説明

磁場中成形装置、金型

【課題】より均等な磁場環境下で成形を行って、磁気特性、寸法精度を低下させることなく磁石を複数個取りで得ることのできる磁場中成形装置、金型を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の同心円上にキャビティ100を配することで、リング状の磁石の複数個取りを可能とする。そして、リング状の磁性体90を、磁場中心に近い同心円上のキャビティ100よりも磁場中心から遠い同心円上のキャビティ100に近い位置に設け、磁場中心からの距離が異なる複数の同心円上で、キャビティ100に作用する磁場強度との均等化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場中成形装置、金型に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト磁石やサマリウムコバルト系磁石、ネオジウム−鉄−硼素系磁石等の焼結磁石において、リング状、筒状(以下、単にリング状と称する)の形状を有したものがある。このようなリング状の磁石は、モータ等をはじめとする各種電気部品に用いられている。
近年の各種電気部品の小型化の要求、およびこれに対応した磁石の特性向上に伴い、磁石の小型化、薄形化、薄肉化が進んでいる。
【0003】
従来、このようなリング状の磁石を形成する場合、図7に示すように、磁石の外形形状を形成する臼型(ダイ)1、内形形状を形成する中棒(コア)2、磁石の上下面を形成する上パンチ3および下パンチ4から形成された金型5を用いる。そして、これら臼型1、中棒2、上パンチ3、下パンチ4によって囲まれて形成されるキャビティ6内に磁性粉末を充填し、上パンチ3と下パンチ4で磁性粉末に圧力を加えることで、リング状の磁石を形成している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−232134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リング状の磁石を量産するにあたり、その生産効率を高めるには、一つの金型から複数のリング状の磁石を得る、いわゆる複数個取りの金型を用いるのが好ましい。
リング状の磁石は、形成時におけるその磁化配向方向により、等方性、2極異方性、放射状異方性、多極異方性等があるが、上下のパンチによる加圧方向と平行な方向の磁場を印加して磁化配向を行う、いわゆる縦磁場成形の場合、複数個取りが特に困難であるという課題がある。これは、縦磁場成形の場合、金型5の外周側に配置したコイル11により反発磁界が形成され、その磁界の中心が金型5の中心部に合致するよう、コイル11が設けられる。このため、磁界の中心からの距離に応じ、磁場強度が変化するため、横磁場成形の場合のように、任意の位置にキャビティ6を形成することができず、これが複数個取りを困難にしているのである。複数のキャビティ6間で印加する磁場強度に差があると、得られる磁石の磁気特性のバラつきが大きくなるのである。また、キャビティ6内に磁性粉末を充填するとき、コイル11で磁場を印加し、その磁力を用いて磁性粉末をキャビティ6内に吸引充填する、いわゆる磁場充填も行われている。この場合に、複数のキャビティ6間で印加する磁場強度に差があると、キャビティ6に充填される磁性粉末の量にバラつきが生じ、最終的に形成される磁石の寸法(大きさ、重量)精度に悪影響を及ぼす。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、磁石を複数個取りし、磁気特性のばらつきの少ない磁石を得ることのできる磁場中成形装置、金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明の磁場中成形装置は、成形すべき成形体の外形形状に応じた孔を複数有した臼型と、臼型に対し孔の中心軸方向に沿って相対移動可能とされた下パンチと、臼型の孔に上側から挿入可能とされ、孔内で下パンチと対向するよう昇降可能に設けられた上パンチと、臼型の外周部に設けられ、臼型、下パンチおよび上パンチに囲まれたキャビティに、孔の中心軸に平行な方向の磁界を印加するコイルと、を備え、臼型に形成された複数の孔は、コイルによって印加される磁界の中心に対し、第一の距離を隔てて位置する複数の孔からなる第一の孔群と、磁界の中心に対し第一の距離より大きい第二の距離を隔てて位置する複数の孔からなる第二の孔群とを有し、コイルによって第一の孔群に作用する磁界の強度と、第二の孔群に作用する磁界の強度とを略等しくする磁場補正部材が設けられていることを特徴とする。このような磁場補正部材は、第二の孔群の外周側に設けた磁性体によって実現することができる。
