説明

硬質防護製品のための複合弾道布帛構造物

硬質防護製品に有用な弾道抵抗性複合材料を提供する。該複合材料は熱可塑性マトリックス材料中における高靭性繊維の少なくとも1つの圧密化網状構造を含む。樹脂は、室温で半結晶性である熱可塑性ポリウレタン樹脂である。高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有する。圧密前、ポリウレタン樹脂マトリックス材料は水性媒体中にある。乾燥したとき、ポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する。該弾道抵抗性複合材料は改善された弾道抵抗性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾道および他の用途に有用な複合材料、並びにそれらの形成に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂を弾道抵抗性繊維複合構造物に用いることは知られている。これらは硬質又は剛性防護製品に一般に用いられている。しかしながら、そのような樹脂は、通常、取り扱いおよび廃棄の際に環境問題を生じる有機溶媒中で使用される。また、そのような樹脂から形成された複合材料は管理された環境で貯蔵する必要があり、また、最終製品形成前の保存寿命が比較的短い。
【0003】
スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマーおよびポリウレタンなどの熱可塑性樹脂をそのような複合材料に用いることも知られている。これらの材料は、取り扱いがより容易であり、また、環境問題(廃棄を含む)を伴わない水性分散液に適用することができる。これらの種類の樹脂は柔軟性防護製品に通常用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に剛性又は硬質の防護製品の場合、必要な剛性を有する複合材料製品が求められる。水性媒質に適用可能であり、そしてさらに望ましい剛性レベルを有する硬質防護複合構造物を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、硬質防護製品に有用な弾道抵抗性複合材料を提供する。該複合材料は、熱可塑性マトリックス材料中に少なくとも1つの、高靭性繊維の網状構造を含み、該熱可塑性マトリックス材料は、室温で半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂を含み、高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有し、ここで、圧密前にマトリックス材料は水性媒体中のポリウレタンを含み、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する。
【0006】
また、本発明は、硬質防護製品の形成に有用な予備含浸部材を提供する。該予備含浸部材は、室温で半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む熱可塑性マトリックス材料中に高靭性繊維網状構造の少なくとも2つの圧密隣接層を含み、該高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有し、ここで、圧密前にマトリックス材料は水性媒体中のポリウレタンを含み、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する。
【0007】
本発明はさらに、硬質防護製品に有用な弾道抵抗性複合材料を提供する。該複合材料は高靭性繊維の熱可塑性マトリックス材料中に少なくとも1つの圧密化網状構造を含み、該熱可塑性マトリックス材料は、室温で半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂を含み、該高靭性繊維は高靭性ポリエチレン繊維を含み、該高靭性繊維の網状構造は一方向延伸不織布を含み、ここで、圧密前にマトリックス材料は水性媒体中にポリウレタンを含み、該ポリウレタンマトリックス材料は乾燥時に少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、少なくとも約4000psi(27.56MPa)の極限引張り強さ、および室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき少なくとも約60のショアーA硬度を有する。
【0008】
本発明はさらに、硬質防護製品に有用な弾道抵抗性複合材料を形成する方法を提供するものであり、該方法は、
高靭性繊維の少なくとも1つの網状構造を用意すること(ここで、該高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有する);
高靭性繊維の網状構造に、水性媒質中の熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス材料を塗布すること(ここで、該ポリウレタン樹脂マトリックス材料は室温で半結晶性であり、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する);そして
得られた高靭性繊維の網状構造および熱可塑性ポリウレタンマトリックス樹脂の組み合わせを圧密すること
を含む。
【0009】
本発明はさらに、熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料中に高靭性繊維の圧密化網状構造を含む弾道抵抗性複合材料の弾道抵抗性を改善する方法を提供し、高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有し、該方法は、
熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料として、水性媒質中の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いること(ここで、該熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス材料は室温で半結晶性であり、乾燥時の熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する)
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
意外にも、これまでに提案されてきた非晶質ポリウレタンとは全く異なり、複合弾道布帛では、マトリックス材料に半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いるときに、改善された弾道性能が得られることが判明した。得られる複合材料およびそれらから製造される製品は硬質タイプの弾道防護製品に特に有用である。
【0011】
本発明の目的のために、繊維本体は細長く、長さ寸法は幅および厚さの横寸法よりもはるかに大きい。従って、「繊維」という用語には、規則的な断面または不規則的な断面を有するモノフィラメント、マルチフィラメント、リボンストリップ、ステープル、およびチョップト、カットまたは不連続繊維の他の形等が含まれる。「繊維」という用語には、上記のいずれか複数のものまたは組み合わせが含まれる。ヤーンは、多くの繊維またはフィラメントをふくむ連続ストランドである。繊維はスプリットフィルムまたはテープの形でもよい。
【0012】
