説明

眼内レンズ製造方法

【課題】加工時に生じる切削粉や塵の付着の虞を排除でき、所望の精度を有する眼内レンズを比較的ローコストで安定して製造することが可能な眼内レンズ製造方法を提供する。
【解決手段】光学部になる部材を成形するための光学部成形部と、支持部になる部材を成形するための支持部成形部とを有する成形型であって、前記光学部成形部は、成形することによってレンズを構成する前方光学面と後方光学面とが直ちに得られるものであり、前記支持部成形部は、成形によって得られた部材に一定の加工を加えることによって支持部が得られるものである成形型を用い、前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させ、次に、前記重合もしくは硬化させた部材における少なくとも前記前方光学面及び後方光学面が前記成形型の光学部成形部によって覆われた状態で前記支持部になる部材を支持部の形状に加工し、次に、前記光学部成形部を離型することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球の水晶体の代わりに眼内に挿入される眼内レンズを製造する眼内レンズ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障等で水晶体が白濁化するなどした場合に、この水晶体を取り除いてその代わりに眼内レンズが挿入される。この眼内レンズとして、近年、特に、超音波乳化吸引術などの普及にともない、術後乱視と手術侵襲の軽減を目的として、小切開創から挿入可能な眼内レンズが開発され、臨床に広く使用されている。このレンズは光学部材質に軟性材料を使用することにより、その光学部を折曲げて小切開創からの挿入を可能にした軟性眼内レンズである。
【0003】
軟性眼内レンズを構造的な面から大別すると、光学部と支持部が異種の材料から構成されているタイプと光学部と支持部が同一の材料から構成されているタイプとに分けられる。光学部と支持部が異種材料から構成されているタイプの眼内レンズは、一般的に、折りたたみ可能なシリコン、アクリル樹脂、ハイドロゲルなどの軟性材料からなる略円形の光学部と、それよりも比較的硬いポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルなどの硬質材料からなる先端が開放された支持部から構成されており、眼内での安定性は比較的良好であるが、製造工程が複雑なため製造コスト上不利であり、また、光学部と支持部とが異種材料であることからその接合箇所で不具合が生ずる可能性が高い等の不利な要因がある。これに対して、光学部と支持部とが同一材料から構成されている軟性眼内レンズではこのような不利な要因がないことから、最近、注目されてきている。
【0004】
ところで、上記光学部と支持部とが同一材料から構成されている軟性眼内レンズの製造方法としては、眼内レンズ材料に光学面を含めて機械的に切削加工を施し、所望の形状に成形するレースカッティング法と、眼内レンズ形状を有する成形型内に原料モノマーを注入し、ついで該モノマーを重合させて成形するキャストモールディング法とが挙げられる。キャストモールディング法を利用した方法としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載された方法が知られている。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、レンズ光学面の片方の面をキャストモールディング法によって形成し、他方の面は切削加工によって形成するようにしたものである。特許文献2に記載の方法は、レンズ光学面の両面をキャストモールディング法によって形成し、支持部を、打ち抜き、レーザー加工、切削その他によって形状加工するようにしたものである。
【特許文献1】特開昭63−91230号公報
【特許文献2】特開平3−284258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述のレースカッティング法によれば、軟性素材からなる眼内レンズの光学面を機械切削(レースカッティング)により形成させる必要があるが、そのためには、ワークをガラス転移以下に冷却硬化させて切削する等、工程が煩雑かつその管理も難しく、更に切削痕除去のため研磨も必要となる。近年、非球面レンズや回折レンズ等、非常に高度な光学デザインを要するレンズが開発されてきているが、レンズが研磨を要する場合、せっかく高精度に形成された光学面が研磨により崩されてしまい、所望する光学性能の発現は一般に困難となる。また、加工時に生じる切削粉が光学部に貼り付いた場合、IOLの製造において頻用されるタンブリング研磨によっても除去は難しい。
【0007】
これに対して、上述のキャストモールディング法を利用した方法では、上記レースカッティング法のような問題がない点では好ましい。しかしながら、キャストモールディング法の場合、特に支持部が細く薄いループタイプにおいては、モノマーの重合の際の収縮により変形を生ずる場合がある等の問題、あるいは、所望の形状、大きさのものを得ることが困難である等の問題がある。さらには、キャストモールディング法を利用した場合でも、最終製品にする過程で切削加工が必要の場合が少なくない。その場合には、同様に切削粉が光学部に付着する問題も生ずる。本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、加工時に生じる切削粉や塵の付着の虞を排除でき、所望の精度を有する眼内レンズを比較的ローコストで安定して製造することが可能な眼内レンズ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するための手段として第1の手段は、
