説明

眼鏡用レンズの製造方法、眼鏡用レンズの成膜装置および眼鏡用レンズ

【課題】縁摺り加工時の軸ずれを防止するとともに、玉型形状の眼鏡用レンズに真空蒸着法によって多層反射防止膜層と撥水膜層を形成するとき、蒸着物質が眼鏡用レンズの上方に回り込んでも蒸着すべき光学面以外の面に付着しないようにする。
【解決手段】ハードコート膜層が形成された円形の眼鏡用レンズを眼鏡枠形状と略一致する玉型形状に縁摺り加工する工程と、縁摺り加工された眼鏡用レンズ1Aの蒸着すべき光学面5aとは反対側の光学面5b全体を樹脂製フィルム64によって覆う工程と、眼鏡用レンズ1Aをレンズ保持手段60によって保持する工程と、レンズ保持手段60によって保持された眼鏡用レンズ1Aを真空蒸着装置内に装着する工程と、真空蒸着装置内に装着した反射防止材を加熱蒸発させ、眼鏡用レンズ1Aの光学面5aに蒸着する工程と、撥水材を加熱蒸発させ、反射防止膜層の上に撥水膜層を蒸着する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層反射防止膜層と撥水膜層を有する眼鏡用レンズの製造方法、眼鏡用レンズの成膜装置および眼鏡用レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の眼鏡用レンズは、光学面に保護膜層を形成することにより、レンズの光学特性、耐久性、耐擦傷性等を向上させるようにしている。保護膜層は、通常ハードコート膜層と反射防止膜層とで構成されているが、最近ではハードコート膜層の下に光学面の加工痕跡を解消し眼鏡用レンズの光学特性(主として明るさ)を改善するための被膜を形成したり、撥水性を高めるために反射防止膜層の上に撥水膜層を形成したものも普及している(例えば、特許文献1〜14参照)。
【0003】
眼鏡用レンズの光学特性を改善するための被膜は、屈折率を等しくするために通常眼鏡用レンズの材料と同一材料からなるモノマーによって形成される。
【0004】
ハードコート膜層は、眼鏡用レンズの硬度を高めるとともに耐擦傷性を向上させるために形成されるものであり、材料としては、例えば、シリコン系樹脂などの有機物質が用いられる。
【0005】
反射防止膜層は、反射防止効果と耐擦傷効果を高めるために形成されるもので、通常は5層、7層等の多層で構成されている。反射防止膜層の材料としては、例えば、Zr,Ti,Sn,Si,In,Al等の金属酸化物または珪素酸化物やMgF2 が用いられる。
【0006】
撥水膜層は、眼鏡用レンズの光学面の平滑度を高めて防汚性を高めるとともに、水やけを防止するために形成されるものであり、最近では滑り性のよい超撥水レンズが普及している。撥水材としては、例えばフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水原料が用いられる。
【0007】
撥水膜層を形成する方法としては、ディッピングによる方法と、真空蒸着法による方法とが知られている。ディッピングによる方法は、撥水処理液中に眼鏡用レンズを浸漬して撥水処理液を塗布した後、所定温度に加熱して硬化させることにより撥水膜層を形成する方法である。真空蒸着法による方法は、真空蒸着装置内に眼鏡用レンズを装着し、ヒータや電子ビームによって撥水材を加熱蒸発させて眼鏡用レンズの光学面に蒸着することにより撥水膜層を形成する方法である。
【0008】
真空蒸着法によって反射防止膜層と撥水膜層を形成する場合、従来は予めハードコート膜層が形成された円形の眼鏡用レンズを保持リングに嵌め込み、この保持リングを真空蒸着装置の蒸着室内に配置されるドーム状のレンズ保持板に装着し、反射防止材の加熱蒸発によって反射防止膜層を光学面に形成した後、引き続き撥水材の加熱蒸発によって反射防止膜層の上に撥水膜層を蒸着するようにしている。そして、このような反射防止膜層と撥水膜層が形成された眼鏡用レンズは、NC制御の切削加工機によって眼鏡枠形状と一致する玉型形状に縁摺り加工された後、眼鏡フレームに枠入れされる。
【0009】
ところで、眼鏡店が製造メーカーに眼鏡用レンズの加工を依頼し、製造メーカーが眼鏡用レンズを加工して眼鏡店に納品する形態は、大きく分けて2種類がある。第1に、製造メーカーは受注した眼鏡フレームの枠形状(以下、玉型形状ともいう)よりも十分な大きさを有する円形の眼鏡用レンズを納品する方法である。眼鏡店は、円形レンズを製造メーカーから受け取ると、顧客のフレーム枠形状に縁摺り加工し、眼鏡フレームにはめ込み眼鏡を完成させる。第2には、眼鏡店が予めフレーム枠形状の情報を製造メーカーに送信し、製造メーカーがそのフレーム枠形状に眼鏡用レンズを玉型形状に縁摺り加工した後、この玉型レンズを眼鏡店に納品する方法である。眼鏡店は、既に玉型形状に加工された眼鏡用レンズを眼鏡フレームにはめ込むだけで眼鏡が完成する。
【0010】
眼鏡の納品形態は、当初、前記第1の方法のみであったが、近年第2の方法が行われるようになってきた。第2の方法では、フレーム枠形状を製造メーカーに送信するための眼鏡枠形状測定装置および送信手段が必要となる。したがって、測定装置等が眼鏡店に普及するまで多くの眼鏡店は第1の方法を選択せざるを得ない。また、第2の方法は第1の方法に比べて製造メーカーの加工料金が発生するために眼鏡店にとってはコストが高くなる。このため、十分な加工技術のある眼鏡店は、第2の方法をあまり積極的に利用することがない。以上の理由から近年でも第1の円形レンズ(以下、アンカットレンズともいう)が納品形態の大勢ではあるが、今後の眼鏡枠形状測定装置の普及などにより第2の方法による縁摺り加工済みレンズの増加が見込まれるなど納品形態として第1および第2の方法の割合は予測不可能であるため、製造メーカーは柔軟な対応が求められる。
【0011】
【特許文献1】特開2002−182011号公報
【特許文献2】特表2003−525760号公報
【特許文献3】特開2005−274767号公報
【特許文献4】特開2006−65038号公報
【特許文献5】特開2003−329802号公報
【特許文献6】特開2004−122302号公報
【特許文献7】特開2004−122238号公報
【特許文献8】特開2005−141162号公報
【特許文献9】特開2003−202407号公報
【特許文献10】特開2006−070309号公報
【特許文献11】特開2005−274767号公報
【特許文献12】特開2005−3817号公報
【特許文献13】特開2003−202407号公報、
【特許文献14】欧州公開公報1351071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
撥水膜層、特に動摩擦係数が小さい超撥水膜層が形成された眼鏡用レンズは、光学面が非常に高い平滑性を有しているため、このようなレンズを眼鏡枠形状と一致する玉型形状に縁摺り加工する場合、撥水膜の組成によっては切削加工中にレンズ保持機構とレンズとの間に滑りが生じる。このため、眼鏡用レンズが軸ずれして眼鏡処方箋に対応する所望の光学機能を有する玉型形状に加工することができなくなるという問題があった。
【0013】
そこで、このような眼鏡用レンズの軸ずれを防止するために最近では、眼鏡用レンズとレンズ保持機構との間に両面粘着テープや被膜を形成して滑りを防止したり(例えば、特許文献6,7参照)、あるいはまた撥水膜の形成工程を縁摺り加工工程より以前に行うことが考えられている。
【0014】
しかしながら、特許文献6,7による粘着テープや被膜を形成して軸ずれを防止する方法は、レンズ表面とテープまたは被膜との間に空気が侵入すると、レンズ保持力が低下するため軸ずれを防止することができず、またレンズ度数が高いレンズは加工時の負荷抵抗が大きいため、レンズが軸ずれを起こし易いという問題があった。
【0015】
一方、撥水膜層を形成する前に縁摺り加工を行う方法によれば、滑りが生じず眼鏡用レンズの軸ずれの問題を解消することができる。しかしながら、撥水膜層を真空蒸着法によって形成する場合は、撥水膜層を形成した後に縁摺り加工する場合とは異なり、撥水膜層を形成する際に用いていた円形の保持リングをそのまま使用することができず、別のレンズ保持手段を用いる必要がある。すなわち、従来は円形の眼鏡用レンズの各光学面に撥水膜層を順次形成していたため、真空蒸着装置への眼鏡用レンズの装着に際しては、図9に示すように円形の眼鏡用レンズ1の外径と略等しい内径を有する保持リング2を眼鏡用レンズ1に嵌合して保持する。そして、この保持リング2をドーム状のレンズ取付板3に設けた取付孔4に上方から嵌合して眼鏡用レンズ1の下になっている光学面、例えば凹面5aを真空蒸着装置の蒸着室6に臨ませる。そして、撥水材7を加熱蒸発させて眼鏡用レンズ1の凹面5aに蒸着する。凹面5aに所定厚の撥水膜が蒸着されると、次に凸面5bに撥水膜を蒸着する。凸面5bに撥水膜を蒸着するときは、眼鏡用レンズ1を上下反転させて保持リング2に嵌合し、凸面5bを蒸着室6内に臨ませた後、上記と同様に撥水材7を加熱蒸発させて凸面5bに蒸着する。
【0016】
このように眼鏡用レンズ1を保持リング2を介してレンズ取付板3の取付孔4に装着すると、取付孔4を眼鏡用レンズ1と保持リング2とで完全に閉塞することができるため、加熱蒸発した微粒子状の撥水材7が取付孔4からレンズ取付板3の上方側に回り込んで凸面5bに付着することがなく、光学面5a,5bを片面ずつ良好かつ確実に蒸着することができる。
【0017】