このように、第一の孔群、第二の孔群のそれぞれにおいては、磁界の中心からの距離を等しくすることで、第一の孔群、第二の孔群を構成する複数の孔は、それぞれ、磁界の中心を基準とし、第一の距離、第二の距離を半径とした同心円上に配置されることになり、各孔に作用する磁界の強度を一定にできる。そして、磁場補正部材により、第一の孔群に作用する磁界の強度と、第二の孔群に作用する磁界の強度とを略等しくすることで、臼型に形成された複数の孔に作用する磁界の強度の均一化を図るのである。
なお、第一の孔群、第二の孔群を構成する複数の孔は、第一の距離、第二の距離を半径とした同心円上に、等間隔に配置するのが好ましい。
なお、上記のような孔群は、第一の距離、第二の距離からなる二重の同心円に限らず、三重以上の同心円に配置しても良い。その場合であっても、三重以上の同心円のうち、互いに磁界の中心からの距離が異なる任意の二つの同心円について、本発明を適用することができる。
また、第一の孔群を構成する複数の孔と、第二の孔群を構成する複数の孔は、磁界の中心を基準として互いに周方向にオフセットして配置し、第一の孔群を構成する孔と第二の孔群を構成する孔とが、磁界の中心を通る同一直線上に並ばないようにするのが好ましい。
【0007】
ところで、磁場中成形装置では、形成すべき磁石に応じ、その形状に対応した金型を磁場中成形装置にセットして成形を行う。すなわち、成形すべき磁石の形状、寸法が変わる毎に、金型を交換する作業、いわゆる段取り替え作業が必要となる。
このとき、個々の製品を形成するためのキャビティの数が増えると、上パンチ、下パンチの本数が増えるため、その交換作業や金型の組立作業に手間がかかることになる。上パンチホルダや下パンチホルダに保持された上パンチ、下パンチについては、臼型に対する位置調整を行うが、上パンチ、下パンチの本数が増えれば増えるほど、位置調整の難易度が増す。
本発明の磁場中成形装置においては、形成する磁石の形状を何ら限定するものではないが、この磁場中成形装置でリング状の磁石を形成する場合には、臼型の孔の内方に、孔のそれぞれの中心軸に沿って位置する中棒が設けられる。その場合、中棒は、上パンチ、下パンチと同様に位置調整を行わなければならないうえ、一本ずつが、磁場中成形装置のベース上に設けられたコアロッドに取り付けられているため、位置調整の難易度はさらに高く、要する手間も増大する。
このように、複数個取りの金型は、作業効率や作業性について十分に配慮しなければ、その採用自体が困難になりかねない。
【0008】
そこで、本発明の磁場中成形装置では、臼型に設けられた中棒支持部材によって複数の中棒が支持されることで、臼型と、臼型の複数の孔に対応して設けられた複数の中棒を一体化する構成を採用することができる。
これにより、成形する製品が変更される際に必要な段取り替え作業時に、中棒を一本一本位置調整しながら取り付ける必要がなくなる。
【0009】
本発明は、キャビティに磁性粉末を充填し、キャビティに磁場を印加しつつ加圧することで成形体を得る磁場中成形装置に用いられる金型とすることもできる。この場合、この金型のキャビティは、印加される磁界の中心に対し、第一の距離を隔てて位置する複数のキャビティからなる第一のキャビティ群と、磁界の中心に対し第一の距離より大きい第二の距離を隔てて位置する複数のキャビティからなる第二のキャビティ群とを有し、第二のキャビティ群の外周側に、第二の距離よりも大きな半径を有したリング状の磁性体が設けられていることを特徴とするのである。
このようなリング状の磁性体により、コイルによって印加される磁界強度の分布を補正し、第一のキャビティ群に作用する磁界の強度と、第二のキャビティ群に作用する磁界の強度とを略等しくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リング状の磁石の複数個取りが可能となる。このとき、多重の同心円上に配置した複数のキャビティ間において、印加される磁場強度を均等にすることができる。これによって、複数個取りした場合においても、印加される磁場強度に差が出るのを抑え、得られる磁石の磁気特性のばらつきを抑え、量産性を高めることができる。また、磁性粉末のキャビティへの供給に磁場吸引を用いる場合、キャビティに供給される磁性粉末の量にばらつきが出るのを抑え、磁石の寸法、重量のばらつきを抑えることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における磁場中成形装置20の構成を説明するための図である。
