説明

短繊維不織布用繊維及びその製造方法、短繊維不織布及びその製造方法、並びに生活用品

【課題】キトサンの性能を低下させずに、不織布製造時の静電気発生を抑制することができ、更に、肌への刺激も少ない短繊維不織布用繊維及びその製造方法、短繊維不織布及びその製造方法、並びに生活用品を提供する。
【解決手段】芯部2aがポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部2bがポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維からなる繊維本体2の表面に、少なくとも、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル3、及び、キトサン界面活性剤4を所定量付着させて、短繊維不織布用繊維1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維不織布用繊維及びその製造方法、この繊維を使用した短繊維不織布及びその製造方法、並びに生活用品に関する。より詳しくは、抗菌性や親水性などを備えた機能性不織布を製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面にキトサンを付着させることにより、抗菌性、防かび性及び吸湿性などの機能を付与した不織布が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。これら特許文献1〜4に記載されているような従来の機能性不織布では、一般に、樹脂可塑性樹脂などからなる短繊維を熱融着して不織布を形成した後で、キトサンを含む液をスプレー又は塗布することで、繊維表面にキトサンを付着させている。
【0003】
また、キトサンを付着させた繊維を用いて、不織布を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。特許文献5には、糸条を熱延伸し、捲縮を付与した後、得られた繊維の表面に、キトサン塩と分子量が1000〜100000の変性ポリエーテルエステルとを付着させた抗菌性合成繊維が開示されている。この特許文献5に記載の技術では、キトサン及び変性ポリエーテルエステルを繊維表面に固着させるために、100〜200℃の温度条件下で熱処理を施している。
【0004】
【特許文献1】特開平4−272273号公報(特許第2944236号公報)
【特許文献2】特開2002−142856号公報
【特許文献3】特開2003−166155号公報
【特許文献4】特開2004−131622号公報
【特許文献5】特開平11−117177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1〜4に記載の技術のように、不織布を形成した後でキトサンを付着させる方法は、キトサンが脱落しやすく、長期間効果を維持することができないという問題点がある。また、このような不織布は、硬くなりやすいため、肌に触れる部分に使用すると、物理的刺激による肌荒れが生じるおそれがある。
【0006】
一方、特許文献5に記載の繊維は、表面に、カーディング工程での静電気を防止するための変性ポリエーテルエステルが付着しているため、キトサンの効果が十分に発揮されないという問題点がある。また、この繊維を使用して作製した不織布を、肌に触れる部分に使用すると、変性ポリエーテルエステルの刺激性により、かぶれなどが生じることもある。一方、変性ポリエーテルエステルなどの油剤を使用せずに、繊維表面にキトサンのみを付着させた場合、カード工程において静電気が発生し、均一な不織布が得られないという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、キトサンの性能を低下させずに、不織布製造時の静電気発生を抑制することができ、更に、肌への刺激も少ない短繊維不織布用繊維及びその製造方法、短繊維不織布及びその製造方法、並びに生活用品を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る短繊維不織布用繊維は、表層がポリエチレンからなる繊維本体の表面に、少なくとも、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及び、キトサン界面活性剤が付着している。
本発明においては、繊維本体表面に付着したポリエチレングリコール脂肪酸エステルにより、不織布製造時のカード工程における静電気発生が抑制される。また、このポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、熱融着時の加熱により、繊維本体内に浸透するため、熱融着後の繊維表面は、抗菌性や親水性に優れ、肌への刺激が少ないキトサン界面活性剤で被覆されることとなる。
この繊維では、前記繊維本体として、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部がポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維を使用してもよい。
その場合、鞘部は高密度ポリエチレンであることが好ましい。
また、前記キトサン界面活性剤は、例えば、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものである。
