説明

移動体長計測装置及びそれを用いた列車運行管理システム

【課題】移動体側方に設置した物体検知センサを用いて停止時にも移動体長の範囲が検出可能な移動体長計測装置及びそれを利用した列車運行管理システムを提供する。
【解決手段】移動体長計測装置は少なくとも3箇所以上の物体検知センサを有し、そのセンサ位置間距離は大小二つの距離となるよう配置し、移動体長の最小及び最大長を推定し、センサ設置位置間距離は、大きい方の距離が最大想定移動体長より大きいかまたは小さい方の距離が最小想定移動体長以下となるように配置し、センサ検出区間進入時、及び脱出時の瞬間速度または検出区間走行中の平均速度を推定し、前記瞬間速度、前記平均速度、最大加速度、最大減速度、最高速度のうち少なくとも一つを用いて移動体長の最小及び最大長を推定し、列車運行管理システムは移動体長計測装置を用いて列車長を推定し、画面上への列車存在範囲を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の移動体の長さを計測する移動体長計測装置に関わり、特に鉄道車両の移動体長計測装置と前記移動体長計測装置を用いた運行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の移動体の長さを計測する装置に関しては、走行方向に2箇所の物体検知センサを設置し、その設置位置2箇所のセンサ間距離と通過時間差を利用して走行速度を推定し、1箇所の物体検知センサの検知開始−終了時刻差に上記走行速度を乗じて移動体長を推定する装置が広く知られている(図1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、センサ間距離を移動体の速度変化が小さくなるような距離(1.5m程度)に設定することで等速または等加速度運動を仮定し、2地点間の平均速度から移動体長を推定する装置が開示されている。また、移動体の前方にドップラー効果あるいは光学的な空間フィルタを用いた速度センサを設置して連続的に速度を検出し、その速度を検知開始時刻−終了時刻で積分することにより移動体長を計測する装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、センサ間距離を予想最大移動体長より長く設置し、センサで個別に移動体の通過時刻差を検出し、この二つの時刻差の調和平均を用いて移動体長を求める計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−180611号公報
【特許文献2】特開平10−260017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に挙げたシステムでは、いずれも等加速度運動を仮定しているが、上記装置を鉄道車両に適用した場合、信号機等の外的要因、あるいは内的要因により停止を想定する必要がある。また、特許文献1に挙げたように、前方から連続的に速度を検知する方法は、移動体長計測時間中に常に移動体前面を見通せる位置に速度検知装置を設置する必要があり、列車のように複数の鉄道車両を連結して長い移動体長をもつものの計測には適切な設置位置が決定できないという問題点がある。
【0007】
上記の問題点に鑑み、本発明は、移動体側方に設置した物体検知センサを用いて停止時にも移動体長の範囲が検出可能な移動体長計測装置及びそれを利用した列車運行管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の移動体長計測装置は、少なくとも3箇所以上の物体検知センサを移動体の進行方向側方に有し、前記物体検知センサのセンサ設置位置間距離はそれぞれ異なり大小二つの距離となるよう配置し、前記物体検知センサにより前記移動体の到着時刻及び通過時刻を検知して移動体長の最小値及び最大値を推定する。
【0009】
さらに、前記センサ設置位置間距離は、大きい方の距離が最大想定移動体長より大きいかまたは小さい方の距離が最小想定移動体長以下となるように配置する。また、前記物体検知センサの検出区間進入時、及び脱出時の瞬間速度または検出区間走行中の平均速度を推定し、前記瞬間速度、前記平均速度、最大加速度、最大減速度、最高速度のうち少なくとも一つを用いて移動体長の最小値及び最大値を推定する。
【0010】