この図1に示すように、磁場中成形装置20は、リング状の磁石を形成するためのもので、金型30によって形成されるキャビティ100内に合金粉末(磁性粉末)を充填し、磁場を印加しつつキャビティ100内の合金粉末を加圧することで磁場中成形を行い、成形体を形成するものである。
【0012】
この磁場中成形装置20は、後述する臼型ユニット40を支持する支持プレート21と、下パンチ50を支持する下パンチベース22と、上パンチ60を支持する上パンチベース23とを備える。
支持プレート21は、磁場中成形装置20のベース(図示無し)に対し油圧シリンダやボールねじ、カム等の駆動機構によって昇降駆動可能とされた下ラム24に、支柱25を介して支持され、これによって昇降可能となっている。そして、支持プレート21上の外周部に、コイル27が設けられている。このコイル27により、金型30が設けられる領域には、図1における縦方向の磁界が発生するようになっている。なお、コイル27以外に、磁場強度分布改善等のために他のコイルやヨークを設けても良い。
下パンチベース22は、磁場中成形装置20のベース(図示無し)に、支柱26を介して固定支持されている。
上パンチベース23は、下パンチベース22の上方に対向するよう設けられ、磁場中成形装置20のベース(図示無し)に、油圧シリンダやボールねじ、カム等の駆動機構により昇降駆動可能とされている。
【0013】
図2に示すように、金型30は、以下のような臼型ユニット40、下パンチ50、上パンチ60によって構成され、上記磁場中成形装置20の支持プレート21、下パンチベース22、上パンチベース23に対し、ボルト等の取付部材によって着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0014】
臼型ユニット40は、臼型本体(臼型)70を備える。この臼型本体70は、その中心が、コイル27によって発生される磁場の中心に合致するよう設けられる。
臼型本体70には、成形すべき成形体の形状に対応した形状の孔71が、所定数形成されている。これらの孔71は、図3に示すように、臼型本体70の中心に対し、半径r1、r2となる同心円C1、C2上に配置されている。同心円C1、C2のそれぞれにおいては、孔71が周方向に等間隔となるように配置するのが好ましい。また、第一の孔群、第一のキャビティ群として内周側の同心円C1上に位置した孔71に対し、第二の孔群、第二のキャビティ群として外周側の同心円C2上に位置した孔71は、臼型本体70の中心に対し一直線上に並ばないよう、周方向に角度をずらしてオフセットさせ、千鳥状に配置するのが好ましい。
なお、ここでは、半径r1、r2となる同心円C1、C2のみの内外2段階に孔71を形成するようにしたが、もちろん径方向3段階以上に孔71を形成するようにしても良い。
【0015】
臼型本体70の下面には、中棒ホルダ(中棒支持部材)41が一体に取り付けられている。中棒ホルダ41は、略円形の底板41aと、底板41aから上方に延び、臼型本体70の下面に取り付け固定される一対の支持部41bとから形成される。
そして、中棒ホルダ41の底板41a上には、臼型本体70のそれぞれの孔71に対応する位置に、中棒80が設けられている。これらの中棒80は、中棒ホルダ41の底板41aにボルト等で固定される中棒クランパ42により、下端部80aが保持・固定されるようになっている。各中棒80の下端部80aは、フランジ状に拡径しており、中棒クランパ42には、それぞれの中棒80に対応した位置に、中棒80の下端部80aに対応した形状の保持孔42aが形成されており、この保持孔42aによって、中棒80の下端部80aを保持・固定するのである。
このとき、中棒クランパ42に形成された保持孔42aの精度により、中棒80の位置精度を確保し、中棒80の位置決め・固定を行う。このため、例えば、拡径した下端部80aおよび保持孔42aを、例えばテーパ状にかみ合う構造として、中棒クランパ42で中棒80を中棒ホルダ41に取り付けるのみで、その位置決めを行える構成とすること等が有効である。
【0016】
このようにして、臼型ユニット40を構成する臼型本体70と中棒80は、中棒ホルダ41によって一体化されている。
そして、臼型本体70を支持プレート21に取り付けることで、臼型ユニット40が磁場中成形装置20にセットされるようになっている。
