説明

瞬時電圧低下補償装置

【課題】運転モード切り替え時の出力電圧変動を抑制でき、さらに系統連系運転から自立運転に安定した切り替えができる。
【解決手段】系統電源に瞬時電圧低下が発生したときは、直流電源を電源とするPWM電力変換器の主回路6Aを自動電流制御による系統連系運転部11Aの制御出力で負荷の電圧低下を補償し、系統電源に瞬時停電が発生したときは自動電圧制御による自立運転部12Aの制御出力で負荷電圧を制御する。系統連系運転時の制御出力と自立運転時の制御出力に、定格電圧にした共通のベース電圧を加算部15で加算してPWM指令を得る。
ベース電圧は、電力変換器の直流電源の電圧を基に定格電圧に相当する電圧に自動調節する構成を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統電源と連系運転または自立運転で負荷に電力を供給し、系統電源の瞬時電圧低下に際して負荷電圧を補償する瞬時電圧低下補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、瞬時電圧低下補償装置(以下、瞬低補償装置)を設けた受電システムの構成例を示す。系統電源1からの受電電力で一般負荷(エアコンや電動機器)2に給電し、さらに高速スイッチ3を介して重要負荷(コンピュータなど)4に給電する受電系統に対して、重要負荷4には高速スイッチ5を介して接続した双方向電力変換器6を連系運転し、系統電源1に瞬時電圧低下が発生したときに、直流電源7を電源とする双方向電力変換器6から電圧低下を補償した給電を行う。さらに、系統電源1の瞬時停電発生には高速スイッチ3を解離させ、双方向電力変換器6の自立運転で重要負荷に給電する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
双方向電力変換器6は、その主回路6Aを半導体スイッチ素子を使用したPWM整流回路に構成され、PWM制御装置6Bにより各スイッチ素子がPWMゲート制御される。この制御は、系統電源1との連系運転時には、系統電源1の電圧が低下したときに直流電源7から直流−交流変換で電圧補償した出力を得、系統電源1の電圧が正常時には交流−直流変換で直流電源7を充電しておく。また、系統電源1の瞬時停電による自立運転時には、直流電源7を電源として重要負荷4に規定の電圧による給電を行う。なお、直流電源7は一般の二次電池または電気二重層キャパシタなどが採用され、重要負荷4の電力容量に応じたものにされる。
【0004】
このように、瞬低補償装置には、系統連系運転と自立運転の二つの運転モードに切り替え可能にされ、この運転モードの切り替え(系統連系運転→自立運転、自立運転→系統連系運転)に際して、制御装置6Bでは電圧変動や異常電圧抑制を図ることができる回路構成にされる。
【0005】
瞬低補償装置におけるPWM制御装置6Bのブロック構成を図4に示す。PWM制御装置は、常時は系統連系運転部11によりACR(自動電流制御)をしており、瞬低発生時は自立運転部12によるAVR(自動電圧制御)に切り替え、瞬低が終われば再び系統連系運転を行う。系統連系運転時は、主回路6Aが出し入れする電流(充放電電流)を制御する。自立運転時は、主回路6Aの出力電圧を制御する。系統連系・自立運転のモード切替は、切替スイッチ13でPWM指令値を切り替え、PWM制御部14ではPWM指令値と三角波(キャリア信号)との大小比較によりPWM波形のゲート信号を得る。
【0006】
現状の技術では、自立運転部12はCVCFなどの電圧制御を行う交直変換装置の制御方式により制御している。系統連系運転部11はPWM整流回路などの電流制御を行う交直変換装置の制御方式により制御している。それぞれのPWM指令値は、PI制御器出力(AVR出力またはACR出力)とベース電圧の和で生成される。
【0007】
自立運転では、AVRの負担を軽減するためにベース電圧を加算している。AVRの制御量が小さくなると応答性が悪くなるため、ベース電圧は0.5p.u(1p.uは定格電圧)程度の値が一般的である。系統連系運転では、装置が系統と全く同じ電圧を出力すれば充放電電流はゼロとなる。よってベース電圧として1p.uの値を加算してACRで充放電電流を制御する。
【0008】
ベース電圧の値はフィードフォワードで計算した値を固定値として使用するのがもっとも簡単な方法であり、よく使用される。
【特許文献1】特開2002−101576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
瞬低補償装置において、瞬低を検出すると、系統連系運転から自立運転に瞬時に切り替わる。このとき、AVRの応答が遅れてしまうと、出力電圧が低下してしまう。応答を速くするとモード切り替え時に出力電圧が不安定になるおそれがある。一般的なCVCFでは、装置起動時、出力電圧をゼロからソフトスタートするのでこのような問題を気にする必要はない。AVRの制御範囲を大きくした方が応答性はよくなるため、ベース電圧は0.5p.u程度としている。
【0010】
瞬低補償装置において、系統電圧が瞬低から復帰する(以下、復電する)と自立運転から系統連系運転に瞬時に切り替わる。この時、ACRの応答が遅れてしまうと、装置の充放電電流が不安定になる。また、直流電源7に電気二重層キャパシタを適用した瞬低補償装置(以後、キャパシタ式瞬低補償装置)のように直流電圧が大きく変動する装置の場合、ACRの制御量が大きくなるため不安定になりやすい。なお、直流電源7に一般の蓄電池を使用する場合、直流電圧はほとんど変動しないため、ベース電圧を固定値にしても問題は無かった。
【0011】
例えば、出力電圧三相220V、直流電圧範囲375V〜625V(定格625V)のキャパシタ式瞬低補償装置を例に考える。図5のように、振幅1の三角波とPWM指令値を比較することでPWMゲート信号を生成し、瞬低補償装置を制御する場合、デッドタイム等の影響を無視して考えると、直流電圧と交流電圧の波高率の関係から、
【0012】
【数1】

