説明

磁気記録媒体及び磁気記録再生装置

【課題】S/N比を大幅に向上させることができ、また熱揺らぎ特性、記録特性を向上させることによって、更なる高記録密度化を可能とした磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】少なくとも非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層4とを積層してなる磁気記録媒体において、垂直磁性層4を2層以上の磁性層4a,4bから構成し、当該磁性層4a,4bの間にFeと非磁性材料とを含む合金層7を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを積層してなる磁気記録媒体、並びにそのような磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(HDD)は、現在その記録密度が年率50%以上で増えており、今後もその傾向は続くと言われている。それに伴って高記録密度化に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。
【0003】
現在、市販されている磁気記録再生装置に搭載されている磁気記録媒体は、磁性膜内の磁化容易軸が主に垂直に配向した、いわゆる垂直磁気記録媒体である。垂直磁気記録媒体は、高記録密度化した際にも、記録ビット間の境界領域における反磁界の影響が小さく、鮮明なビット境界が形成されるため、ノイズの増加が抑えられる。しかも高記録密度化に伴う記録ビット体積の減少が少なくて済むため、熱揺らぎ効果にも強い。このため、近年大きな注目を集めており、垂直磁気記録に適した媒体の構造が提案されている。
【0004】
また、磁気記録媒体の更なる高記録密度化という要望に応えるべく、垂直磁性層に対する書き込み能力に優れた単磁極ヘッドを用いることが検討されている。このような単磁極ヘッドに対応するために、記録層である垂直磁性層と非磁性基板との間に、裏打ち層と称される軟磁性材料からなる層を設けることにより、単磁極ヘッドと磁気記録媒体との間の磁束の出入りの効率を向上させた磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
しかしながら、上述した裏打ち層を単に設けた磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置では、記録再生時の記録再生特性や、熱揺らぎ耐性、記録分解能において満足できるものではなく、これらの特性に優れた磁気記録媒体が要望されている。
【0006】
とりわけ記録再生特性として重要な再生時における信号とノイズの比(S/N比)を大きくする高S/N化と、熱揺らぎ耐性の向上との両立は、これからの高記録密度化においては必須事項である。しかしながら、この2項目は相反する関係を有しているため、一方を向上させれば、一方が不充分となり、高レベルでの両立は重要な課題となっている。
【0007】
このような課題を解決するために、3層の磁性層を、非磁性層等を用いてAFC(アンチ・フェロ・カップリング)結合させることにより、合成Mrt並びにPW50の低下という長所を享受しながら、S/N比の低下を起こさないことを特徴とする磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0008】
具体的に、この特許文献1には、基板と、該基板上に設けられ、残留磁化Mr、厚さt、及び残留磁化・厚さ積Mrtを有する第1下部強磁性層と、該第1下部強磁性層上に設けられた強磁性結合層と、該強磁性結合層上に設けられ、Mrt値を有する第2下部強磁性層と、該第2下部強磁性層上に設けられた反強磁性結合層と、該反強磁性結合層上に設けられ、前記第1及び第2下部強磁性層のMrt値の合計よりも大きなMrt値を有する上部強磁性層とを有することを特徴とする磁気記録媒体が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、熱安定性を損ねることなく記録容易性の向上が可能な垂直磁気記録媒体を提供するため、少なくとも非磁性基体の上に、軟磁性裏打ち層、下地層、及び2層の磁気記録層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体において、グラニュラー構造を有する第1の磁気記録層と第2の磁気記録層の間に、Fe、Ru等を用いた結合層を配置することが提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−276410号公報
【特許文献2】特開2008−287853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、磁気記録媒体に対する高記録密度化の要求は留まることがなく、磁気記録媒体には今まで以上に記録再生特性を高めること、並びに熱揺らぎ特性の向上が求められている。このような要求に応えるためには、上記特許文献1、2に記載されているように、磁性層を多層化し、また多層化した磁性層をAFCさせることが考えられる。しかしながら、磁化反転の容易化には限界があり、今後の磁気記録媒体の高記録密度化においてはOW(OverWrite)特性(記録特性)の低下、S/Nの悪化が問題となってきている。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、S/N比を大幅に向上させることができ、また熱揺らぎ特性、記録特性を向上させることによって、更なる高記録密度化を可能とした磁気記録媒体、並びにそのような磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、少なくとも非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを積層してなる磁気記録媒体において、垂直磁性層を2層以上の磁性層から構成し、当該磁性層の間にFeと非磁性材料とを含む合金層を配置することによって、フェロ結合、アンチフェロ結合した磁性層の磁化反転を起こし易くできることを見出した。
【0014】
また、本発明者の検討によると、これは、Feと非磁性材料とを含む合金層を設けることにより、磁性層間の反転エネルギーがより伝わり易くなり、磁性層間の結合力が強まり、磁性層の磁化反転がよりスムーズになること、また、Feは強磁性であるため磁気ヘッドからの磁界を磁性層に引き込む効果があり、Feと非磁性材料とを含む合金層を設けることにより、磁性層間に配置された当該合金層によるスペーシングロスを低減する効果があることに起因すると考えられる。
【0015】