さらに、本発明の列車運行管理システムは、上記移動体長計測装置を用いて、列車長を推定する列車長計測装置を備え、前記推定された列車長を用いて画面上へ列車存在区間を表示する表示手段または前記列車存在区間を判定して現場設備を制御する制御判定手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることによって、簡便な地上設備のみによって精度よく移動体長、またはその範囲を推定することが可能となる。また、列車の種類によらず計測区間を走行した列車の列車長が推定可能となり、列車運行管理システムでの安全性を向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は二つの物体検知センサによる計測物理量を示した基本原理図である。
【図2】図2は本発明の移動体長計測装置の実施例である。
【図3】図3は移動体の速度変化と移動体長の関係を示したグラフである。
【図4】図4は移動体の最大長、最小長の算出方法を示したグラフである。
【図5】図5は停止が発生した際の移動体の最大長、最小長の算出方法を示したグラフである。
【図6】図6は本発明の移動体長計測装置の別の実施例である。
【図7】図7は本発明の移動体長計測装置を用いた運行管理システムの例である。
【図8】図8は運行管理システムの画面例である。
【図9】図9はセンサ間距離Lが移動体長Xより小さい場合の列車の速度変化を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による移動体長計測装置およびそれを用いた列車運行管理システムの実施の形態を、図面を参照して説明する。以下では、移動体として鉄道車両を用いたシステムについて述べる。
【0014】
図1は本発明を説明するにあたり、二つの物体検知センサを用いて計測可能な物理量を示した基本原理図である。移動体の進行方向に対して手前側から順にセンサA(始点側)、センサB(終点側)を配置し、そのセンサ間距離をL[m]、移動体長をX[m]とする。このときセンサAの到達時刻、通過時刻、センサBの到達時刻、通過時刻をそれぞれtAin、tAout、tBin、tBoutとする。このとき物体検知センサはそれぞれ物体検知時にパルスとして存在を検知する。
【0015】
物体検知センサは物体検知パルスを取得できれば、超音波センサ、赤外線センサ、レーザセンサなどを用いてよい。適切な物体検知がなされればセンサA検知パルスからはtAin及びtAout、センサB検知パルスからはtBin及びtBoutを取得でき、それらの時刻からセンサA通過時間ΔtA=tAout−tAin、センサB通過時間ΔtB=tBout−tBin、また移動体の先頭側通過時間Δtin=tBin−tAin、末尾側通過時間Δtout=tBout−tAoutがそれぞれ算出できる。
【0016】
このとき、移動体の走行速度が一定と仮定できれば走行速度V=L/ΔtinまたはV=L/Δtoutとなり、移動体長X=V・ΔtAまたはX=V・ΔtBとして移動体長が推定できることとなる。ただし、実際の移動体走行、特に鉄道車両が列車として走行したときを考えると、信号の影響等により車両長計測区間中でも停止する可能性があり、走行速度を一定とみなすことは難しい。よって走行速度が変化しても車両長を高精度で計測する手段が必要となる。
【実施例1】
【0017】
図2は、本発明の移動体長計測装置201の実施例1である。201は移動体長計測装置、202は移動体長計測対象の移動体であり、移動体202の進行方向に対して手前側から順にセンサA1、センサA2、センサBを配置し、センサA1、センサA2間のセンサ間距離をl[m]、センサA2、センサBのセンサ間距離をL[m]、求めたい移動体長をX[m]とする。各センサは図1に示した物体検知センサと同一のものを利用し、移動体202として鉄道車両を計測する場合には、車両の切れ目ごとにセンサ検知パルスが切れるように計測区間の側方に設置しており、移動体長計測装置201は車両個々の長さである車両長を計測するものとする。また、移動体202のセンサA1の到達時刻、通過時刻、センサA2の到達時刻、通過時刻、センサBの到達時刻、通過時刻をそれぞれtA1in、tA1out、tA2in、tA2out、tBin、tBoutとする。
【0018】
ここで、センサ間距離l[m]は十分に短く、センサA1到着時刻tA1inからセンサA2到着時刻tA2in間、及びセンサA1通過時刻tA1outからセンサA2通過時刻tA2out間での移動体202の移動は一定速度とみなせる程度の距離とする。センサA1とセンサA2間でのセンサ間距離は、移動体長X[m]の想定最小長よりも十分に小さい。このとき、センサA1、センサA2の設置位置はともに始点Aであるとみなし、始点Aの到着時の瞬間速度をVain、始点Aの通過時の瞬間速度をVaoutとすると、以下の(式1)、(式2)により瞬間速度は求まる。
【数1】

