説明

磁性塗料の製造方法及びその磁性塗料を用いた磁気記録媒体

【課題】超微粒子磁性粉末が良好に分散されるように、その表面に分散剤および結合剤樹脂を均一に被覆させる表面処理を行って磁性塗料を製造する製造方法を提供する。またこの製造方法で得られた磁性塗料を用いて電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁性粉末、分散剤および/または結合剤樹脂、並びに有機溶媒を含み、非溶媒成分の含有率が40重量%以下である組成物を、剪断力を加えながら混合、攪拌して第1組成物を得る磁性粉末の表面処理工程と、前記第1組成物の非溶媒成分の含有率を80重量%以上に濃縮して第2組成物を得る濃縮工程とを含む方法により磁性塗料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
磁性塗料の製造方法及びその磁性塗料を用いた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体には様々な用途がある。中でも、コンピュータのデータバックアップ用磁気記録媒体としては、コンピュータテープおよびハードディスクが主として使用されている。データバックアップ用コンピュータテープ(バックアップテープとも言う)では、1巻あたり数百GB以上の記憶容量のものが商品化されている。一方、ハードディスクの記憶容量は今後さらに増大することが予想され、バックアップテープの記憶容量の増加も不可欠である。また、磁気記録媒体の高容量化のためには、記録波長をますます短くすること、およびトラック幅を小さくすることが必要不可欠である。
【0003】
高容量コンピュータテープは、一般に、磁性粉末を結合剤樹脂と共に溶媒中に分散させた磁性塗料を、可撓性支持体上に塗布して製造される。磁気記録媒体の記録密度の高度化に対応して、使用される磁性粉末の粒子径は小さくなり、飽和磁化量σsに代表される磁気エネルギーの大きな強磁性金属粉未を使用するようになってきている。ところが、磁性粉末は、粒子径の微小化や高磁気エネルギー化が進むほど、個々の粒子の凝集力が強まることが知られている。
【0004】
また、磁気記録媒体は、表面平滑化によるスペーシングロスの低減、磁性層の薄層化、表面欠陥によるドロップアウトの低減、磁性粉末の保磁力分布の均一化、長時間かつ多数回の使用に耐えうる高耐久性のいずれをも兼ね備えていることが求められている。これらの要件を満たすには、磁性塗料が十分に分散されていることが必要となってくる。
【0005】
一般に、磁性塗料は、針状、粒状、板状などの磁性粉末、非磁性粉末、結合剤樹脂、有機溶剤およびその他分散剤などの添加剤を混合し、撹拌して製造される。
しかしながら、前述したように、磁気記録媒体の高容量化に伴う磁性粉末の超微粒子化と高磁気エネルギー化により磁性粉末の凝集力が強くなり、磁性粉末などの粒子に分散剤および結合剤樹脂を均一に被覆させることができず、粒子の分散が困難になってきている。分散剤や結合剤樹脂を磁性粉末に不均一に被覆した状態では粒子の分散が十分に行われず、磁気特性の向上が期待できない。
【0006】
このような問題に対して、メカノケミカル反応を利用した試みとして、強磁性粉末を結合剤樹脂および分散剤とともに機械的に混合する方法(例えば特許文献1)や、強磁性粉末に有機酸化合物を添加して乾式圧密処理する方法(例えば特許文献2)が提案されている。
【特許文献1】特開2001−76340号公報
【特許文献2】特開2003−268404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術の表面処理方法(特許文献1、2)では、溶媒を用いずに分散剤、結合剤のみで表面処理しており、超微粒子磁性粉末、とくに平均粒子径が50nm未満の超微粒子磁性粉末の表面に分散剤、結合剤樹脂を均一に被覆させるのは不十分であり、その後、これら粉体を種々の分散機を用いて分散させようとしても分散が困難で磁気特性の向上も見られず、超微粒子磁性粉末の特性を十分に引き出すことができない。特に粒状の超微粒子磁性粉末においては、従来の表面処理では均一に処理することは難しい。
【0008】
本発明の目的は、このような事情に照らして、超微粒子磁性粉末が良好に分散されるように、その表面に分散剤および結合剤樹脂を均一に被覆できる表面処理を行って磁性塗料を製造する方法を提供することであり、またこの製造方法で得られた磁性塗料を用いた電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明者らは超微粒子磁性粉末を用いた磁性塗料の製造方法について鋭意検討した結果、磁性塗料を下記のような工程を含む製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するにいたった。すなわち、本発明は、磁性粉末、分散剤および/または結合剤樹脂、並びに有機溶媒を含み、非溶媒成分の含有率が40重量%以下である組成物を、剪断力を加えながら混合、攪拌して第1組成物を得る磁性粉末の表面処理工程と、前記第1組成物の非溶媒成分の含有率が80重量%以上になるまで濃縮して第2組成物を得る濃縮工程と、を含むことを特徴とする磁性塗料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
磁性塗料を製造するにあたり、磁性粉末、分散剤および/または結合剤樹脂、並びに有機溶媒を含む組成物の非溶媒成分の含有率を40重量%以下にするとともに、この組成物を剪断力を加えながら混合、攪拌して第1組成物を得る表面処理工程を行うので、平均粒子径が50nm未満の超微粒子磁性粉末であっても、超微粒子磁性粉末の表面への濡れ性が促進され、磁性粉末の粒子を分散剤、結合剤樹脂により均一に被覆することができる。また、得られた第1組成物の非溶媒成分の含有率を80重量%以上に濃縮して第2組成物を得る濃縮工程行うので、後述する磁性塗料製造プロセスにおける混練工程において、高固形分濃度で混練することが可能となり、圧密・剪断作用を有効に発現させることが可能となる。