本発明者は、以上のような知見に基づいて、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 少なくとも非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを積層してなる磁気記録媒体であって、
前記垂直磁性層を2層以上の磁性層から構成し、当該磁性層の間にFeと非磁性材料とを含む合金層を配置したことを特徴とする磁気記録媒体。
(2) 前記非磁性材料が、Ru、Re、Ti、Y、Hf、Znの中から選ばれる何れか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
(3) 前記合金層は、Feを30〜70原子%、非磁性材料を30〜70原子%の範囲で含むことを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体。
(4) 前記磁性層を構成する結晶粒子が、前記配向制御層を構成する結晶粒子と共に、厚み方向に連続した柱状晶を形成していることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
(5) 前記垂直磁性層が、グラニュラー構造を有する磁性層を含むことを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
(6) 前記グラニュラー構造を有する磁性層に接して前記合金層が配置されていることを特徴とする前項(5)に記載の磁気記録媒体。
(7) 前記合金層を挟んだ前記基板側にグラニュラー構造の磁性層が、前記基板とは反対側に非グラニュラー構造の磁性層が配置されていることを特徴とする前項(4)〜(6)の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
(8) 前項(1)〜(7)の何れか一項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対する情報の記録再生を行う磁気ヘッドとを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、磁気記録媒体のS/N比を大幅に向上させることができ、また熱揺らぎ特性、記録特性を向上させることができるため、更なる高記録密度化を可能とした磁気記録媒体、並びにそのような磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す磁気記録媒体の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体及び磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らないものとする。
【0019】
(磁気記録媒体)
本発明を適用した磁気記録媒体は、例えば図1に示すように、非磁性基板1の上に、軟磁性下地層2と、配向制御層3と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑層6とを順次積層した構造を有している。
【0020】
このうち、軟磁性下地層2と配向制御層3とが下地層を構成している。また、図2に拡大して示すように、垂直磁性層4を少なくとも2層の磁性層4a,4bで構成し、これら磁性層4a,4bの間に、Feと非磁性材料とを含む合金層7を配置した構造を有している。すなわち、この垂直磁性層4は、非磁性基板1側から順に、下層の磁性層4aと、合金層7と、上層の磁性層4bとを積層した構造を有している。
【0021】
本発明では、このような構成を採用することにより、磁気記録媒体のS/N比を大幅に向上させることができ、また熱揺らぎ特性、記録特性を向上させることが可能である。
【0022】
すなわち、本発明を適用した磁気記録媒体では、2層の磁性層4a,4b間に配置されたFeと非磁性材料とを含む合金層7によって、これらの磁性層4a,4bをフェロ結合、アンチフェロ結合させ、磁性層4a,4bの磁化反転を起こし易くしている。
【0023】
また、Feと非磁性材料とを含む合金層7を配置することにより、磁性層4a,4b間の反転エネルギーがより伝わり易くなり、この磁性層4a,4b間の結合力が強まり、磁性層4a,4bの磁化反転がよりスムーズとなる。
【0024】
さらに、Feは強磁性であるため、磁気ヘッドからの磁界を磁性層4a,4bに引き込む効果がある。このため、Feと非磁性材料とを含む合金層7を設けることにより、この磁性層4a,4b間に配置された当該合金層7によるスペーシングロスを低減することができる。
【0025】
また、本発明を適用した磁気記録媒体では、上記非磁性材料として、Ru、Re、Ti、Y、Hf、Znの中から選ばれる何れか1種又は2種以上を含む合金層7を用いることが好ましい。また、上記合金層7は、Feを30〜70原子%、非磁性材料を30〜70原子%の範囲で含むことが好ましい。
【0026】
また、本発明を適用した磁気記録媒体では、上記垂直磁性層がグラニュラー構造を有する磁性層を含むことが好ましい。また、このグラニュラー構造を有する磁性層に接して上記合金層が配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明を適用した磁気記録媒体では、このような構造を採用することにより、磁性層4a,4bの磁化反転をよりスムーズなものとすることが可能となり、また合金層7によるスペーシングロスを低減する効果をより高めることが可能である。
【0028】
また、Feと非磁性材料とを含む合金層7は、このFeと非磁性材料とを積層した複層構造とした場合、両層は非常に薄いため(共に1nm以下)、両層が明確に分離されずに単層として検出される可能性がある。一方、この合金層7をFeと非磁性材料とを含む単層構造とした場合には、上述した複層構造とする場合よりも生産性が高まるだけでなく、相互拡散を誘発する複層構造よりも単層構造とした方がFeと非磁性材料とが複合的に作用し、上記合金層7による特性が安定すると考えられる。
【0029】
また、本発明を適用した磁気記録媒体では、合金層7を挟んだ非磁性基板1側の磁性層4aをグラニュラー構造とし、保護層5側の磁性層4bを、酸化物を含まない非グラニュラー構造とすることが好ましい。このような構成とすることにより、磁気記録媒体の熱揺らぎ特性、記録特性(OW)、S/N比等の各特性の制御・調整をより容易に行うことが可能となる。
【0030】
なお、本発明では、上記垂直磁性層4を3層以上の磁性層で構成することも可能である。例えば、グラニュラー構造の磁性層4aを2層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層4bを設けた構成とし、また、酸化物を含まない磁性層4bを2層構造として、グラニュラー構造の磁性層4aの上に設けた構成とすることができる。
