睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置
【課題】脳波の計測を必要とせず、在宅で睡眠検査を実行可能とした、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、心不全患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置を提供する。
【解決手段】心拍変動波形の高周波成分が時間と共に変動する波形をウェーブレット変換し、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に相当する周波数のパワーの時間推移を表示又は印刷し、この時間推移グラフにおいてピークの明瞭さ、数、位置から医療者が睡眠の質を評価することが可能であるように構成する。
【解決手段】心拍変動波形の高周波成分が時間と共に変動する波形をウェーブレット変換し、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に相当する周波数のパワーの時間推移を表示又は印刷し、この時間推移グラフにおいてピークの明瞭さ、数、位置から医療者が睡眠の質を評価することが可能であるように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置に関するものであり、特に、従来と比較して簡潔、簡便な構成とすることにより、医療機関での入院検査を必要とせずに被験者の睡眠の質を確実に評価可能とする構成を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
被験者の睡眠の質を評価することは、種々の疾患の診断及び治療において重要である。
覚醒している期間を含めて、ヒトの睡眠には、覚醒期と、REM期(Rapid Eye Movement:眼球運動のみられる睡眠期間)、NREM(non−REM)期第1ステージ(傾睡眠初期)、NREM期第2ステージ(傾睡眠期)、NREM期第3ステージ(中等度睡眠期)、NREM期第4ステージ(深睡眠期)という6種類のステージが含まれている。
【0003】
正常な睡眠では、覚醒期から睡眠状態に入ると、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)と呼ばれる典型的には90分、一般的には60分〜120分の周期で睡眠状態の遷移が一晩に3周期繰り返され、各周期には上記のREM期、NREM期睡眠各ステージの一部あるいは全てが含まれており、各周期の中で睡眠の深さがサイクリックに変化すると共に、一晩の睡眠全体として睡眠初期の深い睡眠状態から次第に浅くなる傾向で推移する。
【0004】
従って睡眠の質は、このウルトラディアンリズムで繰り返される睡眠の周期が明確に見られるか、各周期においてはサイクリックな睡眠ステージ推移が明確に認められるか、一晩の睡眠全体として睡眠初期から終期に向かって次第に睡眠の深度が浅くなるように推移しているか、等により評価がなされる。
【0005】
質が良好ではない睡眠では、睡眠状態の推移においてウルトラディアンリズムが明確ではなく、例えば睡眠初期に深い睡眠ステージが見られることがなく、逆に終期においてより深い睡眠ステージとなる場合がある。
【0006】
質の良い睡眠を阻害する要因となる疾患は種々存在し、例えば閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive sleep apnea syndrome)では、就寝中の患者の舌部が重力により下がって物理的に気道を閉塞することにより呼吸が阻害されて覚醒をもたらし深い睡眠ステージに入ることが阻害される。
【0007】
また、慢性心不全(うっ血性心不全、CHF:congestive heart failure)疾患患者の約40%で見られるとされるチェーンストークス呼吸症状(CSR:Cheyne−Stokes respiration)もまた睡眠の質を低下させる要因となる。
【0008】
CSRは、小さい呼吸から一回換気量が漸増し大きな呼吸となった後,一回換気量が漸減し呼吸停止(10‐20秒程度の無呼吸)がおこり,その後再び同様の周期を繰り返す呼吸である。
【0009】
CHF患者においてCSRが発現する原因は次の様に理解される。
脳の呼吸中枢は、正常では血液中のCO2分圧を検知して呼吸コントロールを行っている。CHF患者は覚醒時にはCO2分圧に対する脳の感受性が高く、過換気の状態になっている。ところが睡眠中はこの感受性が少し回復して低下するため、血中のCO2分圧が覚醒時よりも上昇しないと(すなわち無呼吸にならないと)呼吸が開始されないため、上記のCSRが発現するものである。
【0010】
CHFにおいてチェーンストークス呼吸症状はしばしば観察され、夜間低酸素状態と覚醒による睡眠障害を伴う。夜間低酸素状態と覚醒は肺動脈圧と交感神経活性を増大させる原因となり、運動耐容能を低下させる。
【0011】
このように種々の疾患を原因として睡眠の質の低下が起こるため、被験者の睡眠の質を評価して診断及び治療に活用することが必要となる。従来において睡眠の質を評価する方法としては、「PSG(Polysomnography:睡眠ポリグラフ装置)」と呼ばれる装置を用いた下記する睡眠検査(以下、この睡眠検査を「PSG」あるいは「PSG検査」と呼ぶ)を行なうことが一般的であった。
【0012】
上記のPSGは、呼吸気流、いびき音、血中酸素飽和度(SpO2)、脳波、筋電図、眼球の動きなどを被験者の睡眠期間に亘って測定して、睡眠の深さ(睡眠段階)、睡眠の分断化や覚醒反応の有無などを医療者が定量的に評価する検査である。
【0013】
医療者はPSGの測定結果を用いて、例えば脳波波形の変化から睡眠周期期間を特定し、眼球運動や表面筋電の有無からREM期とNREM期の弁別を行うなどの方法で評価を行う。
【0014】
これらPSGについては例えば下記の特許文献1、特許文献2に開示がなされている。
またPSGとは異なるものの、被験者の心拍数の平均値と分散とを各睡眠ステージ毎に対比させたテーブルを予め準備しておき、検査時に得られた心拍数の平均値と分散とをこのテーブルを参照することとで、被験者の睡眠ステージを推定しようとする構成が開示されている。
【0015】
先に説明を行ったPSGは、脳波の測定を必要とするものであるので、用いられるPSG用装置が大規模となることから医療機関に設置される事が必要となると共に、脳波検出用電極を被験者に貼付する手技は高度のものが要求されるので専門の技師が貼付作業を行い、電極貼付がなされた後の被験者は移動が困難である。
【0016】
そこでPSGを行うために被験者は多くの場合2泊3日(一泊目がPSG実施、二泊目が治療における処方の決定)の日程で専門医療機関や、スリープラボと呼ばれる専用の検査施設に入院を行ない、これら医療機関内で検査を受ける必要があった。
【0017】
宿泊を伴う検査であるPSGは入院が必要とされ、脳波検査部を含む高度・複雑な装置の用意と専門技師の対応とが必要とされるため検査費用の増大を招くという課題が解決されなかった。
【0018】
またこれらの負担増から検査数が限定され、検査設備を備えた医療機関が限られるために、診断のために検査が必要な際には遠方の限られた専門医療機関まで移動や予約が必要であった。
【0019】
また特許文献3には、心拍変動のみの計測結果から睡眠ステージを推定しようとする構成が開示されており、脳波検査を必要としないことからこれら入院検査以外でも実施できる可能性があるものの、その被験者の心拍変動の平均値及び分散対睡眠ステージの参照用テーブルを予め用意する必要があり、かえって検査の作業負担増をもたらしていると共に、統計的な考察のみに基づく推定方法であり生理学的な根拠が不明であるのでこの推定方法の普遍性が明らかではない、という課題が解決されていない。
【0020】
【特許文献1】特許第2950038号公報
【特許文献2】特開2004−305258号公報
【特許文献3】特許第3754394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、入院検査を必要とせずに確実且つ簡潔に、生理学的な根拠のもとで睡眠の質を評価可能な、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心不全患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置又はを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記の課題を解決するために、下記の1)から20)に記載の睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心不全患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置を提供する。
【0023】
1)睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測する、計測手段と、
前記計測手段で計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを生成する、心拍間隔波形生成手段と、
前記心拍間隔波形生成手段で得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する、算出手段と、
前記算出手段で算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示及び/又は印刷を行う出力手段と、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置。
2)前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする1)に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
3)前記心拍間隔波形生成手段は、次のステップA〜Dを含んで前記波形生成を実行することを特徴とする、1)又は2)に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップA:前記計測手段で計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップB:前記ステップAで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップC:前記ステップBで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップD:前記ステップBで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
4)前記算出手段は、次のステップE〜Gを含んで算出を実行することを特徴とする、1)〜3)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップE:前記心拍間隔波形生成手段で得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップF:前記ステップEで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップG:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
5)睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測手段を用いて計測する第1のステップと、
前記第1のステップで計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを、心拍間隔波形生成手段を用いて生成する第2のステップと、
前記第2のステップで得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示手段を用いた表示及び/又は印刷手段を用いた印刷を行う第4のステップと、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法。
6)前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする5)に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
7)前記第2のステップは、次のステップ2A〜2Dを含んでなることを特徴とする、5)又は6)に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ2A:前記第1のステップで計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップ2B:前記ステップ2Aで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップ2C:前記ステップ2Bで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップ2D:前記ステップ2Bで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
8)前記第3のステップは、次のステップ3A〜3Cを含んでなることを特徴とする、5)〜7)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ3A:前記第2のステップで得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップ3B:前記ステップ3Aで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップ3C:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
9)被験者の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法をコンピュータが実行するためのコンピュータプログラムであって、5)〜8)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法が有する各実行ステップを含んでなることを特徴とするコンピュータプログラム。
10)大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、マスク手段を介して圧縮空気を継続的に供給するための呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする呼吸補助装置。
11)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、10)に記載の呼吸補助装置。
12)大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有し、且つ、前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であるとともに、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置。
13)前記圧縮空気用送風手段は、治療患者の肺換気量、及び/又は治療患者の呼吸数が予め定めた一定量に近づくよう前記送出圧を自動変更制御するよう構成されたことを特徴とする、10)〜12)のいずれか1項に記載の呼吸補助装置。
14)対象者に対して物理刺激を与えて睡眠導入を行うための睡眠導入装置であって、
(1)睡眠導入を行おうとする対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記物理刺激の態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする睡眠導入装置。
15)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記物理刺激の態様の変更制御を行うことを特徴とする、14)に記載の睡眠導入装置。
16)マッサージの態様を変更可能に構成したマッサージ装置であって、
(1)マッサージを行う対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記マッサージの態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とするマッサージ装置。
17)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記マッサージの態様の変更制御を行うことを特徴とする、16)に記載の睡眠導入装置。
18)被験者の睡眠の質を評価するために用いる検査装置であって、
睡眠状態にある被験者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷する出力手段とを有する検査装置。
19)当該被験者の呼吸動作の情報を継続的に検知する呼吸検知手段を更に備え、前記出力手段は前記心拍間隔の波形に含まれる前記呼吸動作の波形を抑圧した波形の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷することを特徴とする18)に記載の検査装置。
20)心臓疾患治療において患者の部位をカフにより加圧して当該部位における血管中の血流を促すことで心臓ポンプ作用を補助する外部型カウンターパルゼーション療法における、前記加圧の態様を決定するために用いる検査装置であって、
当該患者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の情報に基づき、当該患者の血行動態に関する情報を表示又は印刷する出力手段と、を有する検査装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記の構成とすることにより、入院検査を必要とせずに確実且つ簡潔に、生理学的な根拠のもとで睡眠の質を評価可能な、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置を提供する、という顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、まず、本発明者が本発明をなすに至る重要な基礎となった、本発明者による知見について説明を行う。
【0026】
〔本発明者による知見の要点〕
本発明者はまず、睡眠中の被験者の脳波波形と、睡眠の質との関係を鋭意研究の結果、脳波の0.5〜2.5Hz周波数領域の成分が時間と共に変化する波形(SWA:Slow Wave Activityともいう)には、約90分周期のウルトラディアンリズム(睡眠周期)成分が含まれ、且つ、SWAに含まれるウルトラディアンリズムのパワーの時間変化は、睡眠の質の良し悪しと有意に関係する点を見出した。
【0027】
具体的には、健常者であって、良好な睡眠を得ていることがPSGなどの評価手段でわかっている被験者のウルトラディアンリズムのパワーの推移は、波形の形状に独特な特徴があることがわかった。
【0028】
すなわち、後に説明する図9のSWA解析波形60(健常者)に見られるごとく、睡眠初期に明瞭なピークがありピークまでの波形は急峻に立ち上がり、ピークの後はなだらかに下降し覚醒の直前に最低となる、すなわち、睡眠初期に深い眠りのレベルが見られ、その後覚醒するまでなだらかに睡眠は浅くなる。
【0029】
また健常者の場合にはウルトラディアンリズムパワー波形が囲む面積、すなわちウルトラディアンリズムパワー波形の時間積分値は、非健常者と比較して相対的に大きな値となる。言い換えれば健常者においてはウルトラディアンリズムパワーの値は十分に大きい。
【0030】
これに対して、非健常者例えば虚血性心疾患患者で、PSGなどで睡眠の質が良好ではないことがわかっている被験者の場合には、同じく後に説明を行う図10のSWA解析波形70(虚血性心疾患患者)に見るごとく、波形のピークは明瞭ではなく本図に見られる例では小さなピークが2つあり、ピークまでの波形立ち上がりが急峻ではない。またピークの後の波形の降下も明瞭ではなく、波形の時間積分値も比較的小さい。
【0031】
上記の知見から、脳波SWAに含まれるウルトラディアンリズムを、この後に説明するウェーブレット解析などの数学的手法を用いてそのパワーの推移を調べれば、被験者の睡眠の質を精度よく評価することが可能となる。
【0032】
一方、脳波SWA波形を用いた解析評価は、先に説明したPSGを用いた入院検査を必要とするので、被験者の負担が大きい、医療経済的なメリットが少ない、という課題は以前残る。
ところが本発明者は更に、被験者の心電図から得られる心拍間隔の変動波形に着目した。
【0033】
心拍間隔変動波形の高周波成分(HF)について、そこに含まれるウルトラディアンリズムのパワーの時間推移を同様にウェーブレット解析手法で調べたところ、上記の、脳波SWAに含まれるウルトラディアンリズムパワー波形にとてもよく似た波形が得られた。2つの波形の相関係数はほぼ1.0であった。
従って、脳波に代えて、心拍間隔の変動波形を得ることで睡眠の質を確実に評価することが可能であることを本発明者は初めて見出したのである。
【0034】
心拍間隔は、ホルター心電図計と呼ばれる体表面に装着して被験者が移動可能な心電図計や、指先に光センサを装着して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメータで計測することが可能であるので、これらの手段によれば入院検査を必要とせず、また計測装置自体が構成が簡素で安価である。
【0035】
このように本発明者による知見を用いれば、従来より簡易な装置で入院を必要とすることなく被験者の睡眠の質を評価することができるので、睡眠時無呼吸症候群患者の発見に有効であるとともに、睡眠時無呼吸患者などの治療器で用いるCPAP装置の制御のために、リアルタイムに患者の睡眠の質をモニターして、最適な運転条件となるよう制御を行うことができる。
【0036】
従来、患者あるいは被験者の睡眠の質をリアルタイムにモニタリングして、治療器を用いた治療などの最適制御を行おうとする構成は、患者の自宅で運転できる程度の小型、軽量、簡便な装置では実現されておらず、今後の在宅医療において大きな改善効果が期待されるものである。
このように大きな効果を奏する本発明を具体化する根幹となった数学的手法であるウェーブレット解析から、説明を始めることとする。
【0037】
〔ウェーブレット解析について〕
以下に説明を行う本発明の核心部分は、従来、睡眠の質との明確な関連が報告されていなかった心拍間隔の時間推移を示す波形の、特にその高周波成分に含まれる睡眠周期(ウルトラディアンリズム)成分の時間に応じた変化を表示させるよう構成することにより、医療者がこのウルトラディアンリズムパワーの時間推移を観察して被験者の睡眠の質を良好に評価可能とした点にある。
【0038】
そこで本発明の実施形態においては、種々の周波数成分を含み且つこれら周波数成分のパワーが様々な時間推移をしている解析対象波形において、特定の周波数成分のパワーが時間と共にどのように変化しているかを精度良く解析する数学的手法である、ウェーブレット解析(wavelet analysis)が極めて有効に活用されている。
【0039】
本発明は以下に説明を行う本発明者による知見を基盤とするものであり、この知見の概要は、睡眠中の脳波デルタ波波形と心拍間隔の高周波成分とが、上記の睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に相当する周波数におけるウェーブレット係数のパワーの時系列データ、すなわち時間と共に変化する波形データをそれぞれについて算出して対比させたところ、強い相関が見られた、というものである。
【0040】
生体信号を含めた不規則連続信号系列に対する伝統的な解析手法として、フーリエ解析が良く知られている。
フーリエ解析は、例えば下記公知文献1で詳細に開示がなされているように、周期を有する関数をフーリエ級数展開する手法をさらに非周期性関数にまで拡張し、正弦波波形という周期性と自己相似性とを有する関数波形の無限次数を含めた重畳によって、任意の不規則連続信号系列を表現しようとするものである(公知文献1:城戸健一「デジタル信号処理入門」13〜15ページ(昭和60年7月20日発行、丸善株式会社))。
【0041】
すなわち時間軸上の無限区間に存在する時間tを変数とする関数x(t)と、周波数軸上の無限区間に存在する周波数fを変数とする関数X(f)とを、下記、式1及び式2が成立するように選ぶことができて、このときこれら2つの式をフーリエ変換対と呼び、X(f)をx(t)のフーリエ変換と呼ぶ。
【0042】
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
すなわちフーリエ変換対は、時間tの関数である波形x(t)を周波数fの関数である複素振幅X(f)の複素指数関数(ここでは周波数領域を複素領域としたことから、実正弦関数あるいは実余弦関数の代わりに複素指数関数が用いられる) exp(j2πft)の集まりとして表すときの、x(t)とX(f)との関係を示すものである。式1に示されるフーリエ変換は時間関数から周波数関数を求め、式2に示されるフーリエ逆変換は周波数関数から時間関数を求めるものである。つまり、時間領域を変数域とする関数は、フーリエ変換を行うことによって、時間領域を変数域とする関数へ変換される。
【0045】
上記のフーリエ変換を用いる解析手法であるフーリエ解析は、解析対象である関数波形をその全変数領域において周波数解析しようとするものであるので、時間軸上の局在的傾向が問題とならない不連続信号の解析では極めて有効であるものの、下記の公知文献2に示すように、特定の特徴を有している不連続信号の解析に用いる場合には解決し難い課題が存在し、これらへの解析の一手段として近年、ウェーブレット解析が提唱されている(公知文献2:山田道夫:ウェーブレット変換とは何か(公知文献2:「数理科学」1992年12月号、11〜14ページ、サイエンス社))。
【0046】
上記公知文献2によれば、フーリエ変換で得られる周波数領域での情報であるフーリエスペクトルは時刻に関する情報を失っているため、スペクトルと局所的事象との対応関係を見出すことは難しい。
【0047】
例えば、時刻とともに周波数が単調に増加していく場合でも、スペクトルだけを見て周波数変化の傾向を判断することは不可能である。また各時刻において明瞭な局所的相似性を持つデータ、つまりそれぞれの時刻の付近だけとってみればはっきりしたスペクトルのべき則が現れる場合でも、時系列の中に異なる相似性を持つ時刻が混在する時にはスペクトルの明瞭なべき則は期待できず、スペクトルの形でもって相似性の特徴を判断することは殆ど不可能である。
【0048】
フーリエ変換のこのような不都合な性質は、積分核exp(j2πft)が一様に広がった関数であることに起因している。