これに対して、玉型形状に縁摺り加工された眼鏡用レンズに撥水膜層を真空蒸着法によって形成する場合は、レンズ自体の形状および大きさがそれぞれ異なっているため、前記保持リング2を用いて保持することができず、玉型レンズ専用の保持リングを用意する必要がある。しかしながら、玉型形状に合わせて保持リングを製作すると、その種類が著しく増加し、リングの選択、管理が煩わしく実際的ではない。
【0018】
このため、レンズ保持手段として保持リングの代わりに吸着手段を用いることが考えられる。しかしながら、吸着手段は真空蒸着装置内で使用する場合には、十分な吸着機能を発揮しないという問題がある。また、眼鏡用レンズの一方の光学面の一部のみを保持し全面を保持しない場合は、加熱蒸発した微粒子状の撥水材7が眼鏡用レンズの上方に回り込むと、凸面5bやコバ面5cも蒸着されてしまう。このため、凹面5aの蒸着が終了した後、引き続き凸面5bの蒸着を行うとき、前の蒸着工程で付着した撥水材7のために蒸着不良を起こすという問題があった。
【0019】
本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、縁摺り加工時の軸ずれを防止するとともに、玉型形状の眼鏡用レンズに真空蒸着法によって多層反射防止膜層と撥水膜層を形成するとき、蒸着物質が眼鏡用レンズの上方に回り込んでも蒸着すべき光学面以外の面に付着することがなく、多層反射防止膜層と撥水膜層を確実に蒸着することができるようにした眼鏡用レンズの製造方法、成膜装置、および眼鏡用レンズの製造方法によって製造された眼鏡用レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために第1の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、プラスチック基材からなる眼鏡用レンズの各光学面に真空蒸着法によって多層反射防止膜層と撥水膜層を順次積層形成する眼鏡用レンズの製造方法であって、円形の眼鏡用レンズを眼鏡枠形状と略一致する玉型形状に縁摺り加工する工程と、縁摺り加工された前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面全体を被覆体によって覆う工程と、前記眼鏡用レンズの前記被覆体によって覆われている光学面側をレンズ保持手段によって保持する工程と、前記レンズ保持手段によって保持された前記眼鏡用レンズを真空蒸着装置内に装着する工程と、前記真空蒸着装置内に装着した複数種の反射防止材を電子ビームの照射によって順次加熱蒸発させ、前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面に蒸着することにより多層反射防止膜層を形成する工程と、前記多層反射防止膜層の蒸着工程終了後、撥水材を加熱蒸発させ、前記多層反射防止膜層の上に蒸着することにより撥水膜層を形成する工程とを備えたものである。
【0021】
また、第2の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記レンズ保持手段がこのレンズ保持手段の軸線を前記眼鏡用レンズのフレームセンターと一致させた状態で前記眼鏡用レンズを保持するものである。
【0022】
また、第3の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面を覆う被覆体として、塩素化ポリプロピレンまたは塩素化ポリエチレンからなる樹脂製被膜を用いるものである。
【0023】
また、第4の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面を覆う被覆体として、樹脂製フィルムを用いたものである。
【0024】
また、第5の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記撥水膜の動摩擦係数が0.3以下である。
【0025】
また、第6の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記眼鏡用レンズはプラスチック基材と、このプラスチック基材上に真空蒸着法で形成された多層反射防止膜と、この多層反射防止膜上に形成された撥水層とを有し、前記多層反射防止膜の少なくとも一部または最外層が、二酸化ケイ素を含有する無機物質と、有機ケイ素化合物及び/又はケイ素非含有有機化合物とを蒸着原料として真空蒸着法で形成され、かつ酸素及び/又はアルゴンイオンが照射されてなるハイブリッド層を含むものである。
【0026】
また、第7の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記撥水層が、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水原料が電子銃による加熱処理で、前記最外層に蒸着されてなる層である。
【0027】
また、第8の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、多層反射膜層の形成工程の前工程としてハードコート膜層を形成する工程を備えているものである。
【0028】
また、第9の発明に係る眼鏡用レンズの製造方法は、上記製造方法において、前記レンズ保持手段は、真空蒸着装置のレンズ取付板に設けた取付孔に嵌合される保持板と、この保持板に取付けられ眼鏡用レンズを固定する固定部材とを備え、前記眼鏡用レンズが前記取付孔より大きいか否かを判定する工程を備えているものである。
【0029】
また、第10の発明に係る眼鏡用レンズの成膜装置は、内部が真空排気されることにより真空蒸着室を形成する筐体と、複数の円形の取付孔を有し、前記筐体の内部上方に配置されたドーム状のレンズ取付板と、縁摺り加工済みの眼鏡用レンズを固定する固定部材と、この固定部材が取付けられ前記レンズ取付板の取付孔に嵌合される保持板とからなるレンズ保持手段と、前記筐体の内部で前記レンズ取付板より下方に配置され、反射防止材を収納する反射防止材ケースと、前記反射防止材を加熱し蒸発させる加熱手段と、前記筐体の内部で前記レンズ取付板より下方に配置され、撥水材を収納する撥水材ケースと、前記撥水材を加熱し蒸発させる加熱手段とを備えているものである。
【0030】
さらに、第11の発明に係る眼鏡用レンズは、上記製造方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る眼鏡用レンズの製造方法においては、縁摺り加工された玉型形状の眼鏡用レンズに多層反射防止膜層と撥水膜層を形成するようにしているので、撥水膜層を形成した後に縁摺り加工する場合に比べてレンズ表面の滑り性が低く縁摺り加工時の軸ずれを防止することができる。
【0032】
また、眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面全体を被覆体によって覆っているので、蒸着物質が回り込んでも、蒸着すべき光学面とは反対側の面を蒸着するおそれがない。
【0033】
また、本発明に係る眼鏡用レンズの製造方法においては、レンズ保持手段によって眼鏡用レンズのフレームセンターを保持するので、水平に安定した状態で保持することができる。また、玉型形状の眼鏡用レンズを保持するため、円形のレンズを保持する場合に比べてレンズ保持手段を小型化することができ、真空蒸着装置に装着される眼鏡用レンズの数を増大させることができる。
【0034】
また、被覆体として用いられる塩素化ポリプロピレンまたは塩素化ポリエチレンからなる樹脂製被膜は、溶液状態の被膜剤を塗布することにより形成されるので、蒸着すべき光学面とは反対側の光学面だけに限らずコバ面にも塗布することができ、コバ面への蒸着物質の付着を防止することができる。なお、コバ面への反射防止膜の形成は好ましくないが、撥水層のみをコバ面に形成することは好適である。その場合、撥水膜形成工程の前にコバ面の被覆を除去すればよい。
【0035】
また、本発明は撥水膜の動摩擦係数が0.3以下であるとき適用可能であり、動摩擦係数が0.1以下の撥水膜に対して特に好適である。本発明では0.3以上の動摩擦係数を有する撥水膜を通常の撥水膜、0.3以下、特に0.1以下の動摩擦係数を有する撥水膜を超撥水膜ともいう。
【0036】
本発明においては、撥水膜の動摩擦係数を下記の方法により測定した。
撥水膜が形成された基材上にスチールボール(球状の鉄)からなる摩耗ヘッドを接触させる。摩耗ヘッドを接触させた状態で撥水面上を移動させる。移動距離は20mmとした。スチールボールの重さは22.4gとし、測定時の垂直荷重は62.4gとした。測定は3回ほど行い、その平均値を測定値とした。
【0037】
また、本発明においては、被覆体として樹脂製フィルムを用いているので、取り扱いが簡単で眼鏡用レンズの光学面に簡単に貼着することができる。樹脂製フィルムとしては、ポリエステル、ビニール等のフィルムが用いられる。
【0038】
また、本発明においては、縁摺り加工後の眼鏡用レンズに多層反射膜層と撥水膜層を成膜する成膜装置を提供することができる。
【0039】
さらに、本発明においては、光学面に撥水膜層が形成された眼鏡用レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1(a)〜(c)は本発明に係る眼鏡用レンズの製造方法によって製作された眼鏡用レンズの正面図、A−A線断面図およびB部の拡大断面図である。同図において、1Aは本発明による製造方法によって製造された眼鏡用レンズで、この眼鏡用レンズ1Aは眼鏡枠情報に基づいて円形の眼鏡用レンズを縁摺り加工することにより眼鏡枠形状と同形の玉型形状に形成されている。また、コバ面5cには、V字状の突状体からなるヤゲン10が全周にわたって突設されている。
