説明

眼性疾患の治療への、熱ショックの使用

【課題】改良されたARMDの治療法の提供。
【解決手段】熱ショック応答を誘導し、目に対して幹細胞を補充することによって、損傷を受けた組織を修復することを特徴とする、眼性疾患の治療方法。一形態では、当該熱ショックは、サブ可視閾値レーザー(SVL)刺激を使用することにより、眼組織において誘導される。他の形態では、当該熱ショックは、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される小分子化合物の使用により誘導される。更に別の形態では、当該熱ショックは、熱ショックポリペプチド(例えばHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40)、又は熱ショックポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターの使用により誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本特許出願は、米国仮特許出願第60/703068号(2005年7月27日に出願)及び第60/729182号(2005年10月21日に出願)の優先権を主張し、これらの特許出願の全開示内容を本願明細書に援用する。
【0002】
(連邦の支援により行われた本発明の権利に関する声明)
本発明は国立眼研究所により、承認番号EY016070−01として支援されたものである。したがって、政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、眼性疾患の治療への、熱ショックの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
加齢黄斑変性(ARMD)は、ヨーロッパ諸国における失明の原因の中で最も一般的なものである。その結果、ARMDは重要な公衆衛生に関する一問題となっている。その約85〜90%の患者は、ARMDの非滲出性(乾燥質)の病態を示す。これは主に網膜色素上皮萎縮、脱色素及び網膜色素上皮損失によるものである。乾燥質のARMDは年配者の患者集団に影響を及ぼし、その生活の質を深刻なまでに低下させる。しかしながら治療オプションは限られたものしか存在せず、すなわち栄養及びビタミンのサプリメント以外には、その疾患の治療のための有効な方法が特に存在しないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在行われているARMDの治療方法は効果的ではない。ゆえに、改良された治療法が緊急に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
後述するように、本発明は、熱ショック応答を誘導し、目に対して幹細胞を補充することによって、損傷を受けた組織を修復することを特徴とする、眼性疾患の治療方法の提供に関する。
【0007】
第1の態様では、本発明は患者の眼性疾患を改善する方法の提供に関する。当該方法は、眼組織中の少なくとも1つの細胞における熱ショックを誘導し、眼組織に幹細胞を補充し、それにより眼性障害を改善することを含んでなる。一実施形態では、当該熱ショックは、サブ可視閾値レーザー(SVL)刺激を使用することにより、眼組織において誘導される。他の実施形態では、当該熱ショックは、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される小分子化合物の使用により誘導される。更に別の実施形態では、当該熱ショックは、熱ショックポリペプチド(例えばHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40)、又は熱ショックポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターの使用により誘導される。更に他の態様では、当該熱ショックポリペプチドはHsp70又はHsp90である。更に別の実施形態では、当該幹細胞は骨髄由来の細胞(例えば造血幹細胞)である。更に別の実施形態では、当該方法により眼性疾患又は障害の少なくとも1つの症状が緩和される。更なる実施形態では、当該眼性疾患又は障害は、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性網膜変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーのうちの1つ以上である。
【0008】
更に他の態様では、本発明は、患者の眼組織に幹細胞を補充する方法の提供に関する。当該方法は、閾値下レーザーで眼組織を刺激することを含んでなり、当該刺激のレベルは当該組織に少なくとも1つの幹細胞を補充するのに十分なレベルである。幾つかの実施形態では、レーザー治療は10%又は15%のデューティサイクルを用いることを特徴とし、閾値下レーザーは少なくとも約100nm〜2000nm(例えば100、200、250、300、500、750、1,000、1,250、1,500、1,750、2,000)の波長を有する。更に他の実施形態では、閾値下レーザーのエネルギーは約5mW〜200mW(例えば5、10、25、50、75、100、125、150、175、200mW)であり、約0.001ミリ秒〜1.0ミリ秒(例えば、0.001、0.005、0.01、0.025、0.5、0.75又は1.0ミリ秒)の継続時間のマイクロパルスにおいて照射される。他の実施形態では、レーザーのエネルギーは約10mW〜100mWであり、マイクロパルスの継続時間は0.1ミリ秒である。更に他の実施形態では、当該刺激により、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される熱ショックタンパク質の発現又は生物学的活性が増加する。他の実施形態では、当該増加は、少なくとも5、10、20、25、50、75又は100%以上の増加である。更に他の実施形態では、当該刺激は、SDF−1、VEGF、HIF−1α、クリスタリン、低酸素誘導可能な因子1−α(HIF−1a)及びCXCR−4からなる群から選択されるタンパク質の発現又は活性を変化させる。更に他の実施形態では、当該方法は、少なくとも10倍、20倍、40倍、50倍又はそれ以上、Hsp70又はHsp90ポリペプチドの発現を増加させる。
【0009】
更に他の態様では、本発明は、患者の眼組織に幹細胞を補充する方法の提供に関する。当該方法は、眼組織における熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、眼組織に幹細胞を補充することを含んでなる。
【0010】
更に他の態様では、本発明は、患者の眼性疾患又は障害を改善する方法の提供に関する。当該方法は、眼組織の熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、眼組織に幹細胞を補充し、それにより眼性疾患又は障害を改善することを含んでなる。
【0011】
関連の態様では、本発明は、患者の網膜を再生させる方法の提供に関する。当該方法は、眼組織の熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、眼組織に幹細胞を補充し、それにより網膜を再生させることを含んでなる。
【0012】
他の関連の態様では、本発明は、患者の網膜色素上皮損傷を修復する方法の提供に関する。当該方法は、眼組織の熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、眼組織に幹細胞を補充し、それにより網膜色素上皮を修復することを含んでなる。
【0013】
更に他の態様では、本発明は、患者の眼性疾患又は障害を改善する方法の提供に関する。当該方法は、患者の骨髄由来の幹細胞を動員する薬剤を当該患者に投与し、眼組織の熱ショックを誘導し、眼組織に幹細胞を補充し、それにより眼性疾患又は障害を改善することを含んでなる。
【0014】
関連の態様では、本発明は、患者の黄斑変性を改善する方法の提供に関する。当該方法は、GM−CSF及び/又は幹細胞増殖因子を患者に投与して、当該投与により患者の骨髄由来の幹細胞を動員し、閾値下レーザー治療の照射又は薬剤の投与により眼組織の熱ショックを誘導し、眼組織に骨髄由来の幹細胞を補充し、それにより黄斑変性を改善することを含んでなる。
【0015】
別の態様では、本発明は幹細胞補充用の医薬組成物の提供に関し、当該組成物は、眼輸送用の薬理学的に許容できる賦形剤中に、有効量の、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される小分子化合物を含んでなる。
【0016】
別の態様では、本発明は眼組織への幹細胞補充用の医薬組成物の提供に関し、当該組成物は、眼輸送用の薬理学的に許容できる賦形剤中に、熱ショックポリペプチド(例えばHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40)をコードするポリヌクレオチドを有する発現ベクターを含んでなる。
【0017】
別の態様では、本発明は眼組織の幹細胞補充用の医薬組成物の提供に関し、当該組成物は、眼輸送用の薬理学的に許容できる賦形剤中にポリペプチド(例えばHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60又はHsp40)を含んでなる。
【0018】
更に他の態様では、当該キットは、眼組織において熱ショック応答を誘導する有効量の薬剤(例えばポリペプチド、ポリヌクレオチド又は小分子化合物)と、幹細胞補充を増加させる際の使用法に関する使用説明書を含んでなる。多くの実施形態では、当該ポリペプチドはHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40である。更に他の実施形態では、当該ポリヌクレオチドはHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40をコードする。更に他の実施形態では、当該小分子化合物は、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される。
【0019】
別の態様では、本発明は眼組織の幹細胞補充を増加させる薬剤を同定する方法の提供に関し、当該方法は、試験化合物と眼細胞とを接触させ、無処理の眼細胞よりも熱ショックポリペプチドの発現又は活性の増加を確認し、それにより幹細胞補充を増加させる化合物を確認することを含んでなる。
【0020】
別の態様では、本発明は眼組織の幹細胞補充を増加させる薬剤を同定する方法の提供に関し、当該方法は、試験化合物と眼細胞とを接触させ、当該組織における幹細胞の数の増加を確認することを含んでなる。
【0021】
上記の態様のいずれかの各種実施形態では、当該患者は、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性網膜変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーからなる群から選択される眼性疾患又は障害に罹患する。上記のいずれの態様における他の実施形態では、当該薬剤は、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される熱ショックタンパク質の発現又は生物学的活性を増加させる。更に他の実施形態では、当該薬剤は、SDF−1、VEGF、HIF−1α、クリスタリン、低酸素誘導可能な因子1−α(HIF−1a)及びCXCR−4のうちの1つ以上のタンパク質の発現又は活性を変化させる。上記の態様の更に他の実施形態では、当該方法により、Hsp70又はHsp90ポリペプチドの発現が少なくとも約10倍、又は、少なくとも40倍増加する。上記のいずれの態様における他の実施形態では、造血幹細胞の動員(例えばGM−CSF及び/又はSCF)を増加させる薬剤を、熱ショック応答の誘導前に患者に投与する。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該方法は更に、抗炎症剤又は抗血管新生剤を投与することを含んでなる。更に他の実施形態では、当該方法は更に、造血幹細胞の生存、増殖又は分化転換を維持する薬剤を投与することを含んでなる。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該方法は更に、全トランス型レチノイン酸を投与し、網膜色素上皮細胞への幹細胞の分化転換を強化することを含んでなる。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、幹細胞を動員する薬剤は、顆粒白血球マクロファージコロニー刺激因子又は幹細胞増殖因子である。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該熱ショックは、閾値下レーザーによる処理、又は小分子化合物、ポリペプチド、若しくは細胞内での発現用に提供された核酸分子などの薬剤の使用により誘導される。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該ポリペプチドは熱ショックポリペプチドである。更に他の実施形態では、当該核酸分子は、熱ショックポリペプチド(例えばHsp70、Hsp90)をコードするか、又は治療的なポリペプチド(例えば血管形成の抗炎症性ポリペプチド又は調節物質)をコードする。上記のいずれの態様の更に他の実施形態では、当該薬剤はゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される。上記の態様のいずれかの各種実施形態では、当該薬剤は硝子体内若しくは眼窩後注入により投与される。上記のいずれの態様の更に他の実施形態では、当該投与によりRPE層の細胞修復が誘導される。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該方法は更に、治療的なポリペプチドをコードするベクターを投与することを含んでなる。更に他の実施形態では、当該方法は更に、実質的に精製された幹細胞(例えば骨髄由来の細胞又は造血幹細胞)を患者に投与することを含んでなる。上記のいずれの態様における更に他の実施形態では、当該幹細胞は、硝子体内若しくは眼窩後へ局所投与されるか、又は全身投与される。
【0022】
本発明は様々な眼性疾患の治療方法の提供に関する。本発明の他の特徴及び効果は詳細な説明、並びに請求項から明らかとなる。
【0023】
定義
「薬剤」とは、いかなる小分子化合物(抗体、核酸分子又はポリペプチド)も又はその断片のことを意味する。
【0024】
「変化させる」とは、上で説明した標準的な周知技術で測定した場合における、遺伝子又はポリペプチドの発現レベルの変化(増減)を意味する。本発明では、当該変化には、発現レベルの10%の変化、好ましくは25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%以上の発現レベルの変化が包含される。
【0025】
「改善する」とは、疾患の成長又は進行を減少させる、抑制する、低下させる、減弱させる、抑制する又は一定レベルに維持することなどを意味する。
【0026】
「アナログ」とは、あるポリペプチド又は核酸分子の機能を有する、構造的に関連性を有するポリペプチド又は核酸分子のことを意味する。
【0027】
「熱ショックタンパク質の生物学的活性」とは、シャペロン活性又は幹細胞補充活性のことを意味する。
【0028】
「化合物」とは、いかなる小分子化合物(抗体、核酸分子又はポリペプチド)又はその断片のことを意味する。
【0029】
本発明の開示における「含む」、「含んでなる」、「含有する」及び「有する」などの用語は、米国特許法において認められる「からなる」、「から構成される」の意味を有する場合もある。「基本的〜からなる」、又は「基本的〜から構成される」米国特許法において認められる意味を有する。すなわち記載された構成要素以外のものの存在を許容するが、記載した基本的若しくは新規な特性が、記載したもの以外の物質の存在によっても変化しないことを指す。但し、従来技術の実施形態は除外される。
【0030】
「検出可能なラベル」とは、目的の分子が結合したときに、それを分光測定、光化学的、生化学、免疫化学的、化学的手段によって検出可能にする組成物のことを意味する。例えば、有用なラベルとしては、放射性同位元素、磁気ビーズ、金属ビーズ、コロイド粒子、蛍光色素、電子高密度試薬、酵素(例えばELISAで一般的に用いられるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン又はハプテンが挙げられる。
【0031】
「標識された核酸又はポリペプチド」とは、共有結合的な結合(リンカー又は化学結合で)、又は非共有結合的な結合(イオン結合、ファンデルワールス力、静電気力、疎水的相互作用又は水素結合)でラベルに結合したそれらであり、核酸又はプローブの存在を、核酸若しくはプローブと結合したラベルの存在により検出することができるものを指す。
【0032】
「発現ベクター」とは、核酸構築物(リコンビナント、又は合成物)であって、宿主細胞中で特定の遺伝子の転写を可能にする特定の核酸配列を輸送する手段のことを意味する。通常、遺伝子発現は特定の調節エレメントの制御下に配置され、構成的若しくは誘導可能なプロモータ、組織特異的調節エレメント及びエンハンサを含んでなる。
【0033】
「断片」とは、ポリペプチド又は核酸分子の一部を意味する。この部分は好ましくは、目的の核酸分子又はポリペプチドの全長の、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%から構成される。当該断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1,000ヌクレオチド又はアミノ酸を含有してもよい。
【0034】
「熱ショック」とは、熱ストレスに対するあらゆる細胞内反応のことを意味する。細胞は通常、熱ショックにより、熱ショックポリペプチド(例えばHsp70又は90)の転写又は翻訳を増加させることで応答する。
【0035】
「熱ショックポリペプチド」とは、熱ストレスに応答して細胞内で発現するあらゆるポリペプチドのことを意味する。典型的な熱ショックポリペプチドとしては、限定はされないがHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40などが挙げられる。典型的なHsp70のアミノ酸配列はGenBank Accession番号AAA02807として提供されている。典型的なHsp90アミノ酸配列は、GenBank Accession数字P08238、NP 005339、NP 001017963及びP07900として提供されている。
【0036】
