説明

磁気浮上式真空ポンプ

【課題】コストアップを抑えつつ、回転体が過熱判定温度を超えたことを検知することができる磁気浮上式真空ポンプの提供。
【解決手段】磁気浮上式真空ポンプでは、ロータ30とロータシャフト33とが一体化された回転体はモータ36により回転駆動され、その回転体はラジアル磁気軸受37およびスラスト磁気軸受38を備える磁気軸受装置によって所定位置に磁気浮上している。そして、真空ポンプは、回転体を構成するロータシャフト33に熱的に接触するように設けられ、回転体を構成するロータ30の過熱判定温度に対応したキュリー温度Tcを有する磁性体41と、磁性体41を吸引して回転体に対して軸方向の力を作用する永久磁石40と、スラスト磁気軸受38の励磁電流を検出する電流センサと、電流センサで検出される励磁電流Iの変化から、回転体を構成するロータ30の温度が過熱判定温度を超えたか否かを判定する判定回路と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受により回転体を支持した磁気浮上式真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の透磁率がキュリー温度を越えると大きく変化することを利用して、回転体の温度を非接触で検出する真空ポンプが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁性体の透磁率の変化を検出するためのセンサを設ける必要があり、コストアップの要因となる。また、透磁率の変化を検出するためのセンシング処理が必要であり、特に、ターボ分子ポンプのように高速回転のものではセンシング処理が増大し、別途演算処理装置が必要な場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る磁気浮上式真空ポンプは、排気機能部が形成された回転体と、回転体を回転駆動するモータと、ラジアル磁気軸受およびスラスト磁気軸受を備え、回転体を所定位置に磁気浮上させる磁気軸受装置と、回転体に熱的に接触するように設けられ、回転体の過熱判定温度に対応したキュリー温度を有する磁性体と、磁性体を吸引して回転体に対して軸方向の力を作用する永久磁石と、スラスト磁気軸受の励磁電流を検出する電流センサと、電流センサで検出される励磁電流の変化から、回転体の温度が過熱判定温度を超えたか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値と電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上の場合に、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定するようにしたものである。
請求項3の発明は、請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値と電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上である状態が所定時間以上継続した場合に、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定するようにしたものである。
請求項4の発明は、請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、モータ電流値が所定ガス負荷時のモータ電流値より小さいか否かを判定するガス負荷判定手段を備え、基準電流値と電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上であって、かつ、ガス負荷判定手段によりモータ電流値が所定ガス負荷時のモータ電流値より小さいと判定されると、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定するようにしたものである。
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、所定閾値は、磁性体の温度がキュリー温度より高温のときにスラスト磁気軸受に流れる励磁電流値と基準電流値との差に基づいて設定される。
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、磁性体の形状を、回転体の軸を中心とするリング状としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、コストアップを抑えつつ、回転体が過熱判定温度を超えたことを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る磁気浮上式真空ポンプを説明する図である。
