説明

硬化性組成物

【課題】 酸素による重合阻害を起こさないため、充填、硬化後の仕上げ研磨を行わなくても高い表面滑沢性が得られ、その表面滑沢性が長期にわたって持続可能であり、かつ、高いフィラー充填率および良好な操作性を有する、歯科用コンポジットレジンとして好適な硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 エポキシ化合物、オキセタン化合物等のカチオン重合性単量体に、有機無機複合フィラーを配合する。有機無機複合フィラーは、シリカ、シリカ−ジルコニア等の無機フィラーと、重合性単量体との混合物を調製、重合・硬化後に適当な大きさに粉砕することによって製造できる。この重合性単量体としては、カチオン重合性単量体を用いるか、または水酸基やエポキシ基を有するラジカル重合性単量体を配合したものを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン重合性単量体および有機無機複合フィラーを含んでなる硬化性組成物、特に歯科用材料に好適に使用される新規な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の複合充填修復材料が、その操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、フィラー(充填材)及び重合開始剤からなり、重合性単量体としては、その光重合性の良さから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いられている。このようなコンポジットレジンにおいては、硬化体に機械的強度を与えると共に、重合収縮を低減するためにフィラーが配合される。
【0003】
しかしながら、ラジカル重合性単量体は、酸素による重合阻害を受けるため、口腔内で重合・硬化させた際には、表面に未重合層や重合度の低い層が残存し、この未重合層のために経時的に着色・変色し、充分な審美性を得にくいという問題がある。このため、硬化後に研磨等によりこの未重合層を取り除かなければならない。
【0004】
また、含まれるフィラーの大きさ(粒径)によっては、歯科用途として望ましくない物性を与えることがある。即ち、使用するフィラーの粒径が数μmを超える大きな無機フィラーを配合した場合、研磨性が悪く、天然歯と同様な艶のある仕上がり面(表面滑沢性)が得られない、更に対哈歯も露出したフィラーにより磨耗する問題もある。一方、平均粒径が1μm以下の無機粒子を用いると、表面滑沢性は大きく改善されるが、このような微小フィラーの比表面積は非常に大きく、硬化前のコンポジットレジンの粘稠度が高くなってしまい、コンポジットレジンの粘稠度を歯科医が口腔内で使用可能なレベルに調整するためには、モノマーの配合量を多くしなければならない。この場合、重合に伴う収縮量の増加、機械的強度の低下を招いてしまうといった問題があった。
【0005】
一方、酸素による重合阻害がない重合性単量体としては、エポキシドやビニルエーテル等のカチオン重合性単量体がある。さらに、これらのカチオン重合性単量体の中でも、開環重合性の重合性単量体を歯科用コンポジットレジンに応用することで、(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体を用いる現行コンポジットレジンに比べて大幅に表面未重合を低減することが出来ると言われており、エポキシ等のカチオン重合モノマーを、コンポジットレジンに応用した例が報告されている(特許文献1〜3)。
【0006】
ところが、カチオン重合性単量体を用いたコンポジットレジン硬化体も、口腔内で長期に渡って使用することにより、対哈歯との接触等によって、表面が磨耗し、内部のフィラーが露出する場合が多い。即ち粒径の大きな無機フィラーを用いると、経時的に表面滑沢性が低下し、更に対哈歯も露出したフィラーにより磨耗する問題がある。また、平均粒径が1μm以下の無機粒子を用いた場合の問題も、メタクリレート単量体を用いた場合と同様であり、上述のとおりである。
【0007】
【特許文献1】特許第3321173号公報
【特許文献2】特表2001−520758号公報
【特許文献3】特表2001−520759号公報稠
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、酸素による重合阻害を起こさないため、充填、硬化後の仕上げ研磨を行わなくても高い表面滑沢性が得られ、その表面滑沢性が長期にわたって持続可能であり、高いフィラー充填率および良好な操作性を有する、歯科用コンポジットレジンとして好適な硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねたところ、カチオン重合性の単量体に対して有機無機複合フィラーを用いることで、硬化時に酸素による重合阻害を受けず、高い審美性を有し、さらに高いフィラー充填率と良好な操作性を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)カチオン重合性単量体と、(B)有機無機複合フィラーを含むことを特徴とする硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カチオン重合性単量体を用いているために、表面未重合層が生じず、このため、充填、硬化後の仕上げ研磨が不要となるばかりでなく、フィラーとして有機無機複合フィラーを採用しているため、経時的に磨耗が生じて表面滑沢性が低下することもない。更に高いフィラー充填率と良好な操作性を両立することができるため、歯科用のコンポジットレジンとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の硬化性組成物に用いる(A)カチオン重合性単量体は、ブレンステッド酸、或いはルイス酸により重合しうる単量体であり、公知の化合物がなんら制限なく用いられる。
【0013】
代表的なカチオン重合性単量体を例示すれば、ビニルエーテル化合物、エポキシ、オキセタン、テトラヒドロフラン、オキセパン等の環状エーテル化合物、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル等の双環状オルトエステル化合物、スピロオルトカーボネート、環状カーボネート、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等の環状アセタール化合物、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等の双環状アセタール化合物が挙げられるが、特に歯科用途を考慮した場合、入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応がはやい点において、とりわけオキセタン化合物およびエポキシ化合物が好適に使用される。
【0014】
当該オキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタン等の1つのオキセタン環を有すもの、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニール、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等、あるいは下記に示す化合物
【0015】
【化1】