「熱ショック応答活性化剤」とは、熱ショック経路を構成する要素のシャペロン活性又は発現を増加させる化合物のことを意味する。熱ショック経路の構成要素としては、限定はされないがHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60、Hsp40及び小分子のHSPファミリーが挙げられる。熱ショックを誘導する薬剤又は治療は通常は、Hsp70又はHsp90の少なくとも1つの発現又は活性を増加させる。
【0037】
「造血幹細胞」とは、1つ以上の造血細胞に分化することが可能な、骨髄由来の細胞を意味する。
【0038】
「造血幹細胞の動員」とは、患者の器官又は組織に補充することができる骨髄由来の幹細胞の数を増加させることを意味する。
【0039】
「眼性疾患又は障害」とは、目の通常の機能に影響を与える病理のことを意味する。
【0040】
「機能的に連結される」とは、第1のポリヌクレオチドが、第2のポリヌクレオチドに隣接して配置され、ある分子(例えば転写活性化タンパク質)が第2のポリヌクレオチドと結合したときに、第1のポリヌクレオチドの転写が誘導されることを意味する。
【0041】
「ポリペプチド」とは、長さ又は翻訳後修飾の有無とは関係ない、あらゆるアミノ酸の鎖のことを意味する。
【0042】
「発現用に配置される」とは、本発明のポリヌクレオチド(例えばDNA分子)が、配列の転写及び翻訳(すなわち、例えば本発明の組換えポリペプチド又はRNA分子の産生を可能にする)を誘導するDNA配列に隣接して配置されていることを意味する。
【0043】
「プロモータ」とは、転写を誘導することができるポリヌクレオチドのことを意味する。例示的なプロモータとしては、翻訳開始部位の上流(例えばすぐ上流)に存在する100、250、300、400、500、750、900、1,000、1,250及び1,500ヌクレオチド長の核酸配列が挙げられる。
【0044】
「補充」とは、組織への取り込みの促進のことを意味する。
【0045】
「減少する」又は「増加する」とはそれぞれ、少なくとも10%、25%、50%、75%又は100%、マイナスとなるかプラスとなることを意味する。
【0046】
「網膜の再生」とは、網膜又は網膜色素性上皮の細胞数、生存又は増殖を増加させることを意味する。
【0047】
「網膜色素上皮損傷の修復」とは、網膜色素上皮の損傷、損傷又は細胞死を改善させることを意味する。
【0048】
「幹細胞」とは、1つ以上の細胞タイプに分化できる原種の細胞のことを意味する。
【0049】
「患者」にはヒト又は非ヒト哺乳類が包含され、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ又はネコなどの哺乳類が含まれるがこれらに限定されない。
【0050】
「閾値下レーザー」とは、治療の間又はその後に網膜において、検知されないかかろうじて検出可能である病変を誘導するレーザー治療のことを意味する。手術による可視組織反応がほとんどないか、又はレーザー治療によりほとんど細胞死が見られない(例えば10%未満、5%、2.5%、1%の処置された組織中の細胞の死又はアポトーシス)場合に、病変が「検知されない」という。
【0051】
本発明では、「治療する」、「治療すること」、「治療」などの用語は、障害及び/又は関連する症状を軽減又は改善させることを指す。当然ながら、障害又は症状を治療するとは、それに関連する障害、条件又は症状が、必ずしも完全に排除されることを必要とするものではない。
【0052】
本発明では、「防止する」「防止すること」、「予防」、「予防的治療」などの用語は、患者(罹患していないが、その危険を有する、又は障害若しくは症状が進行しやすい)の障害又は症状を進行させる確率を低下させることを指す。
【0053】
「参照」とは、スタンダード又は制御条件のことを意味する。
【0054】
「分化転換」とは、分化したタイプの細胞から発現される特徴的な少なくとも1つのポリペプチドを発現するように、細胞を転換させることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
本発明は広義には、眼性疾患の治療又は予防に有用な組成物及び方法に関する。本発明は、少なくとも部分的には、網膜色素上皮層(RPE)及び脈絡膜へのレーザー又は薬理学的な熱ショック誘導により、造血幹細胞がRPEに補充されるという発見に基づくものであり、その結果、網膜色素上皮細胞に特異的なマーカーを発現する細胞に分化転換する。理論に束縛されないが、このホーミング反応は、少なくとも部分的には、熱ショック応答の活性化に起因する。
【0056】
下で更に詳細に記載されるように、網膜色素上皮及び脈絡膜のサブ可視閾値レーザー刺激を用いることにより、RPE層にHSCが補充される。GFP標識したHSCの養子移入及びGFPキメラ動物は、HSC細胞がRPE層に移動できるか否かを証明するために用いる。SVLは熱ショックタンパク質の発現、並びに次のHSC化学遊走物質である間質由来因子(SDF−I)及びVEGFの発現を誘導する。レーザー誘導された効果は、化学的に熱ショック応答を誘導する化合物の硝子体内投与に再利用することができる。補充されたHSCsは、成熟RPE細胞の形態的な特徴を獲得し、更にRPE特異的なタンパク質を発現する。すなわち本発明は、眼性疾患(例えば糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー)、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性レチナール変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーに罹患する患者の治療方法の提供に関する。
【0057】
造血幹細胞
造血幹細胞は、その修復及びその可塑性ポテンシャルとして知られている内因性ソースを発現する、骨髄由来の細胞である。骨髄由来の造血幹細胞(HSCs)は、損傷を受けた組織(心臓、肝臓、脳、筋肉及び腎臓など)を修復することができる。本願明細書に記載のように、造血幹細胞を用いて網膜を修復してもよい。網膜への閾値下レーザー(STL)刺激によりHSCsの補充が誘導され、その後RPE様細胞に分化転換する。理論に束縛されないが、このプロセスは部分的には、閾値下レーザーにより活性化するSDF−1レセプタ(CXCR−4)などのケモカイン(例えば間質派生成長factor−1(SDF−1))とケモカインレセプタとの分子間相互作用により媒介される。
【0058】
損傷を受けた領域に幹細胞を補充し、損傷を受けた組織の修復を遂行させる。必要に応じて、患者の循環器内に存在する造血幹細胞の数を、熱ショックの誘導前、間又は後に増加させてもよい。一実施形態では、この造血幹細胞数の増加は、顆粒白血球−マクロファージコロニー刺激因子(G−CSF)、幹細胞増殖因子(SCF)、IL−8、SDF−1(間質派生因子)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン8(IL−8)、インターロイキン11(IL−11)、インターロイキン12(IL−12)及びNIP−1α、幹細胞増殖因子(SCF)、fims様チロシンキナーゼ−3(flt−3)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、初期活性造血因子(国際公開第91/05795号中に記載)、及びトロンボポエチン(Tpo)、FLK−2リガンド、FLT−2リガンド、Epo、オンコスタチンM及びMCSFのうちの1つ以上を患者の骨髄に投与して造血幹細胞を活性化させることによって実施する。SDF−1は、幹細胞の漸増を誘導する有力なサイトカインである。SDF−1はストレスの間、RPE細胞により発現する。G−CSF及び/又はSDF−1の投与により末梢血のHSC数が増加し、それに続く網膜及びRPE層へのHSC補充を促進する。好ましくは、本発明の造血幹細胞は、Lin、CD2、CD3、CD7、CD8、CD10、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD33、CD38、CD71、HLA−DR及びグリコホリンAのうちのいずれか1つ以上のマーカーを発現しないか、又は少ないレベルで発現する。
【0059】
眼科用レーザー
眼科用レーザーは様々網膜障害の治療用の重要な装置であり、それを用いて、レーザーにより誘導された光化学物質の燃焼を生じさせる。対照的に、エネルギーはRPEにより吸収されるため、810nmのダイオードレーザーは感覚神経網膜に損傷を生じさせないと考えられている。本発明は、サブ可視レーザー照射を使用して、造血幹細胞を活性化させ、網膜色素上皮層へそれらを補充する方法の提供に関する。現在の方法では、赤外線(810nm)レーザー装置をマイクロパルス方式により用い、網膜障害を治療する。単一の露光の間、反復した短いパルスのレーザーを用いて、熱伝導及びそれに続くRPE損傷を抑制する。1つのアプローチでは、レーザー照射を制御して、光熱的損傷を減少又は除去する。例えば、レーザー治療処理を制御して、手術中の可視組織反応(例えば光凝固壊死)を減少又は排除、又は細胞死(アポトーシス)を遅延させる。他の例では、死に至らない程の閾値に熱損傷を制御して手術による可視組織反応を減少又は排除し、遅い細胞死を減少又は排除し、並びにHSC補充を一貫して実施させる。好ましくは、当該光熱的損傷は、従来のレーザー治療で処置された患者の光熱的損傷と比較して、少なくとも10%、25%又は30%減少し、好ましくは少なくとも50%、75%、85%、95%又は100%減少する。好ましくは、患者の視力が実質的に維持される(例えば患者の現在の視力レベル、又はその付近に視力を維持する)。
【0060】
閾値下レーザーを使用して熱ショックを誘導する方法としては、例えば5μm、10μm、25μm、35μm又は50μmの直径を有する、40〜50ウェルとして間隔をあけた、810nmレーザスポットの格子パターンを照射することが挙げられる。出力及び送達方法を変化させ、光熱的損傷を減少若しくは排除してもよい。例えば、連続ウエーブ(cw)送達モード、microPulse(mP)送達モード(例えば20%、15%、10%及び5%のデューティサイクルを使用)又は長パルス送達モードを用いてもよい。
【0061】
具体的形態では、本発明の方法は、少なくとも約100nm〜2000nmの波長を有する閾値下レーザーの使用を特徴とし、詳細には、当該閾値下レーザーのエネルギーが少なくとも約10mW〜100mW(例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mW)である。当該レーザーは最低0.001、0.005、0.1、0.2又は1.0ミリ秒の時間で照射される。他の実施形態では、0.1ミリ秒のパルスで10mWで照射し、又は0.1ミリ秒のパルスで100mWで照射される。
【0062】
レーザー治療を照射できる眼組織としては、脈絡膜、網膜色素上皮、又は組織の幹細胞の損傷修復が望ましい他のいかなる眼組織が挙げられる。本願明細書に記載する具体的な実施例では、レーザーを使用して熱ショックを誘導する技術に関して記載しているが、当業者であれば、本発明がその態様に限定されないことを認識するであろう。眼組織中の少なくとも1つの細胞の熱ショック応答を誘導できるいかなるエネルギー送達方法も、本発明で使用できる。かかる方法としては例えば、放射線、経瞳孔温熱療法又は他のいかなる形のエネルギー(例えば光エネルギー)の使用による刺激が挙げられ、十分な量で刺激することにより、幹細胞が補充される。多くの実施形態では、幹細胞の補充に十分なレーザー刺激とは、約100nm〜2000nmの波長を有する光線又は光子のことを指す。当該波長は通常、約500nm〜約900nmである。
【0063】
熱ショック応答活性化剤
熱ショック応答活性化剤には、細胞の熱ショック応答を誘導する各種薬剤(例えば小分子化合物、ポリペプチド及び核酸分子)が包含される。かかる薬剤としては、例えば熱ショックタンパク質(例えばHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60、Hsp40及び小分子HSPファミリー)の生物学的活性若しくは発現を増加させる。好ましくは、当該薬剤はHsp90又はHsp70の発現又は生物学的活性を増加させる。熱ショックタンパク質90(Hsp90)は細胞シグナリング、増殖及び生存に関係するシャペロンであって、高次構造的な安定性や、多くのタンパク質の機能にとり重要な役割を果たす。HSP90調節物質は本発明の方法にとり有用であり、かかる調節物質はHSP90の発現又は生物学的活性を増加させる。HSP90調節物質としてはベンゾキノンアンサマイシン系抗生物質(例えばゲルダナマイシン及び17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG))が挙げられ、特異的にHsp90と結合しその機能を変化させる。別のHsp90調節物質としては、ラジシコール、ノボビオシン及びHsp90 ATP/ADPポケットと結合するあらゆるHsp90インヒビターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
熱ショックを誘導する別の薬剤としては、ゲルダナマイシン(InvivoGen社製,San Diego,California、Changら、J Cell Biochem.2006 Jan 1、97(1):156−65)、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(InvivoGen社製、サンディエゴ、カリフォルニア)、EC102、ラジシコール(Changら、J Cell Biochem.2006 Jan 1、97(1):156−65)、ゲラニルゲラニルアセトン(エーザイ、東京、日本)、ペオニフロリン(Axxora、サンディエゴ、CA)、PU−DZ8及びH−71(H−71(サンタクルスBiotechnology、会社、サンタクルス、CA)、並びにこれらの化合物のあらゆるアナログ又は擬態物が挙げられるが、これらに限定されない。セラストロール、キノンメチドトリテルペンはヒト熱ショック応答を活性化する。セラストロール及び他の熱ショック応答活性化剤は眼性疾患の治療に有用である。熱ショック応答活性化剤としては、限定はされないが、セラストロール、セラストロールメチルエステル、ジヒドロセラストロールジアセテート、セラストロールブチルエステル、ジヒドロセラストロール、並びにその塩又はアナログが挙げられる。
【0065】
眼性疾患
本発明は、前増殖的な網膜症、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障、色素性網膜炎、加齢黄斑変性、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィーを含む眼性疾患の治療に使用できる。
【0066】
特に本発明は、増殖的な糖尿病性網膜症及び脈絡膜血管新生に関連する血管新生の治療方法の提供に関する。I型糖尿病は、増殖的な糖尿病性網膜症に罹患する高い危険性と関連している(Jacobsen,N.ら、2003 Ugeskr Laeger 165:2953−6)。糖尿病性の環境への慢性的な曝露により、前増殖的な網膜症に至る。前増殖的な網膜症は、焦点領域の虚血と関連する。血管新生が、前血管形成因子(血管内皮成長因子(VEGF)など)の発現増加、並びに抗血管新生因子(エンドスタチン及び色素上皮由来因子(PEDF))の発現減少を伴うことが広く知られている(Funatsu,H.,ら、2003 Invest Ophthalmol Vis Sci44:1042−7、Noma,H.,ら、2002 Arch Ophthalmol 120:1075−80、Dawson,D.W.ら、1999 Science 285:245−8、Spranger,J.,ら、2001 Diabetes 50:2641−5、 Holekamp,N.M.ら、2002 Am J Ophthalmol 134:220−7、Boehm,B.O.,ら、2003 Horm Metab Res 35:382−6)。前血管形成因子と抗血管新生因子の間のバランス変化により血管新生が誘導され、毛管の浸潤が誘導される(Funatsu,H.,ら、2002 Am J Ophthalmol 133:70−7、Caldwell,R.B.,ら、2003 Diabetes Metab Res Rev 19:442−55、 Antcliff,RJ.ら、1999 Semin Ophthalmol 14:223−32)。前増殖的な網膜症に罹患する患者は数年後に、網膜毛細管及びコットンウールスポットの顕著な損失を特徴とする網膜病理を経験し、更に新規な血管の形成が行われ、それにより網膜から無血管のガラス体への変化が促される。脆弱な新規な血管では漏出の危険があり、黄斑浮腫及び視覚のぼやけを生じさせる。これらの異常な血管の破損しやすさや破裂により、視野の損失が早期に生じることもありうる。
【0067】
血管新生が進行した場合、視覚を妨害する維管束膜の形成や、網膜剥離が生じうる。現在利用できる治療プロトコルでは、増殖的な糖尿病性網膜症は、増殖的な段階において、網膜を燃焼させるレーザーのグリッドを配置することによって治療される。しかしながらこの破壊的治療により、顕著な視野損失を生じさせる。20年の糖尿病期間後において、若年成人の33%が、視力低下及び視角の狭小化により、かかるレーザー治療を受けている(Kokkonen,J.ら、1994 Acta Paediatr 83:273−8、Early Treatment Diabetic Retinopathy Study Research Group 1991 Ophthalmology 98:766−85、Davies,N.1999 Eye 13 (Pt4):531−6、Dosso,A.A.ら、2000 Diabetes Care 23:1855)。
【0068】
本発明の方法で治療できる他の症状は、脈絡膜血管新生である。例えば脈絡膜血管新生は、加齢黄斑変性(AMD)を伴う視覚の顕著な損失の原因となる。異常な脈絡膜血管新生が行われると、新しい血管は脈絡膜から網膜下の空間に向かって形成される。脈絡膜血管新生のリスクが高い網膜は、多発性又は大きい軟性ドルーゼンの存在、網膜ドルーゼン及び/又は色素の変化を指標に確認される(Macular Photocoagulation Study Group 1997,Arch Ophthalmol 115:741−7、Arnold,JJ.ら、1995 Retina 15:183−91)。VEGF(低酸素誘導タンパク質)は脈絡膜血管新生に関連する(Frank,R.N.,ら、1996 Am J Ophthalmol 122:393−403、Ishibashi,T.ら、1997 Arch Clin Exp Ophthalmol 235:159−67、Kwak,N.ら、2000 Invest Ophthalmol Vis Sci 41:3158−64)。
