説明

硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法

【課題】常温及び低温での硬化性に優れ、適度な可使時間を持ち、かつ優れた施工性と補強効果を発現しうる、構造物の補修や補強に好適な硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法。
【解決手段】下記(a)〜(e)成分を含有する硬化性樹脂組成物。(a)(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー30〜50質量部、(b)10〜80質量%のポリブチレングリコールジメタリレートを含む(メタ)アクリル酸エステル25〜60質量部、(c)芳香族ビニル化合物1〜28質量部、(d)ワックス0.1〜3質量部、(e)揺変剤1〜5質量部。ただし、(a)、(b)、(c)、(d)成分の合計は100質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚、橋梁、建造物の柱等のコンクリートからなる構造物の補修や補強に用いられる硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路のコンクリート橋脚、橋梁、建造物の柱等のコンクリートからなる構造物の補修や補強に、繊維強化樹脂が用いられることは広く知られている。その方法の1つとして、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維等の強化繊維の一方向引き揃えシート状物や織物等のシート状物、あるいは、これらのシート状物にエポキシ樹脂等の硬化性樹脂組成物をあらかじめ適量含浸した、いわゆるプリプレグを用い、これらの基材に現場でエポキシ樹脂を含浸、補充しながら構造物の補修・補強箇所に貼り付け、必要に応じて複数枚積層する方法が行われている。上記の補修・補強方法では、使用実績と現場での施工性の面から常温硬化型エポキシ樹脂が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の常温硬化性エポキシ樹脂組成物は、10℃以下、特に5℃以下では、硬化性が著しく低下し、硬化不良を生じやすいという問題があった。このため、現場が低温の場合、硬化養生に長期間を要し、施工期間が長期化せざるを得なかった。また、時節、地域によっては、施工自体が困難であった。
なお、補修補強時の施工においては、例えば樹脂含浸補強シートの脱泡作業、位置修正作業等、ある程度の作業時間が必要になるため、硬化時間が早いほど良いというわけではなく、補強シート塗布後の硬化時間については、適切な可使時間が必要である。また、対象物が天井や立面等の場合、樹脂の含浸時の垂れについても対策が必要である。
これらの問題に際し、例えば特許文献1では、常温及び低温での硬化性に優れ、短期の施工性にも優れ、かつ優れた補強効果を持つ硬化性樹脂組成物が提案されている。
【特許文献1】特開平9−184305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、低温時の硬化性に優れるものの、硬化時間の調整法について詳しい検討が行われておらず、垂れについても十分に検討されていないという問題点があった。
本発明は、上記の欠点を解決し、常温及び低温での硬化性に優れ、適度な可使時間を持ち、かつ優れた施工性と補強効果を発現しうる、構造物の補修や補強に好適な硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法を目的とする。
本発明は、上記の欠点を解決し、常温及び低温での硬化性に優れ、適度な可使時間を持ち、かつ優れた施工性と補強効果を発現しうる、構造物の補修や補強に好適な硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 下記(a)〜(e)成分を含有する硬化性樹脂組成物。
(a)(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー30〜50質量部
(b)10〜80質量%のポリブチレングリコールジメタリレートを含む(メタ)アクリル酸エステル25〜60質量部
(c)芳香族ビニル化合物1〜28質量部
(d)ワックス0.1〜3質量部
(e)揺変剤1〜5質量部
ただし、(a)、(b)、(c)、(d)成分の合計は100質量部である。
[2](c)成分がスチレンである[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3](e)成分がウレアウレタンを含む揺変剤である [1]または[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4] 20℃におけるチクソトロピックインデックスが3.0〜5.0の範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5] 20℃における粘度が3000〜35000mPa・sである[1]〜[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[6] 構造物の補修部位または補強部位に、硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるシート状物を貼り付けた後、もしくは強化繊維からなるシート状物を貼り付けてから硬化性樹脂組成物を含浸した後、前記硬化性樹脂組成物を硬化する構造物の補修方法または補強方法であって、[1]〜[5]いずれかに記載の硬化性樹脂組成物を用いる補修方法または補強方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、常温及び低温での硬化性に優れ、適度な可使時間を持ち、かつ優れた施工性と補強効果を発現しうる、構造物の補修や補強に好適な硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いる硬化性樹脂組成物は、以下の(a)〜(e)成分を含有することを特徴としている。
