説明

眼の障害のための注射可能複合療法

本発明は、眼の障害(例えば黄斑退化、脈絡膜血管新生又は網膜血管新生によって特徴付けられる障害)の治療のための組成物、方法及び製品を提供する。本発明の方法のひとつは、単一の手順で被験者の眼に第一及び第二の治療薬を投与するステップも含んでいる。第一の治療薬は被験者の眼の症状を急速に改善させるものであり、第二の治療薬は第二の治療薬用の放出性調剤として投与される。例えば、第一及び第二の治療薬は硝子体内注入法により投与される。第一の治療薬は注射器内の液体媒質に溶解しても良いし、第二の治療薬の放出性調剤は注射針の中にある眼内インプラント又は複数の粒子を含んでも良い。治療薬は血管新生阻害剤及び補体阻害剤からなる群から選択しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2006年1月19日出願の米国仮特許出願第60/760974号及び2006年10月6日出願のU.S.S.N.11/544389(両方共本明細書に援用する)の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
黄斑退化は、黄斑の退行的変化を特徴付ける様々な疾患に言及しそれらを記載する用語であり、すべてが中心視力の喪失に至る。黄斑は眼の網膜の視神経に隣接した部分にあり、約3〜5ミリのサイズの小さい領域を指す。網膜の中で最も敏感な領域であり、良好な視力を提供する窪み領域の中心窩及び高密度錐状体の色覚に関係する視細胞受光体を含んでいる。50歳以上の人に生じる加齢黄斑退化(ARMD)は、先進諸国における機能性盲目の最大の原因である。この疾患は、網膜、網膜色素上皮(RPE)及びその下の脈絡膜(RPEの下、網膜と強膜の間にある高密度の血管組織)の進行性退化により特徴付けられる。RPEの細胞は、食菌性の受光体先端にある視覚色素(ロドプシン)を杆錐状体の再生の一環として毎日リサイクルし、細胞膜を通して液体を脈絡膜へ運搬する。RPE細胞が適切に機能しなくなった時、中心視力は衰える。広範な調査にも拘らず、ARMDの病因は十分理解されていない。酸化的ストレス、炎症、遺伝、喫煙や食事などの環境又は行動要因が関係している場合がある。
【0003】
ARMDの臨床的特徴は、結晶腔(RPEとブルック膜の間の間隙に蓄積する脂蛋白質様物質の局所的沈着物)の出現である。結晶腔は、ふつう臨床的に最も初期段階のARMDに見出され、結晶腔の存在、場所及び数は、病状段階の分類及び進行の監視に利用される(非特許文献1)。
【0004】
ARMDはドライ及びウェット(湿性又は血管新生)型に分類される。ドライARMDはウェットよりも頻繁に生じるが、ドライ型はウェット型へ進行する場合もあり、数多くの症例で両型が同時に生じる場合がある。ドライARMDは、通常、RPE細胞、その上の受光体細胞及びその下の脈絡膜毛細血管層の細胞でも頻繁に生じる進行性アポトーシスにより特徴付けられる。上部の受光体細胞の萎縮を伴うRPE細胞の融合性部位(例えば、少なくとも最小径175μm)は地図状萎縮と呼ばれる。この型の眼病に罹患している患者は、中心視力が徐々に衰える。ウェットARMDは、RPE及び網膜の下の脈絡膜血管に成長する異常血管からの出血及び/又は液体の流出により特徴付けられる。その結果、突然の視力喪失に至る場合がある。患者が経験する視力喪失の多くは、かかる脈絡膜の血管新生(CNV)及びその合併症に起因する。血管腫増殖が網膜に始まり、後方の網膜下腔へ広がり、ある症例では最終的に脈絡膜の新生血管へと広がっていく場合もある新生血管ARMDのサブタイプが確認されている(非特許文献2)。網膜血管腫増殖(RAP)と呼ばれるこの型の新生血管ARMDは特に重症である。黄斑結晶腔の存在は、ウェット及びドライ型ARMDの進行にとって重大なリスク因子である。
【0005】
正常な眼及びARMDが起きるプロセスの一部が図1に示される。眼の前部及び後部の構造が図1A及び1Bに示される。正常な眼(1E)、ドライARMDに罹患した眼(1D)及びウェットARMDに罹患した眼(1E)が図1C〜1Eに示される。外顆粒層(ONL)には杆錐状体の受光体が含まれる。各受光体には内節(IS)及び外節(OS)が含まれ、後者には露光の後で光伝達カスケードを開始するロドプシン色素が含まれている。RPEは視細胞受光体の下、ブルック膜の上に存在する。図1D及び1Eから明らかなように、正常な網膜構造がARMD患者の場合のように、様々な方法で分解する。
【0006】
黄斑浮腫は、ARMD、糖尿病性網膜症、前部ブドウ膜炎や後部ブドウ膜炎などの炎症症状など様々な眼疾患に伴って生じる。衰弱した血管又はその他異常血管から隣接する細胞組織に漏れた液体が蓄積することにより、黄斑の厚さは増す。血液又は他の液体の漏出及びその結果としての黄斑の厚さの増大により、視力や色覚が急激に変化する場合がある。従って、黄斑浮腫は、ARMD及び他の様々な眼疾患に罹患した人が経験する視力障害や視力喪失の原因となる場合がある。
【0007】
ARMD及びその他の眼の血管新生に伴って生じる眼疾患を薬理学的に治療する様々な試みが活発に試みられている。多くの努力が、異常血管の破壊又は密封及び/又は成長の阻止に関する方法に傾注されている。光力学療法には感光色素(ベルテポルフィン)を全身的に静脈投与する方法が関係しており、それは眼の中でレーザーにより活性化され、その結果、異常血管内部に毒性産物を形成する。眼への血管新生阻害剤の局所投与はかなり有望である。ペガプタニブ・ナトリウム(マキュジェン(Macugen)(登録商標);Pfizer/Eyetech)が、2004年、ウェット加齢黄斑退化の治療用として米国食品医薬品局(FDA)により承認された。マキュジェン(Macugen)は、血管内皮細胞成長因子(VEGF)のイソフォームに結合するアプタマである。VEGFは、ウェットARMDの特徴である異常血管の成長、浸透性の増大及びその結果生じる漏出を引き起こす際のシグナルとして機能する蛋白質である。マキュジェン(Macugen)はVEGFと結合することにより、VEGFがVEGF受容体と結合するのを阻止し、その結果VEGF活性が阻害される。湿性ARMD治療用の他の血管新生阻害剤には、VEGFと結合しVEGFとVEGF受容体との相互作用を妨害するラニビズマブ(ルーセンティス(Lucentis)(登録商標)、Genentech)などのモノクローナル抗体などが含まれる。
【非特許文献1】Ambati, J.,ら、Surv, Ophthalmol., 48(3): 257−293, 203;Preferred Practice Pattern:Age−Related Macular Degeneration, American Academy of Ophthalmology, 2003
【非特許文献2】Yannuzzi, L.A.ら、Retina, 21(5):416−34, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
VEGF経路など血管新生で基本的役割を演じるシグナル伝達経路に干渉する血管新生阻害剤は、血管新生における強力なアプローチを提供する。しかし、血管新生阻害剤だけの治療には様々な欠点が伴う。VEGF経路に干渉する血管新生阻害剤の臨床試験には、4−6週間の間隔で行われる硝子体内注射による溶液の投与が関係している。残念なことに、この方法は、外傷性水晶体損傷、網膜剥離、外傷又は眼内感染に伴って生じる眼内炎などの重大な合併症のリスクを伴う。全体リスク1%で投与間隔6週間の場合、一年間の全体リスクは眼ごとに9%となる。投与間隔が4週間であれば、全体リスクは眼ごとに13%となる。これら及び他の理由により、血管新生阻害剤を使用する現在のやり方は、ウェットARMDとしては最適ではない。従って、ARMDを治療する改善方法が当業界では望まれている。更に、黄斑退化、脈絡膜血管新生、網膜血管新生、網膜血管腫増殖及び/又は眼の血管からの漏出により特徴付けられる他の症状の治療に関しても、改善方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、眼疾患、特に黄斑退化、CNV及び/又は網膜血管新生(RNV)に関係する眼疾患の治療用の組成物、方法及び製品を提供する。本発明の一つの実施形態では、黄斑退化、CNV又はRNVで特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供される。その治療方法には、被験者の眼に第一及び第二の治療薬を単一の手順で投与するステップも含まれ、第一の治療薬は被験者の眼の症状を急速に改善し、第二の治療薬は第二の治療薬用の徐放性調剤として投与される。本発明のある実施形態では、第二治療薬は長時間作用性の治療薬である。本発明のある実施形態では、第一の治療薬の少なくとも一部、あるいは第一の治療薬の実質的に全投与量が、徐放性製剤の成分として提供される。第一及び第二の治療薬は、単一の徐放性製剤の成分として提供されても良いし、別々の徐放性製剤の成分として提供されても良い。
【0010】
本発明のある実施形態では、注入法(例えば硝子体内注入法)が使われる。本発明のある実施形態では、注入法が用いられるが、投与前に、第一の治療薬は注射器内に含まれ、第二の治療薬を含む徐放性調剤は注射器に取付られている注射針に含まれている。例えば、第一の治療薬は注射器内の液体媒質に溶解し、第二の治療薬の徐放性調剤は注射針内の眼内インプラントを含んでいても良い。
【0011】
本発明の別の実施形態では、黄斑退化、CNV又はRNVで特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供されるが、その中には、被験者の眼に第一及び第二の組成物を単一の手順で投与するステップも含まれ、第一の組成物は被験者の眼の症状を急速に改善する第一の治療薬を含んでおり、第二の組成物は第二の治療薬を含んでおり、第二の治療薬を含む徐放性調剤として投与される。組成物の少なくともいずれか一方は、複数の治療薬(例えば2つ以上の血管新生阻害剤、2つ以上の補体阻害剤又は一つの血管新生阻害剤及び一つの補体阻害剤)を含んでいても良い。
【0012】
本発明の別の実施形態では、被験者の眼に第一及び第二の治療薬を投与する方法が提供され、その中には、(i)第一の治療薬を含む溶液を注入する方法、及び(ii)第二の治療薬を含む固体の眼内インプラントを単一の注入法で被験者の眼に注入する方法も含まれる。
【0013】
本発明のいずれの実施形態においても、治療薬のいずれか一方は血管新生阻害剤又は補体阻害剤であって良い。本発明のいずれの実施形態においても、徐放性調剤は眼内インプラントを含んでいても良い。本発明のいずれの実施形態においても、徐放性調剤はポリマー及び1つ又はそれ以上の治療薬を含んでいても良い。
【0014】
本発明の別の実施形態では、製品が提供される。本発明は、(i)眼疾患を治療するのに有効な第一の治療薬及び(ii)第二の治療薬を含む注射針を含む製品を提供する。注射器は治療薬を含んでいても良い。
【0015】
本発明のいずれの実施形態においても、眼疾患は黄斑退化関連の症状、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症又はCNV、RNV又はRAP関連の症状である。
【0016】
補体阻害剤を特徴とする本発明のいずれの実施形態においても、補体阻害剤には、当業界で公知のあらゆる補体阻害剤が含まれる。例えば、ウイルス補体制御蛋白又はそのフラグメント又は変異体、補体成分と結合するペプチド又はペプチドアナログ、補体受容体の拮抗剤などである。VCCPはポックスウイルスVCCP(PVCCP)であっても良いし、ヘルペスウイルスVCCP(HVCCP)であっても良い。PVCCPは、例えばワクシニアウイルスや痘瘡ウイルス由来などであっても良い。ペプチド又はペプチドアナログは、コンプスタチン(compstatin)又はその誘導体であっても良い。
【0017】
血管新生阻害剤を特徴とする本発明のいずれの実施形態においても、血管新生阻害剤は、当業界で公知のいかなる血管新生阻害剤であっても良い。血管新生阻害剤は、マキュジェン(Macugen)(登録商標)(ペガプタニブ・ナトリウム)、別のVEGFアプタマ又は核酸リガンド;ルーセンティス(Lucentis)(登録商標)(ラニビズマブ)、アバスチン(Avastin)(登録商標)(ベマシズマブ)又はVEGFと特異的に結合する別の抗体又は抗体フラグメント;コンブレタスタチン又は誘導体又はCombretastacin A4 Prodrug (CA4P)などのそのプロドラッグ;VEGF−Trap;EVIZON(登録商標)(乳酸スクアラミン);AG−013958(Pfizer, Inc.);及び1つ又はそれ以上のVEGFイソフォームの発現を阻害する、VEGF受容体の発現を阻害する、又は眼の血管新生に寄与する他の分子の発現を阻害するJSM6427(Jerini AG)、β2−糖タンパク1(β2−GP1)及び小干渉性RNA(siRNA)又はショートヘアピンRNA(shRNA)からなる群から選択しても良い。
【0018】
本明細書に記載される構造に含まれる化合物の中には、互変異性、配座異性、幾何異性及び/又は立体異性があることは、当業者には理解されるであろう。本発明には、本明細書記載の化合物の互換異性体、配座異性体、鏡像異性体及び/又は幾何異性体の使用が含まれることも理解して頂きたい。複数存在する互換異性体(又は共鳴構造)のうち一つの構造式だけに対応する用語が本明細書に用いられていたとしても、それによって本明細書記載の化合物の範囲が制限されるものではない。更に、本発明で開示された化合物は、周囲のpHや他の条件次第で様々なプロトン化状態になることも、当業者には理解されるであろう。本明細書記載の構造式は、複数の可能なプロトン化状態のうち一つの化合物だけを示したものであり。そういう構造は例示的に過ぎず、本発明はそういう特定のプロトン化状態に制限されるものではなく、全てのプロトン化状態が本発明の範囲に含まれることも理解されるであろう。
【0019】
ある実施形態においては、本発明に使用される化合物は、複数の陽イオン又は陰イオン及びそれと関連する適切な対イオンを有している場合がある。関連対イオンは、化合物の合成及び/又は単離方法によって決定される場合がある。対イオンには、塩化物及び他のハロゲン化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、リン酸塩など及びそれらの混合体を含むが、これだけに限定されるものではない。関連対イオンを同定することは特別に重要な特徴ではないこと、及び本発明にはあらゆるタイプの対イオンに関連した化合物が含まれることも理解して頂けるであろう。更に、化合物は様々な形態で存在し得るのであるから、本発明には、対イオンと関連している形態(例えば乾燥塩)だけでなく、対イオンと関連していない形態(例えば水溶性や有機溶剤)も含まれる。
【0020】
別の記載がない限り、あるいは文脈の内容から別の意味が明らかでない限り、分子生物学、細胞培養、供試動物の管理、眼科的検査及び被験者への治療薬の投与等に関しては標準の方法を使用し、用語に関しても業界で許容されている意味を用いている。本出願は種々の特許や出版物を引用する。本出願に記載される記事、書籍、特許、特許出願及び他の出版物の内容は全て本明細書に援用されている。以下の出版物も本明細書に援用されている。Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols in Immunology, Current Protocols in Protein Science及びCurrent Protocols in Cell Biology(全てJohn Wiley & Sons, N.Y., 2002年7月版); Sambrook, Russell, and Sambrook, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 2001; Kuby Immunology, 4版, Goldsby, R.A., Kindt, T.J., and Osborne, B.(eds.), W.H. Freeman, 2000, Goodman and Gilman‘s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10版, McGraw Hill, 2001, Katzung, B. (ed.) Basic and Clinical Pharmacology, McGraw−Hill/Appleton & Kange; 9版(2003年12月), Opthalmic Surgery: Principles and Practice, 3版, W.B., Sauders Company, 2002; Albert, DM and Lucarelli, MJ (eds.), Clinical Atlas of Procedures in Ophthalmic Surgery, American Medical Association, 2003。援用された文献と本明細書の間に矛盾点が存在する場合は、本明細書が優先される。矛盾点が存在するか否かの決定は、本発明者達の自由裁量内であり、いつでも決定できることは理解して頂きたい。
【0021】
(定義)
活性期間という用語は、治療薬を投与後、その治療薬を投与する前に存在したベースラインの症状又は状態と比較して、被験者が疾患の1つ又はそれ以上の症状及び/又は兆候の改善を経験する期間を意味する。活性期間は、被験者が改善を経験し始めたときに始まり、被験者の症状又は状態が治療薬を投与する以前のベースラインに戻ったときに終了する。
【0022】
血管新生又は血管形成のという用語は、新しい血管の形成、成長及び/又は発現を意味する。
【0023】
血管形成阻害剤及び抗血管形成剤という用語は、本明細書においては共に、血管形成に関連する1つ又はそれ以上のプロセスを阻害又は減少することのできる治療薬を意味し、血管形成には内皮細胞の増殖、内皮細胞の残存、内皮細胞の遊走、前駆体細胞の内皮細胞への分化及び毛細管形成などを含むが、これだけに限定されるものではない。
【0024】
本明細書で使用される場合、抗体という用語は、抗原に結合する免疫グロブリン又はその一部を意味する。抗体は天然のものでも、完全に又は一部を合成したものであっても良い。抗体は天然源から得ても良いし(例えば抗原で免疫化したげっ歯類動物、ウサギ、ニワトリなどの動物源を精製)、抗原をコード化する構造体であっても良い。抗体は免疫グロブリンクラスのいずれであっても良く、ヒトクラスのIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEもその中に含まれる。本発明に使用される抗体は、Fab’、F(ab’)、scFv(単鎖可変部)などの抗体フラグメント又は抗原結合部位を保有している他のフラグメントであっても良いし、遺伝子組み換えにより作られたscFvフラグメント(免疫グロブリン抗原結合ドメインを含む遺伝子組み換えで作られたフラグメントを含む)であっても良い(例えば、Allen, T. Nature Review Cancer, Vol. 2, 750−765, 2002及びその援用文献を参照)。抗体分子のイディオタイプを含む抗体フラグメントは、公知の技術により作成できる。例えば、F(ab’)フラグメントは抗原分子のペプシン消化により作成できるし、Fab’フラグメントはF(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋の還元により又は抗体分子をパパイン及び還元剤で処理することにより作成できる。抗体は抗体多量体又は抗体フラグメントの多量体であっても良い。抗体、抗体フラグメント及び/又は抗原結合部位を含む蛋白質ドメインは、例えばファージ提示(Winter, G.ら, Annu. Rev. Immunol. 12:433−455, 1994)、リボソーム提示(Hanes, J. and Pluckthun, A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94:4937−4942, 1997)などの技術を使って、in vitroで作成及び/又は選択しても良い。
【0025】
抗体はポリクローナル(例えばアフィニティ精製ポリクローナル抗体)であっても、モノクローナルであっても良い。本明細書で使用する場合、モノクローナル抗体という用語は、実質的に均一な抗体の個体群又はそういう個体群のメンバーを意味する。すなわち、個体群を構成する各抗体は、少量含まれる可能性のある天然に生じる突然変異を例外として同一である。異なる決定因子(エピトープ)を標的とする異なる抗体を通常含んでいるポリクローナル抗体とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定因子を標的とするので、極めて特異的である。モノクローナルという修飾語は、実質的に均一な抗体の個体群から得られた抗体であることを表示するものであり、特定の方法によって抗体を作成するように要求されていると解釈されるべきではない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、Kohler & Milstein(Nature 256:495, 1975)が最初に記載したハイブリドーマ法により作成しても良いし、あるいは組み換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照)で作成しても良い。
【0026】
抗体はキメラ抗体であっても良い。例えば、げっ歯類動物由来の可変ドメインをヒト由来の不変ドメインに融合することにより、げっ歯類動物の抗体の特異性を保持できる。ヒト由来のドメインは、最初にヒトで合成されたという意味であり、直接ヒト由来である必要はない。ヒトのドメインは、ゲノムにヒトの免疫グロブリン遺伝子を組み込んだげっ歯類動物で作成しても良い。そういう抗体は少なくとも部分的にヒト化されていると考えられる。抗体のヒト化の度合いは様々である。従って、例えば抗体又はその一部をコード化しているポリヌクレオチドの部位特異的突然変異により、げっ歯類動物の抗体の可変ドメインの一部又はほとんどをヒト配列で置き換えても良い。ある方法では、げっ歯類動物(例えばネズミ)の相補性決定領域(CDRs)をヒト免疫グロブリン分子の可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)フレームワークに移植し、抗原結合部位のインテグリティにとって重要であると考えられるげっ歯類動物のフレームワーク残基だけを残す。モノクローナル抗体の免疫原性を最小限に抑える種々の方法に関しては、Gonzales NR, Tumour Biol. Jan−Feb;26(1):31−43, 2005を参照のこと。ヒト又はヒト化抗体は免疫応答を相対的に誘引しにくので、かかるヒト又はヒト化抗体がヒトの疾病又は障害にしばしば好んで用いられる。
【0027】
抗体が抗原と反応するかどうか又は特異的に結合するかどうかを決定する方法、及び必要に応じてそういう結合の親和性を決定する方法は数多く知られている。例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)などである。蛋白質などの標的分子に抗体を結合させることにより、その標的分子の活性を阻害又は干渉できる。例えば、成長因子などのリガンドへ抗体を結合させることにより、リガンドが受容体に結合するのに干渉できる。抗体を受容体に結合させることにより、受容体がリガンドに結合するのに干渉できる。
【0028】
約又は大体という数に関する用語は、別の説明がない限り、若しくは文脈から別の意味が明らかでない限り(そういう数が可能な数値の100%を超える場合を除いて)、その数の両方向(上下)5%以内にある数を含む。
【0029】
生体適合性という用語は、量的及び使用される位置的に、投与される人の細胞にとって実質的に非毒性であり、投与される人の身体に使用される位置で有意な有毒又は有害効果(許容できない免疫学的又は炎症性の反応、許容できない瘢痕組織形成など)を与えない物質を意味する。眼と生体適合性のある物質は、眼の生理又は機能に実質的に干渉しない。
【0030】
生体分解性という用語は、生理学的条件下の加水分解により、及び/又は細胞内又は身体内の酵素の作用など、天然の生体プロセスにより、及び/又は溶解、分散などのプロセスにより、通常新陳代謝され随意に身体で利用され得る、及び/又は排泄又は他の方法で処理され得るより小さい化学種を形成すること、すなわち被験者の細胞又は身体内で物質が物理的及び/又は化学的に崩壊し得ることを意味する。生体分解性の化合物は、生体適合性であることが好ましい。単量体の数の減少により、時間の経過と共に分子量を減少させるポリマーは、生体分解性であると考えられる。
【0031】
生体高分子という用語は、生体組織に見出されるタイプの小さいサブユニットで構成される大きい分子を意味する。例えば、ポリペプチド、多糖類などである。生体高分子は、通常、少なくとも3つのサブユニットを含んでいる(アミノ酸、ヌクレオシド、単糖類など)。生体高分子は、天然のポリペプチド、核酸又は多糖類であっても良い。生体高分子は修飾しても良い。例えば、合成ポリマーなどの非生体分子と共役させても良い。
【0032】
黄斑退化、脈絡膜血管新生、網膜血管新生又は前述の組み合わせにより特徴付けられる、及び黄斑退化、脈絡膜血管新生又は網膜血管新生により特徴付けられるという用語は、黄斑退化、CNV及び/又はRNVが疾患の特徴的(すなわち典型的)性質であることを示している。黄斑退化、CNV及び/又はRNVは、疾患の定義的及び/又は診断的特徴であっても良い。
【0033】
脈絡膜血管新生(CNV)という用語は、脈絡毛細管板から生じる血管の異常出現、増殖及び/又は成長を意味する。通常、血管はブルック膜、RPE層及び/又は網膜下の空隙を突き破って成長する。
【0034】
補体成分又は補体蛋白質という用語は、補体系の活性化に関係する分子、又は1つ又はそれ以上の補体媒介活動に関与する分子を意味する。古典的補体活性化経路の成分には、C1q、C1r、C1s、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、及びC5b−9複合体(膜攻撃複合体(MAC)とも呼ばれる)、及び活性フラグメント又は前述のいずれかの酵素分解産物(C3a、C3b、C4a、C4b、C5aなど)が含まれる。代替経路の成分には、例えば、B、D、H及びI因子、及びプロペルジンなどが含まれる。
【0035】
薬物送達装置又は持続放出調剤との関連で用いられる送達する又は送達という用語は、治療薬を身体内の周囲の環境へ放出することを意味する。
【0036】
薬物送達装置という用語は、治療薬を含む及び/又はそれを被験者に送達する装置、構造体又は要素を意味する。薬物の放出は、身体内で薬物送達装置が崩壊することにより生じる場合もあるが、これだけには限定されない。本明細書で用いられる場合、薬物送達装置という用語は、治療薬を含む装置及び治療薬をまだ含んでいない装置を意味する。眼内インプラントは、眼の中に入れるのに適した大きさと構造を有する薬物送達装置である。眼内薬物送達装置は、眼の生理及び/又は機能に実質的に干渉しない(例えば、装置は視力にほとんど又は全く悪い影響を及ぼさない)のが望ましい。
【0037】
活性薬剤に関する有効量という用語は、所望の生体応答を引き出すのに十分な活性薬剤の量を意味する。当業者には理解されている通り、特定の薬剤の絶対的有効量は、所望の生物学的完了点、送達される薬剤、標的組織などの要因により変化する。更に当業者には理解されている通り、有効量は単回投与されても良いし、複数回投与されても良い。例えば、眼疾患の治療に用いられる治療薬の有効量は、疾患を治療するのに十分な量、例えば以下の1つ又はそれ以上を達成するのに必要な量である。(i)結晶腔の形成を阻害又は予防;(ii)結晶腔の数及び/又はサイズの減少(結晶腔退行);(iii)リポフシン蓄積物の減少又は予防;(iv)視力喪失の阻止又は予防、又は視力喪失の速度の緩慢化;(v)脈絡膜血管新生の阻止又は脈絡膜血管新生の速度の緩慢化;(vi)脈絡膜血管新生として特徴付けられる疾患部位の大きさ及び/又は数の減少;(vii)脈絡膜血管新生の阻止及び網膜血管新生の速度の緩慢化;(viii)網膜血管新生として特徴付けられる疾患部位の大きさ及び/又は数の減少;(ix)視力及び/又はコントラスト感度の改善;(x)黄斑浮腫の減少及び/又は異常な黄斑の厚さの減少;(xi)視細胞受光体又はRPE細胞の萎縮又はアポトーシスの阻止又は予防、又は視細胞受光体又はRPE細胞の萎縮又はアポトーシスの速度の緩慢化;(xii)非湿性黄斑退化から湿性黄斑退化への進行の阻止又は予防。
【0038】
眼疾患という用語は、本明細書では眼内疾患とも呼ばれるが、眼又は眼の1つ又はそれ以上の部位、構造又は部分に関係する又はそれに影響を及ぼす病気、疾病又は症状を意味する。眼には、眼球、眼周囲筋及び眼球内又はその近接領域の視神経部分を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、湿性黄斑退化という用語は、ウェット型黄斑退化と同義語であり、当業者には一般的に理解されている通り、血管新生及び/又は滲出液の存在により特徴付けられるARMDなどの黄斑退化関連の症状を意味する。
【0040】