【0011】
本発明の製造方法によれば、超微粒子磁性粉末の表面を、分散剤および結合剤樹脂により効率よく均一に被覆することができるので、種々の分散機での分散が容易になり、高度に分散された磁性塗料を製造することができる。その結果、短波長記録特性のすぐれた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
一般に、磁性粉末の表面処理は、磁性粉末の顆粒を高速攪拌混合機で解砕し、その後、高速攪拌混合機にて分散剤や結合剤樹脂と混合して、磁性粉末の表面処理や結合剤樹脂との混合が行われる。しかし、従来の方法では、超微粒子磁性粉末、特に平均粒子径が50nm未満の磁性粉末では、表面を均一に処理することは困難になってくる。
【0013】
本発明に従って磁性粉末の表面処理を行う場合、磁性粉末と結合剤樹脂および/または分散剤を混合し、非溶媒成分の含有率が40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下となるようにして、有機溶媒とともに処理する。非溶媒成分の含有率は、かなり小さくすることができるが、通常1重量%以上、好ましくは10重量%以上である。
【0014】
非溶媒成分の含有率が40重量%を超えると、磁性粉末の溶媒による濡れが均一に進まず、組成物の粘度も高くなりすぎるため、磁性粉の解砕も進まず、均一な表面処理が困難になる。非溶媒成分の含有率が1重量%未満になると、溶媒が多量に必要となり、コストが上昇する。
【0015】
なお、磁性粉末の表面処理は、磁性粉末の他に、磁性塗料に含ませる他の非磁性粉末、例えば研磨剤、カーボンブラック等を含ませて行ってもよい。ここでいう非溶媒成分の含有率とは、表面処理をおこなう全材料中から有機溶媒を除く、磁性粉末、非磁性粉末、結合剤樹脂、分散剤(液状の場合も含む)などの合計重量%をいう。以下、非溶媒成分の含有率を固形分濃度ともいう。
【0016】
表面処理工程は、剪断力を加えながら混合、攪拌して行うことが好ましい。
表面処理工程で用いられる具体的な装置としては、剪断力を加えられる混合・攪拌装置であれば特に限定されず、従来公知の混合、攪拌装置を用いることができる。ここでいう、剪断力とは、ずり応力以外にも、衝撃力、キャビテーションなど、粉末を分散させるのに効果的なあらゆる機械的エネルギーを含む。
【0017】
代表的な混合・攪拌装置としては、分散容器内で回転翼の付いた回転軸を高速で回転させる回転剪断型攪拌機;分散メディアを含む分散容器内で回転翼の付いた回転軸を高速で回転させるアトライタおよびサンドミル;超音波分散機;高圧噴霧衝突型分散機;などが挙げられる。
【0018】
表面処理工程においては、可能なかぎり高い剪断力を加えることが好ましく、ずり速度が好ましくは10/sec以上、より好ましくは10/sec以上となるように、剪断力を加えることが好ましい。このような高剪断力は、回転翼と固定部とを備え、この回転翼と固定部との間隙が小さく設定され、高速回転が可能な攪拌機を用いることにより、加えることができる。このような攪拌機としては、ウルトラタラックス(IKA社製)、T.K.ホモミクサー(プライミクス社製)、T.K.フィルミックス(プライミクス社製)、クレアミックス(エム・テクニック社製)、等のバッチ式攪拌機が挙げられる。また、エバラマイルダー(荏原製作所社製)やキャビトロン(ユーロテック社製)等の連続式の攪拌機を用いても良い。連続式攪拌機は、1回処理で使用してもよいし、また循環ラインを組んで複数回処理で使用してもよい。
【0019】
本発明では、上記表面処理工程に次いで、固形分濃度が80重量%以上となるように、加熱、減圧などの手段により有機溶媒を蒸発させて、第1組成物を濃縮する。この濃縮は、後の磁性塗料製造プロセスにおける混練工程において、高固形分濃度で混練させることで圧密・剪断作用を有効に発現させることを目的としている。
【0020】
本発明では、濃縮後の第2組成物の固形分濃度は、混練工程で使用する混練装置の種類に応じて適宜選択すればよいが、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上が最も好ましい。濃縮後の第2組成物の固形分濃度の上限は特に限定されないが、好ましくは99.9重量%を超えない。
【0021】
濃縮方法は、特に限定されない。加熱・減圧などの従来公知の手段を用いて濃縮することができるが、前記第1組成物を攪拌もしくは振動させながら大きな塊状物が生じないように濃縮する方法が好ましい。
【0022】
表面処理工程に用いる分散剤や結合剤樹脂としては、後述する磁性塗料の製造に用いられる従来公知の分散剤や結合剤樹脂を用いることができる。分散剤や結合剤樹脂は、使用する磁性粉末の種類や製造する磁気記録媒体の仕様や用途に応じて用いることが好ましく、いずれか一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。その場合、いずれの場合であっても、それぞれの効果を好適に発現させるためには、分散剤の使用量は、磁性粉末に対して0.1〜10重量%が好ましく、結合剤樹脂の使用量は、磁性粉末に対して0.5〜20重量%が好ましい。
【0023】
本発明においては、表面処理工程および濃縮工程を経た組成物に、結合剤樹脂および溶剤を加えて高固形分濃度で圧密力、剪断力を加える混練工程を行うことが好ましい。混練工程の後は、希釈工程を行い、さらに分散工程などの従来公知の磁性塗料製造プロセスを経て分散性の良好な磁性塗料を得ることができる。
【0024】
混練工程では、回分式混練機や連続式2軸混練機により混練を行い、希釈工程では、混練工程の後工程として、回分式混練機や連続式2軸混練機または他の希釈装置を用いて、第2組成物を希釈する。
【0025】
