説明

硬質皮膜

【課題】硬質皮膜の有する耐高温酸化性、靭性の特性を犠牲にすることが無く、特に硬質皮膜の高硬度化による耐摩耗性と密着性を改善することである。
【解決手段】硬質皮膜は4a、5a、6a族、Al、Bから選択される1種以上の金属元素とSiを含み、C、N、Oから選択される1種以上の非金属元素からなり、該硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織中の結晶粒はSi含有量に差がある複数の層からなる多層構造を有し、該層間の境界領域では少なくとも結晶格子縞が連続している領域が存在し、ラマン分光分析によるα型Siのピーク強度をIα、β型Siのピーク強度をIβとした時に、1.0≦Iβ/Iα≦20.0であり、X線回折による(200)面のピーク強度をIb、(111)面のピーク強度をIaとした時に、Ib/Ia>1.0であることを特徴とする硬質皮膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高硬度化による優れた耐摩耗性と密着性を有し、更に耐高温酸化性、靭性の特性も兼ね備えた硬質皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献は、Si含有硬質皮膜に関する技術を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開平8−170167号公報
【特許文献2】特開2000−326108号公報
【特許文献3】特開平7−328812号公報
【特許文献4】特許第3460288号公報
【特許文献5】特開平8−127863号公報
【特許文献6】特表平11−509580号公報
【特許文献7】特許第3416938号公報
【特許文献8】特開2001−293601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜4は、物理蒸着法におけるアーク放電型イオンプレーティング(以下、AIPと記す。)方式のみを利用した硬質皮膜の耐摩耗特性を改善させる試みであり、刃先などに溶着が発生しやすい鋼種の加工においては、摩耗発生の大小の議論よりも、まず、溶着特性、即ち潤滑特性の改善を行わなければ、安定加工は見込めない。特許文献5、6は、硬質皮膜の密着性及び硬度が十分ではなく、切削工具の耐摩耗性が十分に向上していない。特許文献7、8は、耐酸化性及び耐摩耗性を保持したまま、乾式切削条件にも耐えうる十分な潤滑性を有するという要求を満たしていない。
従って、上記文献に記載された硬質皮膜はいずれも、耐摩耗性及び耐酸化性を保持した状態で、乾式化、高速化、高送り化に対応可能硬質皮膜の高い潤滑特性ならびに、耐欠損特性に大きな影響を及ぼす靭性についての必要条件を満たしていない。
本願発明の目的は、硬質皮膜の有する耐高温酸化性、靭性の特性を犠牲にすることが無く、特に硬質皮膜の高硬度化による優れた耐摩耗性と密着性の改善を目的とした。例えば切削加工などにおける乾式化、高速化、高送り化に対応可能な硬質皮膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の硬質皮膜は、4a、5a、6a族、Al、Bから選択される1種以上の金属元素とSiを含み、C、N、Oから選択される1種以上の非金属元素からなり、該硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織中の結晶粒はSi含有量に差がある複数の層からなる多層構造を有し、該層間の境界領域では少なくとも結晶格子縞が連続している領域が存在し、各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100、であり、該硬質皮膜中に存在するSiはα型Siとβ型Siの結晶質相として存在し、ラマン分光分析による該α型Siのピーク強度をIα、該β型Siのピーク強度をIβとしたときに、1.0≦Iβ/Iα≦20.0であり、X線回折による(200)面のピーク強度をIb、(111)面のピーク強度をIaとしたときに、Ib/Ia>1.0であることを特徴とする硬質皮膜である。本構成を採用することによって、本願発明のSiを含有する硬質皮膜は、硬質皮膜の高硬度化による優れた耐摩耗性と密着性を有する。この際に、硬質皮膜の有する耐高温酸化性、靭性の特性を犠牲にすることが無く、特性を改善した硬質皮膜を提供することができる。
