眼用レンズを成形型から剥離する方法およびそれに用いる剥離用治具並びに剥離装置
【課題】本発明の目的は、成形型に固着した含水性の眼用レンズを、素材に負担のない処理によって迅速かつ効果的に剥離することができる剥離方法を提供することである。
【解決手段】雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する方法であって、該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、該エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程、剥離部を有する前記眼用レンズ表面を押圧して、型から剥離する第三工程、を含むことを特徴とする。
【解決手段】雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する方法であって、該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、該エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程、剥離部を有する前記眼用レンズ表面を押圧して、型から剥離する第三工程、を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水性の眼用レンズの製造工程において眼用レンズの外面または内面が、樹脂製成形型に付着または接着した状態(以下、固着という)にあるものから、眼用レンズを剥離する方法およびそれに用いられる剥離用治具、そして該方法を実施する剥離装置に関する。
【0002】
本発明の眼用レンズの製造工程とは、樹脂製成形型内で重合性モノマー組成物を重合して、眼用レンズの外面または内面のいずれか一方が完成され、他方を切削等によって完成品に仕上げる所謂片面モールド製法や、眼用レンズの両面を完成品とする所謂モールド製法乃至スピンキャスト製法を含むものである。
【背景技術】
【0003】
従来より、眼用レンズを製造する方法として、樹脂製の成形型でレンズの形状に対応した空間を形成させ、その空間内に重合性モノマー組成物を流し込んで重合する片面モールド製法或いはモールド製法や、レンズ外面形状に対応する成形型を回転させつつ重合性モノマー組成物を重合するスピンキャスト製法が採用されている。これらの製法の利点は製造工程の短縮、簡略化による安価で大量の眼用レンズを供給可能とすることである。前記製法により得られる眼用レンズは、成形型から剥離され最終製品となるのであるが、剥離工程においてレンズ物性に悪影響を与えることなくかつ効率良く剥離するかについては、良品率、製造コスト等に直接影響するために中間製品、成形型及び製造ラインに適合する剥離方法・装置が求められている。
【0004】
最も単純な剥離方法は、成形型に固着した状態で眼用レンズを水中に投入し、眼用レンズが吸水してレンズサイズが膨潤することにより、型から自然に剥がれるというものである。しかし、眼用レンズの一方の面が成形型に固着している場合には、型との強固な固着力および型側からの水の吸水が阻止されることから、室温程度の水中浸漬では自然剥離に長時間を要し、また剥離後のレンズをどのように回収して個別の容器に包装するかなどの課題がある。
【0005】
これまでなされた剥離方法について具体的に見ると、重合後のプラスチック成型物とガラスモールド(この例では樹脂型ではないが)との密着体を加熱水槽とアルコール含有冷却水槽とに交互に浸漬する方法(特許文献1)、炭酸ナトリウムや、苛性ソーダなどのアルカリ水溶液中に一定時間浸漬する方法(特許文献2)、超臨界流体で処理する方法(特許文献3)、親水性有機溶媒またはその水溶液中で分離する方法(特許文献4)など単なる水以外の溶媒に浸漬する方法がある。これらの方法によれば、水中浸漬よりも短時間で剥離可能と思われるが、特殊な溶媒を準備する必要があったり、剥離完了後には、剥離に用いた溶媒を除去して生理食塩水などへ置換する必要がある。
【0006】
また、物理的手段として、温度差のある2つ以上の液槽中で超音波照射を行う方法(特許文献5)、レンズと接していない側の型表面を急冷して離型する方法(特許文献6)、モールド温度を20℃〜40℃の範囲で低下させレンズとモールドの熱膨張係数の差などで離型する方法(特許文献7)、水中にて軽く揺することにより剥離する方法(特許文献8)などがある。超音波や温度差を利用する方法は製造ラインに追加的な装置を組み込む面での課題があり、水中揺動では処理の均一性が問題と思われる。
【0007】
さらに、凹型のレンズ成形面をその曲率が大きくなる方向に変形させて自然落下(或いは吸引して離型)させる方法(特許文献9)や、回転自在なアタッチメントの上に置いたレンズが残るモールドに外周から変形力を加えながら回転させてレンズを取り出す方法(特許文献10)なども提案されている。モールドを変形させるだけでなく、複合的な作用を与えるものであり優れた方法ではあるが、これらの方法によってもレンズ素材と型材料との親和性が高く、強固に固着したレンズについては、必ずしも充分な離型方法とは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−117621号公報
【特許文献2】特開昭63−91230号公報
【特許文献3】特表平9−511000号公報
【特許文献4】特開2000−162555号公報
【特許文献5】特開昭55−123428号公報
【特許文献6】特開平1−152015号公報
【特許文献7】特開平5−253955号公報
【特許文献8】特開2002−292644号公報
【特許文献9】特開2008−155504号公報
【特許文献10】特開2007−203699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、成形型に固着した含水性の眼用レンズを、素材に負担のない処理によって迅速かつ効果的に剥離することができる剥離方法を提供することである。
【0010】
また、前記剥離方法において、剥離工程を一連の流れとして製造ラインに組み込み、眼用レンズを処理するための治具並びに剥離工程を実施するための装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明では、成形型と眼用レンズとが固着しているものを、水性媒体と接触させることによりレンズ表面に適度な柔軟性を付与するとともに、レンズのエッジ部分を押圧して型から一部を剥離し、それを引き金として固着状態の眼用レンズを成形型から剥離するという方法を提案した。
【0012】
すなわち、本発明の眼用レンズの剥離方法は、雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した眼用レンズを剥離する方法であって、該眼用レンズが含水性であることを利用して、該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程と、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、周辺エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程と、剥離部が形成された眼用レンズ表面を押圧して、成形型から剥離する第三工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
前記第一工程では、眼用レンズを押圧する第二工程に備えてレンズ表面の弾性力を付与することを一つの目的としている。また、第二工程で眼用レンズの周辺エッジの少なくとも一部に剥離部を形成させるための前処理としての意味を有する。水性媒体への接触時間は、溶媒の種類、液温度、成形型と眼用レンズとの固着強度により影響を受けるので、限定は困難ではあるが、溶媒の眼用レンズへの浸透度合いと製造ラインでの流れを考慮すれば5〜30分程度が好適である。
【0014】
前記第三工程では、成形型からの剥離を容易にする等のために眼用レンズの表面を吸引しつつ押圧することが好ましい。吸引力のみで剥離するわけではないので、成形型を取り除く際に剥離後の眼用レンズが、再度成形型に吸着されて一緒に除去されないように50〜800hPa(ヘクトパスカル)程度であれば良い。また本工程中において押圧時に成形型と押圧側とを相対的に回転させると、強固に固着していてもより確実に剥離することができる。このときの相対的に回転させるとは、(a)押圧側の治具が固定され、成形型を回転する方法、(b)押圧側の治具と成形型とが相反する方向に回転する方法、(c)成形型が固定され、押圧側の治具が回転する方法のいずれをも意味する。なかでも、剥離効率を考慮すれば(b)の方法がもっとも好ましい。
【0015】
また、前記第二工程と第三工程の間に、眼用レンズの周縁部から中心部に向かって幅1〜4mmで接触するように、環状の柔軟な材料を前記眼用レンズ表面に押圧させる第四工程を追加することが好ましい。この第四工程では先行する第二工程において形成された眼用レンズの剥離部をさらに拡げることにより、第三工程での剥離効率を向上させることを目的とする。
【0016】
上記本発明の剥離方法に使用する好適な治具として、特に第二工程においては成形型に固着する眼用レンズを剥離するためのキッカケを作ることとなるので、眼用レンズ面全体に対して接触するよりもむしろ、眼用レンズと成形型との間に空気を入れるためにレンズ周辺部分に対して押圧できることが好ましい。この治具は、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に一様に接触する面を有するか、或いは前記環状面の少なくとも一部に眼用レンズと接触しない箇所を有することが望ましい。
【0017】
さらに、前記本発明の剥離方法を実施するための装置としては、型に固着した眼用レンズを前記装置に搬送するための第1の手段と、前記眼用レンズに水性媒体を接触させる第2の手段と、所定時間接触させたのち成形型を保持して、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、該エッジの一部に剥離部を形成させる第3の手段と、前記剥離部が形成された眼用レンズを固着する型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段とを含むことを特徴とする。この装置では、眼用レンズの一方の面が成形型に保持された状態で、他方の面側から成形型に向かって押圧することとなるので、レンズに対して物理的な負荷は少ない。また、レンズが剥離されるまでは、各手段において成形型が保持対象とされるので、自動化に適した装置を構成することができる。
【0018】
前記装置には、第3の手段と第4の手段との間に、眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を含むことが好ましい。剥離方法で述べた第四工程を実施するための手段であるが、この手段によって眼用レンズと成形型が強固に固着していても確実に剥離することができるからである。
【0019】