上記の連続式2軸混練機には、KEX−30、KEX−40、KEX−50、KEX−65、KEX−80(いずれも栗本鐵工所製)、TEX30αII、TEX44αII、TEX65αII、TEX77αII、TEX90αII(いずれも日本製鋼所製)などを用いることができる。
【0026】
分散工程では、メディア型分散機にて分散を行う。メディア型分散機としては攪拌軸にディスク(穴開き、切り込み入り、溝付などを含む)、ピン、リングが設けられたものや、ロータが回転するもの、例えば、ナノミル、ピコミル、サンドミル、ダイノミルなど、従来公知のものを用いることができる。
【0027】
分散用メディアの粒子径は、0.05〜2.0mmが好ましく、0.2〜1.6mmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、粒子径が0.05mm未満では、塗料との分離が難しくなり、2.0mmを超えると、微粒子に対する分散能力が低下するからである。
【0028】
分散用メディアは、ガラス媒体(粒子)、セラミック媒体、金属媒体(表面が樹脂で被覆されたものも含む)など、従来公知の分散用メディアを使用できるが、特に微粒子の磁性粉末に対しては、密度の大きい(3g/cm以上)材質のものが好ましい。分散用メディアのミル容器への充填量は、ミル内容量に対して見掛け容量比率で50〜90%が好ましい。見掛け容量比率が、50%未満では、分散効率が低下し、一方、90%を超えると、分散用メディアの動きが悪くなるばかりか、発熱量が多くなる。
【0029】
攪拌軸の回転速度は、回転部の周速で6〜15m/sが好ましい。回転部の周速が、6m/s未満では、分散用メディアの分散エネルギーが小さく、一方、15m/sを超えると、分散用メディアが破壊されることがある。
【0030】
塗料分散時の滞留時間は、磁性塗料の構成成分および用途により異なるが、30〜90分が好ましい。2連以上のサンドミルを用いて塗料分散を行う場合に、各連の分散条件を変えてもよい。たとえば、始めに大粒径分散用メディアを使用し、最後に小粒径分散メディアを使用すると、より好ましい。
【0031】
メディア型分散機での分散工程の後、高圧噴霧衝突式分散機で分散することが好ましい。高圧噴霧衝突式分散機としては、分散体を高圧フランジャーポンプにて加圧し、小さなノズル径から放出させるチャンバーを有する分散機や、対向したノズルから処理液を高速高圧で噴霧させて分散体同士を対面衝突させるチャンバーが備わった分散機、例えば、アルティマイザー、ホモゲナイザー、ナノマイザーなど、従来公知のものを用いることができる。分散する時の加圧圧力は50MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましい。処理する回数は、分散前後の粘度差や塗料中の被分散物の粒度分布、塗料のショートパス防止などを考慮して2回以上行うのがよい。また、ノズル目詰まりを防ぐために、処理する前にフィルターなどで粗大粒子をろ過してから分散することが好ましい。
【0032】
<磁性粉末>
本発明において磁性塗料の製造に使用される磁性粉末は、従来公知の磁性粉末であってよいが、強磁性鉄系金属磁性粉末、窒化鉄磁性粉末、板状六方晶フェライト磁性粉末などが好ましく用いられる。平均粒子径が50nm未満で、通常10nm以上のものが好ましく、15〜40nmの範囲のものがより好ましい。平均粒子径が50nm以上になると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなり、一方、平均粒子径が10nm未満では、保磁力の低下や粒子の表面エネルギーが増大し、塗料中での分散が困難になる。
【0033】
<結合剤樹脂>
結合剤樹脂の例としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0034】
これらの樹脂の中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体樹脂とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン樹脂などがある。
【0035】
このような結合剤樹脂は、好ましくは、官能基として、−COOH、−SOM、−OSOM、−P=O(M)3 、−O−P=O(M) 〔これら式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子またはアミド基を示す〕、−OH、−NR、−N〔これら式中、R1 、R2 、R3 、R4 およびRは、同一または異なって、水素原子または炭化水素基を示す〕、エポキシ基などを有している。
【0036】
このような官能基を有する結合剤樹脂を使用すると、磁性粉末などの分散性が向上する。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも、−SO3 M基を有する結合剤樹脂同士の組み合わせが好ましい。
【0037】
これらの結合剤樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、通常は7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で使用する。特に、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂を併用する場合は、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部とポリウレタン樹脂2〜20重量部とを併用するのが好ましい。
【0038】
また、これらの結合剤樹脂とともに、結合剤樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが好ましい。
【0039】
このような架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの2個以上の水酸基をする水酸基含有化合物との反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの、各種のポリイソシアネートが好ましく用いられる。
