説明

磁気式角度センサ

【課題】一対の磁気抵抗素子の薄膜ヨークが近接しても外部磁界の検出方向のずれの発生が抑制される磁気式角度センサを提供する。
【解決手段】磁気式角度センサ10によれば、基板14上に配置された一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18が、それらの一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が90°よりも所定角度2θだけ小さい角度Aとなるように予め配置されていることから、一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の薄膜ヨーク40、42が相互に近接させられてそれら薄膜ヨーク40、42に誘導される磁束が相互に影響するときに、一方の第1磁気抵抗素子16の一対の薄膜ヨーク40、42の磁化容易方向と他方の第2磁気抵抗素子18の一対の薄膜ヨーク40、42の磁化容易方向とが相互に略直角を形成するようになるので、外部磁界Hの検出方向のずれの発生が好適に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の磁気抵抗素子を用いて外部磁界の方向に応じた電気信号を出力する磁気式角度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに直交する磁気抵抗素子を用いた磁気式角度センサでは、一般に、相互にπ/2の位相差を有する2つの正弦波のアナログ信号すなわちA相信号およびB相信号が得られる。これらのA相信号およびB相信号はπ/2の位相差を持っているので、適切な信号処理を行うことで、磁界の角度を検出することができる。たとえば、特許文献1に示す回転角度センサ素子がそれである。
【特許文献1】特開2005−257605号公報
【特許文献2】特開2006−194861号公報
【0003】
上記特許文献1および2のような磁気式角度センサにおいて、それに用いられる磁気抵抗素子は、たとえば、薄膜形成およびホトリソグラフィー技術を用いて形成された、軟磁性材料からなり且つ所定の間隙を介して配置された一対の薄膜ヨークと、それら一対の薄膜ヨーク間の間隙においてそれら一対の薄膜ヨークを電気的に接続するように、巨大磁気効果を有する金属−絶縁体系ナノグラニュラー材料から形成されたGMR膜とから成る一対の磁気抵抗素子が、外部磁界の角度に対してπ/2の位相差を持って電気的抵抗値を変化させるために、長手方向が直角状に交差するように基板上に配置される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の磁気式角度センサによれば、薄膜形成およびホトリソグラフィー技術を用いて磁気抵抗素子が形成されることから、基板上に集積化が可能となるので、きわめて小型化される利点がある。
【0005】
しかしながら、磁気式角度センサの集積化に関連して、一方の磁気抵抗素子の薄膜ヨークと他方の磁気抵抗素子の薄膜ヨークとが近接することから、軟磁性材料から成る磁性体であるそれら薄膜ヨークに誘導される磁束が相互に影響することにより、磁気式角度センサが感じる外部磁界の方向にずれが出るという不都合があった。このような不都合は、上記磁気式角度センサの小型化すなわち一対の磁気抵抗素子を含む電気回路の集積化が進行して一方の磁気抵抗素子の薄膜ヨークと他方の磁気抵抗素子の薄膜ヨークとが近接するほど顕著となる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、一対の磁気抵抗素子の薄膜ヨークが近接しても外部磁界の検出方向のずれの発生が抑制される磁気式角度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、軟磁性材料からなり且つ所定の間隙を介して配置された一対の薄膜ヨークと、その一対の薄膜ヨーク間の間隙においてその一対の薄膜ヨークを電気的に接続するように形成されたGMR膜とから成る一対の磁気抵抗素子が、その磁気抵抗素子の長手方向が直角状に交差するように基板上に所定間隔を隔てて配置され、その一対の磁気抵抗素子の抵抗値の変化に基づいて外部磁界の方向を検出する磁気式角度センサにおいて、前記一対の磁気抵抗素子が、前記一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が90°よりも所定角度2θだけ小さい角度Aとなるように配置されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記外部磁界は地磁気であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、前記所定角度2θは、0.2乃至2°以内の範囲であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