説明

磁場偏向型エネルギー分析器及びイオン散乱分光装置

【課題】 磁場偏向型エネルギー分析器及びイオン散乱分光装置に関し、簡単な機構によりエネルギースペクトルのノイズレベルを低減して、高分解能で分析試料の構成元素を分析する。
【解決手段】磁場偏向型エネルギー分析器の壁面に、壁面に入射したHe或いはHのいずれかの並進エネルギーを減衰させる突起を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁場偏向型エネルギー分析器及びイオン散乱分光装置に関するものであり、印加磁場の強度や分析器の形状等に適合しないエネルギーを有する粒子の散乱に起因するノイズを低減するための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数百kV程度に加速されたHeイオンをプローブとし、Heイオンと試料構成元素との散乱相互作用を利用して試料中の元素組成などを計測する分析方法は、RBS(ラザフォード後方散乱分光)法、或いは、イオン散乱分光法と呼ばれて広く用いられている。
【0003】
近年、このような分析法において磁場偏向型のエネルギー分析器を用い、試料に照射されて散乱されたHeイオンのエネルギーを数百Vの分解能で測定する位置敏感型検出器を備えた高エネルギー分解能型の装置、即ち、高分解能RBS装置が開発され、原子層厚レベルでの組成分析が可能となってきている。
【0004】
このようなRBS法においては、数百kVに加速されたHeやHの軽イオンを試料に照射し、試料構成原子と衝突して散乱された軽イオンのエネルギースペクトルを測定することにより試料構成元素を特定するものである。
【0005】
図10は、高分解能型RBS装置の概略的構成図であり、イオン照射部10と、分析試料21を収容する分析チャンバー20と、入射してきた散乱イオンに対して並進方向に垂直な磁場を印加するマグネット31及び分析管32を備えた磁場偏向型エネルギー分析器30と、位置敏感型検出器41を備えた検出部40によって構成される。
【0006】
この場合のイオン照射部10は、He等のイオンを発生するイオン源11、発生したイオンを加速する加速管12、所定のビームサイズに絞るスリット13、所定のエネルギーのイオンのみを通過させて単色化するWienフィルター14、さらにビームサイズを例えば、0.3mm程度に整形するスリット15によって構成される。
【0007】
この高分解能型RBS装置を用いて試料を分析する場合、分析試料21上の散乱点で散乱された荷電粒子を磁場が印加された分析管32を通してエネルギー毎に分光され、位置敏感型検出器41上に投影され、位置敏感型検出器41上の位置とその位置に入射した荷電粒子のカウント数を計測する。このように、ある磁場強度で空間的に帯状にエネルギー分光された荷電粒子を位置敏感型検出器により一度に検出することによって、測定時間の短時間化と分析試料にかかるダメージの回避を可能にしている。
【0008】
この場合、入射した軽イオンと分析試料21を構成する試料構成原子とはほぼ弾性散乱するものとし、弾性散乱で跳ね返された入射した軽イオンのエネルギーが試料構成原子の原子核の質量の関数になることを利用する。この時、後方、即ち、θ=180°に散乱された軽イオンを利用する場合に最も分解能が高くなる。
【0009】
また、エネルギースペクトル取得のために用いられる磁場偏向型エネルギー分析器30では、運動しているイオン等の荷電粒子に対してその並進方向に垂直な磁場を印加することで荷電粒子にローレンツ力が作用することを利用している。
【0010】
つまり、荷電粒子に作用するローレンツ力の大きさが、荷電粒子の運動エネルギーに依存し、その結果、運動エネルギーによって決まる軌道を荷電粒子が辿ることを用いて荷電粒子の運動エネルギーを計測している。
【0011】
この時、図11に示すように、印加される磁場の強さ、分析器の形状等に適合したエネルギーを持った粒子は分析器内を無衝突で通過することができる。しかし、その条件に適合しない粒子は、分析器内の壁等に衝突し、散乱されることになる。
【0012】
しかし、このような構成をとっているために、分析管32の出口開口部は比較的大きく開けておく必要がある。その結果、上述の通過条件に適合しない荷電粒子も、分析管内の壁などに散乱され、偶然に分析管出口に運動方向を向いた場合、その荷電粒子は位置敏感型検出器41で検出されることになる。つまり、比較的大きな開口部によって、本来除外されるべき荷電粒子がカウントされやすくなっていた。
【0013】
このような荷電粒子による信号はエネルギースペクトルにおけるノイズであるため、スペクトルのS/Nが劣化し、その結果、強度の小さい信号の評価が困難になるという問題があった。
【0014】
