説明

研削盤

【課題】安定した支持状態を維持して小径長尺材に対する適切な研削加工を行うことができるとともに、小径長尺ではない部品に対しては過剰スペックとなることなく、好適に研削加工を施すことが可能な研削盤を提供する。
【解決手段】回転保持部4を支持した状態でフレームベース2上に取り付けられ且つ研削対象物Wの軸心方向Xに移動可能な主軸台5と、主軸台5に脱着可能に取り付けられ且つ研削対象物Wの回転保持部4に保持されていない部分を支持部7によって支持する支持ポイントと主軸台5との距離を伸縮させる伸縮機構6とを備え、伸縮機構6に取り付けた支持部7により支持ポイントで研削対象物Wを支持した状態で主軸台5を砥石31,32側に向かって軸心方向Xに移動させながら、砥石31,32により研削対象物Wを研削可能な研削盤1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、断面円形の長尺な研削対象物を保持して回転駆動させるチャック及びスピンドルを備えた主軸台をフレームベースに取り付け、主軸台をフレームベース上で研削対象物の軸線方向に沿って砥石側へ移動(前進)させながら砥石で研削可能な研削盤が知られている。また、径が小さい長尺の研削対象物を砥石によって研削する際に、研削対象物に作用する負荷によって研削対象物が不安定な状態になり、砥石による適切な研削処理を行えないという事態を防止・抑制すべく、小径且つ長尺の研削対象物の研削に特化した研削盤として、研削対象物のうちスピンドル及びチャックの外側に位置する部分であって且つ砥石よりも主軸台側に寄った位置を支持する支持部を備えた研削盤も考えられている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、研削対象物のうちチャックの外側に位置する部分を支持する支持部をフレームベースに固定し、この支持部により研削対象物を支持した状態で主軸台をフレームベース上で研削対象物の軸方向に移動させることによって、研削対象物を前進させながら砥石で所期の値にまで研削可能に構成した研削盤が開示されている。すなわち、細長い研削対象物は主軸台側の端部のみを片持ちで支持した場合に回転中心が安定せず振れてしまう。そこで、上述の研削盤では、研削対象物の主軸台側の端部と砥石の近傍の離間した2箇所を支持して研削対象物を回転させる構成を採用して、研削対象物の安定した回転状態が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−48151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の研削盤は支持部をフレームベースに固定しているため、当然のことながらフレームベース上における支持部の位置を変更することはできない。したがって、研削対象物のうち研削処理が施される予定の部分よりも主軸側の部分であって且つ砥石と支持部との離間距離に相当する部分は、研削処理時に主軸台の前進移動に伴って支持部を必ず通過することになる。その結果、研削処理の前の時点で例えば外面に雄ネジ、又は凹部や孔などの加工が施されている部分(加工処理済み部分)が支持部を通過する部分と一致する場合には、この加工処理済み部分が研削処理時に支持部を通過することによって傷付いてしまうおそれがある。
【0006】
また、支持部をフレームベースに固定した特許文献1に開示されている研削盤は、研削対象物として径が小さく軸方向の寸法が所定値以上である小径長尺材のみを想定しているため、例えば、径が十分に太かったり、軸方向の寸法が十分に短いことにより、砥石側の部分を支持部で支持する必要が無い部品を研削する場合には、フレームベースに固定した支持部は不要部品となり、過剰スペックとなるのみならず、場合によっては適切な研削処理の妨げになり得る。
【0007】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、研削対象物が小径長尺なものであっても安定した回転を与えることができるうえに、砥石の近傍において研削対象物を支持する部分を変更することができるとともに、小径長尺材に対する適切な研削加工は勿論のこと、小径長尺ではないものに対しても過剰スペックとなることなく、好適に研削加工を施すことが可能な研削盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、フレームベース上に設けた砥石の回転によって棒状をなす研削対象物を研削する研削盤に関するものである。ここで、本発明における「棒状」は、柱状(中実)及び筒状の何れをも含む概念であり、断面視形状が真円であるか否かも特に限定するものではない。また、砥石の数は1又は複数の何れであってもよく、研削対象物の外面を研削する外研削用砥石、又は研削対象物の内側を研削する内研削用砥石の何れであってもよい。
