説明

研磨布

【課題】砥粒や研磨屑の凝集を抑制し、スクラッチなどの欠点の非常に少ない研磨を行うことができる、平滑性に優れた研磨布を提供する。
【解決手段】実質的に繊維のみからなる表層を有し、前記繊維の数平均直径が1〜500nmであり、表面粗さの平均偏差(SMD)がタテ方向、ヨコ方向の各々の値が2.0μm以下であることを特徴とする研磨布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクなどの高精密研磨用研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品は、ますます要求される性能が高度化しており、それに伴って、基板表面加工の一層の高精度化が必要となっている。具体的には、主として基板表面の平滑性の向上とスクラッチの低減が求められている。特にハードディスクは大容量化に伴いハードディスクと読み取り用ヘッドとの距離が縮まり、研磨後のハードディスク表面粗さはできるだけ小さくしなければならない。ハードディスク表面の数ナノオーダーの突起などを除去するために研磨布を数センチ幅のテープ状にしてハードディスクの表面を円周方向に研磨する工程では、研磨時に付けてしまうスクラッチを少なくすることはもちろんのこと、円周状に付く微細な溝(テクスチャー痕)も小さいほうがよく、そのためには研磨時に砥粒や研磨屑の凝集物が生成されないようにすることが求められる。
【0003】
その手段として、例えば極細繊維(ミクロンレベル)を用いて織物状としたもの(例えば、特許文献1参照)や、不織布状としたもの(例えば、特許文献2参照)が提案されている。極細繊維を用いることにより、砥粒にかかる力が分散されたり、スクラッチの原因となる砥粒の凝集や研磨屑の生成が抑制されることにより、これらの技術はある程度の効果はあるものの、さらなる改善が求められている。
【0004】
また、さらに細い繊維としてナノファイバーを用いた研磨布も提案されているがこの場合も改善効果は見られるが、研磨布表層部に高分子弾性体含有することにより表面の繊維に粗密があったり、極微細な領域での表面粗さは小さく平滑であっても研磨時にワークと接触する数cmオーダーでは凹凸がみられ、そこで砥粒や研磨屑の凝集物を生成してしまうため、十分な効果は得られていない。
【0005】
また、研磨によって生じる研磨屑や凝集砥粒を排出する目的で表面の中で孔の占める割合が多い構造とするため、内部に微多孔を有するポリウレタン等の樹脂からなる研磨パッドや、比較的繊維径の太い繊維からなる不織布にポリウレタン等の樹脂を含浸してなる研磨パッドが提案されているが(例えば、特許文献3参照)、研磨布表面凹凸部で砥粒や研磨屑の凝集物を生成してしまうため、研磨した表面の平滑性、スクラッチなどの欠点ができてしまうという問題点があった。
【特許文献1】特開平11−90810号公報
【特許文献2】特開2003−236739号公報
【特許文献3】特開平3−234475号公報
【特許文献4】特公昭44−18369号公報
【特許文献5】特開昭54−116417号公報
【特許文献6】特開2006−123360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、砥粒や研磨屑の凝集物生成を抑制し、スクラッチなどの欠点の非常に少ない研磨を行うことができる、平滑性に優れた研磨布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、実質的に繊維のみからなる表層を有し、前記繊維の数平均直径が1〜500nmであり、表面粗さの平均偏差(SMD)がタテ方向、ヨコ方向の各々について2.0μm以下であることを特徴とする研磨布である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨布は、研磨の際に砥粒が研磨布の表面に把持されて研磨布の内層に移動しないために砥粒を有効に利用できるので効率良く研磨加工を行うことができる。また、表層が実質的に繊維のみからなるために、研磨屑や凝集砥粒などの粗大粒子が存在しても、研磨の荷重が分散されるためにスクラッチが発生しにくいという特徴を有する。また、研磨布自体の平滑性に優れているために、研磨して得られる表面の平滑性も非常に優れている。また、ワイピングクロスなどに用いた場合のふき取り性能にも優れており拭き残しが少なく、かつ研磨対象を傷つけない高性能な研磨布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の研磨布の表層における繊維を形成する物質としては、熱可塑性ポリマーが成型性の点から好ましい。中でもポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。繊維を形成するポリマーの融点としては、165℃以上とすることが繊維の耐熱性を良好なものとするうえで好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、ポリエチレンテレフタレート(PET)は255℃ 、ナイロン6(N6)は220℃であり好ましい。
【0010】
また、ポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合、混合されていてもよい。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤などの添加物を含有させてもよい。
