説明

磁石構成体、並びにこの磁石構成体を用いた漏洩磁束測定装置、漏洩磁束測定方法及び検査方法

【課題】ターゲット面内に対して一様な磁界を形成する磁石構成体、この磁石構成体を用いた漏洩磁束測定装置、漏洩磁束測定方法及び検査方法を提供する。
【解決手段】磁石を固定する固定台と、スペーサーを介して組み合わされる一対の磁石であって、一方の磁石は正極を固定台側に向けて設置され、他方の磁石は負極を固定台に向けて設置される一対の磁石とからなる磁界形成手段、及び1以上の磁界形成手段を取り付けるための基体を備えた磁石構成体であって、磁界形成手段が2以上ある場合には、各磁界形成手段が、前記一対の磁石の正極及び負極がそれぞれ直線状に一列にそろうように基体上に取り付けられていることを特徴とする磁石構成体、並びにこの磁石構成体を用いた漏洩磁束測定装置及び測定方法及び検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石構成体、並びにこの磁石構成体を用いた漏洩磁束測定装置、漏洩磁束測定方法及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜形成のためのスパッタリングにおいては、得られた膜の膜厚分布の均一性、即ち成膜速度の均一性が求められる。マグネトロンスパッタリングにおいては、この成膜速度は、ターゲット上に形成されるプラズマの強さを左右するターゲット面内における漏洩磁束によって決定される。そのため、ターゲット面内の漏洩磁束の磁束密度を測定することが重要である。従来は、この漏洩磁束の磁束密度の測定にあたり、マグネトロンスパッタリング装置に使用される円形磁石をそのまま利用する場合や、U字型磁石を用いる場合が多かった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−306368号公報(段落0017)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、スパッタリング装置に使用される円形磁石等では、ターゲットと磁石との位置関係によって磁束の分布が変化する。従って、ターゲット全体としての漏洩磁束の磁束密度の測定は可能であっても、例えば、スパッタリング後のターゲットの中心部での漏洩磁束と周辺部での漏洩磁束とを比較するためにターゲットの特定の位置における漏洩磁束の磁束密度を測定することは不可能であるという問題があった。また、U字型磁石では、測定位置ごとに磁石をずらすために、正確に特定の位置における漏洩磁束の磁束密度を比較することはできないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、測定対象のターゲット面の直径方向に対して一様な漏洩磁束を形成することが可能な磁石構成体を提供し、この磁石構成体を用いてターゲットの特定の位置における漏洩磁束の磁束密度を測定することができる漏洩磁束測定装置及び漏洩磁束測定方法を提供することにある。さらに、本発明の課題は、前記漏洩磁束測定装置及び漏洩磁束測定方法を用いて漏洩磁束の磁束密度を測定し、この磁束密度から、ターゲットの磁気特性を非破壊で検査する検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁石構成体は、磁石を固定するための固定台と、非磁性体からなるスペーサーを介して組み合わされる一対の磁石であって、一方の磁石は正極を固定台側に向けて設置され、他方の磁石は負極を固定台に向けて設置される一対の磁石とからなる磁界形成手段、及び1以上の磁界形成手段を取り付けるための基体を備えた磁石構成体であって、磁界形成手段が2以上ある場合には、各磁界形成手段が、前記一対の磁石の正極及び負極がそれぞれ直線状に一列にそろうように基体上に取り付けられていることを特徴とする。このような磁界形成手段を備えた磁石構成体を構成することで、スペーサーを間に挟んだ一対の磁石上に磁界が形成され、ターゲット面内に対して一様な漏洩磁束が形成されうる。そして、この磁界形成手段が2以上ある場合に、各磁界形成手段が、上記の配置になるように基体上に取り付けられていることで、一様な漏洩磁束がターゲット面内に形成されうる。
【0006】
この場合に、前記磁界形成手段を取り付けるための基体に、スパッタリングターゲットの裏面に設けられるバッキングプレートのフランジ部との固定手段が設けられていることが好ましい。磁界形成手段を取り付けるための基体に固定手段が設けられることで、磁石構成体とバッキングプレートが固定され、測定中に磁石構成体がずれないので、正確に漏洩磁束の磁束密度を測定することができる。
