説明

磁性ガーネット膜、磁気転写素子及び光学系装置

【課題】磁区の発生を抑制し、所定部位における電気分布又は磁化分布を従来よりも正確に確認させ得る磁気転写素子及び光学系装置を提案する。
【解決手段】磁化状態の変化により生じる磁区を細かく寸断するグラニュラー構造に形成され、磁化容易軸が膜面に平行に形成するようにしたことにより、磁気転写情報Pを偏光顕微鏡10により観察する際、従来形成されていた磁区Gが、グラニュラー構造によって細かく寸断され、これにより大きな磁区Gが発生することを抑制できる。よって、磁区Gが現れない分、磁気転写情報Pのみを認識させることができ、かくして測定対象物中の磁化分布又は電流分布を従来よりも正確に確認させ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ガーネット膜、磁気転写素子及び光学系装置に関し、例えば磁気テープやディスク、磁気カード等の測定対象物に記録された所定の情報、或いは半導体や超伝導体等の磁束分布又は電流分布を非破壊で確認し得る磁気転写素子に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液相エピタキシャル成長(LPE:Liquid Phase Epitaxy)法により成長させた単結晶からなる磁性ガーネット膜を基板に備えた磁気転写素子が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
かかる構成の磁気転写素子は、所定の情報が記録された測定対象物の表面に、磁性ガーネット膜の膜面を近接配置させる。これにより、磁気転写素子は、測定対象物内部の磁気部材によって形成される磁束によって磁性ガーネット膜が磁化され得る。
【0004】
かくして、磁気転写素子は、測定対象物における磁気部材の磁気パターン(以下、これを磁気パターン情報と呼ぶ)を磁性ガーネット膜に転写し得るようになされている。
【0005】
そして、このような磁気転写素子は、偏光顕微鏡のステージに載置され、当該偏光顕微鏡の光源からの光が磁性ガーネット膜に照射されることで、磁性ガーネット膜における磁気光学効果(ファラデー効果)により、磁化された部分と磁化されない部分が光の明暗のコントラストとなって現れる。
【0006】
かくして磁気転写素子は、光の明暗のコントラストをパーソナルコンピュータで解析することにより、間接的に測定対象物の磁気パターン情報を把握し、測定対象物に記録された所定の情報を確認し得るようになされている。
【0007】
このように磁気転写素子は、測定対象物の外部から視認し得ない内部の磁気パターン情報であっても、転写させた磁気パターン情報(以下、これを磁気転写情報と呼ぶ)を介して測定対象物に記録された所定の情報を容易に確認できるようになされている。
【特許文献1】特開2005−291707号公報
【特許文献2】特開2005−292163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図10(A)及び(B)に示すように、かかる構成の磁気転写素子100では、例えば磁束密度が0.4[mT]や0.8[mT]のような印加電界が弱いときは、超伝導体に磁束があまり侵入していないため、偏光顕微鏡で観察すると、観察している領域で磁場の分布又は勾配が大きくなく、磁気転写情報101のみを確認できる。
【0009】
しかしながら、かかる構成の磁気転写素子100では、例えば磁束密度が1.2[mT]や1.6[mT]のとき、磁束の侵入により、磁束分布に勾配ができ、このことにより、図10(C)及び(D)に示すように、磁気転写情報101だけでなく、三角状に尖った複数の磁区Gが現れてしまう。
【0010】
このように、LPE法で成長させた磁性ガーネット膜を用いた磁気転写素子100では、磁気転写情報101と磁区Gとが重なり合って現れてしまうことから、磁気転写情報101のみを認識し難くなり、この結果、測定対象物に記録された磁気パターン情報を正確に確認し得ないという問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、磁区の発生を抑制し、所定部位における電気分布又は磁化分布を従来よりも正確に確認させ得る磁性ガーネット膜、磁気転写素子及び光学系装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1の磁性ガーネット膜は、電流分布又は磁化分布を有する部位に近接配置することにより、前記電流分布又は磁化分布を磁気的に転写磁性ガーネット膜であって、磁化状態の変化により生じる磁区を細かく寸断するグラニュラー構造に形成され、磁化容易軸が膜面に平行であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項2の磁性ガーネット膜は、前記部位を有する記録媒体に近接配置することにより、前記記録媒体の前記電流分布又は磁化分布を磁気的に転写することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明の請求項3の磁性ガーネット膜は、有機イットリウム化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法(有機金属堆積法 Metal Organic Deposition)により、GdGa12からなる基板の(111)面に成膜されることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明の請求項4の磁性ガーネット膜は、希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法(有機金属堆積法 Metal Organic Deposition)により、GdGa12からなる基板の(100)面又は(110)面に成膜されることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明の請求項5の磁性ガーネット膜は、希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法により、ガラス材からなる基板に成膜されることを特徴とするものである。
