説明

神経変性疾患の診断及び治療ターゲットとしてのKCNN3

本発明はアルツハイマー病患者及びアルツハイマー病を発症する危険のある個体におけるKCNN3遺伝子及びその蛋白産物の調節異常について開示する。この知見に基づき、本発明は対象におけるアルツハイマー病を診断及び予後診断し、対象がアルツハイマー病を発症する危険が増加しているか否かを判定するための方法を提供する。更に、本発明はKCNN3遺伝子とその対応する遺伝子産物を使用してアルツハイマー病及び関連神経変性疾患を治療及び予防するための治療及び予防方法を提供する。神経変性疾患の調節剤のスクリーニング方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象における神経変性疾患の進行の診断、予後診断及びモニター方法に関する。更に、神経変性疾患の治療抑制方法と調節剤のスクリーニング方法も提供する。本発明は更に医薬組成物、キット、及び組換え動物モデルも開示する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は患者の生活を著しく悪化させる。更に、これらの疾患は健康面、社会面及び経済面において多大な負担となる。ADは全痴呆患者の約70%を占める最も一般的な神経変性疾患であり、恐らく最も破壊的な加齢性神経変性疾患であり、65歳以上の人口の約10%を冒し、85歳以上では45%にも及ぶ(Vickersら,Progress in Neurobiology 2000,60:139−165;Walsh and Selkoe,Neuron 2004,44:181−193)。現在、米国、ヨーロッパ及び日本の患者数は1200万人と推定される。この状況は先進国の高齢者人口増加とともに不可避的に悪化すると思われる。AD個体の脳に生じる神経病理的特徴はアミロイドβ蛋白から構成される老人斑と、異常線維状構造物の出現及び神経原線維変化の形成を伴う顕著な細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイドβ蛋白はアミロイド前駆体蛋白(APP)が種々のプロテアーゼにより分解することにより生成する(Selkoe and Kopan,Annu Rev Neurosci 2003,26:565−597;Lingら,Int J Biochem Cell Biol 2003,35:1505−1535)。AD患者の脳には瀰漫性プラークと神経突起プラークの2種のプラークを検出することができる。これらのプラークは主に大脳皮質と海馬に検出される。脳における毒性Aβ沈着物の形成はAD過程の非常に初期に開始し、AD病理に至るその後の破壊的過程に重要な役割を果たすと言われている。ADの他の病理特徴は神経原線維変化(NFT)と神経突起異常(神経網スレッドと言う)である(Braak and Braak,J Neural Transm 1998,53:127−140)。NFTはニューロンの内側に発生し、タウ蛋白が化学的に変化し、線維が2本ずつ螺旋状に相互に捩れたものである。NFTの形成に伴い、ニューロン減少を観察することができる(Johnson and Jenkins,J Alzheimers Dis 1996,1:38−58;Johnson and Hartigan,J Alzheimers Dis 1999,1:329−351)。神経原線維変化の出現とその数の増加はADの臨床重篤度によく相関している(Schmittら,Neurology 2000,55:370−376)。ADは記憶形成の早期低下から最終的に高次認知機能の完全な喪失に至る進行性疾患である。認知障害としては特に記憶障害、失語症、失認及び実行機能低下が挙げられる。ADの病因の1つの特徴は特定脳領域及び神経細胞亜集団が選択的に変性プロセスを受け易い点である。具体的に言うと、下側頭葉領域と海馬は疾患の進行中の初期に重度損傷を受ける。他方、前頭葉皮質、後頭葉皮質及び小脳内のニューロンはほぼ無傷のままで神経変性から保護される(Terryら,Annals of Neurology 1981,10:184−92)。現在ADの治癒法はなく、ADの進行を止めるために有効な治療法もなく、死前にADを高い確率で診断するために有効な方法すら存在しない。個体にADを発症する素因を与える数種の危険因子が同定されており、そのうちで最もよく知られているのはアポリポ蛋白E遺伝子(ApoE)の3個の異なる既存対立遺伝子(ε2,3及び4)のうちのε4対立遺伝子である(Strittmatterら,Proc Natl Acad Sci USA 1993,90:1977−81;Roses,Ann NY Acad Sci 1998,855:738−43)。染色体21のアミロイド前駆体蛋白(APP)、染色体14のプレセニリン1、及び染色体1のプレセニリン2の遺伝子の遺伝的欠損に結びつけられている早発性ADの希少例はあるが、一般的な形態の遅発性散発性ADはまだ原因が分かっていない。神経変性障害の遅発性複合病因は治療薬及び診断薬の開発を阻む難問である。潜在的薬剤ターゲット及び診断マーカーのプールを拡大することが極めて重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は神経疾患の病因を突き止め、特にこれらの疾患の診断と治療薬の開発に適した方法、材料、作用剤、組成物及び動物モデルを提供することである。この課題は独立クレームの構成要素により解決された。サブクレームは本発明の好ましい態様を定義する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はヒトアルツハイマー病脳サンプルにおけるカリウムイオンチャネル、小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルKCNN3(別称SK3)をコードする遺伝子及びKCNN3の蛋白産物の調節異常差異的発現の検出に基づく。カリウムイオン(K)チャネルは細胞興奮性(心臓拍動、筋肉収縮及び神経シグナル伝達)やインスリン分泌、細胞増殖、細胞容量調節等の多様な生理的プロセスに関与する膜貫通蛋白である。カリウムイオンチャネルのうちで小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル(SKチャネル)はそれらの活性が細胞内カルシウムイオンにより調節されるという点でBKチャネル及びIKチャネルと共に特殊な特徴を示す。特にSKチャネルはニューロン内の作用電位に従う後過分極に重要な役割を果たす。従って、ニューロンの発火周波数の設定に非常に重要である。1996年に3種のSKチャネルがラット及びヒト脳からクローニングされ(Kohlerら,Science 1996,273:1709−1714)、Sk1〜3と命名された。その後、4番目のメンバーが数グループにより同定された(例えばIshiiら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997,94:11651)。
【0006】
SK1−4チャネル(別称KCNN1−4)は6個の膜貫通螺旋から構成され、主にホモマー複合体として活性であるが、ヘテロ四量体複合体の形成も示唆されている(Ishiiら1997,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:11651)。KCNN3はこのチャネルが双極性障害に関与していると言われている2個のポリグルタミンリピートをもつ延長N末端をもつという点でKCNN1及びKCNN2と相違する(Chandyら,Molec.Psychiat.1998,3:32−37)。しかし、他の研究グループはこの知見を確認できなかった(例えばFrebourgら,Am.J.Hum.Genet.(suppl.)1998,63:A326限定;Austinら,Molec.Psychiat.1999,4:261−266;Wittekindtら,Neurogenetics 1998,1:259−265)。
【0007】
KCNN3のコーディング配列は736アミノ酸と分子量計算値82kDaをもつ蛋白質をコードする2211塩基対から構成される。この遺伝子は染色体1q22にマッピングされており、その8個のエキソンは約163kbpに及ぶ(Sunら,J.Hum.Genet.2001,46:463−470)。KCNN3はヒト及びマウス海馬で高度に発現され(Blankら,Nature Neurosci.6:2003,911−912;Tacconiら,Neuroscience 2001,102:209−215)、海馬ではその発現が加齢と共に増加すると報告されている(Blankら,Nature Neurosci.2003,6:911−912)。精密発現分析によると、KCNN3は特に海馬歯状回及びCA1−4領域と嗅内皮質で発現され、更に基底核、視床及び各種脳幹核でも発現されることが分かった(Sailerら,Mol.Cell.Neurosci.2004,26:458−469)。KCNN3は選択的にスプライスされ、KCNN1−3の機能を抑制するドミナントネガティブアイソフォームを生じることが報告されている(Kolski−Andreacoら,J.Biol.Chem.2004,279:6893−6904)。
【0008】
KCNN3のその他の機能も報告されており、特に呼吸と分娩(Bondら,Science 2000,289:1942−1946)及び血圧調節(Taylorら,Circ.Res.2003,93:124−131)における役割が挙げられる。興味深いことに、KCNN3の加齢性発現上昇はアンチセンスオリゴヌクレオチド投与によるKCNN3−mRNAの選択的発現低下により克服できない多少の認知障害をマウスに生じたので、KCNN3の発現レベルはシナプス可塑性に結び付けられている(Blankら,Nature Neurosci.2003,6:911−912)。更に、KCNN3は膜興奮性の調節と中枢ニューロンの発火特性の決定に関与していることも示されている(Pedarzaniら,J.Biol.Chem.2001,276:9762−9769)。トランスジェニック動物が樹立されている(Bondら,Science 2000,289:1942−1946)。この場合、正常KCNN3プロモーター機能を維持しながら遺伝子スイッチの導入によりKCNN3遺伝子の発現を調節することはできない。著者らはKCNN3が例えば睡眠時無呼吸や乳幼児突然死のターゲットになると仮定している。
【0009】
SKチャネルの数種の遮断薬が記載されており、特に低ナノモル範囲でチャネルを遮断するハチ毒アパミンとサソリ毒スキラトキシンが挙げられる。しかし、これらの毒素は全SKチャネルを非特異的に遮断する。低分子量化合物がSKチャネル活性を妨害することも記載されているが、上記毒素に比較するとその効力は低い(例えばツボクラリン、UCL−1684、ガラミン)。
【0010】
本明細書と特許請求の範囲で使用する単数形はそうでないことが内容から明白である場合を除き、複数形も含む。例えば「細胞」は複数の細胞も意味し、他の用語についても同様である。
【0011】
本明細書と特許請求の範囲で使用する「及び/又は」なる用語はこの用語の前後の用語がそのいずれか一方又は両方であるとみなされることを意味する。例えば、「レベル及び/又は活性の測定」なる用語はレベルのみ又は活性のみ又はレベルと活性の両方を測定することを意味する。
【0012】
本明細書で使用する「レベル」なる用語は転写産物(例えばmRNA)又は翻訳産物(例えば蛋白質又はポリペプチド)の量又は濃度の程度又は尺度を意味する。
【0013】
本明細書で使用する「活性」なる用語は転写産物もしくは翻訳産物が生物学的効果を生じる能力の尺度又は生物活性分子のレベルの尺度を意味する。
【0014】
「活性」なる用語は更に、限定されないが配列番号1の新規カリウムチャネルポリペプチド等のカリウムチャネル又はカリウムチャネルサブユニットの結合、阻害、抑制、遮断、中和又は分離と、発現上昇又はカリウムチャネルサブユニットの活性化、アゴニスト作用、発現上昇に関する生物活性及び/又は薬理活性を意味する。「生物活性」としては限定されないが、カリウムイオン及び/又は膜貫通カリウムイオン流の膜貫通輸送及び/又はその調節が挙げられる。「薬理活性」としては限定されないが、カリウムチャネル又はカリウムチャネルサブユニットがリガンド、化合物、作用剤、モジュレーター及び/又は別のカリウムチャネルサブユニットと結合する能力が挙げられる。
【0015】
本明細書で使用する「レベル」及び/又は「活性」なる用語は更に遺伝子発現レベル又は遺伝子活性を意味する。遺伝子発現は遺伝子に含まれる情報が転写及び翻訳により利用され、遺伝子産物が生産されることとして定義することができる。
【0016】
「調節異常」とは遺伝子発現の発現上昇もしくは発現低下及び/又は遺伝子産物の安定性の増加もしくは低下を意味する。遺伝子産物はRNA又は蛋白質を含み、遺伝子発現の結果である。遺伝子産物の量を使用して遺伝子の活性の程度及びその遺伝子産物の安定性の程度を測定することができる。
【0017】
本明細書と特許請求の範囲で使用する「遺伝子」なる用語はコーディング領域(エキソン)と非コーディング領域(例えばプロモーター又はエンハンサー等の非コーディング調節因子、イントロン、リーダー配列及びトレーラー配列)の両者を意味する。
【0018】
「ORF」なる用語は「オープン・リーディング・フレーム(open reading frame)」の頭文字であり、少なくとも1個の読み枠に停止コドンをもたないため、潜在的にアミノ酸配列に翻訳することができる核酸配列を意味する。「調節因子」とは誘導型及び非誘導型プロモーター、エンハンサー、オペレーター、並びに遺伝子発現を誘導及び調節する他の因子を意味する。
【0019】
本明細書で使用する「フラグメント」なる用語は例えば選択的スプライシング又は短縮又は他の方法で開裂した転写産物又は翻訳産物を意味する。
【0020】
本明細書で使用する「誘導体」なる用語は突然変異もしくはRNA編集もしくは化学修飾もしくは他の方法で改変された転写産物又は突然変異もしくは化学修飾もしくは他の方法で改変された翻訳産物を意味する。分かりやすく言うならば、例えば誘導体転写産物とは一塩基又は多塩基欠失、挿入又は置換等の改変を核酸配列にもつ転写産物を意味する。例えば誘導体翻訳産物はリン酸化もしくはグリコシル化もしくはアセチル化もしくは脂質化の改変又はシグナルペプチド開裂もしくは他の型の成熟開裂の改変等の方法により作製することができる。これらの方法は翻訳後に実施することができる。
【0021】
本明細書と特許請求の範囲で使用する「モジュレーター」なる用語は遺伝子又は遺伝子の転写産物又は遺伝子の翻訳産物のレベル及び/又は活性を変化又は変更させることが可能な分子を意味する。「モジュレーター」とはカリウムチャネルサブユニット又はカリウムチャネルの機能特性を亢進又は抑制し、従って、前記機能特性を「調節」し、カリウムチャネル又はカリウムチャネルサブユニットの結合、阻害、抑制、遮断、中和又は分離を「調節」し、活性化、アゴニスト作用及び発現上昇を「調節」することが可能な分子を意味する。「調節」は細胞の生物活性を変化させる能力という意味でも使用する。「モジュレーター」は遺伝子の転写産物又は翻訳産物の生物活性を変化又は変更させることができる。例えば前記調節としては、生物活性及び/又は薬理活性の増加もしくは低下、結合特性の変化、又は遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的もしくは免疫学的特性の他の任意変化もしくは変更が挙げられる。
【0022】
「作用剤」、「試薬」又は「化合物」なる用語は細胞、組織、体液又は任意生体系もしくは任意試験アッセイ系の状況内に正又は負の生物学的効果をもつ任意物質、化学薬品、組成物又は抽出物を意味する。例えば、ターゲットのアゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニスト又は逆アゴニストが挙げられる。このような作用剤、試薬又は化合物としては核酸、天然もしくは合成ペプチドもしくは蛋白複合体又は融合蛋白が挙げられる。更に、抗体、有機又は無機分子又は組成物、小分子、薬剤及び上記物質の任意のものの任意組合わせでもよい。これらは試験、診断又は治療目的に使用することができる。
【0023】
