説明

磁気記録媒体のテクスチャー加工方法

【課題】 磁気記録媒体製造におけるテクスチャー加工において、ディスク基板表面に大きな傷をつけることがなく、例えば平均表面粗さが1nm以下レベルの微細なテクスチャーを均一かつ安定的に付与することを目的とする。
【解決手段】 不織布およびその内部に高分子弾性体(I)が付与されてなるシートの少なくとも片面に極細繊維からなる立毛を有する研磨シートならびに研磨材粒子を用い、式(1)〜(3)を満足する条件下にてテクスチャー加工を行うことを特徴とする磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。
0.01 ≦ R ≦ 0.2 ・・・式(1)
0.01 ≦ D ≦ 0.1 ・・・式(2)
1 ≦ R/D ≦ 5 ・・・・・・式(3)
ただし、R:立毛を構成する極細繊維の平均繊維直径(μm)
D:研磨材粒子の平均粒子径(μm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、例えば磁気ディスク製造におけるテクスチャー加工方法に関するものであり、詳しくは、微細なテクスチャーを安定的に付与することを可能にした磁気記録媒体のテクスチャー加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年加速するコンピューターの高性能化や小型化を可能にしている要因の一つが、磁気記録媒体の小型・大容量化、即ち情報記録の高密度化であるが、これを可能にした技術の一例として非磁性ディスク基板上に記録層として磁性薄膜層を積層した薄膜型磁気ディスク製造技術が挙げられる。デジタル情報分野の需要拡大やデジタル情報機器の低価格化などが追い風となり、企業向けコンピューターだけでなく一般個人向け、即ちパソコンにも、磁気ヘッドと組み合わされた磁気記録媒体(例えば、ハードディスクシステム)等に広く採用され、一般個人の消費生活の中に普及してきている。
【0003】
薄膜磁気ディスクの一般的な製造方法には、磁性薄膜の形成に先立って、その支持面に所望のパターンで溝状の微細な凹凸、即ちテクスチャーを加工形成する工程が重要な工程として含まれている。テクスチャーを形成する目的は、磁気ディスク表面に均一で微細な凹凸を形成することにより、(1)ヘッドクラッシュによる磁気ディスク表面の損傷や、磁気ディスク表面への磁気ヘッドの吸着などの抑制、(2)非磁性の支持面に金属磁性層を形成する際に結晶成長の方向性を制御して記録方向の抗磁力を高める、などの効果をもたせるためである。
【0004】
磁気ディスクに要求されている情報記録密度のさらなる向上やハードディスクシステムの小型化をより進めるためには、テクスチャーのさらなる微細化、即ち凹凸の平均深さに代表される平均表面粗さ(以下ではRaと略記することがある)の精度向上、つまり、より微細なテクスチャーを均一かつ安定的に形成することが重要である。
【0005】
テクスチャー加工用研磨シートとしては、従来はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどのシート基材表面に研磨材粒子とバインダーとからなる研磨層を形成した固定砥粒タイプの研磨シート、あるいは研磨材粒子を遊離砥粒として水溶液などに分散させた懸濁液(以下では研磨用懸濁液あるいは研磨液と略記することがある)を用いてテクスチャー加工を行うような遊離砥粒タイプの研磨シートなどが用いられてきた。
【0006】
これらのテクスチャー加工方法のうち、特に遊離砥粒タイプの研磨シートは研削屑の排除性を高めやすく、また研磨材粒子が水などの液体を媒体として研磨シートの表面と内部とを行き来できるので、固定砥粒タイプに比べると研磨シートの素材や性状の変更などにより直接的に当たりの強さを調節しやすい。従って、遊離砥粒タイプ研磨シートとして植毛布や織編布などをバフィングしてなる研磨用シートが提案されてきた。
【0007】
テクスチャー加工において加工精度を向上させるためには、研磨材粒子を介したディスク基板表面への当たりの強さを最適なレベルに調節することが必要であり、例えば基材として不織布を利用する方法が、構造上クッション性や表面平滑性に優れるなどの理由から近年特に注目され多くの提案がなされてきた。中でも、不織布を構成する繊維の繊度をより細くするという提案は、研磨シート表面の平滑性向上やディスク基板表面への当たりの調節などを目的として種々なされており、直径10μm以下の極細繊維からなる絡合不織布の表面にバフィングによる立毛を形成した研磨シートや、0.11dtex(約1μm)以下の繊維からなる研磨テープ、更には0.55dtex(約2.2μm)以下の親水性繊維のランダムウェブの裏面に非親水性のランダムウェブを接合したテクスチャーテープが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0008】
これらの提案では、何れも繊維径が1μm程度の極細繊維からなるような不織布のみから構成されており、不織布のランダムな構造や繊維の繊度、親・疎水性などの繊維に起因する性質のみを利用するにとどまっていた。従って、研磨材粒子と研磨シートとの親和性不足に起因した研磨材粒子の移動性不足や凝集、あるいは研磨シート表面で作用する繊維の固定性不足に起因した繊維の偏りなどのためか、テクスチャー加工精度としてはRa≧1nmレベルが限界であり、仮にそのレベルの精度での加工に使用すると単位ディスク枚数当たりの加工速度が上げられないなど、本発明が目的とする加工精度での工業的実施には不満のあるものであった。
【0009】
遊離砥粒タイプの研磨シートとして、不織布構造中に繊維を結束・固定するために熱可塑性樹脂などのバインダー成分を含有させた例が開示されている。例えば、合成繊維からなる不織布に繊維と同一組成の成分を含む熱可塑性樹脂を含有させて繊維を強固に接着した研磨布や、熱融着繊維と非熱融着繊維を混在させた不織布にポリウレタンなどの高分子弾性重合体を含浸させた研磨パッドが提案されている(例えば、特許文献4および5参照。)。しかしながら、何れも本発明で使用目的とするテクスチャー加工の前工程であるディスク基板表面の鏡面研磨、あるいは半導体ウェハー表面の鏡面研磨に好適な研磨布の発明である。これらの研磨布発明では、鏡面研磨加工で加工精度を向上させるために、基本的に研磨シートの構造自体をより硬くすることで研磨シート表面の変形を抑制し、また研磨対象への研磨材粒子の当たりを強くしている。また研磨シート表面に樹脂を露出させるような提案では、樹脂自体の硬度を高く設定することにより研磨シート自体からの研削屑の発生を抑制している。従って、当然ながらこのような研磨シートではテクスチャー加工用としては当たりが強すぎるため、所望の加工精度でのテクスチャーは形成できないので、本発明の課題を解決するには根本的に不適なものである。これまで述べたとおり、従来のテクスチャー加工用研磨シートでは、加工精度としてRa≦1nmレベルの表面粗さを達成しつつ、工業的使用における安定性を兼ね備えたテクスチャー加工、即ち加工精度と単位ディスク枚数当たりの加工速度においてバランスのとれたテクスチャー加工を実現するまでには至っていなかった。
