説明

真空装置

【課題】 従来よりも簡単かつ安価な構成で真空ポンプの駆動動力を低減すると共に、ガスパージ処理を実施することができる真空装置を提供する。
【解決手段】 ドライポンプ12から排出された排気ガスは、主排気配管22を通り、さらに逆止弁24を通って、大気へと放出される。また、ドライポンプ12の排気ポート20付近は、エゼクタ26によって減圧される。これによって、ドライポンプ12の排気ポート20と吸気口18との間の圧力差が小さくなる。この結果、ドライポンプ12内のロータ16に掛かる負荷が軽減され、当該ドライポンプ12の駆動動力が低減される。
なお、エゼクタ26用の駆動ガスには、窒素ガス等のパージ用ガスが用いられ、このパージ用ガスを含むエゼクタ26からの吐出ガスは、主排気配管22を流れる排気ガスに合流される。これによって、排気ガスを希釈化するというガスパージ処理が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空装置に関し、特に例えば、吸気口から吸引した気体を大気圧にまで圧縮して排気口から排出する機械式の真空ポンプを備えた、真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の真空装置において、真空ポンプの駆動動力(消費電力)を低減させるべく、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、真空ポンプ、例えば多段ルーツ型のドライポンプ、の最後段の排気室に、補助ポンプが接続される。そして、この補助ポンプにより最後段の排気室が減圧されることで、当該最後段の圧縮を受け持つロータの負担が軽減され、ひいては真空ポンプの駆動動力が低減される。
【0003】
また、同従来技術には、最後段の排気室に接続された排気配管の出口に大気への方向を順方向とする逆止弁が設けられ、この逆止弁に並列に補助ポンプが接続される構成も、開示されている。この構成によっても、最後段のロータの負担が軽減されるので、真空ポンプの駆動電力が低減される。また、補助ポンプが故障しても、排気ガスは逆止弁を介して流れるので、真空ポンプ自体の性能は維持される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−155988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術では、補助ポンプとして、定格電力が100[W]のダイアフラムポンプが、例示されている。また、ダイアフラムポンプ以外にも、ベーンポンプやピストンポンプ、スクロールポンプ等の他のドライポンプを用いてもよい旨が、開示されている。つまり、従来技術では、補助ポンプは機械的に作動する部分を有する機械式ポンプであることが、前提とされる。このため、真空ポンプの他に、補助ポンプについても、当該真空ポンプと同程度のメンテナンスが必要となる。また、補助ポンプを駆動するための電力も必要となる。従って、その分、ランニングコストが掛かり、補助ポンプを設けた意味が減却する、という問題がある。
【0006】
また、上述の従来技術によって例えば腐食性ガスや可燃性ガス(爆発性ガスを含む)、或いは有害ガス等を排気する場合には、これらのガスを所定のパージ用ガスで希釈化するという、いわゆるガスパージ処理を行う必要がある。そうすると、当該ガスパージ処理を行うための設備が別途必要になり、その分、真空装置全体の構成が複雑化し、イニシャルコストまでも高騰する。
【0007】
そこで、この発明は、従来よりも簡単かつ安価な構成で真空ポンプの駆動動力を低減させることができ、しかも同時にガスパージ処理をも実施することができる真空装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1の発明の真空装置は、吸気口から吸引した気体を大気圧にまで圧縮して排気口から排出する機械式の真空ポンプと、この真空ポンプの排気口に一端が結合されており、当該排気口から排出された気体を他端に移送する排気配管と、この排気配管の一端から他端に向かう方向を順方向として当該排気配管に設けられた逆止弁と、を具備する。さらに、排気配管の逆止弁よりも上流側に結合されており、駆動ガスの供給によって当該上流側から気体を吸い込み、吸い込んだ気体を駆動ガスと共に吐き出すエゼクタと、このエゼクタから吐き出された吐出ガスを排気配管の逆止弁よりも下流側に合流させる合流配管と、をも具備する。そして、エゼクタ駆動用の駆動ガスとして、真空ポンプによって排気された気体にガスパージ処理を施すためのパージ用ガスを、流用するものである。
