説明

研磨方法及び研磨装置

【課題】研磨パッドやスラリーの冷却、及び研磨パッド表面のドレッシングを効率良く行う。
【解決手段】本実施形態によれば、研磨方法は、回転させた研磨パッド13に、回転させた基板を押し当て、研磨パッド13上にスラリーを供給する工程と、研磨パッド13の表面温度を測定する工程と、前記表面温度が所定温度以上になった場合に、研磨パッド13に向かって、狭窄部を有するノズル15から過冷却液滴を含むジェット流を噴出させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、研磨方法及び研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIデバイス等の製造工程で薄膜や基板表面を平坦化する際、化学機械的研磨法(Chemical Mechanical Planarization法=CMP法)が実用化されている。LSIデバイスの微細化と低コスト化に伴い、デバイス表面をより平坦、低欠陥かつ安価に加工するCMP技術が求められている。
【0003】
CMP法では研磨砥粒を含むスラリー(研磨剤)を用いるため、砥粒残渣などを原因として発生するスクラッチ(研磨傷)をゼロにすることができないという問題がある。CMP法の改良に伴いスクラッチの数や大きさは抑制できるようになってきたが、LSIデバイスの微細化に伴い、将来は数nmオーダーの構造物をダメージなく加工する必要がある。例えば、LSI製造でのSTI(Shallow Trench Isolation)工程においては、微細溝パターンを覆って全面に成膜したSiO膜をCMP法でダメージなく研磨除去し、溝内にのみSiO膜を埋め込むことが必要である。研磨後の表面にはトランジスタを形成するため、特にスクラッチを抑制することが求められる。
【0004】
上記の問題に対し、より平坦性がよく、低欠陥かつ高生産性のCMP技術として、CMP温度制御が知られている。従来のCMP温度制御では、CMP中の研磨パッド表面に向かって空気を噴出させ、パッドの表面および表面のスラリーを冷却していた。しかし、この方法はエアブローによるスラリーの気化熱を利用した冷却であり、冷却能力が不十分であった。
【0005】
一方、スクラッチ抑制のためには研磨パッド上の残渣や異物を除去してCMPを行う必要がある。従来は、研磨と研磨の合間にダイヤモンドドレッサーを研磨パッド表面に押し付けて、純水等の洗浄液を流しながらパッド表面を1μm程度削り取って清掃する方法が用いられていた。この清掃はドレッシングと呼ばれている。ダイヤモンドドレッサーは、微細な工業用ダイヤモンドを多数表面に配置した円盤であり、ダイヤモンドの微粒子が脱落した場合、大きなスクラッチの原因となっていた。LSIの生産性の観点からはCMPプロセス中にドレッシングができることが望ましいが、ダイヤモンド微粒子の脱落のおそれがあるため、研磨と研磨の合間にドレッシングが行われており、生産性向上の妨げとなっていた。
【0006】
また、研磨パッドには発泡ポリウレタンが一般的に使われ、発泡の孔径は数十μmである。発泡部は研磨パッド表面にも露出するので、深さ数十μmの孔がパッド表面に無数に現れることになる。またスラリー保持性を高めるために深さ数百μmの縦穴をパッド表面に多数開口する場合も多い。このように、パッド表面には深さ数十μmから数百μmの孔が多数存在する。ダイヤモンドドレッサーでは研磨パッドの表面は清掃できるものの、このような孔の深部に蓄積した研磨残渣や異物を除去することができず、孔から排出されてきた研磨残渣等がスクラッチを引き起こすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−254855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、研磨パッドやスラリーの冷却、及び研磨パッド表面のドレッシングを効率良く行うことができる研磨方法及び研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態によれば、研磨方法は、回転させた研磨パッドに、回転させた基板を押し当て、前記研磨パッド上にスラリーを供給する工程と、前記研磨パッドの表面温度を測定する工程と、前記表面温度が所定温度以上になった場合に、前記研磨パッドに向かって、狭窄部を有するノズルから過冷却液滴を含むジェット流を噴出させる工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】CMP処理中の研磨パッドの表面温度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図2】本発明の実施形態に係る研磨装置の概略構成図である。
【図3】ラバルノズルの概略構成図である。
【図4】同実施形態に係る研磨方法を説明するフローチャートである。
【図5】ラバルノズルの配置の一例を示す図である。
【図6】ラバルノズルの配置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者らが本発明をなすに至った経緯について説明する。図1はCMP処理中の研磨パッドの表面温度の時間変化の一例を示している。図1に示すように、研磨テーブルやウェーハの回転を開始し、研磨処理を始めると、回転速度の上昇に伴い摩擦熱により表面温度が徐々に上昇する。例えば、表面温度は、研磨開始時の約20℃から、20秒後には約40℃まで上昇する。その後、60秒後には、表面温度は60℃程度まで上昇する。研磨時に使用されるスラリーは、例えばCu CMPスラリーの場合には錯体形成剤や酸化剤を含んでいる。これら錯体形成剤や酸化剤は、50℃〜60℃の高温域で分解し、スラリーが劣化する。スラリーが劣化すると、ウェーハ表面の平坦性が低下するため、表面温度が高温域に達する前に速やかに冷却し、スラリーの研磨性能に好適な40℃程度に表面温度を維持することが求められる。
【0012】
以下の実施形態においては、上記のような課題を解決することができる。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図2に本発明の実施形態に係る研磨装置の概略構成を示す。研磨装置1は、被研磨体保持手段であるトップリング11と、研磨テーブル12と、スラリー(研磨剤)を供給する供給ノズル14と、ラバルノズル15とを備えている。
【0014】
トップリング11には、トップリング11に荷重を付加するエアシリンダ機構(図示せず)が設けられている。トップリング11には、真空チャックによりゴム等の弾性部材(図示せず)を介して被研磨体であるウェーハ(基板)Wが保持されている。トップリング11は図示しない駆動機構に接続されており、この駆動機構により上下方向に移動可能かつ回転可能になっている。
【0015】
研磨テーブル12は、トップリング11の下方に配置されており、上面には研磨パッド13が貼付されている。研磨テーブル12は図示しない駆動機構により回転可能になっている。
【0016】
供給ノズル(供給部)14は、研磨テーブル12の上方に設けられており、研磨パッド13上にスラリーを供給する。
【0017】
ラバルノズル15は、過冷却液滴を含むジェット流を研磨パッド13上に噴出し、研磨パッド13の表面を冷却する。ラバルノズル15は、図3に示すように、円筒形のノズルの途中部分にスロート部(狭窄部)が設けられた構造のノズルである。ラバルノズル15を用いることで、液体を微粒化すると同時に断熱膨張による急冷効果により、氷粒子を含む固液二層の噴霧粒子群を形成することができる。
【0018】
例えば、図3に示すように、コンプレッサ31により圧縮された空気が除湿器32で除湿され、エアタンク33に貯気される。このエアタンク33内の空気を、減圧弁により所定圧力に調整し、バルブを開放することにより、圧縮空気がラバルノズル15に導入される。この圧縮空気は、圧力300kPa以上、流量200NL/min以上が好ましい。また、ラバルノズル15のスロート部の近傍に、少量の室温の水が供給される。例えば、バルブ34により、水の流量は100ml/min以下に調整される。水は純水であることが好ましい。
【0019】
ラバルノズル15に供給される圧縮空気や水の流量は、図2に示すジェット流制御部21により制御することができる。
【0020】
ラバルノズル15に供給された水は、高圧エアのジェット流により、多数の微小液滴となる。ラバルノズル15は、スロート部より下流側においてノズル径が広がっているため、断熱膨張により微小な水滴が過冷却まで冷やされる。この過冷却液滴が研磨パッド13上に到達すると凍結し、その融解熱と、さらには高圧エアによる気化熱によって、研磨パッド13表面やスラリーを効率的に冷却することができる。
【0021】
図2に示すように、研磨装置1は研磨パッド13の表面温度を測定する温度センサ16を備えている。温度センサ16は例えば赤外放射温度計である。ジェット流制御部21は、温度センサ16の測定結果を取得し、研磨パッド13の表面温度に基づいてラバルノズル15からの過冷却液滴の噴出を制御する。
【0022】
次に、このような研磨装置1を用いて被研磨体を研磨する方法を図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0023】
(ステップS101)トップリング11に被研磨体であるウェーハWが保持される。
(ステップS102)駆動機構によりトップリング11及び研磨テーブル12を回転させる。また、トップリング11を下方に降下させて、ウェーハWを研磨パッド13に一定の荷重で押し当てる。この状態で、供給ノズル14からスラリーを研磨パッド13上に供給することにより研磨が行われる。
(ステップS103)温度センサ16を用いて研磨パッド13の表面温度を測定する。表面温度は摩擦熱や意図的に付加した熱源により徐々に上昇する。表面温度が所定温度以上になった場合はステップS104へ進む。
ここで、所定温度とは、例えばスラリーが劣化する温度(スラリーに含まれる錯体形成剤や酸化剤等が熱分解する温度)であり、これはスラリーの成分によって変わる。
(ステップS104)ジェット流制御部21がラバルノズル15から研磨パッド13へ過冷却液滴を噴出させる。
(ステップS105)研磨パッド13の表面温度が所定温度未満まで下がった場合はステップS106へ進み、下がらなかった場合はステップS107へ進む。
(ステップS106)ジェット流制御部21が、研磨パッド13の表面温度が所定温度以上にならないよう、ラバルノズル15に供給される高圧エアの流量を調整する。また、このとき、ジェット流制御部21は、表面温度が下がり過ぎないように、ラバルノズル15に供給される高圧エアの流量を調整する。温度が低過ぎるとスラリーの研磨性能が低下するためである。従って、ジェット流制御部21は、研磨パッド13の表面温度が所定範囲に収まるように、ラバルノズル15に供給される高圧エアの流量を調整する。
(ステップS107)ジェット流制御部21が、研磨パッド13の表面温度が所定温度未満になるよう、ラバルノズル15に供給される高圧エアの流量を大きくする。高圧エアの流量を大きくすることで、ラバルノズル15から噴出される過冷却液滴の温度は低下する。