「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「プライマー」なる用語は相補塩基対のハイブリド形成により所与ターゲットポリヌクレオチドとアニールすることができ、ポリメラーゼにより伸長することができる短い核酸配列を意味する。これらの配列は特定配列に対して特異的になるように選択してもよいし、ランダムに選択してもよく、例えば混合物中の可能な全配列をプライミングする。変発明で使用するプライマー長は10ヌクレオチド〜80ヌクレオチドとすることができる。「プローブ」は本明細書に記載及び開示する核酸配列の短い核酸配列又はその相補配列である。これらの配列は全長配列でもよいし、所与配列のフラグメント、誘導体、アイソフォーム又は変異体でもよい。「プローブ」とアッセイサンプルのハイブリダイゼーション複合体の同定により、このサンプル内の他の類似配列の存在の検出が可能になる。
【0024】
本明細書で使用する「ホモログ又はホモロジー」なる用語はヌクレオチド又はペプチド配列と別のヌクレオチド又はペプチド配列の近縁度を意味し、比較する前記配列間の一致度及び/又は類似度により決定される。当分野では、「一致度」及び「類似度」なる用語はクエリー配列と好ましくは同一型の他の配列(核酸又は蛋白質配列)の相互マッチングにより決定されるポリペプチド又はポリヌクレオチド配列近縁度を意味する。「一致度」及び「類似度」を計算及び決定するための好ましいコンピュータープログラムとしては限定されないが、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschulら,J.Mol.Biol.1990,215:403−410;Altschulら,Nucleic Acids Res.1997,25:3389−3402;Devereuxら,Nucleic Acids Res.1984,12:387)、BLASTN 2.0(Gish W.,http://blast.wustl.edu,1996−2002)、FASTA(Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444−2448)及び最長オーバーラップをもつ1対のコンティグを決定し、整列させるGCG GelMerge(Wilbur and Lipman,SIAM J.Appl.Math.1984,44:557−567;Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.1970,48:443−453)が挙げられる。
【0025】
本明細書で使用する「変異体」なる用語は本発明に開示するポリペプチド及び蛋白質に関して、本発明の天然ポリペプチド又は蛋白質のN末端及び/又はC末端及び/又は天然アミノ酸配列内に1個以上のアミノ酸が付加され及び/又は置換され及び/又は欠失され及び/又は挿入されているが、その本質的特性を維持する任意ポリペプチド又は蛋白質を意味する。更に、「変異体」なる用語はポリペプチド又は蛋白質の任意短縮形態又は延長形態を含む。「変異体」はKCNN3蛋白質のアミノ酸配列、特に配列番号1に対して少なくとも約80%の配列一致度、より好ましくは少なくとも約90%の配列一致度、最も好ましくは少なくとも約95%の配列一致度をもつ配列も含む。「変異体」としては例えば高度保存領域に保存アミノ酸置換をもつ蛋白質が挙げられる。本発明の「蛋白質及びポリペプチド」は、KCNN3蛋白質のアミノ酸配列、特に配列番号1を含む蛋白質の変異体、フラグメント及び化学誘導体を含む。コドンが代替塩基配列により別のコドンで置換されているが、DNA配列により翻訳されたアミノ酸配列が変化していない配列変異が含まれる。当分野で公知のこの現象は特定アミノ酸を翻訳するコドンセットの冗長と呼ばれる。機能性に影響を与えないこのようなアミノ酸置換(例えばリジン→アルギニン、ロイシン→バリン、グルタミン→アスパラギン)が含まれる。自然界から単離可能であるか又は組換え及び/又は合成手段により生産可能な蛋白質及びポリペプチドが含まれる。天然蛋白質又はポリペプチドとは天然に存在する短縮又は分泌形態、天然に存在する変異体形態(例えばスプライス変異体)及び天然に存在する対立遺伝子変異体を意味する。本明細書で使用する「単離」なる用語はその天然環境から変化しているか及び/又は取出されており、即ちそれらが通常存在する細胞又は生体から単離されており、それらが自然界で結合していることが分かっている共存成分から分離されているか又は本質的に精製されている分子又は物質を意味する。この概念は更にこのような分子をコードする配列がその天然状態では結合していないポリヌクレオチドとこの配列を人為的に結合することができ、このような分子を組換え及び/又は合成手段により生産できることを意味し、「非天然」とも言う。前記目的のためにこれらの配列を当業者に公知の方法により生体又は非生体に導入することができるとしても、また、これらの配列が前記生体又は非生体に依然として存在しているとしても、これらの配列は単離されているとみなされる。本発明では、「危険」、「感受性」及び「素因」なる用語は同等であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する確率に関して使用する。
【0026】
「AD」なる用語はアルツハイマー病を意味する。
【0027】
本明細書で使用する「AD型神経病理」、「AD病理」なる用語は本明細書に記載し、最先端文献から広く公知の神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的及び臨床的特徴、徴候及び症状を意味する(Iqbal,Swaab,Winblad and Wisniewski,Alzheimer’s Disease and Related Disorders(Etiology,Pathogenesis and Therapeutics),Wiley & Sons,New York,Weinheim,Toronto,1999;Scinto and Daffner,Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease,Humana Press,Totowa,New Jersey,2000;Mayeux and Christen,Epidemiology of Alzheimer’s Disease:From Gene to Prevention,Springer Press,Berlin,Heidelberg,New York,1999;Younkin,Tanzi and Christen,Presenilins and Alzheimer’s Disease,Springer Press,Berlin,Heidelberg,New York,1998参照)。
【0028】
「ブラークステージ(Braak stage)」又は「ブラークステージ分類」なる用語はBraak and Braakにより提案された基準による脳分類を意味する(Braak and Braak,Acta Neuropathology 1991,82:239−259;Braak and Braak,J Neural Transm 1998,53:127−140)。ADのブラークステージ分類は前脳の所定領域における神経原線維病理の程度と分布をランク付けし、ADの神経病理進行を6段階(ステージ0〜6)に分けている。これはADの死後神経病理段階分類において広く許容されている確立された方法である。精神状態及び認知機能/障害に関するAD患者の臨床症状と検死後に得られる対応するブラークステージの間には有意の相関があることが説得力をもって示されている(Bancherら,Neuroscience Letters 1993,162:179−182;Goldら,Acta Neuropathol 2000,99:579−582)。同様に、神経原線維変化とニューロン細胞病理の相関も認められており(Rosslerら,Acta Neuropathol 2002,103:363−369)、これらはどちらも認知機能を予測することが報告されている(Giannakopoulosら,Neurology 2003,60:1495−1500;Bennettら,Arch Neurol 2004,61:378−384)。更に、βアミロイドペプチド沈着から最終的に神経原線維変化の形成に至る発症カスケードも提示されており、こうして分子/細胞レベルにおける初期AD特異的イベントの先行が証明されている(Metsaarsら,Neurobiol Aging 2003,24:563−572)。
【0029】
従って、本発明では個体ドナーの臨床徴候/症状に依存しない(即ち精神障害、認知障害、他の神経精神病学的パラメーターの低下又はADの明白な臨床診断の報告の有無に依存しない)疾患進行の代替マーカーとしてブラークステージを使用する。即ち、ブラークステージ分類の基準となる神経原線維変化はその根底にある分子及び細胞病理メカニズム一般を反映し、従って、脳の病的(又は病前)状態を定義すると推測され、即ち、例えばブラークステージ1のドナーは定義によると、ステージ2(以上)のドナーよりも初期の分子/細胞発症段階にあり、従って、ブラークステージ1のドナーは例えばブラークステージ2以上のドナーと比較する場合の対照個体とみなすことができる。この点で、対照個体と疾患個体の区別は臨床診断に基づく「健常対照ドナー」と「AD患者」の区別と必ずしも同一である必要はなく、代替マーカーであるブラークステージにより推定及び分類した病的(又は病前)状態の推定相違を意味する。
【0030】
「対照」から得られた値は「既知健常状態」を表す「参照値」であり、「AD患者」から得られた値は「既知疾患状態」を表す「参照値」である。本発明では、ブラークステージ0はアルツハイマー病の徴候及び症状をもつとみなされないヒトを表すことができ、ブラークステージ1〜4は既にADの臨床徴候及び症状があるか否かに応じて健常対照ヒト又はAD患者を表すことができる。ブラークステージの数値が高いほど、ADの徴候及び症状を示す可能性又はADの徴候及び症状を発症する危険が高くなる。神経病理評価即ちADの病理変化が痴呆の根本原因である確率の推定については、Braak H.(www.alzforum.org)によりアドバイスが与えられている。
【0031】
本発明による神経変性疾患又は障害としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭型痴呆、進行性核性麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆、多発性全身萎縮症、嗜銀顆粒性痴呆及び他のタウパチー並びに軽度認知障害が挙げられる。神経変性プロセスに関する他の疾患としては、例えば虚血性脳卒中、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動ニューロン疾患、プリオン疾患、外傷性神経損傷及び修復、並びに多発性硬化症が挙げられる。
【0032】
本発明は特定サンプル、AD患者の特定脳領域、各種ブラークステージのヒトの特定脳領域におけるカリウムチャネル、小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルである小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル蛋白3(別称KCNN3又はK3、別称SK3又はSKCa3)をコードする遺伝子及び前記遺伝子KCNN3(別称SK3)の蛋白産物の同定、差異的発現、差異的調節、調節異常を相互間比較及び/又は年齢一致対照ヒトとの比較により開示する。本発明はAD患者の下側頭葉皮質と前頭葉皮質ではKCNN3(SK3)mRNAレベルが増加し、発現が増加されるという点で、対照ヒトの各脳領域に比較してAD患者の脳ではKCNN3(SK3)の遺伝子発現が変化し、異常調節されることを開示する。更に、本発明はKCNN3(SK3)発現が各種ブラークステージで異なり、初期ブラークステージで既に発現レベル増加が開始しており、主に下側頭葉皮質で病理ブラークステージの進行に伴って漸進的に増加することを開示する。
【0033】
AD型病理の発症に平行するKCNN3(SK3)のこの調節異常はKCNN3とADの関係を明白に反映しており、疾患の過程における進行性病理イベントの指標である。AD患者と対照を比較した場合だけでなく各種ブラークステージ間で比較した場合にも観察されるKCNN3(SK3)遺伝子転写レベルの差異はKCNN3(SK3)蛋白質レベルに認められる実質的な差異により更に裏付けられる。対照とは対照的に、AD患者からの脳検体ではKCNN3(SK3)蛋白質は反応性星状細胞に高レベルで含まれており、蓄積し、皮質βアミロイド斑と同時沈着する。KCNN3(SK3)遺伝子発現のこの調節異常と、AD型病理の発症に平行する対応する遺伝子産物のレベル及び局在変化はKCNN3(SK3)とADの関係を明白に反映しており、疾患の過程における進行性病理イベントの指標である。KCNN3(SK3)遺伝子発現の調節異常及び対応する遺伝子産物のレベル及び局在変化と神経変性疾患、特にADの病理の関係を実証する実験はまだ記載されていない。同様に、KCNN3(SK3)遺伝子における突然変異が前記疾患と関連することも記載されていない。KCNN3(SK3)遺伝子をこのような疾患と関連付けることにより、特に前記疾患の診断及び治療の新規方法が得られる。更に、KCNN3をADの過程の初期に既に発生する病理イベントと関連付けることにより、脳の修復不能な損傷が生じる前に適用してAD病理の開始を予防する治療の可能性が得られる。従って、本発明は神経変性疾患、特にADの素因の診断評価、治療中のヒトの診断モニター、予後診断及び識別に有用である。
【0034】
本発明はAD患者の特定脳領域におけるKCNN3(SK3)をコードする遺伝子及びその遺伝子産物の調節異常を開示する。下側頭葉、内側嗅領、海馬及び扁桃核内のニューロンはADで変性プロセスを受ける(Terryら,Annals of Neurology 1981,10:184−192)。これらの脳領域は主に学習及び記憶機能の処理に関与しており、ADでニューロン減少と変性に選択的感受性を示す。他方、前頭葉皮質、後頭葉皮質及び小脳内のニューロンはほぼ無傷のままであり、神経変性プロセスから保護される。本明細書に開示する実施例では、AD患者と年齢一致対照個体の前頭葉皮質(F)と下側頭葉皮質(T)に由来する脳組織を使用した。従って、KCNN3(SK3)遺伝子とその対応する転写及び/又は翻訳産物は原因としての役割を果たし、選択的ニューロン変性及び/又は神経保護に影響を与える。
【0035】
1側面では、本発明は対象における神経変性疾患を診断もしくは予後診断する又は対象が前記疾患を発症する素因をもつか否かを判定する又は神経変性疾患をもつ対象に投与した治療薬の効果をモニターする方法に関する。本方法は前記対象から得られたサンプル中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物の及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物の及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の両者を測定する段階と、既知疾患状態(患者)を表す参照値及び/又は既知健常状態(対照)を表す参照値及び/又は既知ブラークステージを表す参照値と前記転写産物及び/又は前記翻訳産物の前記レベル、発現及び/又は前記活性を比較する段階と、前記レベル、発現及び/又は前記活性が既知健常状態を表す参照値に比較して変動、変化しているか否か、及び/又は既知疾患状態を表す参照値と同様もしくは同一であるか否か、及び/又は前記対象が神経変性疾患をもつこともしくは前記対象が前記疾患を発症する危険が増加していることの指標である既知ブラークステージを表す参照値と同様もしくは同一であるか否かを分析することにより、前記対象における前記神経変性疾患を診断もしくは予後診断する又は前記対象が前記神経変性疾患を発症する危険が増加しているか否かを判定する段階を含む。「対象における」なる用語は対象を冒す疾患に関する限りにおいて開示方法の結果を意味し、即ち、前記疾患は対象「における」。
【0036】
別の1側面では、本発明は対象における神経変性疾患の進行をモニターする方法に関する。前記対象から得られたサンプル中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の両者を測定する。既知疾患状態又は既知健常状態又は既知ブラークステージを表す参照値と前記レベル、発現及び/又は前記活性を比較する。こうして、前記対象における前記神経変性疾患の進行をモニターする。
