説明

磁気浮上式血液ポンプ

【課題】 本発明は磁気浮上式血液ポンプに係り、ポンプヘッドの中期間,長期間の使用を可能とし、併せて血液ダメージを無くした磁気浮上式血液ポンプを提供する。
【解決手段】ポンプハウジング内に組み込んだコーン型インペラを磁気軸受で非接触に支持すると共に、コーン型インペラの最下段のコーンにウォッシュアウトホールを設けて、ポンプヘッド内に血液の2次流れを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプヘッド(血液接触部)を使い捨て部品とする遠心血液ポンプに係り、詳しくは該ポンプヘッドの中期間,長期間の使用を可能とし、併せて血液ダメージを無くした磁気浮上式血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、心臓や血管の手術中,術後に使用される遠心血液ポンプとして、患者の血液と接触するインペラとこれを収容するポンプハウジングからなるポンプヘッドを交換する使い捨て遠心血液ポンプが広く使用されている。
【0003】
而して、従来、この種の使い捨て遠心血液ポンプでは、インペラがピボットベアリングやメカニカルシールで保護された接触式のベアリングでポンプハウジングに支持されており、例えば非特許文献1には、図14に示すように断面円錐形状に形成された3枚のコーン1a〜1cを、夫々、隙間を空けて三層に組み合わせてコーン型インペラ1を形成し、これを接触式のベアリング3と支軸5を用いてポンプハウジング7に回転可能に支持した遠心血液ポンプ9が開示されている。そして、コーン型インペラ1とこれを収容するポンプハウジング7からなるポンプヘッド(血液接触部)11が使い捨て部分とされている。
【0004】
そして、前記ポンプヘッド11は、モータ13やトルク伝達ディスク15等を備えた再利用ユニット17上に着脱自在に装着されており、最下段部の前記コーン1cに装着したマグネット19と、トルク伝達ディスク15に装着したマグネット21との間で磁気カップリング23が発生している。そして、図14に示すようにモータ13の駆動でトルク伝達ディスク15が回転すると、これに連動してコーン型インペラ1が同方向へ回転するため、図14及び図15に示すようにポンプハウジング7の頂部の血液流入口25から流入した血液Bにコーン型インペラ1の回転で運転エネルギーが与えられて(コーン型インペラ1の回転が粘性摩擦により血液Bに伝えられて)、血液Bがポンプハウジング7の側面に設けた血液流出口27から流出するようになっている。
【非特許文献1】人工心肺ハンドブック(2004) 55〜61頁 編者 安達 秀雄、百瀬 直樹 中外医学社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし乍ら、接触式の前記ベアリング3は、血液Bの汚染を避けるため無潤滑で用いられるため、摩耗や摩擦が激しく耐久性に問題があり、このため、使い捨て部分たるポンプヘッド11の使用期限は最大2日程度に制限されているが、2日毎の交換は医療機関や患者にとって大きな負担になっているのが実情であった。
【0006】
また、接触式のベアリング3を使用することで、ベアリング3周りの血栓やベアリング3による溶血といった血液ダメージも指摘されていた。
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、ポンプヘッドの中期間,長期間の使用を可能とし、併せて血液ダメージを無くした磁気浮上式血液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る磁気浮上式血液ポンプは、頂部と側部に血液流入口と血液流出口が形成されたポンプハウジングと、該ポンプハウジング内に回転可能に収容されたインペラとからなる使い捨て式のポンプヘッドと、前記ポンプヘッドが着脱自在に取り付く再利用ユニットとからなり、前記インペラは、断面円錐形状に形成された複数枚のコーンが隙間を空けて積層され、最下段のコーンの中央に、血液の2次流れを作るウォッシュアウトホールが上下方向に形成されると共に、最下段部の該コーンに、外周面の上端側と下端側にリング状の磁極面が周方向に形成され、内周面の上端側と下端側に複数の磁極面が内方へ突設された磁性材料からなる円筒状の磁気軸受ロータが取り付くコーン型インペラで、前記再利用ユニットは、前記ポンプハウジングの周りに等間隔で配置され、前記磁気軸受ロータの外周面に形成された磁極面に沿って磁極面が対向配置されて磁気軸受ロータとの間で磁気カップリングを発生する3つ以上の磁気軸受用電磁石と、厚さ方向に着磁されたリング状の永久磁石を、上下2枚の磁性材料からなるリング部材で挟み込んで形成され、外周面の上端側と下端側に、前記磁気軸受ロータの内周面に突設した磁極面に対応する複数の磁極面が突設されて該磁気軸受ロータとの間で磁気カップリングを発生するトルク伝達ディスクと、前記ポンプヘッドと離間して配置され、前記トルク伝達ディスクを回転駆動するモータと、磁気軸受ロータのラジアル方向の変位を計測する変位計とを備え、前記ポンプハウジングは、前記磁気軸受ロータの外形形状に沿って底部が筒状に形成されて、該底部が前記磁気軸受用電磁石とトルク伝達ディスクとの間に着脱自在に取り付くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、ポンプハウジング内に組み込まれるコーン型インペラを磁気軸受で非接触に支持した構造上、接触式のベアリングでインペラを支持していた従来例に比し耐久性が向上して、ポンプヘッドの中期間,長期間の使用が可能となった。
【0010】
また、斯様にコーン型インペラを磁気軸受で非接触に支持した結果、ベアリング周りの血栓やベアリングによる溶血といった従来の血液ダメージを解消することでき、更に、最下段のコーンにウォッシュアウトホールを設けて血液の2次流れを形成したことで、コーン型インペラにスラスト方向の動圧作用が働いてコーン型インペラがスムーズに回転すると共に、血液の滞留による血栓の形成をより確実に防止することができる利点を有する。
【0011】
また、モータをポンプヘッドから離間させて、モータの熱がポンプヘッド内を流下する血液に伝達し難い構造としたため、熱による血液の凝固を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1乃至図13は請求項1に係る磁気浮上式血液ポンプの一実施形態を示し、図1に示すように本実施形態に係る磁気浮上式血液ポンプ31は、再利用ユニット33と、該再利用ユニット33の上部に着脱自在に取り付くポンプヘッド(血液接触部)35とからなり、以下に記載するように、ポンプハウジング37とこの内部に装着された磁気軸受ロータ39やコーン型インペラ41等からなるポンプヘッド35が使い捨て部分で、図2の如くポンプハウジング37の頂部の血液流入口43から流入した血液Bにコーン型インペラ41の回転が粘性摩擦により伝えられて、血液Bがポンプハウジング37の側部に設けた血液流出口45から流出するようになっている。
【0014】
そして、前記ポンプヘッド35から離間して配置されたブラシレスDCモータ(以下、「DCモータ」という)47やこれに同期して回転するトルク伝達ディスク49、また、図1及び図5に示すようにポンプハウジング37の周囲に設置された4つの磁気軸受用の電磁石51x,51y,53x,53y等を備えた再利用ユニット33が磁気浮上式血液ポンプ31の再利用部分で、図2に示すようにポンプハウジング37(ポンプヘッド35)は外径がφ124、高さが65mm、血液流入口43がφ9に設定され、図1に示すように再利用ユニット33は160mmの高さ寸法と幅寸法に設定されている。
【0015】
先ず、前記ポンプヘッド35のコーン型インペラ41について説明すると、図2乃至図4に示すようにコーン型インペラ41は、断面円錐形状に形成されたポリカーボネイト製のコーン41a,41bと、同じくポリカーボネイトを用いて断面円錐形状に形成されたコーン41cを、夫々、隙間55,57を空けて積層したもので、3枚のコーン41a,41b,41cには図示しない位置合わせ用の突起と溝が設けられており、これらを接着にて固定した構造となっている。そして、図3及び図4に示すように3枚のコーン41a,41b,41cの直径は総てφ79とされ、コーン型インペラ41全体が55mmの高さ寸法とφ79の幅寸法に設定されている。また、図4に示すように前記隙間55,57の下流端の間隔は、夫々、2.6mmと1.4mmに設定されている。
【0016】