(a)(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー30〜50質量部
(b)10〜80質量%のポリブチレングリコールジメタリレートを含む(メタ)アクリル酸エステル25〜60質量部
(c)芳香族ビニル化合物1〜28質量部
(d)ワックス0.1〜3質量部
(e)揺変剤1〜5質量部
ただし、(a)、(b)、(c)、(d)成分の合計は100質量部。
以下に上記(a)〜(e)成分について、詳細に説明する。
【0008】
<(a)(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー成分>
(a)成分である(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー成分は、本発明の硬化性樹脂組成物の主要成分の1つであり、重合性不飽和モノマー、特にアクリル系モノマー等と併用することにより、得られる硬化物に機械的強さ、硬度、熱変形性、耐アルカリ性、耐酸性、耐薬品性、耐候性を付与できる。また、アクリル系モノマー単独の硬化物と比較して、硬化収縮率を低減するという効果も発揮する。このような(a)成分のオリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレートが公知であり、使用可能である。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を意味する。
【0009】
分子内に(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレートとは、ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂、またはビスフェノールタイプのエポキシ樹脂とノボラックタイプのエポキシ樹脂とを混合したエポキシ樹脂であって、平均エポキシ当量が好ましくは400〜1100の範囲にあるエポキシ樹脂と、(メタ)アクリロイル基を有する酸または(メタ)アクリル酸とをエステル化触媒の存在下で反応して得られる化合物をいう。ここで、代表的な上記ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールAもしくはビスフェノールFとの反応により得られる実質的に1分子中に2個以上のエポキシ基を有するグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、メチルエピクロルヒドリンとビスフェノールAもしくはビスフェノールFとの反応により得られるジメチルグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、あるいはビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリンもしくはメタエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂等が例示できる。
【0010】
(メタ)アクリロイル基を有する酸としては、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル等が挙げられる。なお、これらの酸や(メタ)アクリル酸は、単独でも2種以上混合しても使用できる。
上記エステル化触媒としては、トリフェニルホスフィン、第三級窒素を分子中に有するトリアルキルアミン、アルキル置換イミダゾール、N,N−ジアルキルアラニン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0011】
その他のオリゴマー成分の具体例としては、フタル酸、アジピン酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、ブタンジオール等の多価アルコール及び(メタ)アクリル酸との反応で得られるポリエステルポリ(メタ)アクリレート;フタル酸、アジピン酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、ブタンジオール等の多価アルコールと、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のアリルエーテル基含有アルコール及び(メタ)アクリル酸との反応で得られるアリルエーテル基含有ポリエステルポリ(メタ)アクリレート;フタル酸、アジピン酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、ブタンジオール等の多価アルコールと、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のアリルエーテル基含有アルコールとの反応で得られるアリルエーテル基含有ポリエステル;フタル酸、アジピン酸等の多塩基酸と、エポキシ樹脂と、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のアリルエーテル含有アルコールと、(メタ)アクリル酸との反応により得られるアリルエーテル基含有エポキシポリ(メタ)アクリレート;ポリオールと、ポリイソシアネートと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体との反応で得られるウレタンポリ(メタ)アクリレート;ポリオールと、ポリイソシアネートと、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のアリルエーテル基含有アルコール及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体との反応で得られるアリルエーテル基含有ウレタンポリ(メタ)アクリレート;ポリオールと、ポリイソシアネートと、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のアリルエーテル基含有アルコールとの反応で得られるアリルエーテル基含有ウレタン等が挙げられる。