【0040】
これらの架橋剤は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常1〜50重量部、好ましくは15〜35重量部の割合で用いられる。
【0041】
また、上記のような熱硬化性の結合剤樹脂の代わりに、放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、上記熱硬化性樹脂をアクリル変性し放射線感応性二重結合を導入したものや、アクリルモノマー、アクリルオリゴマーが用いられる。
【0042】
<有機溶剤>
本発明において、磁性塗料の製造に使用される有機溶剤の例としては、たとえば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤、などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは混合して使用され、またトルエンなどの芳香族溶媒と混合して使用されてもよい。
【0043】
本発明において、磁性塗料の製造に使用される添加剤には、研磨材、潤滑剤、分散剤が使用できる。
【0044】
<研磨材>
研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素など、主としてモース硬度6以上のものが、単独または組み合わせて使用できる。これらの研磨剤の粒子サイズは、好ましくは、平均粒子径で10〜200nmである。
【0045】
また、磁性塗料には、必要により、導電性と表面潤滑性の向上を目的に、従来公知のカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。平均粒子径が10〜100nmのカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの平均粒子径が、10nm未満になると、カーボンブラックの分散が難しく、一方、100nmを超えると、多量のカーボンブラックを添加する必要があり、いずれの場合も、形成される磁性膜の表面が粗くなり、出力低下の原因になる。また、必要により、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。
【0046】
<潤滑剤>
磁性塗料に加える潤滑剤としては、脂肪酸、脂肪酸のエステル、脂肪酸アミド等が挙げられる。潤滑剤は、塗料中に含まれる磁性粉末に対して、脂肪酸の場合は0.5〜5重量%、脂肪酸のエステルの場合は0.2〜3重量%、脂肪酸アミドの場合は0.5〜5.0重量%を含有させることが好ましい。脂肪酸の添加量が0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、一方、5重量%を超えると、強靭性が失われるおそれがある。脂肪酸のエステルの添加量が0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、一方、3重量%を超えると、磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付くなどの副作用を生じるおそれがある。脂肪酸アミドの添加量が、0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起こり焼き付き防止効果が小さく、一方、5.0重量%を超えるとブリードアウトしてドロップアウトなどの欠陥が発生する恐れがある。
【0047】
脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸が好ましい。炭素数10以上の脂肪酸は、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型脂肪酸が好ましい。この脂肪酸には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などがある。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。脂肪酸エステルとしては、前記脂肪酸のエステルが好ましい。脂肪酸アミドとしては、パルミチン酸、ステアリン酸などの炭素数が10以上の脂肪酸アミドが使用できる。
【0048】
<分散剤>
磁性粉末、研磨材やカーボンブラックなどの添加剤を有機溶剤中に良好に分散させるために、分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸などの炭素数12〜18の脂肪酸〔RCOOH(式中、Rは炭素数11〜17個のアルキル基またはアルケニル基である。)〕、上記脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(金属石けん)、上記脂肪酸エステルのフッ素化化合物、上記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(ここで、アルキルは炭素数1〜5のアルキルであり、オレフィンはエチレン、プロピレンなどである。)、硫酸塩、スルホン酸塩、りん酸塩、銅フタロシアニンなどの従来公知の各種の分散剤を、いずれも使用することができる。これらは、単独でも組み合わせて使用してもよい。分散剤は、磁性粉粉末100重量部に対し、通常0.5〜10重量部の量で使用される。
【0049】
本発明においては、上記した磁性粉末並びに分散剤および/または結合剤樹脂とともに、有機溶剤や上記の添加剤成分などを使用し、前記方法で分散処理して磁性塗料を製造し、製造された磁性塗料を、常法に従って、非磁性支持体上に塗布し、乾燥して、磁性層を形成し、所要の処理工程を経ることにより、磁気記録媒体を製造することができる。
【0050】