レンズの表裏面を構成する前方光学面と後方光学面とを有する光学部と、この光学部を眼内に支持するためにこの光学部の外周部に設けられた支持部とを有する眼内レンズを製造する眼内レンズ製造方法であって、
前記光学部になる部材を成形するための光学部成形部と、前記支持部になる部材を成形するための支持部成形部とを有する成形型であって、前記光学部成形部は、成形することによって前記前方光学面と後方光学面とが直ちに得られるものであり、前記支持部成形部は、成形によって得られた部材に一定の加工を加えることによって支持部が得られるものである成形型を用い、
前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させ、
次に、前記重合もしくは硬化させた部材における少なくとも前記前方光学面及び後方光学面が前記成形型の光学部成形部によって覆われた状態で前記支持部になる部材を支持部の形状に加工し、
次に、前記光学部成形部を離型することを特徴とする眼内レンズ製造方法である。
第2の手段は、
前記成形型の支持部成形部は、前記光学部の光軸を含む切断面で切断した断面形状は完成した支持部の断面形状をなしたものであるが、前記光軸方向からみた形状は任意の形状をなしたものであり、前記支持部になる部材の加工は、この支持部になる部材を前記光軸方向から見た形状が完成された支持部の形状になるようにする加工であることを特徴とする第1の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第3の手段は、
前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させ、前記成形型の光学部成形部内及び支持部成形部内の双方に前記重合もしくは硬化させた部材が存在する状態で、前記光学部となる部材及び支持部となる部材における前記光軸方向からみた形状が、完成された眼内レンズの形状になるように、前記成形型と一緒に加工するようにしたことを特徴とする第1又は第2の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第4の手段は、
前記成形型は上型と下型とを有するものであり、前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させた後、前記光学部となる部材及び/又は前記支持部となる部材をこれら部材が前記上型と下型との間に存在する状態でこの成形型と一緒に加工して、前記光学軸方向から見た形状が完成された形状になるようにする加工工程を有し、
前記加工工程は、前記部材が内部に存在する状態の成形型に対し、前記光軸方向から見た形状が完成された形状になるように仕切る仮想の輪郭線に沿って前記光軸方向から前記成形型の上型もしくは下型の一方を所定の溝幅で掘り込んでいき、この一方の型を貫通させるとともに他方の型の所定の深さに至るまで掘り込んでいくようにして前記輪郭線の全周にわたって加工する工程であることを特徴とする第1〜第3のいずれかの手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第5の手段は、
前記眼内レンズは軟性眼内レンズであることを特徴とする第1〜第4のいずれかの手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第6の手段は、
前記成形型がプラスチック樹脂で構成されていることを特徴とする第1〜第5のいずれかの手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第7の手段は、
前記プラスチック樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、又は、ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする第6の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第8の手段は、
前記軟性眼内レンズを構成する材料のガラス転移温度が35℃未満であることを特徴とする第6の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第9の手段は、
軟性眼内レンズを構成する材料がアクリル系モノマーの重合物であることを特徴とする第6の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第10の手段は、
前記プラスチック樹脂製成形型の内面に、前記光学部を構成する材料との接着性を付与する処理を予め施しておくことを特徴とする第6の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
第11の手段は、