【0016】
等のオキセタン環を2つ以上有す化合物が挙げられる。
【0017】
特に得られる硬化体の物性の点から、単量体1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0018】
また、エポキシ化合物もまた、カチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知のものが使用できる。当該エポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、ブタジエンモノオキサイド、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール、2−メチルグリシドール、メチルグリジジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、シクロオクテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、シクロドデカンエポキシド、エキソ−2,3−エポキシノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、リモネンオキサイド、スチレンオキサイド、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジル2−メチルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、4−クロロフェニルグリシジルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル等のエポキシ官能基を一つ有するもの、また、1,3−ブタジエンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルピメレート、ジグリシジルスベレート、ジグリシジルアゼレート、ジグリシジルセバケート、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4−ビニル−1−シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スルホン、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン等のエポキシ官能基を二つ有する化合物、或いはグリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、更に
【0019】
【化2】

【0020】
等のエポキシ官能基を三つ以上有するものが挙げられる。これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
【0021】
特に得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0022】
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。とりわけ、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物をAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物をBモルとを混合して用いた場合、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受けにくい点で好適である。
【0023】
本発明の硬化性組成物に用いる(B)有機無機複合フィラーとは、(a)重合性単量体と、(b)無機フィラーを主成分とする重合硬化性組成物を重合硬化させた後に、或いは熱可塑性樹脂と無機フィラーを溶融−混合させた後にこれらを粉砕して得られるものであり、公知の製造方法によって製造される有機無機複合フィラーが何ら制限なく用いられる。
【0024】
以下、(a)重合性単量体と(b)無機フィラーとを混合し、これを重合硬化させて(B)有機無機複合フィラーを製造する方法について詳述する。
【0025】
上記(B)有機無機複合フィラーの製造原料として用いることの出来る(a)重合性単量体としては、付加重合型、開環重合型、重縮合型あるいは重付加型等のどのような単量体であっても良い。
【0026】
具体的に(B)有機無機複合フィラーの製造原料として用いることの出来る(a)重合性単量体を例示すると、付加重合型の単量体として、(メタ)アクリレート類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、スチレン類、ブタジエン類、塩化ビニル、マレイン酸エステル類、フマル酸エステル類、無水マレイン酸、α−シアノアクリル酸エステル類、アクリロニトリルが挙げられる。
【0027】
また、開環重合型の単量体として、エポキシ、オキセタン、テトラヒドロフラン、オキセパン等の環状エーテル化合物、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル等の双環状オルトエステル化合物、スピロオルトカーボネート、環状カーボネート、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等の環状アセタール化合物、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等の双環状アセタール化合物、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコリド、ラクチド等の環状エステル化合物、β−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム、δ−バレロラクタム、ε−カプロラクタム等の環状アミド、アジリジン、アゼチジン等の環状アミン化合物、チイラン、チエタン等の環状スルフィド化合物、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン化合物等が挙げられる。
【0028】
また、2種類の単量体間の反応により重合体を得る重縮合型単量体の組み合わせとしては、ジオール化合物とジカルボン酸化合物、あるいはジオール化合物とジエステル化合物、または、ジオール化合物とジカルボン酸ハロゲン化物等の、ポリエステルを得るための組み合わせ、あるいはジアミンとジカルボン酸化合物、ジアミンとジエステル化合物、ジアミンとジカルボン酸ハロゲン化物等の、ポリアミドを得るための組み合わせ、あるいは、ジオールとホスゲン、またはジオールとジアルキルカーボネート等の、ポリカーボネートを得るための組み合わせ等が挙げられる。
【0029】
同様に重付加型単量体の組み合わせとしては、ジオール化合物とジイソシアネート化合物の、ポリウレタンを得るための組み合わせ、ジイソシアネート化合物とジアミンの、ポリ尿素を得るための組み合わせ、ジオレフィンとジメルカプタンの、ポリスルフィドを得るための組み合わせ、ジオレフィンとビス(ヒドロシリル)化合物の、有機ケイ素ポリマーを得るための組み合わせ等が挙げられる。
【0030】
また、上記開環重合型単量体に対して、硬化剤としてアミン化合物、酸無水物、チオール化合物、酸ハロゲン化物等を組み合わせたものであっても良い。
【0031】
有機無機複合フィラーの製造に際しては、異なる重合型の重合性単量体を組み合わせて用いても良い。また同じ重合型においても、重合性単量体を1種類、或いは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0032】
なかでも、副成物が無く、また2種類の単量体の官能基当量を調整する必要の無いことから、付加重合型、または開環重合型の重合性単量体が好ましい。
【0033】
これら付加重合型、または開環重合型の重合性単量体を重合方法は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合の何れであっても良いが、カチオン重合の場合、通常、重合開始剤に酸が必要になり、得られた有機無機複合フィラー中に該酸が残留して酸性を示し易くなる。そうして、この場合、該残留する酸により、調整した硬化性組成物の保存中に、前述の(A)カチオン重合性単量体が少しずつ重合し、液の流動性が損なわれたり、ゲル化する問題が発生する虞がある。このような問題を発生させること無く、良好な保存安定性の硬化性組成物を得るためには、該カチオン重合では、重合後において過度の中和や洗浄処理を施すことが必要になり、該操作により完全に酸を除去するのに困難性が伴う。