【図2】温度変化に対する磁性体の透磁率変化を示す図である。
【図3】正立姿勢の場合の回転体に作用する軸方向の力を説明する図である。
【図4】ロータ温度検出に関する回路構成を示す図である。
【図5】ロータ温度検出動作を説明するフローチャートである。
【図6】ロータ温度検出動作の第2の例を説明するフローチャートである。
【図7】ロータ温度検出動作の第3の例を説明するフローチャートである。
【図8】ロータ温度検出動作の第4の例を説明するフローチャートである。
【図9】倒立姿勢の場合の回転体に作用する軸方向の力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明の実施するための形態について説明する。図1は本発明に係る真空ポンプを説明する図であり、ターボ分子ポンプを構成するポンプ本体1の断面図である。ターボ分子ポンプは、図1に示すポンプ本体1と不図示のコントロールユニットとで構成される。
【0009】
図1に示したターボ分子ポンプは磁気浮上式のターボ分子ポンプであって、ロータ30が締結されたロータシャフト33は、ラジアル方向の磁気軸受37およびスラスト方向の磁気軸受38によって非接触支持される。磁気軸受38は、ロータシャフト33の下部に固定されたスラストディスク35を軸方向に挟むように配置されている。ロータシャフト33の浮上位置は、ラジアル変位センサ27およびアキシャル変位センサ28によって検出される。磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたロータシャフト33は、モータ36により高速回転駆動される。26,29は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受が作動していない時にはこれらのメカニカルベアリング26,29によりロータシャフト33は支持される。
【0010】
本実施の形態のターボ分子ポンプは、排気機能部としてターボポンプ部とドラッグポンプ部とを備えている。ターボポンプ部は、ロータ30に形成された複数段の回転翼32と、複数段の回転翼32に対して軸方向に交互に配置された複数段の固定翼22とで構成される。ドラッグポンプ部は、ロータ30に形成された円筒部31と、円筒部31の外周側を囲むように所定隙間を介して配置されたネジステータ24とで構成される。なお、回転翼32および円筒部31は回転側排気機能部を構成し、固定翼22およびネジステータ24は固定側排気機能部を構成する。
【0011】
ロータ30および固定翼22は、筒状のポンプケーシング12の内部に配置されている。各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング12の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング12との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0012】
ポンプケーシング12の吸気口側には吸気口フランジ21bが形成されており、吸気口フランジ21bに形成された吸気口21aから気体分子がポンプ内に流入する。ポンプ本体1を真空装置に取り付ける場合には、一般的に吸気口フランジ21bを装置側のフランジにボルト固定する。吸気口フランジ21bには、ボルトを通すためのボルト孔が複数形成されている。ボルト孔の数や穴径は、フランジの規格により定められている。また、図示していないが、吸気口フランジ21bには、ポンプ内に異物が侵入するのを防止するための保護ネットがボルト固定されている。
【0013】
ロータシャフト33の上端にはフランジ部33aが形成されており、ロータ30はフランジ部33aの上面側にボルト締結されている。フランジ部33aの下面側には、リング状の磁性体41が熱的に接触するように設けられている。例えば、フランジ部33aの下面に形成されたリング状の溝に、磁性体41が圧入されている。そのため、ロータ30の温度が上昇するとシャフト33を介して磁性体41に熱が伝達され、磁性体41の温度はロータ30の温度とほぼ同一となっている。そのため、磁性体41の温度を検出することでロータ30の温度を間接的に知ることができる。以下では、磁性体41の温度とロータ30の温度は同一温度Tであるとして説明する。
【0014】
磁性体41に対向するベース側には、永久磁石(例えばリング状の永久磁石)が設けられている。永久磁石40は厚み方向(ロータシャフト33の軸方向)に磁化されている。そのため、ロータ30に設けられた磁性体41は、ベース側に設けられた永久磁石40により図示下側に吸引されることになる。