本発明において、磁性層の(乾燥)厚さは、0.01μm以上、0.15μm以下が好ましい。磁性層の厚さが、0.01μm未満では得られる出力が小さい上、均一な磁性層を形成するのが困難であり、一方、0.15μmを超えると、短波長信号の分解能が悪くなる。短波長記録特性をさらに向上させるには、磁性層の厚さは、より好ましくは0.01〜0.1μm、最も好ましくは0.02〜0.06μmである。
【0051】
本発明において、磁性層は、非磁性支持体上に直接形成することもできるが、通常は、下塗り層を介して形成するのが望ましい。また、磁性層の上に、必要により、磁性層の保護などのため、トップコート層を設けてもよい。さらに、磁性層は、磁気記録媒体の容量を大きくするために、非磁性支持体の両面に形成してもよい。一方、非磁性支持体の片面にのみ磁性層を形成する場合は、通常は、非磁性支持体の背面側にバックコート層を形成するのが望ましい。
【0052】
<非磁性支持体>
非磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常は、1.5〜11μmである。非磁性支持体の厚さは、より好ましくは2〜7μmである。非磁性支持体の厚さが、1.5μm未満となると、製膜が難しくなり、またテープ強度が小さくなる。一方、11μmを超えると、テープ全厚が厚くなり、テープ1巻あたりの記録容量が小さくなる。
【0053】
非磁性支持体の長手方向のヤング率、好ましくは5.8GPa(590kg/mm )以上、より好ましくは7.1GPa(720kg/mm )以上である。非磁性支持体の長手方向のヤング率が5.8GPa未満では、テープ走行が不安定になり得る。
【0054】
ヘリキャルスキャンタイプでは、非磁性支持体の長手方向のヤング率(MD)対幅方向のヤング率(TD)の比は、好ましくは0.6〜0.8の範囲、より好ましくは0.65〜0.75の範囲である。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率比が、0.6未満であるかまたは0.8を超えると、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなることがある。このばらつきは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率比が0.7付近で最小になる。
【0055】
また、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率比は、0.7〜1.3が好ましい。
【0056】
好ましくは、非磁性支持体の幅方向の温度膨張係数は−10〜10×10-6であり、同じく幅方向の湿度膨張係数は0〜10×10-6である。幅方向の温度または湿度膨張係数がこの範囲をはずれると、温度または湿度の変化によりオフトラックが生じエラーレートが大きくなることがある。
【0057】
以上のような特性を満足する非磁性支持体としては、たとえば、二軸延伸された、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、芳香族ポリアミドフィルム、芳香族ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
【0058】
<下塗り層>
高記録密度の磁性層を得るためには、磁性層の厚さを薄くすることが望ましく、耐久性のある薄層の磁性層を安定して得るためには、磁性層と非磁性支持体との間に下塗り層(非磁性層)を設けることが好ましい。下塗り層の厚さは、好ましくは0.2μm以上、1.5μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。下塗り層の厚さが、0.2μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果や、耐久性の向上効果が小さくなり、一方、1.5μmを超えると、磁気テープの全厚が厚くなりすぎて、テープ1巻あたりの記録容量が小さくなる。この下塗り層に使用するバインダ樹脂(および架橋剤)や下塗り層形成のための塗料の溶剤には、磁性塗料の場合と同様のものを用いることができる。
【0059】
下塗り層に使用する非磁性粉末には、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどがあるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が好ましい。非磁性粉末の粒子形状は、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもよいが、針状、紡錘状の場合は、長軸長が20〜200nm、短軸長が5〜200nmのものが好ましい。多くの場合、非磁性粉末を主成分とし、必要により粒子径が0.01〜0.1μmのカーボンブラック、粒子径が0.05〜0.5μmの酸化アルミニウムを補助的にする。下塗り層を平滑にかつ少ない厚みムラで塗布するには、上記の非磁性粒子およびカーボンブラックは、とくに粒度分布が狭いものを用いるのが好ましい。下塗り層には、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することもできる。非磁性板状粉末の成分としては、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄などの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0060】
導電性を改良する目的で、平均粒子径が10〜100nmのグラファイトのような板状炭素性粉末や平均粒子径が10〜100nmの板状ITO(インジウム・スズ複合酸化物)粉末などを、下塗り層に添加してもよい。このような非磁性板状粉末を添加することにより、膜厚の均一性、表面平滑性、剛性、寸法安定性が改善される。
【0061】
<バックコート層>