【0034】
このため、前記付加重合型、または開環重合型の重合性単量体の重合は、ラジカル重合やアニオン重合により実施するのが好ましい。いずれにせよ、使用する有機無機複合フィラーは、上記残留する酸等の問題がない、下記方法で測定する酸性度が2以下の非酸性のものが好ましい。すなわち、有機無機複合フィラー1gをメタノール10g中に分散させ、そのpHを校正済みのpHメーターとpH電極にて測定し、それぞれ値をpHfとし、他方、メタノール単独で測定した値をpHmとして、pHm−pHfの値(ΔpH)を酸性度が、上記値以下である非酸性の有機無機複合フィラーが良好に使用される。
【0035】
なお、アニオン重合の場合は得られた有機無機複合フィラーが塩基性を示す場合があり、この場合、硬化性組成物の保存安定性は良好であるが、後述する(C)カチオン重合開始剤の量を増やさなければならない場合が多いことから、ラジカル重合が最も好ましい。
【0036】
このようなラジカル重合性単量体の中でも、付加重合型の単量体が好ましく、単量体の入手しやすさや、得られる有機無機複合フィラーの物性物性から、(メタ)アクリレート類が望ましい。具体的に利用可能な(メタ)アクリレート類を例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート、2−メタクリロキシエチルアセトアセチルアセトナート、アリル(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基として1つの(メタ)アクリルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基として複数の(メタ)アクリルオキシ基を有する(メタ)アクリレート系単量体類等の各種(メタ)アクリレート系単量体類が挙げられる。
【0037】
特に得られる有機無機複合フィラーの物性の点から、1分子中に(メタ)アクリルオキシ基を2つ以上有するものが好適に使用される。
【0038】
また、本発明で使用する有機無機複合フィラーは、(A)カチオン重合性単量体の界面の接着性を向上させる目的で、該有機無機複合フィラーを形成する有機ポリマーを、カチオン重合性の官能基を有するものとするのが、より好ましい。このようなカチオン重合性の官能基を有する有機無機複合フィラーは、前記付加重合型、または開環重合型の重合性単量体をラジカル重合により重合させて製造するに際して、該重合性単量体の少なくとも一部として、同一分子内にカチオン重合性の官能基を有するラジカル重合性単量体を用いることにより製造できる。
【0039】
このような同一分子内にカチオン重合性の官能基を有するラジカル重合性単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロへキシルメチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3,4−エポキシシクロへキシルメチル(メタ)アクリレート、2−ビニルオキシエチル(メタ)アクリレート、6−ビニルオキシへキシル(メタ)アクリレート、3‐エチル−3−(メタ)アクリルオキシメチルオキセタン、3‐エチル−3−(2−(メタ)アクリルオキシエチルオキシメチル)オキセタン、3‐エチル−3−(3−(メタ)アクリルオキシプロピルオキシメチル)オキセタン、p−(メタ)アクリルオキシメチルスチレン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−グリシジルオキシ−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−グリシジルオキシメチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−グリシジルオキシメチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ビスグリシジルオキシメチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0040】
同様の理由で、本発明で使用する有機無機複合フィラーは、これを形成する有機ポリマーを、カチオン重合性の官能基ではないが、カチオン重合性の官能基と反応する官能基であるヒドロキシ基を有するものとするのも、好適な態様である。このようなヒドロキシ基を有する有機無機複合フィラーは、これを形成する有機ポリマーを製造する重合性単量体の少なくとも一部として、同一分子内にヒドロキシ基を有するものを用いることにより製造できる。一般には、前記付加重合型、または開環重合型の重合性単量体をラジカル重合により重合させて製造するに際して、該重合性単量体の少なくとも一部として、同一分子内にヒドロキシ基を有するラジカル重合性単量体を用いることにより製造するのが好適である。
【0041】
このような同一分子内にヒドロキシ基を有するラジカル重合性単量体としては、1−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、1,3−ビス(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシ)プロポキシフェニル)]プロパン等の2級のヒドロキシ基を有するものも、好適に使用できるが、(A)カチオン重合性単量体の界面の接着性をより高度に向上させる観点からは、1級のヒドロキシ基を有するものが特に好ましい。このような1級のヒドロキシ基を有する単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
このような、同一分子内にカチオン重合性の官能基やヒドロキシ基を有する重合性単量体の配合量は、特に制限されないが、(B)有機無機複合フィラーの製造に際して用いられる全重合性単量体の合計100質量部中、1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは5質量部以上、最も好ましくは10〜80質量部である。
【0043】
中でも、同一分子内にカチオン重合性の官能基やヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート単量体であって、(メタ)アクリレート基を一つのみ有するような同単量体は、(B)有機無機複合フィラーそのものの強度を低下させることから、有機無機複合フィラーの製造に際して用いられる全(メタ)アクリレート単量体の合計100質量部中、好ましくは1〜70質量部、より好ましくは5〜60質量部、もっとも好ましくは10〜50質量部とするのが好ましい。
【0044】
(B)有機無機複合フィラーの製造原料として用いることの出来る(b)無機フィラーは、従来公知の物が何ら制限なく利用できる。具体的に例示すると、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等である。さらに、これら無機酸化物粒子を高温で焼成する際に緻密な無機酸化物粒子を得やすくする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を該無機酸化物粒子中に存在させた複合酸化物の粒子を用いることもできる。歯科用としては、シリカとジルコニアとを主な構成成分とする複合酸化物の無機フィラーがX線造影性を有することから、特に好適に用いられる。
【0045】
また、有機無機複合フィラーの製造原料として用いることの出来る(b)無機フィラーの形状は特に制限されないが、より高い表面滑沢性や、対磨耗性を得るために、形状が球状もしくは略球状の無機紛体及び/またはその凝集体を用いることが好適である。なお、ここで言う略球状とは、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上の物であることを言う。
【0046】
上記無機球状フィラーの粒径等は特に制限される物ではないが、高い表面滑沢性や対磨耗性を得る為には、平均粒径が0.01μm〜1μmの無機粒子及び/又は概無機粒子の凝集体からなる無機フィラーを用いるのが好適である。これら無機フィラーは、単一の粒子系、及び平均粒子経が異なる2つあるいはそれ以上の群からなる混合粒子系で使用することができる。