更に、この短繊維不織布用繊維では、前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量を0.2〜0.5質量%とし、前記キトサン界面活性剤の付着量を0.1〜1.0質量%とすることができる。
【0009】
本発明に係る短繊維不織布用繊維の製造方法は、表層が高密度ポリエチレンからなる繊維本体の表面に、少なくとも、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及び、キトサン界面活性剤を付着させた後、90〜110℃の温度で加熱する乾燥熱処理工程を有する。
本発明においては、繊維本体の表層が高密度ポリエチレンで形成されているため、不織布製造時に135〜145℃程度の温度で加熱される。この加熱により、繊維本体表面に付着させたポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、繊維本体内に取り込まれ、不織布形成後の繊維表面にはほどんど残留しない。また、これにより、繊維本体表面はキトサン界面活性剤で覆われるため、製造される短繊維不織布は、親水性となり、更に、抗菌性も付与される。
この短繊維不織布用繊維の製造方法では、乾燥熱処理工程後の前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量を0.2〜0.5質量%とし、前記キトサン界面活性剤の付着量を0.1〜1.0質量%としてもよい。
また、前記繊維本体として、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部が高密度ポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維を使用することができる。
更に、前記キトサン界面活性剤としては、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものを使用することができる。
【0010】
本発明に係る短繊維不織布は、前述した短繊維不織布用繊維を熱融着したものであり、この繊維表面におけるポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が、熱融着前の付着量の40%以下である。
本発明においては、熱融着によりポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が大幅に低減しているため、肌への刺激が少なく、更に、抗菌性及び親水性に優れている。また、熱融着前はポリエチレングリコール脂肪酸エステルが十分に付着しているため、カード工程における静電気発生抑制が抑制され、地合いムラなども生じない。
【0011】
本発明に係る短繊維不織布の製造方法は、表層がポリエチレンからなる繊維本体の表面に、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及び、キトサン界面活性剤が付着している不織布用繊維を熱融着する工程を有する。
本発明においては、熱融着によりポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が低減するため、カード工程における静電気発生を抑制しつつ、抗菌性及び親水性に優れ、肌への刺激が少ない不織布が得られる。
また、熱融着前の不織布用繊維表面における前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステル付着量は例えば0.2〜0.5質量%であり、熱融着後の不織布用繊維表面における前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステル付着量は熱融着前の付着量の40%以下である。
更に、前記繊維本体には、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部がポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維を使用することができる。
その場合、前記芯鞘複合繊維の鞘部が高密度ポリエチレンで形成されていることが望ましい。
更にまた、前記キトサン界面活性剤としては、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものを使用することができる。
【0012】
本発明に係る生活用品は、前述した短繊維不織布を使用したものであり、例えばマスク、簡易カイロ、紙おむつ、生理用ナプキン及びパンティーライナーなどが挙げられる。
本発明においては、繊維表面がキトサン界面活性剤で被覆された短繊維不織布を使用しているため、抗菌性及び親水性に優れ、肌への刺激が少ない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カード機通過時は繊維本体表面に付着したポリエチレングリコール脂肪酸エステルにより静電気発生を抑制することができ、また、熱融着後は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルが繊維本体内に取り込まれ、繊維表面は主にキトサン界面活性剤で被覆されることとなるため、肌への刺激を低減することができると共に、優れた抗菌性及び親水性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。先ず、本発明の第1の実施形態に係る短繊維不織布用繊維について説明する。