本発明において、磁気テープを構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上などを目的として、バックコート層を設けることができる。
【0062】
バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましい。バックコート層の厚さが0.2μm未満では、走行性向上効果が不十分であり、一方、0.8μmを超えると、テープ全厚が厚くなり、1巻あたりの記録容量が小さくなる。バックコート層の中心線平均表面粗さRaは、好ましくは3〜8nm、より好ましくは4〜7nmである。
【0063】
バックコート層には、通常、カーボンブラックを含ませる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。通常は、小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラックを使用する。小粒子径カーボンブラックと大粒子径カーボンブラック合計の添加量は、無機粉体重量を基準にして、好ましくは60〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。
【0064】
小粒子径カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは5〜200nm、より好ましくは10〜100nmである。小粒子径カーボンブラックの平均粒子径が、10nm未満では、カーボンブラックの分散が難しくなり、一方、100nmを超えると、多量のカーボンブラックを添加する必要があり、いずれの場合もバックコート層の表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)の原因になる。大粒子径カーボンブラックとして、平均粒子径200〜400nmのカーボンブラックを、小粒子径カーボンブラックに対し5〜15重量%の割合で使用すると、バックコート層の表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。
【0065】
バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性などを向上するために、平均粒子径が10〜100nmの非磁性板状粉末を添加することができる。非磁性板状粉末の成分は、酸化アルミニウム、若しくはセリウムなどの希土類元素またはジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄などの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0066】
導電性を改良する目的で、平均粒子径が10〜100nmの板状炭素性粉末や平均粒子径が10〜100nmの板状ITO粉末などを添加してもよい。また、必要に応じて、平均粒子径が0.1〜0.6μmの粒状酸化鉄粉末を添加してもよい。これらの導電性改良用添加剤の添加量は、バックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。また、平均粒子径が0.1〜0.6μmのアルミナを添加すると、耐久性がさらに向上するので、好ましい。
【0067】
バックコート層には、結合剤樹脂として、磁性塗料に配合したのと同様の結合剤樹脂を使用できる。これらの中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを組み合わせて使用するのが好ましい。
【0068】
バックコート層中の結合剤樹脂の含有量は、通常、カーボンブラックと無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して、通常40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。結合剤樹脂の含有量が、40重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、一方、150重量部を超えると、摩擦係数が高くなりやすい。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用するのが好ましい。
【0069】
バックコート層には、結合剤樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を加えるのが好ましい。架橋剤には、磁性層に使用したのと同様のものを使用できる。架橋剤の量は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常10〜50重量部、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。架橋剤の量が、10重量部未満では、バックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、一方、35重量部を超えると、ステンレス鋼(SUS)に対する動摩擦係数が大きくなる。
【0070】
以下、実施例を用いて本発明をより詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」は、「重量部」である。また、実施例および比較例中の「平均粒子径」は、「数平均粒子径」である。
【実施例】
【0071】
実施例1
<磁性塗料成分>
(1)表面処理工程成分
粒状窒化鉄磁性粉末 100部
(Al−Y−Fe−N)〔σs:105Am/kg(90emu/g)、
Hc:214.9kA/m(2700Oe)、平均粒子径17nm、〕
ポリエステルポリウレタン樹脂 2部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
アルミナ粉末 10部
メチルアシッドフォスフェート 4部
テトラヒドロフラン 271部
固形分濃度 30wt%
(2)濃縮工程
固形分濃度 90wt%
(3)混練工程成分