【0017】
下パンチ50は、下パンチホルダ51により、磁場中成形装置20の下パンチベース22に取り付けられるようになっている。下パンチホルダ51は、その上端部に取付プレート52が設けられており、この取付プレート52の上面に、所定数の下パンチ50が、臼型本体70のそれぞれの孔71に対応する位置に配置されている。これらの下パンチ50は、中棒80と同様、取付プレート52にボルト等で固定されるクランパ53により、その下端部50aが保持・固定されるようになっている。各下パンチ50の下端部50aは、フランジ状に拡径しており、クランパ53には、それぞれの下パンチ50に対応した位置に、下パンチ50の下端部50aに対応した形状の保持孔53aが形成されており、この保持孔53aによって、下パンチ50の下端部50aを保持・固定するのである。
この場合も、クランパ53に形成された保持孔53aの精度により、下パンチ50の位置決め・固定を行う。このため、例えば、拡径した下端部50aおよび保持孔53aを、例えばテーパ状にかみ合う構造として、クランパ53で下パンチ50を下パンチホルダ51に取り付けるのみで、その位置決めを行える構成とするのも好ましい。
【0018】
下パンチホルダ51に保持された下パンチ50は、その上端部が臼型本体70の孔71内に挿入されるようになっている。また、各下パンチ50には、その中心部に上下に連続する貫通孔55が形成されており、中棒80は、この貫通孔55に挿入されて、その上端部が下パンチ50よりも上方に突出するように設けられる。
【0019】
さて、図4に示すように、下パンチホルダ51の上部には、上下方向に連続する一対のスリット溝54が形成されている。一方、前記の中棒ホルダ41の前記支持部41bは、下パンチホルダ51のスリット溝54に対応するよう、中棒ホルダ41の底板41aに対し、外周側に突出するように形成されている。これにより、下パンチホルダ51と中棒ホルダ41は、スリット溝54と支持部41bが係合してガイドとして機能し、スリット溝54が連続する方向、つまり上下方向に相対移動可能となっている。
【0020】
図2に示したように、上パンチ60は、所定数がクランパ61により、磁場中成形装置20の上パンチベース23に取り付けられるようになっている。クランパ61には、臼型本体70のそれぞれの孔71に対応する位置に保持孔61aが形成されている。上パンチ60の上端部60aはフランジ状に拡径しており、クランパ61の保持孔61aは、上パンチ60の上端部60aに対応した形状とされており、この保持孔61aによって、上パンチ60の上端部60aを保持・固定するのである。
この場合も、クランパ61に形成された保持孔61aの精度により、上パンチ60の位置決め・固定を行う。このため、例えば、拡径した上端部60aおよび保持孔61aを、例えばテーパ状にかみ合う構造として、クランパ61で上パンチ60を上パンチベース23に取り付けるのみで、その位置決めを行える構成とするのも好ましい。
【0021】
このようにして、金型30は、臼型ユニット40を構成する臼型本体70および中棒80が支持プレート21によって昇降可能に支持され、下パンチ50が下パンチベース22に支持され、上パンチ60が上パンチベース23に昇降可能に支持された構成となる。
そして、臼型本体70に形成されたそれぞれの孔71内には、下パンチ50および中棒80が配置され、その上方に上パンチ60が位置した状態となっており、これによって筒状のキャビティ100が形成されている。
【0022】
これらのキャビティ100には、コイル27で発生する磁場が印加される。このとき、キャビティ100、すなわち臼型本体70の孔71は、臼型本体70の中心に対し、第一半径、第二半径である半径r1、r2となる同心円C1、C2上に配置されている。同心円C1上のすべてのキャビティ100は、コイル27で発生する磁場中心から等距離(同心円C1の半径r1)にあるため、印加される磁場強度は均等になる。また、同心円C2上のすべてのキャビティ100は、コイル27で発生する磁場中心から等距離(同心円C2の半径r2)にあるため、印加される磁場強度は均等になる。
【0023】
このとき、同心円C1上に位置するキャビティ100と、同心円C2上に位置するキャビティ100とでは、磁場中心からの距離が異なってしまうため、これを補うため、リング状の磁性体(磁場補正部材)90を近傍に設置する。リング状の磁性体90を設置する好ましい位置としては、同心円C1上のキャビティ100よりも同心円C2上のキャビティ100に近い位置、すなわち同心円C2上のキャビティ100よりもさらに外周側である。例えば、臼型本体70の下面の外周部に磁性体90を設けるのが好ましい。この磁性体90は、鉄板とするのが好ましい。