また、本願発明の硬質皮膜はSiとOとの結合(以下、Si−O結合と記す。)を有することが好ましい。更に、硬質皮膜の表面は機械加工により平滑化されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は、硬質皮膜の有する耐高温酸化性、靭性の特性を犠牲にすることが無く、特に硬質皮膜の高硬度化による優れた耐摩耗性と密着性の改善をすることである。本発明の硬質皮膜を、例えば切削工具等に適用した場合、乾式高能率切削加工をはじめ、金型加工時の強断続切削環境下においても安定性と、長い工具寿命が得られ、切削加工における生産性の向上に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(1)皮膜の組成
本願発明の硬質皮膜の組成は、周期律表の4a、5a、6a族、Al、Bから選択される1種以上の金属元素とSiを含み、C、N、Oから選択される1種以上の非金属元素を有する。本願発明の硬質皮膜がSiを含有することにより、高温環境において皮膜表層付近に緻密なSiの酸化物が形成される。このことは例えば切削工具に適用した場合、切削時の発熱により形成したSi酸化物が、被削材に含まれるFe元素の硬質皮膜への拡散を抑制する。その結果、工具の切れ刃での溶着が抑制される。Si含有量は、金属元素のみの原子%で、0.1〜30%であるのが好ましい。Si含有量が30%を超えると、硬質皮膜中に形成されるβ型Siが多くなり、同時に形成されるα型Siとのラマン分光分析におけるピーク強度比においてIβ/Iαが20.0を超えて大きくなってしまう。この場合、硬質皮膜の硬度や耐熱性は向上するものの、硬質皮膜の残留圧縮応力が増大し、密着性が著しく損なわれる。また、また、Iβ/Iαが20.0を超えて大きい場合、破断面組織が柱状組織から微細粒状組織に変化する。微細粒状組織になると、硬質皮膜の結晶粒界が多くなり、切削時の発熱により大気中の酸素や被削材のFe元素が拡散しやすくなる。その結果、例えば被覆切削工具の硬質皮膜として適用した場合、切れ刃に溶着が発生し、突発的な欠損などが発生する。従って、硬質皮膜の破断面の組織形態も重要であり、特に高送り加工では柱状組織とするのが重要である。そのためには、Si含有量を30%以下になるよう調整し、Iβ/Iα値を20.0以下に制御する。一方、Si含有量が下限の0.1%はSiを容易に検出し得る限界である。
本願発明の硬質皮膜がBを含有することにより、硬質皮膜の硬度を更に高めることが可能となる。例えばBを含有する硬質皮膜を切削工具へ被覆すると工具寿命が長くなる。硬度の向上はc−BN相を介在させることにより可能となる。また、h−BN相を介在させることにより潤滑特性を向上させることが可能となる。c−BN相とh−BN相の比率は成膜時に印加するバイアス電圧により制御可能である。
本願発明の硬質皮膜の金属組成中にAlを含有すると、表層にAlが形成され、硬質皮膜の静的な耐熱性は向上する。しかし、切削加工では被削材中のFeなどが硬質皮膜に拡散する。Al含有量は、金属元素のみの原子%で、50%以下であるのが好ましい。より好ましいAl含有量は、20%から50%である。20%未満の場合、硬質皮膜の耐摩耗性及び耐酸化性が劣ることがある。
非金属成分のC、N、O成分において、O含有量は潤滑性の改善のために非金属元素のみの原子%で、0.3%以上、5%以下であるのがより好ましい。O含有量が5%を超えると、硬質皮膜の潤滑性は向上する。しかし硬度が低下し、破断面の結晶組織が微細化して、漉き取り摩耗が発生しやすくなる。硬質皮膜の組成において、金属元素の合計量をm、非金属元素の合計量nとしたとき、原子比(n/m)は1.0超であるのが好ましく、1.02以上であるのがより好ましい。またn/mの上限は1.7であるのが好ましい。
【0008】
(2)皮膜の構造、特性
硬質皮膜の断面を透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)で観察すると、本願発明の硬質皮膜の断面組織は明暗を示す複数の層を有することが分かる。これらの層は、Si含有量が相対的に多い層(A層とする)と、Si含有量が相対的に少ない層(B層とする)とからなり、A層及びB層は交互に界面なく積層している。TEMに付設されたエネルギー分散型X線分光(以下、EDXと記す。)分析による組成分析の結果、A層におけるSi含有量の平均値、B層におけるSi含有量の平均値との差は20%以下、より好ましくは0.2〜5%の範囲内である。該含量の差が0.2〜5%の範囲内にあると、硬質皮膜は高い靭性を有する。A層及びB層にSi含有量の差を設けることにより、靭性を向上させ、残留圧縮応力を抑制した硬質皮膜が得られる。
