説明

研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法

【課題】研磨液が安定して供給され被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド1は、イソシアネート基含有化合物と、予めポリオール化合物に化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bを分散希釈させた分散液と、ポリアミン化合物と、これら各成分に対して非反応性の気体と、を混合した混合液を型枠に注型し硬化させた発泡体をスライスすることで形成されている。化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとでは、熱分解する温度が異なっている。研磨パッド1の内部には、混合液中の2種類の化学発泡剤A、Bにより、大きさが二極化した発泡3aと発泡3bとが略均等に分散して形成されている。研磨パッドの表面に孔径分布が二極化した開孔4a、4bが略均等に分散して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドの製造方法および研磨パッドに係り、特に、イソシアネート基含有化合物を主成分とした研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハや液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)では、表面の平坦性が求められるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体ウェハでは、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、表面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、表面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
半導体ウェハやガラス基板の表面を平坦化する方法としては、一般的に化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、被研磨物の表面(被研磨面)が研磨パッドに押し付けられた状態で、研磨粒子をアルカリ溶液に分散させたスラリ(研磨液)が供給され被研磨面が研磨される。スラリ中の研磨粒子による機械的作用と、アルカリ溶液による化学的作用とで研磨される。被研磨面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法に求められる研磨精度、換言すれば、研磨パッドに要求される性能も高まっている。
【0004】
CMP法では、研磨パッドとして硬質発泡ポリウレタンが広く使用されている。このような研磨パッドの製造では、通常、イソシアネート基含有化合物を含むプレポリマと、活性水素化合物を含む硬化剤とが反応により硬化されて発泡体が成型される。得られた発泡体がシート状にスライスされ研磨パッドが形成される。発泡体内部に発泡が形成されるため、スライスにより形成される研磨パッドの表面には、研磨加工時にスラリを保持することができる開孔が形成される。
【0005】
研磨パッド用の発泡体を成型する目的で、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を基材として用い、化学発泡剤または化学発泡剤を内包した微小カプセルを添加し成型する技術が数多く開示されている。例えば、熱可塑性樹脂を基材とする技術では、ポリオレフィン系樹脂を用いる技術(特許文献1、2参照)、フッ素系樹脂を用いる技術(特許文献3、4参照)、アクリル樹脂やABS樹脂を用いる技術(特許文献5参照)が開示されている。一方、熱硬化性ウレタン樹脂を基材とする技術では、高分子材料製殻壁に化学発泡剤を内包した微小カプセルを基材の原料に混合し、ウレタン樹脂の硬化反応熱で化学発泡剤が分解して発生する分解ガスにより微小カプセルが膨張し殻壁を破損させることで発泡を形成させる技術が開示されている(特許文献6参照)。
【0006】
ところが、研磨加工時に研磨屑が発生することから、研磨屑で開孔が目詰まりを起こすため、研磨効率や被研磨物の平坦性を低下させる、という問題がある。このため、スラリ保持性能を維持したまま、研磨屑による目詰まりを抑制する目的で、100μm以下の微小発泡と、発泡径100μmを超える大発泡とが混在して形成された研磨パッドの技術が開示されている。例えば、プラスチック中空粒子を含有するポリウレタン樹脂を成型する際、化学発泡剤または水を発泡剤として発泡させることで、研磨面が0.3mm以上の平均孔径の独立気泡を1個/cm以上、0.1mm以下の平均孔径の独立気泡を100個/cm以上有する研磨パッドの技術が開示されている(特許文献7参照)。また、化学発泡、機械的な撹拌発泡、中空マイクロビーズ分散などにより、発泡径400μm未満の小発泡の平均径を20〜100μmと、発泡径400〜1000μmの大発泡を10〜100個/100cm形成させた研磨パッドの技術(特許文献8参照)が開示されている。本出願人も加熱膨張性微粒子による孔径10〜100μmの気孔と、水発泡による孔径100〜800μmの発泡とを混在させた研磨パッドを開示している(特許文献9、10参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平9−132661号公報
【特許文献2】特開2003−286359号公報
【特許文献3】特開昭63−283857号公報
【特許文献4】特開2001-205552号公報
【特許文献5】特開2001-239455号公報
【特許文献6】特開平11−114834号公報
【特許文献7】特開2001−244223号公報
【特許文献8】特開2006−210657号公報
【特許文献9】特許3316757公報
【特許文献10】特許3316756公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜特許文献5のように、化学発泡剤の添加による発泡の場合、基材が熱可塑性樹脂であれば、副反応を起こすおそれは少ないが、基材が熱硬化性ポリウレタン樹脂のものと比べると耐摩耗性が劣る、という欠点がある。ところが、熱硬化性ポリウレタン樹脂では、化学発泡剤の種類により、成型前のポリウレタン混合物が重合阻害や粘度低下、または、逆に粘度上昇やゲル化を起こすため、発泡斑を招く(発泡にバラツキが生じる)、という問題がある。この点、特許文献6では、化学発泡剤が高分子材料製殻壁で保護されるため、重合阻害や粘度変化の問題は解消されるが、殻壁の高分子材料が研磨加工時に被研磨面と研磨パッドとの間に夾雑物(コンタミ)として介在するため、用いるスラリとの関係で予期せぬ悪影響を招くことがある。特許文献7〜特許文献10の技術では、中空微粒子の成分が夾雑物として介在することで特許文献6と同様の問題を起こす。また、水の添加による発泡では、水の分散状態を均等化することが難しいため、成型された発泡体の発泡に偏りが生じ平均孔径にも差が生じやすい、という問題がある。