【0015】
磁性体41には、磁性体41のキュリー温度Tcがロータ30の許容温度とほぼ同一か、または、それに近い温度を有する材料を用いる。本実施の形態の場合、ロータ30の材料に用いられるアルミ材のクリープ温度を許容温度として用いる。すなわち、磁性体41のキュリー温度Tcは、ロータ30が過熱状態であるか否かを判定する過熱判定温度として用いられる。アルミ材のクリープ温度は120℃〜140℃程度である。例えば、キュリー温度Tcが120℃程度の強磁性体材料としては、ニッケル・亜鉛フェライトやマンガン・亜鉛フェライト等がある。
【0016】
図3および図9は、磁気浮上されている状態において、ロータ30およびシャフト33を含む回転体に作用する軸方向の力を示したものである。図3は吸気口21aを鉛直上側に向けた正立姿勢で使用する場合を示しており、図9は吸気口21aを鉛直下側に向けた倒立姿勢で使用する場合を示している。いずれの場合も、(a)はロータ温度TがT<Tcの場合を示し、(b)はロータ温度TがT>Tcの場合を示す。
【0017】
まず、図3を参照して正立姿勢の場合について説明する。スラスト方向の磁気軸受38はスラストディスク35を挟んで上下に一対の電磁石38a,38bを有しており、上側の電磁石38aはスラストディスク35を軸方向上向きに吸引し、下側の電磁石38bはスラストディスク35を軸方向下向きに吸引することで、シャフト33を所定位置に磁気浮上させている。
【0018】
磁性体41の透磁率は、温度に対して図2に示すような変化を示し、キュリー温度Tcよりも温度が高くなると透磁率が急激に小さくなり真空の透磁率μ0とほぼ同程度となる。磁性体41の温度、すなわちロータ30の温度Tが磁性体41のキュリー温度Tcよりも低い場合には、図3(a)に示すように下向きの吸引力F1がロータ30に作用する。一方、ロータ温度Tがキュリー温度Tcよりも高くなると、図3(b)に示すように永久磁石40による吸引力が作用しなくなる。
【0019】
また、吸気口21aからガスを導入すると圧力差から回転体を吸気口側に持ち上げようとする力F4が働く。そのため、T<Tcである図3(a)の場合、回転体には、下向きに重力F0と永久磁石40の吸引力F1と電磁石38bの吸引力F3とが作用し、上向きには電磁石38aの吸引力F2とガス排気時の力F4とが作用している。上向きの力と下向きの力とは釣り合っているので、F2=F0+F1+F3−F4が成り立っている。
【0020】
一方、T>Tcである図3(b)の場合には、永久磁石40の吸引力がゼロなので、回転体を所定位置に磁気浮上させるために上側の電磁石38aの吸引力を調整した場合には、吸引力F2がF2=F0+F3−F4となるように電磁石38aの電流が自動的調整されることになる。また、下側の電磁石38bの電流を調整する場合には、電磁石38bの吸引力がF2+F4−F1−F0からF2+F4−F1となるように電磁石38bの電流が自動的調整される。なお、ガスを導入が無い場合にはF4=0となる。
【0021】
図9に示す倒立姿勢の場合には、力F2の方向と力F0の方向とが同方向となるため、図9(a)に示すT<Tcでは、F2=F1+F3−F0−F4が成立している。一方、図9(b)に示すT>Tcでは、F2=F3−F0−F4が成立している。倒立姿勢の場合も正立姿勢の場合と同様に、回転体を所定位置に磁気浮上させるために電磁石38aの吸引力を調整しても良いし、反対側の電磁石38bの吸引力を調整しても良い。
【0022】
なお、以下では、図3に示す正立姿勢の場合であって、かつ、電磁石38aの電流を調整する場合について説明する。
【0023】
図3(a)の状態における電磁石38aの電流値をInormとし、図3(b)の状態における電磁石38aの電流値をIhotとすると、図3(a)の場合の方が電磁石38aの吸引力が大きいので、Inorm>Ihotとなっている。このように、ロータ温度Tが磁性体41のキュリー温度Tcを超えると電磁石38aの電流が減少するので、電磁石38aの電流減少を検知することにより、ロータ30が許容温度(キュリー温度Tc)を超えたか否かを判定することができる。その場合、Inorm>Ith>Ihotを満たす閾値Ithを設定し、電磁石38aの電流値IがI≦Ithとなったならばロータ30の温度がTc以上になったと判定する。
【0024】
図4は、電磁石38aの電流値Iに基づくロータ温度の検出に関する回路構成を示す図である。図1に示すポンプ本体1を制御するコントロールユニット2は、電流指令部201、PWM型電流増幅器202、電流センサ203、判定回路205、モータ制御部206、警報装置207を備えている。アキシャル変位センサ28からの信号は、電流指令部201のセンサ回路210に入力される。アキシャル変位センサ28は、シャフト33の下端との間のギャップの変化を検出するセンサであり、例えば、インダクタンス式の変位センサが用いられる。