【0013】
より、PWM指令値に振幅0.57p.uの正弦波を与えれば、220Vの電圧が出力される。
【0014】
系統連系運転から自立運転に切り替える場合を考える。220Vの電圧を出力するためには振幅0.57p.uの正弦波を出力しなければならない。自立運転時のベース電圧は0.5p.u(0.29)程度であるので、AVR出力を瞬時に0.29にしなければならないが、安定するまで時間がかかるため、切り替え直後、出力電圧は低下してしまう。
【0015】
瞬低補償動作を行い、直流電圧が375Vまで低下した後、系統連系運転に切り替わる場合を考える。直流電圧が375Vの時、220Vの電圧を出力するためには、
【0016】
【数2】

【0017】
のベース電圧が必要である。ベース電圧を固定値でいれた場合、ベース電圧は0.57p.uとなる。
【0018】
【数3】

【0019】
このため、0.39p.u程度の範囲をもつ値をACRで制御しなければならなくなり、切り替えに際して不安定になりやすい。
【0020】
本発明の目的は、運転モード切り替え時の出力電圧変動を抑制でき、さらに系統連系運転から自立運転に安定した切り替えができる瞬時電圧低下補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記の課題を解決するため、自立運転と系統連系運転のベース電圧を共通化した定格電圧とする構成、さらにベース電圧を直流電源の検出電圧を基に定格電圧に相当する電圧に自動調節する構成としたもので、以下の構成を特徴とする。
【0022】
(1)系統電源に瞬時電圧低下が発生したときは、直流電源を電源とするPWM電力変換器の自動電流制御による系統連系運転で負荷の電圧低下を補償し、系統電源に瞬時停電が発生したときはPWM電力変換器の自動電圧制御による自立運転で負荷電圧を制御する瞬時電圧低下補償装置であって、
前記系統連系運転時の制御出力と自立運転時の制御出力に、定格電圧にした共通のベース電圧を加算したPWM指令を得る構成を特徴とする。
【0023】
(2)前記ベース電圧は、前記直流電源の電圧を基に定格電圧に相当する電圧に自動調節する構成を特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によれば、自立運転と系統連系運転のベース電圧を共通化した定格電圧とする構成、さらにベース電圧を直流電源の検出電圧を基に定格電圧に相当する電圧に自動調節する構成としたため、系統連系運転から自立運転に切り替わるとき、自動電圧制御出力がゼロでもベース電圧を加算したPWM指令値が定格電圧になるため、運転モード切り替え時の出力電圧変動を抑制することができる。
【0025】
また、直流電源の電圧が定格より小さいときでも、1p.u相当の出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示すPWM制御装置の制御ブロックである。系統連系運転部11Aは、出力電流指令値とその検出値との偏差をPI(比例積分)制御器で演算した結果をPWM指令値として出力する。自立運転部12Aは、出力電圧指令値とその検出値との偏差をPI(比例積分)制御器で演算した結果をPWM指令値として出力する。切替スイッチ13は、系統連系運転部11Aと自立運転部12AからのPWM指令値を切り替える。ベース電圧加算部15は、切替スイッチ13の出力になるPWM指令値にベース電圧分を加算してPWM制御部14へのPWM指令値とする。
【0027】
すなわち、本実施形態では、自立運転・系統連系運転のPWM指令値におけるベース電圧分を共通化し、このベース電圧は直流電圧定格において1p.uを出力する値(固定値)とする。
【0028】
この構成により、系統連系運転から自立運転に切り替わるとき、AVR出力がゼロでもベース電圧を加算したPWM指令値が定格電圧になるため、運転モード切り替え時の出力電圧変動を抑制することができる。
【0029】