そしてさらに、第4の手段に、押圧しつつ、眼用レンズ表面の接触中心を中心軸として型を回転させる機能を有することが好ましい。なお、接触とは成形型と眼用レンズとが固着した側ではなく、予め成形型から開放されたレンズ面と第4の手段との接触面をいい、一般的には眼用レンズのセンターが接触中心となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の剥離方法によれば、はじめに剥離するキッカケを与える。従って、眼用レンズと成形型が強固に固着しているような場合であっても、形成された剥離部が引き金となって確実にレンズを剥離することができる。しかも眼用レンズの周辺部から中心部に向かって、多段階にて徐々に剥離部を拡げるように作用するので、レンズ素材に対する影響を抑えることができる。また通常使用される水、生理食塩水などの水性媒体に接触させるので、眼に対して安全上の問題がなく、溶媒置換などの後工程を必要としない。
【0021】
そして前記方法に使用するための治具として、眼用レンズに対して環状に接触するような面を有する治具を提供するので、眼用レンズの周辺部に選択的に剥離部を形成させることができ、当該箇所を起点として固着部分の中心に向かって空気を徐々に侵入させることができる。すなわち、レンズと成形型をより小さい力で剥離することができるのである。
【0022】
さらに、前記方法を実施するための本発明の装置は、レンズと固着した成形型を利用してこれを保持し、成形型に向かって押圧力を作用させるので、レンズに対する物理的な負荷を少なくして、剥離工程におけるレンズの変形、破損、亀裂などの発生を防止し、レンズ良品率を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は一実施例に係る剥離工程の概要を示した図である。
【図2】図2は第四工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は接触面が環状、(b)は二箇所に凹部を、(c)は六箇所に凹部を、設けたものの例である。
【図3】図3は第三工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は凸面状の、(b)は凹面状の押圧部を有する例である。
【図4】図4は第三工程に用いられる吸引孔を有する治具の一例を示した図である。(a)は十字状に、(b)は三角形状に、(c)は環状に、(d)は四角形状に、(e)は放射状に、夫々吸引孔を配置した例である。
【図5】図5は第二工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は接触面が環状、(b)は二箇所に非接触部を、(c)は六箇所に凸部を、設けたものの例である。
【図6】図6は第1の手段に用いられる搬送手段の一例を示した図である。(a)は型を固定する前、(b)は型を固定した状態の例である。
【図7】図7は第2の手段における水中浸漬の一例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図、(c)は4個の眼用レンズ型を配置した状態の例である。
【図8】図8は第3の手段における眼用レンズの周辺エッジの一部に剥離部を形成する状態の一例を示した図である。
【図9】図9は第4の手段における治具の一例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図を示す。
【図10】図10は第4の手段における治具の他の例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図を示す。
【図11】図11は第4の手段で眼用レンズ面を押圧する状態の一例を示す図である。
【図12】図12は眼用レンズ成形型の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の剥離方法について詳細に説明する。
型を用いた眼用レンズの製造工程は大きく分類すると、眼用レンズ用成形型の成形、モノマー組成物の充填・重合、成形型を開き必要な場合には成形面やエッジを切削するなどの加工、成形型に固着する眼用レンズを剥離、未反応モノマー等の除去などを行う水和、最終製品の検査、包装に分けられる。重合時に型を回転させながら行うものがスピンキャスト製法、加工工程をほとんど必要としないモールド製法、レンズの片面側を型で、他の面側などを切削で形成する片面モールド製法があり、本発明はいずれの製法にも適用できるものである。なかでも、モノマー組成物の重合収縮による変形を防止するために、型材料とモノマー組成物との相性が良い組み合わせで重合が行われるようなモールド製法に対して好ましく使用することができる。両者の相性が良いということは、重合後の眼用レンズと型材料とが強固に固着している傾向にあり、レンズを剥離することが容易ではないことが予想されるからである。
【0025】
このように眼用レンズと成形型との強固な固着に関して、非常に有効な剥離方法として本発明が提案された。この方法では、眼用レンズの一方の面が型に固着した状態から処理が始められる。ここで、スピンキャスト製法では、基本的に一方の面のみが型に固着した状態で重合されるし、モールド製法では型を開いたときに一方の面は型から自然に開放される。片面モールド製法においても一方の面が型に固着した状態で他方の面を切削加工されるので、眼用レンズの両面が型に固着した状態を本発明の剥離方法の開始点とする必要はないということである。
【0026】
なお上記したように、本発明における固着とは、眼用レンズの一方の面が成形型に付着または接着された状態を総称するものであり、自然落下し得る状態又は室温付近の水中で膨潤して短時間で剥がれる程度のものは含まれない。この程度の吸着力であれば本発明の方法で剥離する必要はないからである。尚、本発明をより容易に理解できるため、本発明の一実施例に係る剥離工程の概要を図1に示す。
【0027】
本発明の剥離方法の第一工程では、開放された眼用レンズ面1を水性媒体2に所定時間接触させる。この工程における諸条件について、水性媒体としては基本的に水または生理食塩水であるが、ここにアルコール等の有機溶媒を添加しても良い。液温としては室温付近であっても加温した水であっても良いが、加熱による経済損失を考慮すれば室温付近で処理する方が好ましい。また接触時間としては前記水性媒体の種類、液温度を含め、眼用レンズ素材の種類、成形型と眼用レンズとの固着の程度を考慮して決定され、量産ラインへ適用することから、好ましくは1〜60分程度、より好ましくは5〜30分程度である。接触時間が長すぎると経済的に不利となり、あまりに短時間であっても、第一工程の目的の一つである第二工程に備えて眼用レンズの表面の弾性力を付与することができないからである。
【0028】
このような弾性力付与については、別の効果として押圧力を加えた際の力の均等な分散・伝達という側面もある。第二工程では眼用レンズの周辺エッジ部の少なくとも一部に押圧力が加えられるが、硬質であれば力が一点に集中して眼用レンズの破損等につながるおそれがある。モノマー組成物に予め重合に関与しない溶媒などが添加されている場合には、眼用レンズに元々弾性力が付与されていることがあり、それほど問題にならないかも知れないが、眼用レンズによってはこの溶媒を水などへ置換した方が、レンズの強度がより向上するというケースもある。したがって、本発明の剥離方法は、特にモノマー組成物に溶媒などが殆ど添加されていない眼用レンズの製造方法に対して好適であり、溶媒が添加されている場合には水性媒体への置換が好ましい場合に有効となる。
【0029】
第一工程の他の目的として、眼用レンズと成形型との間の固着力を軽減して剥離しやすくしたり、未反応モノマーなどの溶出処理効果を促進して水和工程を簡略化するなどの効果が期待できることである。特に眼用レンズが含水してサイズが大きくなれば、含水せずにサイズが変わらない成形型から剥離しやすくなることは容易に理解できる。本発明では、この含水によるサイズ膨潤を単に待つのではなく後続の第二工程以下により積極的にレンズを剥離しようとするものであるが、前記効果を軽視するものではない。
【0030】
第二工程では眼用レンズ周辺エッジ部の少なくとも一部を押圧することによって、エッジの一部に剥離部を形成させる。この工程で使用される好適な治具10については後述する。眼用レンズの周辺エッジ部とは、エッジ端面からレンズの中心に向かって0〜1.5mmの幅で広がる環状領域をいう。エッジ幅はレンズデザインによって異なるので、押圧部とエッジ領域とは必ずしも一致しないが、基本的にはエッジ領域の一部が押圧される。第二工程での剥離部はあくまで、第三工程におけるいわゆる剥離のキッカケを作ることが目的であり、眼用レンズの中心部に剥離部が形成されても本質的には意味がない。眼用レンズの剥離がレンズ周辺から中心部に向かって剥離部が形成されて始めて、剥離できるからである。
【0031】
第二工程の押圧力は、第一工程の処理条件や眼用レンズと成形型との固着力などによって異なるので特定することは難しいが、剥離部が形成される程度の圧力であって、5〜50Kg重の範囲、好ましくは20〜30Kg重の範囲である。前記より大きな荷重をかけると眼用レンズが破損するおそれがあり、前記未満であれば剥離部を形成できないからである。
【0032】
押圧時間についても同様に特定することは難しいが、0.1〜5秒、好ましくは0.5〜1秒である。前記より長く押圧すると眼用レンズが変形するおそれがあり、短いと剥離部の形成が十分ではないからである。なお、押圧部と剥離部の位置関係、形状などが一致することを意味するものではない。勿論、一致することもあるが、押圧部の周囲に形成されることもあれば、押圧用治具10の接触表面が複数箇所から形成されていても、一部の押圧された部位がそれぞれ連結して大きな剥離部を形成することもあるからであり、エッジの一部に剥離部が形成されれば良い。
【0033】
次いで第三工程では、剥離部が形成された眼用レンズ表面を押圧して、型から眼用レンズを剥離する。押圧するに際しては、眼用レンズ表面全体を押圧することが好ましく、柔軟な押圧用治具の使用によって押圧開始時の接触面積が小さい状態から、押圧の最終時点で眼用レンズ表面全体に接触するような押圧方法であっても良い。眼用レンズ全体に均等な力を及ぼすという意味で表面全体を押圧することが好ましいのであるが、眼用レンズ表面と非接触な部分が存在する状態で押圧することを否定するものではない。眼用レンズを剥離することができれば、押圧時の接触面積、押圧方法などを制限することはないからである。このときの眼用レンズ表面全体に対する押圧面積は10〜100%、好ましくは20〜70%である。
【0034】
押圧力、押圧時間についても第二工程と同様に特定は困難であるが、0.1〜30Kg重の範囲、好ましくは1〜10Kg重の範囲であり、0.1〜60秒、好ましくは3〜10秒の間押圧すれば良い。前記範囲を大きく外れると、眼用レンズの破損、処理効率の低下を招き、前記範囲未満では、確実に剥離するという本発明の目的が達せられないおそれがある。
【0035】
本発明の第三工程において、成形型に固着されていない側の眼用レンズの表面を減圧下で吸引しつつ押圧することもできる。眼用レンズの曲率と成形型の曲率が近い、或いは眼用レンズが膨潤して曲率が相違していたとしても含水することでソフトになって成形型表面に付着しやすくなり、剥離完了後の成形型を取り除く際に、型に付着して一緒に廃棄されることを防止するためである。ただし、成形型に付着していても、第三工程後の眼用レンズは水中に浸漬するだけで型から容易に離すことができるので、次の工程に搬送するという目的で吸引しない方法を採ることも可能である。一方、剥離後に眼用レンズが成形型に常に付着するとは限らないので、吸引することによって眼用レンズの位置を常に特定できるという意味では、吸引する方が好ましいとも言えるのである。
【0036】