、前記一対の磁気抵抗素子は、他の一対の抵抗素子と直列に接続されることにより一対のハーフブリッジをそれぞれ構成するものであり、それら一対のハーフブリッジは、前記外部磁界の方向の変化に応じて位相の異なる信号をそれぞれ出力するものであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、前記他の一対の抵抗素子は、前記一対の磁気抵抗素子よりも低いゲインを有する他はその一対の磁気抵抗素子と同様に構成された磁気抵抗素子であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、前記他の一対の抵抗素子は、それら一対の抵抗素子の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が前記一対の磁気抵抗素子の磁化容易方向と平行となるように配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、前記一対の磁気抵抗素子は、相互に同じゲインを有し、互いに直列に接続されることにより1つのハーフブリッジを構成するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の磁気式角度センサによれば、基板上に配置された一対の磁気抵抗素子が、それらの一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が90°よりも所定角度2θだけ小さい角度Aとなるように予め配置されていることから、一対の磁気抵抗素子の薄膜ヨークが相互に近接させられてそれら薄膜ヨークに誘導される磁束が相互に影響するときに、一方の磁気抵抗素子の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向と他方の磁気抵抗素子の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向とが相互に略直角を形成するようになるので、外部磁界の検出方向のずれの発生が抑制される磁気式角度センサが得られる。
【0015】
また、請求項2に係る発明の磁気式角度センサによれば、前記外部磁界は地磁気であることから、比較的微弱な地磁気の方向が精度良く検出される。
【0016】
また、請求項3に係る発明の磁気式角度センサによれば、前記所定角度2θは、0.2乃至2°以内の範囲であることから、一対の磁気抵抗素子の中心線すなわち磁化容易方向が直交する従来に比較して、外部磁界の方向が精度良く検出される。
【0017】
また、請求項4に係る発明の磁気式角度センサによれば、前記一対の磁気抵抗素子は、他の一対の抵抗素子と直列に接続されることにより一対のハーフブリッジをそれぞれ構成するものであり、それら一対のハーフブリッジは、前記外部磁界の方向の変化に応じて位相の異なる信号をそれぞれ出力するものであることから、一対のハーフブリッジから出力される位相の異なる信号を用いて、外部磁界の方向が精度良く検出される。
【0018】
また、請求項5に係る発明の磁気式角度センサによれば、前記他の一対の抵抗素子は、前記一対の磁気抵抗素子と同様に構成された磁気抵抗素子であることから、一対のハーフブリッジを構成するそれぞれの磁気抵抗素子の抵抗温度特性が近似するので、一対のハーフブリッジから出力される位相の異なる信号に基づいて外部磁界の方向が精度良く検出される。
【0019】
また、請求項6に係る発明の磁気式角度センサによれば、前記他の一対の抵抗素子は、前記一対の磁気抵抗素子よりも低いゲインを有する他は該一対の磁気抵抗素子と同様に構成された磁気抵抗素子であり、それらの一対の抵抗素子の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が前記一対の磁気抵抗素子の磁化容易方向と平行となるように配置されていることから、成膜されたGMR膜のうち抵抗値の異方性のない同じ方向のGMR膜をそれぞれ備えた一対の磁気抵抗素子から成るハーフブリッジが用いられるので、オフセット電圧が少なく、一層精度の高い磁気式角度センサが得られる。
【0020】
また、請求項7に係る発明発明の磁気式角度センサによれば、前記一対の磁気抵抗素子は、相互に同じゲインを有し、互いに直列に接続されることにより1つのハーフブリッジを構成することから、一対の磁気抵抗素子の相互のゲインを比較的大きなものとすることができ、外部磁界の方向が比較的精度良く検出される。
【0021】