【0037】
更に別の1側面では、本発明は神経変性疾患の治療の効果をモニターする治療評価方法に関し、本方法は前記疾患の治療中の対象から得られたサンプル中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の両者を測定する段階を含む。既知疾患状態又は既知健常状態又は既知ブラークステージを表す参照値と前記レベル、発現もしくは前記活性、又は前記レベル及び前記活性の両者を比較することにより、前記神経変性疾患の治療を評価する。
【0038】
好ましい1態様では、前記疾患の進行をモニターするために、一定期間にわたって前記対象から採取したサンプル系列中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両者を比較する。他の好ましい態様では、前記サンプル採取の1回以上の前に前記対象を治療する。更に別の好ましい態様では、前記対象の前記治療の前後に前記レベル及び/又は活性を測定する。
【0039】
本発明の方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ及び使用の好ましい1態様では、前記KCNN3遺伝子及び蛋白質(別称小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル蛋白3、別称KCNN3又はK3、別称SK3又はSKCa3)は特に配列番号1の蛋白質(Genbank accesion number Q9UGI6)をコードするKCNN3遺伝子により表される。前記蛋白質のアミノ酸配列はGenbank accesion number AJ251016のcDNA配列(KCNN3,SK3,K3)に対応する配列番号5に対応するmRNA配列から推定される。本発明では、KCNN3はヒトKCNN3のコーディング配列(cds)を表す配列番号9の核酸配列も意味する。本発明では、前記配列は本明細書で使用する用語の意味で「単離」されている。更に、本発明では、前記KCNN3蛋白質をコードする遺伝子を一般にKCNN3遺伝子又はSK3遺伝子とも言い、簡単にKCNN3又はSK3とも言う。KCNN3又はSK3の蛋白質は一般にKCNN3蛋白質又はSK3蛋白質とも言う。
【0040】
本発明の方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ及び使用の別の好ましい1態様では、前記神経変性疾患又は障害はアルツハイマー病であり、前記対象はアルツハイマー病の徴候及び症状をもつ。
【0041】
分析及び測定するサンプルは脳組織もしくは他の組織又は体細胞からなる群から選択することが好ましい。サンプルは更に脳髄液又は他の体液(例えば唾液、尿、糞便、血液、血清、血漿又は粘液)でもよい。本発明の神経変性疾患の診断、予後診断、進行モニター又は治療評価方法は体外で実施することができ、このような方法は対象もしくは患者又は対照ヒトから分離、採取又は単離したサンプル(例えば体液又は細胞)に実施することが好ましい。
【0042】
他の好ましい態様では、前記参照値は前記神経変性疾患をもたない対象から得られたサンプル(対照サンプル、対照、健常対照サンプル)又は神経変性疾患、特にアルツハイマー病をもつ対象から得られたサンプル(患者サンプル、患者、ADサンプル)又はADの徴候及び症状の有無を問わずに規定ブラークステージのヒトから得られたサンプル中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両者の値である。
【0043】
好ましい態様では、前記対象から採取したサンプル細胞又は組織又は体液中のKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現が既知健常状態(対照サンプル)を表す参照値に対して変化しているならば、神経変性疾患、特にADであると診断もしくは予後診断されるか又はADになる危険が増加していると判定される。別の好ましい1態様では、対象から得られたサンプル細胞又は組織又は体液中のKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル及び/又は活性が神経変性疾患、特にアルツハイマー病の既知疾患状態(AD患者サンプル)を表す参照値に対して同一又は同様であるならば、前記神経変性疾患であると診断もしくは予後診断されるか又はその危険が増加していると判定される。
【0044】
更に別の好ましい態様では、対象から得られたサンプル細胞又は組織又は体液中のKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル及び/又は活性がADの徴候及び症状を発症する高い危険を示す既知ブラークステージを表す参照値に対して同一又は同様であるならば、ADであると診断もしくは予後診断されるか又はADになる危険が増加していると判定される。
【0045】
KCNN3の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の前記レベル変動変化、発現変化及び/又は前記活性変化は増加、発現上昇であることが好ましい。
【0046】
好ましい態様では、転写産物のレベル及び/又はKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の発現の測定はプライマーセットによる定量的PCR分析を使用し、対象のサンプルから抽出したRNAの逆転写により得られたcDNAに由来する前記遺伝子特異的配列を増幅することにより、対象から得られたサンプル中で実施される。本発明の実施例(vi)にプライマーセット(配列番号13,配列番号14)を示すが、本発明に開示する配列から作製した他のプライマーも使用することができる。前記遺伝子に特異的なプローブを使用したノーザンブロット又はリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)も適用できる。チップマイクロアレー技術により転写産物を測定すると更に好ましいと思われる。これらの技術は当業者に公知である(Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001;Schena M.,Microarray Biochip Technology,Eaton Publishing,Natick,MA,2000参照)。イムノアッセイの1例は特許出願WO02/14543に開示及び記載されているような酵素活性の検出及び測定である。
【0047】
本発明は更に本発明に開示するような核酸配列又はそのフラグメントもしくは変異体に固有のプライマー及びプローブの構築及び使用に関する。オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブは蛍光、生物発光、磁気又は放射性物質で特異的に標識することができる。本発明は更に前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを適宜併用した前記核酸配列又はそのフラグメント及び変異体の検出及び生産に関する。前記プライマーセットを使用して当業者に周知の方法であるPCR分析を実施し、核酸を含むサンプルから前記遺伝子特異的核酸配列を増幅することができる。このようなサンプルは健常対象又は疾患対象又は規定ブラークステージの対象に由来する。増幅の結果として特異的核酸産物が生産されるか否かと、異なる長さのフラグメントを獲得できるか否かが神経変性疾患、特にアルツハイマー病の指標となる。従って、本発明は神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関連し得る試験核酸配列を含む所与サンプル中の遺伝子突然変異及び一塩基多形の検出に有用な少なくとも10塩基長から全長コーディング配列及び遺伝子配列までの核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブを提供する。この特徴は高速DNA塩基診断試験を開発するのに有利であり、このような試験はキットのフォーマットであることも好ましい。実施例1(vi)にKCNN3のプライマーを例示する。
【0048】
更に、イムノアッセイ、活性アッセイ及び/又は結合アッセイを使用し、KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又は前記翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現、及び/又は前記翻訳産物及び/又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の活性レベルを検出することができる。これらのアッセイは抗蛋白抗体又は抗蛋白抗体と結合する二次抗体に付けた酵素、クロモダイナミック、放射性、磁気又は蛍光ラベルを利用して前記蛋白分子と抗蛋白抗体の結合量を測定することができる。更に、他の高親和性リガンドも使用できる。使用可能なイムノアッセイとしては例えばELISA、ウェスタンブロット及び当業者に公知の他の技術が挙げられる(Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1999及びEdwards R,Immunodiagnostics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford;England,1999参照)。これらの全検出技術はマイクロアレー、蛋白アレー、抗体マイクロアレー、組織マイクロアレー、電子バイオチップ又は蛋白チップ技術のフォーマットで利用することもできる(Schena M.,Microarray Biochip Technology,Eaton Publishing,Natick,MA,2000参照)。
【0049】
別の側面では、本発明は対象における神経変性疾患、特にADを診断もしくは予後診断するか、又は対象が神経変性疾患、特にADを発症する性向もしくは素因の有無を判定するか、又は神経変性疾患、特にADをもつ対象に投与した治療薬の効果をモニターするためのキットに関し、前記キットは、
(a)(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬、(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬から構成される群から選択される少なくとも1種の試薬と;
(b)−前記対象から得られたサンプル中のKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベルもしくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両者及び/又は発現を測定し;
−既知疾患状態(患者)を表す参照値及び/又は既知健常状態(対照)を表す参照値及び/又は既知ブラークステージを表す参照値と前記転写産物及び/又は前記翻訳産物の前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現を比較し;
−前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現が既知健常状態を表す参照値に比較して変化しているか否か、及び/又は既知疾患状態を表す参照値もしくは既知ブラークステージを表す参照値と同様もしくは同一であるか否かを分析し;
−神経変性疾患、特にADを診断もしくは予後診断し又は前記対象が前記疾患を発症する性向もしくは素因の有無を判定し、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両者が既知健常状態(対照)を表す参照値に比較して変動もしくは変化しているか、及び/又は前記転写産物及び/又は前記翻訳産物のレベル、発現もしくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両者が既知疾患状態(患者)、好ましくはADの疾患状態(AD患者)を表す参照値及び/又は既知ブラークステージを表す参照値と同様もしくは同一であるならば、神経変性疾患、特にADであると診断もしくは予後診断する、前記疾患を発症する性向もしくは素因が増加しており、ADの徴候及び症状を発症する危険が高いと判定することにより、神経変性疾患、特にADを診断もしくは予後診断する、又は対象が前記疾患を発症する性向もしくは素因の有無を判定する、又は治療効果をモニターするための説明書を含む。本発明のキットは神経変性疾患、特にADを発症する危険のある個体の識別に特に有用であると思われる。
【0050】
KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又は翻訳産物を選択的に検出する試薬は各種長さの配列、配列フラグメント、抗体、アプタマー、siRNA、マイクロRNA及びリボザイムとすることができる。
【0051】
別の1側面では、本発明は対象における神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断及び予後診断する方法、対象が前記疾患を発症する性向もしくは素因の有無を判定する方法および神経変性疾患、特にADをもつ対象に投与した治療薬の効果をモニターする方法におけるキットの使用に関する。
【0052】
従って、本発明のキットは疾患の過程で不可逆的損傷を受ける前に発症前の初期予防対策又は治療介入のために特定個体を標的とする手段として利用することができる。更に、好ましい態様では、本発明のキットは対象における神経変性疾患、特にADの進行をモニターすると共に、前記対象の前記疾患の治療処置の成否をモニターするために有用である。
【0053】
別の側面では、本発明は対象における神経変性疾患、特にADの治療又は予防方法として、前記治療を必要とする前記対象に、(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベルもしくは活性又は前記レベル及び前記活性の両者に直接又は間接的に作用する1種以上の作用剤、モジュレーター、選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又は抗体を治療又は予防のために有効な量及び処方で投与する段階を含む方法に関する。前記作用剤は小分子でもよいし、ペプチド、オリゴペプチド又はポリペプチドでもよい。前記ペプチド、オリゴペプチド又はポリペプチドとしてはKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体が挙げられる。本発明による神経変性疾患、特にADの治療又は予防剤はヌクレオチド、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドから構成されるものでもよい。前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドはKCNN3蛋白質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列をセンス方向又はアンチセンス方向のどちらに含むものでもよい。
【0054】
好ましい態様では、前記方法は前記1種以上の作用剤を投与するために遺伝子療法及び/又はアンチセンス核酸技術のそれ自体公知の手法の適用を含む。一般に、遺伝子療法には突然変異遺伝子の分子置換、新規遺伝子の付加による治療蛋白質の合成、及び組換え発現法又は薬剤による内在細胞遺伝子発現の調節等の数種のアプローチがある。遺伝子導入技術は詳細に記載されており(例えばBehr,Acc Chem Res 1993,26:274−278及びMulligan,Science 1993,260:926−931参照)、細胞へのDNAの機械的マイクロインジェクション等の直接遺伝子導入技術に加え、生物ベクター(例えば組換えウイルス、特にレトロウイルス)又はモデルリポソームを利用する間接技術、あるいはポリカチオンとのDNA共沈によるトランスフェクション、化学的(溶剤、界面活性剤、ポリマー、酵素)又は物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜刺激に基づく技術等が挙げられる。中枢神経系への出生後遺伝子導入は詳細に記載されている(例えばWolff,Curr Opin Neurobiol 1993,3:743−748参照)。