この吸引孔は、眼用レンズ表面を押圧する治具20に対して設けられることになる。従って、この場合には前記の眼用レンズ表面全体に対する押圧面積は100%にはならないこととなる。吸引用の孔をどのように配置するかについては同一径の複数の孔(或いは様々な径の孔)を眼用レンズ表面全体に分散するように設けること、あるいは眼用レンズ中心部または周辺部により多くの吸引孔を設けること、孔の配置を十字状、星状、放射状に設けるなど種々の設計が可能である。なかでも、中心に孔を配置すると眼用レンズの中心部が治具形状に倣い、次の搬送に有利である。吸引力としては、前記孔の径、数、配置などによって一概に決することはできないが、径φ1mmの孔を3〜5個、放射状に配置したとして、50〜800hPa(ヘクトパスカル)の範囲、好ましくは100〜500hPa(ヘクトパスカル)の減圧度で吸引する。前記範囲より大きい減圧度を形成することは、眼用レンズの位置を固定するためには十分すぎ、前記範囲未満では、眼用レンズを固定できないおそれがあるからである。
【0037】
また第三工程で、眼用レンズ表面を押圧する際に、成形型と押圧側の治具とを相対的に回転させることができる。眼用レンズを挟んで治具と成形型が相反する方向に回転することによって型からの剥離を確実にするものである。これにより押圧力を軽減したり、短時間での剥離も可能になるなどの効果がある。この相対的に回転させる方法には前記の通り(a)〜(c)の3種類の方法が考えられる。中でも剥離効率が最大であり、回転の効率としても最大である点を考慮すれば(b)の押圧側の治具と成形型とを相反する方向に回転する方法が好ましい。装置の構造などの経済的面から考慮すれば(a)の押圧側の治具が固定され、成形型を回転する方法、または(c)の成形型が固定され、押圧側の治具が回転する方法のいずれかであっても良い。このとき回転させる程度であるが、必ずしも360°以上である必要はなく、30°以上であれば良い。またその際の回転速度は1〜100rpm程度であれば充分である。
【0038】
第三工程では前記吸引と回転とを同時に行ってもよいし、吸引を行った後に回転を行うことも可能である。しかし、回転を行った後に吸引を行うと、眼用レンズと治具が擦れ、キズ、破れや位置ずれが生じて好ましくない。
【0039】
本発明の剥離方法は、前記の通り少なくとも三つの工程を有することを特徴としている。さらなる工程として、第二工程と第三工程の間に、眼用レンズ表面に対して、レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触することができる環状の柔軟な材料を押圧させる第四工程を追加しても良い。第二工程によってエッジの一部に剥離部を形成することとなるが、眼用レンズと成形型が強固に固着している場合には、第三工程の前に剥離部をより多くかつ範囲を拡げておく方が良い。そのためこの第四工程を挿入することで、剥離処理の全体としての作業時間の短縮化と効率の向上が期待される。このように本発明の剥離処理は、多段階で眼用レンズに外力を作用させるので、直接レンズ表面に押圧力を加えてもレンズの光学的特性に悪影響を与えたり、レンズの破損、欠けなどを防止することができる。
【0040】
前記第四工程におけるレンズ周辺部への押圧も、基本的には第二工程で説示した押圧と同様の諸条件(押圧力、押圧時間など)よりも負荷の軽い状態で行われる。また、後述する第二工程の治具の形状、材質等においても相違がある。特に第四工程の治具30は第二工程の治具より柔軟な材料で形成されていることである。第四工程は、先の第二工程の補助的役割を果たすのに対して、第二工程では、元々眼用レンズが成形型に固着した状態で最初の押圧力を作用させる関係で、第四工程の治具より硬質な治具を採用する必要がある。
【0041】
第四工程の治具の材質としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどの各種ゴム材料が好ましい。特に眼用レンズとの摩擦力などを考慮して、シリコーンゴムが好適に用いられる。また、その形状は図2に示すように基本的には円筒状31で用いられ、内側は略円である方が好ましいが、外側は特に限定されることはない。図に示すように治具の端面32は環状となっており、眼用レンズ表面に対して傷などを付けないように面取り33されていることが好ましい。例示の治具では、眼用レンズ表面に対して環状に押圧されるが、端面の一箇所以上に凹部34を設けて、押圧初期に非接触部が生じるように形成することもできる。この凹部は眼用レンズ表面への押圧によって変形するが、これに伴って第二工程で形成された剥離部が拡く進行する効果がある。
【0042】
前記治具の筒の内径としては、レンズサイズにより調整され、具体的には5〜14mmの範囲であり、眼用レンズの中心部に対しては非接触で周辺部に対して幅0.5〜4mmの幅で接触する。この押圧時に第三工程で示したような回転作用を加えてもよい。
【0043】
第三工程に用いられる治具の材質も前記第四工程と同様のものが用いられる。ただし、この工程では眼用レンズ表面全体に接触することが好ましいので、成形型に固着していない側のレンズ面(以下、開放面40という)が内面である場合には、治具の外形は凸面状が、開放面が外面である場合には、治具の外形が凹面状に形成されていることが好ましい。具体的には図3に示すような球面の外形を有する。曲率半径などは対応するレンズ面に合わせた方が好ましいが、柔軟な材料で形成されるので、押圧によってレンズ面に自然に沿う為、必ずしも球面である必要はない。楕円面や双曲線面は異なる曲率の眼用レンズに対応できる利点がある。
【0044】
また第三工程の治具は、場合により吸引孔が設けられる。例えば十字状に5個の孔が配置されているものもあるが、孔径、孔の形状・数、配置については先に説明した通り様々な状態に設計することが可能である(図4に示す)。さらにこの治具を支持する台座(図示しない)などを動力により回転させることで、成形型と治具に挟まれた眼用レンズの剥離を容易にできる。
【0045】
一方、第二工程において用いられる治具については、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に接触する面を有するか、非接触部を含んだ環状に接触する面を有することが望ましい。具体的には図5に示すように環状面11で接触するよりも環状に配置された凸部12により接触させた方が良い。面で押圧するよりも力の作用点が集中するので剥離部を形成しやすいからである。特に第二工程では固着状態の眼用レンズと成形型とを剥離するキッカケ(剥離部)を形成するため、前記第四工程の治具の材質より硬い材料、例えば、テフロン(登録商標)、ナイロン、低密度ポリエチレン、アクリル樹脂などが好適である。中でも、眼用レンズに対して傷などを発生させないようにするため、塵やほこりを付着させないようにテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。
【0046】
次に本発明の剥離方法を実現する装置について説明する。本発明の剥離装置は、成形型を用いた重合方法によって得られる眼用レンズの片面が成形型に固着された状態で搬送されたものを、眼用レンズに悪影響を与えることなくかつ確実に剥離するための装置に関する。具体的な構成としては、前記の成形型に固着した眼用レンズを装置に搬送するための第1の手段と、眼用レンズの開放面に水性媒体を接触させる第2の手段と、所定時間接触させた後に成形型を保持しつつ、眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、その一部に剥離部を形成させる第3の手段と、成形型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段と、を含むことを特徴とする。
【0047】
第1の手段により搬送される際には、眼用レンズの開放面40に保持手段が接触しないように成形型の部分のみを保持することが望ましい。レンズ表面に傷が付いて光学的性能に影響しないようにする為である。重合後の眼用レンズが柔軟性を有する場合(例えば重合溶媒を含んでいる、或いはブチルアクリレートやシリコン系モノマーなどを使用しているような場合)には、弾性力によって傷が付き難いと考えられるが、敢えて眼用レンズの開放面に保持手段をもっていく必要はない。保持方法としては成形型を吸引する、フィンガー様の機構で挟むなど従来の方法が採用される。なお、搬送方法として例えば、ベルトコンベア、二本以上のレールの間または上を順次送り出す方式(成形型側面を押して順送りする)等によって搬送するのであれば、前記保持手段は必要ではない。
【0048】
図6には、第1の手段の一例を示す。雄型3の裏面のフランジ部4を吸引にて搬送治具に固定して輸送する。治具の入り口は面取り又はテーパー部5が設けられ、フランジ部が入り易くされている。
【0049】
第2の手段は、本発明の剥離方法の第一工程を実施するものに相当し、眼用レンズの開放面に水性媒体を接触させるものである。接触方法としては、成形型を保持したまま開放面を下向きにして水槽に浸漬する、ベルトコンベア上を移動する眼用レンズの開放面に霧吹きなどによって水滴を吹き付ける、成形型が保持され或いはレール上を搬送される間に水蒸気室のような空間を通過するように構成する、最も単純には眼用レンズが固着された成形型を水槽に投入するなど種々の態様がある。これらのうちの一例を図7に示す。
【0050】
図7で示す第2の手段では、眼用レンズの開放面40が水中2に浸漬されている。このときの水は加温や冷却を必要としない室温と同程度が経済的である。加温すればスピードは早まるが膨潤率は小さくなる傾向にあるため、素材や眼用レンズの厚み及びライン化効率を考慮して最適な温度を選択する。
【0051】
第3の手段は、本発明の剥離方法の第二工程を実施するものに相当し、眼用レンズ周辺エッジの一部に対して押圧力を作用させるものである。具体的には図8で示すような治具10に対して眼用レンズの開放面40を押しつけることとなる。治具の形状・材質などに関する説明は前記の通りである。第3の手段では、開放面を押圧するという従来技術では考えられなかった操作が行われる。成形型からの剥離に際しての原則からは、視力矯正のために光学的機能を重視する眼用レンズに直接接触して物理力を加えるなどは論外だからである。本発明の装置においては、当業者であれば却って想到しえないような処理が実行される。この手段の重要な点は、眼用レンズに直接接触するので傷などを発生させないような材料で構成されること、押圧部の面取り14(角を落とすこと)が施されていること、眼用レンズの周辺から当該部分に剥離部を形成すること、そのためには、面で押圧するよりも面取りされた点、線で押圧することが望ましいということである。
【0052】
図8で示す第3の手段は、開放面を下方に向けて成形型3を保持しつつ、眼用レンズの周辺エッジの一部に接触するように形成された凸部15を有する治具10に対して押しつけるものである。より具体的には、成形型に固着された眼用レンズのサイズが9.2mm(含水によりサイズが膨潤し製品としては14.2mmとなる)のとき、8.6φmmの円周に長さ2mmの6個の凸部が約2.5mm間隔で形成された治具に対して押しつける様子を示したものである。このとき眼用レンズのエッジから約0.3mm内側の箇所が押圧されることとなる。効率のよい押圧位置は眼用レンズの吸着度合いや剥がれ易さ等によって異なるが、エッジから0〜2mm内側、好ましくは0.1〜1.5mm内側に接触するようになっている。
【0053】