ここで、好適には、前記GMR薄膜は、巨大磁気抵抗(GMR)効果を示す材料が蒸着或いはスパッタリングによって基板上の一対の薄膜ヨークの間に薄膜状に固着されたものである。そのGMR薄膜に用いられる巨大磁気抵抗(GMR)効果を示す材料としては、パーマロイ等の強磁性材料層とCu、Ag、Au等の非磁性材料層との多層膜、或いは、半強磁性材料層、強磁性材料層( 固定層) 、非磁性材料層および強磁性材料層( 自由層) の4 層構造を備えた多層膜から構成される人工格子[ 所謂スピンバルブ] 、パーマロイ等の強磁性金属からなるnmサイズの微粒子と非磁性金属から成る粒界層とを備えた金属−金属系ナノグラニュラー材料、スピン依存トンネル効果によってMR(Magneto-Resistivity )効果が生じるトンネル接合膜、nmサイズの強磁性金属合金微粒子と非磁性・絶縁材料からなる粒界層とを備えた金属−酸化物系ナノグラニュラー材料、金属−フッ化物系ナノグラニュラー材料等が、知られている。
【0022】
また、前記基板は、ガラス、磁器で代表されるセラミックス等の絶縁体基板が好適に用いられるが、Cu、Al等の金属から成る導電性基板であっても絶縁性下地層を介して薄膜ヨークおよびGMR薄膜が固着されることにより用いられる。また、上記基板には非磁性材料又は非磁性絶縁材料が好適に用いられる。前記一対の磁気抵抗素子は共通の基板上に配置されることがよいが、必ずしも共通の基板上に配置されなくてもよく、別々の基板上に配置された後に組み合わせられてもよい。
【0023】
また、前記薄膜ヨークは、外部磁束を集めてGMR薄膜に集中させることによりGMR薄膜の磁界感度を高めるためのものであり、軟磁性材料が蒸着、スパッタリング、CVD、或いはPVD等によって基板上に薄膜状に固着され、ホトリソグラフィーを用いて所定のパターンに形成されたものである。弱磁界に対する高い感度を得るためには、好適には100以上、さらに好適には1000以上の透磁率μを有する材料を用いることが望ましい。また、好適には、5(kGauss)以上、さらに好適には10(kGauss)以上飽和磁化Msを有する材料を用いることが望ましい。この前記薄膜ヨークとしては、パーマロイ(40〜90%Ni−Fe合金)、センダスト(Fe74SiAl17)、ハードパーム(Fe12Ni82Nb)、Co88NbZrアモルファス合金、(Co94Fe70Si1515アモルファス合金、ファインメット(Fe75.6Si13.28.5Nb1.9Cu0.8)、ナノマックス(Fe83HF11)、Fe85Zr10合金、Fe93Si合金、Fe711118合金、Fb71.3Nd9.619.1ナノグラニュラー合金、Co65FeAl1020合金等が、好適に用いられる。
【0024】
また、前記一対の磁気抵抗素子をそれぞれ構成する一対の薄膜ヨークは、好適には、その長手寸法よりも幅寸法が小さい矩形形状、台形、三角形等を備える、中心線を基準とする線対称形状であって、前記複数の磁気抵抗素子は、上記一対の薄膜ヨークが連ねられることによって全体として長手状を成し、その長手方向の感磁方向を備えるものである。磁化容易方向とは、上記中心線方向すなわち長手方向である。
【0025】
また、前記抵抗素子は、基板の外部に接続されるものであってもよいし、他の材質から成る固定抵抗であってもよいが、前記一対の磁気抵抗素子に備えられるGMR薄膜と同様の抵抗温度特性を有することが望まれる。
【0026】
また、前記所定角度2θは、好適には、0.6乃至2°以内の範囲、さらに好適には1.0乃至2°以内の範囲であることが望ましい。
【0027】
また、前記ハーフブリッジは、単独で信号を出力するものであってもよいし、フルブリッッジの一部( 半分)を構成するものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は概念を示すために、適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の一実施例である磁気式角度センサ10のセンサ部12の内部を示す図である。センサ部12は、たとえばガラス、磁器で代表されるセラミックス等の電気絶縁性材料から成る共通の基板14の一面に配置された、相互の長手方向が直角状に交差するように所定間隔を隔てる第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18と、それらと平行な方向に配置され、それらと直列接続されて一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22を構成するために所定の抵抗値を有する第1抵抗素子24および第2抵抗素子26と、一対の+電源端子28および接地電源端子30と、一対の第1出力端子32および第2出力端子34とを備えている。
【0030】
上記直列接続されることにより第1ハーフブリッジ20を構成する第1磁気抵抗素子16および第1抵抗素子24と、同様に直列接続されることにより第2ハーフブリッジ22を構成する第2磁気抵抗素子18および第2抵抗素子26とは、それぞれ+電源端子28と接地電源端子30との間にそれぞれ接続されている。第1出力端子32は、第1ハーフブリッジ20の中点電位を出力するために第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24との間に接続される。同様に、第2出力端子34は、第2ハーフブリッジ22の中点電位を出力するために第2磁気抵抗素子18と第2抵抗素子26との間に接続される。