【0055】
特に、本発明はアンチセンス核酸療法、即ちアンチセンス核酸又はその誘導体を所定の病態細胞に導入することにより不適切発現又は欠損遺伝子を発現を低下させることにより神経変性疾患を治療又は予防する方法に関する(例えばGillespie,DN&P 1992,5:389−395;Agrawal and Akhtar,Trends Biotechnol 1995,13:197−199;Crooke,Biotechnology 1992,10:882−6参照)。ハイブリド形成ストラテジー以外に、リボザイム(即ち酵素として作用するRNA分子)の利用により、疾患メッセージをもつRNAを破壊することも記載されている(例えばBarinaga,Science 1993,262:1512−1514参照)。好ましい態様では、治療する対象はヒトであり、治療用アンチセンス核酸又はその誘導体はKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物に対する。対象の中枢神経系、好ましくは脳の細胞をこのように治療することが好ましい。細胞導入はアンチセンス核酸及びその誘導体をキャリヤー粒子に結合する方法や、上記技術等の公知ストラテジーにより実施することができる。標的治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するためのストラテジーは当業者に公知である(例えばWickstrom,Trends Biotechnol 1992,10:281−287参照)。場合により、単なる局所投与により送達を実施することができる。アンチセンスRNAの細胞内発現を目的とする他のアプローチもある。このストラテジーでは、ターゲット核酸の1領域に相補的なRNAの合成を誘導する組換え遺伝子で細胞をex vivo形質転換する。細胞内で発現されるアンチセンスRNAの治療使用は手法的には遺伝子療法と同様である。RNA干渉(RNAi)として広く知られる2本鎖RNAの使用により遺伝子の細胞内発現を調節する方法が最近開発されたが、この方法も核酸治療に有効なアプローチであると思われる(Hannon,Nature 2002,418:244−251)。
【0056】
他の好ましい態様では、前記方法は前記対象の中枢神経系、好ましくは脳にドナー細胞を移植する段階を含み、ドナー細胞は移植拒絶反応を最小限にするか又は低減するように処理することが好ましく、前記ドナー細胞は前記1種以上の作用剤をコードする少なくとも1個のトランスジーンの挿入により遺伝子改変されている。前記トランスジーンはウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに担持させる。トランスジーンはトランスジーンをコードするDNAの非ウイルス物理的トランスフェクション、特にマイクロインジェクションによりドナー細胞に挿入することができる。トランスジーンの挿入はエレクトロポレーション、化学的トランスフェクション、特にリン酸カルシウムトランスフェクション又はリポソームトランスフェクションにより実施することができる(Mc Celland and Pardee,Expression Genetics:Accelerated and High−Throughput Methods,Eaton Publishing,Natick,MA,1999参照)。
【0057】
好ましい態様では、神経変性疾患、特にADの前記治療及び予防剤は該当細胞を前記対象に導入する段階を含む方法により前記対象、特にヒトに投与することが可能な治療用蛋白質であり、前記該当細胞は前記治療用蛋白質をコードするDNAセグメントを挿入するようにin vitro処理されており、前記該当細胞は治療有効量の前記治療用蛋白質を前記対象でin vivo発現する。前記DNAセグメントはウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターにより前記細胞にin vitro挿入することができる。
【0058】
本発明の治療方法は、胚性幹細胞又は胚性生殖細胞と成人神経幹細胞を従来記載されている細胞及び遺伝子治療法の任意のものと併用する治療クローニング、移植及び幹細胞療法の適用を含む。幹細胞は全能性でも多能性でもよい。更に臓器特異的でもよい。疾患及び/又は損傷脳細胞又は組織の修復ストラテジーは、(i)ドナー細胞を成人組織から採取する段階を含む。遺伝材料を除去した未受精卵にドナー細胞の核を移植する。体細胞核導入後の細胞の胚盤胞期から胚性幹細胞を単離する。次に、分化因子を使用して特定細胞型、好ましくは神経細胞に特異的に幹細胞を発生させる(Lanzaら,Nature Medicine 1999,9:975−977)。あるいは、前記ストラテジーは、(ii)中枢神経系又は骨髄(間葉系幹細胞)から単離した成人幹細胞をin vitro増殖とその後のグラフト及び移植のために精製する段階、あるいは、(iii)内在神経幹細胞を機能的ニューロンに増殖、移動及び分化させるように直接誘導する段階を含む(Peterson DA,Curr.Opin.Pharmacol.2002,2:34−42)。成人脳の胚中心はニューロン損傷又は異常を受けないので、損傷又は疾患脳組織の修復には成人神経幹細胞が非常に有望である(Colman A,Drug Discovery World 2001,7:66−71)。
【0059】
好ましい態様では、本発明の治療又は予防対象はヒト又は非ヒト実験動物(例えばマウス又はラット)、家畜又は非ヒト霊長類とすることができる。実験動物は神経変性障害の動物モデル(例えばAD型神経病理をもつトランスジェニックマウス及び/又はノックアウトマウス)とすることができる。
【0060】
別の好ましい1態様では、KCNN3サブユニットにより形成されるカリウムチャネルあるいはKCNN3及び/又はKCNN1及び/又はKCNN2及び/又はKCNN4サブユニットにより形成されるヘテロメリックカリウムチャネルに及ぼす化合物及び/又は作用剤及び/又はモジュレーターの効果を調査するための方法が提供される。この方法によると、適切な細胞(例えばCHO−K1細胞、COS−7細胞又はHEK293細胞)又は神経細胞株で単独で発現されるあるいはKCNN1及び/又はKCNN2及び/又はKCNN4カリウムチャネルサブユニットと同時発現されるKCNN3サブユニットにより媒介されるカリウム電流に及ぼす化合物及び/又は作用剤の電気生理的効果を試験する。前記試験を実施するためには、ヒト遺伝子産物KCNN3をコードするcDNAを適切な発現ベクターにクローニングする。KCNN3及び/又はKCNN1及び/又はKCNN2及び/又はKCNN4をコードするcDNAを別の適切な発現ベクターにクローニングする。好ましくはDMRIE−C(カチオン脂質1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド−コレステロールのリポソーム製剤)等の試薬を使用して上記のような適切な細胞に前記プラスミドをトランスフェクトする。電圧クランプモードでパッチクランプ実験(Hamillら,Pflugers Arch.1981,391:85−100)を実施することができ、全細胞電流を記録し、得られたシグナルを増幅し、ディジタル化し、保存し、適切なソフトウェア、例えばPulse/Pulsefit(HEKA,Lambrecht,Germany)を使用して分析する。電流「ランダウン」又は「ランアップ」(Varnumら,Pro.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:11528−11532)が化合物及び/又は作用剤効果評価にはまだ強過ぎる場合には、穿孔パッチクランプ法を使用して前記カリウムチャネルの媒介電流の調査を実施し、不特定電流振幅変化を防ぐことができる(Dartら,J.Physiol.1995,483:29−39;Dinesh & Hablitz,Brain Res.1990,535:318−322)。単独で発現されるかあるいはKCNN1及び/又はKCNN2及び/又はKCNN4と同時発現されるKCNN3に及ぼす試験化合物の効果及び可逆性の調査の刺激プロトコールの1例を以下に記載する。例えば−60mVの保持電圧で細胞をクランプする。パルスサイクル時間は15秒間とすることができる。化合物及び/又は作用剤試験では、安定にトランスフェクトした細胞を例えば−50mVの保持電位から例えば−10又は−20mVずつ−160mVまで例えば100m秒間又は250m秒間又は500m秒間過分極した後に、例えば+90mVまで1秒間脱分極することができる。+90mVまでの試験パルスの終点の電流振幅を分析に使用する。この方法は単独で発現されるあるいはKCNN1及び/又はKCNN2及び/又はKCNN4と同時に発現されるKCNN3を開閉、活性化、不活化又はその生物物理学的特性を調節することが可能な化合物及び/又は作用剤を同定及び試験するのにも適している。高スループットスクリーニング技術(Netzerら,Curr Opin Drug Discov Devel 2003,4:462−469)で細胞株を使用することもできる。こうして同定及び試験したカリウムチャネル、特に小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルのモジュレーターは学習及び記憶機能に潜在的に影響を与えるので、例えば神経変性疾患及びアルツハイマー病の治療アプローチに使用することができる。
【0061】
別の1側面では、本発明は(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体から構成される群から選択される少なくとも1種の物質の活性もしくはレベル又は前記活性及び前記レベルの両者、及び/又は発現の作用剤、選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又はモジュレーターに関し、前記作用剤、選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又はモジュレーターは神経変性疾患、特にADの治療に潜在的活性をもつ。
【0062】
別の側面では、本発明は神経変性疾患、特にADの治療又は予防用医薬の製造における、(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体から構成される群から選択される少なくとも1種の物質の活性もしくはレベル又は前記活性及び前記レベルの両者、及び/又は発現の作用剤、抗体、選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又はモジュレーターの使用を提供する。前記抗体は特に配列番号1をもつKCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である免疫原に対して特異的に免疫反応性のものとすることができる。
【0063】
別の側面では、本発明は前記作用剤、抗体、選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又はモジュレーターと、好ましくは医薬キャリヤーを含有する医薬組成物に関する。前記キャリヤーとはモジュレーターと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを意味する。
【0064】
1側面では、本発明は治療又は予防有効量の前記医薬組成物を充填した1個以上の容器を含むキットも提供する。
【0065】
別の1側面では、本発明は天然KCNN3遺伝子転写制御因子以外の転写因子の制御下に特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする非天然遺伝子配列又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体を含む組換え遺伝子改変非ヒト動物に関する。前記組換え非ヒト動物の作製は、(i)前記遺伝子配列と選択マーカー配列を含む遺伝子ターゲティング構築物を提供する段階と、(ii)前記ターゲティング構築物を非ヒト動物の幹細胞に導入する段階と、(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚に導入する段階と、(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物に移植する段階と、(v)前記胚を満期まで発生させる段階と、(vi)ゲノムの両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の変異を含む遺伝子改変非ヒト動物を同定する段階と、(vii)段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を育種し、ゲノムに前記遺伝子配列の変異を含む遺伝子改変非ヒト動物を得る段階を含み、前記遺伝子の発現、異所発現、過少発現、非発現又は過剰発現、及び前記遺伝子配列の破壊又は改変の結果として、神経変性疾患、特にADの徴候及び症状を発症する素因を示す前記非ヒト動物が得られる。このような動物を作製及び構築するためのストラテジー及び技術は当業者に公知である(例えばCapecchi,Science 1989,244:1288−1292及びHoganら,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1994及びJackson and Abbott,Mouse Genetics and Transgenics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford,England,1999参照)。
【0066】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病を研究するための動物モデル、試験動物又は対照動物としてこのような遺伝子改変組換え非ヒト動物を利用することが好ましい。このような動物は神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬及び治療薬の開発において化合物、作用剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び検証するために有用であると思われる。本発明ではスクリーニング法におけるこのような遺伝子改変動物の使用を開示する。
【0067】
別の1側面では、本発明は神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬及び治療薬の開発において化合物、作用剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び検証するために、特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子配列又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体を異所発現、過少発現、非発現もしくは過剰発現又は破壊又は別の方法で改変させた細胞を利用する。本発明ではスクリーニング法におけるこのような細胞の使用を開示する。
【0068】
別の側面では、本発明は神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストに関し、前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストは(i)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体から構成される群から選択される1種以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させることができる。このスクリーニング方法は、(a)細胞を試験化合物と接触させる段階と、(b)(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両者、及び/又は発現を測定する段階と、(c)前記試験化合物と接触させていない対照細胞における前記物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両者、及び/又は発現を測定する段階と、(d)段階(b)及び(c)の細胞における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較し、接触させた細胞における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現が変化しているならば、試験化合物は神経変性疾患及び障害の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストであると判定する段階を含む。