これら(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー成分は、必要に応じて2種以上を併用できる。
【0012】
本発明の(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)中には、上記(a)成分が30〜50質量部含有される。30質量部を下回る場合では、樹脂組成物としての強度が不充分となる傾向があり、50質量部を超える場合では、柔軟性(伸度)が低下する傾向にあるからである。なお、本発明の硬化性樹脂組成物における、その硬化物の伸度は2〜5%が好ましい。
【0013】
<(b)(メタ)アクリル酸エステル>
(b)成分である(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の硬化性樹脂組成物の主要成分の1つであり、樹脂の硬化性、粘度調整をする成分である。(b)成分は、反応性、硬化後の樹脂の耐候性を向上させる。ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/またはメタクリレートを示す。
【0014】
(b)成分の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン等の1官能性(メタ)アクリレートモノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ブチン−1,4−ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシ(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、ビス−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)フタレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能性(メタ)アクリレートモノマー及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレングリコール付加物のトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルエチルイソシアヌレート等3官能性以上の(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。
【0015】
上記(b)成分の例示の中でも、硬化性が良好であり、かつ低粘度であるメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレートを使用することが好ましく、特にポリブチレングリコールジメタクリレートが好ましい。なお、これらの1〜2官能性単量体は、2種以上を併用できる。
【0016】
ポリブチレングリコールジメタクリレートは、硬化性樹脂組成物の強度を維持させつつ、伸度を増加させる性能を持つ。ポリブチレングリコールジメタクリレートの含有量は、(b)成分(100質量%)中に、10〜80質量%に設定される。10質量%を下回る場合では、硬化性樹脂組成物の硬化物の伸度向上が図れず、80質量%を超える場合では、他の成分との相溶性が悪くなり、硬化物の強度低下を起こす傾向にあるからである。
【0017】
なお、本発明の(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)中には、(b)成分が25〜60質量部含有される。25質量部を下回る場合では、硬化性樹脂組成物の粘度が高く、取扱いが悪くなる傾向があり、60質量部を超える場合では、柔軟性(伸度)が低下する傾向にあるからである。
【0018】
<(c)芳香族ビニル化合物>
(c)成分である芳香族ビニル化合物は、硬化性樹脂組成物の可使時間を調節する成分である。具体例として、ビニルトルエン、スチレン等のモノマーが挙げられ、この中でも好ましくはスチレンが用いられる。スチレンは、コスト的にも安価で、他成分との相溶性が良く、硬化後の複合材料の耐水性向上にも寄与できる。
なお、本発明の(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)中には、上記(c)成分が1〜28質量部含有される。1質量部を下回る場合では、硬化性樹脂組成物の可使時間の延長能力がなくなり、28質量部を超える場合では、可使時間ならびに機械的強度(引張強度)が下がり、また臭気が増大する傾向にあるからである。
【0019】
<(d)ワックス>
(d)成分であるワックスとしては、例えば、以下の(1)〜(3)に記載するもの等が挙げられる。
(1)天然ワックス:キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油等の植物系ワックス。蜜蝋、ラノリン、鯨蝋等の動物系ワックス。モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス。パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックス等。