図8で示す第3の手段は、第2の手段から成形型を吸引保持して受け取り、治具10の上方まで移動してこの位置(静止位置)に寸刻留まる。次に治具に向けて下降を開始し約0.1〜2秒で押圧位置に達する。押圧力5〜50Kg重で0.1〜5秒間の加圧後、静止位置まで上昇し、第4の手段に移行する。
【0054】
第4の手段は、第3の手段で生じた剥離部を眼用レンズと成形型の間全体に行き渡らせて、眼用レンズを剥離するためのもので、本発明の剥離方法の第三工程を実施するものに相当する。図9、図10で示すような治具(25、26)に対して、眼用レンズの開放面を押しつけることとなる。この治具については前記の通りであるので説明は省略する。
【0055】
図11で示す第4の手段は、第3の手段を通過後、成形型3を保持しつつ移行してきた保持手段とともに、図9に示す治具25の上方位置にて寸刻留まる。次に当該治具に向けて下降を開始し約0.1〜5秒で治具の押圧位置に達する。押圧力5〜50Kg重で0.1〜5秒間の加圧後、再び治具上方位置まで上昇し、このとき成形型に眼用レンズが付帯(この付帯とは、眼用レンズと成形型が本発明で定義された固着状態を脱した状態であり、眼用レンズと成形型との間の水層あるいは静電気的な作用で付着しているにすぎないものを言う)している場合には、そのまま水和などの次工程に搬送するか、他の保持手段に眼用レンズのみを受け渡す。成形型のみを保持している場合にはこれを廃棄処理等の別工程に流す。剥離された眼用レンズは同保持手段もしくは他のピックアップ手段によって次の工程へと搬送される。
【0056】
図9、図10で示す治具には吸引用の微細孔(27、28)が設けられているため、第4の手段で剥離した眼用レンズを吸引することで常に治具表面に保持することができる。これによって、剥離後に成形型に付帯して運び去られることなく、眼用レンズの位置を特定しうるので、次の工程への搬送システムを構築し易い。
【0057】
第4の手段では、眼用レンズを挟んで押圧しつつ、成形型を保持する保持手段および治具の少なくともいずれか一方を回転させることができる。回転中心軸、回転させる程度などは前記に示す通りである。また、回転速度は保持手段と治具とで同じであっても相違していてもよく、1〜100rpmの範囲、好ましくは2〜50rpmの範囲である。この回転は、眼用レンズが強固に固着していても、剥離部を全体に拡大することに効果的であり、確実に剥離することができるが、型と治具の間の眼用レンズを摩擦力などにより破損することがないように注意が必要である。
【0058】
本発明の装置によれば、眼用レンズの開放面に直接力を作用させるとはいえ、第2の手段によってある程度含水させた(柔軟にした)上で行われ、また成形型に固着された状態であるために直接的な負荷が少ないことが特徴である。柔軟かつ厚みが薄いものは、硬い或いは厚いものに比べて、挟まれた状態において加圧だけで破損させようとしても相当の圧力が必要である。含水性の眼用レンズを加圧しても、それのみでは破損までに至らないという点に着目して本発明が達成されたのである。また、剥離工程の全体を通して、眼用レンズが固着された成形型を保持対象にすれば良いので、機械化が容易で、自動化されたラインに組込やすい。
【0059】
本発明の装置には、第3の手段と第4の手段との間に、眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を追加することができる。剥離方法で述べた第四工程を実施するための手段であるが、この手段によって眼用レンズと成形型が強固に固着していても確実に剥離することができるからである。
【0060】
第5の手段の動作も、第3、第4の手段の動作と基本的に同じである。このように幾つかの手段を経ることによって確実な剥離を可能にする反面、成形型を各手段ごとに受け渡すようにする場合には、装置全体の構成が複雑になるので、一連の保持手段については同一の保持手段8を使用した方が良い。
【0061】
本発明の剥離方法、それに用いる治具並びに剥離装置については前記の通りであるが、以下に幾つかの実施例を挙げて、本発明の効果について述べる。
【実施例1】
【0062】
図12に示したナイロン製の雄型3と雌型7よりなる眼用レンズ成形型内に、メチルメタクリレートを主成分としエチレングリコールジメタクリレート等の多官能モノマーを含む成分から成るマクロモノマーを24部、メチルメタクリレート28部、ジメチルアクリルアミド57部、N−ビニルピロリドン19部、着色成分メタクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン0.007部、架橋剤エチレングリコールジメタクリレート0.3部、重合開始剤2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.04部からなる重合性モノマー組成物を充填し、90℃にて30分間重合した。
【0063】
型を開いて、雄型に固着した状態の眼用レンズを得た。この眼用レンズはサイズが9.2mm、硬質であり、手で触ると硬く、爪で強く押したがキズがつかなかった。次に図7(a)に示すように眼用レンズの開放面を水槽に浸して、室温で12分間放置した(第一工程)。これを取り出して、手で触ると軟らかく、爪で弱く押してもキズがつき容易に破れた。
【0064】
水槽に放置した眼用レンズを成形型の部分を保持して図5(c)に示すようなテフロン(登録商標)製の治具に対して20Kg重の圧力で1秒間押しつけて、剥離部を形成させた(第二工程)。
【0065】
さらに、内径約7mm、外径約13mmの円筒状のシリコーンゴム製の治具に対して20Kg重の圧力で2秒間押しつけて、剥離部を拡大させた(第四工程)。最後に図9で示すような、眼用レンズの開放面にほぼフィットするような形状の、曲率半径約6mm、サイズ約8.5mmのシリコーンゴム製治具に対して20Kg重の圧力で2秒間押しつけて、吸引して90°回転することによって眼用レンズを治具に固定した状態で剥離することができた(第三工程)。
【0066】
前記剥離処理を全10枚の眼用レンズに対して施したところ、全ての眼用レンズが確実に治具に固定された状態で剥離することができ、水和後のレンズ検査でも破れなどの破損がなく、光学的機能を保持した含水性の眼用レンズが得られた。
【実施例2】
【0067】
実施例1と操作方法は同様にした。但し、用いた型はPP製である。また重合性モノマー組成物は、特開2008−156334に開示されているシリコーン系モノマーの化合物1を50部、ジメチルアクリルアミド25部、N−ビニルピロリドン25部、架橋剤エチレングリコールジメタクリレート0.3部、重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが0.7部からなる。重合はブラックライトによる紫外線を1時間照射した。型を分割後、雄型を旋盤に固定し、眼用レンズ完成時に所望の度数と厚みになるよう、雄型に付着したレンズの露出面を切削し、室温の水に8分間浸漬し型から眼用レンズを剥離した。但し、剥離時に第四工程は行わなかった。また、第三工程の治具は、軟らかい素材のシリコーンラバー製で、球面部の曲率半径は約7mmで、大きさは約φ4mmを用いた。この操作を全10枚の眼用レンズに対して施したところ、全ての眼用レンズが確実に治具に固定された状態で剥離することができ、水和後のレンズ検査でも破れなどの破損がなく、光学的機能を保持した含水性の眼用レンズが得られた。
【0068】
<比較例1>
実施例2と同様な操作であって、第一工程を実施しなかった場合について全10枚の眼用レンズに対して施した。このとき眼用レンズについては全て剥離できなかった。
【0069】
<比較例2>
実施例2と同様な操作であって、第二工程を実施しなかった場合について全10枚の眼用レンズに対して施した。このとき眼用レンズについては全て剥離できなかった。
【0070】
上述のように、本発明によれば、確実に眼用レンズを剥離することが可能であり、いずれのレンズに対しても光学的機能を損なうことなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の剥離方法によれば、眼用レンズと成形型が強固に固着しているような場合であっても、眼用レンズ素材の物性に悪影響を与えることなく確実にレンズを剥離することができる。また本発明の装置は、自動化が容易に行えるので、眼用レンズの製造ラインに組み込むことで良品率の向上した量産システムの構築が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、40 眼用レンズ開放面
2 水性媒体
3 雄型
4 フランジ部
7 雌型
8 保持手段
10 第二工程の治具
20 第三工程の治具
30 第四工程の治具
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水性の眼用レンズの製造工程において眼用レンズの外面または内面が、樹脂製成形型に付着または接着した状態(以下、固着という)にあるものから、眼用レンズを剥離する方法およびそれに用いられる剥離用治具、そして該方法を実施する剥離装置に関する。
【0002】
本発明の眼用レンズの製造工程とは、樹脂製成形型内で重合性モノマー組成物を重合して、眼用レンズの外面または内面のいずれか一方が完成され、他方を切削等によって完成品に仕上げる所謂片面モールド製法や、眼用レンズの両面を完成品とする所謂モールド製法乃至スピンキャスト製法を含むものである。
【背景技術】
【0003】
従来より、眼用レンズを製造する方法として、樹脂製の成形型でレンズの形状に対応した空間を形成させ、その空間内に重合性モノマー組成物を流し込んで重合する片面モールド製法或いはモールド製法や、レンズ外面形状に対応する成形型を回転させつつ重合性モノマー組成物を重合するスピンキャスト製法が採用されている。これらの製法の利点は製造工程の短縮、簡略化による安価で大量の眼用レンズを供給可能とすることである。前記製法により得られる眼用レンズは、成形型から剥離され最終製品となるのであるが、剥離工程においてレンズ物性に悪影響を与えることなくかつ効率良く剥離するかについては、良品率、製造コスト等に直接影響するために中間製品、成形型及び製造ラインに適合する剥離方法・装置が求められている。
【0004】
最も単純な剥離方法は、成形型に固着した状態で眼用レンズを水中に投入し、眼用レンズが吸水してレンズサイズが膨潤することにより、型から自然に剥がれるというものである。しかし、眼用レンズの一方の面が成形型に固着している場合には、型との強固な固着力および型側からの水の吸水が阻止されることから、室温程度の水中浸漬では自然剥離に長時間を要し、また剥離後のレンズをどのように回収して個別の容器に包装するかなどの課題がある。
【0005】
これまでなされた剥離方法について具体的に見ると、重合後のプラスチック成型物とガラスモールド(この例では樹脂型ではないが)との密着体を加熱水槽とアルコール含有冷却水槽とに交互に浸漬する方法(特許文献1)、炭酸ナトリウムや、苛性ソーダなどのアルカリ水溶液中に一定時間浸漬する方法(特許文献2)、超臨界流体で処理する方法(特許文献3)、親水性有機溶媒またはその水溶液中で分離する方法(特許文献4)など単なる水以外の溶媒に浸漬する方法がある。これらの方法によれば、水中浸漬よりも短時間で剥離可能と思われるが、特殊な溶媒を準備する必要があったり、剥離完了後には、剥離に用いた溶媒を除去して生理食塩水などへ置換する必要がある。
【0006】
