説明

硬化性組成物の製造方法およびコーティング用硬化性組成物

【課題】垂れ落ち防止性が良好で、船底塗料のような防汚性塗料に好適する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】本発明の硬化性組成物の製造方法は、(A)25℃における粘度が100〜50,000mPa・sで1分子中にシラノール基を2個以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサン100重量部と、(B)1分子中に加水分解性基を2個以上有するオルガノシラン0.2〜20重量部、および(C)シラザンで表面処理されたシリカ粉末1.0〜40重量部からなる混合物を、減圧下に(B)成分が系外に除去され得る温度で加熱しながら混練する工程を備える。本発明のコーティング用硬化性組成物は、こうして得られた硬化性組成物と、(D)架橋剤(1分子中に加水分解性基を少なくとも3個含有するシラン0.3〜30重量部と、(E)硬化触媒0.01〜25重量部、および(F)有機溶剤10〜1000重量部をそれぞれ含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂れ落ち防止性が良好でコーティング材として有用な硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の製造方法と、そのような組成物をポリマー成分と配合しコーティング剤として好適する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室温でゴム状硬化物となる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物(RTV組成物)として、建築、機械、電気などの各種分野におけるシーリング材、コーティング材、工業用接着剤、ポッティング材、型取り材など種々のものが知られている。
【0003】
このようなRTV組成物からなる未硬化のシーリング材やコーティング材を施工する場合には、吐出作業性に優れ、しかも垂れ落ちしないことが重要である。そのため、アミノシラン系化合物、エポキシシラン系化合物、ポリエーテル変性シリコーンのような垂れ落ち防止に効果のある極性物質を添加し、チキソトロピー性を向上させる提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、そのような組成物を、海水または真水と接触する基材、例えば水中構造物、船舶外板、漁具などの表面に塗布する防汚性塗料に配合すると、前記極性物質の配合により防汚性能が著しく低下するという問題があった。そのため、アミノシラン系化合物、エポキシシラン系化合物、ポリエーテル変性シリコーンのような極性物質を配合することなく、防汚性塗料の垂れ落ち防止性を改善することが望まれていた。
【特許文献1】特許3712029号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、垂れ落ち防止性が良好で、船底塗料のような防汚性塗料に好適する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究した結果、1分子中にシラノール基を2個以上有するポリオルガノシロキサンと表面処理されたシリカ粉末とを混練するに当たり、加水分解性基を2個以上有するオルガノシランを配合し、かつこのオルガノシランの過剰量および発生するアルコールなどが系外に除去され得る条件で加熱しながら混練することにより、チキソトロピー性(以下、チキソ性と示す。)が向上し良好な垂れ落ち防止性を有し、かつ経時安定性が良好な(ゲルなどの生成がなく、かつチキソ性が変化せず、垂れ落ち防止性も低下しない)室温硬化性組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の硬化性組成物の製造方法は、(A)25℃における粘度が100〜50,000mPa・sであり、1分子中にSi−OH(シラノール基)を2個以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサン100重量部と、(B)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を2個以上有するオルガノシランまたはその部分加水分解物0.2〜20重量部と、(C)シラザンにより表面処理がなされたBET比表面積20〜800m/gのシリカ粉末1.0〜40重量と、(D)架橋剤として1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を少なくとも3個含有するシランまたはその部分加水分解物0.3〜30重量部と、(E)硬化触媒0.01〜25重量部、および(F)有機溶剤10〜1000重量部をそれぞれ含有する硬化性組成物を製造する方法であり、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分を予め混合する工程と、前記工程で得られた混合物を、減圧下で前記(B)成分が系外に除去され得る温度で加熱しながら混練する加熱混練工程を備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のコーティング用硬化性組成物は、前記した製造方法により製造された硬化性組成物を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、チキソ性が良好で垂れ落ち防止性に優れた室温硬化性組成物が得られる。