そこで、変換対象データを時間軸上の局所部分に限定をおこなってフーリエ変換を行う手法(窓フーリエ変換)が用いられることもあるが、フーリエ解析の不確定性原理により時間と周波数について同時には精度を上げることが出来ないという課題がある。すなわち窓フーリエ変換は、周期性と相似性の両方を部分的に崩しながら局在化したものに相当し、抜本的な解決とはならない。
【0049】
これに対して、フーリエ変換を周期性は崩しながらも相似性は厳格に保ったまま局所化するのがウェーブレット(wavelet:小波、さざ波)変換である。
このウェーブレット変換は周波数の分解能はそれ程高い訳ではないが、核関数の局所性と相似性から、データの持つ局所相似性の解析に非常に適している。このウェーブレット解析とは、フーリエ解析における周期性を局所性に置き換えた道具と言うことができる。
【0050】
具体的なウェーブレット解析の手順を引き続き公知文献2の記述に従い説明すると、1次元の場合において、一つの関数φ(t)を選び、これをアナライジングウェーブレット(analyzing wavelet)あるいはマザーウェーブレット(mother wavelet)と呼ぶ。このφ(t)が満たすべき条件を定性的に述べれば、「遠くで十分早く減衰する関数」である。アナライジングウェーブレットの具体例としては、メキシカンハット関数など複数のものが提案され実際に解析に用いられている。
このアナライジングウェーブレットを用いて式3のような2つのパラメータの関数系(多数の関数からなる集合)を作り、これをウェーブレットと呼ぶ。
【0051】
【数3】
【0052】
ウェーブレットは互いに相似な関数からなり、フーリエ変換と比較すると、aは周期(周波数の逆数)に役割を持つが、bは時刻のパラメータでありフーリエ変換では対応するものが存在しない。
【0053】
パラメータa,bが連続である場合の連続ウェーブレット変換は、上記のアナライジングウェーブレット(式3)をフーリエ変換における積分核exp(j2πft)のように用いたものとみなすことが出来て、フーリエ変換と同様に順変換と逆変換とが存在し、それぞれ式4、式5、及び式6で示される。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
但し、
【数6】
ここで、T(a,b)は、解析対象関数であるf(t)の(連続)ウェーブレット変換と呼ばれ、以下「ウェーブレット係数」とも呼ぶ。
【0057】
連続ウェーブレット変換では、フーリエ解析におけるParsevalの関係に似た式が成立し、次のような等長感形式、つまり「エネルギー分配則」の関係式である式7が成立する。
【0058】
【数7】
【0059】
この式7から、「時刻bにおいて、周波数1/aの成分の持つエネルギー」は|T(a,b)|2であるとして時系列の特性を論じることも可能である。また例えば|T(a,b)|2(これを「パワー」と呼ぶ)をab平面上に鳥瞰図あるいはカラープロットとして表示し、そこに見られるパターンを用いて時系列中に含まれる種々の現象を分類する、といった使い方もある。
【0060】
つまり、解析対象の波形に対してウェーブレット変換を行うことにより、周波数1/aと時刻bという二つの変数空間におけるそれぞれの点に対応したウェーブレット係数が算出され、このウェーブレット係数を用いて各周波数1/a、時刻bに対するエネルギーの指標としてパワーを算出することが出来る。
【0061】
また下記の公知文献3には、ウェーブレット解析の応用、特に不連続信号検出機能について解説がなされている(公知文献3:芦野隆一、山本鎮男「ウェーブレット解析〜誕生・発展・応用」23〜25ページ、131〜133ページ(1997年6月5日発行、共立出版))。
【0062】
ウェーブレット解析の応用を考えたとき、その第一の機能は不連続信号の検出である。自然現象に見られる不連続信号は極めて小さく、しかも雑音に覆われている。ウェーブレット変換は、この信号の不連続を見知する能力がある。なぜならば時間軸上の不連続点でのウェーブレット係数の絶対値が、その他の点より一段と大きくなり、その不連続点を検出できるからである。
【0063】
このように、種々の周波数成分が局在的傾向をもって重畳している複雑な不連続信号波形の解析には、ウェーブレット解析が有効に働くものと考えられ、本発明者はその点に着目して以下に説明する知見、及び本発明に到達したのである。
【0064】
〔脳波徐波成分と心拍変動高周波成分との対照評価システム〕
次に、本発明者が以下に説明を行う知見を得るに際して用いた評価システムである、脳波・心拍変動対照評価システム(以下、対照評価システムともいう)10の説明を行う。
【0065】
図1に概要構成図を示す対照評価システム10は、次のような構成を有している。
すなわち、まず、被験者の頭部表皮に貼付された電極から脳波波形を検出し増幅する脳波検出部10−1、同じく被験者の胸部表皮に貼付された電極から心電図波形を検出して増幅する心電図波形検出部10−2、これら検出増幅された脳波波形及び心電図波形をアナログーデジタル変換し出力するAD変換部10−3、デジタル変換出力された脳波波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた複数のフーリエスペクトルから0.5〜2.5Hz周波数領域(この領域の成分を、徐波成分、デルタ(δ)波成分とも呼ぶ)を抽出して、上記の5秒間のずらし間隔で時間と共に変化する波形を生成出力するSWA(Slow Wave Activity)生成部10−4を有している。
【0066】
尚、上記の徐波成分、すなわちデルタ(δ)波成分が時間と共にどのように変化するかを示す波形を、スローウェーブアクティビティ(SWA:Slow Wave Activity)と呼んでいる。
【0067】
更に対象評価システム10は、デジタル変換出力された心電図波形から心拍の間隔時間を抽出して一連のデータ系列を生成し、このデータ系列から時間共に変動する波形である心拍間隔波形を生成し、さらにこの心拍間隔波形に対して5分間というフーリエ窓期間について50秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた複数のフーリエスペクトルから0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF:High Frequency Powerとも呼ぶ)を抽出して、上記の5秒間のずらし間隔で時間と共に変化する波形を生成出力する心拍変動HF(High Frequency)波形生成部10−5を有している。
【0068】
更に、これらデルタ波成分と心拍変動HF成分に対してそれぞれウェーブレット変換を行いウェーブレット係数を生成するウェーブレット解析部10−6、これらのウェーブレット変換の結果(すなわちウェーブレット係数)の中で0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min、ウルトラディアンリズムに相当する)の周波数成分のデータ系列(時間と共に変化する波形)を抽出して、これら脳派デルタ波及び心拍変動HF波のウェーブレット変換におけるウルトラディアンリズム相当成分(ウルトラディアンパワーともいう)の相互相関係数を時系列で計算出力する相関解析部10−7、ウェーブレット解析部10−6及び相関解析部10−7それぞれの出力結果を表示画面に表示あるいは紙媒体等に印刷出力する出力部10−8を有している。
【0069】
この出力部10−8は、より具体的には、パーソナルコンピュータに付属するかあるいは独立して設けられた、CRTモニター、液晶モニター、インクジェットプリンター、トナー方式プリンターなどであり、今後実用化がなされるものを含めて、画面表示や印刷を行う目的で用いられる上記以外の技術的構成は全てこの出力部10−8として用いることができる。
上記した各構成において、具体的にどのような波形あるいはデータが生成され、どのように加工かされるかは、別途説明を行う。
【0070】
尚、図1図示の構成は信号の流れに従い、これら信号あるいは波形の処理機能をブロック(信号処理要素)に見立てて各信号処理要素を示したものであって、実際のシステムでは、EEG(Electroencephalography、脳波波形記録計)、ECG(Electrocardiogram、心電図波形記録計)、コンピュータ、コンピュータプログラムなどによる最適な組み合わせによりその構成が実現される。
【0071】
また本評価システム10において、解析途中あるいは最終結果のデータを記録しておき、読み出しアクセスに応じる記録部を適宜設けても勿論よく、本システム10の構成図や他の図においては、図を簡潔とするためにいちいちこれら構成を示すことは避けている。
【0072】
次に、本評価システム10を用いて脳波波形と心拍変動波形との対照評価を行う流れを、典型的な波形図模式図を用いて処理の流れを説明しようとする図面である図2〜図8を用いて説明する。
【0073】
脳波デルタ波成分パワーの時間推移(SWA)は、先に説明した睡眠周期(ウルトラディアンリズム)と密接な関連を有することが既に知られている。すなわち、図2における、デルタ波パワーの時間推移(SWA)グラフ20と、グラフ21示すような睡眠周期と睡眠ステージとが連動同期して、睡眠が推移することが典型的である。
そこで今回本発明者の発案により、このSWAに含まれているウルトラディアンリズム相当の成分を抽出表示する評価を行った。
【0074】
すなわち、本システム10が解析あるいは生成する波形を段階ごとに模式的に示す図3において、AD変換部10−3が生成した種々の周波数成分を含んだ未処理の脳波波形は図3(A)に示す如くであり、これに対してSWA生成部10−4は、この波形の起点3aから窓時間tFFT、所定具体的には5分間の変換窓3b1を設定し、この区間の波形に対して高速フーリエ変換(FFT)を実行する。
実行の結果、この区間の波形のフーリエスペクトル3c1が生成される。
【0075】
次にSWA生成部10−4は、波形の起点3aからずらし時間ts、具体的には50秒だけ時間順方向にずらした位置から、同じく窓時間tFFTのフーリエ変換窓3b2を設定して高速フーリエ変換を実行し、この結果この区間におけるフーリエスペクトル3c2を得る。
【0076】
以下同じ様に、フーリエ変換窓の起点をずらし時間tsの整数倍ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓で高速フーリエ変換を実行してフーリエスペクトルを生成し、この操作を、フーリエ変換窓の終点が脳波波形の終点3dに達するまで続行する。
【0077】
次にSWA生成部10−4は、上記の操作で得られた複数のフーリエスペクトル全てについて、0.5〜2.5Hz周波数領域(徐波成分、デルタ(δ)波成分)を抽出してそのパワーをそれぞれのフーリエ窓の起点の時刻にプロットした波形である、SWA波形3eを得る。このSWA波形は、脳波計測開始時刻から計測終了時刻までの例えば8時間に亘り、脳波デルタ波成分が時間と共に変化する推移を示した波形である。
【0078】
次に、ウェーブレット解析部10−6は、上記生成されたSWA波形3eに対してウェーブレット変換を実行する。
具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウエーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0079】
以上は、脳波デルタ波の推移波形についてのウェーブレット係数算出のための手順であった。次に、心拍間隔変動HF成分の推移波形についてのウェーブレット係数算出の手順を説明する。
【0080】
脳波の場合と同様に、各段階における波形の解析や生成を模式的に示した図4において、まず図4(A)はAD変換部10−3が生成した、測定して変形を加えていない心電図波形である。
【0081】
HF波形生成部10−5は、この心電図波形を解析し、心拍に相当する波形ポイントを特定して、隣接する心拍間の時間間隔である心拍間隔RR1,RR2,・・・を順次算出する。
【0082】
次にHF波形生成部10−5は、算出した心拍間隔を各心拍の時刻ごとに時間軸に沿ってプロットし、プロットした各点を例えばスプライン補完を用いて波形として連続させて心拍間隔波形(未修正)を図4(B)のように生成する。
【0083】
このようにして得られた波形は、心拍間隔の変動に伴う細かい変動分が見られると共に、各所に不連続なスパイク上の点を有している。これは正常な心拍とは別にPVC(心房期外収縮)による心拍が発生したためであり、この測定点がこのあとの処理で残っていると正しい周波数スペクトルが得られず正しい解析結果が得られないため除去が必要である。
【0084】
そこでHF波形生成部10−5は、図4(D)に示すように、まず未修正の心拍間隔波形4bのトレンド波形(変化の傾向、すなわち変化のトレンドを示す波形。以下同様。)4cを、低周波フィルタリングあるいは複数測定点の平均又はそれらの組み合わせにより生成する。
【0085】
次に、このトレンド波形4cから所定距離を有する閾値の波形4eを設け、上記の不連続なスパイク点4dがこの閾値を越えた場合には、このスパイク点4dを全体の波形から除去すると共に、除去をしたあとに上記のトレンド波形4cの値で補完を行う。
【0086】
次に図4(E)に示すように、上記作業で得られたスパイク測定点を除去した心拍間隔波形4gを平均値がゼロとなるように、すなわち直流分がなくなるようにシフトする。
【0087】
次にHF波形生成部10−5は、シフトにより直流分を除去した心拍間隔波形5aに対して、図5(A)に見るように、脳波波形の処理と同様の考え方で、50秒間ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓5b1、5b2、・・・において高速フーリエ変換を実行し、それぞれのフーリエスペクトルを生成する。
【0088】
そして得られたこれらのフーリエスペクトルにおいて、0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF)(一つのフーリエスペクトルにおいてHF成分を5cで示す)を抽出し、同じくフーリエ窓の起点の時刻ごとにプロットして、時間と共に変化する波形として心拍間隔のHF成分波形(図5(C))を得る。
【0089】
更にHF波形生成部10−5は、得られた心拍間隔のHF成分波形、あるいはこのHF成分波形について不連続なスパイク点を除去したり、直流分を除去したりするなどの加工をした上記の波形(図5(C)、以下同様)に対してウェーブレット変換を行う。
【0090】
すなわち、具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウェーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0091】
最後に相関解析部10−7は、上記で得られた脳波デルタ波成分のウェーブレット係数、及び心拍間隔波形HF成分のウェーブレット係数を用いて、それぞれのウェーブレット係数の中でウルトラディアンリズムに相当する周波数のパワーの時間推移の相関を次の様に処理して出力する。
【0092】
図6において、上記に説明したとおりの処理で生成された、SWAの時系列データ(時間と共に変化する波形)30についてウェーブレット変換を実行して、時間―周波数平面における高さとしてウェーブレット係数のパワーを示した図である31における、0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min)すなわちウルトラディアンリズム相当におけるパワーの時間推移を図6の32に示す。
【0093】
同様にして、図7の40に示す如くの心拍変動HF波形に対してウェーブレット変換を実行し(図7の41に図示する)、その中でウルトラディアンリズム相当の周波数に対応したパワーの時間推移を図4の42に図示する。
【0094】
相関解析部10−7は、上記の脳波デルタ波形ウェーブレット変換(係数)ウルトラディアンリズム相当周波数のパワーの時間推移時系列データ(グラフをあらためて図8の50に示す)と、心拍変動HF波形ウェーブレット変換(係数)ウルトラディアンリズム相当周波数のパワーの時間推移時系列データ(同じくグラフを図8の51に示す)とを相互相関(Cross correlation)評価し、評価結果を出力部10−8を用いて表示又は印刷で出力する。尚相互相関評価は公知の方法を用いている。
【0095】
〔症例に基づく対照評価の結果〕
上記に説明を行った評価システム10を用いて、本発明者は複数の症例(被験者)に対する評価を行った。以下にグラフを用いて説明する症例は3例である。
【0096】
第1の症例は27歳、男性、健常者であり、第2の症例は62歳、男性、虚血性心疾患、LVEF(Left ventricular ejection fractions:左室駆出率)が62%であり、第3の症例は65歳、男性、虚血性心疾患、LVEFが25.4%である。
【0097】
健常者である第1の症例では、図9の60に示すように、SWA波形から睡眠周期が明確であり、ウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは比較的初期(測定開始から2hours)に明瞭なピークが認められた。そしてこの症例1における心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーもまた、図9の61に示すように測定開始から2時間後に明瞭なピークが認められ、これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。事実、これら2つの波形の相互相関係数は図9の62に示すとおりほぼ1.0であった。尚、62における縦軸は相関係数、横軸は時間軸上で2つの波形を互いにずらして相関係数を算出した際のずらし量を意味し、横軸のゼロは最大相関を示した時刻である。
【0098】
次に、虚血性心疾患患者である第2の症例では、図10の70に示すように、SWA波形から判断を行っても睡眠周期が明確ではなく、SWA波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは小さなピークを2点有している。
【0099】
心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーも同様であって、図10の71に示すように小さなピークを2点有していて、これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。これら2つの波形の相互相関係数は図7の72に示すとおりほぼ1.0である点は第1の症例と同様であった。
【0100】
更に、同じく虚血性心疾患患者である第3の症例では、図11の80に示すように、SWA波形から睡眠周期が明確ではないものの、ウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは比較的明瞭なピークを有している。しかしこのピークは測定開始から約3時間後の位置にあり、健常者である第1の症例よりも遅い位置にある。心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーも同様であって、図11の81に示すように第1の症例よりも遅れた位置に比較的明瞭なピークが認められた。これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。これら2つの波形の相互相関係数は図11の82に示すとおりほぼ1.0である点は第1の症例、第2の症例と同様であった。
【0101】
心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーが時間と共に変動する波形において、睡眠の質が良い場合にそのピークが明確であるのは、この波形中の睡眠初期の段階でウルトラディアンリズム成分が大きな比重を占めており、その後の睡眠途中の時点でそのウルトラディアンリズムが消失するので上記パワーが明確な増減ピークを持つ、という理由が考えられる。
【0102】
同じく、心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワー波形において、睡眠の質が良い場合にそのピークが相対的に早い時刻に見られるのは、質の良い睡眠においてはウルトラディアンリズム成分が睡眠初期の時刻に大きな比重を有するからと理解される。
【0103】
次に症例数を22と増やして、SWAと心拍変動HFのウェーブレット変換ウルトラディアンパワーのピークの位置を比較対照させたところ、良い相関が見られ、図12に示すとおり、相関係数は0.72であった。
【0104】
尚、これら22の症例は、健常者が3例、年齢は27.6±3.8歳であり、その他19例はいずれも心疾患患者(内訳は虚血性心疾患が8例、DCM(特発性拡張型心筋症)が5例、その他が6例)であり、NYHA(ニューヨーク心臓協会:New York Heart Association)分類でI度が16名、II度が2名、III度が1名であった。
【0105】
更に、これら22症例について、上記した脳波デルタ波形ウルトラディアンリズムパワー時系列データと、心拍変動HF波系ウルトラディアンリズムパワーの時系列データとの相互相関関数の平均、平均に対する分散を加算及び減算した幅のグラフは図13に示すとおりである。
【0106】
以上の症例に基づく対照評価の結果から、本発明者は以下に示す知見を得た。
睡眠時における脳波徐波成分(デルタ波成分)の時間推移波形であるSWAと、心拍変動高周波成分の時間推移波形とは、それぞれのウェーブレット変換によるウルトラディアンリズムに相当する周波数成分パワーの時間推移波形を比較したところ、双方の波形のピーク到達時間、及びそれぞれの波形形状において、有意な相関を認めた。
【0107】
すなわち、脳波徐波成分と心拍変動高周波成分とに含まれているウルトラディアンパワーは密接に関連しており、高い相関が認められた。つまり、脳波デルタ波形に含まれており睡眠の質の評価に利用可能であるウルトラディアンリズムのパワーは、心拍変動高周波成分にもまた含まれており、このことから、睡眠中の心拍変動高周波成分のウルトラディアンリズムから睡眠の質を予測可能である、という知見を本発明者は得たのである。
【0108】
〔心拍変動データに基づく睡眠評価システム〕
次に、上記に説明した知見に基づいて、本発明者が完成するに至った本発明の実施形態である、心拍変動データに基づく睡眠評価システム(以下、睡眠評価システム)1について説明を行う。
【0109】
本睡眠評価システム1は、図14の構成図に示すように、携帯型心電図波形記録計2と、心電図波形解析装置3とを備えている。携帯型心電図波形記録計2は、典型的には医療機関において被験者に装着され、被験者は帰宅後に一晩の睡眠において連続的に心電図波形を記録保持し、その後医療機関へ搬送されるものである。この携帯型心電図波形記録計2は、既に医療現場で用いられているホルター心電図計によって実現してもよい。
【0110】
上記の機能を実現するために携帯型心電図波形記録計2は、被験者の胸部上皮に貼付する電極2−1、心電図波形検出増幅部2−2、A/D変換部2−3、デジタル信号として心電図波形を記録保持するメモリー部2−4、メモリー部2−4からのデジタル心電図波形データを外部へ出力するための出力端子2−5を有している。
【0111】
また、同じく本睡眠評価システム1を構成する心電図波形解析装置3は、典型的には表示画面やプリンターを含むパーソナルコンピュータシステムと、そのコンピュータにインストールされて動作を行うコンピュータプログラムにより実現されるもので、医療機関などに設置され、被験者からの心電図波形取得が終了した携帯型心電図波形記録計2が接続され、その心電図波形データが転送されて、先に説明した手順と同様にして、心拍変動HF波形のウェーブレット変換ウルトラディアンリズムのパワーの、この心電図波形計測期間に亘る時間的(経時的)推移を時系列的に表示画面に表示したり、プリンターにより印刷したり、あるいはその両方を実行し、その結果、画面表示や印刷結果を観察する医療者が睡眠評価を行うことを可能とするものである。
【0112】
これらの機能を実現するために心電図波形解析装置3は、外部から心電図波形デジタルデータを取り込むための入力端3−1、取り込んだデータを一旦記録保持するメモリー部3−2、記録されたデータを読み出して、そこから心拍変動HF成分を時系列として取り出して、更にウェーブレット変換を行い、更にそのウェーブレット変換におけるウルトラディアンリズムのパワーの時系列データを生成出力する解析部3−3、出力された時系列データを表示画面に表示する表示部3−4、同じく出力された時系列データを印刷するプリンター部3−5を備えている。
【0113】
更に具体的には心電図波形解析装置3は、以下のような処理を行う。
各段階における波形の解析や生成を模式的に示した図4において、まず図4(A)は携帯型心電図波形記録計2が測定して変形を加えていない心電図波形である。解析部3−3は、この心電図波形を解析し、心拍に相当する波形ポイントを特定して、隣接する心拍間の時間間隔である心拍間隔RR1,RR2,・・・を順次算出する。
【0114】
次に解析部3−3は、算出した心拍間隔を各心拍の時刻ごとに時間軸に沿ってプロットし、プロットした各点を例えばスプライン補完を用いて波形として連続させて心拍間隔波形(未修正)を図4(B)のように生成する。
【0115】
このようにして得られた波形は、心拍間隔の変動に伴う細かい変動分が見られると共に、各所に不連続なスパイク上の点を有している。これは正常な心拍とは別にPVC(心房期外収縮)による心拍が発生したためであり、この測定点がこのあとの処理で残っていると正しい周波数スペクトルが得られず正しい解析結果が得られないため除去が必要である。
【0116】
そこで解析部3−3は、図4(D)に示すように、まず未修正の心拍間隔波形4bのトレンド波形(変化の傾向を示す波形)4cを、低周波フィルタリングあるいは複数測定点の平均又はそれらの組み合わせにより生成する。
【0117】
次に、このトレンド波形4cから所定距離を有する閾値の波形4eを設け、上記の不連続なスパイク点4dがこの閾値を越えた場合には、このスパイク点4dを全体の波形から除去すると共に、除去をしたあとに上記のトレンド波形4cの値で補完を行う。
【0118】
次に図4(E)に示すように、上記作業で得られたスパイク測定点を除去した心拍間隔波形4gを平均値がゼロとなるように、すなわち直流分がなくなるようにシフトする。
【0119】
次に解析部3−3は、シフトにより直流分を除去した心拍間隔波形5aに対して、図5(A)に見るように、脳波波形の処理と同様の考え方で、50秒間ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓5b1、5b2、・・・において高速フーリエ変換を実行し、それぞれのフーリエスペクトルを生成する。
【0120】
そして得られたこれらのフーリエスペクトルにおいて、0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF)(一つのフーリエスペクトルにおいてHF成分を5cで示す)を抽出し、同じくフーリエ窓の起点の時刻ごとにプロットして、時間と共に変化する波形として心拍間隔のHF成分波形(図5(C))を得る。