【0025】
センサ回路210は、アキシャル変位センサ28からの出力信号に基づくインダクタンス変化を電圧信号に変換し、変位信号としてPID制御回路212へと出力する。PID制御回路212は、変位信号をP(比例),I(積分),D(微分)制御してギャップが予め設定された設定距離となるように、磁気軸受38の電磁石電流に関する電流駆動指令S1を出力する。PWM型電流増幅器202へは、電流駆動指令S1と電流センサ203から出力された電流値信号との差分信号が入力される。PWM型電流増幅器202では、差分信号に応じたデューティ比のパルス信号(PWM信号)を発生し、そのパルス信号を二象限駆動回路に入力することにより電磁石電流を生成する。生成された電磁石電流は電磁石38aに供給される。電磁石電流の電流値は電流センサ203によって検出される。電流センサ203には、例えば、ホール素子を利用した電流センサやシャント抵抗による電流検出が用いられる。
【0026】
電流センサ203から出力された電流値信号S2は、判定回路205に入力される。判定回路205は、検出された電磁石38aの電流値Iが上述した閾値Ithを超えていると判定すると、その判定結果を警報装置207やモータ制御部206に入力する。警報装置207は、ロータ温度Tがキュリー温度Tcを超えたことを警報する装置であり、例えば、警報表示を表示するための表示装置を備えている。また、警報装置207からT>Tcを示す信号を外部に出力したり、ロータ回転数を低下させるような指令をモータ制御部206に出力したりしても良い。
【0027】
なお、上述したように、吸気口からガスを導入すると圧力差から回転体を吸気口側に持ち上げようとする力F4が働き、電流を減ずるように作用する。後述するように、ガス導入が連続であれば、ガスの前の状態と比較を行うことで補正ができ、瞬時的であれば、時間変化を追うことで検出が可能となる。また、ガスの連続性およびガスのON/OFFはモータの電流を連続的にモニタすることにより判別が可能となる。
【0028】
図5は、ロータ温度検出動作を説明するフローチャートである。図5に示す処理のプログラムは図4の判定回路205において実行され、ポンプの回転駆動が開始されるとスタートし、所定時間間隔ΔTで繰り返し実行される。ステップS10では、電流センサ203により電磁石電流を計測し、その計測データを読み込む。ステップS20では、ステップS10で計測された電流計測値Iが所定閾値Ith以下か否かを判定する。上述したように、磁性体41の温度がキュリー温度Tcを超えている場合、または、ガス負荷が所定ガス流量以上となった場合にはI≦Ithとなるので、ステップS20においてyesと判定される。
【0029】
ステップS20でyesと判定されると、ステップS30へ進んで過熱判定値Nを1だけ増加させる。なお、過熱判定値Nの初期値は0とされている。一方、ステップS20でnoと判定されると、ステップS30をスキップしてステップS40へ進む。ステップS40では、ステップS10で計測された電流計測値Iが所定閾値Ithよりも大きいか否かを判定する。磁性体41の温度がキュリー温度Tcを超えておらず、かつ、ガス負荷が所定ガス流量よりも小さい場合にはI>Ithとなるので、ステップS40においてyesと判定される。そして、ステップS40でyesと判定されるとステップS70に進んで過熱判定値NをN=0とし、一連の処理を終了する。
【0030】
一方、磁性体41の温度がキュリー温度Tcを超えているか、または、ガス負荷が所定ガス流量以上である場合には、ステップS40においてnoと判定され、ステップS50へと進む。ステップS50では、過熱判定値Nが予め設定された基準値N0以上であるか否かを判定する。
【0031】
ここで、基準値N0は、電流値減少が温度上昇に起因するものかガス負荷の上昇に起因するものであるかを判定する判定値である。ガス負荷の上昇は成膜プロセス中のガス導入に起因するものであって、一般的に成膜時間は数分程度で、間欠的に動作させる場合が多い。一方、熱負荷やガス負荷等によるロータ温度の変化は穏やかな変化であって、一旦キュリー温度Tcよりも高温状態になると、温度上昇原因が解消されてもT<Tcとなるまでに長時間を要する。そのため、基準値N0としては、例えば、ΔT×N0が成膜時間より若干長くなるように設定すれば良い。
【0032】
