説明

石灰系精錬用フラックス

【課題】石灰石を焼成して得た生石灰を使用しつつも、ポーラス化をさらに高めて反応性を飛躍的に上げること、それによって蛍石の使用を排除できるようにした石灰系精錬用フラックスを提供する。
【解決手段】破砕された石灰石に工業塩を接触させて塩焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕して塩焼き生石灰フラックスとする。これは、金属精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分もしくは燐酸分等と反応してスラグの生成を促進する。なお、破砕された石灰石を素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を混合しても、粉砕された石灰石を造粒して素焼きした素焼き生石灰を混合しても、さらには、カルシウム・フェライトを混合するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石灰系精錬用フラックスに係り、詳しくは、金属精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分もしくは燐酸分等と反応してスラグの生成を促進し、鋼材中の不純物元素を低減させることができるようにした石灰系フラックス、とりわけ生石灰を主体にした造滓材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材中の不純物元素を低減させるために、溶製中の溶鉄に造滓材を入れて脱酸、脱硫、脱燐、脱珪さらには介在物の形態制御などが行われる。このために、最近では石灰系フラックスが多用されるが、その代表的なものは生石灰CaOである。これは溶湯に含まれている燐を最終的にはmCaO・nP2 5 やmCaO・nFe2 3 ・P2 5 にしてスラグ化し、硫黄については一部が高温でガス化するものの大部分をCaSにしてスラグへ移行させるように機能する。なお、滓化して生じたスラグが再利用しにくいソーダ灰系フラックスとは異なり、産業廃棄物としてのスラグの利用の途も開かれる。
【0003】
生石灰は5〜30ミリメートル大の粒塊状にして溶湯面に投げ入れられたり、粉状にしてサブランスからインジェクションされたりする。投入された生石灰は溶湯面に浮き、インジェクションされたものはキャリアガスによる溶湯の攪拌作用があるとはいえ大部分はやはり直ちに溶湯面まで浮上する。それゆえ、2,572℃と融点の高い生石灰の反応性を高めるためには融剤が必要となり、蛍石CaF2 が適宜加えられる。これは塩基性スラグの塩基度を下げることなくスラグの流動性をよくし、造滓作用を活発化させる。
【0004】
ちなみに、脱燐は溶湯温度の低い方がまた酸化性雰囲気である方が活発となり、それゆえ転炉操業では酸素吹錬初期に進行させることが多い。なお、脱燐においてはスラグの塩基度を高めるべくスラグ中のCaOの存在を高めておくことが望ましい。一方、脱硫は高温還元性雰囲気で起こりやすく、高炉から出た溶銑を運搬するトピードカーや取鍋でもCaOや金属Mgを投入して行われる。
【0005】
ところで、ランスから吹き込むにしても粒塊物を直接投下するにしても、石灰系フラックスは溶湯との接触の機会が高くなっていることが好ましく、したがって、溶湯が進入して脱燐・脱硫反応を起こしやすいポーラスなものがよい。生石灰は石灰石を900℃ないし1,200℃、場合によってはそれ以上で焼成して作られるが、それはCaCO3 中のCをCO2 のかたちで追い出したものである。それゆえ、生石灰は製造過程でおのずと微細な孔が多数形成される。このように生石灰は気孔性に豊んだものとなるが、それにもかかわらず圧縮強度が高くて衝撃に強く、輸送や精錬炉への投入の際の取り扱いが容易であることも大きな特徴となっている。
【0006】
生石灰の持つ孔は原則的にCがCO2 化して逃げたガス抜け跡であるため、個々の孔の大きさには限界があって、溶湯の円滑な進入を許容するほどの大きさになっていることは少ない。滓化剤としての反応性を上げるためには気孔率が高く、また孔自体の径が大きいことが望まれる。例えば特許第3,005,770号公報には、石灰石を粉砕して水で練り、5ミリメートル径以上に造粒したものを1,100℃程度で焼成してフラックスを得ることが提案されている。水分が抜けたところに空孔が形成され、ポーラス化も促進されて高い反応性を発揮する。
【0007】
このような多孔質生石灰を採用すれば溶鉄との接触率が高まり、脱硫反応等の向上で溶湯1トンあたり通常30ないし35kgも使用される生石灰の量を7割程度に減らすことができ、スラグの発生量も少なくなる。また、焼成温度を抑えることにもなり、燃料消費量の低減もCO2 ガス排出量も削減できる。反応性が上がればスラグに含まれるフリーライムも少なくなり、再利用に先立つエイジングの手間も軽減される。
