説明

真空蒸着装置

【課題】実際に成膜に使える蒸着材料の残量を正確に測定することができる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空容器1内に蒸着材料2を蒸発させる容器として坩堝2を設置し、該坩堝2において蒸発させられた前記蒸着材料2を基板4に成膜する真空蒸着装置であって、前記真空容器1外から前記坩堝3内の前記蒸着材料2の嵩を計測する計測手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空容器内に蒸着材料を蒸発させる容器として坩堝を設置し、坩堝において蒸発させられた蒸着材料を基板に成膜する真空蒸着装置が知られている。このような真空蒸着装置においては、坩堝内の蒸着材料の残量を知ることは、坩堝に蒸着材料を補充するタイミングを知る上で必要となる。また、坩堝内の蒸着材料の残量を知ることは、坩堝と蒸着材料の冷却時における収縮量の差により、坩堝が破壊されることを回避することにも役立てることができる。
【0003】
このため、従来、一般的には、成膜レートと成膜時間とに基づき蒸着材料の残量の予測を行っている。しかし、実際には真空容器の壁面等に付着するなど基板への成膜に貢献していない無効蒸気量も多いことから、実験により予め蒸着材料の残量の予測に必要なデータを取得しておく必要があり、この作業は非常に煩雑であった。
【0004】
このため、例えば、下記特許文献1に開示される真空蒸着装置においては、坩堝に質量計を取り付け、坩堝の質量変化を計測することにより、坩堝内の蒸着材料の残量を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示される真空蒸着装置では、アルミニウムのように坩堝の壁面に濡れて付着するような蒸着材料の場合、実際に成膜に使える残りの蒸着材料の残量と、坩堝の壁面に付着して成膜には使えない蒸着材料の量とを区別することができないため、実際に成膜に使える残りの蒸着材料の残量を多めに計測してしまうこととなってしまう。
【0007】
以上のことから、本発明は、実際に成膜に使える蒸着材料の残量を正確に測定することができる真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する第1の発明に係る真空蒸着装置は、
真空容器内に蒸着材料を蒸発させる容器として坩堝を設置し、該坩堝において蒸発させられた前記蒸着材料を基板に成膜する真空蒸着装置であって、
前記真空容器外から前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する計測手段を備える
ことを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する第2の発明に係る真空蒸着装置は、第1の発明に係る真空蒸着装置において、
前記計測手段は、レーザ光線により前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する
ことを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する第3の発明に係る真空蒸着装置は、第2の発明に係る真空蒸着装置において、
前記計測手段は、前記坩堝の上方に設置される
ことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決する第4の発明に係る真空蒸着装置は、第2の発明に係る真空蒸着装置において、
真空容器内に前記レーザ光線を反射する鏡を1つ以上備え、
前記計測手段は、前記坩堝の上方以外の位置に設置される
ことを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決する第5の発明に係る真空蒸着装置は、第1の発明に係る真空蒸着装置において、
前記計測手段は、X線により前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実際に成膜に使える蒸着材料の残量を正確に測定することができる真空蒸着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例に係る真空蒸着装置の構成を示した模式図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る真空蒸着装置の構成を示した模式図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る真空蒸着装置の構成を示した模式図である。
【図4】本発明の第4の実施例に係る真空蒸着装置の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る真空蒸着装置を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明に係る真空蒸着装置の第1の実施例について説明する。
図1に示すように、本実施例に係る真空蒸着装置は、真空容器1の内部に蒸着材料2を蒸発させる容器である坩堝3が設置されている。そして、坩堝3において蒸着材料2は蒸発させられている。なお、本実施例においては、例として、蒸着材料2にアルミニウムを用いた。
【0017】
蒸発容器1の内部には基板4が設置されている。基板4は、坩堝3の上方を通過し、蒸発した蒸着材料2が成膜される。なお、図1においては、例として、成膜中の基板4の移動の様子を示しており、蒸着材料2の嵩の計測時の基板4の位置を実線で示し、成膜中に基板4が坩堝3上を通過しているときの基板4の位置を破線で示している。
【0018】