【0069】
別の1側面では、本発明は神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストのスクリーニング方法に関し、前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストは(i)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体から構成される群から選択される1種以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させることができ、前記方法は、(a)神経変性疾患又は関連疾患もしくは障害の徴候及び症状を発症する素因をもつか又は既に発症している非ヒト試験動物(前記動物は本発明に開示するような動物モデルとすることができる)に試験化合物を投与する段階と、(b)(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、(c)同様に神経変性疾患又は関連疾患もしくは障害の徴候及び症状を発症する素因をもつか又は既に発症しており、前記試験化合物を投与していない非ヒト対照動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、(d)段階(b)及び(c)の動物における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較し、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現が変化しているならば、試験化合物は神経変性疾患及び障害の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストであると判定する段階を含む。
【0070】
別の態様では、本発明は(i)上記スクリーニングアッセイの方法により神経変性疾患の作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストを同定する段階と、(ii)前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストを医薬キャリヤーと混合する段階を含む医薬の製造方法を提供する。但し、前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストは他の型のスクリーニング方法及びアッセイにより同定可能な場合もある。
【0071】
別の側面では、本発明は、リガンドと特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の結合阻害度又は結合増加度を測定するために及び/又は特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体に対する前記化合物の結合度を測定するために、1種以上の化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物を高スループットフォーマットでスクリーニングするためのアッセイを提供する。リガンドとKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の結合阻害度を測定するために、前記スクリーニングアッセイは、(i)前記KCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の懸濁液を複数の容器に加える段階と、(ii)前記阻害についてスクリーニングしようとする化合物又は複数の化合物を前記複数の容器に加える段階と、(iii)検出可能なリガンド、好ましくは蛍光標識リガンドを前記容器に加える段階と、(iv)前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体と、前記化合物又は複数化合物と、前記検出可能なリガンド、好ましくは蛍光標識リガンドを温置する段階と、(v)前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する段階と、(vi)前記化合物の1種以上による前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体と前記リガンドの結合阻害度を測定する段階を含む。前記KCNN3翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体を人工リポソームに再構成し、対応するプロテオリポソームを作製し、リガンドと前記KCNN3翻訳産物の結合阻害度を測定することが好ましいと思われる。KCNN3翻訳産物を界面活性剤からリポソームに再構成する方法は詳細に記載されている(Schwarzら,Biochemistry 1999,38:9456−9464;Krivosheev and Usanov,Biochemistry−Moscow 1997,62:1064−1073)。蛍光標識リガンドを使用する代わりに、所定側面では当業者に公知の他の任意の検出可能なラベル(例えば放射性ラベル)を使用し、相応に検出すると有利な場合がある。前記方法は新規化合物の同定に有用であることに加え、KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の遺伝子産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体とリガンドの結合を阻害する能力が改善又は他の方法で最適化されている化合物を評価するためにも有用であろう。蛍光結合アッセイの1例として、キャリヤー粒子の使用に基づくアッセイが特許出願WO00/52451に開示及び記載されている。別の例は特許WO02/01226に記載されている競合アッセイ法である。本発明のスクリーニングアッセイに好ましいシグナル検出方法は以下の特許出願:WO96/13744、WO98/16814、WO98/23942、WO99/17086、WO99/34195、WO00/66985、WO01/59436、WO01/59416に記載されている。
【0072】
別の1態様では、本発明は(i)上記阻害結合アッセイによりリガンドとKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の遺伝子産物の結合の阻害剤として化合物を同定する段階と、(ii)前記化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む医薬の製造方法を提供する。但し、前記化合物は他の型のスクリーニングアッセイにより同定可能な場合もある。
【0073】
特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体に対する化合物の結合度を測定するために、1種以上の化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物を高スループットフォーマットでスクリーニングするためのアッセイも提供され、前記スクリーニングアッセイは、(i)前記KCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の懸濁液を複数の容器に加える段階と、(ii)前記結合についてスクリーニングしようとする検出可能な化合物、好ましくは蛍光標識化合物又は複数の検出可能な化合物、好ましくは蛍光標識化合物を前記複数の容器に加える段階と、(iii)前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体と、前記検出可能な化合物、好ましくは蛍光標識化合物又は複数の検出可能な化合物、好ましくは蛍光標識化合物を温置する段階と、(iv)前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する段階と、(v)前記KCNN3蛋白質又は前記そのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体に対する前記化合物の1種以上の結合度を測定する段階を含む。この型のアッセイでは、蛍光ラベルを使用することが好ましいと思われる。但し、他の任意の型の検出可能なラベルも使用できる。更にこの型のアッセイでは、KCNN3翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体を本発明に記載するような人工リポソームに再構成することが好ましいと思われる。前記アッセイ方法は新規化合物の同定に有用であることに加え、KCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体との結合能が改善又は他の方法で最適化されている化合物を評価するためにも有用であろう。
【0074】
別の1態様では、本発明は(i)上記結合アッセイによりKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合剤としての化合物を同定する段階と、(ii)前記化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む医薬の製造方法を提供する。但し、前記化合物は他の型のスクリーニングアッセイにより同定可能な場合もある。
【0075】
別の態様では、本発明は本発明のスクリーニングアッセイの方法のいずれかにより獲得可能な医薬を提供する。別の1態様では、本発明は本発明のスクリーニングアッセイの方法のいずれかにより得られた医薬を提供する。
【0076】
本発明の別の側面はKCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である蛋白分子に関し、および、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の検出用診断ターゲットとしての特に配列番号1をもつ前記蛋白分子の使用に関する。
【0077】
本発明は更に、KCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である蛋白分子に関し、および、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を予防又は治療又は改善する作用剤、モジュレーター、選択的アンダコニスト、アゴニスト、試薬又は化合物のスクリーニングターゲットとしての特に配列番号1をもつ前記蛋白分子の使用に関する。
【0078】
本発明は免疫原に対して特異的に免疫反応性の抗体に関し、前記免疫原は特に配列番号1をもつKCNN3蛋白質をコードするKCNN3遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である。この免疫原は前記遺伝子の翻訳産物の免疫原性又は抗原性エピトープ又は部分とすることができ、翻訳産物の前記免疫原性又は抗原性部分はポリペプチドであり、前記ポリペプチドは動物に抗体応答を誘発し、前記ポリペプチドは前記抗体と免疫特異的に結合する。抗体作製方法は当分野で周知である(Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1988参照)。本発明で使用する「抗体」なる用語は当分野で公知の全形態の抗体を包含し、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、組換え抗体、抗イディオタイプ抗体、ヒト化抗体又は1本鎖抗体とそのフラグメントが挙げられる(Dubel and Breitling,Recombinant Antibodies,Wiley−Liss,New York,NY,1999参照)。本発明の抗体は例えば酵素イムノアッセイ(例えば酵素抗体法,ELISA)、ラジオイムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ、ウェスタンブロット、免疫沈降法及び抗体マイクロアレー等の最先端技術(Harlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1999及びEdwards R.,Immunodiagnostics:A Practical Approach,Oxford University Press,Oxford,England,1999参照)による各種診断及び治療法で有用である。これらの方法はKCNN3遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の検出に利用される。
【0079】
本発明の好ましい1態様では、対象から得られたサンプル中の細胞の病理状態を検出するために前記抗体を使用することができ、前記細胞を前記抗体で免疫細胞化学的に染色し、既知健常状態を示す細胞に比較して前記細胞中の染色度が変化しているか又は染色パターンが変化しているならば、前記細胞は病理状態にあると判定する。病理状態は神経変性疾患、特にADに関連することが好ましい。細胞の免疫細胞化学的染色は当業者に周知の多数の各種実験方法により実施することができる。しかし、自動抗体結合検出法を適用し、US6150173に記載の方法に従って細胞の染色度の測定、又は細胞の細胞染色パターンもしくは亜細胞染色パターンの測定、又は細胞表面上もしくは細胞内のオルガネラ及び他の亜細胞構造間の抗原の位置分布測定を実施することが好ましいと思われる。
【0080】
本発明の他の特徴及び利点は図面と実施例に関する以下の記載から自明である。これらの図面及び実施例は単なる例示であり、他の開示を限定するものではない。
【0081】
(図面)
図1はGeneChip分析により測定し比較した各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAのレベルの差異の識別を示す。各mRNA種のレベルはAD進行と定量的に相関するので、Braak and Braakによる脳組織サンプルの神経病理段階分類(ブラークステージ分類)により測定する場合にADの指標となることが明らかである。ブラークステージ0の5人の異なるドナー(C011,C012,C026,C027及びC032)、ブラークステージ1の7人の異なるドナー(C014,C028,C029,C030,C036,C038及びC039)、ブラークステージ2の5人の異なるドナー(C008,C031,C033,C034及びDE03)、ブラークステージ3の4人の異なるドナー(C025,DE07,DE11及びC057)及びブラークステージ4の4人の異なるドナー(P012,P046,P047及びP068)の各々の前頭葉皮質と下側頭葉皮質のcRNAプローブを夫々Affymetrix Human Genome U 133 Plus 2.0 Arrayの分析に付した。主に下側頭葉組織でブラークステージと共に漸進的に進行するKCNN3遺伝子の発現上昇を反映する明白な差異が認められる。
【0082】
図2は定量的RT−PCR分析により測定したADの指標となる各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAのレベルの差異を確認するためのデータを示す。GeneChip分析で使用したと同一ドナーの前頭葉皮質(Frontal)と下側頭葉皮質(Temporal)のcDNAを利用し、Roche Lightcycler高速熱サイクル技術を使用して定量的RT−PCRを実施した。データはその遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子であるシクロフィリンBの値に正規化した。最低レベルのブラークステージ0のサンプルと高レベルブラークステージ4に相当するサンプルを比較すると、KCNN3の遺伝子発現レベルの実質的な差異が明白に認められる。
【0083】