【0009】
そして、本発明に係る研削盤は、研削対象物のうち反研削側の端部を保持した状態で研削対象物全体を回転させる回転保持部を有し、且つフレームベース上に研削対象物の軸心方向に移動可能に取り付けた主軸台と、主軸台に脱着可能に取り付けられ且つ研削対象物のうち回転保持部に保持されていない部分を支持する支持ポイントと主軸台との距離を主軸台の移動に伴って又は独立して伸縮させる伸縮機構と、伸縮機構に取り付けられ且つ研削対象物のうち砥石よりも主軸台側の部分を支持ポイントとして支持する支持部とを備え、支持部により支持ポイントで研削対象物を支持した状態で主軸台を砥石側に向かって研削対象物の軸心方向に移動させながら、砥石により研削対象物を研削可能に構成していることを特徴としている。
【0010】
このような研削盤であれば、研削対象物の一方の端部を主軸台における回転保持部に保持させるとともに、他方の端部に寄った部分であって且つ砥石よりも主軸台側の部分における支持ポイントを支持部によって支持するため、研削対象物は振れが生じることなく安定して回転する。しかも、支持部は主軸台に対して脱着可能であり、伸縮機構によって主軸台と支持ポイントとの距離伸縮させることができるため、フレームベース上に支持部を固定した態様と比較して、支持部による支持ポイントを適宜変更することができるという構造上の相違がある。すなわち、支持部による支持ポイントを研削対象物の軸方向に適宜変更することが可能であるため、研削対象物が、支持部による支持に不向きな形状や加工が施されている箇所を有するものである場合には、その箇所を避けた位置に支持ポイントを設定することができる。したがって、研削処理を施す前の時点で既に研削対象物の外面における所定部分に雄ネジ、又は凹部や孔などの加工が施されていれば、それら加工処理済み部分を避けた位置に支持部による支持ポイントを設定することによって、その加工済み部分が支持部を通過する際に傷付いてしまうという事態を防止することができる。
【0011】
ここで、伸縮機構に関して「支持ポイントと主軸台との距離を主軸台の移動に伴って伸縮させる」とは、主軸台の移動と同時に支持ポイントと主軸台との距離を伸縮させる、という意味であり、また、「支持ポイントと主軸台との距離を主軸台の移動とは独立して伸縮させる」とは、主軸台を移動させない状態(停止させている状態)で支持ポイントと主軸台との距離を伸縮させる、という意味である。
【0012】
さらに、本発明の研削盤は、伸縮機構を主軸台に脱着可能に取り付けているため、研削対象物が小径且つ長尺のものなどである場合には、伸縮機構を主軸台に取り付けた状態で使用することにより、研削対象物のうち回転保持部に保持されていない部分であって砥石側に寄った部分を支持部で支持することができ、小径長尺のものに対して安定した状態で研削処理を行うことができる。一方、研削対象物の径が十分に太かったり、軸方向の寸法が十分に短い場合など、研削対象物のうち砥石側の部分を支持部で支持することが要求されないケースでは、伸縮機構を主軸台から取り外すことによって、過剰スペックとなることを回避しつつ、支持部の存在によって適切な研削処理が妨げられる可能性を排除することができ、「小径長尺」に該当しない部品に対しても適切な研削加工を施すことができる。
【0013】
また、本発明の研削盤において、支持部が、研削対象物の外周面を下方(真下及び斜め下方を含む)から周方向に相互に異なる点で支持する一対の支持本体部と、被研削対象部の外周面を上方(真上及び斜め上方を含む)から研削対象物の軸心に向かって押圧する押圧部とを備えたものであれば、回転する研削対象物の外周面を周方向に異なる3点で支持することができ、研削対象物を安定した状態で支持することができる。特に、このような支持部であれば、押圧部により研削対象物を上方から研削対象物の軸心に向かって直線的な圧力で押さえ続けることが可能であるため、例えば研削対象物を上方から圧接ローラで押さえる態様であれば研削対象物の回転によって圧接ローラが一緒に回転してしまう「連れ回り」のために起こる研削対象物の所謂びびり現象の発生を防止・抑制することができ、砥石による安定した加工を高精度で行うことができる。
【0014】
また、外縁形状が異なる複数種の研削対象物に対しても支持部により良好な支持状態を得ることができるようにするには、少なくとも一対の支持本体部の先端部同士の離間距離を調整可能に構成することが好ましい。なお、本発明では、一対の支持本体部の先端部同士の離間距離に加えて、研削対象物に対する押圧部の先端部の高さ位置も調整可能に構成することができる。