【0009】
即ち、この第1の発明における真空ポンプの吸気口には、排気の対象となる空間、例えば真空槽が結合される。真空ポンプは、この真空槽内の気体を、吸気口を介して吸引し、大気圧にまで圧縮する。圧縮された気体は、真空ポンプの排気口から排出され、排出された気体、言わば排気ガスは、当該排気口に一端が結合された排気配管を通って、当該排気配管の他端に向かって移送され、例えば当該排気ガスを無害化するための除害装置に送られる。なお、排気配管の途中には、その一端から他端に向かう方向を順方向として逆止弁が設けられている。そして、排気配管の当該逆止弁が設けられている位置よりも上流側に、エゼクタが結合されている。このエゼクタは、駆動ガスの供給によって、当該上流側から排気ガスを吸い込む。換言すれば、エゼクタは、真空ポンプの排気口から排気配管の一部(逆止弁よりも上流側の部分)を介して逆止弁に至るまでの空間を、排気する。これによって、真空ポンプの排気口付近が真空になり、当該真空ポンプの排気口と吸気口との間の圧力差が減少する。この結果、真空ポンプに掛かる負荷が軽減され、当該真空ポンプの駆動動力が低減される。
【0010】
一方、エゼクタに吸い込まれた排気ガスは、駆動ガスと共に当該エゼクタから吐き出される。そして、この吐き出された言わば吐出ガスは、合流配管を通って、排気配管の逆止弁が設けられている位置よりも下流側に合流される。ここで、吐出ガスには、上述の如くエゼクタ駆動用の駆動ガスが含まれており、当該駆動ガスとして、パージ用ガスが用いられている。従って、かかるパージ用ガスを含む吐出ガスが排気配管を流れる排気ガスに合流されることで、当該排気ガスを希釈化するというガスパージ処理が実現される。
【0011】
続いて、第2の発明は、吸気口から吸引した気体を大気圧にまで圧縮して排気口から排出する機械式の真空ポンプと、この真空ポンプの排気口に一端が結合されており、当該排気口から排出された気体を他端に移送する排気配管と、を具備する。さらに、真空ポンプ内において気体の圧縮を受け持つ圧縮空間のうち、大気圧と略等しい圧力状態にある所定空間、具体的には排気口に近い空間、に結合されており、駆動ガスの供給によって当該排気口に近い空間から気体を吸い込み、吸い込んだ気体を駆動ガスと共に吐き出すエゼクタと、このエゼクタから吐き出された吐出ガスを排気配管に合流させる合流配管と、をも具備する。そして、エゼクタ駆動用の駆動ガスとして、パージ用ガスを流用する、真空装置である。
【0012】
即ち、この第2の発明においても、第1の発明と同様、真空ポンプの吸気口に、例えば真空槽が結合される。真空ポンプは、真空槽内の気体を、吸気口を介して吸引し、大気圧にまで圧縮する。圧縮された気体は、真空ポンプの排気口から排出され、この排出された気体、言わば排気ガスは、当該排気口に一端が結合された排気配管を通って、当該排気配管の他端へと移送され、例えば当該排気ガスを無害化するための除害装置に送られる。ここで、真空ポンプ内において気体の圧縮を受け持つ圧縮空間のうち、排気口に近い空間は、大気圧と略等しい圧力状態にある。この第2の発明では、かかる排気口に近い空間に、エゼクタが結合されている。エゼクタは、駆動ガスの供給によって、当該排気口に近い空間から排気ガスを吸い込み、つまり当該空間を排気する。これによって、排気口に近い空間が真空になり、真空ポンプの排気口と吸気口との間の圧力差が減少する。この結果、真空ポンプに掛かる負荷が軽減され、当該真空ポンプの駆動動力が低減される。
【0013】
一方、エゼクタに吸い込まれた排気ガスは、駆動ガスと共に当該エゼクタから吐き出される。そして、この吐き出された吐出ガスは、合流配管を通って、排気配管に合流される。ここで、この吐出ガスには、エゼクタ駆動用の駆動ガスが含まれており、当該駆動ガスとして、パージ用ガスが用いられている。従って、かかるパージ用ガスを含む吐出ガスが排気配管内を流れる排気ガスに合流されることで、当該排気ガスを希釈化するというガスパージ処理が実現される。
【0014】