本願発明の硬質皮膜は柱状組織を有し、柱状結晶粒は明確な界面なしにSi含有量に差がある複数の層を有し、層間の境界領域では少なくとも結晶格子縞が連続している領域が存在する。柱状組織は膜厚方向に縦長に成長した結晶組織である。硬質皮膜は多結晶であるが、各結晶粒は単結晶に類似した形態である。しかも柱状結晶粒は成長方向にSi含有量に差がある複数の層を有する多層構造を有し、層間の境界領域で結晶格子縞が連続している。ここで、結晶格子縞の連続性は全ての層間境界領域にある必要はなく、TEMで観察した時に実質的に結晶格子縞が連続している層間境界領域があれば良い。柱状結晶粒がSi含有量に差がある複数の層からなる多層構造を有することにより、硬質皮膜は全体として靭性を有する。
硬質皮膜の各層の厚さTは0.1〜100nmである。Tが100nmを超えると、層間の境界領域に歪が発生し、結晶粒中の格子縞が不連続となり、硬質皮膜の機械的強度が低下する。例えば硬質皮膜を切削工具に形成した場合、切削初期において切削衝撃により硬質皮膜に層状破壊が発生する。層間の境界領域における歪の発生の回避は、硬質皮膜と基体との密着性の改善に有効である。一方、Tの下限は、X線回折装置やTEMにより層構造を確認できる最小厚さである0.1nmとした。また0.1nm未満の積層周期で多層硬質皮膜を形成すると、皮膜特性にばらつきが生じる。
本願発明の硬質皮膜は、上記の柱状結晶粒をなす領域とは区別された部分から選択した皮膜断面部分において、Siの存在形態がSiとなっている部分を有する。Siの存在はラマン分光分析によって確認できる。Siには、α型結晶構造とβ型結晶構造のSiが存在する。そこでα型Siピークは、波数が830から850cm−1の範囲、またβ型Siピークは、波数が1020から1070cm−1の範囲に得られる。ここで、α型Siは比較的軟質な結晶質相であり、β型Siは比較的硬質な結晶質相である。本願発明の硬質皮膜は1.0≦Iβ/Iα≦20.0であり、この範囲に制御することにより高硬度化による耐摩耗性の改善に有効であり、更に破断面組織が柱状組織となって靭性も有する。特に高送り加工では柱状組織とするのが重要である。α型Siとβ型Siとの両者を共存させることで、Si含有硬質皮膜の高硬度化と靭性とが両立して向上させることができる。この現象は、以下の様な理由による。即ち、硬質皮膜に硬質な結晶質相と軟質な結晶質相とが混在して堆積するために歪が発生し、硬質皮膜の内部応力増加によって高硬度化が計られる。一方、硬質皮膜には歪はあるものの軟質な結晶質相も存在するため、比較的硬い結晶質相の間でクッション効果を示す。その結果、靭性に富むのである。
本願発明の硬質皮膜はSi−O結合を有するのが好ましい。特に表面におけるSi−O結合の存在により、硬質皮膜は優れた潤滑性を発揮する。例えば被覆切削工具に適用した場合、切削初期における激しい溶着を抑制することができる。Si−O結合は、X線光電子分光法(以下、XPSと記す。)により100〜105eVの範囲にピークが存在することで確認できる。XPSは、AlKαのX線源及び直径100μmの分析領域で、電子中和銃を使用して行った。
更に、本願発明の硬質皮膜は、X線回折におけるピーク強度比Ib/Ia値が、Ib/Ia>1.0、好ましくは、1.0<Ib/Ia<35.0の範囲が有効である。本願発明の硬質皮膜は、密着性に大きな影響を及ぼす残留圧縮応力を低減することが重要である。(111)面に強く配向した硬質皮膜は、密着性を阻害する残留圧縮応力が大きくなってしまう。物理蒸着(以下、PVDと記す。)法によって得られるfcc構造の硬質皮膜は、(111)面、(200)面と(220)面に強いピークが現われる。本願発明の硬質皮膜の場合、このうちの(200)面に強く結晶を配向させるように制御する。200)面に強く配向させた硬質皮膜は、低応力化を図ることができ密着性の改善に有効である。配向面を制御するためには、成膜時の温度の適正化がある。基体に到達するイオンの入射エネルギーの大小によって、配向強度が変化するからである。そこでまず、成膜時の温度と、硬質皮膜のX線回折によって得られるピークとの相関を検討した。本願発明の場合、基体の温度が700℃以下の場合、Ib/Ia値は、Ib/Ia>1.0、となる。400℃以下の成膜の場合、(200)面への配向強度は更に大きくなり、Ib/Ia値は、36.0となった。更に350℃で成膜した場合、Ib/Ia値は、40.0となった。しかし、成膜時の温度は、残留応力の緩和や、発生させたイオンの運動エネルギーの大小に影響を及ぼす。そのような点から、400℃以下の成膜は、密着性に悪影響を及ぼすため好ましくない。一方、より高温で成膜した場合、硬質皮膜に発生する残留圧縮応力は緩和される方向に働く。そこで700℃を超えた条件で成膜を行った場合も検討した。このとき、硬質皮膜が接する基体表面に存在する元素が硬質皮膜に拡散し、界面が脆弱化してしまう現象を確認した。次に、成膜時のバイアス電圧と、硬質皮膜のX線回折によって得られるピークとの相関を検討した。配向面を制御するためには、成膜時のイオンを基体に引き付ける際のバイアス電圧の適正化も有効である。(200)面に強く配向させるためには40〜150Vの比較的低いバイアス電圧に設定することが好ましい。150Vを超えたバイアス電圧を印加した場合、成膜時の温度にも影響するが、(111)面への配向が強くなる傾向がある。この場合の残留圧縮応力は、容易に8GPaを超えてしまうため、硬質皮膜の密着性に不都合である。このような理由から、Ib/Ia値は、Ib/Ia>1.0、と規定した。