同一性という用語は、2つ又はそれ以上の核酸又はポリペプチドの配列が同じである度合いを意味している。評価ウインドウにおける着目配列と第二の配列との間の同一性%(例えば着目配列の長さに関して)は、配列のアラインメントを行い、評価ウインドウ内にある同一残基の反対側の残基(ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を決定し、同一性を最大限にするためにギャップの導入を許し、ウインドウ内に納まる着目配列又は第二の配列(のうち大きい方)の残基の合計数で割り、それに100を掛けることにより計算できる。ギャップというのは、残基で占められていない配列部分を意味する。例えば、AKL___SIG(配列番号43)という配列には3つの残基のギャップが含まれている。特定の同一性%を知るのに必要な同一残基の数を計算する場合、端数は四捨五入し、最も近い自然数を求める。同一性%は、公知の様々なコンピュータ・プログラムを用いて計算できる。例えば、BLAST2、BLASTN、BLASTP、Gapped BLASTなどのコンピュータ・プログラムはアラインメントを行い、着目配列と種々の公共データベース間の同一性%を提供する。Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:22264−2268, 1990)がKarlin及びAltschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993によって修正され、AltschulらのNBLAST及びXBLASTプログラムで用いられている(Altschulら, J. Mol. Biol. 215:403−410, 1990)。比較目的のためにギャップ・アラインメントを得るには、Altschulらに記載されているように、Gapped BLASTが用いられる(Altschulら, Nucleic Acids Res. 25:3389−3402, 1997)。BLAST及びGapped BLASTプログラムを用いる場合、各プログラムのデフォルト・パラメータが用いられる。PAM250又はBLOSUM62マトリックスを用いても良い。これらのプログラムに関しては、ウェブサイトのURLwww.ncbi.nlm.nih.govをご覧頂きたい。特定の実施形態では、着目配列と第二配列の同一性%は、デフォルト・パラメータ付きBLAST2を用いて計算される。
【0041】
本明細書で用いられる場合、侵襲性治療という用語は、道具や装置を眼又は眼窩に挿入する治療(例えば、針、トロカール、カテーテルなどの道具を用いて眼球又は眼窩へ挿入又は貫入)を意味する。
【0042】
リポソームという用語は、水性のコンパートメントを封入する脂質二重層によって形成される人工的な球形の顕微鏡的粒子を意味する。リポソームは、本発明のある組成物を送達するのに用いられる。
【0043】
長時間作用性の治療薬という用語は、医学的に許容できる量を投与した場合、少なくとも3ヶ月の活性期間を有する治療薬を意味する。医学的に許容できる量というのは、投与条件下で、許容できない毒性又は悪影響を引き起こさない量を意味する。
【0044】
黄斑退化関連の症状という用語は、黄斑が機能活性を退化する又は喪失する数多くの疾患及び症状のいずれかを意味する。機能活性の退化又は喪失は、例えば、細胞の死、細胞増殖の低下及び/又は正常な生物学的機能の喪失の結果生じる。黄斑退化は、黄斑の細胞及び/又は細胞外マトリックスの構造完全度の変化、正常な細胞及び/又は細胞外マトリックス構造の変化、及び/又は黄斑細胞の機能喪失として現れる、及び/又は顕在化する。細胞は黄斑内又はその近くに通常存在するあらゆるタイプの細胞であり、RPE細胞、視細胞受光体及び/又は毛細管内皮細胞がそれに含まれる。ARMDは主な黄斑退化関連の症状である。その他、Best黄斑ジストロフィ、Sorsby眼底ジストロフィ、Mallatia Leventinese及びドイン蜂巣状網膜ジストロフィなどが含まれる。
【0045】
非湿性黄斑退化という用語は、当業界で一般的に使用されている通り、ドライ型黄斑退化と同意語であり、蛍光血管造影などの通常の方法を用いて検出可能な血管新生及び/又は滲出現象が生じない黄斑退化関連の症状(例えばARMD)を意味する。
【0046】
眼内インプラントという用語は、眼の生理又は機能に許容できないような干渉を引き起こすことなく眼の中に入れることができるように、適切な大きさ、形状及び/又は構造を有し、適切な材料で作成された装置又は構造体を意味する。眼内インプラントを挿入しても視力が有意に損なわれないことが望ましい。眼内インプラントは通常固形又は半固形の製品で、通常マクロ的、すなわち肉眼で見ることができる大きさである。
【0047】
複数という用語は1を超える数を意味する。
【0048】
本明細書で使用する場合、ポリペプチドという用語は、1又はそれ以上のアミノ酸アナログを任意に含むアミノ酸のポリマーを意味する。ペプチドは比較的短いポリペプチドであり、通常約2〜60アミノ酸の長さである。蛋白質、ポリペプチド及びペプチドは同意語として使用される場合がある。本明細書で使用される場合、ポリペプチドは、天然の蛋白質に見出されるアミノ酸を含む場合もあれば、天然の蛋白質には見出されないアミノ酸、及び/又はアミノ酸ではないアミノ酸アナログを含む場合もある。一般的に蛋白質に見出される20のアミノ酸に関して、当業者に周知の数多くのアナログが知られている。本明細書で使用される場合は、アミノ酸のアナログとは、そのアミノ酸に構造上類似の異なるアミノ酸(非標準アミノ酸)である場合もあれば、そのアミノ酸に構造上類似のアミノ酸以外の化合物の場合もある。ポリペプチドの1つ又はそれ以上のアミノ酸に、例えば、炭水化物基、リン酸エステル基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、共役リンカーなどの化学物質の付加による修飾、官能基化、その他の修飾を施しても良い。適切な非限定的アナログ及び修飾体の例が、国際公開番号2004026328に記載されている。ポリペプチドは(例えばN末端で)アセチル化、及び/又は(例えばC末端で)アミド化しても良い。
【0049】
上記のような自然又は他の化学修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖及びアミノ末端又はカルボキシ末端を含めポリペプチドの至る所で生じる。一つのポリペプチドに多くの種類の修飾体が含まれている場合もある。ポリペプチドは分岐している場合もあれば、分岐を含む又は含まない環状である場合もある。ポリペプチドは、ポリマー、ポリマーマトリックス、デンドリマー、ナノ粒子、ミクロ粒子、リポソーム等と共役したり、それらに封入されていたり、取り込まれていたりする場合もある。本発明で使用されるポリペプチドは、例えば、天然源から精製したり、DNA組み換え技術を使用する適切な発現系によりin vitro又はin vivoで生産したり(例えば組み換え宿主細胞又は遺伝子導入動物又は植物を使って)、従来の固体相ペプチド合成及び/又は合成ペプチドの化学的連結を含む方法(例えば、Kent, S., J Pep Sci. 9(9):574−93, 2003及び米国特許公開第20040115774号を参照)又はそれらの組み合わせを使って合成したりできる。本明細書で使用される場合、ポリペプチド配列又はアミノ酸配列という用語は、ポリペプチド材料それ自体を意味し、生化学的にポリペプチドを特徴付ける配列情報(すなわちアミノ酸の名前の略語として用いられる文字及びコードから選択される文字の連続又は3文字のコード)に制限されない場合もある。別の記載がない限り、本明細書で使用されるポリペプチド配列は、N末端からC末端の方向へ延びている。
【0050】
ポックスウイルスという用語は、ポックスウイルス科を構成する二本鎖DNAを有する複雑なウイルスの科を意味する。この科には、ポックスウイルス科、Chordopoxvirinae亜科の属であるオルトポックスウイルスも含まれ、この中には哺乳動物に感染する多くの種が含まれる。ポックスウイルスは、Fields, BNら, Fields Virology,3版, Lippincott Williams & Wilkins, 2001に記載されている。オルトポックスウイルスには、ワクシニアウイルス、大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、ラクダ痘ウイルス、豚痘ウイルス及びエクトロメリアウイルスが含まれる。
【0051】
ポックスウイルス補体制御蛋白という用語は、様々なポックスウイルスによってコード化された相同蛋白質ファミリーのメンバーを意味し、1つ又はそれ以上の補体経路蛋白に結合し、古典的補体活性経路、代替補体活性経路、レクチン経路又はそれらの組み合わせを阻害する。ポックスウイルス補体制御蛋白は、補体活性調節因子(RCA)スーパーファミリとも呼ばれる補体制御蛋白(CCP)のメンバーである(Reid, KBM and Day, AJ, Immunol Today, 10:177−80, 1989)。
【0052】
眼の後部セグメントという用語は、眼の水晶体の後の部分を意味し、硝子体、脈絡膜及び網膜(黄斑を含む)がその中に含まれる。
【0053】
被験者の眼の症状の急速な改善という用語は、治療薬の投与後2週間以内、好ましくは1週間以内に生じる、眼疾患の1つ又はそれ以上の症状及び/又は兆候の臨床的に有意な改善を意味する。被験者の眼の症状の急速な改善には、視力の回復(例えば、視力検査表の2つ又はそれ以上の上の行が見える)、視覚歪像の減少、コントラスト感度の改善、網膜血管からの漏出の減少及び黄斑の厚みの減少(例えば、ベースライン値と比べて少なくとも50%黄斑の厚みが減少)のうちの1つ又はそれ以上が含まれるが、これだけに限定されるものではない。一般的に、急速という用語は、治療効果又は他の生物学的効果に関して本明細書で使用される場合、関連事象(例えば治療薬の投与)後2週間又はそれ以下以内に生じることを意味する。ある実施形態では、急速という用語は、関連事象後1週間又はそれ以下以内に生じることを意味する。
【0054】
網膜血管新生という用語は、網膜(例えば網膜の表面)の血管の異常な発現、増殖及び/又は成長を意味する(すなわち、当業者には明らかなことであるが、異常な増殖及び/又は成長は、表面に既に存在する血管に生じる)。ここで、網膜という用語は、血管新生の発生源を意味する。
【0055】
単一の手順という用語は、針、トロカール、カテーテルなどの道具を用いて眼球又は眼窩へ単回挿入又は貫入する手順、すなわちプロセス又は一連のステップ又は行為を意味する。例えば、眼への注入(例えば硝子体内注入)は単一の手順である。但し、眼球に挿入された注射針の先端は、一旦引き出されたら、再び眼球に挿入されることはない。単一の手順には、眼の1つ又はそれ以上の構造体(例えば硝子体)へ複数回貫入される場合やそうでない場合も含まれる。但し、眼球への挿入又は貫入は一度だけである。
【0056】
小分子という用語は、天然に存在する又は人工合成(例えば化学合成)で作られた、比較的分子量の小さい有機化合物であり、蛋白質、ポリペプチド又は核酸ではない。通常、小分子の分子量は約1500g/mol未満であり、複数の炭素−炭素鎖を有する。
【0057】
特異的結合という用語は、標的ポリペプチド(又はより一般的に標的分子)と抗体又はリガンドなどの結合分子との間の物理的結合を一般的に意味する。結合は、結合分子により認識される抗原決定因子すなわちエピトープなどの標的の構造的特徴の存在に通常依存している。例えば、ある抗体がエピトープAに特異的である場合、エピトープAを含むポリペプチド又は非標識Aが、遊離した標識Aとそれに結合する結合分子を含む反応物の中に存在するならば、その結合分子に結合する標識Aの量は減少する。特異性は絶対的なものではなく、一般的に結合が起きる情況に関係していることを理解して頂きたい。例えば、当業者には周知の通り、数多くの抗体が、標的分子に存在するエピトープだけでなく他のエピトープとも交差反応する。そういう交差反応は、抗体を使用するアプリケーション次第ではあるが、許容できる場合もある。当業者であれば、特定のアプリケーション(例えば、治療目的で標的分子を検出)に適した十分なレベルの特異性を有する抗体又はリガンドを選択することは可能である。結合分子と標的との親和性に対して結合分子と他の標的(例えば競合体)との親和性などの追加要因を考慮して、特異性が評価されることも理解して頂きたい。ある結合分子が検出したいと考えている標的分子と高い親和性を有し、非標的分子と低い親和性を有しているならば、その抗体は許容可能な試薬として、可能性が高い。ある結合分子の特異性が1つ又はそれ以上の情況下で確立されたならば、他の、好ましくは類似の情況下で、必ずしも特異性を再評価することなく、それを使用しても良い。親和性(平衡解離常数Kd)が10−3以下、好ましくは10−4以下、更に好ましくは10−5以下(例えば、10−6以下、10−7以下、10−8以下、10−9以下又は試験条件下、例えば生理条件下ではそれ以下)である場合、2つ又はそれ以上の分子の結合は特異的である。
【0058】
眼疾患に関連して本明細書で使用される場合、安定化という用語は、疾患の進行速度の減少及び/又は患っている眼の症状の急速かつ顕著な悪化の可能性を予防又は減少させることを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、被験者という用語は、例えば実験、診断及び/又は治療目的で薬剤が送達される個人を意味する。好ましい被験者は霊長類やヒトなどの哺乳動物である。医者又は他の医療提供者の管理下にある被験者は患者と呼ばれる場合もある。
【0060】
配列に関して適用される実質的な配列相同という用語は、基準配列と比較して少なくとも約60%の同一性、好ましくは少なくとも約70%の同一性、更に好ましくは少なくとも約80%の同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の同一性を配列が示す場合を意味する。2つ又はそれ以上の配列が比較される場合、基準配列はそのいずれであっても良い。同一性%は、FASTA、BLASTN又はBLASTPアルゴリズムを使用して計算できる。デフォルト・パラメーターを使用しても良い。PAM250又はBLOSUM62を使用しても良い。
【0061】
持続放出調剤又は持続送達調剤という用語は、成分の一つとして治療薬を含み、更に部分的には調剤の物理的構造のために治療薬を持続放出するのに有効な1つ又はそれ以上の成分、要素又は構造体を含む物質の組成物を意味する。ある実施形態では、構造体は少なくとも部分的には治療薬それ自体、任意には投与部位に存在する1つ又はそれ以上の物質により提供される。持続放出は、ある期間にわたって(例えば少なくとも1、2、4又は6週間、少なくとも1、2、3、4、6、8、10、12、15、18、24ヶ月又はそれ以上)連続的又は間歇的に生じる放出又は送達である。
【0062】
本明細書で使用される場合、治療薬という用語は薬物と同意語であり、疾患を治療するのに有用な製薬的に活性な薬剤を意味する。この用語には、製薬的に許容できる塩、プロドラッグ、プロドラッグの塩及び当業者に周知の活性薬剤又は当業者に周知の標準的な方法で容易に製造可能な活性薬剤のすべて含まれる。プロドラッグというのは薬物の前駆体を意味し、それ自体では薬理学的に活性ではないが(目的の薬物の活性以下の活性又はそれとは異なる活性を有する)、投与後(例えば代謝の結果)製薬的に活性な薬物に変換される。治療薬には、小分子又は蛋白質(例えば抗体)や核酸(例えばアプタマやsiRNAなど)の生体高分子が含まれるが、これだけに限定されるものではない。
【0063】
本明細書で使用される場合、治療するという用語は治療の提供を意味する。すなわち、疾病、障害又は症状の進行を逆転、緩和、阻止するため、疾病、障害又は症状の可能性を予防又は低減するため、疾病、障害又は症状の1つ又はそれ以上の症状又は発現の進行を逆転、緩和、阻止するため、疾病、障害又は症状の1つ又はそれ以上の症状又は発現の可能性を予防又は低減するため、あらゆる種類の医療又は手術を被験者に提供することを意味する。予防するという用語は、そういう疾病、障害、症状又は兆候が生じないようにすることを意味する。治療には、黄斑退化又は糖尿病性網膜症などの症状を示す1つ又はそれ以上の兆候が発現した後、症状の重篤度を逆転、緩和、減少させるため、及び/又は症状の進行を阻止又は予防するため、及び/又は症状の1つ又はそれ以上の兆候又は発現の重篤度を逆転、緩和、減少させるため、及び/又は症状の1つ又はそれ以上の兆候又は発現を阻止するため、被験者に治療薬を投与することも含まれる。本発明の組成物は、湿性又は非湿性ARMD又は糖尿病性網膜症などの眼疾患に罹患した被験者、又は一般大衆と比べてそういう疾患に罹患する危険率の高い被験者に投与できる。本発明の組成物は、予防目的、すなわち症状の兆候又は発現が起きる前に、投与できる。その場合、一般的に、被験者はそういう症状に罹るリスクの高い人である。
【0064】
本明細書で使用される場合、単位投薬形態という用語は、治療される被験者(例えば1つの眼を)にとって単位投薬量として適した物理的に分離した単位を意味する。各単位には、所望の治療効果を発揮するために選択された所定量の活性薬剤が、任意で所定量提供される製薬的に許容できる担体と一緒に含まれている。単位投薬形態には、例えば、所定量の治療薬、所定量の固形状の治療薬、所定量の治療薬を含む眼内インプラント、又は総合的に所定量の治療薬を含んでいる複数のナノ粒子又はミクロ粒子を含有するある量の液体(例えば製薬的に許容できる担体)などが含まれる。単位投薬形態には、治療薬以外にも様々な成分が含まれ得ることは理解されるであろう。例えば、製薬的に許容できる担体、希釈剤、安定剤、緩衝液、保存剤などが含まれる場合もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
(I.概観)
本発明は、眼治療用の組成物、方法、製品及び医療パック又はキットを提供する。ある実施形態では、眼疾患は黄斑退化、CNV又はRNVで特徴付けられる。本発明で治療される典型的な疾患は、黄斑退化関連の症状、糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症を含むが、これだけに限定されるものではない。本発明の概念は、ウェットARMD又はCNVおよび/又はRNVで特徴付けられる特定の疾患の治療に関して本明細書に記載されているが、それは様々な眼疾患(及び他の疾患)にも適用可能である。
【0066】
患者の目の症状を急速に改善させる可能性がない限り、医療提供者(例えば眼科医)は、重篤な合併症の危険性を伴う硝子体内注入などの侵襲的手技を使って、治療薬(例えば血管新生阻害剤)を投与したがらない場合が多いことを、本発明は認識している。将来の眼の悪化又は不安定化を予防する又は遅延させる可能性があり、少なくとも症状の面から見て比較的安定している治療を、侵襲的手技を用いて行いたがらない傾向にある。同様に、患者の立場から見ても、眼の症状が現在顕著に悪化又は不安定化していない限り、そして治療薬の投与の結果、症状が急速及び/又は顕著に改善する可能性がない限り、重篤な合併症の危険性を伴う侵襲的手技を用いて治療薬を投与するのを受け入れたがらない場合が多い。そういう侵襲的手技が重篤な合併症の危険性を伴っている限り、眼の症状が比較的安定した患者は、疾患の進行を停止又は遅延させる可能性のある治療薬の投与を、そういう侵襲的手技を用いて行うのを敬遠する場合が多い。
【0067】
その結果、治療薬の投与が重篤な合併症の危険性を伴う侵襲的手技に関係している場合、患者は、少なくとも症状の面から見て患者の症状が一見安定している間に、所定の推奨容量計画に従って、少なくとも部分的に治療薬の投与を行うことを選ぶよりも、むしろ症状に基づいてケースバイケースで治療を受ける傾向にある。所定の推奨容量計画が将来の不安定性又は悪化を遅延又は阻止できる可能性がある場合でも、そういう傾向にあるようである。ある有名な眼科で観察されたことであるが、血管新生阻害剤が湿性ARMDに罹患している患者に投与されたが、それは所定の用量計画に従ってではなく、むしろ患者の眼の症状が突然悪化又は不安定化してから、又は滲出物(例えば出血)の存在が確認されてから行われた。
【0068】
臨床試験により証明されていることであるが、視力などの重要なパラメータの観点から見て、ある種の血管新生阻害剤(例えばマキュジェン(Macugen)及びルーセンティス(Lucentis))は、推奨通りに投与された場合、すなわち薬剤を含む溶液の硝子体内反復投与が行われた場合、有効である。例えば、ある種の血管新生阻害剤の投与は、視力喪失の速度を遅らせ、少なくとも一時的には視力を改善する場合がある。臨床試験の結果に基づけば、ルーセンティス(Lucentis)の場合、推奨投与間隔は4週間(例えばHeier, J.S.ら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 44:e−abstract 972, 2003を参照)、マキュジェン(Macugen)の場合は6週間である(例えばGragoudas ES, N Engl J Med., 351(27):2805−16, 2004を参照)。アバスチン(Avastin)は、現在米国食品医薬品局(FDA)によって眼の疾患の治療用には承認されていないが、ある種の癌の治療用には承認されており、眼の使用にも入手可能である。ルーセンティス(Lucentis)及びアバスチン(Avastin)はVEGFイソフォームに結合することにより類似の方法で作用するのであるから、治療効果も類似しているはずである。
【0069】
前記投与期間に従って血管新生阻害剤を反復投与すると、新たな血管新生及び血管からの漏出が阻害されることにより、被験者の眼の症状が持続的に改善される。しかしながら、硝子体内注入に伴う危険性が存在するので、患者の症状が実質的に安定している間は、眼科医は重篤な危険性を伴う治療は行いたがらないようである。同様に、患者も、症状が実質的に安定している間は、重篤な危険性を伴う治療は受けたがらないようである。
【0070】
従って、硝子体内注入を避けたいという願望の結果、血管新生阻害剤は、推奨又は所定の投与間隔に従っては投与されない場合がある。実際には、こういう薬剤は症状に基づいて投与される場合がある。例えば、ベースラインの状態(例えば、前回の用量で血管新生阻害剤を投与した結果改善した状態)と比べて、視力の急性の喪失及び/又は滲出物の存在など、眼の症状の悪化又は不安定化を被験者が経験した後で投与される。そういう悪化又は不安定化は、最初の改善後、様々な予測不能な時期に起きる場合がある。患者が症状の面で安定している間は、血管新生阻害剤で患者を再治療し、将来の悪化又は不安定化を予防しようと努力する代わりに、被験者が実際に悪化又は不安定化を経験するまで治療を延期し、治療は、あらゆる可能な予防効果の努力以外は、症状面の改善に終わる傾向にあり、その結果、重篤な合併症の危険を招く可能性がある。従って、症状面で安定した眼への硝子体注入は避けようという傾向は、医療実施の面で、これまで理解されていない重要な影響を及ぼしている。眼科医及び患者が感じているリスク利益率により、血管新生阻害剤の硝子体内投与は、約4週間又は6週間の所定の投与間隔に従って行われるよりも、むしろ患者の眼の悪化又は不安定化に従って個別的に行われている。所定の推奨用量計画に従って治療を行う場合と比べて、症状に基づいた治療が、長期的に見て(例えば1年又はそれ以上)効果が大なのか、小なのか、それとも同等なのかは不明である。しかしながら、眼科医も患者も、硝子体内注入に伴う明確で公知の合併症の危険性を考慮し、症状ベースではなく4−6週間の所定の間隔で抗血管新生治療を施すことによりもたらされる長期的利益の可能性を捨て去っている。
【0071】
本発明家達の観察によれば、治療が患者の眼の症状を急速に改善する可能性がない限り、眼科医も患者も硝子体内注入に伴う危険性を受け入れたがらないようだ。しかし、かかる投与方法は、長期的改善及び/又は被験者の眼の症状の安定化という面から見て最善ではない。
【0072】
症状に基づく治療は、患者の眼の症状の悪化を予防又は遅延するという意味では、最善な方法ではないことを本発明は認識している。更に、患者の眼の症状の急速な改善にとって好ましい又は最適な治療薬の調剤は、長期的改善及び/又は安定化にとって好ましくない、又は最適でない場合がある。例えば、眼疾患の場合、急速な改善は、治療薬を溶液又は急速に放出できる形態で局所的に投与し、所望の活性部位において治療薬の濃度を急激に上昇させることにより最も良く達成できる。しかし、長期的効果は、低い濃度であるが治療的に有効な濃度の治療薬を供給する徐放性調剤を局所的に投与することにより、最高に達成できる。更に、特定の症状を軽減するのに最も適した治療薬が、長期的効果をもたらす面では適していない場合がある。
【0073】
投与する又は投与という用語は、一般的に、治療薬、組成物、調剤などを被験者の身体上又は身体内の所望の部位又は場所(例えば眼内の部位又は場所)に導入することを意味する。投与は、例えば医療提供者によって行われる。医療提供者とは、便宜上、本明細書では一般的に眼科医を意味するが、本明細書記載の方法は、本発明の方法及び他の方法(例えば眼疾患の診断及び/又は監視)を含めて、資格のある医療提供者であればだれが行っても良い。
【0074】
本発明は、被験者の眼が比較的安定している間は、重篤な合併症の危険性を伴う治療は回避したいと望む眼科医及び患者の嗜好に対応する組成物、方法及び製品を提供するが、それと同時に、長期的改善、安定化及び/又は症状の進行の遅延に適した治療薬及び/又は調剤がもたらす効果も提供する。本発明の一形態では、黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供されるが、それには第一及び第二の治療薬を単一の手順で被験者の眼に投与するステップも含まれ、第一の治療薬は被験者の眼の症状を急速に改善し、第二の治療薬は長時間作用性の治療薬、又は徐放性調剤の成分として投与される。当業者により理解されている通り、全ての患者の眼の症状が改善されるわけではない。応答時間(ここで応答という用語は、眼の症状の改善を意味する)とは、応答を示す患者の応答時間の平均である。本発明のある実施形態では、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%の患者が急速な改善を示す。ある実施形態では、反応速度は10%と100%の間である。若しくは、30%と80%の間など、中間の範囲が急速な改善を示す。
【0075】
本発明のある実施形態では、被験者の眼の症状を急速に改善する第一の治療薬が投与される。治療薬は、例えば、被験者の眼の症状が急速に悪化(例えば網膜出血又は血管からの漏出)してから投与しても良い。同じ手順において、第二の治療薬(第一の治療薬と同じでも異なっていても良い)が投与されるが、患者への追加リスクはほとんど又は全くない。第二の治療薬は長時間作用性の薬剤又は徐放性調剤の成分(又はその両方)である。第二の治療薬は、長期的効果を患者に提供できる。好ましくは、患者が目の症状の不安定化又は悪化を経験するまでの期間を長引かせる。
【0076】
第一及び第二の治療薬は連続して投与しても良いし、実質的に同時に投与しても良い。連続的に投与する場合、順番はいずれでも良い、順番は、薬剤の種類や調剤に基づいて選択しても良い。本発明のある実施形態では、第一及び第二の治療薬は、わずか5、10、15、30又は45秒、又はわずか1、2、3、4、5,10、15又は30分間隔で投与される。すなわち、本発明の様々な実施形態において、第一の薬剤の投与完了と第二の薬剤の投与完了との間隔は、わずか5、10、15、30又は45秒、又はわずか1、2、3、4、5,10、15又は30分間隔である。本発明のある実施形態では、第一及び第二の治療薬の投与は、第一又は第二の治療薬が医療又は外科用の道具又は装置(例えば注射針、注射器、トロカール、カテーテル、カニューレ、又は溶液又はインプラントなどの固形調剤を封入又は包含し、そういう溶液又は固形調剤を眼に導入するのに用いられる他の装置)の領域を離れ、被験者の眼の組織又は体液に接触した時間からわずか5、10、15、30又は45秒、又は1、2、3、4、5,10、15又は30分以内に完了する。被験者の眼に治療薬を導入するのに使用される医療又は外科用の道具又は装置の領域を投与される薬剤の全用量が離れた時点で、投与は完了したことになる。勿論、そういう道具又は装置には、薬剤の残留量が残っている場合があるのはご理解頂きたい。第一又は第二の治療薬が医療又は外科用の道具又は装置の領域を離れ、被験者の眼の組織又は体液に接触した時間から、第一及び第二の治療薬の投与が完了するまでの時間を、本明細書では、投与時間ウインドウと呼ぶ。3つ以上の治療薬が投与される場合は、いずれかの治療薬が医療又は外科用の道具又は装置の領域を離れ、被験者の眼の組織又は体液に接触した時間から、全ての治療薬の投与が完了するまでの時間が、投与時間ウインドウである。第一及び第二の治療薬に関する短い投与時間ウインドウが、本発明の別の特徴である。本発明の第二の形態では、黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供されるが、それには第一及び第二の治療薬を短い時間ウインドウ内に被験者の眼に投与するステップも含まれ、第一の治療薬は被験者の眼の症状を急速に改善し、第二の治療薬は長時間作用性の治療薬、又は持続放出性調剤の成分として投与される。本発明の様々な実施形態において、時間ウインドウは、わずか5、10、15、30又は45秒、又はわずか1、2、3、4、5,10、15又は30分である。
【0077】
本発明の更に別の実施形態では、黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供されるが、それには第一及び第二の治療薬を被験者の眼に投与するステップも含まれ、第一の治療薬は血管新生阻害剤であり、第二の治療薬は長時間作用性の治療薬、又は持続放出性調剤の成分として投与される。第二の治療薬は補体阻害剤であってもよいが、これに限定されるものではない。ある実施形態では、第二の治療薬はコンプスタチン(compstatin)アナログである。第一及び第二の治療薬は、任意に、単一の手順で投与される。
【0078】