(2)合成ワックス:フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素。モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス。硬化ひまし油及びその誘導体等の水素化ワックス等。
(3)天然ワックスと合成ワックスとの配合ワックス等。
【0020】
(d)成分は、主に本発明の硬化性樹脂組成物の表面に、空気との遮断層を形成するために用いられる。これにより、空気中の酸素がラジカル重合を阻害することを抑制し、硬化性樹脂組成物の硬化時における空気乾燥性や低温硬化性が向上する。また、得られた硬化性樹脂組成物の耐水性、光沢、耐汚れ性等を向上することができる。
【0021】
(d)成分は、融点の異なる2種類以上のワックスで構成されるのが好ましい。また、(d)成分の融点は、30〜80℃が好ましい。融点が30℃以上の場合、硬化性樹脂組成物が硬化する際に気泡の発生を抑制することができ、融点が80℃以下の場合、溶解時間が短縮できる。
なお、(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)中には、(d)成分が0.1〜5質量部含有される。(d)成分の含有量が0.1質量部を下回ると、空気中の酸素遮断能力が減衰し、表面硬化性が低下する。ワックス(d)の含有量が5質量部を超えると、(a)〜(e)成分との相溶性が低下する。
【0022】
<(e)揺変剤>
(e)成分である揺変剤(チクソトロピー性付与剤)は、硬化性樹脂組成物のチクソトロピー性を高めるために含有される。特に垂直面、天井面への塗工に際しての硬化時における、樹脂の垂れ防止に大きな効果を発揮する。
(e)成分としては、無機系、有機系、いずれの揺変剤も使用可能である。無機系の揺変剤としては、例えばエアロジルRX300(日本アエロジル社製)、ニプシールLP、VN3、L300(日本シリカ工業社製)等の微粉シリカ、ナノックス25(丸尾カルシウム社製)、白鉛華CC(白石カルシウム社製)等の微粒炭酸カルシウムが例示できる。有機物粉体としては、例えばディスパロン305(水添ひまし油系、楠本化成社製)、ディスパロン6500(脂肪酸アマイドワックス系、楠本化成社製)が挙げられ、他に、特殊樹脂を有機溶剤に溶解したものとして、BYK−410(ビックケミー・ジャパン社製)等のウレアウレタンを含む揺変剤が挙げられる。中でも、本発明の硬化性樹脂組成物においては、その優れた揺変性能及びハンドリング性から、ウレアウレタンを含む揺変剤、すなわち上記例示においてはBYK−410が特に好ましい。
【0023】
(e)成分の添加量は、(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物100質量部に対し、1〜5質量部に設定される。1質量部を下回る場合では、チクソトロピー性付与の効果が少なく、傾斜の大きい面への施工が困難な場合を生じ得る。また5質量部を超える場合では、硬化性樹脂組成物のチクソトロピー性が大きくなり過ぎ、流動性、塗工作業性が悪く、また、硬化後の機械的物性が低下する。
【0024】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、上記で説明した(a)〜(e)成分以外にも、種々の特性を改善するために、必要に応じて種々の添加剤を用いてもよい。添加剤としては、例えば(f)重合促進剤、(g)重合禁止剤、(h)消泡剤、可塑剤、耐候剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、硬化剤、ヒンダートアミン系等の光安定剤、ベンゾトリアゾール誘導体等の紫外線吸収剤、染料、顔料、カップリング剤、各種充填剤等を添加してもよい。特に、(g)重合禁止剤は、硬化性樹脂組成物を流通段階において安定に保存するために添加しておくことが好ましい。以下に、(f)重合促進剤、(g)重合禁止剤、(h)消泡剤について具体的に説明する。
【0025】
<(f)重合促進剤>
重合促進剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等に代表される有機化酸化物;ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等の金属石鹸;ジメチルトルイジン、ジエチルトルイジン、ジイソプロピルトルイジン、ジヒドロキシエチルトルイジン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジイソプロピルアニリン、ジヒドロキシエチルアニリン等の芳香族第3級アミンが挙げられる。
芳香族第3級アミンは、公知のレドックス触媒であり、被覆材を硬化させる重合促進剤として用いられる。芳香族第3級アミンとしては、窒素原子に少なくとも1個の芳香族残基が直接結合しているものが好ましい。
【0026】
芳香族第3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N−(2−ヒドロキシエチル)N−メチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。いずれもp(パラ)体の例を挙げたが、o(オルト)体、m(メタ)体であってもよい。これらの中でも、硬化性樹脂組成物からのホルムアルデヒド放散量が少ないことから、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンが好ましい。また、雰囲気温度が10℃を下回る低温時の硬化においては、硬化性樹脂組成物にN,N−ジメチル−p−トルイジンを添加して混合した後に、他の重合促進剤や硬化剤を添加して硬化させることが好ましい。
