説明

磁性体膜および磁性体膜の製造方法

【課題】白金層の面に対して垂直方向に高い保磁力を持つ垂直磁気異方性を有する磁性体膜を提供する。
【解決手段】(001)面方位を持つ白金層と、この白金層上に配置され、前記白金層の(001)面方位と平行な(001)面方位を持つ島状の鉄白金結晶体とを備え、
前記島状の鉄白金結晶体は、鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を有することを特徴とする磁性体膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録媒体として用いる磁性体膜および磁性体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の記録密度を高密度化が要望されている。この高密度化技術としては、例えば磁性結晶が分離され、かつ磁性の記録軸を基板面に対して垂直にした、いわゆる垂直磁気記録媒体が知られている。この磁気記録媒体は、磁性体が独立して基板上に設けられ、各々の磁区の干渉が少なくそれぞれの磁性を安定して保持できるため、記録情報を長期間安定して記録・保持できるという利点を有する。
【0003】
従来の磁性体膜は、マグネシア(MgO)基板上にFeとPtをそれぞれ積層蒸着した後、さらに鉄白金薄膜を蒸着した構造のものが提案されている(非特許文献1参照))。この方法によれば、高密度磁気記録に必要な強い保磁力を有し、かつ鉄白金の結晶軸を垂直磁化に適した軸に制御された磁気記録媒体を作製することが可能になる。これに対し、特許文献1にはMgO基板上にスパッタ法によって鉄白金を堆積させて基板上で粒子状生成物を形成して磁気記録媒体を作製することが記載されている。この方法によれば、FeとPtを多段に成膜する工程を省略できる利点を有する。
【0004】
また、特許文献2にはグラニュラー形状の磁性体を基板上に形成した磁性体膜が開示されている。この特許文献2においてはFeおよびPtの合金からなる微粒子を含むグラニュラー構造がMgOからなる母材に形成されている。この方法によれば、粒子状鉄白金をより微細にできるため、高密度の磁気記録が可能な磁性体膜を得ることができる。
【0005】
さらに、シリコン基板上やガラス基板上にFe−Pt合金の磁性体を配置した磁性体膜が提案されている(非特許文献2参照)。この磁性体膜は、安価な基板を用いることにより低コスト化が可能になる。
【0006】
特許文献3には、基板上に形成した一様な磁性結晶膜を所定形状のマスクを用いてエッチングして削ることによって、基板上に分離された磁性結晶を形成する方法が開示されている。また、前記特許文献1にも基板上にスパッタ方法により粒子状生成物を形成することが開示されている。このような方法によれば、磁性結晶を削る工程を省くことができるため、磁性物質の無駄な消費を回避することが可能になる。
【0007】
さらに、前記非特許文献2には別の方法として予め合成したFePt粒子を基板上に塗布することにより基板上に島状の結晶体を形成することが記載されている。この方法は、スパッタ装置が不要になるため、磁性体膜を簡便かつ低コストで作製することが可能になる。
【特許文献1】特開2003−289005
【特許文献2】特開2004−11050
【特許文献3】特願2001−358296
【非特許文献1】Watanabe et al., J. Magn. Magn. Mater., 177/181, 1231 (1998)
【非特許文献2】Shouheng Sun et al., SCIENCE 287, 1989−1992 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように粒子状のFePtを有する磁性体膜が種々開示されている。しかしながら、これらの磁性体膜は潮解性を有するMgOを基板材料として用いているため、基板が水分により変形する。基板の変形は、同時に基板上の粒状の結晶体を変形させ、磁気記録が不安定になる。その結果、水分の浸入を防ぐために保護膜が必要になる。保護膜の形成は、磁気記録用のヘッドと磁性体膜の間のギャップが大きくなるため、磁気情報が劣化する虞がある。また、磁性体膜の製造工程においてMgOからなる基板表面の変形を抑制する目的で表面の水分を除去する工程を必要とするため、磁性体膜の製造コストが高くなる。
【0009】
一方、シリコン基板またはガラス基板はMgO基板のような水分に起因する変形を生じないものの、鉄白金の結晶軸を垂直記録に対応した向きに配向させることが困難となる。このため、所定の記録容量を確保するには過剰の鉄白金結晶体を必要とし、コストが高くなる。