【0041】
前記眼鏡用レンズ1Aは、注型重合法によって形成されたプラスチック製のレンズであって、その凹面5aと凸面5bがそれぞれ研磨加工されることにより所望の曲率からなる光学面を形成しており、さらにこれらの光学面5a,5bには反射防止性、耐擦傷性、撥水性等を向上させるために三層からなる保護膜層11がそれぞれ積層形成されている。
【0042】
前記眼鏡用レンズ1Aの光学基材としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチルグリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリカーボネート、ウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド、硫黄を含むビニル重合体等が挙げられ、中でもウレタン系光学基材とアリル系光学基材が好適であるが、これに限定されるものではない。また、本発明における光学基材としては、プラスチック光学基材であると好ましく、眼鏡用プラスチック光学基材であるとさらに好ましい。
【0043】
本実施の形態においては、光学基材としてジエチルグリコールビスアリルカーボネート(商品名「CR−39」)によって眼鏡用レンズ1Aを製造した例を示している。このような眼鏡用レンズ1Aの製造に際しては、先ずガスケットと一対のモールドとからなる成形用鋳型(例えば、特許文献8参照)のキャビティ内にモノマーを注入した後、電気炉に入れて一定時間加熱し重合することにより円形のレンズ素材を形成する。そして、このレンズ素材を創成加工して両面を所望の曲率の光学面とし、縁摺り加工して所望の玉型形状とした後、各光学面5a,5bに保護膜層11を形成することにより前記眼鏡用レンズ1Aが製造される。
【0044】
前記保護膜層11は、最下層のハードコート膜層21と、中間層の反射防止膜層22および最上層の撥水膜層23とで構成されている。
【0045】
最下層のハードコート膜層21は、眼鏡用レンズ1Aの硬度を高めるとともに耐擦傷性を向上させるために形成されるものであり、材料としては、例えば、シリコン系樹脂などの有機物質が用いられる。ハードコート膜層21は、溶剤からなるシリコン系樹脂を浸漬法またはスピンコート法によって塗布した後、加熱炉によって加熱硬化させることにより形成される。このようなハードコート膜層21の形成方法は、従来公知である。
【0046】
中間層の反射防止膜層22は、反射防止効果と耐擦傷効果を高めるために形成されるものである。また、この反射防止膜層22は、異なった複数の材質によって形成されることにより、多層の反射防止膜層を形成している。反射防止用材料としては、例えば、Zr,Ti,Sn,Si,In,Al等の金属酸化物または珪素酸化物やMgF2 が用いられる。このような多層反射防止膜層22は、例えば上記した特許文献3に記載の真空蒸着法によって形成される。
【0047】
また、多層反射防止膜層22としては、良好な膜強度および密着性を得るためイオンアシスト法で形成されることが好ましい。該反射防止膜のハイブリッド層以外の膜構成層は、良好な反射防止効果、耐擦傷性等の物性を得るため、高屈折率層として酸化タンタル(Ta25)層とする。該酸化タンタル層は各層中にそれぞれ酸化タンタルを少なくとも50重量%含有し、さらに、80重量%以上含有することが好ましい。
【0048】
イオンアシスト法において、出力に関し好ましい範囲は、特に、良好な反応を得る観点から、加速電圧50〜700V、 加速電流30〜250mAである。前記イオンアシスト法を実施する際に使用されるイオン化ガスは、成膜中の反応性、酸化防止の点からアルゴン(Ar)、またはアルゴンと酸素の混合ガスを用いるのが好ましい。
【0049】
本発明における、ハイブリッド層に使用される無機物質としては、二酸化ケイ素を含有することが必要であり、その他、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化イットリウムおよび酸化ニオブから選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。複数の無機物質を用いる場合は、それらを物理的に混合してもよいし、また複合酸化物であってもよく、具体的にはSiO2−Al23 等がある。これらのうち二酸化ケイ素(SiO2)単独、二酸化ケイ素(SiO2 )および酸化アルミニウム(Al23)から選ばれる少なくとも1種類の無機酸化物が好ましい。
【0050】
本発明における、ハイブリッド層に使用される有機物質としては、膜厚の制御、蒸着速度の制御の観点から、常温、常圧下で、液体状態にある有機ケイ素化合物及び/又は常温、常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物が用いられる。
【0051】
前記有機ケイ素化合物としては、例えば、以下の一般式(a)〜(d)で表されるいずれかの構造を有することが好ましい。
【0052】
一般式(a):シラン・シロキサン化合物
【化1】

【0053】
一般式(b):シラザン化合物
【化2】

【0054】
一般式(c):シクロシロキサン化合物
【化3】

【0055】
一般式(d):シクロシラザン化合物
【化4】

【0056】
前記一般式(a)〜(d)において、式中のm、nは、それぞれ独立に0以上の整数を表す。また、X1〜X8はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6の炭化水素基(飽和・不飽和双方を含む)、−OR1基、−CH2OR2基、−COOR3基、−OCOR4基、−SR5基、−CH2SR6 基、−NR72基、または、−CH2NR82基(R1〜R8は水素または炭素数1〜6の炭化水素基(飽和・不飽和双方を含む))を表し、X1〜X8は上記の任意の官能基であればよく、すべて同じ官能基でもよいし、すべて異なるものでもよく限定されない。
【0057】
前記R1〜R8で示される炭素数1〜6の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、フェニル基、シクロヘキシル基、プロピニル基、イソプロペニル基等が挙げられる。
【0058】
一般式(a)で表せる具体的な化合物としては、トリメチルシラノール、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、ジメチルエトキシシラン、ヒドロキシメチルトリメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メルカプトメチルトリメチルシラン、アミノメチルトリメチルシラン、ジメチルジメチルアミノシラン、エチニルトリメチルシラン、ジアセトキシメチルシラン、アリルジメチルシラン、トリメチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、アセトキシトリメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、ジエチルメチルシラン、エチルトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、フェニルシラン、ジメチルジビニルシラン、2-プロピニロキシトリメチルシラン、ジメチルエトキシエチニルシラン、ジアセトキシジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、アリロキシトリメチルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、イソプロペノキシトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、トリメチルプロピルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリエチルシラン、ジエチルジメチルシラン、ブチルジメチルシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、トリエチルシラノール、ジエトキシジメチルシラン、プロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノジメチルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、トリ(ジメチルアミノ)シラン、メチルフェニルシラン、メチルトリビニルシラン、ジアセトキシメチルビニルシラン、メチルトリアセトキシシラン、アリロキシジメチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ブチルジメチルヒドロキシメチルシラン、1-メチルプロポキシトリメチルシラン、イソブトキシトリメチルシラン、ブトキシトリメチルシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソプロピルアミノメチルトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、メチルトリ(ジメチルアミノ)シラン、ジメチルフェニルシラン、テトラビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、テトラアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、1,1-ジメチルプロピニロキシトリメチルシラン、ジエトキシジビニルシラン、ブチルジメチルビニルシラン、ジメチルイソブトキシビニルシラン、アセトキシトリエチルシラン、トリエトキシビニルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジプロピルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジメチルジプロポキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルフェニルビニルシラン、フェニルトリメチルシラン、ジメチルヒドロキシメチルフェニルシラン、フェノキシトリメチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、フェニルトリメトキシシラン、アニリノトリメチルシラン、1-シクロヘキセニロキシトリメチルシラン、シクロヘキシロキシトリメチルシラン、ジメチルイソペンチロキシビニルシラン、アリルトリエトキシシラン、トリプロピルシラン、ブチルジメチル−3−ヒドロキシプロピルシラン、ヘキシロキシトリメチルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ジメチルフェニルビニルシラン、トリメチルシリルベンゾネート、ジメチルエトキシフェニルシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、ジブトキシジメチルシラン、メチルトリプロポキシシラン、ビス(ブチルアミノ)ジメチルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジアセトキシメチルフェニルシラン、ジエチルメチルフェニルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、2−エチルヘキシロキシトリメチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ジフェニルシラン、ジフェニルシランジオールフェニルトリビニルシラン、トリエチルフェニルシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラアリロキシシラン、フェニルトリ(ジメチルアミノ)シラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、ジフェニルメチルシラン、ジアリルメチルフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジアニリノジメチルシラン、ジフェニルエトキシメチルシラン、トリペンチロキシシラン、ジフェニルジビニルシラン、ジアセトキシジフェニルシラン、ジエチルジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルシラン、テトラブチルシラン、テトラブトキシシラン、トリフェニルシラン、ジアリルジフェニルシラン、トリヘキシルシラン、トリフェノキシビニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジメトキシテトラメチルジシロキサン、1,3−ジエチニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジエトキシテトラメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、1,3−ジブチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどの化合物が挙げられる。
【0059】
一般式(b)で表される具体的な化合物としては、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンなどの化合物が挙げられる。
【0060】
一般式(c)で表される具体的な化合物としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの化合物が挙げられる。
【0061】
一般式(d)で表される具体的な化合物としては、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルシクロテトラシラザンなどの化合物が挙げられる。
【0062】
これらの有機ケイ素化合物の数平均分子量は、ハイブリッド膜中の有機成分の制御、膜自体の強度の点から、好ましくは、48〜600、特に好ましくは、140〜500である。
【0063】
さらに、前記ハイブリッド層を構成するケイ素非含有有機化合物は、その側鎖または末端に反応性基を含有する炭素および水素を必須成分とするものが好ましく、より具体的には一般式(e)〜(g)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0064】
一般式(e):片末端にエポキシ基を有する炭素および水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
【化5】

【0065】
一般式(f):両末端にエポキシ基を有する炭素および水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
【化6】

【0066】
一般式(g):二重結合を含む、炭素および水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物
CX910=CX1112 ・・・(g)
【0067】
一般式(e)、(f)において、R9は水素、または酸素を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、R10は、酸素を含んでいてもよい炭素数1〜7の二価の炭化水素基を表す。一般式(g)において、X9〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜10の炭化水素基、または炭素数1〜10の炭素、水素を必須成分とし、さらに酸素および窒素の少なくとも一方を必須成分とする有機基を表す。
【0068】
一般式(e)の化合物の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デジルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、グリシドール、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
一般式(f)の化合物の具体例としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0070】
一般式(g)の具体例としてはエチレン、プロピレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレンなどがあげられる。
【0071】
また、前記一般式(e)〜(g)で表される化合物の数平均分子量は、ハイブリッド膜中の有機成分の制御およびハイブリッドの膜強度を考慮して、好ましくは、28〜4000、特に好ましくは、140〜360である。
【0072】
本発明における常温、常圧下で液体である有機ケイ素化合物及び/又は常温、常圧下で液体であるケイ素非含有有機化合物(以下「有機物質」ということがある)の成膜方法としては、ハイブリッド層を形成する際には、無機物質、有機物質それぞれを別の蒸着源にて同時に蒸着して成膜するのが好ましい。具体的には、無機物質を電子銃等を用いて加熱することにより気化させ、有機物質を外部タンクに貯蔵し、該タンク内で該有機物質を気化させ、無機物質と有機物質を同時に蒸着させる方法が好ましい。
【0073】
なお、蒸着速度の制御の観点から、有機物質を貯蔵する外部タンクを加熱・減圧して該有機物質をチャンバー内に供給し、酸素ガス及び/またはアルゴンガスを用いイオンアシスト成膜するのが好ましい。さらに、本発明では有機物質が常温・常圧で液体であり、溶媒を使用する必要がなく、直接加熱して蒸着することができる。また、有機物質の導入口は、無機物質蒸発源真上に設けるのが対衝撃性、対摩耗性向上に効果的であり、有機ケイ素化合物を下部より、その側鎖または末端に反応性基を含有する炭素及び水素を必須成分とするケイ素非含有有機化合物を上部より供給するのが好ましい。
【0074】
外部タンクの加熱温度は、その有機物質の蒸発温度により異なるが、30〜200℃、好ましくは50〜150℃とすることが適当な蒸着速度を得るという点から好ましい。
【0075】
本発明におけるハイブリッド層の有機物質の好ましい膜内含有率は、特に良好な物性改質効果が得られる点を考慮して、0.020〜25重量%である。
【0076】
本発明における好ましい膜厚および屈折率の範囲は以下の通りである。なお、ここでλは光の波長を示す。
第1層 0.005λ〜1.25λ 1.41〜1.50
第2層 0.005λ〜0.10λ 2.00〜2.35
第3層 0.005λ〜1.25λ 1.41〜1.50
第4層 0.05λ〜0.45λ 2.00〜2.35
第5層 0.005λ〜0.15λ 1.41〜1.50
第6層 0.05λ〜0.45λ 2.00〜2.35
第7層 0.2λ〜0.29λ 1.41〜1.50
かかる膜構成にすることにより、目的とする物性が容易に得られる。
【0077】
最上層の撥水膜層23は、レンズ表面の平滑度を高めて防汚性能を高めるとともに、水やけを防止するために形成されるものである。このような撥水膜層23は、前記多層反射防止膜層22の第7層上に、例えばフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を原料として用い真空蒸着法により形成される。