【0009】
(3)皮膜の製造方法
本願発明の多層硬質皮膜を製造するにはプラズマ密度の異なるPVD法を用いることが有効である。具体的には、界面の無い結晶粒を連続的に成長させるために、プラズマ化した反応ガス中でプラズマ密度の高いAIP法とプラズマ密度の低いマグネトロンスパッタリング(以下、MSと記す。)法を同時に行う。プラズマ密度の大小は、それぞれの成膜方式における成膜速度(μm/時)により判断することが出来る。Siを含有する硬質皮膜においては、Si含有量によって結晶質Siの存在状態を制御するのも1つの方法である。本願発明の結晶質Siのα型、β型の存在比を制御するには、夫々の成膜方式における成膜速度について、AIP方式で得られる成膜速度を(μm/時:AIP)とし、MS方式で得られる成膜速度を(μm/時:MS)としたときに、(μm/時:AIP)/(μm/時:MS)が2.0以上になるように制御する。これによって、ラマン分光分析におけるIβ/Iα値が、Iβ/Iα≧1.0、になる。また成膜速度比が100.0以下でラマン分光分析におけるIβ/Iα値が、Iβ/Iα≦20.0、となる。成膜速度比が100.0を超えるような状態で被覆を行った場合、Iβ/Iα値が20.0を超えて大きくなり、硬質皮膜内に存在する硬質結晶であるβ型Siが多くなる。β型が多くなることによって、硬質皮膜の硬度、並びに耐熱特性は向上する。しかし、硬質皮膜の耐衝撃性、靭性が損なわれてしまう。例えば、AIP法での成膜速度を1.5μm/時とし、MS法での成膜速度を0.01μm/時、となる条件で被覆を行うと、該成膜速度比は150.0である。ここで得られた硬質皮膜の硬度は、36GPaにも到達し高硬度を示す。しかし、残留圧縮応力が7.2GPaとなり、密着性の低下も招く。一方、AIP法での成膜速度を1.5μm/時、MS法での成膜速度を0.1μm/時、となる条件で被覆を行うと、成膜速度比が15.0となり、1.0≦Iβ/Iα≦20.0を満たす。これより硬質皮膜の結晶粒が大きな機械的強度を有する。これに対して、AIP法とMS法を逐次的又は間欠的に行うと、硬質皮膜の層間にはっきりした界面が生じ、そこで硬質皮膜の強度が低くなる。
AIP法は発生するプラズマ密度、成膜速度が非常に高いため、プラズマ中に発生したイオンが基体に入射する際のエネルギーが大きく、良質な硬質皮膜が形成されるものの、残留圧縮応力の抑制が困難である。また多層構造からなる硬質皮膜の各層間に特定元素の含有量差を付与するのが困難である。従って、AIP法とMS法とを組み合わせ、硬質皮膜のIβ/Iα値を、1.0≦Iβ/Iα≦20.0に制御することにより、高硬度化による優れた耐摩耗性と密着を有し、更に性耐高温酸化性と靭性の特性も兼ね備えた硬質皮膜を得ることができる。
具体的には、AIPターゲット及びMSターゲットと、AIP法及びMS法の両方に適する反応ガスとを有する真空装置を用いるのが好ましい。真空処理室内に、少なくともAIP法とMS法が可能な蒸発源が一対以上設置され、同時に放電することができる仕様になっている。但し、AIP法の蒸発源とMS法の蒸発源が必ずしも対になる必要はなく、同一な真空処理室内に両方式の蒸発源が1つ以上設置されており、同時放電が可能であればよい。各ターゲットの組成自体は限定的でない。また、Siを含有する反応ガスを使用するプラズマ支援型化学蒸着法の環境上、安全性の問題も無く、硬質皮膜にSiを含有させることができる。
成膜に使用する反応ガスは、窒素やアルゴンに限定されるものではなく、AIP法の蒸発源とMS法の蒸発源などを同時に放電させ、プラズマを形成させることができれば、いずれのガス種に制約されることは無い。但し、本願発明の硬質皮膜の潤滑特性を優れたものにするために、成膜時に用いる反応ガス中に酸素を含有させることが好ましい。これにより硬質皮膜はSi−O結合を有する。このSi−O結合が硬質皮膜の潤滑特性に寄与するからである。
AIPターゲットは単一の合金ターゲットでも、組成の異なる複数の金属又は合金のターゲットでも良い。反応ガスがプラズマ化した状態で、基体を両ターゲットに交互に接近させながらAIP法及びMS法を同時に行うと、価数の異なるイオンが同時に基体に到達する。基体がプラズマ密度の高いAIP法の蒸発源に接近すると、硬質層が形成され、次いでプラズマ密度の低いMS法の蒸発源に接近すると軟質層が形成される。これにより皮膜全体に歪が発生し内部応力によって皮膜は高硬度化する。このとき、硬質層と軟質層との間では明瞭な界面はない。また界面領域での組成は傾斜を有して漸次変化する。このように、組成が漸次変化する領域を介して軟質層が硬質層にサンドイッチされるので、クッション効果により硬質皮膜全体は高硬度を保ちながら、靭性及び耐衝撃性を有する。そして、該硬質皮膜は柱状組織を有し、軟質層と硬質層を有する柱状結晶粒を有する。
