説明

磁気センサおよび磁気デバイス

【課題】1つの部品で複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することが可能な磁気センサおよびこれを用いた磁気デバイスを提供する。
【解決手段】磁気センサ10は、1枚の基板11と、この基板11上に設けられた4つの磁気インピーダンス素子12とを有する。磁気インピーダンス素子12は、短冊形状に形成された磁性体からなる。こうした4つの磁気インピーダンス素子12のうち、2つの磁気インピーダンス素子12a,12bは、短冊形状の長手方向Lが第1の方向、例えば図1中のX軸方向を向いて配置される。また、他の2つの磁気インピーダンス素子12c,12dは、短冊形状の長手方向Lが第1の方向と直交する第2の方向、例えば図1中のY軸方向を向いて配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁場を検出する磁気センサおよびこれを用いた磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
空間に存在する微弱な外部磁界、例えば地磁気などを検出する磁気センサを小型、集積化するために、例えば、薄膜の磁性体を基板上に形成した磁気インピーダンス素子を用いた磁気センサが知られている。また、こうした磁気インピーダンス素子を1枚の基板上に複数形成することによって、複数の磁気インピーダンス素子を有し、かつ、実装面積の増大や、製造コストの上昇を抑えた磁気センサも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2方向に向いてそれぞれ配列された磁性材料からなる磁気インピーダンス素子が記載されている。また、例えば特許文献2には、互いに直交する2方向にそれぞれ配列された複数の磁気インピーダンス素子を接続してホイートストンブリッジ回路をなす磁気センサが記載されている。
【特許文献1】特開2001−281309号公報
【特許文献2】特開平10−270774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電子コンパスなど空間の方位を検出する機器では、複数の方向の外部磁界強度をそれぞれ独立して検出する必要がある。しかしながら、上述したような特許文献1に記載の磁気インピーダンス素子では、複数の方向の磁場強度の合計値を検出できるだけであり、複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することはできなかった。
また、特許文献2に記載の磁気センサでは、一方の方向に向いた磁気インピーダンス素子の出力特性を改善するために、一方の方向と直交する他方の方向に向いた磁気インピーダンス素子を形成したものであり、複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することはできなかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、1つの部品で複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することが可能な磁気センサおよびこれを用いた磁気デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る磁気センサは、1枚の基板上に4つの磁気インピーダンス素子を備え、そのうち2つの磁気インピーダンス素子は第1の方向を、他の2つの磁気インピーダンス素子は前記第1の方向と直交する第2の方向を向いて配置され、前記磁気インピーダンス素子のそれぞれによりホイートストンブリッジ回路が構成されている磁気センサであって、
前記磁気インピーダンス素子は少なくとも1つ以上の短冊形状をなす磁性体からなり、前記磁性体の磁化容易軸方向はその長手方向に対して略45度傾いていることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る磁気デバイスは、請求項1に記載の磁気センサと、前記磁気センサに電気的なパルスを供給するパルス発生手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の磁気センサによれば、4つの磁気インピーダンス素子は、それぞれ短冊形状をもつ磁性体から構成されており、4つの磁気インピーダンス素子のうちの2つはその長手方向が第1の方向を向いて配置され、他の2つはその長手方向が第2の方向を向いて配置されており、これら4つの磁気インピーダンス素子の磁化容易軸が、全て長手方向に対して略45度傾いた状態に揃えられる。これにより、第1の方向の磁気インピーダンス素子の磁場検出感度と、第2の方向の磁気インピーダンス素子の磁場検出感度を揃えることができ、磁気インピーダンス素子のそれぞれにより構成されたホイートストンブリッジ回路から、第1の方向の磁場強度と、第2の方向の磁場強度とをそれぞれ独立して同時に検出することが可能になる。
【0008】