そして、ベースポリマーとしてこの硬化性組成物を配合することで、防汚性能の低下が生じることがなく、船底塗料のような防汚性塗料として好適するコーティング用硬化性組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本発明の実施形態は、(A)1分子中にSi−OH(シラノール基)を2個以上有し、25℃における粘度が100〜500,000mPa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサンと、(B)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を2個以上有するオルガノシランまたはその部分加水分解物と、(C)シラザンにより表面処理されたBET比表面積20〜800m/gのシリカ粉末と、(D)架橋剤として1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を少なくとも3個含有するシランまたはその部分加水分解物と、(E)硬化触媒、および(F)有機溶剤をそれぞれ含有するをそれぞれ含む硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を製造する方法である。実施形態においては、まず、前記(A)成分100重量部に対して、(B)成分0.2〜20重量部と(C)成分1.0〜40重量部を配合した混合物を、減圧下で(B)成分が系外に除去され得る温度で加熱しながら、所定の時間混練する。
【0012】
本発明の実施形態に用いられる(A)成分のポリオルガノシロキサンは、硬化性組成物のベースポリマーである。構造単位が、一般式:HO(RSiO)H(式中、Rは1価の炭化水素基、mは成分(A)の25℃における粘度を100〜500,000mPa・sにする値である。)で表され、ケイ素原子に直接結合した水酸基を1分子中に少なくとも2個有する直鎖状のポリオルガノシロキサンが使用される。
【0013】
前記一般式において、Rは1価の炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基のようなアルケニル基、フェニル基、キシリル基、トリル基のようなアリール基、ベンジル基、β−フェニルエチル基、β−フェニルプロピル基のようなアラルキル基が例示される。合成が容易であり、かつ硬化前の組成物が分子量の割に低い粘度を有し良好な吐出性(押出し性)を有すること、および硬化後の組成物が良好な物理的性質を有することから、全炭化水素基の85%以上がメチル基であることが好ましく、実質的にすべての炭化水素基がメチル基であることがより好ましい。
【0014】
(A)成分の粘度(25℃における粘度)は、硬化前の組成物に適度の流動性を付与するとともに硬化物に優れた機械的特性を与えるために、100〜500,000mPa・sとする。(A)成分の粘度が100mPa・s未満では、硬化後の被膜の伸びが十分でない。一方、粘度が500,000mPa・sを超えると、均一な組成物が得にくく、塗布などの作業性も低下する。硬化前および硬化後の組成物に要求される性質がバランスよく調和するように、特に好ましい粘度は500〜20,000mPa・sの範囲である。
【0015】
本発明の実施形態に用いられる(B)成分は、一般式:RSiX4−c(式中、Rは互いに同一または相異なる置換または非置換の1価の炭化水素基、Xは加水分解性基、cは0〜2の整数を示す。)で表されるオルガノシランまたはその部分加水分解物である。
【0016】
上記一般式におけるRとしては、前記した(A)成分におけるケイ素原子に直接結合した炭化水素基Rと同じものを例示することができる。入手のし易さや硬化速度の点で、メチル基またはビニル基であることが好ましい。また、加水分解性基であるXとしては、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシル基、アミド基、カルバマト基、エノキシ基、イソシアナト基、アセトキシ基などが挙げられる。
【0017】
このような炭化水素基Rおよび加水分解性基Xを有する(B)成分のオルガノシランとしては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、テトラ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリアセトアミドシラン、メチルトリイソシアナトシランなどが例示される。テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、およびビニルトリエトキシシランなどが例示される。
【0018】
除去し易さ、およびコーティング剤の用途上オキシムのような極性物質をできるだけ避ける観点から、これらのうちで沸点の低いオルガノシラン、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどの使用が好ましい。さらに入手のし易さ、経済性、扱い易さの観点から、テトラエトキシシランやメチルトリメトキシシランの使用が好ましい。