【0011】
表層を構成する繊維の数平均直径としては、1〜500nmとすることが重要である。500nm、好ましくは200nm以下とすることで、後述する表面粗さの平均偏差(SMD)で表されるような平滑な研磨布とすることができ、平滑な研磨を行うことができる。また、繊維径を細くすることで繊維自身の凝集力が強くなり、樹脂などのバインダーを用いずとも繊維の脱落を防ぐことができる。一方、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上とすることで、強度不足による繊維の切断を防ぎ、切れた繊維に起因する汚れやスクラッチを防ぐことができる。
【0012】
かかる繊維を製造する方法としては例えば、直接極細繊維を紡糸する方法や、極細繊維発現型繊維を紡糸してから極細繊維を発現させる方法等を採用することができる。極細繊維発現型繊維としては、海島型繊維、分割型繊維などを挙げることができる。これらの中でも、直径の小さな繊維を安定して得ることができる点で、海島型繊維が好ましい。
【0013】
海島型繊維を得る方法としては例えば、
(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法、
(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法、
(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内の静止混練器などで混合する方法、
(4)特許文献4、特許文献5などに開示された口金を用いて製造する方法、などを挙げることができる。なかでも、極細繊維の細さや、高圧流体流を噴射した際の極細繊維の分散性が優れる点で上記(1)および(2)の方法が好ましく、特に(2)の方法が好ましく採用される。
【0014】
海島型繊維における海成分と島成分の、水、アルカリ溶液、酸性溶液、有機溶媒、超臨界流体などの溶媒に対する溶解性が異なることで、溶媒による脱海処理により極細繊維を発現させることができる。両成分の溶解性の差は、他の特性に影響がない範囲で大きいほど、海成分のみを選択的に除去することができ、工程の安定性の点で好ましい。
【0015】
上記(2)の方法における、用いるポリマー種の数としては、紡糸安定性を考慮すると2〜3成分が好ましく、特に海1成分、島1成分の2成分で構成されることが好ましい。
【0016】
また、島成分の海島型繊維に対する質量比としては0.1〜0.8が好ましい。く、0.2〜0.6がより好ましく、0.3〜0.5がさらに好ましい。0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上とすることで、除去される海成分のコストを抑えることができる。また、0.8以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下とすることで、島成分同士の合流を防ぐことができ、紡糸安定性の点で好ましい。
【0017】
脱海処理のなかでも、アルカリ易分解性成分を海成分として用い、極細繊維発現型繊維とし、中性〜アルカリ性(pH6〜14)の水溶液で脱海処理する方法は、溶剤を使用せず環境上保全上好ましい。アルカリ溶液に使用する薬剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。中でも、水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さなどの点で好ましい。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミンなどのアミンや減量促進剤、キャリアーなどを併用することもできる。
【0018】
中性〜アルカリ性の水溶液による脱海処理を施した後、必要に応じて中和、洗浄して残留する薬剤や分解物などを除去してから乾燥を施すことが好ましい。
【0019】
また、例えば特許文献6に開示されたエレクトロスピニング法によっても前述のような細い繊維径の繊維を得ることができる。
【0020】
表層を構成する繊維構造体としては、編物としては例えば、サテントリコット編、ゴム編、ハーフトリコット編、パイル編、平編、両面編などを挙げることができる。また織物としては例えば、1重、2重、3重、多重組織の平織、綾織、朱子織、2重ビロード、単・複パイル2重ビロード、両面ビロード、チンチラ織などを挙げることができる。また、不織布としては例えば、ウェブをカードやクロスラッパー、ランダムウエバーを用いて得る乾式法や、抄紙法などによる湿式法により得られるものを採用することができる。また、スパンボンド法、メルトブロー法、など、繊維形成と繊維構造体形成を同時に行う方法により得られる不織布も採用することができる。
【0021】