【0017】
さらに、本発明の請求項6の磁性ガーネット膜は、膜厚が200[nm]〜1[μm]であることを特徴とするものである。
【0018】
さらに、本発明の請求項7の磁気転写素子は、請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁性ガーネット膜を基板に備えることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明の請求項8の光学系装置は、請求項7に記載の磁気転写素子に光を照射する光源と、前記磁気転写素子からの反射光を受光し、前記磁気転写素子の磁性ガーネット膜における磁化状態の変化を、光の明暗のコントラストにより表示するアナライザとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1の磁性ガーネット膜によれば、磁化状態を変化させて転写された電気分布又は磁化分布を光学系で観察する際、従来形成されていた磁区が、グラニュラー構造により細かく寸断されるので、大きな磁区が発生することを抑制し、転写された電気分布又は磁化分布のみを認識させることができ、かくして所定部位における電気分布又は磁化分布を従来よりも正確に確認させ得る。
【0021】
また、本発明の請求項2の磁性ガーネット膜によれば、大きな磁区が発生することを抑制し、転写された電気分布又は磁化分布のみを認識させることができ、かくして記録媒体に記録された電気分布又は磁化分布を従来よりも正確に確認させ得る。
【0022】
さらに、本発明の請求項3の磁性ガーネット膜によれば、有機イットリウム化合物を含有した液体組成物を用いて、GdGa12からなる基板に磁性ガーネット膜を容易に成膜できる。
【0023】
さらに、本発明の請求項4の磁性ガーネット膜によれば、希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてGdGa12からなる基板に磁性ガーネット膜を容易に成膜できる。
【0024】
さらに、本発明の請求項5の磁性ガーネット膜によれば、希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてガラス材からなる基板に磁性ガーネット膜を容易に成膜できる。
【0025】
さらに、本発明の請求項6の磁性ガーネット膜によれば、磁化状態を変化させて電気分布又は磁化分布を確実に転写できると共に、当該転写した電気分布又は磁化分布を正確に確認できる。
【0026】
さらに、請求項7の磁気転写素子によれば、磁気ガーネット膜を基板に備えるようにしたことで、基板を介して磁気ガーネット膜に所定の強度を与え、当該磁気ガーネット膜を容易に取り扱うことができる。
【0027】
さらに、本発明の請求項8の光学系装置によれば、磁気転写素子に転写された電気分布又は磁化分布を光の明暗のコントラストにより表示するようにしたことにより、転写した電気分布又は磁化分布の高速な測定が可能となり、磁気力顕微鏡(MFMMagnetic Force Microscopy)やSQUID顕微鏡等の他の顕微鏡に比べても簡便で安値であることからコスト低減も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0029】
(1)第1の実施の形態
(1−1)磁気転写素子及び偏光顕微鏡の構成
図1において、1は本発明による磁気転写素子を示し、この磁気転写素子1は、光を透過するガドリニウムガリウムガーネット(GdGa12)基板(以下、これを単にGGG基板と呼ぶ)2の一面に、BiFe12(以下、これを単にBi:YIGと呼ぶ)でなる磁性ガーネット膜3が成膜され、当該磁性ガーネット膜3に磁性体金属たる白金(Pt)やアルミニウム等からなり光を反射させる反射膜4が成膜されている。
【0030】
磁性ガーネット膜3は、磁化容易軸が膜面に平行である面内磁気特性を有しており、外部からの磁束によって、結晶粒の磁化方向が変化し、当該磁束の磁化状態を転写し得るようになされている。
【0031】
これにより磁性ガーネット膜3は、光学系及び光学系装置としての偏光顕微鏡(後述する)によって光が照射されることにより、当該光が透過して磁化状態の変化を光の明暗のコントラストとして視覚的に観察し得るようになされている。
【0032】
ここで、本発明による磁性ガーネット膜3は、AFM(Atomic Force Microscope(原子間力顕微鏡))により表面形状を確認すると、図2(A)及び(B)に示すように、結晶粒が表面上に分散した構造(以下、これをグラニュラー構造と呼ぶ)からなり、各結晶粒の粒径が偏光顕微鏡の分解能よりも小さい約50[nm]程度に形成されている。
【0033】
このように磁性ガーネット膜3は、結晶粒が極めて小さくグラニュラー構造に形成されていることにより、偏光顕微鏡で観察する際に、磁区が粒径程度に細かく寸断され、従来のような大きな磁区が発生し難くなっている。
【0034】
なお、ここで分解能dとは、互いに近接した2つの点が、離れた2つの点として見分けられる最小距離を示すものであり、分解能dは偏光顕微鏡における対物レンズの開口数をNAとし、光の波長をλとすると、d=0.6・λ/NAで求めることができる。
【0035】
また、磁性ガーネット膜3は、膜厚が200[nm]よりも小さいと、外部から受ける磁束による磁化状態の変化が計測し難くなり、一方、膜厚が1[μm]よりも大きいと、結晶粒が大きくなり結晶粒が見え、磁気転写情報が当該結晶粒によって確認し難くなる。従って、磁化状態を変化させて磁気パターン情報を確実に転写させると共に、磁気転写情報を正確に確認させるには、磁性ガーネット膜3の膜厚を200[nm]〜1[μm]に形成することが好ましい。
【0036】
実際上、図1及び図3に示すように、酸化物基板5上の所定部位に超伝導体6が所定パターンで配置された記録媒体等の測定対象物7の磁気パターン情報を転写させる場合には、当該測定対象物7の表面に、磁気転写素子1の膜面を平行にさせた状態で近接配置させる。