真空容器1の坩堝3の上方に位置する部分には、覗き窓5が設置されている。なお、本実施例においては、例として、覗き窓5に石英ガラスを用いたが、この他にも、レーザ光線を透過することができる材料であれば使用することが可能である。真空容器1内の覗き窓5の下方には、成膜時に覗き窓5に蒸着材料2が付着することを防ぐシャッター10が設置されている。なお、図1においては、例として、蒸着材料2の嵩の計測時のシャッター10の位置を実線で示し、成膜中のシャッター10の位置を破線で示している。
【0019】
真空容器1外の覗き窓5の上方にはレーザ変位計6が設置されている。レーザ変位計6は、レーザ光線を坩堝3内の蒸着材料2の表面の中央付近に照射し、蒸着材料2の表面で反射したレーザ光線を検出することによりレーザ変位計6から蒸着材料2までの距離を測定して蒸着材料2の嵩を計測する。なお、レーザ変位計6による蒸着材料2の嵩の計測時には、覗き窓5に蒸着材料2が付着することを防止するため、坩堝3の温度を蒸着材料2が蒸発しない程度の温度まで下げておく。そして、計測した蒸着材料2の嵩から実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を求める。なお、図1においては、例として、レーザ光線の光路を一点鎖線で示している。
【0020】
したがって、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、蒸着材料2の嵩をレーザ光線により直接計測するため、実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を正確に測定することができる。
【0021】
また、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、坩堝3の底に溜まっている実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を正確に把握することができ、坩堝3と蒸着材料2の冷却時における収縮量の差により、坩堝3が破壊されることを回避することができる。なお、これは、PBN(Pyrolitic Boron Nitride)製の坩堝3のような壁面が薄く破壊されやすい坩堝3において特に有効である。
【実施例2】
【0022】
以下、本発明に係る真空蒸着装置の第2の実施例について説明する。
図2に示すように、本実施例に係る真空蒸着装置は、真空容器1の内部に蒸着材料2を蒸発させる容器である坩堝3が設置されている。そして、坩堝3において蒸着材料2は蒸発させられている。なお、本実施例においては、例として、蒸着材料2にアルミニウムを用いた。
【0023】
蒸発容器1の内部には基板4が設置されている。基板4は、坩堝3の上方を通過し、蒸発した蒸着材料2が成膜される。なお、図2においては、例として、成膜中の基板4の移動の様子を示しており、蒸着材料2の嵩の計測時の基板4の位置を実線で示し、成膜中に基板4が坩堝3上を通過しているときの基板4の位置を破線で示している。
【0024】
真空容器1の坩堝3の上方の位置から離れた位置には、覗き窓5が設置されている。なお、本実施例においては、例として、覗き窓5に石英ガラスを用いたが、この他にも、レーザ光線を透過することができる材料であれば使用することが可能である。真空容器1内の覗き窓5の側方には、成膜時に覗き窓5に蒸着材料2が付着することを防ぐ衝立22が設置されている。真空容器1外の覗き窓5の上方にはレーザ変位計6が設置されている。
【0025】
真空容器1内にはレーザ光線を反射する第1の鏡20と第2の鏡21が設置されている。なお、第1の鏡20と第2の鏡21には蒸着材料2が成膜されることとなるが、本実施例においては蒸着材料2としてアルミニウムを用いており、アルミニウム成膜面は鏡面状となることから、レーザ光線の反射に悪影響を及ぼすことはない。
【0026】
レーザ変位計6は、第1の鏡20にレーザ光線を照射し、第1の鏡20により反射されたレーザ光線を第2の鏡21に照射し、第2の鏡21で反射したレーザ光線を坩堝3内の蒸着材料2の表面の中央付近に照射し、蒸着材料2の表面で反射したレーザ光線を同じ経路で検出することによりレーザ変位計6から蒸着材料2までの距離を測定して蒸着材料2の嵩を計測する。そして、計測した蒸着材料2の嵩から実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を求める。なお、図2においては、例として、レーザ光線の光路を一点鎖線で示している。
【0027】
したがって、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、第1の実施例に係る真空蒸着装置が奏する効果に加え、実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を成膜中であっても正確に測定することができる。
【0028】
また、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、レーザ変位計6は坩堝3の上方に位置から離れた位置に設置されるため、覗き窓5に蒸着材料2が付着することを防ぐことができる。
【実施例3】
【0029】
以下、本発明に係る真空蒸着装置の第3の実施例について説明する。
図3に示すように、本実施例に係る真空蒸着装置は、真空容器1の内部に蒸着材料2を蒸発させる容器である坩堝3が設置されている。そして、坩堝3において蒸着材料2は蒸発させられている。なお、本実施例においては、例として、蒸着材料2にアルミニウムを用いた。
【0030】
