説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】磁性部と非磁性部との境界を磁気的に判別しやすく、磁性部の磁気特性劣化を防ぐことができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板10上に軟磁性層11を形成する工程と、軟磁性層11上に磁性材料からなる記録層14’を形成する工程と、記録層14’上にマスクパターン20’を形成する工程と、マスクパターン20’上から記録層14’に対してイオン照射を行う工程とを含んでおり、イオン照射を行う工程においては、Neイオンより重いXeイオンを照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるディスクリートトラックメディアあるいはパターンドメディアといった磁気記録媒体の製造方法、および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の技術分野においては、高記録密度化を図るのに好ましい媒体として、いわゆるディスクリートトラックメディア(DTM)やパターンドメディア(PM)といった磁気記録媒体が知られている。これらの磁気記録媒体は、磁性材料で形成された記録層に非磁性部が形成されたものであり、たとえば下記の特許文献1〜3に記載されている。
【0003】
このような磁気記録媒体の製造方法としては、たとえば下記の特許文献4に示されるように、イオン照射によって記録層の所々に非磁性部を形成する方法が知られている。この製造方法では、基板上に記録層とフォトレジストによるマスクパターンを形成し、その後、マスクパターン上から記録層の各部にNeイオンを照射している。これにより、イオンが照射された記録層の所々が非磁性部として形成される。このような製造方法によれば、機械的に加工せずとも部分的に非磁性部を有する平坦な記録層を形成することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−71467号公報
【特許文献2】特開2005−166115号公報
【特許文献3】特開2005−293730号公報
【特許文献4】特開2001−250217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の製造方法では、イオン照射に際して比較的軽いNeイオンが用いられる。そのため、マスクパターンで覆われた本来磁性領域となる部分にもイオンが注入されてしまい、磁性部と非磁性部との境界が磁気的に判別しづらくなる難点があり、ひいては磁性部の磁気特性がイオンの注入数に応じて劣化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、磁性部と非磁性部との境界を磁気的に判別しやすく、磁性部の磁気特性劣化を防ぐことができる磁気記録媒体の製造方法、および磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面により提供される磁気記録媒体の製造方法は、基板上に軟磁性層を形成する工程と、上記軟磁性層上に磁性材料からなる記録層を形成する工程と、上記記録層上にマスクパターンを形成する工程と、上記マスクパターン上から上記記録層に対してイオン照射を行う工程とを含んでおり、上記イオン照射を行う工程においては、Neイオンより重い希ガスイオンを照射することを要件としている。
【0009】
好ましくは、上記希ガスイオンは、Arイオン、Krイオン、またはXeイオンである。
【0010】
好ましくは、上記軟磁性層と上記記録層との間に、上記希ガスイオンより重い元素からなるイオン制御層を形成する工程をさらに含んでいる。
【0011】
好ましくは、上記イオン制御層を構成する元素はPtである。
【0012】
本発明の第2の側面により提供される磁気記録媒体は、基板と、上記基板上に形成された軟磁性層と、上記軟磁性層上に形成され、Arイオン、Krイオン、またはXeイオンより重い元素からなるイオン制御層と、上記イオン制御層上に形成され、磁性材料からなる記録層と、を有することを要件としている。
【0013】
好ましくは、上記イオン制御層を構成する元素はPtである。
【0014】
このような製造方法および磁気記録媒体によれば、マスクパターンで覆われた本来磁性部となる部分に対して照射されたイオンが侵入しにくくなるので、磁性部の磁気特性劣化を防ぐことができ、ひいては磁性部と非磁性部との境界を磁気的に判別しやすくすることができる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
図1〜4は、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法についての一実施形態を示している。図1および図2に示すように、磁気記録媒体1は、基板10、軟磁性層11、中間層12(図1では省略)、イオン制御層13(図1では省略)、記録層14、および保護膜15(図1では省略)を含む積層構造からなり、パターンドメディアとして構成されたものである。
【0018】
基板10は、主に、磁気記録媒体1の剛性を確保するための部位であり、たとえばSiO2よりなる。なお、基板材料としては、その他にアルミニウム合金、ガラス、または樹脂を適用してもよい。
【0019】
軟磁性層11は、記録時に作用する磁気ヘッドからの磁束を再び磁気ヘッドに還流させる磁路を効率よく形成するためのものである。軟磁性層11の厚さは、たとえば10〜200nmである。軟磁性層11と基板10との間には、密着性をもたせるためにCrTiなどの密着層が設けられている(図示略)。このような軟磁性層11は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有する軟磁性材料で構成され、たとえばCoZrNbよりなる。軟磁性材料としては、その他にFeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、FeCoZrNb、あるいはFeCo−AlOを適用してもよい。
【0020】