【0121】
更に解析部3−3は、得られた心拍間隔のHF成分波形(図5(C))に対してウェーブレット変換を行う。
すなわち、具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウェーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0122】
最後に、解析部3−3は、上記で得られた心拍間隔波形HF成分のウェーブレット係数を用いて、それぞれのウェーブレット係数の中でウルトラディアンリズム(0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min))に相当する周波数のパワーが時間と共に変化する波形を、表示部3−4の表示画面あるいはプリンター部3−5による印刷結果として出力する。
【0123】
このように睡眠評価システム1が構成されているので、被験者の睡眠評価を行おうとする医療者等は、表示部3−4の表示画面あるいはプリンター部3−5による印刷結果を観察して、例えば既に説明した図9の61、図10の71あるいは図11の81に見られるような、特定周波数領域、例えばウルトラディアンリズムに対応する周波数のウェーブレット係数パワーがどのように時間推移しているかを示すグラフから、そのパワーのピークは明瞭であるか、ピークは単一か複数か、ピークの位置は時間軸上いずれにあるか、その他の医学的見地から診断を行うことが可能となる。
【0124】
すなわち本発明の実施形態である睡眠評価システム1を用いることによって、脳波計測が不要であることから入院検査が不要となり、被験者は在宅でより簡便にかつ確実に睡眠の質の評価を受けることが可能となり、極めて大きな医療上の効果が発揮される。
【0125】
〔変形例〕
本発明の実施に際しては上記実施形態以外にも種々の変形が考えられ、例えば心電図波形を携帯型心電図計で計測記録するのではなく、通信路を介して直接解析装置へ送信するテレメディスンシステムでの実施や、心拍変動ウルトラディアンリズムパワー成分の推移を単に表示するのみならず、ピークの数や明瞭さや位置に応じてスクリーニング的な自動評価を行う(但し確定診断は医療者が行う)構成なども可能である。
【0126】
更に、被験者の心拍間隔波形を取得する方法として、上記に示したように被験者に装着されて移動可能な状態で測定を行う心電図計(ホルター心電図形)を用いる代わりに、パルスオキシメータを用いる方法としてもよい。
【0127】
パルスオキシメータはそのプローブ部に発光部と、透過光受光部あるいは反射光受光部を備え、波長の異なる2種類の光を指に当てて透過あるいは反射した光の量を測定することにより非侵襲的に動脈血酸素飽和度を算出するものであって、動脈血の識別は脈拍に一致して変化する成分に着目することにより行われ、酸素飽和度の算出は、酸素ヘモグロビンの、2種類の光に対する透過度又は反射率が異なることを利用している。すなわち血液中のヘモグロビンの酸化・還元によって酸素が運搬されており、「酸化されると赤色光の吸収が減って赤外光の吸収が増える」、また、「還元されると赤色光の吸収が増えて赤
外光の吸収が減る」というヘモグロビンの光学的特殊変化を利用しているものである。
【0128】
本発明の実施にあたり、このパルスオキシメータが動脈脈拍成分を検出可能である点に注目し、特定波長光の透過光又は反射光成分の脈動から動脈脈拍成分を検出し、この検出結果から被験者の心拍間隔波形を測定生成し、以後は、心電図計を用いた上記実施例と同じように心拍間隔HF成分のウェーブレット解析結果に基いて被験者の睡眠評価を行うようにしてもよい。
【0129】
尚、被験者の心拍間隔(動脈脈波ピーク間隔)を測定しようとする構成のパルスオキシメータは、例えば特開平9−238929号公報の0012段落(3ページ)等に記載がある。
【0130】
以上のように、パルスオキシメータを用いて特定波長光の透過光又は反射光成分の脈動から動脈脈拍成分を検出し、この検出結果から被験者の心拍間隔波形を測定生成するように構成した変形例もまた本発明に含まれる。
【0131】
次に、本発明の他の変形例として、上記に説明を行った心拍変動解析に基づく睡眠評価技術を、患者の治療に用いる治療機器などに具体的に応用した実施例などを説明する。
【0132】
〔気道陽圧式呼吸補助装置に関する発明の実施形態〕
まず、気道閉塞に起因する睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS:Sleep Apnea Syndromeともいう)の治療装置である、気道陽圧式呼吸補助装置(以下、「CPAP装置」あるいは「呼吸補助装置」ともいう)に本発明を適用した実施態様について説明を行う。
【0133】
CPAP装置は、大気を30cmH2O程度まで昇圧して呼吸の補助手段として鼻マスクを用いて鼻孔部へ供給する気道陽圧式呼吸補助装置に関するものである。更に、詳細には睡眠時無呼吸症候群の治療手段の一方法として、睡眠時に昇圧空気を鼻孔部を通して呼吸気道内に送気し、気道内を持続的に陽圧に維持せしめて、気道部の閉塞に起因する呼吸停止がもたらす血液中の酸素濃度低下を防止するために提供される医療用具である。CPAP装置の具体的な構成は、例えば特開平7−275362号公報に開示がなされている。
【0134】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に断続的に無呼吸を繰返し、その結果、日中傾眠などの種々の症状を呈する疾患の総称である。
無呼吸(apnea)とは、10秒以上の気流の停止と定義され、SASは、一晩7時間の睡眠中に30回以上の無呼吸がある場合、無呼吸指数AI(apnea index:睡眠1時間あたりの無呼吸の回数)が、AI≧5(回/時間)の場合、あるいは実際の臨床では、無呼吸に低呼吸を加味した無呼吸低呼吸指数(AHI)が用いられる。
【0135】
無呼吸低呼吸指数(Apnea hypopnea Index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数。
低呼吸(hypopnea):気道が完全に閉じるのではなく、狭小化のために換気量が少なくなった状態。換気の50%以上の低下に、酸素飽和度(SpO2)の3%以上の低下を伴うもの。
【0136】
SASは、その原因から、閉塞型(Obstructive Sleep apnea=OSA、睡眠中に上気道が閉塞して気流が停止するもので、無呼吸の間でも胸壁と腹壁の呼吸運動が認められるが、動きは互いに逆になるという奇異運動を示す)、中枢型(Central Sleep apnea=CSA、呼吸中枢の機能異常によりREM期を中心とした睡眠中に呼吸筋への刺激が消失して無呼吸となる)、及びOSAとCSAとの混合型(中枢型無呼吸で始まり、後半になって閉塞型無呼吸に移行する場合が多い。閉塞型無呼吸の一つとして分類することが多い)に分類される。
【0137】
これらの中でCPAP装置による治療の対象となる患者は、OSAの患者である。
OSAは、上気道の閉塞によって無呼吸、低呼吸が起きるために発症する。
閉塞の原因は、(1)形態的異常(肥満によって気道に脂肪沈着する、扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔彎曲症、アデノイド、小顎症(あごが小さい)など)、と、(2)機能的異常(気道を構成している筋肉の保持する力が低下する)である。
【0138】
健常人の睡眠パターンは眠り始めに深い睡眠(ノンレム睡眠)が見られるのに対し、OSA患者は無呼吸のため血中酸素が低下し、胸腔内圧力が陰圧となって睡眠中に何度も覚醒反応が発生し、深い眠りが得られないことから、日中傾眠などの症状を呈する。
【0139】
このようなOSA患者に対してCPAP装置は、鼻マスクを介して一定陽圧の空気を送り込み、上気道を広げ、この結果、気道閉塞を解消して無呼吸を防止するよう動作を行う。気道を広げるための圧力(以下「陽圧」ともいう)は患者個々に異なる。
【0140】
尚、患者気道に印加される圧縮空気の圧力レベル(陽圧)は、睡眠中に一定の圧力を保つもの(CPAPと呼ぶ)、患者の呼気期間と吸気期間とで2つの異なる圧力としたもの(Bilevel−PAPと呼ぶ)、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加するもの(サーボ型自動制御補助換気と呼ぶ)などいくつかの方法がある。
【0141】
いずれの方法にせよ、陽圧レベルの決定は医師の所見に基づいて処方として決定がなされる。従来は治療対象患者の睡眠の質を直接評価して、睡眠の質を良好に保つために最適な陽圧レベルを決定する構成は知られていなかった。
【0142】
これら従来の課題を解決するために、本実施形態のCPAP装置15aは、図15に示すとおり、次の構成を有している。
まずCPAP装置本体15bは、上記した陽圧レベルを可変制御可能に構成した装置であって、圧縮空気を生成して装置外へ送出するブロア15b−1、そのブロア15b−1の送出する圧縮空気の圧力(陽圧レベル)の変更制御を含めてCPAP装置本体15bの運転制御を行うCPAP制御部15b−2を有している。
【0143】
CPAP装置本体15bから送出される圧縮空気(陽圧空気)は導管15eを経由してマスク15fから患者の気道へ供給がなされる。
なおCPAP装置本体15bの構成は、以下に述べる特徴的構成を除いて、既に開示されている従来技術構成を用いることが可能である。
【0144】
パルスオキシメータ15bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0145】
尚、このパルスオキシメータ15bは、後に説明するように患者の心拍間隔を検出することで、心拍間隔に基づく心拍間隔変動解析、及びその解析結果から患者の睡眠の質評価の実行を可能とするためのものである。一方、患者の心拍間隔を検出するための手段としては、このパルスオキシメータ15bの他に心電図計が知られており他にも利用可能な手段はあり得る。従って本明細書の各実施例においてパルスオキシメータ15bを用いて患者あるいは被験者の心拍間隔を検知する構成は、パルスオキシメータ15bに代えて公知の心電図計、あるいは公知又は未知の手段としてもよい。このことは煩雑さを避けるために本明細書の該当各所ではその都度に断らないこととする。
【0146】
睡眠状態解析部15cは、CPAP装置本体15bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ15d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部15c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部15c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部15c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部15c−4を有している。
【0147】
睡眠状態解析部15c−4は、上記のようにパルスオキシメータ15dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0148】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0149】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、陽圧空気の圧力を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適なCPAP治療条件で陽圧空気が患者へ供給され、最適な睡眠状態が得られる。
【0150】
具体的には次のような制御を行う。まず、本発明者の独自の知見によれば、被験者の心拍間隔HF波形に含まれているウルトラディアンリズム(睡眠周期)のパワーを時間軸上にプロットすると、健常者の例では図9に示すように、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きいことが確認された。
【0151】
従って、CPAP装置15aで治療を行う患者の睡眠の質を良好に保つためには、リアルタイムに測定される心拍間隔データから、心拍間隔HF波形に含まれるウルトラディアン成分のパワーをリアルタイムに解析生成する。
【0152】
そして、生成されたウルトラディアンパワー波形が、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きくなるよう、CPAP装置15aの運転条件を制御すればよい。このような制御の考え方は以下に説明する他の態様においても共通である。
【0153】
そのために、睡眠状態解析部15c−4はCPAP制御部15b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるよう陽圧のレベルを増減させる制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターン、すなわち良好な睡眠を表す理想的なウルトラディアンパワー波形を制御の目標値としてもよいし、あるいは、この患者において良好な睡眠状態にあるときのウルトラディアンパワー波形を予め取得しておき、この波形に近づくように制御してもよい。同様にこのような制御の考え方は以下に説明する他の態様においても共通である。
【0154】
この陽圧レベル制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部15c−4とCPAP制御部15b−2とは、睡眠中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析と陽圧レベルの変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適な陽圧レベルとなるよう制御を継続してもよい。
【0155】
また、この陽圧レベル制御は、この患者の陽圧レベルを決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこのCPAP装置15aを用いてOSA患者の治療を行う際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、OSA患者の心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0156】
ところで、上記の説明ではCPAP装置15aを用いて治療を行う対象の患者像として、従来構成のCPAP装置と同様に睡眠時無呼吸症候群の患者として説明した。
一方、本発明実施形態にかかるCPAP装置15aでは、その構成上の特徴から、上記の睡眠時無呼吸症候群患者に加えて、対象を慢性心疾患患者、特に心不全患者に広げることが可能となる。
すなわち、慢性心疾患患者、特に心不全患者に対して、呼吸ポンプ機能を補助するBilevel−PAPによる治療が血行動態を改善させることは知られている。
【0157】
しかし、慢性心疾患患者は、心不全などによって交感神経活性が過度に上昇しており、すなわち興奮状態にあるため、入眠障害があることが多く、その中でマスク装着が必要なBi−PAP治療はさらに入眠・睡眠の質を悪化させる可能性もあり、長期に使用することは避ける場合があった。
【0158】
それを解消するために、本実施形態のCPAP装置15aを用いれば、心拍変動解析の結果をフィードバックし、圧力レベル、圧力波形の調整を調整して、夜間の使用を可能とし、長期治療が可能となる。
【0159】
次に、本実施形態の気道陽圧式呼吸補助装置において、患者への印加圧力が一定であるCPAP装置やBilevel−PAPとは異なり、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加して、患者の肺換気量、呼吸数の両方かあるいはいずれか一方が予め定めた一定量に近づくように自動制御を行うサーボ型自動制御補助換気装置(Adaptive Servo Ventilator)を前提として構成した場合には、本発明の効果がより増進される点を説明する。
【0160】
正常呼吸(毎分8〜15回)において、心拍数は吸気時に増大し呼気時に減少する。この呼吸性洞不整脈(呼吸によって起こる心拍数の変化)はアトロピンにより心臓迷走神経を遮断するとほぼ完全に消失することから、主に心臓迷走神経活動が関与していることがわかる。
【0161】
吸気時相に同期して迷走神経活動が減弱する原因の一つに、呼吸中枢からの干渉により心臓迷走神経活動が抑制される中枢性機序がある(Hamlin RL,Smith CR,Smetzer DL.Sinus arrhythmia in the dogs.Am J Physiol 1966;210:321−328.Shykoff BE,Naqvi SJ,Menon AS,Slutsky AS.Respiratory sinus arrhythmia in dogs.J Clin Invest 1991;87:1612−1627.)。これは吸気時の横隔膜神経の活動に同期した心拍増加が、たとえ肺や胸郭の動きがなくとも認められるという事実に基づく。
【0162】
一方、呼吸性心拍変動を惹起する末梢性機序として、肺の伸展受容器からの求心性入力により迷走神経活動が吸気時に同期して遮断されるgating effectsがある。事実、心臓への迷走神経遠心路が保たれているが、肺からの迷走神経求心路が遮断されている肺移植患者において、呼吸性心拍変動が明らかに減弱することが知られている(Tara BH,Simon PM,Dempsey JA,Skatrud JB,Iber C.Respiratory sinus arrhythmia in humans:an obligatory role for vagal feedback from the lungs.J Appl Physiol 1995;78:638−645.)。
【0163】
従って、上記に説明したように、呼吸気の圧力を指標として制御を行うCPAP装置において、治療患者の呼吸動作の周期や換気量が睡眠の過程において一定ではなく変動をした場合に心拍間隔の推移に影響を与える可能性がある。
【0164】
ところが、サーボ型自動制御補助換気装置は、先に説明したとおり、治療患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら患者の肺換気量と、患者の呼吸数の両方あるいはいずれか一方を予め決められた一定値に近づくように制御を行うものであるから、このサーボ型自動制御補助換気装置を用いた場合には睡眠中の患者の呼吸動作における動作周期や肺換気量の変動は非常に少ない。
【0165】
従って、サーボ型自動制御補助換気装置を前提として、上記に説明したごとくの特徴を有する本実施例の気道陽圧式呼吸補助装置を構成した場合には、心拍間隔変動のHF成分に対する患者の呼吸動作変動の影響が減り、この結果、より精度の高い睡眠評価結果が得られることから、本実施形態の特有の効果である、より良質な睡眠を治療患者に提供するという点を他のタイプのCPAP装置(サーボ型自動制御補助換気装置ではないタイプ)よりも更に増進させることができる。
【0166】
尚、上記のサーボ型自動制御補助換気装置は、「オートセットCS」の製品名で2007年に帝人ファーマ株式会社が市場導入を行っている。
上記した「オートセットCS」は、下記に略号を用いて列挙する各国の特許又は特許出願によって、その構成の技術的特徴部分がカバーされている。尚、下記の表記では、例えばオーストラリアを「AU」とするなど国名を略号で記した。
【0167】
AU691200,AU697652,AU702820,AU709279,AU724589,AU730844,AU731800,AU736723,AU734771,AU750095,AU750761,AU756622,AU761189,AU 2002306200,CA2263126,EP0661071,EP1318307,JP3635097,JP3737698,NZ527088,US4944310,US5199424,US5245995,US5522382,US5704345,US6029665,US6138675,US6152129,US6240921,US6279569,US6363933,US6367474,US6398739,US6425395,US6502572,US6532959,US6591834,US6659101,US6945248,US6951217,US7004908,US7040317,US7077132。
【0168】
〔睡眠導入装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、不眠症患者あるいは健常者を睡眠状態に導いて良好な睡眠を実現することを目的とした、睡眠導入装置に本発明を適応した例を説明する。
【0169】
この種の睡眠導入装置は、例えば、特許第3868326号公報には、これから入眠しようとする患者に対してスピーカーから音を発声して聴音せしめ、この音に対して患者がジョイスティックを操作した動作の内容を分析することで、より早く患者が入眠にいたるように発声音を選択制御しようとするものである。
【0170】
また、特開2003−199831号公報には、枕に仕込んだスピーカーから超音波を発声させ、この超音波の態様を時間順次に変えることによって対象者をまずリラックスさせ、その後次第に入眠へ導こうとするものである。
【0171】
しかしながらこれら従来技術構成によれば、音や超音波など何らかの物理刺激を対象者に加えるものの、それら物理刺激はあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはまだ入眠に至らない対象者の動作から睡眠の進行を推定することによって選択しようとするばかりであって、対象者の睡眠の状態や睡眠の質を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適な物理刺激の態様を選択しようとするものではなかった。
【0172】
それに対して本実施形態の睡眠導入装置16aは、図16に例示した下記の構成を有している。まず物理刺激装置16bは、これから入眠をしようとする対象者に対して、出力部16b−1から光、音、超音波、熱、風、画像、匂い、接触刺激、電気刺激、磁気刺激など何らかの物理刺激を与えるよう構成され、且つその物理刺激の態様を、物理刺激制御部16b−2の機能により変化させることができる。例えば物理刺激が光であれば、その強度、波長(色)、点滅の有無や間隔、発光体の面積や形や位置、さらには光の発光の有無までをも変化させることができる。あるいは物理刺激が音であれば、その強度、波長(音程)、発声パターンや間隔、発声の方向や位置、さらには発声の有無までをも変化させることができる。
【0173】
パルスオキシメータ16bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0174】
睡眠状態解析部16cは、物理刺激装置16bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ16d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部16c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部16c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部16c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部16c−4を有している。
【0175】
睡眠状態解析部16c−4は、上記のようにパルスオキシメータ16dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0176】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0177】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、物理刺激装置16cが出力する物理刺激の態様を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適な条件で物理刺激が患者へ加えられ、最適な睡眠状態が得られる。
【0178】
具体的には次のような制御を行う。
まず、本発明者の独自の知見によれば、被験者の心拍間隔HF波形に含まれているウルトラディアンリズム(睡眠周期)のパワーを時間軸上にプロットすると、健常者の例では図9に示すように、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きいことが確認された。
【0179】
従って、睡眠導入装置16aを使用する使用者の睡眠の質を良好に保つためには、リアルタイムに測定される心拍間隔データから、心拍間隔HF波形に含まれるウルトラディアン成分のパワーをリアルタイムに解析生成する。
【0180】
そして、生成されたウルトラディアンパワー波形が、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きくなるよう、睡眠導入装置16aの運転条件を制御すればよい。
【0181】
そのために、睡眠状態解析部16c−4は物理制御部16b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるよう物理刺激の態様を変える制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターンを制御の目標値としてもよい。
【0182】
この物理刺激の制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部16c−4と物理制御部16b−2とは、睡眠中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析と物理刺激態様の変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適な物理刺激となるよう制御を継続してもよい。
【0183】
また、この物理刺激制御は、この患者に最適な物理刺激を決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこの睡眠導入装置16aを用いる際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0184】
〔マッサージ装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、対象者に対して機構的なアタッチメント部が揉み解し動作などを自動的に行う、マッサージ装置に本発明を適応した例を説明する。
【0185】