そこで、このような問題を解決するために、磁場フィルターの出口付近にイオンの軌道を変化させるための静電型イオン偏向器をイオンを検出するためのイオン検出器を移動可能とする移動機構を組み合わせた手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、静電型イオン偏向器に印加する電圧とイオン検出器の移動距離を適当に調整することで、エネルギーの変化したイオンをイオン検出器に入射させず、ノイズを低減するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−153751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上述の提案では、新たにイオン偏向器や駆動電源、位置敏感型検出器の移動機構等を用意する必要がある。また、プローブHeイオンと分析試料の表面の角度、分析試料の構成元素に応じて偏向器電圧と位置敏感型検出器の移動距離を変化させる必要があるため、装置の構成や、測定手順が複雑化するという問題がある。
【0017】
したがって、磁場偏向型エネルギー分析器において、簡単な機構によりエネルギースペクトルのノイズレベルを低減して、高分解能で分析試料の構成元素を分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一観点からは、壁面に入射したHe或いはHのいずれかの並進エネルギーを減衰させる突起を壁面に有する磁場偏向型エネルギー分析器が提供される。
【0019】
また、本発明の別の観点からは、上述の磁場偏向型エネルギー分析器と、Heイオン或いはHイオンのいずれかを試料に照射するイオン照射部と、前記試料を収容する分析チャンバーと、前記磁場偏向型エネルギー分析器からのHeイオン或いはHイオンのいずれかを検出する位置検出器とを備えたイオン散乱分光装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
開示の磁場偏向型エネルギー分析器及び磁場偏向型エネルギー分析器を備えたイオン散乱分光装置によれば、不所望なイオンを散乱させてエネルギーを減衰するための突起を設けるという簡単な構成で、バックグラウンドノイズを大幅に低減することができる。また、その結果、高分解能で分析試料の構成元素を分析することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の分析管の概略的斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に用いるポケット板の構成説明図である。
【図3】本発明の実施例1の磁場偏向型エネルギー分析器を構成する分析管の構成説明図である。
【図4】本発明の実施例1の磁場偏向型エネルギー分析器を備えたイオン散乱分光装置を用いた測定結果の説明図である。
【図5】本発明の実施例2乃至実施例6に用いるポケットの構成説明図である。
【図6】本発明の実施例7のポケット板の製造工程の説明図である。
【図7】本発明の各実施例の作用効果の説明図である。
【図8】本発明の実施例8のポケット板の製造工程の説明図である。
【図9】高分解能型RBS装置の概略的構成図である。
【図10】入射イオンの軌跡の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ここで、本発明の実施の形態を説明するが、イオン散乱分光装置の基本構成は図6に示した従来のイオン散乱分光装置と全く同一であり、磁場偏向型エネルギー分析器を構成する分析管の構成が異なるだけであるので、分析管の構成のみを説明する。
【0023】
図1は、本発明の分析管の概略的斜視図であり、図1(a)に示すように、分析管32の内側壁面に傾斜状突起52を利用した複数の空間、即ち、ポケット51を設けたポケット板50を取り付ける。この場合、ポケット板50は、図1(b)に示すように、分析管32の偏向部34と出射部35の内側壁面に取付け、入射部33の内側壁面に取付ける必要はない。
【0024】
また、図2に示すように、ポケット板50は、ベース板54と、ベース板54に所定間隔で差し込んでポケット51を構成する突起部材55とにより構成され、突起部材55の突出部が傾斜状突起52となる。この場合のベース板54と突起部材55の素材は、原理的には何を用いても良いが、加工容易性及び機械的強度の観点から、SUS或いはAlが望ましい。
【0025】
この様なポケット板50に設けられたポケット51に不所望なエネルギーを有するイオンが入射した場合に、ポケット51の表面を構成する原子と衝突して弾性散乱される。
この時、ポケット51の表面を構成する原子の質量が小さい場合、入射したイオンのエネルギーの一部が衝突した原子に受け渡されるので、イオンはその分のエネルギーを失うことになる。なお、ポケット51の表面を構成する原子の質量が大きい場合には、入射したイオンのエネルギーはほとんど失われずに反射された状態になる。
【0026】
したがって、ベース板54及び突起部材55の表面は、質量数の小さな軽元素で被覆しておくことが望ましく、材質の安定性や超高真空中での使用を考慮するとC、B、Al、或いは、Siの軽元素を主成分とする物質によりスパッタ法、真空蒸着法、或いは、CVD法によってコートしておく。このC、B、Al、或いは、Siの軽元素を主成分とする物質としては、C、BN、Al、SiN、SiC等が挙げられる。なお、ベース板54及び突起部材55の素材がAlの場合には、このコートは必ずしも必要はない。
【0027】
また、ベース板54及び突起部材55の表面に入射したイオンは、その表面との電荷のやりとりを行うため、ベース板54及び突起部材55の表面が帯電することがある。したがって、この様な帯電を抑制するためには、構成材料は導電性を持つことが望ましく、例えば、CやAlが好適になる。
【0028】
このような衝突をポケット51内で複数回繰り返すため、この多重散乱によってHeイオン或いはHイオンはエネルギーを次第に失うことになる。例えば、500kV程度の並進エネルギーを持ったHeであっても、C等の軽元素からなる壁面で5回程度散乱すれば並進エネルギーが数百V以下になる場合もある。
【0029】
数百Vというイオンのエネルギーは、位置敏感型検出器が検出するエネルギーとしては十分小さい。したがって、ポケット51に捕まって多重散乱してエネルギーが十分低下したイオンが偶然に位置敏感型検出器に入射することになったとしても、そのイオンは信号パルスを発生させるエネルギーを有していないことになる。つまり、位置敏感型検出器は、多重散乱によってエネルギーを失ったイオンに対して感度がなくなり、ノイズ信号が発生しなくなる。このため、得られるエネルギースペクトルのバックグラウンドレベルを十分下げることが可能になる。
【0030】
一方、ポケット板を取り付けない場合には、壁面に入射したイオンは、壁面との衝突による一度の相互作用により自由空間中に戻ってしまうため、十分高い並進エネルギーを保ったまま運動を続けることができる。したがって、壁面で散乱された後、偶然に位置敏感型検出器の方向に向いたイオンが高い並進エネルギーを保ったまま位置敏感型検出器に入射するため、位置敏感型検出器を構成するMCP(マルチチャンネルプレート)中で信号パルスを発生させ、ノイズとなる。
【0031】
しかし、本発明のイオン散乱分光装置においては、磁場偏向型エネルギー分析器を構成する分析管の内側壁面にイオンを多重散乱させるポケットを設けたポケット板を設けるだけであるので、簡単な装置構成でノイズを効果的低減することが可能になる。
【0032】
また、陽極酸化やポーラスシリカを用いることによって、ポケット壁面が細孔を持つように処理しても良い。それによって、壁面に入射した粒子が細孔内においても散乱を起こすため、より効率的に粒子のエネルギーを低下させることができる。
【実施例1】
【0033】
以上を前提として、次に、本発明の実施例1の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ここでも、本質的特徴がある分析管の構成を説明する。まず、図3(a)に示すように、例えば、出射部35の開口部の内法のサイズが13mm×140mmの分析管32の内側壁面にポケット板50〜50を取り付ける。
【0034】
この場合のポケット板50は、図3(b)に示すように、例えば、厚さが0.2mmで、幅が12mmのSUS製のベース板54に、厚さが0.2mmで、幅が9mmのSUS製の突起部材55を所定間隔で差し込んで構成する。
【0035】
ベース板54から突出した部分の突起部材55の長さは、例えば、ポケット51の開口高さが4mmとし、突起部材55の傾斜角度を45°とした場合に、4×21/2 (≒5.66)mmとし、隣接するポケット51の間隔が1.5mmになるように取り付ける。なお、ベース板54の長さは、取り付ける内側壁の長さによる。
【0036】
このポケット板50に対してCをスパッタすることによって、ベース板54及び突起部材55の表面を軽元素で且つ導電性を有する厚さが、例えば、100nmのカーボン膜でコートする。
【0037】
図4は、本発明の実施例1の磁場偏向型エネルギー分析器を備えたイオン散乱分光装置を用いた測定結果の説明図であり、ここでは、試料としてHfSiOをSi基板上に堆積させたものを用い、400kVのHeで測定した結果を示す。図から明らかなように、バックグラウンドノイズの低減が確認された。
【実施例2】
【0038】
次に、本発明の実施例2の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板の形状が異なるだけで、他の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケットの形状のみ説明する。図5(a)は、本発明の実施例2に用いるポケットの構成説明図であり、突起部材56を入射イオンから見た場合、端部における漸近線の傾斜角が45°となり半径Rが14mmの円筒面状凸面で構成したものであり、ここでも開口高さは4mmとする。