そして、図2及び図4に示すように最上段のコーン41aと2段目のコーン41bは、図14のコーン1a,1bと同様、薄肉に形成されて、夫々の中央に、平面視円形状の血液流下口59,61が前記血液流入口43と同軸上に設けられており、血液流下口59の直径はφ14、血液流下口61の直径はφ9.4に夫々設定されている。
【0017】
一方、図2及び図4に示すように最下段のコーン41cの中央には、前記血液流入口43と同軸上に、後述するように血液Bの2次流れを作る平面視円形状のウォッシュアウトホール63が上下方向に亘ってφ8の径寸法で設けられている。そして、コーン41cの底面はポンプハウジング37に沿った形状とされており、その底部の周縁部に沿って形成された環状の突部65に磁気軸受ロータ39が一体的に組み込まれている。
【0018】
図6は磁気軸受ロータ39の詳細を示し、図中、67は厚さ方向に着磁された1個のリング状のネオジム永久磁石、69,71は内周面が等間隔で軸方向に歯溝加工された2枚の電磁軟鉄リング(リング部材)で、ネオジム永久磁石67を電磁軟鉄リング69,71間に一体的に挟み込んで磁気軸受ロータ39が形成されている。
【0019】
そして、磁気軸受ロータ39の上端たる電磁軟鉄リング69の外周面と、磁気軸受ロータ39の下端たる電磁軟鉄リング71の外周面が、夫々、リング状の磁極面73,75となっており、2つの磁極面73,75間にはネオジム永久磁石67によって定常的な磁場が発生している。
【0020】
また、既述したように電磁軟鉄リング69,71の内周面は、夫々、軸方向へ等間隔で歯溝加工が行われており、これによって磁気軸受ロータ39の内周面の上端側と下端側の同一位置に、夫々、複数の歯状の磁極面77,79が内方へ等間隔に突設されている。そして、図2または図4に示すように磁気軸受ロータ39は、前記コーン41cの環状の突部65内に一体的に組み込まれており、磁気軸受ロータ39とコーン型インペラ41はポンプハウジング37内に収納されている。
【0021】
図2に示すようにポンプハウジング37は、コーン型インペラ41と同一材料で形成されており、既述したようにその頂部と側面に血液流入口43と血液流出口45が設けられ、その底部81は、前記突部65の外形形状に沿って円筒状に形成されている。
【0022】
尚、既述したように本実施形態は、電磁軟鉄リング69,71の内周面に複数の歯状の磁極面77,79を等間隔に設けたが、必ずしもこれらの磁極面77,79は等間隔である必要はなく、例えば4つの磁極面77,79を、夫々、100°と80°の間隔を空けて線対称に設けてもよい。
【0023】
そして、図1,図5及び図7に示すように再利用ユニット33の基台83上に装着したポンプハウジング37の底部81を囲むように、電磁石取付台95を介して基台83上に4つの電磁石51x,51y,53x,53yが90°間隔で配置されており、これらの電磁石51x,51y,53x,53yと磁気軸受ロータ39とで、コーン型インペラ41の荷重を磁気力によって非接触で支持する磁気軸受85を構成している。
【0024】
図1及び図7に示すように磁気軸受85は、コーン型インペラ41のスラスト方向(Z方向)を中心とした回転方向(Ψ方向)を除く5自由度での剛性が正となる軸受である。
【0025】
5自由度とは、図1に示すようにスラスト方向(Z方向)の1自由度と、ラジアル方向(X方向,Y方向)の2自由度と、傾き方向(Θ方向,Φ方向)の2自由度で、スラスト方向はコーン型インペラ41の回転軸方向に対応し、ラジアル方向は回転軸方向に垂直な方向に対応し、傾き方向はラジアル方向を中心とした微小回転の方向に対応する。
【0026】
更に、磁気軸受85は2自由度制御型の磁気軸受で、上記した5自由度のうち、ラジアル方向(X方向,Y方向)の2自由度のみを制御対象とする。つまり、ラジアル方向(X方向,Y方向)のみが能動型であり、他のスラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)の3自由度に関しては受動型となっている。
【0027】
以下、磁気軸受85の構成を説明すると、図1,図5及び図7に示すように電磁石51x,51y,53x,53yは、x方向制御用の2つの電磁石51x,53xと、y方向制御用の2つの電磁石51y,53yとで構成され、x方向制御用の電磁石51x,53xは、磁気軸受ロータ39(ポンプハウジング37の底部81)を挟んでx方向に対向配置され、y方向制御用の電磁石51y,53yは、同じく磁気軸受ロータ39を挟んでy方向に対向配置されている。