AIP法とMS法とを同時に放電させることで、多層構造を有する硬質皮膜における結晶粒の組織は、分断されることなく連続的に結晶粒を成長させ、同一結晶粒に多層構造を存在させることが可能である。その結果、硬質皮膜の靭性など、機械的強度を向上させること可能である。この理由は、異なる組成の皮膜を積層させたときでも明確な積層界面を持たないため、積層界面からの剥離や破壊が発生し難くなるからである。更に、AIP法とMS法とを同時に放電させることで、AIP法ではプラズマ発生が困難であった高融点材料や高潤滑材料を硬質皮膜膜に添加することが可能である。AIP法及びMS法を同時に行うとき、高密度プラズマが発生するAIP蒸着源と低密度プラズマが発生するMS蒸着源とからなる各蒸着源と、被覆基体との配置は、被覆基体が各プラズマ内を交互に通過して皮膜が積層される様に配置することが好ましい。
プラズマ密度の異なるAIP法とMS法とを同時に放電させることで、Siを含有する硬質皮膜にSiを存在させることができる。例えばMS法によってSiを添加する場合を考える。Siには結晶形態の異なるα型結晶とβ型結晶が存在するが、この両者の存在割合をMS法における成膜条件によって制御することが可能である。α型結晶は比較的軟質であり、β型結晶は比較的硬質であるが、両者が適正な割合で皮膜に存在すること、即ち1.0≦Iβ/Iα≦20.0、とすることで、Si含有の硬質皮膜の高硬度化と耐高温酸化性を向上させることが可能である。AIP法とMS法を同時に使用した場合、MS蒸発源の放電出力を6.5kW以下に設定することによって、Siはα型結晶とβ型結晶質の形態になる。しかし、0.3kW以下に設定するとプラズマ密度がより小さくなるため、Iβ/Iα<1.0となりα型Siがβ型Siよりも多く含まれるようになる。この条件では高硬度化による優れた耐摩耗性を有する硬質皮膜は得られない。硬質皮膜が靭性を有する理由は、プラズマ密度の低いMS法の蒸発源によって軟質層が形成される際に、軟質層にはα型Siが主体に多く含まれるようになり、軟質層と硬質層との有意な差がクッション効果に有効となるためである。しかし、α型が多くなると、硬質皮膜全体が軟質化する傾向にあり、耐摩耗特性を両立させることが困難になる。上記では、MS法によってSiを添加する場合について述べたが、被覆基体がAIP法のプラズマ内を通過して皮膜が積層される際にも、Si元素は回り込みによって皮膜に堆積される。その結果、皮膜断面で見た場合、Si元素は含有量差が生じるものの、積層方向全体に存在する。
プラズマ密度の異なるAIP法とMS法とを同時に放電させる時に、必要な反応ガス圧力の設定は最適化を行うことが望ましい。AIP法は、比較的高い反応ガス圧力が用いられており、1Pa程度から8Pa程度の範囲が安定して被覆できる。一方、MS法はプラズマ密度が低いため、成膜速度を高めるために広く0.5Paにも満たない反応ガス圧力で実施される。そこで、AIP法とMS法とが同時にプラズマを形成させることが可能であり、かつ形成された硬質皮膜の物性である高硬度、靭性を向上が可能な反応ガス圧力の条件を検討した。その結果、反応ガス圧力P1(Pa)を0.5≦P1≦8.0とした場合、特性を満足する硬質皮膜が得られた。0.5Pa未満では、AIP法における放電が困難であった。またAIP法ではマクロパーティクルの発生を抑制することが重要である。その抑制対策としてターゲット周辺に磁場領域を作用させるが、それでも0.5Pa未満の条件下ではマクロパーティクルが多く発生する。このマクロパーティクルは硬質膜内部の欠陥を多くするため好ましくない。一方、8.0Paを超えるとMS法における放電が困難となり、均一なプラズマを発生させることが難しい。その結果、硬質皮膜の靭性が劣るため好ましくない。
成膜条件についてAIP法の電流値は100から150Aの範囲に設定することが好ましい。MS法の放電出力は6.5kW以下に設定することが好ましい。これはSiを結晶質の形態とするために好ましい。更に、柱状組織を有する多層硬質皮膜の各層の厚さTを100nm以下に制御するとともに、柱状結晶粒の格子縞を連続させるために好適である。これにより、強固な密着性を確保し、高硬度で靭性を有する硬質皮膜を形成させることが可能である。
【0010】