発泡方法としては、上記以外にも、不活性気体を封入する物理的発泡があるが、平均孔径が数μm程度の発泡であれば水による発泡の形成より制御しやすいものの、平均孔径が数十μm代の若干大きな発泡の形成や均等化が難しい、という問題がある。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、研磨液が安定して供給され被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、イソシアネート基含有化合物と、ポリアミン化合物と、常温で固体でありアミド基およびヒドラジド基を有さず100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生する化学発泡剤Aと、常温で固体でありアミド基またはヒドラジド基を有し100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生し、熱分解する温度または分解ガスの発生量が前記化学発泡剤Aとは異なる化学発泡剤Bとを混合した混合液から形成された発泡体をスライスして得られたことを特徴とする研磨パッドである。
【0011】
第1の態様では、アミド基およびヒドラジド基を有していない化学発泡剤Aによる混合液の粘度上昇と、アミド基またはヒドラジド基を有する化学発泡剤Bによる混合液の粘度低下とがバランスされて混合液の粘度変化が少なくなるため、発泡体に形成される発泡の分散状態が均等化され、混合液に混合された化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとで熱分解する温度または分解ガスの発生量が異なるため、発泡体の内部に大きさが二極化した発泡が形成されることから、スライスして得られた研磨パッドの表面には二極化した孔径分布を有し略均等に分散した開孔が形成されるので、研磨パッドによる研磨加工時に研磨液が安定して供給されるため、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0012】
第1の態様において、化学発泡剤Aをバリウムアゾジカルボキシレート、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンおよび炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または2種以上とし、化学発泡剤Bをアゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドおよびヒドラゾジカルボンアミドから選ばれる1種または2種以上としてもよい。化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bが予めポリオール化合物にそれぞれ1重量%〜20重量%の割合で分散希釈させた分散液として混合液に混合されていれば、混合液中での化学発泡剤A、Bの分散状態を均等化することができる。このとき、ポリオール化合物をポリプロピレングリコールとしてもよい。
【0013】
また、第1の態様において、イソシアネート基含有化合物の温度50℃〜80℃における粘度を500mPa・s〜4000mPa・sの範囲とすれば、混合液中で発泡の移動が抑制されるため、発泡の偏りを抑制することができる。発泡体のスライスにより表面に開孔が形成され、開孔の孔径分布が3μm〜500μmの範囲内で二極化していることが好ましい。また、発泡体のスライスにより複数枚の研磨パッドが形成されたときに、各研磨パッドの表面に形成された開孔の孔径の平均値の差、および、密度の差をいずれも±3%の範囲内とすれば、複数の研磨パッドで孔径の平均値が同等となり、発泡の占める空間の割合が同等となるので、研磨性能のバラツキを抑制することができる。温度20℃の水に一定時間浸漬したときの硬度に対する、温度70℃の水に同じ一定時間浸漬したときの硬度の割合を80%以上としてもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、イソシアネート基含有化合物と、ポリアミン化合物と、常温で固体でありアミド基およびヒドラジド基を有さず100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生する化学発泡剤Aと、常温で固体でありアミド基またはヒドラジド基を有し100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生し、熱分解する温度または分解ガスの発生量が前記化学発泡剤Aとは異なる化学発泡剤Bとをそれぞれ準備する準備ステップと、前記イソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bを混合した混合液を調製し、前記混合液から発泡体を形成する発泡体形成ステップと、前記発泡体をスライスして研磨パッドを形成するスライスステップと、を含む研磨パッドの製造方法である。
【0015】
第2の態様において、発泡体形成ステップで、イソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bに対して非反応性の気体を吹き込み混合液を調製すれば、吹き込まれた気体により細かい気泡が生じるため、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bを混合液中で略均等に分散させることができる。このとき、吹き込まれる気体の量をイソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bの合計重量1kgに対して0.5〜3.4リットルの割合とすれば、混合液中の気体の量が制限されるため、極端に大きな発泡の形成を抑制することができる。また、発泡体形成ステップにおいて、剪断速度9,000〜41,000/秒、剪断回数300〜10,000回の条件で混合液を調製することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アミド基およびヒドラジド基を有していない化学発泡剤Aによる混合液の粘度上昇と、アミド基またはヒドラジド基を有する化学発泡剤Bによる混合液の粘度低下とがバランスされて混合液の粘度変化が少なくなるため、発泡体に形成される発泡の分散状態が均等化され、混合液に混合された化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとで熱分解する温度または分解ガスの発生量が異なるため、発泡体の内部に大きさが二極化した発泡が形成されることから、スライスして得られた研磨パッドの表面には二極化した孔径分布を有し略均等に分散した開孔が形成されるので、研磨パッドによる研磨加工時に研磨液が安定して供給されるため、被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0018】
(研磨パッド)