この種のマッサージ装置は、例えば、特開2007−89716号公報には、パラレルリンク機構式のマッサージ装置において、施療子を人体に対して独立に上下方向、左右幅方向、及び出退方向に安定かつ再現性良く移動制御して施療子に所望のマッサージ動作を行わせることを可能とするマッサージ装置が開示されている。
【0186】
また、特開2003−310679号公報には、ふくらはぎ、かかと、つま先までを同時に密着し得るように略ブーツ形状に形成すると共に、つま先から脚を入れる際に開くように接合部を開閉自在に設けたふくらはぎ用袷部を有する脚用押圧袋と、脚用押圧袋2の表皮材の略全面に張り付けた空気充填用袋体と、空気充填用袋体に空気の供給と排気をするエアポンプと、空気充填用袋体に設けた給排気孔とエアポンプとを連結する連結管と、を備えた脚用マッサージ装置が開示されている。
【0187】
しかしながらこれら従来技術構成によれば、マッサージの動作パターンはあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはマッサージの対象者が抱く主観的な快感や不快感に基づいて選択しようとするばかりであって、対象者の生理状態を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適なマッサージパターンを選択しようとするものではなかった。
【0188】
それに対して本実施形態であるマッサージ装置17aは、図17に例示するように下記の構成を有している。
まず、マッサージ本体17bは次のマッサージ刺激部17b−1、マッサージパターン制御部17b−2を有する。マッサージ刺激部17b−1は、マッサージの対象者に対して、ローラ、ハンド、エアカフなどアタッチメントを用いてマッサージ動作を行うための構成であって、具体的には公知のマッサージ装置と同様のアタッチメントを用いることができる。マッサージパターン制御部17b−2は上記のマッサージ刺激部17b−1が実行するマッサージの態様を変更制御するもので、マッサージの動作有無や、マッサージの強さやパターンなど動作の全てが制御対象である。
【0189】
パルスオキシメータ17bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0190】
睡眠状態解析部17cは、物理刺激装置17bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ17d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部17c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部17c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部17c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部17c−4を有している。
【0191】
睡眠状態解析部17c−4は、上記のようにパルスオキシメータ17dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0192】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0193】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、マッサージ刺激部17b−1が出力するマッサージの態様を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適な条件でマッサージ刺激が患者へ加えられ、最適な睡眠状態が得られる。
【0194】
そのために、睡眠状態解析部17c−4はマッサージパターン制御部17b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるようマッサージの態様を変える制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターンを制御の目標値としてもよい。
【0195】
このマッサージの制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部17c−4とマッサージパターン制御部17b−2とは、マッサージ中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析とマッサージ態様の変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適なマッサージ刺激となるよう制御を継続してもよい。
【0196】
また、このマッサージ刺激制御は、この患者に最適な物理刺激を決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこのマッサージ装置17aを用いる際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0197】
本実施形態のマッサージ装置17aを使用する使用者が睡眠に至らない場合、すなわち覚醒中においても、上記に説明した本実施形態特有の構成により有利な効果が得られる。なぜならば、本発明者の独自の知見によれば、先に説明をした通り、患者の生理状態が安定しており体調が良好な状態にあるのであれば、心拍間隔のような患者のバイタル情報の中に特定の生理的なリズム、例えばウルトラディアンリズム(睡眠周期)が支配的に現れる。
【0198】
従って、マッサージ装置17aにおいてマッサージ動作などの調整が適切になされ、患者の生理状態が良好に安定した場合には、覚醒中であったとしても、これら特定の周波数、例えばウルトラディアンリズムのパワーが心拍間隔に支配的に現れるものと考えられるので、既に説明したような本実施形態のマッサージ装置17aの効果である、対象者の生理状態を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適なマッサージパターンを選択することが可能となるからである。
【0199】
〔睡眠評価装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、睡眠状態にある対象者の睡眠の質を医療者が評価するためにデータを生成したり、あるいは得られたデータを用いて自動的に睡眠の質に関する評価値を生成する睡眠評価装置に本発明を適応した例を説明する。
【0200】
本実施形態の睡眠評価装置は、次に例示する構成を有している。
まず、パルスオキシメータは、既に説明したように評価対象者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0201】
出力部は、パルスオキシメータから入力する検出波形を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0202】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0203】
従って制御部が生成した、対象者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移をモニター画面に表示したり、プリンタを用いて印刷出力することによって、医療者がこれら表示物や印刷物を用いて対象者の睡眠の質を的確に評価診断することが可能となる。
【0204】
あるいは、自動診断部を別に設け、被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移波形をあらかじめ定められた手順に従い自動解析することによって、例えば一般的に理想形としてのウルトラディアンリズムパワー波形を予め保存しておき、計測した波形とこの理想波形との相違(ピークの明瞭さ、ピークまでの立ち上がり急峻さ、ピーク後の明瞭な下降、時間積分値の大小など)で自動的に睡眠の質を判定してもよい。
一般的な理想波形ではなく、その被験者自身の睡眠が良好な際の波形を予め保存し、計測した波形との相違点を自動評価してもよい。
【0205】
このように良好な波形との相違や類似から被験者の睡眠の質を自動評価することも可能である。このような自動評価機能のある装置を用いれば、患者が自宅で自己管理として睡眠の質を睡眠の度ごとに調べ、正常ではない場合に医療機関を受診するなどの使い方が考えられる。この場合、装置が自動診断を行うことの妥当性は関連法規を遵守して判断されるべきことは言うまでもない。
【0206】
更に、本実施形態は次のように変形実施することが可能である。
上記のごとき被験者の心拍間隔を用いて睡眠の質の評価を良好に行いうることを本発明者は見出したが、同時に本発明者は、上記のようにして得られた心拍間隔情報には、被験者の呼吸動作に起因する情報が重畳して含まれている点を見出した。
【0207】
そこで本睡眠評価装置の変形例として、呼吸検知部を新たに設け、この呼吸検知部が被験者の胸や腹に装着したバンドの張力の変化や、被験者の鼻腔部における気流の変化などで呼吸動作を検知し、この呼吸動作の情報を制御部へ出力するようにしてもよい。これら呼吸検知部の機能は、公知技術資料から構成実現することが可能である。
【0208】
制御部では入力された呼吸動作情報を、心拍間隔情報から除去あるいは抑圧し、より精度の高い心拍間隔情報を用いて更に精度の高い睡眠評価を行うことが可能となる。
ここでいう除去あるいは抑圧は種々の方法が可能であり、例えば、単純に心拍間隔情報波形から、呼吸動作情報波形の一定倍の量を減算する方法、呼吸動作情報からこの患者の呼吸動作に固有な動作周波数を算出し、その呼吸動作周波数成分について心拍間隔情報をフィルタリングする方法などである。
【0209】
〔外部型カウンターパルゼーション療法に用いる検査装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、心臓疾患の治療場面で心臓のポンプ作用を機械的に補助して心臓の負担を減らす手段のうち、外部型カウンターパルゼーション法に用いるための検査装置について説明を行う。
【0210】
外部型カウンターパルゼーション(Enhanced External Counterpulsation:EECPともいう)は、特開2007−75433号公報に記載があるように、特に心臓疾患治療において、所定の患者の部位をカフにより加圧して、当該部位における血管中の血流を促して、心臓ポンプ作用を補助するものである。即ち、例えば心臓の機能が弱まっている場合、心臓から遠位の箇所における血流が悪くなっており、この流れを促すことで、心機能の補助が達成される。
【0211】
このために外部型カウンターパルゼーションを実行するための装置は、臀部を含む患者のふくらはぎ、大腿下部及び/又は大腿上部の周りに巻かれた圧縮カフのセットの膨張及び収縮タイミング、膨張と収縮の速度、及び収縮力の大きさについて、医師による調整が行われる。
【0212】
調整後、カフは膨張して逆行性動脈血圧波を形成すると同時に末端からの静脈血戻りを押して拡張期(弛緩期)の始まり時に心臓に達するようにする。その結果、拡張期の中央大動脈圧力が増大し、静脈の戻りが増大する。カフの迅速で各カフ部が同期した同時の収縮によって、収縮期の吸い戻し(アンローディング)を作り、心臓の負荷を低減する。終了時の結果、心臓が血流に対して最小抵抗で弛緩状態にあるときに、拡張期の冠状動脈に潅流圧力を増大し、カフ収縮中に“ 吸込効果”による収縮期圧力を低下し;静脈戻りの増大及び収縮期圧力の低下によって心臓の出力(アウトプット)が増大する。
【0213】
上記の外部型カウンターパルゼーション療法を実施するにあたり、カフの収縮・膨張タイミング、収縮・膨張の速度、収縮力の大きさは医師が自らの知見に基づき患者ごとに決定をしている。
【0214】
従来、医師は上記調整を決定するために、患者大腿部動脈から心臓までカテーテルを入れ、このカテーテルを用いて血行動態を把握して調整を行っていた。血行動態とは、時間とともに変動する血液循環の状態を意味し、特に血圧と血流量の時間変化を指す。このような従来のカテーテルを用いた血行動態の把握によるEECP治療のための調整は侵襲性が高く患者の負担が大きいものであった。
【0215】
そこで本発明者は本発明を適用する一実施形態として上記のEECP治療の調整のために用いる検査装置として鋭意検討の結果、先に説明を行ったような心拍変動解析に基づく患者の生体情報の把握により、カテーテル侵襲検査を不要とする構成に到達するに至った。
【0216】
すなわち本実施形態の検査装置は、(1)患者の心拍間隔を検知して情報として収集する構成、例えば既に説明を行ったパルスオキシメータとその検出データのためのメモリー、(2)得られた心拍間隔について心拍間隔変動解析を行い、解析結果を表示など出力する構成、例えばインターフェース部を有するパーソナルコンピュータとディスプレイモニターとを主要な構成としている。これらの構成要素についてはその機能と具体的な構成は既に他の実施形態で説明したことから容易に類推が可能であり、ここでは繰り返さないこととする。
【0217】
先に見たとおり、本発明者は、心拍間隔変動解析の結果、脳波SWA成分と心拍間隔HF成分との間に、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に関するパワーの時間変化に強い相関があることを見出した。
【0218】
同様の観点から、EECP療法の調整値決定に必要な血行動態(血圧、血流の時間変化など)と、心拍間隔変動との間には、特定周波数に着目すれば強い相関関係が見出しうることが強く期待される。
【0219】
EECP療法自体は患者の睡眠の質と直接に関係はしないものの、本発明者の独自の知見によれば、先に説明をした通り患者の生理状態が安定を見て良好な状態にあるのであれば、心拍間隔のような患者のバイタル情報の中に特定の生理的なリズム、例えばウルトラディアンリズム(睡眠周期)が支配的に現れることが確認された。
【0220】
従って、EECP療法においてカフ収縮動作などの調整が適切になされ、患者の生理状態が良好に安定した場合には、これら特定の周波数、例えばウルトラディアンリズムのパワーが心拍間隔に支配的に現れるものと考えられる。
【0221】
そこで、先に説明したとおりの方法でウェーブレット係数から算出される、患者の心拍間隔HF成分に含まれるウルトラディアンリズムパワーをモニターしつつカフ収縮動作などの調整を行って、このウルトラディアンリズムパワーが増大する方向へ調整を行えば、患者の生理状態がより良好の状態となるよう、医師により調整がなされうることとなる。
【0222】
すなわち本発明の重要な展開態様として、患者の心拍間隔変動解析の結果から血行動態を把握することが可能となり、この結果、侵襲的な検査を行わずとも血行動態を把握できてEECP療法を受ける患者の負担を、従来よりも大きく低減させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明によれば、診断及び治療上必要な被験者の睡眠の評価を簡潔な構成で実現する、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法、コンピュータプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】本発明者が本発明に至る知見を得る際に用いた、評価システムの構成図である。
【図2】脳波デルタ波形と睡眠周期、睡眠ステージの推移を典型的に示したグラフである。
【図3】図1のシステムが実行する、脳波デルタ波形の生成を説明するための模式図である。
【図4】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成を説明するための模式図である。
【図5】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成を説明するための模式図である。
【図6】図1のシステムが実行する、脳波デルタ波形の生成、SWA波形に対するウェーブレット変換、その中のウルトラディアンリズム波形の生成を説明するための模式図である。
【図7】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成、それに対するウェーブレット変換、その中のウルトラディアンリズム波形の生成を説明するための模式図である。
【図8】図1のシステムが実行する、波形相関評価の概要を示す図である。
【図9】図1のシステムで評価を行った第1の症例のグラフである。
【図10】図1のシステムで評価を行った第2の症例のグラフである。
【図11】図1のシステムで評価を行った第3の症例のグラフである。
【図12】図1のシステムで評価を行った、2種類の波形のピーク位置についての相関を示すグラフである。
【図13】図1のシステムで評価を行った、2種類の波形の相互相関の平均値を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態である、睡眠評価システムの構成図である。
【図15】本発明の実施形態である、気道陽圧式呼吸補助装置の構成図である。
【図16】本発明の実施形態である、睡眠導入装置の構成図である。
【図17】本発明の実施形態である、マッサージ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0225】
1 睡眠評価システム
2 携帯型心電図波形記録計
3 心電図波形解析装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置に関するものであり、特に、従来と比較して簡潔、簡便な構成とすることにより、医療機関での入院検査を必要とせずに被験者の睡眠の質を確実に評価可能とする構成を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
被験者の睡眠の質を評価することは、種々の疾患の診断及び治療において重要である。
覚醒している期間を含めて、ヒトの睡眠には、覚醒期と、REM期(Rapid Eye Movement:眼球運動のみられる睡眠期間)、NREM(non−REM)期第1ステージ(傾睡眠初期)、NREM期第2ステージ(傾睡眠期)、NREM期第3ステージ(中等度睡眠期)、NREM期第4ステージ(深睡眠期)という6種類のステージが含まれている。
【0003】
正常な睡眠では、覚醒期から睡眠状態に入ると、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)と呼ばれる典型的には90分、一般的には60分〜120分の周期で睡眠状態の遷移が一晩に3周期繰り返され、各周期には上記のREM期、NREM期睡眠各ステージの一部あるいは全てが含まれており、各周期の中で睡眠の深さがサイクリックに変化すると共に、一晩の睡眠全体として睡眠初期の深い睡眠状態から次第に浅くなる傾向で推移する。
【0004】
従って睡眠の質は、このウルトラディアンリズムで繰り返される睡眠の周期が明確に見られるか、各周期においてはサイクリックな睡眠ステージ推移が明確に認められるか、一晩の睡眠全体として睡眠初期から終期に向かって次第に睡眠の深度が浅くなるように推移しているか、等により評価がなされる。
【0005】
質が良好ではない睡眠では、睡眠状態の推移においてウルトラディアンリズムが明確ではなく、例えば睡眠初期に深い睡眠ステージが見られることがなく、逆に終期においてより深い睡眠ステージとなる場合がある。
【0006】
質の良い睡眠を阻害する要因となる疾患は種々存在し、例えば閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive sleep apnea syndrome)では、就寝中の患者の舌部が重力により下がって物理的に気道を閉塞することにより呼吸が阻害されて覚醒をもたらし深い睡眠ステージに入ることが阻害される。
【0007】
また、慢性心不全(うっ血性心不全、CHF:congestive heart failure)疾患患者の約40%で見られるとされるチェーンストークス呼吸症状(CSR:Cheyne−Stokes respiration)もまた睡眠の質を低下させる要因となる。
【0008】
CSRは、小さい呼吸から一回換気量が漸増し大きな呼吸となった後,一回換気量が漸減し呼吸停止(10‐20秒程度の無呼吸)がおこり,その後再び同様の周期を繰り返す呼吸である。
【0009】
CHF患者においてCSRが発現する原因は次の様に理解される。
脳の呼吸中枢は、正常では血液中のCO2分圧を検知して呼吸コントロールを行っている。CHF患者は覚醒時にはCO2分圧に対する脳の感受性が高く、過換気の状態になっている。ところが睡眠中はこの感受性が少し回復して低下するため、血中のCO2分圧が覚醒時よりも上昇しないと(すなわち無呼吸にならないと)呼吸が開始されないため、上記のCSRが発現するものである。
【0010】
CHFにおいてチェーンストークス呼吸症状はしばしば観察され、夜間低酸素状態と覚醒による睡眠障害を伴う。夜間低酸素状態と覚醒は肺動脈圧と交感神経活性を増大させる原因となり、運動耐容能を低下させる。
【0011】
このように種々の疾患を原因として睡眠の質の低下が起こるため、被験者の睡眠の質を評価して診断及び治療に活用することが必要となる。従来において睡眠の質を評価する方法としては、「PSG(Polysomnography:睡眠ポリグラフ装置)」と呼ばれる装置を用いた下記する睡眠検査(以下、この睡眠検査を「PSG」あるいは「PSG検査」と呼ぶ)を行なうことが一般的であった。
【0012】
上記のPSGは、呼吸気流、いびき音、血中酸素飽和度(SpO2)、脳波、筋電図、眼球の動きなどを被験者の睡眠期間に亘って測定して、睡眠の深さ(睡眠段階)、睡眠の分断化や覚醒反応の有無などを医療者が定量的に評価する検査である。
【0013】
医療者はPSGの測定結果を用いて、例えば脳波波形の変化から睡眠周期期間を特定し、眼球運動や表面筋電の有無からREM期とNREM期の弁別を行うなどの方法で評価を行う。
【0014】
これらPSGについては例えば下記の特許文献1、特許文献2に開示がなされている。
またPSGとは異なるものの、被験者の心拍数の平均値と分散とを各睡眠ステージ毎に対比させたテーブルを予め準備しておき、検査時に得られた心拍数の平均値と分散とをこのテーブルを参照することとで、被験者の睡眠ステージを推定しようとする構成が開示されている。
【0015】
先に説明を行ったPSGは、脳波の測定を必要とするものであるので、用いられるPSG用装置が大規模となることから医療機関に設置される事が必要となると共に、脳波検出用電極を被験者に貼付する手技は高度のものが要求されるので専門の技師が貼付作業を行い、電極貼付がなされた後の被験者は移動が困難である。
【0016】
そこでPSGを行うために被験者は多くの場合2泊3日(一泊目がPSG実施、二泊目が治療における処方の決定)の日程で専門医療機関や、スリープラボと呼ばれる専用の検査施設に入院を行ない、これら医療機関内で検査を受ける必要があった。
【0017】
宿泊を伴う検査であるPSGは入院が必要とされ、脳波検査部を含む高度・複雑な装置の用意と専門技師の対応とが必要とされるため検査費用の増大を招くという課題が解決されなかった。
【0018】
またこれらの負担増から検査数が限定され、検査設備を備えた医療機関が限られるために、診断のために検査が必要な際には遠方の限られた専門医療機関まで移動や予約が必要であった。
【0019】
また特許文献3には、心拍変動のみの計測結果から睡眠ステージを推定しようとする構成が開示されており、脳波検査を必要としないことからこれら入院検査以外でも実施できる可能性があるものの、その被験者の心拍変動の平均値及び分散対睡眠ステージの参照用テーブルを予め用意する必要があり、かえって検査の作業負担増をもたらしていると共に、統計的な考察のみに基づく推定方法であり生理学的な根拠が不明であるのでこの推定方法の普遍性が明らかではない、という課題が解決されていない。
【0020】
【特許文献1】特許第2950038号公報
【特許文献2】特開2004−305258号公報
【特許文献3】特許第3754394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、入院検査を必要とせずに確実且つ簡潔に、生理学的な根拠のもとで睡眠の質を評価可能な、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心不全患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置又はを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記の課題を解決するために、下記の1)から20)に記載の睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心不全患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置を提供する。
【0023】
1)睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測する、計測手段と、
前記計測手段で計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを生成する、心拍間隔波形生成手段と、
前記心拍間隔波形生成手段で得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する、算出手段と、
前記算出手段で算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示及び/又は印刷を行う出力手段と、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置。
2)前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする1)に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
3)前記心拍間隔波形生成手段は、次のステップA〜Dを含んで前記波形生成を実行することを特徴とする、1)又は2)に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップA:前記計測手段で計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップB:前記ステップAで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップC:前記ステップBで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップD:前記ステップBで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