【0010】
このようなことから前記基板上に形成される磁性体は、鉄白金(FePt)合金から作ることが提案されている。鉄白金合金は、強い保磁力を示すことが知られている。しかしながら、保磁力を示す鉄白金の合金組成は限られている。図3の鉄白金合金の相図に示すように、鉄の含有率が略50原子%においてL10相を形成し、最大の保磁力を示す。鉄の含有率が50原子%から外れるに従って保磁力は急激に低下する。この磁性体膜を磁気記録媒体に適用した場合、磁気記録媒体の面内で島状磁性体が所定の組成比率から外れると、所定の記録密度を有する磁気記録媒体を得ることが困難になる。
【0011】
基板上にFePt粒子をスパッタなどの方法により析出させる方法は、基板上に島状の磁性体を過剰に設けることが可能であるため、島状磁性体が所定の組成比率から外れても所定の記録密度を有する磁気記録媒体を得ることが可能になる。しかしながら、この方法で析出されたFePt粒子は大きさが不揃いになるため、磁性体粒子の寸法変動に伴う記録密度のばらつきを生じる。
【0012】
本発明は、白金層の面に対して垂直方向に高い保磁力を持つ垂直磁気異方性を有する磁性体膜およびこの磁性体膜を低コストで製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様によると、(001)面方位を持つ白金層と、この白金層上に配置され、前記白金層の(001)面方位と平行な(001)面方位を持つ島状の鉄白金結晶体とを備え、
前記島状の鉄白金結晶体は、鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を有することを特徴とする磁性体膜が提供される。
【0014】
本発明の第2態様によると、(001)面方位を有する白金層上に鉄成分が50原子%を超える鉄白金粒子を堆積させる工程と、
加熱する工程と
を含むことを特徴とする磁性体膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高密度記録媒体に適した磁性体膜および低コストかつ量産的な磁性体膜の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る磁性体膜を詳細に説明する。
【0017】
実施形態に係る磁性体膜は、(001)面方位を持つ白金層とこの白金層上に配置された島状の鉄白金結晶体とを備える。この島状の鉄白金結晶体は、前記白金層の(001)面方位と平行な(001)面方位を有する。すなわち、前記鉄白金結晶体は白金層の表面に平行な面において白金層の(001)面方位と同じ(001)面方位を有する。また、前記島状の鉄白金結晶体は、最も強い保磁力を示す鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を有する。
【0018】
図1は、典型的な実施形態に係る磁性体膜を示す概略図である。(001)面方位を持つ例えば結晶性の白金層1上に複数の例えば球に近似した形状の鉄白金結晶体2が配置され、それら鉄白金結晶体2は結晶性白金層1の表面に平行な面においてその白金層2の(001)面方位と同じ(001)面方位を有する。前記鉄白金結晶体2は、鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を有する。
【0019】
前記白金層は、(001)面方位を持つ白金基板であるか、またはガラス、マグネシア、アルミナ、シリコン、窒化チタンからなる基板表面に形成されるか、いずれかの形態を有する。
【0020】
前記結晶性白金層としては、単結晶白金層または多結晶白金層が挙げられる。
【0021】
前記島状の鉄白金結晶体は、前記白金層から離れるに従って白金成分が減少する濃度勾配を有することが好ましい。このような濃度勾配を有する鉄白金結晶体において、鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域は鉄白金結晶体の濃度勾配の方向の中間付近に位置することが好ましい。
【0022】
前記濃度勾配を有する鉄白金結晶体において、前記白金層との界面の白金成分が50〜70原子%、より好ましくは50〜60原子%で、表面の白金成分が30〜50原子%、より好ましくは40〜50原子%であることが望ましい。このような濃度勾配を有する鉄白金結晶体は、より高い保磁力を有する。
【0023】
前記各鉄白金結晶体は、例えば前記白金層と平坦な面で接する球状体または四角柱、五角柱、六角柱のような多角柱状体の形状を有する。このような形状の鉄白金結晶体は、単一形状に限らず、2種以上が混在した形状であってもよい。鉄白金結晶体が球状体である場合、2〜10nmの平均径を有することが好ましい。隣接する鉄白金結晶体の間隔は、球状体である場合、その径と同等であることが好ましい。