磁性体90により、同心円C2上のキャビティ100に作用する磁場強度が高まり、同心円C1上のキャビティ100に作用する磁場強度との均等化を図るのである。
【0024】
このような磁場中成形装置20は、さらに、キャビティ100に合金粉末を供給する原料供給機構を備える。原料供給機構では、キャビティ100に、所定量の合金粉末を供給する。その供給量管理には、供給する合金粉末の重量を用いることもできるが、キャビティ100への合金粉末の供給高さ(レベル)を用いるのが好ましい。そして、合金粉末をキャビティ100に供給し、原料供給機構に備えたすり切り機構により、供給した合金粉末を臼型本体70の上面レベルですり切るようにするのが好ましい。
【0025】
次に、上記したような構成を有する磁場中成形装置20を用いた、希土類焼結磁石の製造方法について説明する。
ここでまず、本発明の適用対象の磁石について説明する。
本発明はR−T−B(Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCo)で示されるネオジム系焼結磁石について適用することが望ましい。
R−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を25〜37wt%含有する。ここで、RはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの1種又は2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25〜37wt%とする。望ましいRの量は28〜35wt%である。
【0026】
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Coを5.0wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1〜3.0wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上などに効果がある。
【0027】
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Al、Cu、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を7000ppm以下、さらには5000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
【0028】
このようなR−T−B系焼結磁石は、以下のような工程を経ることで製造される。
以下、各工程の内容を説明する。なお、以下では希土類焼結磁石としてネオジム系焼結磁石であるR−T−B系焼結磁石を例にして説明するが、本発明はこれ以外のSmCo系の希土類焼結磁石に適用できることは言うまでもない。
<原料合金調整>
R−T−B系焼結磁石の原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化性雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。なお、溶解後の偏析を防止するため、例えば水冷銅板に傾注して凝固させることができる。また、還元拡散法によって得られた合金を原料合金として用いることもできる。
【0029】
<粉砕>
原料合金は粉砕工程に供される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行うことが効果的である。水素放出処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素放出のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
【0030】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径2.5〜6μm、望ましくは3〜5μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。微粉砕前の粗紛末に潤滑剤を添加混合しても良く、微粉砕後あるいはその両方で潤滑剤を添加混合しても良い。
【0031】
<磁場中成形>