図3は定量的RT−PCRと98%信頼性レベルの中央値の統計法を使用して測定したADの指標となる各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAの絶対レベルの分析を示す(Sachs L(1988)Statistische Methoden:Planung und Auswertung.Heidelberg New York,p.60)。ブラークステージ0〜2の対象を含む対照群を規定することによりデータを計算し、ブラークステージ3〜4を含む進行AD病理をもつ規定群について計算したデータと比較する。前頭葉皮質と下側頭葉皮質に発現上昇を反映する明白な差異が認められ、GeneChip分析結果が確証される。ブラークステージ0〜2とブラークステージ3〜4の下側頭葉皮質(T)を比較した場合に最も顕著な差異が明白に認められる。この差異は対照ヒトの下側頭葉皮質及び前頭葉皮質に対する進行AD病理をもつ個体の下側頭葉皮質及び前頭葉皮質におけるKCNN3の発現上昇と、進行AD病理をもつ個体の前頭葉皮質に対する下側頭葉皮質におけるKCNN3の発現上昇を反映している。
【0084】
図4AはヒトKCNN3蛋白質(スプライス変異体1,sv1)(UniProt primary accesion number Q9UGI6)のアミノ酸配列である配列番号1を開示する。このKCNN3蛋白質は736アミノ酸を含む。
【0085】
図4BはヒトKCNN3蛋白質(スプライス変異体2,sv2)(UniProt primary accesion number Q5VT74)のアミノ酸配列である配列番号2を開示する。このKCNN3蛋白質は731アミノ酸を含む。
【0086】
図4CはヒトKCNN3蛋白質(スプライス変異体3,sv3)(UniProt primary accesion number Q8WXG7)のアミノ酸配列である配列番号3を開示する。このKCNN3蛋白質は426アミノ酸を含む。
【0087】
図4DはヒトKCNN3蛋白質(スプライス変異体4,sv4)(UniProt primary accesion number Q86VF9)のアミノ酸配列である配列番号4を開示する。このKCNN3蛋白質は418アミノ酸を含む。
【0088】
図5AはKCNN3 sv1蛋白質をコードする3095ヌクレオチドのヒトKCNN3 cDNA(スプライス変異体1,sv1)(Genbank accesion number AJ251016)のヌクレオチド配列である配列番号5を示す。
【0089】
図5BはKCNN3 sv2蛋白質をコードする2962ヌクレオチドのヒトKCNN3 cDNA(スプライス変異体2,sv2)(Ensembl transcript ID number ENST00000368469)のヌクレオチド配列である配列番号6を示す。
【0090】
図5CはKCNN3 sv3蛋白質をコードする1966ヌクレオチドのヒトKCNN3 cDNA(スプライス変異体3,sv3)(Ensembl transcript ID number ENST00000361147)のヌクレオチド配列である配列番号7を示す。
【0091】
図5DはKCNN3 sv4蛋白質をコードする1658ヌクレオチドのヒトKCNN3 cDNA(スプライス変異体4,sv4)(Ensembl transcript ID number ENST00000358505)のヌクレオチド配列である配列番号8を示す。
【0092】
図6Aは配列番号5のヌクレオチド334〜2544からなる2211ヌクレオチドのヒトKCNN3 sv1のコーディング配列(cds)である配列番号9を示す。
【0093】
図6Bは配列番号6のヌクレオチド317〜2512からなる2196ヌクレオチドのヒトKCNN3 sv2のコーディング配列(cds)である配列番号10を示す。
【0094】
図6Cは配列番号7のヌクレオチド151〜1431からなる1281ヌクレオチドのヒトKCNN3 sv3のコーディング配列(cds)である配列番号11を示す。
【0095】
図6Dは配列番号8のヌクレオチド378〜1634からなる1257ヌクレオチドのヒトKCNN3 sv4のコーディング配列(cds)である配列番号12を示す。
【0096】
図7は定量的RT−PCRによるKCNN3転写レベルプロファイリングに使用したプライマー(プライマーA,配列番号13及びプライマーB,配列番号14)と、配列番号5,KCNN3 cDNAの対応するクリッピングの配列アラインメントを示す。
【0097】
図8はKCNN3 cDNA配列(配列番号5)、コーディング配列(配列番号9)及びKCNN3転写レベルプロファイリングに使用した両者のプライマー配列(プライマーA,配列番号13及びプライマーB,配列番号14)のアラインメントを模式的に示す。配列位置を右側に示す。
【0098】
図9はAD患者(ブラークステージ3から開始)からのヒト脳検体で観察されたKCNN3蛋白質と皮質βアミロイド斑の同時沈着を例示する。これに対して、AD徴候及び症状をもつと診断されず、神経病理学的にブラークステージ0〜2に分類された年齢一致対照からの脳検体にこのようなKCNN3蛋白質の沈着は観察されない。この典型例は、AD患者ではKCNN3蛋白質がアミロイド斑と同時沈着する(例えば矢印)が、対照では観察されないという一般知見を実証している。ブラークステージ0〜4のAD患者及び年齢一致対照からの新鮮凍結死後ヒト脳前頭葉(F,上段)及び下側頭葉(T,下段)皮質検体のアセトン固定クリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真(原倍率10倍)を示す。緑色シグナルはアフィニティー精製ポリクローナルウサギ抗KCNN3抗血清(Alomone Labs)と反応させ、AlexaFluor−488標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)により検出したKCNN3特異的免疫反応性を表す。赤色シグナルはマウスモノクローナル抗NeuN抗体(Chemicon)と反応させた後にCy3標識ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)で検出したニューロン特異的体細胞マーカー蛋白質NeuNを示す。核はDAPI(Sigma)により青色染色される。神経網の拡散緑色バックグラウンド染色を示す領域は皮質灰白質に相当し、白質は標識しないので、暗色で出現する。
【0099】
図10はAD患者(ブラークステージ4)からのヒト脳検体におけるKCNN3蛋白質と皮質βアミロイド斑の同時沈着を拡大図で例示する。これに対して、AD徴候及び症状をもつと診断されず、神経病理学的にブラークステージ0〜2に分類された年齢一致対照からの脳検体にこのようなKCNN3蛋白質の沈着は観察されない。これらの特徴的画像はKCNN3蛋白質が患者ではアミロイド斑と同時沈着するが、対照では同時沈着しないことを実証している。夫々ブラークステージ4及び0のAD患者及び年齢一致対照からの新鮮凍結死後ヒト脳前頭葉(F)及び下側頭葉(T)皮質検体のアセトン固定クリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真の高倍率拡大図(原倍率40倍)を示す。緑色シグナルはアフィニティー精製ポリクローナルウサギ抗KCNN3抗血清(Alomone Labs)と反応させ、AlexaFluor−488標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)により検出した特異的KCNN3免疫反応性を表す。赤色シグナルはマウスモノクローナル抗NeuN抗体(Chemicon)と反応させた後にCy3標識ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)で検出したニューロン特異的体細胞マーカー蛋白質NeuNを示す。核はDAPI(Sigma)により青色染色される。
【0100】
図11はAD患者(ブラークステージ4)の皮質の反応性星状細胞が高レベルのKCNN3蛋白質を含有することを例示する。これに対して、AD徴候及び症状をもつと診断されず、神経病理学的にブラークステージ0に分類された年齢一致対照の皮質の星状細胞ではPRKX蛋白質を検出することができない。更に、この図もKCNN3蛋白質含有斑沈着がAD患者サンプルのみに存在し、対照には存在しないことを実証している。夫々ブラークステージ4及び0のAD患者及び年齢一致対照からの新鮮凍結死後ヒト脳前頭葉皮質検体のアセトン固定クリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真の高倍率拡大図(原倍率40倍)を示す。特異的KCNN3免疫反応性はアフィニティー精製ポリクローナルウサギ抗KCNN3抗血清(Alomone Labs)と反応させた後にAlexaFluor−488標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)により検出し、グレースケール画像(各パネルの右上図)又は合併画像の緑色シグナル(各パネルの左下図)として可視化した。星状細胞特異的マーカー蛋白質GFAPはマウスモノクローナル抗GFAP抗体(Abeam)と反応させた後にCy3標識ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)で検出し、グレースケール画像(各パネルの左上図)又は合併画像の赤色シグナル(各パネルの左下図)として可視化した。核はDAPI(Sigma)により青色染色される。右下図は対応する相コントラスト画像を示す。
【0101】
図12はCHO細胞におけるKCNN3蛋白質産生のウェスタンブロット分析を示す。KCNN3のC末端にmycタグを付けて組織培養細胞に導入した。CMVプロモーターによりKCNN3の発現を誘導した。細胞を回収し、溶解させ、mycエピトープに対する抗体を3000倍の希釈倍率で使用してウェスタンブロット分析した。レーンAには約80kDaで泳動する強いバンドが出現する。対照CHO野生型細胞株では、同一分子量で泳動する対応するバンドは認められない(レーンB)。
【0102】
図13はCHO細胞におけるKCNN3発現の免疫蛍光分析を示す。KCNN3のC末端にmycタグを付けて組織培養細胞に導入した。CMVプロモーターの制御下でKCNN3を発現させた。KCNN3発現細胞をガラスカバーストリップに播種し、24時間温置後に細胞を免疫蛍光分析用にメタノールで固定した。mycエピトープに対する抗体を3000倍の希釈倍率で加えた後に抗myc抗体に対する蛍光標識抗体(1000倍)を加えて温置することによりKCNN3の発現を検出した。次に、細胞を顕微鏡スライドに載せ、蛍光顕微鏡で分析した。左図と中央図では細胞の細胞質と原形質膜にKCNN3の発現が認められる(膜局在を示す細胞の境界における発現を指す矢頭参照)。比較のために、蛍光を検出できないか又は有意低レベルでしか検出できず、従ってKCNN3が全く又は非常に低レベルでしか発現されない領域である細胞の核も矢印で示す(左右図)。左右図の青色はDAPI(1000倍)により染色された細胞の核を示す。
【0103】
図14は細胞系におけるKCNN3イオンチャネル調節化合物のスクリーニングのためのアッセイ開発を要約する。CMVプロモーター下にKCNN3(CHO/KCNN3)を安定的に発現するCHO細胞をアパミン及びトリフルオロペラチンと共に30分間温置した後、イオンチャネルを活性化するイオノマイシン(1μM終濃度)を加えた。カルシウムが細胞に侵入すると、カリウムチャネルが活性化されるので、細胞の静止膜電位に作用し、蛍光色素により検出される。その後5分間に測定された最小蛍光値を実験開始時に記録された最大シグナルから差し引き、細胞と共に温置した基質の濃度に対してプロットした。基質の不在下及び最低濃度で得られた値は膜電位過分極を生じる完全活性カリウムチャネルを表す。同図はイオノマイシンの添加(赤矢印)後に蛍光が低下し、KCNN3が開いたことも示している。
【0104】
図15はKCNN3アンタゴニストであるアパミン及びトリフルオロペラチンのIC50の決定を示す。アパミン及びトリフルオロペラチンを細胞と共に30分間温置した後、イオノマイシン(1μM終濃度)を加えた。その後の5分間の測定時間中の最小蛍光値を実験開始時に記録された最大シグナルから差し引き、基質の濃度に対してプロットした。IC50計算値はアパミン16nM、トリフルオロペラチン18μMであり、Terstappenら(Neuropharmacology 40,2001:772−783)で報告されているIC50値に合致する。CHO野生型細胞(CHO/−)の場合には、夫々イオノマイシンとアパミンを添加しても効果を認めることができなかった。
【0105】
図16は細胞KCNN3スクリーニングアッセイのZ’値評価を示す。イオノマイシン添加前と細胞をフルオキセチンと共に120秒間温置した後の蛍光強度の差を測定した。イオノマイシンによるカルシウム流入によりチャネルが開いた後、細胞の静止膜電位の過分極が生じる。他方、フルオキセチンの存在下では、イオンチャネルは遮断され、細胞へのカルシウム流入は蛍光強度の比較的小さい変化しか生じず、従って、静止膜電位の変化も小さい。上記実験でイオノマイシンとフルオキセチンの共存下における蛍光差の平均値は15912rfu(標準偏差3636rfu)であり、イオノマイシン単独の存在下における細胞蛍光の平均値は124086rfu(標準偏差12615rfu)である。Z’値を計算すると、0.55である。2回目の実験のZ’値は0.59であった。
【実施例1】
【0106】
ヒト脳組織サンプルにおける差異的に発現されるアルツハイマー病関連遺伝子の同定及び確認
ADに関連する遺伝子の発現における特異的差異を識別するために、臨床的及び神経病理学的に十分に特性決定された個体からのヒト脳組織検体に由来する各種cRNAプローブを使用してGeneChipマイクロアレー(Affymetrix)分析を実施した。この技術は複数遺伝子の発現プロファイルを作成し、異なる組織サンプルに存在するmRNA集団を比較するために広く使用されている。本発明では、選択された死後脳組織検体(前頭葉及び下側頭葉皮質)に存在するmRNA集団を分析した。組織サンプルは健常対照個体(ブラーク0)からAD徴候及び症状をもつ個体(ブラーク4)までの全範囲を反映する各種ブラークステージに分類することができる個体に由来するものとした。遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを使用するリアルタイム定量的PCRを利用して各遺伝子の差異的発現の確認を実施した。更に、免疫組織化学分析のために遺伝子産物特異的抗体を使用して蛋白質レベルで健常ステージと疾患ステージの特異的差異を分析した。これらの方法は疾患過程の初期に生じる病理イベントの指標である初期ブラークステージの発現レベルの差異を特異的に検出するように設計した。従って、差異的であると識別される前記遺伝子は事実上ADの発症に関与している。
【0107】
(i)AD患者からの脳組織切除:
AD患者と年齢一致対照対象からの脳組織サンプルを採取した。死後6時間以内にサンプルをドライアイスで迅速に凍結させた。各組織からのサンプル切片をパラホルムアルデヒドで固定し、Braak and Braakによる神経原線維病理の各種段階でブラークステージ(0〜4)に神経病理学的に分類した。差異的発現分析用脳領域を同定し、RNA抽出を実施するまで−80℃で保存した。
【0108】
(ii)全mRNAの単離:
RNeasyキット(Qiagen)を製造業者のプロトコールに従って使用することにより全RNAを凍結死後脳組織から抽出した。2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用することによりEukaryote total RNA Nano LabChipシステムを利用して正確なRNA濃度とRNA品質を測定した。調製したRNAを更に品質試験するため、即ち部分分解の排除とDNA汚染を試験するために、特別に設計したイントロンGAPDHオリゴヌクレオチドと参照対照としてのゲノムDNAを使用し、製造業者により添付プロトコールに記載されているようにLightCycler技術(Roche)で融解曲線を作成した。
【0109】
(iii)プローブ合成:
