説明

研削装置

【課題】超音波振動子等の特別な部品を用いずに研削工具に振動を発生させることが出来る研削装置を提供する。
【解決手段】保持手段2によって保持されたワークWを研削加工する加工手段3を備え、加工手段3は、ワークに作用する研削工具4と、研削工具4を支持する支持マウント5と、支持マウント5を支持する鉛直方向に延びる回転軸6と、回転軸6を囲繞するハウジング7と、ハウジング7と回転軸6との間に気体を送り込むことによって形成され回転軸6を回転可能に支持する気体軸受け部8とを有する研削装置において、ハウジング7と回転軸6との間であって気体軸受け部8が形成される箇所と異なる箇所に回転軸6を振動させる振動用の気体を送り込む加振用気体流入部10を備えることにより、加振用気体流入部10から流入する気体によって回転軸6を振動させ、超音波振動子等の特別な部品を用いずに研削工具4に振動を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の板状ワークを研削加工する研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、IC、LSI等の回路が複数個形成されたウエーハは、個々のチップに分割される前に、その裏面が研削装置によって研削されて所定の厚さに形成されている。
【0003】
ウエーハの裏面を研削する研削装置は、被加工物着脱域から研削域にわたって回転可能に配設されたターンテーブルと、ターンテーブルによって支持され順次研削域に移動せしめられる複数個のチャックテーブルと、研削域に配設され研削域に位置付けられたチャックテーブル上に保持された被加工物を研削する研削ホイールを備えた研削手段とを具備している(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前記研削手段のように、加工装置には、空気などの気体でスピンドルを回転可能に支持する構造のものが存在し、スピンドルの安定駆動のために、気体としては空気が使用されている。また、研削砥石に発生する目詰まりの抑制などを目的として、超音波振動子を用いてスピンドルを振動させながら回転させて研削を行う技術についても本出願人は提案をしている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−086048号公報
【特許文献2】特開2008−023693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、超音波振動により研削砥石の目詰まりを抑制することはできるが、振動の発生には超音波振動子等の特別な部品が必要になり、コスト高になるという問題がある。そこで、超音波振動子等の特別な部品を用いずに研削工具に振動を発生させることが出来る研削装置が求められていた。
【0007】
本発明は、これらの事実に鑑みてなされてたものであって、その主な技術的課題は、超音波振動子等の特別な部品を用いずに研削工具に振動を発生させることが出来る研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワークを保持する保持手段と、保持手段に保持されたワークを研削加工する加工手段とを有し、加工手段は、ワークに作用する研削工具と、研削工具を支持する支持マウントと、支持マウントを支持する鉛直方向に延びる回転軸と、回転軸を囲繞するハウジングと、ハウジングと回転軸との間に気体を送り込むことによって形成され回転軸を回転可能に支持する気体軸受け部とを有する研削装置に関するもので、ハウジングと回転軸との間であって気体軸受け部が形成される箇所と異なる箇所に、回転軸を振動させる振動用の気体を送り込む加振用気体流入部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、加振用気体流入部から流入する気体によって回転軸を振動させることができるため、超音波振動子等の特別な部品を用いずに研削工具に振動を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】研削装置の外観を示す斜視図である。
【図2】移動手段を示す斜視図である。
【図3】加工手段の内部構造を示す断面図である。
【図4】加振のための空気が流れる箇所を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す研削装置1は、被加工物を保持する保持手段2と、保持手段2に保持された被加工物を研削加工する加工手段3と、加工手段3を加工送りする加工送り手段11と、オペレータによる入力を行うための操作盤12とを備えている。
【0012】
保持手段2は、図1に示すように、基台20によって回転可能に支持されており、基台20の前後方向の側部には、伸縮自在な蛇腹21が連結されている。保持手段2は、蛇腹21の伸縮を伴って、図2に示す移動手段22によって駆動されて水平方向に移動する構成となっている。
【0013】