【0015】
さらに、本発明の研削盤において、各支持本体部のうち研削対象物に接触する先端部、及び押圧部のうち研削対象物に接触する先端部にそれぞれ焼結ダイヤモンドを取り付けた構成とすれば、支持部を構成する支持本体部及び押圧部のうち回転する研削対象物を直接支持する部分の摩耗・損傷を効果的に抑制することができる。
【0016】
また、本発明では、一次研削を行う一次研削用砥石と、二次研削を行う二次研削用砥石とを備えた研削盤を構成し、これら各砥石が研削対象物の軸心方向に相互に離間した位置において研削対象物の軸心方向と直交する方向に移動可能とし、これら各砥石が研削対象物を挟み込む方向へ向かう移動と、主軸台が軸心方向に沿って砥石側へ向かう移動とを同時に行い、それぞれ回転する砥石によって一次研削及び二次研削を行うように設定することができる。このような研削盤であれば、研削処理時に、一次研削用砥石及び二次研削用砥石のうち軸心方向に沿って相対的に主軸側から遠い位置にある砥石が研削対象物の先端側を押圧する押さえとして機能するため、小径長尺の研削対象物であっても適切に研削処理を行うことができる。さらに、主軸台の移動と、各砥石の回転駆動とを同時に行うことにより、一次研削用砥石による一次研削処理時には二次研削用砥石を作動させず、一次研削用砥石による一次研削処理完了後に一次研削用砥石の作動を停止させた状態で二次研削用砥石により二次研削処理を行う場合と比較して、加工精度の低下を招来することなく、各砥石(一次研削用砥石、二次研削用砥石)による加工処理時間全体の短縮化を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の研削盤は、支持部をフレームベースに固定せず、しかもこの支持部による支持ポイントと主軸台との距離を伸縮させる伸縮機構を主軸台に着脱可能に取り付けるという構成を採用しているため、小径長尺な研削対象物の安定した回転を実現することができるうえに、砥石の近傍において研削対象物を支持する部分(支持ポイント)を変更することができ、小径長尺材に対して適切な研削加工を施すことができるとともに、研削対象物が小径長尺ではない場合には、伸縮機構を主軸台から取り外すことにより、過剰スペックとなることなく、好適に研削加工を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る研削盤の全体概略図。
【図2】同実施形態に係る研削盤の平面図。
【図3】図2のA方向矢視図。
【図4】図2のB−B方向矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る研削盤1は、図1〜図4に示すように、フレームベース2と、フレームベース2上に設けられ回転によって研削対象物Wを研削する一次研削用砥石31及び二次研削用砥石32と、研削対象物W全体を回転可能に保持する回転保持部4を有して研削対象物Wの軸心方向X(以下、X軸方向と称する場合がある)に移動可能な主軸台5と、主軸台5に取り付けられ且つ研削対象物Wを支持する支持ポイントと主軸台5との距離を伸縮させる伸縮機構6と、伸縮機構6に取り付けられて研削対象物Wのうち各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)よりも主軸台5側の部分を支持ポイントとして支持する支持部7とを備えたものである。
【0021】
ここで、本実施形態では、図1等に示すように、研削対象物Wとして例えば硬質素材からなる中実の棒状のものを例示する。特に、伸縮機構6を主軸台5に取り付けた状態の研削盤1は、研削対象物Wが高硬度且つ脆性材であっても好適に研削加工を施すことができる。
【0022】
フレームベース2は、フラットな上向き面21を有し、この上向き面21に主軸台5を研削対象物Wの軸心方向Xに移動可能に設けるとともに、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)をそれぞれ研削対象物Wの軸心方向Xと直交する方向Y(以下、Y軸方向と称する場合がある)に移動可能に設けている。
【0023】