ここでは、上記(ii)に記載したように抽出しておいた全RNAを出発材料として使用した。cDNAを作製するために、cDNA Synthesis Systemを製造業者のプロトコール(Roche)に従って実施した。インビトロ転写T7−Megascript−Kit(Ambion)を製造業者のプロトコールに従って利用してcDNAサンプルをcRNAに転写させ、ビオチン標識した。2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用するmRNA Smear Nano LabChipシステムを利用してcRNA品質を測定した。光度分析(OD260/280nm)により正確なcRNA濃度を測定した。
【0110】
(iv)GeneChipハイブリダイゼーション:
精製断片化ビオチン標識cRNAを市販スパイク対照(Affymetrix)bioB(1.5pM)、bioC(5pM)、bioD(25pM)及びcre(100pM)と共に各々60ng/μlの濃度でハイブリダイゼーションバッファー(0.1mg/mlニシン精子DNA,0.5mg/mlアセチル化BSA,1×MES)に再懸濁した後、5分間99℃で変性させた。次に、事前にハイブリド形成させておいた(1×MES)Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)にプローブを1個ずつ適用した。45℃で60rpm下に一晩アレーハイブリダイゼーションを実施した。次に、GeneChip Operating System(GCOS)1.2(Affymetrix)による制御下に命令EukGe_WS2v4(Affymetrix)に従ってマイクロアレーの洗浄と染色を実施した。
【0111】
(v)GeneChipデータ分析:
GCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)による制御下にGeneScanner 3000(Affymetrix)を使用して蛍光生データを取得した。DecisionSite 8.0 for Functional Genomics(Spotfire)を使用して以下のようにデータ分析を実施した。即ちGCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)により「present」のフラグを付けられたデータに生データを限定し;百分率値により生データの正規化を行い;Spotfireソフトウェアのプロファイル検索ツールを使用して差異的mRNA発現プロファイルの検出を実施した。KCNN3蛋白質をコードする遺伝子のこのようなGeneChipデータ分析の結果を図1に示す。
【0112】
(vi)定量的RT−PCR:
LightCycler技術(Roche)を使用して差異的KCNN3遺伝子発現の積極的な確証を実施した。この技術はポリメラーゼ連鎖反応の高速熱サイクルと増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定を特徴とするため、終点ではなく、動的な読取りを使用することによりRT−PCR産物の非常に正確な定量が可能になる。夫々AD患者及び年齢一致対照個体の前頭葉及び下側頭葉皮質に由来するKCNN3 cDNAの相対量をブラークステージ毎に4〜9種の多数の組織で測定した。
【0113】
まず、標準曲線を作成し、KCNN3をコードする遺伝子の特異的プライマーであるプライマーA,配列番号13,5’−GGTGGAGAACAGAAATCCACG−3’(配列番号2のヌクレオチド2813−2833)及びプライマーB,配列番号14,3’−AACCAGTCCAGAAGAGGGGTC−5’(配列番号5の2895−2915)によるPCRの効率を測定した。LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I mix(FastStart Taq DNAポリメラーゼ、反応バッファー、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTPミックス、SYBR Green I色素、及び1mM MgCl含有;Roche)、0.5μMプライマー、cDNA希釈系列(終濃度40、20、10、5、1及び0.5ngヒト脳全cDNA;Clontech)2μlに更に3mM MgClを加えて容量20μlとし、PCR増幅(95℃で1秒,56℃で5秒,及び72℃で5秒)を実施した。融解曲線分析の結果、約86℃に単一ピークが検出され、プライマーダイマーは認められなかった。2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用してDNA 500 LabChipシステムによりqPCR産物の品質とサイズを測定した。サンプルの電気泳動図にはKCNN3蛋白質をコードする遺伝子の予想寸法103bpの単一ピークが観測された。
【0114】
MgCl(3mMでなく1mM追加)以外は同様にqPCRプロトコールを適用し、特異的プライマー:配列番号15,5’−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3’及び配列番号16,5’−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3’を使用してシクロフィリンBのPCR効率を測定した。融解曲線分析の結果、約87℃に単一ピークが検出され、プライマーダイマーは認められなかった。PCR産物のバイオアナライザー分析によると、予想寸法(62bp)の単一ピークが判明した。
【0115】
標準値を計算するために、まず使用したcDNA濃度の対数を夫々KCNN3とシクロフィリンBの閾値サイクル値Cに対してプロットした。標準曲線(即ち線形回帰)の傾きと切片を計算した。第2段階では、対照とAD患者の前頭葉及び下側頭葉皮質からのmRNA発現を平行分析した。C値を測定し、対応する標準曲線:
10(C値−切片)/傾き[ng脳全cDNA]
を使用してng脳全cDNAに変換した。cDNA濃度計算値を各試験組織プローブについて平行分析したシクロフィリンBに正規化し、こうして得られた値を任意相対発現レベルとして定義する。KCNN3蛋白質をコードする遺伝子のこのような定量的RT−PCR分析の結果を図2に示す。
【0116】
(vii)各種ブラークステージのドナーグループを比較するmRNA発現の統計分析
この分析のために、異なる時点における異なる実験間のリアルタイム定量的PCR(Lightcycler法)の絶対値はキャリブレーターを使用せずに定量的比較に使用するために十分に一貫していることを証明した。100個を上回る組織のqPCR実験で正規化標準としてシクロフィリンを使用した。特に、シクロフィリンは正規化実験で最も一貫して発現されるハウスキーピング遺伝子であることが分かった。従って、シクロフィリンについて計算した値を使用することにより概念実証を実施した。
【0117】
第1の分析は3人の異なるドナーに由来する前頭葉皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を使用した。全分析実験で各組織からの同一cDNA調製物を実施した。データ数が少ないため、この分析内では値の正規分布は得られなかった。従って、中央値とその98%信頼性レベルの方法を適用した。この分析の結果、絶対値の比較で中央値から8.7%の中央偏差と、相対比較で中央値から6.6%の中央偏差が判明した。
【0118】
第2の分析は2人の異なるドナーに各々由来する前頭葉皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を使用したが、この場合には異なる時点からの異なるcDNA調製物を使用した。この分析の結果、絶対値の比較で中央値から29.2%の中央偏差と、相対比較で中央値から17.6%の中央偏差が判明した。この分析から、qPCR実験からの絶対値を使用できるが、中央値からの中央偏差を更に考慮すべきであるという結論に至った。
【0119】
KCNN3の絶対値の詳細な分析を実施した。従って、シクロフィリンによる相対正規化後にKCNN3の絶対値を使用した。低レベルブラークステージ(ブラーク0〜ブラーク2)から構成されるグループと、高レベルブラークステージ(ブラーク3〜ブラーク4)から構成される別のグループについて中央値と98%信頼性レベルを計算した。この分析の目的はAD病の過程内でmRNA発現差の初期兆候を識別することであった。上記分析を図3に示す。
【0120】
(viii)免疫組織化学分析による蛋白質レベルでのKCNN3遺伝子の差異的発現及びADとの関連の確認
ヒト脳におけるKCNN3を免疫蛍光染色し、AD組織を対照組織と比較するために、臨床的に診断され、Braak and Braakによる神経原線維病理の各種ステージ(本明細書では上記及び下記において簡単に「ブラークステージ」と言う)でADであると神経病理学的に確認された患者と、臨床的にも神経病理学的にもADの徴候を示さない年齢一致対照を含むドナーに由来する死後新鮮凍結前頭葉及び下側頭葉前脳検体をクリオスタット(Leica CM3050S)で14μm厚に切断した。組織切片を室温で風乾し、10分間アセトンで固定し、再び風乾した。PBSで洗浄後、切片をブロッキングバッファー(PBS中10%正常ウマ血清,0.2% Triton X−100)と共に30分間プレインキュベートした後、ブロッキングバッファーの20倍希釈液中でアフィニティー精製抗KCNN3ウサギポリクローナル抗体(APC−025,Alomone Labs,Jerusalem,Israel)と共に4℃で一晩温置した。0.1% Triton X−100/PBSで3回リンスした後、切片を1% BSA/PBSの1500倍希釈液中でAlexaFluor−488標識ヤギ抗ウサギIgG抗血清(Jackson/Dianova,Hamburg,Germany)と共に室温で2時間温置した後、再びPBSで洗浄した。夫々(i)ニューロン特異的体細胞マーカー蛋白質NeuN(Chemicon,Hampshire,UK;350倍希釈液)又は(ii)星状細胞特異的マーカー蛋白質グリア繊維性酸性蛋白質(GFAP,Abeam,Cambridge,UK;250倍希釈液)に対する別のマウスモノクローナル抗体と反応させた後にどちらの場合も二次Cy3標識ヤギ抗マウス抗体(Jackson/Dianova;800倍希釈液)を使用して上記のように(i)ニューロン細胞体又は(ii)星状細胞の同時染色を実施した。切片をPBS中5μM DAPIと共に3分間温置することにより核の染色を実施した。リポフスチン自家蛍光を阻止するために、切片を70%エタノール中、親油性黒色色素Sudan Black B(1%w/v)で5分間室温にて処理した後、70%エタノール、蒸留水及びPBSに順次浸した。ProLong−Gold退色防止マウント剤(Invitrogen/Molecular Probes,Karlsruhe,Germany)を使用して切片をカバースリップで覆った。水銀アークランプ付き正立顕微鏡(BX51,Olympus,Hamburg,Germany)を使用してエピ蛍光又は位相差照明条件下で顕微鏡画像を得た。適切なダイクロイックフィルター/ミラーセット(以下、「チャネル」と言う)を使用していずれかの蛍光色素(AlexaFluor−488,Cy3,DAPI)の特異的励起と前記抗体又は核DAPI染色による特異的標識に起因する発光蛍光の読取りを実施した。電荷結合ディスプレイカメラと適切な画像獲得及び処理ソフトウェア(ColorView−II and AnalySIS,Soft Imaging System,Olympus,Germany)を使用して顕微鏡画像をディジタルキャプチャーした。例えば3個までの異なるチャネルからのシグナルの同時局在を分析するために、異なるチャネルから得られた蛍光顕微鏡写真をオーバーレイし、RGBモードで上記免疫標識及び核(DAPI)の同時画像を作成した。
【実施例2】
【0121】
培養系を使用したADにおけるKCNN3機能の分析
(i)KCNN3を安定に産生する細胞株の作製:
標準発現プラスミドを使用してCMVプロモーターの制御下のKCNN3遺伝子をクローニングし、CHO細胞に導入し、原則的に製造業者のプロトコール(Stratagene,Cat.No.217561)に従って抗生物質G418を添加後にクローン細胞株を単離した。間接免疫蛍光顕微鏡測定(図13)により各種細胞株におけるKCNN3蛋白質の産生とその局在を分析し、安定な産生を示す細胞株を選択した。次にこのCHO細胞株を使用し、天然細胞環境でイオンチャネルの活性を調査するためのアッセイを確立した。
【0122】
(ii)KCNN3モジュレーターの同定用細胞アッセイの開発:
基本的に、アッセイプロトコールはTerstappenら(Neuropharmacology 40:772−783,2001)により文献に要約されているように開発されている。このアッセイは膜電位感受性蛍光色素と、イオノマイシンの添加によるカルシウム感受性KCNN3−カリウムチャネルの活性化を利用する。カルシウムが細胞に侵入すると、KCNN3が活性化されるので、細胞の静止膜電位に作用し、蛍光色素により検出される。更に詳細に説明すると、KCNN3を発現するCHO細胞を透明底黒色384ウェルプレートに1.5×10の密度で播種し、37℃の加湿インキュベーターで24時間培養する。5μM DiBAC4(3)を加えたアッセイバッファー(1mM KCl,2.3mM CaCl2,5mM NaHCO3,1mM MgCl2,154mM NaCl,5.5mM d(+)−グルコース,5mM HEPES,pH7.4)に細胞培養培地を交換する。30分間37℃で色素を細胞に負荷した後に、蛍光プレートリーダー(Flex−station,Molecular Devices)を使用して蛍光(励起488nm,発光538nm)を読取る。終濃度1μMのイオノマイシンの添加によりKCNN3の活性化を行う(図14及び15)。イオノマイシン添加の30分前に、標準遮断薬としてハチ毒アパミンとトリフルオロペラチンを細胞に添加しておく。5分間蛍光をモニターする。
【0123】
(iii)細胞KCNN3スクリーニングアッセイの最適化
スクリーニング目的でKCNN3アッセイを最適化するために、Z’値を評価した(図16)。24時間温置後に、CHO−KCNN3細胞を増殖させた384ウェルプレートから培地を除去した。アッセイバッファー中の色素溶液20μlを細胞にピペッティングした後、更にアッセイバッファー20μl単独又はアッセイバッファー20μl+フルオロキセチン100μMを加えた。37℃で30分間温置後にプレートを自動ピペッティング装置/蛍光リーダー(FlexStation,Molecular Devices)に移し、イオノマイシン10μlを終濃度500nMで加えた。次に蛍光を10秒おきに120秒間測定した。励起波長は485nmとし、発光波長は538nmとした(530nmカットオフフィルター)。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】GeneChip分析により測定比較した各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAのレベルの差異の識別を開示する。各mRNA種のレベルはAD進行と定量的に相関するので、Braak and Braakによる脳組織サンプルの神経病理段階分類(ブラークステージ分類)により測定する場合にADの指標となることが明らかである。
【図2】定量的RT−PCR分析により測定したADの指標となる各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAのレベルの差異を確認するためのデータを示す。
【図3】定量的RT−PCRと98%信頼性レベルの中央値の統計法を使用して測定したADの指標となる各種ブラークステージに対応する個体からのヒト脳組織サンプル中のKCNN3遺伝子由来mRNAの絶対レベルの分析を示す。
【図4A】図4AはヒトKCNN3スプライス変異体1蛋白質のアミノ酸配列である配列番号1を開示する。
【図4B】図4BはヒトKCNN3スプライス変異体2蛋白質のアミノ酸配列である配列番号2を開示する。
【図4C】図4CはヒトKCNN3スプライス変異体3蛋白質のアミノ酸配列である配列番号3を開示する。
【図4D】図4DはヒトKCNN3スプライス変異体4蛋白質のアミノ酸配列である配列番号4を開示する。
【図5A−1】図5AはヒトKCNN3スプライス変異体1cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す。