【0008】
ところで、塩基性炉の発達もあいまって、P2 5 の生成のために必要となる酸素源として、気体酸素やミルスケールなどが使用できるようになっている。脱燐は溶湯の温度が低いうちに進行させる必要があるので、溶湯の温度が上がらない間に生石灰を融解させておかねばならない。そのためにはミルスケールFe2 3 等とともに蛍石が生石灰に混成され、これによって脱燐の準備が整えられる。
【0009】
しかし、投入したりインジェクションされた後はCaO、Fe2 3 、CaF2 が散らばり、相互の連携作用が薄れてmCaO・nP2 5 やmCaO・nFe2 3 ・P2 5 を生成する脱燐反応に時間を要したり、高い脱燐効率が望めなくなる。そのうえ、生石灰融剤としての蛍石は環境上問題の多いふっ素を含むスラグの生成を余儀なくし、燐肥としての可能性を持つスラグでありながら結局は利用の途が阻まれ、また廃棄するにも困難を伴う。
【0010】
このような事情から、CaOの融解を低い温度で実現するとともにP2 5 の生成に寄与するFe2 3 をCaOに帯同させ、そして予め溶融しておいて以後の融解を低温で実現できるようにしておけば、蛍石の採用を排除することができる。特開2002−371311はこのような観点に立ち、カルシウム・フェライトにより脱燐する幾つかの例を開示している。
【特許文献1】特許第3005770号公報
【特許文献2】特開2002−371311
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、石灰石を焼成して得た生石灰を使用しつつも、ポーラス化をさらに高めて脱燐または脱硫の反応性を飛躍的に上げること、それによって蛍石の使用を可及的に排除してスラグの有用化を図ること、生石灰の消費を抑えて焼成エネルギの節減、CO2 ガス排出量の削減、スラグ発生量の低減、スラグ再利用のためのエイジング期間の短縮を実現できるようにした石灰系精錬用フラックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、金属精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分もしくは燐酸分等と反応して、スラグの生成を促進する石灰系フラックスに適用される。その特徴とするところは、図1および図2を参照して、破砕した石灰石1にNa、K、MgまたはCaの塩化物4もしくは塩化ビニル樹脂粉末を接触させて焼成され、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕された塩焼き生石灰としたことである。
【0013】
破砕された石灰石を素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を混合しても(図15を参照)、粉砕された石灰石を造粒して素焼きした素焼き生石灰を混合してもよい(図17を参照)。さらには、カルシウム・フェライトを混合することもできる(図19を参照)。
【0014】
塩焼き生石灰または塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品に、Al2 3 、金属Mg、粉状カーボンの一つまたは二以上を組み合わせて混成し、脱硫用フラックスとしておくことができる(図3ない図9、図16、図18を参照)。
【0015】
塩焼き生石灰または塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品に、Fe2 3 を混成し、脱燐用フラックスとしておくことができる(図10、図12、図16および図18を参照)。
【0016】
塩焼き生石灰、塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品または塩焼き生石灰/カルシウム・フェライト混合品に、MnO2 を混成し、脱燐用フラックスとしておくことができる(図11、図12および図20を参照)。
【0017】
塩焼き生石灰、塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品または塩焼き生石灰/カルシウム・フェライト混合品に、MgOまたはドロマイトを混成し、耐火物保護作用を持つフラックスとしておくことができる(図13、図14、図16、図18および図20を参照)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、破砕された石灰石にNa、K、MgまたはCaの塩化物もしくは塩化ビニル樹脂粉末を接触させて塩焼きするようにしているので、石灰石に含まれていた鉄分を焼成中に塩化物として昇華させることができ、CO2 の抜け孔のみならず分子量の大きい塩化鉄の抜け孔も形成させることができる。生石灰のポーラス化の増進や気孔の深長化が図られ、それゆえ投入・インジェクションの別なくその脱硫性が飛躍的に改善される。生石灰の融剤としての蛍石は必要でなく、生成スラグの無害化で再利用しやすくなる。滓化性の向上はフラックスの消費量を減らしてスラグ発生量を少なくするだけでなく、フリーライムの残存も可及的に減少させる。エイジング期間が短くなるからスラグヤードも広大には必要でなくなり、路盤材用資材としての出荷までに要する時間や手間は大いに省かれる。