【0037】
これにより磁気転写素子1は、図4に示すように、超伝導体6が発する磁束Aによって、膜面と平行な面内方向Mに沿って磁性ガーネット膜3の磁化状態が変化し、測定対象物7の磁化分布としての磁気パターン情報が転写され得るように構成されている。
【0038】
次に、磁性ガーネット膜3の磁化状態の変化を観察するための偏光顕微鏡について以下説明する。図5に示すように、偏光顕微鏡10は、光源11、ポラライザ12、ハーフミラー13、対物レンズ14、アナライザ15及びCCDカメラ16から構成され、当該CCDカメラ16にパーソナルコンピュータ17が接続されている。
【0039】
偏光顕微鏡10は、光源11から発した光をポラライザ12に入射させることにより1方向の直線偏光を抽出し、この直線偏光をハーフミラー13に反射させた後対物レンズ14を通過させてステージ(図示せず)に位置決めさせた磁気転写素子1に照射する。
【0040】
これにより磁気転写素子1は、図6に示すように、磁気転写情報Pを有する磁性ガーネット膜3及びGGG基板2を透過した光L1を反射膜4の表面で反射させた後、この反射光L2をGGG基板2及び磁性ガーネット膜3に透過させる。このとき反射光L2は磁性ガーネット膜3によって偏向角がずれ対物レンズ14に入射する。
【0041】
偏光顕微鏡10は、図5に示したように、対物レンズ14に入射した反射光L2をハーフミラー13を介してアナライザ15に入射し、当該アナライザ15により磁気転写情報P(図6)を光の明暗のコントラストで表わして、これをCCDカメラ16により撮像し得る。
【0042】
CCDカメラ16は、反射光L2により形成された光の明暗のコントラストを撮像すると、これを撮像データとしてパーソナルコンピュータ17に送出する。これによりパーソナルコンピュータ17は、光の明暗のコントラストを解析して、磁気転写素子1を介して間接的に測定対象物7の情報を得、これを表示部(図示せず)に表示して当該測定対象物7の情報をユーザに確認させ得るようになされている。
【0043】
(1−2)磁気転写素子の製造方法
次に上述した磁気転写素子1の製造方法について以下説明する。
【0044】
(1−2−1)Y3−xBiFe12からなる磁性ガーネット膜の製造方法の概要
この場合、有機イットリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し、残った固形成分を有機溶媒に溶解した第1の溶液と、有機鉄化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第2の溶液と、有機ビスマス化合物とを混合し、これを用いてMOD(有機金属堆積法 Metal Organic Deposition)法によりY3−xBiFe12(Bi:YIG)の磁性ガーネット膜3をGGG基板2の一面に成膜する。
【0045】
ここで、有機イットリウム化合物としては、オクチル酸イットリウム、カプリル酸イットリウム、デカン酸イットリウム、ナフテン酸イットリウムの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0046】
また、有機溶媒としては、プロピオン酸、オクチル酸、カプリル酸、デカン酸、ナフテン酸、テレピン油、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソアミル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、キシレン、オクタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0047】
さらに、有機鉄化合物としては、オクチル酸鉄、カプリル酸鉄、デカン酸鉄、ナフテン酸鉄の中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0048】
有機ビスマス化合物としては、オクチル酸ビスマス、カプリル酸ビスマス、デカン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマスの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0049】
そして、磁性ガーネット膜3に有機イットリウム化合物が含まれている場合には、GGG基板2において磁性ガーネット膜3を成長させる面が(111)面であることが好ましい。
【0050】
(1−2−2)実施例1
先ず始めに磁性ガーネット膜3を形成するための液体組成物としての原料溶液を製造する。具体的には、オクチル酸イットリウム350gにロジン76.1gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、プロピオン酸23.2gとテレピン油525.4gと酢酸n−ブチル262.7gと酢酸エチル87.6gを添加し第1の溶液を作製した。
【0051】
また、これとは別にオクチル酸鉄150.5gにロジン47.9gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油165.2gと酢酸n−ブチル82.6gと酢酸エチル27.5gを添加し第2の溶液を作製した。
【0052】
次いで、第1の溶液44.72g(Y11.9ミリモル)と、第2の溶液80.01g(Fe29.7ミリモル)と、オクチル酸ビスマス溶液5.01g(Bi5.99ミリモル)とを混合して混合溶液を作製した。
【0053】
この混合溶液に濃度調整のためにテレピン油24.68gと酢酸n−ブチル12.34gと酢酸エチル4.11gとナフテン酸1.20gとを添加し、均一な金属比率Bi:Y:Fe=1:2:5となる原料溶液を作製した。
【0054】
なお、この実施の形態の場合、原料溶液は、50mlのメスフラスコにとり、目視で沈殿の有無を確認することによってポットライフを調べた結果、6ケ月後も沈殿や分離等の異常は認められなかった。すなわち、本発明による磁性ガーネット膜3を形成するための原料溶液は6ケ月以上のポットライフを有することが確認できた。
【0055】