【0028】
電磁石51x,51y,53x,53yの構成は全て同一であるため、図7を基に電磁石51yを例に構成を説明すると、電磁石51yは、断面コ字状の電磁軟鉄コア87の中央にコイル89を巻き付けたもので、電磁軟鉄コア87を焼鈍処理をした純鉄で形成すると、磁気軸受85のヒステリシス損失が低下して電磁石51yの低発熱化に寄与し、ポンプヘッド35(ポンプハウジング37)内を流下する血液Bの凝固を防止することができる。
【0029】
また、電磁軟鉄コア87を粉体コア(純鉄の微粒子を圧縮して接着剤で固めたもの)で形成すると、渦電流損失が低下して電磁石51yの低発熱化に寄与すると共に、磁気軸受85から発進制御する電磁力のバンド幅を伸ばすことができるため、磁気軸受ロータ39の振動が低減して更なる溶血防止や血液Bの凝固防止に寄与する利点を有する。
【0030】
電磁軟鉄コア87には、磁気軸受ロータ39の磁極面73,75の各々の部分領域に対向配置される2つの磁極面91,93が設けられており、図7に示すように磁極面91,93の形状は、磁気軸受ロータ39の磁極面73,75の部分領域に沿った円弧形状である。そして、底部81を挟んで対峙する磁極面73,75と磁極面91,93間のギャップは、僅差な寸法に設定されている。
【0031】
このように、磁気軸受ロータ39と電磁石51yは、磁極面73,91同士が対向配置され、磁極面75,93同士が対向配置される。このため、磁気軸受ロータ39のネオジム永久磁石67によって磁極面73,75の間に発生した定常的な磁場は、電磁石51yの磁極面91,93を介して内部を通過することになる。
【0032】
つまり、図7に示すようにネオジム永久磁石67のN極側から出て、電磁軟鉄リング69→磁極面73→ギャップ→磁極面91→電磁軟鉄コア87→磁極面93→ギャップ→磁極面75→電磁軟鉄リング71を順に経た後、ネオジム永久磁石67のS極に戻る磁束φの閉ループを構成する磁気カップリングが発生する。
【0033】
ここで、仮想的な磁気カップリングの剛性の符号は、スラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)とを合わせた3自由度に関して「正」になる。つまり、スラスト方向(Z方向)の1自由度に於て、磁気軸受ロータ39が図8の如く理想的な位置から矢印A方向へ変位すると、磁気軸受ロータ39には磁束φのループによる復元力F1が働く。
【0034】
また、図9に示すように傾き方向(Θ方向,Φ方向)の2自由度に於て、磁気軸受ロータ39が理想的な位置から矢印B方向へ傾くと、磁気軸受ロータ39には磁束φのループによる復元トルクF2が働く。
【0035】
何れの場合にも、磁気軸受ロータ39は、復元力F1または復元トルクF2によって、図7の如く一方の磁極面73が電磁石51yの磁極面91に対向し、他方の磁極面75が電磁石51yの磁極面93に対向する状態(つまり理想的な位置に整列した状態)へ向けて動くことになる。
【0036】
そして、これらの復元力F1や復元トルクF2は、その他の電磁石51x,53x,53yに於ても同様に磁気軸受ロータ39に作用する。
【0037】
この結果、磁気軸受ロータ39は、磁極面73,75の各々が磁極面91,93に対向する整列状態に安定して保持される。つまり、スラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)とを合わせた非制御方向の3自由度に関しては、ネオジム永久磁石67からの磁束φのループによって、磁気軸受ロータ39の剛性を充分に確保することができる。
【0038】
これに対し、ラジアル方向(X方向,Y方向)の2自由度に関しては、ネオジム永久磁石67からの磁束φのループによる仮想的なバネの剛性が「負」になってしまう。
【0039】
このため、本実施形態では、ラジアル方向(X方向,Y方向)の磁気カップリング85の剛性を補正して「正」にする目的で、x方向制御用の電磁石51x,53x及びy方向制御用の2つの電磁石51y,53yの各々のコイル89に励磁電流を供給する。そして、各々のコイル89に対する励磁電流の向きと強さは、変位センサ93からの出力信号に基づいてフィードバック制御される。
【0040】