【0019】
破砕された石灰石を素焼きして造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を塩焼き生石灰フラックスに混合しておくなら、反応性に高低のある二種の生石灰の混合による脱硫能力の調整が可能となる。すなわち、溶湯ごとに見合った脱硫機能と湯面被覆スラグ生成量の調整をしやすくする。粉砕された石灰石を造粒して素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を塩焼き生石灰フラックスに混合しておく場合も同様の効果が発揮されるが、この場合の反応性はやや高いところに設定することができる。
【0020】
カルシウム・フェライトを造滓作用可能サイズに破砕または粉砕して塩焼き生石灰フラックスに混合しておくなら、カルシウム・フェライトによる脱燐作用が高ポーラスな塩焼き生石灰によって補強されることになり、カルシウム・フェライトの投与量低減に貢献させることができる。加えて、脱燐に欠かせないスラグの高塩基度化も図られる。
【0021】
Al2 3 、金属Mg、粉状カーボンのいずれか一つもしくは二以上を組み合わせて塩焼き生石灰または塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品に混成しておけば、それらによる脱硫効果も加重され、造滓作用を増強しておくことができる。アルミナはCaOの溶融を助成し、金属MgはSとの結合力を強め、CはCaSの生成を助長する。
【0022】
Fe2 3 、MnO2 のいずれか一つもしくは両方を、塩焼き生石灰または塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品に混成しておけば、それらによる脱燐効果が発揮される。MnO2 を塩焼き生石灰/カルシウム・フェライト混合品に混成するなら、その脱燐作用は一層増強される。
【0023】
塩焼き生石灰または塩焼き生石灰/素焼き生石灰混合品もしくは塩焼き生石灰/カルシウム・フェライト混合品、さらにはそれらに他の添加剤が混成されている場合も、MgOもしくはドロマイトを混ぜておけば、炉壁に用いられているマグネシア系耐火物に対するスラグ侵蝕を抑制する効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係る石灰系精錬用フラックスを、図面等を参照しながら詳細に説明する。図1は金属精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分もしくは燐酸分等と反応して、スラグの生成を促進する石灰系フラックスの製造過程を示し、図2はその製造のためのたて型炉の一例の概略断面である。本発明の基盤は、端的に言って生石灰を生成するにあたり石灰石を塩焼きしていることである。すなわち、図1から分かるように、採掘された石灰石が破砕され、それが焼成炉に入れられて塩焼きされる。それを金属精錬に供するために破砕もしくは粉砕処理されるという過程を経るものである。
【0025】
金属精錬用フラックスとしての生石灰を製造するにおいては、背景技術のところでも述べたが、石灰石を焼成する。その焼成は石灰石を適宜なサイズに破砕したり、細かく砕いて水を混ぜ造粒するなりしてから、特段の添加操作を施すことなく焼くものである。このようにして得られた生石灰は素焼き品である。この素焼き生石灰とは異なり、塩焼き生石灰なるものも、分野は全く別であるがかなり古くから知られている。
【0026】
塩焼き生石灰とは石灰石を焼くときに塩をふりかけるというもので、そのような操作が採られる理由は、一に漆喰としての消石灰を作るための原料である生石灰を不純物の少ない状態で得ようとするためである。日本家屋の白壁は白いほど気品が漂うことから、石灰原石に混じる白色化阻害物質を可及的に除去した消石灰であることが望まれる。塩をふりかけて焼けば内在金属を塩化物にして昇華させることができる点に着目し、これによって白色化を阻害する成分を取り除こうとしたものである。
【0027】
したがって、石灰石を塩焼きすることはすでに知られていることであり、そのうえ例えば特開平8−109017号公報においては、塩焼きされた生石灰が素焼き生石灰に比べて軟らかく研削容易なほどに粗密化していることも報告されている。一方、本発明は、漆喰製造分野からかけ離れた金属精錬分野で使用する生石灰を塩焼きして得ようとするものである。