図1に示すように、研磨パッド1は、硬質発泡タイプのポリウレタンシートであり、イソシアネート基含有化合物を主成分としている。研磨パッド1は、研磨加工時に被研磨物の被研磨面にスラリ(研磨液)を介して当接する研磨面Pを有している。研磨パッド1は、イソシアネート基含有化合物と、予めポリオール化合物に化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bを分散希釈させた分散液と、ポリアミン化合物と、これら各成分(イソシアネート基含有化合物、分散液およびポリアミン化合物)に対して非反応性の気体(以下、非反応性気体と略記する。)と、を混合した混合液を型枠に注型し硬化させた発泡体をスライスすることで形成されている。すなわち、研磨パッド1は、乾式成型で形成されている。
【0019】
研磨パッド1の内部には、乾式成型時に、混合液中の2種類の化学発泡剤A、Bにより、断面略円形状で大きさが二極化した発泡3aと発泡3bとが略均等に分散して形成されている。発泡3a、3bの形成は、それぞれ2種類の化学発泡剤A、Bに起因している。研磨パッド1が発泡体のスライスで形成されているため、研磨面Pでは発泡3a、3bの一部が開孔しており、それぞれ開孔4a、4bが形成されている。発泡3a、3bの大きさが異なるため、研磨面Pに形成された開孔4a、4bは、孔径分布が3〜500μmの範囲内で二極化している。開孔4a、4bの孔径分布を正規分布と仮定した場合、開孔4aの中心値<開孔4bの中心値のときは、開孔4aの中心値±σ(標準偏差)の範囲内に開孔4bの中心値が入らぬよう二極化していることが好ましく、開孔4aの中心値>開孔4bの中心値のときは、開孔4bの中心値±σ’(標準偏差)の範囲内に開孔4aの中心値が入らぬよう二極化していることが好ましい。ポリウレタンシート2の厚さは、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。このポリウレタンシート2は、温度20℃の水に一定時間浸漬したときの硬度に対する、温度70℃の水(熱湯)に同じ一定時間浸漬したときの硬度の割合で定義される湿潤硬度保持率が80%以上に設定されている。
【0020】
また、研磨パッド1は、研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド1を装着するための両面テープの一面側が貼り合わされている。両面テープは、基材7の両面に接着剤が塗着されており、他面側(図1の最下面側)に剥離紙8が貼り合わされている。基材7には、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルムが使用されている。
【0021】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド1は、図2に示す各工程を経て製造される。すなわち、イソシアネート基含有化合物と、化学発泡剤Aと、化学発泡剤Bと、ポリアミン化合物とをそれぞれ準備する準備工程(準備ステップ)、化学発泡剤A、Bをポリオール化合物に分散希釈させて分散液とし、イソシアネート基含有化合物、分散液、ポリアミン化合物および非反応性気体を混合して混合液を調製する混合工程、混合液を型枠に注型する注型工程、型枠内で発泡、硬化させて発泡体を形成する硬化成型工程(発泡体形成ステップ)、発泡体をシート状にスライスして複数枚の研磨パッド1を形成するスライス工程(スライスステップ)、および、研磨パッド1と両面テープとを貼り合わせるラミネート工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0022】
(準備工程)
準備工程では、イソシアネート基含有化合物と、化学発泡剤Aと、化学発泡剤Bと、ポリアミン化合物とをそれぞれ準備する。
【0023】
イソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマと略記する。)が用いられている。ポリオール化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させるときに、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量より大きくすることで、プレポリマを得ることができる。また、使用するプレポリマは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり、却って混合斑が生じて得られる発泡体に形成される発泡3a、3bの大きさが二極化し難くなる。反対に粘度が低すぎると混合液中で気泡が移動してしまい、得られる発泡体に略均等に分散した発泡3a、3bを形成することが難しくなる。このため、プレポリマは、温度50〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。このことは、例えば、プレポリマの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。プレポリマは、50〜80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0024】
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。また、これらのジイソシアネート化合物の二種以上を併用してもよい。
【0025】
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の二種以上を併用してもよい。
【0026】
化学発泡剤Aは、分子内にアミド基およびヒドラジド基を有していない常温で固体の物質であり、100〜260℃の温度で熱分解して分解ガスを発生する。一方、化学発泡剤Bは、分子内にアミド基またはヒドラジド基を有する常温で固体の物質であり、化学発泡剤Aと同様に100〜260℃の温度で熱分解して分解ガスを発生する。化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとでは、熱分解する温度が異なっている。
【0027】
化学発泡剤Aとしては、バリウムアゾジカルボキシレート、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンおよび炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。一方、化学発泡剤Bとしては、アゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドおよびヒドラゾジカルボンアミドから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。化学発泡剤A、Bの熱分解温度が100℃未満では次工程の混合工程や注型工程で熱分解してしまう可能性があり、反対に260℃を超えるとウレタン成分が熱分解するおそれがある。また、化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとの熱分解温度の差は、化学発泡剤A、Bを個別に反応(熱分解)制御し、発泡の大きさや密度を調整しやすくするため、5℃以上であることが好ましく、より好ましくは10℃以上である。本例では、化学発泡剤Aの熱分解温度が化学発泡剤Bより17℃低くなるようにそれぞれ選定されている。また、尿素化合物や亜鉛化合物等をいわゆる発泡助剤として添加することにより、発泡する温度を適宜調整し、化学発泡剤A、Bの反応制御を行うようにしてもよい。