ステップS50でN≧N0と判定されるとステップS60に進み警報処理を行い、N<N0と判定されると、一連の処理を終了する。ステップS60の警報処理では、上述したように、ロータ温度Tがキュリー温度Tcを超えたことをコントロールユニット2に設けられた表示部に表示したり、T>Tcである信号を外部に出力したりする。また、モータ制御部206に指令を出力して、ロータ回転数を低下させるようにしても良い。
【0033】
以上の処理動作をまとめると、図5の処理は時間間隔ΔT毎に実行され、電磁石電流値Iが通常状態Inorm(>Ith)である場合には、ステップS10→ステップS20→ステップS40→ステップS70のように処理される。また、ガス負荷が原因で電磁石電流値IがI≦Ithとなっている場合には、ステップS10→ステップS20→ステップS30→ステップS40→ステップS50と処理され、一方、ロータ温度がキュリー温度Tcを超えている場合には、ステップS10→ステップS20→ステップS30→ステップS40→ステップS50→ステップS60と処理される。なお、ロータ温度がキュリー温度Tcを超えた場合でも、その時間がN0×ΔTよりも短い場合にはステップS60の警報処理は実行されないことになる。
【0034】
図6は、温度検出動作の第2の例を示すフローチャートである。図5に示す動作では、電磁石電流値Iが閾値Ithよりも低くなっている時間がΔT×N0以上か否かで、電流減少がガス負荷によるものかロータ温度によるものかを判断した。一方、図6に示す第2の例では、モータ電流値を用いることで、電流減少がガス負荷によるものかロータ温度によるものかを判断するようにした。第2の例の場合も、図6に示す処理が所定時間間隔ΔT毎に繰り返し実行される。
【0035】
ステップS110では、電磁石電流値Iとモータ電流値Imとを検出する。ステップS120では、ステップS110で計測された電磁石電流値Iが閾値Ithに対してI≦Ithを満足するか否かを判定する。ステップS120でyesと判定されるとステップS130へ進み、noと判定されると一連の処理を終了する。ステップS130では、ステップS110で計測されたモータ電流値Imが閾値Igより小さいか否かを判定する。
【0036】
この閾値Igは、ガス負荷時の電磁石電流値IがほぼI=Ithとなるようなガス負荷(ガス流量)があった場合の、モータ電流値である。すなわち、モータ電流値ImがIm≧Igとなるガス負荷であった場合、そのガス負荷が原因で電磁石電流Iは閾値Ith以下となる。よって、ガス負荷が原因でI≦Ithとなっている場合には、ステップS130でnoと判定され、一連の処理を終了する。一方、ステップS130でyesと判定された場合には、ロータ温度Tがキュリー温度Tcを超えていることになり、ステップS140に進んで図5のステップS60と同様の警報処理を実行する。
【0037】
上述した実施形態では負荷が一定以上か否かで判別したが、負荷状態と電磁石電流はほぼ線形の関係となる。負荷が増えると、電磁石電流が増え、負荷が減ると、電磁石電流は減る。負荷状態はモータ電流で検出可能であり、たとえば、既定の負荷補正係数Kmiを定義し、Ith’ = I - Kmi ×Imとし、閾値を補正して、検出を行うことが可能である。なお、この係数Kmiは機種ごとにあらかじめ関係を計測し、設定しておくことが好ましい。
【0038】
上述した実施形態では、永久磁石40による吸引力が変化した場合に上側の電磁石38aの電流値から検出する場合について説明したが、電磁石38aに代えて下側の電磁石38bの電流値から検出するようにしても良い。その場合、図3に示す電磁石38aの力F2は一定とし、電磁石38bによる軸方向の力F3は、T<TcのときにはF3=F2−F0−F1+F4となり、T>TcのときにはF3=F2−F0+F4となる。すなわち、電磁石38bの電流値はT>Tcとなったときに増加することになる。倒立姿勢の場合も同様である。
【0039】
そのため、電磁石38bの電流値を利用してロータ温度Tがキュリー温度Tc(過熱判定温度)を超えたか否かを判定する場合、図5の動作例に代えて図7のような制御を採用すれば良い。図7に示す動作は、電流値の変化量ΔIを用いて判定を行うものであり、図5の場合とステップS310,S320,S340の処理が異なる。なお、図7に示す処理動作は、電磁石38aの電流値を用いる場合にも適用することができる。
【0040】
ステップS310では、ステップS10で計測された電磁石電流値Iと、予め判定回路205の記憶部に記憶されている基準電流値I0との差の絶対値である変化量ΔIを算出する。変化量ΔIは基準電流値I0との差の絶対値であるので、電磁石38a,38bのいずれの電流値を用いた場合も正の値となる。なお、基準電流値I0は、常温で、かつガス負荷のない状態(無負荷時)の励磁電流に相当する電流値であり、上述したInormと同じものである。ステップS320では、ステップS310で算出した変化量ΔIと予め設定された閾値ΔIthとを比較し、ΔI≧ΔIthであるか否かを判定する。ここで、閾値ΔIthは、ロータ温度がキュリー温度Tcを超えたときの電磁石電流値Iの変化量に相当する。また、ステップS340では、ΔI<ΔIthか否かを判定する。
