は、ルツボ内に蒸発材料を供給するために用いる。蒸発材料供給装置は、蒸発材料がワイヤーの場合には、ピンチローラーを有するワイヤーフィード型の装置を用いる。また、蒸発材料供給装置は、蒸発材料が粉末または顆粒の場合には、ホッパーを有する振動供給型の装置を用いる。
【0017】
開閉シャッターは、長尺帯状基材とルツボとの間に進退可能に配置され、進出位置においてルツボと長尺帯状基材との間を遮断して蒸発材料が長尺帯状基材に付着するのを阻止するために用いる。なお、開閉シャッターは、後退位置に位置するときは、ルツボから蒸発した蒸気が長尺帯状基材に至るようになっており、この開閉シャッターが後退位置に位置するときに、長尺帯状基材への蒸着が行われる。開閉シャッターは、アクチュエータにより進退動作するようになっている。さらに、開閉シャッターは、ルツボの近くに配置することが好ましく、開閉シャッターを構成する材質は、耐熱性を有するステンレス、炭素などが好ましい。
【0018】
溶湯量検知装置は、ルツボ内の溶湯量を検知するために用い、温度検知装置は、ルツボ内の溶湯の温度を検知するために用いる。
【0019】
溶湯量検知装置は、ルツボとルツボ内に収容される蒸発材料との重量を測定して、重量変化により溶湯量を検知するようにしてもよいし、レーザー変位計により溶湯液面の位置を測定することによっても溶湯量を検知するようにしてもよい。レーザー変位計を用いる場合には、蒸発分子がレーザー変位計に被着すると感度の低下を招くため、断続的にレーザー変位計で溶湯量を計測するとともに、計測を行っていないときには、レーザーの感知部分を遮蔽し、計測を行うときは、遮蔽を解除する遮蔽板を設けるようにすることが好ましい。
【0020】
制御手段は、前記した基材搬送装置、加熱装置、蒸発材料供給装置、開閉シャッター(シャッターの開閉動作を行うアクチュエータ)を駆動制御する。制御手段としては、コンピュータが挙げられる。制御手段は、ケーブルまたは無線を介して、溶湯量検知装置、温度検知装置、基材搬送装置、加熱装置、蒸発材料供給装置、開閉シャッターに接続される。
【0021】
さらに、制御手段は、長尺帯状基材への蒸着を行う成膜制御と、ルツボに蒸発材料を供給する材料供給制御と、成膜制御に移行する成膜移行制御とを行うように構成されている。
【0022】
成膜制御では、溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときに、長尺帯状基材への蒸着を行うように、蒸発材料供給装置を停止させ、開閉シャッターを後退位置に位置させ、基材搬送装置を駆動させる制御を行う。
【0023】
材料供給制御では、溶湯量が所定量未満となったときに、基材搬送装置を停止させるとともに、開閉シャッターを進出位置に位置させた後、蒸発材料供給装置を駆動して蒸発材料をルツボに所定量供給する制御を行う。
【0024】
成膜移行制御では、ルツボに蒸発材料を供給した後、ルツボ内の蒸発材料を加熱装置で蒸発可能温度まで加熱して成膜制御に移行する制御を行う。
【0025】
さらに、制御手段は、前記材料供給制御において、蒸発材料をルツボに供給する前に一旦ルツボ内の蒸発材料を所定温度まで低下させた後、蒸発材料をルツボに供給するように加熱装置と蒸発材料供給装置とを駆動制御することが好ましい。
【0026】
なお、蒸発材料としては、アルミニウム、シリコンなどの金属が挙げられる。また、蒸発材料の蒸気が蒸着される長尺帯状基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、銅などの金属フィルムが挙げられる。樹脂フィルムにアルミニウム蒸着を行うことにより、食品用袋などに用いることができ、また、銅フィルムにシリコンを蒸着することにより、リチウム電池の負極に用いることができる。
【0027】
前記した本発明の真空蒸着装置は、ルツボから発生したスプラッシュが長尺帯状基材に付着するのを防止しながら蒸着を行う運転をすることができる。本発明の真空蒸着装置の運転方法について説明する。
【0028】
まず、前記した溶湯量検知装置と温度検知装置の検出結果に基づいて、制御手段により、前記した成膜制御、材料供給制御、成膜移行制御の何れかを行う。
【0029】
溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときには、蒸発材料供給装置を停止させ、開閉シャッターを後退位置に位置させ、基材搬送装置を駆動させて、ルツボ内への蒸発材料の供給を停止した状態で、長尺帯状基材へ蒸着する成膜工程を行う(成膜制御)。
【0030】
成膜工程中は、スプラッシュの発生を阻止するため、蒸発材料の供給は行わないように蒸発材料供給装置を停止させる。さらに、開閉シャッターは、後退位置に位置されているので、ルツボから蒸発した蒸発分子は、長尺帯状基材に蒸着される。
【0031】
そして、この成膜工程中に、溶湯量が所定量未満になったときには、基材搬送装置を停止させるとともに、開閉シャッターを進出位置に位置させて、ルツボと長尺帯状基材との間を遮断した状態にした後、蒸発材料供給装置を駆動して蒸発材料をルツボに所定量供給する材料供給工程を行う(材料供給制御)。
【0032】
この材料供給工程時は、開閉シャッターにより、ルツボと長尺帯状基材との間が遮断された後に、蒸発材料の供給が行われるので、蒸発材料の供給によりルツボ内でスプラッシュが発生しても、このスプラッシュは、開閉シャッターに衝突して長尺帯状基材には至らない。
【0033】
さらに、材料供給工程では、蒸発材料をルツボ内に供給する前に、一旦ルツボ内の蒸発材料を所定温度まで低下させた後、蒸発材料をルツボに供給するように加熱装置と蒸発材料供給装置とを制御手段で駆動制御することが好ましい。
【0034】
即ち、蒸発材料をルツボに供給する前に、ルツボ内の溶湯(蒸発材料)の温度が所定の温度より低くなるまで、溶湯を冷却した後に、蒸発材料の供給を行い、その後、加熱装置で加熱するように制御する。このとき、加熱装置として電子銃とヒータを用いる場合には、電子銃の電子線照射量は、冷却時においては、少なめに照射し、蒸発材料供給後は、電子線照射量を多くするように制御することが好ましい。
【0035】
このように、蒸発材料を供給する前に溶湯の温度を低下させておく制御を行うことにより、ルツボ内に残っている溶湯の温度を低下させた状態で蒸発材料を供給することができるので、供給された蒸発材料が急激に加熱されることがなく、スプラッシュの発生を抑制できる。
【0036】
蒸発材料の供給により、ルツボ内の温度が低下するので、蒸発材料が蒸発可能温度になるまで、加熱装置で加熱する。加熱装置として、前記した電子銃とヒータを用いる場合には、蒸発材料を供給している最中も電子銃で蒸発材料を加熱しておき、蒸発材料を所定量だけルツボに供給した後に、ヒータによる加熱も行うようにすることが好ましい。
【0037】
そして、ルツボ内の蒸発材料が蒸着可能温度に達したときは、開閉シャッターを後退させ、基材搬送装置の駆動を開始して前記成膜工程に移行する成膜移行工程を行う(成膜移行制御)。このように成膜移行制御を行うことにより、成膜工程、材料供給工程とを繰り返し行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の真空蒸着装置は、断続的に蒸発材料を供給すると共に、蒸発材料を供給する際には、長尺帯状基材の走行を停止し、かつ、長尺帯状基材とルツボとの間を開閉シャッターで遮断するので、蒸発材料供給時にスプラッシュが発生しても、長尺帯状基材へスプラッシュが付着するのを防止することができる。さらに、開閉シャッターが閉じた状態となる蒸発材料の供給時においては、長尺帯状基材の走行を停止し、蒸着を行うときに、長尺帯状基材の走行を行うので、長尺帯状基材に未蒸着部分ができ難い。
【0039】
さらに、本発明では、蒸発材料をルツボ内に供給する前に、ルツボ内の蒸発材料を所定の温度より低くなるまで冷却した後に、蒸発材料の供給を行い、その後、加熱装置で蒸発可能温度になるまで加熱することができる。このようにルツボ内の蒸発材料の温度を制御することにより、ルツボ内に残っている溶湯の温度を低下させた状態で蒸発材料を供給することができるので、供給された蒸発材料が急激に加熱されることがなく、スプラッシュの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下本発明の真空蒸着装置の実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1に示すように、真空チャンバー2内に、基材搬送装置3と、ルツボ4と、予備加熱ヒータ51と、開閉シャッター6と、蒸発材料供給装置7とを有する。さらに、真空チャンバー2の側部には、電子銃52が設けられている。そして、図1には示していないが、真空蒸着装置1は、概略構成を示す図2のブロック図に示すように、溶湯量検知装置81、温度検知装置82、制御手段9も備えている。