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 17部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 4部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 5部
シクロヘキサノン 7部
トルエン 5部
(4)希釈工程成分
パルミチン酸アミド 1部
ステアリン酸ブチル 1部
シクロヘキサノン 190部
トルエン 190部
(5)配合工程成分
ポリイソシアネート 6部
メチルエチルケトン 2部
シクロヘキサノン 8部
トルエン 8部
【0072】
上記の磁性塗料成分の中から、まず、(1)の表面処理工程成分を表面処理槽内に投入し、回転剪断型攪拌機(エム・テクニック社製クレアミクス;回転翼径50mm;ギャップ2mm;回転数2000rpm;ずり速度2.6×10/sec)(混合攪拌条件A)により60分攪拌して、第1組成物を得た。
【0073】
得られた第1組成物を、縦型振動乾燥機(中央化工機社製VFD-01)に投入し、槽内を振動させ(振動数1800cpm、振幅2.2mm)、20KPaの減圧下、60℃に加温して濃縮し、固形分濃度90重量%の第2組成物を得た。
【0074】
得られた第2組成物に(3)の混練工程成分を加え、連続式2軸混練機で混練した。次に、連続式2軸混練機の希釈部において、(4)の希釈工程成分の一部を加えて希釈を行い、取り出した組成物に、さらに(4)の希釈工程成分残部を加え、高速攪拌して均一な分散前スラリを得た。
【0075】
分散前スラリをサンドミル(メディア:0.5φのジルコニアビーズ;充填率80vol%;羽根周速10m/s)で、90分の滞留時間で分散し、これに(5)の配合工程成分を加え、撹拌・ろ過後、高圧噴霧衝突式分散機アルティマイザー(スギノマシン社製)により、処理圧力100MPaで4回分散処理して磁性塗料を得た。
【0076】
<下塗り塗料成分>
(1)成分
針状酸化鉄 68部
カーボンブラック 20部
粒状アルミナ粉末 12部
メチルアシッドフォスフェート 1部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
テトラヒドロフラン 13部
シクロヘキサノン 63部
メチルエチルケトン 137部
(2)成分
ステアリン酸ブチル 2部
シクロヘキサノン 50部
トルエン 50部
(3)成分
ポリイソシアネート 6部
シクロヘキサノン 9部
トルエン 9部
【0077】
上記の下塗り成分の中から、(1)の成分を回分式ニーダで混練し、(2)の成分を加えて撹拌した後、サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)の成分を加え撹拌・ろ過して、下塗り塗料(下塗り層用塗料)を得た。
【0078】
上記下塗り塗料を、厚さ8μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、乾燥・カレンダ後の厚さが0.9μmになるように塗布し、下塗り層上に、上記の磁性塗料をエクストルージョン型コータによりウエット・オン・ウエット方式で、乾燥・カレンダ後の厚さが0.08μmになるように塗布し、磁場配向処理(N−N対向磁石(398kA/m)+ソレノイドコイル(398kA/m))の後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを作製した。
【0079】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0080】
上記のバックコート層用塗料成分をサンドミルで分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバック層用塗料を調製し、ろ過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に塗布し乾燥した。
【0081】
このようにして得たバックコート層付き磁気シートを、金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理(カレンダ処理)し、磁気シートをコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用磁気シートを作製した。
【0082】
実施例2
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランの量を174部(第1組成物の固形分濃度40wt%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0083】
実施例3
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランを464部(第1組成物の固形分濃度20wt%)に変更し、表面処理工程において、槽内を攪拌する条件を回転翼径50mm;ギャップ2mm;回転数8000rpm;ずり速度1.1×10/sec(混合攪拌条件B)に変更し、第2組成物の固形分濃度を95wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0084】
実施例4
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランを464部(第1組成物の固形分濃度20wt%)に変更し、第2組成物の固形分濃度を95wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0085】
実施例5
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランを464部(第1組成物の固形分濃度20wt%)に変更し、第2組成物の固形分濃度を90wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0086】