本発明のために有用な繊維の断面は広範囲を変動し得る。それらの断面は円、平ら、長方形であってよい。それらはまた、繊維の線または長軸から突き出ている1つ以上の規則的または不規則的ローブを有する規則的または不規則的マルチローバル断面であってもよい。繊維の断面は実質的に円、平らまたは長方形であることが好ましく、円が最も好ましい。
【0013】
本明細書中に用いる「高靭性繊維」という用語は、靭性が約7g/d以上の繊維を意味する。これらの繊維はASTM D2256で測定した初期引張モジュラスが少なくとも約150d/gおよび破断点エネルギーが少なくとも約8J/gであることが好ましい。本明細書中に用いる「初期引張モジュラス」、「引張モジュラス」および「モジュラス」という用語は、ヤーンについてはASTM2256およびエラストマーまたはマトリックス材料についてはASTM D638により測定した弾性のモジュラスを意味する。
【0014】
好ましくは、高靭性繊維の靭性は約10g/d以上、より好ましくは約16g/d以上、さらにより好ましくは約22g/d以上、最も好ましくは約28g/d以上である。
本発明のヤーンおよび布帛に有用な高強度繊維には、高延伸高分子量ポリオレフィン繊維、特に高モジュラス(または高靭性)ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ポリベンズアゾ−ル繊維、例えばポリベンゾオキサゾール(PBO)およびポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、玄武岩または他の鉱物繊維、硬質ロッドポリマー繊維、並びにそれらの混合物およびブレンドが含まれる。本発明において有用な好ましい高強度繊維には、ポリオレフィン繊維(より好ましくは高靭性ポリエチレン繊維)、アラミド繊維、ポリベンズアゾ−ル繊維、グラファイト繊維、並びにそれらの混合物およびブレンドが含まれる。最も好ましいのは高靭性ポリエチレン繊維および/またはアラミド繊維である。
【0015】
米国特許第4,457,985号には、大まかに、そのような高分子量ポリエチレンおよびポリプロピレン繊維が開示されている(該特許文献の開示内容は矛盾のない範囲で参照により本明細書中に援用されるものとする)。ポリエチレンの場合、好適な繊維は、重量平均分子量が少なくとも約150,000、好ましくは少なくとも約1,000,000、より好ましくは約2,000,000〜約5,000,000のものである。そのような高分子量ポリエチレン繊維は溶液中で紡糸されてもよく(米国特許第4,137,394号および米国特許第4,356,138号参照)、または溶液から紡糸されてゲル構造を形成したフィラメントであってもよく(米国特許第4,413,110号、独国特許出願公開第3,004,699および英国特許第2051667号参照)、あるいはポリエチレン繊維は圧延および延伸プロセスによって製造されてもよい(米国特許第5,702,657号参照)。本明細書中に用いる「ポリエチレン」という用語は、主に線状のポリエチレンを意味し、主鎖炭素原子100当たり変性単位が約5以下の鎖枝分かれまたはコモノマーを少し含んでいても、そしてまたこれと混合した約50重量%以下の1種以上の高分子添加剤、例えばアルケン−1−ポリマー、特に低密度ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリブチレン、一次モノマーとしてモノオレフィンを含むコポリマー、酸化ポリオレフィン、グラフトポリオレフィンコポリマーおよびポリオキシメチレン、または低分子量添加剤、例えば一般に用いられる酸化防止剤、潤滑剤、紫外線遮断剤、着色剤等を含んでいてもよい。
【0016】
高靭性ポリエチレン繊維(伸び切り鎖ポリエチレン繊維または高分子量ポリエチレン繊維とも呼ばれる)が好ましく、これらは、例えば、SPECTRA繊維およびヤーンの登録商標(は登録商標を意味する)で米国、ニュージャージー州モリスタウンのハネウェル・インターナショナル社から入手することができる。
【0017】
形成技術、延伸比および温度、並びに他の条件により、様々な性質をこれらの繊維に付与することができる。ポリエチレン繊維の靭性は少なくとも約7g/d、好ましくは少なくとも約15g/d、より好ましくは少なくとも約20g/d、さらに好ましくは少なくとも約25g/d、最も好ましくは少なくとも約30g/dである。同様に、インストロン引張試験機で測定した初期引張モジュラスは、好ましくは少なくとも約300g/d、より好ましくは少なくとも約500g/d、さらにより好ましくは少なくとも約1,000g/d、最も好ましくは少なくとも約1,200g/dである。初期引張モジュラスおよび靭性のこれらの最高値は、溶液成長またはゲル紡糸法を用いることによってのみ一般に得ることができる。フィラメントの多くはそれらが形成されるポリマーの融点より高い融点を有する。従って、例えば、約150,000、約1,000,000および約2,000,000分子量の高分子量ポリエチレンのバルクでの融点は一般的には約138℃である。これらの材料でできた高延伸ポリエチレンフィラメントの融点は、約7〜約13℃以上高い。従って、融点のわずかな上昇は、バルクポリマーと比較して、フィラメントの結晶完全性およびより高い結晶配列を反映する。
【0018】
用いるポリエチレンは、炭素原子100個当たりのメチル基が約1個未満、より好ましくは約0.5個未満、そして他の構成要素が約1重量%未満のポリエチレンが好ましい。
同様に、重量平均分子量が少なくとも約200,000、好ましくは少なくとも約1,000,000、より好ましくは少なくとも約2,000,000の高延伸高分子量ポリプロピレン繊維を用いることができる。そのような伸び切り鎖ポリプロピレンは、上記の様々な文献、特に米国特許第4,413,110号に記載の技術によって無理なく十分に延伸されたフィラメントに形成されうる。ポリプロピレンはポリエチレンよりもはるかに結晶質が低く、そしてペンダントメチル基を含んでいるので、ポリプロピレンで達成される靭性値はポリエチレンの場合に相当する値よりも一般的にかなり低い。従って、好適な靭性は、好ましくは少なくとも約8g/d、より好ましくは少なくとも約11g/dである。ポリプロピレンの初期引張モジュラスは、好ましくは少なくとも約160g/d、より好ましくは少なくとも約200g/dである。ポリプロピレンの融点は一般的には延伸プロセスによって数度上昇し、ポリプロピレンフィラメントの主融点は、好ましくは168℃以上、より好ましくは170℃以上である。上記パラメーターの特に好ましい範囲は、最終製品の性能の改善を有利にもたらすことができる。上記パラメーター(モジュラスおよび靭性)の好ましい範囲と共に少なくとも約200,000の重量平均分子量を有する繊維を用いると、最終製品の性能の改善が都合よくもたらされる。
【0019】
伸び切り鎖ポリエチレン繊維の場合、ゲル紡糸ポリエチレン繊維の製造および延伸は様々な刊行物、例えば、米国特許第4,413,110号;第4,430,383号;第4,436,689号;第4,536,536号;第4,545,950号;第4,551,296号;第4,612,148号;第4,617,233号;第4,663,101号;第5,032,338号;第5,246,657号;第5,286、435号;第5,342,567号;第5,578,374号;第5,736,244号;第5,741,451号;第5,958,5,82号;第5,972,498号;第6,448,359号;第6,969,553号および米国特許出願公開第2005/0093200号に記載されており、これらの開示内容は矛盾のない範囲で参照により本明細書中に援用されるものとする。