本発明の更に別の実施形態では、黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患の治療方法が提供されるが、それには第一及び第二の治療薬を被験者の眼に投与するステップも含まれ、第二の治療薬は長時間作用性の治療薬又は持続放出性調剤の成分として投与される補体阻害剤である。第一の治療薬は血管新生阻害剤であってもよいが、これに限定されるものではない。第一及び第二の治療薬は、任意に、単一の手順で投与される。
【0079】
被験者の眼の症状を急速に改善する治療薬は、液体媒質の形で投与しても良い。いくつかの実施形態では、薬物は、少なくとも部分的には、時間をかけて薬物の十分量を放出し、十分迅速に被験者の眼の症状を改善する調剤の形で投与される。例えば、投与後24、48、72又は96時間以内、1週間以内又は2週間以内に崩壊する又は有効量の薬物を放出する粒子を用いても良い。ある実施形態では、薬物の最初の部分は溶液の形で提供され、第二の部分は時間をかけて放出する調剤の形で提供される。第二の部分は、任意に、第二の薬物の徐放性製剤成分である。
【0080】
本発明のある実施形態では、第一及び第二の治療薬を単一の手順で投与することにより、合併症を伴う全体的なリスクを最小限に抑え、主に進行を遅延させる目的である第二の治療薬の投与によってそれ以上の悪化又は不安定化を抑え、及び/又は、眼科医及び/又は患者に歓迎されることであるが、被験者の眼の症状を急速ではなく徐々に改善する。このように、本発明の複合治療法は、眼疾患の侵襲的治療に伴うリスク利益率を予想外に改善する。
【0081】
本発明は、更に、単一の手順を使って、眼に複数の治療薬を容易に、効果的に、安全に投与できるようにする製薬パック又はキット及び他の製品を提供する。
【0082】
本発明のある特定の実施形態では、即効性の抗血管新生剤及び徐放性又は長時間作用性の補体阻害薬の組み合わせを用いて湿性黄斑退化を治療する方法を提供する。即効性の抗血管新生剤は、治療後数週間で漏出を減少させ、及び/又は新しく形成された血管の後退を促進する。徐放性又は長時間作用性の補体阻害薬は、新しい血管の形成を予防し、かなりの期間(装置又は調剤次第であるが、数ヶ月又は数年)疾患の後退を促進する。このように、本発明のある実施形態による治療方法は、(1)急性の湿性黄斑退化に罹患している患者の血管形成及び/又は漏出を阻止するので、網膜は脈絡膜の層に接近し、網膜の虚血性損傷は減少する;(2)網膜/RPE/脈絡膜層の炎症反応を低下させる徐放性又は長時間作用性の補体阻害剤を提供することにより、血管成長のための主要な刺激を阻害し、更に結晶腔の形成を任意に抑制する。
【0083】
本発明のある実施形態では、第一の治療薬の投与は、被験者の眼の症状を急速には改善しない。しかし、症状は徐々に(15日以内から3週間、15日以内から4週間、15日以内から5週間又は15日以内から6週間で)改善される。
【0084】
(II.治療薬)
本発明では、様々な治療薬が使用される。第一及び第二の治療薬は同じであっても異なるものであっても良い。更に、本発明は2つの治療薬の投与とは限定されない。単一の手順で投与される治療薬の数はいくらであっても良い。例えば、同じ手順で、溶液の液体媒質内(例えば水性媒質)の1つ又はそれ以上の治療薬を含む組成物の投与であっても良いし、1つ又はそれ以上の治療薬を含む徐放性調剤(例えば眼内インプラント)を含む又は主にそういう調剤から成る組成物を投与しても良い。従って、本発明のある実施形態では、液体組成物中の少なくとも2、3又は4の治療薬及び徐放性調剤中の少なくとも2、3又は4の治療薬を投与する。本明細書記載の治療薬は、液体組成物及び徐放性調剤のいずれか又は両方に含めても良い。徐放性調剤は、徐放性を保持する限り、液体組成物であっても良い。ある特定の実施形態では、液体組成物には2つの血管形成阻害剤又は1つの血管形成阻害剤と1つの補体阻害剤が含まれる。ある特定の実施形態では、徐放性調剤には、2つの血管新生阻害剤、1つの血管新生阻害剤と1つの補体阻害剤、又は2つの補体阻害剤が含まれる。任意で、1つ又はそれ以上の追加の治療薬が含まれる。本発明のある実施形態では、徐放性調剤には、コンプスタチン(compstatin)又はそのアナログおよびC5a受容体遮断薬が含まれる。本発明のある実施形態では、徐放性調剤には、コンプスタチン(compstatin)又はそのアナログおよびC3a受容体遮断薬が含まれる。本発明のある実施形態では、液体組成物には、コンプスタチン(compstatin)又はそのアナログおよびC5a受容体遮断薬が含まれる。本発明のある実施形態では、液体組成物には、コンプスタチン(compstatin)又はそのアナログおよびC3a受容体遮断薬が含まれる。
【0085】
治療薬は小分子であっても、蛋白質、ペプチド、核酸などの生体高分子であっても良い。本発明の種々の実施形態で使用される治療薬のクラスには、血管形成阻害剤、補体阻害剤、抗炎症剤、抗感染剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬)、抗ヒスタミン剤、麻酔薬又は他の鎮痛剤、ベータ遮断薬などが含まれるが、これだけに限定されるものではない。又、ある薬剤は複数のクラスに属していることは理解されている。本発明のある実施形態では、第一の治療薬は、投与後、黄斑浮腫、滲出及び/又は血管透過性を急速に減少させる。本発明のある実施形態では、第二の治療薬は、眼の炎症、CNV及び/又はRNVを減少させる。
【0086】
本発明のある実施形態では、治療薬は、共有結合又は非共有結合で結合する標的部分を有している。標的部分は、標的細胞の表面に存在するマーカー、又は所望の活性部位に存在する結晶腔構成成分などの他の成分に結合するリガンドを含む。リガンドという用語は、第二部分に特異的に結合する部分を意味する。
【0087】
使用される治療薬の全量及び濃度は様々である。例えば、非限定的に、用量は治療される眼毎に0.0001mg/用量と100mg/用量の間である。例えば、0.001mg/用量と100mg/用量の間、0.01mg/用量と100mg/用量の間、0.05mg/用量と50mg/用量の間、0.1mg/用量と10mg/用量の間、0.5mg/用量と5mg/用量の間、1mg/用量と10mg/用量の間(用量はいずれも概算)。例えば、非限定的に、本発明の組成物中の治療薬の濃度は、溶液1ミリリットル当たり治療薬約0.0001mg/用量と100mg/用量の間である。例えば、濃度は、0.001mg/mlと100mg/mlの間、0.01mg/mlと50mg/mlの間、0.01mg/mlと50mg/mlの間、0.1mg/mlと10mg/mlの間等である(濃度はいずれも概算)。特定の実施形態では、第一及び第二の治療薬のいずれか又は両方の用量は、非限定的に、正確に又は大体0.1、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0又は5.0mg、又は前記いずれか2つの値で区切られた範囲内の値である。例えば、ある実施形態では、徐放性調剤(例えば眼内インプラント)では、治療薬の量は正確に又は大体0.1、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0又は5.0mg、又は前記いずれか2つの値で区切られた範囲内の値である。治療薬が既に承認済みのもの又は疾患用として研究中のものである場合、従来の用量を用いても良い。ここで、従来という用語は、有効であると以前に証明された単位用量、及び/又は単一の薬剤として使用される場合、当業者により許容されている単位用量を意味する。例えば、ルーセンティス(Lucentis)は0.5mg、マキュジェン(Macugen)は0.3mg投与して良い。別の実施形態では、用量は従来の用量の0.5倍乃至2倍である。
【0088】
以下のセクションでは、本発明で使用される種々の治療薬を記載するが、本発明はそういう薬剤又は薬剤のクラス又はその作用機構に限定されるものではない。
【0089】
(A.血管新生阻害剤)
本発明のある実施形態では、1つ又はそれ以上の治療薬が血管新生阻害剤である。ある種の血管新生阻害剤は、標的細胞(例えば内皮細胞)に損傷を与える又はそれを破壊する細胞障害剤、又は免疫介在応答を誘引し、標的細胞に損傷を与える又はそれを破壊する細胞障害剤である。第二のグループに含まれる薬剤は、実質的には内皮細胞に損傷を与えたり破壊したりしないが、代わりに、その増殖、遊走、毛細管形成、内皮細胞の前駆体からの分化、又は血管新生に関係する他のプロセスを阻害する。いずれか又は両方のグループの血管新生阻害剤が使用できる。
【0090】
種々の血管新生阻害剤が開発されている。血管内皮細胞成長因子(VEGF)は血管形成の主要な調節因子の一つである。他の調節因子としては、線維芽細胞成長因子2、色素上皮細胞由来成長因子(PEDF)、アンジオポイエチン、細胞外成長因子分子などがある(例えば、血管新生に関与している血管新生阻害剤及び分子について考察しているNg, E and Adamis, A., Can, J. Ophthalmol., 40:352−68, 2005を参照)。こういう調節因子及び/又はそれと相互作用する蛋白質は、血管新生阻害剤の標的である。VEGF−Aは、in vivoで血管新生を刺激する機能を有する内皮細胞マイトジェンである(Leung DW, Cachianes G, Kuang W−J, Goeddel DV, Ferrara N,, Science, 246:1306−1309, 1989)。他のVEGFファミリーのメンバーには、VEGF−B、VEGF−C及びVEGF−Dが含まれる。VEGF−Aは、内皮細胞の増殖及び生存及び血管透過性を促進する(前出のNg及びその参照文献)。VEGF−Aは、121、145、165、189及び208のアミノ酸(ヒト)を含む数種類のイソフォームとして存在する。その中でも、VEGF165は、眼の病理学的血管新生に主に関係していると考えられている。数多くのVEGF受容体が存在する(例えばVEGFR−1、VEGFR−2、VEGFR−3)。
【0091】
VEGF(例えばVEGF−A)、又は1つ又はそれ以上のVEGF受容体の活性及び/又は発現を阻害する種々の薬剤が、本発明では使用される。そういう薬剤は、本明細書では抗VEGF剤と呼ばれる。有用な薬剤には、1つ又はそれ以上のVEGFイソフォーム又はVEGF受容体と結合する抗体、抗体フラグメント及び核酸がある。マキュジェン(Macugen)(Pfizer Eyetech)は、VEGF165(米国特許第6051698号)に結合しそれを阻害するVEGF核酸リガンド(アプタマとも呼ばれる)である。ルーセンティス(Lucentis)(Genentech)は血管内皮細胞成長因子A(VEGF−A)に結合しそれを阻害するヒト化抗体フラグメントである(Gaudreault, J.ら,Invest Ophthalmol. Vis. Sci. 46, 726−733 (2005)及びその参照文献)。アバスチン(Avastin)(Genentech)は、やはりVEGFに結合する全長のヒト化抗体である(Ferrara, N. Endocr Rev., 25(4):581−611, 2004で検討)。
【0092】
本発明で使用される他の血管新生阻害剤には、コンブレタスタチン又はその誘導体又はCombretastatin A4 (CA4P)などのそのプロドラッグ;抗体のFc領域に結合する2つのVEGF受容体の細部外ドメインを含む融合蛋白質であるVEGF−Trap (Regeneron Pharmaceuticals)(米国特許第5844099号);EVIZON(登録商標)(乳酸スクアラミン);AG−013958(Pfizer, Inc.);JSM6427(Jerini AG)、ラパマイシン(シロリムス)及びそのアナログ、酢酸アネコルタブ及び他の抗血管新生薬などが含まれる。
【0093】
本発明のある実施形態では、血管新生阻害剤は、RNA干渉(RNAi)又は遺伝子サイレンシングとも呼ばれる細胞プロセスにより1つ又はそれ以上の血管新生促進分子の発現を阻害する(Novina, C.D. and Sharp, P.A. (2004) The RNAi revolution, Nature, 430, 161−164)。そういう薬剤は、本明細書ではRNAi薬と呼ばれ、siRNA及びshRNAがそれに含まれる。本発明で使用されるRNAi薬は、通常、長さ約17と29ヌクレオチド(例えば19−25)の間又は19ヌクレオチドの二本鎖部分を含む核酸であり、そのうちの一つの鎖は、約17−19(例えば19−25)又は19ヌクレオチドの標的遺伝子に実質的又は完全に相補的(例えば、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は100%相補的)である部分(アンチセンス又はガイドストランド)を含む。任意に、RNAi薬は1つ又はそれ以上の一本鎖の3’オーバーハングを含む。細胞内にRNAi薬が存在することにより、通常、標的遺伝子によってコード化された標的mRNAの配列特異的分解及び/又は翻訳抑制が生じ、その結果発現が阻害される。RNAi薬及びその設計及び製造方法は当業者には周知である。例えば、前出のNovina及びその参照文献、並びにU.S.S.N.09/821832(米国公開番号20020086356)及びU.S.S.N.10/832248(米国公開番号20040229266)を参照のこと。RNAi薬は天然のRNA及び/又はDNAに見出されるヌクレオチドで完全に構成されていても良いし、様々なヌクレオチドアナログで構成されていても良いし、又は他の方法で天然のRNA及びDNAの構造とは異なっていても良いことは、理解して頂きたい。例えば、米国特許公開番号20030175950、20040192626、20040092470、20050020525及び20050032733を参照のこと。
【0094】
本発明のある実施形態では、血管新生阻害剤は、1つ又はそれ以上のVEGFイソフォーム(例えばVEGF165)の発現、又はVEGF受容体の発現を阻害するRNAi薬(例えばsiRNA)である。当業者であれば、これらの分子(又は、限定されないが、アンジオジェニン、アンジオポイエチン、線維芽細胞成長因子、PEDFなどの他の標的血管新生促進分子)の既知の配列に基づいて、適切なRNAi薬を設計できる。そういう配列は公共のデータベース(例えばGenBank)で入手可能である。本発明のある実施形態では、RNAi薬は、任意で、脂質などの摂取促進化合物と共に、in vitroで、適量を細胞(例えば内皮細胞)に投与した場合、標的遺伝子の発現を少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%阻害する。本発明のある実施形態では、RNAi薬は、適量を眼に投与すると、眼の少なくとも1つの構造体、組織又はコンパートメント(例えば網膜内)において、標的遺伝子の発現が少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又はそれ以上阻害される。代表的なRNAi薬には、Cand5 (Acuity Pharmaceuticals)として知られる、VEGFの発現を阻害するsiRNA、VEGFR−1の発現を阻害するSima−027(Sima Therapeutics)及びCand5又はSima−027とは1、2又は3の位置で配列が異なるsiRNAsなどが含まれるが、これだけに限定されるものではない。本発明の有効なRNAi薬の他の配列及び構造は、U.S.S.N.10/294228(米国公開番号20040018176)、U.S.S.N.10/764957(米国公開番号20050054596)などに記載されている。標的遺伝子の発現を阻害する他の核酸には、アンチセンス・オリゴヌクレオチド及びリボザイム(例えば、米国特許第6818447を参照)がある。
【0095】
他の血管新生阻害剤として、アンジオスタチン、アレステン、カンスタチン、コンブスタチン(combstatin)、エンドスタチン、スロンボスポンディン、タムスタチンなど、種々の内因性又は合成のペプチドなどが含まれる。他の血管新生分子として、サリドマイド及びその誘導体(iMiDsなど)が含まれる(Bamias A, Dimopoulos MA. Eur J Intern Med. 14(8):459−469, 2003;Bartlett JB, Dredge K, Dalgleish AG. Nat Rev Cancer. 4(4):314−22,2004)。
【0096】
ある種の血管新生阻害剤(例えば、アバスチン(Avastin)やルーセンティス(Lucentis))を硝子体内注入により投与すると、被験者の眼の症状が急速に改善される。如何なる理論によっても拘束されたくはないが、急速な改善は、少なくとも部分的には、血管からの漏出の減少及び黄斑浮腫の減退に起因しているようである。この効果は、少なくとも短期的(すなわち治療後最初の1−2週間)には、この期間に生じる血管の発現及び成長の阻害と少なくとも同じ程度重要である。黄斑浮腫を急速に減少させる治療薬は、被験者の眼の症状を急速に改善するにあたり、特に有益であろう。VEGFは血管浸透性誘引剤であるから、抗VEGF薬は本目的には特に有効であろう。本発明の特定の実施形態では、最初の治療薬はエンドスタチンである。エンドスタチンには、血管透過性を減少させる働きがある(例えばCampochiaro, PA., Expert Opin Biol Ther., 4(9):1395―402, 2004を参照)。本発明のある実施形態では、エンドスタチン及び抗VEGF薬(例えば、VEGF又はVEGF受容体に結合する抗体、抗体フラグメント又はアプタマ)が投与される。第一の治療薬及び第二の治療薬のいずれか又は両方を、抗VEGF薬及びエンドスタチンからなる群から選択しても良い。薬剤のいずれか又は両方を液体組成物又は徐放性調剤に含めても良い。
【0097】
(B.補体経路及び補体阻害剤)
補体系は、傷害への応答、感染因子などの異物に対する防御など、数多くの生理学的プロセスにおいて重要な役割を演じている。補体系は,数多くの疾患においても重要な役割を演じていることが知られている(Makrides, SC, Pharm Rev., 50(1):59−87, 1998)。補体系には、古典的経路及び代替経路として公知の二つの主要経路に関係する30以上の血清及び細胞蛋白質が含まれる(Kuby Immunology, 2000)。
【0098】
古典的経路は、通常、抗原とIgM又はIgGとの複合体がC1と結合することにより誘発される(但し、他の活性化因子が当該経路を誘発する場合もある)。活性化されたC1はC4及びC2をC2a及びC2b並びにC4a及びC4bへ分割する。C4b及びC2aは結合してC3コンバターゼを形成し、C3コンバターゼはC3をC3a及びC3bへ分割する。C3bとC3の結合によりC5コンバターゼが形成され、C5コンバターゼはC5をC5a及びC5bへ分割する。C3a、C4a及びC5aはアナフィラトキシンで、急性の炎症応答において複数の反応を仲介する。C3a及びC5aは、好中球などの免疫系細胞を引き寄せる化学走化性因子でもある。C3a及びC5aコンバターゼの活性は、補体制御蛋白(CCP)ファミリーとも呼ばれる補体活性調節因子(RCA)ファミリーの数多くの内因性メンバーにより制御され、第1型補体受容体(CR1;C3b:C4b受容体)、第2型補体受容体(CR2)、膜補因子蛋白(MCP;CD46)、崩壊促進因子(DAF)、H因子(fH)及びC4−b結合蛋白(C4bp)などがそれに含まれる。RCA蛋白は米国特許第6897290号に記載されている。
【0099】
代替経路は、細菌の表面及び種々の複合多糖類により開始される。当該経路においては、自発的に低レベルで生じるC3の分割の結果C3bが生じ、それが細胞の表面の標的と結合し、B因子と複合体を形成し、それが後にD因子により分割され、C3コンバターゼが生じる。C3の分割及びC3bの別の分子とC3コンバターゼとの結合によりC5コンバターゼが生じる。当該経路のC3コンバターゼ及びC5コンバターゼは、C3b、DAF、MCP及びfHにより調節されている。
【0100】
両経路で生じたC5コンバターゼは、C5をC5a及びC5bに分割する。C5bはC6、C7及びC8と結合してC5b−8を形成し、それはC9の重合を触媒して膜攻撃複合体(MAC)を形成する。MACは標的の細胞膜に侵入し、細胞溶解を引き起こす。細胞膜に存在する少量のMACが、細胞の死以外にも様々な結果を引き起こす場合がある。
【0101】
第三の補体経路であるレクチン補体経路は、マンノース結合レクチン(MBL)及びMBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)が炭水化物に結合することにより開始される。ヒトのレクチン経路では、C4、C2及びC3の蛋白質分解にMASP−1及びMASP−2が関係し、前述のC3コンバターゼが生じる。
【0102】
補体活性は、補体制御蛋白(CCPs)と呼ばれる種々の哺乳類蛋白質によって調節されている。これら蛋白質は、リガンド特異性及び補体阻害機構の面で異なっている(Kisczewski, MK and Atkinson, JP, in The Human Complement System in Health and Disease, eds. Volanakis, JE and Frank, NM, Dekker, New York, pp. 149−66, 1998)。こういう蛋白質は、コンバターゼの通常の崩壊を加速、及び/又はI因子のための補助因子として機能し、C3b及び/又はC4bを酵素的に小断片に分割する。CCPsは、ショートコンセンサスリピート(SCR)、補体制御蛋白(CCP)モジュール又はSUSHIドメインとして知られる複数の相同モチーフの存在により特徴付けられる(Reid, KBM and Day, AJ, Immunol Today, 10:177−80, 1989)。約50−70のアミノ酸(通常は約60のアミノ酸)から成るこれらドメインは、4つのジスルフィド結合システイン(2つのジスルフィド結合)、プロリン、トリプトファン及び多くの疎水性残基を含む保存されたモチーフによって特徴付けられる。SCRコンセンサス配列は図2に示してある。特定のSCRは、1つ又はそれ以上の位置でコンセンサスとは異なっている。
【0103】
本発明のある実施形態では、治療薬の少なくとも一つ(例えば第二の治療薬)は補体阻害剤である。本発明のある実施形態では、補体阻害剤は補体の活性化を阻害する(例えば、1つ又はそれ以上の補体蛋白の活性化を阻害する)。例えば、非活性補体蛋白から活性形態への分割を阻害する。本発明で使用される補体阻害剤には、(i)ウイルス又は哺乳類の補体制御又は補体阻害蛋白並びに補体を阻害する機能を保持する断片又はその変異体;(ii)コンプスタチン(compstatin)及びその誘導体;補体受容体拮抗薬(iii)などが含まれるが、これだけに限定されるものではない。
【0104】
(C3の活性化又は活性を阻害する化合物)
本発明のある実施形態では、補体阻害剤はC3の活性化を阻害する。典型的な化合物には、C3に結合しその分割を阻害する化合物が含まれる。ある実施形態では、化合物はペプチドである。ある実施形態では、化合物は環状化合物である。ある特定の実施形態では、化合物はコンプスタチン(compstatin)アナログである。コンプスタチン(compstatin)は、補体成分C3に結合し補体の活性化を阻害するファージ提示を用いて同定される環状ペプチドである。コンプスタチン(compstatin)は、コンバターゼによるC3のC3a及びC3bへの分割を阻害する。C3は補体の活性化に関与する3つの経路全部の中心的成分であるので、コンプスタチン(compstatin)及びそのアナログは、3つの経路全部の共通の蛋白質を阻害できる。如何なる理論によっても拘束されたくはないが、補体活性化の代替経路を阻害するコンプスタチン(compstatin)及びそのアナログは、本明細書記載の疾患のいくつかへの効果の面で、有意に貢献できると考えられる。
【0105】
コンプスタチン(compstatin)は、他の補体阻害剤と比較して(特に徐放性の面で)、様々な眼疾患において、ユニークで予想外の特長を有していることを、本発明は認識している。コンプスタチン(compstatin)アナログは、比較的低分子量(〜1.6kD)でその他種々の特性を有しているので、眼に治療濃度を供給するのに適した徐放性調剤及び装置に取り入れやすい。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、持続的に長時間(例えば、1−2週間、2−4週間、1−3ヶ月、3−6ヶ月、1−2年、2−5年又は5−10年)供給される。
【0106】
コンプスタチン(compstatin)は米国特許第6319897号に記載されている。コンプスタチン(compstatin)は、Ile−[Cys−Val−Val−Gln−Asp−Trp−Gly−His−His−Arg−Cys]−Thr(配列番号8)の配列を有し、角括弧で示された2つのシステインの間にジスルフィド結合が存在する。補体阻害活性は、より大きいペプチド(米国特許第6319897号の配列番号1)のN末端環状領域でも示される。補体を阻害するコンプスタチン(compstatin)のフラグメント及び変異体が数多く同定されている。例えば、米国特許第6319897号の配列番号13、15、20、21及び22を参照のこと。
【0107】
コンプスタチン(compstatin)よりも高い補体阻害活性を示すコンプスタチン(compstatin)アナログが数多く合成されている。国際公開第2004/026328(PCT/US2003/029653)、 Morikis, D.ら, Biochem Soc Trans. 32(Pt1):28−32, 2004, Mallik, B.ら, J. Med. Chem., 274−286, 2005及び/又はKatragadda, M.ら, J. Med. Chem., 49:4616−4622, 2006を参照のこと。前述の文献に記載されている補体阻害ペプチド及びペプチド模擬体は、本発明に使用できる。
【0108】
本明細書で使用される場合、コンプスタチン(compstatin)アナログという用語は、コンプスタチン(compstatin)及びその補体阻害アナログを含み、コンプスタチン(compstatin)誘導体と同意語として使用される。コンプスタチン(compstatin)アナログという用語は、コンプスタチン(compstatin)、及びコンプスタチン(compstatin)に基づいて設計又は同定され、同業者により容認されている補体活性アッセイ又は実質的に類似又は同等のアッセイにより測定される補体阻害活性がコンプスタチン(compstatin)のそれの少なくとも50%である他の化合物も含んでいる。いくつかのコンプスタチン(compstatin)アナログ及び適切なアッセイが、米国特許第6319897号、国際公開第2004/026328、前出のMorikis、前出のMallik及び/又は前出のKatragadda2006に記載されている。アッセイは、例えば、代替経路仲介の赤血球溶解を測定する、又はELISAアッセイである(係属中の出願USSN11/544389及びPCT/US06/39397の実施例5及び6を参照)。本発明は、本明細書記載の1つ又はそれ以上のコンプスタチン(compstatin)アナログ又は組成物が本明細書記載のいずれかの治療方法に使用される実施形態を含んでいる。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)よりも補体阻害活性の高いペプチド(例えば、少なくとも5倍高い活性、少なくとも10倍高い活性など)が用いられる。
【0109】
コンプスタチン(compstatin)及びそのアナログは、例えばN末端及び/又はC末端でアセチル化又はアミド化されても良い。例えば、コンプスタチン(compstatin)及びそのアナログは、N末端でアセチル化され、C末端でアミド化される。当業界の使用方法と一致することであるが、本明細書で使用されるコンプスタチン(compstatin)及びコンプスタチン(compstatin)と比較した本明細書記載のコンプスタチン(compstatin)アナログの活性は、C末端をアミド化されたコンプスタチン(compstatin)について言及している(前出のMallik、2005)。
【0110】
コンプスタチン(compstatin)アナログのコンカテマー又は多量体も本発明に使用される。コンプスタチン(compstatin)アナログを含む超分子複合体も本発明の方法に使用される。
【0111】
コンプスタチン(compstatin)アナログの活性は、例えば特定の血漿濃度におけるIC50(補体の活性化を50%阻害する化合物の濃度)で表現しても良い。当業界で認識されている通り、IC50が低いほど活性は高い。本発明で使用される好適なコンプスタチン(compstatin)アナログの活性は、少なくともコンプスタチン(compstatin)の活性と同じである。ある修飾は補体阻害活性を低減又は排除することが知られており、そういう修飾は明示的に本発明の実施形態から除外しても良い。コンプスタチン(compstatin)のIC50は、代替経路仲介の赤血球溶解アッセイ測定を含む補体活性アッセイによると、12μMであると報告されている(国際公開第2004/026328号)。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログのIC50は、コンプスタチン(compstatin)のIC50以下である。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログの活性はコンプスタチン(compstatin)のそれの2倍から99倍の間である(すなわち、アナログのIC50は、コンプスタチン(compstatin)のIC50よりも2倍から99倍低い)。例えば、活性はコンプスタチン(compstatin)のそれの10倍から50倍の間である。又はコンプスタチン(compstatin)のそれの50倍から99倍の間である。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログの活性は、コンプスタチン(compstatin)のそれの99倍から264倍の間である。例えば、活性はコンプスタチン(compstatin)のそれの100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260又は264倍であっても良い。ある実施形態では、活性はコンプスタチン(compstatin)のそれの264倍から300倍の間、300倍から350倍の間、350倍から400倍の間又は400倍から500倍の間である。本発明は、更に、コンプスタチン(compstatin)のそれの500倍から1000倍の活性を有するコンプスタチン(compstatin)アナログも想定している。