4)前記算出手段は、次のステップE〜Gを含んで算出を実行することを特徴とする、1)〜3)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップE:前記心拍間隔波形生成手段で得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップF:前記ステップEで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップG:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
5)睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測手段を用いて計測する第1のステップと、
前記第1のステップで計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを、心拍間隔波形生成手段を用いて生成する第2のステップと、
前記第2のステップで得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示手段を用いた表示及び/又は印刷手段を用いた印刷を行う第4のステップと、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法。
6)前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする5)に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
7)前記第2のステップは、次のステップ2A〜2Dを含んでなることを特徴とする、5)又は6)に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ2A:前記第1のステップで計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップ2B:前記ステップ2Aで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップ2C:前記ステップ2Bで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップ2D:前記ステップ2Bで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
8)前記第3のステップは、次のステップ3A〜3Cを含んでなることを特徴とする、5)〜7)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ3A:前記第2のステップで得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップ3B:前記ステップ3Aで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップ3C:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
9)被験者の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法をコンピュータが実行するためのコンピュータプログラムであって、5)〜8)のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法が有する各実行ステップを含んでなることを特徴とするコンピュータプログラム。
10)大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、マスク手段を介して圧縮空気を継続的に供給するための呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする呼吸補助装置。
11)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、10)に記載の呼吸補助装置。
12)大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有し、且つ、前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であるとともに、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置。
13)前記圧縮空気用送風手段は、治療患者の肺換気量、及び/又は治療患者の呼吸数が予め定めた一定量に近づくよう前記送出圧を自動変更制御するよう構成されたことを特徴とする、10)〜12)のいずれか1項に記載の呼吸補助装置。
14)対象者に対して物理刺激を与えて睡眠導入を行うための睡眠導入装置であって、
(1)睡眠導入を行おうとする対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記物理刺激の態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする睡眠導入装置。
15)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記物理刺激の態様の変更制御を行うことを特徴とする、14)に記載の睡眠導入装置。
16)マッサージの態様を変更可能に構成したマッサージ装置であって、
(1)マッサージを行う対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記マッサージの態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とするマッサージ装置。
17)前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記マッサージの態様の変更制御を行うことを特徴とする、16)に記載の睡眠導入装置。
18)被験者の睡眠の質を評価するために用いる検査装置であって、
睡眠状態にある被験者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷する出力手段とを有する検査装置。
19)当該被験者の呼吸動作の情報を継続的に検知する呼吸検知手段を更に備え、前記出力手段は前記心拍間隔の波形に含まれる前記呼吸動作の波形を抑圧した波形の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷することを特徴とする18)に記載の検査装置。
20)心臓疾患治療において患者の部位をカフにより加圧して当該部位における血管中の血流を促すことで心臓ポンプ作用を補助する外部型カウンターパルゼーション療法における、前記加圧の態様を決定するために用いる検査装置であって、
当該患者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の情報に基づき、当該患者の血行動態に関する情報を表示又は印刷する出力手段と、を有する検査装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記の構成とすることにより、入院検査を必要とせずに確実且つ簡潔に、生理学的な根拠のもとで睡眠の質を評価可能な、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置、方法、コンピュータプログラム、呼吸補助装置、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置、睡眠導入装置、マッサージ装置、検査装置を提供する、という顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、まず、本発明者が本発明をなすに至る重要な基礎となった、本発明者による知見について説明を行う。
【0026】
〔本発明者による知見の要点〕
本発明者はまず、睡眠中の被験者の脳波波形と、睡眠の質との関係を鋭意研究の結果、脳波の0.5〜2.5Hz周波数領域の成分が時間と共に変化する波形(SWA:Slow Wave Activityともいう)には、約90分周期のウルトラディアンリズム(睡眠周期)成分が含まれ、且つ、SWAに含まれるウルトラディアンリズムのパワーの時間変化は、睡眠の質の良し悪しと有意に関係する点を見出した。
【0027】
具体的には、健常者であって、良好な睡眠を得ていることがPSGなどの評価手段でわかっている被験者のウルトラディアンリズムのパワーの推移は、波形の形状に独特な特徴があることがわかった。
【0028】
すなわち、後に説明する図9のSWA解析波形60(健常者)に見られるごとく、睡眠初期に明瞭なピークがありピークまでの波形は急峻に立ち上がり、ピークの後はなだらかに下降し覚醒の直前に最低となる、すなわち、睡眠初期に深い眠りのレベルが見られ、その後覚醒するまでなだらかに睡眠は浅くなる。
【0029】
また健常者の場合にはウルトラディアンリズムパワー波形が囲む面積、すなわちウルトラディアンリズムパワー波形の時間積分値は、非健常者と比較して相対的に大きな値となる。言い換えれば健常者においてはウルトラディアンリズムパワーの値は十分に大きい。
【0030】
これに対して、非健常者例えば虚血性心疾患患者で、PSGなどで睡眠の質が良好ではないことがわかっている被験者の場合には、同じく後に説明を行う図10のSWA解析波形70(虚血性心疾患患者)に見るごとく、波形のピークは明瞭ではなく本図に見られる例では小さなピークが2つあり、ピークまでの波形立ち上がりが急峻ではない。またピークの後の波形の降下も明瞭ではなく、波形の時間積分値も比較的小さい。
【0031】
上記の知見から、脳波SWAに含まれるウルトラディアンリズムを、この後に説明するウェーブレット解析などの数学的手法を用いてそのパワーの推移を調べれば、被験者の睡眠の質を精度よく評価することが可能となる。
【0032】
一方、脳波SWA波形を用いた解析評価は、先に説明したPSGを用いた入院検査を必要とするので、被験者の負担が大きい、医療経済的なメリットが少ない、という課題は以前残る。
ところが本発明者は更に、被験者の心電図から得られる心拍間隔の変動波形に着目した。
【0033】
心拍間隔変動波形の高周波成分(HF)について、そこに含まれるウルトラディアンリズムのパワーの時間推移を同様にウェーブレット解析手法で調べたところ、上記の、脳波SWAに含まれるウルトラディアンリズムパワー波形にとてもよく似た波形が得られた。2つの波形の相関係数はほぼ1.0であった。
従って、脳波に代えて、心拍間隔の変動波形を得ることで睡眠の質を確実に評価することが可能であることを本発明者は初めて見出したのである。
【0034】
心拍間隔は、ホルター心電図計と呼ばれる体表面に装着して被験者が移動可能な心電図計や、指先に光センサを装着して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメータで計測することが可能であるので、これらの手段によれば入院検査を必要とせず、また計測装置自体が構成が簡素で安価である。
【0035】
このように本発明者による知見を用いれば、従来より簡易な装置で入院を必要とすることなく被験者の睡眠の質を評価することができるので、睡眠時無呼吸症候群患者の発見に有効であるとともに、睡眠時無呼吸患者などの治療器で用いるCPAP装置の制御のために、リアルタイムに患者の睡眠の質をモニターして、最適な運転条件となるよう制御を行うことができる。
【0036】
従来、患者あるいは被験者の睡眠の質をリアルタイムにモニタリングして、治療器を用いた治療などの最適制御を行おうとする構成は、患者の自宅で運転できる程度の小型、軽量、簡便な装置では実現されておらず、今後の在宅医療において大きな改善効果が期待されるものである。
このように大きな効果を奏する本発明を具体化する根幹となった数学的手法であるウェーブレット解析から、説明を始めることとする。
【0037】
〔ウェーブレット解析について〕
以下に説明を行う本発明の核心部分は、従来、睡眠の質との明確な関連が報告されていなかった心拍間隔の時間推移を示す波形の、特にその高周波成分に含まれる睡眠周期(ウルトラディアンリズム)成分の時間に応じた変化を表示させるよう構成することにより、医療者がこのウルトラディアンリズムパワーの時間推移を観察して被験者の睡眠の質を良好に評価可能とした点にある。
【0038】
そこで本発明の実施形態においては、種々の周波数成分を含み且つこれら周波数成分のパワーが様々な時間推移をしている解析対象波形において、特定の周波数成分のパワーが時間と共にどのように変化しているかを精度良く解析する数学的手法である、ウェーブレット解析(wavelet analysis)が極めて有効に活用されている。
【0039】
本発明は以下に説明を行う本発明者による知見を基盤とするものであり、この知見の概要は、睡眠中の脳波デルタ波波形と心拍間隔の高周波成分とが、上記の睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に相当する周波数におけるウェーブレット係数のパワーの時系列データ、すなわち時間と共に変化する波形データをそれぞれについて算出して対比させたところ、強い相関が見られた、というものである。
【0040】
生体信号を含めた不規則連続信号系列に対する伝統的な解析手法として、フーリエ解析が良く知られている。
フーリエ解析は、例えば下記公知文献1で詳細に開示がなされているように、周期を有する関数をフーリエ級数展開する手法をさらに非周期性関数にまで拡張し、正弦波波形という周期性と自己相似性とを有する関数波形の無限次数を含めた重畳によって、任意の不規則連続信号系列を表現しようとするものである(公知文献1:城戸健一「デジタル信号処理入門」13〜15ページ(昭和60年7月20日発行、丸善株式会社))。
【0041】
すなわち時間軸上の無限区間に存在する時間tを変数とする関数x(t)と、周波数軸上の無限区間に存在する周波数fを変数とする関数X(f)とを、下記、式1及び式2が成立するように選ぶことができて、このときこれら2つの式をフーリエ変換対と呼び、X(f)をx(t)のフーリエ変換と呼ぶ。
【0042】
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
すなわちフーリエ変換対は、時間tの関数である波形x(t)を周波数fの関数である複素振幅X(f)の複素指数関数(ここでは周波数領域を複素領域としたことから、実正弦関数あるいは実余弦関数の代わりに複素指数関数が用いられる) exp(j2πft)の集まりとして表すときの、x(t)とX(f)との関係を示すものである。式1に示されるフーリエ変換は時間関数から周波数関数を求め、式2に示されるフーリエ逆変換は周波数関数から時間関数を求めるものである。つまり、時間領域を変数域とする関数は、フーリエ変換を行うことによって、時間領域を変数域とする関数へ変換される。
【0045】
上記のフーリエ変換を用いる解析手法であるフーリエ解析は、解析対象である関数波形をその全変数領域において周波数解析しようとするものであるので、時間軸上の局在的傾向が問題とならない不連続信号の解析では極めて有効であるものの、下記の公知文献2に示すように、特定の特徴を有している不連続信号の解析に用いる場合には解決し難い課題が存在し、これらへの解析の一手段として近年、ウェーブレット解析が提唱されている(公知文献2:山田道夫:ウェーブレット変換とは何か(公知文献2:「数理科学」1992年12月号、11〜14ページ、サイエンス社))。
【0046】
上記公知文献2によれば、フーリエ変換で得られる周波数領域での情報であるフーリエスペクトルは時刻に関する情報を失っているため、スペクトルと局所的事象との対応関係を見出すことは難しい。
【0047】
例えば、時刻とともに周波数が単調に増加していく場合でも、スペクトルだけを見て周波数変化の傾向を判断することは不可能である。また各時刻において明瞭な局所的相似性を持つデータ、つまりそれぞれの時刻の付近だけとってみればはっきりしたスペクトルのべき則が現れる場合でも、時系列の中に異なる相似性を持つ時刻が混在する時にはスペクトルの明瞭なべき則は期待できず、スペクトルの形でもって相似性の特徴を判断することは殆ど不可能である。
【0048】
フーリエ変換のこのような不都合な性質は、積分核exp(j2πft)が一様に広がった関数であることに起因している。
そこで、変換対象データを時間軸上の局所部分に限定をおこなってフーリエ変換を行う手法(窓フーリエ変換)が用いられることもあるが、フーリエ解析の不確定性原理により時間と周波数について同時には精度を上げることが出来ないという課題がある。すなわち窓フーリエ変換は、周期性と相似性の両方を部分的に崩しながら局在化したものに相当し、抜本的な解決とはならない。
【0049】
これに対して、フーリエ変換を周期性は崩しながらも相似性は厳格に保ったまま局所化するのがウェーブレット(wavelet:小波、さざ波)変換である。
このウェーブレット変換は周波数の分解能はそれ程高い訳ではないが、核関数の局所性と相似性から、データの持つ局所相似性の解析に非常に適している。このウェーブレット解析とは、フーリエ解析における周期性を局所性に置き換えた道具と言うことができる。
【0050】
具体的なウェーブレット解析の手順を引き続き公知文献2の記述に従い説明すると、1次元の場合において、一つの関数φ(t)を選び、これをアナライジングウェーブレット(analyzing wavelet)あるいはマザーウェーブレット(mother wavelet)と呼ぶ。このφ(t)が満たすべき条件を定性的に述べれば、「遠くで十分早く減衰する関数」である。アナライジングウェーブレットの具体例としては、メキシカンハット関数など複数のものが提案され実際に解析に用いられている。
このアナライジングウェーブレットを用いて式3のような2つのパラメータの関数系(多数の関数からなる集合)を作り、これをウェーブレットと呼ぶ。
【0051】
【数3】
【0052】
ウェーブレットは互いに相似な関数からなり、フーリエ変換と比較すると、aは周期(周波数の逆数)に役割を持つが、bは時刻のパラメータでありフーリエ変換では対応するものが存在しない。
【0053】
パラメータa,bが連続である場合の連続ウェーブレット変換は、上記のアナライジングウェーブレット(式3)をフーリエ変換における積分核exp(j2πft)のように用いたものとみなすことが出来て、フーリエ変換と同様に順変換と逆変換とが存在し、それぞれ式4、式5、及び式6で示される。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
但し、
【数6】
ここで、T(a,b)は、解析対象関数であるf(t)の(連続)ウェーブレット変換と呼ばれ、以下「ウェーブレット係数」とも呼ぶ。
【0057】
連続ウェーブレット変換では、フーリエ解析におけるParsevalの関係に似た式が成立し、次のような等長感形式、つまり「エネルギー分配則」の関係式である式7が成立する。
【0058】
【数7】
【0059】
この式7から、「時刻bにおいて、周波数1/aの成分の持つエネルギー」は|T(a,b)|2であるとして時系列の特性を論じることも可能である。また例えば|T(a,b)|2(これを「パワー」と呼ぶ)をab平面上に鳥瞰図あるいはカラープロットとして表示し、そこに見られるパターンを用いて時系列中に含まれる種々の現象を分類する、といった使い方もある。
【0060】
つまり、解析対象の波形に対してウェーブレット変換を行うことにより、周波数1/aと時刻bという二つの変数空間におけるそれぞれの点に対応したウェーブレット係数が算出され、このウェーブレット係数を用いて各周波数1/a、時刻bに対するエネルギーの指標としてパワーを算出することが出来る。
【0061】
また下記の公知文献3には、ウェーブレット解析の応用、特に不連続信号検出機能について解説がなされている(公知文献3:芦野隆一、山本鎮男「ウェーブレット解析〜誕生・発展・応用」23〜25ページ、131〜133ページ(1997年6月5日発行、共立出版))。
【0062】
ウェーブレット解析の応用を考えたとき、その第一の機能は不連続信号の検出である。自然現象に見られる不連続信号は極めて小さく、しかも雑音に覆われている。ウェーブレット変換は、この信号の不連続を見知する能力がある。なぜならば時間軸上の不連続点でのウェーブレット係数の絶対値が、その他の点より一段と大きくなり、その不連続点を検出できるからである。
【0063】
このように、種々の周波数成分が局在的傾向をもって重畳している複雑な不連続信号波形の解析には、ウェーブレット解析が有効に働くものと考えられ、本発明者はその点に着目して以下に説明する知見、及び本発明に到達したのである。
【0064】
〔脳波徐波成分と心拍変動高周波成分との対照評価システム〕
次に、本発明者が以下に説明を行う知見を得るに際して用いた評価システムである、脳波・心拍変動対照評価システム(以下、対照評価システムともいう)10の説明を行う。
【0065】
図1に概要構成図を示す対照評価システム10は、次のような構成を有している。
すなわち、まず、被験者の頭部表皮に貼付された電極から脳波波形を検出し増幅する脳波検出部10−1、同じく被験者の胸部表皮に貼付された電極から心電図波形を検出して増幅する心電図波形検出部10−2、これら検出増幅された脳波波形及び心電図波形をアナログーデジタル変換し出力するAD変換部10−3、デジタル変換出力された脳波波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた複数のフーリエスペクトルから0.5〜2.5Hz周波数領域(この領域の成分を、徐波成分、デルタ(δ)波成分とも呼ぶ)を抽出して、上記の5秒間のずらし間隔で時間と共に変化する波形を生成出力するSWA(Slow Wave Activity)生成部10−4を有している。
【0066】
尚、上記の徐波成分、すなわちデルタ(δ)波成分が時間と共にどのように変化するかを示す波形を、スローウェーブアクティビティ(SWA:Slow Wave Activity)と呼んでいる。
【0067】
更に対象評価システム10は、デジタル変換出力された心電図波形から心拍の間隔時間を抽出して一連のデータ系列を生成し、このデータ系列から時間共に変動する波形である心拍間隔波形を生成し、さらにこの心拍間隔波形に対して5分間というフーリエ窓期間について50秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた複数のフーリエスペクトルから0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF:High Frequency Powerとも呼ぶ)を抽出して、上記の5秒間のずらし間隔で時間と共に変化する波形を生成出力する心拍変動HF(High Frequency)波形生成部10−5を有している。
【0068】
更に、これらデルタ波成分と心拍変動HF成分に対してそれぞれウェーブレット変換を行いウェーブレット係数を生成するウェーブレット解析部10−6、これらのウェーブレット変換の結果(すなわちウェーブレット係数)の中で0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min、ウルトラディアンリズムに相当する)の周波数成分のデータ系列(時間と共に変化する波形)を抽出して、これら脳派デルタ波及び心拍変動HF波のウェーブレット変換におけるウルトラディアンリズム相当成分(ウルトラディアンパワーともいう)の相互相関係数を時系列で計算出力する相関解析部10−7、ウェーブレット解析部10−6及び相関解析部10−7それぞれの出力結果を表示画面に表示あるいは紙媒体等に印刷出力する出力部10−8を有している。
【0069】
この出力部10−8は、より具体的には、パーソナルコンピュータに付属するかあるいは独立して設けられた、CRTモニター、液晶モニター、インクジェットプリンター、トナー方式プリンターなどであり、今後実用化がなされるものを含めて、画面表示や印刷を行う目的で用いられる上記以外の技術的構成は全てこの出力部10−8として用いることができる。
上記した各構成において、具体的にどのような波形あるいはデータが生成され、どのように加工かされるかは、別途説明を行う。
【0070】
尚、図1図示の構成は信号の流れに従い、これら信号あるいは波形の処理機能をブロック(信号処理要素)に見立てて各信号処理要素を示したものであって、実際のシステムでは、EEG(Electroencephalography、脳波波形記録計)、ECG(Electrocardiogram、心電図波形記録計)、コンピュータ、コンピュータプログラムなどによる最適な組み合わせによりその構成が実現される。
【0071】
また本評価システム10において、解析途中あるいは最終結果のデータを記録しておき、読み出しアクセスに応じる記録部を適宜設けても勿論よく、本システム10の構成図や他の図においては、図を簡潔とするためにいちいちこれら構成を示すことは避けている。
【0072】
次に、本評価システム10を用いて脳波波形と心拍変動波形との対照評価を行う流れを、典型的な波形図模式図を用いて処理の流れを説明しようとする図面である図2〜図8を用いて説明する。
【0073】
脳波デルタ波成分パワーの時間推移(SWA)は、先に説明した睡眠周期(ウルトラディアンリズム)と密接な関連を有することが既に知られている。すなわち、図2における、デルタ波パワーの時間推移(SWA)グラフ20と、グラフ21示すような睡眠周期と睡眠ステージとが連動同期して、睡眠が推移することが典型的である。
そこで今回本発明者の発案により、このSWAに含まれているウルトラディアンリズム相当の成分を抽出表示する評価を行った。
【0074】
すなわち、本システム10が解析あるいは生成する波形を段階ごとに模式的に示す図3において、AD変換部10−3が生成した種々の周波数成分を含んだ未処理の脳波波形は図3(A)に示す如くであり、これに対してSWA生成部10−4は、この波形の起点3aから窓時間tFFT、所定具体的には5分間の変換窓3b1を設定し、この区間の波形に対して高速フーリエ変換(FFT)を実行する。
実行の結果、この区間の波形のフーリエスペクトル3c1が生成される。
【0075】
次にSWA生成部10−4は、波形の起点3aからずらし時間ts、具体的には50秒だけ時間順方向にずらした位置から、同じく窓時間tFFTのフーリエ変換窓3b2を設定して高速フーリエ変換を実行し、この結果この区間におけるフーリエスペクトル3c2を得る。
【0076】
以下同じ様に、フーリエ変換窓の起点をずらし時間tsの整数倍ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓で高速フーリエ変換を実行してフーリエスペクトルを生成し、この操作を、フーリエ変換窓の終点が脳波波形の終点3dに達するまで続行する。
【0077】
次にSWA生成部10−4は、上記の操作で得られた複数のフーリエスペクトル全てについて、0.5〜2.5Hz周波数領域(徐波成分、デルタ(δ)波成分)を抽出してそのパワーをそれぞれのフーリエ窓の起点の時刻にプロットした波形である、SWA波形3eを得る。このSWA波形は、脳波計測開始時刻から計測終了時刻までの例えば8時間に亘り、脳波デルタ波成分が時間と共に変化する推移を示した波形である。
【0078】