【0019】
前記(A)成分に後述する(C)成分を配合した系に対して、(B)成分を配合することにより、組成物のチキソ性が向上し垂れ落ちが防止される。(B)成分の作用は以下に示すように考えられる。すなわち、一般に(A)成分と(C)成分を混合する場合、(C)成分の凝集によるブツやダマが生じることを避けるために、(C)成分を(A)成分中に十分に分散させる必要がある。そのとき生じる熱により、ベースポリマーである(A)成分のシラノール基(−Si−OH基)と(C)成分のシリカ粉末のシラノール基(−Si−OH基)との相互作用が生じ、流動性を示す傾向があるので、この相互作用を利用して流動性を有する組成物を得ることができる。(A)成分のシラノール基と(C)成分のシリカ粉末のシラノール基との相互作用を低減し、補強性向上と貯蔵安定性いわゆる経時的安定性改良のためには、(C)成分の表面を、環状シロキサンのような低分子量のシロキサン類、アルキルクロロシラン(例えば、ジメチルジクロロシラン)のようなシラン類、ヘキサメチルジシラザンのようなシラザン類で予め処理する方法が挙げられる。
【0020】
しかし、このように予め(C)成分の表面を処理したものであっても、(A)成分と(C)成分のみを混合したのでは、十分な垂れ落ち防止効果を得ることができなかった。本発明の実施形態においては、(A)成分中のシラノール基と(C)成分のシラノール基との相互作用をよりいっそう抑制するために、(A)成分と(C)成分を混合する際に、予め(B)成分を(A)成分などと混合・分散させ、(B)成分の有する加水分解性基(例えばアルコキシル基)を(C)成分のシラノール基と反応させてその反応性を抑制する。これにより、組成物の垂れ落ち防止性が向上すると考えられる。
【0021】
このように、(B)成分を配合することにより、組成物のチキソ性が向上し垂れ落ち防止性がよくなるが、(B)成分は加水分解性を有するため、系中に残存していると粘度の上昇やゲル化の原因となりやすい。そのため、本発明の実施形態においては、(A)成分と(B)成分および(C)成分を混合した後、それらの混合物を、(B)成分が系外へ除去され得る温度および減圧度で加熱しながら混練することにより、(B)成分の過剰量(反応に関与しなかったりあるいは効果的に作用せずに残留した量)を、発生するアルコールなどとともに系外に除去する。こうして、良好な垂れ落ち防止性を有し、かつチキソ性や粘度変化が少なく、ゲルなどを生成しない保存安定性の良好な室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を得ることができる。
【0022】
なお、このような作用を有すると考えられる(B)成分は、前記(A)成分に対する架橋剤である(D)成分(後述する)と同種の化合物である。しかし、(A)成分と(B)成分および(C)成分を配合しただけの系では、強い触媒作用を有する成分が存在しないので、架橋剤としての働きは弱いものと考えられる。しかし、この(B)成分が残留した場合には、架橋剤として作用し粘度の変化やゲル化を招きやすくなるので、本発明の実施形態においては、(B)成分の過剰量を系外に排出し除去することにより、ゲル化などを防止している。
【0023】
(B)成分の配合量は、前記(A)成分100重量部に対して0.2〜20重量部とする。より好ましい配合量は、(A)成分100重量部に対して0.3〜3重量部である。(B)成分が0.2重量部より少ない場合には、垂れ落ち防止性を向上させる効果が十分に現出しない。また、(B)成分を20重量部を超えて配合しても、垂れ落ち防止性向上の効果はそれ以上向上せず、かえって(B)成分を系外に除去するために要する時間が長くなるため、好ましくない。
【0024】
本発明の実施形態に用いられる(C)成分のシリカ粉末は、硬化物の補強材としての機能を有する。BET法により測定された比表面積の値が20〜800m/gのシリカ粉末が使用される。比表面積が20m/g未満のシリカ粉末では、補強性が十分でなく、反対に比表面積が800m/gを超えると、粉体同士の凝集が大きくなるため好ましくない。チキソ性の付与および組成物の調整のしやすさから、シリカ粉末のBET比表面積は50〜350m/gの範囲とすることがさらに好ましい。
【0025】
このような比表面積を有するシリカ粉末としては、煙霧質シリカ、湿式シリカ、溶融シリカなどが例示される。その1種を使用することができるが、2種以上を併用してもよい。実施形態においては、このようなシリカ粉末の表面のシラノール基を、ヘキサメチルジシラザンのようなシラザンにより処理したものが使用される。シリカ粉末の表面処理剤としては、ポリオルガノシロキサン、環状ポリオルガノシロキサン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのクロロシランなどもあるが、本発明の実施形態においては、シラノールの含有量が少ないため、(A)成分のシラノール基との相互作用が起こりにくいこと、残留塩素分がないことなどの理由で、シリカ粉末の表面処理剤はシラザン化合物に限定される。