【0112】
C3に結合するコンプスタチン(compstatin)のKdは、等温滴定熱量計を用いて1.3μMであると報告されている(Katragaddaら,J. Biol. Chem., 279(53), 54987−54995, 2004)。種々のコンプスタチン(compstatin)アナログのC3との結合親和性は、その活性と相関関係を有し、当業界で認識されている通り、Kdが低いほど結合親和性は高い。試験されたあるアナログにおいて、結合親和性と活性の間に直線的相関のあることが示された(前出のKatragadda、2004;前出のKatragadda、2006)。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、0.1μMと1.0μMの間、0.05μMと0.1μMの間、0.025μMと0.05μMの間、0.015μMと0.025μMの間、0.01μMと0.015μMの間又は0.001μMと0.01μMの間のKdでC3と結合する。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログのIC50は約0.2μMと約0.5μMの間である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログのIC50は約0.1μMと約0.2μMの間である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログのIC50は約0.05μMと約0.1μMの間である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログのIC50は約0.001μMと約0.05μMの間である。
【0113】
コンプスタチン(compstatin)に基づいて設計又は同定される化合物には、配列が、(i)コンプスタチン(compstatin)の配列を修飾することにより得られる(例えば、1つ又はそれ以上のアミノ酸又はアミノ酸アナログをコンプスタチン(compstatin)の配列に挿入、又は1つ又はそれ以上のアミノ酸をコンプスタチン(compstatin)から削除することにより、コンプスタチン(compstatin)の配列の1つ又はそれ以上のアミノ酸を異なるアミノ酸で置換);(ii)コンプスタチン(compstatin)の1つ又はそれ以上のアミノ酸がランダム化されているファージ提示ペプチドライブラリから選択し、任意に、(i)の方法で更に修飾することにより得られる;(iii)C3又はそのフラグメントとの結合に関して、(i)又は(ii)の方法で得られるコンプスタチン(compstatin)又はそのアナログと競合的な化合物をスクリーニングすることにより同定される、アミノ酸鎖を含む化合物が含まれるが、これだけに限定されるものではない。多くの有用なコンプスタチン(compstatin)アナログが、疎水性のクラスタ、βターン及びジスルフィド架橋を含んでいる。
【0114】
本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログの配列は、コンプスタチン(compstatin)の配列を1、2、3又は4つ置換することにより得られる配列を含む、又は本質的にそれで構成される。すなわち、コンプスタチン(compstatin)の配列の1、2、3又は4つのアミノ酸が、異なる標準的アミノ酸又は非標準的アミノ酸で置換される。本発明のある実施形態では、4位のアミノ酸が変更される。本発明のある実施形態では、9位のアミノ酸が変更される。本発明のある実施形態では、4位と9位のアミノ酸が変更される。本発明のある実施形態では、4位又は9位のアミノ酸が変更される。若しくは、ある実施形態では、両方のアミノ酸4と9が変更され、更に1、7、10、11及び13から選択される位置にある2つまでのアミノ酸が変更される。本発明のある実施形態では、4、7及び9位のアミノ酸が変更される。本発明のある実施形態では、変更しても化合物が環状化できることを条件として、2又は12位又は両方のアミノ酸が変更される。かかる2及び/又は12の位置の変更は、1、4、7、9、10、11及び/又は13の位置の変更に加えても良い。任意に、コンプスタチン(compstatin)配列の1つ又はそれ以上のアミノ酸を置換することにより得られるコンプスタチン(compstatin)アナログの配列は、C末端に1、2又は3つまでのアミノ酸を含めても良い。ある実施形態では、追加のアミノ酸はGlyである。任意に、コンプスタチン(compstatin)配列の1つ又はそれ以上のアミノ酸を置換することにより得られるコンプスタチン(compstatin)アナログの配列は、C末端に5つまで又は10までの追加のアミノ酸を含めても良い。別の記載がない限り、又は文脈から別の意味が明白でない限り、コンプスタチン(compstatin)アナログは、本明細書に記載される種々の実施形態の特徴のうち1つ又はそれ以上の特徴を有していても良いし、ある実施形態の特徴が他の本明細書に記載される実施形態を更に特徴付けるものであっても良いことは、理解されるべきである。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログの配列は、本質的に、図7の上の部分に示される配列を含む、又はそれで構成される(図中、X4及びX9は修飾可能な側鎖を表す)。
【0115】
コンプスタチン(compstatin)及びコンプスタチン(compstatin)よりも多少高い活性を有するコンプスタチン(compstatin)アナログは、標準的アミノ酸(ここで標準的アミノ酸はグリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、リジン、プロリン、セリン、スレオニン及びヒスチジンである)だけを含んでいる。改善された活性を有するコンプスタチン(compstatin)アナログの中には、非標準的アミノ酸を1つ又はそれ以上含んでいるのもある。有用な非標準的アミノ酸には、単一及び複数のハロゲン化(例えばフッ素化)アミノ酸、D―アミノ酸、ホモアミノ酸、N―アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンを除く)、オルト、メタ又はパラアミノ安息香酸、ホスホアミノ酸、メトキシ化アミノ酸及びα,α‐二置換アミノ酸が含まれる。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、本明細書の他の箇所で記載したコンプスタチン(compstatin)アナログの1つ又はそれ以上のL−アミノ酸を、対応するD―アミノ酸で置換することにより設計される。そういう化合物及びその使用方法は、本発明の一つの実施形態である。使用される非標準的なアミノ酸は、2ナフチルアラニン(2−NaI)、 1ナフチルアラニン(1−NaI)、2インダニルグリシンカルボン酸(2Ig1)、 ジヒドロトリプトファン(Dht)、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン(4−Abu)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、ホモシクロヘキシルアラニン(hCha)、4−フルオロ−L−トリプトファン(4fW)、5−フルオロ−L−トリプトファン(5fW)、6−フルオロ−L−トリプトファン(6fW)、4−ヒドロキシ−L−トリプトファン(4OH−W)、5−ヒドロキシ−L−トリプトファン(5OH−W)、6−ヒドロキシ−L−トリプトファン(6OH−W)、1−メチル−L−トリプトファン(1MeW)、4−メチル−L−トリプトファン(4MeW)、5−メチル−L−トリプトファン(5MeW)、7−アザ−L−トリプトファン(7aW)、α−メチル−L−トリプトファン(αMeW)、β−メチル−L−トリプトファン(βMeW)、N−メチル−L−トリプトファン(NMeW)、オルニチン(orn)、シトルリン、ノルロイシン、γグルタミン酸などである。
【0116】
本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、1つ又はそれ以上のTrpアナログを含む(例えば、コンプスタチン(compstatin)配列と比べて4及び/又は7の位置に)。一般的なTrpアナログは前記の通りである。Beeneら, Biochemistry 41:10262−10269, 2002(特に単一及び複数のハロゲン化Trpアナログを記載);Babitzke & Yanofsky, J. Biol. Chem. 270:12452−12456, 1995(特にメチル化及びハロゲン化Trp及び他のTrp及びインドールアナログを記載);及び米国特許第6214790、6169057、5776970、4870097、4576750及び4299838も参照のこと。他のTrpアナログには、α又はβ炭素が(例えばメチル基により)置換され、任意に、インドール環の1つ又はそれ以上の位置が更に置換されている変異体が含まれる。2つ又はそれ以上の芳香族環を含むアミノ酸(その置換、非置換又は代替置換の変異体を含む)は、Trpアナログとして興味深い。
【0117】
ある実施形態では、Trpアナログは、Trpと比べて疎水性が増大している。例えば、インドール環は1つ又はそれ以上のアルキル(例えばメチル)基で置換しても良い。ある実施形態では、TrpアナログはC3と疎水的な相互反応を行う。かかるTrpアナログは、コンプスタチン(compstatin)配列と比べ、例えば4の位置に存在していても良い。ある実施形態では、Trpアナログは、一つの置換又は非置換の二環式芳香環成分又は2つ又はそれ以上の置換又は非置換の一環式芳香環成分を含んでいる。
【0118】
ある実施形態では、Trpアナログは、Trpと比べてC3と水素結合を形成する傾向が増大しているが、Trpと比べて疎水性は増大していない。Trpアナログは、Trpと比べて極性が増大、及び/又はC3の水素結合供与体と静電気的に相互作用をする機能が増大していても良い。水素結合形成機能が増大したある一般的なTrpアナログは、インドール環に電気的陰性の置換体を有している。かかるTrpアナログは、コンプスタチン(compstatin)配列と比べて、例えば7の位置に存在していても良い。
【0119】
本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、1つ又はそれ以上のAlaアナログを含んでいる(例えば、コンプスタチン(compstatin)配列と比べて9の位置に)。例えば、Alaアナログは、側鎖に1つ又はそれ以上のCHを含んでいる点を除いては、Alaと同一である。ある実施形態では、Alaアナログは、2−Abuのように、分岐していない単一のメチルアミノ酸である。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、1つ又はそれ以上のTrpアナログ(例えば、コンプスタチン(compstatin)配列と比べて4及び/又は7の位置に)及びAlaアナログ(例えば、コンプスタチン(compstatin)配列と比べて9の位置に)を含んでいる。
【0120】
本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、(X’aa)−Glu−Asp−Xaa−Gly−(X”aa)(配列番号2)の配列を有するペプチドを包含する化合物である。ここで、各X’aa及びX”aaは独立に選択されるアミノ酸又はアミノ酸アナログであり、XaaはTrp又はTrpアナログ、n>1、m>1、n+mは5と21の間の値である。ペプチドはコア配列Glu−Asp−Xaa−Glyを有し、XaaはTrp又はTrpアナログである。式中、Trpアナログは、例えば、水素結合供与体と水素結合を形成する傾向がTrpと比べて増大しているが、ある実施形態では、疎水性はTrpと比べて増大していない。例えば、アナログはTrpのインドール環が電気陰性的な部分(例えばフッ素などのハロゲン)で置換されたものであっても良い。ある実施形態では、Xaaは5−フルオロトリプトファンである。配列がこのコア配列を含み、補体活性化を阻害し、及び/又はC3と結合する非天然のペプチドは、コンプスタチン(compstatin)の配列に基づいて設計可能であることは、それに反する証拠がない限り、当業者であれば認識している。別の実施形態では、Glu−Asp−Xaa−Glyがβターンを形成できるTrp以外のアミノ酸又はアミノ酸アナログである。
【0121】
本発明のある実施形態では、ペプチドはX’aa−Glu−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)のコア配列を有している。式中、X’aa及びXaaはTrp及びTrpアナログから選択される。本発明のある実施形態では、ペプチドはX’aa−Glu−Asp−Xaa−Gly(配列番号3)のコア配列を有し、X’aa及びXaaはTrp、Trpアナログ及び少なくとも一つの芳香族環を含む他のアミノ酸又はアミノ酸アナログから選択される。本発明のある実施形態では、コア配列はペプチド内にβターンを形成する。βターンは、核磁気共鳴(NMR)などを用いて決定される立体配座を2つ又はそれ以上ペプチドが持つことができるようにフレキシブルであっても良い。ある実施形態では、X’aaは、一置換又は非置換の二環式芳香環成分又は2つ又はそれ以上の置換または非置換の一環式芳香環成分を有するTrpアナログである。本発明のある実施形態では、X’aaは、2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファン及びベンゾイルフェニルアラニンからなる群から選択される。本発明のある実施形態では、X’aaは、Trpと比べて疎水性の増大したTrpアナログである。例えば、X’aaは1−メチルトリプトファンである。本発明のある実施形態では、Xaaは、Trpと比べて水素結合を形成する傾向が増大しているが、ある実施形態では、疎水性はTrpと比べて増大していない。本発明のある実施形態では、Trpと比べて水素結合を形成する傾向が増大しているTrpアナログは、Trpの例えば5の位置でTrpのインドール環が修飾されている(例えば、5の位置で、水素をハロゲン原子で置換)。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンである。
【0122】
本発明のある実施形態では、ペプチドはX’aa−Glu−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)のコア配列を有し、X’aa及びXaaは各々独立にTrp及びTrpアナログから選択され、X”aaはHis、Ala、Alaのアナログ、Phe及びTryから選択される。本発明のある実施形態では、X’aaはTrpと比べて疎水性の増大したTrpアナログで、インドール環(例えば1、4、5又は6の位置)にアルキル置換体を有する1−メチルトリプトファン又は他のTrpアナログである。ある実施形態では、一置換又は非置換の二環式芳香環成分又は2つ又はそれ以上の置換または非置換の一環式芳香環成分を有するTrpアナログである。本発明のある実施形態では、X’aaは、2−ナフチルアラニン、1−ナフチルアラニン、2−インダニルグリシンカルボン酸、ジヒドロトリプトファン及びベンゾイルフェニルアラニンからなる群から選択される。本発明のある実施形態では、Xaaは、Trpと比べてC3と水素結合を形成する傾向が増大しているが、ある実施形態では、疎水性はTrpと比べて増大していない。本発明のある実施形態では、Trpと比べて水素結合を形成する傾向が増大しているTrpアナログは、Trpの例えば5の位置でTrpのインドール環が修飾されている(例えば、5の位置で、水素をハロゲン原子で置換)。例えば、Xaaは5−フルオロトリプトファンである。ある実施形態では、X”aaはAla又はAlaのアナログ(例えばAbu)又は他の分岐していない単一のメチルアミノ酸である。本発明のある実施形態では、ペプチドはX’aa−Glu−Asp−Xaa−Gly−X”aa(配列番号4)のコア配列を有し、X’aa及びXaaは各々独立にTrp、Trpアナログ及び少なくとも一つの芳香族側鎖を含むアミノ酸又はアミノ酸アナログから選択され、X”aaはHis、Ala、Alaのアナログ、Phe及びTryから選択される。ある実施形態では、X”aaは、Trpのアナログ、芳香族アミノ酸及び芳香族アミノ酸アナログから選択される。
【0123】
本発明のある好ましい実施形態では、ペプチドは環状である。ペプチドは、いずれか二つのアミノ酸の結合により環状化していても良い。一つは(X’aa)、もう一つは(X”aa)内にある。ある実施形態では、ペプチドの環状部分は、9乃至15のアミノ酸の長さである(例えば10−12の長さのアミノ酸)。ある実施形態では、ペプチドの環状部分は、11のアミノ酸の長さで、2と12の位置のアミノ酸間で結合(例えばジスルフィド結合)している。例えば、ペプチドは13のアミノ酸の長さで、2と12の位置のアミノ酸間で結合し、その結果、環状部分は11のアミノ酸の長さになっている。
【0124】
ある実施例では、ペプチドはX’aa1−X’aa2−X’aa3−X’aa4−Glu−Asp−Xaa−Gly−X”aa1−X”aa2−X”aa3−X”aa4−X”aa5(配列番号5)の配列を含む、又はそれで構成される。ある実施例では、X’aa4及びXaaはTrp及びTrpアナログから選択され、X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4及びX”aa5は独立にアミノ酸及びアミノ酸アナログから選択される。ある実施例では、X’aa4及びXaaは芳香族アミノ酸及び芳香族アミノ酸アナログから選択される。X’aa1、X’aa2、X’aa3、X”aa1、X”aa2、X”aa3、X”aa4及びX”aa5のうちの1つ又はそれ以上が、コンプスタチン(compstatin)の対応する位置のアミノ酸と同一であっても良い。ある実施形態では、X”aa1はAla又は分岐していない単一のメチルアミノ酸である。ペプチドは、(i)X’aa1、X’aa2又はX’aa3と(ii)X”aa2、X”aa3、X”aa4又はX”aa5との間の共有結合により環状化していても良い。ある実施形態では、ペプチドはX’aa2とX”aa4の間の共有結合により環状化していても良い。ある実施形態では、共有結合しているアミノ酸は各々Cysで、共有結合はジスルフィド(S−S)結合である。別の実施形態では、共有結合はC−C、C−O、C−S又はC−Nである。ある実施形態では、共有結合した残基の一つは第一級又は第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸又はアミノ酸アナログであり、共有結合している他の残基はカルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸又はアミノ酸アナログであり、共有結合はアミド結合である。第一級又は第二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸又はアミノ酸アナログは、リジン及び一般構造式NH(CHCH(NH)COOHのジアミノカルボン酸(例えば、2,3ジアミノプロピオン酸(dapa)、2,4−ジアミノ酪酸(daba)及びオルニチン(orn))を含み、式中、nはそれぞれ1(dapa)、2(daba)及び3(orn)である。カルボン酸基を含む側鎖を有するアミノ酸には、グルタミン酸及びアスパラギン酸などのジカルボン酸が含まれる
【0125】
ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)は、Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Glu−Asp−Xaa2−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号6)の配列を有するペプチドを含む化合物であり、
式中,Xaa1は、Ile、Val、Leu、B−Ile、B−Val、B−Leu又はGly−Ile又はB−Gly−Ileを含むジペプチドであり、
−は第一の遮断部分を表し、
Xaa2及びXaa2は、独立にTrp及びTrpアナログから選択され、
Xaa3は、His、Ala又はAlaアナログ、Phe、Trp又はTrpアナログであり、
Xaa4は、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、THr−Ala及びThr−Asnから選択されるジペプチド又はTHr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、式中、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Ala又はAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHは、任意に、第二の遮断部分B2で置換され、二つのCys残基はジスルフィド結合で連結される。
【0126】
別の実施形態では、Xaa1は欠損、又はアミノ酸又はアミノ酸アナログであり、Xaa2、Xaa2及びXaa3は前述の定義通りである。Xaa1が欠損している場合は、N末端Cys残基は、それに結合した遮断部分Bを有していても良い。
【0127】
別の実施形態では、Xaa4はThr−Ala及びThr−Asnからなる群から選択されるジペプチドであり、式中、Ala又はAsnのカルボキシ末端−OHは、任意に、第二の遮断部分B2で置換される。
【0128】
配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログの実施形態では、Xaa2はTrpであっても良い。
【0129】
配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログの実施形態では、Xaa2は一つの置換又は非置換の二環式芳香環成分又は2つ又はそれ以上の置換又は非置換の一環式芳香環成分を含んでいるTrpアナログであっても良い。例えば、Trpアナログは、2ナフチルアラニン(2−NaI)、 1ナフチルアラニン(1−NaI)、2インダニルグリシンカルボン酸(Ig1)、 ジヒドロトリプトファン(Dht)及び4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンから選択しても良い。
【0130】
配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログの実施形態では、Xaa2は、Trpと比べて疎水性が増大したTrpアナログであっても良い。例えば、Trpアナログは、1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファン及び6−メチルトリプトファンから選択しても良い。ある実施形態では、Trpアナログは1−メチルトリプトファンである。ある実施形態では、Xaa2は1−メチルトリプトファン、Xaa2はTrp、Xaa3はAla、他のアミノ酸はコンプスタチン(compstatin)のアミノ酸と同一である。
【0131】
配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログの実施形態では、Xaa2は、Trpと比べてC3と水素結合を形成する傾向が増大しているが、ある実施形態ではTrpと比べて疎水性が増大していないTrpアナログであっても良い。ある実施形態では、Trpアナログは、インドール環に電気的陰性の置換体を含んでいる。例えば、Trpアナログは、5−フルオロトリプトファン及び6−フルオロトリプトファンから選択しても良い。
【0132】
本発明のある実施形態では、Xaa2はTrpであり、Xaa2は一つの置換又は非置換の二環式芳香環成分又は2つ又はそれ以上の置換又は非置換の一環式芳香環成分を含んでいるTrpアナログである。配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログのある実施形態では、Xaa2はTrpと比べて疎水性が増大したTrpアナログ(例えば、1−メチルトリプトファン、4−メチルトリプトファン、5−メチルトリプトファン及び6−メチルトリプトファンから選択されるTrpアナログ)であり、Xaa2は、Trpと比べてC3と水素結合を形成する傾向が増大しているが、ある実施形態ではTrpと比べて疎水性が増大していないTrpアナログである。例えば、ある実施形態では、Xaa2はメチルトリプトファンであり、Xaa2は5−フルオロトリプトファンである。
【0133】
前述のある実施形態では、Xaa3はAlaである。前述のある実施形態では、Xaa3は分岐していない単一のメチルアミノ酸(例えばAbu)である。
【0134】
本発明のある実施形態では、前述した通り、配列番号6のコンプスタチン(compstatin)アナログが使用され、式中、Xaa2及びXaa2は、独立にTrp、Trpアナログ及び少なくとも1つの芳香族環を含む他のアミノ酸又はアミノ酸アナログから選択され、Xaa3はHis、Ala又はAlaアナログ、Phe、Trp、Trpアナログ又は別の芳香族アミノ酸又は芳香族アミノ酸アナログである。
【0135】
本発明のある実施形態では、本明細書に記載のコンプスタチン(compstatin)アナログのN又はC末端に存在する遮断部分は、哺乳類(例えばヒト又はヒト以外の霊長類)の血液又は硝子体に生じる可能性のある退化からペプチドを安定化させる部分である。例えば、遮断部分Bは、ペプチドのN末端の構造を変化させ、ペプチドのN末端アミノ酸と隣接したアミノ酸との間のペプチド結合が切断されるのを阻害する部分である。遮断部分Bは、ペプチドのC末端の構造を変化させ、ペプチドのC末端アミノ酸と隣接したアミノ酸との間のペプチド結合が切断されるのを阻害する部分である。当業界で公知の適した遮断部分であれば、いずれを用いても構わない。本発明のある実施形態では、遮断部分Bはアシル基(すなわち、−OH基を除去した後に残るカルボン酸部分)を包含する。アシル基には、通常、1乃至12の炭素(例えば1乃至6の炭素)が含まれる。例えば、本発明のある実施形態では、遮断部分Bは、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリルなどからなる群から選択される。ある実施形態では、遮断部分Bは、アセチル基である(すなわち,Xaa1はAx−Ile、Ac−Val、Ac−Leu又はAc−Gly−Ile)。
【0136】
本発明のある実施形態では、遮断部分Bは第一級又は第二級アミンである(−NH又はNHR2、式中、Rはアルキル基などの有機部分である)。
【0137】
本発明のある実施形態では、遮断部分Bは、生理学的pHでN末端に存在する可能性のある負の電荷を中和又は還元する部分である。本発明のある実施形態では、遮断部分Bは、生理学的pHでC末端に存在する可能性のある負の電荷を中和又は還元する部分である。
【0138】
本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、N末端及び/又はC末端でそれぞれアセチル化又はアミド化される。コンプスタチン(compstatin)アナログは、N末端でアセチル化しても良いし、C末端でアミド化しても良いし、又はN末端でアセチル化しC末端でアミド化しても良い。本発明のある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、アセチル基ではなく、N末端にアルキル基又はアリール基を含む。
【0139】
ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)は、Xaa1−Cys−Val−Xaa2−Glu−Asp−Xaa2−Gly−Xaa3−His−Arg−Cys−Xaa4(配列番号7)の配列を有するペプチドを含む化合物であり、式中,Xaa1は、Ile、Val、Leu、Ac−Ile、Ac−Val、Ac−Leu又はGly−Ile又はAc−Gly−Ileを含むジペプチドであり、Xaa2及びXaa2は、独立にTrp及びTrpアナログから選択され、Xaa3は、His、Ala又はAlaアナログ、Phe、Trp又はTrpアナログであり、Xaa4は、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、THr−Ala及びThr−Asnから選択されるジペプチド又はTHr−Ala−Asnを含むトリペプチドであり、式中、L−Thr、D−Thr、Ile、Val、Gly、Ala又はAsnのいずれかのカルボキシ末端−OHは、任意に、−NHで置換され、二つのCys残基はジスルフィド結合で連結される。