【0020】
アラミド繊維の場合、芳香族ポリアミドから形成される好適な繊維は、例えば、米国特許第3,671,542号に記載されており、その開示内容は矛盾のない範囲で参照により本明細書中に援用されるものとする。好ましいアラミド繊維は少なくとも約20g/dの靭性、少なくとも約400g/dの初期引張モジュラスおよび少なくとも約8J/gの破断点エネルギーを有し、特に好ましいアラミド繊維は少なくとも約20g/dの靭性および少なくとも約20J/gの破断点エネルギーを有する。最も好ましいアラミド繊維は少なくとも約23g/dの靭性、少なくとも約500g/dのモジュラスおよび少なくとも約30J/gの破断点エネルギーを有する。例えば、中程度に高いモジュラスおよび靭性値を有するポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントは、弾道抵抗性複合材料の形成に特に有用である。それらの例は、テイジン社の1000のデニールを有するTwaronT2000である。他の例は、デュポン社の初期引張モジュラスおよび靭性の値がそれぞれ500g/dおよび22g/dのKevlar29、並びに400、640および840デニールで入手可能なKevlar129およびKM2である。他の製造業者からのアラミド繊維も本発明で用いることができる。ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)のコポリマー、例えば、コ−ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)も用いることができる。Nomexの登録商標でデュポン社が販売するポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)も本発明を実施する上で有用である。
【0021】
高い引張モジュラスを有する高分子量ポリビニルアルコール(PV−OH)繊維は、Kwon等の米国特許第4,440,711号(矛盾のない範囲で参照により本明細書中に援用されるものとする)に記載されている。高分子量PV−OH繊維は少なくとも約200,000の重量平均分子量を有していなければならない。特に有用なPV−OH繊維は、少なくとも約300g/dのモジュラス、少なくとも約10g/d、より好ましくは少なくとも約14g/d、最も好ましくは少なくとも約17g/dの靭性、および少なくとも約8J/gの破断点エネルギーを有していなければならない。そのような性質を有するPV−OH繊維は、例えば、米国特許第4,599,267号に記載の方法によって製造することができる。
【0022】
ポリアクリロニトリル(PAN)の場合、PAN繊維は少なくとも約400,000の重量平均分子量を有していなければならない。特に有用なPAN繊維は、好ましくは少なくとも約10g/dの靭性および少なくとも約8J/gの破断点エネルギーを有していなければならない。少なくとも約400,000の分子量、少なくとも約15〜20g/dの靭性および少なくとも約8J/gの破断点エネルギーを有するPAN繊維が最も有用である(そのような繊維は、例えば、米国特許第4,535,027号に開示されている)。
【0023】
本発明の実施に適した液晶コポリエステル繊維は、例えば、米国特許第3,975,487号;第4,118,372号および第4,161,470号に開示されている。液晶コポリエステル繊維はクラレ・アメリカ社からVectran繊維の登録商標で入手することができる。
【0024】
本発明の実施に適したポリベンズアゾ−ル繊維は、例えば、米国特許第5,286,833号;第5,296,185号;第5,356,584号;第5,534,205号および第6,040,050号に開示されている。ポリベンズアゾ−ル繊維は東洋紡績株式会社からZylon繊維の登録商標で入手することができる。
【0025】
硬質ロッド繊維は、例えば、米国特許第5,674,969号;第5,939,553号;第5,945,537号および第6,040,478号に開示されている。そのような繊維はマゼラン・システムズ・インターナショナル社からM5繊維として入手することができる。
【0026】
好ましくは、繊維の網状構造中の繊維は、高靭性ポリオレフィン繊維(より好ましくは高靭性ポリエチレン繊維)、アラミド繊維、PBO繊維、グラファイト繊維およびそれらのブレンドよりなる群から選択される。
【0027】
本発明の複合材料において用いられる繊維の網状構造は、織った、編んだ、不織、編組、紙または他のタイプの高靭性繊維から形成される布帛の形をとりうる。布帛中の繊維の好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%は高靭性繊維であり、最も好ましくは布帛中の繊維の全部または実質的に全部が高靭性繊維である。
【0028】
本発明の様々な繊維層に有用なヤーンは、任意の好適なデニールをとりことができ、各層におけるデニールは同じでも異なっていてもよい。例えば、ヤーンは約50〜約3000のデニールであってもよい。選択は、弾道効果、他の望ましい性質およびコストを考慮することによって決定される。織布の場合、より細いヤーンは製造および製織のコストがより多くかかる、単位重量当たりの弾道効果をより大きくすることができる。ヤーンは約200〜約3000デニールであるのが好ましい。より好ましくは、ヤーンは約400〜約2000デニールである。最も好ましくは、ヤーンは約500〜約1600デニールである。
【0029】
織布を用いるならば、それは平織、バスケット織、綾織、スタチン織、三次元織の布帛、およびそれらのいくつかの変形したものであってもよい。平織およびバスケット織布が好ましく、縦糸および横糸打込数が同じであるそのような布帛がより好ましい。布帛は、縦糸および横糸方向にまたは他の方向に異なる繊維またはヤーンで織られていてもよい。
【0030】
編み布帛に関しては、これらはかみ合いループからなる構造であり、4つの主要なタイプはトリコット、ラシェル、ネットおよび延伸構造である。ループ構造の性質のために、最初の3種類の編物は、繊維の強度を十分に利用していないため、適していない。しかしながら、延伸編み構造は細いデニール編目によって適所に保持される真っ直ぐなはめ込みヤーンを用いる。ヤーンは完全に真っ直ぐであり、ヤーンのからみ合い効果による織布に見られるクリンプ効果はない。ヤーンのこれらの重ね合わせ(laid)は工学的な要求に基づいて1軸、2軸または多軸方向に延伸することができる。耐力ヤーンの重ね合わせに使用される特殊な編み機は、ヤーンが突き抜けないようなものが好ましい。
【0031】
好ましいタイプの不織布は一方向延伸布帛である。公知のように、そのような構成において、一方向延伸布帛は実質的に共通の繊維方向に沿って互いに並行に配列されている。一方向延伸布帛は、製品にいくらかの横方向安定性をもたらす少量の材料を含んでいてもよい。そのような材料は、いずれも高靭性材料ではない繊維、ヤーンまたは接着ヤーン、あるいは一方向延伸布帛の長さに沿って間隔をおいて配置されるが、該方向に対して斜めに伸びてよい樹脂、接着剤、フィルム等の形をとり得る。そのような材料は、存在するならば、不織布の総重量の最大約10重量%、より好ましくは約5重量%を構成しうる。
【0032】
そのような一方向不織布は一般的には多層の状態で用いられ、一つの層の繊維は一方向に伸びており、隣接層の繊維は第1層の繊維の方向に対して斜めに伸びている。例えば、連続する層は互いに、例えば、0°/90°、0°/90°/0°/90°、0°/45°/90°/45°/0°または別の角度で回転していてもよい。