一次研削用砥石31及び二次研削用砥石32は、それぞれフレームベース2上においてY軸方向にスライド移動可能なスライド支持台33に支持されたものである。本実施形態では、一次研削用砥石31及び二次研削用砥石32として、研削対象物Wの軸心Waと平行な軸回りに回転して研削対象物Wの外面を研削する円盤状の砥石を適用している。なお、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)はそれぞれX軸方向の位置を微調整可能に構成されている。本実施形態では、図2に示すように、一次研削用砥石31及び二次研削用砥石32を研削対象物Wの軸心Waを挟んで対向する位置に配置し、一次研削用砥石31を二次研削用砥石32よりもX軸方向に主軸台5側に寄った位置に設定している。そして、一次研削用砥石31を荒研削用砥石として機能させるとともに、二次研削用砥石32を仕上げ研削用砥石として機能させている。なお、図3では一次研削用砥石31を省略している。
【0024】
回転保持部4は、研削対象物Wの反研削側の端部を保持するチャック部41と、研削対象物Wをその軸線Waを中心に回転駆動させるスピンドル部42とを備えたものである。
【0025】
主軸台5は、フレームベース2上においてスライド機構51(図示例ではレール)によりX軸方向にスライド移動可能なスライドステージ52と、スライドステージ52上に固定されてスピンドル部42を内部に収容した主軸台本体53と、伸縮機構6を脱着可能に主軸台5に取り付けるための取付ベース54とを一体的に備えている。本実施形態では、主軸台本体53に取付ベース54を取り付けている。
【0026】
伸縮機構6は、主軸台5に着脱可能に取り付けられるものであり、支持部7を搭載可能な搭載部61を一端部に有してX軸方向に移動可能な可動体62と、取付部材(図示例ではネジS1)によって主軸台5の取付ベース54に取り付けられた状態で可動体62をX軸方向へ移動可能に保持する保持部63とを備えたものである。本実施形態では、取付ベース54として主軸台本体53よりもX軸方向に長尺な板状部材を適用し、この取付ベース54のX軸方向両端部に筒状の保持部63をそれぞれ取り付けている。そして、取付部材S1を介した取付ベース54に対する保持部63の取付状態を解除することにより、伸縮機構6を主軸台5から取り外すことができるように構成している。
【0027】
可動体62は、X軸方向に延伸する例えば単一の柱状部材を用いて構成され、且つ保持部63に保持された状態でX軸方向にスライド移動可能な可動体本体64と、可動体本体64の一端部に設けた搭載部61と、可動体本体64の他端部に設けられて保持部63から可動体62自体が抜け外れることを防止するフランジ部65とを一体的に備えたものである。搭載部61は、次に説明する支持部7を構成する支持本体部71を搭載する第1搭載部611と、押圧部72を搭載する第2搭載部612とを、共通の搭載ベース613に設けた構成を有する。また、本実施形態では、X軸方向に沿った主軸台5と支持部7による研削対象物Wの支持ポイントとの距離を伸縮する伸縮機構6の伸縮動作を主軸台5の前進移動に連動させることも可能であり、また伸縮機構6の伸縮動作を主軸台5の前進移動とは連動させずに、つまり主軸台5を停止させた状態で独立して行えるように構成している。
【0028】
支持部7は、研削対象物Wの外周面を下方から相互に周方向に異なる点で支持する一対の支持本体部71と、研削対象物Wの外周面を上方から研削対象物Wの軸心Waに向かって押圧する押圧部72とを備えている。なお、図1では第2搭載部612を搭載ベース613に取り付ける前の状態を示している。
【0029】
各支持本体部71は、例えば研削対象物Wの外面をそれぞれ斜め下方から支持するものであり、本実施形態では、各支持本体部71の先端部711(研削対象物Wに接触する部分)に焼結ダイヤモンド(図示省略)を設けている。また、本実施形態に係る研削盤1は、これら一対の支持本体部71の先端部711同士の離間距離を調整可能に構成している。具体的に、各支持本体部71は、図2及び図3に示すように、それぞれ水平方向に対して所定角度をなす第1搭載部611の傾斜面611a上にスライド移動可能に取り付けられ、各支持本体部71を相互に近付ける方向又は相互に離間させる方向にスライド移動させることによって、対をなす支持本体部71の先端部711同士の離間距離を調整することができる。なお、本実施形態では、第1搭載部611の各傾斜面611aに、支持本体部71の移動をガイドする一対の第1ガイド部611gを形成している。そして、本実施形態の研削盤1は、各支持本体部71を任意の位置で固定することによって、支持本体部71の先端部711同士の離間距離を設定した任意の値に維持できるようにしている。各支持本体部71を任意の位置で固定する態様として、本実施形態では、各支持本体部71にネジS2が挿通可能な長孔71hを形成し、上方からネジS2を長孔71hに通して第1搭載部611に設けたネジ孔(図示省略)に螺合する態様を採用している。このような態様であれば、ネジS2とネジ孔との螺合状態を緩めた状態で支持本体部71を長孔71hの長手寸法内においてスライド移動させることができ、任意の位置でネジS2を締め付けることによって支持本体部71を任意の位置で固定することができる。