【0031】
上記第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18は、たとえば図2に示すように構成される。第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18は互いに同様の寸法および材料によって同様の磁気的性能となるように構成されているので、図2において一方のみを説明する。第1磁気抵抗素子16は、絶縁性材料から成る基板14上において、1直線上に1μm前後の所定の間隙を隔てて形成された軟磁性材料製の一対の薄膜ヨーク40および42と、それらの一対の薄膜ヨーク40および42の間隙においてそれらの一対の薄膜ヨーク40および42を相互に接続するように設けられた、上記軟磁性材料よりも高い電気比抵抗を有し且つ巨大磁気抵抗効果を有するGMR薄膜44とからそれぞれ構成されている。これらのGMR薄膜44、一対の薄膜ヨーク40および42、導体配線46は、蒸着、スパッタリング、CVD等により0.1乃至3μm程度の厚みで固着され且つホトリソグラフィーにより幅寸法が75μm、一対の長さ寸法が150μm程度の所定のパターンとされた薄膜であり、このましくは、GMR薄膜44よりも、薄膜ヨーク40および42が厚く形成されている。図2において、厚膜或いは薄膜で構成された導体配線46が上記薄膜ヨーク40および42に接続されている。なお、基板14とGMR薄膜44や一対の薄膜ヨーク40および42との間には、絶縁や平滑性を確保するためなどの必要に応じて下地層が形成され、上記GMR薄膜44や一対の薄膜ヨーク40および42の上には、耐久性向上等のために必要に応じて保護層が形成される。
【0032】
上記GMR薄膜44は、巨大磁気抵抗(GMR)効果を示す材料,たとえば、パーマロイ等の強磁性金属からなるnmサイズの微粒子と非磁性金属から成る粒界層とを備えた金属−金属系ナノグラニュラー材料、スピン依存トンネル効果によってMR(Magneto-Resistivity )効果が生じるトンネル接合膜、nmサイズの強磁性金属合金微粒子と非磁性・絶縁材料からなる粒界層とを備えた金属−酸化物系ナノグラニュラー材料、金属−フッ化物系ナノグラニュラー材料等の等方性材料が用いられる。
【0033】
また、上記薄膜ヨーク40および42は、外部磁束を集めてGMR薄膜44に集中させることによりそのGMR薄膜44の磁界感度を高めるために、中心線Cを基準とした線対称の長手状に形成されている。その薄膜ヨーク40および42は、長手寸法よりも幅寸法が小さく、それら薄膜ヨーク40および42を含む第1磁気抵抗素子16は、上記一対の薄膜ヨーク40および42が連ねられることによって全体として長手状を成し、その長手方向が一対の薄膜ヨーク40および42の磁化容易方向であり、第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の感磁方向となる。この薄膜ヨーク40および42は、たとえば、パーマロイ(40〜90%Ni−Fe合金)、センダスト(Fe74SiAl17)、ハードパーム(Fe12Ni82Nb)、Co88NbZrアモルファス合金等の透磁率μが1000以上の軟磁性材料から構成される。上記薄膜磁気センサ素子16は、図2に示すように、ホトリソグラフィを用いて所定の小さなパターンに形成された薄膜から構成されるので、GMR素子、AMR素子等の他の磁気センサに比較して大幅に小型化されている。
【0034】
第2磁気抵抗素子18も上記第1磁気抵抗素子16と同様に構成されている。第1磁気抵抗素子16の薄膜ヨーク40と第2磁気抵抗素子18の薄膜ヨーク40とは、それらの中心線Cが直角状となる方向であって、相互間隔がたとえば150乃至300μmとなるように配置されている。この相互間隔は、回路の集積度が高くなるほど小さく設定される。また、図1において、x軸と第1磁気抵抗素子16との間の距離すなわちy軸と第2磁気抵抗素子18との間の距離dは、700μm程度である。
【0035】
なお、本実施例の、前記第1抵抗素子24および第2抵抗素子26は、第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18のゲインに比較して大幅に小さいゲインとされている他は、それらと同様に構成された磁気抵抗素子から構成されている。このゲインは、外部磁界の変化に対する抵抗値の変化の割合である。第1抵抗素子24および第2抵抗素子26は、そのゲインを小さくするために、薄膜ヨーク40および42が小さな形状とされている。
【0036】