【0024】
次に、実施形態に係る磁性体膜の製造方法を説明する。
【0025】
まず、白金層、例えば結晶性白金基板を研磨する。具体的には、単結晶または多結晶のような結晶性白金基板の表面をその(001)面方位が表出するように研磨する。なお、ガラス、マグネシア、アルミナ、シリコン、窒化チタンからなる基板表面に結晶性白金層を形成したものでもよい。
【0026】
次いで、結晶性白金基板上に鉄成分が50原子%を超える鉄白金粒子を堆積させる。鉄白金粒子は、例えば気相合成法により得ることができる。鉄白金粒子は、鉄成分が60〜90原子%であることが好ましい。このような鉄成分を有する鉄白金粒子において、後述する加熱時の鉄白金粒子中の鉄原子と白金基板の白金原子の相互拡散(元素の交換)から低い温度での加熱の場合には鉄成分が低い側の鉄白金粒子を用い、高い温度での加熱の場合には鉄成分が高い側の鉄白金粒子を用いることが好ましい。前記鉄白金粒子は、例えば前記白金基板と平坦な面で接する球状体または四角柱、五角柱、六角柱のような多角柱状体の形状を有する。このような形状の鉄白金粒子は、単一形状に限らず、2種以上が混在した形状であってもよい。鉄白金粒子が球状体である場合、2〜10nmの平均径を有することが好ましい。結晶性白金基板に堆積された鉄白金粒子において、その鉄白金粒子が球状体である場合、隣接する鉄白金粒子の間隔がその径と同等であることが好ましい。
【0027】
前記結晶性白金基板上への鉄白金粒子の堆積は、例えば前記鉄白金粒子をヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、エタノールのような有機溶媒の液に分散させた分散液(スラリー)を前記白金基板上に塗布する方法を採用することができる。スラリーの塗布後に乾燥して鉄白金粒子を結晶性白金基板に固定する。
【0028】
次いで、前記基板を加熱する。この加熱は、還元性雰囲気または真空雰囲気中、450〜640℃、より好ましくは450〜600℃の温度にてなされることが望ましい。加熱手段は、ヒータ加熱の他に、レーザー照射、電子線照射、ガンマ線照射などの加熱を行ってもよい。
【0029】
このような加熱において、鉄白金粒子中に含まれる鉄原子と結晶性白金基板の白金原子が相互拡散する。つまり、鉄白金粒子中の鉄原子が結晶性白金基板に拡散移動し、同時に結晶性白金基板の白金原子が鉄白金粒子中に移動し元素の交換が行われる。結晶性白金基板中では白金元素の位置は結晶の方位にしたがって固定されている。鉄白金粒子の結晶構造は、鉄白金粒子と結晶性白金基板の界面にてなされる鉄と白金の元素交換の過程で次第に結晶性白金基板と同様な構造を有するようになる。その結果、(001)面方位を有する結晶性白金基板上にその基板の(001)面方位と平行な(001)面方位を持つ島状の鉄白金結晶体が配置された磁性体膜を得ることができる。また、鉄白金結晶体は前述した鉄白金粒子中に含まれる鉄原子と結晶性白金基板の白金原子の相互拡散によって、結晶性白金基板の界面で白金成分が増大し、結晶性白金基板から離れるに従って白金成分が減少する濃度勾配を有する。鉄成分が50原子%を超える、好ましくは鉄成分が60〜90原子%の鉄白金粒子を用いることによって、前記濃度勾配に最も保磁力が強くなる鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を存在させることが可能になる。
【0030】
以上、実施形態によれば白金層の面に対して垂直方向に高い保磁力を持つ垂直磁気異方性を有する磁性体膜を得ることができる。このような磁性体膜は、従来の磁性体膜(均一な組成の島状磁性体)に比べ約1/2以下の鉄白金結晶体の量で所定の密度の磁性記録媒体に適用でき、低コスト化を実現できる。
【0031】
また、実施形態によれば従来の方法(磁性体の薄膜をエッチングする方法)に比べ約1/5以下の磁性体物質によって白金層の面に対して垂直方向に高い保磁力を持つ垂直磁気異方性を有し、所定の密度の磁性記録媒体に適用可能な磁性体膜を低コストで製造することができる。
【0032】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、以下に説明する実施例はこの発明の技術思想を具体化するものを例示するものであって、この発明を特定するものではない。
【0033】
(実施例1)