【図5A−2】図5AはヒトKCNN3スプライス変異体1cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す。
【図5B−1】図5BはヒトKCNN3スプライス変異体2cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す。
【図5B−2】図5BはヒトKCNN3スプライス変異体2cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す。
【図5C】図5CはヒトKCNN3スプライス変異体3cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す。
【図5D】図5DはヒトKCNN3スプライス変異体4cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す。
【図6A−1】図6AはヒトKCNN3スプライス変異体1のコーディング配列(cds)である配列番号9を示す。
【図6A−2】図6AはヒトKCNN3スプライス変異体1のコーディング配列(cds)である配列番号9を示す。
【図6B】図6BはヒトKCNN3スプライス変異体2のコーディング配列(cds)である配列番号10を示す。
【図6C】図6CはヒトKCNN3スプライス変異体3のコーディング配列(cds)である配列番号11を示す。
【図6D】図6DはヒトKCNN3スプライス変異体4のコーディング配列(cds)である配列番号12を示す。
【図7】定量的RT−PCRによりKCNN3遺伝子由来mRNAのレベルを測定するために使用したプライマーと、KCNN3 cDNAの対応するクリッピングの配列アラインメントを示す。
【図8】KCNN3 cDNA配列、コーディング配列及びKCNN3転写レベルプロファイリングに使用した両者プライマー配列のアラインメントを模式的に示す。
【図9】AD患者からのヒト脳検体におけるKCNN3蛋白質と皮質βアミロイド斑の同時沈着を例示する。これに対して、AD徴候及び症状をもつと診断されなかった年齢一致対照からの脳検体にこのようなKCNN3蛋白質の沈着は観察されない。
【図10】AD患者からのヒト脳検体で観察されたKCNN3蛋白質と皮質βアミロイド斑の同時沈着を拡大図で例示する。
【図11】AD患者の皮質の反応性星状細胞が高レベルのKCNN3蛋白質を含有することを例示する。これに対して、AD徴候及び症状をもつと診断されなかった年齢一致対照の皮質の星状細胞ではKCNN3蛋白質を検出することができない。
【図12】KNN3発現プラスミドを安定的にトランスフェクトしたCHO細胞株におけるKCNN3蛋白質産生のウェスタンブロット分析を示す。
【図13】アッセイ開発と化合物スクリーニングに使用した安定的にトランスフェクトしたCHO細胞株におけるKCNN3過剰産生と細胞内局在の免疫蛍光分析を示す。
【図14】KCNN3イオンチャネル調節化合物の同定用細胞スクリーニングアッセイの開発を示す。
【図15】KCNN3アンタゴニストであるアパミン及びトリフルオロペラチンのIC50決定による細胞KCNN3スクリーニングアッセイの検証を示す。
【図16】AD用イオンチャネルモジュレーターの同定用細胞システムの使用を実証する細胞KCNN3スクリーニングアッセイのZ’値評価を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルツハイマー病を診断もしくは予後診断する、対象がアルツハイマー病を発症する素因をもつか否かを判定する又はアルツハイマー病をもつ対象に投与した治療薬の効果をモニターする方法であって、
(a)前記対象から得られたサンプル中の(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物の及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物の及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体のレベル及び/又は活性を測定する段階と、
(b)既知疾患状態を表す参照値及び/又は既知健常状態を表す参照値及び/又は既知ブラークステージを表す参照値と前記転写産物及び/又は前記翻訳産物の前記レベル及び/又は前記活性とを比較する段階と、
(c)前記レベル及び/又は前記活性が既知健常状態を表す参照値に比較して変化しているか否か、及び/又は既知疾患状態を表す参照値と同様もしくは同一であるか否か、あるいは前記対象がアルツハイマー病をもつこともしくは前記対象がアルツハイマー病を発症する危険が増加していることの指標である既知ブラークステージを表す参照値と同様もしくは同一であるか否かを分析する段階と
を含む前記方法。
【請求項2】
KCNN3蛋白質をコードする前記遺伝子が配列番号1をもつKCNN3をコードする遺伝子であり、KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の前記翻訳産物が配列番号1をもつKCNN3蛋白質である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により対象におけるアルツハイマー病を診断もしくは予後診断する、対象がアルツハイマー病を発症する素因をもつか否かを判定する又はアルツハイマー病をもつ対象に投与した治療薬の効果をモニターするためのキットの使用であって、
前記キットは(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又は(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又は(iii)前記転写産物もしくは翻訳産物のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体から構成される群から選択される少なくとも1種の試薬を含む
前記使用。
【請求項4】
KCNN3蛋白質が配列番号1をもつ請求項3に記載の使用。
【請求項5】
天然KCNN3遺伝子転写制御因子以外の転写因子の制御下に配列番号1のアミノ酸配列をもつKCNN3蛋白質をコードする非天然遺伝子配列又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体を含む遺伝子改変非ヒト動物であって、
前記遺伝子配列の発現、破壊又は改変は、アルツハイマー病に関連する神経変性疾患の徴候を発症する素因を示す前記非ヒト動物をもたらす
前記遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項6】
アルツハイマー病の治療に有用な診断薬及び治療薬の開発において化合物、作用剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び検証するための非ヒト試験動物及び/又は対照動物としての請求項5に記載の遺伝子改変非ヒト動物の使用。
【請求項7】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
アルツハイマー病の治療に有用な診断薬及び治療薬の開発において化合物、作用剤及びモジュレーターをスクリーニング、試験及び検証するための、KCNN3蛋白質をコードする遺伝子配列又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体が発現されている又は破壊されている細胞の使用。
【請求項9】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項8に記載の使用。
【請求項10】
アルツハイマー病又は関連疾患の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストを同定するためのスクリーニング方法であって、
前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストは、
(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体
から構成される群から選択される1種以上の物質の発現又はレベル又は活性を変化させることができ、
前記方法は、
(a)細胞を試験化合物と接触させる段階と;
(b)(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と;
(c)前記試験化合物と接触させていない対照細胞における(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と;
(d)段階(b)及び(c)の細胞における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較し、接触させた細胞における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現が変化しているならば、試験化合物はアルツハイマー病又は関連疾患の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストであると判定する段階と
を含む前記方法。
【請求項11】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アルツハイマー病又は関連疾患の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストを同定するためのスクリーニング方法であって、
前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストは、
(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体
から構成される群から選択される1種以上の物質の発現又はレベル又は活性を変化させることができ、
前記方法は、
(a)神経変性疾患又は関連疾患もしくは障害の徴候及び症状を発症する素因をもつ又は既に発症している非ヒト試験動物に試験化合物を投与する段階と;
(b)(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と;
(c)神経変性疾患又は関連疾患もしくは障害の徴候及び症状を発症する素因をもつ又は既に発症している、前記試験化合物を投与していない非ヒト対照動物における(i)〜(iv)に記載の1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と;
(d)段階(b)及び(c)の動物における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較し、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現が変化しているならば、試験化合物はアルツハイマー病又は関連疾患の治療用作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストであると判定する段階と
を含む前記方法。
【請求項13】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リガンドとKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体の結合阻害度又は結合増加度を測定し及び/又はKCNN3蛋白質又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体に対する前記化合物の結合度を測定するために、1つ又は複数の化合物を試験するための又は複数の化合物を高スループットフォーマットでスクリーニングするためのアッセイ。
【請求項15】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(i)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)KCNN3蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)〜(iii)のフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体
から構成される群から選択される1種以上の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストであり、
前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストはアルツハイマー病の治療の潜在活性を有する
前記作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト。
【請求項17】
KCNN3蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項16に記載の作用剤。
【請求項18】
アルツハイマー病の治療用医薬の製造における、請求項16又は17に記載の作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニストの使用、及び/又はKCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である免疫原に対して特異的に免疫反応性の抗体の使用。
【請求項19】
治療を必要とする対象に、請求項16又は17に記載の作用剤、モジュレーター又は選択的アンタゴニストもしくはアゴニスト又は抗体を、治療又は予防のために有効な量及び処方で投与する段階を含むアルツハイマー病の治療又は予防方法。
【請求項20】
アルツハイマー病の検出用診断ターゲットとしての、KCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である蛋白分子。
【請求項21】
アルツハイマー病を予防又は治療又は改善するモジュレーター、作用剤又は化合物のスクリーニングターゲットとしての、KCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である蛋白分子。
【請求項22】
配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項20又は21に記載の蛋白分子。
【請求項23】
対象から得られたサンプル中の細胞の病理状態を検出するための、KCNN3をコードする遺伝子の翻訳産物又はそのフラグメントもしくは誘導体もしくは変異体である免疫原に対して特異的に免疫反応性の抗体の使用であって、
前記細胞を前記抗体で免疫細胞化学的に染色し、既知健常状態を示す細胞に比較して前記細胞中の染色度が変化又は染色パターンが変化した場合には、前記細胞はアルツハイマー病に関連する病理状態であると判定する
前記使用。
【請求項24】
KCNN3が配列番号1のアミノ酸配列をもつ請求項23に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A−1】
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【図5A−2】
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【図5B−1】
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【図5B−2】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A−1】
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【図6A−2】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2008−545402(P2008−545402A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512849(P2008−512849)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062667
【国際公開番号】WO2006/125830
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(506375738)エボテツク・ニユーロサイエンシーズ・ゲー・エム・ベー・ハー (5)
【Fターム(参考)】