次いで、GGG基板2の一面に有機金属溶液である作製した原料溶液を塗布し、熱処理を加えるだけの極めて簡便な成膜法であるMOD法によって、有機金属化合物たるBi:YIGを熱分解することによりGGG基板2の一面に磁性ガーネット膜3を形成した。
【0056】
具体的には、先ず始めに、GGG基板2を洗浄した後、当該GGG基板2の一面に原料溶液をスピンコートにより塗布した。なお、スピンコートは回転数2000〜4000rpmで、時間20〜60sとした。塗布後、ホットプレートによって150〜250℃で乾燥し、これらのプロセスを数回繰り返す。薄膜の厚さは、スピンコートの条件および塗布回数により調節し得る。乾燥後、試料を500〜800℃で1〜3時間焼成を行い、大気中で熱処理することにより結晶化させ、Bi:YIGからなる磁性ガーネット膜3をGGG基板2の一面に成膜した。次いで、この磁性ガーネット膜3に反射膜4を成膜した。
【0057】
このようにしてGGG基板2及び反射膜4間に、グラニュラー構造であって磁気特性の最小変化単位が偏光顕微鏡10の分解能よりも小さい粒径からなり、磁化容易軸が膜面に平行(すなわち面内方向M)な磁性ガーネット膜3を成膜できた。
【0058】
なお、このようにして作製された磁性ガーネット膜3は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁気特性を有するか否かの評価を行った。その結果、磁性ガーネット膜3は、磁化率曲線にヒステリシスをもつ強磁性体であって、磁化容易軸が面内方向Mであることが確認できた。
【0059】
次に、例えば円形状であって、磁束密度が2、5、12、74、37及び0[mT]の各超伝導体をそれぞれ備えた酸化物基板の表面上に、磁気転写素子1の膜面を平行にして近接配置させた。
【0060】
この磁気転写素子1を偏光顕微鏡10を用いて観察した場合、図7(A)〜(F)に示すように、磁気転写情報Pが確認でき、各超伝導体による磁束を、磁気転写素子1の磁性ガーネット膜3に転写できていることが確認できた。また、この際、磁気転写素子1では、各超伝導体からの磁束を受けて磁化状態が変化して形成された磁気転写情報Pのみが現れ、磁区が現れないことが確認できた。
【0061】
因みに、図8(A)に示すように、例えば円形状の超伝導体20を設けた酸化物基板21上に、磁気転写素子1を重ねた場合には、図8(B)に示すように、磁気転写素子1の反射膜4によって超伝導体21が遮られ、顕微鏡により超伝導体21を直接目視確認できなくなった。しかしながら、このような磁気転写素子1では、偏光顕微鏡によって観察すると、磁性ガーネット膜3の磁化状態の変化が確認できることから、超伝導体21によって形成された磁束の変化のみを観察できる。
【0062】
(1−3)動作及び効果
以上の構成において、磁気転写素子1では、均一な金属比率Bi:Y:Fe=1:2:5となる原料溶液を用いてMOD法によりGGG基板2の一面に成膜処理を施すことにより、グラニュラー構造であって磁気特性の最小変化単位が、偏光顕微鏡10の分解能よりも小さい粒径からなり、磁化容易軸が膜面に平行に形成された磁性ガーネット膜3をGGG基板2の一面に成膜できる。
【0063】
磁気転写素子1では、GGG基板2の一面にBi:YIGでなる磁性ガーネット膜3を成膜するようにしたことにより、所定の磁気パターン情報を備えた測定対象物7の表面に対して、磁性ガーネット膜3の膜面を平行に近接配置させることで、当該測定対象物7の磁気パターン情報を磁性ガーネット膜3に磁化状態の変化として転写できる。
【0064】
ところで、図9(A)に示すように、従来のLEP法により成長させた磁性ガーネット膜を備える磁気転写素子30では、測定対象物7の磁気パターン情報を転写させても、磁気転写情報Pに重なるように磁区Gが現れてしまい、磁気転写情報Pのみを認識し得ない。
【0065】
これに対して、本発明による磁気転写素子1では、磁性ガーネット膜3の結晶粒の粒径が偏光顕微鏡10の分解能よりも小さいグラニュラー構造に形成されることにより、図9(B)に示すように、従来形成されていた磁区Gが磁性ガーネット膜3を構成する粒径程度に細かく寸断され、これにより大きな磁区Gが形成されることを抑制し、その結果、偏光顕微鏡10で磁性ガーネット膜3を観察した際、磁区Gが現れない分、磁気転写情報Pのみを従来よりも正確に認識できる。
【0066】
また、磁気転写素子1では、偏光顕微鏡10を用いて光学的な計測を行うことができるので、磁気転写情報Pの高速な測定が可能であって、かつ空間分解能がサブミクロンまで可能である。
【0067】
そして、磁気転写素子1の観察に用いる偏光顕微鏡10は、磁気力顕微鏡(MFM Magnetic Force Microscopy)や、SQUID顕微鏡等の他の顕微鏡に比べても簡便で安値であることからコスト低減を図ることができ、かつこれら顕微鏡よりも総合的な性能も優れ、磁気転写素子1の磁気転写情報Pを正確に確認できる。
【0068】
以上の構成によれば、磁化状態が変化する表面形状をグラニュラー構造に形成し、磁化容易軸が膜面に平行に形成するようにしたことにより、磁気転写情報Pを偏光顕微鏡10により観察する際、従来形成されていた磁区Gが、グラニュラー構造により細かく寸断され、これにより大きな磁区Gが発生することを抑制できる。従って、磁区Gが現れない分、磁気転写情報Pのみを認識させることができ、かくして測定対象物の所定部位に記録された磁気パターン情報を従来よりも正確に確認させ得る。
【0069】
(2)第2の実施の形態
(2−1)YBiFeGa12からなる磁性ガーネット膜の製造方法の概要
第2の実施の形態による磁気転写素子は、上述した第1の実施の形態と磁性ガーネット膜を成膜する液体組成物のみが異なるものであり、重複した説明を避けるため異なる点について着目して以下説明する。
【0070】