【数2】

【0019】
始点Aの到着時刻tAin、通過時刻tAoutは、tA1in≦tAin≦tA2in、tA1out≦tAout≦tA2outを満たせばどのような値をとってもよいものとし、時刻tAinにおける移動体202の瞬間速度をVain、時刻tAoutにおける移動体202の瞬間速度をVaoutとして定める。
【0020】
センサ間距離L[m]は想定される最大車両長よりも長くとるものとする。最大車両長は鉄道車両が走行する線路のもっとも回転半径が小さいカーブを通過する際に、車両の線路に対する横方向の存在位置が車両限界を超えない条件から定まる。通常日本国内では25[m]〜30[m]である。
【0021】
図2では移動体202の進行方向手前側の位置AにセンサA1、センサA2を配置したが、位置BにセンサB1、センサB2を設置してもよい。以下では、移動体長計測装置201によって移動体202の移動体長X[m]の範囲を推定する方法について説明する。
【0022】
図3は移動体202の速度変化と移動体長の関係を示したグラフである。グラフ301は横軸に時刻、縦軸に速度をとったグラフであり、曲線302は移動体202の速度変化を表す。移動体長X[m]は、グラフ301上では時刻tAinから時刻tAout、または時刻tBinから時刻tBoutまで速度変化302を積分した値に等しくなる。またセンサ間距離L[m]は、グラフ301上では時刻tAinから時刻tBin、または時刻tAoutから時刻tBoutまで速度変化302を積分した値に等しくなる。すなわち距離L−X[m]は、時刻tAoutから時刻tBinまで速度変化302を積分した値に等しくなる。
【0023】
移動体202の速度変化302は直接計測することはできないが、(式1)(式2)により時刻tAin、時刻tAoutでの瞬間速度を計測可能であり、グラフ301上ではそれぞれ(tAin,Vain)、(tAout,Vaout)として表すことができる。このとき速度変化302の積分の想定しうる最大値、最小値がそれぞれ曲線303、曲線304のように存在し、最大長曲線303、最小長曲線304ともに(tAin,Vain)、(tAout,Vaout)を通過することが拘束条件となる。
【0024】
図4は、移動体202の最大長曲線303、最小長曲線304の算出方法を示したグラフである。前提として車両の最大加速度α(α>0)、最大減速度−β(β>0)、最高速度Vmaxが与えられているものとする。ここで計測対象とする車両の種類があらかじめわかっている場合、その車両の仕様値であるα、β、Vmaxを用い、車両の種類がわかっていない場合、想定しうる車両の最大のα、β、Vmaxを用いる。まず区間[tAin,tAout]間の最大長曲線303の導出方法について考える。図3で示した拘束条件(tAin,Vain)通過をみたし、最も速度が大のときが最大長となることを考えると、この条件を満たす時刻tにおける速度変化302v(t)の式は最大加速度αで加速したときの速度であるから以下の(式3)として表される。
【数3】

【0025】
また、拘束条件(tAout,Vaout)通過を満たすためには、同様に最大減速度−βにて減速したときの速度であるから、以下の(式4)として表される。
【数4】