【実施例3】
【0039】
次に、本発明の実施例3の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板の形状が異なるだけで、他の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケットの形状のみ説明する。図5(b)は、本発明の実施例3に用いるポケットの構成説明図であり、突起部材57を入射イオンから見た場合、45°に傾斜部57と半径Rが3.5mmの円筒面状凹面57で構成したものであり、ここでも開口高さは4mmとする。
【実施例4】
【0040】
次に、本発明の実施例4の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板の形状が異なるだけで、他の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケットの形状のみ説明する。図5(c)は、本発明の実施例4に用いるポケットの構成説明図であり、突起部材58を入射イオンから見た場合、45°に傾斜部58と、高さが1.5mmで長さが4.5mmの平行平板部58と、後端の差込み部58により構成される。ここでも開口高さは4mmとする。
【実施例5】
【0041】
次に、本発明の実施例5の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板の形状が異なるだけで、他の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケットの形状のみ説明する。図5(d)は、本発明の実施例5に用いるポケットの構成説明図であり、突起部材59を入射イオンから見た場合、長さが4.0mmで端部における漸近線の傾斜角が45°となる半径Rが14mmの円筒面状凸面59と、高さが1.2mmで長さが4.5mmの平行平板部59と、後端の差込み部59により構成される。ここでも開口高さは4mmとする。
【実施例6】
【0042】
次に、本発明の実施例6の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板の形状が異なるだけで、他の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケットの形状のみ説明する。図5(e)は、本発明の実施例6に用いるポケットの構成説明図であり、突起部材60を入射イオンから見た場合、長さが4.0mmで端部における漸近線の傾斜角が45°となる半径Rが14mmの円筒面状凸面59と、高さが1.2mmで長さが3.3mmの平行平板部60と、後端の傾斜が45°の差込み部60により構成される。ここでも開口高さは4mmとする。
【実施例7】
【0043】
次に、図6を参照して本発明の実施例7の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、ポケット板を切り起こしで形成した以外の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケット板の製造工程のみ説明する。なお、各部材における上図は平面図であり、下図は平面図におけるA−A′或いはB−B′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。
【0044】
まず、図6(a)に示すように、例えば、厚さが0.2mmで、幅が12mmのSUS製のベース板71と、例えば、厚さが0.2mmで、幅が12mmのSUS製のポケット母板72を用意する。このポケット母板72には、例えば、長さが4×21/2 (≒5.66)mmで、幅が9mmの切り起こし部73を、隣接する切り起こし部73との間隔が1.5mmになるように形成する。
【0045】
次いで、図6(b)に示すように、各切り起こし部73を例えば、45°の角度に起こす。次いで、図6(c)に示すように、ベース板71とポケット母板72を溶接によって互いに電気的に導通させて貼り合わせることによってポケット板70が完成する。この時、切り起こした切り起こし部73が実施例1における突起部材として機能する。
【0046】
このように、本発明の実施例7においては、突起部材を切り起こしにより形成しているので、一枚一枚の差込み工程が不要になり、作業効率が向上する。また、分析管への取付け面、即ち、ベース板71の裏面は平坦であるので、分析管へ安定して取り付けることができる。
【0047】
図7は、本発明の実施例7のポケット板を用いた場合の作用効果の説明図であり、ここでは、後述する実施例8のポケット板を用いた場合の作用効果と、ポケット板を設けない従来例の結果を併せて図示している。なお、右上の挿入図は、ピークの状態を示す全体図である。試料にはSiO膜をSi基板上に堆積させたものを用い、400keVのHeで測定したスペクトルを示している。図から明らかなように、ポケット板を設けることによって、ポケット板を設けない場合に比べてバックグラウンドノイズを大幅に低減することができる。