この場合、有機イットリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第1の溶液と、有機鉄化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第2の溶液と、有機ガリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第3の溶液と、有機ビスマス化合物とを混合し、これを用いてMOD法によりY3−xBiFe5−yGa12の磁性ガーネット膜を、GGG基板の一面に成膜する。
【0071】
ここで、有機イットリウム化合物等については上述した第1の実施の形態と同様であり、有機ガリウム化合物としては、オクチル酸ガリウム、カプリル酸ガリウム、デカン酸ガリウム、ナフテン酸ガリウムの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0072】
そして、磁性ガーネット膜に有機イットリウム化合物が含まれている場合には、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が(111)面であることが好ましい。
【0073】
(2−2)実施例2
この場合、オクチル酸イットリウム350gにロジン76.1gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、プロピオン酸23.2gとテレピン油525.4gと酢酸n−ブチル262.7gと酢酸エチル87.6gを添加し第1の溶液を作製した。
【0074】
また、これとは別に、オクチル酸鉄150.5gにロジン47.9gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油165.2gと酢酸n−ブチル82.6gと酢酸エチル27.5gを添加し第2の溶液を作製した。
【0075】
さらに、これとは別に、カプリル酸ガリウム140gにロジン36.3gを添加し、オイルバス110℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油169.1gと酢酸n−ブチル84.5gと酢酸エチル28.2gを添加し第3の溶液を作製した。
【0076】
次いで、第1の溶液を33.68g(Y8.95ミリモル)と、第2の溶液を47.62g(Fe17.8ミリモル)と、第3の溶液を13.97g(Ga4.47ミリモル)とオクチル酸ビスマス溶液3.74g(Bi4.47ミリモル)とを混合し、混合溶液を作製した。
【0077】
次いで、この混合溶液に濃度調整のためテレピン油18.6gと酢酸n−ブチル9.3gと酢酸エチル3.1gを添加し、均一な金属比率Y:Bi:Fe:Ga=2:1:4:1となる透明な原料溶液を作製した。なお、このようにして作製されたYBiFeGa12でなる液体組成物としての原料溶液を50mlのメスフラスコにとり、目視で沈殿の有無を確認することによってポットライフを調べた結果、6ケ月後も沈殿や分離等の異常は認められなかった。従って、この液体原料は6ケ月以上のポットライフを有することが確認できた。
【0078】
次いで、GGG基板を洗浄後、YBiFeGa12原料溶液を、上述した条件と同じ条件でスピンコートにより塗布した後、ホットプレートによって150〜250℃で乾燥させた。これらのプロセスを数回繰り返す。薄膜の厚さは、スピンコートの条件および塗布回数により調節し得る。次いで、乾燥後、試料を500〜800℃で1〜3時間焼成を行い、大気中で熱処理することにより結晶化させ、YBiFeGa12からなる磁性ガーネット膜を、GGG基板の一面に成膜した。
【0079】
なお、このようにして作製された磁性ガーネット膜は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁化をもつか否かの評価を行った。その結果、磁性ガーネット膜は、磁化率曲線にヒステリシスをもつ強磁性体であって、磁化容易軸が面内方向Mであることが確認できた。
【0080】
そして、超伝導体をそれぞれ備えた酸化物基板の表面上に、YBiFeGa12からなる磁気転写素子の膜面を平行にして近接配置させた後、当該磁気転写素子を偏光顕微鏡10で観察した場合、上述した第1の実施の形態と同様に、磁区がグラニュラー構造により細かく寸断され、超伝導体の磁束による磁化状態の変化のみが現れ、磁区が現れていないことが確認できた。
【0081】
(3)第3の実施の形態
(3−1)YFeGa12による磁性ガーネット膜の製造方法の概要
第3の実施の形態による磁気転写素子は、上述した第1の実施の形態と磁性ガーネット膜を成膜する液体組成物のみが異なるものであり、重複した説明を避けるため異なる点について着目して以下説明する。
【0082】
この場合、有機イットリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第1の溶液と、有機鉄化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第2の溶液と、有機ガリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第3の溶液とを混合し、これをMOD法を用いてYFe5−xGa12からなる磁性ガーネット膜を、GGG基板の一面に成膜する。
【0083】
ここで、磁性ガーネット膜に有機イットリウム化合物が含まれている場合には、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が(111)面であることが好ましい。
【0084】
(3−2)実施例3
この場合、オクチル酸イットリウム350gにロジン76.1gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、プロピオン酸23.2gとテレピン油525.4gと酢酸n−ブチル262.7gと酢酸エチル87.6gを添加し第1の溶液を作製した。
【0085】
また、これとは別に、オクチル酸鉄150.5gにロジン47.9gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油165.2gと酢酸n−ブチル82.6gと酢酸エチル27.5gを添加し第2の溶液を作製した。
【0086】