【0047】
また、有機無機複合フィラーの製造原料として不定形の無機フィラーを用いることにより硬化体の機械的物性を向上させることも可能である。しかしながら、このような不定形の無機フィラーの粒径が大きい場合には、硬化体が磨耗した後の表面滑沢性を低下させる傾向が強いため、特に、1μmを超える粒径の不定形フィラーは実質的に配合されていないことが好ましい。
【0048】
一方、不定形フィラーであっても、粒径が1μmよりも小さなフィラーであれば、表面滑沢性に与える影響は相対的に少ないが、0.5μmよりも大きな不定形フィラーの配合量は、前記球状無機フィラーよりも少ないことが好ましく、半分以下であることがより好ましい。
【0049】
上記(b)無機フィラーは、(a)重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていることが望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。上記シランカップリング剤は、有機無機複合フィラーの製造に際して用いる(a)重合性単量体に合わせて、適時選択すればよく、1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0050】
本発明の硬化性組成物における(B)有機無機複合フィラー中の上記(b)無機フィラーの配合割合は特に限定されるものではないが、高い機械的強度を得るためには、有機成分(前記(a)重合性単量体の重合体など)100質量部に対して50〜1900質量部であることが好ましく、200〜1000質量部であることがより好ましい。
【0051】
さらに本発明の(B)有機無機複合フィラーの製造に際しては、上述の(a)重合性単量体と(b)無機フィラー以外に、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子(有機フィラー)を用いてもよい。
【0052】
本発明の(B)有機無機複合フィラーを得るための、(a)重合性単量体と(B)無機フィラーの混合物をラジカル重合させるための方法としては、従来公知のものが何ら制限無く使用でき、紫外線或いは可視光、赤外線を照射することで重合開始種を発生させることのできる光ラジカル重合開始剤(組成)の他、非光照射下において、2種、或いはそれ以上の化合物の反応によって、重合開始種を発生させることのできる開始剤組成、或いは加熱によって重合開始種を発生させることのできる開始剤(組成)等が利用できる。このような重合開始剤を上記(a)重合性単量体と(b)無機フィラーの混合物に配合しておき、該重合開始剤の種類に応じた条件で重合させればよい。
【0053】
光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン等のα−ジケトン類、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。
【0054】
なお、光ラジカル重合開始剤には、しばしば還元性の化合物が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの第3級アミン類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物、N−フェニルアラニンなどを挙げることができる。
【0055】
また、その他、光ラジカル重合開始剤以外の利用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。なお、これら光ラジカル重合開始剤以外の利用できるラジカル重合開始剤と、上記還元性の化合物を添加しても何ら差し支えない。
【0056】
これらラジカル重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。ラジカル重合開始剤の添加量は目的に応じて選択すればよいが、(メタ)アクリレート単量体100質量部に対して通常0.01〜10質量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5質量部の割合で使用される。
【0057】
更に、上記(a)重合性単量体と(b)無機フィラーの混合物を重合−硬化させた硬化体は、(B)有機無機複合フィラーの物性を向上させるために、以下に述べる粉砕の前、或いは粉砕後に更に加熱処理を行ってもよい。
【0058】
上記(a)重合性単量体と(b)無機フィラーの混合物を重合−硬化させた硬化体は、通常、硬化性組成物の配合成分としては大きすぎるため、平均粒径0.1〜100μm程度の適度な大きさに粉砕することが好ましい。
【0059】
該粉砕方法は、従来公知の方法が何ら制限なく利用でき、好適には振動ボールミルやジェットミル等の粉砕機を用いて行われる。また該粉砕は必要に応じて湿式粉砕、乾式粉砕いずれも採用される。
【0060】
この様にして得られる(B)有機無機複合フィラーは、そのまま用いてもよいが、該有機無機複合フィラーと(A)カチオン重合性単量体の界面の接着性を向上させるため、該有機無機複合フィラーを更に上記したのと同様のシランカップリング剤で処理してもよい。
【0061】
本発明の硬化性組成物における上記(A)カチオン重合性単量体と、(B)有機無機複合フィラーの配合比は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すれば良いが、本発明の歯科用硬化性組成物を歯科用コンポジットレジンとして用いる場合には、高い機械的強度を得るために、前記(A)カチオン重合性単量体100質量部に対して(B)有機無機複合フィラーが50〜1900質量部であることが好ましく、200〜1000質量部であることがより好ましい。
【0062】
また、本発明の硬化性組成物には、該組成物を効率良く重合硬化させるために、(C)カチオン重合開始剤が配合されていることが好ましい。当該カチオン重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、上述のような公知の如何なるカチオン重合開始剤でもよい。口腔内などの環境で速やかに重合させることが容易な点で、光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる、所謂、光酸発生剤を採用することが特に好適である。
【0063】
当該光酸発生剤としては、ジアゾニウム塩系化合物、鉄−アレーン錯体塩系化合物、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ピリジニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、ジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物が、重合活性が特に高い点で優れている。ジアリールヨードニウム塩系化合物としての具体例を例示すれば、ジアリールヨードニウム塩系化合物の具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0065】
これらのなかでも、重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、求核性が低く、光照射を行わなければ重合性単量体との混合物として安定に保存できる点で、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。
【0066】
また、スルホニウム塩系化合物としては、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンとからなるスルホニウム塩系化合物が挙げられる。
【0067】
これら光酸発生剤は必要に応じて、1種または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には(A)カチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0068】
上記のような光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもつ化合物を増感剤として、上記光酸発生剤に加えてさらに配合することが好ましい。
【0069】