【実施例8】
【0048】
次に、図8を参照して、本発明の実施例8の磁場偏向型エネルギー分析器を説明するが、材質をAlとしてポケットの粒子との衝突面を陽極酸化により多孔質にした以外の構成は上記の実施例1と全く同様であるので、ここではポケット板の製造工程のみ説明する。なお、各部材における上図は平面図であり、下図は平面図におけるA−A′或いはB−B′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。
【0049】
まず、図8(a)に示すように、例えば、厚さが0.2mmで、幅が12mmのAl製のベース板81と、例えば、厚さが0.2mmで、幅が12mmのAl製のポケット母板82を陽極酸化により片面を例えば厚さが3μmの多孔質部83,84とする。
【0050】
この陽極酸化工程において、例えば、0.3M/lの希硫酸浴からなる陽極酸化液中に片面を保護部材で覆ったベース板81及びポケット母板82を浸漬して陽極酸化を行う。この時、Al板の表面は陽極酸化されてポアを有するアルマイトポアからなる多孔質部83,84となる。
【0051】
次いで、ポアサイズを調整するために、例えば、4%のリン酸液中に浸漬してポアワイドニングを行うことによってポアのサイズを拡大する。
【0052】
次いで、ベース板81及びポケット母板82に設けた多孔質部83,84の表面にスパッタリング法によりAl薄膜(図示は省略)を形成して表面を導電性にしておく。なお、この場合のAl薄膜の膜厚はポアの内部を埋め込み尽くさない厚さにする必要がある。
【0053】
次いで、図8(b)に示すように、ポケット母板82に、例えば、長さが4×21/2 (≒5.66)mmで、幅が9mmの切り起こし部85を、隣接する切り起こし部85との間隔が1.5mmになるように形成する。
【0054】
次いで、図8(c)に示すように、各切り起こし部85を例えば、45°の角度に起こす。次いで、図8(d)に示すように、ベース板81とポケット母板82を多孔質部83,84を対向させて溶接によって互いに電気的に導通させて貼り合わせることによってポケット板80が完成する。この時、切り起こした切り起こし部85が実施例1における突起部材として機能する。
【0055】
上述の図7に示すように、ポケットの粒子との衝突面を多孔質部とすることによって、ポケットの粒子との衝突面を多孔質部としない実施例7に比べてさらにバックグラウンドノイズを低減することができ、より正確な解析が可能となる。これは、ポケットの壁面に入射した粒子がポア内においても散乱を起こすため、より効率的に粒子のエネルギーを低下させることができるためである。
【0056】
また、この実施例8においては表面を軽元素のAlで被覆して導電性にしているので、ポケットに入射したイオンのエネルギーを軽元素に受け渡すことによって効果的に低減することができるとともに、ポケットがイオンからの電荷により帯電することがない。
【0057】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は、各実施例に示した条件に限られるものではない。例えば、開口部の高さを4mmとしているが、この高さは任意であり、例えば、分析管の出射部の開口部のサイズに応じて適宜決定すれば良い。また、突起部材の傾斜角、或いは、端部における漸近線の傾斜角を45°にしているが、45°であることは必須ではなく、任意に変更することが可能である。
【0058】
ここで、実施例1乃至実施例8を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
(付記1) 壁面に入射したHe或いはHのいずれかの並進エネルギーを減衰させる突起を壁面に有する磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記2) 前記突起が、その内部に前記He或いはHのいずれかを散乱させる空間を構成する付記1記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記3) 前記突起が、テーパ部から構成される付記2記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記4) 前記突起が、テーパ部と前記テーパ部の後部に接続する平行平板部から構成される付記2記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記5) 前記突起が、テーパ部と前記テーパ部の後部に接続する凹面部から構成される付記2記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記6) 