【0030】
押圧部72は、例えば研削対象物Wの外面を真上から押圧するものであり、本実施形態では、押圧部72の先端部721(研削対象物Wに接触する部分)に焼結ダイヤモンド(図示省略)を設けている。また、本実施形態に係る研削盤1は、押圧部72の先端部721の高さ位置を調整可能に構成している。具体的に、押圧部72は、図3及び図4に示すように、第2搭載部612のうち鉛直方向に延伸する垂下部612aにスライド移動可能に取り付けられ、押圧部72を高さ方向にスライド移動させることによって、研削対象物Wの軸心Waに対する押圧部72の先端部721の高さ位置を調整することができる。なお、本実施形態では、垂下部612aのうち砥石31,32側を向く面に、押圧部72の移動をガイドする第2ガイド部612gを形成している。そして、本実施形態の研削盤1は、押圧部72を任意の位置で固定することによって、押圧部72の先端部721の高さ位置を任意の位置に維持できるようにしている。押圧部72を任意の位置で固定する態様として、本実施形態では、押圧部72にネジS3が挿通可能な高さ方向に延びる長孔72hを形成し、この長孔72hにネジS3を通して第2搭載部612(垂下部612a)に設けたネジ孔(図示省略)に螺合する態様を採用している。このような態様であれば、ネジS3とネジ孔との螺合状態を緩めた状態で押圧部72を長孔72hの長手寸法内においてスライド移動させることができ、任意の位置でネジS3を締め付けることによって押圧部72を任意の位置で固定することができる。
【0031】
そして、本実施形態の研削盤1では、図4に示すように、各支持本体部71の先端部711が研削対象物Wの外面に接触する2点と、及び押圧部72の先端部721が研削対象物Wの外面に接触する1点の合計3点が、周方向に等間隔または略等間隔離間した位置となるように設定している。すなわち、押圧部72の先端部721が研削対象物Wの外面を鉛直方向に接触するように構成している本実施形態では、この押圧部72の先端部721が接触している点から研削対象物Wの周方向時計回りに120度離れた位置が一方の支持本体部71の先端部711による接触位置となり、押圧部72の先端部721が接触している点から研削対象物Wの周方向反時計回りに120度離れた位置を他方の支持本体部71の先端部711による接触位置となるように設定している。なお、多少の角度誤差は許容される。
【0032】
また、本実施形態の研削盤1は、フレームベース2の上向き面21において砥石31,32よりも主軸台5側に寄った位置に、搭載部61の一部、具体的には第1搭載部611に当接し得るストッパ8を取り付けている。なお、ストッパ8の上端の高さ位置を、第1搭載部611に搭載した支持本体部71よりも低い位置に設定し、支持部7で支持している研削対象物Wにストッパ8が当接し得ないように設定している(図2及び図4参照)。
【0033】
次に、このような構成を有する本実施形態に係る研削盤1の使用方法及び作用について説明する。
【0034】
先ず、回転保持部4のチャック部41に研削対象物Wの反研削側の端部(基端部)を保持させるとともに、手動にて研削対象物Wの振れ取りを行う。次に、搭載部61の位置を研削対象物Wが支持部7で支持できるように伸縮機構6によって調整する。そして、研削対象物Wのうち研削処理を行う部分で最も先端側に寄った位置(研削処理スタート位置)よりも主軸台5側に近い部分を支持部7に支持させる。具体的には、予め押圧部72の先端部721が研削対象物Wに干渉しない位置まで押圧部72を上方へ移動させておき、研削処理前に把握可能な研削対象物Wの径に応じて、支持本体部71の先端部711同士の離間距離を適切な値に調整しておく。この状態で研削対象物Wを一対の支持本体部71上に載置し、研削対象物Wが安定するように支持本体部71の先端部711を微調整する。すると、これら一対の支持本体部71の先端部711が研削対象物Wの外周面にそれぞれ斜め下方から当接し、研削対象物Wを安定した状態で支持することができる。そして、押圧部72をその先端部721が研削対象物Wの外周面に接触する位置まで下降させると、一対の支持本体部71によって支持されている研削対象物Wを押圧部72の先端部721で上方から押圧することができる。これにより、一対の支持本体部71及び押圧部72の各先端部711,721で研削対象物Wの外周面における周方向に異なる位置を支持する三点支持構造となり、研削対象物Wを安定した状態で支持することができる。なお、支持部7に研削対象物を支持させる際に、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)は研削対象物に当接し得ない位置に待機させておく。