なお、この発明において、エゼクタは、真空ポンプよりも排気能力(排気速度)が小さいものであってもよい。即ち、この発明におけるエゼクタは、上述の如く真空ポンプの排気口付近を減圧することによって当該真空ポンプの駆動動力を低減する、といういわゆる補助ポンプとして機能する。従って、エゼクタは、真空ポンプほどの排気能力を必要とせず、当該補助ポンプとして必要かつ十分な排気能力を備えていれば足りる。そこで、かかる補助ポンプとして比較的に排気能力の小さいエゼクタを採用することで、真空装置全体のイニシャルコストをより低減することができる。また、エゼクタの排気能力が小さいほど、駆動ガスの消費量が少なくて済むので、その分、ランニングコストもより低減する。
【0015】
そして、この発明における真空ポンプとしては、例えばスクリュー型のドライポンプが好適である。即ち、スクリュー型のドライポンプは、それ単体では、吸気圧力(吸気口側の圧力)が低くなるに連れて、つまり吸気口と排気口との間の圧力差が大きくなるに連れて、駆動動力が大きくなる、という特性を有する。かかるスクリュー型のドライポンプがこの発明の真空ポンプとして採用された場合も、上述の如く当該ドライポンプの排気口付近がエゼクタによって減圧される。従って、ドライポンプの吸気圧力が低下しても、吸気口と排気口との間の圧力差はそれ単体のときほど大きくならず、その分、当該ドライポンプの駆動動力が低減される。つまり、吸気圧力が低くなるに連れて駆動動力が大きくなるというスクリュー型のドライポンプが真空ポンプとして採用されたときに、エゼクタによる当該駆動動力の低減効果がより顕著に現れる。
【0016】
また、言うまでもなく、この発明は、ガスパージ処理を必要とするガス、例えば腐食性ガスや可燃性ガス、或いは有害ガス等、を含む気体を排気する場合に、特に有効である。
【0017】
そして、この発明における駆動ガスとしては、例えば窒素(N)ガスが好適である。即ち、この発明のような真空装置が使用される場所、例えば工場等においては、概ね、窒素ガスの供給設備が整えられているので、比較的容易に当該窒素ガスを入手することができる。従って、かかる既存の設備から入手可能な窒素ガスを駆動ガスとして採用すれば、この発明をより簡単かつ安価に実現することができる。
【0018】
また、駆動ガスとして、空気圧縮機によって圧縮された圧縮空気(圧縮乾燥空気)を採用してもよい。即ち、上述の工場等においては、窒素ガスの供給設備の他に、圧縮空気の供給設備も整えられているところが多い。従って、かかる圧縮空気をエゼクタの駆動ガスとして採用するのも、この発明を簡単かつ安価に実現する上で得策である。ただし、排気ガスが可燃性ガス(特に爆発性ガス)である場合には、当該駆動ガスとして、窒素ガス等の不活性ガスを用いるのが、望ましい。
【0019】
さらに、例えば、この発明の真空装置全体を防爆仕様とするには、真空ポンプとして、防爆対応品(防爆検定に合格したいわゆる防爆検定品)を採用すればよい。即ち、この発明では、補助ポンプとしてのエゼクタは爆発要因を含んでいないため、言わばメインポンプとしての真空ポンプに防爆対応品を採用すれば、真空装置全体を防爆仕様とすることができる。これに対して、上述の従来技術において、装置全体を防爆仕様とするには、真空ポンプのみならず、補助ポンプをも防爆対応品とする必要があり、その分、装置全体の構成が複雑化しかつ高コスト化する。つまり、この発明によれば、防爆仕様の真空装置を、従来よりも簡単かつ安価に構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、真空ポンプの駆動動力を低減するための補助ポンプとして、いわゆる噴射式ポンプであるエゼクタが使用される。従って、補助ポンプが機械式ポンプであることを前提とする上述の従来技術に比べて、当該補助ポンプのメンテナンス費用等を含むランニングコストを大幅に低減することができる。しかも、エゼクタを駆動させるための駆動ガスとして、パージ用ガスが使用され、このパージ用ガスを含むエゼクタからの吐出ガスによって、実際にガスパージ処理が行われる。これに対して、上述の従来技術において、ガスパージ処理を行うには、それ専用の設備が別途必要になる。