【0069】
網膜退化は、本発明の方法を使用して治療できる別の症状である。網膜変性疾患には、網膜神経単位の損傷又は網膜神経単位の細胞死によって特徴づけられる疾患が包含される。当該網膜神経単位としては、限定はされないが光受容器及び網膜神経節細胞が挙げられる。当該網膜変性疾患には、遺伝性、後天性、及び炎症誘導性の網膜変性疾患が包含される。遺伝性網膜変性疾患としては、例えば黄斑変性(例えば乾性及び滲出性加齢黄斑変性)、Stargardt疾患、Bestの疾患、緑内障、色素性網膜炎及び視神経退化のすべてのタイプが包含される。後天性網膜変性疾患としては、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、静脈若しくは動脈の閉塞又は他の血管障害による虚血性網膜症、外傷、手術又は目の貫通による損傷に起因する網膜症、及び周辺部のガラス体網膜症に関連する疾患が挙げられる。炎症誘導性網膜変性疾患としては、ウイルス、バクテリア及び毒素により誘導された網膜退化と関連した疾患、及び/又はブドウ膜炎、並びに視覚神経炎をもたらす疾患が挙げられる。
【0070】
本発明の方法を使用した治療が効果的な他の疾患及び障害としては、X連鎖性若年性網膜分離症(緑内障、Malattia Leventinese、mL)及びDoyneの蜂の巣状網膜ジストロフィー(DHRD)及び角膜ジストロフィーが挙げられる。
【0071】
本発明はまた、網膜神経単位の細胞損傷(術後外傷に関連する損傷と、それに続く保護様相への強い光の照射による合併症)を防止する方法の提供に関する。
【0072】
スクリーニングアッセイ
本願明細書に記載のように、網膜色素上皮に熱ショック又は幹細胞補充を誘導する化合物は本発明の方法にとり有用である。多くの方法を利用し、かかる化合物を同定するスクリーニングアッセイを実施できる。1つのアプローチでは、HSPポリペプチド又は核酸分子の発現を、細胞(例えば眼細胞(例えば脈絡膜の細胞又は網膜色素上皮、in vitro又は、in vivo)においてモニターし、細胞を候補化合物と接触させ、HSPポリペプチド又は核酸分子の発現に対する化合物の効果を、従来技術において公知若しくは本願明細書に記載のいずれかの方法を使用してアッセイする。化合物と接触させなかったコントロール細胞と比較し、接触させた細胞のHSPポリペプチド又は核酸分子の発現を増加させる化合物を、本発明の方法にとり有用な化合物であるとみなす。あるいは、化合物をスクリーニングし、網膜への幹細胞の補充を増加させる物質を同定する。一実施形態では、当該幹細胞の補充を、GFP+を発現する幹細胞を、キメラマウスに局所的又は全身的に注射することによりアッセイする。GFP+細胞の存在を、例えば蛍光顕微鏡検査を使用して網膜の平坦なマウントを観察することによりアッセイする。多くの幹細胞を網膜に補充する化合物は、本発明の方法において有用である。他の実施形態では、かかる細胞の生存又は分化を、細胞特異的なマーカーを使用してアッセイする。関連する方法では、当該スクリーンを、11−シス−レチナール(9−シス−レチナール)又はそのアナログ若しくは誘導体の存在下で実施する。有用な化合物は、網膜に補充される幹細胞の数を少なくとも10%、15%又は20%、好ましくは25%、50%又は75%、最も好ましくは少なくとも100%増加させる。
【0073】
必要に応じて、同定された化合物の有効性を、眼性疾患(例えば色素性網膜炎の動物モデル)に罹患する、又は糖尿病に罹患するモデル動物を用いてアッセイする。
【0074】
試験化合物及び抽出
一般に、細胞の熱ショック応答を誘導できる、又は眼組織への幹細胞補充を増加させる化合物は、公知技術の方法に従って、天然のライブラリー、合成(若しくは半合成)抽出物、又は化学物質ライブラリーから同定してもよい。創薬及び医薬開発の分野における当業者であれば、試験抽出物若しくは化合物の正確な供給源は、本発明の1つ以上のスクリーニング方法においてそれ程重要ではないと理解する。したがって、実質的に全ての化学抽出物又は化合物を、本願明細書に記載の方法を使用してスクリーニングできる。かかる抽出物又は化合物の例としては、植物、菌類、原核生物若しくは動物細胞からの抽出物、培養液及び合成化合物質、並びに既存の化合物の修飾物が挙げられるが、これらに限定されない。多くの方法を利用して、いかなる数の化合物のランダム若しくは誘導された化合物(例えば半合成又は完全合成)を生成でき、それには糖質、脂質、ペプチド及び核酸ベースの化合物が挙げられるがこれに限定されない。合成化合物ライブラリーは、Brandon Associates社(メリマック、N.H.)及びAldrich Chemical社(ミルウォーキー、ウィスコンシン)から市販されている。あるいは、細菌、菌類、植物及び動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが多くの供給源から市販されており、例えばBiotics社(サセックス、英国)、Xenova(Slough、英国)、Harber Branch Oceangraphics Institute(フィートピアス、Fla)及びPharmaMar USA(ケンブリッジ、マサチューセッツ)が挙げられる。更に、標準的な抽出及び分画法によって、天然及び合成的に生成されたライブラリーを、必要に応じて、従来技術において公知の方法に従って作成してもよい。更に、必要に応じていかなるライブラリー又は化合物も、標準的な化学的、物理的、生化学方法を使用して直ちに修飾できる。
【0075】
更に、薬剤スクリーニング及び開発の当業者であれば、非複製(例えば分類学的な非複製、生物学的な非複製及び化学な非複製、又はそれらの組み合わせ)、又は既に幹細胞を補充若しくは熱ショックを誘導する活性が知られている材料の複製若しくは繰り返しの除去を、適宜使用しなければならないことを容易に理解するであろう。
【0076】
天然抽出物が幹細胞を補充する若しくは更なる熱ショックを誘導することが明らかとなったとき、陽性のリード抽出物を更に分画し、観察された効果をもたらす化学成分を単離しなければならない。すなわち、抽出、分画及び精製プロセスの目的は、熱ショック又は幹細胞補充を誘導する粗抽出物を用いた、十分な機能解析及び化学物質の同定である。かかる不均一な抽出物の分画及び精製の方法は、従来技術において周知である。必要に応じて、眼細胞の修復若しくは再生が必要とされる眼疾患に関連するあらゆる病理の治療に有用な薬剤であると示された化合物は、眼組織中の再生は公知技術の方法に従って化学的に修飾される。
【0077】
医薬組成物
本発明は、眼組織の熱ショックを(例えばHsp70又はHsp90の発現又は活性を増加させることによって)誘導若しくは複製することができる薬剤を薬理学的に許容できる担体と共に含んでなる医薬組成物に関する。ポリペプチド、ポリヌクレオチド又は小分子化合物を含んでなるかかる調製は、治療的及び予防な用途に使用できる。本願明細書に記載の方法にとり有用な薬剤としては、Hsp90又はHSP70ポリペプチドの発現又は生物学的活性を増加させるか、さもなければ、眼組織の熱ショック応答を誘導することにより組織への幹細胞補充を行わせる薬剤が挙げられる。必要に応じて、本発明の組成物は、例えば患者の骨髄に存在する造血幹細胞を動員ことによって患者の循環系に存在する造血幹細胞の数を増加させる薬剤と共に製剤化してもよい。
【0078】
幹細胞の動員又は漸増を増加させる薬剤としては、抗芽細菌剤及びG−CSF若しくはGM−CSF、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン8(IL−8)、インターロイキン11(IL−11)、インターロイキン12(IL−12)、及びNIP−1α、細胞因子(SCF)、fims様チロシンキナーゼ−3(flt−3)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、初期活性型造血因子(例えば国際公開第91/05795号に記載)、及びトロンボポエチン(Tpo)、FLK−2リガンド、FLT−2リガンド、Epo、オンコスタチン M及びMCSFが挙げられる。
【0079】
本発明の組成物は必要に応じて、造血幹細胞の網膜色素上皮細胞への分化転換を促進する化合物と共に製剤化してもよい。かかる化合物としては、トランスレチノイン酸、11−シス−レチナール又は9−シス−レチナールが挙げられる。
【0080】
本発明の化合物は、医薬組成物の一部として投与してもよい。当該組成物は無菌でなければならず、治療上有効量の本発明の薬剤を、患者の投与に適する重量単位又は体積単位で含有する必要がある。本発明の組成物及び組合せは製薬パックの一部であってもよく、各々の化合物が個々の投与量で存在する。
【0081】
予防的若しくは治療的投与に使用される本発明の医薬組成物は無菌でなければならない。無菌性はγ照射、除菌膜(例えば0.2μm膜)による濾過、又は、他の業者に公知である適切な方法により容易に得られる。治療的なポリペプチド組成物は、一般に無菌のアクセスポート(例えば皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアル)を有する容器に充填される。これらの組成物は通常、水溶液として、又は再調製用の凍結乾燥された製剤として、単一の又は複数の容器(例えば密閉されたアンプル又はバイアル)中で保存される。
【0082】
当該化合物を任意に、薬理学的に許容できる賦形剤と混合してもよい。本明細書中で使用される用語「薬理学的に許容できる賦形剤」とは、ヒトへの投与に適している、適合性を有する1つ以上の固体若しくは液体状の充填材、希釈剤又は封入剤を意味する。当該賦形剤は好ましくは、例えば等張性及び化学安定性を強化する物質を微量含んでなる。かかる材料は使用される量及び濃度で受容者に非中毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩及び他の有機酸などのバッファ、又はそれらの塩、トリス−ヒドロキシアミノメタン(TRIS)、重炭酸塩、炭酸塩及び他の有機塩基、並びにそれらの塩、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸)、低分子物質ポリペプチド(例えば約10残基未満)(例えばポリアルギニン、ポリリシン、ポリグルタミン酸及びポリアスパラギン酸)タンパク質(例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン)、親水性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン(PVP)ポリプロピレングリコール、PPGs)及びポリエチレングリコール(PEGs)、アミノ酸(例えばグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン又はアルギニン)、単糖類、二糖類及び他の炭水化物(セルロース又はその誘導体)、グルコース、マンノース、蔗糖、デキストリン又はヘパリン、コンドロイチン硫酸若しくはデキストラン硫酸などの硫化炭水化物誘導体)、を含む多価金属イオン(例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン及びマンガンイオンなどの二価金属イオン)、キレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸、EDTA)、糖アルコール(例えばマンニトール又はソルビトール)、反イオン(例えばナトリウム又はアンモニウム)及び/又は非イオン系界面活性剤(例えばポリソルベート又はポロキサマー)などが挙げられる。安定化剤、抗菌剤、不活性ガス、液体及び栄養を含む補充液(すなわちリンガーのデキストロース液)、電解質補充液などの他の添加物を含有させてもよく、従来どおりの量で添加してもよい。
【0083】
上記の通り、当該組成物は有効量で投与することができる。当該有効量は、投与方法、治療しようとする特定の症状及び所望の効果により変化する。また、症状の段階、患者の年齢及び体調、並列治療の性質、並びに医師にとり周知のその他の要因に依存することもある。治療的用途の場合は、その量は医学的に望ましい結果を得るのに十分な量である。
【0084】
眼性疾患又は障害に罹患する患者にとり、当該有効量は、眼組織中の少なくとも1つの細胞の熱ショック誘導に十分であるか、少なくとも1つの幹細胞を組織に補充するのに十分であるか、又は、眼病理学と関連する症状を安定させるか、遅延させるか若しくは軽減するのに十分な量のことを指す。本発明の化合物の投与量は通常、1日あたり約0.01mg/kg〜1日あたり約1000mg/kgである。約50〜約2000mg/kgの投与量が適切であると考えられる。特定の形の投与(例えば静脈内投与)では低用量で十分である。患者の反応が初回量では不十分であった場合、患者にとり許容範囲内で、高用量(又は別の局所的な輸送経路による効果的に高い投与量)を使用してもよい。連日の複数回投与により、本発明の組成物の適当な全身レベルが得られる。
【0085】
様々な投与経路を利用できる。本発明の方法は、一般的に、医学的に許容できるいかなる投与様式を使用して実施してもよく、それは臨床的に容認できない副作用を引き起こすことのない活性化合物の有効レベルを提供するいかなる形式をも意味する。好ましい実施形態では、本発明の組成物は眼内に投与される。他の投与様式としては、経口、直腸、局所、眼内、バッカル、膣内、大槽内で、脳室内、気管内、鼻腔内、経皮、インプラント内若しくはインプラント上又は非経口経路が挙げられる。「非経口」という用語には、皮下、クモ膜下腔内、静脈、腹膜内、筋肉内又は注入が包含される。本発明の組成物を含有する組成物は、生理的流体、例えば硝子体内ユーモアに添加してもよい。便宜上、並びに投与計画上の理由から、患者への経口投与が予防治療にとり好ましい。
【0086】
患者の投与による副作用が生じない限り、本発明の医薬組成物は要望通り1つ以上の添加されたタンパク質(血漿タンパク質、プロテアーゼ及び他の生物学的材料など)を更に任意に含有させてもよい。適切なタンパク質又は生物学的材料は公知で、当業者が利用できる任意の精製方法によって、ヒト又は哺乳類の血漿から得られる。例えば、組換え組織培養の上澄、抽出液又は溶解物、ウイルス、酵母、バクテリア等(標準的な組み換えDNA技術に従って、ヒト又は哺乳類の血漿タンパク質を発現する遺伝子を導入されたもの)、又は、流体(例えば血液、牛乳、リンパ、尿等)又は標準的なトランスジェニック技術に従ってヒト血漿タンパク質を発現する遺伝子を導入されたトランスジェニック動物が挙げられる。
【0087】
本発明の医薬組成物は、製剤のpHを例えば約5.0〜約8.0の範囲で、生理的pHを反映する所定レベルに維持するために、1つ以上のpH緩衝化合物を含有させてもよい。水溶液製剤において使用するpH緩衝化合物は、アミノ酸若しくはアミノ酸の混合物(例えばヒスチジン若しくはアミノ酸の混合物(例えばヒスチジン及びグリシン))であってもよい。あるいは、pH緩衝化合物は、例えば製剤のpHを約5.0〜約8.0などの所定レベルで維持し、カルシウムイオンをキレート化しない薬剤が好ましい。かかるpH緩衝化合物例としては、限定されないがイミダゾール及び酢酸イオンが挙げられる。製剤のpHを所定レベルに維持するために、pH緩衝化合物を適切な量で添加させてもよい。
【0088】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の浸透圧調整剤(すなわち受容者個人の血流及び血球が許容できるレベルに製剤の浸透特性(例えば浸透性、オスモル濃度及び/又は浸透圧)を調節する化合物)を含有させてもよい。浸透圧調整剤はカルシウムイオンをキレート化しない物質であってもよい。浸透圧調整剤は、製剤の浸透特性を調節する公知又は当業者が利用できるいかなる化合物であってもよい。当業者は、本発明の製剤用に用いる浸透圧調整剤の適合性を経験的に決定してもよい。適切なタイプの浸透圧調整剤の例としては、限定されないが、塩(例えば塩化ナトリウム及びナトリウム酢酸塩)、糖(例えば蔗糖、ブドウ糖及びマンニトール)、アミノ酸(例えばグリシン)、及びこれらの物質の1つ以上及び/又は物質のタイプの混合物が挙げられる。1つ以上の浸透圧調整剤は、製剤の浸透特性を調節するのに十分ないかなる濃度で添加してもよい。
【0089】
本発明の化合物を含有する組成物として、多価金属イオン(例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はマンガンイオン)を含有させてもよい。組成物を安定化させ、受容者個人に悪影響を与えないいかなる多価金属イオンを使用してもよい。当業者であれば、これらの2つの基準に基づいて経験的に適切な金属イオンを決定でき、またかかる金属イオンの適切な供給源は公知で、無機及び有機塩が挙げられる。
【0090】
本発明の医薬組成物は、水を含まない液体製剤であってもよい。含まれる1つ以上の有効成分に安定性がもたらされるならば、いかなる適切な非水性液体を使用してもよい。好ましい非水性の液体は、親水性液体である。適切な非水性液体の例としては、グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリジメチルシロキサン(PMS)、エチレングリコール(例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール)、ポリエチレングリコール(「PEG」)200、PEG300及びPEG400、及びプロピレングリコール、例えばジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(「PPG」)425、PPG725、PPG1000、PPG2000、PPG3000及びPPG4000が挙げられる。
【0091】
本発明の医薬組成物は、水性/非水性液体製剤の混合物でもあってもよい。使用される水性/非水性液体製剤の混合物は、含まれる化合物に安定性を提供するものであれば、いかなる適切な非水性液体製剤(例えば上記のそれら)を、いかなる水性液体製剤(例えば上記のそれら)に添加して用いてもよい。好ましくは、かかる製剤の非水性液体は親水性液体である。適切な非水性液体の例としては、グリセロール、DMSO、PMS、エチレン、グリコール(例えばPEG200、PEG300及びPEG400)、及びプロピレングリコール(例えばPPG425、PPG725、PPG1000、PPG2000、PPG3000及びPPG4000)が挙げられる。
【0092】
製剤の安定化を適切に行うことにより、有効成分の凍結状態若しくは非凍結状態での保存が可能となる。安定液体製剤は−70℃以上の温度で保存できるが、0℃以上のより高い温度でも保存でき、又は組成物の特性に応じて0.1℃〜42℃の範囲で保存できる。タンパク質及びポリペプチドがpH、温度、並びに治療有効性に影響を及ぼしうる多数の他の因子の変化に影響されることは、当業者にとり自明である。