【0026】
(C)成分の配合量は、前記(A)成分100重量部に対して1.0〜40重量部とする。より好ましい配合量は、(A)成分100重量部に対して5〜20重量部である。(C)成分の配合量が(A)成分100重量部に対して1.0重量部未満では、得られる硬化物の機械的強度が不十分となり、また40重量部を超えると、系に混合することが困難となり均一な組成物が得られない。
【0027】
本発明の実施形態においては、前記した(A)〜(C)の各成分を含む硬化性組成物を調製するに際し、(A)成分100重量部と(B)成分0.2〜20重量部および(C)成分1.0〜40重量部からなる混合物を、(B)成分が系外に排出・除去されるに十分な温度および減圧度で、所定の時間加熱・混練する。具体的には、前記混合物を、大気圧に対して0.05MPa以上低い減圧度を保持しつつ、70℃以上の温度で30分以上加熱しながら混練することが望ましい。こうして、アルコキシル基のような加水分解性基の加水分解により生起するアルコールとともに、(B)成分の過剰量が系外に排出・除去され、(B)成分の残留のない硬化性組成物が得られる。そして、得られた硬化性組成物を使用することで、チキソ性が良好で垂れ落ち防止性に優れ、かつ粘度変化が少なく経時安定性に優れた室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を得ることができる。
【0028】
本発明の実施形態により得られる硬化性組成物に、(D)架橋剤、(E)硬化触媒および(F)有機溶剤をそれぞれ配合することにより、コーティング用の硬化性組成物を得ることができる。
【0029】
(D)成分である架橋剤は、水および硬化触媒の存在下に前記(A)成分の反応性基X(水酸基)と反応し、組成物を硬化させるための架橋剤として作用するものである。(D)架橋剤としては、一般式:RSiX4−d(式中、Rは互いに同一または相異なる置換または非置換の1価の炭化水素基、Xは加水分解性基、dは0〜1の整数を示す。)で表される、1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を少なくとも3個含有するオルガノシランまたはその部分加水分解物が挙げられる。
【0030】
上記一般式におけるRとしては、前記した(A)成分のケイ素原子に結合した炭化水素基Rと同じものを例示することができる。入手のし易さや硬化速度の点で、メチル基またはビニル基であることが好ましい。また、加水分解性基であるXとしては、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシル基、アミド基、カルバマト基、エノキシ基、イソシアナト基、アセトキシ基などが挙げられる。このような炭化水素基Rおよび加水分解性基Xを有する(D)成分のオルガノシランまたはその部分加水分解物としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、テトラ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリアセトアミドシラン、メチルトリイソシアナトシラン、およびそれらのシランの部分加水分解物であるシロキサンなどが例示される。
【0031】
合成が容易で、組成物の保存安定性を損なうことなく硬化速度を速めることができる点から、これらのうちで、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、テトラ(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどを用いることが好ましい。特に、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびこれらの部分加水分解物の使用が好ましい。
【0032】
架橋剤である(D)成分の好ましい配合量は、前記(A)成分100重量部に対して0.5〜25重量部であり、より好ましい範囲は1〜10重量部である。(D)成分の配合量が0.5重量部未満では、架橋が十分に行われず、硬度の低い硬化物しか得られないばかりでなく、架橋剤を配合した組成物の保存安定性が悪くなる。一方25重量部を超えて配合すると、硬化が遅くなったり、硬化の際に著しい収縮を生じ、得られる硬化物の物性が低下する。
【0033】
本発明の実施形態に用いられる(E)成分は、ベースポリマーである前記(A)成分と(D)架橋剤とを反応させて硬化させるための硬化触媒である。(E)成分である硬化触媒としては、鉄オクトエート、コバルトオクトエート、マンガンオクトエート、亜鉛オクトエート、スズナフテネート、スズカプリレート、スズオレエートのようなカルボン酸金属塩;ジメチルスズジオレエート、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジオレエート、ジフェニルスズジアセテート、酸化ジブチルスズ、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルビス(トリエトキシシロキシ)スズ、ジオクチルスズジラウレートのような有機スズ化合物、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセチルアセトナト)チタンのような有機チタン化合物が例示される。