中間層12は、軟磁性層11とイオン制御層13との間に形成されている。中間層12の厚さは、たとえば5nm程度である。このような中間層12は、たとえばRuよりなる。
【0021】
イオン制御層13は、中間層12と記録層14との間に形成されている。このイオン制御層13は、たとえば中間層12と同程度の厚みでPtよりなる。このようなイオン制御層13は、製造方法において大きな役割を果たす。これについては後述する。
【0022】
記録層14は、図2に示すように、磁気情報が記録可能な磁性部14Aと磁性をほとんどもたない非磁性部14Bとを有する。磁性部14Aは、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が上向きあるいは下向きとなる記録部分に相当する。非磁性部13Bは、保磁力(Hc)あるいは飽和磁化の値(Ms)が0となる非磁性の磁気特性を有し、この部分には磁気記録をすることができない。記録層14は、連続膜体であり、磁性部14Aおよび非磁性部14Bは共に同一の材料よりなる。ただし、非磁性部14Bは、磁性をもたない材質に変質した部分となっている。本実施形態の記録層14を構成する材料としては、たとえばCoPt3からなる。記録層14の厚さは、5〜20nm程度である。
【0023】
保護膜15は、軟磁性層11や記録層14などを外界から物理的および化学的に保護するための部位であり、たとえば、SiN、SiO2、またはダイヤモンドライクカーボンよりなる。保護膜15の露出面は、磁気記録媒体1の記録面をなし、この面には、潤滑剤が塗布される。
【0024】
図3および図4は、上記磁気記録媒体1の製造方法を表す。本方法は、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一実施形態に相当する。
【0025】
本方法においては、まず、図3(a)に示すように、基板10上に軟磁性層11、中間層12、イオン制御層13、および記録層14’を順次形成する。基板10としては、SiO2の基板を用いる。基板10の厚みは0.635mm、外径はφ65mm、内径はφ20mmであり、全体形状をドーナツ状としている。軟磁性層11は、たとえばスパッタリング法により形成される。記録層14’は、上述した磁性部14Aおよび非磁性部14Bが形成される前の中間生成状態である。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、記録層14’の表面全体にレジスト膜20を形成する。レジスト膜20は、たとえばメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)よりなり、膜厚40nm程度に塗布することで形成される。このレジスト膜20は、次の工程を経てマスクパターン20’(図4(a)参照)となる。
【0027】
レジスト膜20の形成後、図3(c)に示すように、スタンパ30の凹凸面30Aをレジスト膜20に当接させる。このとき、スタンパ30は、たとえば加熱および加圧される。このようなスタンパ30は、スタンパ本体30aと凹凸面30Aをなす凸部30bとからなる。凸部30bは、上述の非磁性部13Bに対応したパターン形状を有し、凸部30bの先端は、記録層14’に接した状態とされる。
【0028】
その後、図4(a)に示すように、室温まで冷却することでレジスト膜20を硬化させた後、スタンパ30の凸部30bをレジスト膜20から離脱させる。これにより、スタンパ30の凸部30bに応じて所々に記録層14’を露出させた状態のマスクパターン20’が形成される。このマスクパターン20’は、スタンパ30とは逆の転写パターンからなり、スタンパ30の凸部30bがマスクパターン20’の開口部になる。つまり、マスクパターン20’は、上述の磁性部14Aに対応した転写パターンとなる。スタンパ30の凸凹パターンは、記録領域となる磁性部14Aに対応する部分が凹部となり、サーボ領域に対応する部分も凹部となる。この凹部をマスクパターン20に転写することにより、マスクパターン20’としては凸部が残り、その余の部分が開口部として形成される。このようなマスクパターン20’が記録層14’の表面全体に形成される。
【0029】
次に、図4(b)に示すように、マスクパターン20’の開口部から露出した記録層14’の所々にイオンを照射する。照射されるイオンは、Arなどに比べて比較的重い希ガスイオンが用いられ、たとえばXeイオンが適用される。イオン照射前における記録層14’の磁気特性は、たとえば保磁力Hc=6kOe、Ms=320emu/cc程度であったが、イオン照射によって飽和磁化Msが15emu/cc程度まで減少した。これにより、記録層14’においてイオンが照射された部分が非磁性部14Bとなる一方、マスクパターン20’によりイオン照射を受けなった部分が磁性部14Aとなり、これら磁性部14Aおよび非磁性部14Bを含む記録層14が形成される。
【0030】
このようなイオン照射時には、記録層14’を通ってさらに下方へとイオンが進もうとするが、記録層14’の下方に形成されたイオン制御層13が軟磁性層11に対してイオンの侵入を防ぐ役割を果たす。これにより、軟磁性層11には、不要なイオンがほとんど注入されることなく、軟磁性層11の磁気特性劣化を防ぐことができる。
【0031】
その後、図4(c)に示すように、たとえば酸素プラズマを利用して行うアッシングにより、マスクパターン20’を記録層14上から除去し、さらにその後、スパッタリングにより記録層14の表面に例えばダイヤモンドライクカーボンの保護膜15を形成する。こうして概ね平坦に形成された記録層14の表面には、DLC保護膜などによる保護膜15と潤滑剤が3nm程度に塗布される。保護膜15および潤滑剤は、磁気ヘッドとの擦れによる摩耗を抑える役割を果たす。これにより、マスクパターン20’が完全に除去され、図2に示すような磁気記録媒体1の完成品が得られる。
【0032】
図5〜7は、マスクパターンの開口部近傍におけるイオン分布をシミュレーションに基づいて説明するための図である。
【0033】