前記接着性付与処理が、150〜300nmの波長領域に発光ピークを有し、かつ酸素分子を分解してオゾンを生成すると共に、該オゾンを分解して活性酸素種を生成する機能を持つ活性光を、酸素の存在下に照射する処理であることを特徴とする第10の手段にかかる眼内レンズ製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
上述の手段によれば、加工時に生じる切削粉や塵の付着の虞を排除でき、また、これに加えて材料を選定することなどにより、所望の精度を有する眼内レンズを比較的ローコストで安定して製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法によって製造される眼内レンズを示す図であって図1(a)は平面図、図1(b)は側面図であり、図2は本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法に用いる成形型を示す図であって図2(a)は上型と下型とを離間した状態を示す断面図、図2(b)は上型と下型とを成形する状態で結合させた状態を示す断面図、図2(c)は平面図である。以下、まず、図1、図2を参照にしながら、本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法によって製造される眼内レンズ及び本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法に用いる成形型(モールド)を説明する。
【0011】
図1に示されるように、本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法によって製造される眼内レンズ10は、光学部11と、この光学部11を眼内に支持するためにこの光学部11の外周部に設けられた2本の支持部12a、12bとを有する。光学部11は、レンズの表裏面を構成する前方光学面11aと、後方光学面11bとを有するものである。なお、この眼内レンズ10は、成形型成形等によって、中央部に光学部11が形成され、その周辺部に円環状に形成された部材であって支持部となる部材である支持部前駆部材12(図1(a)に点線で示される部位)が形成された略円盤状の成形物を成形し、この成形物における支持部前駆部材11を、切削等の加工により、支持部12a、12bの形状に加工することによって得られる。
【0012】
また、図2に示されるように、本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法に用いる成形型100は、上型20と下型30とを有する。図2(a)に示されるように、上型20は、眼内レンズ10の光学部11における前方光学面11aを形成するための前方光学面成形部21と、支持部12a、12bになる部材を成形するための支持部成形部22と、これら成形部を仕切る部材としてのフランジ部23とを有する。下型30は、眼内レンズ10の光学部11における後方光学面11bを形成するための後方光学面成形部31と、支持部12a、12bになる部材を成形するための支持部成形部32と、前記上型20のフランジ部23を受けるフランジ受け部33とを有する。また、必要に応じ、キャストモールディング法で通常用いるモノマー溜まりやエア抜きを設けても良い。
【0013】
図2(b)に示されるように、上型20のフランジ部23が下型30のフランジ受け部32に嵌めこまれるようにして上型20と下型30とを成形する状態で結合させると、これら上型20と下型との間に空隙が形成される。そして、その空隙のうちの中央部に形成される空隙が光学成形部101を構成し、その周辺に形成される空隙が支持部成形部102を構成する。したがって、例えば、下型30に成形用の原料を供給し、この下型30に上型22を結合させることにより、中央部に光学部11が形成され、その周辺部に円環状の支持部前駆部材12が形成された略円盤状の成形物を成形することができる。
【0014】
上型20及び下型30としては、切削可能なプラスチック樹脂製成形型を用いる。成形型には容易に切削が可能なプラスチック樹脂を用いるが、レンズ素材の原料モノマーによる変形を生じない耐溶剤性に優れたプラスチック樹脂が好ましく、特にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂製の重合容器が好ましい。更に、プラスチック樹脂製成形型の内壁に、該成形型中で重合されるレンズ素材との接着性付与処理を予め施しておいても良い。適切な接着性付与処理は、重合後得られるレンズ素材と成形型間の剥離を防ぎ、成形型内面形状の確実な転写を可能とするだけでなく、レンズ素材と成形型間の接着性を高め加工中の成形型からのレンズ素材の剥がれ、飛び出しに有効である。この接着性付与処理は、重合されるレンズ素材との接着性が高められるのであれば特に制限はなく、例えば、フレーム処理(焼炎処理)、プライマー処理、紫外線照射処理、電気的表面処理等が挙げられ、従来から知られている手法及び装置を用いることができる。成形型内面に設けられる光学面(前方光学面11a、後方光学面11b)の形状には球面、非球面、トーリック、バイフォーカル、マルチフォーカル、更には屈折型、回折型等が挙げられるが眼内レンズの光学デザインとして有効であれば特に制限はなく、また、成形型の外形状についても製造上適した形であれば良く、特に制限はない。
【0015】