【0028】
準備工程で準備するポリアミン化合物としては、脂肪族や芳香族のポリアミン化合物を使用することができる。例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)等が挙げられる。また、水酸基を有するポリアミン化合物、例えば、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を使用することもできる。
【0029】
(混合工程、注型工程、硬化成型工程)
図2に示すように、混合工程では、準備工程で準備した化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bをポリオール化合物に分散希釈させた分散液とし、分散液、プレポリマおよびポリアミン化合物を混合すると同時に、非反応性気体を吹き込み混合液を調製する。注型工程では混合工程で調製された混合液を型枠に注型し、硬化成型工程では化学発泡剤A、Bが熱分解する温度条件下にて型枠内で発泡、硬化させて発泡体を成型する。本例では、混合工程、注型工程、硬化成型工程を連続して行う。
【0030】
化学発泡剤A、Bを分散希釈させるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物を用いることができ、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。プレポリマやポリアミン化合物の溶液の粘度と同程度にすることで混合工程において化学発泡剤A、Bを均一に分散させやすくなるため、数平均分子量500〜2000のポリオール化合物を用いることが好ましく、特に、数平均分子量1000〜2000のポリプロピレングリコールが分散性や得られる研磨パッドの耐熱性の面からより好ましい。本例では、数平均分子量約2000のポリプロピレングリコールを使用し、これに化学発泡剤A、Bをそれぞれ1〜20重量%の割合で分散希釈させて分散液を調製する。分散液の調製時には、一般的な攪拌装置を使用して常温下で攪拌混合すればよく、化学発泡剤A、Bが略均等に分散希釈されていればよい。分散液の量は、次工程の混合工程で得られる混合液中に化学発泡剤A、Bが0.1〜3.0重量%配合されるように準備することが好ましい。化学発泡剤A、Bの配合量が多すぎると得られる発泡体の密度が低くなりすぎ、反対に少なすぎると孔径分布が二極化するような孔径制御が難しくなる。例えば、混合液の重量を10kgとした場合、混合する分散液を1〜2kgとすれば、この分散液に含まれる化学発泡剤A、Bの量は0.01〜0.3kgとなり、混合液中の化学発泡剤A、Bの配合割合が0.1〜3.0重量%となる。
【0031】
化学発泡剤Aは混合液の粘度を上昇させゲル化させる傾向にある。一方、化学発泡剤Bは混合液の粘度を低下させる傾向にある。このため、化学発泡剤A、Bをバランスよく配合することが重要となる。化学発泡剤A、Bの配合比率を50/50〜20/80の範囲に設定することで、混合液の粘度変化を少なくすることができる。混合液の粘度変化を更に抑制するためには、この配合比率を40/60〜30/70とすることが好ましい。
【0032】
図3に示すように、混合工程では混合機20で混合液が調製され、注型工程では調製された混合液が混合機20から連続して型枠25に注型され、硬化成型工程で硬化させることにより発泡体が成型される。混合機20は、攪拌翼14が内蔵された混合槽12を備えている。混合槽12の上流側には、第1成分としてプレポリマ、第2成分としてポリアミン化合物、第3成分として分散液をそれぞれ収容した供給槽、および、混合槽12内に非反応性気体を供給する供給装置16が配置されている。各供給槽からの供給口は混合槽12の上流端部に接続されており、供給装置16からの非反応性気体の供給口は混合槽12の全体の長さに対して上流端部からおよそ1/3の位置に接続されている。攪拌翼14は混合槽12内の略中央部で上流側から下流側までにわたって配置された回転軸に固定されている。回転軸の回転に伴い攪拌翼14が回転し、第1成分、第2成分、第3成分および非反応性気体を剪断するようにして混合する。得られた混合液は混合槽12の下流端部に配置された排出口から型枠25に注型される。型枠25は、上部が開放されており、大きさが、本例では、1050mm(長さ)×1050mm(幅)×50mm(厚さ)に設定されている。
【0033】
第1成分のプレポリマ、第2成分のポリアミン化合物の多くがいずれも常温で固体または流動しにくい状態のため、それぞれの供給槽は各成分が流動可能となるように加温されている。このときの温度は、第3成分の分散液に分散希釈させた化学発泡剤A、Bが熱分解しない温度に設定する。また、非反応性気体中に含まれる水分が混合槽12内の反応に関与することを防止するため、供給装置16からの非反応性気体は図示を省略した水分除去装置で水分が除去されている。供給された非反応性気体が混合槽12内で攪拌翼14の回転により微細な気泡となり、この気泡が化学発泡剤A、Bを分散希釈させた分散液を混合液中で略均等に分散させるバブリング効果を発揮する。非反応性気体の供給量が少なすぎるとバブリング効果が不十分となり化学発泡剤A、Bの分散状態に偏りが生じやすくなり、反対に多すぎると発泡体中に極端に大きな気泡が生じてしまう。このため、非反応性気体の供給量は、プレポリマ、ポリアミン化合物、化学発泡剤A、Bの合計重量1kgに対して0.5〜3.4リットルの割合となるように調整することが好ましい。非反応性気体としては、空気、窒素、酸素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等を挙げることができる。
【0034】
第1成分、第2成分、第3成分が各供給槽から混合槽12に供給され、攪拌翼14によりある程度混合された段階で非反応性気体が供給装置16から供給される。攪拌翼14の剪断速度、剪断回数を調整することで、各成分および非反応性気体が略均等に混合され混合液が調製される。攪拌翼14の剪断速度が小さすぎると、得られる発泡体に形成される発泡3a、3bの大きさを制御することが難しくなり孔径分布が二極化しにくくなる。反対に剪断速度が大きすぎると、攪拌翼14および混合液間の摩擦による発熱で温度が上昇し粘度が低下するため、混合液中の気泡が(成型中に)移動してしまい、得られる発泡体に形成される発泡3a、3bの分散状態にバラツキが生じやすくなる。一方、剪断回数が少なすぎると生じる気泡の大きさにムラ(バラツキ)が生じやすく、反対に多すぎると温度上昇で粘度が低下し、発泡3a、3bが略均等に形成されなくなる。また、混合中の温度上昇により、化学発泡剤A、Bが熱分解してしまうことがある。このため、混合工程では、剪断速度を9,000〜41,000/秒の範囲、剪断回数を300〜10,000回の範囲に設定し、混合する。混合機20での混合時間(滞留時間)は、混合液の流量(最大1リットル/sec)にもよるが、およそ1秒程度である。すなわち、例えば、注液工程で100kg程度の型枠25に混合液を注液するのに要する時間はおよそ1〜2分程度となる。なお、剪断速度、剪断回数は次式により求めることができる。すなわち、剪断速度(/秒)=攪拌翼14の翼先端の直径(mm)×円周率×攪拌翼14の回転数(rpm)÷60÷攪拌翼14の翼先端と混合槽12の内壁とのクリアランス(mm)、剪断回数(回)=攪拌翼14の回転数(rpm)÷60×混合槽12中での混合液の滞留時間(秒)×攪拌翼14の翼の数、により求めることができる。