以上のようにして得られた微粉砕粉(磁性粉末)を、磁場中成形し、成形体を得る。本実施の形態では、加圧方向と印加する磁界の方向が平行な成形法である平行磁界成形法を用いる。
磁場中成形における成形圧力は30〜300MPa(0.3〜3ton/cm)の範囲とすればよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足して成形体の加工時に問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、50〜65%が好ましい。
本発明において印加する磁場は、800〜1600kA/m(10〜20kOe)程度とすればよい。印加する磁場は静磁界に限定されず、パルス状の磁界とすることもできる。また、静磁界とパルス状磁界を併用することもできる。パルス状の磁界を用いる場合は、2400kA/m(30kOe)程度の高い磁界を使用することが可能である。
【0032】
<焼結>
磁場中成形によって得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結し、R−T−B系焼結磁石を得る。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で1〜10時間程度焼結すればよい。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行う場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行うと、保磁力が増大するため特に有効である。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0033】
<保護膜形成>
以上のようにして得られた希土類焼結磁石、特にR−T−B系焼結磁石は、その表面に電解めっきによる保護膜を形成することができる。保護膜の材質としては、Ni、Ni−P、Cu、Zn、Cr、Sn、Alのいずれかを用いることができるし、他の材質を用いることもできる。また、これらの材質を複層として被覆することもできる。
電解めっきによる保護膜は本発明の典型的な形態であるが、他の手法による保護膜を設けることもできる。他の手法による保護膜としては、無電解めっき、クロメート処理をはじめとする化成処理及び樹脂塗装膜のいずれか又は組み合せが実用的である。特に清浄性の要求から、VCM用磁石は、表面硬度の高いNiめっきが好んで用いられる。
保護膜の厚さは、磁石素体のサイズ、要求される耐食性のレベル等によって変動させる必要があるが、1〜100μmの範囲で適宜設定すればよい。望ましい保護膜の厚さは1〜50μmである。
【0034】
さて、上記したような工程を経ることで、R−T−B系焼結磁石が製造されるわけであるが、ここで、磁場中成形工程について詳述する。
磁場中成形工程では、図1に示した磁場中成形装置20を用いる。
まず、図1に示したように、上パンチ60を上昇させて下パンチ50から離した状態で、臼型本体70と下パンチ50とによって形成されるキャビティ100に、図示しない原料供給機構により、微粉砕粉を供給する。このとき、コイル27で所定強度の磁界を発生させながらキャビティ100内に微粉砕粉を磁力により吸引するのが好ましい。
また、キャビティ100の深さが大きいとき、微粉砕粉の供給開始時には、図5(a)に示すように、臼型ユニット40を下降させてキャビティ100の深さを抑えておき、この後、図5(b)に示すように、徐々に臼型ユニット40を上昇させてキャビティ100の深さを大きくするようにしても良い。
【0035】
このようにして微粉砕粉を所定量供給した後、供給を停止する。そして、原料供給機構に備えたすり切り機構により、キャビティ100に供給した微粉砕粉を臼型本体70の上面レベルですり切る。
微粉砕粉の供給後、コイル27で所定強度の磁界を発生し、キャビティ100内の微粉砕粉に対し磁場を印加し、微粉砕粉を所定の方向に配向させながら、上パンチ60を下降させてキャビティ100内の微粉砕粉を下パンチ50との間で挟み込み、所定の加圧力で加圧する。
【0036】
このようにしてキャビティ100内の微粉砕粉に対し磁場を印加しつつ加圧することで、所定形状、サイズを有した成形体が形成される。
加圧の完了後、臼型ユニット40を下降させるとともに、上パンチ60を上昇させて退避させ、成形体を取り出す。
【0037】