【0031】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体の各構成について具体的に説明する。
非磁性基板1としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えば、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0032】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0033】
非磁性基板1は、その平均表面粗さ(Ra)が2nm(20Å)以下、好ましくは1nm以下であるとことが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0034】
また、非磁性基板1は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層2と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。この場合、非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に密着層を設けることが好ましく、これにより、これらを抑制することが可能となる。なお、密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(30Å)以上であることが好ましい。
【0035】
軟磁性下地層2は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするために、また情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられている。この作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0036】
軟磁性下地層2としては、例えば、Feや、Ni、Coなどを含む軟磁性材料を用いることができる。具体的な軟磁性材料としては、例えば、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど。)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど。)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど。)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど。)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど。)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど。)、FeMg系合金(FeMgOなど。)、FeZr系合金(FeZrNなど。)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
【0037】
また、軟磁性下地層2としては、Feを60at%(原子%)以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、又は微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
【0038】
その他にも、軟磁性下地層2としては、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo等のうち少なくとも1種を含有し、アモルファス構造を有するCo合金を用いることができる。この具体的な材料としては、例えば、CoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを好適なものとして挙げることができる。
【0039】
軟磁性下地層2の保磁力Hcは、100(Oe)以下(好ましくは20(Oe)以下。)とすることが好ましい。なお、1Oeは79A/mである。この保磁力Hcが上記範囲を超えると、軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0040】
軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bsは、0.6T以上(好ましくは1T以上)とすることが好ましい。このBsが上記範囲未満であると、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0041】
また、軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bs(T)と軟磁性下地層2の層厚t(nm)との積Bs・t(T・nm)は、15(T・nm)以上(好ましくは25(T・nm)以上)であることが好ましい。このBs・tが上記範囲未満であると、再生波形が歪みを持つようになり、OW特性が悪化するため好ましくない。
【0042】
軟磁性下地層2は、2層の軟磁性膜から構成されており、2層の軟磁性膜の間にはRu膜を設けることが好ましい。Ru膜の膜厚を0.4〜1.0nm、又は1.6〜2.6nmの範囲で調整することで、2層の軟磁性膜がAFC構造となり、このようなAFC構造を採用することで、いわゆるスパイクノイズを抑制することができる。
【0043】
軟磁性下地層2の最表面(配向制御層3側の面)は、この軟磁性下地層2を構成する材料が、部分的又は完全に酸化されて構成されていることが好ましい。例えば、軟磁性下地層2の表面(配向制御層3側の面)及びその近傍に、軟磁性下地層2を構成する材料が部分的に酸化されるか、若しくは上記材料の酸化物を形成して配されていることが好ましい。これにより、軟磁性下地層2の表面の磁気的な揺らぎを抑えることができるため、この磁気的な揺らぎに起因するノイズを低減して、磁気記録媒体の記録再生特性を改善することができる。
【0044】
また、軟磁性下地層2上に形成される配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善することができる。このような材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0045】