実施例6
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランを464部(第1組成物の固形分濃度20wt%)に変更し、第2組成物の固形分濃度を80wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0087】
実施例7
表面処理工程において、槽内を攪拌する条件を回転翼径50mm;ギャップ5mm;回転数1500rpm;ずり速度7.9×10/sec(混合攪拌条件C)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0088】
実施例8
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を針状磁性粉(Fe−Co−Al−Y[σs:80Am/kg(80emu/g)、Hc:1800Oe、長軸径:25nm])に変更した以外は、実施例4と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0089】
実施例9
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を針状磁性粉(Fe−Co−Al−Y[σs:80Am/kg(80emu/g)、Hc:1800Oe、長軸径:25nm])に変更した以外は、実施例7と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0090】
実施例10
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を六方晶板状フェライト(Hc:2000Oe、平均板径:20nm、σs:50emu/g)に変更した以外は、実施例4と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0091】
実施例11
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を六方晶板状フェライト(Hc:2000Oe、平均板径:20nm、σs:50emu/g)に変更した以外は、実施例7と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0092】
比較例1
磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分中のテトラヒドロフランの量を142部(第1組成物の固形分濃度45wt%)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0093】
比較例2
第2組成物の固形分濃度を70wt%に変更したこと以外は、実施例2と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0094】
比較例3
表面処理工程、濃縮工程を行わず、磁性塗料成分の(1)の表面処理工程成分において、テトラヒドロフランを12.9部に変更した成分を、(3)の混練工程成分に加え、混練工程を行うことに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0095】
比較例4
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を針状磁性粉(Fe−Co−Al−Y[σs:80Am/kg(80emu/g)、Hc:1800Oe、長軸径:25nm])に変更した以外は、比較例3と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0096】
比較例5
磁性塗料成分(1)表面処理工程成分中の(1)粒状窒化鉄磁性粉末を六方晶板状フェライト(Hc:2000Oe、平均板径:20nm、σs:50emu/g)に変更した以外は、比較例3と同様にして評価用磁気シートを作成した。
【0097】
得られた評価用磁気シートを下記の方法で評価した。
<磁気特性>
磁気特性は、試料振動型磁束計(VSM、東英工業社製)を用い、最高磁場800kA/m(10kOe)の条件下で測定した。ヒステリシスループを描かせ、得られたヒステリシスループから、常法に従いSR(角型比)およびSFD(磁場反転分布)の特性値を求めた。
【0098】
<磁性層表面の粗さ>
磁気シートから12.5mm×100mmの測定用サンプルを切り出し、磁気塗料が塗布された最表面の粗さを非接触三次元表面形状測定装置(ZYGO社製 New View 5000)を用いて、算術平均粗さRaを求めた。
【0099】
【表1】

【0100】
本発明の従う実施例1〜11の各磁気シートは、いずれも、比較例1〜5の磁気シートに比べて、磁気特性が優れ、磁性層表面の粗さが小さく、短波長記録特性に優れた磁気記録媒体が得られていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末、分散剤および/または結合剤樹脂、並びに有機溶媒を含み、非溶媒成分の含有率が40重量%以下である組成物を、剪断力を加えながら混合、攪拌して第1組成物を得る磁性粉末の表面処理工程と、前記第1組成物の非溶媒成分の含有率が80重量%以上になるまで濃縮して第2組成物を得る濃縮工程と、を含むことを特徴とする磁性塗料の製造方法。
【請求項2】
非磁性支持体、および請求項1に記載の磁性塗料の製造方法により製造された磁性塗料から該非磁性支持体表面上に形成された磁性層を有する、磁気記録媒体。

【公開番号】特開2008−248238(P2008−248238A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54578(P2008−54578)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】