【0041】
同様に、図6のフローチャートに関しては、図8のようなフローチャートに変更すれば良い。すなわち、図7のステップS310に対応するステップS410を追加すると共に、ステップS320の場合と同様に、図6のステップS120を図8のステップS420のように変更する。
【0042】
なお、ガス負荷による電磁石電流値の変化量が、永久磁石の吸引力消滅による電磁石電流値の変化量よりも明らかに小さい場合には、ガス負荷に関係する処理を省略することができる。すなわち、図5の場合にはステップS30〜S50およびステップS70を省略でき、図6,8の場合にはステップS130を省略でき、図7の場合にはステップS30,S340,S50および70を省略できる。
【0043】
(1)以上のように、本実施の形態の真空ポンプでは、ロータ30とロータシャフト33とが一体化された回転体はモータ36により回転駆動され、その回転体はラジアル磁気軸受37およびスラスト磁気軸受38を備える磁気軸受装置によって所定位置に磁気浮上している。そして、真空ポンプは、回転体を構成するロータシャフト33に熱的に接触するように設けられ、回転体を構成するロータ30の過熱判定温度に対応したキュリー温度Tcを有する磁性体41と、磁性体41を吸引して回転体に対して軸方向の力を作用する永久磁石40と、スラスト磁気軸受38の励磁電流を検出する電流センサ203と、電流センサ203で検出される励磁電流Iの変化から、回転体を構成するロータ30の温度が過熱判定温度を超えたか否かを判定する判定手段(判定回路205)と、を備えている。
【0044】
このように、電流センサ203で検出される励磁電流Iの変化から回転体を構成するロータ30の温度が過熱判定温度を超えたか否かを判定しているので、従来のように、磁性体41の透磁率変化を検出するセンサを新たに追加する必要がない。さらに、高速回転する磁性体ターゲットの透磁率変化を検出する必要から、高速でセンシング処理を行うことができる演算処理部を設ける必要があった。
【0045】
しかし、本実施の形態では、従来から検出が行われているスラスト磁気軸受38の励磁電流を用い、その励磁電流の変化から回転体の温度が過熱判定温度を超えたか否かを判定しているので、容易に判定が行えると共に、従来に比べて追加する部品が少なく、コストアップを抑えつつロータ30の過昇温を検出することができる。
【0046】
なお、図1の符号40a,41aで示すように、磁性体41aをロータ30の円筒部31の下端に設け、ベース20の対向する部分に永久磁石40aを設けるようにしても良い。円筒部31はロータ30の内で比較的高温になりやすい領域なので、温度検出部位としては適している。また、回転側に永久磁石40を設けて固定側に磁性体41を設けても良い。さらには、永久磁石のかわりに一定電流を流す電磁石を用いてもよい。
【0047】
(2)例えば、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値I0と電流センサ203で検出された電流値Iとの差の絶対値ΔIが所定閾値ΔIth以上の場合に、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定する。
【0048】
(3)また、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値I0と電流センサ203で検出された電流値Iとの差の絶対値ΔIが所定閾値ΔIth以上である状態が所定時間(ΔT×N0)以上継続した場合に、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定することで、判定に対するガス負荷の影響を排除することができる。
【0049】
(4)また、モータ電流値が所定ガス負荷時のモータ電流値より小さいか否かを判定するガス負荷判定手段としての判定回路205を備え、基準電流値I0と電流センサ203で検出された電流値Iとの差の絶対値ΔIが所定閾値ΔIth以上であって、かつ、判定回路205によりモータ電流値Iが所定ガス負荷時のモータ電流値Igより小さいと判定されると、回転体の温度が過熱判定温度を超えたと判定する。このような構成とすることで、回転体の温度が過熱判定温度を超えたか否かの判定に対するガス負荷の影響を排除することができる。
【0050】