【0078】
その原料および形成方法は、前記特許文献3、4、12、13、14等に記載されている方法を用いることが好ましい。その方法としては、溶媒で希釈したフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を減圧下、該有機ケイ素化合物の蒸着開始温度以上から該有機ケイ素化合物の分解温度を超えない範囲で、加熱開始から蒸着を90秒以内、好ましくは10秒以内に完結させることが好ましい。かかる蒸着時間を達成する方法としては、前記有機ケイ素化合物に電子ビームを照射する方法が好ましく用いられる。
【0079】
フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(h)で表されるもの、または下記単位式(i)で表されるものが好ましい。
【化7】

式中、RFは炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基、Xは水素または炭素数1〜5の低級アルキル基、R11は加水分解可能な基、kは1〜50の整数、rは0〜2の整数、pは1〜10の整数である。
CqF2q+1CH2CH2Si(NH23 ・・・(i)
ただし、qは1以上の整数である。
【0080】
ここで、上記R11で示される加水分解可能な基としてはアミノ基、アルコキシ基、特にアルキル部が炭素数1〜2であるアルコキシ基、塩素原子等が挙げられる。
【0081】
また、上記式(i)で表される化合物の具体例としては、n−CF3CH2CH2SiSi(NH23;n−トリフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)プロピルシラザン、n−C37CH2CH2Si(NH23;n−ヘプタフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ペンチルシラザン、n−C49CH2CH2Si(NH23;n−ノナフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ヘキシルシラザン、n−C613CH2CH2Si2(NH23;n−トリデオフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)オクチルシラザン、n−C817CH2CH2Si(NH23;n−ヘプタデカフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)デシルシラザン等を例示することができる
【0082】
また、撥水層の原料として、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物と、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルとの2成分を主成分とする原料を用いることもでき、さらにはこれらの原料からなる第1層を形成し、該第1層上に接して、ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルを主成分とする原料を用いて第2層を形成することにより、撥水層を形成することも好適である。
【0083】
ケイ素非含有のパーフルオロポリエーテルは、ケイ素を含有しない以下の構造式(j)
−(R12O)− ・・・(j)
(式中、R12は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基である)
で表される単位からなるものが好ましく用いられ、平均分子量が1000〜10000、特に2000〜10000のものが好ましい。Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基であり、具体的にはCF2、CF2−CF2、CF2CF2CF2、CF(CF2)CF2等の基が挙げられる。これらのパーフルオロポリエーテルは常温で液状であり、いわゆるフッ素オイルと称されるものである。
【0084】
また、本発明の光学部材は、反射防止膜の下に、密着性を向上させるために、下地層として、後述するハイブリッド層形成の際に触媒作用のある金属、例えば、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)およびチタニウム(Ti)から選ばれる少なくとも1種類からなる層を施すことができる。特に好ましい下地層は、より良好な耐衝撃性を付与させるために、ニオブからなる金属層である。金属層を下地層として用いた場合、下地層の上に設けられるハイブリッド層の反応が進みやすくなり、分子内編み目構造を有する物質が得られ、耐衝撃性が向上する。
【0085】
本発明で使用するプラスチック基材の材質は、特に限定されず、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピチオ基を有する化合物を原料とする重合体などが挙げられる。
【0086】
エピチオ基を有する化合物の例としては、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−3−(β−エピチオプロピルチオメチル)ブタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)ペンタン、1,6−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕エタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−[〔2−(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオエチル〕チオ]エタン等の鎖状有機化合物等が挙げられる。また、テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,5ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,9−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)−5−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,7−ジチアノナン、1,10−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,6−ビス〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕−3,6,9−トリチアデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の分岐状有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられる。さらには1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕スルフィド、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン等の環状脂肪族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物、および1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフォン、4,4’−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられる。
【0087】
本発明の光学部材は、前記プラスチック基材と前記下地層との間に、硬化層を有してもよい。硬化層の形成には、通常、金属酸化物コロイド粒子と下記一般式(k)
(R13)a (R14)bSi(OR154-(a+b) ・・・(k)
で表される有機ケイ素化合物とからなる組成物が使用される。
上式中、R13およびR14は、それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数1〜8のアシル基、ハロゲン基、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、フェニル基、メルカプト基、メタクリロキシ基およびシアノ基の中から選ばれる有機基を示し、R13は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアシル基および炭素数6〜8のフェニル基の中から選ばれる有機基を示し、aおよびbは、それぞれ独立に0または1の整数である。
【0088】
前記金属酸化物コロイド粒子としては、例えば、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)または酸化アンチモン(Sb25)等が挙げられ、単独または2種以上を併用することができる。
【0089】
前記硬化層を作るコーティング液には、従来知られている方法で、液の調製を行うことができる。所望により、硬化触媒、塗布時における濡れ性を向上させ、硬化層の平滑性を向上させる目的で各種の有機溶剤や界面活性剤を含有させることもできる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤老化防止剤等もコーティング組成物および硬化被膜の物性に影響を与えない限り添加することができる。