次に、ウェーブレット解析部10−6は、上記生成されたSWA波形3eに対してウェーブレット変換を実行する。
具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウエーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0079】
以上は、脳波デルタ波の推移波形についてのウェーブレット係数算出のための手順であった。次に、心拍間隔変動HF成分の推移波形についてのウェーブレット係数算出の手順を説明する。
【0080】
脳波の場合と同様に、各段階における波形の解析や生成を模式的に示した図4において、まず図4(A)はAD変換部10−3が生成した、測定して変形を加えていない心電図波形である。
【0081】
HF波形生成部10−5は、この心電図波形を解析し、心拍に相当する波形ポイントを特定して、隣接する心拍間の時間間隔である心拍間隔RR1,RR2,・・・を順次算出する。
【0082】
次にHF波形生成部10−5は、算出した心拍間隔を各心拍の時刻ごとに時間軸に沿ってプロットし、プロットした各点を例えばスプライン補完を用いて波形として連続させて心拍間隔波形(未修正)を図4(B)のように生成する。
【0083】
このようにして得られた波形は、心拍間隔の変動に伴う細かい変動分が見られると共に、各所に不連続なスパイク上の点を有している。これは正常な心拍とは別にPVC(心房期外収縮)による心拍が発生したためであり、この測定点がこのあとの処理で残っていると正しい周波数スペクトルが得られず正しい解析結果が得られないため除去が必要である。
【0084】
そこでHF波形生成部10−5は、図4(D)に示すように、まず未修正の心拍間隔波形4bのトレンド波形(変化の傾向、すなわち変化のトレンドを示す波形。以下同様。)4cを、低周波フィルタリングあるいは複数測定点の平均又はそれらの組み合わせにより生成する。
【0085】
次に、このトレンド波形4cから所定距離を有する閾値の波形4eを設け、上記の不連続なスパイク点4dがこの閾値を越えた場合には、このスパイク点4dを全体の波形から除去すると共に、除去をしたあとに上記のトレンド波形4cの値で補完を行う。
【0086】
次に図4(E)に示すように、上記作業で得られたスパイク測定点を除去した心拍間隔波形4gを平均値がゼロとなるように、すなわち直流分がなくなるようにシフトする。
【0087】
次にHF波形生成部10−5は、シフトにより直流分を除去した心拍間隔波形5aに対して、図5(A)に見るように、脳波波形の処理と同様の考え方で、50秒間ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓5b1、5b2、・・・において高速フーリエ変換を実行し、それぞれのフーリエスペクトルを生成する。
【0088】
そして得られたこれらのフーリエスペクトルにおいて、0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF)(一つのフーリエスペクトルにおいてHF成分を5cで示す)を抽出し、同じくフーリエ窓の起点の時刻ごとにプロットして、時間と共に変化する波形として心拍間隔のHF成分波形(図5(C))を得る。
【0089】
更にHF波形生成部10−5は、得られた心拍間隔のHF成分波形、あるいはこのHF成分波形について不連続なスパイク点を除去したり、直流分を除去したりするなどの加工をした上記の波形(図5(C)、以下同様)に対してウェーブレット変換を行う。
【0090】
すなわち、具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウェーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0091】
最後に相関解析部10−7は、上記で得られた脳波デルタ波成分のウェーブレット係数、及び心拍間隔波形HF成分のウェーブレット係数を用いて、それぞれのウェーブレット係数の中でウルトラディアンリズムに相当する周波数のパワーの時間推移の相関を次の様に処理して出力する。
【0092】
図6において、上記に説明したとおりの処理で生成された、SWAの時系列データ(時間と共に変化する波形)30についてウェーブレット変換を実行して、時間―周波数平面における高さとしてウェーブレット係数のパワーを示した図である31における、0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min)すなわちウルトラディアンリズム相当におけるパワーの時間推移を図6の32に示す。
【0093】
同様にして、図7の40に示す如くの心拍変動HF波形に対してウェーブレット変換を実行し(図7の41に図示する)、その中でウルトラディアンリズム相当の周波数に対応したパワーの時間推移を図4の42に図示する。
【0094】
相関解析部10−7は、上記の脳波デルタ波形ウェーブレット変換(係数)ウルトラディアンリズム相当周波数のパワーの時間推移時系列データ(グラフをあらためて図8の50に示す)と、心拍変動HF波形ウェーブレット変換(係数)ウルトラディアンリズム相当周波数のパワーの時間推移時系列データ(同じくグラフを図8の51に示す)とを相互相関(Cross correlation)評価し、評価結果を出力部10−8を用いて表示又は印刷で出力する。尚相互相関評価は公知の方法を用いている。
【0095】
〔症例に基づく対照評価の結果〕
上記に説明を行った評価システム10を用いて、本発明者は複数の症例(被験者)に対する評価を行った。以下にグラフを用いて説明する症例は3例である。
【0096】
第1の症例は27歳、男性、健常者であり、第2の症例は62歳、男性、虚血性心疾患、LVEF(Left ventricular ejection fractions:左室駆出率)が62%であり、第3の症例は65歳、男性、虚血性心疾患、LVEFが25.4%である。
【0097】
健常者である第1の症例では、図9の60に示すように、SWA波形から睡眠周期が明確であり、ウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは比較的初期(測定開始から2hours)に明瞭なピークが認められた。そしてこの症例1における心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーもまた、図9の61に示すように測定開始から2時間後に明瞭なピークが認められ、これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。事実、これら2つの波形の相互相関係数は図9の62に示すとおりほぼ1.0であった。尚、62における縦軸は相関係数、横軸は時間軸上で2つの波形を互いにずらして相関係数を算出した際のずらし量を意味し、横軸のゼロは最大相関を示した時刻である。
【0098】
次に、虚血性心疾患患者である第2の症例では、図10の70に示すように、SWA波形から判断を行っても睡眠周期が明確ではなく、SWA波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは小さなピークを2点有している。
【0099】
心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーも同様であって、図10の71に示すように小さなピークを2点有していて、これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。これら2つの波形の相互相関係数は図7の72に示すとおりほぼ1.0である点は第1の症例と同様であった。
【0100】
更に、同じく虚血性心疾患患者である第3の症例では、図11の80に示すように、SWA波形から睡眠周期が明確ではないものの、ウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーは比較的明瞭なピークを有している。しかしこのピークは測定開始から約3時間後の位置にあり、健常者である第1の症例よりも遅い位置にある。心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーも同様であって、図11の81に示すように第1の症例よりも遅れた位置に比較的明瞭なピークが認められた。これら2つの波形は視認で理解される形状上の明瞭な相似が認められた。これら2つの波形の相互相関係数は図11の82に示すとおりほぼ1.0である点は第1の症例、第2の症例と同様であった。
【0101】
心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワーが時間と共に変動する波形において、睡眠の質が良い場合にそのピークが明確であるのは、この波形中の睡眠初期の段階でウルトラディアンリズム成分が大きな比重を占めており、その後の睡眠途中の時点でそのウルトラディアンリズムが消失するので上記パワーが明確な増減ピークを持つ、という理由が考えられる。
【0102】
同じく、心拍変動HF波形のウェーブレット係数ウルトラディアンリズムのパワー波形において、睡眠の質が良い場合にそのピークが相対的に早い時刻に見られるのは、質の良い睡眠においてはウルトラディアンリズム成分が睡眠初期の時刻に大きな比重を有するからと理解される。
【0103】
次に症例数を22と増やして、SWAと心拍変動HFのウェーブレット変換ウルトラディアンパワーのピークの位置を比較対照させたところ、良い相関が見られ、図12に示すとおり、相関係数は0.72であった。
【0104】
尚、これら22の症例は、健常者が3例、年齢は27.6±3.8歳であり、その他19例はいずれも心疾患患者(内訳は虚血性心疾患が8例、DCM(特発性拡張型心筋症)が5例、その他が6例)であり、NYHA(ニューヨーク心臓協会:New York Heart Association)分類でI度が16名、II度が2名、III度が1名であった。
【0105】
更に、これら22症例について、上記した脳波デルタ波形ウルトラディアンリズムパワー時系列データと、心拍変動HF波系ウルトラディアンリズムパワーの時系列データとの相互相関関数の平均、平均に対する分散を加算及び減算した幅のグラフは図13に示すとおりである。
【0106】
以上の症例に基づく対照評価の結果から、本発明者は以下に示す知見を得た。
睡眠時における脳波徐波成分(デルタ波成分)の時間推移波形であるSWAと、心拍変動高周波成分の時間推移波形とは、それぞれのウェーブレット変換によるウルトラディアンリズムに相当する周波数成分パワーの時間推移波形を比較したところ、双方の波形のピーク到達時間、及びそれぞれの波形形状において、有意な相関を認めた。
【0107】
すなわち、脳波徐波成分と心拍変動高周波成分とに含まれているウルトラディアンパワーは密接に関連しており、高い相関が認められた。つまり、脳波デルタ波形に含まれており睡眠の質の評価に利用可能であるウルトラディアンリズムのパワーは、心拍変動高周波成分にもまた含まれており、このことから、睡眠中の心拍変動高周波成分のウルトラディアンリズムから睡眠の質を予測可能である、という知見を本発明者は得たのである。
【0108】
〔心拍変動データに基づく睡眠評価システム〕
次に、上記に説明した知見に基づいて、本発明者が完成するに至った本発明の実施形態である、心拍変動データに基づく睡眠評価システム(以下、睡眠評価システム)1について説明を行う。
【0109】
本睡眠評価システム1は、図14の構成図に示すように、携帯型心電図波形記録計2と、心電図波形解析装置3とを備えている。携帯型心電図波形記録計2は、典型的には医療機関において被験者に装着され、被験者は帰宅後に一晩の睡眠において連続的に心電図波形を記録保持し、その後医療機関へ搬送されるものである。この携帯型心電図波形記録計2は、既に医療現場で用いられているホルター心電図計によって実現してもよい。
【0110】
上記の機能を実現するために携帯型心電図波形記録計2は、被験者の胸部上皮に貼付する電極2−1、心電図波形検出増幅部2−2、A/D変換部2−3、デジタル信号として心電図波形を記録保持するメモリー部2−4、メモリー部2−4からのデジタル心電図波形データを外部へ出力するための出力端子2−5を有している。
【0111】
また、同じく本睡眠評価システム1を構成する心電図波形解析装置3は、典型的には表示画面やプリンターを含むパーソナルコンピュータシステムと、そのコンピュータにインストールされて動作を行うコンピュータプログラムにより実現されるもので、医療機関などに設置され、被験者からの心電図波形取得が終了した携帯型心電図波形記録計2が接続され、その心電図波形データが転送されて、先に説明した手順と同様にして、心拍変動HF波形のウェーブレット変換ウルトラディアンリズムのパワーの、この心電図波形計測期間に亘る時間的(経時的)推移を時系列的に表示画面に表示したり、プリンターにより印刷したり、あるいはその両方を実行し、その結果、画面表示や印刷結果を観察する医療者が睡眠評価を行うことを可能とするものである。
【0112】
これらの機能を実現するために心電図波形解析装置3は、外部から心電図波形デジタルデータを取り込むための入力端3−1、取り込んだデータを一旦記録保持するメモリー部3−2、記録されたデータを読み出して、そこから心拍変動HF成分を時系列として取り出して、更にウェーブレット変換を行い、更にそのウェーブレット変換におけるウルトラディアンリズムのパワーの時系列データを生成出力する解析部3−3、出力された時系列データを表示画面に表示する表示部3−4、同じく出力された時系列データを印刷するプリンター部3−5を備えている。
【0113】
更に具体的には心電図波形解析装置3は、以下のような処理を行う。
各段階における波形の解析や生成を模式的に示した図4において、まず図4(A)は携帯型心電図波形記録計2が測定して変形を加えていない心電図波形である。解析部3−3は、この心電図波形を解析し、心拍に相当する波形ポイントを特定して、隣接する心拍間の時間間隔である心拍間隔RR1,RR2,・・・を順次算出する。
【0114】
次に解析部3−3は、算出した心拍間隔を各心拍の時刻ごとに時間軸に沿ってプロットし、プロットした各点を例えばスプライン補完を用いて波形として連続させて心拍間隔波形(未修正)を図4(B)のように生成する。
【0115】
このようにして得られた波形は、心拍間隔の変動に伴う細かい変動分が見られると共に、各所に不連続なスパイク上の点を有している。これは正常な心拍とは別にPVC(心房期外収縮)による心拍が発生したためであり、この測定点がこのあとの処理で残っていると正しい周波数スペクトルが得られず正しい解析結果が得られないため除去が必要である。
【0116】
そこで解析部3−3は、図4(D)に示すように、まず未修正の心拍間隔波形4bのトレンド波形(変化の傾向を示す波形)4cを、低周波フィルタリングあるいは複数測定点の平均又はそれらの組み合わせにより生成する。
【0117】
次に、このトレンド波形4cから所定距離を有する閾値の波形4eを設け、上記の不連続なスパイク点4dがこの閾値を越えた場合には、このスパイク点4dを全体の波形から除去すると共に、除去をしたあとに上記のトレンド波形4cの値で補完を行う。
【0118】
次に図4(E)に示すように、上記作業で得られたスパイク測定点を除去した心拍間隔波形4gを平均値がゼロとなるように、すなわち直流分がなくなるようにシフトする。
【0119】
次に解析部3−3は、シフトにより直流分を除去した心拍間隔波形5aに対して、図5(A)に見るように、脳波波形の処理と同様の考え方で、50秒間ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓5b1、5b2、・・・において高速フーリエ変換を実行し、それぞれのフーリエスペクトルを生成する。
【0120】
そして得られたこれらのフーリエスペクトルにおいて、0.12〜0.5Hzの高周波成分(HF)(一つのフーリエスペクトルにおいてHF成分を5cで示す)を抽出し、同じくフーリエ窓の起点の時刻ごとにプロットして、時間と共に変化する波形として心拍間隔のHF成分波形(図5(C))を得る。
【0121】
更に解析部3−3は、得られた心拍間隔のHF成分波形(図5(C))に対してウェーブレット変換を行う。
すなわち、具体的には、公知技術などに基づいてマザーウェーブレットφ(t)を選び、時刻bと周期(周波数の逆数)aそれぞれについて、式3に示すウェーブレットを用いて、式4及び式6に示すウェーブレット変換を実行し、それぞれのa,bに対するウェーブレット係数T(a,b)を算出する。
【0122】
最後に、解析部3−3は、上記で得られた心拍間隔波形HF成分のウェーブレット係数を用いて、それぞれのウェーブレット係数の中でウルトラディアンリズム(0.0001〜0.0003Hz(周期表示では、56〜167min))に相当する周波数のパワーが時間と共に変化する波形を、表示部3−4の表示画面あるいはプリンター部3−5による印刷結果として出力する。
【0123】
このように睡眠評価システム1が構成されているので、被験者の睡眠評価を行おうとする医療者等は、表示部3−4の表示画面あるいはプリンター部3−5による印刷結果を観察して、例えば既に説明した図9の61、図10の71あるいは図11の81に見られるような、特定周波数領域、例えばウルトラディアンリズムに対応する周波数のウェーブレット係数パワーがどのように時間推移しているかを示すグラフから、そのパワーのピークは明瞭であるか、ピークは単一か複数か、ピークの位置は時間軸上いずれにあるか、その他の医学的見地から診断を行うことが可能となる。
【0124】
すなわち本発明の実施形態である睡眠評価システム1を用いることによって、脳波計測が不要であることから入院検査が不要となり、被験者は在宅でより簡便にかつ確実に睡眠の質の評価を受けることが可能となり、極めて大きな医療上の効果が発揮される。
【0125】
〔変形例〕
本発明の実施に際しては上記実施形態以外にも種々の変形が考えられ、例えば心電図波形を携帯型心電図計で計測記録するのではなく、通信路を介して直接解析装置へ送信するテレメディスンシステムでの実施や、心拍変動ウルトラディアンリズムパワー成分の推移を単に表示するのみならず、ピークの数や明瞭さや位置に応じてスクリーニング的な自動評価を行う(但し確定診断は医療者が行う)構成なども可能である。
【0126】
更に、被験者の心拍間隔波形を取得する方法として、上記に示したように被験者に装着されて移動可能な状態で測定を行う心電図計(ホルター心電図形)を用いる代わりに、パルスオキシメータを用いる方法としてもよい。
【0127】
パルスオキシメータはそのプローブ部に発光部と、透過光受光部あるいは反射光受光部を備え、波長の異なる2種類の光を指に当てて透過あるいは反射した光の量を測定することにより非侵襲的に動脈血酸素飽和度を算出するものであって、動脈血の識別は脈拍に一致して変化する成分に着目することにより行われ、酸素飽和度の算出は、酸素ヘモグロビンの、2種類の光に対する透過度又は反射率が異なることを利用している。すなわち血液中のヘモグロビンの酸化・還元によって酸素が運搬されており、「酸化されると赤色光の吸収が減って赤外光の吸収が増える」、また、「還元されると赤色光の吸収が増えて赤
外光の吸収が減る」というヘモグロビンの光学的特殊変化を利用しているものである。
【0128】
本発明の実施にあたり、このパルスオキシメータが動脈脈拍成分を検出可能である点に注目し、特定波長光の透過光又は反射光成分の脈動から動脈脈拍成分を検出し、この検出結果から被験者の心拍間隔波形を測定生成し、以後は、心電図計を用いた上記実施例と同じように心拍間隔HF成分のウェーブレット解析結果に基いて被験者の睡眠評価を行うようにしてもよい。
【0129】
尚、被験者の心拍間隔(動脈脈波ピーク間隔)を測定しようとする構成のパルスオキシメータは、例えば特開平9−238929号公報の0012段落(3ページ)等に記載がある。
【0130】
以上のように、パルスオキシメータを用いて特定波長光の透過光又は反射光成分の脈動から動脈脈拍成分を検出し、この検出結果から被験者の心拍間隔波形を測定生成するように構成した変形例もまた本発明に含まれる。
【0131】
次に、本発明の他の変形例として、上記に説明を行った心拍変動解析に基づく睡眠評価技術を、患者の治療に用いる治療機器などに具体的に応用した実施例などを説明する。
【0132】
〔気道陽圧式呼吸補助装置に関する発明の実施形態〕
まず、気道閉塞に起因する睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS:Sleep Apnea Syndromeともいう)の治療装置である、気道陽圧式呼吸補助装置(以下、「CPAP装置」あるいは「呼吸補助装置」ともいう)に本発明を適用した実施態様について説明を行う。
【0133】
CPAP装置は、大気を30cmH2O程度まで昇圧して呼吸の補助手段として鼻マスクを用いて鼻孔部へ供給する気道陽圧式呼吸補助装置に関するものである。更に、詳細には睡眠時無呼吸症候群の治療手段の一方法として、睡眠時に昇圧空気を鼻孔部を通して呼吸気道内に送気し、気道内を持続的に陽圧に維持せしめて、気道部の閉塞に起因する呼吸停止がもたらす血液中の酸素濃度低下を防止するために提供される医療用具である。CPAP装置の具体的な構成は、例えば特開平7−275362号公報に開示がなされている。
【0134】
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に断続的に無呼吸を繰返し、その結果、日中傾眠などの種々の症状を呈する疾患の総称である。
無呼吸(apnea)とは、10秒以上の気流の停止と定義され、SASは、一晩7時間の睡眠中に30回以上の無呼吸がある場合、無呼吸指数AI(apnea index:睡眠1時間あたりの無呼吸の回数)が、AI≧5(回/時間)の場合、あるいは実際の臨床では、無呼吸に低呼吸を加味した無呼吸低呼吸指数(AHI)が用いられる。
【0135】
無呼吸低呼吸指数(Apnea hypopnea Index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数。
低呼吸(hypopnea):気道が完全に閉じるのではなく、狭小化のために換気量が少なくなった状態。換気の50%以上の低下に、酸素飽和度(SpO2)の3%以上の低下を伴うもの。
【0136】
SASは、その原因から、閉塞型(Obstructive Sleep apnea=OSA、睡眠中に上気道が閉塞して気流が停止するもので、無呼吸の間でも胸壁と腹壁の呼吸運動が認められるが、動きは互いに逆になるという奇異運動を示す)、中枢型(Central Sleep apnea=CSA、呼吸中枢の機能異常によりREM期を中心とした睡眠中に呼吸筋への刺激が消失して無呼吸となる)、及びOSAとCSAとの混合型(中枢型無呼吸で始まり、後半になって閉塞型無呼吸に移行する場合が多い。閉塞型無呼吸の一つとして分類することが多い)に分類される。
【0137】
これらの中でCPAP装置による治療の対象となる患者は、OSAの患者である。
OSAは、上気道の閉塞によって無呼吸、低呼吸が起きるために発症する。
閉塞の原因は、(1)形態的異常(肥満によって気道に脂肪沈着する、扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔彎曲症、アデノイド、小顎症(あごが小さい)など)、と、(2)機能的異常(気道を構成している筋肉の保持する力が低下する)である。
【0138】
健常人の睡眠パターンは眠り始めに深い睡眠(ノンレム睡眠)が見られるのに対し、OSA患者は無呼吸のため血中酸素が低下し、胸腔内圧力が陰圧となって睡眠中に何度も覚醒反応が発生し、深い眠りが得られないことから、日中傾眠などの症状を呈する。
【0139】
このようなOSA患者に対してCPAP装置は、鼻マスクを介して一定陽圧の空気を送り込み、上気道を広げ、この結果、気道閉塞を解消して無呼吸を防止するよう動作を行う。気道を広げるための圧力(以下「陽圧」ともいう)は患者個々に異なる。
【0140】
尚、患者気道に印加される圧縮空気の圧力レベル(陽圧)は、睡眠中に一定の圧力を保つもの(CPAPと呼ぶ)、患者の呼気期間と吸気期間とで2つの異なる圧力としたもの(Bilevel−PAPと呼ぶ)、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加するもの(サーボ型自動制御補助換気と呼ぶ)などいくつかの方法がある。
【0141】
いずれの方法にせよ、陽圧レベルの決定は医師の所見に基づいて処方として決定がなされる。従来は治療対象患者の睡眠の質を直接評価して、睡眠の質を良好に保つために最適な陽圧レベルを決定する構成は知られていなかった。
【0142】
これら従来の課題を解決するために、本実施形態のCPAP装置15aは、図15に示すとおり、次の構成を有している。
まずCPAP装置本体15bは、上記した陽圧レベルを可変制御可能に構成した装置であって、圧縮空気を生成して装置外へ送出するブロア15b−1、そのブロア15b−1の送出する圧縮空気の圧力(陽圧レベル)の変更制御を含めてCPAP装置本体15bの運転制御を行うCPAP制御部15b−2を有している。
【0143】
CPAP装置本体15bから送出される圧縮空気(陽圧空気)は導管15eを経由してマスク15fから患者の気道へ供給がなされる。
なおCPAP装置本体15bの構成は、以下に述べる特徴的構成を除いて、既に開示されている従来技術構成を用いることが可能である。
【0144】
パルスオキシメータ15bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0145】
尚、このパルスオキシメータ15bは、後に説明するように患者の心拍間隔を検出することで、心拍間隔に基づく心拍間隔変動解析、及びその解析結果から患者の睡眠の質評価の実行を可能とするためのものである。一方、患者の心拍間隔を検出するための手段としては、このパルスオキシメータ15bの他に心電図計が知られており他にも利用可能な手段はあり得る。従って本明細書の各実施例においてパルスオキシメータ15bを用いて患者あるいは被験者の心拍間隔を検知する構成は、パルスオキシメータ15bに代えて公知の心電図計、あるいは公知又は未知の手段としてもよい。このことは煩雑さを避けるために本明細書の該当各所ではその都度に断らないこととする。
【0146】
睡眠状態解析部15cは、CPAP装置本体15bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ15d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部15c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部15c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部15c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部15c−4を有している。