硬化性樹脂組成物中の芳香族第3級アミンの含有量は、硬化性がより高くなることから、(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)当たり、0.1〜10質量部が好ましく、さらに塗工作業性および得られる塗膜の物性がより高くなることから、0.3〜5質量部がより好ましく、0.4〜5質量部が特に好ましい。
【0027】
<(g)重合禁止剤>
重合禁止剤は、硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性、及び可使時間の時間調整を行う目的で添加される。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メトキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ジフェニルピクリルヒドラジル、ジ−p−フルオルフェニルアミン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、ベンゾキノン、クロラニル、p−t−ブチルカテコール等が挙げられる。
本発明の硬化性樹脂組成物に用いられる重合禁止剤としては、貯蔵安定性、取扱いの観点から、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールが好ましい。また、重合禁止剤の含有量は、(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)当たり、0.03〜0.15質量部が好ましく、0.05〜0.1質量部が特に好ましい。重合禁止剤の含有量が0.03質量部以上の場合は、塗膜成分の貯蔵安定性の効果が発現する傾向にある。また、含有量が0.15質量部以下の場合、硬化性組成物の硬化時間が適度に短くなる傾向にある。
【0028】
<(h)消泡剤>
消泡剤は、樹脂と強化繊維との間の表面張力を低下させ、樹脂中に取込まれた空気を取り除く役目を果たす成分である。消泡剤の具体例としては、BYK−A555、A−560(ともにビックケミージャパン社製)等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
本発明の硬化性樹脂組成物に用いられる消泡剤としては、優れた脱泡性を有するBYK−A555が好ましい。また、消泡剤の含有量は、(e)成分を含まない硬化性樹脂組成物(100質量部)当たり、0.5〜1.5質量部が好ましく、0.7〜1.2質量部が特に好ましい。0.5質量部以上の場合は、脱泡効果の発現が良好である。また、含有量が1.5質量部以下の場合、硬化物の着色や強度の低下が少なくなる。
【0029】
本発明の硬化性樹脂組成物の粘度は、20℃で3000〜35000mPa・sであることが、塗工性、強化繊維からなるシート状物への含浸性、コンクリート構造物への浸透性、垂れの防止の点から好ましい。より好ましくは20℃で4000〜15000mPa・sである。硬化性樹脂組成物の粘度が35000mPa・s以下の混合、塗布作業の作業性が良好となる傾向にあり、3000mPa・s以上の場合では、チクソトロピック性が良好となり、立ち面等に塗装した場合に、垂れが発生しにくくなる傾向にある。
また、本発明の硬化性樹脂組成物のチクソトロピックインデックスは、20℃において3.0〜5.0の範囲であることが好ましい。チクソトロピックインデックスが3.0以上の場合、天井面や垂直面での垂れが発生しにくく、5.0以下の場合、強化繊維上にて均一な厚みを得るための作業性が良好となる傾向にあるためである。ここでチクソトロピックインデックスとは、単一円筒回転粘度計(型式:BM、トキメック社製)を使用して、20℃における硬化性樹脂組成物の粘度について、No.4ローターの回転数6rpmでの測定値を回転数60rpmの測定値で除した数値であり、数値が高いほど構造の粘性があり、垂れにくい傾向がある。
【0030】
このように、(a)〜(e)成分の各成分を含有する本発明の硬化性樹脂組成物は、幅広い温度の作業領域において硬化可能である。さらに、本発明の硬化性樹脂組成物は(f)成分を含むことによって、主に(メタ)アクリル酸エステル成分と硬化剤とのレドックス重合により、硬化時の雰囲気温度に左右されることなく、−10℃〜+40℃の範囲といった、より幅広い温度の作業領域において硬化可能である。なお、(f)成分としてはN,N−ジメチル−p−トルイジンが好ましい。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、補強シート塗布後の硬化時間が、40〜80分と、適度な可使時間を有している。
本発明の硬化性樹脂組成物は、構造物の補修部位または補強部位に、該硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるシート状物を貼り付けた後、もしくは強化繊維からなるシート状物を貼り付けてから該硬化性樹脂組成物を含浸した後に該硬化性樹脂組成物を硬化する等によって、構造物の補修または補強に幅広く用いることができる。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、その幅広い硬化可能温度、また、強化繊維との組み合わせによって得られる強靭な強度を活かして、構造物以外の補修または補強にも使用が可能である。
【0031】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いた補修方法及び補強方法に使用される強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維、あるいはアラミド繊維等の有機繊維といった、通常強化繊維として使用される高強度あるいは高弾性の繊維が挙げられる。さらに、これらの強化繊維を混合したものを使用しても差し支えない。その中でも、特に炭素繊維が特に好ましく、引張弾性率20ton/mm以上、引張強度300kg/mm以上の炭素繊維がより好ましい。