【0041】
この真空蒸着装置1においては、真空チャンバー2は、図示していなが、頭部と底部にそれぞれ排気口が設けられており、この排気口から排気されて内部が減圧されるようになっている。
【0042】
真空チャンバー2内は、区画壁21により上下に区画されており、区画壁21の上方に基材搬送装置3が配置され、区画壁21の下方にルツボ4と予備加熱ヒータ51と蒸発材料供給装置7とが配置されている。区画壁21の中央部には、ルツボ4内で溶融された蒸発材料の蒸発分子が区画壁21の上方に移動できるように開口部22が形成されており、この開口部22を開閉シャッター6で開閉するようになっている。
【0043】
基材搬送装置3は、繰り出しロール31と巻取りロール32と、これらロールの間の下方位置に配置される冷却ロール33とを有する。繰り出しロール31と巻取りロール32とは定速で回転させ、冷却ロール33はフリー回転するようになっている。冷却ロール33は、内部に図示しない冷却装置が設けられ、長尺帯状基材10の温度上昇による変形等を抑制するようになっている。冷却ロール33は、前記開口部22に対向させて配置している。繰り出しロール31と巻取りロール32の回転駆動は、制御手段9で駆動制御するようになっている。
【0044】
繰り出しロール31、巻取りロール32、そして、冷却ロール33は長尺帯状基材10の幅と略同じ長さを有する円筒状をしており、冷却ロール33が、繰り出しロール31及び巻取りロール32の径よりも大径に形成されている。
【0045】
そして、繰り出しロール31にテープ状の長尺帯状基材10を巻いておく。長尺帯状基材10は、繰り出しロール31から引き出されて、冷却ロール33で図中下方に押し出すように支持されながら、巻取りロール32に巻き取られる構造になっている。
【0046】
長尺帯状基材10は、繰り出しロール31と巻取りロール32を回転させることにより、繰り出しロール31から巻取りロール32へと巻き取られながら連続走行される。
【0047】
長尺帯状基材10としては、樹脂フィルムや金属フィルムなどを用いるが、本実施形態では、銅フィルムを用いている。
【0048】
ルツボ4は、長方形状の開口部を有し、冷却ロール33の下方に配置される。ルツボ4の長辺部の長さは、長尺帯状基材10の幅と略同一の長さを有している。ルツボ4内には、シリコンやアルミなどの蒸発材料が充填され、本実施形態では、シリコンを蒸発材料として用いる。このルツボ4には、蒸発材料供給装置7から粒状の蒸発材料が供給されるようになされている。
【0049】
蒸発材料供給装置7は、真空チャンバー2の外側に設けるホッパー部71と、このホッパー部71の下部に接続され、下端がルツボ4内に開口する供給管72とを有する。このホッパー部71の開閉動作は、前記制御手段9で制御される。
【0050】
さらに、真空チャンバー2の側壁部に設ける電子銃52は、上記ルツボ4内に充填された蒸発材料を加熱蒸発させるために用いる。この電子銃52は、当該電子銃52から放出される電子線aがルツボ4内の蒸発材料に照射されるような位置に配設される。そして、この電子銃52によって加熱されて溶融した蒸発材料が蒸発し、蒸発分子が上記冷却ロール33の周面を走行する長尺帯状基材10上に蒸着されて膜が形成されるようになっている。
【0051】
さらに、ルツボ4の下方には、予備加熱ヒータ51を設けており、予備加熱ヒータ51はリード線で電極導入端子に接続し、真空チャンバー2の外側でこの端子を直流、あるいは交流の加熱電源に接続するようになっている。
【0052】
本実施形態では、電子銃52と予備加熱ヒータ51により加熱装置を構成している。ルツボ4内に固形状の蒸発材料が供給された時は、蒸発材料を速く溶融するために、電子銃52で加熱しながら予備加熱ヒータ51によっても蒸発材料を加熱し、蒸発材料が蒸発可能温度となったときに、予備加熱ヒータ51を停止して、電子銃52のみで加熱する。
【0053】