切削工具に本願発明の硬質皮膜を形成すると、硬質皮膜の高硬度化による優れた耐摩耗性と密着性を有するために、被削材との大きな衝撃による、突発的な欠損を防ぐことが可能となる。その結果、該硬質皮膜を被覆した切削工具は、切削加工の乾式化、高速化、高送り化に対応する。該硬質皮膜を被覆した切削工具は、切削加工の乾式化、高速化、高送り化に対応する。高送りの切削は、例えば1刃当たりの送り量が0.3mm/刃を超える切削を意味する。本願発明の硬質皮膜の表面を機械加工により平滑化することにより、耐摩擦性が安定化し、工具の切削寿命のばらつきが低減する効果を有する。基体表面にTiの窒化物、炭窒化物又は硼窒化物、TiAlを主体とした硬質皮膜、Cr、CrAlを主体とした硬質皮膜、W等からなる中間層を設けると、基体と硬質皮膜との密着力が増大し、硬質皮膜の耐剥離性及び耐欠損性が向上する。本願発明の硬質皮膜を被覆した切削工具は、乾式切削加工に好適であるが、湿式切削加工にも使用できる。いずれの場合も、中間層の存在により繰り返し疲労による硬質皮膜の破壊を防止することができる。
本願発明の硬質皮膜を形成する切削工具の材質は限定的ではない。超硬合金、高速度鋼、ダイス鋼等、いずれでも良い。本願発明の硬質皮膜は切削工具の他、金型、軸受け、ロール、ピストンリング、摺動部材等、高硬度が要求される耐摩耗部材や内燃機関部品等の耐熱部材にも形成することができる。本願発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本願発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
本願発明の硬質皮膜の被覆には、小型真空装置内にAIP方式の蒸発源とMS方式の蒸発源とを併設した装置を用いて、基体となる超硬合金製インサートに被覆を行った。各蒸発源は各種合金製ターゲットを用い、反応ガスはNガス、CHガス、Ar/O混合ガスから目的の皮膜が得られるものを選択し、両成膜法が真空装置内で同時にプラズマを発生させることが可能な反応圧力を選定した。他の被覆条件は、基体温度450℃、バイアス電圧は、−40Vから−150Vの範囲の電圧を印加した。被覆工程においては、同時放電を行う前にAIP法による成膜を行い、密着性を確保した後にAIP法とMS法との同時放電を行うことが望ましい。得られた硬質皮膜被覆インサートを用い、以下に示す切削条件にて切削試験を行った。切削試験で用いた被削材は、表面に予めドリルにて等間隔に穴をあけたものを使用した。この被削材表面を高能率加工条件にて切削を行う事により断続加工を想定し、インサートが衝撃を受けて欠損に至るまでの切削可能長を評価した。
(切削条件)
工具:正面フライス
インサート形状:SDE53タイプ特殊形状
切削方法:センターカット方式
被削材形状:巾100mm×長さ250mm
被削材:SCM440、硬さHB280、表面にはΦ10ドリル穴多数有り
切り込み量:2.0mm
切削速度:180m/min
1刃送り量:1.5mm/刃
切削油:なし、乾式切削
評価方法は、インサート刃先に強い衝撃を加えることができる断続環境下での評価を行い、インサート刃先部に欠損が発生するか、又は硬質皮膜の摩耗等により工具が切削不能となるまで加工を行い、その時の切削可能距離を工具寿命とした。表1、表2、表3に本発明例、比較例及び従来例に関する硬質皮膜の詳細及び切削試験の結果を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
表2と表3には本発明例1から15、比較例16から31、従来例32から47の評価結果を示す。本発明例1から15に示したように、本発明の硬質皮膜を適用することで、高能率加工を行うことが可能となった。即ち、本願発明の硬質皮膜について、ラマン分光分析を行ったときに得られる結晶質Siのα型とβ型両者のピークが検出され、かつそのIβ/Iα値が、1.0≦Iβ/Iα≦20.0、を満たすこと、X線回折において得られるIb/Ia値が、Ib/Ia>1.0、好ましくは、1.0<Ib/Ia<35.0、の範囲であることが必要である。更に、硬質皮膜表面付近にSi−O結合が存在すること及び、2種以上の物理蒸発源を用いてSiを硬質皮膜に添加したときのSi含有量、組織構造により、切削性能差が明瞭に現われる結果となった。特に、本発明例6に示したTiSiによってSiを添加した硬質皮膜は、今回の評価の中で最も良い結果を示した。そこで本発明例6について詳細に硬質皮膜を調査した。その結果を図1に示す。XPS分析において100〜105eVの範囲にSi−O結合が得られた。このSi−O結合の存在により、切削加工初期の激しい溶着が抑制された。このように、本発明例6の硬質皮膜表面付近には、潤滑特性の優れる緻密な酸化物の存在し、溶着が激しく発生する金属の加工において、著しい効果を発揮した。