【0090】
コーティング組成物の硬化は、熱風乾燥または活性エネルギー線照射によって行い、硬化条件としては、70〜200℃の熱風中にて行うのがよく、特に好ましくは90〜150℃である。なお活性エネルギー線としては遠赤外線等があり、熱による損傷を低く抑えることができる。
【0091】
また、コーティング組成物よりなる硬化層を基材上に形成する方法としては、上述したコーティング組成物を基材に塗布する方法が挙げられる。塗布手段としてはディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法が適用できるが、面精度の面からディッピング法、スピンコーティング法が特に好ましい。
【0092】
また、プラスチック基材と下地層との密着性確保または蒸着物質の初期膜形成状態の均一化を図るために、硬化層表面にイオン化ガス処理してもよい。イオン銃前処理におけるイオン化ガスは、酸素、アルゴン(Ar)などを用いることができ、出力で好ましい範囲は、特に良好な密着性、耐摩耗性を得る観点から加速電圧50〜700V 、加速電流50〜250mAである。
【0093】
なお、本発明においては、特開昭63−141001号公報などに記載されている、プラスチック基材と反射防止膜との間に有機化合物よりなるプライマー層を施すことを否定するものでなく、更なる耐衝撃性向上のため、プラスチック基材と多層反射防止膜層22との間、またはプラスチック基材と硬化層との間に、有機化合物を原料とするプライマー層を施してもよい。
【0094】
このプライマー層の例としては、ポリイソシアネートとポリオールを原料として、ウレタン系の膜を形成するものが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−シクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートのそれぞれ数分子を種々の方法で結合させた付加物、イソシアヌレート、アロファネート、ビュウレット、カルボジイミドをアセト酢酸、マロン酸、メチルエチルケトオキシムなどでブロックしたものなどが挙げられ、一方、ポリオールとしては、水酸基を1分子内に複数個有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどが挙げられる。また、プライマー膜の屈折率向上のため、酸化チタン微粒子などの酸化金属微粒子をプライマー層に含有することができる。
【0095】
特に、屈折率が1.68〜1.76程度のエピチオ基を有する化合物を原料とするプラスチック基材にプライマー層を施し、さらに本発明の多層反射防止膜層22を施すことにより、基材の中心厚を小さくしても耐衝撃性、密着性、耐擦傷性に優れた光学部材を得ることができる。
【0096】
次に、このような眼鏡用レンズ1Aの製造方法を図2〜図6に基づいて説明する。
図2は眼鏡用レンズの製造工程を説明するためのフローチャート、図3は眼鏡用レンズの製造に用いられる真空蒸着装置の概略構成を示す断面図、図4はレンズ保持手段が装着されたレンズ取付板の平面図、図5(a)、(b)はレンズ保持手段によって玉型形状の眼鏡用レンズを保持した状態を示す平面図および正面図、図6は図4のC−C線断面図、である。
【0097】
[眼鏡枠情報取得]
図1に示した玉型形状の眼鏡用レンズ1Aの製造に際しては、先ずこのレンズの製造を眼鏡店が工場に依頼する。眼鏡店は、レンズの製造、納品を工場に依頼する際、レンズの材質、処方値、レンズの加工指定値、眼鏡枠の情報、アイポイント位置を指定するレイアウト情報、ヤゲンモード、ヤゲン位置、ヤゲン形状等のレンズ製造に必要な各種情報を工場に送る。これによって工場側は、眼鏡用レンズ1Aの眼鏡枠情報を取得することができる(ステップS100)。眼鏡枠情報は、3次元レンズ枠形状データ、近似曲面定義データ、フレームPD(またはDBL)、あおり角、周長などである。
【0098】
工場では眼鏡店からの眼鏡用レンズ1Aの製造に必要な各種情報を取得すると、作業指図書を作成し、在庫として保管してある中間品のレンズから注文のレンズに適合するものを選択する。中間品のレンズとしては、凸面と凹面が未研磨の円形レンズ(以下、ブランクスという)と、凸面のみが所望の光学面に研磨され凹面が未研磨の円形レンズ(以下、セミブランクスという)と、凸面と凹面が共に所望の光学面に研磨された円形レンズ(以下、アンカットレンズという)の3種類がある。
【0099】
[判定工程]
また、眼鏡店からの眼鏡用レンズ1Aの製造に必要な各種情報を取得すると、縁摺り加工後の眼鏡用レンズ1Aが、後述するレンズ保持手段60の保持板61の小径部61aより大きいか否かを判定する(ステップS101)。この判定は、蒸着に使用されるレンズ取付板3を選択決定するために行われるものである。
【0100】
[光学面創成工程]
ブランクスまたはセミブランクスを選択した場合は、光学面の創成工程(ステップS102)によって未研磨の光学面を所望の光学面に仕上げてアンカットレンズとする。光学面の創成工程は、3次元NC制御を行うカーブジェネレータによる切削加工工程と、研磨装置による研磨工程とからなり、これによって所望の球面または自由曲面からなる光学面が創成される。そして、光学面の創成工程が終了すると、次のステップS103に渡されて、各光学面5a,5bにハードコート膜層21がそれぞれ形成される。
【0101】
一方、アンカットレンズを選択した場合は、既に両面とも所望の光学面に仕上げられているのでステップS102の創成加工は不要である。このため、ステップS102を省略して次のステップS103に渡され、各光学面5a,5bにハードコート膜層21がそれぞれ形成される。
【0102】
[ハードコート膜層形成工程]
ステップS103のハードコート膜層形成工程によるハードコート膜層21は、上記した通り従来周知の浸漬法またはスピンコート法によって、例えば有機ケイ素系のハードコート材を光学面に塗布し、加熱炉によって加熱硬化させることにより形成される。
【0103】
[縁摺り、ヤゲン加工工程]
アンカットレンズの光学面5a,5bにハードコート膜層21が形成されると、このアンカットレンズを次のステップS104に渡し、前記眼鏡枠情報に基づいて縁摺り、ヤゲン加工を行い、アンカットレンズを眼鏡枠形状と略一致する輪郭形状(玉型形状)にするとともにコバ面5(c)にヤゲン10を形成する。
【0104】
[ヤゲン頂点周長測定検査]
縁摺り加工とヤゲン加工が終了すると、端末コンピュータおよびヤゲン頂点周長測定装置により、縁摺り加工およびヤゲン加工が完了した玉型形状の眼鏡用レンズ1Aのヤゲン頂点の周長および形状を測定する(ステップS105)。
【0105】
[ヤゲン加工仕上がり検査]
次に、前記ヤゲン周長測定装置によって測定された測定値と設計ヤゲン頂点周長を端末コンピュータによって比較し、それらの差が所定の値以内でならば合格品と判断する(ステップS106)。
【0106】
ヤゲン頂点周長測定検査とヤゲン加工仕上がり検査に合格した眼鏡用レンズ1Aについては、次のステップS107に渡す。
【0107】
[反射防止膜層形成工程]
ステップS107は、従来周知の真空蒸着法によって眼鏡用レンズ1Aの光学面に多層反射膜層22を形成する工程である。
【0108】
多層反射膜層22の形成に用いられる成膜装置としての真空蒸着装置を図3に示す。この真空蒸着装置40は、内部が不図示の真空ポンプによって排気されることにより真空蒸着室6を形成する筐体41を備えている。筐体41の内部上方には、反射防止膜の蒸着時にモータ42によって回転されるドーム状のレンズ取付板3が配設されている。このレンズ取付板3は、モータ42の出力軸43にカプリング44を介して着脱可能に取付けられている。また、筐体41の内部には、電子銃47、マグネット48、反射防止材ケース49、モータ50、撥水材55を収納する撥水材ケース53、ヒータ54等がそれぞれ所定の位置に配置されている。反射防止材ケース49は、異なった反射防止材51、例えばNb25、ZrO2 、SiO2 等を収納する複数個の収納凹部52を有し、モータ50によって間欠的に回転されるように構成されている。
【0109】
ここで、本発明で使用する真空蒸着装置40は、基本的には円形のアンカットレンズ1を成膜するための装置である。アンカットレンズ1の場合は、レンズ取付板3の取付孔4に保持リング2(図9)を嵌合した状態で蒸着することにより成膜が行われる。ところが、本発明では玉型形状のレンズ1Aに蒸着して成膜を行うために保持板61と固定部材としての接着盤62(後述する)が一体となったレンズ保持手段60によりレンズ1Aを保持し、このレンズ保持手段60をレンズ取付板3の取付孔4に固定して行なう。レンズ保持手段60によって保持された玉型レンズ1Aは、保持板61が上方、レンズ1Aが下方となるようレンズ取付板3の取付孔4に装着される。したがって、円形のアンカットレンズ1および玉型形状のレンズ1Aはレンズ保持手段60により同一の方法によりレンズ取付板3に固定される。このため、本発明においては、一度に円形のアンカットレンズ1と玉型形状のレンズ1Aを混在させて成膜することが可能である。加えて、眼鏡用レンズの製造注文に応じて、円形のアンカットレンズ1では大きさが80φmm用の取付孔4を有するレンズ取付板3を用いて蒸着しなければならない場合であっても、後述する判定工程により、例えば65φmmの取付孔4を有するレンズ取付板3を用いて成膜することが可能であると判断した場合は、レンズ取付板3に装着できるレンズの個数を増加させることが可能で、生産性を高めることができる。なお、真空蒸着装置40は、穴径がそれぞれ異なる取付孔4、例えば、80φ用、75φ用、70φ用、65φ用の取付孔4を有する4種類のレンズ取付板3を備えており、アンカットレンズ1の大きさに応じた取付孔4のレンズ取付板3が選択使用されるようになっている。なお、レンズ取付板3は全て同一の大きさで、穴径の小さい取付孔4を有するレンズ取付板ほど取付孔の数は多い。