【0033】
1軸不織布は様々な方法によって製造することができる。好ましくは、高靭性フィラメントのヤーン束はクリールから供給され、そしてガイドを通してコリメート用コームへ導かれる。コリメート用コームはフィラメントを同一平面上に、実質的に一方向に並べる。次に、繊維は、塗布装置に含まれていても、あるいは塗布装置の前または後に置かれていてもよい、1つ以上のスプレダーバーに導かれる。
【0034】
本発明に使用できる別の種類の不織布は、フェルトの形、例えばニードルパンチドフェルトのような布帛である。フェルトは、好ましくは少なくとも1つは不連続繊維、好ましくは約0.25インチ(0.64cm)〜約10インチ(25cm)の長さのステープルファイバーである、不規則に延伸された繊維の不織網状構造である。これらのフェルトは本技術分野で公知のいくつかの技術、例えばカーディングまたは流動レイイング、メルトブローイングおよびスピンレイイングによって形成することができる。繊維の網状構造は、機械的に、例えばニードルパンチング、ステッチボンディング、ハイドロインタングルメント、エアーインタングルメント、スパンボンド、スパンレース等によって、化学的に、例えば接着剤で、あるいは熱的に、ポイント結合繊維またはより低い融点を有するブレンド繊維で圧密化される。
【0035】
ペーパー布帛は、例えば、高靭性繊維を含有する液体をパルプにすることによって形成することができる。
好ましくは、高靭性繊維の網状構造からなる複数の層が用いられる。1つの例では、2層複合材料が形成される。別の例では、4層複合材料が形成される。本技術分野で公知のとおり、多層の複合材料またはプリプレグは弾道抵抗性製品の形成に使用することができる。
【0036】
本発明の高靭性繊維網状構造は、以下でさらに詳述するように、本発明のマトリックス樹脂組成物で塗布される。本明細書中の「塗布」という用語は、個別の繊維が、該繊維を取り囲むマトリックス組成物の連続層を有するか、あるいは該繊維表面にマトリックス組成物の不連続層を有するような繊維網状構造を記載ように広い意味で用いられる。前者の場合、繊維はマトリックス組成物に完全に埋め込まれていると言える。塗布および含浸という用語は本明細書中では同義語として用いられる。
【0037】
繊維の網状構造は、任意の望ましい方法で塗布することができる。例えば、マトリックス樹脂は、吹付け、含浸、ローラー塗布、ホットメルト塗布等によって塗布することができる。繊維の網状構造はマトリックス樹脂で塗布するのが好ましいが、その代わりに又はそれに加えて、個々の繊維またはヤーンをマトリックス樹脂で塗布してもよい。
【0038】
本発明では、高靭性繊維の網状構造と共に用いられるマトリックス樹脂は、室温で半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、ポリウレタン樹脂は水性媒質中にある。樹脂組成物は水性媒質中にあり、ポリウレタン樹脂の水性分散液、エマルジョンまたは溶液の形をとり得る。そのような樹脂は、非晶質熱可塑性ポリウレタン樹脂と比べたとき改善された弾道特性を有する弾道製品を提供することが分った。本発明で用いる樹脂は非晶質樹脂ではなく結晶性樹脂であり、より正確には半結晶性樹脂である。
【0039】
そのような半結晶性熱可塑性ポリウレタン樹脂は、これまで提案されてきた非晶質ポリウレタン樹脂とは全く異なる。非晶質熱可塑性ポリウレタン樹脂は、結晶化度がほぼゼロの樹脂である。半結晶性ポリウレタン樹脂は少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約20%、さらに好ましくは少なくとも約30%、最も好ましくは少なくとも約40%の結晶化度を有する。これらの結晶化度は、ポリウレタン樹脂の乾燥試料またはポリウレタン樹脂の薄い成形フィルムの測定に基づくものである。
【0040】
熱可塑性樹脂の結晶化度はX線回折(XRD)分析を用いて測定するのが好ましい。示差走査熱量計(DSC)のような他の分析方法も用いることができる。DSCによる結晶化度測定値はXRDによる測定値よりもいくらか低いかもしれない。複合材料製品の結晶化度は、複合材料における他成分の結晶化度の影響等により、フィルム形のポリウレタン樹脂の結晶化度よりも高い場合又は低い場合がある。
【0041】
本発明に用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は特定の性質で特徴づけられる。これらの性質には、引張モジュラス(伸び率100%のとき)、引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および極限引張り強さが含まれる。これらの樹脂の有利な性質には破断点伸びおよびショアーA硬度が追加される。
【0042】
引張モジュラス(伸び率100%のとき)については、本発明に有用なポリウレタン樹脂は少なくとも約500psi(3.45MPa)、好ましくは少なくとも約1000psi(6.89MPa)、より好ましくは少なくとも約1100psi(7.58MPa)、最も好ましくは少なくとも約1200psi(8.27MPa)のそのようなモジュラスを有する。
【0043】
また、引張モジュラス(伸び率300%のとき)については、本発明に用いられるポリウレタンは少なくとも約500psi(3.45MPa)、好ましくは少なくとも約1000psi(6.89MPa)、より好ましくは少なくとも約1100psi(7.58MPa)、最も好ましくは少なくとも約1200psi(8.27MPa)の引張モジュラスを有する。
【0044】
熱可塑性ポリウレタンはまた少なくとも約2000psi(13.78MPa)、好ましくは少なくとも約4000psi(27.56MPa)、より好ましくは少なくとも約5000psi(34.45MPa)、最も好ましくは少なくとも約5500psi(37.90MPa)のそのような極限引張強さを有する。
【0045】
そのような結晶性ポリウレタン樹脂の他の望ましい性質には、少なくとも約500%、好ましくは少なくとも約600%、より好ましくは少なくとも約650%、最も好ましくは少なくとも約700%の破断点伸びが含まれる。
【0046】
乾燥時のポリウレタン樹脂は、ショアーA硬度スケールで測定したとき、比較的高い硬度を有する。ポリウレタン樹脂は、室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき、少なくとも約60のショアーA硬度を有することが好ましい。室温で60分間再結晶化を行った後に測定したときのポリウレタンのショアーA硬度は少なくとも80であることがより好ましい。
【0047】
ショアーA硬度を測定するには、ポリウレタン樹脂のフィルムを80℃で60分間加熱してフィルムを脱結晶化させ、その後、フィルムを60分間室温に冷却させる。
本発明に用いられるポリウレタン組成物は、一定の範囲の固形分を有する。例えば、固形分は約20〜約80重量%、好ましくは約30〜約70重量%、より好ましくは約40〜約60重量%であり、残部は水である。充填剤、粘度調節剤等の添加剤が樹脂組成物に含まれていてよい。
【0048】
複合材料層中の樹脂マトリックス材料対繊維の割合は、最終用途に応じて広い範囲を変動し得る。樹脂マトリックス材料は、複合材料(繊維および樹脂マトリックス)の総重量に基づき、好ましくは約1〜約98重量%、より好ましくは約5〜約95重量%、さらにより好ましくは約5〜約40重量%、最も好ましくは約10〜約25重量%である。
【0049】