【0035】
注液工程で、型枠25に混合液を注液するときは、混合機20からの混合液を混合槽12の排出口から排出し、例えばフレキシブルパイプを通じて、型枠25の対向する2辺間(例えば、図3の左右間)を往復移動する断面三角状の図示しない注液口に導液する。注液口を往復移動させながら、排出口の端部(フレキシブルパイプの端部)を注液口の移動方向と交差する方向に往復移動させる。混合液は、型枠25に略均等に注液される。
【0036】
硬化成型工程では、注液された混合液を型枠25内で反応させ発泡体を形成させる。このとき、混合液中のプレポリマとポリアミン化合物との反応によりプレポリマが架橋硬化する。型枠25の上部が開放されているため、大気圧下で架橋硬化が進行し発泡体が形成される。この架橋硬化の進行に伴い反応熱が生じるため、型枠25内の温度が上昇する。型枠25内の温度が化学発泡剤A、Bの熱分解温度に達すると、化学発泡剤A、Bが熱分解して分解ガス(窒素ガス等)を発生する。化学発泡剤A、Bの熱分解温度が反応熱により上昇した温度より高い場合は、型枠25の外部から加熱して化学発泡剤A、Bを熱分解させる。プレポリマの架橋硬化が進行するため、発生した分解ガスが外部に抜け出すことなく、発泡3a、3bが形成される。化学発泡剤Aの熱分解温度が化学発泡剤Bより17℃低いため、型枠25内の温度上昇に伴い化学発泡剤Aが化学発泡剤Bより早く熱分解して分解ガスを発生する。この時点では、架橋硬化が十分に進行しておらず、大きな発泡3aが形成される。型枠25内の温度が更に上昇することで、化学発泡剤Bが熱分解して分解ガスを発生する。この時点では、架橋硬化の進行によりプレポリマの硬さが増大しているため、分解ガスの広がりが制限され、小さな発泡3bが形成される。なお、発泡3a、3bは、断面形状が、円形状、楕円形状等の種々の形状で形成される。また、発生した分解ガスは、プレポリマやポリアミン化合物と非反応性であり、開孔時に放散されるため、架橋硬化反応や研磨パッド1に何ら影響するものではない。
【0037】
(スライス工程)
図2に示すように、スライス工程では、硬化成型工程で得られた発泡体をシート状にスライスして複数枚の研磨パッド1を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時には発泡体の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスする。スライスする厚さは、本例では、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。また、本例で用いた厚さが50mmの型枠25で成型した発泡体では、例えば、発泡体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10〜25枚の研磨パッド1が形成される。硬化成型工程で内部に発泡3a、3bが略均等に形成された発泡体が得られるため、スライス工程で形成される複数枚の研磨パッド1では、表面に形成された開孔4a、4bの孔径分布がいずれも3〜500μmの範囲内で二極化している。また、発泡体内部で発泡3a、3bが略均等に分散して形成されているため、各研磨パッド1では、開孔4a、4bの孔径の平均値の差が±3%の範囲内、密度の差が±3%の範囲内となる。
【0038】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、スライス工程で形成された研磨パッド1と両面テープとが貼り合わされる。円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査が行われる。
【0039】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド1を装着する。研磨定盤に研磨パッド1を装着するときは、剥離紙8を取り除き、露出した接着剤層で研磨定盤に接着固定する。被研磨物を加圧し、スラリを供給しながら研磨定盤を回転させることで、被研磨物の加工表面(被研磨面)が研磨加工される。
【0040】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド1および研磨パッド1の製造方法の作用等について説明する。
【0041】
本実施形態では、混合工程で、プレポリマ、予めポリオール化合物に化学発泡剤A、Bを分散希釈させた分散液およびポリアミン化合物が混合されると同時に、非反応性気体が吹き込まれ混合液が調製される。このため、吹き込まれた非反応性気体により微細な気泡が生じ、分散液中の化学発泡剤A、Bが混合液中で略均等に分散される。換言すれば、分散液中のポリオール化合物は、混合液中で化学発泡剤A、Bを分散させやすくする役割を果たしている。非反応性気体により生じた気泡で分散液が混合液中に分散されるため、混合液中の化学発泡剤A、Bの分散状態を均等化することができる。化学発泡剤A、Bが熱分解して分解ガスを発生することで、得られる発泡体の内部に大きさが二極化し略均等に分散した発泡3a、3bを形成することができる。従って、スライス工程でスライスすることにより表面に孔径分布が二極化した開孔4a、4bが略均等に形成された研磨パッド1を得ることができる。この研磨パッド1では、研磨加工時に開孔4a、4bにスラリが保持されると共に、研磨屑が主として開孔4aに収容されるので、スラリが略均等に供給され研磨面に研磨屑が介在しなくなることから、被研磨物の平坦性を向上させることができ研磨性能の低下を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態では、混合液中の化学発泡剤A、Bの分散性をよくする目的で分散液に入れたポリプロピレングリコール(ポリオール化合物)の一部がイソシアネート基含有化合物とウレタン結合を形成する。このため、得られる研磨パッド1では、耐湿熱性が向上するので、研磨加工に伴い発熱しても研磨効率の低下を抑制することができる。
【0043】
更に、本実施形態では、混合工程、注型工程、硬化成型工程が連続して行われるため、混合液中に略均等に分散された化学発泡剤A、Bが凝集等を生じる前に硬化反応が進行する。このため、発泡体内部に、化学発泡剤A、Bの分解ガスに起因する発泡3a、3bを略均等に分散させて形成することができる。
【0044】
また更に、本実施形態では、化学発泡剤Aの熱分解温度が化学発泡剤Bより17℃低くなるようにそれぞれの物質が選定されている。熱分解温度の差が17℃のため、硬化成型時に熱分解して分解ガスを発生するタイミングに差が生じるが、これと同時にプレポリマの架橋硬化反応が進行しているため、それぞれの分解ガス発生時点でのプレポリマの硬さが異なることとなる。このため、発生した分解ガスの広がりが制限されることから、形成される発泡の大きさに違いが生じることとなる。すなわち、化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとで分解ガスの発生量が同じ場合でも、熱分解温度の低い化学発泡剤Aが熱分解したときは分解ガスが十分に広がり大きな発泡3aが形成されるのに対して、熱分解温度の高い化学発泡剤Bが熱分解したときは硬さが増大したプレポリマにより分解ガスの広がりが制限され小さな発泡3bが形成される。これにより、大きさが二極化した発泡3a、3bを形成することができる。化学発泡剤A、Bを選定することで、発泡3a、3bの大きさを制御することができ、開孔4a、4bの孔径分布が二極化した研磨パッド1を得ることができる。