【0007】
本発明の漏洩磁場測定装置は、磁石構成体と、漏洩磁束の磁束密度を測定する磁束測定手段とを備えてなり、この漏洩磁束が、測定対象であるスパッタリングターゲット裏面に設置された該磁石構成体によりスパッタリングターゲット表面に生じたものであることを特徴とする。上記の磁石構成体によって発生した漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段で測定することで、非破壊で簡易に特定の位置での漏洩磁束の磁束密度を測定することができる。
【0008】
この場合に、漏洩磁束測定装置が前記磁石構成体の上に載置される測定対象であるスパッタリングターゲット上に目盛板を備えたことが好ましい。目盛板を備えることで、測定時に測定位置を正確に特定することが出来るからである。
【0009】
本発明の漏洩磁束測定方法は、前記磁石構成体を測定対象であるスパッタリングターゲットの裏面に設置し、スパッタリングターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定することを特徴とする。上記の磁石構成体によってスパッタリングターゲット表面で発生した漏洩磁束を、磁束測定手段で測定することで、非破壊で、かつ、特定の位置での漏洩磁束の磁束密度を測定できる。
【0010】
この場合に、前記磁石構成体の磁界形成手段をスパッタリングターゲット裏面に設置されたバッキングプレートの凹部に嵌め込み、磁界形成手段を取り付けるための基体をバッキングプレートのフランジ部に固定手段により固定して、ターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定することが好ましい。バッキングプレートのフランジ部に設けられているスパッタリング装置との固定手段を利用して、基体をバッキングプレートに固定することで、簡易に、かつ、正確に漏洩磁束の磁束密度を測定することが可能である。
【0011】
また、前記漏洩磁束測定方法において、ターゲット表面に設置された目盛板上で、該磁石構成体から発生した磁束によりスパッタリングターゲット表面に生じた漏洩磁束の磁束密度を測定する磁束測定手段を移動させながら、この目盛板により測定位置を確認して漏洩磁束の磁束密度を測定することが好ましい。
【0012】
本発明の検査方法は、磁石構成体を強磁性体からなるスパッタリングターゲットの裏面に設置し、スパッタリングターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定し、この磁束密度が、前記ターゲットと同一の材料からなるターゲットの磁束密度の平均値に対して±10%以内にあるかどうかによりターゲットの磁気特性を非破壊で検査することを特徴とする。この非破壊の検査方法により、簡易にターゲットの磁気特性の検査を行うことが可能であり、この場合に、測定した各位置での磁束密度が、前記ターゲットと同一の材料からなる標準ターゲットの磁束密度の平均値に対して±10%以内でなければ、均一な膜を形成できない。ここでいう標準ターゲットの磁束密度とは、不具合なく使用された同一材料及び同一形状の複数のターゲットの使用前の計測結果より求めた分布の中心値であり、平均値とはこれらのターゲットの中心からの半径100mmの範囲内の磁束密度の計測値を全て平均して求めたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁石構成体によれば、測定対象であるスパッタリングターゲット面内に一様な漏洩磁束を形成できるという優れた効果を奏し得る。また、この磁石構成体を用いた本発明の漏洩磁束測定装置及び漏洩磁束測定方法によれば、漏洩磁束の磁束密度を特定の位置において測定できるので、従来成し得なかったターゲットの漏洩磁束の磁束密度を場所ごとに比較することが可能であるという優れた効果を奏し得る。さらに、本発明の検査方法によれば、検査対象であるターゲットの磁気特性を、非破壊で、かつ簡易に検査しうるので、使用前のターゲットから、成膜時に不具合を起こすターゲットを選別することが可能であるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の磁石構成体を説明するための模式的正面図であり、図1(b)は、その模式的側面図である。1は、磁石構成体であり、この磁石構成体1は、一対の磁石を有する1以上の磁界形成手段2(図では例として4個)を磁界形成手段2の取り付け用基体11上に並設して構成されている。