また、物理的手段として、温度差のある2つ以上の液槽中で超音波照射を行う方法(特許文献5)、レンズと接していない側の型表面を急冷して離型する方法(特許文献6)、モールド温度を20℃〜40℃の範囲で低下させレンズとモールドの熱膨張係数の差などで離型する方法(特許文献7)、水中にて軽く揺することにより剥離する方法(特許文献8)などがある。超音波や温度差を利用する方法は製造ラインに追加的な装置を組み込む面での課題があり、水中揺動では処理の均一性が問題と思われる。
【0007】
さらに、凹型のレンズ成形面をその曲率が大きくなる方向に変形させて自然落下(或いは吸引して離型)させる方法(特許文献9)や、回転自在なアタッチメントの上に置いたレンズが残るモールドに外周から変形力を加えながら回転させてレンズを取り出す方法(特許文献10)なども提案されている。モールドを変形させるだけでなく、複合的な作用を与えるものであり優れた方法ではあるが、これらの方法によってもレンズ素材と型材料との親和性が高く、強固に固着したレンズについては、必ずしも充分な離型方法とは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−117621号公報
【特許文献2】特開昭63−91230号公報
【特許文献3】特表平9−511000号公報
【特許文献4】特開2000−162555号公報
【特許文献5】特開昭55−123428号公報
【特許文献6】特開平1−152015号公報
【特許文献7】特開平5−253955号公報
【特許文献8】特開2002−292644号公報
【特許文献9】特開2008−155504号公報
【特許文献10】特開2007−203699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、成形型に固着した含水性の眼用レンズを、素材に負担のない処理によって迅速かつ効果的に剥離することができる剥離方法を提供することである。
【0010】
また、前記剥離方法において、剥離工程を一連の流れとして製造ラインに組み込み、眼用レンズを処理するための治具並びに剥離工程を実施するための装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明では、成形型と眼用レンズとが固着しているものを、水性媒体と接触させることによりレンズ表面に適度な柔軟性を付与するとともに、レンズのエッジ部分を押圧して型から一部を剥離し、それを引き金として固着状態の眼用レンズを成形型から剥離するという方法を提案した。
【0012】
すなわち、本発明の眼用レンズの剥離方法は、雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した眼用レンズを剥離する方法であって、該眼用レンズが含水性であることを利用して、該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程と、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、周辺エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程と、剥離部が形成された眼用レンズ表面を押圧して、成形型から剥離する第三工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
前記第一工程では、眼用レンズを押圧する第二工程に備えてレンズ表面の弾性力を付与することを一つの目的としている。また、第二工程で眼用レンズの周辺エッジの少なくとも一部に剥離部を形成させるための前処理としての意味を有する。水性媒体への接触時間は、溶媒の種類、液温度、成形型と眼用レンズとの固着強度により影響を受けるので、限定は困難ではあるが、溶媒の眼用レンズへの浸透度合いと製造ラインでの流れを考慮すれば5〜30分程度が好適である。
【0014】
前記第三工程では、成形型からの剥離を容易にする等のために眼用レンズの表面を吸引しつつ押圧することが好ましい。吸引力のみで剥離するわけではないので、成形型を取り除く際に剥離後の眼用レンズが、再度成形型に吸着されて一緒に除去されないように50〜800hPa(ヘクトパスカル)程度であれば良い。また本工程中において押圧時に成形型と押圧側とを相対的に回転させると、強固に固着していてもより確実に剥離することができる。このときの相対的に回転させるとは、(a)押圧側の治具が固定され、成形型を回転する方法、(b)押圧側の治具と成形型とが相反する方向に回転する方法、(c)成形型が固定され、押圧側の治具が回転する方法のいずれをも意味する。なかでも、剥離効率を考慮すれば(b)の方法がもっとも好ましい。
【0015】
また、前記第二工程と第三工程の間に、眼用レンズの周縁部から中心部に向かって幅1〜4mmで接触するように、環状の柔軟な材料を前記眼用レンズ表面に押圧させる第四工程を追加することが好ましい。この第四工程では先行する第二工程において形成された眼用レンズの剥離部をさらに拡げることにより、第三工程での剥離効率を向上させることを目的とする。
【0016】
上記本発明の剥離方法に使用する好適な治具として、特に第二工程においては成形型に固着する眼用レンズを剥離するためのキッカケを作ることとなるので、眼用レンズ面全体に対して接触するよりもむしろ、眼用レンズと成形型との間に空気を入れるためにレンズ周辺部分に対して押圧できることが好ましい。この治具は、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に一様に接触する面を有するか、或いは前記環状面の少なくとも一部に眼用レンズと接触しない箇所を有することが望ましい。
【0017】
さらに、前記本発明の剥離方法を実施するための装置としては、型に固着した眼用レンズを前記装置に搬送するための第1の手段と、前記眼用レンズに水性媒体を接触させる第2の手段と、所定時間接触させたのち成形型を保持して、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、該エッジの一部に剥離部を形成させる第3の手段と、前記剥離部が形成された眼用レンズを固着する型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段とを含むことを特徴とする。この装置では、眼用レンズの一方の面が成形型に保持された状態で、他方の面側から成形型に向かって押圧することとなるので、レンズに対して物理的な負荷は少ない。また、レンズが剥離されるまでは、各手段において成形型が保持対象とされるので、自動化に適した装置を構成することができる。
【0018】
前記装置には、第3の手段と第4の手段との間に、眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を含むことが好ましい。剥離方法で述べた第四工程を実施するための手段であるが、この手段によって眼用レンズと成形型が強固に固着していても確実に剥離することができるからである。
【0019】
そしてさらに、第4の手段に、押圧しつつ、眼用レンズ表面の接触中心を中心軸として型を回転させる機能を有することが好ましい。なお、接触とは成形型と眼用レンズとが固着した側ではなく、予め成形型から開放されたレンズ面と第4の手段との接触面をいい、一般的には眼用レンズのセンターが接触中心となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の剥離方法によれば、はじめに剥離するキッカケを与える。従って、眼用レンズと成形型が強固に固着しているような場合であっても、形成された剥離部が引き金となって確実にレンズを剥離することができる。しかも眼用レンズの周辺部から中心部に向かって、多段階にて徐々に剥離部を拡げるように作用するので、レンズ素材に対する影響を抑えることができる。また通常使用される水、生理食塩水などの水性媒体に接触させるので、眼に対して安全上の問題がなく、溶媒置換などの後工程を必要としない。
【0021】
そして前記方法に使用するための治具として、眼用レンズに対して環状に接触するような面を有する治具を提供するので、眼用レンズの周辺部に選択的に剥離部を形成させることができ、当該箇所を起点として固着部分の中心に向かって空気を徐々に侵入させることができる。すなわち、レンズと成形型をより小さい力で剥離することができるのである。
【0022】
さらに、前記方法を実施するための本発明の装置は、レンズと固着した成形型を利用してこれを保持し、成形型に向かって押圧力を作用させるので、レンズに対する物理的な負荷を少なくして、剥離工程におけるレンズの変形、破損、亀裂などの発生を防止し、レンズ良品率を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は一実施例に係る剥離工程の概要を示した図である。
【図2】図2は第四工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は接触面が環状、(b)は二箇所に凹部を、(c)は六箇所に凹部を、設けたものの例である。
【図3】図3は第三工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は凸面状の、(b)は凹面状の押圧部を有する例である。
【図4】図4は第三工程に用いられる吸引孔を有する治具の一例を示した図である。(a)は十字状に、(b)は三角形状に、(c)は環状に、(d)は四角形状に、(e)は放射状に、夫々吸引孔を配置した例である。
【図5】図5は第二工程に用いられる治具の一例を示した図である。(a)は接触面が環状、(b)は二箇所に非接触部を、(c)は六箇所に凸部を、設けたものの例である。
【図6】図6は第1の手段に用いられる搬送手段の一例を示した図である。(a)は型を固定する前、(b)は型を固定した状態の例である。
【図7】図7は第2の手段における水中浸漬の一例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図、(c)は4個の眼用レンズ型を配置した状態の例である。
【図8】図8は第3の手段における眼用レンズの周辺エッジの一部に剥離部を形成する状態の一例を示した図である。
【図9】図9は第4の手段における治具の一例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図を示す。
【図10】図10は第4の手段における治具の他の例を示した図である。(a)は上方からの斜視図、(b)は(a)の断面図を示す。
【図11】図11は第4の手段で眼用レンズ面を押圧する状態の一例を示す図である。
【図12】図12は眼用レンズ成形型の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の剥離方法について詳細に説明する。
型を用いた眼用レンズの製造工程は大きく分類すると、眼用レンズ用成形型の成形、モノマー組成物の充填・重合、成形型を開き必要な場合には成形面やエッジを切削するなどの加工、成形型に固着する眼用レンズを剥離、未反応モノマー等の除去などを行う水和、最終製品の検査、包装に分けられる。重合時に型を回転させながら行うものがスピンキャスト製法、加工工程をほとんど必要としないモールド製法、レンズの片面側を型で、他の面側などを切削で形成する片面モールド製法があり、本発明はいずれの製法にも適用できるものである。なかでも、モノマー組成物の重合収縮による変形を防止するために、型材料とモノマー組成物との相性が良い組み合わせで重合が行われるようなモールド製法に対して好ましく使用することができる。両者の相性が良いということは、重合後の眼用レンズと型材料とが強固に固着している傾向にあり、レンズを剥離することが容易ではないことが予想されるからである。