本発明の研磨布における表層は、実質的に繊維のみからなることが重要である。そうすることにより、樹脂の脱落や露出、繊維粗密による凹凸などに起因するスクラッチの発生を抑制することが可能となる。また、繊維が樹脂により固定されていないために、繊維の動きの自由度が非常に高く、したがって研磨布として使用した場合に、砥粒に均一に荷重がかかるため、平滑性の高い、スクラッチなどの欠陥の少ない研磨を行うことができる。実質的に表層が繊維のみからなるというのは、SEM写真などによって表面から観察した際、観察される繊維間において実質的に高分子弾性体などの樹脂が露出していないことを言う。本発明の効果を損なわない範囲で、高分子弾性体が研磨布内部に含まれていてもよいが、高分子弾性体の露出を防ぐために、表層における繊維の量を90質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0022】
本発明の研磨布は、表層に対してさらに補助層として他の繊維構造体、板状体、フィルムなどを複合一体化させることも好ましい。そうすることで、強度、クッション性、厚み、保水性などを向上させることができる。例えば、表層よりも繊維径の太い繊維からなる不織布層を補助層として配することによりクッション性を付与することができる。また、織物を複合することにより強力を向上せしめ形態安定性を向上させることができる。エレクトロスピニング法によって得られる繊維シートはそのままでは強力が不十分であるので、他の繊維構造体、板状体、フィルムなどと複合一体化することは特に効果的である。また、親水性ポリマーを含む表層に対して疎水性ポリマーを含む補助層を配することにより、研磨の対象と接する表層に選択的に水分を保持させて研磨やクリーニングの効率を向上させることができる。表層と積層させる補助層の数としては、上記のような機能付与、特性調整をする上で1つ以上が好ましく、一方、製造工程が複雑になるのを防ぐ上では、5以下が好ましい。
【0023】
複数の補助層を積層させる方法としては例えば、繊維構造体同士の場合にはこれらを積層した状態でニードルパンチや高圧流体流による処理を施し、繊維同士を絡合させて一体化させることができる。かかる方法はバインダーを用いる必要がないため研磨布の通気性や通液性、柔軟性を損なわず好ましい。ニードルパンチや高圧流体流による処理を採用する場合における、積層対象とする維構造体としては、短繊維不織布や、長繊維不織布の繊維をニードルパンチなどで部分的に切断したものや、短繊維からなる織編物や、糸長差を有する複合長繊維を用いた織編物などが、繊維がある程度自由に動けることで繊維同士が効率良く絡合するため好ましい。
【0024】
また、補助層同士を接着剤を介して適宜、圧力や熱を加えて一体化することもできる。かかる接着剤としては例えば、アクリル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ビニル系等の接着剤を用いることができる。また接着剤を付与する方法としては、グラビアロールなどで塗布する方法、スプレーで付与する方法、接着剤を含んでなるシートを積層する方法などを採用することができる。
【0025】
また、表層の形成にスパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法を採用する場合には、補助層上に直接、表層として不織布層を形成してもよい。
【0026】
なかでも、繊維構造体同士を高圧流体流により絡合させて一体化させる方法は、得られる研磨布が柔軟性に優れると同時に下層の繊維が表層に露出することがほとんどないため、好ましい。また高圧流体処理を施すことにより、表層において繊維束を形成している極細繊維を分散させ、研磨布の表面の平滑性を向上させるのにも資する。
【0027】
本発明の研磨布においては、得られる効果を損なわない範囲で高分子弾性体を含んでもよい。かかる高分子弾性体としては、適宜目的とする風合い、物性、品位が得られるものを種々選択して使用することができ、例えばポリウレタン、アクリル、スチレン−ブタジエンなどが挙げられる。中でも、柔軟性の点でポリウレタンを用いることが好ましい。ポリウレタンは、ポリマーポリオール、ジイソシアネート、鎖伸張剤を適宜反応させて製造することができる。
【0028】
また、高分子弾性体は溶剤系であっても水分散系であってもよいが、作業環境の点では水分散系の方が好ましい。また、溶剤系の高分子弾性体を用いる場合は湿式凝固法を採用し、水分散系の高分子弾性体を用いる場合は感熱凝固性のものを用いることが、表面への高分子弾性体のマイグレーションを抑制するうえで好ましい。
【0029】
本発明の研磨布は、表面粗さの平均偏差(SMD)がタテ方向、ヨコ方向の各々について2.0μm以下であることが重要である。SMDが小さいということは研磨布表面の凹凸が小さい、つまり表面平滑性が高いことを意味する。SMDを2.0μm以下、好ましくは1.7μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下とすることにより、研磨布として用いた場合に研磨圧を均一にすることができる。また、研磨布表面が平滑であるため、スラリー中の砥粒や研磨屑が研磨布表面の凹凸部に溜まりにくく、研磨時の欠陥とされるスクラッチの原因である砥粒や研磨屑の凝集物生成を抑制することができる。
【0030】
上記のようなSMDの表層は、構成する繊維の数平均直径を前述の範囲内とすることにより得ることができる。
【0031】
また、高圧流体処理を施して、さらに平板プレスや鏡面マングルによって圧縮することもより表面の平滑性を高くするうえで好ましい。高圧流体の圧力としては、1.0MPa以下、より好ましくは0.8以下とすることが、研磨布表面に筋がついて却ってSMDが大きくなるのを防ぐうえで好ましい。また、極細繊維が親水性であれば水を、疎水性であれば溶剤を極細繊維内に浸透させ極細繊維間で凝集力が弱まった状態で圧縮すると、圧縮の効果が高まるためより好ましい。