【0016】
基体11は、磁束が通過しやすい金属(例えば、SS400)からなり、板状に成形されている。そして、基体11は、後述するようにバッキングプレートに固定できるように図示しない固定手段(例えば、ネジ孔等)を備えている。この基体11と磁界形成手段2とはネジ等により固定されている。
【0017】
磁界形成手段2は、固定台21と、固定台21上に所定の間隔を空けて設置された1対の磁石22a及び22bと、1対の磁石の間に設置されたスペーサー23とからなる。
【0018】
固定台21は、板状に成形された金属であればよく、磁束が通過しやすい金属(例えば、SS400)などを用いることが可能である。
【0019】
磁石22a及び22bは、それぞれ、永久磁石(たとえば、Nd等の希土類元素、鉄及びボロンを主成分とする磁石)である。各磁石は、測定対象であるスパッタリングターゲット面内に対し一様な磁束を形成するために、直方体又は正6面体が好ましい(図1中では例として直方体とした)。そして、磁石22aは、固定台21に接する面がN極となるようにし固定台21に固定させ、磁石22bは、固定台22に接する面がS極となるように、固定台21に固定させて、一対の磁石22a及び22bが、互いにN極、S極が上下逆になるように設置する。このように設置することで、一対の磁石22a及び22b間で磁束Mが形成される。
【0020】
スペーサー23は、磁石22a及び22bの間に挟まれたものであり、非磁性体でなければならない。このスペーサー23は、磁石22aと磁石22bとの間の距離を一定に保ち、かつ磁界形成手段の強度を確保するという役割を果たす。このようなものとしては、ゴム、硬質のプラスチックス、ガラス、セラミックス等があげられる。
【0021】
このように構成された各磁界形成手段2を、基体11上に1つ以上設置する。磁界形成手段が2以上ある場合には、各磁界形成手段2は、前記一対の磁石22a及び22bの正極及び負極がそれぞれ直線状に一列にそろうように基体11上に取り付けられている。このように構成されることで、各磁界形成手段で発生した磁束Mが一列で形成されるので、ターゲット上に一様な漏洩磁束が形成される。直線状に磁界形成手段2が設置されず、曲線上に磁界形成手段が設置されると、ターゲット面内に対し一様な磁束が形成できない。この場合に磁界形成手段2をいくつ基体11上に並設するかは、測定対象であるターゲットの大きさ及び磁石の寸法に合わせて適宜設定されるか、又は、後述のバッキングプレート裏面の凹部に磁界形成手段2をはめ込む場合には、凹部の直径及び磁石の寸法に合わせて適宜設定される。
【0022】
なお、図1では2つ以上の磁界形成手段2が直線状に1列で基体11上に設置されるものを示したが、ターゲットの大きさ(又はバッキングプレートの凹部の直径)に合わせた一組の磁石22a及び22bにより形成してもよい。また、各磁界形成手段は、密着して基体11上に設置するのが望ましいが、組み立てを容易にすべく、1〜2mm程度の間隔を空けて基体11上に設置してもよい。さらに、各磁界形成手段2を、破損及び分解防止のために、固定台、磁石、スペーサーをポリイミドテープ等で包んで基体11上に設置してもよい。
【0023】
次に、上記した本発明の磁石構成体を用いた漏洩磁束の磁束密度の測定装置及び測定方法について説明する。図2は、磁石構成体の使用態様を説明するために、バッキングプレート裏面に磁石構成体を設置した状態を示す斜視図である。
【0024】
初めに、磁石構成体を測定対象である強磁性体ターゲットの裏面に設置する。設置方法は特に限られないが、例えば、図2に示すようにターゲットの裏面にある円形状のバッキングプレート3の水冷側の凹部31の直径に合わせて磁界形成手段2の数を設定して(図2中では例として14個)、磁界形成手段2をバッキングプレート3の凹部31に嵌め込む。そして、図示しない固定手段により基体11をバッキングプレート3のフランジ部32に固定する。一般に、フランジ部32には、バッキングプレートをスパッタリング装置に固定するためのネジ孔が設けられているので、このネジ孔を利用して基体をフランジ部に固定することができる。このように、測定装置用にわざわざ特別な構成を設けることなく測定を行なうことができるので、本発明の磁石構成体は非常に簡易に用いることができる。