図3乃至図9は本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法を説明するための図である。以下、これらの図面を参照にしながら、本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法を説明する。
【0016】
図3は成形型100に原料を注入して成形を行う様子を示す図である。図3に示されるように、上型20に、原料注入器40により、レンズ素材の原料モノマー類50を注入し(図3(a)参照)、これに下型30を組み付けて蓋をする(図3(b)参照)。ここで用いられるレンズ素材の原料モノマー類は公知のものであれば特に制限はなく、また、重合開始剤にも公知の熱重合開始剤、光重合開始剤等を用いることができる。更に得られる眼内レンズに紫外線吸収能を付与したり、着色するために、共重合成分として、例えば重合性紫外線吸収剤、重合性色素などを用いることができる。
【0017】
次に、上記上型20と下型30とで成形された原料モノマー類をこれら成形型内において重合させる。重合の方法としては、例えば、段階的あるいは連続的に25〜120℃の温度範囲で昇温し、数時間〜数十時間で重合を完結させる加熱重合がある。また、例えば、紫外線または可視光線などの光開始剤の活性化の吸収に応じた波長の光線を照射して重
合を行う光重合がある。さらに、例えば、加熱重合と光重合とを組み合わせて重合を行う方法などがある。なお、このとき、重合を行う槽内、または室内を窒素またはアルゴン等の不活性ガスの雰囲気とし、かつ大気圧または加圧状態で重合してもよい。これにより、前方光学面11a及び後方光学面11bが形成された光学部11を中央部に有し、その周囲に支持部前駆部材12を有するディスク状重合物12が形成される。
【0018】
次に、こうして得られたディスク状重合物12を、成形型100から取り出さず、上型20及び下型30に挟まれた状態のまま、すなわち、成形型100と一緒に機械的切削加工によりレンズ形状に加工する(図4〜図6参照)。ここで、図4はディスク状重合物12を固定治具60に固定して成形型100と一緒にエンドミル70によって加工する様子を示す断面図、図5はディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工する様子を示す斜視図、図6はディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後の様子を示す図であって図6(a)は断面図であり図6(b)は平面図である。
【0019】
図4に示されるように、上記加工の際、レンズ形状を加工するエンドミル70は加工方向に対して、上型20及び重合物12は貫通させるが、下型30は貫通させず、下型30には若干溝を入れる程度までの深さに留める。これにより、加工中、重合物12の上下面は成形型100で覆われた状態となり、前方光学面12a及び後方光学面12bに、加工時に生じる切削粉や塵の付着を防ぐことができる。
【0020】
なお、成形型100の厚みが比較的厚い場合には、レンズ形状加工に先立って、旋盤等により成形型100の上型20及び下型30の少なくともいずれかの厚みを薄く(間に挟まれた重合物12に達しない程度に)加工しておいても良い。機械的切削加工は当業者が通常行っている方法が採用されるが、通常、折り畳み可能な軟性眼内レンズ素材は常温では柔軟であることから、常温での加工が困難な場合には該共重合物を冷却切削加工することにより所望の眼内レンズ形状に成形することができる。さらに、素材自体は冷却切削等により機械切削が可能であるにも関わらず、切削機械で把持できるだけの硬さを有していないようなレンズ素材の場合であっても、切削機械に把持可能なプラスチック製成形型(
成形型)中で該素材を重合させ、これを成形型と一緒に加工することにより、煩雑な前加
工等を施すことなく加工が可能となる。
【0021】
ディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後は、上型20や下型30の加工切片を除去し、加工が終了した眼内レンズ10を取り出す。図7はディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後の加工切片25を分離する除去する様子を示す図であって図7(a)は平面図であり図7(b)は断面図である。また、図8はディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後に下型30から眼内レンズ10を加工切片24とともに引き剥がす様子を示す図であって図8(a)は引き剥がされた眼内レンズ10を示す図であり図8(b)は眼内レンズ10が引き剥がされた後の下型30の断面図である。
【0022】
図7に示されるように、上型30の一部を構成していた加工切片25が除去され、次に、図8に示されるように、上型30の一部を構成していた加工切片24が眼内レンズ10から引き剥がされ、次いで、眼内レンズ10が下型30から引き剥がされる。上型20等から眼内レンズ10を剥がす方法としては、物理的に直接、レンズを掴んで剥がしても良いが、レンズを覆っている成形型の切片を除去して片面をむき出しにした後、レンズが貼り付いて残っている成形型(下型30)を、レンズが貼り付いていない側から機械的に押圧しても良い。これにより、レンズを傷つけずに取り出すことができる。