【0035】
次いで、本実施形態の研削盤1は、一次研削用砥石31及び二次研削用砥石32を回転駆動させながら研削に適した位置にまでY軸方向に移動させ、これと同時に、回転保持部4によって研削対象物Wを回転させながら主軸台5をX軸方向に沿って砥石31,32に接近する方向へ移動(前進移動)させる。主軸台5の前進移動に伴い、主軸台5に取り付けている伸縮機構6は主軸台5と同じ方向へ移動するが、伸縮機構6の搭載部61がストッパ8に当接することによって伸縮機構6のうち搭載部61及びこの搭載部61を先端部に一体的に有する可動体62の同方向への移動(前進移動)は規制される。一方、伸縮機構6のうち主軸台5に取り付けた保持部63は可動体62をスライド移動可能に保持するものであり、主軸台5と一体に移動する。このような伸縮機構6の動作により、主軸台5の前進移動に伴って、主軸台5と支持ポイント(支持部7)との離間距離は漸次短くなり、研削対象物Wのうち支持ポイントを通過して砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)側に移動した部分に対して、一次研削用砥石31による一次研削処理(荒研削処理)、及び二次研削用砥石32による二次研削処理(仕上げ研削処理)を行うことができる。
【0036】
ここで、本実施形態の研削盤1は、上述したように主軸台5の前進移動と、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)の回転駆動及びY軸方向への移動とを同時に行う。すなわち、主軸台5を前進移動させながら、二次研削用砥石32よりも主軸台5側に近い位置に配置している一次研削用砥石31によって荒研削処理を行うとともに、二次研削用砥石32によって仕上げ研削処理を行う。その際、二次研削用砥石32が研削対象物Wの先端側を押圧する押さえとして機能するため、研削対象物Wが小計長尺なものであっても適切に研削処理を行うことができる。さらに、主軸台5の前進移動と、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)の回転駆動及びY軸方向への移動とを同時に行うことにより、一次研削用砥石31による加工処理時には二次研削用砥石32を作動させず、一次研削用砥石31による加工処理完了後に一次研削用砥石31の作動を停止させた状態で二次研削用砥石32により加工処理を行う場合と比較して、加工精度の低下を招来することなく、各砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)による加工処理時間全体の短縮化を実現することができる。なお、主軸台5のX軸方向への移動や、各砥石31,32の回転駆動及びY軸方向への移動は、図示しない制御部による自動制御又は手動の何れでも行うことができるように設定している。主軸台5のX軸方向への移動、及び各砥石31,32の回転駆動及びY軸方向への移動を自動制御で行う場合、主軸台5の動作を制御する制御部と、砥石31,32の動作を制御する制御部とを単一のCPU(シングルコア)で実現したり、あるいは別々のCPU(デュアルコア)で実現することができる。
【0037】
また、本実施形態の研削盤1は、回転する研削対象物Wのうち主軸台5から露出している部分であって砥石(一次研削用砥石31、二次研削用砥石32)に近い部分の外面を周方向に異なる3点を支持部7によって支持しているため、研削対象物Wを安定した状態で支持することができる。特に、本実施形態の研削盤1は、押圧部72により研削対象物Wを上方から直線的な一定の圧力で押さえ続けることが可能であるため、例えば研削対象物Wを上方から圧接ローラで押さえる態様であれば生じ得る現象、すなわち、研削対象物Wの回転によって圧接ローラが一緒に回転してしまう「連れ回り」現象のために起こる研削対象物Wの所謂びびり現象が発生しないことから、連れ回りに起因して研削対象物Wを安定した状態で支持することができずに砥石による加工精度が低下するという不具合を防止・抑制し、砥石31,32による安定した加工を高精度で行うことができる。加えて、押圧部72にスプリング機能を付与することにより、研削対象物Wが断面真円状であるか否かに関わらず、押圧部72の先端部721を回転する研削対象物Wの外面に常に接触した状態で押し付けて圧することができる。押圧部72にスプリング機能を付与する態様としては、押圧部72自体に直接スプリング機能を付与する態様や、伸縮機構6のうち押圧部72を搭載する部分(第2搭載部612の垂下部612a)に、Y軸方向に沿った一方向に切り欠いたスリットと、Y軸方向に沿った他方向に切り欠いたスリットとを高さ方向に交互に形成して弾性を付与し(図示省略)、この搭載部61に取り付けた押圧部72に間接的にスプリング機能を付与する態様を挙げることができる。