【0025】
測定対象であるターゲット材としては、強磁性体、例えば、Co、Ni、Feのうちの少なくとも1つからなる金属、またはこれらのうち少なくとも1つを含む合金があげられる。
【0026】
このようにして磁石構成体を設置したターゲットの表面に磁場測定手段、例えばガウスメーターのプローブをターゲット面に垂直にあてて、プローブを直径方向に移動させて所定の位置でターゲット面内の漏洩磁束の磁束密度を測定することができる。
【0027】
手動で測定する時には、磁場測定手段によりターゲット面内のどの位置を測定しているのか容易に判断できるようにするために、ターゲット表面に目盛板を設け、この目盛板上にプローブをあてて測定することが好ましいが、より好ましくは、ステージ(例えば3軸ステージ等)などにターゲットを載置して移動させ、プローブをあてて自動的に位置を特定して測定することである。
【0028】
このようにして測定したターゲット面内の各位置での磁束密度が、ターゲットと同一の材料及び形状からなる標準ターゲットの磁束密度の平均値に対して±10%以内、好ましくは5%以内にあるかどうかにより、ターゲットの磁気特性を非破壊で検査することが可能となる。
【0029】
上記実施の形態においては、強磁性体のターゲットの測定について説明したが、ターゲットアセンブリ表面の磁束分布を確認することを目的とする場合には、Cu、Au、Ti等の非磁性体ターゲットを用いてもよい。
【0030】
以下、実施例により詳細に本発明を説明する。
【実施例1】
【0031】
本実施例では、図1に示す本発明の磁石構成体を用いた漏洩磁場測定装置により、非磁性体からなるバッキングプレート面内の漏洩磁束の磁束密度を測定した。
【0032】
縦20mm×横20mm×幅10mmの磁石22a及び22bを、一つはその上面がN極で下面がS極となり、もう一つは上面がS極で下面がN極になるようにして、2つの磁石22間にスペーサー23であるゴム(縦20mm×横20mm×幅10mm)を介して、SS400からなる固定台21に設置し、磁界形成手段2を形成した。この場合に、各磁界形成手段2同士の間を2mm空けた。次いで、磁界形成手段2を14個、SS400からなる基体11にそれぞれN極、S極の向きを揃えて一列に設置し、磁石構成体1を作製した。この磁石構成体1の磁界形成手段を、図2に示すように、Cuからなるバッキングプレート3の凹部31に嵌め、基体11をバッキングプレート3のフランジ32に固定した。そして、バッキングプレート表面に目盛板を設け、磁石構成体が設置された位置の上方(これはターゲットの直径方向にあたる)でガウスメーターのプローブを移動させ、目盛板で位置を特定しながら漏洩磁束の磁束密度を測定した。次いで、一回目の測定でプローブが移動した経路と同じ経路を逆方向にプローブを移動させて漏洩磁束の磁束密度を測定した。これらの2つの測定結果から各中心からの距離における磁束密度の平均を求めた。結果を図3に示す。
【0033】
図3から、正方向、逆方向と測定方向を変えても、中心からの距離が等しければほとんど漏洩磁束の磁束密度は変わらないことがわかった。また、直径方向に対しほぼ一定の磁束密度が測定されたが、凸凹が観察された。凹部は全部で13個あり、また、凹部間の距離は20mmであったことから、この凹部は各磁界形成手段2の間隙によるものと考えられる。これにより、磁石構成体1を用いると、ターゲットの直径方向に対しほぼ一様な磁界が形成され、所定の位置における漏洩磁束の磁束密度を正確に測定できることがわかった。また、磁界形成手段の間隙をなくした磁石構成体を作製し、同様の手順で同一のバッキングプレートについて漏洩磁束を測定したところ、凹凸はなくなった。なお、スパッタリング後のバッキングプレートについても漏洩磁束の磁束密度を測定したが、同様の結果であった。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、本発明の図1に示す磁石構成体を用いた漏洩磁束測定装置を用いてコバルトターゲット(スパッタリング前:厚さ3mm)の漏洩磁束の磁束密度を測定した。コバルトターゲットが設置されたバッキングプレートの凹部に磁石構成体の磁界形成手段をはめ込み、この磁石構成体のターゲット面の直径方向に対する角度を変えて(0°、45°、90°、135°)それぞれ固定し、コバルトターゲット表面での漏洩磁束の磁束密度を測定した。結果を図4に示す。
【0035】