開閉シャッター6は、ルツボ4と長尺帯状基材10との間に配設される区画壁21の開口部22を開閉するために用いる。開閉シャッター6は、区画壁21と平行に進退動作するように、区画壁21の下面側に配置されている。開閉シャッター6は、図示していないが、アクチュエータにより進退動作するようになっている。このアクチュエータを前記制御手段9で駆動制御することにより、開閉シャッター6の開閉動作を制御する。
【0054】
開閉シャッター6を、進出位置、即ち、開口部22を閉じた状態となる位置に位置させたときは、区画壁21の開口部22が閉鎖された状態となり、ルツボ4と長尺帯状基材10との間が遮断される。即ち、区画壁21と、開口部22に位置する開閉シャッター6とによりルツボ4が配置される空間と基材搬送装置3が配置される空間とに完全に区画され、ルツボ4から蒸発する蒸発分子や蒸発材料のスプラッシュが長尺帯状基材10に付着するのが阻止される。
【0055】
また、開閉シャッター6を後退位置に位置させたときは、区画壁21の開口部22が開いた状態となり、ルツボ4が配置される空間と長尺帯状基材10が配置される空間とが、開口部22を介して連通した状態となる。
【0056】
このように、開閉シャッター6が後退位置に位置するときは、ルツボ4から蒸発した蒸気が長尺帯状基材10に至り、長尺帯状基材10への蒸着が行えるようになる。
【0057】
本実施形態では、図2に示すように、ルツボ4内の溶湯量を検知する溶湯量検知装置81と、ルツボ4内の溶湯の温度を検知する温度検知装置82とを設けている。
【0058】
溶湯量検知装置81は、本実施形態では、図示していないが、レーザー変位計により構成しており、レーザー変位計で溶湯液面の位置を測定して、ルツボ4内の溶湯量を検知するようになっている。レーザー変位計は、蒸発分子がレーザー変位計に被着すると感度の低下を招くので、断続的に溶湯量を計測し、計測を行っていないときには、レーザーの感知部分を遮蔽板で遮蔽し、計測を行うときは、遮蔽を解除するようになっている。
【0059】
温度検知装置82は、ルツボ4内に温度センサーを配置してルツボ4内の蒸発材料の温度を検知するようになっている。
【0060】
制御手段9は、基材搬送装置3、電子銃52、予備加熱ヒータ51、蒸発材料供給装置7、開閉シャッター6のアクチュエータを駆動制御する。制御手段9としては、コンピュータを用いている。制御手段9は、ケーブルまたは無線を介して、溶湯量検知装置81、温度検知装置82、基材搬送装置3、電子銃52、予備加熱ヒータ51、蒸発材料供給装置7、開閉シャッター6に接続される。
【0061】
さらに、制御手段9は、長尺帯状基材10への蒸着を行う成膜制御と、ルツボ4に蒸発材料を供給する材料供給制御と、前記成膜制御に移行する成膜移行制御とを行うように構成されている。
【0062】
成膜制御では、溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときに、長尺帯状基材10への蒸着を行うように、蒸発材料供給装置7を停止させ、開閉シャッター6を後退位置に位置させ、基材搬送装置3を駆動させる制御を行う。
【0063】
材料供給制御では、溶湯量が所定量未満となったときに、基材搬送装置3を停止させるとともに、開閉シャッター6を進出位置に位置させた後、蒸発材料供給装置7を駆動させて所定量の蒸発材料をルツボ4に供給する制御を行う。
【0064】
さらに、材料供給制御においては、蒸発材料をルツボ4に供給する前に一旦ルツボ4内の蒸発材料を所定温度まで低下させた後、蒸発材料をルツボ4に供給するように電子銃52と蒸発材料供給装置7の駆動を制御する。蒸発材料供給前においては、電子銃52の電子線照射量を、成膜制御時の照射量より少なめに照射し、蒸発材料供給後は、成膜制御時と同じ電子線照射量に戻すように制御する。
【0065】
成膜移行制御では、ルツボ4内の蒸発材料を供給した後、電子銃52と予備加熱ヒータ51を用いて蒸発材料を加熱し、ルツボ4内の蒸発材料が蒸着可能温度に達したときに、成膜制御に移行する制御を行う。
【0066】
以上のような構成を有する真空蒸着装置1を用いて、長尺帯状基材10に成膜する運転を行うには、前記した制御手段9の成膜制御、材料供給制御、成膜移行制御に従って真空蒸着装置1を運転する。
【0067】
まず、真空チャンバー2内に、長尺帯状基材10が巻かれた繰り出しロール31をセットし、長尺帯状基材10を冷却ロール33に沿わした後、巻取りロール32に端部を固定する。
【0068】
