説明

磁性金属触媒微粒子形成基板の製造方法および磁性金属触媒微粒子形成基板

【課題】基板上に粒径均一、分布一様に磁性金属触媒微粒子を高再現性で析出生成させる。
【解決手段】本製造方法は、両性である非磁性金属からなる母材を基板上に形成するステップと、炭素含有ガスに反応するものでアルカリに非可溶の磁性金属を上記母材上に形成するステップと、熱処理により上記母材中に上記磁性金属を凝集させて少なくとも基板と母材との界面に磁性金属触媒微粒子を析出するステップと、アルカリにより上記母材を除去して上記基板上に磁性金属触媒微粒子を露出させるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有ガスに接触反応してカーボンナノチューブ(CNT)等を成長させる際の成長起点となる磁性金属触媒微粒子を形成した基板を製造する方法および磁性金属触媒微粒子形成基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CNTは、その性状、サイズ、等により、各種用途が期待されている物質である。CNTの製造方法の一つに、炭素含有ガスに接触反応する触媒膜が成膜された触媒構造を有する基板を用いる方法がある。
【0003】
この触媒構造には、図6で示すように、基板50上にCNTの成長に対する触媒作用を持たないアルミニウム等の非磁性金属からなる非磁性金属触媒膜51と、この非磁性金属触媒膜51上の鉄等の磁性金属からなる磁性金属触媒膜52との2層構造としたものがある。また、先行技術文献として下記の特許文献1、2を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−303250号公報
【特許文献2】特開平08−67966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような2層構造において、チャンバ内において、熱アニール処理を施すと、上層の磁性金属触媒膜52が微粒子化してくるが、この場合、熱アニール処理中でのチャンバ内の残留ガス等により、図7で示すように、そうした磁性金属触媒膜52の凝集状態に差が生じて不均一に凝集し、微粒子化してくる結果、非磁性金属触媒膜51上に粒径および分布共に不均一な形態で磁性金属触媒微粒子53が生成される。このようなこれら磁性金属触媒微粒子53をCNTの成長起点としこれらに炭素含有ガスを接触反応させると、図8で示すように、直径不均一でかつ成長密度不均一にCNT54が成長する結果となる。
【0006】
本発明では、粒子直径均一、粒子分布一様にして、それら磁性金属触媒微粒子を基板上に形成できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による磁性金属触媒微粒子基板の製造方法は、両性の非磁性金属からなる母材を基板上に形成するステップと、炭素含有ガスに反応するものでアルカリに非可溶の磁性金属を上記母材上に形成するステップと、熱処理により上記母材中に上記磁性金属を凝集させて少なくとも基板と母材との界面に磁性金属触媒微粒子を析出するステップと、アルカリにより上記母材を除去して上記基板上に磁性金属触媒微粒子を露出させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記アルカリには、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどの水溶液等があり、これらから適宜選択することができるが、特に水酸化カリウムのアルコール溶液は、基板に対して均一なエッチング作用が期待できるため好ましい。
【0009】
上記熱処理は、上記凝集が生じ析出が起きる温度での加熱と加熱時間での熱処理であればよく、特に限定しない。
【0010】
上記母材はすべて除去する意味に限定されず、一部除去する場合も含む。
【0011】
本発明においては、熱処理により母材中に磁性金属を微粒子状に凝集させるので、基板と母材との界面には磁性金属触媒微粒子を粒径均一でかつ当該界面上における析出間隔均一、したがって、磁性金属触媒微粒子の形成密度均一にして析出することができる。このように基板上に粒径均一かつ形成密度均一に形成されている磁性金属触媒微粒子に炭素含有ガスを一定の温度において接触反応させると、この磁性金属触媒微粒子上にはCNTを直径均一でかつ成長密度均一に成長することができる。
【0012】
上記両性の非磁性金属としては、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫がある。
【0013】
上記炭素含有ガスに接触反応するものでアルカリに非可溶の磁性金属としては、鉄、ニッケル、コバルト等がある。
【0014】
基板の素材は、特に限定されないが、シリコンを例示することができる。
【0015】
基板上の磁性金属触媒微粒子により成長するカーボンファイバは、その種類は特に限定されないが、CNT、グラファイトナノファイバ、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノバンブ等を例示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板表面に磁性金属触媒微粒子をほぼ粒径均一、密度均一に形成することができ、したがって、この基板を用いた場合、基板上には直径均一かつ高い直線性のCNTを成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる磁性金属触媒微粒子形成基板の製造方法において熱アニール処理前の基板の構成を示す図である。
【図2】図2は非磁性金属母材中に磁性金属触媒微粒子を析出した場合の基板の構成を示す図である。
【図3】図3(a)は非磁性金属母材中に磁性金属触媒微粒子を析出した場合の基板のTEM写真を示す図、図3(b)は図3(a)に対応するモデル図である。
【図4】図4(a)は図2の基板から母材を溶解除去した場合の基板の構成を示す図、図4(b)は図2の基板から母材を溶解除去した場合において当該母材の一部が残留する場合の基板の構成を示す図である。
【図5】図5は図4(a)の基板上にCNTを成長させた場合の基板の構成を示す図である。
【図6】図6は従来例にかかる磁性金属触媒微粒子形成基板の製造方法において熱アニール処理前の基板の構成を示す図である。
【図7】図7は図6の基板に対して熱アニール処理を実施した場合の基板の構成を示す図である。