塗布後、塗布繊維層を乾燥のためにオーブンに通し、そこで塗布繊維網状構造層(単層または複数層)を十分に加熱してマトリックス組成物中の水を蒸発させる。次に、塗布繊維網状構造を紙でもフィルム支持体でもよいキャリーウェッブ上に置いてよく、あるいはマトリックス樹脂で塗布する前に布帛をまずキャリーウェッブ上に置いてもよい。その後、支持体および樹脂マトリックス含有布帛層(単層または複数層)は公知のように連続ロールに巻き取ることができる。
【0050】
布帛層(単層または複数層)を樹脂マトリックスで塗布した後、層を公知の方法で圧密してプレプレグを形成するのが好ましい。「圧密(化)」とは、マトリックス材料および繊維網状構造層を合わせて単一の分割できない層にすることを意味する。圧密は乾燥、冷却、加熱、加圧またはそれらの組み合わせにより生じる。
【0051】
好ましくは、本発明の複合材料は、例えば2層クロスプライ構造のような、一対の層とみなし得る少なくとも2層の繊維圧密化網状構造を有する。複数のそのような層は弾道抵抗性複合材料を形成することができる。別の態様では、4層の繊維圧密化網状構造が用いられ、例えば4層は交互にクロスプライされる。繊維圧密化網状構造の層の総数は、製造される製品の種類、望ましい性能および望ましい重量に応じて広い範囲を変動し得る。例えば、層の数は約2〜約500層、より好ましくは約4〜約200層、最も好ましくは約10〜約60層である。層は任意の好適な厚さをとり得る。例えば、複数の繊維層部分の各層は約1〜約40ミル(25〜1016μm)、より好ましくは約1〜約30ミル(25〜762μm)、最も好ましくは約2〜約20ミル(51〜508μm)の厚さでありうる。
【0052】
製品の繊維層は化学的に同一種類の繊維から形成されるのが好ましいが、2種以上の繊維ブレンドの繊維網状構造、並びに異なる種類の繊維の網状構造を含むことも可能である。例えば、クロスプライ構造の1つの層における繊維が1種類の繊維、例えば高靭性ポリエチレン繊維で形成され、隣接層の繊維が化学的に異なる種類の繊維、例えばアラミド繊維から形成されていてもよい。
【0053】
複合弾道布帛構造物は、表面にプラスチックフィルムが付着していないことが好ましい。また、弾道抵抗性複合材料は、上記のような大部分が結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂中における高靭性繊維の少なくとも1つの圧密化網状構造から本質的になる、あるいはこれからなるのが好ましい。
【0054】
米国特許第5,690,526号は、水性タイプの熱可塑性ポリウレタンから形成される複合構造物を示唆する点が注目される。該ポリウレタンの製造業者は該ポリウレタンを非晶質材料として記載している。また、WO00/29468には、上記米国特許第5,690,526号のものよりさらに非晶質であり、かつそれから形成される製品の裏面変形を改善すると言われるポリウレタンの使用が開示されている。
【0055】
上記米国特許第5,690,526号に開示されているポリウレタンは、約190〜250psi(1311〜1725kPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)および約375〜450psi(2587〜3105kPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)を有すると記載されている。米国特許第5,690,526号に開示されている特定の樹脂(Dispercoll U−42)は、その製造業者によって530psi(3.66MPa)の極限引張強さを有すると説明されている。米国特許第5,690,526号に開示されている樹脂の引っ張りモジュラスおよび極限引張強さの値は、本発明で用いられる樹脂の極限引張強さよりもかなり低いことが分かる。さらに、Dispercoll U−42は、室温で60分間再結晶化を行った後に測定した場合、約39のショアーA硬度を有するとその製造業者は説明している。この硬度もまた、本発明に用いられる樹脂の硬度よりかなり低い。上記米国特許第5,690,526号に開示されている樹脂の破断点伸びが、少なくとも約650〜約1000%である点も注目されている。
【0056】
強化された弾道特性は、上記刊行物によって提案されている非晶質ポリウレタンとは全く異なり、大部分が結晶性である熱可塑性ポリウレタンを用いるときに得られることが意外にも見出された。
【0057】
同時係属中の同一出願人による米国特許出願第11/213,253号(2005年8月26日付)には、耐液体吸収性であり、かつ樹脂マトリックスとして熱可塑性ポリウレタンを用いる柔軟な弾道抵抗性複合材料が開示されているが、本発明で用いられる大部分が結晶性であるポリウレタン樹脂については記載されていない。
【0058】
PCT国際公開第2000/29468号には、非晶質ポリウレタンが使用されているポリウレタン複合材料が開示されている。
本発明の複合材料布帛は、様々な弾道抵抗性製品、例えば車両パネル、胸当て(セラミック仕上げ有り又はセラミック仕上げ無し)、軍隊および警察用ヘルメット、盾、可動弾道壁および仕切り、ブリーフケース、スポールライナー等に用いることができる。複合材料布帛は車両保護プレート(陸、海および/または空軍輸送手段)に特に有用である。
【0059】
本発明のさらなる理解のために以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。本発明の原理を説明するために示す特定の技術、条件、材料、割合および記録データは例示であって、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0060】
実施例1(比較例)
4層の不織複合材料を、一方向延伸1300デニール高靭性ポリエチレンヤーン(ハネウエル・インターナショナル社のSpectra1000)から形成した。ユニテープは、繊維を、クリールからコーミング・ステーションに通して一方向網状構造を形成することによって製造した。次に、繊維網状構造をキャリヤーウェッブ上に置き、繊維をスチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマーマトリックス樹脂(ヘンケル社のPrinlinB7137HV)で塗布した。
【0061】
次に、塗布繊維網状構造をオーブンに通して組成物中の水を蒸発させ、そしてキャリヤーウェッブを取り除きながら、ロールに巻き取った。得られた構造は、複合材料の総重量に基づいて、約16重量%のマトリックス樹脂を含んでいた。一方向繊維プリプレグの4つの連続ロールをこのような手順で製造し、4つのユニテープを、0°/90°/0°/90°圧密ロールを形成するようにクロスプライさせた。12×12インチ(30.5×30.5cm)のこの材料のパネルを用いて複合構造物を形成した。
【0062】
この4層製品の合計68層を油圧のマッチドダイ金型に入れ、温度240°F(115.6℃)、成形圧500psi(3.43MPa)で20分間成形した。形成されたラミネートは実質的に平らな形状であった。成形後、ラミネートを室温に冷却した。
【0063】
パネルをM80ボール(7.62×51mm)を用いて弾道性について試験した。パネルは3.5ポンド/フィート(17.2kg/m)の重量を有し、厚さ5インチ(12.7cm)のPlastilina#1クレー上で試験した。試験はMIL−STD662Eに従って行った。結果を以下の表1に示す。
【0064】
実施例2(比較)