【0038】
また、本実施形態の研削盤1は、支持部7を構成する一対の支持本体部71及び押圧部72の各先端部711,721に焼結ダイヤモンドを付帯させており、この焼結ダイヤモンドを研削対象物Wの外面に接触させた状態で研削対象物Wを支持するように構成しているため、回転する研削対象物Wを直接支持する部分の摩耗・損傷を効果的に抑制することができる。
【0039】
さらに、本実施形態に係る研削盤1は、一対の支持本体部71の先端部711同士の離間距離を変更可能に構成するとともに、押圧部72の先端部721の高さ位置も変更可能に構成しているため、外径や断面形状が異なる研削対象物であっても各研削対象物の外径や断面形状に応じてこれら一対の支持本体部71の先端部711同士の離間距離や押圧部72の先端部721の高さ位置を変更することによって、一対の支持本体部71の先端部711及び押圧部72の先端部721を研削対象物の外面に接触させた状態で適切に支持することができる。
【0040】
このように、本実施形態に係る研削盤1は、上述した種々の作用効果を奏する上に、X軸方向に沿った主軸台5と支持部7による研削対象物Wの支持ポイントとの距離を伸縮する伸縮機構6の伸縮動作を主軸台5の前進移動とは独立して行えるように構成しているため、伸縮機構6の一部に搭載した支持部7の位置によって規定される研削対象物Wの支持ポイントを主軸台5の前進移動任意の位置に設定することができる。すなわち、図2乃至4に示す研削盤1は、伸縮機構6の一部である搭載部61がフレームベース2に固定したストッパ8に当接しているため、伸縮機構6のうち搭載部61を含む可動体62全体のそれ以上砥石31,32側への移動が規制され、主軸台5の前進動作に伴って支持ポイント(支持部7)と主軸台5との距離は短くなる。一方で、この状態(搭載部61がフレームベース2に固定したストッパ8に当接している状態)において伸縮機構6のうち搭載部61を含む可動体62全体を主軸台5側へ手動または自動制御によって移動させることが可能である。
【0041】
したがって、研削対象物Wのうち、搭載部61がフレームベース2に固定したストッパ8に当接している状態で支持部7に支持され得る部分に、例えばネジや凹部などの加工が施されていたり、特異な形状のために支持部7による良好な支持状態が得られ難い場合には、伸縮機構6のうち搭載部61を含む可動体62全体を主軸台5側に移動させて支持ポイントと主軸台5との離間距離を縮めることによって、研削対象物Wのうち良好な支持状態を得ることが可能な部分(ネジや凹部などの加工が施されていない部分や、断面円形ないし略円形の部分)に支持ポイントを設定することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る研削盤1は、伸縮機構6を主軸台5に対して着脱可能に取り付けているため、研削対象物が支持部7による支持を不要なもの、例えば径が所定値よりも大きい研削対象物や、長手寸法が所定値よりも小さい短寸の研削対象物である場合になどは、伸縮機構6を主軸台5から取り外した状態で、主軸台5を前進移動させながら研削対象物を回転させ、この研削対象物を砥石31,32の回転によって研削することができる。このように、本実施形態の研削盤1は、図1等に示すような径が極小である研削対象物Wのみならず、径が比較的大きな研削対象物などに対しても好適に研削加工を施すことができ、汎用性及び実用性に優れたものである。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、支持部7を構成する一対の支持本体部71の各先端部、及び押圧部72の先端部721が、研削対象物Wの周方向に等間隔(120度ずつ)離間した位置で接触し得るように設定した態様を例示したが、各先端部が研削対象物の周方向に不均等な間隔で研削対象物に接触し得るように設定することもできる。
【0044】