例えば、Ni系合金であれば、Niを33〜96at%含む、NiW合金、NiTa合金、NiNb合金、NiTi合金、NiZr合金、NiMn合金、NiFe合金の中から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることが好ましい。また、Niを33〜96at%含み、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cのうち少なくとも1種又は2種以上を含む非磁性材料であってもよい。この場合、配向制御層3としての効果を維持し、磁性を持たない範囲とするため、Niの含有量は33at%〜96at%の範囲とすることが好ましい。
【0046】
配向制御層3の厚みは、多層の場合は合計の厚みで、5〜40nmとすることが好ましく、より好ましくは8〜30nmである。配向制御層3の厚みが上記範囲にあるとき、垂直磁性層4の垂直配向性が特に高くなり、且つ記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離を小さくすることができるため、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
【0047】
これに対して、配向制御層3の厚みが上記範囲未満であると、垂直磁性層4における垂直配向性が低下し、記録再生特性および熱揺らぎ耐性が劣化する。一方、配向制御層3の厚みが上記範囲を超えると、垂直磁性層4の磁性粒子径が大きくなり、ノイズ特性が劣化するおそれがあるため好ましくない。また、記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が大きくなるため、再生信号の分解能や再生出力の低下することになる。
【0048】
配向制御層3の表面形状は、垂直磁性層4及び保護層5の表面形状に影響を与えるため、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくして、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを低くするためには、配向制御層3の表面平均粗さRaを2nm以下とすることが好ましい。この配向制御層3の表面平均粗さRaを2nm以下とすることによって、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくし、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くし、記録密度を高めることができる。
【0049】
また、配向制御層3の成膜用のガスには、酸素や窒素などを導入してもよい。例えば、成膜法としてスパッタ法を用いる場合には、プロセスガスとしては、アルゴンに酸素を体積率で0.05〜50%(好ましくは0.1〜20%)程度混合したガス、アルゴンに窒素を体積率で0.01〜20%(好ましくは0.02〜10%)程度混合したガスが好適に用いられる。
【0050】
また、配向制御層3は、酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物中に金属粒子が分散した構造であってもよい。このような構造とするためには、酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO、Al、Ta、Cr、MgO、Y、TiOなど、金属窒化物として、例えば、AlN、Si、TaN、CrNなど、金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiCなどをそれぞれ用いることができる。さらに、例えば、NiTa−SiO、RuCo−Ta、Ru−SiO、Pt−Si、Pd−TaCなどを用いることができる。
【0051】
配向制御層3中の酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物の含有量としては、合金に対して、1mol%以上12mol%以下であることが好ましい。配向制御層3中の酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物の含有量が上記範囲を超える場合、金属粒子中に酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物が残留し、金属粒子の結晶性及び配向性を損ねるほか、配向制御層3の上に形成された磁性層の結晶性及び配向性を損ねるおそれがあるため好ましくない。また、配向制御層3中の酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物の含有量が上記範囲未満である場合、酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物の添加による効果が得られないため好ましくない。
【0052】
また、配向制御層3と垂直磁性層4の間には、非磁性下地層8を設けることが好ましい。配向制御層3直上の垂直磁性層4の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。この初期部の乱れた部分を非磁性下地層8で置き換えることで、ノイズの発生を抑制することができる。
【0053】
非磁性下地層8は、Coを主成分とし、さらに酸化物を含んだ材料からなることが好ましい。Crの含有量は、25at%(原子%)以上50at%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0054】
また、非磁性下地層8は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。さらに、CoCr−SiO、CoCr−TiO、CoCr−Cr−SiO、CoCr−TiO−Cr、CoCr−Cr−TiO−SiOなどを好適に用いることができる。また、結晶成長の観点からPtを添加してもよい。
【0055】
非磁性下地層8の厚みは、0.2nm以上3nm以下であることが好ましい。3nmの厚さを超えると、Hc及びHnの低下が生じるために好ましくない。
【0056】
磁性層4aは、Coを主成分とし、さらに酸化物41を含んだ材料からなり、この酸化物41としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、磁性層4aは、これらの酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0057】
磁性層4aは、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42が分散している、いわゆるグラニュラー構造を有することが好ましい。また、磁性粒子42は、図2に拡大して示すように、下層の磁性層4a、合金層7、上層の磁性層4bを上下に貫いた柱状構造を形成していることが好ましい。このような構造を有することにより、磁性層4aの磁性粒子42の配向及び結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)を得ることができる。