【0010】
本出願人らは前記の問題点に鑑みてこれを解決すべく、0.03dtex(約0.55μm)以下の極細繊維からなる極細繊維束が3次元絡合した不織布の該極細繊維絡合空間に高分子弾性体が多孔質状態で存在し、その片面に極細繊維からなる立毛が存在していることを特徴とする磁気記録媒体のテクスチャー加工用研磨シートを提案していた(特許文献6参照)。しかしながら、使用する研磨材粒子によっては、所望の性能を発現することが出来ないケースがあり、更なる改良が必要とされてきた。
【0011】
【特許文献1】特開平9−277175号公報(第2頁、第2欄、第3行−第15行)
【特許文献2】特開平10−188272号公報(第2頁、第2欄、第21行−第28行)
【特許文献3】特開平11−144241号公報(第2頁、第1欄、第47行−第2欄、第5行)
【特許文献4】特開平11−90836号公報(第2頁、第2欄、第9行−第14行)
【特許文献5】特開平11−99478号公報(第2頁、第2欄、第46行−第3頁、第4欄、第6行)
【特許文献6】特開2002−79472号公報(第3頁、第4欄、第15行−第23行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の問題点に鑑みてこれらを解決すべくなされたものであり、磁気記録媒体、例えば磁気ディスク製造におけるテクスチャー加工において、ディスク基板表面に大きな傷をつけることがなく、例えば平均表面粗さが1nm以下レベルの微細なテクスチャーを均一かつ安定的に付与することが可能な磁気記録媒体のテクスチャー加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の課題を達成するために鋭意検討した結果、使用する研磨材粒子の粒子径とテクスチャー加工用に用いる研磨シートに使用する極細繊維からなる立毛の間の関係に顕著で優れた効果を有する領域が存在することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、不織布およびその内部に高分子弾性体(I)が付与されてなるシートの少なくとも片面に極細繊維からなる立毛を有する研磨シートならびに研磨材粒子を用い、式(1)〜(3)を満足する条件下にてテクスチャー加工を行うことを特徴とする磁気記録媒体のテクスチャー加工方法である。
0.01 ≦ R ≦ 0.2 ・・・式(1)
0.01 ≦ D ≦ 0.1 ・・・式(2)
1 ≦ R/D ≦ 5 ・・・・・・式(3)
ただし、R:立毛を構成する極細繊維の平均繊維直径(μm)
D:研磨材粒子の平均粒子径(μm)
【0015】
そして、研磨シートが極細繊維束から構成された不織布からなり、かつ立毛と不織布の境界近傍部に存在する極細繊維束を構成する極細繊維の一部が高分子弾性体(I)によって固着していることが好ましく、極細繊維からなる立毛の平均立毛長が、式(4)を満足することが好ましい。
0.1 ≦ L ≦ 0.4 ・・・式(4)
ただし L:研磨シート表面の平均立毛長(mm)
【0016】
また、研磨シートを構成する極細繊維がポリアミド成分もしくはポリエステル成分からなることが好ましく、極細繊維束密度が50〜1000本/mmの立毛からなる研磨シートを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるテクスチャー加工方法を用いることによって、テクスチャー加工時に研磨材粒子をディスク基板表面とテクスチャー加工用シートの間に効率的に保持できるため、スクラッチと呼ばれる大きなキズ状の溝が発生しにくく、非常に高い加工精度のテクスチャー加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明における磁気記録媒体の基板としては、例えば一般に用いられるアルミニウム合金からなるディスク状の基板などが挙げられ、所定のサイズとした基板を所定の厚さに加工し、表面を鏡面加工した後、例えばNi−P合金、Ni−Cu−P合金などの非磁性金属の無電解メッキ処理などにより5〜20μm程度の膜圧の非磁性層を形成する。
【0019】
本発明における磁気記録媒体のテクスチャー加工は、前記非磁性層を形成したディスク表面に所定の条痕パターンのテクスチャーを所望の精度で付与する公知の加工であり、少なくとも研磨材粒子を遊離砥粒として所定量含むような懸濁液を介してディスク基板表面に研磨シートを押圧することにより研削処理を施す段階を含むような加工であっても良い。即ち、本発明の磁気記録媒体のテクスチャー加工は、研磨液を介して非磁性ディスク表面に研磨シートを押圧することより研削処理工程と所望の精度のテクスチャーを付与する工程を含むテクスチャー加工である。
【0020】
なお、本発明の磁気記録媒体のテクスチャー加工は、固定砥粒を有する研磨シート等によりテクスチャーを付与する粗研削を施した後で研磨液を介してディスク表面に研磨シートを押圧することによりバリやカエリなどの不良部を選択的に仕上げ研削することで所望の精度を得るようなテクスチャー加工でも良い。また、磁気記録媒体のテクスチャー加工用装置は、研磨シートを研磨用パッドとしてディスク基板表面に対して面状に押圧するタイプの装置でも、研磨シートを研磨用エンドレステープとしてディスク基板表面に対して線状に押圧するタイプの装置でもよく、これらの装置を単独で使用してもあるいは併用してもよい。
【0021】
上記磁気記録媒体のテクスチャー加工において、本発明による磁気記録媒体のテクスチャー加工を実施することにより、従来は加工精度と単位ディスク枚数当たりの加工速度とのバランスがとれないなどの理由で工業的には実現しなかったような極めて微細な加工精度領域、例えばRa≦1nmレベルの平均表面粗さの領域のテクスチャーを磁気ディスク基板表面などに安定的に付与することができる。
【0022】