また、伸縮機構として、ボールネジ機構を用いて構成したものを適用することが可能である。また、伸縮機構が、主軸台と支持ポイントとの距離を主軸台の進退動作に伴って同期(伸縮)させる同期モータなどを用いて構成したものであったり、主軸台の進退動作とは独立して主軸台と支持ポイントとの距離を伸縮させる単独のモータを用いて構成しものであっても構わない。
【0045】
また、支持部を構成する支持本体部や押圧部の移動を自動制御によって制御可能としてもよい。さらには、上述の実施形態では、各支持本体部の移動方向を研削対象物の軸心を通る法線方向に設定したが、各支持本体部の移動方向を法線方向以外の方向、例えば水平方向に設定することも考えられる。また、支持部を構成する一対の支持本体部の先端部同士の離間距離のみを変更可能とし、押圧部の先端部の高さ位置は変更不能(固定)とすることもできる。
【0046】
また、上述の実施形態では、支持部として、研削対象物の外面を周方向に異なる3箇所で支持する態様を例示したが、例えば、支持部を支持本体部や押圧部の数を適宜増減するなどして、研削対象物の外面を2箇所以下や4箇所以上で支持する構成を採用してもよい。また、支持部が研削対象物の外面に線接触または面接触した状態で研削対象物を支持するものであってもよい。
【0047】
また、砥石を1つだけ備えた研削盤であっても構わない。さらには、砥石として、研削対象物の外面を研削する外研用砥石のみでなく、研削対象物の内面を研削する内研用砥石を用いてもよい。また、砥石がY軸方向にのみ移動可能であり、X軸方向には移動不能なものであってもよい。特に、砥石が内研用砥石である場合には、X軸方向にスライド移動可能に構成しておくことが好ましい。
【0048】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…研削盤
2…フレームベース
31…一次研削用砥石
32…二次研削用砥石
4…回転保持部
5…主軸台
6…伸縮機構
7…支持部
71…支持本体部
72…押圧部
W…研削対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームベース上に設けた砥石の回転によって棒状をなす研削対象物を研削する研削盤であって、
前記研削対象物のうち反研削側の端部を保持した状態で前記研削対象物全体を回転させる回転保持部を有し、且つ前記フレームベース上に前記研削対象物の軸心方向に移動可能に取り付けた主軸台と、
前記主軸台に脱着可能に取り付けられ且つ前記研削対象物のうち前記回転保持部に保持されていない部分を支持する支持ポイントと前記主軸台との距離を前記主軸台の移動に伴って又は独立して伸縮させる伸縮機構と、
前記伸縮機構に取り付けられ且つ前記研削対象物のうち前記砥石よりも前記主軸台側の部分を前記支持ポイントとして支持する支持部とを備え、
前記支持部により前記支持ポイントで前記研削対象物を支持した状態で前記主軸台を前記砥石側に向かって前記研削対象物の軸心方向に移動させながら、前記砥石により前記研削対象物を研削可能に構成していることを特徴とする研削盤。
【請求項2】
前記支持部が、前記研削対象物の外周面を下方から周方向に相互に異なる点で支持する一対の支持本体部と、前記被研削対象部の外周面を上方から前記研削対象物の軸心に向かって押圧する押圧部とを備えている請求項1に記載の研削盤。
【請求項3】
少なくとも前記一対の支持本体部の先端部同士の離間距離を調整可能に構成している請求項2に記載の研削盤。
【請求項4】
前記各支持本体部のうち前記研削対象物に接触する先端部、及び前記押圧部のうち前記研削対象物に接触する先端部にそれぞれ焼結ダイヤモンドを取り付けている請求項2又は3に記載の研削盤。
【請求項5】
前記砥石として、一次研削を行う一次研削用砥石、及び二次研削を行う二次研削用砥石を備え、これら各砥石が前記研削対象物の軸心方向に離間した位置において前記研削対象物の軸心方向と直交する方向に移動可能なものであり、これら各砥石が前記研削対象物を挟み込む方向へ向かう移動と、前記主軸台が前記軸心方向に沿って砥石側へ向かう移動とを同時に行い、それぞれ回転する砥石によって一次研削及び二次研削を行う請求項1乃至4の何れかに記載の研削盤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−848(P2013−848A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135510(P2011−135510)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(504039834)長島精工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】