【0058】
このような構造を得るためには、含有させる酸化物41の量及び磁性層4aの成膜条件が重要となる。すなわち、酸化物41の含有量としては、磁性粒子42を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは6mol%以上13mol%以下である。
【0059】
磁性層4a中の酸化物41の含有量として上記範囲が好ましいのは、この磁性層4aを形成した際、磁性粒子42の周りに酸化物41が析出し、磁性粒子42の孤立化及び微細化が可能となるためである。一方、酸化物41の含有量が上記範囲を超えた場合には、酸化物41が磁性粒子42中に残留し、磁性粒子42の配向性及び結晶性を損ね、更には磁性粒子42の上下に酸化物41が析出し、結果として磁性粒子42が磁性層4a,4bを上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。また、酸化物41の含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の分離及び微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなるため好ましくない。
【0060】
磁性層4a中のCrの含有量は、4at%以上19at%以下(さらに好ましくは6at%以上17at%以下)であることが好ましい。Crの含有量を上記範囲としたのは、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuを下げ過ぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるからである。
【0061】
一方、Crの含有量が上記範囲を超えた場合には、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子42の結晶性及び配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。また、Crの含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが高いため、垂直保磁力が高くなり過ぎ、データを記録する際、磁気ヘッドで十分に書き込むことができず、結果として高密度記録に適さないOW特性となるため好ましくない。
【0062】
磁性層4a中のPtの含有量は、8at%以上20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量を上記範囲としたのは、8at%未満であると、垂直磁性層4に必要な磁気異方性定数Kuが低くなるためである。一方、20at%を超えると、磁性粒子42の内部に積層欠陥が生じ、その結果磁気異方性定数Kuが低くなる。したがって、高密度記録に適した熱揺らぎ特性及び記録再生特性を得るためには、Ptの含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0063】
また、Ptの含有量が上記範囲を超えた場合には、磁性粒子42中にfcc構造の層が形成され、結晶性及び配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。一方、Ptの含有量が上記範囲未満である場合には、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るための磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。
【0064】
磁性層4aは、Co、Cr、Pt、酸化物41の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0065】
また、上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子42中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子42の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0066】
磁性層4aのKuは、1×10〜4×10(erg/cc)の範囲とすることが好ましい。Kuの値が上記範囲未満であると、容易に磁化反転が生じることになり、Hnの低下、熱揺らぎ特性の低下などの問題が生じるために好ましくない。一方、Kuの値が上記範囲を超えると、ヘッド磁界に対して、容易に磁化反転をすることが困難となり、磁性層4a上に設けられた磁性層4bの磁化反転をアシストすることが困難となるために、OW特性の低下、ΔSw(磁化反転分布)の悪化によるS/N比の低下がみられるために好ましくない。
【0067】
磁性層4aに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14at%、Pt含有量18at%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの基本組成を有して、その組成比を適宜選択した材料を挙げることができる。
【0068】
合金層7は、Feと非磁性材料とを含むものであり、このうち、Feは、上述したように、磁性層4a,4b間の反転エネルギーがより伝わり易くし、この磁性層4a,4b間の結合力を高め、磁性層4a,4bの磁化反転をよりスムーズにする働きがある。また、Feは、強磁性であるため、磁気ヘッドからの磁界を磁性層に引き込む効果があり、磁性層4a,4b間に配置された当該合金層7によるスペーシングロスを低減する効果がある。
【0069】
一方、非磁性材料は、磁性層4a,4bをフェロ結合、アンチフェロ結合させ、磁性層4a,4bの磁化反転を起こし易くする効果がある。また、非磁性材料としては、Ruが上記磁性層4a,4bをフェロ結合、アンチフェロ結合させるのに適している。また、hcp構造であるため、磁性層4a,4bを格子整合させるのに適している。それ以外では、非磁性材料として、例えば、Re、Ti、Y、Hf、Znなどを用いることができる。
【0070】
また、合金層7は、これらFeと非磁性材料とを含む合金の磁気特性が強磁性となる範囲であることが好ましく、具体的には、Feを30〜70原子%、非磁性材料を30〜70原子%の範囲で含む合金とすることが好ましい。
【0071】