即ち、この発明によれば、従来よりも簡単かつ安価な構成で真空ポンプの駆動電力を低減させることができ、しかも同時にガスパージ処理を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の第1実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、この第1実施形態に係る真空装置10は、スクリュー型のドライポンプ12を備えている。このドライポンプ12は、直流モータ14によって互いに反対方向に回転する一対の単段ロータ16を内蔵しており、このロータ16の回転によって、吸気口18から気体を吸引する。吸引された気体は、ロータ16の先頭端16aから最終端(最終段または最終圧縮工程とも言う。)16bに移送され、当該最終端16bにおいて大気圧にまで圧縮される。そして、この圧縮された気体は、排気ポート20を介して外部に排気される。なお、ロータ16の歯形形状は任意であり、例えばリショルム形、角ねじ形および台形形のいずれであってもよい。
【0023】
かかるドライポンプ12の吸気口18は、例えばこの第1実施形態の真空装置10と共に表面処理装置を構成する図示しない真空槽の排気口に結合されている。一方、排気ポート20には、主排気配管22の一端が結合されており、当該主排気配管22の他端は、例えば図示しない除害装置に結合されている。
【0024】
さらに、主排気配管22の途中には、当該主排気配管22の一端(ドライポンプ12側)から他端(除害装置側)に向かう方向を順方向として、逆止弁24が設けられている。そしてさらに、この逆止弁24と並列に、空気エゼクタ26を有するバイパス配管28が設けられている。
【0025】
具体的には、バイパス配管28は、エゼクタ26と、このエゼクタ26の吸込口26aに一端が結合された吸込側枝管30と、当該エゼクタ26の吐出口26bに一端が結合された合流配管としての吐出側枝管32と、を備えている。そして、吸込側枝管30の他端は、主排気配管22の逆止弁24が設けられている位置よりも上流側、換言すれば当該逆止弁24から主排気配管22の一端(排気ポート18との結合部)までの間の任意の位置に、結合されている。一方、吐出側枝管32の他端は、主排気配管22の逆止弁24が設けられている位置よりも下流側、つまり当該逆止弁24から主排気配管22の他端(排出口)までの間の任意の位置に、結合されている。
【0026】
また、エゼクタ26は、これを駆動させるための駆動ガスが供給される供給口26cを有している。そして、この供給口26cは、図示しない窒素ガス配管に結合されている。なお、ここで言う窒素ガス配管とは、比較的に高圧(例えば10[Pa]程度)の窒素ガスが流通している配管のことを言い、かかる窒素ガス配管は、この第1実施形態の真空装置10が使用される場所、例えば工場等であれば、概ね配備されている。
【0027】
このように構成された真空装置10は、次のように動作する。
【0028】
即ち、今、ドライポンプ12が起動されると共に、エゼクタ26に駆動ガスが供給されるとする。すると、ドライポンプ12のロータ16が回転し、吸気口18を介して、真空槽内から気体が吸引される。吸引された気体は、上述の如くロータ16の先頭端16aから最終端16bに向かって移送され、当該最終端16bにおいて大気圧にまで圧縮される。そして、圧縮された気体は、排気ポート20を介して主排気配管22に排出される。そして、この排出された気体、言わば排気ガスは、図1に点線の矢印50で示すように、主排気配管22を通り、さらに逆止弁24を通って、除害装置へと送られる。
【0029】
一方、エゼクタ26に供給された駆動ガスは、当該エゼクタ26の吐出口26bから吐き出される。そして、このエゼクタ26(吐出口26b)から吐き出されたガス、言わば吐出ガスは、図1に一点鎖線の矢印52で示すように、吐出側枝管32を通って、逆止弁24の下流側で主排気配管22に合流される。そして、この主排気配管22に合流された吐出ガスは、当該主排気配管22を流れる排気ガスと共に、除害装置へと送られる。
【0030】