【0140】
Xaa1、Xaa2、Xaa2、Xaa3及びXaa4は、配列番号6の種々の実施形態に関して前述の通りである。例えば、ある実施形態では、Xaa2はTrpである。ある実施形態では、Xaa2はTrpと比べて疎水性が増大したTrpアナログである(例えば、1−メチルトリプトファン)。ある実施形態では、Xaa3はAlaである。ある実施形態では、Xaa3は分岐していない単一のメチルアミノ酸である。
【0141】
本発明のある実施形態では、Xaa1はIleで、Xaa4はL−Thrである。
【0142】
本発明のある実施形態では、Xaa1はIleで、Xaa2はTrpで、Xaa4はL−Thrである。
【0143】
本発明のある実施形態では、前述の配列番号7のコンプスタチン(compstatin)アナログが用いられる。式中、Xaa2及びXaa2は、独立にTrp、Trpアナログ、他のアミノ酸又は芳香族アミノ酸アナログから選択され、Xaa3はHis、Ala、Alaのアナログ、Phe、Try、Tryアナログ、又は別の芳香族アミノ酸又は芳香族アミノ酸アナログである。
【0144】
前述のコンプスタチン(compstatin)アナログのいずれかの実施形態では、Xaa3はHisアナログである。
【0145】
本発明にとって有用なコンプスタチン(compstatin)アナログの非限定的リストが、表1に示される。アナログは、左の欄に掲載された省略形で呼ばれ、指定された位置(1−13)の特定の修飾が、親ペプチドである(C末端をアミド化した)コンプスタチン(compstatin)と比較して示されている。別の記載がない限り、ペプチドはC末端がアミド化されている。太字テキストは、ある種の修飾を示すのに用いられている。コンプスタチン(compstatin)(この場合、コンプスタチン(compstatin)はC末端がアミド化してある)と比較した活性は、公表データ及び(国際公開2004/026326、Mallik、 2005;Katragadda、 2006)に記載されているアッセイに基づいて求められた。活性を報告している出版物が複数存在する場合は、最も新しく公表された値が用いられており、値はアッセイ間の違いを考慮して調整されていることを認識して頂きたい。表1に掲載されたペプチドは、治療用組成物及び本発明の方法として用いられる場合は、2つのCys残基間のジスルフィド結合により環状化されており、この点もご理解頂きたい。
【0146】
【表1】

【0147】
本発明の組成物及び方法に関するある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、配列9−32から選択される配列を有している。本発明の組成物及び方法に関するある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、配列番号14、21、28、29及び32から選択される配列を有している。本発明の組成物及び方法に関するある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、配列番号30及び31から選択される配列を有している。本発明の組成物及び方法に関する一つの実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、配列番号32の配列を有している。
【0148】
別の実施形態では、表1に記載されている配列を有しているが、前述の通り、Ac基が代替遮断部分Bによって置換されているコンプスタチン(compstatin)アナログが使用される。別の実施形態では、表1に記載されている配列を有しているが、前述の通り、−NH基が代替遮断部分Bによって置換されているコンプスタチン(compstatin)アナログが使用される。
【0149】
ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、ヒトC3のβ鎖の中で、コンプスタチン(compstatin)と実質的に同じ領域に結合する。コンプスタチン(compstatin)アナログは、コンプスタチン(compstatin)同様、分子量約40kDaを有するヒトC3のβ鎖におけるC末端部分の断片に結合する化合物である(Soulika, A.M.ら, Mol. Imunol., 35:160, 1998; Soulika, A.M.ら,Mol. Imunol., 43(12):2003−9, 2006)。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、コンプスタチン(compstatin)構造(例えば、結晶構造又はNMRによる3D構造)において決定されるコンプスタチン(compstatin)の結合部位に結合する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、コンプスタチン(compstatin)―C3構造において、コンプスタチン(compstatin)に置き換わることができ、コンプスタチン(compstatin)と同じ分子間接触をC3との間で形成する。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、ペプチドーC3構造(例えば結晶構造)において、表1に記載される配列(例えば、配列番号14、21、28、29又は32)を有するペプチドの結合部位に結合する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、ペプチドC3構造(例えば結晶構造)において、表1に記載される配列(例えば、配列番号30又は31)を有するペプチドの結合部位に結合する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、ペプチド―C3構造において、配列番号9−32(例えば、配列番号14、21、28又は32)に置き換わることができ、当該ペプチドと実質的に同じ分子間接触をC3との間で形成する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)アナログは、ペプチド―C3構造において、配列番号30又は31に置き換わることができ、当該ペプチドと実質的に同じ分子間接触をC3との間で形成する化合物である。
【0150】
コンプスタチン(compstatin)アナログがC3のβ鎖におけるC末端部分の断片に結合するか否かは、当業者であれば、通常の実験方法を用いて容易に決定できる。例えば、当業者は、化合物の中(例えば配列のC末端)にp―ベンゾイル―L―フェニルアラニン(Bpa)のような光架橋アミノ酸を含めることにより、光架橋可能なコンプスタチン(compstatin)アナログを合成できる。任意に、追加のアミノ酸、例えばFLAタグやGHAタグのようなエピトープタグを含めることによって、ウェスタン・ブロッティングなどにより、化合物を容易に検出できる。コンプスタチン(compstatin)アナログはフラグメントと共にインキュベートし、架橋を開始する。コンプスタチン(compstatin)アナログとC3フラグメントの共存は結合を示している。C3又はそのフラグメントのコンプスタチン(compstatin)結合部位にコンプスタチン(compstatin)アナログが結合するか否かは、表面プラスモン共鳴を用いて決定しても良い。当業者は、コンプスタチン(compstatin)又は表1のペプチドの配列を有するペプチド(例えば、配列番号14、21、28、29又は32又は他の実施例においては配列番号30又は31)と実質的に同じ分子間接触をC3との間で形成するかどうかを予想するのに、分子モデリング・ソフトウェア・プログラムを使用できる。
【0151】
コンプスタチン(compstatin)アナログは、例えば従来のペプチド合成方法に従い、アミノ酸残基の縮合により、当業者に周知の種々のペプチド合成方法により調製しても良いし、当業者に周知の方法を用いて、アナログをコード化する適切な核酸配列をin vitro又は生体細胞内で発現させることにより調製しても良い。例えば、前出のMallik、前出のKatragadda及び/又は国際公開第2004026328に記載されている標準の固相法を用いて、ペプチドを合成しても良い。アミノ基、カルボキシル基、反応性の官能基など、反応を起こす可能性のある部分は、当業者に周知の種々の保護基又は方法を用いて保護し、後に脱保護しても良い。例えば、Protective Groups in Organic synthesis, 第3版 Greene, T.W. and Wuts, P.G., Eds., John Wiley & Sons, New York, 1999を参照のこと。ペプチドは逆相HPLCなどの標準の方法により精製しても良い。必要に応じて、逆相HPLCなどの公知の方法を用いて、ジアステレオマーのペプチドを分離しても良い。調剤は必要に応じて凍結乾燥し、後に適切な溶媒(例えば水)に溶解する。その結果得られる溶液のpHは、NaOHなどの塩基を用いて、例えば生理学的pHに調整しても良い。ペプチド調剤の特徴付けのため、必要に応じて質量分析を行い、質量及び/又はジスルフィド結合形成を確認しても良い。例えば、Mallik、 2005及びKatragadda、 2006を参照のこと。
【0152】
コンプスタチン(compstatin)の構造は当業界では公知である。コンプスタチン(compstatin)よりも高い活性を有する数多くのコンプスタチン(compstatin)アナログのNMR構造も公知である(前出のMallik)。構造に関する情報は、コンプスタチン(compstatin)模擬体の設計に用いても良い。一つの実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、C3又はそのフラグメント(例えば、コンプスタチン(compstatin)が結合するβ鎖の40kDフラグメント)との結合の点で、コンプスタチン(compstatin)又はコンプスタチン(compstatin)アナログ(例えば、表1に配列を記載したコンプスタチン(compstatin)アナログ)と競合し、コンプスタチン(compstatin)の活性と等しい又はそれ以上の活性を有する化合物であれば、何でも良い。コンプスタチン(compstatin)模擬体は、ペプチド、核酸又は小分子であっても良い。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、コンプスタチン(compstatin)―C3構造(例えば、NMR実験により導かれる結晶構造又は3―D構造)で決定されるように、コンプスタチン(compstatin)の結合部位と結合する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、コンプスタチン(compstatin)―C3構造においてコンプスタチン(compstatin)に置き換わることができ、コンプスタチン(compstatin)と実質的に同じ分子間接触をC3との間で形成する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、ペプチド―C3構造において、表1に記載した配列(配列番号14、21、28、29又は32、又はある実施形態では配列番号30又は31)を有するペプチドの結合部位と結合する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、ペプチド―C3構造において、表1に記載した配列(配列番号14、21、28、29又は32、又はある実施形態では配列番号30又は31)を有するペプチドと置き換わることができ、当該ペプチドと実質的に同じ分子間接触をC3との間で形成する化合物である。ある実施形態では、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、非ペプチドの骨格を有するが、コンプスタチン(compstatin)の配列に基づいて設計された配列で配置された側鎖を有する。
【0153】
所望の短鎖ペプチドの立体配座が確認されさえすれば、その立体配座に適合するペプチド又はペプチド模擬体を設計する方法は公知であることを、当業者は理解している。例えば、G.R. Marshall(1993), Tetrahedron, 49:3547−3558;Hruby and Nikiforovich(1991), in Molecular Conformation and Biological Interactions, P. Balaram & S. Ramasehan, eds., Indian Acad. of Sci., Bangalore, PP. 429−455を参照のこと。本発明に特に関連していることであるが、ペプチドアナログの設計は、アミノ酸残基の種々の側鎖の貢献(例えば、コンプスタチン(compstatin)及びそのアナログに関して当業界で記載されている官能基の効果又は立体的考察)を考慮することにより更に改良されるであろう。
【0154】
C3との結合及び補体活性化の阻害に要求される具体的な骨格立体配座及び側鎖の機能を提供するには、ペプチド模擬体はペプチド同様に有用であることは、当業者には理解されるであろう。従って、適切な骨格立体配座を形成するように結合できる天然のアミノ酸、アミノ酸誘導体、アナログ又は非アミノ酸分子を用いて、C3結合、補体阻害化合物を生成及び活用するのは、本発明の範囲内にあると考えられる。非ペプチドアナログ又はペプチド及び非ペプチド成分を含むアナログは、骨格立体配座面での特徴及び/又は他の機能がほとんど同じで、補体活性化を阻害する面で代表的なペプチドと十分類似しているペプチドの置換又は誘導を明示するため、本明細書では、ペプチド模擬体又は等配電子の模擬体と呼ばれる。更に一般的には、コンプスタチン(compstatin)模擬体は、骨格は異なるけれども、コンプスタチン(compstatin)内の配置と同じようにファーマコフォア(薬理原子団)を配置した化合物である。
【0155】
ペプチド模擬体を用いて高親和性のペプチドアナログを開発する方法は、当業者には周知である。ペプチド内のアミノ酸残基の回転拘束と類似の回転拘束が存在すると仮定すれば、非アミノ酸部分を含むアナログは、公知の様々な技術の中でもとりわけ、ラマチャンドランプロット(Hruby & Nikiforovich 1991)を用いて分析し、立体配座モチーフの確認を行うことができる。C3に結合するコンプスタチン(compstatin)模擬体の同定には、バーチャルスクリーニング法を用いても良い。そういう方法には、複数の候補構造をコンピューター的にドッキングし、計算し、任意に順序付けするのに適したアルゴリズムの使用を含めても良い。バーチャルスクリーニング法の実行には、様々なソフトウェア・プログラムが入手可能である。フレキシブル分子ドッキングに役立つ代表的なプログラムには、DOCK 4.0, FlexX 1.8, AutoDock 3.0, GOLD 1,2, ICM 2.8及び更にその最近のバージョンが含まれる。
【0156】
当業者であれば、追加のコンプスタチン(compstatin)模擬体を同定し、所望の阻害活性を有する化合物を選択する適切なスクリーニング・アッセイを容易に確立できる。例えば、コンプスタチン(compstatin)又はそのアナログを(例えば放射線又は蛍光性標識)で標識付けし、様々な濃度の試験化合物の存在下でC3と接触させる。試験化合物がコンプスタチン(compstatin)とC3との結合を低減できるかどうかを評価する。コンプスタチン(compstatin)とC3との結合を有意に低減できる試験化合物が、コンプスタチン(compstatin)模擬体候補である。例えば、コンプスタチン(compstatin)アナログ−C3複合体の定常状態濃度を低減できる試験化合物、又はコンプスタチン(compstatin)アナログ−C3複合体の形成速度を少なくとも25%又は少なくとも50%低減できる試験化合物が、コンプスタチン(compstatin)模擬体候補である。このスクリーニング・アッセイの様々な変形が利用可能であることは、当業者は認識している。スクリーングされる化合物には、天然の産物、アプタマ・ライブラリ、ファージ提示ライブラリ、コンビナトリーケミストリーを用いて合成される化合物ライブラリなどが含まれる。本発明には、前述のコア配列に基づいて化合物のコンビナトリー・ライブラリを合成すること、及び当該ライブラリをスクリーニングして、コンプスタチン(compstatin)模擬体を同定することも含まれる。かかる方法は、これまで試験したコンプスタチン(compstatin)アナログよりも高い阻害活性を有している新規のコンプスタチン(compstatin)アナログを同定するのにも使用できる。
【0157】
C3又はC3a受容体(C3aR)と結合するポリペプチド、小分子、モノクローナル抗体、アプタマなどの他の化合物が、本発明のある実施形態に有用である。例えば、米国特許第5942405号はC3aR拮抗薬を開示している。B因子に結合しそれを阻害するアプタマが、後述するSELEXなどの方法を用いて同定できる。米国特許第20030191084はC1q、C3及びC5に結合するアプタマを開示している。C3又はC3Rの局所発現を阻害するRNAi薬も有用である。
【0158】
(B因子の活性化又は活性を阻害する化合物)
ある実施形態では、補体阻害剤はB因子の活性化を阻害する。例えば、補体阻害剤はB因子に結合できる。代表的な薬剤には、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、小分子及びアプタマが含まれる。B因子を阻害する代表的な抗体は、米国特許公開第20050260198号に記載されている。ある実施形態では、単離された抗体又は抗原結合フラグメントが、第三のショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に選択的に結合する。ある実施形態では、抗体はC3bBb複合体の形成を防止する。ある実施形態では、抗体又は抗原結合フラグメントが、D因子によるB因子の分割を予防又は阻害する。ある実施形態では、補体阻害剤は、米国特許公開第20050260198号に記載されている抗体と実質的に同じB因子上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマ又はポリペプチドである。B因子と結合しそれを阻害するペプチド(ファージ提示などの方法で確認できる)の使用は、本発明の範囲内である。B因子と結合しそれを阻害するアプタマ(SELEXなどの方法で確認できる)の使用は、本発明の範囲内である。B因子の局所発現を阻害するRNAi薬も有用である。
【0159】
(D因子活性を阻害する化合物)
ある実施形態では、補体阻害剤はD因子の活性化を阻害する。例えば、補体阻害剤はD因子に結合できる。代表的な薬剤には、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、小分子及びアプタマが含まれる。D因子を阻害する代表的な抗体は、米国特許第7112327号に記載されている。ある実施形態では、補体阻害剤は、米国特許第7112327号に記載されている抗体と実質的に同じD因子上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマ又はポリペプチドである。代替経路活性化を阻害し、D因子を阻害すると考えられている代表的なポリペプチドが米国特許公開第20040038869号に記載されている。D因子と結合しそれを阻害するペプチド(ファージ提示などの方法で確認できる)の使用は、本発明の範囲内である。D因子と結合しそれを阻害するアプタマ(SELEXなどの方法で確認できる)の使用は、本発明の範囲内である。D因子の局所発現を阻害するRNAi薬も有用である。
【0160】
(ウイルス補体制御蛋白(VCCPs)及びウイルス補体阻害蛋白(VCIP))
ポックスウイルス又はヘルペスウイルス・ファミリーのメンバーによりコード化されているVCCPs及びVCIPは有用である。本発明は、2004年10月8日に出願されたU.S.S.N.60/616983、VIRAL COMPLEMENT CONTROL PROTEINS FOR EYE DISORDERSという題で2005年10月8日に出願された U.S.S.N.11/247886、及び/又はVIRAL COMPLEMENT CONTROL PROTEINS FOR EYE DISORDERS CHARACTERIZED BY INFLAMMATIONという題で2005年12月19日及び2006年12月19日にそれぞれ出願されたU.S.S.N.60/751771及びUS11/612751に記載されている薬剤のいずれの使用も想定している。ポックスウイルス又はヘルペスウイルスは、直線状の二本鎖DNAゲノムを有する大きくて複雑なファミリーである。その中のいくつかは動物に感染し、様々な疾患を引き起こす。人間に最も恐れられているのが痘瘡である。かかるウイルスのいくつかは、正常な免疫応答の1つ又はそれ以上の側面を喪失させることによる病因、及び/又は宿主生物の中でより好適な環境を促進することによる病因に関して、ある役割を演じていると考えられている数多くの免疫調節蛋白質をコード化している(Kowal, GJ, Immunology Today, 21(5), 242−248, 2000)。VCCPsはそういう蛋白質に属する。ポックスウイルス補体制御蛋白は補体制御蛋白(CCP)スーパーファミリのメンバーで、通常4SCRモジュールを含んでいる。かかる蛋白質は、黄斑退化関連の症状の治療及び予防、及び脈絡膜血管新生の治療及び予防の面で、特に有利な特徴を有している。
【0161】
従って、本発明のある実施形態では、治療薬のいずれか又は両方がポックスウイルス補体制御蛋白(PVCCP)である。PVCCPは、ワクシニアウイルス、大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、エクトロメリアウイルス、家兎痘ウイルス、ミキソーマウイルス、ヤバ様病原ウイルス又は豚痘ウイルスによってコード化された配列を含んでいても良い。別の実施形態では、VCCPはヘルペスウイルス補体制御蛋白(HVCCP)である。HVCCPは、ニホンザル・ラディノウイルス、オナガザルヘルペスウイルス又はヒトヘルペスウイルスによってコード化されている配列を含んでいても良い。別の実施形態では、HVCCPは、単純ヘルペスウイルス・サイミリORF4又はORF15によってコード化されている配列を含んでいても良い(Albrecht, JC, & Fleckenstein, B., J. Virol., 66, 3937−3940, 1992;Albrecht, J.ら, Virology, 190, 527−530, 1992)。
【0162】
VCCPは、古典的補体経路、代替補体経路、レクチン経路又はそれらの組み合わせを阻害する。本発明のある実施形態では、VCCP(例えばPVCCP)は、C3b、C4b又はその両方に結合する。本発明のある実施形態では、PVCCPは1つ又はそれ以上の推定上のヘパリン結合部位(K/R−X−K/R)を含む、及び/又は全体的にプラスの電荷を有する。PVCCPは好ましくは少なくとも3つのSCRモジュール(例えばモジュール1−3)、好ましくは4SCRモジュールを含む。PVCCP蛋白質は、成熟PVCCPの前駆体(すなわち、蛋白質がウイルス感染細胞で発現する際に通常切断されるシグナル配列を含む)であっても良いし、成熟形態(すなわちシグナル配列を欠如)であっても良い。
【0163】
ワクシニア補体制御蛋白(VCP)は、ワクシニア感染ウイルスから分泌されるウイルスコード化蛋白質である。VCPは244アミノ酸の長さであり、4SCRを含み、263アミノ酸前駆体の細胞内分割により天然で生産される。VCPは、還元条件下、12%SDS/ポリアクリルアミドゲルで、〜35kD蛋白質として存在し、推定分子量は約28.6kDである。VCPは、米国特許第5157110号及び6140472号及びKotwal, GKら, Nature, 355, 176−178, 1988に記載されている。前駆体及び成熟VCP蛋白質の配列が、各々図3A及び3Bに示してある。VCPは、C3及びC4に結合する能力により補体活性化の古典的経路を阻害し、かかる成分のI因子仲介分割の補助因子として機能すること、並びに既存のコンバーターゼの崩壊を促進することが証明されている(Kotwal, GKら, Sience, 250, 827−830, 1990;McKenzieら, J. Infec. Dis., 1566, 1245−1250, 1992)。C3bをiC3bに分割し、代替経路C3コンバーターゼの形成を妨害することにより、代替経路を阻害することも証明されている(Sahu, Aら, J. Immunol., 160, 5596−5604, 1998)。従って、VCPは補体活性化を複数の段階で妨害し、炎症誘発性化学走化性因子C3a、C4a及びC5aのレベルを減少させる。
【0164】
VCPには、硫酸ヘパランプロテオグリカン及びヘパリンに強力に結合する能力がある。VCPは、モジュール1及び4に存在する推定上のヘパリン結合部位を2つ含む(Jha, P and Kowal, GJ及びその参考文献)。VCPは内皮細胞の表面に結合できる。恐らく細胞表面のヘパリン及び/又は硫酸ヘパランとの相互作用を通してであろう。その結果、抗体の結合が減少する(Smith, SAら, J. Vitrol., 74(12), 5659−5666, 2000)。VCPは肥満細胞により摂取され、恐らく長時間組織に存在することにより、活性を長期化するのであろう(Kotwal, GJら, In GP. Talwatら (eds)、10th International Congress of Immunology, Monduzzi Editore, Bologna, Italy, 1998)。更に、VCPはケモカイン結合を妨害することにより、白血球の化学走化性遊走を減少させる(Reynolds, Dら, in S. Jameel and L. Villareal (ed.) Advances in animal virology. Oxford and IBN Publishing, New Delhi, India, 1999)。
【0165】
大及び小痘瘡ウイルスは、VCPに非常に相同な蛋白質をコード化し、補体酵素の痘瘡阻害剤(SPICE)と呼ばれる(Rosengard, AMら, Proc. Natl. Acad. Sci., 99(13), 8803−8813. 米国特許第6551595)。現在までに配列決定された種々の痘瘡株のSPICEとVCPとの違いは、約5%である(例えば、約11のアミノ酸が異なっている)。VCPと同様、SPICEはC3b及びC4bと結合し、I因子の補助因子として機能し、それらを分解する。しかし、SPICEはVCPの約100倍の速度でC3bを分解し、C4bをVCPの約6倍の速度で分解する。SPICEのアミノ酸配列は図6に示してあり、詳細は以下の通りである。図6によれば、シグナル配列はアミノ酸1から約アミノ酸19まで延びている。4つのSCRが約アミノ酸20からアミノ酸263まで延びている。各々のSCRが4つのシステイン残基で特徴付けられる。発現蛋白質では、4つのシステイン残基が2つのジスルフィド結合を形成する。各SCRの境界は、SCRのジスルフィド結合を形成する配列の第一及び第四システイン残基により決定される。不変のトリプトファン残基が各SCRのシステインシステイン3とシステイン4の間に存在する。SCR1は、アミノ酸20又は21からアミノ酸80まで延びている。両残基は、ジスルフィド結合に関係していると考えられるシステインである。SCR2はアミノ酸86からアミノ酸143まで延びている。SCR3はアミノ酸148からアミノ酸201まで延びている。SCR4はアミノ酸206からアミノ酸261まで延びている。SCRには、SPICEの補体結合部位も含まれる。米国特許第6551595号に記載されているようなSPICE又は補体の活性化を阻害するその一部(例えば、SPICE及び4つのSCRを含むSPICE関連ポリペプチド)は、本発明に有用である。
【0166】
牛痘の補体制御蛋白(炎症調節蛋白(IMP)と呼ばれる)及びサル痘の補体制御蛋白(本明細書ではサル痘ウイルス補体制御蛋白(MCP)と呼ぶ)も、同定及び配列決定されている(Miller, CGら, Virology, 229, 126−133, 1997及びUvarova, EA and Shchelkunov, SN, Virus Res., 81(1−2), 39−45, 2001)。MCPは、第4SCRのC末端部分の切断物を含んでいるという意味で、本明細書に記載される他のPVCCPとは異なっている。
【0167】
別のウイルス単離物で同定された補体制御蛋白の配列は、それぞれ僅かに異なっていることは理解して頂けるであろう。かかる蛋白質も本発明の範囲内にある。活性を実質的に喪失するほどには変異していないことを条件に、かかる単離物から得られる補体制御蛋白も使用可能である。従って、SPICEやVCRなどのVCCPの配列は、本明細書に記載した、又は表1に掲載した受入番号の配列とは異なっている場合がある。数多くのアミノ酸の変更(例えば追加、削除、保存的アミノ酸置換などの置換)は、活性に有意な影響を及ぼすことなく(従って結果として得られる蛋白質は最初のポリペプチドと同等であると考えられる)、VCCPのような一般的なポリペプチドを用いて行った点もご理解頂きたい。例えば、活性を有意に変更することなく、アミノ酸の約10%まで又はアミノ酸の約20%まで頻繁に変更した。勿論、類似の機能を有していることが公知のドメインは、互いに置換可能である。かかるドメインは、単一のポリペプチド(例えば反復ドメイン)内又は異なる相同ポリペプチド内に見出される場合がある。特定のアミノ酸変更又はドメイン置換の効果は、容易に決定可能である。