【0015】
図1は本実施形態の短繊維不織布用繊維の構成を模式的に示す断面図であり、図1(a)は中心軸を含み軸方向に垂直な断面を示し、図1(b)は中心軸を含み軸方向に平行な断面を示す。また、図2は、図1に示す短繊維不織布用繊維を熱融着した後の状態を模式的に示す断面図であり、図2(a)は中心軸を含み軸方向に垂直な断面を示し、図2(b)は中心軸を含み軸方向に平行な断面を示す。図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態の短繊維不織布用繊維1では、繊維本体2の表面に、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3とキトサン界面活性剤4とが付着している。
【0016】
この短繊維不織布用繊維1における繊維本体2は、表層がポリエチレンで形成されていればよく、例えば、図1(a)及び(b)に示すようなポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートからなる芯部2aの周囲に、ポリエチレンからなる鞘部2bが形成されている芯鞘型複合繊維などを使用することができる。その場合、図1(a)及び(b)に示すような鞘部2bが繊維断面中心に配置されている同芯型に限らず、鞘部2bが中心からずれている偏芯型でもよい。また、鞘部2bの断面形状も円形に限定されず、異型でもよい。更に、繊維本体2が芯鞘型複合繊維である場合は、鞘部2bを構成するポリエチレンが、高密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0017】
また、繊維本体2に付着させるポリエチレングリコール脂肪酸エステル3には、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルを使用する。ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3を構成するポリエチレングリコールの分子量が400未満の場合、水に溶解しにくくなるため、製造工程において問題が生じるおそれがある。また、分子量が800を超えるポリエチレングリコールを使用すると、絶縁抵抗が大きくなり、カード工程において静電気発生を防止する効果が低減する。
【0018】
一方、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3を構成する脂肪酸成分は、より高い効果を得るために、全炭素数が10〜20の範囲のものにすることが望ましい。また、この脂肪酸は、飽和及び不飽和のいずれであってもよく、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。このような脂肪酸の例としては、例えば、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸などが挙げられる。更に、エステルの形態は、モノエステル及びジエステルのいずれであってもよいが、より高い効果を得るためには、モノエステルが好ましい。
【0019】
なお、本実施形態の短繊維不織布用繊維1では、繊維本体2の表面に、2種以上のポリエチレングリコール脂肪酸エステル3を付着させてもよい。また、上述したポリエチレングリコール脂肪酸エステル3と共に、本発明の範囲が損なわれない範囲で、他の公知の油剤を付着させることもできる。
【0020】
このポリエチレングリコール脂肪酸エステル3の付着量は、繊維全質量に対して0.2〜0.5質量%であることが望ましい。ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3の付着量が0.2質量%未満の場合、十分な静電気抑制効果が得られないことがあり、また、付着量が0.5質量%を超えると、繊維表面にべたつきが発生して、繊維の摩擦係数が増加し、カード通過性が低下することがある。
【0021】
一方、キトサン界面活性剤4は、キトサン本来の機能に加え、界面活性機能を備えており、従来のキトサンに比べて、抗菌性及び親水性に優れている。このようなキトサン界面活性剤4としては、例えばキトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものが挙げられる。
【0022】
また、キトサン界面活性剤4の付着量は、繊維全質量に対して0.1〜1.0質量%であることが望ましい。キトサン界面活性剤4の付着量が0.1質量%未満の場合、十分な抗菌性が得られないことがあり、また、付着量が1.0質量%を超えると、脱落して不織布製造設備に移転し、汚染の原因になることがある。
【0023】
なお、本実施形態の短繊維不織布用繊維1においては、繊維本体2の表面に、上述したポリエチレングリコール脂肪酸エステル3及びキトサン界面活性剤4に加えて、更に、撥水性付与剤、撥油性付与剤、消臭性付与剤及び天然由来抽出剤などが付着していてもよい。
【0024】
次に、本実施形態の短繊維不織布用繊維の製造方法について説明する。例えば、図1(a)及び(b)に示す短繊維不織布用繊維1を製造する場合は、先ず、例えば高密度ポリエチレンを鞘部2bの成分とし、ポリエチレンを芯部2aの成分とする芯鞘型複合繊維を溶融紡糸する。そして、その糸条を、延伸処理した後、捲縮を付与して繊維本体2を得る。
【0025】