ここで、エゼクタ26用の駆動ガスは、上述したように既設の窒素ガス配管から調達される。この窒素ガス配管を流れる窒素ガスの圧力は、上述の如く比較的に高い(10[Pa]程度)ので、当該エゼクタ26を駆動させるには十分である。ただし、このエゼクタ26の排気能力は、ドライポンプ12の排気能力に比べると大きくはない。このため、排気作業が開始(ドライポンプ12が起動)されてから暫くの間、つまりドライポンプ12から比較的に大量の排気ガスが排出されている間は、当該排気ガスの殆どは、主排気配管22を流れ、エゼクタ26(バイパス配管28)側には流れない。換言すれば、エゼクタ26は、それ本来の(ポンプとしての)機能を果たさない。しかしながら、エゼクタ26は、バイパス配管28に設けられているので、当該エゼクタ26が、ドライポンプ12による排気作用に対して、配管抵抗となることはない。また、このようにエゼクタ26がポンプとして機能していない状況下にあっても、当該エゼクタ26に供給された駆動ガスは、上述した要領で、当該エゼクタ26から吐き出され、最終的に、主排気配管22を流れる排気ガスに合流される。
【0031】
そして、排気作業が進み、ドライポンプ12から排出される排気ガスの量が比較的に少なくなると、詳しくはエゼクタ26によって排気可能な程度になると、当該エゼクタ26が自ずと有効化される。これによって、ドライポンプ12から排出された排気ガスは、図1に二点差線の矢印54で示すように、バイパス配管28の吸込側枝管30を通って、エゼクタ26内(吸込口26a)に吸い込まれる。そして、吸い込まれた排気ガスは、エゼクタ26(供給口26c)に供給されている駆動ガスと共に、当該エゼクタ26(吐出口26b)から吐き出される。そして、吐き出された吐出ガスは、上述と同様、最終的に、主排気配管24を流れる排気ガスに合流される。
【0032】
このようにエゼクタ26が有効化されているときは、当該エゼクタ26は、ドライポンプ12の排気ポート20から主排気配管22の一部(逆止弁24よりも上流側の部分)を介して逆止弁24に至るまでの空間を、排気することになる。これによって、排気ポート20を含む当該空間が減圧され、例えば8×10[Pa]程度の真空になる。そして、このように排気ポート20が真空になることによって、当該排気ポート20と吸気口18との間、言い換えればロータ16の最終端16bと先頭端16aとの間、の圧力差が小さくなる。この結果、ロータ16に掛かる負荷が軽減され、ドライポンプ12の駆動動力が低減される。
【0033】
図2に、この第1実施形態の真空装置10全体の動力特性を示す。また、参考用として、ドライポンプ12が単体のときの動力特性をも併せて示す。
【0034】
即ち、図2において、実線の曲線Xが、ドライポンプ12単体の動力特性を示す。この曲線Xから分かるように、ドライポンプ12単体では、吸気圧力が大気圧(約10[Pa])と略等しいときに、駆動動力が最小になる。そして、吸気圧力が低くなるに連れて(図2の横軸上で右側から左側に進むに連れて)、つまり排気作業が進むに連れて、駆動動力が増大する。さらに、吸気圧力が或る一定値(図2では約3×10[Pa]と読み取られるが、この値はドライポンプ12の排気能力によって異なる。)を下回ると、駆動動力は概ね飽和する。そして、到達圧力付近において、当該駆動動力は最大となる。
【0035】
一方、かかるドライポンプ12にエゼクタ26が組み合わされた真空装置10によれば、吸気圧力が大気圧(約10[Pa])と略等しいとき、つまり排気作業の開始直後は、エゼクタ26がポンプとして機能していないので、ドライポンプ12単体のときと同様、駆動動力は最小になる。そして、排気作業が進み、吸気圧力が低下する途中で、エゼクタ26が有効化される。これによって、破線の曲線Yで示すように、駆動動力が増大から減少に転ずる。そして、吸気圧力が低下するに連れて、駆動動力はさらに減少し、到達圧力付近で、当該駆動動力は最小となる。つまり、吸気圧力が低下するに連れて駆動動力が増大するというスクリュー型のドライポンプ12に対し、言わば補助ポンプとしてのエゼクタ26が付加されることによって、当該駆動動力の増大が大幅に抑制される。換言すれば、スクリュー型のドライポンプ12と補助ポンプとしてのエゼクタ26とが組み合わされたこの第1実施形態の真空装置10によれば、吸気圧力が比較的に高いときは、ドライポンプ12自体の特性によって駆動動力が抑えられ、吸気圧力が低いときは、エゼクタ26によって当該駆動動力が低減される、という相補関係が築かれる。
【0036】