(5)なお、所定閾値ΔIthは、磁性体41の温度がキュリー温度Tcより高温のときにスラスト磁気軸受38に流れる励磁電流値と基準電流値I0との差に基づいて設定される。閾値ΔIthは、ロータ温度がキュリー温度Tcを超えたときの電磁石電流値Iの変化量に相当するもので、例えば、|Ihot−Inorm|よりも若干小さな値に設定される。
【0051】
(6)さらに、磁性体41の形状を回転体の軸を中心とするリング状とすることで、渦電流の発生を防止することができる。
【0052】
なお、上述した実施の形態では、ポンプ本体1を鉛直方向の姿勢で用いた場合を例に説明したが、取り付け姿勢が斜めや、水平や、逆さの場合でも、取り付け姿勢による重力の影響の違いを補正することで本発明を同様に適用することができる。また、磁気浮上式のターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は、磁気浮上式のドラッグポンプ等にも適用することができる。
【0053】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1:ポンプ本体、2:コントロールユニット、20:ベース、22:固定翼、24:ネジステータ、27,28:変位センサ、30:ロータ、31:円筒部、32:回転翼、33:ロータシャフト、35:スラストディスク、37,38:磁気軸受、38a,38b:電磁石、40,40a:永久磁石、41,41a:磁性体、201:電流指令部、203:電流センサ、205:判定回路、206:モータ制御部、207:警報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気機能部が形成された回転体と、
前記回転体を回転駆動するモータと、
ラジアル磁気軸受およびスラスト磁気軸受を備え、前記回転体を所定位置に磁気浮上させる磁気軸受装置と、
前記回転体に熱的に接触するように設けられ、前記回転体の過熱判定温度に対応したキュリー温度を有する磁性体と、
前記磁性体を吸引して前記回転体に対して軸方向の力を作用する永久磁石と、
前記スラスト磁気軸受の励磁電流を検出する電流センサと、
前記電流センサで検出される励磁電流の変化から、前記回転体の温度が前記過熱判定温度を超えたか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、
前記判定手段は、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値と前記電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上の場合に、前記回転体の温度が前記過熱判定温度を超えたと判定することを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、
前記判定手段は、常温かつ無負荷時の励磁電流に相当する基準電流値と前記電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上である状態が所定時間以上継続した場合に、前記回転体の温度が前記過熱判定温度を超えたと判定することを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、
前記モータの電流値が所定ガス負荷時のモータ電流値より小さいか否かを判定するガス負荷判定手段を備え、
前記判定手段は、前記基準電流値と前記電流センサで検出された電流値との差の絶対値が所定閾値以上であって、かつ、前記ガス負荷判定手段により前記モータ電流値が所定ガス負荷時のモータ電流値より小さいと判定されると、前記回転体の温度が前記過熱判定温度を超えたと判定することを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、
前記所定閾値は、前記磁性体の温度が前記キュリー温度より高温のときに前記スラスト磁気軸受に流れる励磁電流値と前記基準電流値との差に基づいて設定されることを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気浮上式真空ポンプにおいて、
前記磁性体の形状は、前記回転体の軸を中心とするリング状であることを特徴とする磁気浮上式真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237285(P2012−237285A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108219(P2011−108219)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】