上記テクスチャー加工を施した後、ディスク基板表面にCr等をスパッタリングすることで1〜20nm程度の厚さの下地層を形成し、該下地層上にCo系合金等をスパッタリングすることで5〜100nm程度の厚さの金属磁性層を形成する。さらに、該金属磁性層上に保護層として、通常、アルゴン、ヘリウム等の希ガス雰囲気下でダイヤモンド状、グラファイト状、アモルファス状のカーボンをターゲットとしたスパッタリングにより1〜50nm程度の厚さの炭素質膜を形成することで、大容量ハードディスクシステム等に搭載される薄膜磁気ディスクとする。
【0023】
また、本発明におけるテクスチャー加工で所望の加工精度は、使用する研磨シート、遊離砥粒を含む研磨用懸濁液の調整条件、特に研磨材粒子径や遊離砥粒濃度、研磨液粘度、また加工機器の設定条件、特にディスク周速度(回転数)、研磨シートの送り速度や往復動数(オシレーション振動数)、シリンダの押し付け圧力、単位ディスク当たりの研磨シートの押し付け時間などのテクスチャー加工条件を適宜調整することにより達成することができる。特に用いる研磨シートと研磨材粒子との組合せにより、加工精度は大きく変動する。
【0024】
まず、本発明に使用する研磨材粒子の懸濁液について説明する。本発明で使用される懸濁液は、研磨材粒子、及びこの研磨材粒子の分散媒から構成される。分散媒として、水又は水ベースの水溶液が使用される。水以外に分散媒として使用可能な水ベースの水溶液は、非イオン界面活性剤、有機リン酸エステル、高級脂肪酸アマイド、グリコール系化合物、高級脂肪酸金属塩、植物性油脂アミン塩及びアニオン界面活性剤から選択される一種又は二種以上の添加剤を水に添加した水溶液である。この添加剤の含有量は、懸濁液の全量に対して1〜10質量%の範囲にあることが好ましい。1質量%以上であれば、研磨材粒子が分散媒中に均一に分散し易く、10質量%以下濃度で使用した場合には、研磨材粒子の分散安定性が良好となるとともに、テクスチャー加工時に研磨材粒子が研磨シートの立毛表面に存在しやすい。
【0025】
研磨材粒子としては、粒子径が0.01〜0.1μmの範囲にある単結晶ダイヤモンド粒子、多結晶ダイヤモンド粒子、又はこれら単結晶及び多結晶ダイヤモンド粒子からなるクラスター粒子が使用される。0.01μm以上の粒子径とする場合、テクスチャー加工時に充分な研削能力を発現すること可能となる。また、0.1μm以下の粒子径とする場合、テクスチャー加工時に「スクラッチ」と呼ばれる大きなキズ状の溝が発生する確率が飛躍的に減少する。また、研磨材粒子として、分散媒中でクラスター粒子同士が凝集した凝集体からなる凝集クラスター粒子がさらに使用され得る。凝集クラスター粒子を使用する際においても、1次粒子が前述の粒子径範囲内にある場合には、テクスチャー加工時の印加圧により微粒子化することから、クラスター粒子の粒子径が0.1μmを超えても問題はない。
【0026】
なお、本発明で言う研磨材粒子の平均粒子径とは、調整した懸濁液の透過型電子顕微鏡(TEM)写真から、隣り合う50個の粒子を任意に選び、これらの粒子を球形近似した場合の直径の平均値を言う。
【0027】
研磨材粒子の含有量は、研磨材粒子の懸濁液の全量に対して0.01質量%以上の範囲、好適に0.01〜3質量%の間の範囲、より好適に0.01〜1質量%の範囲にある。0.01質量%以上とする場合、テクスチャー加工時の研磨性能が充分確保できる点で好ましく、また、3質量%以下とする場合懸濁液の分散安定性の点で好ましい。
【0028】
次に、本発明に用いる磁気記録媒体のテクスチャー加工用研磨シートの製造方法について説明する。本発明の磁気記録媒体におけるテクスチャー加工用の研磨シートは、下記(1)〜(4)の工程を順次[但し工程(2)と(3)は順序を逆転させてもよい]実施することで得ることが出来る。
(1)極細化処理により極細繊維(A)からなる極細繊維束を発生するような極細繊維発生型繊維(a)を主体とする不織布を形成する際に、不織布表層部の立毛となる部分を0.2μm以下の極細繊維(B)からなる極細繊維束を発生するような極細繊維発生型繊維(b)で該不織布を形成する工程、
(2)該不織布に高分子弾性体を充填してシートにする工程、
(3)該極細繊維発生型繊維(a)及び(b)を極細繊維束に変換する工程、
(4)該シートの少なくとも片面を研削して平均繊維直径0.2μm以下の極細繊維(B)からなる立毛を形成する工程
なお、(2)と(3)の工程は、本発明の形態を達成しうるような範囲でその順序を入れ替えて実施してもよく、また(1)〜(4)の工程の途中あるいは前後において、本発明の形態を損なわない範囲で親水剤あるいは撥水剤、柔軟剤、などの各種処理剤あるいは添加剤を付与する工程を追加してもよい。
【0029】
上記(1)の工程に用いられる極細繊維発生型繊維(a)は、例えば物理的処理または化学的処理によって、極細繊維(A)からなる極細繊維束を形成可能な繊維であり、また同じく工程(1)に用いられる極細繊維発生型繊維(b)は、同様の処理によって、平均繊維直径0.2μm以下の極細繊維(B)からなる極細繊維束を形成可能な繊維であるが、物理的処理としては、例えばニードルパンチ処理、高速水流などの流体流処理、カレンダー処理などの加熱を伴う圧縮処理、機械的揉み処理などが挙げられ、また化学的処理としては、例えば除去剤により繊維成分の一部を除去する処理や繊維成分を膨潤させて剥離させる処理などがある。
【0030】
本発明において、極細繊維発生型繊維(a)は、極細繊維発生型繊維(b)と同一のものであってもよく、また極細繊維発生型繊維(b)とは相違するものであってもよい。製造のし易さからは、極細繊維発生型繊維(a)と極細繊維発生型繊維(b)を同一の繊維を用い、そして、得られる研磨シートを構成する極細繊維(A)と極細繊維(B)を同一とするのが好ましい。
【0031】
本発明で用いる極細繊維発生型繊維(a)及び極細繊維発生型繊維(b)としては、2種類または3種類以上の繊維形成樹脂からなり、例えば繊維形成樹脂成分相互の接着性を好適なレベルに制御することで、上記の物理的或いは化学的な処理により個々の繊維形成樹脂成分に分割可能なように複数の繊維形成樹脂成分を相互に配列した、いわゆる分割型複合繊維や、除去剤により除去可能な繊維形成樹脂を分散媒成分としてその中に難除去性の繊維形成樹脂を分散成分として島状に配置した、いわゆる海島型繊維などの公知の極細繊維発生型繊維などが好適例として挙げられる。
【0032】
なかでも、海島型繊維は、極細繊維の繊維径をより小さくすることが可能であるため、本発明においてより好適に用いられる。海島型繊維における難除去性の繊維形成樹脂成分(島成分)は1種類の繊維形成樹脂から形成されている必要はなく、2種類以上の繊維形成樹脂から形成されていてもよい。なお、極細繊維発生型繊維(a)および(b)中の各繊維形成樹脂成分は長さ方向に連続していてもよく、あるいは断続的な状態で存在していてもよい。