上述したようにして、複数の同心円C1、C2上にキャビティ100を配することで、リング状の磁石の複数個取りが可能となる。このとき、同心円C1、C2のそれぞれにおいては、すべてのキャビティ100がコイル27で発生する磁場中心から等距離にあるため、印加される磁場強度を均等にすることができる。
さらに、リング状の磁性体90を、磁場中心に近い同心円C1上のキャビティ100よりも磁場中心から遠い同心円C2上のキャビティ100に近い位置に設けたので、磁場中心からの距離が異なる同心円C1上と同心円C2上とで、キャビティ100に作用する磁場強度との均等化を図ることができる。
これによって、複数個取りした場合においても、キャビティ100間で、印加される磁場強度に差が出るのを抑え、得られる磁石の磁気特性のばらつきを抑え、量産性を高めることができる。また、微粉砕粉のキャビティ100への供給に磁場吸引を用いる場合、キャビティ100に供給される微粉砕粉の量にばらつきが出るのを抑え、磁石の寸法、重量のばらつきを抑えることもできる。
【0038】
また、複数のキャビティ100のそれぞれに設けられる中棒80は、中棒ホルダ41によって臼型本体70に一体化され、これによって臼型ユニット40が構成されている。このように、複数本の中棒80を臼型本体70に一体化しておくことで、形成する成形体の形状や寸法が変わり、段取り替えを行わなければならないときには、臼型ユニット40をセットしさえすればよく、従来のように個々の中棒80について位置調整および取り付け作業を行う必要がない。下パンチ50、上パンチ60においても、同様に、複数本がユニット化されているので、これらについても位置調整、取り付け作業が不要となる。
したがって、段取り替え作業の作業性を向上して大幅な効率化を図ることができ、生産性についても向上させることが可能となる。
【実施例】
【0039】
さて、ここで、上記構成による効果を確認したので、その結果を以下に示す。
29.5wt%Nd−3.0wt%Dy−1.0wt%B−0.5wt%Co−残部Feの組成の合金をストリップキャスト法で作製し、水素吸排出により粗粉化させた後、ジェットミルで窒素ガスを用いて粉砕して平均粒径4μmの微粉砕粉末を得た。
この微粉砕粉末を、図1に示したような構成の磁場中成形装置20のキャビティ100に供給し、加圧成形して成形体を作製した。このとき、キャビティ100は、外径7.6mm、内径2.6mm、厚さ2.0mmのリング状を有するものとした。キャビティ100の配置、設置個数は表1の通りとした。また、比較のため、キャビティ100を一つの同心円上に配置した場合についても、同様に成形体を形成した(比較例1)。なお、表1において、キャビティの設置間隔とは、同一円周上に位置する孔71どうしの、孔71の中心基準での間隔である。
さらに、図6に示すように、臼型本体70に、孔71を4列×4列のマトリックス状に配置した場合についても、同様に成形体を形成した。このとき、互いに隣接する孔71同士の間隔は、孔71の中心基準で14mmとなるようにした。
【0040】
【表1】

【0041】
また、キャビティ100に微粉砕粉末を供給するに際しては、コイル27にて700kA/mの磁場を印加し、その磁力により微粉砕粉末をキャビティ100に吸引するようにした。また、その後の磁場中成形時には、コイル27に1000Aの電流を通電して発生した磁場中で150MPaの圧力で微粉砕粉末を加圧成形した。
【0042】
得られた成形体を、1100℃×2時間の条件で焼結を行った後、800℃および600℃の時効処理を各1時間行い、R−T−B系焼結磁石を得た。
そして、得られたR−T−B系焼結磁石について、重量を計測し、そのばらつきを求めた。また、外径、内径を計測した。それらの結果を表1に示す。
【0043】
この表1に示すように、同心円上に位置する複数のキャビティ100で形成された成形体、R−T−B系焼結磁石は、同心円上に配置したキャビティ100の数に関わらず、重量のばらつきが小さく、比較例1と同等であることが確認された。特に、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4の比較により、リング状の磁性体90を設けることで、重量のばらつきがより小さくなることが確認された。
また、実施例1と実施例3、実施例2と実施例4の比較により、内周側のキャビティ間隔と外周側のキャビティ間隔の差が少ない実施例3、4の方が重量のばらつきが小さいことがわかる。これにより、キャビティ間隔は、より等間隔に近くなるようにするのが好ましい。