【0032】
強化繊維の形態としては、例えば、織布、一方向配列シート、不織布、マット等、及びこれらを組み合わせたシート状物が挙げられる。
FRP(繊維強化プラスチック)用の強化繊維として炭素繊維を使用する場合、シート状物としての好適な炭素繊維の目付としては、100〜800g/mが好ましく、より好ましくは150〜600g/mである。炭素繊維の目付が100g/m以上であると、シート状物としての取り扱い性が良好となり、特に炭素繊維のスリットが発生しにくくなる傾向にあり、また800g/m以下の場合、樹脂の含浸性が良好となる傾向にある。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、各種評価は下記のようにして行った。
(可使時間)
硬化性樹脂組成物の可使時間には、まず、表2に記載の硬化性樹脂組成物100質量部に対し、さらに重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8%、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を添加した。そして、これら硬化剤及び重合促進剤の添加直後から、硬化性樹脂組成物がゲル化して使用できなくなるまでの時間を20℃の条件下で測定し、その時間を可使時間とした。
【0034】
(硬化時間)
硬化性樹脂組成物の硬化時間には、まず、表2に記載の硬化性樹脂組成物100質量部に対し、重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8% 、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を添加し、次いで、20℃の恒温水槽内に入れた内径10mmの試験管に深さ70mmまで注入し、さらに、熱電対センサーを入れた毛細管を試料の中央部(35mmの位置)に固定した。そして、硬化剤の添加直後から、硬化性樹脂組成物が最高発熱温度に達した時間までを硬化時間とした。
【0035】
(硬化性)
硬化性樹脂組成物の硬化性には、まず、表2に記載の硬化性樹脂組成物100質量部に対し、重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8% 、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を添加した後、この硬化性樹脂組成物をポリエステルフィルムの上に厚さ0.1mmの層になるように塗布した。そして、塗布から2時間経過後の表面を指触して、硬化性樹脂組成物の硬化性を下記評価基準に基づき評価した。
○:タックがなく、硬化性に優れていた。
△:わずかにタックが残った。
×:タックがあり、硬化性が低かった。
【0036】
(粘度)
硬化性樹脂組成物の粘度は、まず、硬化性樹脂組成物の作製から24時間後における硬化性樹脂組成物の粘度を、単一円筒回転粘度計(型式:BM、トキメック社製)を使用して、温度20℃の条件下で測定した。
(TI値:チクソトロピックインデックス)
硬化性樹脂組成物のチクソトロピックインデックス(TI値)は、上記の粘度の測定で用いたのと同じ単一円筒回転粘度計(No.4ローター使用)を使用して、20℃における硬化性樹脂組成物の粘度を6rpm及び60rpmで測定し、6rpmにおける粘度を60rpmにおける粘度で除した数値とした。
【0037】
(引張強度及び伸度)
揺変剤添加前の硬化性樹脂組成物と、揺変剤添加後の硬化性樹脂組成物とをそれぞれ100質量部計量し、それぞれに対し重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8%、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を添加した後、この硬化性樹脂組成物を強化性ガラスで作ったセルに流し込み、室温で12時間硬化させて注型板(250×250×3mm)をそれぞれ作製した。次いで、それぞれの注型板に対してJIS K7113に準拠した引張強度を測定した。この引張強度測定には、引張強度試験機(型式:RTC−1250A、オリエンテック社製(現エーアンドディ社))を使用した。また、伸度は伸び計(SG型伸び計、型式:SG−50−20A、オリエンテック社製(現エーアンドディ社))を使用し、伸び計で変位量を計測し、変位量と初期試料長から伸度を求めた。なお、揺変剤添加前の硬化性樹脂組成物と、揺変剤添加後の硬化性樹脂組成物との引張強度及び伸度の差が少ない硬化性樹脂組成物が、性能として優れている。
【0038】
(CFRP強度(引張強度))
目付けが300g/mのダブルメッシュの炭素繊維シート(品番:FTS−C1−30DM−33−10、日鉄コンポシット社製)に、重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8%、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を配合した硬化性樹脂組成物を含浸させてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を作製した。樹脂と繊維との質量比は3対4とした。そして、CFRP強度の指標として、JIS K7073に準拠したI形試験片の引張試験によって引張強度を測定した。
(CFRP強度(継手強度))