【0147】
睡眠状態解析部15c−4は、上記のようにパルスオキシメータ15dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0148】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0149】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、陽圧空気の圧力を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適なCPAP治療条件で陽圧空気が患者へ供給され、最適な睡眠状態が得られる。
【0150】
具体的には次のような制御を行う。まず、本発明者の独自の知見によれば、被験者の心拍間隔HF波形に含まれているウルトラディアンリズム(睡眠周期)のパワーを時間軸上にプロットすると、健常者の例では図9に示すように、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きいことが確認された。
【0151】
従って、CPAP装置15aで治療を行う患者の睡眠の質を良好に保つためには、リアルタイムに測定される心拍間隔データから、心拍間隔HF波形に含まれるウルトラディアン成分のパワーをリアルタイムに解析生成する。
【0152】
そして、生成されたウルトラディアンパワー波形が、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きくなるよう、CPAP装置15aの運転条件を制御すればよい。このような制御の考え方は以下に説明する他の態様においても共通である。
【0153】
そのために、睡眠状態解析部15c−4はCPAP制御部15b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるよう陽圧のレベルを増減させる制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターン、すなわち良好な睡眠を表す理想的なウルトラディアンパワー波形を制御の目標値としてもよいし、あるいは、この患者において良好な睡眠状態にあるときのウルトラディアンパワー波形を予め取得しておき、この波形に近づくように制御してもよい。同様にこのような制御の考え方は以下に説明する他の態様においても共通である。
【0154】
この陽圧レベル制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部15c−4とCPAP制御部15b−2とは、睡眠中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析と陽圧レベルの変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適な陽圧レベルとなるよう制御を継続してもよい。
【0155】
また、この陽圧レベル制御は、この患者の陽圧レベルを決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこのCPAP装置15aを用いてOSA患者の治療を行う際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、OSA患者の心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0156】
ところで、上記の説明ではCPAP装置15aを用いて治療を行う対象の患者像として、従来構成のCPAP装置と同様に睡眠時無呼吸症候群の患者として説明した。
一方、本発明実施形態にかかるCPAP装置15aでは、その構成上の特徴から、上記の睡眠時無呼吸症候群患者に加えて、対象を慢性心疾患患者、特に心不全患者に広げることが可能となる。
すなわち、慢性心疾患患者、特に心不全患者に対して、呼吸ポンプ機能を補助するBilevel−PAPによる治療が血行動態を改善させることは知られている。
【0157】
しかし、慢性心疾患患者は、心不全などによって交感神経活性が過度に上昇しており、すなわち興奮状態にあるため、入眠障害があることが多く、その中でマスク装着が必要なBi−PAP治療はさらに入眠・睡眠の質を悪化させる可能性もあり、長期に使用することは避ける場合があった。
【0158】
それを解消するために、本実施形態のCPAP装置15aを用いれば、心拍変動解析の結果をフィードバックし、圧力レベル、圧力波形の調整を調整して、夜間の使用を可能とし、長期治療が可能となる。
【0159】
次に、本実施形態の気道陽圧式呼吸補助装置において、患者への印加圧力が一定であるCPAP装置やBilevel−PAPとは異なり、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加して、患者の肺換気量、呼吸数の両方かあるいはいずれか一方が予め定めた一定量に近づくように自動制御を行うサーボ型自動制御補助換気装置(Adaptive Servo Ventilator)を前提として構成した場合には、本発明の効果がより増進される点を説明する。
【0160】
正常呼吸(毎分8〜15回)において、心拍数は吸気時に増大し呼気時に減少する。この呼吸性洞不整脈(呼吸によって起こる心拍数の変化)はアトロピンにより心臓迷走神経を遮断するとほぼ完全に消失することから、主に心臓迷走神経活動が関与していることがわかる。
【0161】
吸気時相に同期して迷走神経活動が減弱する原因の一つに、呼吸中枢からの干渉により心臓迷走神経活動が抑制される中枢性機序がある(Hamlin RL,Smith CR,Smetzer DL.Sinus arrhythmia in the dogs.Am J Physiol 1966;210:321−328.Shykoff BE,Naqvi SJ,Menon AS,Slutsky AS.Respiratory sinus arrhythmia in dogs.J Clin Invest 1991;87:1612−1627.)。これは吸気時の横隔膜神経の活動に同期した心拍増加が、たとえ肺や胸郭の動きがなくとも認められるという事実に基づく。
【0162】
一方、呼吸性心拍変動を惹起する末梢性機序として、肺の伸展受容器からの求心性入力により迷走神経活動が吸気時に同期して遮断されるgating effectsがある。事実、心臓への迷走神経遠心路が保たれているが、肺からの迷走神経求心路が遮断されている肺移植患者において、呼吸性心拍変動が明らかに減弱することが知られている(Tara BH,Simon PM,Dempsey JA,Skatrud JB,Iber C.Respiratory sinus arrhythmia in humans:an obligatory role for vagal feedback from the lungs.J Appl Physiol 1995;78:638−645.)。
【0163】
従って、上記に説明したように、呼吸気の圧力を指標として制御を行うCPAP装置において、治療患者の呼吸動作の周期や換気量が睡眠の過程において一定ではなく変動をした場合に心拍間隔の推移に影響を与える可能性がある。
【0164】
ところが、サーボ型自動制御補助換気装置は、先に説明したとおり、治療患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら患者の肺換気量と、患者の呼吸数の両方あるいはいずれか一方を予め決められた一定値に近づくように制御を行うものであるから、このサーボ型自動制御補助換気装置を用いた場合には睡眠中の患者の呼吸動作における動作周期や肺換気量の変動は非常に少ない。
【0165】
従って、サーボ型自動制御補助換気装置を前提として、上記に説明したごとくの特徴を有する本実施例の気道陽圧式呼吸補助装置を構成した場合には、心拍間隔変動のHF成分に対する患者の呼吸動作変動の影響が減り、この結果、より精度の高い睡眠評価結果が得られることから、本実施形態の特有の効果である、より良質な睡眠を治療患者に提供するという点を他のタイプのCPAP装置(サーボ型自動制御補助換気装置ではないタイプ)よりも更に増進させることができる。
【0166】
尚、上記のサーボ型自動制御補助換気装置は、「オートセットCS」の製品名で2007年に帝人ファーマ株式会社が市場導入を行っている。
上記した「オートセットCS」は、下記に略号を用いて列挙する各国の特許又は特許出願によって、その構成の技術的特徴部分がカバーされている。尚、下記の表記では、例えばオーストラリアを「AU」とするなど国名を略号で記した。
【0167】
AU691200,AU697652,AU702820,AU709279,AU724589,AU730844,AU731800,AU736723,AU734771,AU750095,AU750761,AU756622,AU761189,AU 2002306200,CA2263126,EP0661071,EP1318307,JP3635097,JP3737698,NZ527088,US4944310,US5199424,US5245995,US5522382,US5704345,US6029665,US6138675,US6152129,US6240921,US6279569,US6363933,US6367474,US6398739,US6425395,US6502572,US6532959,US6591834,US6659101,US6945248,US6951217,US7004908,US7040317,US7077132。
【0168】
〔睡眠導入装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、不眠症患者あるいは健常者を睡眠状態に導いて良好な睡眠を実現することを目的とした、睡眠導入装置に本発明を適応した例を説明する。
【0169】
この種の睡眠導入装置は、例えば、特許第3868326号公報には、これから入眠しようとする患者に対してスピーカーから音を発声して聴音せしめ、この音に対して患者がジョイスティックを操作した動作の内容を分析することで、より早く患者が入眠にいたるように発声音を選択制御しようとするものである。
【0170】
また、特開2003−199831号公報には、枕に仕込んだスピーカーから超音波を発声させ、この超音波の態様を時間順次に変えることによって対象者をまずリラックスさせ、その後次第に入眠へ導こうとするものである。
【0171】
しかしながらこれら従来技術構成によれば、音や超音波など何らかの物理刺激を対象者に加えるものの、それら物理刺激はあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはまだ入眠に至らない対象者の動作から睡眠の進行を推定することによって選択しようとするばかりであって、対象者の睡眠の状態や睡眠の質を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適な物理刺激の態様を選択しようとするものではなかった。
【0172】
それに対して本実施形態の睡眠導入装置16aは、図16に例示した下記の構成を有している。まず物理刺激装置16bは、これから入眠をしようとする対象者に対して、出力部16b−1から光、音、超音波、熱、風、画像、匂い、接触刺激、電気刺激、磁気刺激など何らかの物理刺激を与えるよう構成され、且つその物理刺激の態様を、物理刺激制御部16b−2の機能により変化させることができる。例えば物理刺激が光であれば、その強度、波長(色)、点滅の有無や間隔、発光体の面積や形や位置、さらには光の発光の有無までをも変化させることができる。あるいは物理刺激が音であれば、その強度、波長(音程)、発声パターンや間隔、発声の方向や位置、さらには発声の有無までをも変化させることができる。
【0173】
パルスオキシメータ16bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0174】
睡眠状態解析部16cは、物理刺激装置16bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ16d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部16c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部16c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部16c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部16c−4を有している。
【0175】
睡眠状態解析部16c−4は、上記のようにパルスオキシメータ16dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0176】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0177】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、物理刺激装置16cが出力する物理刺激の態様を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適な条件で物理刺激が患者へ加えられ、最適な睡眠状態が得られる。
【0178】
具体的には次のような制御を行う。
まず、本発明者の独自の知見によれば、被験者の心拍間隔HF波形に含まれているウルトラディアンリズム(睡眠周期)のパワーを時間軸上にプロットすると、健常者の例では図9に示すように、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きいことが確認された。
【0179】
従って、睡眠導入装置16aを使用する使用者の睡眠の質を良好に保つためには、リアルタイムに測定される心拍間隔データから、心拍間隔HF波形に含まれるウルトラディアン成分のパワーをリアルタイムに解析生成する。
【0180】
そして、生成されたウルトラディアンパワー波形が、睡眠初期に明瞭な増加ピークがあり、そのピークまでの立ち上がりが急峻であり、更にこのパワー推移波形が囲む面積すなわち時間積分値が十分に大きくなるよう、睡眠導入装置16aの運転条件を制御すればよい。
【0181】
そのために、睡眠状態解析部16c−4は物理制御部16b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるよう物理刺激の態様を変える制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターンを制御の目標値としてもよい。
【0182】
この物理刺激の制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部16c−4と物理制御部16b−2とは、睡眠中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析と物理刺激態様の変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適な物理刺激となるよう制御を継続してもよい。
【0183】
また、この物理刺激制御は、この患者に最適な物理刺激を決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこの睡眠導入装置16aを用いる際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0184】
〔マッサージ装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、対象者に対して機構的なアタッチメント部が揉み解し動作などを自動的に行う、マッサージ装置に本発明を適応した例を説明する。
【0185】
この種のマッサージ装置は、例えば、特開2007−89716号公報には、パラレルリンク機構式のマッサージ装置において、施療子を人体に対して独立に上下方向、左右幅方向、及び出退方向に安定かつ再現性良く移動制御して施療子に所望のマッサージ動作を行わせることを可能とするマッサージ装置が開示されている。
【0186】
また、特開2003−310679号公報には、ふくらはぎ、かかと、つま先までを同時に密着し得るように略ブーツ形状に形成すると共に、つま先から脚を入れる際に開くように接合部を開閉自在に設けたふくらはぎ用袷部を有する脚用押圧袋と、脚用押圧袋2の表皮材の略全面に張り付けた空気充填用袋体と、空気充填用袋体に空気の供給と排気をするエアポンプと、空気充填用袋体に設けた給排気孔とエアポンプとを連結する連結管と、を備えた脚用マッサージ装置が開示されている。
【0187】
しかしながらこれら従来技術構成によれば、マッサージの動作パターンはあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはマッサージの対象者が抱く主観的な快感や不快感に基づいて選択しようとするばかりであって、対象者の生理状態を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適なマッサージパターンを選択しようとするものではなかった。
【0188】
それに対して本実施形態であるマッサージ装置17aは、図17に例示するように下記の構成を有している。
まず、マッサージ本体17bは次のマッサージ刺激部17b−1、マッサージパターン制御部17b−2を有する。マッサージ刺激部17b−1は、マッサージの対象者に対して、ローラ、ハンド、エアカフなどアタッチメントを用いてマッサージ動作を行うための構成であって、具体的には公知のマッサージ装置と同様のアタッチメントを用いることができる。マッサージパターン制御部17b−2は上記のマッサージ刺激部17b−1が実行するマッサージの態様を変更制御するもので、マッサージの動作有無や、マッサージの強さやパターンなど動作の全てが制御対象である。
【0189】
パルスオキシメータ17bは、患者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0190】
睡眠状態解析部17cは、物理刺激装置17bと別体又は一体に設けられ、パルスオキシメータ17d出力を受けて増幅する心拍間隔波形検出増幅部17c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部17c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部17c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部17c−4を有している。
【0191】
睡眠状態解析部17c−4は、上記のようにパルスオキシメータ17dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0192】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0193】
従って得られた被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移が、健常な睡眠における推移に近づくよう、例えば図9に示されるパターンに近づくよう、マッサージ刺激部17b−1が出力するマッサージの態様を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適な条件でマッサージ刺激が患者へ加えられ、最適な睡眠状態が得られる。
【0194】
そのために、睡眠状態解析部17c−4はマッサージパターン制御部17b−2と協働して、すでに得られているこの患者の最適なウルトラディアン成分パワーの時間推移が得られるようマッサージの態様を変える制御を行う。その他の態様として、既にわかっている一般的な健常者の睡眠時のウルトラディアン成分パターンを制御の目標値としてもよい。
【0195】
このマッサージの制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部17c−4とマッサージパターン制御部17b−2とは、マッサージ中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析とマッサージ態様の変更を行ってもよいし、常時、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適なマッサージ刺激となるよう制御を継続してもよい。
【0196】
また、このマッサージ刺激制御は、この患者に最適な物理刺激を決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこのマッサージ装置17aを用いる際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
更に、心拍間隔を検出する方法として、上のパルスオキシメータを用いる他に、心電図波形を直接検出してももちろんよい。
【0197】
本実施形態のマッサージ装置17aを使用する使用者が睡眠に至らない場合、すなわち覚醒中においても、上記に説明した本実施形態特有の構成により有利な効果が得られる。なぜならば、本発明者の独自の知見によれば、先に説明をした通り、患者の生理状態が安定しており体調が良好な状態にあるのであれば、心拍間隔のような患者のバイタル情報の中に特定の生理的なリズム、例えばウルトラディアンリズム(睡眠周期)が支配的に現れる。
【0198】
従って、マッサージ装置17aにおいてマッサージ動作などの調整が適切になされ、患者の生理状態が良好に安定した場合には、覚醒中であったとしても、これら特定の周波数、例えばウルトラディアンリズムのパワーが心拍間隔に支配的に現れるものと考えられるので、既に説明したような本実施形態のマッサージ装置17aの効果である、対象者の生理状態を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適なマッサージパターンを選択することが可能となるからである。
【0199】
〔睡眠評価装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、睡眠状態にある対象者の睡眠の質を医療者が評価するためにデータを生成したり、あるいは得られたデータを用いて自動的に睡眠の質に関する評価値を生成する睡眠評価装置に本発明を適応した例を説明する。
【0200】
本実施形態の睡眠評価装置は、次に例示する構成を有している。
まず、パルスオキシメータは、既に説明したように評価対象者の耳たぶや指先にセンサーを装着し、赤外領域での2波長の光線を体内に透過あるいは体内へ入射後に反射させ、これら透過光あるいは反射光の検知レベルの比率から、動脈血酸素飽和度を検出するための装置であり、検知波形の変動を用いて心拍間隔を検出することが可能である。
【0201】
出力部は、パルスオキシメータから入力する検出波形を得て、心拍間隔の抽出、心拍間隔変動波形における高周波成分(HF)波形の抽出、及びこのHF波形について先に説明を行ったウルトラディアン(睡眠周期)成分のウェーブレット解析を行い、この結果、HF波形に含まれるウルトラディアン成分の時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
【0202】
本明細書で既に説明したとおり、患者あるいは被験者の睡眠の質を評価するための有効な指標として、脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分の時間推移を用いることができ、更に同様に既に説明したように本発明者による重要な知見として、この脳波SWA波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形と、心拍間隔HF波形におけるウルトラディアン成分パワーの時間推移波形とが高い相関を有する。
【0203】
従って制御部が生成した、対象者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移をモニター画面に表示したり、プリンタを用いて印刷出力することによって、医療者がこれら表示物や印刷物を用いて対象者の睡眠の質を的確に評価診断することが可能となる。
【0204】
あるいは、自動診断部を別に設け、被験者の心拍間隔HF波形ウルトラディアン成分の時間推移波形をあらかじめ定められた手順に従い自動解析することによって、例えば一般的に理想形としてのウルトラディアンリズムパワー波形を予め保存しておき、計測した波形とこの理想波形との相違(ピークの明瞭さ、ピークまでの立ち上がり急峻さ、ピーク後の明瞭な下降、時間積分値の大小など)で自動的に睡眠の質を判定してもよい。
一般的な理想波形ではなく、その被験者自身の睡眠が良好な際の波形を予め保存し、計測した波形との相違点を自動評価してもよい。
【0205】
このように良好な波形との相違や類似から被験者の睡眠の質を自動評価することも可能である。このような自動評価機能のある装置を用いれば、患者が自宅で自己管理として睡眠の質を睡眠の度ごとに調べ、正常ではない場合に医療機関を受診するなどの使い方が考えられる。この場合、装置が自動診断を行うことの妥当性は関連法規を遵守して判断されるべきことは言うまでもない。
【0206】
更に、本実施形態は次のように変形実施することが可能である。
上記のごとき被験者の心拍間隔を用いて睡眠の質の評価を良好に行いうることを本発明者は見出したが、同時に本発明者は、上記のようにして得られた心拍間隔情報には、被験者の呼吸動作に起因する情報が重畳して含まれている点を見出した。
【0207】
そこで本睡眠評価装置の変形例として、呼吸検知部を新たに設け、この呼吸検知部が被験者の胸や腹に装着したバンドの張力の変化や、被験者の鼻腔部における気流の変化などで呼吸動作を検知し、この呼吸動作の情報を制御部へ出力するようにしてもよい。これら呼吸検知部の機能は、公知技術資料から構成実現することが可能である。
【0208】
制御部では入力された呼吸動作情報を、心拍間隔情報から除去あるいは抑圧し、より精度の高い心拍間隔情報を用いて更に精度の高い睡眠評価を行うことが可能となる。
ここでいう除去あるいは抑圧は種々の方法が可能であり、例えば、単純に心拍間隔情報波形から、呼吸動作情報波形の一定倍の量を減算する方法、呼吸動作情報からこの患者の呼吸動作に固有な動作周波数を算出し、その呼吸動作周波数成分について心拍間隔情報をフィルタリングする方法などである。
【0209】
〔外部型カウンターパルゼーション療法に用いる検査装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、心臓疾患の治療場面で心臓のポンプ作用を機械的に補助して心臓の負担を減らす手段のうち、外部型カウンターパルゼーション法に用いるための検査装置について説明を行う。
【0210】