【0025】
このように眼用レンズと成形型との強固な固着に関して、非常に有効な剥離方法として本発明が提案された。この方法では、眼用レンズの一方の面が型に固着した状態から処理が始められる。ここで、スピンキャスト製法では、基本的に一方の面のみが型に固着した状態で重合されるし、モールド製法では型を開いたときに一方の面は型から自然に開放される。片面モールド製法においても一方の面が型に固着した状態で他方の面を切削加工されるので、眼用レンズの両面が型に固着した状態を本発明の剥離方法の開始点とする必要はないということである。
【0026】
なお上記したように、本発明における固着とは、眼用レンズの一方の面が成形型に付着または接着された状態を総称するものであり、自然落下し得る状態又は室温付近の水中で膨潤して短時間で剥がれる程度のものは含まれない。この程度の吸着力であれば本発明の方法で剥離する必要はないからである。尚、本発明をより容易に理解できるため、本発明の一実施例に係る剥離工程の概要を図1に示す。
【0027】
本発明の剥離方法の第一工程では、開放された眼用レンズ面1を水性媒体2に所定時間接触させる。この工程における諸条件について、水性媒体としては基本的に水または生理食塩水であるが、ここにアルコール等の有機溶媒を添加しても良い。液温としては室温付近であっても加温した水であっても良いが、加熱による経済損失を考慮すれば室温付近で処理する方が好ましい。また接触時間としては前記水性媒体の種類、液温度を含め、眼用レンズ素材の種類、成形型と眼用レンズとの固着の程度を考慮して決定され、量産ラインへ適用することから、好ましくは1〜60分程度、より好ましくは5〜30分程度である。接触時間が長すぎると経済的に不利となり、あまりに短時間であっても、第一工程の目的の一つである第二工程に備えて眼用レンズの表面の弾性力を付与することができないからである。
【0028】
このような弾性力付与については、別の効果として押圧力を加えた際の力の均等な分散・伝達という側面もある。第二工程では眼用レンズの周辺エッジ部の少なくとも一部に押圧力が加えられるが、硬質であれば力が一点に集中して眼用レンズの破損等につながるおそれがある。モノマー組成物に予め重合に関与しない溶媒などが添加されている場合には、眼用レンズに元々弾性力が付与されていることがあり、それほど問題にならないかも知れないが、眼用レンズによってはこの溶媒を水などへ置換した方が、レンズの強度がより向上するというケースもある。したがって、本発明の剥離方法は、特にモノマー組成物に溶媒などが殆ど添加されていない眼用レンズの製造方法に対して好適であり、溶媒が添加されている場合には水性媒体への置換が好ましい場合に有効となる。
【0029】
第一工程の他の目的として、眼用レンズと成形型との間の固着力を軽減して剥離しやすくしたり、未反応モノマーなどの溶出処理効果を促進して水和工程を簡略化するなどの効果が期待できることである。特に眼用レンズが含水してサイズが大きくなれば、含水せずにサイズが変わらない成形型から剥離しやすくなることは容易に理解できる。本発明では、この含水によるサイズ膨潤を単に待つのではなく後続の第二工程以下により積極的にレンズを剥離しようとするものであるが、前記効果を軽視するものではない。
【0030】
第二工程では眼用レンズ周辺エッジ部の少なくとも一部を押圧することによって、エッジの一部に剥離部を形成させる。この工程で使用される好適な治具10については後述する。眼用レンズの周辺エッジ部とは、エッジ端面からレンズの中心に向かって0〜1.5mmの幅で広がる環状領域をいう。エッジ幅はレンズデザインによって異なるので、押圧部とエッジ領域とは必ずしも一致しないが、基本的にはエッジ領域の一部が押圧される。第二工程での剥離部はあくまで、第三工程におけるいわゆる剥離のキッカケを作ることが目的であり、眼用レンズの中心部に剥離部が形成されても本質的には意味がない。眼用レンズの剥離がレンズ周辺から中心部に向かって剥離部が形成されて始めて、剥離できるからである。
【0031】
第二工程の押圧力は、第一工程の処理条件や眼用レンズと成形型との固着力などによって異なるので特定することは難しいが、剥離部が形成される程度の圧力であって、5〜50Kg重の範囲、好ましくは20〜30Kg重の範囲である。前記より大きな荷重をかけると眼用レンズが破損するおそれがあり、前記未満であれば剥離部を形成できないからである。
【0032】
押圧時間についても同様に特定することは難しいが、0.1〜5秒、好ましくは0.5〜1秒である。前記より長く押圧すると眼用レンズが変形するおそれがあり、短いと剥離部の形成が十分ではないからである。なお、押圧部と剥離部の位置関係、形状などが一致することを意味するものではない。勿論、一致することもあるが、押圧部の周囲に形成されることもあれば、押圧用治具10の接触表面が複数箇所から形成されていても、一部の押圧された部位がそれぞれ連結して大きな剥離部を形成することもあるからであり、エッジの一部に剥離部が形成されれば良い。
【0033】
次いで第三工程では、剥離部が形成された眼用レンズ表面を押圧して、型から眼用レンズを剥離する。押圧するに際しては、眼用レンズ表面全体を押圧することが好ましく、柔軟な押圧用治具の使用によって押圧開始時の接触面積が小さい状態から、押圧の最終時点で眼用レンズ表面全体に接触するような押圧方法であっても良い。眼用レンズ全体に均等な力を及ぼすという意味で表面全体を押圧することが好ましいのであるが、眼用レンズ表面と非接触な部分が存在する状態で押圧することを否定するものではない。眼用レンズを剥離することができれば、押圧時の接触面積、押圧方法などを制限することはないからである。このときの眼用レンズ表面全体に対する押圧面積は10〜100%、好ましくは20〜70%である。
【0034】
押圧力、押圧時間についても第二工程と同様に特定は困難であるが、0.1〜30Kg重の範囲、好ましくは1〜10Kg重の範囲であり、0.1〜60秒、好ましくは3〜10秒の間押圧すれば良い。前記範囲を大きく外れると、眼用レンズの破損、処理効率の低下を招き、前記範囲未満では、確実に剥離するという本発明の目的が達せられないおそれがある。
【0035】
本発明の第三工程において、成形型に固着されていない側の眼用レンズの表面を減圧下で吸引しつつ押圧することもできる。眼用レンズの曲率と成形型の曲率が近い、或いは眼用レンズが膨潤して曲率が相違していたとしても含水することでソフトになって成形型表面に付着しやすくなり、剥離完了後の成形型を取り除く際に、型に付着して一緒に廃棄されることを防止するためである。ただし、成形型に付着していても、第三工程後の眼用レンズは水中に浸漬するだけで型から容易に離すことができるので、次の工程に搬送するという目的で吸引しない方法を採ることも可能である。一方、剥離後に眼用レンズが成形型に常に付着するとは限らないので、吸引することによって眼用レンズの位置を常に特定できるという意味では、吸引する方が好ましいとも言えるのである。
【0036】
この吸引孔は、眼用レンズ表面を押圧する治具20に対して設けられることになる。従って、この場合には前記の眼用レンズ表面全体に対する押圧面積は100%にはならないこととなる。吸引用の孔をどのように配置するかについては同一径の複数の孔(或いは様々な径の孔)を眼用レンズ表面全体に分散するように設けること、あるいは眼用レンズ中心部または周辺部により多くの吸引孔を設けること、孔の配置を十字状、星状、放射状に設けるなど種々の設計が可能である。なかでも、中心に孔を配置すると眼用レンズの中心部が治具形状に倣い、次の搬送に有利である。吸引力としては、前記孔の径、数、配置などによって一概に決することはできないが、径φ1mmの孔を3〜5個、放射状に配置したとして、50〜800hPa(ヘクトパスカル)の範囲、好ましくは100〜500hPa(ヘクトパスカル)の減圧度で吸引する。前記範囲より大きい減圧度を形成することは、眼用レンズの位置を固定するためには十分すぎ、前記範囲未満では、眼用レンズを固定できないおそれがあるからである。
【0037】
また第三工程で、眼用レンズ表面を押圧する際に、成形型と押圧側の治具とを相対的に回転させることができる。眼用レンズを挟んで治具と成形型が相反する方向に回転することによって型からの剥離を確実にするものである。これにより押圧力を軽減したり、短時間での剥離も可能になるなどの効果がある。この相対的に回転させる方法には前記の通り(a)〜(c)の3種類の方法が考えられる。中でも剥離効率が最大であり、回転の効率としても最大である点を考慮すれば(b)の押圧側の治具と成形型とを相反する方向に回転する方法が好ましい。装置の構造などの経済的面から考慮すれば(a)の押圧側の治具が固定され、成形型を回転する方法、または(c)の成形型が固定され、押圧側の治具が回転する方法のいずれかであっても良い。このとき回転させる程度であるが、必ずしも360°以上である必要はなく、30°以上であれば良い。またその際の回転速度は1〜100rpm程度であれば充分である。
【0038】
第三工程では前記吸引と回転とを同時に行ってもよいし、吸引を行った後に回転を行うことも可能である。しかし、回転を行った後に吸引を行うと、眼用レンズと治具が擦れ、キズ、破れや位置ずれが生じて好ましくない。
【0039】
本発明の剥離方法は、前記の通り少なくとも三つの工程を有することを特徴としている。さらなる工程として、第二工程と第三工程の間に、眼用レンズ表面に対して、レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触することができる環状の柔軟な材料を押圧させる第四工程を追加しても良い。第二工程によってエッジの一部に剥離部を形成することとなるが、眼用レンズと成形型が強固に固着している場合には、第三工程の前に剥離部をより多くかつ範囲を拡げておく方が良い。そのためこの第四工程を挿入することで、剥離処理の全体としての作業時間の短縮化と効率の向上が期待される。このように本発明の剥離処理は、多段階で眼用レンズに外力を作用させるので、直接レンズ表面に押圧力を加えてもレンズの光学的特性に悪影響を与えたり、レンズの破損、欠けなどを防止することができる。
【0040】
前記第四工程におけるレンズ周辺部への押圧も、基本的には第二工程で説示した押圧と同様の諸条件(押圧力、押圧時間など)よりも負荷の軽い状態で行われる。また、後述する第二工程の治具の形状、材質等においても相違がある。特に第四工程の治具30は第二工程の治具より柔軟な材料で形成されていることである。第四工程は、先の第二工程の補助的役割を果たすのに対して、第二工程では、元々眼用レンズが成形型に固着した状態で最初の押圧力を作用させる関係で、第四工程の治具より硬質な治具を採用する必要がある。
【0041】
第四工程の治具の材質としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどの各種ゴム材料が好ましい。特に眼用レンズとの摩擦力などを考慮して、シリコーンゴムが好適に用いられる。また、その形状は図2に示すように基本的には円筒状31で用いられ、内側は略円である方が好ましいが、外側は特に限定されることはない。図に示すように治具の端面32は環状となっており、眼用レンズ表面に対して傷などを付けないように面取り33されていることが好ましい。例示の治具では、眼用レンズ表面に対して環状に押圧されるが、端面の一箇所以上に凹部34を設けて、押圧初期に非接触部が生じるように形成することもできる。この凹部は眼用レンズ表面への押圧によって変形するが、これに伴って第二工程で形成された剥離部が拡く進行する効果がある。