【0033】
化学的処理における除去剤としては、例えば溶剤、酵素、微生物などを挙げることができるが、中でも有機系溶剤や水系溶剤などの溶剤は除去速度が速く、取り扱い性に優れるので好適に使用される。
【0034】
本発明に用いる研磨シートにおいて、立毛部分を構成する極細繊維(B)として必要な平均繊維直径は0.2μm以下であり、好ましくは0.15μm以下である。下限値に関しては特に限定はないが、製造し易さの点から0.01μm以上である。前述の研磨材粒子を用いる場合、立毛部分を構成する極細繊維(B)の平均繊維直径は、0.2μm以下であれば立毛部分の平滑性、緻密性は十分に高いので、本発明における一応の目安である加工精度Ra≦1nmのレベルのテクスチャー加工を実施することは十分に可能だが、0.2μmを越える太さの場合には、研磨シート表面に存在する立毛繊維の自由度(動きやすさ)が制限されることによりディスク基板表面への当たりが少し強くなり、加工枚数が増えると加工精度が顕著に悪化する傾向が見られる。従って、Ra≦1nmレベルの加工精度領域において、加工精度が加工枚数に影響されにくい平均繊維直径としては0.2μm以下である。また、本発明に用いる研磨シートにおいて、立毛を形成させた面側から厚さ方向に1/3程度までの部分において、立毛部分以外の部分を構成する極細繊維(A)としては、平均繊維直径1μm以下が好ましく、より好ましくは立毛部分を構成する繊維と同等の0.01〜0.2μmである。立毛面から少なくとも厚さ方向に1/3程度までの部分において、極細繊維(A)の平均繊維直径が1μmを越えて太くなると、不織布表面の平滑性、ひいては研磨シートの平滑性が不十分となり、またテクスチャー加工時のディスク基板表面への当たりが強くなりすぎるために、加工精度が低下する。本発明において、好ましくは不織布の表面から裏面に至るまでの不織布を構成する極細繊維束の全てが実質的に0.2μm以下の極細繊維から形成されている場合である。
【0035】
なお、本発明において研磨シートの立毛を構成する極細繊維(A)の平均繊維直径は、研磨シートを厚さ方向にカットした面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、立毛を構成する任意の10箇所の極細繊維束について繊維束内の繊維直径の実測値の平均で求められる。なお、極細繊維(B)の測定方法は特に限定することはないが、例えば、立毛を構成していない極細繊維(A)以外の繊維を確認し、極細繊維(A)と異なる立毛根元近辺部分から厚さ方向に1/3程度までの部分において任意の繊維10箇所の極細繊維束について繊維束内の繊維直径の実測値の平均で求めることも可能である。
【0036】
本発明における研磨シートにおいて、平均繊維直径0.2μm以下という要件を満たすべき部分は少なくとも立毛部分であり、それらの部分においてはSEM観察した極細繊維束について、前記により計算した平均繊維直径が0.2μmを越えるような極細繊維束が実質的に含まれていてはならないし、また平均繊維直径0.15μm以下という好適条件を満たすべき部分は、少なくとも立毛部分であり、より好適には立毛を形成させた面側(表面側)から厚さ方向に1/3程度であり、その部分においてはSEM観察した極細繊維束について、前記により計算した平均繊維直径が0.15μmを越えるような極細繊維束が実質的に含まれていないのが好ましい。
【0037】
また、研磨材粒子と研磨シート表面に存在する極細繊維立毛とは、加工時の押し付け圧力、摩擦抵抗、分子間力などの物理的な力で吸着しており、研削力を保持しつつ、これらの物理的吸着力を上げることが重要となる。テクスチャー加工時の充分な研削能力およびテクスチャリング性能を確保するためには、ディスク基板と研磨シート素材の間隙に特定の研磨材粒子が残存することが重要であり、これは、本発明の式(3)を満足する研磨シート表面に発生させた極細繊維立毛と研磨材粒子の組み合わせにて研磨微粒子を効率的に把持させることで実現できる。立毛を構成する極細繊維(B)の平均繊維直径(R)と研磨材粒子の平均粒子径(D)の関係が1>R/Dの場合には、研磨材粒子に対する極細繊維立毛と研磨材粒子の接触面積が小さいため摩擦抵抗が小さくなり、テクスチャー加工時にディスク基板表面と研磨シート表面間で研磨材粒子の運動性が上がり(極細繊維立毛による研磨材粒子把持性が低下し)、その結果、研削能力を上げるために過度の印圧が必要となるため、ディスク基板表面にスクラッチと呼ばれる大きな傷が発生しやすくなる。また、立毛を構成する極細繊維(B)の平均繊維直径(R)と研磨材粒子の平均粒子径(D)との関係がR/D>5の場合には、研磨材粒子の平均粒子径(D)が小さすぎる場合と立毛を構成する極細繊維(B)の平均繊維直径(R)が大きすぎる場合があるが、研磨材粒子の平均粒子径(D)が小さすぎる場合には、充分な研削能力が得られない。また、立毛を構成する極細繊維(B)の平均繊維直径(R)が大きすぎる場合には研磨シートの平滑性が不十分となり、またテクスチャー加工時のディスク基板表面への当たりが強くなりすぎるために、加工精度が低下する。
【0038】
上記の極細繊維(A)および(B)を構成する樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ポリアミド系共重合体などのポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート系共重合体などのポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン類;ポリアクリロニトリル類;ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系重合体類;ポリ乳酸、乳酸共重合体、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル系重合体類;脂肪族ポリエステルアミド系共重合体類などが挙げられる。
【0039】
上記列挙された繊維形成樹脂の中で、極細繊維成分の好適例としては、耐摩耗性に優れるポリアミド類や、強度や耐摩耗性、弾性に優れるポリエステル類が挙げられる。これらを用いた場合には、繊維形成樹脂成分の耐摩耗性や優れた強度、弾性は研磨シートとした際の加工処理耐久性の向上に効果が期待でき、また繊維形成樹脂成分の親水性は研磨シートとした際に、遊離砥粒として研磨材粒子を含む研磨用懸濁液として好適に用いられる水性スラリー液中の研磨材粒子が凝集しにくくなる、あるいは研磨シート表面から内部への研磨材粒子の移動が円滑になるなどの機能が備わることによりディスク基板表面へスクラッチと呼ばれる大きな傷をつけにくくなる効果が期待できる。とりわけ上記ポリエステル類、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が好ましい。