さらに、カプリル酸ガリウム140gにロジン36.3gを添加し、オイルバス110℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油169.1gと酢酸n−ブチル84.5gと酢酸エチル28.2gを添加し第3の溶液を作製した。
【0087】
次いで、第1の溶液を58.59g(Y15.6ミリモル)と、第2の溶液を55.22g(Fe20.7ミリモル)と、第3の溶液を16.20g(Ga5.19ミリモル)とを混合し、均一な金属比率Y:Fe:Ga=3:4:1となる液体組成物としての原料溶液を作製した。
【0088】
このようにして作製されたYFeGa12の原料溶液を50mlのメスフラスコにとり、目視で沈殿の有無を確認することによってポットライフを調べた結果、6ケ月後も沈殿や分離等の異常は認められなかった。従って、YFeGa12の原料溶液は6ケ月以上のポットライフを有することが確認できた。
【0089】
次いで、YFeGa12の原料溶液を用いて上述したMOD法によって、GGG基板の一面にYFeGa12からなる磁性ガーネット膜を成膜した。
【0090】
なお、このようにして作製された磁性ガーネット膜は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁化をもつか否かの評価を行った。その結果、磁性ガーネット膜は、磁化率曲線にヒステリシスをもつ強磁性体であって、磁化容易軸が面内方向Mであることが確認できた。
【0091】
そして、超伝導体をそれぞれ備えた酸化物基板の表面上に、YFeGa12からなる磁気転写素子の膜面を平行にして近接配置させた後、当該磁気転写素子を偏光顕微鏡10で観察した場合、上述した第1の実施の形態と同様に、磁区がグラニュラー構造により細かく寸断され、超伝導体の磁束による磁化状態の変化のみが現れ、磁区が現れていないことが確認できた。
【0092】
(4)第4の実施の形態
(4−1)NdBiFeGa12による磁性ガーネット膜の製造方法の概要
第4の実施の形態による磁気転写素子は、上述した第1の実施の形態と磁性ガーネット膜を成膜する液体組成物と、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が異なるものであり、重複した説明を避けるため異なる点について着目して以下説明する。
【0093】
この場合、有機ネオジム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第1の溶液と、有機鉄化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第2の溶液と、有機ガリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第3の溶液と、有機ビスマス化合物とを混合し、これを用いてMOD法によりNd3−xBiFe5−yGa12の磁性ガーネット膜を、GGG基板の一面に成膜する。
【0094】
ここで、有機ネオジム化合物としては、オクチル酸ネオジム、カプリル酸ネオジム、デカン酸ネオジム、ナフテン酸ネオジムの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0095】
そして、磁性ガーネット膜に有機ネオジム化合物が含まれている場合には、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が(100)面又は(110)面であることが好ましい。
【0096】
(4−2)実施例4
この場合、カプリル酸ネオジム33.8gにロジン35.6gを添加し、オイルバス150℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、プロピオン酸6.57gとテレピン油157.9gと酢酸n−ブチル79.0gと酢酸エチル26.3gを添加し第1の溶液を作製した。
【0097】
また、オクチル酸鉄150.1gにロジン53.9gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油201.1gと酢酸n−ブチル100.5gと酢酸エチル33.5gを添加し第2の溶液を作製した。
【0098】
さらに、カプリル酸ガリウム140gにロジン36.3gを添加し、オイルバス110℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油169.1gと酢酸n−ブチル84.5gと酢酸エチル28.2gを添加し第3の溶液を作製した。
【0099】
次いで、第1の溶液を44.53g(Nd7.94ミリモル)と、第2の溶液を42.26g(Fe15.9ミリモル)と、第3の溶液を12.40g(Ga3.97ミリモル)と、オクチル酸ビスマス溶液3.32g(Bi3.97ミリモル)とを混合して混合溶液を作製した。
【0100】
この混合溶液に濃度調整のためテレピン油16.5gと酢酸n−ブチル8.3gと酢酸エチル2.8gを添加し、均一な金属比率Nd:Bi:Fe:Ga=2:1:4:1となる原料溶液を作製した。なお、このようにして作製されたNdBiFeGa12からなる原料溶液50mlをメスフラスコにとり、目視で沈殿の有無を確認することによってポットライフを調べた結果、6ケ月後も沈殿や分離等の異常は認められなかった。したがって、NdBiFeGa12からなる原料溶液は6ケ月以上のポットライフを有することが確認できた。
【0101】
次いで、NdBiFeGa12の原料溶液を用いて上述したMOD法によって、GGG基板の一面にNdBiFeGa12からなる磁性ガーネット膜を成膜した。
【0102】
なお、このようにして作製された磁性ガーネット膜は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁化をもつか否かの評価を行った。その結果、磁性ガーネット膜は、磁化率曲線にヒステリシスをもつ強磁性体であって、磁化容易軸が面内方向Mであることが確認できた。
【0103】