【0026】
一方で、
【数5】

を満たす必要がある。よってv(t)は(式3)(式4)(式5)を全て同時に満たしている必要があるため、これを条件式にすると以下(式6)として表される。
【数6】

【0027】
(式6)でMin()は、()内のうち最小のものを選択する関数である。(式6)の右辺をグラフ上で表したものが図4の最大長曲線303(ただし[tAin,tAout])である。
【0028】
同様に最小長曲線304の導出方法について考える。拘束条件、速度の最小値は0(=停止)であることを考えると、最小長の条件式は以下(式7)で表すことができる。
【数7】

【0029】
(式7)でMax()は、()内のうち最大のものを選択する関数である。(式7)の左辺をグラフ上で表したものが図4の最小長曲線304(ただし[tAin,tAout])である。(式6)(式7)の両辺を区間[tAin,tAout]で積分すると移動体長X[m]の範囲は以下(式8)となる。
【数8】

【0030】
ここでtAoutが十分に大きく、最大長曲線303がv=Vmax、最小長曲線304がv=0を含むようなケースを考える。このときグラフ401に示した領域405,領域406,領域407,領域408の面積をそれぞれS_405,S_406,S_407,S408とすると、それぞれ以下の通りとなる。
【数9】

【0031】
このとき(式8)は以下(式10)となる。
【数10】

【0032】
ここで移動体202の先頭が地点Aを通過したのち末尾が地点Aを通過しきらずにT秒停止するケースを考える。このときの移動体202の最大長、最小長の算出方法を示したグラフを図5に示す。図5のグラフ502に示すように停止時にはtAoutのみT加算され、このときの移動体長の範囲を(式11)に示す。
【数11】

【0033】
(式11)と(式10)を比較すると、最小値X_AMINは変化しないものの、最大値X_AMAXは停止時間の分Vmax・Tだけ大きくなっている。このことは停止時間が大きくなるほど最大値X_AMAXも大きくなり、結果Xのとりうる値も増えることを意味している。実際には移動体長Xの長さが(式10)(式11)とで同一にもかかわらず、その範囲が増えてしまうということは停止時には移動体長Xの推定精度が悪化することを意味している。すなわち、一地点でセンサA1,センサA2を用いて移動体長を計測する方式では、地点Aで移動体202が停止した場合に推定精度が悪化する。
【0034】
再び図3に戻り、第3の物体検知センサであるセンサBの利用方法について、区間[tAout,tBin]間の最大長曲線303、最小長曲線304の導出方法を考える。拘束条件(tAout,Vaout)通過をみたし、最も速度が大のときが最大長となることを考慮すると、この条件を満たす時刻tにおける速度変化302v(t)の式は、最大加速度αで加速したときの速度であるから以下の(式12)として表される。
【数12】

【0035】
一方で、v(t)≦Vmaxを満たす必要があるから、これを条件式にすると、以下(式13)として表される。
【数13】

【0036】
同様に最小長曲線304の導出方法について考える。拘束条件、速度の最小値は0(=停止)であることを考えると、最小長の条件式は以下(式14)で表すことができる。
【数14】

【0037】
(式13)(式14)の両辺を区間[tAout,tBin]で積分すると[tAout,tBin]の移動体202の移動距離L−X[m]の範囲は以下(式15)となる。
【数15】