【0032】
本発明の研磨布は、10%伸長時応力が1N/cm以上であることが好ましい。10%伸長時応力を1N/cm以上とすることで、実質的に繊維のみからなる表層に応力がかかって伸ばされても変形しにくく、残留歪が生じるのを防ぎ、しわ、ひいては研磨における表面の不均一性や欠陥の発生を防ぐことができる。また、10%伸長時応力を高めようとして繊維構造体を厚くしたり、硬くしたりすると、テープやパッドへの加工がしにくくなるため、10%伸長時応力は100N/cm以下が好ましい。
【0033】
研磨布の10%伸長時応力を1N/cm以上とする手段としては、以下に説明する方法で補強層となる織編物、不織布、フィルム、樹脂などと一体化する方法を採用することができる。本発明の研磨布が表層が実質的に繊維のみからなるため、研磨布の10%伸長時応力を1N/cm以上とするためには、上記補強層の10%伸長時応力は1N/cm以上が好ましい。
【実施例】
【0034】
[測定方法]
(1)ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0035】
(2)ポリマーの溶融粘度
東洋精機(株)製のキャピログラフ1Bによりポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0036】
(3)融点
(株)パーキンエルマー(Perkin Elmer)製のDSC−7を用いて2nd runで測定し、ポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0037】
(4)TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM 日立社製H−7100FA型)で繊維横断面を観察した。また、ナイロンはリンタングステン酸で金属染色した。
【0038】
(5)SEM観察
繊維に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM 日立社製S−4000型)で繊維側面を観察した。
【0039】
(6)繊維の数平均による単繊維直径
研磨布から繊維を引き出し、上記(4)のTEMまたは(5)のSEMで少なくとも300本の単繊維を1視野中に観察できる倍率で観察し、観察による写真から画像処理ソフトを用いて、単繊維のそれぞれの直径の単純な平均値を求めた。このときに、同一表面内で無作為抽出した30本の単繊維直径を測定し、測定結果した結果の太い方のデータ5点、細い方のデータ5点を除いた、合計20点のデータを抽出した。さらに、同様のサンプリングを10回行い、合計200本の単繊維直径のデータからその単純平均値を求め、これを本発明では数平均繊維径とした。
【0040】
(7)表面粗さの平均偏差(SMD)
カトーテック(株)KES−FB4を用い20℃65%RTの環境下で、20gf/cmの張力をかけた研磨布に直径0.5mmのピアノ線を5mm幅に1本折り曲げた接触子を10gfで試料に圧着し、圧着させた接触子を0.1cm/秒の速度で水平に2cm移動させたときの研磨布表面の平均偏差を求めた。
【0041】
(8)10%伸長時応力
JIS L1096:1999 8.12.1により、シート状物(研磨布)から幅5cm、長さ20cmのサンプルを採取し、つかみ間隔10cmで定速伸長型引張試験機にて、引張速度10cm/分にて伸長させて測定した。得られた値から1cm伸長時の応力を10%伸長時応力とした。
【0042】
(9)ハードディスクの研磨加工特性
研磨布(シート)をスリットして38mm幅のテープとし、以下の条件で研磨加工を行った。
アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工し平均表面粗さ0.2nmに制御したディスクを用い、前記研磨布のテープの表面に1次粒子径1〜10nmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを15ml/分の供給量で滴下し、ディスクの回転数500rpm、テープのディスクへの押付圧1.0kg/cm、テープ走行速度6cm/分の条件で15秒間研磨を実施した。
JIS B0601:2001に準拠して、表面粗さ測定器(シュミットメジャーメントシステム社(Schmitt Measurement Systems,Inc)製TMS−2000)を用いて、テクスチャー加工後のディスク基板サンプル表面の任意の10カ所について表面粗さを測定し、10カ所の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。数値が低いほど高性能であることを示す。
【0043】
[実施例1]
[ポリマーアロイチップ]
島成分として、溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃のナイロン6を45質量%と、海成分として、重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)を55質量%とを用い、混練温度を220℃として溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。