【0040】
本発明において用いられる上記の極細繊維発生型繊維は、複合紡糸法、混合紡糸法あるいはこれらを適宜組み合わせることにより容易に紡糸することができる。極細繊維発生型繊維が海島型繊維の場合に、除去剤により除去可能な繊維形成樹脂を分散媒成分としては、公知の成分を用いることが可能であり、例えば、ポリエチレンやポリスチレンで代表されるポリオレフィン類やポリビニルアルコール等を用いることが好ましい。
【0041】
また、紡糸性や繊維強度低下、研磨シートとした際の形態、機能を損なわない範囲で、親水剤、帯電防止剤、吸湿剤、導電剤、顔料や染料などの着色剤などの添加剤を繊維形成樹脂内に適宜混合することができる。
【0042】
上記(1)の工程における極細繊維発生型繊維(a)および(b)から不織布を形成する方法としては、例えばカード法により上記の極細繊維発生型繊維からなる繊維ウェブを形成し、その繊維ウェブを複数枚重ねることにより所望の目付とした後、ニードルパンチ処理や水流などの液体流を作用させる処理などの公知の処理によりウェブ内で繊維同士を3次元絡合させる方法が好適な方法として挙げられる。また、繊維ウェブを形成する段階あるいはこれを複数枚重ねる段階で異なる種類の極細繊維発生型繊維、あるいはその繊維ウェブを混合してもよく、平均繊維直径0.2μmを越えるような極細繊維を発生しうる極細繊維発生型繊維を含むような場合にはその繊維が不織布の少なくとも片面(立毛を形成させる面)には実質的に露出しないような条件で3次元絡合化処理を施す必要がある。また、異なる2種類以上の極細繊維発生型繊維から不織布を形成する場合には、発生しうる極細繊維の平均繊維直径が1μm以下のみであっても、少なくとも立毛を形成させる面は実質的に0.2μm以下の極細繊維を発生しうる極細繊維発生型繊維のみから覆われている必要があり、さらに、立毛を形成させる面が1種類の極細繊維発生型繊維のみからなるような不織布がより好ましい形態である。
【0043】
本発明の立毛は、極細繊維束密度がテクスチャー加工時の研磨材粒子の把持量の確保の点から50本/mm以上であることが好ましく、100本/mm以上であることがより好ましい。また、テクスチャー加工時の極細繊維束の絡み合いにて生ずる研磨シート表面の毛玉状物(ピリング)による加工精度の低下を抑制できる点で1000本/mm以下であることが好ましく、500本/mm以下であることがより好ましい。極細繊維束密度を制御とする方法としては、特に限定しないが、1)極細繊維発生型繊維からなる不織布の密度の制御により不織布表面近傍の繊維密度を制御する、2)ニードルパンチのパンチ数を制御することで不織布表面近傍の繊維の配列(方向性)を制御する、などの方法を用いることが可能である。
【0044】
本発明では、不織布を経由して作製される研磨シートを用いることが必須であり、不織布に代えて、極細繊維からなる織布または編布を用いて、本発明のような高分子弾性体との複合シートを形成し、それを研磨シートとして使用しても、研磨シートの平滑性は極細繊維の繊維径ではなく織編布自体の構造によって決定されるため、本発明が目的とするような加工精度は達成できない。これに対して本発明のように繊維がランダムな配向をとるような不織布構造を用いることにより、極細繊維の細さを活かした平滑性を有する研磨シートが形成可能である。また極細繊維が3次元絡合した不織布のバルキーな構造は、構造自体が繊維の硬さや絡合状態に応じたクッション性を有するため、研磨シートを形成したときに研磨用懸濁液中に含まれる研磨材粒子を介したディスク基板表面への当たりを制御することが可能である。
【0045】
上記(1)の工程で極細繊維発生型繊維から不織布を形成した後、上記(2)の工程で不織布に高分子弾性体(I)を付与してシートとする。その付与方法としては、例えば高分子弾性体(I)を溶剤等に分散あるいは溶解した高分子弾性体液を不織布に含浸あるいは塗布した後、加熱乾燥することによって多孔質状態で凝固させる乾式凝固法、あるいは高分子弾性体液を含浸した不織布を高分子弾性体の非溶剤を含む液体に浸漬することによって高分子弾性体(I)を多孔質状態で凝固させる湿式凝固法により、高分子弾性体(I)が上記不織布の繊維絡合構造内に多孔質状態で存在するシートを得る方法等が用いられる。
【0046】
上記(2)の工程において用いられる高分子弾性体(I)は、例えばポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールあるいはポリエステルポリエーテルジオール等から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの芳香族系、脂環族系、脂肪族系のジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネートと、2個以上の活性水素原子を有するようなエチレングリコールやヘキサンジオールなどのジオール類あるいはエチレンジアミンやイソホロンジアミンなどのジアミン類等から選ばれた少なくとも1種類の低分子化合物とを所定のモル比で反応させることにより得られるようなポリウレタンおよびその変性物などが挙げられる。ポリウレタンおよびその変性物以外にも、例えばポリエステルエラストマーやアクリル系エラストマー等を上記(2)の工程において高分子弾性体(I)として使用してもよく、またこれらを混合した弾性体組成物を使用してもよいが、弾性回復性や多孔質状態の形成性等の点から上記のようなポリウレタンが本発明において最も好ましく用いられる。
【0047】
なお、上記高分子弾性体液には、必要に応じて着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、分散剤、発泡剤等の添加剤を配合することができる。また、本発明の磁気記録媒体のテクスチャー加工用研磨シートに占める高分子弾性体(I)の比率は、研磨シートに必要なレベルの弾性回復性を持たせ、また平滑性の高い表面状態を形成するためにも、質量比で10〜70%、好ましくは20〜55%の範囲から選ばれた値が設定される。質量比率の制御方法としては、高分子弾性体液の濃度、不織布質量に対する高分子弾性体液の含浸質量などを適宜設定する方法が挙げられ、本発明では、好ましくは5〜30%程度の濃度の高分子弾性体液を、自然浸透による含浸、およびバー、ナイフ、ロールなどによる圧縮効果で強制的に押し込む含浸を単独あるいは組み合わせて実施し、さらに必要に応じて不織布表面に付着した余分な高分子弾性体液をバー、ナイフ、ロールなどを押し当てることにより除去する工程を追加する。研磨シートに占める高分子弾性体(I)の比率が10%未満の場合には、本発明で必要とするような多孔質状態が形成されにくい。また、研磨シートに占める高分子弾性体の比率が70%を越えると、研磨シート表面に極細繊維が多く露出した状態が得られにくいので、このような比率は本発明では好適には選ばれない。