【図8】図8は図7の基板に対してCNTを成長させた場合の基板の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る磁性金属触媒微粒子形成基板の製造方法を説明する。なお、同方法の実施においては図示略のEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)装置におけるチャンバを用いる。EB−PVD装置は、周知されるように、高真空中で高エネルギーの電子ビーム(EB)を蒸着原料に照射し、この蒸着原料を加熱蒸気化させて基板表面に蒸着させることにより同原料による成膜を行う装置である。この成膜を行うための上記チャンバ内部は真空下あるいは不活性ガス雰囲気下におかれる。
【0019】
この方法に用いる基板は、図1(a)で示すように、その基板1の表面にバリア膜1aが形成されている。基板1は例えばガラス、シリコン、MgO、GaAs、フェライト、等を用いることができる。
【0020】
図1(b)で示すように、基板1表面には、バリア膜1aを介して、両性の非磁性金属である例えばアルミニウムからなる母材2を形成する。この場合、EB−PVD装置のチャンバ内において電子ビームを母材の蒸着原料に照射し、この蒸着原料を加熱蒸気化し、基板1上に蒸着する。もちろん、この母材2の形成は、この蒸着法に限らず、スパッタリング法、分子線エピタキシャル法、その他で形成してもよい。
【0021】
そして、図1(c)で示すように、炭素含有ガスに接触反応するものでアルカリに非可溶の磁性金属例えば鉄からなる膜(磁性金属触媒膜)3を母材2上に形成する。この場合も、EB−PVD装置のチャンバ内において電子ビームを磁性金属からなる蒸着原料に照射し、この蒸着原料を加熱蒸気化し、母材2上に磁性金属を膜状に蒸着する。もちろん、この磁性金属触媒膜3の形成は、この蒸着法に限らず、スパッタリング法、分子線エピタキシャル法、その他で形成してもよい。
【0022】
以上第1、第2ステップを経た基板を図1に示す。1は基板、1aはバリア膜、2は非磁性金属母材、3は磁性金属触媒膜である。
【0023】
次に、図2で示すように、熱アニール処理により母材2中に磁性金属触媒膜3からの磁性金属を微粒子状に凝集させて、磁性金属触媒微粒子3a,3b,3cを析出させる。
【0024】
図3(a)に図2に対応して実際に磁性金属触媒微粒子を析出させた場合のTEM写真を示し、図3(b)に図3(a)の理解のため同TEM写真のモデルを示す。
【0025】
磁性金属触媒微粒子3aは、母材2の表面2aに析出し、磁性金属触媒微粒子3bは母材2中に析出し、磁性金属触媒微粒子3cは、基板1のバリア膜1aと母材2との界面に析出する。磁性金属触媒微粒子3aは、粒径不均一、分布不一様である。また、磁性金属触媒微粒子3bは母材2中であるため、粒径均一である。磁性金属触媒微粒子3cも、微粒子粒径均一、微粒子分布一様である。母材2の表面2aに析出した磁性金属触媒微粒子3aは、表面に露出しているために残留ガス等の影響を受けやすい結果、粒径不均一、分布一様に形成される。母材2中の磁性金属触媒微粒子3bは、残留ガス等の影響を受けにくいため、粒径均一である。母材2中の磁性金属触媒微粒子3cは、残留ガス等の影響を受けにくい結果、粒径均一かつ分布一様である。
【0026】
ついで、母材2は両性の非磁性金属であるので、酸にもアルカリにも溶解する。そのため、図2の状態で例えばアルカリ溶液である水酸化カリウム(KOH)溶液中に基板1を浸漬すると、磁性金属触媒微粒子3a−3cは溶解しないが、両性非磁性金属で構成される母材2は溶解する。この溶解と共に、母材2表面と中の磁性金属触媒微粒子3a,3bは除去されて図4(a)のように磁性金属触媒微粒子3cがバリア膜1a上に露出させられる。この場合、図4(b)で示すように、バリア膜1a上に母材2の一部が2bとして残留し、この残留した母材2の一部2bにより、磁性金属触媒微粒子3cをバリア膜1a上に補助的に固定するようになる。
【0027】
以上から、本実施の形態では、熱処理により母材2中に磁性金属触媒膜3を凝集し、これにより磁性金属触媒微粒子3a−3cを析出させ、基板1と母材2との界面に磁性金属触媒微粒子3cを粒径均一でかつ当該界面上における析出間隔均一、したがって、形成密度均一にして析出することができる。その結果、図4(a)のバリア膜1a上に粒径均一かつ形成密度均一に形成されている磁性金属触媒微粒子3cに炭素含有ガスを詳細は略するが、チャンバ内にて所定の温度および圧力条件下で接触反応させると、この磁性金属触媒微粒子3c上には図5で示すようにCNT4が直径均一でかつ成長密度均一に成長することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 基板
1a バリア膜
2 非触媒金属母材
2a 母材表面
2b 母材一部
3 磁性金属膜
3a,3b,3c 磁性金属触媒微粒子
4 CNT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両性である非磁性金属からなる母材を基板上に形成するステップと、
炭素含有ガスに反応するものでアルカリに非可溶の磁性金属を上記母材上に形成するステップと、
熱処理により上記母材中に上記磁性金属を凝集させて少なくとも基板と母材との界面に磁性金属触媒微粒子を析出するステップと、
アルカリにより上記母材を除去して上記基板上に磁性金属触媒微粒子を露出させるステップと、
を含む磁性金属触媒微粒子基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造した基板。
【請求項3】
基板上に形成した両性である非磁性金属からなる母材中に炭素含有ガスに反応しかつアルカリに非可溶の磁性金属触媒微粒子が当該母材と基板との界面に析出している基板。
【請求項4】
請求項3に記載の基板を用いたもので、アルカリで母材が除去されて上記磁性金属触媒微粒子が基板上に露出している基板。
【請求項5】
請求項3に記載の基板を用いたもので、上記磁性金属触媒微粒子が、基板上の上記母材の一部により基板上に補助的に固定された状態で露出している基板。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92828(P2011−92828A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247465(P2009−247465)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】