【0044】
[表層用不織布]
上記ポリマーアロイチップを紡糸温度240℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4500m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し、圧着面積比率16%のエンボスロールにて、温度80℃、線圧20kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度2.0dtex、目付150g/mのポリマーアロイ繊維からなる不織布を得た。
【0045】
このポリマーアロイ繊維からなる不織布に油剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製 SM7060)を繊維重量に対し2質量%付与し、1000本/cmのパンチ本数でニードルパンチを施して、目付120g/m、密度0.09g/cmの表層用不織布を得た。
【0046】
[積層一体化・脱海処理]
上記表層用不織布を単繊維繊度0.1dtexのポリエステル短繊維からなるニードルパンチ不織布と積層し、0.1mmφの穴が0.6mm間隔で開いているノズルから圧力12MPaの水流を表層側に噴射して一体化せしめ、複合シートを得た。なお、処理速度は1m/分であり、ノズルは幅方向に振幅4mmで18.6Hzで揺動させながら処理を行った。
この複合シートを3%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:100)で2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の海成分を加水分解除去し、水酸化ナトリウム水溶液を酢酸にて中和し、80℃の水で十分洗浄した後、複合シートを鏡面マングルにて圧縮して水分を絞り出した。次いで、この複合シートを100℃で5分間乾燥して水分を除去し、研磨布を得た。
ポリマーアロイ繊維中の海ポリマーは99%以上除去されていた。また、TEM観察により測定した単繊維直径(数平均繊維径)は110nmであった。また、この研磨布のSMDはタテ方向が1.35μm、ヨコ方向が1.30μm、10%伸長時の応力は13N/cmであった。
また、研磨加工特性評価による研磨加工後のディスクの表面粗さは0.15nmと非常に平滑性に優れるものであった。
【0047】
[実施例2]
実施例1で得られたのと同様の研磨布に対してさらに、0.1mmφの穴が0.6mm間隔で開いているノズルから圧力0.8MPaの水流を表層側に噴射した。なお、処理速度は1m/分であり、ノズルは幅方向に振幅4mmで18.6Hzで揺動させながら処理を行った。次いで、この複合シートを100℃で5分間乾燥して水分を除去した。
得られた研磨布のSMDはタテ方向が1.68μm、ヨコ方向が1.53μm、10%伸長時の応力は17N/cmであった。この研磨布をSEMで観察したところ、極細繊維が1本1本分散していた。
また、研磨加工特性評価による研磨加工後のディスクの表面粗さは0.69nmと非常に平滑性に優れるものであった。
【0048】
[実施例3]
実施例1で得られたのと同様の研磨布に対してさらに、実施例2と同様にして水流噴射処理を施し、さらに、水に浸漬し、鏡面マングルにて圧縮しつつ、水分を絞り出した。次いで、この複合シートを100℃で5分間乾燥して水分を除去した。
得られた研磨布のSMDはタテ方向が1.55μm、ヨコ方向が1.48μm、10%伸長時の応力は18N/cmであった。
また、研磨加工特性評価による研磨加工後のディスクの表面粗さは0.58nmと非常に平滑性に優れるものであった。
【0049】
[比較例1]
脱海処理後の脱水手段を鏡面マングルに換えて延伸脱水機とした以外は実施例1と同様にして、研磨布を得た。
研磨布のSMDはタテ方向が3.12μm、ヨコ方向が2.55μm、10%伸長時の応力は15N/cmであった。
また、研磨加工特性評価による研磨加工後のディスクの表面粗さは0.24nmであった。この、ディスク表面に高輝度ランプの光をあてて観察したところ、スクラッチが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の研磨布は、シリコンウエハ、集積回路基盤や精密機器、光学部品などの製造工程、特に大容量ハードディスク表面の微細突起除去などの精密研磨工程で用いられる研磨布として用いることができる。また、クリーニングテープや高性能光学機器などのレンズ拭きなどのワイピングクロスに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に繊維のみからなる表層を有し、前記繊維の数平均直径が1〜500nmであり、表面粗さの平均偏差(SMD)がタテ方向、ヨコ方向の各々について2.0μm以下であることを特徴とする研磨布。
【請求項2】
10%伸長時応力が1N/cm以上である、請求項1に記載の研磨布。

【公開番号】特開2010−152965(P2010−152965A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328923(P2008−328923)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】