【0168】
大痘瘡ウイルス、小痘瘡ウイルス、ワクシニア、牛痘ウイルス及びサル痘ウイルスの単離物から得られたポックスウイルス補体制御蛋白の配列アラインメントを表4に示す。補体制御蛋白及びそのフラグメントのSCRドメイン構造、K+R残基の数、%K+R残基、pI、推定上のヘパリン結合部位、溶血阻害機能(補体阻害活性を示す)及び/又はヘパリンとの結合に関する比較を図5に示す。
【0169】
以下の表2の受入番号によって同定されるウイルスのポリペプチドは全て、非限定的に、本発明の種々の実施形態にとって有用である。
【0170】
(代表的ウイルス補体制御蛋白)
【表2】

【0171】
(C5の活性化又は活性を阻害する化合物)
ある実施形態では、補体阻害剤はC5の活性化を阻害する。例えば、補体阻害剤はC5に結合する。代表的な薬剤には、抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、小分子及びアプタマが含まれる。代表的な抗体は米国特許第6534058号に記載されている。C5に結合しそれを阻害する代表的な化合物は、米国特許公開第20050090448号及び20060115476号に記載してある。ある実施形態では、補体阻害剤は、米国特許第6534058号(抗体に関して)又はUSSN第10/7912号(ペプチドに関して)に記載されている抗体と実質的に同じC5上の結合部位に結合する抗体、小分子、アプタマ又はポリペプチドである。米国特許公開第20060105980号は、C5に結合しそれを阻害するアプタマを記載している。C5又はC5Rの発現を阻害するRNAi薬も有用である。
【0172】
ある実施形態では、薬剤はC5a受容体(C5aR)拮抗薬である。代表的なC5a受容体拮抗薬には、米国特許第6821950号、USSN第11/375587号及び/又はPCT/US06/08960号(国際公開第2006/099330号)に記載されている種々の小さい環状ペプチドが含まれる。
【0173】
例えば、治療薬は以下の一般式の化合物である
【化1】


式中、AはH、アルキル、アリール、NH、NHアルキル、N(アルキル)、NHアリール又はNHアシルであり、Bはアルキル、アリール、フェニル、ベンジル、ナフチル又はインドール基、又はフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、トリプトファン、ホモトリプトファン、チロシン及びホモチロシンからなる群から選択されるD又はLアミノ酸の側鎖であり、Cはプロリン、アラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、グルタミン、アスパラギン、リジン、チロシン、フェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、トリプトファン、システイン及びメチオニンからなる群から選択されるD、L又はホモアミノ酸の側鎖であり、Dはシクロヘキシルアラニン、ホモシクロヘキシルアラニン、ロイシン、ノルロイシン、ホモロイシン、ホモノルロイシン及びトリプトファンからなる群から選択されるD又はLアミノ酸の側鎖であり、Eはトリプトファン及びホモトリプトファンからなる群から選択されるD又はLアミノ酸の側鎖であり、Fはアルギニン、ホモアルギニン、リジン及びホモリジンからなる群から選択されるD又はLアミノ酸の側鎖、又は以下の側鎖のいずれか、
【化2】





又はアルギニン側鎖の別の模擬体であり、式中、XはNCN、NNO、CHNO又はNSONHであり、nは1から4までの整数であり、RはH又はアルキル、アリール、CN、NH、OH、−CO−CHCH、−CO−CH、−CO−CHCHCH、−COCHPh又は−CO−Phであり、Xは−(CHNH−又は(CH−S−、−(CHO−、−(CHO−、−(CH−、−(CH−又は−CHCOCHRNH−であり、式中、Rは一般的又は非一般的なアミノ酸の側鎖であり、式中nは1から4までの整数(例えば1、2、3又は4)である。
【0174】
本発明のある実施形態では、Fは以下のような側鎖の一つ、
【化3】





又はアルギニン側鎖の別の模擬体であり、式中、XはNCN、NNO、CHNO又はNSONHであり、nは1から4までの整数であり、RはH又はアルキル、アリール、CN、NH、OH、−CO−CHCH、−CO−CH、−CO−CHCHCH、−COCHPh又は−CO−Phであり、Bはインドール、インドールメチル、ベンジル、フェニル、ナフチル、ナフチルメチル、シンナミル基、又は芳香族基の他の誘導体であり、CはD−又はL−シクロへキシルアラニン(Cha)、ロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン又はメチオニンである。本発明のある実施形態では、AはLアルギニンである。本発明のある実施形態では、FはL−アルギニンである。ある実施形態では、nは1、2、3又は4である。
【0175】
本発明のある実施形態では、化合物は、米国特許第6821950号に記載されている通り、配列番号11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27及び28からなる群から選択される。前記の米国特許に記載されている他の実施例も使用可能である。例えば、A、B、C、D、E、F及びRは、米国特許第6821950号に記載されている基のいずれかであっても良い。ここで注意して頂きたいのは、本明細書に記載されている式のA、B、C、D、E及びFは、本明細書及び米国特許第6821950号に記載された意味を有するものであり、ホウ素、炭素、重水素、フッ素などの化学元素を示すものではない。前記の化合物は、本明細書では総称的にGPCRAと呼ばれる。
【0176】
ある実施形態では、補体阻害剤はC5a受容体阻害剤(例えばC5a拮抗薬)である。例えば、補体阻害剤は次の配列を有するペプチドである:HC−[ORN−PRO−dCHA−TRP−ARG](配列番号45)(式中、HCはヒドロシンナモン酸塩、dCHAはd−シクロヘキシルアミン、ORNは1−オルニチンであり、角括弧はアミド結合による環状化を意味する。別の実施形態では、同じ略語を用いると、補体阻害剤は以下の配列を有するペプチドである:Ac−PHE−[ORN−PRO−dCHA−TRP−ARG](配列番号46)。ある実施形態では、図8に示される化合物である。本発明のある実施形態では、補体阻害剤はC3a受容体阻害剤(例えばC3a拮抗薬)である。
【0177】
GPCRAの作成方法、構造の確認方法及びGPCR調節因子としての活性の試験方法は、米国特許第6821950に開示されている。かかる化合物のいくらかは、Promics(ブリズベーン、オーストラリア)から入手可能である。ある実施形態では、補体阻害剤はPMX205である。
【0178】
(C.長時間作用性の治療薬)
本発明のある実施形態では、治療薬の少なくとも一つは長時間作用性の薬剤である。例えば、ある補体阻害剤は、徐放性調剤の成分として提供されていなくても、内因的に長時間活性を持続する場合がある。長時間作用性の治療薬は、例えば、医学的に許容できる量を液体媒質の溶液で投与すると、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月又は少なくとも12ヶ月の活性期間を有する。長時間作用性の治療薬は液体媒質の溶液の形で投与しても良いし、治療的に活性又は不活性な1つ又はそれ以上の追加の成分を任意で含む固形又は半固形の調剤の成分であってもよい。
【0179】
別の実施形態では、長時間作用性ではない治療薬でも、長時間作用性を有するように修飾される。かかる修飾は、例えば、蛋白質分解酵素など、種々の内因性分子の活性に対して薬剤を安定化させる。適切な修飾は当業者には周知であり、例えば、ペグ化がそれに含まれる。
【0180】
本発明のある実施形態では、長時間作用性の治療薬は、徐放性調剤(例えば眼内インプラント又は本明細書に記載される他の徐放性調剤)の成分として投与される。
【0181】
(III. 治療薬を含む液体組成物)
本発明のある実施形態では、治療薬(例えば、本明細書に記載される治療薬)の少なくとも一つは、液体媒質の溶液の形で投与される。適切な調製品(例えば、1つ又はそれ以上の治療薬からなる実質的に純粋な調製品)を製薬的に許容できる担体、希釈剤、溶媒などと組み合わせることにより、製薬的に適切な組成物(すなわち、眼への投与用として製薬的に許容できる組成物)を調製しても良い。調製品には、製薬的に許容できる担体、希釈剤などを含めても良い。適切な担体は当業者には周知であり、例えば、注射用の滅菌水や生理食塩水などがそれに含まれる。
【0182】
治療薬を製薬的に許容できる塩として提供しても良い。製薬的に許容できる無機及び有機の酸及び塩基から導かれる塩がそれに含まれる。適切な酸性塩には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシルスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、蟻酸塩、フマル酸塩、グルコへプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ペクチネート、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、琥珀酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシレート及びウンデカン酸塩が含まれる。本発明は、本明細書に開示する化合物の塩基性窒素含有基の四級化も想定している。水溶性、油溶性又は分散性製品をかかる四級化により得ることができる。
【0183】
溶液又は懸濁液には、注射用蒸留水、生理食塩水又は眼への投与が許容される他の溶媒などの無菌希釈剤、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などの緩衝液及び食塩やデキストロースなどの張度調整剤などの成分を含めることができる。pHは塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸や塩基で調整できる。調製品はガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又は単回又は複数回投与用のバイアルに封入し、商品販売及び/又は他の方法で使用できる。懸濁液という用語には、液体媒質中の粒子を含む組成物が含まれる。ある実施形態では、粒子は本質的に治療薬で構成される。別の実施形態では、粒子には、重合体などの薬物放出成分及び、任意に、1つ又はそれ以上の追加成分(賦形剤など)が含まれる。
【0184】
本発明のある実施形態では、液体組成物は、細胞で治療薬の吸収を促進する薬剤、作用部位で治療薬の生物利用能を向上させる薬剤又はその他治療薬の活性を促進する薬剤を包含する。例えば、RNAi薬(siRNAなど)の吸収及び/又は活性を促進する種々の薬物送達ビヒクルが当業者には周知であるので、液体組成物に含めても良い。
【0185】
好適な製薬調剤は製造及び貯蔵の条件下で安定であり、細菌や真菌などの微生物による汚染作用を防いでも良い。
【0186】
(IV. 徐放性調剤)
本発明で使用される徐放性調剤は、長期間、眼又はその一部又は一領域内に、治療濃度の薬物を提供する。治療レベルの薬物が存在する期間は、例えば、少なくとも1、2、4又は6週間、少なくとも1、2、3、4、6、8、10、12、15、18、24ヶ月又はそれ以上である。放出は、徐放性調剤の投与直後又は少し後(例えば24時間以内)に始まるようにしても良い。若しくは、放出は遅らせても良い(例えば、投与後少なくとも24時間後に開始)。放出は、限定されないが、安定して行っても良いし、間歇的に(例えば、大量の薬物を放出するバースト期間を設けて)行っても良いし、若しくは安定した放出期間とバースト期間を交互に行っても良い。ある実施形態では、徐放性調剤を眼に投与する場合、治療薬はコントロールされた速度又は所定の速度で放出される。そういう速度は、例えば、約0.003mg/日と約5000mg/日の間、又は約0.01mg/日と約5mg/日の間、又は約0.05mg/日と約1mg/日の間である。ある実施形態では、放出速度は1μg/日と5μg/日の間である。
【0187】
本発明で使用される徐放性調剤は、通常、治療薬及び調剤の徐放性を促進する追加の成分、要素又は構造体を含む。徐放性を提供するのに有効な追加の成分、要素又は構造体は、本明細書では、薬物送達調節成分と呼ばれる。薬物送達調節成分は、放出の動力学をコントロールするように設計しても良い。調剤の物理的性質(例えば、固形又は半固形構成成分の形状及び全表面積)が徐放性に影響を及ぼす場合があることは、理解して頂けるであろう。別の例として、活性薬剤を包含する粒子を圧縮すれば、圧縮しない場合と比較して、放出時間が長くなる場合がある。ある実施形態では、構造体は、少なくとも部分的には治療薬自体によっても提供されるし、任意に、投与部位に存在する1つ又はそれ以上の物質(イオンや蛋白質など)によっても提供される。ある実施形態では、投与される組成物に追加される薬物送達調節成分が必要でない場合もある。例えば、液体媒質中に治療薬を含む組成物が、投与後、ゲルの特徴を有する構造体を形成する場合がある。治療薬は、構造体の分解に合わせて時間をかけて放出されるようにしても良い。薬物送達調節成分は、治療薬と物理的に結合する重合体母材を含む、又はそれで構成されるようにしても良い。例えば、治療薬は、重合体母材に包括、包埋又は封入されていても良い。徐放性調剤は、個別の眼内インプラントの形態であっても良いし、複数のナノ粒子、ミクロ粒子又はリポソーム、半固形物又はゲルなどの粘性材料であっても良い。治療薬は、徐放性調剤の約1%乃至90%の重量%であるのが好ましいであろう。更に好ましいのは、治療薬が徐放性調剤の約20%乃至約80%の重量%の場合である。ある実施形態では、治療薬は、徐放性調剤の約40%の重量%(例えば、30%−50%)である。
【0188】
徐放性を提供する数多くの重合体送達ビヒクルが眼に使用されており、本発明の組成物を投与するのにも使用可能である。生体分解性の種々の重合体(例えば生体適合性の重合体)が使用できる。重合体は、直鎖、分岐鎖又は架橋形成のホモ重合体又は共重合体(ブロック共重合体を含む)であっても良い。有用な重合体には、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリラクチド・コグリコリド(PLGA)、ポリホスファジン、ポリリン酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、エチレン酢酸ビニル、ポリオルトエステル、ポリエーテル、ポリ(β−アミノエステル)などが含まれるが、これに限定されるものではない。ペプチド、コラーゲンやアルブミンなどの蛋白質、キトサン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸(又はその誘導体)などの多糖類及びデンドリマー(例えばPAMAMデンドリマー)も有用である。かかる調剤の調製方法は、当業者には周知である。そのいくつかは商業的にも(例えばAlza Corporationから)入手可能である。かかる重合体又はその組み合わせが、本発明の種々の実施形態で使用できる。
【0189】
他の一般的な重合体には、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリカーバメート又はポリウレア、架橋形成のポリ酢酸ビニル類、エステル量4乃至80%のエチレンビニルエステル共重合体(例えばエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体)、エチレンへキサン酸ビニル共重合体、エチレンプロピオン酸ビニル共重合体、エチレン酪酸ビニル共重合体、エチレンペンタン酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニルトリメチル共重合体、エチレン酢酸ビニルジエチル共重合体、エチレンブタン酸ビニル−3−メチル共重合体、エチレンブタン酸ビニル3−3−ジメチル共重合体、エチレン安息香酸ビニル共重合体、それらの混合体などが含まれる。
【0190】
ポリオルトエステルは眼に導入され、徐放性眼薬送達の面で好ましい特徴が証明されている(Einmahl, S., Invest. Ophthalmol. VIs. Sci., 43(5), 2002)。ポリラクチド粒子は、その懸濁液を硝子体内に注入後、薬剤を網膜及びRPEへ送達するのに用いられている(Bourges, J−Lら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 44(8), 2003)。
【0191】
本発明の種々の実施形態に用いられる種々の眼内インプラント及び他の眼薬送達系を含む徐放性調剤が、例えば、米国特許第6692759号、第6331313号、第5869079号、第5824072号、及びU.S.S.N.第10/918597号(公開第20050048099号)、第10/837357号(公開第20050244469号)、第11/122号(公開第20050244472号)及び第11/16698号(公開第20050281861号)、並びに前出の数多くの他の特許及び出版物に記載されている(全て本明細書に援用する)。
【0192】
徐放性調剤の調製方法には、治療薬を重合体成分と組み合わせ、又は混合することにより、混合物を形成するステップが含まれる。混合物は押し出し成形、圧縮、鋳型成形などを行い、単一の組成物に形成しても良い。任意で、加熱及び/又は加圧しても良い。単一の組成物から、患者の眼に入れるのに適した個別のインプラント又は粒子を形成しても良い。活性治療薬を重合体母材に組み入れる他の方法は、当業者には周知である。重合体母材は、棒状、円盤状、ウェーハなど様々な形状、サイズ(長さ、幅など)及び容量に成形できる。典型的な形状には、円柱状、螺旋状、コイル状又は螺旋状、ネジ状、立体状、円錐状、楕円状、両凸状、半球形、略半球形などが含まれる。
【0193】
本発明のある実施形態では、眼内インプラントは、注射針の中空軸内に納まるサイズ及び形状、例えば22、25、27、30、33又は35ゲージ針(又は22と35の間のゲージ針)である。非限定的に、円柱状インプラントの典型的なサイズは、長さ約0.5乃至8mm、直径約0.1乃至2mm(例えば、約0.75mm乃至約1.5mm)である。他の形状(例えば、断面が長方形又は正方形の棒状構造体)を有するインプラントでは、断面の最も離れた二点が、せいぜい0.1mm乃至1mmの間隔であっても良い。特別の実施形態では、針を用いて投与される眼内インプラントの長さ又は最大サイズは、約5ミクロンと約2mmの間、又は約10ミクロンと約1mmの間である。あるいは、長さ又は最大サイズは、1mmを超えている、又は2mmを超えている(例えば3mm又は10mmまで)。人間の硝子体腔は、長さが例えば1乃至10mmの種々の形状を有する比較的大きいインプラントを収容できる。
【0194】
本発明のある実施形態では、インプラントは、眼(例えば硝子体)の中へのインプラントの挿入及び/又はインプラントの収容を容易にするため、少なくとも多少弾力性を有していても良い。インプラントの全重量は、250−5000μg(例えば約500−1000μg)であっても良い。より大きいインプラントを形成し、眼に投与する前に加工しても良い。比較的大量の治療薬をインプラントに納める場合は、より大きいインプラントが望ましい場合がある。
【0195】
一つの実施形態では、徐放性調剤は、送達される薬物を収容する中核を実質的に非透過性の重合体外層が覆っている生体適合性の眼内インプラントであり、当該外層には1つ又はそれ以上の開口部が設けられている。1つ又はそれ以上の開口部は、装置の使用中、体液がその装置に入ることができ、装置内の薬物(例えば、装置内に溶解、封入又は包埋された薬物)が装置の外に移動できるようにするためのものである。ある実施形態では、開口部の全表面積は、装置の全表面積の10%未満である。本発明のある実施形態では、眼内インプラントは、治療薬がインプラントの外に拡散できるように、治療薬にとって透過性のある被膜外層を含んでいる。被膜層の組成、構造及び/又は厚さは、特定の透過及び拡散速度を与えるように選択できる。
【0196】
薬物は、眼内インプラント内に、乾燥粉末、粒子、顆粒又は圧縮固体として包含できる。薬物は溶液の形であっても良いし、重合体母材内に分散していても良い。眼内インプラントは、重合体母材中に均一に分配された活性薬剤であっても良い(例えば、一体構造であっても良い)。別の実施形態では、活性薬剤は重合体母材中に不均一に分配されている。例えば、インプラントの離散領域に活性薬剤の固体粒子が含まれていても良いし、活性薬剤の貯留部が重合体母材に封入されていても良い。治療薬は非均一なパターンで母材中に分配されていても良い。例えば、インプラントには、インプラント内の第二の部分と比べて治療薬の濃度の高い部分が含まれていても良い。異なる組成物を有し、濃度又は空孔率など異なる物理的特性を有する多層構造も可能である。例えば、各層に異なる治療薬又はその組み合わせが含まれていても良い。別の実施形態では、比較的分解しにくい層と比較的分解しやすい層が散在している。
【0197】
母材形成用に含まれている生体分解性の重合体母材は、酵素又は加水分解に不安定なものであっても良い。水溶性の重合体は、加水分解性又は生体分解性の不安定な架橋構造と架橋形成させ、水不溶性の重合体を形成しても良い。安定性の度合いは、例えば、単量体の選択、ホモ重合体、共重合体又はその混合体の使用及び重合体内の末端酸性基の存在などにより様々である。重合体の生体分解性及びその結果である徐放性調剤の徐放性の増大は、使用される重合体材料の相対平均分子量によっても影響を受ける場合がある。放出性を調整するため、調剤の中に異なる分子量の同じ又は異なる重合体母材を含めても良い。例えば、重合体の平均分子量は、約5乃至500kD(例えば、約10乃至100kD又は15乃至50kD)の範囲内であっても良い。
【0198】
ナノ粒子又はミクロ粒子は、非限定的に、粉末乾燥、相分離、単一又は二重のエマルジョン、溶媒蒸発、溶媒抽出、単純及び複雑なコアセルベーションなど、当業者に周知の方法で作成できる。微粒子状の重合体組成物も、顆粒化法、押出成形及び/又は球状化法を用いて作成できる。組成物には、異なる組成物及び又は特性を有するナノ粒子又はミクロ粒子を含めても良い。
【0199】
粒子調製に使用する条件は、所望のサイズ又は特性(例えば、疎水性、親水性、外的形態、粘着性、形状など)次第で変えて良い。粒子の調製方法及び使用条件(例えば、溶媒、温度、濃度、空気の流速など)も、治療薬及び/又は複合体母材の組成次第である。
【0200】
本発明に使用されるミクロ粒子及びナノ粒子は様々な大きさを持つことができる。一般的に、ミクロ粒子の直径は、500ミクロン以下(例えば、1ミクロンと500ミクロンの間、50ミクロンと500ミクロンの間、100ミクロンと250ミクロンの間、20ミクロンと50ミクロンの間、1ミクロンと20ミクロンの間、1ミクロンと10ミクロンの間など)であり、ナノ粒子の直径は1ミクロン未満(例えば、10nmと100nmの間、100nmと250nmの間、100nmと500nmの間、250nmと500nmの間、250nmと750nmの間、500nmと750ミクロンの間など)である。前述の方法で調製した粒子のサイズ範囲が所望の範囲外である場合、粒子は例えば篩などを用いてサイズ分けできる。粒子はサイズ(例えば直径)又は形状が実質的に均一であっても良いし、サイズ及び/又は形状が不均一であっても良い。実質的に球状であっても良いし、他の形状であっても良い。その場合、相対寸法は、直径ではなく、直線寸法の最長部分である。
【0201】
本発明のある実施形態では、徐放性調剤には治療薬とゲル形成物質が含まれる。本発明のある実施形態では、水溶性のゲル形成物質及び治療薬を含む溶液は、適切な方法(例えば、ゲル形成物質を含む溶液に治療薬を添加する方法)を用いて、溶液中で水溶性のゲル形成物質及び治療薬を組み合わせることにより調製できる。組成物は、被験者の眼の適切な領域に局所的に送達される。溶液は、投与部位又はその近くで、急速にゲルを形成する。治療薬はゲル内に包埋されている。治療薬はゲルの外に拡散され、ゲルが分解されるに従い時間と共に放出され、ゲルと外的に直接接触する、又はその近くに存在する組織及び構造体へ連続的に提供される。ある実施形態では、溶液は眼の強膜の後部に投与される。注射(例えば、25、27又は30ゲージ針などを用いて)やカテーテルなどにより送達される。別の実施形態では、溶液は硝子体内へ投与される。ある実施形態では、ゲルは、固相と液相の中間の特性(流動性)を示す構造体である。構造体は、固体連続相及び液相を含む固形又は半固形のコロイドであっても良い。構造体は、当業者が容易に認識可能な典型的なゲルの外観を有していても良い。
【0202】
ある実施形態では、ゲル形成物質として水溶性のコラーゲンが使用される。コラーゲンは、最初は水溶性(水性の媒質中)であり低粘性の溶液を形成するが、適切な条件(例えば哺乳類の被験者へ投与される時に遭遇する条件)下で、急速にゲルを形成できる。本発明では、コラーゲンが最初は水溶性であり、適切な条件下で急速にゲルを形成できるならば、様々なタイプのコラーゲン調製品が使用可能である。適切なコラーゲン調製品及び製造方法が、米国特許第5492135号、第5861486号、第6197934号、第6204365号、及び国際公開第00/47130号に記載されているが、本発明はかかる調製品又は方法に限定るものではない。かかるコラーゲンは水溶性の形態で調製され、適切なイオン濃度を有する生理学的液体又は他の液体に接した際に、急速にゲルを形成する。本発明によれば、コラーゲン溶液を眼又は眼の近くへ注入又は導入することにより、恐らく生理学的液体と接触することにより、ゲル形成が行われる。しかし、本発明は、ゲル形成のメカニズムに関しては全く限定されていない。更に、前述の通り、ゲルはin vitroで形成し、その後適切な部位に移植しても良い。
【0203】
本発明で使用される他のゲル形成物質には、ヒアルロン酸及びその修飾体、アルギン酸塩などの多糖類及びその修飾体、自己組織化ペプチドなどが含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、アルギン酸及びその修飾体、ヒアルロン酸及びその修飾体、及び本発明の種々の実施形態で使用される他の水溶性ゲル形成物質の詳細な記載は、米国特許第6129761号を参照のこと。他の重合体ヒドロゲル前駆体には、Pluronics(登録商標)やTetronics(登録商標)などのポリエチレンオキサイド/ポリエチレングリコール・ブロック共重合体が含まれる。かかる化合物は、Steinleitnerら, Obstetrics & Gynecology, 77:48−52(1991)及びSteinleitnerら, Fertility and Sterility, 57:305−308(1992)に記載されている通り、水素結合及び/又は温度変化により架橋を形成する。使用可能な他の素材は、フィブリンやゼラチンなどの蛋白質である。重合体混合物も使用できる。例えば、混合すると水素結合によりゲル化するポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸の混合物も使用できる。
【0204】
本発明で使用されるゲル形成物質は、通常、例えば水性媒質に少なくとも部分的に溶解する、又は本発明のある実施形態では、実質的に又は完全に溶解する。例えば、ゲル形成組成物中のゲル形成物質は、重量%で、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、若しくはそれ以上溶解しても良い。ある実施形態では、本質的に100%が溶解する。水性媒質は、水以外に1つ又はそれ以上の液体(例えば種々のアルコール)を含んでいても良い。一般的に、媒質中の液体の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は10%は水である。
【0205】
共有結合的に架橋形成可能なヒドロゲル前駆体も有用である。例えば、水溶性のポリアミン(キトサンなど)は水溶性のジイソチオシアネート(ポリエチレングリコール・ジイソチオシアネートなど)と架橋形成が可能である。イソチオシアネートはアミンと反応して、化学的に架橋形成したゲルを形成する。アルデヒドはアミンと反応する。例えば、ポリエチレングリコール・ジアルデヒドも使用できる。ヒドロキシル化した水溶性重合体も使用できる。
【0206】
本発明のある実施形態では、治療薬は、リンキング部分を通して、重合体などの薬物送達調節成分に共有結合又は非共有結合する。リンキング部分は、開裂し、薬物送達調節成分から治療薬を放出することにより、徐放性を提供する。例えば、リンキング部分は、蛋白質分解酵素などの内因性の酵素により開裂する部位を含むペプチドであっても良いし、化学変化を起こしやすい又は加水分解されやすい結合(例えば、ジスルフィド結合、エステル部分など)を含んでいても良い。
【0207】
蛋白質やRNAi薬などの生体高分子である治療薬を発現する細胞は、眼へ移植可能であり、徐放性を提供する本発明のある実施形態で有用である。米国特許第6436427号は、生物学的に活性な分子の細胞源を含む生物適合性カプセルを移植することにより、生物学的に活性な分子を送達する方法を提供する。
【0208】
本発明のある実施形態では、徐放性調剤にはリポソームが含まれる。例えば、リポソームの懸濁液が投与される。リポソームは、例えば、米国特許第4522811号及び本明細書の他の参考文献に記載されている当業者に周知の方法で調製できる。標的リポソーム(例えば、抗体標的リポソーム)及びペグ化リポソームを含むリポソームが、Hansen CBら, Biochim Biophys Acta. 1239(2):133−44, 1995;Torchilin VPら, Biochim Biophys Acta, 1511(2):397−411, 20001;Ishidaら, FEBS Lett. 460(1):129−33, 1999に記載されている。