そして、4つの磁気インピーダンス素子を1枚の基板上に形成することによって、複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することができる磁気センサを1つの部品で実現することが可能になり、複数の方向の磁場強度を個別に検出できる磁気センサの小型化、集積化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る磁気デバイスの実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の磁気センサの一例(以下、第1実施形態とも呼ぶ)を示す平面図である。磁気センサ10は、1枚の基板11と、この基板11上に設けられた4つの磁気インピーダンス素子12とを有する。磁気インピーダンス素子12は、短冊形状に形成された磁性体からなる。こうした4つの磁気インピーダンス素子12のうち、2つの磁気インピーダンス素子12a,12bは、短冊形状の長手方向Lが第1の方向、例えば図1中のX軸方向を向いて配置される。また、他の2つの磁気インピーダンス素子12c,12dは、短冊形状の長手方向Lが第1の方向と直交する第2の方向、例えば図1中のY軸方向を向いて配置される。
【0011】
こうした4つの磁気インピーダンス素子12は電気的に接続されてホイートストンブリッジ回路Rを構成する。そして、4つの磁気インピーダンス素子12の磁化容易軸Dは、それぞれの磁気インピーダンス素子12の短冊形状の長手方向Lに対して略45度傾いている。
【0012】
このような磁気センサ10の構成によって、第1の方向(X軸方向)に長手方向を向けて配置された磁気インピーダンス素子12a,12bの磁化容易軸Dと、第2の方向(Y軸方向)に長手方向を向けて配置された磁気インピーダンス素子12c,12dの磁化容易軸Dとが、全て長手方向Lに対して略45度傾いた状態に揃えられる。これにより、第1の方向に長手方向を向けて配置された磁気インピーダンス素子12a,12bの磁場検出感度と、第2の方向に長手方向を向けて配置された磁気インピーダンス素子12c,12dの磁場検出感度を揃えることができる。
【0013】
そして、4つの磁気インピーダンス素子12のそれぞれにより構成されたホイートストンブリッジ回路Rにセンス電流となる電気的なパルスを供給することによって、ホイートストンブリッジ回路RのOUT1とOUT2からそれぞれリファレンス信号を得て、第1の方向(X軸方向)の磁場強度と、第2の方向(Y軸方向)の磁場強度とをそれぞれ独立して同時に検出することが可能になる。
【0014】
そして、こうした4つの磁気インピーダンス素子12を1枚の基板11上に形成することによって、複数の方向の磁場強度をそれぞれ独立して同時に検出することができる磁気センサを1つの部品で実現することが可能になり、複数の方向の磁場強度を個別に検出できる磁気センサの小型化、集積化を実現できる。
【0015】
本発明の磁気センサ10による磁場検出をさらに詳述すると、4つの磁気インピーダンス素子12からなるホイートストンブリッジ回路Rにパルス発生手段からパルスを与えた状態で、例えば図1中のX軸方向に向いた磁場が存在する場合、長手方向LがX軸方向に向いた磁気インピーダンス素子12a,12bのインピーダンスが増大する。これにより、ホイートストンブリッジ回路RのOUT1から出力されるパルスの波高値が減少し、反対にOUT2から出力されるパルスの波高値が増大する。
【0016】
また、図1中のY軸方向に向いた磁場が存在する場合、長手方向LがY軸方向に向いた磁気インピーダンス素子12c,12dのインピーダンスが増大する。これにより、ホイートストンブリッジ回路RのOUT1から出力されるパルスの波高値が増大し、反対にOUT2から出力されるパルスの波高値が減少する。このように、磁気センサ10の置かれた磁場のそれぞれの方向成分の磁場強度に応じて、ホイートストンブリッジ回路RのOUT1から出力されるパルスの波高値と、OUT2からから出力されるパルスの波高値とが互いに逆に増減するので、複数の方向の磁場強度を同時に、かつ個別に検出することができる。
【0017】
こうしたホイートストンブリッジ回路RのOUT1とOUT2とからそれぞれ出力されるパルスの出力比を得ることにより、磁気センサ10を例えば電子コンパスの方位角センサとして用いることができる。さらに、図1中のX軸方向に対して45°ないし135°の角度のバイアス磁界を磁気センサ10に印加することにより、4つの磁気インピーダンス素子12に均等にバイアス磁界を印加することができる。
【0018】
磁気インピーダンス素子12を構成する磁性体は、例えば基板11上に積層された薄膜の磁性体であればよい。磁気インピーダンス素子12を構成する磁性体としては、例えば、CoZrNb非晶質(アモルファス)磁性材料や、パーマロイ(Ni−80wt%Fe)などの強磁性体、NiFe、FeCoSiBなどの非晶質(アモルファス)磁性材料や結晶性磁性材料を用いることができる。
【0019】
磁気インピーダンス素子12の形成にあたっては、例えば非磁性の基板上にスパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法などによって磁性体を形成し、フォトリソグラフィーによってレジストを形成した後、ドライエッチング、ウエットエッチング、リフトオフなどによって所定の短冊形状に磁性体を成型すればよい。
【0020】
4つの磁気インピーダンス素子12の長手方向Lに対して45度の磁化容易軸を形成する方法としては、例えば、基板上に短冊形状の磁性体を形成した後、磁性体の長手方向Lに対して45度の角度の静磁界中で磁性体を加熱、冷却を行えばよい。また、基板を静磁界中に置き、静磁界の方向に対して45度の角度で長手方向が延びるように、基板上に磁性体を形成すればよい。