図1に示すように再利用ユニット33の基台83上に電磁石取付台95が配置されているが、電磁石51yを挟んで電磁石取付台95に、90°の間隔を空けて2本の変位センサ97が磁気軸受ロータ39の中心に向かって設置されており、これらの変位センサ97で磁気軸受ロータ39のラジアル方向(X方向,Y方向)の変位を計測するようになっている。
【0041】
磁気軸受85の制御装置(図示せず)は、変位センサ97からの出力信号と、磁気軸受ロータ39のラジアル方向の目標位置信号とを比較し、磁気軸受ロータ39が目標位置に戻るようにフィードバック制御する。
【0042】
例えば、図10に示すようにX方向の1自由度に於て磁気軸受ロータ39が理想的な位置から矢印方向へ変位すると、制御装置は、図11に示すように変位方向とは逆向きの制御力F3を発生させるため、y方向制御用の電磁石51y,53yのコイル89に供給する励磁電流の向きと強さをフィードバック制御する。
【0043】
このため、図10の如く磁気軸受ロータ39が電磁石51yの方へ変位すると、制御装置は、図11に示すように電磁石51yによって磁束φとは逆向きの磁束φ1を発生させ、他方の電磁石53yによって磁束φと同じ向きの磁束φ2を発生させる。このとき、電磁石51yの電磁軟鉄コア87を含む磁気回路では磁束φが弱められ、電磁石53yの電磁軟鉄コア43を含む磁気回路では磁束φが強められる。この結果、磁気軸受ロータ39を電磁石53yの方へ引き戻すような制御力F3が発生し、磁気軸受ロータ39,電磁石53y側でのギャップと電磁石51y側でのギャップとが等しくなるような目標位置に安定して保持される。
【0044】
そして、x方向制御用の電磁石51x,53xについても同様のフィードバック制御が行われ、磁気軸受ロータ39は、電磁石51x側でのギャップと電磁石53x側でのギャップとが等しくなるような目標位置に安定して保持される。
【0045】
つまり、ラジアル方向(X方向,Y方向)の2自由度に関しては、ネオジム永久磁石67からの磁束φのループと電磁石51x,51y,53x,53yからの磁束φ1,φ2のループとの合成によって、仮想的なバネの剛性が「正」になり、磁気軸受ロータ39の剛性を充分に確保することができる。
【0046】
このように本実施形態の磁気軸受85は、磁気軸受ロータ39のスラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)とを合わせた非制御方向の3自由度に関し、ネオジム永久磁石67からの磁束φのループによって十分な剛性を確保でき、更にラジアル方向(X方向,Y方向)の2自由度に関し、電磁石51x,51y,53x,53yからの磁束φ1,φ2のループとの合成によって十分な剛性を確保できる。即ち、5自由度での高剛性化が実現する。
【0047】
一方、図1に示すように再利用ユニット33の下部には、基台83に固着したモータ取付枠99を介してDCモータ47がポンプヘッド35から離間して設置されており、そのモータ軸101は、基台83の上部に取り付くポンプハウジング37と中心軸を同じくしている。
【0048】
そして、モータ軸101にカップリング103を介して熱伝導性の低い材料で形成された動力伝達軸105が連結され、該動力伝達軸105はベアリング107を介して基台83に回転可能に軸支されている。そして、基台83の上面に突出する動力伝達軸105の先端に、磁気軸受ロータ39にトルクを伝達するリング状のトルク伝達ディスク49が平面視円形状の連結部材109を介して連結されており、基台83の上部にポンプヘッド35を装着した際に、図1及び図14に示すようにトルク伝達ディスク49は、ポンプハウジング37の底部81と中心軸を同じくしてその内側に配置されるようになっている。
【0049】
図12に示すようにトルク伝達ディスク49は、磁気軸受ロータ39のネオジム永久磁石67とは逆方向に着磁されたリング状の1個のネオジム永久磁石111を、外周面が等間隔で軸方向に歯溝加工が行われた上下2枚の電磁軟鉄リング(リング部材)113,115で一体的に挟み込んだ構造となっている。
【0050】
そして、電磁軟鉄リング113,115の歯溝加工は、前記電磁軟鉄リング69,71の内周面の歯溝加工と一致させて行われており、これにより、トルク伝達ディスク49の外周面の上端側と下端側に、磁気軸受ロータ39の磁極面77,79に対向する複数の歯状の磁極面117,119が形成されている。
【0051】