【0028】
それは、漆喰分野における白色化阻害内在物の可及的除去および表面集積不純物の切除の容易化を狙ったり、塩焼きによって生石灰を研削容易に粗脆質化しようといった知見に基づくものでもない。組成物もしくは内在物を気化させればその通り跡が造滓材としての活性度を引き上げることになる長くて大きい孔が形成されるとの思想に礎を置くものである。
【0029】
すなわち、精錬中に生石灰と溶鉄との触れあう面積を増大させようとの意図から塩焼きするもので、たとえ鉄分などが残留しても、それを特に嫌うものでない。本発明では、ポーラス性を高めることを目的にして石灰石を塩焼きするものであり、金属精錬特有の問題に対処するにふさわしい生石灰の生成が目指されている。
【0030】
もう少し述べれば、本発明は塩焼き生石灰の新しい用途を開拓したものであり、漆喰原料の生石灰では都合が悪いために処理しなければならなかった生石灰表面に付着する固形燃料の灰分、表面残存塩、表面に滲出した塩化物・酸不溶物・二酸化鉄などを敢えて完全に処理することなく精錬用フラックスとすることができる点でも生石灰の扱いに大きな差がある。精錬に供すれば表面付着不純物も溶湯の熱で蒸散したり滓化中にスラグへ移行され、溶鉄に混じることがなければ、スラグの生成を阻害することもない。Fe2 3 などがCaOに残留していても、それは滓化性を損なう要因となるものでない。
【0031】
それゆえ、破砕された石灰石にNaClを接触させて焼成すれば、溶湯面に投下もしくは溶湯中へインジェクションする精錬用滓化材として使用するに好適なものとなる。5ないし30ミリメートル径大に破砕して投下するか、粉状にしてサブランスから吹き込むかは造滓の狙いや精錬容器に見合ったようにしておけばよい。いずれの処理をしても、生石灰のポーラス度や気孔径が変わるわけではない。
【0032】
ところで、塩焼きは上で少し触れたが、図2のようなたて型炉で行われる。破砕された石灰石1がシャフト型炉2の内部でコークス3と相互に層をなすよう重ねた状態に装入される。下方の層から各層を貫いて上昇する熱ガスに対して焼成ゾーンに到る前の下方ゾーンの炉壁を通して工業塩4が燃焼用ガス5などとともに吹き込まれると、コークス3の燃焼とNaClの上昇によって石灰石1が塩焼きされる。石灰石内の鉄分Fe2 3 やその他の金属分がFeCl2 、FeCl3 などの塩化物となり、その大部分が焼成中の熱で昇華する。これがCO2 と同様に散逸跡を残すが、生成された生石灰にはそれらが気孔として形成される。
【0033】
このとき生じる気孔は、NaClを接触させないで焼成した素焼き生石灰に比べてポーラス性を増大させたものとなる。炉からは最下部のゲート等(図2には示されていない)を開いて生石灰が取り出され、同時に大量の灰も排出される。適宜篩に掛けるなどして生石灰を分離した後に、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕すれば、所望する精錬用フラックスとなる。なお、NaClの吹き込みは、焼成ゾーンに到る前の下方ゾーンへランスを上から差し込むなどして行うこともできる(図示せず)。
【0034】
塩焼き生石灰の生成のために吹き込まれるNaClと石灰石との接触頻度が高くなること、炉耐火物の塩害を避けるため炉壁に触れることの少ない経路をたどって流通させられることなどの理由から、上記したようにたて型炉が使用される。消石灰を作るための塩焼き生石灰は土中窯でつくられる。塩の供給は積層上面へのふりかけによるが、窯が鉄製でないから炉壁の損傷の点では問題とならず、良質の漆喰を得ようとするための塩の投入量は石灰石に対して重量比で約0.1%にも及ぶ。
【0035】
この土中窯による塩焼き生石灰の生産には量的に限りがあるゆえ、塩焼き生石灰を工業的に大量生産しようとすると、同じたて型炉といっても耐火物を裏張りした鋼鉄製の大容量シャフト炉が不可欠となる。この炉の場合、NaClを燃焼用ガスなどとともに下層部分から吹き上げるようにして供給することができるから、NaClの消費量は0.02〜0・04%にとどめることができ、土中窯でのそれに比べれば極めて僅かな量で済む。このように少ない塩の消費は炉外殻の腐蝕抑制にも寄与し、都合がよい。
【0036】
上記したように破砕された石灰石にNaClを接触させて塩焼きすれば、生石灰のポーラス化の増進や気孔の深長化が図られる。その気孔は大きければ6μmにも達し、素焼き生石灰の場合の約1μmから大きく改善される。したがって、投入やインジェクションの別なくその脱硫反応性が飛躍的に改善される。生石灰の融剤としての蛍石はもはや必要でないか極めて僅かでよくなり、生成スラグも無害で再利用しやすいものとなる。滓化性の向上は、フラックスの消費量を減らしてスラグ発生量を少なくする。それのみならず、フリーライムの残存も可及的に減り、路盤材用資材として出荷するまでのエイジングの短期化やスラグヤードの狭小化、保守作業の負担軽減などにもつながる。