本実施例では、実施例1と同じ種類の繊維について弾道性について試験したが、繊維は上記米国特許出願第11/213,253号の実施例1に記載の樹脂で塗布した。マトリックス樹脂は熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、その製造業者によると23℃での相対密度1.05g/ccおよび23℃での粘度40cpsを有する、水中のポリウレタン樹脂のコポリマーミックス(40〜60%樹脂)である。マトリックス樹脂は乾燥時に複合材料の約16重量%を構成していた。
【0065】
この材料のパネルも実施例1と同じ種類の発射体を用いてそれらの弾道性能について試験した。結果を以下の表1に示す。
実施例3
マトリックス樹脂が水性分散液中の半結晶性熱可塑性ポリウレタン樹脂(バイエル社のDispercoll U53)であった以外は、実施例1を繰り返した。乾燥時のポリウレタン樹脂の性質は次の通りである:引っ張りモジュラス(伸び率100%のとき)1230psi(8.47MPa)、引っ張りモジュラス(伸び率300%のとき)1340psi(9.23MPa)、極限引張り強さ5610psi(38.65MPa)、および破断点伸び710%。さらに、室温で60分間再結晶化を行った後、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料のショアーA硬度は約92である。水性分散液中の樹脂含有率は40重量%であった。
【0066】
乾燥時、マトリックス樹脂は同様に得られた複合材料の約16重量%を構成していた。
空気中で乾燥したU53の試料の結晶化度は、XRDおよびDSC分析によって測定した。
【0067】
XRD分析では、樹脂のXRDパターンは、Cu Kα輻射線を用いるパラフォーカス配置のPhilips PW3710回折装置を使用して測定した。回折パターンは、5つの結晶性ピークおよび1つの非晶質ピークを用いるSHADOWプログラムで10°〜30°のピークフィッティングにかけた。結晶化度は総正味散乱で除した結晶性ピーク面積の合計を用いて計算した。結晶化度(結晶度)は44%であることが分った。
【0068】
DSC分析では、U53乾燥樹脂の試料(5mg)をカット/ノークリンプ法およびPE A1パンを用いて製造し、Seiko RDC 220 DSCを使用して流動窒素雰囲気中で分析した。試料は室温から195℃に20℃/分で加熱し、約−140℃に10℃/分で冷却し、次に200℃に10℃/分で再加熱した。測定された結晶化度は36〜39%であった。
【0069】
この材料のパネルも実施例1と同じ種類の発射体を用いてそれらの弾道性能について試験した。結果を以下の表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
マトリックス樹脂が半結晶性ポリウレタンである複合材料は、以前から使用されているポリウレタンマトリックス樹脂で形成された複合材料よりも、M80ボール発射体での弾道特性が有意に改善され、また以前から使用されているスチレン−イソプレン−スチレンマトリックス樹脂で形成された複合材料よりも、M80ボール発射体での弾道特性が有意に改善されたことが分かる。結晶性で、高モジュラス、高硬度の樹脂が最も高い弾道抵抗性をもたらす。
【0072】
上記米国特許第5,690,526号の実施例4が、該特許に220psiの引張モジュラス(伸び率100%のとき)および410psiの引張モジュラス(伸び率300%伸びのとき)を有すると記載されているDispercoll U42樹脂を用いて同様の弾道データを示している点が注目されている。実施例4で試験した3つのパネルの平均面密度は3.88psf(上記実施例3における3.5psfに対して)である。該特許の実施例4中、V50が2837フィート/秒であるというデータ(同じ種類の発射体を用いる)が報告されている。上記実施例3のより高い204のSEATに対し、SEATは190である。SEATは、C×(V50/1000)/面密度として計算され、ここで、V50はfps単位で測定され、面密度はpsf単位で測定され、そしてCは0.61×発射体の質量(グレン)に等しい定数である。M80ボールの場合、Cは91.5である。該特許の実施例5には、はるかに高い面密度パネル(平均4.87psf)の試験結果が報告されている。従って、本発明による半結晶性ポリウレタン樹脂は非晶質ポリウレタン樹脂と比べて改善された弾道性能をもたらすことが分かる。
【0073】
上記国際公開第WO2000/29468号の記載と対照的に、U42樹脂は製造業者によると非晶質樹脂である。U42ポリウレタン樹脂の結晶化度も、空気中で乾燥させた樹脂の試料から測定した。実施例3で用いた回折装置を用いたXRD分析で、U42樹脂は結晶性ピークがなく非晶質(基本的に0%の結晶化度)であった。DSC分析で、U42ポリウレタン樹脂が非晶質であることを確認した。従って、該国際公開の記載とは異なり、U42樹脂は実際に非晶質樹脂である。
【0074】
実施例4(比較)
実施例1を繰り返し、重量3.6ポンド/フィート(17.6kg/m)のパネルをAK−47弾丸(7.62×39mm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表2に示す。
【0075】
実施例5(比較)
実施例2を繰り返し、重量3.6ポンド/フィート(17.6kg/m)のパネルをAK−47弾丸(7.62×39mm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表2に示す。
【0076】
実施例6
実施例3を繰り返し、重量3.6ポンド/フィート(17.6kg/m)のパネルをAK−47弾丸(7.62×39mm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
マトリックス樹脂が半結晶性ポリウレタンである複合材料は、以前から使用されているポリウレタンマトリックス樹脂から形成された複合材料および以前から使用されているスチレン−イソプレン−スチレンマトリックス樹脂から形成された複合材料よりも、AK47弾丸(変形可能なスキン層に強度の低いスチール防護製品貫通体を有する高エネルギー発射体である)での弾道特性が有意に改善されることが分かる。
【0079】
実施例7(比較)
実施例1を繰り返し、重量が4.0ポンド/フィート(19.6kg/m)のパネルをRussian Dragnov弾丸(7.62×54Rmm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表3に示す。
【0080】
実施例8(比較)
実施例2を繰り返し、重量が4.0ポンド/フィート(19.6kg/m)のパネルをRussian Dragnov弾丸(7.62×54Rmm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表3に示す。
【0081】
実施例9
実施例3を繰り返し、重量が4.0ポンド/フィート(19.6kg/m)のパネルをRussian Dragnov弾丸(7.62×54Rmm)に対する弾道性能について試験した。結果を以下の表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
マトリックス樹脂が半結晶性ポリウレタンである複合材料は、以前から使用されているポリウレタンマトリックス樹脂から形成された複合材料および以前から使用さられているスチレン−イソプレン−スチレンマトリックス樹脂で形成された複合材料よりも、Russian Dragnov弾丸発射体(変形しうる外側のスキン層に強度の低いスチール貫通体を有する)での弾道特性が有意に改善されることが分かる。