合金層7の厚みは、垂直磁性層4を構成する磁性層4a,4bの静磁結合を完全に切断しない範囲とすることが好ましい。そして、本発明では、これら磁性層4a,4bがフェロカップリングし、また、アンチフェロカップリングする厚みとすることが好ましい。具体的には、0.1nm以上10nm以下とすることが好ましく、より好ましくは1nm以上4nm以下である。また、FeRu合金を用いた場合には、磁性材料にもよるが、0.6nm以上1.2nm以下の範囲でアンチフェロカップリングが生じ、この範囲外で、フェロカップリングが生ずる。本発明は、特にフェロカップリングした磁性層4a,4bに適用することが好ましい。
【0072】
磁性層4bは、Coを主成分とするとともに酸化物を含まない材料から構成することが好ましく、図2に示すように、層中の磁性粒子が磁性層4a中の磁性粒子42から柱状にエピタキシャル成長している構造であることが好ましい。この場合、磁性層4a,4bの磁性粒子42が、各層において1対1に対応して、柱状にエピタキシャル成長することが好ましい。また、磁性層4bの磁性粒子が磁性層4a中の磁性粒子42からエピタキシャル成長していることで、磁性層4bの磁性粒子が微細化され、さらに結晶性及び配向性がより向上したものとなる。
【0073】
磁性層4b中のCrの含有量は、10at%以上24at%以下であることが好ましい。Crの含有量を上記範囲とすることで、データの再生時における出力が十分確保でき、更に良好な熱揺らぎ特性を得ることができる。一方、Crの含有量が上記範囲を超える場合には、磁性層4bの磁化が小さくなり過ぎるため好ましくない。また、Cr含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子の分離及び微細化が十分に生じず、記録再生時のノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなるため好ましくない。
【0074】
また、磁性層4bは、Co、Crの他に、Ptを含んだ材料であってもよい。磁性層4b中のPtの含有量は、8at%以上20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が上記範囲にある場合には、高記録密度に適した十分な保磁力を得ることができ、更に記録再生時における高い再生出力を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性および熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0075】
一方、Ptの含有量が上記範囲を超えた場合には、磁性層4b中にfcc構造の相が形成され、結晶性及び配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。また、Ptの含有量が上記範囲未満である場合には、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るための磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。
【0076】
磁性層4bは、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0077】
また、上記元素の合計の含有量は、16at%以下であることが好ましい。一方、16at%を超えた場合には、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0078】
磁性層4bに適した材料としては、特に、CoCrPt系、CoCrPtB系を挙げることできる。CoCrPtB系の場合、CrとBの合計の含有量は、18at%以上28at%以下であることが好ましい。
【0079】
磁性層4bに適した材料としては、例えば、CoCrPt系では、Co14〜24Cr8〜22Pt{Cr含有量14〜24at%、Pt含有量8〜22at%、残部Co}、CoCrPtB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt0〜16B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、B含有量0〜16at%、残部Co}が好ましい。その他の系でも、CoCrPtTa系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、残部Co}、CoCrPtTaB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta1〜10B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、B含有量1〜10at%、残部Co}の他にも、CoCrPtBNd系、CoCrPtTaNd系、CoCrPtNb系、CoCrPtBW系、CoCrPtMo系、CoCrPtCuRu系、CoCrPtRe系などの材料を挙げることができる。
【0080】
磁性層4bのKuは、1×10〜5×10(erg/cc)の範囲であることが好ましい。Kuの値が上記範囲未満であると、容易に磁化反転が生じることになり、Hnの低下、熱揺らぎ特性の低下などの問題が生じるために好ましくない。一方、Kuの値が上記範囲を超えると、ヘッド磁界に対して、容易に磁化反転をすることが困難となり、OW特性の低下、ΔSw(磁化反転分布)の悪化によるS/N比の低下がみられるために好ましくない。
【0081】
垂直磁性層4の垂直保磁力(Hc)は、3000[Oe]以上とすることが好ましい。保磁力が3000[Oe]未満である場合には、記録再生特性、特に周波数特性が不良となり、また、熱揺らぎ特性も悪くなるため、高密度記録媒体として好ましくない。
【0082】
垂直磁性層4の逆磁区核形成磁界(−Hn)は、1500[Oe]以上であることが好ましい。逆磁区核形成磁界(−Hn)が1500[Oe]未満である場合には、熱揺らぎ耐性に劣るため好ましくない。
【0083】
垂直磁性層4は、磁性粒子の平均粒径が3〜12nmであることが好ましい。この平均粒径は、例えば垂直磁性層4をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、観察像を画像処理することにより求めることができる。
【0084】
垂直磁性層4の厚みは、5〜20nmとすることが好ましい。垂直磁性層4の厚みが上記未満であると、十分な再生出力が得られず、熱揺らぎ特性も低下する。また、垂直磁性層4の厚さが上記範囲を超えた場合には、垂直磁性層4中の磁性粒子の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、信号/ノイズ比(S/N比)や記録特性(OW)に代表される記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0085】