図4から、どの角度においても磁束はほとんど変わらないことがわかった。このことから、本発明の磁石構成体1により、強磁性体ターゲット上にターゲット面の直径方向に対し一様な漏洩磁束が形成されていること、及び各位置における漏洩磁束の磁束密度を正確に測定できることが確認された。
【実施例3】
【0036】
本実施例では、本発明の磁束測定装置を用いてスパッタリング後のコバルトターゲット面内の漏洩磁束の磁束密度を測定した。実施例2と同様に磁石構成体を設置し、コバルトターゲット面の直径方向に対する磁石構成体の角度を変えて(0°、45°、90°、135°)、各角度において漏洩磁束の磁束密度を測定した。結果を図5に示す。また、参考としてターゲット面内の直径方向に対する磁石構成体の角度が0°と90°の場合の、直径方向のエロージョン(浸食)測定結果を併せて図5に示す。
【0037】
中心からの距離が0〜30mmでは、中心から離れるにつれて急激にターゲットの浸食量が0から0.7mmへと上昇した。そして、中心からの距離が30〜90mmの間では、ターゲットの浸食量は0.7から0.3mmへとゆるやかに減少し、中心からの距離が90〜120mmの間では、浸食量は0.3mから1.6mmへと大きく増加した。
【0038】
これに対し、コバルトターゲット面の直径方向に対する磁石構成体の角度が0°の場合を例にとって説明すると、漏洩磁束の磁束密度は、ターゲット中心で816ガウスであり、中心からの距離が0〜30mmまでは816から868ガウスへと増加し、中心からの距離が30〜90mmでは、ゆるやかに820ガウスまで減少した。その後、90〜120mmの間では、漏洩磁束の磁束密度は841ガウスまで増加した。磁石構成体の角度は変わっても、この傾向はほとんど同一であった。このことから、浸食量が大きいほど、漏洩磁束の磁束密度は大きくなっており、エロージョン形状と漏洩磁束測定結果とは相関があることがわかった。
【0039】
従って、本発明の漏洩磁束測定装置を用いてターゲットの測定を行なえば、所定の位置での漏洩磁束の磁束密度を正確に測定でき、例えば、スパッタリング後のターゲットの周辺部と中心部との漏洩磁束の磁束密度を比較することが可能である。また、スパッタリング前後でターゲット面内の漏洩磁束がどのくらい変化したかを調べることも可能である。
(比較例1)
【0040】
比較例として、本発明の磁石構成体の代わりに従来の円環磁石を用いて、スパッタリング後のCoターゲット漏洩磁束の磁束密度を測定した。円環磁石をターゲットの裏面に設置し、その後、中心から45°ずつ角度を変えて半径方向の磁束を測定した。結果を図6に示す。図6から、円環磁石を用いて磁束を発生させると、どの半径方向においても、漏洩磁束は円環磁石周辺でのみピークを描く形状となり、ターゲットの周辺部及び中心部との漏洩磁束の磁束密度の差は確認できなかった。
【実施例4】
【0041】
実施例2で得られたコバルトターゲットの漏洩磁束の磁束密度と、同一の材質及び形状からなるコバルトターゲットの磁束密度の平均値(750ガウス)とを比較したところ、ターゲットの中心から半径0〜100mmの範囲での磁束密度は、±10%以内にあった。このターゲットを用いて成膜を行うと、得られた膜の膜厚分布は均一であった。
(比較例2)
これに対し、ターゲットの中心から半径0〜100mmの範囲での磁束密度が±10%以内にないターゲット(例えば、厚みが均一でないターゲットや、冷間加工や熱処理による特性の制御が不十分なターゲット等)を用いて成膜しても、得られた膜の膜厚分布は均一ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の磁石構成体、並びにこれを用いた漏洩磁束測定装置及び漏洩磁束測定方法によれば、スパッタリング用ターゲット上に形成される漏洩磁束の磁束密度の測定を行なうことができる。また、本発明のスパッタリングターゲットの検査方法を用いてスパッタリングターゲットの表面状態を検査することができるので、本発明は半導体製造技術分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は、本発明の磁石構成体を説明するための模式的正面図であり、(b)は、その模式的側面図である。
【図2】本発明の磁石構成体の使用状態を示す模式的斜視図である。
【図3】本発明の漏洩磁束測定装置を用いて非磁性体材料からなるバッキングプレート上の漏洩磁束の磁束密度を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の漏洩磁束測定装置を用いてスパッタリング前のコバルトターゲット上の漏洩磁束の磁束密度を測定した結果を示すグラフである。