【0084】
実施例10
ポリウレタン樹脂としてバイエル社のDispercollU54を用いて実施例3を繰り返す。この樹脂は結晶質ポリウレタンとみなされており、以下の特性を有する:引張モジュラス(伸び率100%のとき)1140psi(7.85MPa)、引張モジュラス(伸び率300%のとき)1150psi(7.92MPa)、極限引張強さ5610psi(38.52MPa)、および破断点伸び820%。さらに、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は、室温で60分間再結晶化を行った後に測定して、約95のショアー硬度を有する。ポリウレタンは水性分散液の状態であり、固形分は約50重量%であり、残部は水である。パネルを弾道性能について試験すると、同様の結果が得られる。
【0085】
実施例11
ポリウレタン樹脂としてバイエル社のDispercollU56を用いて実施例3を繰り返す。この樹脂は結晶質ポリウレタンとみなされており、以下の特性を有する:引張モジュラス(伸び率100%のとき)1140psi(7.85MPa)、引張モジュラス(伸び率300%のとき)1140psi(7.85MPa)、極限引張強さ4060psi(27.97MPa)、および破断点伸び860%。さらに、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は、室温で60分間再結晶化を行った後に測定して、約95のショアー硬度を有する。ポリウレタンは水性分散液の状態であり、固形分は約50重量%であり、残部は水である。パネルを弾道性能について試験すると、同様の結果が得られる。
【0086】
このように本発明は、硬質防護製品に特に有用な弾道抵抗性複合材料を提供する。水性分散液から塗布される半結晶性ポリウレタンマトリックス樹脂の存在は、数タイプのの発射体に対する弾道抵抗性を強化する。ここで用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は必要な剛性を提供し、その結果、それらは硬質防護製品に効果的に使用され、各種発射体の脅威からの望ましい保護を実現することができる。本発明の複合材料は、スチール貫通体が埋め込まれたものを含む発射体に対してすぐれた遮断力を有する製品を提供することが分かる。
【0087】
本発明をかなり詳細に説明してきたが、このような詳細な事項に厳密に忠実である必要はなく、当業者であれば考え付く変更や改変がすべて特許請求の範囲に規定される本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質防護製品に有用な弾道抵抗性複合材料であって、該複合材料は熱可塑性マトリックス材料中における高靭性繊維の少なくとも1つの圧密化網状構造を含み、該熱可塑性マトリックス材料は室温で半結晶性の熱可塑性ポリウレタン樹脂を含み、該高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有し、ここで、圧密前に該マトリックス材料は水性媒体中の該ポリウレタン樹脂を含み、乾燥時の該ポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する、上記の弾道抵抗性複合材料。
【請求項2】
複合材料が、高靭性繊維からなる複数の圧密化網状構造を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項3】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が、少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約4000psi(27.56MPa)の極限引張り強さを有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項4】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が少なくとも約1100psi(7.58MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1100psi(7.58MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約5000psi(34.45MPa)の極限引張り強さを有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項5】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が少なくとも約1200psi(8.27MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1200psi(8.27MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約5500psi(37.90MPa)の極限引張り強さを有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項6】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が少なくとも約600%の破断点伸びを有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項7】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が、室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき、少なくとも約60のショアーA硬度を有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項8】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が、室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき、少なくとも約80のショアーA硬度を有する、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項9】
高靭性繊維の網状構造が不織布を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項10】
不織布が一方向延伸不織布を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項11】
高靭性繊維の網状構造が織布を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性複合材料。
【請求項12】
形成後、ポリウレタン樹脂が複合材料の重量に基づいて約10〜約25重量%の量で存在する、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項13】
高靭性繊維が、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンズアゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、玄武岩または他の鉱物繊維、硬質ロッドポリマー繊維、並びにそれらのブレンドよりなる群から選択される、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項14】