保護層5は、垂直磁性層4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのもので、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO2、ZrO2を含むものを使用することが可能である。保護層5の厚みは、1〜10nmとすることがヘッドと媒体の距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0086】
潤滑層6には、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。
【0087】
(磁気記録再生装置)
図3は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示すものである。
この磁気記録再生装置は、上記図1に示す構成を有する磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50を回転駆動させる媒体駆動部51と、磁気記録媒体50に情報を記録再生する磁気ヘッド52と、この磁気ヘッド52を磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部53と、記録再生信号処理系54とを備えている。
【0088】
また、記録再生信号処理系54は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド52に送り、磁気ヘッド52からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。また、本発明を適用した磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド52には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0089】
上記磁気記録再生装置では、本発明を適用した磁気記録媒体50を用いることで、磁性粒子の微細化と磁気的な孤立化が促進され、再生時におけるS/N比を大幅に向上することができ、また熱揺らぎ特性も向上させることができ、さらに優れた記録特性(OW)を得ることができるため、高密度記録化に適した磁気記録媒体を備える優れた磁気記録再生装置とすることが可能である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0091】
(実施例1)
実施例1では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、CrTiターゲットを用いて厚み10nmの密着層を成膜した。
【0092】
次に、この密着層の上に、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、厚み20nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を厚み0.7nmで成膜した後、さらにCo−20Fe−5Zr−5Taの軟磁性層を厚み20nmで成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0093】
次に、軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6at%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ6nm、20nmの厚みで順に成膜し、これを配向制御層とした。なお、Ru層は、最初はスパッタ圧力を0.6Paの低圧で、最後はスパッタ圧力を1Paの高圧でスパッタ成膜した。
【0094】
次に、配向制御層の上に、(60Co40Cr)86−(SiO)14{Cr含有量40at%、残部Coの合金を86mol%、SiOからなる酸化物を14mol%}の組成の非磁性下地層をスパッタ圧力を2Paとして厚み3nmで成膜した。そして、この非磁性層下地層の上に、(Co9.5Cr16Pt5.5Ru)91.7−(SiO)5−(Cr)3.3{Cr含有量9.5at%、Pt含有量16at%、Ru5.5at%、残部Coの合金を91.7mol%、SiOからなる酸化物を5mol%、Crからなる酸化物を3.3mol%}の組成の磁性層をスパッタ圧力2Paとして3nmの厚みで形成した。
【0095】
次に、磁性層の上に、60Ru40Fe{Ru含有量60at%、Fe含有量40at%}からなる合金層を0.5nmの厚みで形成した。なお、実施例1の磁気記録媒体については、各記録層がフェロ結合していることを確認した。
【0096】
次に、CVD法により層厚3.0nmの保護層を成膜した後、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を成膜し、実施例1の磁気記録媒体を作製した。
【0097】
そして、この実施例1の磁気記録媒体について、静磁気特性、記録再生特性、S/N比、記録特性(OW)、及び熱揺らぎ特性の各評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0098】
なお、各評価方法については以下のとおりである。
<磁気特性>
静磁気特性の評価については、Kerr効果測定器を用いて、保磁力(Hc)、逆磁区核形成磁界(−Hn)を測定した。なお、実施例1の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
<記録再生特性>
記録再生特性の評価については、米国GUZIK社製のリードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて測定を行った。なお、磁気ヘッドには、書き込み側にシングルポール磁極を用い、読み出し側にTMR素子を用いたヘッドを使用した。
<S/N比>
S/N比については、記録密度750kFCIとして測定した。
<記録特性(OW)>
記録特性(OW)については、先ず、750kFCIの信号を書き込み、次いで100kFCIの信号を上書し、周波数フィルターにより高周波成分を取り出し、その残留割合によりデータの書き込み能力を評価した。
<熱揺らぎ特性>
熱揺らぎ特性については、70℃の条件下で記録密度50kFCIにて書き込みを行った後、書き込み後1秒後の再生出力に対する出力の減衰率を(So−S)×100/(So)に基いて算出した。なお、この式中において、Soは書き込み後、1秒経過時の再生出力、Sは10000秒後の再生出力を表す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、実施例1で得られた磁気記録媒体については、Hcが4900Oe、Hnが2400Oe、S/N比が16.9dB、OWが37.8dB、熱揺らぎが0.3%であった。