蒸発容器1の内部には基板4が設置されている。基板4は、坩堝3の上方を通過し、蒸発した蒸着材料2が成膜される。なお、図3においては、例として、成膜中の基板4の移動の様子を示しており、蒸着材料2の嵩の計測時の基板4の位置を実線で示し、成膜中に基板4が坩堝3上を通過しているときの基板4の位置を破線で示している。
【0031】
真空容器1の下部には、覗き窓5が設置されている。なお、本実施例においては、例として、覗き窓5に石英ガラスを用いたが、この他にも、レーザ光線を透過することができる材料であれば使用することが可能である。真空容器1外の覗き窓5の下方にはレーザ変位計6が設置されている。
【0032】
真空容器1内にはレーザ光線を反射する鏡30が設置されている。なお、鏡30には蒸着材料2が成膜されることとなるが、本実施例においては蒸着材料2としてアルミニウムを用いており、アルミニウム成膜面は鏡面状となることから、鏡30によるレーザ光線の反射に悪影響を及ぼすことはない。
【0033】
レーザ変位計6は、鏡30にレーザ光線を照射し、鏡30で反射したレーザ光線を坩堝3内の蒸着材料2の表面の中央付近に照射し、蒸着材料2の表面で反射したレーザ光線を同じ経路で検出することによりレーザ変位計6から蒸着材料2までの距離を測定して蒸着材料2の嵩を計測する。そして、計測した蒸着材料2の嵩から実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を求める。なお、図3においては、例として、レーザ光線の光路を一点鎖線で示している。
【0034】
したがって、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、第1の実施例に係る真空蒸着装置が奏する効果に加え、実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を成膜中であっても正確に測定することができる。
【0035】
また、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、レーザ変位計6は真空容器1の下部に設置されるため、覗き窓5に蒸着材料2が付着することを防ぐことができる。
【実施例4】
【0036】
以下、本発明に係る真空蒸着装置の第4の実施例について説明する。
図4に示すように、本実施例に係る真空蒸着装置は、真空容器1の内部に蒸着材料2を蒸発させる容器である坩堝3が設置されている。そして、坩堝3において蒸着材料2は蒸発させられている。なお、本実施例においては、例として、蒸着材料2にアルミニウムを用いた。
【0037】
蒸発容器1の内部には基板4が設置されている。基板4は、坩堝3の上方を通過し、蒸発した蒸着材料2が成膜される。真空容器1外の側方にはX線源40が設置されている。X線源40は坩堝3に側方からX線を照射し、坩堝3を透過したX線をX線検出器41で検出することにより蒸着材料2の嵩を計測し、計測した蒸着材料2の嵩から実際に成膜に使える蒸着材料2の残量を求める。なお、図4においては、例として、成膜中の基板4の移動の様子を示しており、X線の照射方向を一点鎖線で示している。
【0038】
したがって、本実施例に係る真空蒸着装置によれば、第1の実施例に係る真空蒸着装置が奏する効果に加え、例えば成膜中に基板4が坩堝3上を通過しているときであってもX線により蒸着材料2の嵩を計測することができるため、実際に成膜に使える蒸着材料2の残量をいつでも正確に測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、真空容器内に蒸着材料を蒸発させる容器として坩堝を設置し、坩堝において蒸発させられた蒸着材料を基板に成膜する真空蒸着装置において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 真空容器
2 蒸着材料
3 坩堝
4 基板
5 覗き窓
6 レーザ変位計
10 シャッター
20 第1の鏡
21 第2の鏡
22 衝立
30 鏡
40 X線源
41 X線検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に蒸着材料を蒸発させる容器として坩堝を設置し、該坩堝において蒸発させられた前記蒸着材料を基板に成膜する真空蒸着装置であって、
前記真空容器外から前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する計測手段を備える
ことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記計測手段は、レーザ光線により前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記計測手段は、前記坩堝の上方に設置される
ことを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
真空容器内に前記レーザ光線を反射する鏡を1つ以上備え、
前記計測手段は、前記坩堝の上方以外の位置に設置される
ことを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記計測手段は、X線により前記坩堝内の前記蒸着材料の嵩を計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21209(P2011−21209A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164424(P2009−164424)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】