【0093】
他の輸送システムとしては、放出調節、遅延放出又は徐放性輸送システムが挙げられる。かかるシステムは本発明の組成物の繰り返し投与を回避でき、患者及び医師の便宜を増加させる。徐放性輸送システムの多くのタイプが利用でき、当業者に公知である。例えばポリマーベースシステム(例えばポリ乳酸(米国特許第3773919号、欧州特許番号58481)、ポリ(ラクチド−グリコリド)コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリD−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(欧州特許第133988号)、L−グルタミン酸及びγ−エチル−L−グルタミン酸(Sidman、K.R.ら、Biopolymers 22:547−556)の共重合体、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)又はエチレン酢酸ビニルなどのポリヒドロキシ酪酸、を含む(Langer、R.ら、J.Biomed.Mater.Res.15:267−277、Langer、R.Chem.Tech.12:98−105及びポリ無水物が挙げられる。
【0094】
持続性組成物の他の例としては、成形された物品(例えばフィルム又はマイクロカプセル)の形態の半透性ポリマーマトリックスが挙げられる。輸送システムは非ポリマーシステムであってもよく、例えば、コレステロール、コレステロールエステルのようなステロール及び脂肪酸又は中性脂肪(脂質モノ、ジ及びトリグリセリドなど)、ヒドロゲル放出システム(例えば生体再吸収性ヒドロゲル(すなわちキチン質ヒドロゲル又はキトサンヒドロゲル)の生物学的誘導体))、サイラスティック(sylastic)システム、ペプチドベースのシステム、ワックスコーティング、従来の結合剤及び添加剤を使用した圧縮錠剤、部分的に融合したインプラントなどが挙げられる。具体例としては、限定されないが、(a)米国特許第4452775号、第4667014号、第4748034号及び第5239660号に記載のような、マトリックス中に薬剤が含有される形の浸食システム、及び(b)米国特許第3832253号及び第3854480号に記載のような、活性成分がポリマーから制御された速度で浸透する拡散システムなどが挙げられる。
【0095】
本発明の方法及び組成物に使用可能な輸送システムの他のタイプは、コロイド分散体システムである。コロイド分散体システムとしては、油中水型エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソームなどの脂質ベースのシステムが挙げられる。リポソームは人工膜容器であり、in vivo若しくはin vitroでの輸送媒体として有用である。大きな単一ラメラ小胞(LUV)(0.2〜4.0μmのサイズで調節可能)は水性の内部に高分子をカプセル化でき、生物学的に活性な形態で細胞に輸送できる(Fraley,R.,及びPapahadjopoulos,D.,Trends Biochem.Sci.6:77−80)。
【0096】
リポソームを特異的なリガンド(例えば単クローン抗体、糖、糖脂質又はタンパク質)と結合させ、特定の組織を標的とするリポソームとすることができる。例えば、リポソームはLIPOFECTIN(商標)及びLIPOFECTACE(商標)としてギブコBRLから市販され、それはカチオン脂質(例えば臭化(DDAB)N−[1−(2、3ジオールエチルオキシ)−プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウム塩化物(DOTMA)及びジメチルジオクタデシルアンモニウム)から形成される。リポソームの調製方法は公知技術で、例えばドイツ共和国特許第3218121号、Epsteinら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)82:3688−3692(1985)、Hwangら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)77:4030−4034(1980)、欧州特許第52322号、第36676号、第88046号、第143949号、第142641号、日本国特許出願第83−118008号、米国特許第4485045号及び第4544545号、及び欧州特許第102324号などの多くの刊行物に記載されている。リポソームはまた、Gregoriadis、G.、Trends Biotechnol.、3:235−241でレビューされている。
【0097】
ビヒクルの他のタイプは、哺乳類の受容者へのインプラントに適する生物学的適合性の微粒子又はインプラント材である。この方法に従って有用である典型的な生物学的適合性のインプラントは、国際出願番号US/03307号(国際公開第95/24929号、「Polymeric Gene Delivery System」)に記載されている。国際出願番号/US/03307号では、適当なプロモータ制御下の外生遺伝子を含有する、生物学的適合性、好ましくは生分解性の重合マトリックスを記載している。重合マトリックスは、患者の外生遺伝子又は遺伝子産物の徐放性を提供するために用いることができる。
【0098】
高分子マトリックスは、好ましくはマイクロカプセルなどの微粒子(薬剤が固体高分子マトリックスの全体にわたって分散)又はマイクロカプセル(薬剤が重合シェルの中心において保存される)の形である。例えば、薬剤を含有する前述のポリマーのマイクロカプセルは米国特許第5075109号に記載されている。薬剤を含有する高分子マトリックスの他の形としては、フィルム、コーティング、ゲル、インプラント及びステントが挙げられる。高分子マトリックス手段のサイズ及び組成は、マトリックスが導入される組織の好ましい放出動力学となるような態様で選択される。高分子マトリックスの寸法は更に、採用する輸送方法に従って選択される。好ましくは、エアゾールを使用する場合、高分子マトリックス及び組成物は界面活性剤担体中に含有される。高分子マトリックス組成物は、好ましい分解速度を有する態様で選択され、バイオ接着剤としての、輸送効率を更に増加させる材料から形成される。あるいは、分解しないが、拡散による長期間にわたる放出が得られる態様でマトリックス組成物を選択してもよい。輸送システムは局所的、部位特異的輸送に適している生物学的適合性のマイクロカプセルであってもよい。かかるマイクロカプセルは、Chickering、D.E.ら、Biotechnol.Bioeng.、52:96−101、Mathiowitz、E.ら、Nature 386:410−414において開示される、。
【0099】
生分解性、及び生分解可能な重合マトリックスを用いて、本発明の組成物を患者に輸送してもよい。かかるポリマーは、天然若しくは合成ポリマーであってもよい。ポリマーは、所望の放出時間に基づいて通常、2、3時間のオーダーから1年のオーダーまでで選択される。通常は、2、3時間から3〜12ヵ月の間の放出時間が最も望ましい。ポリマーは任意に、その重量に対して最高約90%の水を吸収できるヒドロゲルの形であり、更に、任意に多価イオン又は他のポリマーと架橋する。
【0100】
生分解可能な輸送システムの形成に使用できる典型的な合成ポリマーとしては、ポリアミド類、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、酸化ポリアルキレン、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ハロゲン化ポリビニル、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン及びそのコポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル及びメタクリル酸エステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、フタル酸酢酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、セルローストリアセテート、セルロース硫酸ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(ブチルメタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(ヘキシルメタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(ラウリルメタクリル酸塩)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリル酸塩)、ポリ(イソブチルアクリル酸塩)、ポリ(オクタデシルアクリル酸塩)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(酸化エチレン)、ポリ(エチレンテレフタル酸塩)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、及び乳酸及びグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリ(ブチル酸)、ポリ(吉草酸)及びポリ(ラクチド−コカプロラクトン)、及び、アルギン酸塩及びその他多糖類(デキストラン及びセルロース)、コラーゲン、その化学誘導体(置換、化学基(例えばアルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化)の付加、及び当業者に公知の他の修飾による)、アルブミン及び他の親水性タンパク質、ゼイン及びプロラミン及び疎水性タンパク質、それらの共重合体及び混合物などの天然ポリマーが挙げられる。これらの材料は通常、in vivoにおける酵素加水分解若しくは水への曝露のいずれかによっても、又は表面若しくはバルクの浸食によって劣化する。
【0101】
眼内輸送方法
本発明の組成物は通常、例えば眼性疾患、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性レチナール変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーの治療のため、眼内に投与される。一実施形態では、本発明の組成物は、目の硝子体への直接のインプラントに適する眼用装置により投与される。本発明の組成物を、例えば米国特許第5672659号及び第5595760号記載の徐放性組成物において提供してもよい。かかる装置により、有害な局所及び全身性の副作用の危険性を伴うことなく、目の治療に様々な組成物の制御徐放が提供される。現在の眼への輸送方法の課題は、インプラント期間を延長するために、そのサイズを最小化すると共に、眼内装置又はインプラントに含まれる薬剤の量を最大にすることである。米国特許5378475号、第6375972号及び第6756058号、並びに米国特許出願公開第2005/0096290号及び第2005/01269448号を参照。かかるインプラントは、生分解可能及び/又は生物学的適合性のインプラントであってもよく、又は生分解性でないインプラントであってもよい。生分解可能な眼インプラントは、例えば米国特許出願公開第2005/0048099号に記載されている。インプラントは有効成分浸透性であっても浸透性でなくともよく、目の眼房、例えば前眼房又は後眼房に挿入してもよく、又は強膜、トランス脈絡膜空間又は無血管の硝子体領域外部にインプラントしてもよい。あるいは、本発明の組成物の貯蔵材として機能するコンタクトレンズを、薬物輸送に使用してもよい。
【0102】
好ましい実施形態では、インプラントを例えば強膜などの無血管領域に設け、それにより例えば目の眼内空間及び黄斑などの所望の部位への薬剤の強膜経由の拡散を行わせる。最小限浸潤性の強膜間送達は、ごくわずかな全身吸収で、有効量の活性化合物を網膜に分配するために使用できる。強膜間輸送は、強膜の広範囲なアクセス可能表面と、高い度合いの水和(水溶性物質を透過させる)、タンパク質分解酵素及びタンパク質結合部位の不足を伴う低細胞性、及び加齢によっても顕著に低下しない透過性、を利用する。活性化合物と共にロードした浸透圧ポンプを患者にインプラントし、活性化合物が徐放的に網膜に強膜経由で輸送することができる(Ambatiら、Invest.Ophthalmol.Vi。Sd.、41:1186−91の(2000))更にまた、強膜経由の拡散を行う部位は、好ましくは黄斑に近接する部位である。組成物の輸送のためのインプラントの例としては、米国特許第3416530号、第3828777号、第4014335号、第4300557号、第4327725号、第4853224号、第4946450号、第4997652号、第5147647号、第5164188号、第5178635号、第5300114号、第5322691号、第5403901号、第5443505号、第5466466号、第5476511号、第5516522号、第5632984号、第5679666号、第5710165号、第5725493号、第5743274号、第5766242号、第5766619号、第5770592号、第5773019号、第5824072号、第5824073号、第5830173号、第5836935号、第5869079号、第5902598号、第5904144号、第5916584号、第6001386号、第6074661号、第6110485号、第6126687号、第6146366号、第6251090号及び第6299895号、並びに国際公開第01/30323号及び第01/28474号において記載されている装置が挙げられるが、これらに限定されるものではない
【0103】
例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:徐放性薬剤輸送システムであって、所望の局所的若しくは全身の生理的若しくは薬理学的効果を得るのに有効な量の薬剤を含む内側貯蔵部を含んでなるシステム。薬剤を通過させないインナーチューブ。第1および第2の端部を有し、少なくとも一部の内側貯蔵部を被覆する前記インナーチューブ。自身の重量を保持できる態様でサイズを設定され、材料を選択された前記インナーチューブ。インナーチューブ第1端部に設けられる非浸透性部材。インナーチューブ第1端部を通って貯蔵部から薬剤が通過するのを防止する前記非浸透性部材。インナーチューブ第2端部に設けられる浸透性部材。インナーチューブ第2端部を通って貯蔵部から薬剤が拡散する浸透性部材。目の部位に本発明の化合物を投与する方法。目の硝子体に本発明の化合物輸送する徐放性手段、又は本発明の化合物を目の部位に投与する移植可能な徐放性装置をインプラントする処理を含んでなる前記方法。徐放性薬剤輸送手段であって、
a)診断効果又は所望の局所的若しくは全身性の生理的若しくは薬理学的効果を得るのに効果的な、少なくとも1つの第1薬剤の治療的有効量を含有する薬剤コアと、
b)薬剤コアを保持して内部区画を画定する、薬剤を基本的に通過させない少なくとも1つのユニタリーカップであって、ユニタリーカップの開いた頂端部の少なくとも若干の部分の周辺に、少なくとも1つの中断された溝を有する開いた頂端部を含んでなるユニタリーカップと、
c)薬剤を浸透させる浸透性プラグであって、当該浸透性プラグがユニタリーカップの開いた頂端部に設けられ、当該溝が当該浸透性プラグと相互作用してその位置に保持し、開いた頂端部を閉口させ、当該薬剤コアから、浸透性プラグを通して薬剤を透過させ、ユニタリーカップの開いた頂端部から放出させる浸透性プラグと、
d)診断効果又は所望の局所的若しくは全身性の生理的若しくは薬理学的効果を得るのに効果的な、少なくとも1つの治療的有効量の第2薬剤、又は、徐放性薬剤輸送手段であって、所望の可溶性及びポリマーコーティング層を有する有効量の薬剤を含有する内核、薬剤が浸透するポリマー層を含んでなり、ポリマーコーティング層が完全に内核を被覆する前記徐放性薬剤輸送手段。
【0104】
他の眼への輸送方法は、眼への、好ましくは網膜色素上皮細胞及び/又はブルッフ膜を本発明の化合物の標的とする、リポソームの使用が挙げられる。例えば、化合物は上記のリポソーム法と組合せてもよく、この化合物/リポソーム複合体は所望の眼組織又は細胞に化合物を輸送するために静脈注射により眼性PCD患者に注射される。網膜色素上皮細胞又はブルッフ膜の付近に直接リポソーム複合体を注入することにより、眼性PCDの若干の形態に対する、複合体のターゲティングが可能となる。具体的な実施形態では、当該化合物は眼内での遅延輸送(例えばVITRASERT又はENVISION)を介して投与される。具体的な実施形態では、当該化合物を、後部結膜下注入によって輸送する。他の具体的な実施形態では、本発明の組成物を含有するミクロエマルジョン粒子は、ブルッフ膜、網膜色素上皮細胞又はその両方からの脂質取り込みを通じて眼組織に輸送される。
【0105】
ナノ粒子は、血清半減期が長い、封入された薬剤の効能を高めることが知られているコロイド担体システムである。ポリアルキルシアノアクリレート(PACAs)ナノ粒子は、現在臨床的に開発されているポリマー性コロイド薬剤輸送システムであり、Stellaら、J.Pharm.Sci.,2000.89:p.1452−1464;Briggerら、Int.J.Pharm.,2001.214:p.37−42;Calvoら、Pharm.Res.,2001.18:p.1157−1166及びLiら、Biol.Pharm.Bull.,2001.24:p.662−665に記載されている。生分解可能なポリ(ヒドロキシル酸)、例えばポリ(乳酸)(PLA)とポリ(ラクチックコグリコリド)(PLGA)の共重合体が生物学的若しくは医学的用途で広範囲に用いられ、臨床応用におけるFDA認可を受けている。更に、PEG−PLGAナノ粒子は、
(i)封入される薬剤が、全担体システムの相当に高重量フラクション(ローディング)を含んでなること、
(ii)薬剤の量が、カプセル化プロセスの第一段階において使用したうちの相当に高いレベルで最終担体に組み込まれる(高い取り込み効率)こと、
(iii)担体が凍結乾燥可能で、溶液中で凝集を起こさずに再構成される能力を有すること、
(iv)担体が生分解可能であること、
(v)担体システムが小型であること、
(vi)担体が粒子の安定性を強化することなど、多くの望ましい担体としての機能を有する。
【0106】