予め、鉄成分量が80原子%で平均粒径が3nmの鉄白金粒子をヘキサン中に10重量%分散させて鉄白金粒子のスラリーを調製した。単結晶白金基板の表面を(001)面方位が表出するように研磨した。つづいて、この単結晶白金基板上に前記鉄白金粒子のスラリーを塗布した。所定時間乾燥させて単結晶白金基板上に鉄白金粒子の層を固定させた。乾燥後の鉄白金粒子を電子顕微鏡観察した。その結果、約3nmの鉄白金粒子が約3nmで等間隔に配置されていた。
【0034】
次いで、鉄白金粒子を乾燥固定化した単結晶白金基板を水素雰囲気中、100℃/分の速度で昇温し、550℃にて30分間保持した。このような加熱により、(001)面方位を有する単結晶白金基板上に約3nmの粒状鉄白金結晶体が約3nmで等間隔に配置され、鉄白金結晶体の(001)面方位が単結晶白金基板の(001)面方位と平行である磁性体膜を得た。
【0035】
得られた磁性体膜をその粒状鉄白金結晶体を横切って単結晶白金基板の表面に対して垂直方向に切断し、白金結晶体の白金基板との界面から表面に亘って透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法により組成分析を行った。その結果、鉄白金結晶体は単結晶白金基板界面の白金(Pt)成分が60原子%、表面の白金成分が40原子%で、白金基板の表面に対して垂直方向に白金基板から離れるに従って白金成分が減少する白金の濃度勾配を有し、かつこの濃度勾配にFe:Pt=50:50の組成領域が形成されていることが確認された。
【0036】
また、得られた磁性体膜について外部磁場を印加したときの単結晶白金基板表面に垂直方向および水平方向の磁化を測定した。その結果を図2の(A),(B)に示す。この図2から明らかなように実施例1の磁性体膜は、単結晶白金基板表面に垂直の方向にのみ大きな磁化を示すことがわかる。このときの保磁力は、5kOeであった。
【0037】
(実施例2〜7および参照例1)
下記表1に示す組成の平均粒径が3nm(実施例6では5nm)の鉄白金粒子(FePt粒子)をヘキサン中に10重量%分散させて7種のFePt粒子のスラリーを調製した。単結晶白金基板の表面を(001)面方位が表出するように研磨した。つづいて、この単結晶白金基板上に前記FePt粒子のスラリーをそれぞれ塗布した。所定時間乾燥させて単結晶白金基板上にFePt粒子の層を固定させた。乾燥後のFePt粒子を電子顕微鏡観察した。その結果、約3nmのFePt粒子が約3nmで等間隔に配置されていた。なお、実施例6では約5nmのFePt粒子が約5nmで等間隔に配置されていた。
【0038】
次いで、FePt粒子を乾燥固定化した単結晶白金基板を水素雰囲気中、100℃/分の速度で昇温し、下記表1に示す温度にて30分間保持した。このような加熱により、(001)面方位を有する単結晶白金基板上に約3nmの粒状鉄白金結晶体が約3nmで等間隔に配置され、鉄白金結晶体の(001)面方位が単結晶白金基板の(001)面方位と平行である磁性体膜を得た。なお、実施例6では約5nmのFePt結晶体が約5nmで等間隔に配置されていた。
【0039】
(比較例1〜3)
予め、鉄成分量が50原子%で平均粒径が3nmのFePt粒子をヘキサン中に10重量%分散させて鉄白金粒子のスラリーを調製した。MgO基板、TiN基板およびSi基板の表面を研磨し、それぞれ(001)面方位、(001)面方位、(100)面方位を表出させた。つづいて、これら基板上に前記FePt粒子のスラリーをそれぞれ塗布した。所定時間乾燥させて各基板上にFePt粒子の層を固定させた。乾燥後のFePt粒子を電子顕微鏡観察した。その結果、いずれも約3nmのFePt粒子が約3nmで等間隔に配置されていた。
【0040】
次いで、FePt粒子を乾燥固定化した各基板を水素雰囲気中、100℃/分の速度で昇温し、550℃にて30分間それぞれ保持した。このような加熱によって各基板上に平均粒径3nmで、下記表1に示す結晶方位を持つFePt結晶体が約3nmで等間隔に配置された磁性体膜を得た。
【0041】
得られた実施例2〜7、参照例1および比較例1〜3の磁性体膜をその粒状鉄白金結晶体を横切って単結晶白金基板の表面に対して垂直方向に切断し、白金結晶体の白金基板との界面から表面に亘って透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法により鉄白金結晶体における単結晶白金基板界面の白金(Pt)成分および表面のPt成分と、Fe:Pt=50:50の組成領域の有無を調べた。その結果を下記表1に示す。なお、実施例2〜7、参照例1の磁性体膜の鉄白金結晶体は、いずれも単結晶白金基板の表面に対して垂直方向に白金基板から離れるに従って白金成分が減少する白金の濃度勾配を有していた。下記表1において、『界面/表面のPt量(原子%)が例えば60/40』とは白金基板と鉄白金結晶体の界面での組成が原子%でFe:Pt=40:60、鉄白金結晶体の表面での組成が原子%でFe:Pt=60:40であることを示す。