このような増感剤として用いられる化合物は、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン等が挙げられる。
【0070】
これら増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0071】
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(A)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(A)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
【0072】
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン等が挙げられる。
【0073】
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、本発明のカチオン重合性組成物を歯科用として用いることを考慮すると、可視光で重合を励起することが可能となる、可視域に吸収を有する化合物が好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物がより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0074】
縮合多環式芳香族化合物の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前期した光酸発生剤1モルに対し、縮合多環式芳香族化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0075】
さらに上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル重合開始剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル重合開始剤とは、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成するいわゆる水素引き抜き型のラジカル重合開始剤、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル重合開始剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、及び光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等の、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)ものである光ラジカル重合開始剤である。これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0076】
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等を挙げることができる。
【0077】
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられる。
【0078】
またケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等を挙げることができる。
【0079】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0080】
本発明の硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記した(A)〜(C)成分に加えて、硬化性組成物、特に歯科用コンポジットレジンの配合成分として公知の他の成分が配合されていてもよい。例えば、ラジカル重合性単量体、(B)有機無機複合フィラー以外のフィラー(無機フィラー、有機フィラー)、重合禁止剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等が挙げられる。
【0081】
(メタ)アクリレート系の重合性単量体等のラジカル重合性単量体を配合することにより、見かけの硬化時間を短くすることができる。一方、付加重合型のラジカル重合性は硬化体表面の重合率を低下させる傾向があるため、あまりに多量に配合することは好ましくない。ラジカル重合性単量体を配合する場合のその配合量は、カチオン重合性単量体とラジカル重合性単量体の合計100質量%に対して、30質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが好ましい。
【0082】
このようなラジカル重合性単量体としては(メタ)アクリレート系単量体が歯科用途として好ましく、このような単量体の具体的としては、上述のとおりである。
【0083】
また、(B)有機無機複合フィラー以外に、無機フィラーを配合することにより硬化体の機械的物性を更に向上させることも可能である。無機フィラーとしては、得られる硬化体の物性等を考慮すると、上述の、(B)有機無機複合フィラーを構成する(b)無機フィラーと同様であることが望ましい。また、該無機フィラーは上述のシランカップリング剤で処理されていることが好ましい。また、該無機フィラーの配合量は、特に制限されないが、機械的物性の他、操作性、充填率等を考慮すると、(B)有機無機複合フィラー100質量部に対して5〜700質量部が好ましく、10〜500質量部が好ましい。なお、本発明の硬化性組成物に無機フィラーを配合する場合には、前記(A)カチオン重合性単量体100質量部に対して、該無機フィラーと(B)有機無機複合フィラーとを合わせて、50〜1900質量部であることが好ましく、200〜1000質量部であることがより好ましい。
【0084】
さらに本発明の硬化性組成物には、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子(有機フィラー)を配合してもよい。
【0085】
本発明の硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、カチオン重合性組成物の製造方法として公知の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、本発明のカチオン重合組成物を構成する、(A)カチオン重合性単量体、(B)有機無機複合フィラー、(C)カチオン重合開始剤ならびに必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合すればよい。
【0086】
本発明の硬化性組成物の包装形態は特に制限されるものではなく、その目的や保存安定性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、カチオン重合開始剤として光カチオン重合開始剤を配合した際には、本発明の重合性組成物を構成する全ての成分を遮光状態で一つの包装とすればよい。光照射を行わずとも室温でカチオン重合を開始できるような成分を重合開始剤として用いる場合には、保存中に重合・硬化してしまわないように、2つ以上の包装に分割しておき、使用直前に両者を混合するような形態が好ましい。
【0087】
本発明の硬化性組成物は上記のような歯科用充填修復材料(コンポジットレジン)に代表される歯科用の組成物として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、その他の用途にも使用できる。その用途としては、例えば工業用接着材、塗料、コーティング材、フォトレジスト材料、印刷製版材料、ホログラム材料等が挙げられる。
【0088】
本発明の硬化性組成物を硬化させる手段としては用いたカチオン重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5〜60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。同様に加熱時間及び加熱温度も予備的な実験によって予め決定しておけばよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。尚、本文中、並びに実施例中に使用した化合物の名称および構造、また、フィラーを下に示す。
1.カチオン重合性単量体
【0090】
【化3】