次に、この繊維本体2の表面に、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3及びキトサン界面活性剤4を所定量付着させる。その方法としては、例えば含浸法、転写法及び噴霧法などが挙げられる。
【0026】
その後、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3及びキトサン界面活性剤4を付着させた繊維本体2を、90〜100℃の温度で加熱乾燥し、短繊維不織布用繊維1とする。ここで、加熱温度が90℃未満の場合は水などの溶媒が除去できず、繊維が濡れた状態となる。一方、加熱温度が110℃を超えると、繊維本体2に熱収縮が発生し、捲縮に変化が発生する。
【0027】
上述の如く、本実施形態の短繊維不織布用繊維1においては、繊維本体2の表面に付着させるポリエチレングリコール脂肪酸エステル3に、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルを使用しているため、不織布製造時のカード工程における静電気発生を抑制することができる。また、繊維本体2の表面に、親水基を備えるキトサン界面活性剤4を付着させているため、抗菌性を付与すると共に、表面を親水化することができる。
【0028】
更に、図2(a)及び(b)に示すように、本実施形態の不織布用繊維1では、繊維を熱融着する際に、溶融したポリエチレン中にポリエチレングリコール脂肪酸エステル3が取り込まれる。これは、繊維本体2の表面に付着しているポリエチレングリコール脂肪酸エステル3が、分子量が小さく、かつ繊維本体2の表層を構成するポリエチレンと分子構造が類似しているため、両者の親和性が高く、ポリエチレンを熱溶融したときに混ざり合おうとする力が働くためである。キトサン界面活性剤4とポリエチレンとの間では、このような作用は働かないため、キトサン界面活性剤4はそのまま残留し、熱融着後の繊維表面はキトサン界面活性剤4で被覆される。その結果、本実施形態の不織布用繊維1により製造した不織布は、従来の不織布に比べて、抗菌性が高く、更に、肌への負担も大幅に低減することができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態に係る短繊維不織布について説明する。本実施形態の短繊維不織布は、前述した第1の実施形態の短繊維不織布用繊維1を熱融着したものであり、各繊維の表面におけるポリエチレングリコール脂肪酸エステル3の付着量が、熱融着前の付着量の40%以下となっている。
【0030】
このように、熱融着により、繊維表面における付着量が低減する油剤(ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3)を使用することで、製造時の静電気抑制効果を維持しつつ、肌への刺激を低減することが可能となる。なお、熱融着後のポリエチレングリコール脂肪酸エステル3の付着量が、熱融着前の付着量の40%よりも多いと、繊維表面におけるポリエチレングリコール脂肪酸エステル3の残留量が多くなり、キトサン界面活性剤4の効果が低下したり、肌に負担がかかったりすることがある。
【0031】
次に、本実施形態の短繊維不織布の製造方法について説明する。本実施形態の短繊維不織布を製造する場合は、先ず、前述した第1の実施形態の短繊維不織布用繊維1からなるステープル繊維を、カード機により開繊してシート化する。その際、繊維表面は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3により、親水性となっているため、静電気発生は抑制される。その後、熱風融着及び熱ローラー融着(エンボスローラー融着を含む)などにより、繊維同士を熱融着して不織布を得る。この熱融着工程により、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル3は、繊維本体2の表層を構成するポリエチレンに取り込まれるため、得られた不織布の繊維表面には、ほどんど残留していない。
【0032】
上述の如く、本実施形態の短繊維不織布は、繊維本体表面にポリエチレングリコール脂肪酸エステルが所定量付着している短繊維不織布用繊維を使用しているため、カード工程における静電気発生を抑制することができる。また、このポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、熱融着によりその付着量が大幅に低減するため、熱融着後の繊維表面には、刺激のある界面活性剤はほとんど付着していない。更に、熱融着後の繊維表面には、キトサン界面活性剤が付着しているため、親水性及び抗菌性に優れた短繊維不織布が得られる。更にまた、本実施形態の短繊維不織布は、従来の工程で製造可能であるため、新たな設備を導入する必要もない。
【0033】
このように、本実施形態の短繊維不織布は、肌への刺激が少ないため、肌に直接触れる部分にも使用することができる。特に、保湿マスクなどの各種マスク及び簡易カイロなどの生活用品、紙おむつ、生理用ナプキン及びパンティーライナーなどの各種衛生用品に好適である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について説明する。先ず、本発明の実施例として、芯部がポリプロピレンで形成され、鞘部が高密度ポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維の表面に、分子量が600のポリエチレングリコールとオレイン酸とのモノエステル(油剤A)又は分子量が400のポリエチレングリコールとオレイン酸とのモノエステル(油剤B)と、天然新素材科学研究所製エクセルキトサン(キトサン界面活性剤)とを付着させて、実施例1〜6の短繊維不織布用繊維を作製した。