【0023】
図9は下型30に貼り付いている眼内レンズを剥がす方法の一例を示す図であり図9(
a)は固定治具80に眼内レンズ10を下向きにして下型30を固定して裏側から押圧棒90によって下側に押圧する様子を示す図あり9(b)は眼内レンズ10が剥がされた様子を示す図である。このように、図9に示すような方法によって、眼内レンズ10を傷つけずに取り出すことができる。なお、この時、成形型ごとレンズを冷やし、レンズを適度に硬くすることは、成形型からのレンズの離型を良くするために有効である。
【0024】
また、レンズを覆っている成形型の切片を除去する際に、成形型切片だけがレンズから剥がれ、レンズはもう一方の成形型に貼り付いた状態を確実にするため、原料モノマー類の注入前に、上下一組の成形型のうち、レンズを貼り付けたい片方の成形型にのみ接着性付与処理を施す、或いは上下両方の成形型に接着性付与処理を施す場合であっても、レンズを貼り付けたい片方の成形型を相対的に強く処理しておいても良い。また、レンズが成形型に貼り付いた状態で、水やアルコール中に入れ、レンズを膨潤させて成形型から剥がす方法もレンズを傷つけずに取り出すことができるので好ましい。得られた眼内レンズ10は、光学面には成形型内面が転写された高精度かつ高度な光学デザインが付与されており、また、光学面に形状加工時に生じる切削粉や塵の付着がなく、研磨不要の完成品となる。
【0025】
以下、上述の実施の形態で説明した製造方法によって眼内レンズ10を製造する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例で用いる成形型等は、上述した成形型100等を用いることは勿論である。
<実施例1>
サンプル管に2−フェニルエチルアクリレート:65重量部、2−フェニルエチルメタクリレート:30重量部、架橋性モノマーとしてブタンジオールジアクリレートを3.2重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブトロニトリル)を0.3重量部の組成比で調合し、十分に撹拌することで均質なモノマー混合液を得た。この混合液を、内面に光学面を有する上下一組のポリプロピレン製成形型内に注入し、加圧重合炉で圧力0.2MPaの窒素雰囲気中で所定の温度プログラムにて重合を行った。すなわち、室温から30分で50℃まで昇温し、12時間保持した後、300分で100℃まで昇温し、引き続き60分で120℃まで昇温し、2時間保持した後に室温まで降温して、軟性眼内レンズ素材を重合した。
【0026】
次に、得られた重合物を、成形型から取り出さず、成形型に挟まれたまま、機械的なミーリング加工によりレンズ形状にくり抜いた。この時、エンドミルは加工方向に対して上側の成形型、及び重合物は貫通させ、下側の成形型は貫通させず、成形型には若干溝を入れる程度までの深さに留め、加工は−20℃に設定した冷却エアーを吹き付けながら実施した。なお、レンズ形状加工の前に、エンドミルの加工方向に対して上側の成形型を、重合物に達しない程度に旋盤を用いて厚みを薄く加工した。
【0027】
レンズ形状加工後、レンズの片方の面を覆っている成形型の切片を除去して、片面はむき出し、片面は成形型に貼り付いた状態にした後、成形型ごとレンズを10℃の冷蔵庫に入れて冷やし、レンズを若干硬化させた。続いてレンズが貼り付いて残っている成形型を、レンズが貼り付いていない側から機械的に押圧し、成形型からレンズを取り外した。得られたレンズには形状加工時に生じる切削粉や塵の付着は認められず、成形型内面を転写した光学面を有する、研磨不要の軟性眼内レンズが得られた。
【0028】
<実施例2>
実施例1で用いた上下一組のポリプロピレン製成形型の片方(レンズ形状加工時、エンドミルに対して下側となる成形型)の内面に、予め、空気中、低圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製「光表面処理装置・PL16−110」)で10秒間の活性光照射による接着性付与処理を行った他は実施例1と同様にして軟性眼内レンズを得た。レンズ形状加
工後、レンズの片方の面を覆っている成形型の切片を除去する際、成形型切片だけがレンズから剥がれ、レンズは接着性付与処理を施したもう一方の成形型に確実に貼り付いた状態となっていた。得られたレンズには形状加工時に生じる切削粉や塵の付着は認められず、成形型内面を転写した光学面を有する、研磨不要の軟性眼内レンズが得られた。
【0029】
<実施例3>
原料に2−フェニルエチルアクリレート:72重量部、メチルメタクリレート:3重量部、トリフルオロエチルメタクリレート:5重量部、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルアクリレート:20重量部、架橋性モノマーとしてネオペンチルグリコールジアクリレートを4.5重量部、紫外線吸収成分として2−(2−ヒドロキシ−3−t
ert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)ベンゾトリアゾールを1.5重量部、黄色着色成分として4−(5−ヒドロキシ−3−メチル