次に、真空チャンバー2内の排気を行って所定の真空度を保つようにするとともに、開閉シャッター6で開口部22を閉じた状態にした後、蒸発材料供給装置7から所定の蒸発材料をルツボ4内に供給する。このときの蒸発材料供給量(初期供給量)は、予め決められており、蒸発材料が溶湯状態となったとき、ルツボ内に所定の溶湯量が収容された状態となるように設定している。
【0069】
そして、ルツボ4内の蒸発材料を電子銃52と予備加熱ヒータ51を用いて蒸発材料が蒸発可能温度になるまで加熱する。蒸発材料の温度は、前記温度検知装置82で検知する。また、ルツボ4内の溶湯量は、溶湯量検知装置81で断続的に検知する。
【0070】
ルツボ4内の溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときには、蒸発材料供給装置7を停止させ、開閉シャッター6を後退位置に位置させ、基材搬送装置3を駆動させて、ルツボ4内への蒸発材料の供給を停止した状態で、長尺帯状基材10への蒸着を行う。なお、溶湯温度が蒸着可能温度以上になったときは、電子銃52のみで蒸発材料を加熱し、予備加熱ヒータ51は停止する。
【0071】
このように、成膜工程中は、スプラッシュの発生を阻止するため、蒸発材料のルツボ4への供給は行わないように蒸発材料供給装置7を停止させる。さらに、成膜工程中は、開閉シャッター6は、後退位置に位置されているので、区画壁21の開口部22は開いた状態となっており、ルツボ4から蒸発した蒸発分子は、開口部22を通過して長尺帯状基材10に蒸着される。
【0072】
そして、この成膜工程中に、溶湯量が所定量未満になったときには、まず、基材搬送装置3を停止させると同時に、開閉シャッター6を進出位置に位置させて開口部22を閉じることにより、ルツボ4と長尺帯状基材10との間を遮断した状態にして、材料供給工程に入る。
【0073】
そして、開口部22が開閉シャッター6で閉鎖された後、蒸発材料をルツボ4内に供給する前に、一旦ルツボ内の蒸発材料を所定温度まで低下させる。本実施形態では、材料供給工程中においても、電子銃52による電子線照射を行うようにしており、蒸発材料を供給する前においては、電子銃52の電子線照射量を、成膜工程時の照射量より少なめに照射し、蒸発材料をルツボに供給した後は、成膜工程時と同じ電子線照射量に戻すように制御する。
【0074】
次に、蒸発材料供給装置7を駆動して所定量の蒸発材料をルツボ4に供給する。この材料供給工程時は、開閉シャッター6により、ルツボ4と長尺帯状基材10との間が遮断された後に、蒸発材料のルツボ4への供給が行われるので、蒸発材料の供給によりルツボ4内でスプラッシュが発生しても、このスプラッシュは、開閉シャッター6に衝突して長尺帯状基材10には至らない。
【0075】
次に、電子銃52と予備加熱ヒータ51を用いて蒸発材料を蒸発可能温度に至るまで加熱する。そして、ルツボ4内の蒸発材料が蒸着可能温度に達したときは、開閉シャッター6を後退させて開口部22が開いた状態にし、基材搬送装置3の駆動を開始して成膜工程に移行する。この成膜移行制御を行うことにより、成膜工程と材料供給工程とを繰り返し行う。
【0076】
本実施形態では、断続的に蒸発材料を供給しながら、連続走行される長尺帯状基材10に成膜を行うに当たって、蒸発材料を供給する際には、長尺帯状基材10の走行を停止し、かつ、長尺帯状基材10とルツボ4との間を、区画壁21と開閉シャッター6で遮断している。また、成膜工程時は、蒸発材料のルツボ4への供給は行わないようにしている。
【0077】
その結果、蒸発材料供給時にスプラッシュが発生しても、スプラッシュは、開閉シャッター6に衝突するので、長尺帯状基材10へスプラッシュが付着するのを防止することができる。さらに、開閉シャッター6が閉じた状態となる蒸発材料の供給時においては、長尺帯状基材10の走行を停止し、蒸着を行うときに、長尺帯状基材10の走行を行うので、長尺帯状基材10に未蒸着部分ができ難い。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の真空蒸着装置は、長尺帯状基材へのスプラッシュの付着を防止する必要のある真空蒸着装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の真空蒸着装置の全体概略図である。