【0110】
多層反射防止膜22の形成に際しては、図5に示すように玉型形状に形成された眼鏡用レンズ1Aの多層反射防止膜を形成しようとする一方の光学面、例えば光学面5aとは反対側の光学面5bをレンズ保持手段60によって保持する。レンズ保持手段60は、円板状の保持板61と、眼鏡用レンズ1Aを固定保持する前記接着盤62とで構成されている。保持板61は、眼鏡用レンズ1Aの玉型形状が内接する円板状またはこれより大きな円板状に形成されており、下面中央に前記接着盤62が固定されている。接着盤62は、眼鏡用レンズ1Aよりも十分に小さく形成されており、眼鏡用レンズ1Aをより確実に保持するために接着面には両面接着テープ63が貼着されている。
【0111】
レンズ保持手段60により眼鏡用レンズ1Aを接着保持するときは、予め眼鏡用レンズ1Aの光学面5bに被覆体としての樹脂製フィルム64を貼着するかまたは樹脂製被膜を形成しておく。樹脂製フィルム64としては、例えばポリエステル、ビニール等のフィルムが用いられ、蒸着物質の回り込みによる光学面5bへの付着を防止するために光学面5b全体を覆う大きさを有するものであることが望ましい。
【0112】
樹脂製被膜は、溶液からなる被膜形成剤の塗布によって形成されるものである。被膜形成剤としては、例えば溶液からなる塩素化ポリプロピレン、または塩素化ポリエチレンを用いることができる。塩素化ポリプロピレンからなる樹脂製被膜は、塩素化ポリプロピレンと溶媒とを含有する塩素化ポリプロピレン溶液を被膜形成剤として用い、これを光学面5bに塗布することにより形成することができる。塩素化ポリエチレンからなる樹脂製被膜は、同様に塩素化ポリエチレンと溶媒とを含有した塩素化ポリエチレン溶液を被膜形成剤として用い、これを塗布することにより形成することができる。
【0113】
前記被膜形成剤における塩素化ポリプロピレンおよび塩素化ポリエチレン(溶質)の濃度は、それぞれについて被膜形成剤全量を基準として、通常5〜40質量%、好ましくは15〜25質量%である。また、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンの重量平均分子量は、通常4〜10万、好ましくは6〜8万である。また、被膜形成剤の固形分濃度は、通常5〜40質量%、好ましくは15〜25質量%である。なお、塩素化ポリプロピレンとは、ポリプロピレンに塩素を添加させたもの、塩素化ポリエチレンとはポリエチレンに塩素を添加させたものである。
【0114】
このような溶液からなる被膜形成剤を用いた場合は、図7に示すように眼鏡用レンズ1Aの光学面5bのみならずコバ面5cにも被膜形成剤66を塗布することができるので、樹脂製フィルム64を用いた場合に比べて蒸着物質の回り込みによるコバ面5cへの付着をより一層確実に防止することができる利点がある。
【0115】
眼鏡用レンズ1Aの光学面5bに被覆体としての樹脂製フィルム64を貼着し、接着盤62の吸着面に両面接着テープ63を貼着した後、レンズ保持手段60を眼鏡用レンズ1Aの上方に位置させて軸線を眼鏡用レンズ1AのフレームセンターQと一致させる。これは、眼鏡用レンズ1Aが保持板61の小径部61aの側方に飛び出さないようにするためである。
【0116】
眼鏡用レンズ1Aの玉型形状によってその外周が保持板61の小径部61aから飛び出すか飛び出さないかを判定する方法を概略説明すると、先ず玉型形状とフレームセンターQとの距離を算出する。この距離の算出は連続した全ての枠形状位置について行なうことが好ましいが、本発明においては1°間隔で360点で算出した。算出したフレームセンターQと玉型形状の距離のうち最大値となる値(F)と保持板61の小径部61aの外径の半分(D)とを比較する。F<Dであれば可と判定する。一方、F>Dであれば不可と判定し、DがFより大きな保持板61を有するレンズ保持手段60と交換する。そして、レンズ保持手段60を下降させて両面接着テープ63を樹脂製フィルム64に押し付けて接着する。これにより、眼鏡用レンズ1Aの中央部がレンズ保持手段60によって保持される。なお、この判定によってレンズの大きさによって挿通し得る最も小さい穴径の取付孔4を有するレンズ取付板3が選択決定される。
【0117】
レンズ取付板3が選択されると、次に、レンズ保持手段60によって保持された眼鏡用レンズ1Aを選択された前記レンズ取付板3に装着する(図3、図4)。装着に際しては、レンズ取付板3を筐体41の外部に取り出し、レンズ取付板3に設けられている取付孔4に眼鏡用レンズ1Aを上方から挿通して保持板61を前記取付孔4に嵌合する。
【0118】
前記保持板61は、厚さ方向中間部を境として外径が異なる円板状に形成されることにより、下面側の小径部61aと上面側の大径部61bとからなり、小径部61aが前記取付孔4に嵌合し、大径部61bがレンズ取付板3の上面に当接することにより、取付孔4からの落下が防止されている。なお、レンズ取付板3は、直径が例えば950mmのドーム状に形成されており、多数の取付孔4が半径方向および周方向に互いに干渉しないように形成されている。またこれらの取付孔4は、製造される最大の玉型形状よりも大きな円形の孔に形成されている。
【0119】
眼鏡用レンズ1Aがレンズ取付板3の各取付孔4にレンズ保持手段60を介してそれぞれ取付けられると、レンズ取付板3は図3に示す真空蒸着装置40の筐体41内に再び組み込まれ、モータ42の出力軸43にカプリング44を介して取付けられる。
【0120】
さらに、反射防止材ケース49の各凹部52内に反射防止材51をそれぞれ収納した後、筐体41内を真空排気して所定の真空度にする。そして、モータ42を駆動してレンズ取付板3を一定速度で回転させる。また、モータ50を駆動して反射防止材ケース49を回動させて最先に蒸着される反射防止材51をビーム照射位置Pに移動停止させる。また、電子銃47に通電して電子ビーム70を発生させ、この電子ビーム70をマグネット48による磁界によって曲げてビーム照射位置Pに導き、反射防止材ケース49内の反射防止材51を照射し加熱蒸発させる。加熱蒸発した微粒子状の反射防止材51は、眼鏡用レンズ1Aの光学面5aに付着すると第1層目(最下層)の反射防止膜を形成する。
【0121】
最下層の反射防止膜の蒸着が終了すると、モータ50の駆動によって反射防止材ケース49を間欠的に回動させて下から2層目となる反射防止材51をビーム照射位置Pに移動させ、電子ビーム70により加熱蒸発させることにより、最下層の反射防止膜の上に2層目の反射防止膜を形成する。以下、同様に3層目、4層目・・・最上層の反射防止膜を蒸着し、多層反射防止膜層22とする。
【0122】
多層反射防止膜層22の形成に際しては、眼鏡用レンズ1Aの上になっている光学面5b全体を樹脂製フィルム64によって覆っているので、蒸着物質が眼鏡用レンズ1Aの上方に回り込んでも光学面5bに付着するおそれがなく、光学面5aのみに多層反射防止膜層22を形成することができる。
【0123】
[撥水膜層の形成工程]
光学面5aに対する多層反射防止膜層22の蒸着工程が終了すると、その上に撥水膜層23を同じく真空蒸着法によって形成する(ステップS108)。この撥水膜層23の真空蒸着は、前記真空蒸着装置40を用いて行なう。このため、予め撥水材ケース53内に例えば含フッ素シラン化合物等の撥水材55を収納しておき、これをヒータ54によって所定温度に加熱して蒸発させ、この蒸発した微粒子状の撥水材55を前記工程で形成された多層反射防止膜層22の上に蒸着することにより撥水膜層23が形成される。なお、撥水剤は、ヒータ54のほかに電子ビーム70により加熱蒸発することも好適である。
【0124】
撥水膜層23の形成に際しても、眼鏡用レンズ1Aの上になっている光学面5b全体を樹脂製フィルム64によって覆っているので、蒸着物質が眼鏡用レンズ1Aの上方に回り込んでも光学面5bに付着するおそれがなく、光学面5aのみに撥水膜層23を蒸着することができる。
【0125】
眼鏡用レンズ1Aの光学面5aに対する反射防止膜層22と撥水膜層23の蒸着が終了すると、引き続き眼鏡用レンズ1Aのもう一方の光学面5bに対しても反射防止膜層22と撥水膜層23を真空蒸着装置40によって蒸着する。光学面5bに反射防止膜層22と撥水膜層23を蒸着するときは、筐体41を開放して内部のドーム状のレンズ取付板3を筐体外部に取り出す。また、レンズ保持手段60をレンズ取付板3から取り外す。さらに、眼鏡用レンズ1Aをレンズ保持手段60から外して樹脂製フィルム64を光学面5aから剥がし、新しい樹脂製フィルム64を反射防止膜層22と撥水膜層23が形成された光学面5aに貼着する。そして、接着盤62によって眼鏡用レンズ1Aの樹脂製フィルム64が貼着されている光学面5aを保持して保持板61をレンズ取付板3の取付孔4に嵌合する。眼鏡用レンズ1Aのレンズ取付板3への装着が終了すると、再びレンズ取付板3を筐体41内に挿入してモータ42の出力軸43にカプリング44を介して取付ける。
【0126】
さらに、必要に応じて反射防止材ケース49に新しい反射防止材51を追加し、撥水材ケース53に同じく新しい撥水材55を追加する。これにより、蒸着のための準備が完了すると、以下、上記したと同様に光学面5bへの反射防止膜層22の真空蒸着と、その上への撥水膜層23の真空蒸着が順次行なわれる。