上記第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18は、単体では、図3に示す特性を備えている。すなわち、GMR薄膜44を構成する磁性材料は微細化された等方的性質を示し、無磁界ではランダムな磁化方向となって電子の通過の妨げとなって抵抗値が高くなるが、磁界が付与されると磁化方向が一定となって電子の通過が容易となり抵抗値が低くなる性質がある。このため、図3に示すように、感磁方向の外部磁界H(Oe)が零であれば最大抵抗値を示すが、外部磁界Hが正方向および負方向に大きくなるにしたがって抵抗値がそれぞれ低下する磁気抵抗特性を備えている。このため、たとえば、感磁方向に一定の固定磁界Hbを与えておいて、さらに加えた感磁方向の外部磁界H(Oe)が正弦波状に増減すると、第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の抵抗値は正弦波状に変化する。
【0037】
上記のセンサ部12は、たとえば、中央部に上記基板14が固着され、その基板14上の+電源端子28、接地電源端子30、第1出力端子32、および第2出力端子34がボンディングワイヤにより接続された複数本のリードを備えたリードフレームが、そのリードフレームの外周部を除いて中央部を樹脂を用いてモールドされることにより、樹脂パッケージ状に構成されている。
【0038】
ところで、図1は第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の開き角θを従来の位置を基準として説明するためのものである。図1では、上記センサ部12の基板14上において両長手方向すなわち中心線C01およびC11が直交する位置に配置されている第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18が示されており、それら中心線C01およびC11に対して所定の開き角θで傾斜させられた中心線C02およびC12は示されているが、それら中心線C02およびC12を有する本実施例の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18のパターンを示す線は省略されている。本実施例の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の中心線C02およびC12は、従来の中心線C01およびC11に対して所定の開き角θに対して所定の開き角度θだけ交差角Aが直角よりも小さくなる側に傾斜させられている。第2磁気抵抗素子18の長手方向の中央を通るx軸と第1磁気抵抗素子16の長手方向の中央を通過するy軸とを有するx−y直交座標を仮定すると、第1磁気抵抗素子16の中心線C02はy軸に直交する上記従来の中心線C01の方向に対して所定の開き角θだけ傾斜しており、第2磁気抵抗素子18の中心線C12もx軸に直交する上記従来の中心線C11の方向に対して所定の開き角θだけ傾斜している。したがって、第1磁気抵抗素子16の中心線C02と第2磁気抵抗素子18の中心線C12との成す交差角Aは、従来の直角から所定角度2θだけ小さく設定されている。
【0039】
以上のように構成されたセンサ部12において、X軸(図1参照)に対して45°方向に固定磁界を印加し、地磁気或いは角度測定対象物とともに回転する磁石から発生させられる磁界等の外部磁界Hのx軸に対する角度ωが変化すると、第1磁気抵抗素子16の一対の薄膜ヨーク40および42と第2磁気抵抗素子18の一対の薄膜ヨーク40および42とは、透磁率μが高いことから磁気レンズとして機能し、外部磁界Hの磁束が集められるとともに、一対の薄膜ヨーク40と42との間の内部磁界である中心磁界HC1およびHC2が高められ、それぞれのGMR薄膜44の抵抗値が変化させられる。第1出力端子32から出力される第1ハーフブリッジ20の中点電位v1( =A・sinω+V10)と、第2出力端子34から出力される第2ハーフブリッジ22の中点電位v2( =A・cosω+V20)とは、図4に示すように、90度の位相差で正弦波状に変化させられる。それら中点電位v1および中点電位v2と、オフセット電位との信号差に基づいて上記外部磁界Hの角度ωが測定される。Aは外部磁界Hやゲイン等により決まる係数。V10、V20は、オフセット電位と呼ばれるω=0の時の中点電位。外部磁界Hの角度ωの算出式は(1)式で示される。
ω=tan−1(A・sinω/A・cosω)・・・(1)
【0040】
ここで、第1磁気抵抗素子16の中心線C01および第2磁気抵抗素子18の中心線C11が相互に直角である従来の場合において、地磁気を外部磁界Hとして用いてその角度ωを変化させると、第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の一対の薄膜ヨーク40と42との間の内部磁界である中心磁界HC1およびHC2は、図5に示すように変化させられ、このときの中点電位v1と中点電位v2との信号に基づいて測定された外部磁界Hの角度ωの角度誤差δは、図6に示すように、2倍の周期で変化する。(2)式は角度誤差δの算出式である。