−1−フェニル−4−ピラゾリルメチレン)−3−メタクリルアミノ−1−フェニル−2−ピラリゾン−5−オンを0.03重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブトロニトリル)を0.3重量部の組成比から成るモノマー混合液を用いる他は実施例1と
同様にして軟性眼内レンズを得た。得られたレンズには形状加工時に生じる切削粉や塵の付着は認められず、成形型内面を転写した光学面を有する、研磨不要の軟性眼内レンズが得られた。
【0030】
<実施例4>
原料に2−フェニルエチルメタクリレート:56重量部、n−ブチルアクリレート:35重量部、2−[2−(パーフルオロオクチル)エトキシ]−1−メチルエチルメタクリレート:9重量部、架橋性モノマーとしてエチレングリコールジメタクリレートを3重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブトロニトリル)を0.3重量部の組成比から成るモノマー混合液を用いる他は実施例2と同様にして軟性眼内レンズを得た。得られたレンズには形状加工時に生じる切削粉や塵の付着は認められず、成形型内面を転写した光学面を有する、研磨不要の軟性眼内レンズが得られた。
【0031】
<比較例1>
実施例1と同様にして軟性眼内レンズ素材を重合した後、上下の成形型を組み外し、ディスク状重合物の片面はむき出し、片面は成形型に貼り付いた状態にした。これを−20℃に設定した冷却エアーを吹き付けながら、重合物は貫通させ、下側の成形型は貫通させず、成形型には若干溝を入れる程度までの深さに留め、機械的なミーリング加工によりレンズ形状にくり抜いた。レンズ形状加工後、片面は成形型に貼り付いた状態で、成形型ごとレンズを10℃の冷蔵庫に入れて冷やし、レンズを若干硬化させた。続いてレンズが貼り付いて残っている成形型を、レンズが貼り付いていない側から機械的に押圧し、成形型からレンズを取り外した。得られたレンズの、形状加工時にむき出しとなっていた面には、加工時に生じた切削粉や塵が多く付着しており、外観検査で合格となるようなレンズは得られなかった。また、得られたレンズに、引き続き0.8mmの粒径のガラスビーズを
用いて、72時間のタンブリング研磨を実施したが、付着した切削粉を完全に除去することはできなかった。
【0032】
<比較例2>
実施例3と同様にして軟性眼内レンズ素材を重合した後、比較例1と同様にして軟性眼内レンズを得た。
得られたレンズの、形状加工時にむき出しとなっていた面には、加工時に生じた切削粉や塵が多く付着しており、外観検査で合格となるようなレンズは得られなかった。また、得られたレンズに、引き続き0.8mmの粒径のガラスビーズを用いて、72時間のタン
ブリング研磨を実施したが、付着した切削粉を完全に除去することはできなかった。
【0033】
<比較例3>
実施例4と同様にして軟性眼内レンズ素材を重合した後、比較例1と同様にして軟性眼内レンズを得た。得られたレンズの、形状加工時にむき出しとなっていた面には、加工時に生じた切削粉や塵が多く付着しており、外観検査で合格となるようなレンズは得られなかった。また、得られたレンズに、引き続き0.8mmの粒径のガラスビーズを用いて、
72時間のタンブリング研磨を実施したが、付着した切削粉を完全に除去することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、白内障等で水晶体が白濁化するなどした場合に、この水晶体を取り除いてその代わりに眼内に挿入される眼内レンズの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法によって製造される眼内レンズを示す図であって図1(a)は平面図、図1(b)は側面図である。
【図2】本願発明の実施の形態にかかる眼内レンズ製造方法に用いる成形型を示す図であって図2(a)は上型と下型とを離間した状態を示す断面図、図2(b)は上型と下型とを成形する状態で結合させた状態を示す断面図、図2(c)は平面図である。
【図3】成形型100に原料を注入して成形を行う様子を示す図である。
【図4】ディスク状重合物12を固定治具60に固定して成形型100と一緒にエンドミル70によって加工する様子を示す断面図である。
【図5】ディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工する様子を示す斜視図である。
【図6】ディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後の様子を示す図であって図6(a)は断面図であり図6(b)は平面図である。
【図7】ディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後の加工切片25を除去する様子を示す図であって図7(a)は平面図であり図7(b)は断面図である。
【図8】ディスク状重合物12を成形型100と一緒にエンドミル70によって加工した後に下型30から眼内レンズ10を引き剥がす様子を示す図であって図8(a)は引き剥がされた眼内レンズ10を示す図であり図8(b)は眼内レンズ10が引き剥がされた後の下型30の断面図である。
【図9】下型30に貼り付いている眼内レンズを剥がす方法の一例を示す図であり図9(a)は固定治具80に眼内レンズ10を下向きにして下型30を固定して裏側から押圧棒90によって下側に押圧する様子を示す図あり9(b)は眼内レンズ10が剥がされた様子を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 眼内レンズ