このため、図12に示すようにトルク伝達ディスク49に於ても、ネオジム永久磁石111によって磁極面117,119間に発生した定常的な磁場と、磁気軸受ロータ39のネオジム永久磁石67によって磁極面77,79間に発生した定常的な磁場とで、磁気軸受ロータ39からトルク伝達ディスク49間に、矢印に示す磁束φ3の閉ループを構成する磁気カップリングが発生する。
【0052】
而して、この磁気カップリングは、トルク伝達ディスク49と磁気軸受ロータ39間に、図13の如くDCモータ47からのトルクを磁気軸受ロータ39に伝達してこれを矢印方向へ回転させる働きと、磁気軸受ロータ39,電磁石51x,51y,53x,53y間の磁気カップリングによる磁気軸受85と併せて、磁気軸受ロータ39のスラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)の変位や傾きを復元する磁気軸受121として機能することとなる。
【0053】
そして、図2に示すように、コーン型インペラ41の最上段のコーン41aの上面とポンプハウジング37の内周との間にも血液Bが流下する隙間123が形成されているが、前記磁気軸受85,121により、最下段のコーン41cの突部65とポンプハウジング37との間に0.5mmの流体隙間125が形成されると共に、コーン41cの底部中央の凹部底面127とハウジング37との間に1.0mmの流体隙間129が形成されて、コーン型インペラ41とハウジング37との非接触が図られている。そして、図1に示すようにポンプヘッド35は、前記電磁石取付台95上に載置されて、ポンプハウジング37の底部81がトルク伝達ディスク49と電磁石51x,51y,53x,53yとの間に挿入されるが、基台83の上面には、従来周知の真空チャック(固定手段)の吸引孔(図示せず)が開口しており、磁気浮上式血液ポンプ31の使用時に該吸引孔から真空ポンプで底部81を吸引して、再利用ユニット33からのポンプヘッド35の脱落防止を図っている。
【0054】
本実施形態に係る磁気浮上式血液ポンプ31はこのように構成されているから、磁気浮上式血液ポンプ31の使用に当たり、ポンプハウジング37の底部81をトルク伝達ディスク49と電磁石51x,51y,53x,53yとの間に挿入して、ポンプヘッド35を電磁石取付台95上に載置した後、真空ポンプを作動すると、真空チャックによってポンプヘッド35が再利用ユニット33上に固定される。
【0055】
而して、斯様にポンプヘッド35を再利用ユニット33上に装着すると、磁気軸受ロータ39とトルク伝達ディスク49との間に発生する磁気カップリングと、電磁石51x,51y,53x,53yと磁気軸受ロータ39との間に発生する磁気カップリングとによって、図2の如く磁気軸受ロータ39が一体的に組み込まれたコーン型インペラ41がポンプハウジング37に対して完全に非接触な状態で磁気浮上し、非接触な状態で支持される。そして、既述したようにこの非接触状態に於て、コーン型インペラ41の最上段のコーン41aの上面とポンプハウジング37の内周との間に血液Bが流下する隙間123が形成されると共に、最下段のコーン41cの突部65とポンプハウジング37との間に0.5mmの流体隙間125が形成され、コーン41cの底部中央の凹部底面127とハウジング37との間に1.0mmの流体隙間129が形成される。
【0056】
そして、この状態でDCモータ47を回転駆動して、図12の如くトルク伝達ディスク49を矢印方向へ回転させると、図13に示すように、トルク伝達ディスク49と磁気軸受ロータ39間に発生する磁気カップリングによりトルクが磁気軸受ロータ39に伝達されて磁気軸受ロータ39が同方向へ回転し、コーン型インペラ41が同方向へ回転する。
【0057】
このため、図2に示すように、ポンプハウジング37の頂部の血液流入口43から流入した血液Bが前記各隙間123,55,57する際に、コーン型インペラ41の回転が粘性摩擦により血液Bに伝えられて、血液Bがポンプハウジング37の側部に設けた血液流出口45から流出する。
【0058】
また、斯様にコーン型インペラ41の回転で運動エネルギーが与えられた血液Bが、前記流体隙間125及び凹部底面127からウォッシュアウトホール63を経て隙間57に戻る血液Bの2次流れが形成される。
【0059】