以上のように、この第1実施形態の真空装置10によれば、スクリュー型のドライポンプ12に補助ポンプとしてのエゼクタ26が組み合わされることによって、当該ドライポンプ12の駆動動力が大幅に低減される。また、噴射式ポンプであるエゼクタ28は、機械式ポンプとは比較にならないほどの耐久性および信頼性を有するので、かかるエゼクタ26を補助ポンプとして採用するこの第1実施形態によれば、機械式ポンプを補助ポンプとして採用する上述の従来技術に比べて、当該補助ポンプのメンテナンス費用等を含むランニングコストを大幅に低減することができる。しかも、エゼクタ26用の駆動ガスとして、既設の窒素ガス配管から入手可能な窒素ガスを流用するので、当該駆動ガスを供給するための特別な設備を必要としない。
【0037】
さらに、駆動ガスとしての窒素ガスは、エゼクタ26から吐き出された後、主排気配管22を流れる排気ガスに合流される。従って、例えば、排気ガスの中に腐食性ガスや可燃性ガス、或いは有害ガス等のガスパージ処理が必要とされるガスが含まれていても、これらのガスは当該窒素ガスによって必然的にパージ処理される。つまり、この第1実施形態によれば、排気処理と同時に、ガスパージ処理をも実施することができる。
【0038】
なお、この第1実施形態において、エゼクタ26用の駆動ガスとして、既設の窒素ガス配管から入手可能な窒素ガスを採用したが、これに限らない。例えば、当該窒素ガス配管からではなく、窒素ガスボンベ、或いは窒素ガス生成装置等から、直接、窒素ガスをエゼクタ26に供給してもよい。また、窒素ガスに代えて、アルゴン(Ar)ガスやヘリウム(He)ガス等の他の不活性ガスを、駆動ガスとして採用してもよい。
【0039】
さらに、不活性ガスに代えて、空気圧縮機による圧縮空気を、エゼクタ26用の駆動ガスとして採用してもよい。即ち、この第1実施形態の真空装置10が使用される工場等では、窒素ガスの供給設備のみならず、かかる圧縮空気の供給設備も配備されているところが多いので、当該圧縮空気をエゼクタ26用の駆動ガスとして採用するのも、この第1実施形態の真空装置10を簡単かつ安価に実現する上で、得策である。
【0040】
ただし、排気ガスが可燃性ガス(特に爆発性ガス)を含む場合には、エゼクタ26用の駆動ガスとして、窒素ガスをはじめとする不活性ガスを採用するのが、望ましい。また、排気ガスを単に希釈化するのではなく、当該排気ガスを中和させるためのガスを、駆動ガスとして採用してもよい。そして、勿論、この第1実施形態の真空装置10は、ガスパージ処理を必要としない用途にも、適用することができる。
【0041】
なお、いずれのガスを駆動ガスとして採用する場合でも、その圧力は、少なくともエゼクタ26を補助ポンプとして機能させ得る程度の圧力でなければならない。言い換えれば、駆動ガスの圧力は、エゼクタ26を補助ポンプとして機能させるのに必要かつ十分な程度であればよい。また、上述したように、補助ポンプとしてのエゼクタ26は、ドライポンプ12ほどの排気能力を必要とせず、例えば当該ドライポンプ12の数[%]〜十数[%]程度の排気能力を有していれば足りる。
【0042】
さらに、上述したスクリュー型のドライポンプ12に代えて、例えば多段ルーツ型ポンプや多段クロー型ポンプ等の他の容積移送型ポンプを用いてもよい。
【0043】
また、主排気配管22の他端に図示しない除害装置を結合する構成としたが、これに限らない。例えば、当該除害装置に代えて、触媒作用によって排気ガスを無害化するための触媒装置や、当該排気ガスに含まれる不純物を取り除くための集塵装置等の、各種処理装置を設けてもよい。そしてまた、これらの処理装置を設けずに、当該主排気配管22の他端を大気に開放してもよい。この場合、主排気配管22の長さ(バイパス配管28(吐出側枝管32)との接合部分から他端(排出口)までの長さ)が長いほど(数[m]以上)、この第1実施形態によるガスパージ処理が効果的に作用する。
【0044】
そしてさらに、この第1実施形態におけるドライポンプ12は、直流モータ14を駆動源とするものとしたが、交流モータを駆動源とするものであってもよい。
【0045】
また、この第1実施形態では、真空ポンプ12として防爆対応品を採用することによって、真空装置10全体を防爆仕様とすることができる。即ち、補助ポンプとしてのエゼクタ26は、爆発要因を含んでいないため、言わばメインポンプとしての真空ポンプに防爆対応品を採用することで、当該防爆仕様に対応することができる。これに対して、上述の従来技術では、防爆仕様に対応するには、真空ポンプのみならず、補助ポンプをも防爆対応品とする必要があり、その分、装置全体の構成が複雑化しかつ高コスト化する。つまり、この第1実施形態によれば、従来技術に比べて、簡単かつ安価に防爆仕様に対応することができる。