【0041】
δ=ω−ω ・・・(2)
但し、ωは外部磁界Hの角度の真の値、ωは外部磁界Hの角度の測定値
【0042】
しかし、本実施例のセンサ部12においては、第1磁気抵抗素子16の中心線C02と第2磁気抵抗素子18の中心線C12との成す角は、直角から所定角度2θだけ小さく設定されているので、たとえばθ=0.8°( 2θ=1.6°) である場合には、地磁気を外部磁界Hとして用いて角度誤差δを測定すると、その角度誤差δは、たとえば図7に示すように、外部磁界Hのx軸に対する角度ωの変化に拘わらず、比較的平坦でばらつきが少なく、0〜−0.2°の範囲内に収まっている。
【0043】
図8は、本発明者等が行った実験結果を示している。この実験では、第1磁気抵抗素子16の中心線C02のy軸に直交する従来の中心線C01に対する開き角θ、および第2磁気抵抗素子18の中心線C12のx軸に直交する従来の中心線C11に対する開き角θが、0°である試料と、0.4°である試料と、0.8°である試料と、2.0°である試料とを、0.1(%/Oe)程度の低感度、0.2(%/Oe)程度の中感度、1.0(%/Oe)程度の高感度の3種類の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18を用いて合計12種類作成し、地磁気を外部磁界Hとして用いて、それらの各試料について角度誤差δをそれぞれ測定した。図8において、感度が異なる各試料の角度誤差δは開き角度θの増加とともに角度誤差δが零となる領域を通過して直線的に変化する性質があり、その開き角度θが0.1乃至1°の範囲すなわち所定角度2θが0.2乃至2°の範囲であれば、従来よりも角度誤差δが改善されることが示されている。また、好適には、この開き角度θは0.3乃至1°の範囲すなわち所定角度2θが0.6乃至2°以内の範囲、さらに好適には、開き角度θが0.5乃至1°の範囲すなわち所定角度2θが1.0乃至2°範囲であれば、角度誤差δがさらに小さくなる。
【0044】
上述のように、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、基板14上に配置された一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18が、それらの一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が90°よりも所定角度2θだけ小さい角度Aとなるように予め配置されていることから、一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の薄膜ヨーク40、42が相互に近接させられてそれら薄膜ヨーク40、42に誘導される磁束が相互に影響するときに、一方の第1磁気抵抗素子16の一対の薄膜ヨーク40、42の磁化容易方向と他方の第2磁気抵抗素子18の一対の薄膜ヨーク40、42の磁化容易方向とが相互に略直角を形成するようになるので、外部磁界Hの検出方向のずれの発生が好適に抑制される。。
【0045】
また、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、外部磁界Hは地磁気であることから、比較的微弱な地磁気の方向が精度良く検出される。
【0046】
また、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、所定角度2θは、0.2乃至2°以内の範囲であることから、従来に比較して、外部磁界Hの方向が精度良く検出される。
【0047】
また、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18は、他の一対の第1抵抗素子24および第2抵抗素子26と直列に接続されることにより一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22をそれぞれ構成するものであり、それら一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22は、外部磁界Hの方向の変化に応じて位相の異なる信号v1およびv2をそれぞれ出力するものであることから、一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22から出力される位相の異なる信号v1およびv2に基づいて、外部磁界Hの方向が精度良く検出される。
【0048】
また、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、一対の第1抵抗素子24および第2抵抗素子26は、一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18と同様に構成された磁気抵抗素子であることから、一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22を構成するそれぞれの磁気抵抗素子の抵抗温度特性が近似するので、一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22から出力される位相の異なる信号、すなわち中点電位v1と中点電位v2との信号に基づいて外部磁界Hの方向が精度良く検出される。