【0048】
上記(3)の工程においてシートを構成する3次元絡合した極細繊維発生型繊維を極細繊維束にする方法としては、例えば極細繊維となる繊維成分および高分子弾性体(I)にとっては非溶剤であり、かつ極細繊維発生型繊維の除去成分にとっては溶剤または分解剤等となる薬剤によって除去成分を除去するような方法、極細繊維成分自身を溶解あるいは分解する溶剤または分解剤等によって極細繊維成分の一部を減量するような方法などの化学的処理方法や、カレンダー処理などの加熱を伴うような圧縮処理方法、あるいはニードルパンチ、液流による絡合処理方法、機械的な揉み処理方法などの物理的処理方法が挙げられる。中でも、極細繊維発生型繊維として前記の海島型繊維を用い、溶剤などで海成分を除去することにより島成分が極細繊維として残って極細繊維束を形成するような方法が、研磨シート表面近傍に平均繊維直径0.2μm以下の極細繊維(B)を安定して効率よく得られやすく、また前記(2)と(3)の工程をこの順次で実施することにより極細繊維束の大部分が実質的に高分子弾性体(I)によって拘束されない状態を効率よく達成することができ、極細繊維束と高分子弾性体(I)との間に微細な空隙が存在することによって実現しうる懸濁液吸収性を高めることが可能となり、また研磨シート表面から内部への研磨材粒子あるいは研磨屑などの移動を円滑にする点で好適に用いられる。
【0049】
上記(4)の工程におけるシート表面の研削方法としては、バンドナイフを用いたスライス処理あるいはサンドペーパーを用いたバフィング処理等の公知の方法が挙げられるが、これらを単独あるいは適宜組み合わせて実施することによって、シートの少なくとも片面に極細繊維からなる立毛を形成させるのと同時に、研磨シートとして所望のシート厚さや表面平滑性を達成することができ、さらには上記(3)の工程において十分に極細繊維束を形成することのできなかった極細繊維発生型繊維を極細繊維束にするなどの効果も期待できる。
【0050】
なお、サンドペーパーを用いたバフィング処理によってシート表面に極細繊維立毛を発生させる際、バフィング処理前にシート表面に存在する極細繊維(B)を一旦高分子弾性体(I)に固着させた後バフィングすることで、発生する立毛長を制御可能である。すなわち、極細繊維(B)と高分子弾性体(I)の固着が強固であるほど、発生する立毛長は短毛化する。
【0051】
本発明の研磨シートが極細繊維束から構成された不織布からなり、かつ立毛と不織布の境界近傍部に存在する極細繊維束を構成する極細繊維の一部が高分子弾性体(I)によって固着していることが好ましいが、高分子弾性体(I)によって極細繊維束を構成する極細繊維の一部を固着させる方法としては、(1)高分子弾性体(I)と同種の良溶媒を有する高分子弾性体(II)の溶液をバフィング処理する前のシート表面に塗布する方法。(2)高分子弾性体(I)の良溶媒をバフィング処理する前のシート表面に塗布することで高分子弾性体(I)を溶解し、これが乾燥固化する際に極細繊維(B)を固着させる方法。などが挙げられる。高分子弾性体(II)としては、高分子弾性体(I)として使用可能な各種ポリウレタンおよびその変成体、各種エラストマーが使用可能であるが、高分子弾性体(I)と同種または同一であることが固着性を確保できる点で好ましく、さらには処理の簡便性の観点から高分子弾性体(I)の良溶媒を塗布する手法が好ましい。
【0052】
こうして得られる極細繊維の立毛長としては、下式(3)の範囲内にあることが好ましい。0.1mm未満の場合、立毛繊維の外表面積が相対的に小さくなり、把持できる砥粒量が減少するため好ましくなく、0.4mmを越える場合、テクスチャー加工時に長すぎる繊維同士が絡み合い、ピリングと呼ばれる毛玉状になりやすくなり、ディスク基板表面にスクラッチと呼ばれる大きなキズが発生しやすくなるため好ましくない。式(4)の範囲内の立毛長を実現するために、例えば、高分子弾性体(I)としてポリウレタンを使用する場合には、良溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)を1〜20g/mシート表面に塗布し、その後塗布面をバフィング処理する方法が好ましい。塗布する方法は、ナイフコート法、グラビア印刷法など公知の方法が用いられる。
0.1 ≦ L ≦ 0.4 ・・・式(4)
ただし、L:研磨シート表面の平均立毛長(mm)
【0053】
本発明の研磨シートとして好適な厚さは、平滑性やクッション性、形態保持性、テクスチャー加工用装置への装着性などの点から0.2〜1.5mmの範囲にあることが好ましい。また本発明の研磨シートとして好適な見掛け密度は、研磨シート表面から内部への研磨用懸濁液中の研磨材粒子の移動しやすさ、研磨シート自体の平滑性やクッション性、テクスチャー加工時の取り扱い性などの点から0.2〜0.6g/cm3の範囲にあることが好ましい。なお、上記(3)〜(4)の工程の途中あるいは後において、本発明の研磨シートとしての形態、機能を損なわない範囲で、柔軟剤、滑剤、親水化剤、撥水剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、有機溶剤などを塗布または含浸などの公知の方法により付与する工程を必要に応じて追加してもよい。
【0054】
以上のように、上記(1)〜(4)の工程を順次実施することにより、あるいは工程(2)と(3)を逆転させ、かつ工程(3)の前に水溶性樹脂により極細繊維発生型繊維の表面を覆い、そして工程(2)の後で該水溶性樹脂を除去することにより、本発明に使用するテクスチャー加工用の研磨シートを製造することができる。また、好ましくは工程(4)の前に高分子弾性体(I)の良溶媒をシート表面に塗布することで、立毛と不織布の境界近傍部に存在する極細繊維束を構成する極細繊維の一部が高分子弾性体(I)によって固着され、シート表面に存在する立毛長を容易に制御することが出来る。
【0055】