外部型カウンターパルゼーション(Enhanced External Counterpulsation:EECPともいう)は、特開2007−75433号公報に記載があるように、特に心臓疾患治療において、所定の患者の部位をカフにより加圧して、当該部位における血管中の血流を促して、心臓ポンプ作用を補助するものである。即ち、例えば心臓の機能が弱まっている場合、心臓から遠位の箇所における血流が悪くなっており、この流れを促すことで、心機能の補助が達成される。
【0211】
このために外部型カウンターパルゼーションを実行するための装置は、臀部を含む患者のふくらはぎ、大腿下部及び/又は大腿上部の周りに巻かれた圧縮カフのセットの膨張及び収縮タイミング、膨張と収縮の速度、及び収縮力の大きさについて、医師による調整が行われる。
【0212】
調整後、カフは膨張して逆行性動脈血圧波を形成すると同時に末端からの静脈血戻りを押して拡張期(弛緩期)の始まり時に心臓に達するようにする。その結果、拡張期の中央大動脈圧力が増大し、静脈の戻りが増大する。カフの迅速で各カフ部が同期した同時の収縮によって、収縮期の吸い戻し(アンローディング)を作り、心臓の負荷を低減する。終了時の結果、心臓が血流に対して最小抵抗で弛緩状態にあるときに、拡張期の冠状動脈に潅流圧力を増大し、カフ収縮中に“ 吸込効果”による収縮期圧力を低下し;静脈戻りの増大及び収縮期圧力の低下によって心臓の出力(アウトプット)が増大する。
【0213】
上記の外部型カウンターパルゼーション療法を実施するにあたり、カフの収縮・膨張タイミング、収縮・膨張の速度、収縮力の大きさは医師が自らの知見に基づき患者ごとに決定をしている。
【0214】
従来、医師は上記調整を決定するために、患者大腿部動脈から心臓までカテーテルを入れ、このカテーテルを用いて血行動態を把握して調整を行っていた。血行動態とは、時間とともに変動する血液循環の状態を意味し、特に血圧と血流量の時間変化を指す。このような従来のカテーテルを用いた血行動態の把握によるEECP治療のための調整は侵襲性が高く患者の負担が大きいものであった。
【0215】
そこで本発明者は本発明を適用する一実施形態として上記のEECP治療の調整のために用いる検査装置として鋭意検討の結果、先に説明を行ったような心拍変動解析に基づく患者の生体情報の把握により、カテーテル侵襲検査を不要とする構成に到達するに至った。
【0216】
すなわち本実施形態の検査装置は、(1)患者の心拍間隔を検知して情報として収集する構成、例えば既に説明を行ったパルスオキシメータとその検出データのためのメモリー、(2)得られた心拍間隔について心拍間隔変動解析を行い、解析結果を表示など出力する構成、例えばインターフェース部を有するパーソナルコンピュータとディスプレイモニターとを主要な構成としている。これらの構成要素についてはその機能と具体的な構成は既に他の実施形態で説明したことから容易に類推が可能であり、ここでは繰り返さないこととする。
【0217】
先に見たとおり、本発明者は、心拍間隔変動解析の結果、脳波SWA成分と心拍間隔HF成分との間に、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に関するパワーの時間変化に強い相関があることを見出した。
【0218】
同様の観点から、EECP療法の調整値決定に必要な血行動態(血圧、血流の時間変化など)と、心拍間隔変動との間には、特定周波数に着目すれば強い相関関係が見出しうることが強く期待される。
【0219】
EECP療法自体は患者の睡眠の質と直接に関係はしないものの、本発明者の独自の知見によれば、先に説明をした通り患者の生理状態が安定を見て良好な状態にあるのであれば、心拍間隔のような患者のバイタル情報の中に特定の生理的なリズム、例えばウルトラディアンリズム(睡眠周期)が支配的に現れることが確認された。
【0220】
従って、EECP療法においてカフ収縮動作などの調整が適切になされ、患者の生理状態が良好に安定した場合には、これら特定の周波数、例えばウルトラディアンリズムのパワーが心拍間隔に支配的に現れるものと考えられる。
【0221】
そこで、先に説明したとおりの方法でウェーブレット係数から算出される、患者の心拍間隔HF成分に含まれるウルトラディアンリズムパワーをモニターしつつカフ収縮動作などの調整を行って、このウルトラディアンリズムパワーが増大する方向へ調整を行えば、患者の生理状態がより良好の状態となるよう、医師により調整がなされうることとなる。
【0222】
すなわち本発明の重要な展開態様として、患者の心拍間隔変動解析の結果から血行動態を把握することが可能となり、この結果、侵襲的な検査を行わずとも血行動態を把握できてEECP療法を受ける患者の負担を、従来よりも大きく低減させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明によれば、診断及び治療上必要な被験者の睡眠の評価を簡潔な構成で実現する、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法、コンピュータプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】本発明者が本発明に至る知見を得る際に用いた、評価システムの構成図である。
【図2】脳波デルタ波形と睡眠周期、睡眠ステージの推移を典型的に示したグラフである。
【図3】図1のシステムが実行する、脳波デルタ波形の生成を説明するための模式図である。
【図4】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成を説明するための模式図である。
【図5】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成を説明するための模式図である。
【図6】図1のシステムが実行する、脳波デルタ波形の生成、SWA波形に対するウェーブレット変換、その中のウルトラディアンリズム波形の生成を説明するための模式図である。
【図7】図1及び図14のシステムが実行する、心拍間隔HF波形の生成、それに対するウェーブレット変換、その中のウルトラディアンリズム波形の生成を説明するための模式図である。
【図8】図1のシステムが実行する、波形相関評価の概要を示す図である。
【図9】図1のシステムで評価を行った第1の症例のグラフである。
【図10】図1のシステムで評価を行った第2の症例のグラフである。
【図11】図1のシステムで評価を行った第3の症例のグラフである。
【図12】図1のシステムで評価を行った、2種類の波形のピーク位置についての相関を示すグラフである。
【図13】図1のシステムで評価を行った、2種類の波形の相互相関の平均値を示すグラフである。
【図14】本発明の実施形態である、睡眠評価システムの構成図である。
【図15】本発明の実施形態である、気道陽圧式呼吸補助装置の構成図である。
【図16】本発明の実施形態である、睡眠導入装置の構成図である。
【図17】本発明の実施形態である、マッサージ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0225】
1 睡眠評価システム
2 携帯型心電図波形記録計
3 心電図波形解析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測する、計測手段と、
前記計測手段で計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを生成する、心拍間隔波形生成手段と、
前記心拍間隔波形生成手段で得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する、算出手段と、
前記算出手段で算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示及び/又は印刷を行う出力手段と、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置。
【請求項2】
前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
【請求項3】
前記心拍間隔波形生成手段は、次のステップA〜Dを含んで前記波形生成を実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップA:前記計測手段で計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップB:前記ステップAで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップC:前記ステップBで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップD:前記ステップBで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
【請求項4】
前記算出手段は、次のステップE〜Gを含んで前記算出を実行することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップE:前記心拍間隔波形生成手段で得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップF:前記ステップEで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップG:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
【請求項5】
睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測手段を用いて計測する第1のステップと、
前記第1のステップで計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを、心拍間隔波形生成手段を用いて生成する第2のステップと、
前記第2のステップで得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示手段を用いた表示及び/又は印刷手段を用いた印刷を行う第4のステップと、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法。
【請求項6】
前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする請求項5に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
【請求項7】
前記第2のステップは、次のステップ2A〜2Dを含んでなることを特徴とする、請求項5又は6に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ2A:前記第1のステップで計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップ2B:前記ステップ2Aで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップ2C:前記ステップ2Bで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップ2D:前記ステップ2Bで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
【請求項8】
前記第3のステップは、次のステップ3A〜3Cを含んでなることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ3A:前記第2のステップで得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップ3B:前記ステップ3Aで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップ3C:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
【請求項9】
被験者の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法をコンピュータが実行するためのコンピュータプログラムであって、請求項5〜8のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法が有する各実行ステップを含んでなることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、前記マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする呼吸補助装置。
【請求項11】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、請求項10に記載の呼吸補助装置。
【請求項12】
大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、前記マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有し、
且つ、前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であるとともに、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置。
【請求項13】
前記圧縮空気用送風手段は、治療患者の肺換気量、及び/又は治療患者の呼吸数が予め定めた一定量に近づくよう前記送出圧を自動変更制御するよう構成されたことを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の呼吸補助装置。
【請求項14】
対象者に対して物理刺激を与えて睡眠導入を行うための睡眠導入装置であって、
(1)睡眠導入を行おうとする対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記物理刺激の態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする睡眠導入装置。
【請求項15】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記物理刺激の態様の変更制御を行うことを特徴とする、請求項14に記載の睡眠導入装置。
【請求項16】
マッサージの態様を変更可能に構成したマッサージ装置であって、
(1)マッサージを行う対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記マッサージの態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とするマッサージ装置。
【請求項17】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記マッサージの態様の変更制御を行うことを特徴とする、請求項16に記載の睡眠導入装置。
【請求項18】
被験者の睡眠の質を評価するために用いる検査装置であって、
睡眠状態にある被験者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷する出力手段とを有する検査装置。
【請求項19】
当該被験者の呼吸動作の情報を継続的に検知する呼吸検知手段を更に備え、前記出力手段は前記心拍間隔の波形に含まれる前記呼吸動作の波形を抑圧した波形の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷することを特徴とする請求項18に記載の検査装置。
【請求項20】
心臓疾患治療において患者の部位をカフにより加圧して当該部位における血管中の血流を促すことで心臓ポンプ作用を補助する外部型カウンターパルゼーション療法における、前記加圧の態様を決定するために用いる検査装置であって、
当該患者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の情報に基づき、当該患者の血行動態に関する情報を表示又は印刷する出力手段と、を有する検査装置。
【請求項1】
睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測する、計測手段と、
前記計測手段で計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを生成する、心拍間隔波形生成手段と、
前記心拍間隔波形生成手段で得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する、算出手段と、
前記算出手段で算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示及び/又は印刷を行う出力手段と、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う装置。
【請求項2】
前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
【請求項3】
前記心拍間隔波形生成手段は、次のステップA〜Dを含んで前記波形生成を実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップA:前記計測手段で計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップB:前記ステップAで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップC:前記ステップBで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップD:前記ステップBで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
【請求項4】
前記算出手段は、次のステップE〜Gを含んで前記算出を実行することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う装置。
ステップE:前記心拍間隔波形生成手段で得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップF:前記ステップEで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップG:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
【請求項5】
睡眠中を含む所定計測期間に亘り、被験者の心電図波形信号を計測手段を用いて計測する第1のステップと、
前記第1のステップで計測された心電図波形信号に基づいて、被験者の心拍間隔の時間推移波形データを、心拍間隔波形生成手段を用いて生成する第2のステップと、
前記第2のステップで得られた時間推移波形データもしくはその加工データに対してウェーブレット変換手段を用いてウェーブレット変換を実行して、特定周波数領域におけるウェーブレット係数のパワーの時間推移波形データを算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出された、ウェーブレット係数のパワーの時間推移波形を表示手段を用いた表示及び/又は印刷手段を用いた印刷を行う第4のステップと、を有することを特徴とする、睡眠の質を評価するために用いる表示又は印刷を行う方法。
【請求項6】
前記特定周波数領域が、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)に対応した周波数を含んでなることを特徴とする請求項5に記載の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
【請求項7】
前記第2のステップは、次のステップ2A〜2Dを含んでなることを特徴とする、請求項5又は6に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ2A:前記第1のステップで計測された心電図波形信号から、心拍間隔を抽出する工程。
ステップ2B:前記ステップ2Aで抽出された心拍間隔の大きさの時間推移波形データである、未加工波形のデータを生成する工程。
ステップ2C:前記ステップ2Bで生成された未加工波形のデータから、この波形の変化のトレンドを示すトレンド波形を生成する工程。
ステップ2D:前記ステップ2Bで生成された未加工波形において、前記トレンド波形を中心として所定の幅を超えた変動を有する測定値を削除して前記トレンド波形の値で補完を行うことにより、前記心拍間隔の時間推移波形データを得る工程。
【請求項8】
前記第3のステップは、次のステップ3A〜3Cを含んでなることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法。
ステップ3A:前記第2のステップで得られた心拍間隔の時間推移波形データに対して、所定のずらし時間間隔で起点をずらしたフーリエ窓変換を順次実行し、それぞれの時刻における周波数スペクトルを生成する工程。
ステップ3B:前記ステップ3Aで得られた各周波数スペクトルから、特定周波数領域のパワーが時間推移する波形データである、心拍間隔の特定周波数領域パワー波形を生成する工程。
ステップ3C:前記心拍間隔の特定周波数領域パワー波形をウェーブレット変換して、時間推移するウェーブレット係数を算出する工程。
【請求項9】
被験者の睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法をコンピュータが実行するためのコンピュータプログラムであって、請求項5〜8のいずれか1項に記載の、睡眠の質を評価するために用いられる表示又は印刷を行う方法が有する各実行ステップを含んでなることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、前記マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする呼吸補助装置。
【請求項11】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、請求項10に記載の呼吸補助装置。
【請求項12】
大気圧よりも高い圧縮空気を送出し、且つ当該送出圧を変更可能に構成した圧縮空気用送風手段と、
前記圧縮空気用送風手段の送出側に連結された導管手段と、
前記導管手段の他端部に備えられ、治療患者に装着して前記圧縮空気を当該患者へ供給するマスク手段を具備し、睡眠状態にある当該患者に対し、前記マスク手段を介して前記圧縮空気を継続的に供給するための、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置であって、
(1)前記圧縮空気が供給されている患者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記圧縮空気用送出手段の送出圧を変更制御する制御手段と、を更に有し、
且つ、前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であるとともに、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記送出圧の変更制御を行うことを特徴とする、慢性心疾患患者を対象とした呼吸補助装置。
【請求項13】
前記圧縮空気用送風手段は、治療患者の肺換気量、及び/又は治療患者の呼吸数が予め定めた一定量に近づくよう前記送出圧を自動変更制御するよう構成されたことを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の呼吸補助装置。
【請求項14】
対象者に対して物理刺激を与えて睡眠導入を行うための睡眠導入装置であって、
(1)睡眠導入を行おうとする対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記物理刺激の態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とする睡眠導入装置。
【請求項15】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記物理刺激の態様の変更制御を行うことを特徴とする、請求項14に記載の睡眠導入装置。
【請求項16】
マッサージの態様を変更可能に構成したマッサージ装置であって、
(1)マッサージを行う対象者の生体情報を継続的に取得する生体情報取得手段と、
(2)前記取得された生体情報を用いて、当該患者の睡眠の質を高める方向へ、前記マッサージの態様を変更制御する制御手段と、を更に有することを特徴とするマッサージ装置。
【請求項17】
前記生体情報は当該患者の心拍間隔に関する情報であり、且つ、前記制御手段は継続的に取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移に基づいて前記マッサージの態様の変更制御を行うことを特徴とする、請求項16に記載の睡眠導入装置。
【請求項18】
被験者の睡眠の質を評価するために用いる検査装置であって、
睡眠状態にある被験者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷する出力手段とを有する検査装置。
【請求項19】
当該被験者の呼吸動作の情報を継続的に検知する呼吸検知手段を更に備え、前記出力手段は前記心拍間隔の波形に含まれる前記呼吸動作の波形を抑圧した波形の高周波成分に含まれる睡眠周期成分の時間推移を、表示又は印刷することを特徴とする請求項18に記載の検査装置。
【請求項20】
心臓疾患治療において患者の部位をカフにより加圧して当該部位における血管中の血流を促すことで心臓ポンプ作用を補助する外部型カウンターパルゼーション療法における、前記加圧の態様を決定するために用いる検査装置であって、
当該患者の心拍間隔の情報を継続的に取得する情報取得手段と、
取得された前記心拍間隔の情報に基づき、当該患者の血行動態に関する情報を表示又は印刷する出力手段と、を有する検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−78139(P2009−78139A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228545(P2008−228545)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月1日 「日本循環器学会北陸地方会第114回学術集会」に文書をもって発表
【出願人】(507300261)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月1日 「日本循環器学会北陸地方会第114回学術集会」に文書をもって発表
【出願人】(507300261)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】
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