ただし、直流電源7の電圧が定格より小さいとき、出力電圧も小さくなる。しかし、直流電圧が定格より小さいときに系統連系運転から自立運転に切り替わるのはレアケースである。例えば、瞬低補償装置で繰り返し瞬低が発生し、自立運転による放電が進んでいる場合に直流電源電圧が低下しているが、このような制御状態は極めて少ない。
【0030】
なお、本実施形態において、自立運転から系統連系運転に切り替わるときは、ベース電圧が1p.uにあって、従来の技術と性能は変わらない。また、ベース電圧を共通化するため、従来技術と比較して制御回路構成を簡略化できる。
【0031】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態を示すPWM制御装置の制御ブロックである。同図が図1と異なる部分は、ベース電圧を固定値でなく、直流電源7の直流電圧に応じて自動調節する点にある。ベース電圧演算部16は、直流電源7の直流電圧検出値に応じて、ベース電圧を求め、これをベース電圧加算部15のベース電圧として設定する。ベース電圧演算部16による演算は、下記の式でベース電圧を求める。すなわち、直流電圧Vdcの変化に拘わらず、PWM指令値には1p.uの出力を得ることができる。
【0032】
【数4】

【0033】
本実施形態によれば、系統連系運転から自立運転に切り替わるとき、AVR出力がゼロでも定格電圧が出力されるため、運転モード切り替え時の出力電圧変動を抑制することができる。しかも、直流電圧が定格より小さいときでも、1p.u相当の出力を得ることができる。
【0034】
なお、自立運転から系統連系運転に切り替わるとき、ACR出力がゼロの時に出力電流もゼロになるため、安定して切り替えることができる。
【0035】
また、実施形態1と比較して、ベース電圧演算部16の追加を必要として制御が複雑になるが、PWM制御装置6Bを制御用コンピュータで構成する場合、各直流電圧におけるベース電圧値をあらかじめ計算し、ROMに書き込んでおけば、直流電圧を計測し、値を読み込むだけの演算となり、それほど演算負荷は増えない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態1を示すPWM制御装置の制御ブロック。
【図2】本発明の実施形態2を示すPWM制御装置の制御ブロック。
【図3】瞬時電圧低下補償装置を設けた受電システムの構成例。
【図4】瞬低補償装置におけるPWM制御装置6Bのブロック構成図(従来)。
【図5】PWM制御の波形図。
【符号の説明】
【0037】
1 系統電源
3、5 高速スイッチ
6 電力変換器
6A 主回路
6B PWM制御装置
7 直流電源
11 系統連系運転部
12 自立運転部
13 切替スイッチ
14 PWM制御部
15 加算部
16 ベース電圧演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統電源に瞬時電圧低下が発生したときは、直流電源を電源とするPWM電力変換器の自動電流制御による系統連系運転で負荷の電圧低下を補償し、系統電源に瞬時停電が発生したときはPWM電力変換器の自動電圧制御による自立運転で負荷電圧を制御する瞬時電圧低下補償装置であって、
前記系統連系運転時の制御出力と自立運転時の制御出力に、定格電圧にした共通のベース電圧を加算したPWM指令を得る構成を特徴とする瞬時電圧低下補償装置。
【請求項2】
前記ベース電圧は、前記直流電源の電圧を基に定格電圧に相当する電圧に自動調節する構成を特徴とする請求項1に記載の瞬時電圧低下補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−92719(P2008−92719A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272517(P2006−272517)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】