まず、図5に示すように、本発明者らは、CrPt3からなる記録層140の表面に開口部200Aをもつマスクパターン200が存在し、この開口部200Aの上方から記録層140に向けて各種のイオンを照射する場合のシミュレーションを行った。照射するイオンは、N、Ne、Ar、Kr、Xeである。このシミュレーションでは、2次元の断面内におけるイオン分布を調べるため、記録層140の表面上で開口部200Aの中心を原点とし、記録層140の厚み方向をz方向および図中の左右方向をx方向としている。開口部200Aの幅は、原点からx方向に±aの寸法をとり、この幅寸法aを10nmとする。
【0034】
このとき、開口部200A近傍におけるイオン分布は、x方向の相補誤差関数erfc(x)を用いて次の数式で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
所定エネルギをもつ各種のイオンにつき、いわゆるTRIM(TRansport of Ion in Matter)コードで求めた数値を上記の数式に代入することでシミュレーションを行った。図6には、そのシミュレーション結果を示す。同図においては、マスクパターン200が存在する領域と開口部200Aとの境界がx=−10nmの位置に相当する。イオン数は、x方向の各位置におけるイオン数をz方向に積分して求めた値、すなわちイオンの深さを無視した積算値である。この図6に示すシミュレーション結果から明らかなように、照射するイオンの原子量が大きくなるほど、マスクパターン200で覆われた磁性部となる領域にイオンが入りにくいことがわかる。これは、比較的重いイオンでは記録層140の内においてで運動エネルギをより奪われやすく、動く距離が短くなるためと考えられる。
【0037】
図7には、各種のイオン分布と磁気特性との関係を示している。同図に示すように、イオン数については、原子量が大きくなるほど大きく変化する傾向にあり、それに応じて磁気特性を示す飽和磁化Msも急激に変化しやすい傾向となることがわかる。また、同図から磁化遷移幅を求める。磁化遷移幅とは、飽和磁化Msが10%から90%まで変化する際の幅である。この磁化遷移幅について、Nでは19.3nm、Neでは12.1nm、Arでは7.1nm、Krでは4.6nm、Xeでは3.3nmとなる。磁性部の最小寸法をたとえば12nm×12nm程度とした場合、磁化遷移幅としては10nmより小さいことが望ましい。そのため、照射イオンとしては、磁化遷移幅が10nmより小さくなるAr、Kr、およびXeが好ましい。
【0038】
したがって、本実施形態のようにKrを照射する製造方法によれば、マスクパターン20で覆われた本来磁性部14Aとなる部分に対して照射されたXeイオンが侵入しにくくなるので、磁性部14Aの磁気特性劣化を防ぐことができる。また、イオン照射時には、磁化遷移幅が比較的小さく形成されるので、磁性部14Aと非磁性部14Bとの境界付近に明確な磁化コントラストが付きやすく、ひいては良好な記録再生特性を得ることができる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0040】
たとえば、イオン制御層は、中間層と軟磁性層との間に形成するようにしてもよい。記録層の膜厚や形成方法については、各請求項に記載した範囲で適当に設計変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明により製造される磁気記録媒体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す磁気記録媒体の拡大断面図である。
【図3】図2に示す磁気記録媒体の製造方法の工程図である。
【図4】図3の後に続く工程図である。
【図5】x−z方向のイオン分布の説明図である。
【図6】x方向のイオン分布の説明図である。
【図7】イオン分布と磁気特性との関係を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 磁気記録媒体
10 基板
11 軟磁性層
13 イオン制御層
14 記録層
20,20’ マスクパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に軟磁性層を形成する工程と、
上記軟磁性層上に磁性材料からなる記録層を形成する工程と、
上記記録層上にマスクパターンを形成する工程と、
上記マスクパターン上から上記記録層に対してイオン照射を行う工程とを含んでおり、
上記イオン照射を行う工程においては、Neイオンより重い希ガスイオンを照射することを特徴とする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
上記希ガスイオンは、Arイオン、Krイオン、またはXeイオンである、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
上記軟磁性層と上記記録層との間に、上記希ガスイオンより重い元素からなるイオン制御層を形成する工程をさらに含んでいる、請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
上記イオン制御層を構成する元素はPtである、請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
基板と、
上記基板上に形成された軟磁性層と、
上記軟磁性層上に形成され、Arイオン、Krイオン、またはXeイオンより重い元素からなるイオン制御層と、
上記イオン制御層上に形成され、磁性材料からなる記録層と、
を有することを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項6】
上記イオン制御層を構成する元素はPtである、請求項5に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−205777(P2009−205777A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49186(P2008−49186)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】