【0042】
また、得られた実施例2〜7、参照例1および比較例1〜3の磁性体膜について外部磁場を印加したときの単結晶白金基板表面に垂直方向および水平方向の磁化の測定により垂直方向および水平方向の保磁力を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0043】
なお、表1には実施例1の結果も併記した。
【表1】

【0044】
前記表1から明らかなように実施例1〜7の磁性体膜は、FePt結晶体のPt濃度勾配にFe:Pt=50:50(原子%)の組成領域が形成され、前述した図3の相図に示すFePtのL10相形成に起因する垂直方向のみに高い保磁力を有することが確認された。特に、FePt結晶体のPt濃度勾配の中間付近にFe:Pt=50:50(原子%)の組成領域が形成された実施例1の磁性体膜は垂直方向のみにより一層高い保磁力を有することがわかる。
【0045】
これに対し、FePt粒子としてFe:Pt=50:50(原子%)の組成のもの用いて製造した参照例1の磁性体膜は、FePt結晶体がPt濃度勾配を有するものの、そのPt濃度勾配中にFe:Pt=50:50(原子%)の組成領域が形成されない、つまり前述した図3の相図に示すFePtのL10相が形成されないため、垂直方向および水平方向のいずれも保磁力がゼロであった。
【0046】
基板としてMgO基板、TiN基板、Si基板を用いた比較例1〜3の磁性体膜は、FePt結晶体が基板の面方位に揃わないため、基板の垂直方向全体にFe:Pt=50:50(原子%)の組成を有するものの、垂直方向および水平方向のいずれの方向にも保磁力を示し、垂直磁気異方性を示すものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施形態に係る磁性体膜の概略図。
【図2】実施例1の磁性体膜について外部磁場を印加したときの単結晶白金基板表面に垂直方向および水平方向の磁化を測定した結果を示す図。
【図3】鉄白金合金の組成図。
【符号の説明】
【0048】
1…結晶性白金基板、2…鉄白金結晶体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(001)面方位を持つ白金層と、この白金層上に配置され、前記白金層の(001)面方位と平行な(001)面方位を持つ島状の鉄白金結晶体とを備え、
前記島状の鉄白金結晶体は、鉄および白金がそれぞれ50原子%の組成領域を有することを特徴とする磁性体膜。
【請求項2】
前記島状の鉄白金結晶体は、前記白金層から離れるに従って白金成分が減少する濃度勾配を有することを特徴とする請求項1記載の磁性体膜。
【請求項3】
前記島状の鉄白金結晶体は、前記白金層との界面の白金成分が50〜70原子%で、表面の白金成分が30〜50原子%であることを特徴とする請求項2記載の磁性体膜。
【請求項4】
前記白金層は、(001)面方位を持つ白金基板であることを特徴とする請求項1記載の磁性体膜。
【請求項5】
前記白金層は、ガラス、マグネシア、アルミナ、シリコン、窒化チタンからなる基板表面に形成されることを特徴とする請求項1記載の磁性体膜。
【請求項6】
(001)面方位を有する結晶性白金層上に、鉄成分が50原子%を超える鉄白金粒子を堆積させる工程と、
加熱する工程と
を含むことを特徴とする磁性体膜の製造方法。
【請求項7】
前記鉄白金粒子は、鉄成分が60〜90原子%であることを特徴とする請求項6記載の磁性体膜の製造方法。
【請求項8】
前記白金層上への前記鉄白金粒子の堆積は、前記白金層上に前記鉄白金粒子を含む液を塗布することによりなされることを特徴とする請求項6記載の磁性体膜の製造方法。
【請求項9】
前記加熱は、還元性雰囲気または真空雰囲気中、450〜640℃の温度にてなされることを特徴とする請求項6記載の磁性体膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−41774(P2008−41774A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211222(P2006−211222)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「材料ナノテクノロジープログラムナノ粒子の合成と機能化技術」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】