ナノ粒子は、公知技術のいかなる生分解可能なシェルを使用して完全に合成される。一実施形態では、ポリマー、例えばポリ(乳酸)(PLA)又はポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)が用いられる。かかるポリマーは、生物学的適合性及び生分解性を有し、望ましくはナノ粒子の光化学物質有効性及び循環寿命を増加させるために修飾される。一実施形態では、ポリマーの末端のカルボン酸基(COOH)を修飾し、粒子の負電荷を増加させ、それにより負に荷電した核酸アプタマーとの相互作用を制限する。ナノ粒子はポリエチレングリコール(PEG)によっても修飾され、同様に循環の際の粒子の半減期及び安定性を増加させる。あるいは、COOH基をN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルに変換させ、アミン修飾アプタマーとの共有結合コンジュゲーションを行わせてもよい。
【0107】
本発明の組成物及び方法に有用な生物学的適合性のポリマーとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、酸化ポリアルキレン、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ハロゲン化ポリビニル、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン及びその共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル及びメタクリル酸エステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシルエチルセルロース、セルローストリアセテート、セルロース硫酸ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチルメタクリル酸)、ポリ(ブチルメタクリル酸)ポリ(イソブチルメタクリル酸)、ポリ(ヘキシルメタクリル酸)、ポリ(イソデシルメタクリル酸)、ポリ(ラウリルメタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(メチルアクリレート)ポリ(イソプロピルアクリル酸)、ポリ(イソブチルアクリル酸)、ポリ(オクタデシルアクリル酸)、ポリエチレン、ポリプロピレンポリ(エチレングリコール)、ポリ(酸化エチレン)、ポリ(エチレンテレフタル酸)ポリビニルアルコール)、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギン酸、キトサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチルメタクリル酸)、ポリ(ブチルメタクリル酸)、ポリ(イソブチルメタクリル酸)、ポリ(ヘキシルメタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(ラウリルメタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリル酸)、ポリ(イソブチルアクリル酸)、ポリ(オクタデシルアクリル酸)及びこれらのいずれかの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態では、本発明のナノ粒子はPEG−PLGAポリマーを含有する。
【0108】
本発明の組成物は、局所的に輸送されてもよい。局所輸送の場合、眼輸送において承認されるいかなる薬理学的に許容できる賦形剤中に組成物を添加してもよい。好ましくは、組成物は目への点眼の形で輸送される。若干の用途では、組成物の輸送は、角膜を経由して目の内部に化合物を拡散させることにより行う。
【0109】
当業者であれば、眼性PCDの治療に本発明の化合物を使用する場合の最高の治療計画を容易に決定できると認識する。これは実験を行う程のことではなく、むしろ最適化の問題であり、医療現場において日常的に行われることである。ヌードマウスのin vivo試験により、投与量及び輸送療法を最適化するための治療開始の時期が明らかにされる。注入の頻度は、マウスによる試験の結果を踏まえ、最初は週一度である。しかしながら、この頻度は、特定の患者の最初の臨床試験及びニーズを踏まえて、毎日〜2週間に一度〜1ヶ月に一度の頻度で適宜調節できる。
【0110】
ヒトへの投与量は、マウスに使用する化合物量から推定することにより一旦決定することができる。なぜなら、当業者であれば、動物モデルとの比較によりヒトへの投与量を決定することは、従来技術におけるルーチン作業であることを認識しているからである。具体的な実施形態では、投薬量は約1mg化合物/Kg体重〜約5000mg化合物/Kg体重の間、又は約5mg/Kg体重〜約4000mg/Kg体重、又は約10mg/Kg体重〜約3000mg/Kg体重、又は約50mg/Kg体重〜約2000mg/Kg体重、又は約100mg/Kg体重〜約1000mg/Kg体重、又は約150mg/Kg体重〜約500mg/Kg体重などの範囲で調節できる。他の実施形態では、この投与量は例えば1、5、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000mg/Kg体重であってもよい。他の実施形態では、高い投与量を使用することもあり、かかる投与量としては約5mg化合物/Kg体重〜20mg化合物/Kg体重の範囲であってもよい。他の実施形態では、投与量は8、10、12、14、16若しくは18mg/Kg体重であってもよい。もちろん、この投与量は上方若しくは下方へ調整でき、特定の患者の最初の臨床試験の結果及びニーズに応じて、適宜治療プロトコルに従って行うことができる。
【0111】
複合療法
組成物及び本発明の方法は、公知技術のいかなる標準的治療と組み合わせて実施してもよい。必要に応じて、幹細胞(例えば造血幹細胞)の補充、生存、増殖又は分化転換を促進する薬剤と共に、本願明細書に記載の眼組織の熱ショックを誘導する薬剤又は閾値下レーザーで処理してもよい。かかる薬剤としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、インテグリン、血管形成因子、抗炎症性因子、グリコサミノグリカン、ビトロゲン、抗体及びその断片、これらの薬剤の機能的同等物、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0112】
他の実施形態では、眼性疾患の治療用に投与される抗炎症性化合物と組み合わせて、本願明細書に記載の眼組織の熱ショックを誘導する薬剤又は閾値下レーザーで処理する。かかる抗炎症性化合物としては、限定されないが、1つ以上のステロイド性及び非ステロイド性化合物が挙げられ、例えば、アルクロフェナック、アルクロメタゾン ジプロピオネート、アルゲストン アセトニド、αアミラーゼ、アムシナファル、アムシナファイド、アムフェナクナトリウム、アミプリローズ塩酸、アナキンラ、アニロラク、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジド二ナトリウム、ベンダザク、ベノキサプロフェン、ベンジダミン塩酸、ブロメライン、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、クロベタゾールプロピオン酸、クロベタゾンブタン酸、クロピラク、クロチカゾンプロピオン酸、コルメタゾン酢酸、コルトドキソン、デフェラザコルト、デソニド、デソキシメタゾン、デキサメタゾン ジプロピオン酸、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナク ナトリウム、ジフロラゾン 二酢酸、ジフルミドンナトリウム、ジフミサル、ジフルプレドネート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノナイド、エンドリソン、エンリモマブ、エノリカム ナトリウム、エピリゾール、エトドラク、エトフェナメート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンドサル、フェンピパロン、フェンチアザク、フラザロン、フルザコルト、フルフェナミン酸、フルミゾール、フルニソリド酢酸、フルニキシン、フルニキシン メグルミン、フルオコルチン ブチル、フルオロメトロン酢酸、フルクアゾン、フルビプロフェン、フルレトフェン、フルチカゾン プロピオン酸、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、ハロベタゾール プロピオン酸、ハロプレドン酢酸、イブフェナク、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダプ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、ムドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、イソフルプレドン酢酸、イソキセパク、イソキシカム、ケトプロフェン、ロフェミゾール塩酸、ロルノキシカム、ロテプレドノールエタボネート、ナトリウムメクロフェナメート、メクロフェナミン酸、メクロリソン ジブチル酸、メフェナミン酸、メサラミン、メサラゾン、メチルプレドニソロン スレプラネート、モルニフルメート、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、パラニリン塩酸、ペントサンポリスルフェートナトリウム、フェンブタゾンナトリウムグリセレート、ピリフェニドン、ピロキシカム、ピロキシカムシナメート、ピロキシカム(ジアミン)、ピロプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドリン酸、プロクアゾン、プロキサゾール、プロキサゾールシトレート、リメゾロン、ロマザリト、サルコレックス、サラナセジン、サルサレート、サングイナリウムクロライド、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダク、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダプ、テニダプナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナク、チゾコルトールピバレート、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、又はゾメピラクナトリウムが挙げられる。
【0113】
更に他の実施形態では、本発明にかかる眼組織の熱ショックを誘導する薬剤又は閾値下レーザー療法を、眼組織の血管形成を増減する薬剤との組み合わせで投与する。かかる薬剤は、血管形成因子(例えば小板状体由来の成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、bFGF−2、レプチン、プラスミノゲン活性剤(tPA、uPA)、アンジオポエチン、リポタンパク質A、トランスフォーミング成長因子−β、ブラジキニン、血管形成を誘導するオリゴ糖類(例えばヒアルロナン、肝臓の硫酸塩)、トロンボスポンジン、肝細胞増殖因子(別名散乱因子)及びCXCケモカインレセプタファミリーのメンバーの発現又は活性を調節する能力を有する。
【0114】
他の実施形態では、当該医薬組成物及び方法は、骨髄由来の幹細胞の動員を強化する化学療法薬(例えばシトキサン、シクロホスファミド、VP−16及びサイトカイン(例えばGM−CSF、G−CSF又はそれらの組み合わせ))と共に投与される。
【0115】
本発明の組合せは、同時、又は2、3時間、数日又は数週間の間隔で投与してもよい。1つのアプローチでは、眼組織の熱ショックを誘導する薬剤又は閾値下レーザー療法(本願明細書に記載)は、投与前、投与と同時又は投与の後に、本願明細書に記載の従来の治療法を実施してもよい。幾つかの実施形態では、熱ショック誘導前に骨髄由来の細胞を動員するのが望ましく、かかる動員により、眼組織に補充される幹細胞の数が増加する。他の実施形態では、熱ショック誘導するのと同時、若しくは後(例えば、1、2、3、5又は10時間以内)に、骨髄由来の細胞を動員する薬剤を投与するのが好ましい。
【0116】
眼組織への幹細胞補充を増加させる方法
本願明細書に記載のように、眼組織への熱ショックの誘導により、その組織に効果的に幹細胞(例えば造血幹細胞)が補充させ、それにより眼性疾患又は障害が改善される。必要に応じて、実質的に精製された幹細胞(又はそれらの前駆体又は他の原種細胞)を、薬剤又は治療計画(例えば閾値下レーザー治療)との組み合わせで投与され、それにより眼組織の熱ショックを誘導し、眼組織中における修復が促進される。かかる方法を用いて、その組織における幹細胞数を増やし、それにより眼組織の修復を促進してもよい。
【0117】
造血幹細胞を単離する方法は公知技術である。一実施形態では、造血幹細胞はアフェレシスを使用して血液から単離される。白血球細胞数が約500〜2000細胞/μl、小板状体数が50,000/μlであるとき、全白血球のアフェレシスを開始する。白血球のアフェレシスサンプルを、CD34及び/又はThy−1細胞の存在に関してモニターし、幹細胞動員のピークを決定し、末梢血幹細胞を収集する最適な時間が決定できる。必要に応じて、初めに分化した細胞系統(「分化決定した」細胞)を除去して細胞を分離する様々な技術を使用してもよい。単クローン抗体は特に、特定の細胞系統及び/又は分化段階に関連したマーカーを確認するのに有用である。抗体を固体支持体に結合し、粗分離を行ってもよい。使用する分離技術は、収集するフラクションにおける生存度が最大である必要がある。
【0118】
使用する分離技術としては、物理的性質(例えば密度勾配遠心分離及び向流遠心水簸)、細胞表面特性(レクチン及び抗体親和性)及び生体染色性(ミトコンドリア結合色素のローダミン123、及びDNA結合色素のヘキスト33342)の違いに基づくものが挙げられる。使用できる他の分離方法としては、抗体をコーティングされた磁気ビーズを使用した磁気分離、親和性クロマトグラフィ、単クローン抗体に結合させた、又は単クローン抗体との組み合わせで使用される細胞障害性薬剤(補体及び細胞毒素を含む)、固体マトリックスに結合させた抗体による「パニング」、又は他のあらゆる好適な技術が挙げられる。正確な分離技術としては、フローサイトメトリ(例えば複数の色チャネル、低い角度及び鈍角の光散乱を検波するチャネル(インピーダンスチャネル)を使用したフローサイトメトリ)が挙げられる。
【0119】
分離された細胞の多くは、比較的粗な分離方法を使用してサンプルから抽出でき、造血系(例えばリンパ球及び骨髄単球)の主要な細胞集団、並びにリンパ球の集団(例えば巨大核細胞、肥満細胞、好酸球及び好塩基球)を回収できる。通常、造血細胞の少なくとも約70〜90%を回収できる。
【0120】
陽性選択による粗な分離に付随して又は続いて、例えばCD34標識を使用して、陰性選択を実施してもよく、その場合、特定の分化細胞に存在する系統特異的なマーカーに対する抗体を使用する。ほとんどの場合、これらの標識としては、CD2、CD3、CD7、CD8、CD10、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD33、CD38、CD71、HLA−DR及びグリコホリンAが挙げられ、好ましくはCD2、CD14、CD15、CD16、CD19及びグリコホリンAが挙げられる。通常は少なくともCD14及びCD15を使用する。本発明における「Lin」とは、少なくとも1つの分化細胞特異的なマーカーを欠く細胞集団のことを指す。
【0121】
精製された幹細胞は、FACS分析により、低い副散乱、低い溶媒フォワード拡散プロフィールを有する。細胞回転調製により、富化された幹細胞が、成熟リンパ球様細胞及び成熟顆粒白血球との間のサイズを有することが示される。様々な細胞表面抗原の発現以外にも、光散乱特性に基づいて細胞を選抜してもよい。
【0122】
好ましくは、細胞を最初に粗い分離により分離し、更に、幹細胞と関連した陽性選択、及び分化細胞と関連したマーカーに関するネガティブ選択によって更に細かく分離する。このようにして、幹細胞が非常に富化された組成物を調製できる。
【0123】
その後精製若しくは部分精製された幹細胞を患者に投与する。当該投与は、局所投与(例えば硝子体液に対する、又は目的の眼組織に続いている血管への直接の投与)であってもよく、又は全体投与であってもよい。
【0124】
ポリヌクレオチド治療による熱ショックの誘導
HSPタンパク質、その変異型又は断片をコードするポリヌクレオチド、又は熱ショックを活性化できるタンパク質を用いるポリヌクレオチド療法は、眼性疾患を治療するための他の治療方法である。あるいは、当該ポリヌクレオチドは、幹細胞の補充、生存、増殖又は分化を強化するか、又は眼性疾患を伴う症状を改善する(例えば炎症、血管形成又は細胞死を軽減する)治療的なポリペプチドをコードする。必要に応じて、生理活性分子若しくは異種タンパク質を発現するか、又は内在性タンパク質を過剰発現させるために本発明の幹細胞に遺伝子組み換えを行う。当該細胞は、細胞、組織若しくは器官の長期生存のために、又は細胞の検出若しくはモニターするために必要な遺伝情報を有してもよい。一例としては、血管形成を促進する生理活性分子を発現するように当該細胞を遺伝子組み換えする。他の例としては、蛍光性タンパク質マーカーを発現するように当該細胞を遺伝子が組み換えする。典型的なマーカーとしてGFP、EGFP、BFP、CFP、YFP及びRFPが挙げられる。組換えタンパク質の発現が治療的な効果を有する眼性疾患に罹患する患者の細胞に、かかるポリヌクレオチドを輸送することが可能である。例えば、治療的なポリペプチドをコードする核酸分子を、幹細胞(例えば骨髄由来の幹細胞、造血幹細胞、それらの前駆体若しくは原細胞)に輸送する。他の方法では、当該核酸分子を眼組織(例えば網膜、網膜色素上皮又は脈絡膜)の細胞に輸送する。治療的なポリペプチド(例えばHSPタンパク質(例えばHSP70、HSP90))又はその断片が治療的に有効なレベルで産生されるように、患者の細胞に当該核酸分子を輸送する必要がある。
【0125】
本発明のポリペプチドを産生するための様々な発現システムが存在する。かかるポリペプチドの産生に有用な発現ベクターとしては、染色体、エピソーム及びウイルス由来ベクター(例えば細菌プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、酵母エピソーム、挿入エレメント、酵母染色体エレメント、ウイルス(例えばバキュロウイルス、papovaウイルス、例えばSV40、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、狂犬病恐怖症ウイルス及びレトロウイルス)に由来するベクター)、並びにこれらのベクターの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0126】