11 光学部
11a 前方光学面
11b 後方光学面
12 支持部前駆部材
12a,12b 支持部
20 上型
30 下型
100 成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの表裏面を構成する前方光学面と後方光学面とを有する光学部と、この光学部を眼内に支持するためにこの光学部の外周部に設けられた支持部とを有する眼内レンズを製造する眼内レンズ製造方法であって、
前記光学部になる部材を成形するための光学部成形部と、前記支持部になる部材を成形するための支持部成形部とを有する成形型であって、前記光学部成形部は、成形することによって前記前方光学面と後方光学面とが直ちに得られるものであり、前記支持部成形部は、成形によって得られた部材に一定の加工を加えることによって支持部が得られるものである成形型を用い、
前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させ、
次に、前記重合もしくは硬化させた部材における少なくとも前記前方光学面及び後方光学面が前記成形型の光学部成形部によって覆われた状態で前記支持部になる部材を支持部の形状に加工し、
次に、前記光学部成形部を離型することを特徴とする眼内レンズ製造方法。
【請求項2】
前記成形型の支持部成形部は、前記光学部の光軸を含む切断面で切断した断面形状は完成した支持部の断面形状をなしたものであるが、前記光軸方向からみた形状は任意の形状をなしたものであり、前記支持部になる部材の加工は、この支持部になる部材を前記光軸方向から見た形状が完成された支持部の形状になるようにする加工であることを特徴とする請求項1記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項3】
前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させ、前記成形型の光学部成形部内及び支持部成形部内の双方に前記重合もしくは硬化させた部材が存在する状態で、前記光学部となる部材及び支持部となる部材における前記光軸方向からみた形状が、完成された眼内レンズの形状になるように、前記成形型と一緒に加工するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項4】
前記成形型は上型と下型とを有するものであり、前記成形型内に眼内レンズの原料を注入後、重合もしくは硬化させた後、前記光学部となる部材及び/又は前記支持部となる部材をこれら部材が前記上型と下型との間に存在する状態でこの成形型と一緒に加工して、前記光学軸方向から見た形状が完成された形状になるようにする加工工程を有し、
前記加工工程は、前記部材が内部に存在する状態の成形型に対し、前記光軸方向から見た形状が完成された形状になるように仕切る仮想の輪郭線に沿って前記光軸方向から前記成形型の上型もしくは下型の一方を所定の溝幅で掘り込んでいき、この一方の型を貫通させるとともに他方の型の所定の深さに至るまで掘り込んでいくようにして前記輪郭線の全周にわたって加工する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項5】
前記眼内レンズは軟性眼内レンズであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項6】
前記成形型がプラスチック樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項7】
前記プラスチック樹脂がポリオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、又は、ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項8】
前記軟性眼内レンズを構成する材料のガラス転移温度が35℃未満であることを特徴とする請求項5に記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項9】
軟性眼内レンズを構成する材料がアクリル系モノマーの重合物であることを特徴とする請求項7の眼内レンズ製造方法。
【請求項10】
前記プラスチック樹脂製成形型の内面に、前記光学部を構成する材料との接着性を付与する処理を予め施しておくことを特徴とする請求項6に記載の眼内レンズ製造方法。
【請求項11】
前記接着性付与処理が、150〜300nmの波長領域に発光ピークを有し、かつ酸素分子を分解してオゾンを生成すると共に、該オゾンを分解して活性酸素種を生成する機能を持つ活性光を、酸素の存在下に照射する処理であることを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−196136(P2009−196136A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38346(P2008−38346)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】