この結果、斯かる2次流れにより、コーン型インペラ41にスラスト方向の動圧作用が働いてコーン型インペラ41がスムーズに回転すると共に、コーン型インペラ41底部とポンプハウジング37間に於ける血液Bの滞留による血栓形成が防止されることとなる。
【0060】
そして、既述したようにこのコーン型インペラ41の回転時に、磁気軸受ロータ39のスラスト方向(Z方向)と傾き方向(Θ方向,Φ方向)の変位や傾きを磁気軸受85,121が理想的な位置に復元し、また、ラジアル方向(X方向,Y方向)の変位を、磁気軸受85を介して制御装置がフィードバック制御して磁気軸受ロータ39を理想的な位置に復元するため、コーン型インペラ41が安定して回転することとなる。
【0061】
また、DCモータ47の駆動に伴い、磁場変動による銅損と鉄損によってDCモータ47は発熱するが、既述したように本実施形態は、DCモータ47をポンプヘッド35から離間して再利用ユニット33の下部に配置し、更に動力伝達軸105を熱伝導性の低い材料で形成した構造上、ポンプヘッド35内を流下する血液BにDCモータ47の熱が伝達されることがなく、而も、トルク伝達ディスク49は磁気軸受ロータ39と同期して回転するため、ポンプヘッド35近傍で磁場変動が発生することがない。
【0062】
そして、ポンプヘッド35を交換する場合には、再利用ユニット33からポンプヘッド35を取り外して新たなポンプヘッド35を再利用ユニット33に取り付ければよい。
【0063】
このように、本実施形態に係る磁気浮上式血液ポンプ31は、ポンプハウジング37内に組み込まれるコーン型インペラ41を磁気軸受85,121で非接触に支持する構造上、接触式のベアリングでインペラを支持していた従来例に比し耐久性が向上して、ポンプヘッド35の中期間,長期間の使用が可能となった。
【0064】
また、斯様にコーン型インペラ41を磁気軸受85,121で非接触に支持した結果、本実施形態によれば、ベアリング周りの血栓やベアリングによる溶血といった従来の血液ダメージを解消することでき、更に、最下段のコーン41cにウォッシュアウトホール63を設けて血液Bの2次流れを形成したことで、コーン型インペラ41にスラスト方向の動圧作用が働いてコーン型インペラ41がスムーズに回転すると共に、血液Bの滞留による血栓の形成をより確実に防止することができる利点を有する。
【0065】
更に、既述したように本実施形態は、DCモータ47をポンプヘッド35から離間して再利用ユニット33の下部に配置すると共に、動力伝達軸105を熱伝導性の低い材料で形成して、DCモータ47の熱がポンプヘッド35内を流下する血液Bに伝達し難い構造としたため、熱による血液Bの凝固を確実に防止することができる。
【0066】
更にまた、既述したように電磁石51x,51y,53x,53yの電磁軟鉄コア87を焼鈍処理をした純鉄で形成すれば、磁気軸受85のヒステリシス損失が低下して電磁石51x,51y,53x,53yの低発熱化に寄与するため、ポンプヘッド35内を流下する血液Bの凝固を防止することができる。
【0067】
一方、電磁軟鉄コア87を粉体コアで形成すれば、渦電流損失が低下して電磁石51x,51y,53x,53yの低発熱化に寄与すると共に、磁気軸受85から発進制御する電磁力のバンド幅を伸ばすことができるため、磁気軸受ロータ39の振動が低減して溶血防止や血液Bの凝固防止に寄与する利点を有する。
【0068】
加えて、本実施形態によれば、使い捨て部分のポンプヘッド35を真空チャックで再利用ユニット33に固定しているため、心臓手術の術中及び術後に使用している際に、ポンプヘッド35が脱落して不測の事態が発生する虞もない。
【0069】
尚、上記実施形態では、再利用ユニット33へのポンプヘッド35の固定手段として真空チャックを用いたが、ポンプヘッド35の外周面と電磁石取付台95との摩擦を利用してポンプヘッド35の脱落防止を図ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】請求項1の一実施形態に係る磁気浮上式血液ポンプの全体斜視断面図である。
【図2】ポンプヘッドの断面図とその要部拡大断面図である。
【図3】ポンプヘッドの平面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図とその要部拡大断面図である。
【図5】磁気軸受ロータと電磁石の平面図である。
【図6】磁気軸受ロータの斜視断面図である。