図2に示す移動手段22は、水平方向の回転軸を有し前後方向に延びるボールスクリュー220と、ボールスクリュー220と平行に配設された一対のガイドレール221と、ボールスクリュー220を正逆回転させるパルスモータ222と、ボールスクリュー222に螺合するナット(図示せず)を内部に有するとともに下部がガイドレール221に摺接する摺動部223とを備えており、パルスモータ222によって駆動されてボールスクリュー220が回動するのにともない摺動部223がガイドレール221に案内されて前後方向に摺動する構成となっている。また、摺動部223の上面側には軸部23を介して保持手段2が配設されており、摺動部223の移動により保持手段2も移動する構成となっている。なお、本例では、移動手段22が保持手段2を移動させる構成としているが、移動手段が図1に示した加工手段3を水平方向に移動させる構成としてもよい。すなわち、移動手段は、加工手段3と保持手段2とを相対的に移動させる機能を有していればよい。
【0014】
図1及び図3に示すように、加工手段3は、保持手段2に保持されたワークWに作用して研削加工を行う研削工具4と、研削工具4を支持する支持マウント5と、支持マウント5を先端部において支持し鉛直方向に延びる回転軸6と、回転軸6を囲繞するハウジング7と、ハウジング7と回転軸6との間に気体を送り込むことによって形成され回転軸6を回転可能に支持する気体軸受け部8とを備えている。
【0015】
研削工具4は、基台40の下面に研削砥石41が固着されて構成されている。そして、基台40が支持マウント5に対してネジ止め等によって固定されている。
【0016】
図3に示すように、回転軸6は、円柱状の主軸部60と、主軸部60の外周面から径方向に突出した鍔部61とを有している。これに対応して、ハウジング7の内部には、主軸部60を収容する主軸部収容部70と、主軸部収容部70よりも拡径され鍔部61を収容する鍔部収容部71とが形成されている。主軸部収容部70には、回転軸60の回転中心に向けて気体を噴出する複数の噴出溝70aが形成されている。一方、鍔部収容部71には、同心円状に形成され鉛直方向に気体を噴出する複数の噴出溝71aが形成されている。
【0017】
噴出溝70a及び噴出溝71aは、ハウジング7の内部に形成された流路72を介して気体軸受け用気体流入口73に連通しており、気体軸受け用気体流入口73から流入した気体が流路72を通って噴出溝70a及び噴出溝71aから噴出されることにより、回転軸6が、ハウジング7の内壁と非接触の状態で支持されている。複数の噴出溝70aによって構成される気体軸受けはラジアル気体軸受け80であり、複数の噴出溝71aによって構成される気体軸受けはスラスト気体軸受け81である。
【0018】
回転軸6は、サーボモータ9によって駆動されて回転可能となっている、サーボモータ9は、主軸部60に連結されたロータ90と、ロータ90の外周側に配設されたステータ91とから構成され、ステータコイル91に対して交流駆動電力を印加することによりロータ90が回転し、ロータ90に連結された回転軸6が回転する構成となっている。ロータ90とステータ91との間には隙間92が形成されている。
【0019】
ハウジング7には、回転軸6を振動させるための気体の流入口となる加振用気体流入部10を備えている。加振用気体流入部10は、ハウジング7と回転軸6との間の空間であって気体軸受け8が形成される箇所と異なる箇所に対し、回転軸6を振動させるための気体を送り込む。図3の例における加振用気体流入部10は、ラジアル気体軸受け80の上方に形成されているが、その位置には限定されず、気体軸受け8としての機能を損なわない位置であればよい。
【0020】
図1に戻って説明すると、加工送り手段11は、鉛直方向の軸心を有するボールスクリュー110と、ボールスクリュー110と平行に配設された一対のガイドレール111と、ボールスクリュー110を回動させるパルスモータ112と、ボールスクリュー110に螺合するナット(図示せず)を内部に有するとともに側部がガイドレール111に摺接する摺動部113とを備えており、パルスモータ112によって駆動されてボールスクリュー110が回動するのにともない摺動部113がガイドレール111に案内されて昇降する構成となっている。摺動部113に固定された支持部114は、加工手段3を支持しているため、摺動部113の昇降により加工手段3も昇降する構成となっている。
【0021】
次に、図1に示した研削装置1を用いてワークの面を研削する場合における研削装置1の動作について説明する。研削対象のワークは、特に限定はされないが、例えばシリコンウェーハやGaAs等の半導体ウェーハ、セラミックス、ガラス、サファイア(Al2O3)系の無機材料基板、板状金属や樹脂の延性材料、さらには、ミクロンオーダーからサブミクロンオーダーの平坦度(TTV:total thickness variation:ワーク被研削面を基準面として厚み方向に測定した高さのワーク被研削面の全面における最大値と最小値の差)が要求される各種加工材料などが挙げられる。
【0022】
ワークWの研削されない方の面には保護テープ(図示せず)が貼着され、保護テープ側が保持手段2によって保持され、被研削面が露出した状態となる。そして、図2に示した移動手段22によって駆動されて、保持手段2が水平方向に移動して加工手段3の下方にワークWが位置付けされ、ワークの被研削面が研削砥石41と対面する。
【0023】