【0037】
ちなみに、塩焼きの特徴は、1,000℃で焼成しても1,200℃で焼成することになっても気孔の大きさは余り変わらず、素焼き生石灰が焼成温度の上昇で焼き締まっていくのとは大きな差があることである。これは、フラックスが触れている溶湯の温度が精錬中期に上昇してもポーラスが損なわれず、未反応分として残るCaOが少なくなることを意味する。
【0038】
次に図3から図14を参照して、塩焼き生石灰の混成品について述べる。図3は、アルミナAl2 3 を破砕もしくは粉砕された塩焼き生石灰に混入させる例である。塩焼き生石灰が破砕されて粒塊状である場合は同程度のサイズのものを混ぜ、インジェクションのために粉砕されている場合には粉状のものをブレンドすることになる。図4および図5は粉状金属Mgまたは粉状カーボンを混成したもの、図6から図9はAl2 3 、粉状金属Mg、粉状カーボンのいずれか二以上を組み合わせて混ぜた例である。いずれも、塩焼き生石灰の脱硫効果が増強されたフラックスとなる。
【0039】
Al2 3 としてはボーキサイトでもよいしアルミ精錬灰でもよく、これを含ませておくと生石灰の溶融が促進され、脱硫後のスラグが安定するとともにその後にSの少なくなった溶湯の高温脱炭・清浄化操業をより一層容易にする。添加量はフラックス全体の3重量%までとしておけば十分であることが多い。ちなみに、塩焼き生石灰を生成する際コークス等の固体燃料を使用する場合にはAl2 3 が生石灰に自然と入ることがあり、そのような場合はAl2 3 を意図して混ぜなくてよい場合もある。
【0040】
金属Mgは最終的にCaSを生成させ、これがスラグ中へ移行するように作用する。CaOは脱硫反応をしてCaSになるが、それ以上にMgは溶鋼中のSと反応する。MgSが溶鉄中を浮上するとスラグ中のCaOと接触して置換反応する(MgS+CaO→CaS+MgO)。MgSは不安定で復燐しやすいが、CaSになると復燐を起こしにくくなる。MgSが浮上してきたところに反応性の高いCaOが存在することになるから、CaSへの置き替えの円滑化は述べるまでもない。なお、添加量は溶鉄中のSとの反応に見合う程度、すなわち、石灰分を1としてその0.1〜0.2としておけばよい。
【0041】
カーボンCは、溶湯中のカーボン分とともに寄与してCaSの生成を助長させ、脱硫作用を活発化する。これは、〔S〕+(CaO)+C→(CaS)+COなる反応による。なお、〔 〕は溶鉄中、( )はスラグ中にあることを意味している。その添加量は石灰分を1としてその0.1〜0.03としておけば十分である。0.1より少なくしておけば溶湯中のCの増加が抑えられ、後の脱炭操作の負担を大きくすることもない。
【0042】
図10ないし図12は脱燐用フラックスとしたもので、図10はFe2 3 を混成した例、図11はMnO2 を使用した例、図12は両方を混ぜた例である。脱燐するために必要となる酸素は吹錬中の気体酸素もしくは酸化物の固体酸素によって供給される。前者は溶湯から簡単に脱気してしまうが、Fe2 3 やMnO2 といった固体酸素は脱燐のための酸素を溶湯中で提供する。Fe2 3 としては圧延工程で出るミルスケールなどの廃棄物を使用すればよい。いずれも酸素が離脱した後の金属元素の溶湯混入は問題にならず、Mnは鋼をつくるうえで欠かせないくらいで、その意味でも有用な添加剤といえる。
【0043】
図13および図14は、マグネシアMgOやドロマイトCaMg(CO3)2 を、塩焼き生石灰のフラックスに混ぜておく例である。これらは脱燐・脱硫速度を落とす難点はあるが、塩基性炉壁の構築に用いられているマグネシア系耐火物に対するスラグ侵蝕を抑制するように作用する。この炉壁耐火物保護材は、Al2 3 やFe2 3 などの上記したいずれの添加剤と混ぜられることがあっても特に差し支えが生じるものでない。
【0044】
以上の説明において、塩焼きにはNaClを使用したが、KCl、MgCl2 、CaCl2 または塩化ビニル樹脂粉末を採用しても同様の効果が得られる。NaClをはじめKやMg、Caの塩化物の沸点は焼成温度より200〜300℃高く、焼成中に消失してしまうことがない。石灰石中の鉄分と結合してできたFeCl2 やFeCl3 は焼成中に昇華する。NaとKは900℃までに揮発するから焼成品に残ることがない。MgとCaの沸点は1,000℃を越えるが、これがフラックス中に残存したとしても、上の説明から分かるように造滓作用を阻害するものでない。Caはそのままスラグに残ることになっても、肥料の三要素であるN、P、Kに次ぐ重要元素であるから、スラグの用途を拡げることに役立つ。