前記突起の前記He或いはHの入射面が多孔部である付記1乃至付記5のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記7) 前記多孔部が、Alの酸化物からなる多孔体で形成されている付記6に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記8) 前記突起の表面が、導電性を有している付記1乃至7のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記9) 前記突起の表面が、N、C、B、Al或いはSiの少なくとも一つを主成分とした物質で構成されていることを特徴とする付記1乃至7のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記10) 前記突起が、母体材料の表面をN、C、B、Al或いはSiの少なくとも一つを主成分とした物質で被覆されている付記1乃至7のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記11) 前記突起とともに前記He或いはHのいずれかを散乱させる空間を構成する前記壁面の表面が、N、C、B、Al或いはSiの少なくとも一つを主成分とした物質で構成されている付記1乃至7のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
(付記12) 付記1乃至11のいずれか1に記載の磁場偏向型エネルギー分析器と、Heイオン或いはHイオンのいずれかを試料に照射するイオン照射部と、前記試料を収容する分析チャンバーと、前記磁場偏向型エネルギー分析器からのHeイオン或いはHイオンのいずれかを検出する位置検出器とを備えたイオン散乱分光装置。
【符号の説明】
【0059】
10 イオン照射部
11 イオン源
12 加速管
13 スリット
14 Wienフィルター
15 スリット
20 分析チャンバー
21 分析試料
30 磁場偏向型エネルギー分析器
31 マグネット
32 分析管
33 入射部
34 偏向部
35 出射部
40 検出部
41 位置敏感型検出器
50,50 〜50 ポケット板
51 ポケット
52 傾斜状突起
54 ベース板
55〜60 突起部材
57、58 傾斜部
57 円筒面状凹面
58、59、60 平行平板部
58、59、60 差込み部
59 、60 円筒面状凸面
70,80 ポケット板
71,81 ベース板
72,82 ポケット母板
73,85 切り起こし部
83,84 多孔質部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に入射したHe或いはHのいずれかの並進エネルギーを減衰させる突起を壁面に有する磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項2】
前記突起が、その内部に前記He或いはHのいずれかを散乱させる空間を構成する請求項1記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項3】
前記突起の前記He或いはHの入射面が多孔部である請求項1または請求項2に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項4】
前記多孔部が、Alの酸化物からなる多孔体で形成されている請求項3に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項5】
前記突起の表面が、導電性を有している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項6】
前記突起の表面が、N、C、B、Al或いはSiの少なくとも一つを主成分とした物質で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁場偏向型エネルギー分析器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁場偏向型エネルギー分析器と、
Heイオン或いはHイオンのいずれかを試料に照射するイオン照射部と、
前記試料を収容する分析チャンバーと、
前記磁場偏向型エネルギー分析器からの前記Heイオン或いはHイオンのいずれかを検出する位置検出器と
を備えたイオン散乱分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−10126(P2010−10126A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120798(P2009−120798)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】