次に、保持手段2を回転させるとともに、図3に示したサーボモータ9による駆動により研削ホイール41が回転した状態の加工手段3を図1に示した加工送り手段11が下降させ、回転する研削砥石41をワークWの被研削面に接触させることにより、被研削面を研削する。そして、ワークWが所望の厚さに形成されると、加工送り手段11が加工手段3を上昇させることにより研削を終了する。
【0024】
図3に示したように、回転軸6は、気体軸受け8(ラジアル気体軸受け80及びスラスト気体軸受け81)によって支持されるため、エアー噴出溝70a、71aからは、常にエアーが噴出されており、回転軸6とハウジング7の内周面との間の非接触の状態が維持される。
【0025】
研削時には、研削砥石の目詰まりを抑制の他、研削抵抗の低減、研削砥石41の摩耗抑制、ビビリ振動の抑制、ワークWの被研削面の品質向上などを目的として、図3及び図4に示すように、加振用気体流入部10から気体、例えば空気を流入させることにより、回転軸6に三次元の振動を生じさせる。流入した空気の圧力が、気体軸受け8において噴出される空気の圧力より低いため、加振用気体流入部10から流入した空気が気体軸受け8の方に流れることはなく、ロータ90とステータ91との間の隙間92を含む図4において霜降りで示した空間94を通って矢印Aの方向の流れ、ロータ90の後方の隙間である排気口93から排気される。
【0026】
回転軸6の振動は、加振用気体流入部10から流入させる空気の流量によって調整することができる。隙間92を形成する面の面状態などによって振動が発生する流量が変化するため計算では振動が発生する流量を求めるのは困難である。従って、実際には加振用気体流入部10から流入させる空気の流量を変化させて振動発生ポイントを探す。φ150mm、φ200mm、φ300mm、φ450mm、等の半導体ウェーハを加工するのに用いる一般的な回転軸を例に挙げて具体的に一例を説明すると、例えば、隙間92の幅が数百μmの場合は、加振用気体流入部10から数十リットル/分の流量の空気を流しながら振動発生ポイントを探す。振動発生ポイントの空気の流量からさらに流量を増加させると、一定の流量増加分までは、流量の増加にともなって振動の振幅が大きくなるので、振動発生ポイントが見つかったら流量を徐々に上げていって所望の振幅が生じるときの流量を探す。例えば振幅は、数μm程度発生する。また、振動数は、振動する回転軸6の固有振動数付近の振動数となるため、回転軸6の体積等の影響を受けるが、本例における半導体ウェーハを加工するのに用いる一般的な回転軸であれば、振動数は数百Hz程度となる。
【0027】
なお、加振用気体流入部10から流入させた空気を流す空間は、必ずしもロータ90とステータ91との間である必要はないが、全ての隙間において均一に気体を流すことが好ましい。
【0028】
このようにして加振用気体流入部10からの空気の流入により回転軸6に生じる振動は、超音波よりも低周波の振動帯域であるが、超音波と同様の目的を達成することができる。尚、加振用気体流入部10から流入する空気の流路を形成する材質が回転軸6の振動に与える影響は小さい。また、回転軸の回転数によっては回転軸が膨張したり熱による膨張が生じたりするものの、それが振動に与える影響も小さい。したがって、超音波振動子などの部品を用いることなく、加振用気体流入部10から流入する空気の量に応じて安定した振動を得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:研削装置
2:保持手段
20:基台 21:蛇腹
22:移動手段
220:ボールスクリュー 221:ガイドレール 222:パルスモータ
223:摺動部
3:加工手段
4:研削工具
40:基台 41:研削砥石
5:支持マウント
6:回転軸
60:主軸部 61:鍔部
7:ハウジング
70:主軸部収容部 70a:噴出溝
71:鍔部収容部 71a:噴出溝
72:流路 73:気体軸受け用気体流入口
8:気体軸受け部 80:ラジアル気体軸受け 81:スラスト気体軸受け
9:サーボモータ 90:ロータ 91:ステータ 92:隙間 93:排気口
10:加振用気体流入部
11:加工送り手段
110:ボールスクリュー 111:ガイドレール 112:パルスモータ
113:摺動部 114:支持部
12:操作盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたワークを研削加工する加工手段とを有し、
該加工手段は、
ワークに作用する研削工具と、該研削工具を支持する支持マウントと、該支持マウントを支持する鉛直方向に延びる回転軸と、該回転軸を囲繞するハウジングと、該ハウジングと該回転軸との間に気体を送り込むことによって形成され該回転軸を回転可能に支持する気体軸受け部と、を有する研削装置であって、
該ハウジングと該回転軸との間であって該気体軸受け部が形成される箇所と異なる箇所に該回転軸を振動させる振動用の気体を送り込む加振用気体流入部を有する研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101939(P2011−101939A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258713(P2009−258713)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】