【0045】
一方、塩焼き生石灰の製造についても上で触れたとおり、シャフト炉で焼成する場合、石灰石とコークスが層をなすように重ねられるが、これに代えて、石灰石とコークスとを混在させた状態としてもよく、コークスの燃焼で焼成が進められる。石灰石だけを装入して焼成する場合は、油を焚くなどして発生させた熱ガスを送り込むメルツ炉などを使用すればよい。
【0046】
フラックスとして塩焼き生石灰を使用することを述べたが、それに限らず、図15ないし図20のようなかたちで処理した混合品とすることもできる。図15は破砕された石灰石を素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を塩焼き生石灰に混合することを示している。
【0047】
これは、塩焼き生石灰に素焼き生石灰を混ぜたにすぎないように見えるが、精錬では大きな意味を持つ。溶鉄に含まれる硫黄分は、鉄鉱石の種類や品質、湯の溶製に至るまでの処理形態等によってばらつきがある。そのため、フラックスの脱硫能力もそれに見合った程度にしておくことが好ましく、異なる二種類の生石灰の混合はフラックスの脱硫能力の調整を可能にする。すなわち、脱硫能力の高い生石灰と低い生石灰の混合は、生石灰の化学的機能の調整と湯面被覆に必要なスラグ生成量の調整を極めて容易に実現する。
【0048】
図17は粉砕された石灰石を造粒して素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰を混成させる例である。造粒素焼き石灰は背景技術の項でも紹介したように素焼き石灰に比べて滓化性が上がる(特許第3,005,770号公報)。したがって、反応性の高い二種の生石灰を混合することになるが、これまた反応性調整容易なフラックスとなる。
【0049】
図19は、カルシウム・フェライトを造滓作用可能サイズに破砕または粉砕して塩焼き生石灰に混合した例である。カルシウム・フェライト2CaO・Fe2 3 による脱燐作用が高ポーラスな塩焼き生石灰の高い反応性に支えられ、mCaO・nP2 5 やmCaO・nFe2 3 ・P2 5 が効率よく生成される。もちろん、塩焼き生石灰は脱燐に欠かせないスラグの高塩基度化を図る。
【0050】
カルシウム・フェライトは石灰石CaCO3 と酸化鉄Fe2 3 とを反射炉または電気炉に投入して融解し、その後に固溶体化させたもので、5ないし30mm大に破砕したものが使用される。これは固溶体であるから、溶湯が約1,250ないし1,350℃といった低い温度域にあるときでも速やかに融解する。それゆえ、カルシウム・フェライトは滓化剤としてのCaOの流動化を助長して反応性の向上にも寄与する。
【0051】
ところで、結晶粒子が10μm以上で熱膨脹吸収力は小さく加熱されると粉化する緻密な石灰石であっても、カルシウム・フェライト製造上は融解させる関係で特に問題となることはない。すなわち、資質の劣る石灰石の消費が促されることになり、資源保護にも繋がる。この例では、カルシウム・フェライトを塩焼き生石灰フラックスに混合して使用するので、カルシウム・フェライトによるP2 5 の生成とその造滓化がより一層進む。脱燐が済んだ時点でカルシウム・フェライト中の酸化鉄分は消耗すくが、反応性の高い塩焼き生石灰の存在は、溶湯が温度上昇して脱炭期に入った時点でスラグに固定させておいた燐分の一部が溶湯に復燐するのを抑える。
【0052】
ちなみに、図15および図17の混合フラックスに図3から図14のところで説明したいずれの添加剤を加えることもできる。図16と図18はそれを簡略化して表している。これらの場合も、Fe2 3 またはMnO2 もしくはその組み合わせで添加する場合は脱燐剤となり、Al2 3 、粉状金属Mg、カーボンとする場合には脱硫剤となることは先の説明のとおりである。図20は脱燐機能を上げたり炉耐火物の保護強化を図る例で、添加されるのはMnO2 、MgO、ドロマイト程度となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る石灰系精錬用フラックスの製造法を表した概略図。
【図2】フラックスの製造に供されるたて型炉の一例の断面図。
【図3】塩焼き生石灰にAl2 3 を混成させた脱硫用フラックスの製法概略図。
【図4】塩焼き生石灰に金属Mgを混成させた脱硫用フラックスの製法図。
【図5】塩焼き生石灰に粉状カーボンを混成させた脱硫用フラックスの製法図。
【図6】塩焼き生石灰にAl2 3 と金属Mgを混成させたフラックスの製法図。
【図7】塩焼き生石灰にAl2 3 と粉状カーボンを混成させた脱硫用フラックスの製法図。
【図8】塩焼き生石灰に金属Mgと粉状カーボンを混成させた脱硫用フラックスの製法図。
【図9】塩焼き生石灰にAl2 3 と金属Mgと粉状カーボンを混成させた脱硫用フラックスの製法図。