次に、以上により得られるテクスチャー加工用の研磨シートおよび本発明の範囲内の平均粒子径からなる特定の研磨材粒子を含む研磨砥粒懸濁液を使用して、基板上にテクスチャー加工を行う。磁気ハードディスク基板の表面のテクスチャー加工は、磁気ハードディスク基板を回転させ、磁気ハードディスク基板の表面又は両面に研磨砥粒懸濁液を供給し、磁気ハードディスク基板の表面又は両面にテクスチャー加工用テープを押し付けながら送り出すことによって行われる。基板の回転数、該懸濁液の供給量、研磨シートの押し付け圧力については、特に制限は無く所望の条件下にて実施することが可能である。
【0056】
本発明のテクスチャー加工方法によって、磁気記録媒体、例えば磁気ディスク製造におけるテクスチャー加工は、ディスク基板表面に大きな傷をつけることなく、均一かつ微細なテクスチャーを安定的に付与することができ、しかも研磨材粒子との親和性を向上させることで従来は困難であった加工精度領域のテクスチャー加工を工業的に実現することができる。
【0057】
実施例
以下、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明の実施例および比較例における測定値は以下の測定方法により求めたものである。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
(i)厚さ[mm]:直径5cm以上の金属板上に載せた研磨シートを直径1cmの金属板ではさみ、直径1cmの金属板側から240g重/cm2の荷重をかけた場合の研磨シートの厚さを10箇所について測定し、10箇所の測定値を平均することにより厚さを求めた。
(ii)見掛け密度[g/cm3]:研磨シートを10cm角に切り取って上記のように厚さを測定し、その後で質量を測定し、質量をサンプル体積で割ることにより見掛け密度を求めた。
(iii)立毛を構成する極細繊維の平均繊維直径[μm]:研磨シートを厚さ方向にカットした面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、立毛を構成する任意の10箇所の極細繊維束について繊維束内の繊維直径の実測値の平均で求められる。
(iv)研磨シート表面の極細繊維立毛の平均立毛長[mm]:試料を厚さ方向に切断し、表面近傍を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の50本の極細繊維の繊維長(表面近傍の高分子弾性体(I)の最表層部分から繊維の先端まで)を実測し、その平均値を算出した。
(v)立毛を構成する極細繊維束密度[本/mm2]:研磨シート表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、単位mm2あたりの極細繊維束の本数を任意の10箇所測定し、その平均を求めた。
(vi)研磨材粒子の平均粒子径[μm]:調整した研磨材粒子懸濁液の透過型電子顕微鏡(TEM)写真から、任意の50個の粒子を選び、これらの粒子を球形近似した場合の直径に換算しそれらの平均値で求めた。
(vii)表面平均粗さ[nm]:JIS B 0601−1994に準拠して、ディスク基板サンプルの任意の直線上表面10箇所について算術平均粗さを測定し、10箇所の測定値を平均することにより平均表面粗さ(Ra)を求めた。
【実施例1】
【0058】
島成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)を50質量%、海成分として低密度ポリエチレン(LDPE)を50質量%混合して290℃で海島型繊維を溶融紡糸する、いわゆる混合紡糸法により、LDPE成分中にPET成分が島状に約1000個配置された極細繊維発生型繊維を得た。この極細繊維発生型繊維を温水中で延伸し、機械捲縮をかけて51mmにカットしてステープルとした後、カードにかけ、クロスラップ法で繊維ウェブを形成し、次いでこの繊維ウェブを重ねて約2000パンチ/cmのパンチ密度でニードルパンチングしてカレンダーロールでプレスすることで表面の平滑な不織布とした。この不織布に、数平均分子量2000のポリヘキサメチレンカーボネートジオールを主体とした混合ポリマージオールと4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とのモル比1/2.5とエチレングリコール(EG)とを反応させて製造したのポリカーボネート系ポリウレタンの13%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を含浸し、DMF/水混合液の中に浸す湿式凝固法により高分子弾性体を多孔質状態として含有させたシートを形成した後、パークレンにより極細繊維発生型繊維の海成分ポリマーを除去することで極細繊維束を発生させた。片面をバフィングすることで、厚さを0.55mmとした後、反対側の面に、DMF/シクロヘキサノン混合溶媒(混合比率 DMF/シクロヘキサノン=1/4)をグラビア印刷機で20g/m塗布し、その後溶媒塗布面をバフィングして、表面に立毛を有する見掛け密度が0.36g/cm3のテクスチャー加工用の研磨シート1を得た。この研磨シート1における立毛を構成する極細繊維の平均繊維直径およびシート内部に存在する極細繊維の平均繊維直径ともに0.10μmであり、高分子弾性体の質量割合は研磨シートに対して36%であった。また、表面に存在する極細繊維の平均立毛長は、0.3mmであり、研磨シート表面の立毛を構成する極細繊維束密度は、350本/mmであった。また、立毛と不織布の境界近傍部に存在する極細繊維束を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、極細繊維束の外周部を構成する極細繊維の約7割は、DMFにて溶解されたポリウレタン樹脂によって固着されていた。
【0059】
この研磨シートを使用し、平均粒子径0.05μmのダイヤモンドを研磨材粒子の遊離砥粒として含むスラリーの研磨液として使用し、アルミニウム/ニッケルディスク基板表面にテクスチャー加工を合計30枚実施した。テクスチャー加工後のディスク基板から任意に3枚を抜き取って平均表面粗さ(Ra)を評価したところ、それぞれRa=0.3nm,0.2nm,0.3nmであり、安定して0.4nm程度、即ち十分に1.0nm以下のオーダーを達成していることが確認できた。また、テクスチャーライン以外の大きなキズ(スクラッチ)は見られなかった。また、テクスチャー加工後の研磨シート表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により表面状態を評価したところ、シート表面近傍の極細繊維立毛表面に、多数の研磨材粒子が残存している様子が観察され、また加工使用前に比べて研磨材粒子等による研削が進んではいるものの、まだ同様の加工には十分使用可能な状態であった。