【0045】
更にまた、本実施形態では、化学発泡剤A、Bの配合比率が50/50〜20/80の範囲に設定されている。化学発泡剤Aが配合された混合液では粘度が上昇しゲル化する傾向にあり、化学発泡剤Bが配合された混合液では粘度が低下する傾向にある。化学発泡剤A、Bの配合比率を上述した範囲に設定することで、化学発泡剤A、Bがバランスよく配合され混合液の粘度変化を少なくすることができる。これにより、混合工程で各成分を略均一に混合することができ、硬化成型工程で発泡3a、3bを偏りが生じることなく略均等に分散した状態で形成させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、分散液中の化学発泡剤A、Bがバランスよく配合されることで、発泡3a、3bを略均等に分散した状態で形成させることができる。これにより、スライスして得られた複数の研磨パッド1では、開孔4a、4bの孔径分布をいずれも3〜500μmの範囲内で二極化させることができる。従って、研磨加工時にスラリが開孔4a、4bに保持されつつ、研磨屑が開孔4bに収容されるので、研磨効率の向上を図ることができる。また、混合工程で混合槽12に供給される非反応性気体の量をプレポリマ、分散液およびポリアミン化合物の合計重量1kgに対して0.5〜3.4リットルの割合とすることで、混合液中の非反応性気体の量が制限されるので、化学発泡剤A、Bを略均等に分散させることができ得られる発泡体の内部で発泡3a、3bを略均等に形成させることができる。更に、プレポリマの温度50〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲とすることで、混合工程で供給された非反応性気体によるバブリング効果がほぼ一様に生じ混合液中での化学発泡剤A、Bの分散状態を均等化することができる。これにより、得られる発泡体の内部での発泡3a、3bの偏りを抑制し略均等に分散させることができる。また、混合工程で剪断速度、剪断回数を上述した条件に設定することで、分散液中の化学発泡剤A、Bが略均等に分散されることから、発泡3a、3bの分散状態を均等化することができる。
【0047】
更に、準備工程で予めポリオール化合物に化学発泡剤A、Bを分散させた分散液を調製しておき、混合工程で空気を供給することで発泡3a、3bが略均等に形成された発泡体が得られるため、スライス工程で形成される複数枚の研磨パッド1では、それぞれの表面に形成された開孔4a、4bの孔径の平均値の差、および、(見掛け)密度の差をいずれも±3%の範囲内とすることができる。孔径のバラツキが大きくなると、研磨加工時にスラリ中の砥粒(研磨粒子)や研磨屑等により開孔4a、4bが局所的に目詰まりを発生しやすくなり、被研磨物の平坦性を低下させる。また、密度が小さくなると硬度が小さく(柔らかく)なりすぎるため、被研磨物の平坦性を向上させることが難しくなる。反対に密度が大きくなると硬度が高くなりすぎるため、研磨効率が低下し、被研磨物にキズが発生しやすくなる。本実施形態では、各研磨パッド1の開孔4a、4bの孔径が同等となるので、局所的な目詰まりを抑制することができる。また、各研磨パッド1中で発泡3a、3bの占める空間の割合が同等となり硬度も同等となるので、研磨パッド1を交換しても、研磨性能にバラツキの生じることを抑制することができる。
【0048】
また更に、分散液に配合されたポリオール化合物は、混合液中で化学発泡剤A、Bを分散させやすくする役割を果たすが、混合液中に存在しているため、ポリオール化合物の水酸基がプレポリマのイソシアネート基と反応してウレタン結合を形成することで、湿潤状態における発泡体の硬度変化を生じにくくする役割も果たす。このため、得られる複数枚の研磨パッド1では、いずれも湿潤硬度保持率が80%以上となる。特に、ポリオール化合物としてポリプロピレングリコールを用いることで、湿潤硬度保持率を向上させることができる。従って、湿潤状態での熱安定性が向上するので、スラリを使用した研磨加工時に摩擦等で発熱しても研磨パッド1の硬度変化が抑制され、研磨性能の安定化を図ることができる。
【0049】
更にまた、研磨パッド1が、上述したとおり、2種類の化学発泡剤A、Bで発泡3a、3bの分散状態を均等化させて成型した発泡体をスライスして形成されるため、研磨効率を向上させると共に、被研磨物の平坦性を向上させることができ、熱安定性(湿潤硬度保持率)にも優れ、目詰まりしにくく寿命も向上させることができる。また、発泡体の大きさを大きくする(型枠25を大きくする)ことで、大型化(面積、厚さ)の要求に対して容易に対応することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとの熱分解温度の差が17℃の例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、熱分解温度の差が5℃以上であれば、二極化した孔径分布を得ることができる。また、化学発泡剤A、Bの熱分解時に発生する分解ガスの発生量が異なるようにしてもよい。化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとの熱分解温度に差がない場合、または、熱分解温度の差が5℃未満の場合は、温度による反応制御が難しくなるが、化学発泡剤A、Bの熱分解時に発生する分解ガスの発生量が異なるようにすれば、二極化した孔径分布の発泡を形成させることができる。この場合、化学発泡剤A、Bの分解ガスの発生量は、一方が他方の1.1倍以上であることが好ましく、特に好ましくは1.2倍以上である。
【0051】
また、本実施形態では、プレポリマとして、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリオール化合物に代えて水酸基やアミノ基等を有する活性水素化合物を用い、ジイソシアネート化合物に代えてポリイソシアネート化合物やその誘導体を用い、これらを反応させることで得るようにしてもよい。また、多種のイソシアネート末端プレポリマが市販されていることから、市販のものを使用することも可能である。また、本実施形態では、ポリオール化合物に化学発泡剤A、Bを分散希釈した分散液を調製する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分散液がポリオール化合物および化学発泡剤A、B以外に、例えば、硬化成型に際し必要な添加剤等の成分を含むようにしてもよい。また、化学発泡剤A、Bを分散液とすることなく直接混合するようにしてもよい。発泡3a、3bの分散状態を均等化することを考慮すれば、予め分散液とすることが好ましい。
【0052】