【0042】
前記治具の筒の内径としては、レンズサイズにより調整され、具体的には5〜14mmの範囲であり、眼用レンズの中心部に対しては非接触で周辺部に対して幅0.5〜4mmの幅で接触する。この押圧時に第三工程で示したような回転作用を加えてもよい。
【0043】
第三工程に用いられる治具の材質も前記第四工程と同様のものが用いられる。ただし、この工程では眼用レンズ表面全体に接触することが好ましいので、成形型に固着していない側のレンズ面(以下、開放面40という)が内面である場合には、治具の外形は凸面状が、開放面が外面である場合には、治具の外形が凹面状に形成されていることが好ましい。具体的には図3に示すような球面の外形を有する。曲率半径などは対応するレンズ面に合わせた方が好ましいが、柔軟な材料で形成されるので、押圧によってレンズ面に自然に沿う為、必ずしも球面である必要はない。楕円面や双曲線面は異なる曲率の眼用レンズに対応できる利点がある。
【0044】
また第三工程の治具は、場合により吸引孔が設けられる。例えば十字状に5個の孔が配置されているものもあるが、孔径、孔の形状・数、配置については先に説明した通り様々な状態に設計することが可能である(図4に示す)。さらにこの治具を支持する台座(図示しない)などを動力により回転させることで、成形型と治具に挟まれた眼用レンズの剥離を容易にできる。
【0045】
一方、第二工程において用いられる治具については、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に接触する面を有するか、非接触部を含んだ環状に接触する面を有することが望ましい。具体的には図5に示すように環状面11で接触するよりも環状に配置された凸部12により接触させた方が良い。面で押圧するよりも力の作用点が集中するので剥離部を形成しやすいからである。特に第二工程では固着状態の眼用レンズと成形型とを剥離するキッカケ(剥離部)を形成するため、前記第四工程の治具の材質より硬い材料、例えば、テフロン(登録商標)、ナイロン、低密度ポリエチレン、アクリル樹脂などが好適である。中でも、眼用レンズに対して傷などを発生させないようにするため、塵やほこりを付着させないようにテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。
【0046】
次に本発明の剥離方法を実現する装置について説明する。本発明の剥離装置は、成形型を用いた重合方法によって得られる眼用レンズの片面が成形型に固着された状態で搬送されたものを、眼用レンズに悪影響を与えることなくかつ確実に剥離するための装置に関する。具体的な構成としては、前記の成形型に固着した眼用レンズを装置に搬送するための第1の手段と、眼用レンズの開放面に水性媒体を接触させる第2の手段と、所定時間接触させた後に成形型を保持しつつ、眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、その一部に剥離部を形成させる第3の手段と、成形型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段と、を含むことを特徴とする。
【0047】
第1の手段により搬送される際には、眼用レンズの開放面40に保持手段が接触しないように成形型の部分のみを保持することが望ましい。レンズ表面に傷が付いて光学的性能に影響しないようにする為である。重合後の眼用レンズが柔軟性を有する場合(例えば重合溶媒を含んでいる、或いはブチルアクリレートやシリコン系モノマーなどを使用しているような場合)には、弾性力によって傷が付き難いと考えられるが、敢えて眼用レンズの開放面に保持手段をもっていく必要はない。保持方法としては成形型を吸引する、フィンガー様の機構で挟むなど従来の方法が採用される。なお、搬送方法として例えば、ベルトコンベア、二本以上のレールの間または上を順次送り出す方式(成形型側面を押して順送りする)等によって搬送するのであれば、前記保持手段は必要ではない。
【0048】
図6には、第1の手段の一例を示す。雄型3の裏面のフランジ部4を吸引にて搬送治具に固定して輸送する。治具の入り口は面取り又はテーパー部5が設けられ、フランジ部が入り易くされている。
【0049】
第2の手段は、本発明の剥離方法の第一工程を実施するものに相当し、眼用レンズの開放面に水性媒体を接触させるものである。接触方法としては、成形型を保持したまま開放面を下向きにして水槽に浸漬する、ベルトコンベア上を移動する眼用レンズの開放面に霧吹きなどによって水滴を吹き付ける、成形型が保持され或いはレール上を搬送される間に水蒸気室のような空間を通過するように構成する、最も単純には眼用レンズが固着された成形型を水槽に投入するなど種々の態様がある。これらのうちの一例を図7に示す。
【0050】
図7で示す第2の手段では、眼用レンズの開放面40が水中2に浸漬されている。このときの水は加温や冷却を必要としない室温と同程度が経済的である。加温すればスピードは早まるが膨潤率は小さくなる傾向にあるため、素材や眼用レンズの厚み及びライン化効率を考慮して最適な温度を選択する。
【0051】
第3の手段は、本発明の剥離方法の第二工程を実施するものに相当し、眼用レンズ周辺エッジの一部に対して押圧力を作用させるものである。具体的には図8で示すような治具10に対して眼用レンズの開放面40を押しつけることとなる。治具の形状・材質などに関する説明は前記の通りである。第3の手段では、開放面を押圧するという従来技術では考えられなかった操作が行われる。成形型からの剥離に際しての原則からは、視力矯正のために光学的機能を重視する眼用レンズに直接接触して物理力を加えるなどは論外だからである。本発明の装置においては、当業者であれば却って想到しえないような処理が実行される。この手段の重要な点は、眼用レンズに直接接触するので傷などを発生させないような材料で構成されること、押圧部の面取り14(角を落とすこと)が施されていること、眼用レンズの周辺から当該部分に剥離部を形成すること、そのためには、面で押圧するよりも面取りされた点、線で押圧することが望ましいということである。
【0052】
図8で示す第3の手段は、開放面を下方に向けて成形型3を保持しつつ、眼用レンズの周辺エッジの一部に接触するように形成された凸部15を有する治具10に対して押しつけるものである。より具体的には、成形型に固着された眼用レンズのサイズが9.2mm(含水によりサイズが膨潤し製品としては14.2mmとなる)のとき、8.6φmmの円周に長さ2mmの6個の凸部が約2.5mm間隔で形成された治具に対して押しつける様子を示したものである。このとき眼用レンズのエッジから約0.3mm内側の箇所が押圧されることとなる。効率のよい押圧位置は眼用レンズの吸着度合いや剥がれ易さ等によって異なるが、エッジから0〜2mm内側、好ましくは0.1〜1.5mm内側に接触するようになっている。
【0053】
図8で示す第3の手段は、第2の手段から成形型を吸引保持して受け取り、治具10の上方まで移動してこの位置(静止位置)に寸刻留まる。次に治具に向けて下降を開始し約0.1〜2秒で押圧位置に達する。押圧力5〜50Kg重で0.1〜5秒間の加圧後、静止位置まで上昇し、第4の手段に移行する。
【0054】
第4の手段は、第3の手段で生じた剥離部を眼用レンズと成形型の間全体に行き渡らせて、眼用レンズを剥離するためのもので、本発明の剥離方法の第三工程を実施するものに相当する。図9、図10で示すような治具(25、26)に対して、眼用レンズの開放面を押しつけることとなる。この治具については前記の通りであるので説明は省略する。
【0055】
図11で示す第4の手段は、第3の手段を通過後、成形型3を保持しつつ移行してきた保持手段とともに、図9に示す治具25の上方位置にて寸刻留まる。次に当該治具に向けて下降を開始し約0.1〜5秒で治具の押圧位置に達する。押圧力5〜50Kg重で0.1〜5秒間の加圧後、再び治具上方位置まで上昇し、このとき成形型に眼用レンズが付帯(この付帯とは、眼用レンズと成形型が本発明で定義された固着状態を脱した状態であり、眼用レンズと成形型との間の水層あるいは静電気的な作用で付着しているにすぎないものを言う)している場合には、そのまま水和などの次工程に搬送するか、他の保持手段に眼用レンズのみを受け渡す。成形型のみを保持している場合にはこれを廃棄処理等の別工程に流す。剥離された眼用レンズは同保持手段もしくは他のピックアップ手段によって次の工程へと搬送される。
【0056】
図9、図10で示す治具には吸引用の微細孔(27、28)が設けられているため、第4の手段で剥離した眼用レンズを吸引することで常に治具表面に保持することができる。これによって、剥離後に成形型に付帯して運び去られることなく、眼用レンズの位置を特定しうるので、次の工程への搬送システムを構築し易い。
【0057】
第4の手段では、眼用レンズを挟んで押圧しつつ、成形型を保持する保持手段および治具の少なくともいずれか一方を回転させることができる。回転中心軸、回転させる程度などは前記に示す通りである。また、回転速度は保持手段と治具とで同じであっても相違していてもよく、1〜100rpmの範囲、好ましくは2〜50rpmの範囲である。この回転は、眼用レンズが強固に固着していても、剥離部を全体に拡大することに効果的であり、確実に剥離することができるが、型と治具の間の眼用レンズを摩擦力などにより破損することがないように注意が必要である。
【0058】
本発明の装置によれば、眼用レンズの開放面に直接力を作用させるとはいえ、第2の手段によってある程度含水させた(柔軟にした)上で行われ、また成形型に固着された状態であるために直接的な負荷が少ないことが特徴である。柔軟かつ厚みが薄いものは、硬い或いは厚いものに比べて、挟まれた状態において加圧だけで破損させようとしても相当の圧力が必要である。含水性の眼用レンズを加圧しても、それのみでは破損までに至らないという点に着目して本発明が達成されたのである。また、剥離工程の全体を通して、眼用レンズが固着された成形型を保持対象にすれば良いので、機械化が容易で、自動化されたラインに組込やすい。
【0059】
本発明の装置には、第3の手段と第4の手段との間に、眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を追加することができる。剥離方法で述べた第四工程を実施するための手段であるが、この手段によって眼用レンズと成形型が強固に固着していても確実に剥離することができるからである。
【0060】
第5の手段の動作も、第3、第4の手段の動作と基本的に同じである。このように幾つかの手段を経ることによって確実な剥離を可能にする反面、成形型を各手段ごとに受け渡すようにする場合には、装置全体の構成が複雑になるので、一連の保持手段については同一の保持手段8を使用した方が良い。
【0061】
本発明の剥離方法、それに用いる治具並びに剥離装置については前記の通りであるが、以下に幾つかの実施例を挙げて、本発明の効果について述べる。
【実施例1】
【0062】