【0034】
(E)硬化触媒の好ましい配合量は、前記(A)成分100重量部に対して0.01〜25重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部の範囲とする。配合量をこのような範囲に限定したのは、(E)成分が0.01重量部未満では、硬化触媒としての作用が十分でなく、硬化に長い時間がかかる。反対に25重量部を超える場合には、可使時間が短くなる。また、耐熱性が悪くなり、変色の原因ともなるため好ましくない。
【0035】
本発明の実施形態であるコーティング用硬化性組成物には、さらに(F)有機溶剤を配合することができる。(F)有機溶剤としては、脂肪族系、芳香族系、ケトン系、エステル系、エーテル系、アルコール系など、通常塗料(特に防汚性塗料)に配合される各種の有機溶剤が挙げられる。芳香族系溶剤としては、キシレン、トルエン等が挙げられ、ケトン系溶剤としては、MIBK、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、エーテル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMAC)等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このような(F)有機溶剤の好ましい配合量は、前記(A)成分100重量部に対して10〜1000重量部である。
【0036】
実施形態のコーティング用硬化性組成物には、さらに希釈剤として、シリコーンオイルを配合することができる。希釈剤であるシリコーンオイルとしては、非反応性(非縮合性)のシリコーンオイルや硬化性組成物の硬化物中からブリードアウトしていくシリコーンオイルであれば、特に種類は限定されないが、前記(A)成分と異なるものであることが好ましい。
【0037】
実施形態のコーティング用硬化性組成物の形態としては、(A)成分〜(F)成分までを1包装とするいわゆる1成分形で使用してもよいが、作業上および被膜形成上、(A)成分〜(C)成分と(D)成分〜(E)成分とに分けて保管し、使用する直前に混合するいわゆる多成分形で供してもよい。より速やかな塗膜形成が必要な場合には、多成分形の形態の方がより好ましい。
【0038】
本発明の実施形態により得られる硬化性組成物に、さらに希釈剤などを配合してなる硬化性組成物は、電気部品、電子部品、建材、工芸用品、服飾産業用品、医療用品などの各種基材の表面被覆用のコーティング用組成物として使用することができる。また、海水または真水と接触する基材、例えば水中構造物、船舶外板、漁網、漁具等の基材の表面に防汚性被膜を形成するための防汚性塗料として好適に用いることができる。
【0039】
こうして調製される防汚性塗料は、チキソ性が良好で垂れ落ち防止性に優れているうえに、塗装作業性が良好であり、少ない塗装回数で厚膜化が可能である。また、高い防汚性を有している。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部とあるのは重量部を、%とあるのは重量%をそれぞれ表し、粘度などの物性値は、全て25℃、相対湿度(RH)50%での値を示す。
【0041】
実施例1
(A)成分として、分子鎖両末端が水酸基で封鎖された粘度3000mPa・sのポリジメチルシロキサン(α,ω−ジヒドロキシジメチルポリシロキサン)100部、(B)成分としてメチルトリメトキシシラン1部を、万能混練機に仕込み、10分間混合した後、(C)成分として、ヘキサメチルジシラザンで表面処理されたBET比表面積が200m/gの煙霧質シリカ10部を加え、大気圧に対して0.1MPa低い減圧度を保持しつつ、130℃の温度で2時間加熱しながら混練した。こうして、ベースとなるポリジメチルシロキサン組成物を得た。
【0042】
実施例2〜4
(A)〜(C)成分として、表1に示す材料を同表に示す組成で配合し、実施例1と同様な条件で加熱・混練してベース組成物を得た。
【0043】
比較例1
実施例1と同じ(A)成分と(B)成分を万能混練機で10分間混合した後、(C)成分であるシラザンで表面処理された煙霧質シリカ10部を加え、室温で2時間混練を行い、ベース組成物を得た。
【0044】
比較例2,3
シラザンで表面処理されたBET比表面積が200m/gの煙霧質シリカの代わりに、ジメチルジクロロシランで表面処理されたBET比表面積200m/gの煙霧質シリカ(比較例2)、および無処理の煙霧質シリカ(BET比表面積200m/g)(比較例3)をそれぞれ使用し、それ以外は、実施例1と同様な配合組成とした。そして、実施例1と同様な条件で加熱・混練を行い、それぞれベース組成物を得た。
【0045】
比較例4
シラザンで表面処理されたBET比表面積が200m/gの煙霧質シリカの代わりに、ジメチルジクロロシランで表面処理されたBET比表面積200m/gの煙霧質シリカを使用した以外は、実施例1と同様な配合組成とした。そして、この煙霧質シリカ10部を加えた後、室温で2時間混練を行い、ベース組成物を得た。
【0046】
比較例5