【0035】
また、本発明の比較例として、芯部がポリプロピレンで形成され、鞘部が高密度ポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維の表面に、アルキル鎖の炭素数が8のアルキルホスフェートカリウム塩(油剤C)と、天然新素材科学研究所製 エクセルキトサンとを付着させて、比較例1の短繊維不織布用繊維を作製した。更に、比較例2として、油剤を使用せず、芯部がポリプロピレンで形成され、鞘部が高密度ポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維の表面に、天然新素材科学研究所製 エクセルキトサンのみを付着させた短繊維不織布用繊維を作製した。
【0036】
次に、実施例及び比較例の各繊維を熱融着して、短繊維不織布を作製した。そして、加熱後の繊維表面における油剤及びキトサン界面活性剤の付着量、カード通過性、並びに不織布の親水性について評価した。その際、各成分の付着量は、迅速残脂抽出装置(東海計器製 R−II型)により、試料2gに対し、エチルアルコールとメチルアルコールを質量比で2:1の割合で混合した溶剤を10mlずつ2回使用し、室温で、約15分間抽出したときの抽出量に基づき、下記数式1により求めた。
【0037】
【数1】

【0038】
また、カード通過性は、実施例及び比較例の各繊維を、20℃、70%RHの雰囲気下で、サンプルローラーカードに通し、ウェブ排出時の静電気及び粉の発生の度合いを目視観察した。その結果、静電気や粉の発生がない場合を○、静電気や粉の発生が僅かにみられた場合を△、静電気が発生して地合いが乱れた場合及びカード下や周囲に粉が多量に発生した場合を×とした。更に、不織布の親水性は、作製した不織布に水を10滴落とし、吸収された水滴数により評価した。以上の結果を下記表1にまとめて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
上記表1に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜6の繊維は、カード通過性及び親水性に優れていた。特に、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が0.2〜0.5質量%の範囲内であり、かつキトサン界面活性剤の付着量が0.1〜1.0質量%の範囲内である実施例1〜3の繊維は、カード通過性及び不織布の親水性のいずれの項目も優れていた。
【0041】
更に、特性が優れていた実施例1〜3の繊維から製造された不織布を水で濡らし、被験者10人の腕の内側に8時間貼付し、肌への刺激性を確認したところ、肌の変色が2〜3人に確認された程度で、かぶれなどの発生はなかった。そこで、実施例1,2の繊維から製造した不織布について、抗菌性の評価を行ったところ、実施例1の繊維から製造した不織布は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の静菌活性値が4であり、実施例2繊維から製造した不織布は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の静菌活性値が4.4であり、いずれも優れた抗菌性を示した。
【0042】
これに対して、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル以外の油剤を使用した比較例1の繊維は、カード通過性及び親水性については前述した実施例の繊維と同等であったが、肌への刺激性を確認したところ、9人に肌の変色がみられた。これは、繊維表面に油剤が残留しているために、キトサン界面活性剤の性能が十分に発揮されなかったためであると考えられる。一方、油剤を使用していない比較例2の繊維は、カード通過性が劣っており、静電気の発生及び粉の発生がみられた。
【0043】
以上の結果から、本発明によれば、カード通過性、抗菌性及び親水性に優れ、更に肌への刺激も少ない短繊維不織布用繊維が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る短繊維不織布用繊維の構成を模式的に示す断面図であり、(a)は中心軸を含み軸方向に垂直な断面を示し、(b)は中心軸を含み軸方向に平行な断面を示す。
【図2】図1に示す短繊維不織布用繊維を熱融着した後の状態を模式的に示す断面図であり、(a)は中心軸を含み軸方向に垂直な断面を示し、(b)は中心軸を含み軸方向に平行な断面を示す。
【符号の説明】
【0045】
1 短繊維不織布用繊維
2 繊維本体
2a 芯部
2b 鞘部
3 ポリエチレングリコール脂肪酸エステル
4 キトサン界面活性剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層がポリエチレンからなる繊維本体の表面に、少なくとも、
分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、
及び、キトサン界面活性剤が付着している短繊維不織布用繊維。
【請求項2】