図12に示したナイロン製の雄型3と雌型7よりなる眼用レンズ成形型内に、メチルメタクリレートを主成分としエチレングリコールジメタクリレート等の多官能モノマーを含む成分から成るマクロモノマーを24部、メチルメタクリレート28部、ジメチルアクリルアミド57部、N−ビニルピロリドン19部、着色成分メタクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン0.007部、架橋剤エチレングリコールジメタクリレート0.3部、重合開始剤2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.04部からなる重合性モノマー組成物を充填し、90℃にて30分間重合した。
【0063】
型を開いて、雄型に固着した状態の眼用レンズを得た。この眼用レンズはサイズが9.2mm、硬質であり、手で触ると硬く、爪で強く押したがキズがつかなかった。次に図7(a)に示すように眼用レンズの開放面を水槽に浸して、室温で12分間放置した(第一工程)。これを取り出して、手で触ると軟らかく、爪で弱く押してもキズがつき容易に破れた。
【0064】
水槽に放置した眼用レンズを成形型の部分を保持して図5(c)に示すようなテフロン(登録商標)製の治具に対して20Kg重の圧力で1秒間押しつけて、剥離部を形成させた(第二工程)。
【0065】
さらに、内径約7mm、外径約13mmの円筒状のシリコーンゴム製の治具に対して20Kg重の圧力で2秒間押しつけて、剥離部を拡大させた(第四工程)。最後に図9で示すような、眼用レンズの開放面にほぼフィットするような形状の、曲率半径約6mm、サイズ約8.5mmのシリコーンゴム製治具に対して20Kg重の圧力で2秒間押しつけて、吸引して90°回転することによって眼用レンズを治具に固定した状態で剥離することができた(第三工程)。
【0066】
前記剥離処理を全10枚の眼用レンズに対して施したところ、全ての眼用レンズが確実に治具に固定された状態で剥離することができ、水和後のレンズ検査でも破れなどの破損がなく、光学的機能を保持した含水性の眼用レンズが得られた。
【実施例2】
【0067】
実施例1と操作方法は同様にした。但し、用いた型はPP製である。また重合性モノマー組成物は、特開2008−156334に開示されているシリコーン系モノマーの化合物1を50部、ジメチルアクリルアミド25部、N−ビニルピロリドン25部、架橋剤エチレングリコールジメタクリレート0.3部、重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが0.7部からなる。重合はブラックライトによる紫外線を1時間照射した。型を分割後、雄型を旋盤に固定し、眼用レンズ完成時に所望の度数と厚みになるよう、雄型に付着したレンズの露出面を切削し、室温の水に8分間浸漬し型から眼用レンズを剥離した。但し、剥離時に第四工程は行わなかった。また、第三工程の治具は、軟らかい素材のシリコーンラバー製で、球面部の曲率半径は約7mmで、大きさは約φ4mmを用いた。この操作を全10枚の眼用レンズに対して施したところ、全ての眼用レンズが確実に治具に固定された状態で剥離することができ、水和後のレンズ検査でも破れなどの破損がなく、光学的機能を保持した含水性の眼用レンズが得られた。
【0068】
<比較例1>
実施例2と同様な操作であって、第一工程を実施しなかった場合について全10枚の眼用レンズに対して施した。このとき眼用レンズについては全て剥離できなかった。
【0069】
<比較例2>
実施例2と同様な操作であって、第二工程を実施しなかった場合について全10枚の眼用レンズに対して施した。このとき眼用レンズについては全て剥離できなかった。
【0070】
上述のように、本発明によれば、確実に眼用レンズを剥離することが可能であり、いずれのレンズに対しても光学的機能を損なうことなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の剥離方法によれば、眼用レンズと成形型が強固に固着しているような場合であっても、眼用レンズ素材の物性に悪影響を与えることなく確実にレンズを剥離することができる。また本発明の装置は、自動化が容易に行えるので、眼用レンズの製造ラインに組み込むことで良品率の向上した量産システムの構築が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、40 眼用レンズ開放面
2 水性媒体
3 雄型
4 フランジ部
7 雌型
8 保持手段
10 第二工程の治具
20 第三工程の治具
30 第四工程の治具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する方法であって、
該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程、
前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、該エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程、
剥離部を有する前記眼用レンズ表面を押圧して、型から剥離する第三工程、
を含むことを特徴とする、眼用レンズを成形型から剥離する方法。
【請求項2】
前記第二工程と第三工程の間に、前記眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧させる第四工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第三工程において、眼用レンズ表面を吸引しつつ押圧することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第三工程において、眼用レンズ表面を押圧する際に、成形型と押圧側とを相対的に回転させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れかに記載の第二工程において、眼用レンズ周辺エッジを押圧する治具が、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に接触する面を有することを特徴とする治具。
【請求項6】
前記請求項1乃至4の何れかに記載の第二工程において、眼用レンズ周辺エッジを押圧する治具が、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で、非接触部を含んだ環状に接触する面を有することを特徴とする治具。
【請求項7】
雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する装置であって、
型に固着した眼用レンズを前記装置に搬送するための第1の手段と、
前記眼用レンズに水性媒体を接触させる第2の手段と、
所定時間接触させた後型を保持して、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、該エッジの一部に剥離部を形成させる第3の手段と、
前記剥離部が形成された眼用レンズを固着する型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段と、
を含むことを特徴とする眼用レンズを成形型から剥離する装置。
【請求項8】
前記第3の手段と第4の手段との間に、前記眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を含むことを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記第4の手段が、押圧しつつ、眼用レンズ表面の接触中心を中心軸として型を回転させる機能を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の装置。
【請求項1】
雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する方法であって、
該型に固着した状態で眼用レンズを水性媒体に所定時間接触させる第一工程、
前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧することにより、該エッジの一部に剥離部を形成させる第二工程、
剥離部を有する前記眼用レンズ表面を押圧して、型から剥離する第三工程、
を含むことを特徴とする、眼用レンズを成形型から剥離する方法。
【請求項2】
前記第二工程と第三工程の間に、前記眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧させる第四工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第三工程において、眼用レンズ表面を吸引しつつ押圧することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第三工程において、眼用レンズ表面を押圧する際に、成形型と押圧側とを相対的に回転させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れかに記載の第二工程において、眼用レンズ周辺エッジを押圧する治具が、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で環状に接触する面を有することを特徴とする治具。
【請求項6】
前記請求項1乃至4の何れかに記載の第二工程において、眼用レンズ周辺エッジを押圧する治具が、眼用レンズの周縁から中心に向かって0.1〜2mmの幅で、非接触部を含んだ環状に接触する面を有することを特徴とする治具。
【請求項7】
雄型と雌型よりなる眼用レンズ成形型内で重合性モノマー混合物を重合し、型を開いた後の工程において、いずれか一方の型に固着した含水性の眼用レンズを剥離する装置であって、
型に固着した眼用レンズを前記装置に搬送するための第1の手段と、
前記眼用レンズに水性媒体を接触させる第2の手段と、
所定時間接触させた後型を保持して、前記眼用レンズ周辺エッジの少なくとも一部を押圧し、該エッジの一部に剥離部を形成させる第3の手段と、
前記剥離部が形成された眼用レンズを固着する型を保持して、眼用レンズ表面の少なくとも一部を柔軟な部材で押圧する第4の手段と、
を含むことを特徴とする眼用レンズを成形型から剥離する装置。
【請求項8】
前記第3の手段と第4の手段との間に、前記眼用レンズの周縁から中心に向かって1〜4mmの幅で接触する環状の柔軟な材料を、眼用レンズ表面に押圧する第5の手段を含むことを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記第4の手段が、押圧しつつ、眼用レンズ表面の接触中心を中心軸として型を回転させる機能を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−98466(P2011−98466A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253517(P2009−253517)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000222473)株式会社メニコンネクト (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000222473)株式会社メニコンネクト (20)
【Fターム(参考)】
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