【実施例2】
【0060】
島成分として6−ナイロン(Ny)を50質量%、海成分として低密度ポリエチレン(LDPE)を50質量%混合し混合紡糸法により、LDPE成分中にNy成分が島状に約1000個配置された極細繊維発生型繊維を得た。この極細繊維発生型繊維を用いて実施例1と同様の処理を行なうことで、表面に立毛を有する見掛け密度が0.34g/cm3のテクスチャー加工用研磨シート2を得た。この研磨シート2における極細繊維の平均繊維直径は立毛繊維およびシート内部に存在する極細繊維ともに0.10μmであり、高分子弾性体の質量割合は研磨シートに対して35%であった。また、表面に存在する極細繊維の平均立毛長は、0.30mmであり、研磨シート表面の立毛を構成する極細繊維束密度は、330本/mmであった。また、表面近傍の極細繊維束を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、、極細繊維束の外周部を構成する極細繊維の約7割は、DMFにて溶解されたポリウレタン樹脂によって固着されていた。
【0061】
この研磨シート2を使用し、平均粒子径0.05ミクロンのダイヤモンドを研磨材粒子の遊離砥粒として含むスラリーを研磨液として使用して、アルミニウム/ニッケルディスク基板表面にテクスチャー加工を合計30枚実施した。テクスチャー加工後のディスク基板から任意に3枚を抜き取って平均表面粗さ(Ra)を評価したところ、それぞれRa=0.4nm,0.3nm,0.3nmであり、安定して0.4nm程度、即ち十分に1.0nm以下のオーダーを達成していることが確認できた。また、テクスチャーライン以外の大きなキズ(スクラッチ)は見られなかった。また、テクスチャー加工後の研磨シート表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により表面状態を評価したところ、シート表面近傍の極細繊維立毛表面に、多数の研磨材粒子が残存している様子が観察され、また加工使用前に比べて研磨材粒子等による研削が進んではいるものの、まだ同様の加工には十分使用可能な状態であった。
【実施例3】
【0062】
実施例1で得られた研磨シート1を使用し、平均粒子径0.02ミクロンのダイヤモンドを研磨材粒子の遊離砥粒として含むスラリーを研磨液として使用して、アルミニウム/ニッケルディスク基板表面にテクスチャー加工を合計30枚実施した。テクスチャー加工後のディスク基板から任意に3枚を抜き取って平均表面粗さ(Ra)を評価したところ、それぞれRa=0.3nm,0.3nm,0.3nmであり、安定して0.3nm程度、即ち十分に1.0nm以下のオーダーを達成していることが確認できた。また、テクスチャーライン以外の大きなキズ(スクラッチ)は見られなかった。また、テクスチャー加工後の研磨シート表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により表面状態を評価したところ、シート表面近傍の極細繊維立毛表面に、多数の研磨材粒子が残存している様子が観察され、また加工使用前に比べて研磨材粒子等による研削が進んではいるものの、まだ同様の加工には十分使用可能な状態であった。
【0063】
比較例1
実施例1で得られた研磨シート1を使用し、平均粒子径0.5ミクロンのダイヤモンドを研磨材粒子の遊離砥粒として含むスラリーを研磨液として使用して、アルミニウム/ニッケルディスク基板表面にテクスチャー加工を合計30枚実施した。テクスチャー加工後のディスク基板から任意に3枚を抜き取って平均表面粗さ(Ra)を評価したところ、それぞれRa=0.7nm,1.3nm,0.9nmであり、ばらつきが大きく良好なディスクを得ることが出来なかった。また、Raが1.0を超えたディスクの表面を観察したところ、テクスチャーライン以外の大きなキズ(スクラッチ)が1箇所見つかった。また、テクスチャー加工後の研磨シート表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により表面状態を評価したところ、シート表面近傍の極細繊維立毛表面には、研磨材粒子はほとんど観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布およびその内部に高分子弾性体(I)が付与されてなるシートの少なくとも片面に極細繊維からなる立毛を有する研磨シートならびに研磨材粒子を用い、式(1)〜(3)を満足する条件下にてテクスチャー加工を行うことを特徴とする磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。
0.01 ≦ R ≦ 0.2 ・・・式(1)
0.01 ≦ D ≦ 0.1 ・・・式(2)
1 ≦ R/D ≦ 5 ・・・・・・式(3)
ただし、R:立毛を構成する極細繊維の平均繊維直径(μm)
D:研磨材粒子の平均粒子径(μm)
【請求項2】
研磨シートが極細繊維束から構成された不織布からなり、かつ立毛と不織布の境界近傍部に存在する極細繊維束を構成する極細繊維の一部が高分子弾性体(I)によって固着している請求項1に記載の磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。
【請求項3】
極細繊維からなる立毛の平均立毛長が、式(4)を満足する請求項1または2に記載の磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。
0.1 ≦ L ≦ 0.4 ・・・式(4)
ただし L:研磨シート表面の平均立毛長(mm)
【請求項4】
研磨シートを構成する極細繊維がポリアミド成分もしくはポリエステル成分からなる請求項1〜3いずれか1項に記載の磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。
【請求項5】
極細繊維束密度が50〜1000本/mmの立毛からなる研磨シートを用いる請求項1〜4いずれか1項に記載の磁気記録媒体のテクスチャー加工方法。

【公開番号】特開2007−299445(P2007−299445A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124556(P2006−124556)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】