【0046】
次に、この発明の第2実施形態について、図3を参照して説明する。
【0047】
図3に示すように、この第2実施形態の真空装置100は、上述した第1実施形態の真空装置10の構成から逆止弁24およびバイパス配管28(エゼクタ26を除く)を排除すると共に、エゼクタ26の取り付け位置を変更したものである。これ以外の構成は、第1実施形態と同様であるので、これら同様な部分には第1実施形態と同一符号を付して、それらの詳細な説明を省略する。
【0048】
この第2実施形態において、エゼクタ26は、真空ポンプ12のロータ16の最終端16bと主排気配管22の途中との間に、設けられている。具体的には、エゼクタ26の吸込口26aに、吸込側配管102の一端が結合されており、この吸込側配管102の他端は、ロータ16の最終端16bに挿入されている。そして、エゼクタ26の吐出口26bに、吐出側配管104の一端が結合されており、この吐出側配管104の他端は、主排気配管22の途中の任意位置に結合されている。なお、エゼクタ26の供給口26は、第1実施形態と同様、図示しない窒素ガス配管に結合されている。
【0049】
このように構成された第2実施形態の真空装置100は、次のように動作する。
【0050】
即ち、今、ドライポンプ12が起動されると共に、エゼクタ26に駆動ガスが供給されるとする。すると、ドライポンプ12のロータ16が回転し、吸気口18を介して、真空槽内から気体が吸引される。吸引された気体は、上述と同じ要領で、ロータ16の先頭端16aから最終端16bに向かって移送され、当該最終端16bにおいて大気圧にまで圧縮される。そして、圧縮された気体は、排気ポート20を介して主排気配管22に排出される。そして、この排出された気体、言わば排気ガスは、図3に点線の矢印150で示すように、主排気配管22を通って、除害装置へと送られる。
【0051】
一方、エゼクタ26は、駆動ガスの供給によって、図3に一点鎖線の矢印152で示すように、ロータ16の最終端16bから排気ガスを吸い込む。そして、吸い込んだ排気ガスを、自身に供給された駆動ガスと共に、吐出口26bから吐き出す。この吐き出された吐出ガスは、図3に二点鎖線の矢印154で示すように、吐出側配管104を通って、主排気配管22に合流される。そして、この主排気配管22に合流された吐出ガスは、当該主排気配管22を流れる排気ガスと共に、除害装置へと送られる。
【0052】
ここで、ロータ16には、先頭端16aから最終端16bに向かって圧力勾配が形成されており、当該最終端16b付近では、(本来)大気圧と略等しい圧力になる。ところが、この第2実施形態では、この最終端16bがエゼクタ26によって排気される。従って、最終端16bは減圧され、例えば8×10[Pa]程度の真空になる。そして、このように最終端16bが真空になることで、当該最終端16bと先頭端16aとの間の圧力差が小さくなり、この結果、ロータ16に掛かる負荷が軽減され、ひいてはドライポンプ12の駆動動力が低減される。
【0053】
また、エゼクタ26から吐き出された吐出ガスは、上述の如く主排気配管22を流れる排気ガスに合流されるが、この吐出ガスには、駆動ガスとしての窒素ガスが含まれている。従って、第1実施形態と同様、当該窒素ガスによって必然的にガスパージ処理が行われる。
【0054】
このように、第2実施形態の真空装置100によっても、補助ポンプとしてのエゼクタ26が付加されることによって、ドライポンプ12の駆動動力が低減される。そして、当該補助ポンプとしてのエゼクタ26は、機械式ポンプとは比較にならないほどの耐久性および信頼性を有するので、補助ポンプとして機械式ポンプを採用する上述の従来技術に比べて、当該補助ポンプのメンテナンス費用等を含むランニングコストを大幅に低減することができる。しかも、排気処理と同時に、ガスパージ処理をも実施することができる。このことは、腐食性ガスや可燃性ガス、或いは有害ガス等を排気するのに、極めて効果的である。
【0055】