【0101】
(実施例2)
実施例2では、磁性層の間に、70Ru30Fe{Ru含有量70at%、Fe含有量30at%}からなる合金層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。なお、実施例2の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
【0102】
そして、実施例2で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4850Oe、Hnが2380Oe、S/N比が16.7dB、OWが37.9dB、熱揺らぎが0.3%であった。
【0103】
(実施例3)
実施例3では、磁性層の間に、30Ru70Fe{Ru含有量30at%、Fe含有量70at%}からなる合金層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。なお、実施例3の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
【0104】
そして、実施例3で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4870Oe、Hnが2410Oe、S/N比が16.7dB、OWが37.6dB、熱揺らぎが0.3%であった。
【0105】
(実施例4)
実施例4では、磁性層の間に、80Ru20Fe{Ru含有量80at%、Fe含有量20at%}からなる合金層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。なお、実施例4の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
【0106】
そして、実施例4で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4850Oe、Hnが2410Oe、S/N比が16.4dB、OWが37.5dB、熱揺らぎが0.4%であった。
【0107】
(実施例5)
実施例5では、磁性層の間に、20Ru80Fe{Ru含有量20at%、Fe含有量80at%}からなる合金層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。なお、実施例5の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
【0108】
そして、実施例5で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4880Oe、Hnが2400Oe、S/N比が16.5dB、OWが37.3dB、熱揺らぎが0.4%であった。
【0109】
(比較例1)
比較例1では、磁性層の間に、Fe層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。
【0110】
そして、比較例1で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4900Oe、Hnが2400Oe、S/N比が16.2dB、OWが37.3dB、熱揺らぎが0.5%であった。
【0111】
(比較例2)
比較例2では、磁性層の間に、Ru層を0.5nmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を作製した。なお、比較例2の磁気記録媒体については、各磁性層がフェロ結合していることを確認した。
【0112】
そして、比較例2で得られた磁気記録媒体について、実施例1と同様の評価を行ったところ、Hcが4910Oe、Hnが2420Oe、S/N比が16.3dB、OWが37.4dB、熱揺らぎが0.4%であった。
【符号の説明】
【0113】
1…非磁性基板
2…軟磁性下地層
3…配向制御層
4…垂直磁性層
4a…下層の磁性層
4b…上層の磁性層
5…保護層
6…潤滑層
7…合金層
8…非磁性下地層
41…酸化物
42…磁性粒子(非磁性層7においては非磁性粒子)
50…磁気記録媒体
51…媒体駆動部
52…磁気ヘッド
53…ヘッド駆動部
54…記録再生信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを積層してなる磁気記録媒体であって、
前記垂直磁性層を2層以上の磁性層から構成し、当該磁性層の間にFeと非磁性材料とを含む合金層を配置したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性材料が、Ru、Re、Ti、Y、Hf、Znの中から選ばれる何れか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記合金層は、Feを30〜70原子%、非磁性材料を30〜70原子%の範囲で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層を構成する結晶粒子が、前記配向制御層を構成する結晶粒子と共に、厚み方向に連続した柱状晶を形成していることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記垂直磁性層が、グラニュラー構造を有する磁性層を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記グラニュラー構造を有する磁性層に接して前記合金層が配置されていることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記合金層を挟んだ前記基板側にグラニュラー構造の磁性層が、前記基板とは反対側に非グラニュラー構造の磁性層が配置されていることを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対する情報の記録再生を行う磁気ヘッドとを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−262719(P2010−262719A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114530(P2009−114530)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】