更に、本実施形態では、化学発泡剤A、Bとしてそれぞれ具体的な物質を例示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。化学発泡剤Aとしては、分子内にアミド基およびヒドラジド基を有しておらず、100〜260℃の温度で熱分解して分解ガスを発生する常温で固体の物質を用いることができる。化学発泡剤Bとしては、分子内にアミド基またはヒドラジド基を有しており、100〜260℃の温度で熱分解して分解ガスを発生する常温で固体の物質で、熱分解する温度または熱分解時の分解ガスの発生量が化学発泡剤Aと異なる物質を用いることができる。
【0053】
また更に、本実施形態では、特に言及していないが、スラリの供給や研磨屑の排出を考慮して研磨パッド1の研磨面Pに溝加工を施すようにしてもよい。溝の形状については、放射状、格子状、螺旋状等のいずれでもよく、断面形状についても矩形状、U字状、V字状、半円状のいずれでもよい。溝のピッチ、幅、深さについては、研磨屑の排出やスラリの移動が可能であればよく、特に制限されるものではない。
【0054】
更にまた、本実施形態では、混合工程で混合機20、スライス工程でスライス機を使用する例を示したが、混合機やスライス機には特に制限はなく、通常使用される混合機、スライス機を使用することができる。また、本実施形態では、直方体状の型枠25を例示したが、本発明は型枠の形状や大きさに制限されるものではない。例えば、円柱状等の型枠を使用してもよく、混合液の粘性を考慮すれば、型枠を使用せずに発泡体を形成するようにしてもよい。また、本実施形態では、混合機20から型枠25に注液し大気圧下で成型する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、容器中で混合液を調製し、その容器内で硬化成型させるようにしてもよく、容器を密閉して加圧下で硬化成型してもよい。更に、本実施形態では、架橋硬化に伴う反応熱で化学発泡剤A、Bが熱分解する例を示したが、外部から積極的に加熱するようにしてもよい。また、混合液の注液時に型枠25を予熱(例えば、25℃程度)しておくことで、環境温度の影響を受けにくくなり、硬化成型を安定化させることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本実施形態に従い作製した研磨パッドの実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例についても併記する。
【0056】
(実施例1)
実施例1では、第1成分のプレポリマとしてイソシアネート含有量が9〜9.3%の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマ(Adiprene L−325)を用いこれを55℃に加熱し減圧下で脱泡した。第2成分としてプロピレンジアミンを用い、減圧下で脱泡した。第3成分の分散液は、数平均分子量約2000のポリプロピレングリコールの50部に、化学発泡剤AとしてN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(熱分解温度123℃、分解ガスの発生量125ml/g)の8部、化学発泡剤Bとしてアゾジカルボンアミド(熱分解温度140℃、分解ガス発生量135ml/g)の8部、触媒(トヨキャットET、東ソー株式会社製)の1部、シリコン系界面活性剤(SH−193、ダウコーニング社製)の2部をそれぞれ添加し攪拌混合した後、減圧下で脱泡した。すなわち、化学発泡剤Aと化学発泡剤Bとでは、分解ガスの発生量に10ml/gの差があり、化学発泡剤Aの熱分解温度が化学発泡剤Bの熱分解温度より17℃低く設定されている。第1成分:第2成分:第3成分を重量比で100部:22.8部:5.3部の割合で混合槽12に供給した。混合工程では、攪拌条件を剪断回数1689回、剪断速度9425/秒に設定した。このとき、混合槽12内に空気を80L/minの流量で供給した。得られた混合液を型枠25に注型し硬化させた後、形成された発泡体を型枠25から抜き出した。この発泡体を、厚さ1.3mmにスライスし研磨パッド1を作製した。
【0057】
(比較例1、比較例2)
比較例1では、混合工程で化学発泡剤Aのみをそのまま(ポリプロピレングリコールに分散希釈させることなく)混合する以外は実施例1と同様にして研磨パッドを作製した。比較例2では、混合工程で化学発泡剤Bのみをそのまま(ポリプロピレングリコールに分散希釈させることなく)混合する以外は実施例1と同様にして研磨パッドを作製した。
【0058】
(評価)
実施例および比較例について、硬化成型した発泡体の上層部、中央部、下層部からスライスして得られた研磨パッド1の密度、研磨面Pの開孔径、孔径分布および研磨特性を測定した。密度は、所定サイズの大きさに切り出した試料の重量を測定し、サイズから求めた体積から算出した。開孔径および孔径分布は、マイクロスコープ(KEYENCE製、VH−6300)で約1.3mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し算出した。また、中央部から得られた研磨パッド1について、湿潤(WET)硬度および硬度保持率を測定した。湿潤硬度は、研磨パッド1を温度20℃の水に30分間浸漬した後、硬度として、日本工業規格(JIS K 7311)に準じてショアA硬度を測定した。同じ研磨パッド1を温度70℃の熱湯に30分間浸漬した後、ショアA硬度を同様に測定し、20℃のときの硬度に対する70℃のときの硬度の割合を百分率で求めた。研磨特性の評価は、研磨装置(不二越機械工業社製、MCP−150X)に作製した研磨パッド1を装着して研磨加工を行い、研磨速度を測定した。研磨速度は、8インチのシリコンウエハに対して研磨時間30分で20回の研磨加工を行ったときの単位時間当たりの重量減少量とした。研磨条件は次のとおりとした。すなわち、スラリとしてシリカスラリ(キャボット社製、SS12)を用い、研磨中に流量650ml/minで供給した。このとき、研磨荷重350g/cm、研磨定盤回転数100rpm、ウエハ回転数75rpmに設定した。密度および開孔径の結果を下表1に示し、湿潤硬度、硬度保持率および研磨特性の結果を下表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、化学発泡剤Aのみで発泡を形成させた比較例1と、化学発泡剤Bのみで発泡を形成させた比較例2とは共に、単一の孔径分布を示しているが、いずれも、得られる発泡体の上層部、中央部、下層部で密度および開孔径にバラツキがあることから、発泡の分散状態に偏りがあることが考えられる。これに対して、予め化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bをポリプロピレングリコールに分散させた分散液を調製し、発泡3a、3bを形成させた実施例1では、上層部、中央部、下層部で、密度、開孔径共に略均一(±3%の範囲内)であることが判明した。また、孔径分布の測定結果では、開孔径の中心値が35μmの分布と68〜70μmの分布との二極化した孔径分布を示していた。このとき、孔径分布をそれぞれ正規分布と仮定し、中心値±σ(標準偏差)の範囲にそれぞれの中心値が入らぬよう二極化していることが確認された。このことから、得られる研磨パッド1で研磨加工を行うことで、二極化した孔径分布を有する開孔4a、4bにスラリが保持されつつ目詰まりが抑制され、被研磨物の平坦性を向上させることが期待できる。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、比較例1、比較例2では、硬度保持率としては80%以上を示しているものの、研磨特性は劣っている。これに対して、実施例1では、湿潤硬度が84度であり、硬度保持率が89%(80%以上)を示しているので、研磨加工中に生じる硬度変化が抑制されているだけではなく、開孔径が二極化しているため、研磨特性にも優れていることが判った。