【図7】磁気軸受ロータと電磁石の斜視断面図である。
【図8】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの縦断面図である。
【図9】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの縦断面図である。
【図10】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの斜視断面図である。
【図11】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの斜視断面図である。
【図12】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの斜視断面図である。
【図13】磁気軸受ロータと電磁石,トルク伝達ディスクの斜視断面図である。
【図14】従来の使い捨て遠心血液ポンプの概略構成図である。
【図15】従来のコーン型インペラによる血液の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0071】
31 磁気浮上式血液ポンプ
33 再利用ユニット
35 ポンプヘッド
37 ポンプハウジング
39 磁気軸受ロータ
41 コーン型インペラ
41a,41b,41c コーン
43 血液流入口
45 血液流出口
47 モータ
49 トルク伝達ディスク
51x,51y,53x,53y 電磁石
55,57,123 隙間
59,61 血液流下口
63 ウォッシュアウトホール
67,111 ネオジム永久磁石
69,71,113,115 電磁軟鉄リング
73,75,77,79,91,93,117,119 磁極面
83 基台
85,121 磁気軸受
87 電磁軟鉄コア
89 コイル
97 変位センサ
101 モータ軸
125,129 流体隙間
φ,φ1,φ2,φ3 磁束


【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部と側部に血液流入口と血液流出口が形成されたポンプハウジングと、該ポンプハウジング内に回転可能に収容されたインペラとからなる使い捨て式のポンプヘッドと、
前記ポンプヘッドが着脱自在に取り付く再利用ユニットとからなり、
前記インペラは、断面円錐形状に形成された複数枚のコーンが隙間を空けて積層され、最下段のコーンの中央に、血液の2次流れを作るウォッシュアウトホールが上下方向に形成されると共に、最下段部の該コーンに、外周面の上端側と下端側にリング状の磁極面が周方向に形成され、内周面の上端側と下端側に複数の磁極面が内方へ突設された磁性材料からなる円筒状のロータが取り付くコーン型インペラで、
前記再利用ユニットは、前記ポンプハウジングの周りに等間隔で配置され、前記ロータの外周面に形成された磁極面に沿って磁極面が対向配置されてロータとの間で磁気カップリングを発生する3つ以上の磁気軸受用電磁石と、厚さ方向に着磁されたリング状の永久磁石を、上下2枚の磁性材料からなるリング部材で挟み込んで形成され、外周面の上端側と下端側に、前記ロータの内周面に突設した磁極面に対応する複数の磁極面が突設されて該ロータとの間で磁気カップリングを発生するトルク伝達ディスクと、前記ポンプヘッドと離間して配置され、前記トルク伝達ディスクを回転駆動するモータと、ロータのラジアル方向の変位を計測する変位計とを備え、
前記ポンプハウジングは、前記ロータの外形形状に沿って底部が筒状に形成されて、該底部が前記磁気軸受用電磁石とトルク伝達ディスクとの間に着脱自在に取り付くことを特徴とする磁気浮上式血液ポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−106690(P2009−106690A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284766(P2007−284766)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同イノベーション化事業、顕在化ステージにおける委託研究、「磁気浮上BioPumpの顕在化に関する研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】