【図2】本発明の真空蒸着装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
1 真空蒸着装置1
2 真空チャンバー 21 区画壁 22 開口部
3 基材搬送装置
31 繰り出しロール 32 巻取りロール 33 冷却ロール
4 ルツボ
51 予備加熱ヒータ 52 電子銃
6 開閉シャッター
7 蒸発材料供給装置 71 ホッパー部 72 供給管
81 溶湯量検知装置 82 温度検知装置
9 制御手段
10 長尺帯状基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内で、基材搬送装置により連続走行する長尺帯状基材に、加熱装置によりルツボ内で溶融された蒸発材料の蒸発分子を蒸着する真空蒸着装置において、
ルツボ内に蒸発材料を供給する蒸発材料供給装置と、
長尺帯状基材とルツボとの間に進退可能に配置され、進出位置においてルツボと長尺帯状基材との間を遮断して蒸発材料が長尺帯状基材に付着するのを阻止する開閉シャッターと、
ルツボ内の溶湯量を検知する溶湯量検知装置と、
ルツボ内の溶湯の温度を検知する温度検知装置と、
前記基材搬送装置、加熱装置、蒸発材料供給装置、開閉シャッターを駆動制御する制御手段とを備え、
制御手段は、
溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときには、蒸発材料供給装置を停止させ、開閉シャッターを後退位置に位置させ、基材搬送装置を駆動させて長尺帯状基材への蒸着を行う成膜制御と、
溶湯量が所定量未満となったときには、基材搬送装置を停止させるとともに、開閉シャッターを進出位置に位置させた後、蒸発材料供給装置を駆動して蒸発材料をルツボに所定量供給する材料供給制御と、
ルツボに蒸発材料を供給した後、ルツボ内の蒸発材料を加熱装置で蒸発可能温度まで加熱して成膜制御に移行する成膜移行制御とを行うように構成されていることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記材料供給制御において、蒸発材料をルツボに供給する前に一旦ルツボ内の蒸発材料を所定温度まで低下させた後、蒸発材料をルツボに供給するように加熱装置と蒸発材料供給装置とを駆動制御するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
真空チャンバー内で、基材搬送装置により連続走行する長尺帯状基材に、加熱装置によりルツボ内で溶融された蒸発材料の蒸発分子を蒸着する真空蒸着装置の運転方法であって、
長尺帯状基材とルツボとの間に進退可能に開閉シャッターを配置するとともに、ルツボ内に蒸発材料を供給する蒸発材料供給装置と、ルツボ内の溶湯量を検知する溶湯量検知装置と、溶湯温度を検知する温度検知装置を設けて、
溶湯量検知装置と温度検知装置の検知結果に基づき、
溶湯量が所定量以上で、溶湯温度が蒸着可能温度以上のときには、
蒸発材料供給装置を停止させ、開閉シャッターを後退位置に位置させ、基材搬送装置を駆動させて、ルツボ内への蒸発材料の供給を停止した状態で、長尺帯状基材へ蒸着する成膜工程を行い、
成膜工程中に、溶湯量が所定量未満になったときには、
基材搬送装置を停止させるとともに、開閉シャッターを進出位置に位置させて、ルツボと長尺帯状基材との間を遮断した状態にした後、蒸発材料供給装置を駆動して蒸発材料をルツボに所定量供給する材料供給工程を行い、
材料供給工程後は、ルツボ内の蒸発材料を加熱装置で加熱し、蒸発材料が蒸発可能温度に達したときに、開閉シャッターを後退させ、基材搬送装置の駆動を開始して前記成膜工程に移行する成膜移行工程を行うことを特徴とする真空蒸着装置の運転方法。
【請求項4】
前記材料供給工程において、蒸発材料をルツボに供給する前に一旦ルツボ内の蒸発材料を所定温度まで低下させた後、蒸発材料を供給することを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−23319(P2007−23319A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204935(P2005−204935)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】