【0021】
4つの磁気インピーダンス素子を1枚の基板上に形成する際の配列は、図1に示したような矩形の基板の4辺に沿って、磁気インピーダンス素子を略ロの字型に配置する以外にも、任意の配置形態がとられればよい。例えば図2(a)に示すように、1枚の基板21の中心付近から、長手方向が基板21の4辺に向かってそれぞれ延びるように4つの磁気インピーダンス素子22を配置しても良い。
【0022】
また、例えば図2(b)に示すように、1枚の基板25に長手方向が第1の方向を向いて配置された磁気インピーダンス素子26aと、長手方向が第2の方向を向いて配置された磁気インピーダンス素子26bとをそれぞれまとめて配置してもよい。また、図2(c)に示すように、1枚の基板28の一方の面に、長手方向が第1の方向を向いて配置された磁気インピーダンス素子29aを、基板28の他方の面に、長手方向が第2の方向を向いて配置された磁気インピーダンス素子29bをそれぞれ配置してもよい。さらに、4つの磁気インピーダンス素子を4層に積層して構成すれば、小型、省スペースの磁気センサを実現できる。
【0023】
図3は、磁気センサの他の一例(以下、第1実施形態とも呼ぶ)を示す平面図である。この実施形態では、磁気センサ31の基板32に形成される4つの磁気インピーダンス素子33のそれぞれを、短冊形状の磁性体を複数並べて配置した構成としている。すなわち、磁気インピーダンス素子33a,33bは、長手方向が第1の方向に向いて延びるように複数の短冊形状の磁性体を配置し、隣接する磁性体どうしの端部をつづら折り形状になるように電気的に接続したものである。また、磁気インピーダンス素子33c,33dは、長手方向が第2の方向に向いて延びるように複数の短冊形状の磁性体を配置し、隣接する磁性体どうしの端部をつづら折り形状になるように電気的に接続したものである。
【0024】
このように、4つの磁気インピーダンス素子33のそれぞれを、短冊形状の磁性体を複数並べてつづら折りになるように接続した形状にすれば、それぞれの磁気インピーダンス素子33の磁場検出感度を上げることができ、より高感度に複数の方向の磁場を個別に検出可能な磁気センサを実現することができる。
【0025】
図4は、本発明の磁気センサを備えた磁気デバイスの一例を示すブロック図である。図4は、磁気デバイスの一実施形態として、例えば電子コンパスなどに利用可能な方位角センサの構成を示す。磁気デバイス41は、磁気センサ42、パルス発振回路(パルス発生手段)43、サンプルホールド回路44、差動増幅回路45、および抵抗46を有している。
【0026】
磁気センサ42は、1枚の基板51上に、長手方向がX方向に向いた磁気インピーダンス素子52a,52bと、長手方向がY方向に向いた磁気インピーダンス素子52c,52dとを形成したものであり、これら4つの磁気インピーダンス素子52のそれぞれによりホイートストンブリッジ回路Rを形成している。
【0027】
こうした磁気センサ42に接続される抵抗46によって構成されたブリッジ回路Bは、磁場の変動によるパルスの出力変動がないので、常に一定のパルスが得られる。従って、抵抗46によるブリッジ回路Bのパルス出力と、ホイートストンブリッジ回路Rからのパルス出力との差分を検出することによって、ホイートストンブリッジ回路Rのパルス出力の波高値の変動値だけを取り出すことができ、検出分解能をさらに高めることができる。こうした検出分解能を高めることによって、磁気インピーダンス素子52の感度が低いものを用いても、充分な角度分解能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の磁気センサの一例を示す平面図である。
【図2】基板上における磁性体の配置例を示す平面図である。
【図3】本発明の磁気センサの他の一例を示す平面図である。
【図4】本発明の磁気デバイスを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
10…磁気センサ、11…基板、12…磁気インピーダンス素子、R…ホイートストンブリッジ回路。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の基板上に4つの磁気インピーダンス素子を備え、そのうち2つの磁気インピーダンス素子は第1の方向を、他の2つの磁気インピーダンス素子は前記第1の方向と直交する第2の方向を向いて配置され、前記磁気インピーダンス素子のそれぞれによりホイートストンブリッジ回路が構成されている磁気センサであって、
前記磁気インピーダンス素子は少なくとも1つ以上の短冊形状をなす磁性体からなり、前記磁性体の磁化容易軸方向はその長手方向に対して略45度傾いていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気センサと、前記磁気センサに電気的なパルスを供給するパルス発生手段とを備えたことを特徴とする磁気デバイス。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−205748(P2007−205748A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22058(P2006−22058)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】