ただし、全体が等間隔に配置されている比較例2と、実施例3を比較すると、同一円周上に孔71が配置されていない比較例2よりも、同一円周上に孔71が配置された実施例3の方が、ばらつきが遥かに小さくなっていることが確認できた。これにより、孔71は、同一円周上に配置することが重要である、と言える。
また、実施例1と実施例3、実施例2と実施例4の比較により、複数の同心円の径の差が小さいほど、重量のばらつきが小さくなっていることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施の形態における磁場中成形装置の概略構成を示す図である。
【図2】金型の詳細な構造を示す断面図である。
【図3】金型へのキャビティの配置の例を示す図である。
【図4】金型に備えた臼型ユニットの構成を示す図である。
【図5】金型の動作を示す図である。
【図6】比較例2のキャビティの配置を示す図である。
【図7】従来の金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
20…磁場中成形装置、27…コイル、30…金型、40…臼型ユニット、41…中棒ホルダ(中棒支持部材)、50…下パンチ、60…上パンチ、70…臼型本体(臼型)、71…孔、80…中棒、90…磁性体(磁場補正部材)、100…キャビティ、C1、C2…同心円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形すべき成形体の外形形状に応じた孔を複数有した臼型と、
前記臼型に対し前記孔の中心軸方向に沿って相対移動可能とされた下パンチと、
前記臼型の前記孔に上側から挿入可能とされ、前記孔内で前記下パンチと対向するよう昇降可能に設けられた上パンチと、
前記臼型の外周部に設けられ、前記臼型、前記下パンチおよび前記上パンチに囲まれたキャビティに、前記孔の中心軸に平行な方向の磁界を印加するコイルと、を備え、
前記臼型に形成された複数の前記孔は、前記コイルによって印加される磁界の中心に対し、第一の距離を隔てて位置する複数の前記孔からなる第一の孔群と、前記磁界の中心に対し前記第一の距離より大きい第二の距離を隔てて位置する複数の前記孔からなる第二の孔群とを有し、
前記コイルによって前記第一の孔群に作用する磁界の強度と、前記第二の孔群に作用する磁界の強度とを略等しくする磁場補正部材が設けられていることを特徴とする磁場中成形装置。
【請求項2】
前記磁場補正部材は、前記第二の孔群の外周側に設けられた磁性体からなることを特徴とする請求項1に記載の磁場中成形装置。
【請求項3】
前記第一の孔群、前記第二の孔群を構成する複数の前記孔は、それぞれ、前記磁界の中心を基準とし、前記第一の距離、前記第二の距離を半径とした同心円上に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁場中成形装置。
【請求項4】
前記第一の孔群を構成する複数の前記孔と、前記第二の孔群を構成する複数の前記孔は、前記磁界の中心を基準として互いに周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁場中成形装置。
【請求項5】
前記臼型の前記孔の内方に、前記孔のそれぞれの中心軸に沿って位置する中棒が設けられ、
前記臼型と、前記臼型の複数の前記孔に対応して設けられた複数の前記中棒は、前記臼型に設けられた中棒支持部材によって複数の前記中棒が支持されることで一体化されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁場中成形装置。
【請求項6】
キャビティに磁性粉末を充填し、前記キャビティに磁場を印加しつつ加圧することで成形体を得る磁場中成形装置に用いられる金型であって、
前記キャビティは、印加される磁界の中心に対し、第一の距離を隔てて位置する複数の前記キャビティからなる第一のキャビティ群と、前記磁界の中心に対し前記第一の距離より大きい第二の距離を隔てて位置する複数の前記キャビティからなる第二のキャビティ群とを有し、
前記第二のキャビティ群の外周側に、前記第二の距離よりも大きな半径を有したリング状の磁性体が設けられていることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−103606(P2007−103606A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290363(P2005−290363)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】