【図10】塩焼き生石灰にFe2 3 を混成させた脱燐用フラックスの製法図。
【図11】塩焼き生石灰にMnO2 を混成させた脱燐用フラックスの製法図。
【図12】塩焼き生石灰にFe2 3 とMnO2 を混成させた脱燐用フラックスの製法図。
【図13】塩焼き生石灰にMgOを混成させた炉耐火物保護機能を有したフラックスの製法図。
【図14】塩焼き生石灰にドロマイトを混成させた炉耐火物保護機能を有したフラックスの製法図。
【図15】塩焼き生石灰に非造粒素焼き生石灰を混合するようにした精錬用フラックスの製法図。
【図16】塩焼き生石灰と非造粒素焼き生石灰の混合物に添加剤を加えた精錬用フラックスの製法図。
【図17】塩焼き生石灰に造粒素焼き生石灰を混合するようにした精錬用フラックスの製法図。
【図18】塩焼き生石灰と造粒素焼き生石灰の混合物に添加剤を加えた精錬用フラックスの製法図。
【図19】塩焼き生石灰にカルシウム・フェライトを混合するようにした精錬用フラックスの製法図。
【図20】塩焼き生石灰とカルシウム・フェライトの混合物に添加剤を加えた精錬用フラックスの製法図。
【符号の説明】
【0054】
1…石灰石、2…たて型炉、3…コークス、4…工業塩、5…燃焼用ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分もしくは燐酸分等と反応して、スラグの生成を促進する石灰系フラックスにおいて、
破砕した石灰石にNa、K、MgまたはCaの塩化物もしくは塩化ビニル樹脂粉末を接触させて焼成され、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕された塩焼き生石灰であることを特徴とする石灰系精錬用フラックス。
【請求項2】
破砕した石灰石を素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰が混合されていることを特徴とする請求項1に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項3】
粉砕された石灰石を造粒して素焼きし、造滓作用可能サイズに破砕または粉砕した素焼き生石灰が混合されていることを特徴とする請求項1に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項4】
カルシウム・フェライトが造滓作用可能サイズに破砕または粉砕して混合されていることを特徴とする請求項1に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項5】
Al2 3 が混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項6】
金属Mgが混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3、請求項5のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項7】
粉状カーボンが混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3、請求項5、請求項6のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項8】
Fe2 3 が混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項9】
MnO2 が混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項8のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項10】
MgOが混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。
【請求項11】
ドロマイトが混成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載された石灰系精錬用フラックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−277664(P2007−277664A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107633(P2006−107633)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(591166710)大阪鋼灰株式会社 (5)
【出願人】(594054818)日本マテリアル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】