CFRPの継手強度を測定するために、目付けが300g/mのダブルメッシュの炭素繊維シート(品番:FTS−C1−30DM−33−10、日鉄コンポシット社製)を12.5mm×200mmに切断し、これら2枚の炭素繊維シートを中央部において12.5mm×100mmの箇所が重なるように部分的に重ね合わせ、全体としては12.5mm×300mmの大きさのシートとした。次いで、重合促進剤としてナフテン酸コバルト溶液(商品名:ナフテックスコバルト8%、日本化学産業社製)1質量部、硬化剤として過酸化ベンゾイル40%液状品(商品名:ナイパーNS、日本油脂社製)2質量部を配合した硬化性樹脂組成物を炭素繊維シート全体に含浸させ、中央部の12.5mm×100mmの箇所が積層された12.5mm×300mmの試験片を作製した。樹脂と繊維との質量比は3対4とした。この試験片を用いて、チャック間距離180mm、2mm/minの速度でラップ試験を行い、継手強度を測定した。なお、継手強度は破断荷重を試験片の断面積で割った値として算出した。継手強度の測定には、引張強度試験機(型式:RTC−1250A、オリエンテック社製(現エーアンドディ社))を使用した。
【0039】
(オリゴマーの作製)
以下に示す成分と割合により、各実施例及び各比較例に配合される(a)成分である(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー成分1〜2(以下、単にオリゴマー1〜2と略する。)を調整した。参考として、得られた各オリゴマーの構成物のモル比を表1に示す。なお、表1及び下記の記述における略称の内容は以下の通りである。
EP−1004:エポキシ樹脂(エポキシ当量:915、商品名:エピコート1004、JER社製)
MAA:メタクリル酸
PAH:無水フタル酸〔その他のオリゴマーとして使用。〕
PKA−5001:ポリエチレングリコールモノアリルエーテル〔商品名:ユニオックスPKA−5001、日本油脂社製、その他のオリゴマーとして使用。〕
MMA:メチルメタクリレート〔希釈剤として使用。〕
【0040】
(オリゴマー1)
撹拌機、温度計、冷却コンデンサーを具備した四つ口フラスコに、エポキシ樹脂(EP−1004)を60.35質量部、メタクリル酸(MAA)5.62質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.07質量部、エステル化触媒としてジメチルアミノエチルメタクリレート0.66質量部、希釈剤としてメチルメタクリレート(MMA)33.30質量部を投入し、温浴中で内温90℃にて10時間反応させることによって、酸価4の液状オリゴマー1を得た。
【0041】
(オリゴマー2)
オリゴマー1と同様の容器に、無水フタル酸7.16部、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル(ユニオックスPKA−5001)10.64部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.018部、エステル化触媒としてジメチルアミノエチルメタクリレート0.64部、希釈剤としてメチルメタクリレート(MMA)28.00質量部を投入し、温浴中で内温90℃にて5時間反応させ、アリル基含有カルボン酸を合成した。なお、このアリル基含有カルボン酸の酸価は46(KOHmg/g)であった。さらに、このアリル基含有カルボン酸に、エポキシ樹脂(EP−1004)46.49質量部、メチルメタクリレート(MMA)17.00質量部、重合禁止剤としてハイドロキノモノメチルエーテル0.052質量部を混合し、温浴中で内温90℃にて10時間反応させることによって、酸価4の液状オリゴマー2を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1)
次に、上記で作製した(a)成分であるオリゴマー1、及び(b)〜(e)の各成分、並びに(f)重合促進剤、(g)重合禁止剤、(h)消泡剤を、表2に示す割合(単位:質量部)にて混合し、この混合物を60℃で2時間混合することによって、実施例1の硬化性樹脂組成物を得た。なお、オリゴマー1、2作製において希釈剤として使用したMMA量は、表2中の「(a)成分の希釈剤MMA」として(b)成分の項に記載した。また、表2における略語等の内容は、以下の通りである。
得られた実施例1の硬化性樹脂組成物の評価として、可使時間、硬化時間、硬化性、粘度、TI値、引張強度、CFRP強度試験を実施した。結果を表3に示す。
MMA:メチルメタクリレート〔(b)成分として使用。〕
PBDMA:ポリブチレングリコールジメタクリレート(ブチレングリコールの繰り返し数は8〜9)〔(b)成分として使用。〕
2−EHA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル〔(b)成分として使用。〕
ST:スチレン〔(c)成分として使用。〕
パラフィンワックス1:〔融点:55℃、商品名:Paraffin Wax−130、日本精蝋社製、(d)成分として使用。〕
パラフィンワックス2:〔融点:66℃、商品名:Paraffin Wax−150、日本精蝋社製、(d)成分として使用。〕
DIPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン〔(f)重合促進剤として使用。〕
DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン〔(f)重合促進剤として使用。〕
重合禁止剤:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを(g)重合禁止剤とした。
BYK−A555:〔ビックケミー・ジャパン社製(h)消泡剤として使用。〕
BYK−410:ウレアウレタンを含む揺変剤〔ビックケミー・ジャパン社製、(e)成分として使用。〕