高靭性繊維が、高靭性ポリエチレン繊維、アラミド繊維、PBO繊維、グラファイト繊維およびそれらのブレンドよりなる群から選択される、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項15】
高靭性繊維が、高靭性ポリエチレン繊維および/またはアラミド繊維を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項16】
繊維の圧密化網状構造の隣接層同士が斜めになるように配置されている、請求項2に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項17】
複数の圧密化網状構造が圧密化網状構造の2プライ構造を含む、請求項2に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項18】
複数の圧密化網状構造が4プライ構造の圧密化網状構造を含む、請求項2に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項19】
圧密材料が約10〜約60層の繊維の圧密化網状構造を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項20】
圧密前は、マトリックス材料がポリウレタン樹脂の水性分散液を含む、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項21】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が少なくとも約30%の結晶化度を有する、請求項1に記載の弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項22】
請求項1の複合材料から形成された車両保護プレート。
【請求項23】
硬質防護製品の形成に有用な予備含浸部材であって、該予備含浸部材は、室温で半結晶性である熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む熱可塑性マトリックス材料中における高靭性繊維網状構造の少なくとも2つの圧密隣接層を含み、高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有し、ここで、圧密前に該マトリックス材料は水性媒体中のポリウレタンを含み、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する、予備含浸部材。
【請求項24】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約4000psi(27.56MPa)の極限引張り強さを有する、請求項23に記載の予備含浸部材。
【請求項25】
硬質防護製品に有用な弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料であって、該製品は熱可塑性マトリックス材料中における高靭性繊維の少なくとも1つの圧密化網状構造を含み、該熱可塑性マトリックス材料は室温で半結晶性である熱可塑性ポリウレタン樹脂を含み、該高靭性繊維は高靭性ポリエチレン繊維を含み、該高靭性繊維の網状構造は一方向延伸不織布を含み、ここで、圧密前に該マトリックス材料は水性媒体中の該ポリウレタン樹脂を含み、乾燥時の該ポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約1000psi(6.89MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、少なくとも約4000psi(27.56MPa)の極限引張り強さ、および室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき、少なくとも約60のショアーA硬度を有する、弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料。
【請求項26】
硬質防護製品に有用な弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料を形成する方法であって、
高靭性繊維の少なくとも1つの網状構造を用意すること、ここで、高靭性繊維は少なくとも約7g/dの靭性を有する;
高靭性繊維の網状構造に、水性媒質中の熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス材料を塗布すること、ここで、ポリウレタン樹脂マトリックス材料は室温で半結晶性であり、乾燥時のポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する;そして
得られた高靭性繊維の網状構造および熱可塑性ポリウレタンマトリックス樹脂の組み合わせを圧密させること
を含む弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料の形成方法。
【請求項27】
高靭性繊維の網状構造が不織布を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
高靭性繊維の複数の網状構造を用意すること、および繊維の網状構造同士が斜めになるように配置することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
不織布が一方向延伸不織布を含み、且つ、高靭性繊維が高靭性ポリエチレン繊維および/またはアラミド繊維を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料中に高靭性繊維の圧密化網状構造を含む弾道抵抗性弾道抵抗性複合材料の弾道抵抗性弾道抵抗性を改善する方法であって、高靭性繊維が少なくとも約7g/dの靭性を有し、該方法が、
熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料として水性媒質中の熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス材料を用いること(ここで、熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス材料は室温で半結晶性であり、乾燥時の熱可塑性ポリウレタンマトリックス材料は少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率100%のとき)、少なくとも約500psi(3.45MPa)の引張モジュラス(伸び率300%のとき)、および少なくとも約2000psi(13.78MPa)の極限引張り強さを有する。)
を含む方法。
【請求項31】
乾燥時のポリウレタンマトリックス材料が、室温で60分間再結晶化を行った後に測定したとき、少なくとも約60のショアーA硬度を有する、請求項30に記載の方法。

【公表番号】特表2011−504940(P2011−504940A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520132(P2010−520132)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/071486
【国際公開番号】WO2009/048674
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】