【図5】本発明の漏洩磁束測定装置を用いてスパッタリング後のコバルトターゲット上の漏洩磁束の磁束密度を測定した結果を示すグラフである。
【図6】従来の円環磁石を用いた測定装置を用いた場合のターゲットの漏洩磁束の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 磁石構成体 2 磁界形成手段
3 バッキングプレート 11 基体
21 固定台 22 磁石
23 スペーサー 31 凹部
32 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石を固定するための固定台と、非磁性体からなるスペーサーを介して組み合わされる一対の磁石であって、一方の磁石は正極を固定台側に向けて設置され、他方の磁石は負極を固定台に向けて設置される一対の磁石とからなる磁界形成手段、及び1以上の磁界形成手段を取り付けるための基体を備えた磁石構成体であって、磁界形成手段が2以上ある場合には、各磁界形成手段が、前記一対の磁石の正極及び負極がそれぞれ直線状に一列にそろうように基体上に取り付けられていることを特徴とする磁石構成体。
【請求項2】
前記磁界形成手段を取り付けるための基体に、スパッタリングターゲットの裏面に設けられるバッキングプレートのフランジ部との固定手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の磁石構成体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁石構成体と、漏洩磁束の磁束密度を測定する磁束測定手段とを備えてなり、この漏洩磁束が、測定対象であるスパッタリングターゲット裏面に設置された該磁石構成体によりスパッタリングターゲット表面に生じたものであることを特徴とする漏洩磁束測定装置。
【請求項4】
前記磁石構成体の上に載置される測定対象であるスパッタリングターゲット上に目盛板を設置してなることを特徴とする請求項3記載の漏洩磁束測定装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の磁石構成体を測定対象であるスパッタリングターゲットの裏面に設置し、ターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定することを特徴とする漏洩磁束測定方法。
【請求項6】
前記磁石構成体の磁界形成手段をスパッタリングターゲット裏面に設置されたバッキングプレートの凹部に嵌め込み、磁界形成手段を取り付けるための基体をバッキングプレートのフランジ部に固定手段により固定して、スパッタリングターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定することを特徴とする請求項5記載の漏洩磁束測定方法。
【請求項7】
前記漏洩磁束測定方法において、スパッタリングターゲット表面に設置された目盛板上で、該磁石構成体から発生した磁束によりスパッタリングターゲット表面に生じた漏洩磁束の磁束密度を測定する磁束測定手段を移動させながら、この目盛板により測定位置を確認して漏洩磁束の磁束密度を測定することを特徴とする請求項5又は6に記載の漏洩磁束測定方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の磁石構成体を強磁性体からなるスパッタリングターゲットの裏面に設置し、スパッタリングターゲット表面に漏洩磁束を発生させ、この漏洩磁束の磁束密度を磁束測定手段により測定し、この磁束密度が、前記スパッタリングターゲットと同一の材料からなる標準ターゲットの磁束密度の平均値に対して±10%以内にあるかどうかにより、ターゲットの磁気特性を非破壊で検査することを特徴とする検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−297683(P2007−297683A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127525(P2006−127525)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000192372)アルバックマテリアル株式会社 (21)
【Fターム(参考)】