またSi添加にはTiSiをMS蒸着源に設置し、放電出力を6.5kWに設定した。その結果、添加されたSi量が14.4原子%となり、適正なSi添加量の範囲であった。更に、硬質皮膜の破断面組織を、走査電子顕微鏡(以下、SEMと記す。)により倍率15000倍で観察した。その結果を図2に示す。図2より硬質皮膜の破断面組織は柱状組織形態であった。このような組成及び構造を有する硬質皮膜被覆インサートは、高送り加工などの衝撃の激しい切削加工において、せん断方向に対する機械的強度も得られた。図3は、破断面組織をTEMにより倍率2万倍で観察した結果である。硬質皮膜の柱状組織を有する各結晶粒は多層構造を有していた。図4は、図3の結晶粒をTEMにより倍率20万倍で拡大観察を行った結果である。結晶粒は明暗が異なる黒色層と灰色層とが交互に複数の積層した多層構造を有していた。各結晶粒は基体表面に対して垂直方向となる様に、ほぼ同一方向に成長したものであることが今回の観察により確認された。図4に示す縞模様から、各層の厚さは約3〜4nmであることが分かる。なお、図3と図4では倍率が異なるので、両者における縞模様の数は一致しない。図5は、図4の視野内の部分を更に拡大観察し、倍率200万倍で多層部における各層の格子縞の連続性を確認した結果である。図5の観察領域は図4で見られた黒色層及び灰色層の位置を確認しながら拡大したものであり、図5中の黒色層及び灰色層はそれぞれ図4中のものに対応する。図5に描いた2本の線は夫々黒色層及び灰色層に対応する領域を別ける。
図6は図5の写真に相当する模式図である。ただし、格子縞の間隔は説明の明瞭化のために拡大してある。図5から、多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続していることが分かる。結晶格子縞の連続性は全ての境界領域で成立する必要はなく、TEM写真中に格子縞の連続性が認められる領域があれば良い。図5の左側に黒色領域があるが、これは図4に示す黒色層と関係ない。図6中の丸で囲まれた領域の電子回折像を図7に示し、図7の模式図を図8に示す。図7及び8から明らかなように、星印で示す黒色層の電子回折像と丸印で示す灰色層の電子回折像とがほぼ一致しているので、黒色層と灰色層の境界領域ではエピタキシャルな関係により格子縞が連続している。このように多層構造を有する柱状結晶粒は単結晶のような形態をしていることが分かる。本発明例6の多層柱状結晶粒における黒色層及び灰色層の組成として、図5中の点P(黒色層)及び点Q(灰色層)の組成をTEMに付設されたEDXにより分析した。表4は黒色層及び灰色層の組成を示す。
【0016】
【表4】

【0017】
表4より、Si含有量の差が確認された。Si含有量が30原子%を超えると、結晶組織が微細化するため、含有量の差は30原子%以内に制御しなければならない。本発明例6は、TiSiの放電出力を6.5kWに設定したため、Si含有量の差は12.4原子%であった。
図9に本発明例6についてSiの化学状態をラマン分光分析によって調査した結果を示す。波数800から850cm−1の範囲にα型結晶構造のSiピーク、また波数1020から1170cm−1の範囲にβ型結晶構造のSiピークが得られた。そのα型とβ型のピーク強度比Iβ/Iαを算出したところ、1.95であった。硬質皮膜の硬度は、35GPaを示し高硬度であった。本願発明の被覆方式を適用することで、硬質皮膜中に存在する比較的軟らかいα型Siよりも、比較的硬いβ型が多く存在するために、高硬度化傾向にあったが、同時に硬質皮膜中に比較的軟らかいα型が存在するために耐衝撃特性が要求されるような切削加工において性能向上を示した。図10は、本発明例13、14、比較例28、29の摩擦係数の測定結果を示す。測定にはボールオンディスク方式を用いた摩擦摩耗試験機を用い、大気中600℃の高温環境下で行った。測定結果より、硬質皮膜中にSi−O結合を有することにより、潤滑特性が大幅に向上することが確認された。例えば、Siを含有する本発明例6は、比較例21に対して摩擦係数の数値が半分以下、また約15倍の切削性能が得られた。本願発明のSi−O形成を適用することにより、(TiAl)Nを基本組成とする皮膜も摩擦係数は大きく低減した。更に本発明例7は、上記の切削条件とは別に金型加工で見られる様な固定穴加工等、断続となる部位の加工も行った。ここでも、硬質皮膜の靭性の向上により、激しい衝撃に対しても欠損することなく、安定した切削が行うことができた。
上記評価結果より、硬質皮膜の潤滑特性を改善し安定的した切削性能を得るために、Si添加源はNbSi、CrSi、WSi、TiSiなどの金属間化合物によるターゲット材が適していた。また、WSi、CrSi、NbSi、TiSiなどの合金ターゲットも好ましかった。本発明の硬質皮膜をドリル、エンドミル、パンチ、ダイスなど適用し、断続環境下での適用についても効果を発揮した。