加熱により、前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステルが前記繊維本体内に浸透することを特徴とする請求項1に記載の短繊維不織布用繊維。
【請求項3】
前記繊維本体は芯鞘型複合繊維であり、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部がポリエチレンで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の短繊維不織布用繊維。
【請求項4】
鞘部が高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項3に記載の短繊維不織布用繊維。
【請求項5】
前記キトサン界面活性剤は、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の短繊維不織布用繊維。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が0.2〜0.5質量%であり、前記キトサン界面活性剤の付着量が0.1〜1.0質量%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の短繊維不織布用繊維。
【請求項7】
表層が高密度ポリエチレンからなる繊維本体の表面に、少なくとも、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及び、キトサン界面活性剤を付着させた後、90〜110℃の温度で加熱する乾燥加熱処理工程を有する短繊維不織布用繊維の製造方法。
【請求項8】
乾燥加熱処理工程後の前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量を0.2〜0.5質量%とし、前記キトサン界面活性剤の付着量を0.1〜1.0質量%とすることを特徴とする請求項7に記載の短繊維不織布用繊維の製造方法。
【請求項9】
前記繊維本体として、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部が高密度ポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維を使用することを特徴とする請求項7又は8に記載の短繊維不織布用繊維の製造方法。
【請求項10】
前記キトサン界面活性剤として、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものを使用することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の短繊維不織布用繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の短繊維不織布用繊維を熱融着したものであり、
前記繊維表面におけるポリエチレングリコール脂肪酸エステルの付着量が、熱融着前の付着量の40%以下である短繊維不織布。
【請求項12】
表層がポリエチレンからなる繊維本体の表面に、分子量400〜800のポリエチレングリコールと炭素数10〜20の脂肪酸とのエステルであるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及び、キトサン界面活性剤が付着している不織布用繊維を熱融着する工程を有する短繊維不織布の製造方法。
【請求項13】
熱融着前の不織布用繊維表面における前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステル付着量が0.2〜0.5質量%であり、熱融着後の不織布用繊維表面における前記ポリエチレングリコール脂肪酸エステル付着量が熱融着前の付着量の40%以下であることを特徴とする請求項12に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項14】
前記繊維本体として、芯部がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートで形成され、鞘部がポリエチレンで形成されている芯鞘型複合繊維を使用することを特徴とする請求項12又は13に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項15】
前記芯鞘複合繊維の鞘部が高密度ポリエチレンで形成されていることを特徴とする請求項14に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項16】
前記キトサン界面活性剤として、キトサンの一部を長鎖脂肪酸又はその無水物でアシル化したものを使用することを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項17】
請求項11に記載の短繊維不織布を使用した生活用品。
【請求項18】
マスク、簡易カイロ、紙おむつ、生理用ナプキン又はパンティーライナーであることを特徴とする請求項17に記載の生活用品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126849(P2010−126849A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304056(P2008−304056)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】