1つのポリペプチド産生のための細菌発現システムは、大腸菌におけるpET発現システム(例えば、pET−28)(Novagen社製、マディソン、Wis)である。この発現システムでは、ポリペプチドをコードするDNAを、発現が可能となるような向きでpETベクターに挿入する。かかるポリペプチドをコードする遺伝子は、T7制御シグナルの制御下であるため、当該ポリペプチドの発現は宿主細胞のT7 RNAポリメラーゼの発現を誘導することにより可能となる。これは通常、IPTG誘導に応答してT7 RNAポリメラーゼを発現する宿主菌株を使用してなされる。産生させた後、組換えポリペプチドを公知技術の標準的な方法(例えば本願明細書に記載されている方法)に従って単離する。
【0127】
ポリペプチド産生のための他の細菌発現システムは、pGEX発現システム(ファルマシア社製)である。このシステムは遺伝子又は遺伝子断片を融合タンパク質として高レベル発現させるために設計されたGST遺伝子融合システムであり、機能性遺伝子産物の迅速な精製及びリカバリーを特徴とする。目的のタンパク質を日本住血吸虫由来のグルタチオンS−転移酵素タンパク質のカルボキシル末端と融合させ、グルタチオンセファロース4Bを用いて親和性クロマトグラフィを行い、細菌溶解物から容易に精製できる。グルタチオンによる溶出によって、穏やかな条件下で融合タンパク質を回収できる。融合タンパク質からのグルタチオンS−転移酵素領域の切断は、この領域の上流の、部位特異的なプロテアーゼ認識部位の存在により促進される。例えば、pGEX−2Tプラスミドで発現されるタンパク質はトロンビンで切断でき、pGEX−3Xで発現されるそれらは因子Xaで切断できる。
【0128】
あるいは、本発明の組換えポリペプチドを、Pichia pastoris(メタノール資化性酵母)で発現させてもよい。ピキア属は唯一の炭素源としてメタノールを代謝できる。メタノール代謝の第一段階は、酵素(アルコールオキシダーゼ)による、メタノールのホルムアルデヒドへの酸化である。この酵素(AOX1遺伝子によりコードされる)の発現は、メタノールで誘導される。AOX1プロモータを誘導可能なポリペプチド発現に用いてもよく、又は目的の遺伝子の構成的発現のためにGAPプロモータを用いてもよい。
【0129】
本発明の組換えポリペプチドの発現後、例えば親和性クロマトグラフィを使用して単離する。1例としては、本発明のポリペプチドを抗原として調製した抗体(例えば、本願明細書に記載されているもの)をカラムに結合させ、組換えポリペプチドを単離してもよい。親和性クロマトグラフィの前に、標準的な方法(Ausubelらを参照、上記)によりポリペプチドを含有する細胞を溶解及び分画してもよい。あるいは、当該ポリペプチドを、配列タグ(例えばヘキサヒスチジンタグ、ニッケルカラムに対して結合)を使用して単離してもよい。
【0130】
単離後、必要に応じて、組換えタンパク質を例えば高速液体クロマトグラフィによって更に精製してもよい(Fisher,Laboratory Techniques In Biochemistry and Molecular Biology,eds.,Work and Burdon,Elsevier,1980を参照)。本発明のポリペプチド(特に短いペプチド断片)を化学合成によって調製してもよい(例えばSolid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,1984 The Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.に記載の方法)。これらのポリペプチドの発現及び精製に関する一般的な技術を用いて、有用なペプチド断片又はアナログ(本願明細書に記載)の生産、単離を行ってもよい。
【0131】
必要に応じて、幹細胞補充因子を発現するベクターを、眼組織(例えば網膜色素上皮の層)に投与する。SDF−1(PBSFと呼ばれる)(Campbellら(1998) Science 279(5349):381−4)、6−C−カイン(Exodus−2と呼ばれる)、及びMIP−3β(ELC又はExodus−3と呼ばれる)は、多くのCD4 T細胞などの多くの循環リンパ球の接着を誘導し、MIP−3α(LARC又はExodus−1と呼ばれる)は記憶(ナイーブでない)CD4 T細胞との接着を誘導する。Tangemannら、(1998) J.Immunol.161:6330−7では、第2のリンパ器官へのリンパ球のホーミングと共に、第2のリンパ組織ケモカイン(SLC)(高内皮小静脈(HEV)−関連のケモカイン)の役割を開示している。Campbellら、(1998) J.Cell Biol 141(4):1053−9ではSLCのレセプタ(CCR7など)、並びにそのリガンド(SLC)は、生理的分解中に、ローリングリンパ球の急速なインテグリン依存性の捕捉を活性化できることについて記載している。
【0132】
他のアプローチでは、抗血管新生ポリペプチドを発現するベクターを投与し、眼組織の血管新生を減少させる。かかる抗血管新生ポリペプチドとしては、インターフェロンα(インターフェロンβ)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0133】
更に他の方法では、眼細胞において特異的に発現するポリペプチドをコードするベクターを、本発明の幹細胞に導入する。網膜内皮細胞において発現するポリペプチドとしては、網膜色素上皮のマーカーであるRPE65、及び内皮組織マーカー(例えばRPCA−1)が挙げられる。必要に応じて、構成的にCNS内皮(例えばP糖タンパク質、GLUT−I及びトランスフェリン受容体)に特異的なマーカーを発現する幹細胞を用いる。これらのベクターで形質転換される幹細胞は好ましくは、網膜色素上皮細胞(例えばRET−PE2及びサイトケラチンのペーブメント形態及び発現)の形態的特徴、及び抗原を発現する特徴を有する。レチナール特異的なタンパク質の例を、周知のSAGEタグを含め、表1に示す。
【0134】
【表1】



【0135】
特に高効率での感染、安定的な遺伝子導入及び発現のため、感染ウイルス(例えばレトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)のベクターを体細胞遺伝子の治療に使用してもよい(Cayouetteら、Human Gene Therapy 8:423−430,1997、Kidoら、Current Eye Research 15:833−844,1996、Bloomerら、Journal of Virology 71:6641−6649,1997、Naldiniら、Science 272:263−267,1996、及びMiyoshiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照)。例えば、HSPタンパク質をコードするポリヌクレオチド、その変異型又は断片をレトロウイルスのベクターにクローニングすることができ、その発現を、その内在性プロモータ、レトロウイルスの長い末端リピート、又は目的の組織もしくは細胞(例えば眼組織、脈絡膜又は網膜色素上皮層など)に特異的なプロモータにより誘導してもよい。使用できる他のウィルスベクターとしては、例えばワクシニアウイルス、牛の乳頭腫ウイルス又はヘルペスウイルス(例えばイプシュタイン−バーウイルス)などが挙げられる(また、Miller,Human Gene Therapy 15−14,1990、Friedman,Science 244:1275−1281,1989、Eglitisら、BioTechniques6:608−614,1988、Tolstoshevら、Current Opinion in Biotechnology 1:55−61,1990、Sharp,The Lancet 337:1277−1278,1991、Cornettaら、Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311−322,1987、Anderson,Science 226:401−409,1984、Moen,Blood Cells 17:407−416,1991、Millerら、Biotechnology 7:980−990,1989、Le Gal La Salleら、Science 259:988−990,1993、及びJohnson,Chest 107:77S−83S,1995記載のベクターを参照)。特にレトロウイルスベクタが開発され、臨床現場において使用されている(Rosenbergら、N.Engl.J.Med 323:370,1990、Andersonら、米国特許第5399346号)。最も好ましくは、眼へのHSPポリヌクレオチドの投与のためにウィルスベクターを用いる。
【0136】
また非ウイルス的な方法を用いて、患者の細胞に(例えば眼細胞又は組織)治療薬を導入してもよい。例えば、リポフェクションの存在下で核酸を投与し、核酸分子を細胞に導入してもよい(Feignerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413,1987、Onoら、Neuroscience Letters 17:259,1990、Brighamら、Am.J.Med.Sci.298:278,1989、Staubingerら、Methods in EnZymology 101:512,1983)、アジアロオロソムコイド−ポリリシン抱合体(Wuら、Journal of Biological Chemistry 263:14621,1988、Wuら、Journal of Biological Chemistry 264:16985, 1989)、或いは外科的条件の下での顕微鏡下注入(Wolffら、Science 247:1465,1990)による)。好ましくは、リポソーム及びプロタミンと結合して核酸を投与する。
【0137】
遺伝子導入はin vitroでのトランスフェクションなどの非ウイルス的手段を使用して行ってもよい。かかる方法としてはリン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポーレーション及び原形質融合の使用が挙げられる。リポソームは細胞へのDNA輸送に有用であると考えられる。患者の影響を受けた組織への通常の遺伝子の移植は、細胞(又はその子孫)を標的組織に注入した後、通常の核酸を増殖可能な細胞種(例えば自家若しくは異質な初期細胞又はその子孫)にex vivoで形質転換することによって実施できる。
【0138】
ポリヌクレオチド治療方法に用いられるcDNA発現は、あらゆる適切なプロモータ(例えばヒトサイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)又はメタロチオネインプロモータ)により行ってもよく、いかなる適当な哺乳類の調整エレメントによって制御してもよい。典型的な構成的プロモータとしては、特定の構成的機能又は「ハウスキーピング」機能をコードする、以下の遺伝子のプロモータが挙げられる:ヒポキサンチンホスホリボシル転移酵素(HPRT)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)(Scharfmannら、Proc.Natl.Acad.Sd.USA 88:4626−4630(1991))、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモータ(Laiら、Proc.Natl Acad.Sd.USA 86:10006−10010(1989))、並びに当業者に公知の他の構成的プロモータが挙げられる。更に、多くのウィルスプロモータが真核生物細胞中で構成的に機能する。例えば、SV40初期及び後期プロモータ、マローニー白血病ウイルス及び他のレトロウイルスの長い末端リピート(LTR)、並びに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモータが代表的なものとして挙げられる。したがって、上述した構成的プロモータのいずれかを用いて、異種遺伝子挿入物の転写制御を行うことができる。
【0139】
誘導性プロモータの制御下にある遺伝子は、誘導物質(例えばメタロチオネインプロモータの制御下の転写は、特定の金属イオンの存在において非常に増加する)の存在下でのみ発現するか、又は高い発現レベルを示す。誘導性プロモータは応答エレメント(RE)を含んでなり、それらの誘導因子が結合することにより転写を刺激する。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸及びサイクリックAMPに対するREが存在する。特定のREを含んでなるプロモータは、反応を誘導可能なものとするために選択でき、場合によっては、RE自体を異なるプロモータに連結し、それによって組換え遺伝子を誘導可能なものとしてもよい。すなわち、適当なプロモータ(構成的あるいは誘導可能、弱いあるいは強い)を選択することによって、治療薬の遺伝子発現の存在及びレベルを、遺伝子組み換え幹細胞及び/又は網膜細胞において制御することが可能となる。特定の治療薬を治療的に有効量で輸送するためのこれらの手段の選抜及び最適化は、上記の因子及び患者の臨床プロフィールを考慮に入れて、過度の実験を行うことなく技術の当業者の範囲内で実施できる。
【0140】
1つのプロモータ及び治療薬をコードする少なくとも少なくとも1つの異種核酸に加え、発現ベクター中に、発現ベクターでトランスフェクション又は変換した幹細胞の選抜を容易にするための選抜遺伝子(例えばネオマイシン抵抗性遺伝子)を含めるのが好ましい。
【0141】
必要に応じて、特定の細胞タイプにおいて特異的に遺伝子発現を誘導する公知のエンハンサを用いて、核酸の発現を誘導してもよい。使用するエンハンサとしては、組織又は細胞特異的なエンハンサとして機能するものが挙げられるが、これに限定されない。あるいは、ゲノムクローンを治療的な構築物として用いる場合、同種の制御配列により調節を行ってもよく、又は必要に応じて、異種供給源に由来する制御配列(上記のプロモータ又は調節エレメントなど)で調節をおこなってもよい。
【0142】
本発明に包含される他の治療的アプローチは、組換え治療薬(例えば組換えHSPタンパク質、その変異型又は断片)の投与を含んでなり、疾患影響を受ける可能性があるか又は実際に受けた組織の部位に直接、又は全身的に(例えば従来の組換えタンパク質投与方法で)投与してもよい。投与するタンパク質の適用量は多くの要因(個々の患者のサイズ及び健康状態など)に依存する。いかなる特定の患者の場合も、具体的な投与計画を、個々の患者のニーズ及び当該組成物を投与しているか又はその投与を監督している専門医師の判断に従って、時間をかけて調整する必要がある。
【0143】
眼からの投与経路は、薬により誘導される幹細胞のホーミング、及び/又はベクターを眼組織にする投与のための好適な経路である。しかしながら、好ましい接種経路としてのこの指定は、他の投与経路をいささかも排除するものではない。好適なベクターの接種経路は、硝子体内であるか網膜下の経路である。眼経路は結膜下注入、表層滴下、コラーゲンシールドなどの遅延放出手段、ヒドロゲルコンタクトレンズ又はALZA「Ocusert」などが挙げられるが、これらに限定されない。結膜下接種は、プロパラカインで麻酔した後、10〜1000μg/接種投与量において、0.2〜0.5mlのベクターを、インシュリンシリンジ及び小さいゲージ針を用いて行われる。下部の盲嚢に注入することにより、ワクチンの材料が結膜下に残留し、漏出が防止される。
【0144】
表層への滴下接種は、補助剤及び/又は結膜盲嚢における幹細胞輸送剤の有無においてベクターを添加し、続いて穏やかに30秒眼を開閉(瞬き)させることを含んでなる。当該方法は長期間の曝露のため、5日間、1日2回又は3回の頻度で反復投与するが、その各々が接種として行われる。保持をより良好にしたい場合には、涙腺を一時的にコラーゲン又は他の手段を使用してブロックしてもよい。あるいは、ベクター及び/又は裸のDNAをマイクロカプセルに封入し、目にインプラントして長期放出をさせてもよい。
【0145】
キット
本発明は、眼性疾患、障害又はその徴候の治療若しくは予防用のキットの提供に関する。一実施形態では、当該キットは、Hsp90シャペロンの調節物質(例えばゲルダナマイシン)又は熱ショック応答活性化剤(例えばセラストロール)を有効量で含有する医薬パックである。好ましくは、組成物は単位用量形態で調製される。幾つかの実施形態では、当該キットは、治療的もしくは予防的な組成物を含有させる無菌容器を含んでなり、かかる容器は、従来技術において公知のボックス、アンプル、ボトル、バイアル、チューブ、バッグ、ポーチ、ブリスターパック又は他の適切な容器の形態であってもよい。かかる容器は、薬剤の保持に適するプラスチック、ガラス、ラミネートペーパー、金属箔又は他の材料で作製してもよい。
【0146】
必要に応じて、本発明の組成物又はそれらの組み合わせと、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィーに罹患若しくは罹患するおそれのある患者にそれらを投与する際の説明書とを併せて包含させてもよい。説明書には通常、眼性疾患若しくは障害の治療若しくは予防用の化合物の使用に関する情報が記載されている。他の実施形態では、説明書には、少なくとも化合物又は化合物の組合せの説明、眼性障害又はその徴候の治療用の投与計画及び投与方法、注意事項、警告事項、指示、禁止事項、過剰投与に関する情報、逆作用、動物における薬理学、臨床研究結果、及び/又は参照のうちの1つ以上が記載されている。説明書は、容器(存在する場合)に、又は容器に貼り付けるラベルに直接印刷してもよく、又はシート、パンフレット、カード又はフォルダとして容器に梱包してもよい。
【実施例】
【0147】
<実施例1>:レーザーによる幹細胞の補充
致死量に近い曝露を受けたマウスにGFP幹細胞をインプラントしてキメラマウスを作製した。キメラマウスは、GFPホモ接合性トランスジェニックドナーに由来する、GFP−を発現する造血幹細胞を用いて作製した。これらの細胞を、致死に近い曝露を受けたレシピエントにインプラントした。これらのgfpキメラマウス(C57B16.gfp)を用い、以下全てのレーザーによる検討を行った。75μmのスポット径を有する810nmダイオードレーザを使用し、エネルギーの各種レベルを、網膜組織に可視的なレーザ反応(1130W/cmのレーザー光)をもたらさないエネルギー(5mJ(50mW、0.1ミリ秒)など)で網膜に照射した。これは可視閾値下と考えられた。レーザー照射後3週目に動物を安楽死させ、眼を摘出した。眼杯を調製し、感覚神経網膜を除去した。
【0148】