【0209】
徐放性調剤やインプラントなどの調製のために選択する物質及び方法は、化合物の活性を保持する物質及び方法であり、この点は当業者には周知である。例えば、変性又は活性の喪失を引き起こすので、ポリペプチドなどの薬剤は過剰に加熱しないことが望ましい。更に、徐放性調剤には、治療活性がなく、調剤の徐放性に貢献しない種々の成分が含まれている場合があることも、当業者には周知である。そういう成分には、使用条件下で眼への投与に適合しているという条件の下に、可塑剤、溶解剤、溶解度低下剤、拡散剤などが含まれる(米国特許第6331313号を参照)。例えば、徐放性調剤には、治療薬の溶解度を向上させる効果のあるβ−シクロデキストリンが含まれる。β−シクロデキストリンは、インプラントの約0.5%(w/w)乃至約25%(w/w)の量を提供しても良い。あるインプラントでは、β−シクロデキストリンは調剤の約5%(w/w)乃至約15%(w/w)の量が提供される。他の調剤には、γ―シクロデキストリン及び/又はシクロデキストリン誘導体が含まれる。
【0210】
本明細書では、徐放性調剤には、賦形剤成分(有効量の緩衝剤、保存剤など)も含まれる。適切な水溶性緩衝剤には、非限定的に、アルカリ及びアルカリ土類の炭酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、琥珀酸塩など(例えば、リン酸、クエン酸、ホウ酸、酢酸、重炭酸、炭酸などのナトリウム塩)が含まれる。かかる薬剤は、系のpHを約2と約9の間、より好ましくは約4と約8の間に維持する量であるのが望ましい。従って、緩衝剤は、重量%で系全体の約5%含まれていても良い。適切な水溶性保存剤には、重亜硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸塩、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノンール、チメロサル、酢酸フェニル水銀、ホウ酸 フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、パラベン、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、それらの混合物などが含まれる。かかる薬剤は、重量%で、0.001%乃至5%、好ましくは0.01%乃至2%含まれていても良い。かかる薬剤は、本明細書に記載されるある種の液体組成物にも使用できる。
【0211】
本発明のある実施形態では、徐放性調剤は、細胞で治療薬の吸収を促進する薬剤、作用部位で治療薬の生物利用能を向上させる薬剤又はその他治療薬の活性を促進する薬剤を包含する。例えば、RNAi薬(siRNAなど)の吸収及び/又は活性を促進する種々の薬物送達ビヒクルが当業者には周知であるので、徐放性調剤に含めても良い。
【0212】
必要に応じて、治療薬、重合体及び他の修飾体の割合は、例えば、数個のインプラントを種々の割合のかかる成分で製剤化し、経験的に決定しても良い。放出速度の測定には、溶解試験又は放出試験に関するUSP承認の方法が使用できる(USP 23;NF 18(1995)pp.1790−1798)。インプラントはin vivoでも試験できる。
【0213】
薬剤を含む1つ又はそれ以上の貯留部を有し、その薬剤又はその一部を1つ又はそれ以上の貯留部から周囲の環境へ放出する装置又はチップも、治療薬の徐放性調剤の範疇に含めることができる(例えば、米国特許第5797898及び6976982を参照)。様々な方法で放出が可能である。例えば、薬剤を透過しない経時的に分解する生体分解性のキャップを貯留部が有していれば、そのキャップが分解すると治療薬が放出される。キャップの厚さを変えれば、放出も様々な時間に起こすことができる。機械的、電気的又は他の手段で、貯留部から薬剤を放出させることができる。かかる放出を調節するため、任意で、外部制御手段を用いても良い。放出は、所定の時間に、及び/又は所定の量を提供できる。
【0214】
(V. 投与方法)
第一及び第二の治療薬を投与するのに、様々な方法、手技及び手順が利用できる。本発明のある実施形態では、投与は硝子体内注入で行う。医師間で多少の違いは存在するけれども、硝子体内注入手順は、非限定的に、以下の方法で行われる。眼の張力度は、通常、張力計で測定し、炎症は臨床的に等級付けされる。眼はナトリウムチャンネル遮断剤(ノボカインなど)で麻酔をかけ、散瞳剤(交感神経興奮性、抗副交感神経性又は筋麻痺性)で処置し、更に麻酔剤と抗生物質で処置する。検眼鏡を瞼の下へ挿入し、患者は横を見るように言われる。カリパスを用いて角膜縁から2mmの距離を測定し、注入部位を決定する(これは注射針で水晶体を刺すのを避けるために行われる)。注射針付(例えば22、25、27又は30ゲージ針)の注射器(例えば1ml又は0.5mlの注射器)に、50−100μlの薬剤(例えば1mgのアバスチン(Avastin)又は0.3mgのマキュジェン(Macugen))を充填する。あるいは、予め薬剤を充填した注射器を用いる。次に、注射針を注入部へ挿入し、針の先が硝子体腔の中間部に到達するまで差し込み、薬剤を徐々に注入する。注射器を徐々に後退させ、注入部位に湿ったガーゼで2、3秒負圧する。更に抗生物質を投与し、検眼鏡を取り除く。通常、10分乃至60分患者を観察し、眼圧を定期的に測定する。
【0215】
他の投与方法には、脈絡膜注入、経強膜注入又は強膜パッチの使用、選択的動脈カテーテル法、経網膜、球結膜下、硝子体注入を含む眼内投与、上脈絡膜腔注入、subtenon injection、 強膜ポケット及び強膜カットダウン注入、浸透ポンプ使用などが含まれる。脈絡膜注入及び強膜パッチングにおいては、臨床医は、鎮痛剤や眼筋麻痺薬などの適切な麻酔薬を使用後、眼の局所アプローチを行う。治療化合物を含む注射針が被験者の脈絡膜又は強膜へ向けられ、無菌状態で挿入される。注射針が適切な部位に配置されたら、脈絡膜及び強膜のいずれか又は両方へ化合物が注入される。
【0216】
黄斑退化及び/又は他の眼内症状を治療するために行う薬剤の眼内投与に関しては、種々の方法が当業者には周知である。適切な方法であれば、本発明では、いずれを用いても構わない。例えば、米国特許第5632984号及び第5770589号を参照のこと。米国特許第6378526号は、網膜の上部で、治療薬又は診断薬を経強膜注入する方法を提供する。この方法は、眼の後部へ薬剤を送達する最小侵襲性の手技を提供する。
【0217】
前述の手順を僅かに改良するだけで、又は全く改良なしで、本発明の第一及び第二の治療薬を投与できる。標準の注入時間及び注入圧、又は適切に改良した注入時間及び注入圧が利用可能である。例えば、合計注入時間は、単一の薬剤を注入する場合よりも長くなる場合がある。改良が必要ならば、勿論、少なくとも部分的には、特定の手順、治療薬及びその調剤の性質及び臨床医により使用される方法により、それは決定される。例えば、一つの実施形態では、第二の治療薬(例えば眼内インプラント)を含む徐放性調剤は注射針に充填される。注射針は、徐放性調剤を既に充填した状態で臨床医に提供されても良いし、臨床医が注射針に徐放性調剤を充填しても良い。臨床医が注射針を注射器へ取り付ける。第一の治療薬を含む適当な容量(適量を含む)の溶液を注射器へ入れ、前記の手順で硝子体内注入を行う。注射器のプランジャを押すと、第一の治療薬と徐放性調剤が硝子体内へ(硝子体内注入以外の方法が用いられる場合は、眼の他の箇所へ)注入される。別の実施形態では、第一の治療薬を含む適当な容量の溶液を充填した注射器が、任意で、第二の治療薬を含む徐放性調剤を予め充填した注射針と共に、臨床医へ提供される。従って、臨床医は、治療薬の測定、希釈又は他の操作を行う必要がない。
【0218】
別の実施形態では、両治療薬が個別の注射器に充填される。注入は注射針/注射器アセンブリを用いて行われる。注射器には第一の治療薬が含まれる。より一般的には、注射器には第一の治療薬を含む組成物が含まれる。注射器に含まれる治療薬の投与が終わったら、その注射器は除去され、第二の治療薬を含む第二の注射器(より一般的には、第二の治療薬を含む組成物)が当該注射針に取り付けられる。第二の治療薬(又は組成物)が投与される。治療薬はいずれの順番で投与されても良い。被験者の眼から注射針の先端を除去することなく、治療薬をいくらでも投与できる。
【0219】
本発明の方法の実践に使用できる注射針/注射器アセンブリの代表的実施例を図9に示す。当該アセンブリには、円筒部分及び端にストッパの付いたプランジャを有する注射器が含まれる。注射器は、通常、開口部の付いたねじ切りチップを使って注射針に取り付けられる。注射器のストッパと円筒部の端との間の部分に、治療薬(例えば血管新生阻害剤)が充填される。当該注射針には、追加の治療薬、例えば治療薬(例えば補体阻害剤)を含む眼内インプラントなどの徐放性調剤が含まれている。説明を容易にするため、図9ではインプラントは注射針の外に描かれているが、実際には、勿論、注射針の軸の内側に置かれている。被験者の眼に注射針を導入した後、プランジャを押圧することにより、注射器内の治療薬と注射針内の眼内インプラントの両方を眼に注入できる。別の実施形態では、注射器には、追加又は代替のインプラント注入手段が提供されている。
【0220】
本発明のある実施形態では、第一及び第二の治療薬は、単一の手順で、眼の異なる構造体、領域、コンパートメント又は組織へ送達される。例えば、注射針又は他の道具は、注射針を挿入する際及び引き出す際に、眼の異なる構造体、領域、コンパートメント又は組織を通過する。第一及び第二の治療薬は、単一の注入手順で、眼の異なる構造体、領域、コンパートメント又は組織に注入できる。例えば、ある実施形態では、単一の手順で、一つの治療薬は硝子体へ導入され、別の治療薬は眼の異なる構造体、領域、コンパートメント又は組織へ導入される。被験者の眼の症状を急速に改善する薬剤、又は徐放性調剤の第二の治療薬のいずれかを、硝子体へ導入できる。
【0221】
投与量は、組成物を眼のどの領域へ投与するかにより異なる。例えば、硝子体注入の場合、一般的に、200μl、好ましくは100μl以下である。ある実施形態では、注入される全液体量は、200μl以下、100μl以下、50μl以下である。本発明のある実施形態では、被験者の眼に導入される物質(液体及び固形又は半固形の成分を含む)の全量は、500μl以下、400μl以下、300μl以下、200μl以下、100μl以下、50μl以下又は25μl以下である。
【0222】
(VI. 遺伝子療法)
本発明は遺伝子療法も含み、1つ又はそれ以上の治療薬が、SiRNAなどの治療薬又はVCCPなどの蛋白質をコード化する核酸であり、それは核酸の発現を方向付けるのに十分な調節要素と共に眼へ投与される。核酸療法を構成する組成物は、核酸及び許容可能な希釈剤の中の遺伝子療法ベクターで本質的に構成されるか、又は核酸又は遺伝子療法ベクターが物理的に関係している(例えば、混合している、若しくは封入又は包埋している)重合体母材などの薬物放出調節成分を含んでいる。遺伝子療法ベクターはプラスミド、ウイルス又は他のベクターである。若しくは、医薬組成物は治療用の核酸又はポリペプチドを提供する1つ又はそれ以上の細胞を含んでいても良い。かかる細胞は治療薬を細胞外空間へ分泌するのが望ましい。
【0223】
遺伝子治療プロトコールに使用されるウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、ポリオウイルスやシンドビスウイルスなどの他のRNAウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、SV40、ワクシニア及び他のDNAウイルスなどが含まれるが、これに限定されるものではない。ネズミの複製欠損レトロウイルス又はレンチウイルスベクターは、遺伝子導入ベクターとして広範に使用されている。遺伝子療法の化学的方法には、リポソームなどの脂質小胞又は他の膜融合小胞を利用する担体媒介の遺伝子導入が関係している。目的の核酸を運搬する担体は、眼、体液又は血流へ容易に導入できる。担体は、身体の標的器官又は組織へ部位特異的に方向付けることができる。例えば、細胞又は組織特異的なDNA運搬リポソームが使用できる。リポソームによって運搬される外来の核酸はかかる特異的な細胞に吸収される。遺伝子導入には、リポソーム以外の脂質ベースの化合物を用いても良い。例えば、リポフェクチン及びサイトフェクチンは、負に帯電した核酸と結合する陽イオンを含む脂質ベースの化合物であり、核酸が細胞膜を通過できるように複合体を形成する。
【0224】
ある種の陽イオン性重合体は、DNAなどの核酸と自発的に結合し、ナノ粒子へ濃縮される。例えば、天然の蛋白質、ペプチド又はその誘導体が使用される。ポリエチレンアミン(PEI)、ポリリジン(PLL)などの合成された陽イオン性重合体は、DNAを濃縮する有用な送達ビヒクルである。デンドリマーも使用できる。多くの有用な重合体は、負に帯電したDNAリン酸塩とイオン間相互作用を可能にする帯電性アミノ酸、及び加水分解可能なエステル結合などの分解性領域の両方を有している。ポリ(α―(4−アミノブチル)−L―グリコール酸)、ネットワーク・ポリアミノエステル及びポリ(β―アミノエステル)などがそれに含まれる。かかる錯形成剤は、核酸分解酵素や血清成分などによる分解から核酸を保護し、表面の負電荷を減少させるので、疎水性の細胞膜(細胞質膜、リソソーム膜、エンドソーム膜、核膜など)を通過しやすくなる。ある種の錯形成剤は、細胞内輸送(エンドソームエスケープ、細胞質輸送、核への侵入など)を容易にし、核酸と解離可能である。
【0225】
(VII. 製品)
本発明の別の実施形態では、前記疾患を治療するのに有用な組成物、装置又は道具及び、任意に、その他の素材や成形品を含む、製薬パック又はキットとも呼ばれる製品が提供される。製品には、容器、ラベル又は容器上又はその近くに配置される添付文書が含まれていても良い。適切な容器は、瓶、バイアル、注射器などである。容器はガラスやプラスチックを含む様々な素材で形成できる。容器には、組成物が単独で、又は疾患の治療に有効な別の組成物と一緒に収容される。容器には、無菌のアクセスポート(例えば、容器は、皮下注射針で穿通自在なストッパ付バイアルであっても良い)が含まれていても良い。ラベル又は添付文書には、1つ又はそれ以上の症状(例えば、黄斑退化などの眼疾患)を治療する組成物であることが示される。製品には、(a)第一の治療薬を含む組成物を包含する第一の容器及び(b)第二の治療薬の徐放性調剤を含む組成物を包含する第二の容器を含めても良い。本発明の当該実施形態で使用される製品は、更に、第一及び第二の組成物が特定の眼疾患(例えば湿性ARMD)の治療用であることを示す添付文書を含んでいても良い。若しくは、又は更に、製品には、製薬的に許容できる液体(例えば、注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、デキストロース液など)を含む第二(又は第三)の容器を含めても良い。
【0226】
本発明のある実施形態では、製品は、眼に治療薬を投与するための1つ又はそれ以上の装置又は道具を更に含んでいても良い。例えば、製品は、1つ又はそれ以上の注射針(例えば22、25、27又は30ゲージ針)及び/又は1つ又はそれ以上の注射器(例えば0.3、0.5又は1.0ml注射器)を含んでいても良い。注射針又は注射器、若しくはその両方が、治療薬の単位投薬形態を含む1つ又はそれ以上の組成物を含んでいても良い。例えば、製品は、治療薬を含む所定容量及び/又は所定量の組成物を包含する注射針又は注射器を含んでいても良い。製品は、徐放性調剤の治療薬(例えば眼内インプラント)を包含する注射針又は注射器を含んでいても良い。注射針及び注射器は互いに連結されていても良いが、必ずしもその必要はない。注射針及び/又は注射器には、着脱可能なキャップを取り付けても良い。薬剤の投薬に使用する装置に予め1つ又はそれ以上の組成物を充填しておけば、信頼性、安全性及び便利性が向上する場合がある。製品は、様々な治療薬の単位投薬形態を含む注射器を複数含んでいても良い。例えば、第一の治療薬を含む第一の注射器及び第三の治療薬を含む第二の注射器を含んでいても良い。一つの実施形態では、第一の注射器は血管新生阻害剤を含み、第二の注射器は補体阻害剤を含む。いずれかの薬剤又は両方の薬剤が液体組成物であっても良い。いずれかの薬剤又は両方の薬剤が徐放性調剤の成分であっても良い。各注射器に、単一の治療薬を含む組成物及び、任意で、製薬的に許容できる担体などの他の成分を含めても良い。若しくは、1つ又はそれ以上の注射器に、複数の治療薬を含む組成物及び、任意で、製薬的に許容できる担体などの他の成分を含めても良い。
【0227】
前記の各構成要素は、一緒にして、より大きい容器(例えば、箱、金属箔、発泡スチロールなどで、その中には、任意で、別の包装材料を含めても良い)に収納しても良い。必要に応じて、光及び/又は他の環境条件から治療薬を保護し、それに悪影響を及ぼさない材料を使用するよう留意するべきである。製品には、組成物の投与方法に関する、例えば添付文書の形態の指示(例えば、各成分の組み合わせ、希釈又は他の操作に関する適切な指示)を含めても良い。一つの実施形態では、各製品には、単一の手順(すなわち第一及び第二の治療薬の眼への単回投与)で投与される、第一及び第二の治療薬を包含する適量の第一及び第二の組成物を含んでいても良い。当該手順を実施するための注射針及び注射器などの装置又は道具が、任意で含まれる。注射器又は注射針又はその両方に、治療薬を含む組成物を予め充填しておいても良い。1つ又はそれ以上の治療薬、その徐放性調剤及び/又は治療薬を眼に投与するための装置又は道具及びそれらの組み合わせを含む製品は、本発明の範囲内である。
【0228】
眼へ投与される組成物は無菌であるのが好ましい。組成物は無菌成分で調製しても良いし、製造後滅菌しても良い。滅菌方法には、照射及び加熱も含まれる。使用される殺菌方法は、治療薬の活性又は生物学的又は治療上の活性を実質的に減少させないことが好ましい。眼への投与に使用される装置及び道具も、少なくとも眼へ挿入される部分は、滅菌されているのが好ましい。
【0229】
(VIII. 動物モデルでの試験)
黄斑退化、糖尿病性網膜症、CNV、炎症又は他の眼疾患の1つ又はそれ以上の特徴を再現する動物モデルは、当業者には周知である。自然発症的な黄斑退化及び/又はCNV、又は処置により誘発された黄斑退化及び/又はCNVを罹患したマウス、ラット、イヌ、霊長類などに、本発明の化合物を様々な用量で投与できる。黄斑退化の兆候又は症状(例えば、CNV、RPE及び/又はその下の結晶腔におけるリポフシンの蓄積、視細胞受光体の萎縮又は肥大、RPE色素の変化、受光体の喪失、網膜電位図の変化など)の1つ又はそれ以上の予防又は治療を行う機能が化合物にあるかどうかが評価される。目視検査、写真撮影、組織病理学、免疫組織学なども利用できる。
【0230】
レーザー処置によりCNVが誘発された動物(マウス、ユカタンブタ、サルなど)も有用なモデルである(例えば、Bora, P.S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. 100(5):2679−2684, 2003;Zacks, DNら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 243(7):2384−91, 2002を参照)。他のモデルとしては、過酸化脂質(Tamai, K.ら, Exp Eye Res. 74(2):301−8, 2002)、成長因子を含む球粒などの種々の薬剤で処置された動物も含まれる。1つ又はそれ以上の遺伝子を過剰発現又は過少発現するように遺伝子工学的に処理された動物も有用である。例えば、酵素的に不活性なカテプシンDの突然変異形を発現する遺伝子導入マウス(mcd/cmdマウス)は、地図状萎縮に関連する特徴を示す(Rakoczy, PEら, Am. J. Path., 161(4), 1515−1524, 2002)。アデノ随伴ウイルス(AAV)仲介の血管内皮成長因子の発現は、ラットでCNVを誘発する(Wang, F.ら, Invest Ophthalmol Vis Sci. 44(2):781−90, 2003)。ある動物モデルは、単球化学誘引蛋白質(Ccl−2)又はその同族ケモカイン受容体(Ccr−2)のいずれかが欠損している遺伝子導入マウスである(Ambati, J.ら, Nat Med. 9(11):1390−7, 2003;U.S.S.N. 10/685705−米国特許公開第20040177387号)。かかる蛋白質のいずれかが欠損している加齢マウスは、ARMDの特徴(RPE及び/又はその下の結晶腔におけるリポフシンの蓄積、視細胞受光体の萎縮、CNVなど)を数多く示す。かかるマウスモデルを使用した候補薬剤の効果を試験する方法は、米国特許公開第20040177387号に開示されている。一般的に、候補薬剤はARMDの特徴を発現する前又はその後で投与され、少なくとも一つの眼について、結晶腔及び/又はそのリポフシン蓄積の進行又は退化を観察し、候補薬剤がブルック膜、網膜退化及び/又はCNVに効果があるかどうかを調べる。
【0231】
治療薬は本明細書に記載される方法で投与される。眼は、検眼鏡(例えば間接検眼鏡やスリットランプ評価)、血管造影法(蛍光血管造影法など)、組織病理学、光コヒーレンス断層撮影法、眼底写真撮影法又はそれらの組み合わせで分析できる。かかる方法はすべて、動物モデル又は人間で効果を評価するのに利用可能である。動物研究で有望な結果を示した化合物は、例えば、標準のプロトコール及びARMD又は糖尿病性網膜症の治療用の臨床試験指標を用いて、人間でも試験されるが、薬剤は、動物モデルの効果に関する証拠がなくても人間に投与できることは、当業者には理解されるであろう。
【0232】
(IX. 被験者の識別及び応答の評価)
本発明の方法は、本発明の組成物を投与する被験者の提供も含む。被験者は、通常、黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患に罹患している。組成物は、かかる症状を治療又は予防するため、本発明の方法に従って被験者に投与される。従って、被験者は、通常、かかる症状に罹患する危険率が高い又は現在罹患していると確認されている。黄斑退化、CNV、RNVなどの診断方法及び治療への応答の評価方法は、当業者には周知である。
【0233】
黄斑退化関連の症状、糖尿病性網膜症又はCNVに罹患する危険率が高い又は現在罹患している被験者を確認、及び/又は治療前又は治療後の被験者の眼の症状を評価するのに、適切な試験及び基準であればいずれを用いても構わない。視力は、例えば、スネレン視力表、Bailey−Lovie視力表、デシマル・プログレッション(decimal progression)視力表、フライブルグ視力試験、最小角度分解測定法(measurement of minimum angle of resolution;MAR)などを用いて測定できる。変視症(視覚歪像)は、アムスラー視力表を用いて測定しても良い。コントラスト感度は、Pelli−Robson視力表を用いて測定しても良い。診断研究には、眼底の眼科的検査、黄斑の立体生体顕微鏡検査、経静脈蛍光眼底血管造影法、眼底写真撮影法、インドシアニングリーンビデオ血管造影法、光コヒーレンス断層撮影法(OCT)などが含まれるが、これだけに限定されるものではない。OCTは、黄斑浮腫の指標である黄斑の厚さを測定するのに特に有用な場合がある。かかる診断研究の1つ又はそれ以上において異常を示す被験者(例えば、健全な眼と考えられる範囲から外れた被験者)は、本発明に従って治療しても良い。
【0234】
被験者は、加齢関連眼疾患研究(Age−Related Eye Disease Study;AREDS)で用いられる分類方式に従って、初期、中期、末期ARMDに分類しても良い。これは、アメリカ眼科学会が開発したガイドラインで説明されている(Age Related Macular Degeneration Preferred Practive Pattern (登録商標);URLwww.aao.org/aao/education/library/ppp/amd_new.cfmでダウンロードできる)。前記範疇のいずれかに該当する被験者は、本発明に従って治療を受けることができる。被験者が既にCNVを進行させている場合、クラシックCNV、オカルトCNV又はその混合である場合がある。勿論、文献に記載されている他の様々な分類方式を利用しても構わない。
【0235】
ARMDは、ARMDに罹患した親類を持つ個人にARMDの発症率が高いことを示す研究(例えば双子の研究)に基づいて、遺伝的要素のあることが知られている。従って、ARMDの診断を受けた近親者(例えば、両親、祖父母、兄弟姉妹、従兄弟/従姉妹、叔父/伯父、叔母/伯母)が1人又はそれ以上いる場合、その被験者はARMDに罹患する危険率が高いと考えられる。ある種の補体成分をコード化する遺伝子(H因子遺伝子など)の遺伝子多型変異体を有する個人は、特にARMDに罹患しやすい(例えば、Klein RJら, Zeiss C, Science, 308(5720):385−9, 2005;Edwards AOら, Science, 308(5720):421−4, 2005;Haines JLら, Science, 308(5720):419−21, 2005を参照)。一つの実施形態には、ARMDに罹患しやすい1つ又はそれ以上の遺伝子型を提供又は確認する方法も含まれる。遺伝子型には、ARMDに罹患しやすい1つ又はそれ以上の遺伝子多型の存在に関する情報が含まれる。任意に、遺伝子は補体成分(例えばH因子やB因子)をコード化している。
【0236】
喫煙者及び/又は高脂肪食の摂取者もリスクが高い。ARMDの発症率は年齢と共に上昇する。従って、約50歳を超えた人、一般的には少なくとも60歳又は少なくとも70歳の人はリスクが高いと考えられる。結晶腔及び1つ又はそれ以上の他の危険因子を有している個人は、ARMDに罹患する危険率が特に高い場合がある。大きくて境界が不鮮明な複数の結晶腔を有する個人は、特に危険率が特に高い場合がある。RPE過色素沈着又は低色素沈着又は地図状萎縮を有する個人は、特に危険率が高い場合がある。特定の遺伝子突然変異は、種々の非一般的な黄斑退化関連の症状に関係している。糖尿病の診断を受けた被験者は、糖尿病性網膜症に罹患する危険率が高い。更に、片方の眼にARMDを罹患した被験者は、もう一方の眼にも症状が進行する危険率が高い。
【0237】
治療への応答は、前記の方法のうちいずれかを用いて評価できる。視力回復、視力喪失の予防、及び/又はARMD又は脈絡膜血管新生の進行の改善又は遅延化に関して、様々な治療の効果を評価するため、前記のような診断試験による判断に基づいて、数多くの研究が行われている。当業者であれば、治療の効果を判断するための適切な基準を選択できる。
【0238】
被験者の眼の急速な改善は、例えば、眼疾患に関連する兆候又は症状の点で、臨床的に有意な如何なる改善であっても良い。例えば、改善は、視力表の1、2、3又はそれ以上の上の行が見えるレベルの視力(例えば、最高矯正視力)の改善であっても良い。改善は、黄斑の厚さの減少(例えば、少なくとも50μm、少なくとも100μm、少なくとも150μm減少など)であっても良い。改善は、網膜に現れる滲出物の面積の減少であっても良い。
【0239】
改善は、被験者の眼の症状の定量的測定値が、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%又はそれ以上の増大であっても良い、ここで、定量的測定値の増大は、被験者の眼の症状の改善を表す。改善は、被験者の眼の症状の定量的測定値が少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上の減少であっても良い、ここで、減少は被験者の眼の症状の改善を表す。被験者の眼の症状の指標としてスコア方式(例えば、スコア方式は1−3、1−5、1−10などの範囲のスコアを含む)を用いる場合、改善は、例えば、1、2、3又はそれ以上の単位の増大であっても良い。ここで、スコアの増大は、被験者の眼の症状の改善を表す。あるいは、スコアの減少が被験者の眼の症状の改善を表すスコア方式の場合は、改善は少なくとも1、2、3又はそれ以上の単位の減少であっても良い。様々なスコア方式が利用可能であることは、当業者には周知である。例えば、スコアは整数ではなく、+や−などの単位で表現される場合もある。勿論、各人の応答は様々であり、全ての被験者が応答するわけではないことも理解して頂きたい。動物試験及び臨床試験では、被験者の眼の症状の変化は、試験される母集団の平均変化で表現される場合もあるし、及び/又は適切な統計的試験を用いて表現される場合もある。
【0240】