【0024】
このように、本実施形態によれば、研磨パッド13の表面温度が所定温度以上になった際に、研磨パッド13に過冷却液滴を噴出することで、その融解熱と、高圧エアによる気化熱によって、研磨パッド13表面やスラリーを迅速に冷却することができる。過冷却液滴を用いた冷却は、従来のエアブロー方式(スラリー気化熱のみによる冷却)と比較して、冷却速度が約6倍(冷却に要する時間が約1/6)であった。
【0025】
従って、本実施形態に係る研磨方法及び研磨装置により、研磨パッドやスラリーの冷却を効率良く行うことができる。
【0026】
上記実施形態では、研磨パッド13の表面温度が所定温度以上となったときに過冷却液滴の噴出を行っていたが、トップリング11及び研磨テーブル12の回転速度と、研磨パッド13の表面温度の経時変化との関係を予め調べておき、表面温度が所定温度まで上昇する時間が経過したか否かによって、過冷却液滴の噴出を行ってもよい。
【0027】
図5に、研磨装置1のラバルノズル15の配置例を示す。ラバルノズル15は、研磨テーブル12の中心から外周方向に向かって直線状に複数配置される。また、ラバルノズル15は、トップリング11の研磨テーブル12回転方向下流側に隣接して設けることが好ましい。この領域は、研磨直後の領域であり、研磨パッド13表面やスラリーが最も温度の高い領域となるためである。
【0028】
また、図6に示すように、複数のラバルノズル15を円状に配置してもよい。また、このとき、ラバルノズル15は、研磨パッド13のうち、トップリング11に保持されるウェーハWと接触する箇所に過冷却液滴が供給できるように配置されることが好ましい。
【0029】
図2に示す研磨装置1は、研磨パッド13のドレッシングに用いることもできる。ラバルノズル15から噴出された過冷却液滴は、研磨パッド13の表面で凍結する。過冷却液滴は、パッド表面に存在する数十μm以深の孔にも入り込んで凍結する。この時、過冷却液滴は、孔の内部に存在する残渣や異物も取り込んで凍結する。その後、エアの圧力などで凍結した液滴が排出される段階で、残渣や異物も一緒に孔外に排出される。
【0030】
このような研磨装置1を用いたドレッシングは、ダイヤモンドドレッサーを用いないので、ダイヤモンド微粒子の脱落に伴う大きなスクラッチの発生のおそれがない。従って、ドレッシングを、1つの被研磨体の研磨と次の被研磨体の研磨との間に行う必要はなく、研磨処理中にもドレッシングを行うことができるため、生産性を向上させることができる。
【0031】
このように本実施形態による研磨装置を用いることで、研磨パッド表面のドレッシングを効率良く行うことができる。
【0032】
また、ラバルノズル15に供給する水(純水)を、残渣を溶かす有機酸や界面活性剤の水溶液に代えることで、ドレッシングの性能をさらに向上させることができる。
【0033】
なお、ウォータージェットによるドレッシングは、純水使用量が毎分数リットル以上と極めて大きい上に、このような大量の水をCMPプロセス中に流すとスラリーが大幅に希釈されて研磨性能を低下させる。そのため、ウォータージェットによるドレッシングは研磨と研磨の合間に実施せざるを得ず、研磨装置1を用いた場合のように効率良くドレッシングを行うことはできない。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 研磨装置
11 トップリング
12 研磨テーブル
13 研磨パッド
14 供給ノズル
15 ラバルノズル
16 温度センサ
21 ジェット流制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させた研磨パッドに、回転させた基板を押し当て、前記研磨パッド上にスラリーを供給する工程と、
前記研磨パッドの表面温度を測定する工程と、
前記表面温度が所定温度以上になった場合に、前記研磨パッドに向かって、狭窄部を有するノズルから過冷却液滴を含むジェット流を噴出させる工程と、
を備える研磨方法。
【請求項2】
前記表面温度が所定範囲内に収まるように前記ノズルに供給されるエアの流量を調整する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記所定温度は、前記スラリーに含まれる錯体形成剤又は酸化剤の熱分解温度によって決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記過冷却液滴は、前記研磨パッド上の残渣を溶かす有機酸又は界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項5】
基板を回転可能かつ上下移動可能に保持する保持部と、
前記保持部の下方に回転可能に設けられ、上面に研磨パッドが貼付された研磨テーブルと、
前記研磨パッド上にスラリーを供給する供給部と、
前記研磨パッドの表面温度を測定する温度センサと、
狭窄部を有し、前記温度センサにより測定された前記表面温度が所定温度以上になった場合に、前記研磨パッドに向かって過冷却液滴を含むジェット流を噴出させるノズルと、
を備える研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99814(P2013−99814A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244581(P2011−244581)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】