【0091】
2.ラジカル重合性単量体
【0092】
【化4】

【0093】
・カチオン重合性官能基を有するもの
【0094】
【化5】

【0095】
・ヒドロキシ基を有するもの
【0096】
【化6】

【0097】
3.光カチオン重合開始剤
【0098】
【化7】

【0099】
4.縮合多環芳香族化合物
【0100】
【化8】

【0101】
5.酸化型の光ラジカル重合開始剤
【0102】
【化9】

【0103】

6.その他
【0104】
【化10】

【0105】
7.無機フィラー
・PF1:球状シリカ−ジルコニア、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径0.45μm、変動係数0.11、平均斉度0.95
・PF2:球状シリカ−ジルコニア、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径0.06μm、変動係数0.03、平均斉度0.94
・PF3:球状シリカ−ジルコニア、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径0.21μm、変動係数0.11、平均斉度0.95
・PF4:球状シリカ−ジルコニア、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径0.21μm、変動係数0.11、平均斉度0.95
・GF1:不定形シリカ−ジルコニア、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径0.68μm、変動係数0.35
・GF2:不定形シリカ−ジルコニア、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒径12μm、変動係数0.38
また、上記フィラーの平均粒子径、変動係数、及び平均斉度の測定、および本文中ならびに実施例中に示した材料の調製、物性評価方法については次の通りである。
【0106】
(1) フィラー粒子径および粒子径の変動係数
走査型電子顕微鏡(日本電子社製、T−330A)で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子の数および粒子径を測定し、測定値に基づき下記式により平均粒子径および変動係数を算出した。
【0107】
【数1】