一つの実施例では、ARMDに罹患している被験者は二つのグループに分けられる。視力(例えば最高矯正視力)、コントラスト感度、視覚歪像、網膜出血の数及び面積、黄斑の厚さなどの種々のパラメータが、被験者の眼の症状のベースライン表示を提供するために評価される。一つのグループは、第一の治療薬(例えば、抗VEGF薬(例えばルーセンティス(Lucentis)、アバスチン(Avastin)、マキュジェン(Macugen))などの血管新生阻害剤)の単回硝子体内注入を受ける。もう一つのグループは、同用量の第一の治療薬及び第二の治療薬(例えば、コンプスタチン(compstatin)又はその誘導体などの補体阻害剤)の徐放性調剤を受ける。両方の試薬が、単回硝子体内注入で一緒に投与される。徐放性調剤は、例えば、第二の治療薬を含む円柱状又はネジ状の眼内インプラント、薬剤を含む複数の粒子、投与後ゲルなどの固形又は半固形構造体を形成する組成物などでも良い。両グループ共、一定期間観察下におかれる。視力(例えば最高矯正視力)、コントラスト感度、視覚歪像、網膜出血の数及び面積、黄斑の厚さなどのパラメータは、好ましくは、最初の評価でベースライン値を決定する際に用いたのと同じ方法及びメートル法を使って評価される。例えば、黄斑浮腫の消失はOCTで観察する。眼の症状が急速に改善した被験者の数を決定するには、例えば、投与後1週間、10日又は2週間経ってから評価する。治療された眼の症状が急速に改善(例えば、黄斑浮腫及びそれに関連した視覚障害の急速な減少)した被験者の数は、両グループ間で比較される。不安定化の平均時間(例えば、前記パラメータの1つ又はそれ以上が急速に悪化するまでの平均時間)も観察される。治療後様々な時間ポイント(例えば、30、60、90、120、150及び180日及びその後30日間隔(又はかかる時間ポイントの適切なサブセット))における血管新生及び/又は血管からの漏出の程度も観察される。網膜の厚さのスコアに関するベースラインからの変化が評価され、両グループ間で比較される。前記時間ポイント1つ又はそれ以上において、網膜の厚さの低下の平均が、本発明の複合治療を受けたグループの方が大きければ、それは、本発明の複合治療が、眼疾患の治療の面で効果を上げていることを示している。蛍光漏出スコアで、ベースラインからの変化を評価しても良い(蛍光漏出スコアは血管新生及び又は血管からの漏出を示しており、スコアが高ければ高いほど、血管新生及び又は血管からの漏出の量が多いことを示している)。ベースラインと比較した蛍光漏出スコアの低下の平均値が、本発明の複合治療を受けたグループの方が大きければ、それは、本発明の複合治療が、眼疾患の治療の面で効果を上げていることを示している。
【0241】
前記実施例の各々が繰り返される。但し、第一及び第二の治療薬が、両方とも補体阻害剤又はその組み合わせである。例えば、第一の治療薬はVCCPで、第二の治療薬はGPCRAである。あるいは、第一の治療薬はコンプスタチン(compstatin)又はその誘導体で、第二の治療薬はVCCPである。
【0242】
前記実施例の各々が繰り返される。但し、一方のグループが単回の硝子体内注入により、液体媒質中に複数の治療薬を含む組成物及び少なくとも一つの治療薬を含む徐放性調剤を受ける。複数の治療薬は、例えば、異なる血管新生阻害剤であっても良い。あるいは、複数の治療薬は、1つの補体阻害剤と1つの血管新生阻害剤を含んでいても良い。徐放性調剤は、例えば、2つ又はそれ以上の補体阻害剤、又は1つの補体阻害剤と1つの血管新生阻害剤を含んでいても良い。例えば、一つの実施形態では、徐放性調剤は、コンプスタチン(compstatin)アナログ及びルーセンティス(Lucentis)を含んでいる。
【0243】
前記実施例の各々が繰り返される。但し、少なくとも一つの治療薬はRNAi薬である。例えば、第一又は第二の治療薬は、1つ又はそれ以上のVEGFイソフォーム、1つ又はそれ以上のVEGF受容体、1つ又はそれ以上の補体成分など、1つ又はそれ以上の内因性血管新生促進分子の発現を阻害するsiRNAである。一つの実施形態では、徐放性調剤には少なくとも2つのRNAi薬が含まれ、各々異なる血管新生促進分子の発現を阻害する。例えば、徐放性調剤はCand5及びSirna−027を含んでいても良い。
【0244】
糖尿病性網膜症に罹患している被験者で、前記実施例の各々が繰り返される。
【0245】
別の実施形態では、初期ARMD(AREDS2)から中期ARMD(AREDS3)への進行を阻害する本発明の組成物及び方法の能力を評価する。初期ARMDに罹患している被験者は2つのグループに分けられる。そのうちの一つのグループは前記2つの実施例のいずれかに記載されているように、本発明の複合薬剤を受け、もう一方のグループは全く治療を受けないか、あるいは単一の薬剤(例えば、前記2つの実施例のいずれかに記載されているように、ルーセンティス(Lucentis)、アバスチン(Avastin)、マキュジェン(Macugen))で治療される等の代替治療を受ける。両グループ共、一定期間(例えば前述のように)観察される。更に、初期から中期のARMDへ進行した被験者の割合を決定する。中期ARMDへ進行した被験者の割合が、本発明の複合治療を受けたグループにおいて低ければ、本発明の複合治療が、眼疾患の治療の面で効果を上げていることが示される。
【0246】
別の実施形態では、中期ARMD(AREDS3)から末期ARMD(AREDS4)への進行を阻害する本発明の方法の能力を評価する。中期ARMDに罹患している被験者は2つのグループに分けられる。そのうちの一つのグループは前記2つの実施例のいずれかに記載されているように、本発明の複合薬剤を受け、もう一方のグループは全く治療を受けないか、あるいは単一の薬剤(例えば、前記2つの実施例のいずれかに記載されているように、ルーセンティス(Lucentis)、アバスチン(Avastin)、マキュジェン(Macugen))で治療される等の代替治療を受ける。両グループ共、一定期間(例えば前述のように)観察される。中期から末期のARMDへ進行した被験者の割合を決定する。末期ARMDへ進行した被験者の割合が、本発明の複合治療を受けたグループにおいて低ければ、本発明の複合治療が、眼疾患の治療の面で効果を上げていることが示される。
【0247】
ARMDの進行を観察する以外に、副作用及び合併症の発生率を更に観察しても良い。治療の全体的結果及びリスク利益率を評価するにあたり、副作用の考察は重要である。例えば、2つの治療がARMDの進行の阻害又は治療の面で効果が等しい場合、副作用(例えば、前記のような重篤な合併症)の発生率が低い方が、通常、ほとんどの被験者に好まれる。本発明のある実施形態では、本発明の方法及び組成物を用いて、ARMDなどの疾患又は様々な原因のCNV又はRNVで特徴付けられる疾患の治療を行う方が、複数の薬剤を個別に投与する治療又は単一の治療薬だけが使用される治療と比較して、全副作用(例えば重篤な合併症)が、経時的(例えば1−2年の期間)に見て少ない。
【0248】
(等価形態及び範囲)
当業者であれば、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態と同等のものを数多く、通常の実験法を用いて、認識又は確認できる。本発明の範囲は前記の記述には制限されず、添付の特許請求の範囲に記載されている通りである。請求項及び明細書に用いられる一つ(a及びan)及びその(the)という冠詞は、反対の意味が示されていない限り、又は文脈から別の意味が明らかでない限り、1つ又はそれ以上を意味する場合がある。例えば、請求項及び明細書に用いられる不定冠詞(a及びan)は、反対の意味が示されていない限り、少なくとも一つを意味するものと理解されるべきである。一つのグループ中の1つ又はそれ以上のメンバー間に又は(or)を含んでいる請求項又は記載は、反対の意味が示されていない限り、又は文脈から別の意味が明らかでない限り、グループのメンバーの1つ又はそれ以上又は全部が、所定の製品又はプロセスに存在する、使用される又は関連するならば、条件は満たされていると考えられる。本発明には、グループの中の正確に1つのメンバーだけが所定の製品又はプロセスに存在する、使用される又は関連する実施形態が含まれる。本発明には、グループのメンバー中の1つを超えるメンバー又は全てのメンバーが、所定の製品又はプロセスに存在する、使用される又は関連する実施形態も含まれる。更に、本発明には、1つ又はそれ以上の請求項(又はかかる請求項又は構成要件に関連する本明細書の一部)からの1つ又はそれ以上の制限、構成要素、節、記述用語などが別の請求項に導入されている変形、組み合わせ及び入れ替えなどが全て含まれることも理解されるべきである。例えば、非限定的に、別の請求項に依存する請求項には、同じ基本的な請求項に含まれる1つ又はそれ以上の他の請求項に見出される(又はかかる請求項又は構成要件に関連する本明細書の一部からの)1つ又はそれ以上の構成要素又は制限も含まれるように調整可能である。更に、ある組成物が請求項又は本明細書の記載に述べられている場合、反対の意味が示されていない限り、又は矛盾又は不一致の生じることが当業者にとって明らかでない限り、 本明細書に記載されたいずれかの方法に従ってその組成物を投与する方法、本明細書に記載されたいずれかの目的のためにその組成物を使用する方法、及び本明細書に記載されたいずれかの調製方法に従ってその組成物を調製する方法がそれに含まれることも理解されるべきである。本発明には、反対の意味が示されていない限り、又は矛盾又は不一致の生じることが当業者にとって明らかでない限り、1つ又はそれ以上の請求項からの1つ又はそれ以上の要素、節、記述用語などが同じ基本的な請求項に依存する別の請求項に導入される変形、組み合わせ及び入れ替えなども全て含まれる。
【0249】
構成要素がマーカッシュグループ形式などで掲載されている場合、その構成要素の各サブグループも開示されていること、及び如何なる構成要素もそのグループから除去可能であることも理解されるべきである。本発明又は本発明の局面が特定の構成要素、特徴などを含んでいると述べられている場合、本発明のある実施形態又は本発明の局面は、かかる構成要素や特徴などで構成されている又は本質的に構成されていると、一般的に理解されるべきである。説明を分かりやすくするため、かかる実施形態は、本明細書の言葉であらゆる場合を具体的に説明したものではない。
【0250】
本発明のある方法に、被験者に提供するという用語が含まれている場合、それは、組成物が被験者の眼を治療するために投与されることを示している。従って、被験者は眼疾患に罹患している又は罹患する危険率が高い。更に、組成物は、通常、医者又は外科医(例えば眼科医で、組成物を投与する人と同じ場合もあれば、そうでない場合もある)の推薦に基づいて、眼疾患の治療のために投与される。本発明には、提供するステップが明白に含まれている実施形態、及び提供するステップが含まれていない実施形態が含まれる。本発明には、黄斑退化、CNV又はRNVにより特徴付けられる眼疾患に罹患している被験者又は罹患する危険率の高い被験者を確認するステップの実施形態も含まれる。
【0251】
範囲が定義されている場合は、エンドポイントもその中に含まれる。本発明には、片方のエンドポイント又は両方のエンドポイントが除外される実施形態も含まれる。更に、別の記載がない限り、又は文脈及び当業者の理解から別の意味が明らかでない限り、範囲であらわされた値は、本発明の異なる実施形態では、文脈が明白に別の意味を示していない限り、当該範囲の下限単位の10分の1まで、当該範囲内のあらゆる特定の値又は部分範囲を含む。
【0252】
本発明の組成物又は方法(例えば、治療薬、徐放性調剤、徐放性調剤の調製方法など)に関する実施形態、投与方法、眼疾患又はその症状又はその特徴付け、又は被験者の特徴付けのいずれかが、従来の技術の存在に関連しているか否かを問わず、如何なる理由によってでも、1つ又はそれ以上の請求項から除外される場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1−1】図1A−1Eは、眼の前部及び後部(1A及び1B)及び眼の外層(1C−1E)の概略図である。図1Cは正常な眼、図1DはドライARMDに罹患している眼、図1Eは湿性ARMDに罹患している眼である。ONL=外顆粒層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮層;BM=ブルック膜;CC=脈絡毛細管板。Tezel, T.,ら, Trends in Molecular Medicine, 10(9), 417−420, 2004より引用。
【図1−2】図1A−1Eは、眼の前部及び後部(1A及び1B)及び眼の外層(1C−1E)の概略図である。図1Cは正常な眼、図1DはドライARMDに罹患している眼、図1Eは湿性ARMDに罹患している眼である。ONL=外顆粒層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮層;BM=ブルック膜;CC=脈絡毛細管板。Tezel, T.,ら, Trends in Molecular Medicine, 10(9), 417−420, 2004より引用。
【図1−3】図1A−1Eは、眼の前部及び後部(1A及び1B)及び眼の外層(1C−1E)の概略図である。図1Cは正常な眼、図1DはドライARMDに罹患している眼、図1Eは湿性ARMDに罹患している眼である。ONL=外顆粒層;IS=内節;OS=外節;RPE=網膜色素上皮層;BM=ブルック膜;CC=脈絡毛細管板。Tezel, T.,ら, Trends in Molecular Medicine, 10(9), 417−420, 2004より引用。
【図2】図2は、補体制御蛋白に見出されるモジュールであるショートコンセンサスリピート(SCR)のコンセンサス配列を示す。Smith, SA, ら, J. Virol. 74(12), 5659−5666, 2000より引用。
【図3】図3A及び図3Bは、ワクシニアウイルス補体制御蛋白前駆体(配列番号33)及び成熟ワクシニアウイルス補体制御蛋白前駆体(配列番号34)の配列を示す。
【図4】図4は種々のオルトポックスウイルス分離株から得られた成熟補体制御蛋白の配列比較(配列番号35−42)を示す。対応する遺伝子座を列挙している。Smith, SA, ら, J. Virol. 74(12), 5659−5666, 2000を部分修正。
【図5】図5は、複数の補体制御蛋白及びそのフラグメントのSCRドメイン構造、K+R残基の数、%K+R残基、pI、推定上のヘパリン結合部位の数、溶血及び/又はヘパリン結合阻害能力の比較を示す。Smith, SA, ら, J. Virol. 74(12), 5659−5666, 2000を部分修正。ドメインはSCRモジュールである。従って、例えば、rVCP SCR(2, 3, 4)は、VCPから組み換えにより得たSCRs 2, 3及び4を含むポリペプチドである。
【図6】図6は、SPICE(配列番号44)のアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は、コンプスタチン(compstatin)の構造及びコンプスタチン(compstatin)と比べて補体阻害活性が増大しているコンプスタチン(compstatin)アナログの構造を示す。同図は、ヒト補体の阻害に関して、コンプスタチン(compstatin)及びコンプスタチン(compstatin)アナログのIC50も示している。図の上部に描かれているペプチド鎖のアミノ酸4及び9は、コンプスタチン(compstatin)に関して左下に、コンプスタチン(compstatin)アナログに関して右下に示してある。従って、X4及びX9と印されている箱は、コンプスタチン(compstatin)(左)及びコンプスタチン(compstatin)アナログ(右)に関して図の下部に示されているX4及びX9をそれぞれ表している。
【図8】図8は、本発明で使用される代表的化合物を示す。
【図9】図9は、第一及び第二の治療薬を充填した注射針/注射器アセンブリを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患を治療する方法であって、有効量の第一及び第二の治療薬を被験者の眼に単一の手順で投与するステップを含み、前記第一の治療薬が前記被験者の眼の症状を急速に改善し、前記第二の治療薬が第二の治療薬用の徐放性調剤として投与されることを特徴とする眼疾患を治療する方法。
【請求項2】
前記急速な改善には、前記治療薬投与後2週間以内に視力を改善することが含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記手順が注入法であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記手順が注入法であり、前記第一及び第二の治療薬が被験者の眼の硝子体に注入されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記手順が注入法であり、投与前に、前記第一の治療薬が注射器内に含まれ、前記第二の治療薬を含む徐放性調剤が注射器に取り付けられた注射針に含まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一の治療薬が注射器内の液体媒質に溶解し、前記第二の治療薬を含む徐放性調剤が注射針内の眼内インプラントを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一の治療薬が血管新生阻害剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の治療薬が抗VEGF剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の治療薬が、VEGFに結合する抗体及びVEGFに結合する核酸からなる群から選択される抗VEGF剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第一の治療薬が、ベバシズマブ、ラニビズマブ及びペガプタニブからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第二の治療薬が、補体阻害剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第二の治療薬が、ウイルス補体制御蛋白及びペプチド又は補体成分に結合する小分子からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第二の治療薬が、コンプスタチン又はその誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第二の治療薬がGPCRAであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第一の治療薬が血管新生阻害剤であり、前記第二の治療薬が補体阻害剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
コンプスタチン又はその誘導体及びC5a誘導体が投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記C5a阻害剤がC5a受容体拮抗剤であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の治療薬が投与前に液体媒質に溶解又は懸濁されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記徐放性調剤が前記第二の治療薬を含む眼内インプラントを包含することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記徐放性調剤がポリマー性物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマー性物質が生体分解性であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマー性物質が、ポリラクティック酸(PLA)、ポリグルコール酸(PGA)、ポリラクチドコグリコリド(PLGA)、ポリホスファジン、ポリリン酸エステル、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、エチレンビニル酢酸塩、ポリオルトエステル、ポリエーテル、ポリベータアミノエステル、前記ポリマーのいずれかに見出される単量体を含む共重合体、コラーゲン、アルブミン、キトサン、アルギネート、ヒアルロン酸及び前記ポリマーのいずれかの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記徐放性調剤が、前記第二の治療薬を含むナノ粒子、ミクロ粒子、デンドリマ又はリポソームを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記徐放性調剤が、前記第二の治療薬を包括又は封入する固形又は半固形であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記徐放性調剤が、前記第二の治療薬が共有結合している不活性物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記第一の治療薬が液体媒質中可溶性又は粒子の形態で投与され、前記第二の治療薬が固形又は半固形中又はそれと結合して投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記第二の治療薬が、前記徐放性調剤として投与された場合に、前記第一の治療薬の活性期間よりも長い活性期間を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記第一の治療薬を単独薬として投与した場合に、被験者が眼の症状の改善を経験する期間と比較し、前記第二の治療薬を投与した場合に、被験者が改善を経験する期間が長く持続することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記眼疾患が湿性ARMDであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記第一及び第二の治療薬を投与する2週間前以内に、前記被験者が知覚可能な眼の症状の悪化を経験することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記第一の治療薬の活性期間よりも長い時間周期で、前記方法を更に1度以上実施することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項32】
黄斑退化、CNV又はRNVによって特徴付けられる眼疾患を治療する方法であって、第一及び第二の組成物を被験者の眼に単一の手順で投与するステップを含み、前記第一の組成物が前記被験者の眼の症状を急速に改善させる血管新生阻害剤又は補体阻害剤を含み、前記第二の組成物が血管新生阻害剤又は補体阻害剤を含む徐放性調剤を含むことを特徴とする眼疾患を治療する方法。
【請求項33】
前記単一の手順が硝子体内注入であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記血管新生阻害剤が抗VEGF剤であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記血管新生阻害剤が、抗体又はVEGFと結合する抗体フラグメント及びVEGFに結合する核酸からなる群から選択される抗VEGF剤であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記血管新生阻害剤が、ベバシズマブ、ラニビズマブ及びペガプタニブからなる群から選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記補体阻害剤が、ウイルス補体制御蛋白及び補体成分に結合するペプチドからなる群から選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記補体阻害剤がコンプスタチン又はその誘導体であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記血管新生阻害剤が、ベバシズマブ、ラニビズマブ及びペガプタニブからなる群から選択され、前記補体阻害剤がコンプスタチン又はその誘導体であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記第一治療薬が、液体媒質中少なくとも一部溶解又は懸濁して提供されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記第二治療薬が、少なくとも3ヶ月間にわたり被験者の眼の治療レベルを維持するように、前記眼内インプラントから放出されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項42】
第一及び第二治療薬を被験者の眼に投与する方法であり、(i)前記第一の治療薬を含む溶液又は懸濁液の注入と、(ii)第二の治療薬を含む固体の眼内インプラント、複数の粒子又は第二の治療薬を含むゲル形成組成物とを、単一の注入法で被験者の眼へ注入することを包含する方法
【請求項43】
前記第一及び第二治療薬が、被験者の眼の硝子体に注入されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
(i)前記溶液又は懸濁液と、(ii)固体の眼内インプラント、複数の粒子又はゲル形成組成物が、単一の注射針/注射器アセンブリを用いて注入されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記第一の治療薬が、前記被験者の眼の症状を急速に改善することを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記第二の組成物の活性期間が、前記第一の組成物の活性期間よりも長いことを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記第二の治療薬が、前記被験者の眼の症状を急速には改善しないことを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項48】
前記第二の治療薬が、前記第一の治療薬の活性期間よりも長い活性期間を有することを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項49】
前記第一の治療薬の活性期間よりも長い時間周期で、前記投与ステップを更に1度以上繰り返すステップを含むことを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項50】
(i)眼疾患を治療するのに有効な第一の治療薬と、(ii)第二の治療薬を含む注射針を含む製品。
【請求項51】
注射器を更に含むことを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項52】
注射器を更に含み、前記注射器が前記第一の治療薬を含むことを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項53】
製品が前記第一の治療薬の単位投薬形態を含むことを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項54】
製品が前記第一の治療薬の単位投薬形態と、前記第二の治療薬の単位投薬形態とを含むことを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項55】
注射器を更に含み、製品が少なくとも一つのコンパートメントを有し、前記注射器及び注射針が製品の単一のコンパートメントに収容されていることを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項56】
注射器を更に含み、前記注射器と注射針が互いに結合していることを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項57】
注射器を更に含み、製品は少なくとも二つのコンパートメントを有し、前記注射器と注射針が各個別のコンパートメントに収容されていることを特徴とする請求項50に記載の製品。
【請求項58】
(i)眼疾患を治療するのに有効な第一の治療薬と、(ii)眼疾患を治療するのに有効な第二の治療薬を含む製品であり、各治療薬は個別の注射器に包含されている製品。
【請求項59】
注射針を更に含む請求項58に記載の製品。
【請求項60】
眼疾患の複合治療を提供する方法であり、前記請求項50乃至59のいずれかに記載の製品の提供を含むことを特徴とする方法。
【請求項61】
前記提供のステップが、前記製品を薬局又は医療提供施設へ発送することを含む請求項60に記載の方法。
【請求項62】
注射針及び注射器のアセンブリであり、前記注射針は眼疾患用の第一の治療薬を含む徐放性調剤を含み、前記注射器は眼疾患用の第二の治療薬を含み、前記第二の治療薬は液体媒質中溶解又は懸濁されていることを特徴とする注射針及び注射器のアセンブリ。
【請求項63】
前記徐放性調剤が、眼内インプラント、複数の粒子又はゲル形成物質を含むことを特徴とする請求項62に記載の注射針及び注射器のアセンブリ。
【請求項64】
前記第一の治療薬が補体阻害剤又は血管新生阻害剤であり、前記第二の治療薬が補体阻害剤又は血管新生阻害剤であることを特徴とする請求項62に記載の注射針及び注射器のアセンブリ。
【請求項65】
前記第一の治療薬が補体阻害剤であり、前記第二の治療薬が血管新生阻害剤であることを特徴とする請求項62に記載の注射針及び注射器のアセンブリ。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−523821(P2009−523821A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551458(P2008−551458)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/001649
【国際公開番号】WO2007/084765
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508106105)ポテンシア ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】