【0063】
以上の結果から、プレポリマ、予めポリプロピレングリコールに化学発泡剤A、Bを分散希釈させた分散液、プロピレンジアミンを混合すると共に、空気を吹き込み混合液を調製することで、発泡体の内部に大きさが二極化した発泡が略均等に分散して形成され、この発泡体をスライスすることで、表面に二極化した孔径分布を有する開孔が略均等に形成された研磨パッドを得ることができることが判明した。従って、スラリを確実に保持しつつ研磨屑を十分に収容することで目詰まりを抑制することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。また、1つの発泡体から得られる複数の研磨パッドによる研磨加工で研磨性能のバラツキを抑制することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は研磨液が安定して供給され被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの製造方法の要部を示す工程図である。
【図3】実施形態の研磨パッドの製造に用いた混合機および型枠の概略を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
1 研磨パッド
3a、3b 発泡
4a、4b 開孔
P 研磨面
20 混合機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有化合物と、ポリアミン化合物と、常温で固体でありアミド基およびヒドラジド基を有さず100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生する化学発泡剤Aと、常温で固体でありアミド基またはヒドラジド基を有し100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生し、熱分解する温度または分解ガスの発生量が前記化学発泡剤Aとは異なる化学発泡剤Bとを混合した混合液から形成された発泡体をスライスして得られたことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記化学発泡剤Aはバリウムアゾジカルボキシレート、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンおよび炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または2種以上であり、前記化学発泡剤Bはアゾジカルボンアミド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドおよびヒドラゾジカルボンアミドから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記化学発泡剤Aおよび前記化学発泡剤Bは、予めポリオール化合物にそれぞれ1重量%〜20重量%の割合で分散希釈させた分散液として前記混合液に混合されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ポリオール化合物は、ポリプロピレングリコールであることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記イソシアネート基含有化合物は、温度50℃〜80℃における粘度が500mPa・s〜4000mPa・sの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記発泡体のスライスにより表面に開孔が形成されており、前記開孔の孔径分布が3μm〜500μmの範囲内で二極化していることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記発泡体のスライスにより複数枚の研磨パッドが形成されたときに、各研磨パッドの表面に形成された開孔は、孔径の平均値の差、および、密度の差がいずれも±3%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項8】
温度20℃の水に一定時間浸漬したときの硬度に対する、温度70℃の水に前記一定時間浸漬したときの硬度の割合が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項9】
イソシアネート基含有化合物と、ポリアミン化合物と、常温で固体でありアミド基およびヒドラジド基を有さず100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生する化学発泡剤Aと、常温で固体でありアミド基またはヒドラジド基を有し100℃〜260℃で熱分解して分解ガスを発生し、熱分解する温度または分解ガスの発生量が前記化学発泡剤Aとは異なる化学発泡剤Bとをそれぞれ準備する準備ステップと、
前記イソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bを混合した混合液を調製し、前記混合液から発泡体を形成する発泡体形成ステップと、
前記発泡体をスライスして研磨パッドを形成するスライスステップと、
を含む研磨パッドの製造方法。
【請求項10】
前記発泡体形成ステップにおいて、前記イソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bに対して非反応性の気体を吹き込み前記混合液を調製することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記発泡体形成ステップで吹き込まれる気体の量は、前記イソシアネート基含有化合物、ポリアミン化合物、化学発泡剤Aおよび化学発泡剤Bの合計重量1kgに対して0.5〜3.4リットルの割合であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記発泡体形成ステップにおいて、剪断速度9,000〜41,000/秒、剪断回数300〜10,000回の条件で前記混合液を調製することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66675(P2009−66675A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235117(P2007−235117)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】