実施例1と同じ(A)成分に、(B)成分であるアルコキシシランを加えることなく、(C)成分であるシラザンで表面処理された煙霧質シリカ10部を加えた。そして、実施例1と同様に、減圧下130℃で2時間加熱しながら混練し、ベース組成物を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
次いで、実施例1〜4および比較例1〜5でそれぞれ得られたベース組成物に、希釈剤であるシリコーンオイル(商品名YF3057:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製)100部と、キシレン50部と、架橋剤であるテトラエトキシシラン(商品名Silquest TEOS PURE SILANE:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製)6部、および硬化触媒であるジブチルスズジラウレート2部を均一に混合撹拌し、コーティング用のポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0049】
こうして得られたコーティング用組成物を、調製直後および70℃で5日間放置し劣化を促進した後のそれぞれについて、以下に示すようにして、チキソ性(チキソ比)および垂れ落ち防止性(タレ止め性)を測定し評価した。
【0050】
<チキソ性(チキソ比)>
回転粘度計(芝浦システム(株)社製のVDA)のNo.3rotorにより、6rpmおよび12rpmの条件で粘度をそれぞれ測定した。そして、下式によりチキソ比を算出した。
チキソ比=6rpmでの粘度/12rpmでの粘度
チキソ比の算出結果を、6rpmおよび12rpmでの粘度、ゲル状物の生成の有無とともに表2に示す。
【0051】
<タレ止め性>
アルミパネル上にコーティング幅15mmのドクターブレードを用いて200μmの膜厚で試料を塗布し、直ちにアルミパネルを垂直に立てかけ、塗布膜の垂れ状況を観察した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2からわかるように、実施例1〜4で得られたベース組成物を用いて調製されたコーティング用組成物は、比較例1〜5で得られた組成物を用いて調製されたコーティング用組成物に比べて、初期(調製直後)のチキソ比が高いことにより、チキソ性に優れているうえに、加熱劣化促進後も高いチキソ比を示す。また、ゲル状物の生成もない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が100〜50,000mPa・sであり、1分子中にSi−OH(シラノール基)を2個以上有する直鎖状ポリオルガノシロキサン100重量部と、(B)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を2個以上有するオルガノシランまたはその部分加水分解物0.2〜20重量部と、(C)シラザンにより表面処理がなされたBET比表面積20〜800m/gのシリカ粉末1.0〜40重量と、(D)架橋剤として1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基を少なくとも3個含有するシランまたはその部分加水分解物0.3〜30重量部と、(E)硬化触媒0.01〜25重量部、および(F)有機溶剤10〜1000重量部をそれぞれ含有する硬化性組成物を製造する方法であり、
前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分を予め混合する工程と、
前記工程で得られた混合物を、減圧下で前記(B)成分が系外に除去され得る温度で加熱しながら混練する加熱混練工程
を備えることを特徴とする硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱混練工程において、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の混合物を、大気圧に対して0.05MPa以上低い減圧度を保持しつつ、70℃以上の温度で30分以上加熱しながら混練することを特徴とする請求項1記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記(B)成分が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、およびビニルトリエトキシシランから選ばれる1種または2種以上のシランであることを特徴とする請求項1または2記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法により製造された硬化性組成物を含むことを特徴とするコーティング用硬化性組成物。
【請求項5】
海水または真水と接触する基材の表面に塗布する防汚性塗料であることを特徴とする請求項4記載のコーティング用硬化性組成物。

【公開番号】特開2009−138121(P2009−138121A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316746(P2007−316746)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】