【0049】
また、本実施例の磁気式角度センサ10によれば、一対の第1抵抗素子24および第2抵抗素子26は、一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18よりも低いゲインを有する他はそれら一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18と同様に構成された磁気抵抗素子であり、それら一対の第1抵抗素子24および第2抵抗素子26の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が上記一対の第1磁気抵抗素子16および第2磁気抵抗素子18の磁化容易方向と平行となるように配置されていることから、成膜されたGMR膜のうち抵抗値の異方性のない同じ方向のGMR膜をそれぞれ備えた一対の第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24および第2磁気抵抗素子18と第2抵抗素子26から成る第1ハーフブリッジ20及び第2ハーフブリッジ22が用いられるので、オフセット電圧が少なく、一層精度の高い磁気式角度センサが得られる。
【0050】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
図9、図10、図11は、本発明の他の実施例の磁気式角度センサ10において、ハーフブリッジ20、22の他の例を示すセンサ部50、ハーフブリッジ20または22の他の例を示すセンサ部52、およびセンサ部56の構成を、基板14上に配置された回路構成を用いてそれぞれ示している。
【実施例2】
【0052】
図9に示すセンサ部50は、図1のセンサ部12に比較して、第1抵抗素子24が第1磁気抵抗素子16と直交に配置され、第2抵抗素子26が第2磁気抵抗素子18と直交に配置されることによりフルブリッジを構成している点で相違するが、接続関係および構成材料等の他の構成は同様である。本実施例によれば、第1ハーフブリッジ20を構成する第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24、および第2ハーフブリッジ22を構成する第2磁気抵抗素子18と第2抵抗素子26の長手方向( 磁化容易方向)が、それぞれ相互に直交する方向に配置されているので、一対の第1ハーフブリッジ20および第2ハーフブリッジ22から出力される位相の異なる信号v1およびv2の外部磁界Hの角度ωの変化に対するゲインやそれらの信号差が一層大きくなり、外部磁界Hの方向の角度検出精度が高められる。なお、図9に示す実施例では、第1抵抗素子24、第2抵抗素子26は、第1磁気抵抗素子16、第2磁気抵抗素子18に比して、ゲインの低い素子として説明したが、第1抵抗素子24、第2抵抗素子26を第1磁気抵抗素子16、第2磁気抵抗素子18と同じゲインの磁気抵抗素子で形成しても良い。
【実施例3】
【0053】
図10に示すセンサ部52は、図1のセンサ部12に比較して、第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24とから成る1個のハーフブリッジ20から構成され、第1抵抗素子24が第1磁気抵抗素子16と直交して配置されている点で相違るが、構成材料等の他の構成は同様である。本実施例によれば、第1ハーフブリッジ20を構成する第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24との長手方向( 磁化容易方向) が相互に直交する方向に配置されているので、第1ハーフブリッジ20から出力される信号v1の外部磁界Hの角度ωの変化に対するゲイン或いは振幅が大きくなり、外部磁界Hの方向の角度検出精度が高められる。
【実施例4】
【0054】
図11に示すセンサ部56は、図1のセンサ部12に比較して、第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24とから成る1個のハーフブリッジから構成され、第1抵抗素子24が第1磁気抵抗素子16と同様のゲインの磁気抵抗素子すなわち第2磁気抵抗素子18と同様に構成されており、図1の第1磁気抵抗素子16と第2磁気抵抗素子18と同様の相対位置関係を持って配置されている点で相違するが、構成材料等の他の構成は同様である。本実施例によれば、第1ハーフブリッジ20を構成する第1磁気抵抗素子16と第1抵抗素子24との長手方向( 磁化容易方向) は、図1の実施例の第1磁気抵抗素子16と第2磁気抵抗素子18とに示されるように、直角から所定角度2θだけ小さく設定された角度で相互に交差する方向に配置されており、第1抵抗素子24が第1磁気抵抗素子16と同様のゲインの磁気抵抗素子で構成されているので、第1ハーフブリッジ20から出力される信号v1の外部磁界Hの角度ωの変化に対するゲイン或いは振幅が一層大きくなり、外部磁界Hの方向の角度検出精度が高められる。