閾値下レーザーのエネルギーを受光した眼では、造血幹細胞(HSC)の顕著な増加が、拡散したパターンで網膜色素上皮の層に示されていた。これらの変化は2週間以内に発生した。閾値下レーザーにより成熟幹細胞の転移が誘導され、図1及び2で示すように網膜色素性上皮が修復された。図1は、RPEのレベルにおける、gfp細胞のデューティサイクルに依存する顕著な局在化を示す。図1の暗領域は、レーザー照射された領域のRPE層に取り込まれたGFP細胞を意味する。バックグラウンドの蛍光(反対側の(無影響の)目によって測定される)を除去した。図2は、網膜色素上皮(RPE)への造血幹細胞(HSC)の取り込みを数値化したグラフである。
【0149】
<実施例2>:網膜に補充されたHSCは網膜特異的なマーカーを発現する
共焦免疫蛍光顕微鏡検査を行った結果、GFP陽性細胞がRPE65(RPE特異的なタンパク質)と共に共局所化していることが示され、すなわち補充された造血幹細胞がRPEの形質を獲得していることを示唆している。これらの眼ではまた、拡散した内皮細胞補充を示している。顕著な網膜不透明(150mW、0.1秒)をもたらすほどの高エネルギーレーザーを照射された眼では、内皮細胞と共に、瘢痕領域にGFP HSCの集中的な補充を示した。閾値下レーザーにより、HSCの移動及びRPEへの取り込みが誘導された。取り込みの程度はレーザーのデューティサイクルと相関していた。15%のデューティサイクルのときにHSC取り込みが最大であった。
【0150】
<実施例3>:可視下閾値レーザーによりhsp70、hsp90が増加し、熱ショック応答が誘導され、SDF−I及びVEGFの放出がもたらされる
眼科用レーザーは、様々な網膜障害の治療にとり重要な手段である。ほとんどの場合、その効果は網膜の可視変化(すなわちレーザーにより誘導された光化学的な燃焼)に起因していた。810nmのダイオードレーザーは、そのレーザーのエネルギーがRPEにより吸収されるため、感覚神経網膜への損傷が低く抑えられると考えられている。図2は、RPEのレベルにおける、デューティサイクルに依存する顕著なGFP細胞の局在化を示す。10%のデューティサイクルのときに応答が最大であった。このことは養子移入方法(細胞療法に非常に類似する技術)を使用して別に確認してもよい。養子移入は、HSCsを全身投与し、化学遊走物質を産生する領域にこれらの細胞を急速にホーミングさせることを含んでなる。
【0151】
マイクロパルスレーザー法は、網膜への光による損傷を最小化するために臨床的に開発されたものである。マイクロパルスモードで使用する赤外線(810nm)レーザー装置は比較的新しいものであり、網膜障害の治療にとり有用と考えられる。単一の露光の間の、反復的で短パルスのレーザーを使用することにより、熱伝導及びそれによるRPE損傷が抑制される。それゆえに最近になり臨床分野に取り入れられている。熱ショック応答は、タンパク質ミスフォールディングを抑制する熱ショックタンパク質の能力に基づく、細胞保護反応であると考えられている。
【0152】
マイクロパルスレーザーの使用により、熱ショック応答を誘導する効果及び/又は目にHSCsを引きつけるサイトカイン及び成長因子が誘導されるかどうかを決定するため、デューティサイクルを変化させて赤外線レーザーを照射し、感覚神経網膜、並びにRPE及び複雑な脈絡膜を含む後部眼杯におけるhsp70、hsp90及びクリスタリンのmRNA発現を時間経過とともに解析した。hsp70のピークの増加は、神経網膜ではレーザー処理の2時間後、後部眼杯ではレーザー処理の4時間後に観察された。hsp90のmRNAは2時間に神経網膜及び後部眼杯で劇的にピークに達した。後部眼杯におけるSDF−1及びその受容体CXCR−4のレーザー誘導による発現も観察された。レーザー処理の2時間後に検査を行った結果から、短いレーザー治療がRPE細胞の転写機構に影響を与え、RPE細胞を再プログラムし、網膜へのHSCs補充を可能にする一連の因子を生じさせることが示唆された。レーザー処理の4時間後において、SDF−1及びその受容体CXCR−4のレーザー誘導による発現も観察された。SDF−1及びVEGFが低酸素に反応することが公知であるため、HIF−1αのmRNAレベルに関する、網膜へのレーザー処理の効果を解析した。HIF−1αのmRNAレベルは、後部眼杯において2時間後に減少し、4時間後に増加した。
【0153】
これらの試験は、SDF−1及びVEGFによるRPEのオートクライン及びパラクリン調節を支持するものである。理論に束縛されないが、おそらく可視下レーザーはRPE−光受容器層の細胞外環境を刺激し、HSCsを補充するための受容的な環境を形成すると考えられる。細胞外hsp70が神経保護剤であることを示す証拠が得られている。理論に束縛されないが、hsp70は網膜へのHSCsの補充を促進することによって、網膜における神経防護因子として機能し、RPEを修復すると考えられる。熱ショックタンパク質は網膜へのHSCの補充におけて一定の役割を果たすと考えられる。このことは、化学遊走物質タンパク質の局所的な産生に続くHSCsの補充によっても、in vivoで実現されうる。
【0154】
<実施例4>:RPE初代培養組織の熱ショック後における、Hsp70 mRNAレベルの増加
RPEが、観察されたin vivoでのサイトカイン反応の源であるか否かを決定するため、ヒトのRPEの初代培養組織及びARPE19(不死化RPE細胞)に熱ショックを与えた。熱ショックの2時間後において、熱ショックタンパク質(HBF−1α、SDF−1及びVEGF)のmRNAの抑制が観察された。RPE培養組織では、hsp90 mRNAレベルの劇的な増加(40倍)が観察された。in vitroでのhsp90の結果はin vivoでの結果に対応していた。hsp70 mRNAレベルの顕著な増加(50倍)がRPE初代培養組織において観察され、それは元々存在するRPE細胞がこの推定の神経保護物質を放出することを示すものである。理論に束縛されないが、これらのin vivoデータから、RPE細胞は網膜へのHSC補充を可能にする走化因子の供給源であることが示唆される。ただしこれは他のタイプの細胞が補充反応に参加しているという可能性を排除するものではない。
【0155】
要約すると、これらの結果から、HSCsがレーザー又は薬理学的誘導によって網膜(RPE層を含む)へ局所的に補充されることが示唆される。なおこの結果は、SVLによる熱ショック応答の誘導により得られたものである。レーザー誘導された熱ショック応答は、HIF−1αの放出、及びそれに続くHSC化学遊走物質のSDF−1及びVEGFの放出と一時的に関係していた。本検討においては、臨床的に可視性のレーザー燃焼又は瘢痕が見られなかった。本発明の方法によるこの低い損傷度合いは、可視性の網膜破壊をもたらすレーザー処理に基づく方法と一線を画すものである。
【0156】
<実施例5>:化学的に誘導された熱ショックによる、RPEへのHSC補充
ヒト初代RPE細胞を用い、化学的に熱ショック応答を誘導し同様の観察を行った。レーザー曝露の4時間後において、hsp70レベルが顕著に増加し、一方hsp90、hsp32及びクリスタリン mRNAに関しては適度なレベル増加となった。SDF−1の発現も観察された。この発現のタイムコースは、古典的な熱ショック誘導の間に観察されたものと対応していた。
【0157】
更に、化学的な熱ショック誘導により、図3に示すようにRPEにHSCが補充された。熱ショック応答の小分子インデューサによる薬理学的誘導は、ゲルダナマイシンの硝子体内注入、又は個別にRPE細胞に曝露することによって誘導され、SDF−1及びVEGFの同様の誘導がもたらされた。これらの試験から、熱ショック誘導(レーザーによる誘導又は薬理学的誘導)によって、直接HIF−1α及びHSCケモカイン(SDF−1及びVEGF)の産生がもたらされるという決定的証拠が得られた。更に、薬理学的操作が、RPE層へのHSC補充及び分化を効果的にもたらすことを示唆する。
【0158】
臨床研究により、高齢者の患者では血液中のHSCsの量が減少していることが示されている。これらの細胞は骨髄から動員されて全身の循環系に入り、網膜へ補充されることができる。現在のところ、ARMDの通常のドライ形態では有効な治療効果が得られない。本発明は、ARMDの治療のためのレーザー治療及び薬理学的方法の提供に関する。本発明の方法は更に、ARMDの造血幹細胞療法の提供に関する。本発明の検討により、年齢に関連する修復能力の低下はARMDの進行と関連することが示唆され、更にARMDはレーザー治療及び薬理学的方法の組合せを使用して修復機能を高めることにより治療できることが示唆される。特に、本発明は、HSCs(例えばGM−CSF)を動員する薬剤でARMD患者を刺激し、更に可視下レーザー又は熱ショック応答を誘導できる化合物の硝子体内注入を行い、細胞RPE層を修復させる方法の提供に関する。
【0159】
以下の方法及び材料を使用して上記の結果を得た。
【0160】
網電図記録法(ERG)
眼の網膜機能を、処置の有無において、ERG(光受容器機能の測定に用いる非侵襲性技術)により評価 (周期的な(例えば毎月))し、レーザー又は薬理学的薬剤治療の効果を解析した。網電図記録法は、麻酔した動物における光への角膜電気反応を測定する非侵襲性技術である。マウスを、80〜100mg/kgのケタミン及び5〜10mg/kgのキシラジン(Phoenix Pharmaceuticals社製、St.Joseph、MO)の混合物を腹腔内注射して麻酔した。マウス角膜を、0.5%の塩酸プロパラカイン(Akorn社製、Buffalo Grove、IL)を滴下して麻痺し、2.5%の塩酸フェニレフリン(Akorn社製)を用いて拡大させた。金のワイヤループを先端に付与した測定電極を、2.5%のヒプロメロース(Akorn社製)を適下した上で両方の角膜に設置し、電極の接触及び角膜の水和状態を維持した。マウスの下部頭皮の中央に対照電極を皮下挿入し、接地電極を後脚に皮下挿入した。動物を37℃の常温に保つ自社製造した摺動プラットフォームにマウスを置いた。動物の全ての頭部を、UTAS−E 2000 Visual Electrodiagnostic System(LKC Technologies社製、Gaithersburg、MD)のGanzfeld(完全領域)照明ドーム内部にもたれさせた状態で配置した。完全領域の暗順応のERGを、1分の間隔で0.9及び1.9 log cd m−2の強度で、10ミリ秒のフラッシュで測定した。
【0161】
4,000のゲインで反応を増幅し、0.3〜500Hzの間にフィルターし、2本のチャネルにおいて2,000Hzの率でデジタル化した。各強度において、5つの反応の平均値を取った。UTAS−E 2000ソフトウェアパッケージ(LKC Technologies社)を使用して波をトレース分析した。A波をベースラインから角膜陰性ピークまでとして測定し、B波は角膜陰性ピークから主要な角膜陽性ピークまでとして測定した。
【0162】
処置後の水分維持のために眼に3回にわたり抗生軟膏(ベトロポリシン)を動物に塗布し、それらを通常に戻す前に、37℃に加温したトレイ上で意識を回復させた。また、ケタミン/キシラジン麻酔を投与した動物に、加温したLRS SQを0.01〜0.02ml/g体重で投与した。
【0163】
眼底検査
処置された眼及び未処置の眼の網膜検査を、眼底検査により評価した。眼底検査は、麻酔された動物の網膜写真を撮影する非侵襲性技術である。マウスを麻酔し、その角膜をERG分析用に上記の通りに麻痺し、拡大した。基底部の写真撮影は、専用のカメラ及びレンズ(Kowa Genesis ハンドヘルド眼底カメラ(Kowa、東京、日本))を用い、VoIk Super 66 Stereo Fundus Lens(Keeler,Berkshire,England)でフォーカスを調節した。各眼の2つの画像を撮影し、適切にフォーカスされた画像を得た。処置後の水分維持のために眼に3回にわたり抗生軟膏(ベトロポリシン)を動物に塗布し、それらを通常に戻す前に、37℃に加温したトレイ上で意識を回復させた。また、ケタミン/キシラジン麻酔を投与した動物に、加温したLRS SQを0.01〜0.02ml/g体重で投与した。
【0164】
レーザー治療
動物の前外科的調製において、それらが肉体的に活力を有し、麻酔を受容できることを確認した。マウスに眼組織の分離又は白内障のいかなる所見も認められないことが必要である。なぜならレーザー燃焼治療を実行するにあたり、網膜を視覚化するためにそれが不可欠だからである。レーザー治療の前に、動物を80〜100mg/kgのケタミン及び5〜10mg/kgのキシラジンの混合物で腹腔内注射し、麻酔した。角膜浮腫又は白内障形成が、これらの麻酔薬の使用に起因することはない。麻酔法のレベルを、フットパッドピンチ及び呼吸速度によってモニターした。フットパッドピンチへの反射の欠如は、動物が適切に麻酔されていることを示す。有効なレーザー治療の妨げとなるため、眼軟膏をレーザー治療の前若しくは間に塗布しなかった。ただし微量の抗生軟膏を塗布し、未処置の目を保護した。フットパッドピンチの後で反応が見られない場合に、レーザー治療を実施した。
【0165】
レーザー治療に必要な時間内の動物の動作から、痛み、苦痛又は不快の存在が示唆された。動物がレーザー手術の直前若しくは最中更なる動作を示す場合、動物を10秒間のイソフルランに曝露して麻酔を補充した。約1mLのイソフルランを、50mLのプラスチック遠心分離チューブの底部に置いたキムワイプ上へ浸漬させ、管を密封した。必要に応じて、このチューブの開放端を動物の鼻の近くに短時間置いてもよい。この操作は換気フード中で実施した。この後に動物の呼吸速度のモニターを継続し、動物の痛み反応をフットパッドピンチによってモニターした。フットパッドを締めつけた後に動作が示されなかった場合に、レーザー手術を実施した。レーザー治療はマウス当たり約30秒を要した。ヨヒンビン(2mg/kgの体重)を腹腔内注射し、ケタミン/キシラジンの効果を逆転させた。これにより、麻酔下で瞬き反射能を損失する危険に眼がさらされる時間が減少する。手術後の異常な挙動は想定されなかった。
【0166】
レーザー治療の後、痛み、苦痛及び不快感が生じうる。文献によると、レーザー治療からのヒト回復は、処理終了後に角膜にケトロラックを塗布することによって補助されることが示されている(Kosrirukvongsら、Topical ketorolac tromethamine in the reduction of adverse effects of laser in situ keratomileusist,J.Med Assoc Thai,2001、84:804−810及びPriceら、Pain reduction after laser in situ keratomileusis with ketorolac tromethamine ophthalmic solution 0.5%:a randomized,double−masked,placebo−controlled trail,J.Refeact Surg,2002:18:140−144)。従って、レーザー治療の後48時間にわたり、ケトロラック(0.5%、OP)の溶液をマウスの目に滴下し、必要に応じてその時間を延長した。この溶液の商品名はAcular PF Solutionである。Acular PFによる処理を継続させても、マウスにおいて副作用を生じさせず、また担体を注射した動物の分析から証明されたように、血管新生に影響を及ぼさなかった。麻酔から回復の徴候を示すまで、動物をケージ中で維持し、室温(18〜26℃)、又は37℃の加温トレイに置き、継続的に肉眼でモニターした。動物がケージ中で完全に覚醒し、自由に移動できる状態となった場合にのみ、麻酔から完全に回復したものとした。
【0167】
骨髄の回収
この方法は生存できる手術ではないため、ドナーマウスを骨髄回収前に人道的に安楽死させた。過剰のケタミンのIP投与(キシラジン60mg/Kg、ケタミン30mg/Kg)によって動物を安楽死させた。深い麻酔状態(足指/フットパッドピンチに反応しない)であることを確認した後、頚椎脱臼させ、確実に死に至らしめた。マウス骨髄由来の幹細胞を回収するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)を高度に発現する4〜8週齢のトランスジェニックマウスから大腿骨を無菌的に摘出した。大腿骨の両端を切断し、髄液を2.5mLのシリンジ及び21ゲージ針を使用して、5mLのダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM、日水社製,東京、日本)(10%のウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100単位/mLペニシリンG及び10%ヘパリンを含有)で押し出した。FACS分析を用い、適当なBMSC表現型を確認した。
【0168】
腹腔内注入
腹腔内注射の方法を以下に示す。できるだけ耳に近い襟首を摘む。マウスの尾部を同じ手の小指で掴む。26ゲージの無菌の皮下注射針を使用し、皮膚及び腹筋を貫通させ、針が隔膜及び他の内部臓器に刺さらないように注意しながら腹膜空腔に注入する。
【0169】
硝子体内注入
マウスを上記の通りに麻酔した。0.5%の塩酸プロパラカイン(Alcon Laboratories社製、フォートワース、TX)を用い、追加的な局所麻酔を行った。塩酸フェニレフリン及び/又は硫酸アトロピンを注入の前に眼表面に塗布し、虹彩を拡大させて損傷を最小化し、注入の後、眼科用の抗生軟膏(ベトロポリシン)を塗布し、感染を防止した。30ゲージ針を用いて角膜縁の後部に0.5mmの穴を開け、マイクロインジェクション針を切開(深さ約1.5mm)により挿入し、針の先端が硝子体の中央に見えるまで視神経の方向へ向けた。全ての注入において、Shott Fostec 光ファイバアームを備えたSouthern Micro Instruments社製 150W ファイバーオプティック光源(Southern Micron Instruments社製、マリエッタ、GA)で照射しながら、手術用顕微鏡 ニコンSM2800(ニコン、メルヴィル、NY)を用いて観察した。薬剤懸濁液の2μLを硝子体内に徐々に添加し、その後針を慎重に引き抜いた。
【0170】
この処置の後、マウスを加温トレイ上の洗浄したケージ中で回復させた。完全に回復するまで動物を観察し、その後通常の飼育条件に戻した。
【0171】
眼窩後注入
幹細胞の局所輸送を行う場合、尾部静脈注射に代わるものとして、幹細胞の眼窩後注入によるインプラントが好適である。マウスは、上記の通りのケタミン/キシラジン、又は精密な気化器によるイソフルラン投与により麻酔した。出血させる場合と同様に、眼より上の毛皮を穏やかに収縮させた。1ccのシリンジ及び27又は30gの針を使用し、眼窩後静脈洞炎の領域の中心に対して45°の角度で針を挿入し、注入を行った。眼窩後静脈洞炎を貫通させる際に針の先端を慎重に動かし、針が静脈洞炎のほぼ中央に位置していることを絶えず確認した。最高200μlの細胞懸濁液を徐々に注入した。凝集塊を含まないように、注入前に細胞懸濁液を濾過した。注入の後、針を慎重に除去し、マウスの眼の損傷を防止するため外向きの斜角を維持した。