そして、超伝導体をそれぞれ備えた酸化物基板の表面上に、NdBiFeGa12からなる磁気転写素子の膜面を平行にして近接配置させた後、当該磁気転写素子を偏光顕微鏡10で観察した場合、上述した第1の実施の形態と同様に、磁区がグラニュラー構造により細かく寸断され、超伝導体の磁束による磁化状態の変化のみが現れ、磁区が現れていないことが確認できた。
【0104】
(5)第5の実施の形態
(5−1)GdBiFeGa12による磁性ガーネット膜
第5の実施の形態による磁気転写素子は、上述した第1の実施の形態と磁性ガーネット膜を成膜する液体組成物と、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が異なるものであり、重複した説明を避けるため異なる点について着目して以下説明する。
【0105】
この場合、有機ガドリニウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第1の溶液と、有機鉄化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第2の溶液と、有機ガリウム化合物とロジンを混合し反応させた後の溶液分を留去し残った固形成分を有機溶媒に溶解した第3の溶液と、有機ビスマス化合物とを混合し、これを用いてMOD法によりGd3−xBiFe5−yGa12の磁性ガーネット膜を、GGG基板の一面に成膜する。
【0106】
ここで、有機ガドリニウム化合物としては、オクチル酸ガドリニウム、カプリル酸ガドリニウム、デカン酸ガドリニウム、ナフテン酸ガドリニウムの中から選ばれた一種あるいは二種以上が用いられる。
【0107】
そして、磁性ガーネット膜に有機ガドリニウム化合物が含まれている場合には、GGG基板において磁性ガーネット膜を成長させる面が(100)面又は(110)面であることが好ましい。
【0108】
(5−2)実施例5
この場合、オクチル酸ガドリニウム47.45gにロジン17.1gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、ナフテン酸13.7gとテレピン油158.3gと酢酸n−ブチル79.1gと酢酸エチル26.4gを添加し第1の溶液を作製した。
【0109】
また、オクチル酸鉄150.1gにロジン53.9gを添加し、オイルバス120℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油201.1gと酢酸n−ブチル100.5gと酢酸エチル33.5gを添加し第2の溶液を作製した。
【0110】
また、カプリル酸ガリウム140gにロジン36.3gを添加し、オイルバス110℃で3時間反応させた後、溶液分を留去した。釜内の残分に、テレピン油169.1gと酢酸n−ブチル84.5gと酢酸エチル28.2gを添加し第3の溶液を作製した。
【0111】
次いで、第1の溶液を46.72g(Gd7.78ミリモル)と、第2の溶液を41.17g(Fe15.5ミリモル)と、第3の溶液を12.08g(Ga3.86ミリモル)と、オクチル酸ビスマス溶液3.23g(Bi3.86ミリモル)とを混合して混合溶液を作製した。
【0112】
この混合溶液に濃度調整のためテレピン油16.5gと酢酸n−ブチル8.3gと酢酸エチル2.8gを添加し、均一な金属比率Gd:Bi:Fe:Ga=2:1:4:1となる原料溶液を作製した。このようにして作製されたGdBiFeGa12からなる原料用液50mlをメスフラスコにとり、目視で沈殿の有無を確認することによってポットライフを調べた結果、6ケ月後も沈殿や分離等の異常は認められなかった。従って、本発明になる磁性体薄膜形成用の液体原料は6ケ月以上のポットライフを有することが確認できた。
【0113】
次いで、GdBiFeGa12からなる液体組成物としての原料溶液を用いて上述したMOD法によって、GGG基板の一面にGdBiFeGa12からなる磁性ガーネット膜を成膜した。
【0114】
なお、このようにして作製された磁性ガーネット膜は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁化をもつか否かの評価を行った。その結果、磁性ガーネット膜は、磁化率曲線にヒステリシスをもつ強磁性体であって、磁化容易軸が面内方向Mであることが確認できた。
【0115】
そして、超伝導体をそれぞれ備えた酸化物基板の表面上に、GdBiFeGa12からなる磁気転写素子の膜面を平行にして近接配置させた後、当該磁気転写素子を偏光顕微鏡10で観察した場合、上述した第1の実施の形態と同様に、磁区がグラニュラー構造により細かく寸断され、超伝導体の磁束による磁化状態の変化のみが現れ、磁区が現れていないことが確認できた。
【0116】
(6)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば磁性ガーネット膜が成膜される基板として、シリコン、ガリウムヒ素等の半導体やコーニング7059ガラス基板、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス等の温度が高くても溶けないガラス材等この他種々の基板を適用するようにしても良い。なお、ガラス材からなる基板を用いた場合には、イットリウム等の希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法により、当該基板に磁性ガーネット膜を成膜できる。
【0117】
また、上述した実施の形態においては、偏光顕微鏡10を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、磁気転写素子に光を照射する光源と、当該磁気転写素子からの反射光を受光し、当該磁気転写素子の磁性ガーネット膜における磁化状態の変化を、光の明暗のコントラストにより表示するアナライザとを備えればこの他種々の光学系及び光学系装置を用いても良い。
【0118】