【0108】
(2) 球状無機フィラーの平均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子について、その数(n)、粒子の最大径を長径(Li)、該長径に直交する方向の径を短径(Bi)を求め、下記式により算出した。
【0109】
【数2】

【0110】
(3)有機無機複合フィラーの調整
60質量部のD−2,6Eと40重量部の3Gの混合物100質量部に対して、予め重合開始剤として0.5質量部のアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)を溶解させたもの25質量部と、75質量部のPF2を、メノウ乳鉢で混合し、ペースト化した。これを、95℃、窒素雰囲気下で1時間加熱重合した。重合硬化体を振動ボールミルを用いて粉砕し、これを有機無機複合フィラーHF−1(平均粒径;12μm)とした。その他、有機無機複合フィラーHF2〜9も同様に、調製した。その組成と平均粒径を表1にしめす。なお、HF2〜5はいずれも重合性単量体と重合開始剤の混合物25質量部に対して、無機フィラーを75質量部の割合で配合した。
【0111】
80質量部のOX−1と20重量部のEP1の混合物100質量部に対して、予めIMDPIを1質量部、DMBAnを0.1質量部、CQを0.4質量部加えて均一になるまで攪拌・溶解したもの30質量部と70質量部のPF1をメノウ乳鉢で混合し、ペースト化した。これを厚さ約1mm程度に伸ばし、歯科用光照射器(α−ライト、モリタ製)で10分間照射し、光硬化させた。重合硬化体を振動ボールミルを用いて粉砕し、これを有機無機複合フィラーHF10(平均粒径;10μm)とした。
【0112】
なお上記の何れの有機無機複合フィラーとも、粉砕後、中和、洗浄等を行わずにそのまま実施例および比較例に用いた。
【0113】
(4)有機無機複合フィラーの酸性度の測定とΔpHの算出
20mlスクリュー管瓶にフィラー1gとメタノール10gを入れ、超音波洗浄器で5分間超音波を照射し、フィラーをメタノール中に分散させた。
【0114】
校正済みのpHメーター(イオンメーターIM-20E、東亜ディーケーケー(株)製)とpH電極(GTS-5211C、東亜ディーケーケー(株)製)にて上記分散液のpHを撹拌しながら測定し、値が一定になった時のpHをpHfとした。一方、同様にメタノールのみのpHを測定しこれをpHmとした。このときpHmからpHfを差し引いた値をΔpHとした。
【0115】
【表1】