なお、この第2実施形態においては、エゼクタ26によってロータ16の最終端16bが排気されるようにしたが、これに限らない。即ち、最終端16bでなくとも、当該最終端16bの近傍、例えばその1つ前の歯間(空間)16cにおいても、大気圧と略等しい圧力状態にあるので、図3に破線106で示すように、当該1つ前の歯間16cがエゼクタ26によって排気されるようにしてもよい。
【0056】
そして、この第2実施形態においても、第1実施形態と同様、例えば窒素ガスに代えて、アルゴンガスやヘリウムガス等の他の不活性ガスを、駆動ガスとして採用してもよいし、圧縮空気を当該駆動ガスとして採用してもよい。また、スクリュー型のドライポンプ12に代えて、多段ルーツ型ポンプや多段クロー型ポンプ等の他の容積移送型ポンプを採用してもよい。さらに、真空ポンプ12として防爆対応品を採用することで、真空装置100全体を防爆仕様としてもよい。そして、勿論、この第2実施形態の真空装置100もまた、ガスパージ処理を必要としない用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の第1実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】同第1実施形態の動力特性を示すグラフである。
【図3】この発明の第2実施形態の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 真空装置
12 ドライポンプ
16 ロータ
18 吸気口
20 排気ポート
22 主排気配管
24 逆止弁
26 エゼクタ
28 バイパス配管
30 吸込側枝管
32 吐出側枝管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から吸引した気体を大気圧にまで圧縮して排気口から排出する機械式の真空ポンプと、
上記排気口に一端が結合され該排気口から排出された上記気体を他端に移送する排気配管と、
上記排気配管の上記一端から上記他端に向かう方向を順方向として該排気配管に設けられた逆止弁と、
上記排気配管の上記逆止弁よりも上流側に結合され駆動ガスの供給により該上流側から上記気体を吸い込み該駆動ガスと共に吐き出すエゼクタと、
上記エゼクタから吐き出された吐出ガスを上記排気配管の上記逆止弁よりも下流側に合流させる合流配管と、
を具備し、
上記駆動ガスとして上記気体にガスパージ処理を施すためのパージ用ガスを用いる、
真空装置。
【請求項2】
吸気口から吸引した気体を大気圧にまで圧縮して排気口から排出する機械式の真空ポンプと、
上記排気口に一端が結合され該排気口から排出された上記気体を他端に移送する排気配管と、
上記真空ポンプ内において上記気体の圧縮を受け持つ圧縮空間のうち上記大気圧と略等しい圧力状態にある所定空間に結合され駆動ガスの供給によって該所定空間から上記気体を吸い込み該駆動ガスと共に吐き出すエゼクタと、
上記エゼクタから吐き出された吐出ガスを上記排気配管に合流させる合流配管と、
を具備し、
上記駆動ガスとして上記気体にガスパージ処理を施すためのパージ用ガスを用いる、
真空装置。
【請求項3】
上記エゼクタは上記真空ポンプよりも排気能力が小さい、請求項1または2に記載の真空装置。
【請求項4】
上記真空ポンプはスクリュー型のドライポンプである、請求項1ないし3のいずれかに記載の真空装置。
【請求項5】
上記気体は上記ガスパージ処理を必要とするガスを含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の真空装置。
【請求項6】
上記駆動ガスは窒素ガスである、請求項1ないし5のいずれかに記載の真空装置。
【請求項7】
上記駆動ガスは圧縮空気である、請求項1ないし5のいずれかに記載の真空装置。
【請求項8】
上記真空ポンプは防爆対応品である、請求項1ないし7のいずれかに記載の真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−100562(P2007−100562A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289919(P2005−289919)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】