また、上述した実施の形態においては、磁化状態の変化により生じる磁区を細かく寸断するグラニュラー構造に形成され、磁化容易軸が膜面に平行である磁性ガーネット膜として、Bi:YIG、YBiFeGa12、YFeGa12、NdBiFeGa12又はGdBiFeGa12からなる原料用溶液を用いてMOD法により形成した磁性ガーネット膜を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は、磁化状態の変化により生じる磁区を細かく寸断するグラニュラー構造に形成され、磁化容易軸が膜面に平行である磁性ガーネット膜を成膜できれば良く、この他種々の液体組成物より種々の方法で磁性ガーネット膜を成膜しても良い。
【0119】
さらに、上述した実施の形態においては、希土類の有機化合物として、イットリウム、有機ネオジム化合物及び有機ガドリニウム化合物を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の希土類を適用するようにしても良い。
【0120】
さらに、上述した実施の形態においては、磁気転写素子1の反射膜4で偏光顕微鏡10からの光を反射させる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、磁気転写素子1の反射膜4の替わりに、偏光顕微鏡に反射鏡を設け、磁気転写素子を透過した光を当該反射鏡で反射させるようにしても良い。また、反射膜4を有しなくとも、磁性ガーネット膜表面が平滑であれば、当該表面で光を反射させることができるので、当該光の反射を利用して磁化状態の変化を観察できる。
【0121】
さらに、上述した実施の形態においては、測定対象物に近接配置し、測定対象物における所定部位の磁化分布を磁気的に転写するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電流分布又は磁化分布を有する種々の部位に近接配置し、当該部位の電流分布又は磁化分布を磁気的に転写するようにしても良く、この場合、当該部位において電流分布又は磁化分布が有するか否かを磁性転写素子を介して検査等することができる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明による磁気転写素子の全体構成と、測定対象物の全体構成とを示した概略図である。
【図2】磁性ガーネット膜をAFMにより観察したときの写真である。
【図3】磁気転写素子を測定対象物に近接配置させたときの様子を示す概略図である。
【図4】測定対象物の磁気パターン情報が磁気転写素子に転写される様子を示す概略図である。
【図5】偏光顕微鏡の全体構成を示す概略図である。
【図6】偏光顕微鏡によって磁気転写素子を観察するときの様子を示す概略図である。
【図7】磁気転写素子に転写された磁気パターン情報を偏光顕微鏡で撮影したときの写真である。
【図8】磁気転写素子を超伝導体上に配置させる前と、配置させた後とを示す写真である。
【図9】従来の磁気転写素子に転写された磁気パターン情報と、本発明による磁気転写素子に転写された磁気パターン情報とを観察したときの写真である。
【図10】従来の磁気転写素子に転写された磁気パターン情報に磁区が現れたときの様子を示す写真である。
【符号の説明】
【0123】
1 磁気転写素子
2 GGG基板
3 磁性ガーネット膜
7 測定対象物(記録媒体)
10 偏光顕微鏡(光学系、光学系装置)
11 光源
15 アナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流分布又は磁化分布を有する部位に近接配置することにより、前記電流分布又は磁化分布を磁気的に転写する磁性ガーネット膜であって、
磁化状態の変化により生じる磁区を細かく寸断するグラニュラー構造に形成され、磁化容易軸が膜面に平行である
ことを特徴とする磁性ガーネット膜。
【請求項2】
前記部位を有する記録媒体に近接配置することにより、前記記録媒体の前記電流分布又は磁化分布を磁気的に転写する
ことを特徴とする請求項1記載の磁気ガーネット膜。
【請求項3】
有機イットリウム化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法(有機金属堆積法 Metal Organic Deposition)により、GdGa12からなる基板の(111)面に成膜される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の磁性ガーネット膜。
【請求項4】
希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法により、GdGa12からなる基板の(100)面又は(110)面に成膜される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の磁性ガーネット膜。
【請求項5】
希土類の有機化合物を含有した液体組成物を用いてMOD法により、ガラス材からなる基板に成膜される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の磁性ガーネット膜。
【請求項6】
膜厚が200[nm]〜1[μm]である
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項記載の磁性ガーネット膜。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁性ガーネット膜を基板に備えた
ことを特徴とする磁気転写素子。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気転写素子に光を照射する光源と、
前記磁気転写素子からの反射光を受光し、前記磁気転写素子の磁性ガーネット膜における磁化状態の変化を、光の明暗のコントラストにより表示するアナライザと
を備えることを特徴とする光学系装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−43964(P2009−43964A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207700(P2007−207700)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】