【0172】
複数回注入を行う場合、少なくとも2日の注入間隔を置いた。マウス当たり、1つの眼において最高2回の注入を行い、次の注入の際には眼を交替させた。局所用の麻酔薬プロパラカインを、注入の1分前に投与した。
【0173】
眼窩後注入は、同じ部位における眼出血よりも外傷が顕著に少なかった。処置後に当該部位を検査若しくは観察し、眼に外傷が存在しないことを確認した。各注入後、出血を完全に停止させ、眼科用の抗生物質を含む軟膏を均一に塗布し、感染を防止した。処置後、動物を24〜48時間にわたり痛みの徴候(眼瞼痙攣、目を細める動作)をモニターし、必要に応じて適当量の鎮痛薬を投与した。
【0174】
麻酔の後、意識を回復し移動できるようになるまで動物を観察し、その後、ケージラックにそれらのケージを戻した。
【0175】
他の実施態様
前述の説明から、本願明細書に記載されている本発明を、様々な用途及び条件に適合させるように適宜変更及び修飾を行ってもよいことは自明である。かかる実施態様は添付の特許請求の範囲にも含まれる。
【0176】
本願明細書に列記した変更可能な定義に関する、全ての要素の説明には、いかなる1つの部材又は列記した部材のいかなる組合せ(又は部分的な組合せ)としての定義も包含される。本願明細書に記載の実施態様には、いかなる1つの実施態様又はその他のいかなる実施態様若しくはその部分との組合せが包含される。
【0177】
本願明細書において記載した全ての特許及び刊行物は、あたかもそれらの特許及び刊行物が具体的及び個別的に参照により援用されると明記された場合と同程度に、参照により本願明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】一連の眼組織マウントを示す。図1の暗領域は、レーザーを受光した領域のRPE層に結合するGFP細胞を意味する。バックグラウンドの蛍光(反対側の(無影響の)目によって測定される)を除去した。
【図2】網膜色素上皮(RPE)への造血幹細胞(HSC)の取り込みを数値化したグラフである。
【図3】ゲルダナマイシン誘導体D28又はH71を使用した薬理的な熱ショック誘導と組み合わせで、GFP HSCを眼窩注入したマウスから採取した眼組織、及びHSP70ポリペプチドを注入したマウスの眼組織を示す一連のパネルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼性疾患を改善する方法であって、
(a)眼組織中の少なくとも1つの細胞において熱ショックを誘導し、
(b)幹細胞に眼組織を補充し、それにより眼性障害を改善することを含んでなる方法。
【請求項2】
前記熱ショックが、サブ可視閾値レーザー(SVL)刺激の使用により眼組織において誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱ショックが、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される小分子化合物の使用により誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記熱ショックがHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択されるポリペプチドの使用により誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記熱ショックが熱ショックポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターの使用により誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記方法によりHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される熱ショックタンパク質の発現又は活性が上昇する、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記熱ショックポリペプチドがHsp70又はHsp90である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項8】
前記幹細胞が造血幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記方法が眼性疾患又は障害の少なくとも1つの症状を緩和する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記眼性疾患若しくは障害が、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性レチナール変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチ巣状網膜ジストロフィーからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
患者の眼組織に幹細胞を補充する方法であって、閾値下レーザーで眼組織を刺激することを含んでなり、刺激のレベルが組織に少なくとも1つの幹細胞を補充するのに十分なレベルである方法。
【請求項12】
10%又は15%のデューティサイクルが用いられる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記閾値下レーザーが、少なくとも約100nm〜2000nmの波長を有する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記閾値下レーザーのエネルギーが約5mW〜200mWである、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記閾値下レーザーのエネルギーが10mW〜100mWである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記レーザーがマイクロパルスにおいて照射される、請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロパルスの継続時間が約0.001ミリ秒〜1.0ミリ秒である、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記マイクロパルスの継続時間が0.1ミリ秒である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記閾値下レーザーのエネルギーが10mW〜100mWであり、0.1ミリ秒のパルスにおいて照射される、請求項10記載の方法。
【請求項20】
前記刺激によりHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される熱ショックタンパク質の発現又は生物学的活性が増加する、請求項10記載の方法。
【請求項21】
前記刺激がSDF−1、VEGF、HIF−1α、クリスタリン、低酸素誘導因子1−α(HIF−1a)及びCXCR−4からなる群から選択されるタンパク質の発現又は活性を変化させる、請求項10記載の方法。
【請求項22】
前記方法により、Hsp70又はHsp90ポリペプチドの発現が少なくとも10倍増加する、請求項10記載の方法。
【請求項23】
前記方法により、Hsp70又はHsp90ポリペプチドの発現又は活性が少なくとも40倍増加する、請求項10記載の方法。
【請求項24】
患者の眼組織に幹細胞を補充する方法であって、(a)患者に眼組織における熱ショック誘導に十分な量の薬剤を投与し、(b)眼組織に幹細胞を補充することを含んでなる方法。
【請求項25】
患者の眼性疾患又は障害を改善する方法であって、(a)患者に眼組織における熱ショック誘導に十分な量の薬剤を投与し、(b)眼組織に幹細胞を補充し、それにより眼性疾患又は障害を改善することを含んでなる方法。
【請求項26】
前記眼性疾患若しくは障害が、糖尿病性網膜症(脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性レチナール変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーからなる群から選択される請求項25記載の方法。
【請求項27】
患者の網膜を再生させる方法であって、(a)眼組織の熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、(b)眼組織に幹細胞を補充し、それにより網膜を再生させることを含んでなる方法。
【請求項28】
患者の網膜色素上皮損傷を修復する方法であって、(a)眼組織の熱ショック誘導に十分な量の薬剤を患者に投与し、(b)眼組織に幹細胞を補充し、それにより網膜色素上皮を修復することを含んでなる方法。
【請求項29】
前記熱ショックが小分子化合物の使用により誘導される、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記小分子化合物が、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、パエオムフィオリン(paeomfiorin)、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記熱ショックがポリペプチドの使用により誘導される、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記熱ショックが、熱ショックポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターの使用により誘導される、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記熱ショックポリペプチドが、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される請求項30又は31に記載の方法。
【請求項34】
前記薬剤により、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される熱ショックタンパク質の発現又は生物学的活性が増加する、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記薬剤が、SDF−1、VEGF、HIF−1α、クリスタリン、低酸素誘導因子1−α(HIF−Ia)及びCXCR−4からなる群から選択されるタンパク質の発現又は活性を変化させる、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
前記方法がHsp70又はHsp90ポリペプチドの発現を少なくとも10倍増加させる、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記方法がHsp70又はHsp90ポリペプチドの発現又は活性を少なくとも40倍増加させる、請求項22から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
造血幹細胞の動員を増加させる薬剤が、熱ショック応答の誘導前に患者に投与される、請求項1から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記方法が更に抗炎症剤又は抗血管新生剤を投与することを含んでなる、請求項1から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記方法が更に、造血幹細胞の生存、増殖又は分化転換を維持する薬剤を投与することを含んでなる、請求項1から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
前記患者が、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性網膜変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーからなる群から選択される眼性疾患若しくは障害に罹患する、請求項1から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
前記方法が更に、網膜色素上皮細胞に幹細胞の分化転換を強化するために全トランス型レチノイン酸を投与することを含んでなる、請求項1から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
患者の眼性疾患又は障害を改善する方法であって、
(a)患者に当該患者の骨髄幹細胞を動員する薬剤を投与し、
(b)眼組織における熱ショックを誘導し、
(c)眼組織に幹細胞を補充し、それにより眼性疾患又は障害を改善することを含んでなる方法。
【請求項44】
前記薬剤が顆粒白血球マクロファージコロニー刺激因子又は幹細胞増殖因子である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記熱ショックが閾値下レーザー治療の使用により誘導される、請求項43記載の方法。
【請求項46】
前記熱ショックが小分子化合物、ポリペプチド又は核酸分子のいずれかの薬剤の使用により誘導される、請求項43記載の方法。
【請求項47】
前記小分子化合物がゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される、請求項45記載の方法。
【請求項48】
前記眼性疾患若しくは障害が、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障色素性網膜炎、加齢黄斑変性、緑内障、角膜ジストロフィー、網膜分離症、Stargardt疾患、常染色体優位ドルーゼン及びBestの黄斑ジストロフィー、嚢腫状組織黄斑浮腫、網膜剥離、光損傷、虚血性網膜症、炎症誘導性レチナール変性疾患、X連鎖性若年性網膜分離症、緑内障、Malattia Leventinese(ML)及びDoyneハチの巣状網膜ジストロフィーからなる群から選択される、請求項43記載の方法。
【請求項49】
患者の黄斑変性を改善する方法であって、
(a)患者にGM−CSF及び/又は幹細胞増殖因子を投与することにより当該患者の骨髄幹細胞を動員し、
(b)閾値下レーザー処理又は薬剤投与を行うことにより眼組織における熱ショックを誘導し、
(c)眼組織に骨髄幹細胞を補充し、それにより黄斑変性を改善することを含んでなる方法。
【請求項50】
前記薬剤が、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記薬剤が硝子体内若しくは眼窩後注入により投与される、請求項1から49のいずれか1項記載の方法。
【請求項52】
前記がRPE層の細胞修復を誘導する、請求項49記載の方法。
【請求項53】
前記方法が治療用のポリペプチドをコードするベクターを投与することを更に含んでなる、請求項1から49のいずれか1項記載の方法。
【請求項54】
前記方法が更に、患者に実質的に精製された幹細胞を投与することを含んでなる、請求項1から49のいずれか1項記載の方法。
【請求項55】
前記幹細胞が、硝子体内若しくは眼窩後への局所的な投与である、請求項1から49のいずれか1項記載方法。
【請求項56】
幹細胞の補充用の医薬組成物であって、薬理学的に許容できる賦形剤中に、有効量の、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される小分子化合物を含んでなる、眼輸送用に調製された組成物。
【請求項57】
眼組織への幹細胞補充用の医薬組成物であって、薬理学的に許容できる賦形剤中に熱ショックポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを含んでなる、眼輸送用に調製された組成物。
【請求項58】
前記熱ショックポリペプチドが、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択される、請求項54記載の医薬組成物。
【請求項59】
眼組織への幹細胞補充用の医薬組成物であって、薬理学的に許容できる賦形剤中に、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40からなる群から選択されるポリペプチドを含んでなる組成物。
【請求項60】
眼組織における熱ショック応答を誘導するのに有効な量の薬剤と、幹細胞補充を増加させる際の取り扱い説明書を含んでなるキット。
【請求項61】
前記薬剤がポリペプチド、ポリヌクレオチド又は小分子化合物である、請求項60記載のキット。
【請求項62】
前記ポリペプチドがHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40である、請求項60記載のキット。
【請求項63】
前記ポリヌクレオチドがHsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60及びHsp40をコードする、請求項60記載のキット。
【請求項64】
前記小分子化合物が、ゲルダナマイシン、セラストロール、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン、EC102、ラジシコール、ゲラニルゲラニルアセトン、ペオニフロリン、PU−DZ8及びH−71からなる群から選択される、請求項60記載のキット。
【請求項65】
眼組織における幹細胞補充を増加させる薬剤の同定方法であって、
(a)試験化合物と眼細胞を接触させ、
(b)無処理の細胞よりも熱ショックポリペプチドの発現又は活性を増加させる化合物を確認し、それにより幹細胞の補充を増加させる化合物として同定することを含んでなる方法。
【請求項66】
眼組織における幹細胞補充を増加させる薬剤の同定方法であって、
(a)試験化合物と眼細胞を接触させ、
(b)眼組織中の幹細胞の数の増加を確認することを含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−507770(P2009−507770A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524188(P2008−524188)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/029392
【国際公開番号】WO2007/014323
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(500360769)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレイティド (16)
【Fターム(参考)】