【0116】
(5)マトリックスの調製
OX−1を80質量部、及びEP−1を20質量部に対して、暗所下でIMDPIを1質量部、DMBAnを0.1質量部、CQを0.4質量部加えて均一になるまで攪拌・溶解したものをマトリックスAとした。同様に、マトリックスB、Cを調製した。その組成を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
(6)表面未重合
室温22℃、湿度20%に保たれた恒温・恒湿室において、6mmφ×1.5mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドに硬化性組成物を充填し、可視光線照射器(トクヤマ製、パワーライト)にて30秒間光照射し、光硬化させた。硬化体表面に未重合層が無い物を○、未重合層があるものを×の判定とした。
【0119】
(7)研磨した硬化体の表面滑沢性
6mmφ×1.5mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドに硬化性組成物を充填し、同様に光硬化させた後に、型枠から取り出し、この試料片表面を耐水研磨紙1500番で研磨後、Sof-lex Superfine(3M社製)にて一分間仕上げ研磨し、表面の光沢度を目視により判定した。滑沢性に優れるものについては○、特に滑沢性に優れるものについては◎、滑沢性に劣るものについては×の判定とした。
【0120】
(8)フィラー含有組成物の重合収縮率
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmとした。これに硬化性組成物を充填し、上からポリプロピレンフィルムで圧接した。フィルム面を下に向けて歯科用照射器の備え付けてあるガラス製台の上に載せ、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。歯科用照射器によって重合硬化させ、照射開始より10分後の収縮(%)を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
【0121】
(9)操作性
調製したフィラー含有硬化性組成物を歯科用の練和棒で、ガラス板上で薄く延ばした時、硬化性組成物が十分に柔らかく、伸ばした組成物の縁にひび割れがなく均一に伸ばすことができた場合○、組成物が硬く、伸ばした組成物の縁にひび割れがある場合を×とした。
【0122】
(10)曲げ強度・曲げ弾性率
条件1の雰囲気下で硬化性組成物を2×2×25mmの金型に充填し、ポリプロピレンフィルムで覆い、光照射器にて1.5分間光照射し硬化させた。硬化物を37℃で一晩保存した後、オートグラフ(島津製作所社製)を使用し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で3点曲げ強度を各々5個の硬化物について測定し、その平均値を算出した。
(11)50℃保存中のゲル化までの日数
遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を金属製スパチュラで検査した。この際に、該組成物の流動性が低下していない、或いは若干の流動性低下はあるが、金属製スパチュラで容易に附形することが出来れば未硬化とし、また、保存前に比べて流動性が失われ、金属製スパチュラで附形することが出来ず、該充填材料が割れてしまう、或いは硬化し、金属製スパチュラでは割ることが出来ない状態になった日数をゲル化までの日数とし、最大20日まで観測した。
【0123】
実施例1
フィラーとしてHF1に対して、マトリックスAを少量ずつ加えながら乳鉢で混合した。混合物がパサ付かず、ペースト状になった時点でマトリックスAを加えるのを止め、この時点の混合物全体を100質量部とした場合のフィラー含有率を、この混合物の充填率とした。この混合物を真空下において脱泡して気泡を取り除き、硬化性組成物を得た。充填率、測定した各種物性を表3に示す。
【0124】
実施例2〜12
実施例1と同様に、表3記載のフィラー及びマトリックスを乳鉢で混合し、硬化性組成物を得た。充填率、測定した各種物性を表3に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
比較例1
実施例1と同様にフィラーとしてPF1とマトリックスAを混合し、硬化性組成物を得た。充填率、測定した各種物性を表4に示す。
【0127】
比較例2〜7
実施例1と同様に、表4記載のフィラーとマトリックスを混合し、硬化性組成物を得た。充填率、測定した各種物性を表4に示す。
【0128】
【表4】

【0129】
実施例1〜12は、フィラーとして有機無機複合フィラー、或いは有機無機複合フィラーと球状フィラーを用いたカチオン硬化性組成物である。すべての場合においてフィラー含有率が80%以上と高く、表面未重合もない。また、良好な表面滑沢性、操作性を示し、重合収縮もすべての場合において1%未満であった。更に、有機無機複合フィラーとして、カチオン重合性官能基、或いはヒドロキシ基を分子内に有するメタクリレート単量体を用い、ラジカル重合によって硬化させ、粉砕したものを用いたものは、曲げ強度が向上した(実施例3〜11)。また、同様にメタクリレート単量体をラジカル重合により硬化させることで得られた有機無機複合フィラーを用いた硬化性組成物は、50℃の保存において、ゲル化まで何れも2日以上を要した(実施例1〜11)。これに対して、カチオン重合性単量体をカチオン重合により硬化することで調整された有機無機複合フィラーを用いた硬化性組成物は、50℃の保存において、1日でゲル化した(実施例12)。
【0130】
比較例1〜3は、カチオン重合性単量体と単一粒径の球状フィラーを用いたものであり、フィラー充填率が有機無機複合フィラーを用いたものに比べて劣っていた。
【0131】
比較例4は、カチオン重合性単量体と粒径の異なる球状フィラーを用いたものであり、単一粒径のフィラーを用いた場合に比べて、高充填になるが、操作性の点で劣っていた。
【0132】
比較例5は、平均粒径12μmの不定形フィラーと球状フィラーを混合して用いたものであり、充填率は高いが、表面滑沢性が大きく劣っていた。
【0133】
比較例6、7は、ラジカル重合性単量体と有機無機複合フィラー、及び球状フィラーを用いた硬化性組成物である。表面未重合があり、重合収縮もすべての場合において1.2%以上と大きいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カチオン重合性単量体と、(B)有機無機複合フィラーを含むことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
(B)有機無機複合フィラーが、非酸性のものである請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
(B)有機無機複合フィラーを構成する有機ポリマーが、付加重合型、または開環重合型の重合性単量体をラジカル重合により重合させたものである請求項2記載の硬化性組成物。
【請求項4】
(B)有機無機複合フィラーを形成する有機ポリマーが、カチオン重合性の官能基またはヒドロキシ基を有するものである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
更に(C)カチオン重合開始剤を含む請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の硬化性組成物からなる歯科用材料。

【公開番号】特開2006−176762(P2006−176762A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338063(P2005−338063)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】