【0018】
比較例17、19、21、24、25、29に示すように、本願発明の硬質皮膜に必要な条件を満たさない場合、満足のできる切削性能を得ることはできなかった。本発明例の様に硬質皮膜の物性を調整することが必要である。比較例30は、Si含有量が多く30原子%以上あり、ラマン分光分析におけるピークがβ型Siに強く配向し、α型Siとのピーク強度比が20を超えてしまった。その結果、切削初期で欠損に至った。皮膜破断面の組織を確認した結果、図11に示すようなアモルファス状の微細組織になっていた。硬質皮膜の硬度は26GPaと軟質化傾向にあった。この皮膜の軟質化はSi含有量が適正値でなかったことによる。比較例では、Si−O結合が確認されなかった。従って、本願発明の目的である潤滑特性の改善は達成できなかった。この理由は、成膜時に使用する反応ガス中に酸素を添加しなかったためSi−O結合が形成されていなかったためである。
【0019】
従来例32から47は、AIP法、もしくはMS法単独使用により被覆した例である。AIP法で被覆された硬質皮膜は、硬度、残留圧縮応力が非常に高い上、硬質皮膜の靭性が不足し、硬質膜内部で破壊を起こしやすい。硬質皮膜の靭性を向上させることが困難であり、切削初期に欠損してしまうことが多かった。AIP法における成膜条件の温度、バイアス電圧、反応圧力、アーク電流、また硬質皮膜のターゲット組成の検討を行えば、ある程度可能である。しかし、AIP蒸発源のみの成膜で形成されるSiを含有した硬質皮膜は、靭性を向上させると硬度が低下し、耐摩耗性が著しく低下した。このため、被覆部材の耐衝撃特性は向上するが、耐摩耗性の確保が困難となり満足する寿命が得られなかった。一方で、MS法で成膜された硬質皮膜の場合は、プラズマ密度が低いため、プラズマ内でイオン化した金属やガスイオンが被処理物へ入射する際のエネルギーが低く、密着性が低かった。また、AIP法で成膜される硬質皮膜に対し、高靭性の硬質皮膜を得ることが可能であるが、高硬度な硬質皮膜を得ることが困難であるため、硬質皮膜被覆部材として高寿命を得ることは困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明例6のXPS分析結果を示す。
【図2】図2は、本発明例6の硬質皮膜の断面組織を示す。
【図3】図3は、本発明例6の硬質皮膜の透過電子顕微鏡観察結果を示す。
【図4】図4は、図3の拡大した観察結果を示す。
【図5】図5は、図4の拡大した観察結果を示す。
【図6】図6は、図5の模式図を示す。
【図7】図7は、本発明例6の電子回折結果を示す。
【図8】図8は、図7の模式図を示す。
【図9】図9は、本発明例6のラマン分析結果を示す。
【図10】図10は、摩擦係数の測定結果を示す。
【図11】図11は、比較例30の硬質皮膜の断面組織を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質皮膜は、4a、5a、6a族、Al、Bから選択される1種以上の金属元素とSiを含み、C、N、Oから選択される1種以上の非金属元素からなり、該硬質皮膜は柱状組織を有し、該柱状組織中の結晶粒はSi含有量に差がある複数の層からなる多層構造を有し、該層間の境界領域では少なくとも結晶格子縞が連続している領域が存在し、各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100、であり、該硬質皮膜中に存在するSiはα型Siとβ型Siの結晶質相として存在し、ラマン分光分析による該α型Si3N4のピーク強度をIα、該β型Siのピーク強度をIβとしたときに、1.0≦Iβ/Iα≦20.0であり、X線回折による(200)面のピーク強度をIb、(111)面のピーク強度をIaとしたときに、Ib/Ia>1.0であることを特徴とする硬質皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜はSiとOとの結合を有することを特徴とする硬質皮膜。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜の表面が機械加工により平滑化されていることを特徴とする硬質皮膜。

【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−56324(P2007−56324A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243878(P2005−243878)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】