【0127】
[レンズ光学特性、外観検査工程]
光学面5bへの反射防止膜層22と撥水膜層23の真空蒸着法にする形成工程が終了すると、眼鏡用レンズ1Aは真空蒸着装置40から取り出され、光学性能検査と外観検査が行なわれる(ステップS109)。
【0128】
[包装、出荷]
以上のようにして製作され検査で合格品と判定された眼鏡用レンズ1Aは、包装された後(ステップS110)、発注元である眼鏡店へ出荷される(ステップS111)。
【0129】
このように本発明においては、撥水膜層23を真空蒸着法によって形成する前に中間品レンズであるアンカットレンズを縁摺り加工して眼鏡枠形状と一致する玉型形状に加工するようにしているので、縁摺り加工するとき、滑りによりアンカットレンズが軸ずれを起こすことがなく、確実に縁摺り加工することができる。
【0130】
また、縁摺り加工された眼鏡用レンズ1Aの光学面5a,5bに反射防止膜層22と撥水膜層23を片面ずつ真空蒸着するとき、眼鏡用レンズ1Aの蒸着すべき光学面とは反対側の面を全面にわたって被覆体としての樹脂製フィルム64または樹脂製被膜によって覆うようにしているので、蒸着物質が回り込んで蒸着すべき光学面とは反対側の面に付着するおそれがなく、各光学面5a,5bに反射防止膜層22と撥水膜層23を確実に蒸着形成することができる。
【0131】
さらに、レンズ保持手段60によって玉型形状の眼鏡用レンズ1Aを保持するときには、レンズ保持手段60の軸線とレンズのフレームセンターQとを略一致させて保持するようにしているので、保持板61の大きさを円形の眼鏡用レンズ1を保持する際に用いていた従来の保持リング2(図9)より小さくすることができる。したがって、ドーム状のレンズ取付板3への眼鏡用レンズ1Aの配置可能な個数が増大し、生産性を向上させることができる。
【0132】
この場合、図4〜図6においては円形の保持板61を用いた例を示したが、これに限らず図8に示すように楕円形(または矩形)の保持板80を用いてもよい。すなわち、眼鏡枠形状は一般に縦方向(Bサイズともいう)に比較して横方向(Aサイズともいう)が大きいことから、保持板61として縦方向に短径、横方向に長径を有する楕円形の保持板80を用いてもよい。その場合、保持板80の長軸方向の長さL1 が眼鏡用レンズ1AのA寸法(水平方向の寸法)より長く、保持板61の直径と等しくても、短軸方向の長さL2 を眼鏡用レンズ1AのB寸法(垂直方向の寸法)より長く、眼鏡用レンズ1Aの直径より短い楕円形であれば、保持板自体をさらに小さくすることができ、レンズ取付板3への眼鏡用レンズ1Aの配置可能な個数を一層増大させることができる。
【0133】
なお、上記した実施の形態では、成膜装置として円形のアンカットレンズ1の真空蒸着装置40を使用したが、玉型形状のレンズのための専用のレンズ取付板を備えた成膜装置を用いて成膜してもよい。専用の成膜装置としては、予め保持板に接着盤が配置されたものや、レンズ取付板3や取付孔4が楕円形である等が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】(a)は本発明に係る製造方法によって製作された眼鏡用レンズの正面図、(b)はA−A線断面図、(c)はB部の拡大断面図である。
【図2】眼鏡用レンズの製造工程のフローチャートである。
【図3】眼鏡用レンズの製造に用いられる成膜装置としての真空蒸着装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】レンズ保持手段が装着されたレンズ保持部材の平面図である。
【図5】(a)はレンズ保持手段によって玉型形状の眼鏡用レンズを保持した状態を示す平面図、(b)は正面図である。
【図6】図4のC−C線断面図である。
【図7】被膜形成剤を眼鏡用レンズに塗布した例を示す図である。
【図8】眼鏡用レンズと保持板の大きさを示す図である。
【図9】従来の蒸着時の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0135】
1…円形の眼鏡用レンズ、1A…玉型形状の眼鏡用レンズ、3…レンズ取付板、4…取付孔、5a,5b…光学面、11…保護膜層、21…ハードコート膜層、22…多層反射防止膜層、23…撥水膜層、40…真空蒸着装置、41…筐体、51…反射防止材、55…撥水材、60…レンズ保持手段、61…保持板、62…接着盤、64…樹脂製フィルム、66…被膜形成剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材からなる眼鏡用レンズの各光学面に真空蒸着法によって多層反射防止膜層と撥水膜層を順次積層形成する眼鏡用レンズの製造方法であって、
円形の眼鏡用レンズを眼鏡枠形状と略一致する玉型形状に縁摺り加工する工程と、
縁摺り加工された前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面全体を被覆体によって覆う工程と、
前記眼鏡用レンズの前記被覆体によって覆われている光学面側をレンズ保持手段によって保持する工程と、
前記レンズ保持手段によって保持された前記眼鏡用レンズを真空蒸着装置内に装着する工程と、
前記真空蒸着装置内に装着した複数種の反射防止材を電子ビームの照射によって順次加熱蒸発させ、前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面に蒸着することにより多層反射防止膜層を形成する工程と、
前記多層反射防止膜層の蒸着工程終了後、撥水材を加熱蒸発させ、前記多層反射防止膜層の上に蒸着することにより撥水膜層を形成する工程とを備えたことを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記レンズ保持手段は、このレンズ保持手段の軸線を前記眼鏡用レンズのフレームセンターと一致させた状態で前記眼鏡用レンズを保持することを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面を覆う被覆体として、塩素化ポリプロピレンまたは塩素化ポリエチレンからなる樹脂製被膜を用いることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記眼鏡用レンズの蒸着すべき光学面とは反対側の光学面を覆う被覆体として、樹脂製フィルムを用いることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記撥水膜層の動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記眼鏡用レンズはプラスチック基材と、このプラスチック基材上に真空蒸着法で形成された多層反射防止膜と、この多層反射防止膜上に形成された撥水膜層とを有し、前記多層反射防止膜の少なくとも一部または最外層が、二酸化ケイ素を含有する無機物質と、有機ケイ素化合物及び/又はケイ素非含有有機化合物とを蒸着原料として真空蒸着法で形成され、かつ酸素及び/又はアルゴンイオンが照射されてなるハイブリッド層を含むことを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記撥水膜層は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水原料が電子銃による加熱処理で、前記最外層に蒸着されてなる層であることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
多層反射膜層の形成工程の前工程としてハードコート膜層を形成する工程を備えていることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法において、
前記レンズ保持手段は、真空蒸着装置のレンズ取付板に設けた取付孔に嵌合される保持板と、この保持板に取付けられ眼鏡用レンズを固定する保持部材とを備え、前記眼鏡用レンズが前記取付孔より大きいか否かを判定する工程を備えていることを特徴とする眼鏡用レンズの製造方法。
【請求項10】
内部が真空排気されることにより真空蒸着室を形成する筐体と、
複数の円形の取付孔を有し、前記筐体の内部上方に配置されたドーム状のレンズ取付板と、
縁摺り加工済みの眼鏡用レンズを固定する固定部材と、この固定部材が取付けられ前記レンズ取付板の取付孔に嵌合される保持板とからなるレンズ保持手段と、
前記筐体の内部で前記レンズ取付板より下方に配置され、反射防止材を収納する反射防止材ケースと、
前記反射防止材を加熱し蒸発させる加熱手段と、
前記筐体の内部で前記レンズ取付板より下方に配置され、撥水材を収納する撥水材ケースと、
前記撥水材を加熱し蒸発させる加熱手段と、
を備えたことを特徴とする眼鏡用レンズの成膜装置。
【請求項11】
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の眼鏡用レンズの製造方法によって製造されたことを特徴とする眼鏡用レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−152085(P2008−152085A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341053(P2006−341053)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】