【0044】
(実施例2〜5、比較例1〜6)
表2に記載した原料および組成比に変えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5、比較例1〜6の各硬化性樹脂組成物を得て、各種評価を行った。それらの結果を表3に示す。なお、実施例5の硬化性樹脂組成物の評価としては、−10℃における可使時間、硬化時間、硬化性、引張試験、CFRP強度試験を実施した。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表3に示す通り、(a)〜(e)成分を適切な範囲内にて混合した各実施例は、いずれも充分な可使時間と硬化時間を有しており、かつ硬化性にも優れていることが確認された。これにより、本発明の硬化性樹脂組成物は、適度な可使時間を有していることが示唆された。
また、上記各実施例は、適度な粘度とTI値を有していることが確認された。これにより、優れたチクソトロピック性によって使用時に垂れが生じにくい、すなわち優れた施工性を有していることが示唆された。
さらに、上記各実施例はその硬化物において、高い引張強度、破断強度を有することが確認された。ゆえに、本発明の硬化性樹脂組成物は、優れた補強効果を有していることが示唆された。
【0048】
比較例1は、オリゴマーの添加量が少ない例であって、硬化性が若干悪く、引張強度、CFRP強度が低いものであった。ゆえに、本発明において、硬化性、引張強度、及びCFRP強度を充分に維持するためには、硬化性樹脂組成物の100質量部に対して、(a)成分である(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマーを30質量部以上含有する必要があることが示唆された。
比較例2は、オリゴマーの添加量が多い例であって、伸度が低下し、CFRP強度における引張強度及び継手強度も低下した。
比較例3は、PBDMAの添加量が少ない例であって、伸度が低下し、CFRP強度における引張強度及び継手強度も低下した。
比較例4は、PBDMAの代わりに硬化性樹脂組成物に柔軟さを加える成分として2−EHAを添加した例であって、伸度は高かったが、揺変剤添加前並びに揺変剤添加後における引張強度が低下し、CFRPの強度も低下した。
【0049】
比較例5は、(c)成分としてのスチレン(ST)を添加しなかった例であって、実施例に比して可使時間及び硬化時間が非常に短いことが確認された。可使時間及び硬化時間が短いということは、すなわち位置修正等の作業に要する時間が短時間しか得られないことを意味しており、現場での作業性が低下すると推察された。ゆえに、本発明において、適度な可使時間及び硬化時間を有するためには、(c)成分が不可欠であることを示唆していた。
比較例6は、スチレン(ST)の添加を適正範囲より多くした例であって、引張強度が非常に低く、さらに、CFRP強度における引張強度及び継手強度が、いずれも非常に低いことが確認された。ゆえに、前述の比較例5の結果と合わせて、(a)〜(d)成分の合計が100質量部としたときに、そのうちの(c)成分が1〜28質量部であることによって、本発明の硬化性樹脂組成物は充分な強度を得られると示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、常温及び低温での硬化性に優れ、適度な可使時間を持ち、かつ優れた施工性と補強効果を発現しうる、構造物の補修や補強に好適な硬化性樹脂組成物及びそれを用いた補修方法及び補強方法を提供できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)成分を含有する硬化性樹脂組成物。
(a)(メタ)アクリロイル基またはアリルエーテル基を含有するオリゴマー30〜50質量部
(b)10〜80質量%のポリブチレングリコールジメタリレートを含む(メタ)アクリル酸エステル25〜60質量部
(c)芳香族ビニル化合物1〜28質量部
(d)ワックス0.1〜3質量部
(e)揺変剤1〜5質量部
ただし、(a)、(b)、(c)、(d)成分の合計は100質量部である。
【請求項2】
(c)成分がスチレンである請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(e)成分がウレアウレタンを含む揺変剤である請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
20℃におけるチクソトロピックインデックスが3.0〜5.0の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
20℃における粘度が3000〜35000mPa・sである請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
構造物の補修部位または補強部位に、硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維からなるシート状物を貼り付けた後、もしくは強化繊維からなるシート状物を貼り付けてから硬化性樹脂組成物を含浸した後、前記硬化性樹脂組成物を硬化する構造物の補修方法または補強方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を用いる補修方法または補強方法。

【公開番号】特開2008−266509(P2008−266509A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114049(P2007−114049)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】