【0055】
以上、本発明を図面に基づいて詳細に説明したが、それはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例である磁気式角度センサのセンサ部の内部構成を示す図である。
【図2】図1の基板上に配置された磁気抵抗素子の構造を拡大して説明する図である。
【図3】図1の基板上に配置された磁気抵抗素子の感磁方向の外部磁界と抵抗値との関係を示す特性図である。
【図4】図1の基板上に構成された一対のハーフブリッジの出力信号と外部磁界の角度との関係を示す図である。
【図5】図1に示す一対の磁気抵抗素子の中心線が相互に直交する従来の場合の、それら一対の磁気抵抗素子内の中心磁界と外部磁界の方向との関係を示す図である。
【図6】図5の一対の磁気抵抗素子を含む従来のセンサ部における角度誤差と外部磁界の角度との関係を示す図である。
【図7】図1に示されるセンサ部の角度誤差と外部磁界の角度との関係を示す図である。
【図8】一対の磁気抵抗素子の中心線が相互に直交する従来のセンサ部と、一対の磁気抵抗素子の中心線の交差角が直角よりも所定角度2θだけ小さい値であるセンサ部とに関し、3種類の感度を有する磁気抵抗素子で構成した場合の、角度誤差と外部磁界の角度との関係を示す図である。
【図9】本発明の他の実施例のセンサ部の構成を説明する図であって、図1の基板上の回路に相当する図である。
【図10】本発明の他の実施例のセンサ部の構成を説明する図であって、図1の基板上の回路に相当する図である。
【図11】本発明の他の実施例のセンサ部の構成を説明する図であって、図1の基板上の回路に相当する図である。
【符号の説明】
【0057】
10:磁気式角度センサ
16:第1磁気抵抗素子( 磁気抵抗素子)
18:第2磁気抵抗素子( 磁気抵抗素子)
24:第1抵抗素子( 磁気抵抗素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料からなり且つ所定の間隙を介して配置された一対の薄膜ヨークと、該一対の薄膜ヨーク間の間隙において該一対の薄膜ヨークを電気的に接続するように形成されたGMR膜とから成る一対の磁気抵抗素子が、該磁気抵抗素子の長手方向が直角状に交差するように基板上に所定間隔を隔てて配置され、該一対の磁気抵抗素子の抵抗値の変化に基づいて外部磁界の方向を検出する磁気式角度センサにおいて、
前記一対の磁気抵抗素子が、前記一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が90°よりも所定角度2θだけ小さい角度Aとなるように配置されていることを特徴とする磁気式角度センサ。
【請求項2】
前記外部磁界は地磁気であることを特徴とする請求項1の磁気式角度センサ。
【請求項3】
前記所定角度2θは、0.2乃至2°以内の範囲であることを特徴とする請求項1または2の磁気式角度センサ。
【請求項4】
前記一対の磁気抵抗素子は、他の一対の抵抗素子と直列に接続されることにより一対のハーフブリッジをそれぞれ構成し、
該一対のハーフブリッジは、前記外部磁界の方向の変化に応じて位相の異なる信号をそれぞれ出力するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの磁気式角度センサ。
【請求項5】
前記他の一対の抵抗素子は、前記一対の磁気抵抗素子よりも低いゲインを有する他は該一対の磁気抵抗素子と同様に構成された磁気抵抗素子であることを特徴とする請求項4の磁気式角度センサ。
【請求項6】
前記他の一対の抵抗素子は、該一対の抵抗素子の一対の薄膜ヨークの磁化容易方向が前記一対の磁気抵抗素子の磁化容易方向と平行となるように配置されていることを特徴とする請求項5の磁気式角度センサ。
【請求項7】
前記一対の磁気抵抗素子は、相互に同じゲインを有し、互いに直列に接続されることにより1つのハーフブリッジを構成するものである請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気式角度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−209317(P2008−209317A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47994(P2007−47994)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】