【0038】
(式15)を変形して移動体長X[m]の式として表すと、以下(式16)のようになる。
【数16】

【0039】
ここで(式16)のXの最大値側であるL−L_X_MINに着目する。tBinとtAoutとの差が小さい場合、L_X_MINも小さくなり、0に近づく。しかし、このとき同様に積分区間が小さくなることからL_X_MAXも0に近づく。結果としてtBinとtAoutの差が小さいときには(式16)によりXのとりうる範囲が小さくなり、高精度に移動体長Xの推定が可能となる。
【0040】
一方で、tBinとtAoutの差が大きい場合を考える。センサ間距離LがXより大きい場合、前述したように(式15)が成立し変形して(式16)となる。ここで、センサ間距離LがXより小さい場合を考える。このときの列車の速度変化を表したものを図9に示す。図9は、図3と同様に901は横軸に時刻、縦軸に速度をとったグラフであり、曲線902は移動体202の速度変化を表す。移動体長X[m]は、図3と同様にグラフ901上では時刻tAinから時刻tAout、または、時刻tBinから時刻tBoutまで速度変化902を積分した値に等しくなる。
【0041】
また、センサ間距離L[m]についても、図3と同様に、グラフ901上では時刻tAinから時刻tBin、または時刻tAoutから時刻tBoutまで速度変化902を積分した値に等しくなる。図3と異なるのは、tBinとtAoutの順序が変わった点、すなわち距離X−L[m]が、時刻tBinから時刻tAoutまで速度変化902を積分した値に等しくなっている点である。このとき速度変化902の積分の想定しうる最大値、最小値はそれぞれ、図3の場合と同様とすると、tAin、tAoutの位置関係は変化しないことから(式8)については同様に成立する。一方でX−L[m]の範囲については、以下の(式17)で表すことができる。
【数17】

【0042】
(式17)を変形して移動体長X[m]の式として表すと、以下(式18)のようになる。
【数18】

【0043】
ここで(式18)の最大値側について考察する。tBinとtAoutの差が大きい場合(式17)の積分式からわかるようにL_X_MAX’’は単純に増加することとなり、最大値は上限を持たない。一方で(式16)においては、L_X_MINは(tAout,Vaout)から最大減速度で速度0まで減速した場合の距離となり、その大きさはVaout2/2β固定となる。よってtBinとtAoutの差がどんなに大きくなってもXの最大値はLより小さい一定値をとることとなり、tBinとtAoutが長くなることによって精度が悪化しない。
【0044】
物理的に(式18)(式16)の違いを考えると、(式18)では、tBinとtAoutの差が大きい場合、それが停止なのか、移動体長が長いのか区別がつかないことを意味する。一方で、(式16)の場合はセンサ間距離が移動体長よりも大きいことが前提となっているため、tBinとtAoutの差が大きい場合は停止であることが決定できる。
【0045】
以上のように、センサ間距離が移動体長よりも大きいことにより(式16)に表されるように停止時でも上限を備えた最大値が計算されることにより移動体長Xの推定が可能となることがわかった。最終的には(式8)(式16)の二つの条件式を同時に満たす範囲が移動体長Xの範囲として求まる。すなわち、
【0046】
移動体長Xの最小値=Max(X_AMIN,L−L_X_MAX)
移動体長Xの最大値=Min(X_AMAX,L−L_X_MIN)となる。
【0047】
またセンサ間距離が移動体長よりも小さい場合であっても、tBinとtAoutの差が小さければ、(式18)においてL_X_MIN’’、L_X_MAX’’ともに0に近づく((式17)の積分式による)ため、移動体長Xの推定誤差が小さくなる。すなわち、第3の物体検知センサを用いることにより、(式8)(式18)の二つの条件式を同時に満たす範囲として移動体長Xの範囲を絞り込むことができる。すなわち、
【0048】
移動体長Xの最小値=Max(X_AMIN,L_X_MIN’’+L)
移動体長Xの最大値=Min(X_AMAX,L_X_MAX’’+L)となる。
【0049】
移動体長計測装置201は、移動体長Xの最小値、最大値だけでなく、移動体長として最小値から最大値の範囲に含まれる移動体長を一意に出力してもよい。例えば、最大値を移動体長として出力することにより、外部のシステムでは車両の占有区間を大きめに認識し、車両の占有区間内では作業を行わない、転てつ器などの現場機器の制御を行わないなどより安全側にたった判断をすることが可能となる。
【実施例2】
【0050】
図6は、本発明の移動体長計測装置601の実施例2である。601は移動体長計測装置、202は移動体長計測対象の移動体であり、移動体202の進行方向に対して手前側から順にセンサA1、センサA2、センサB1、センサB2を配置し、センサA1、センサA2間のセンサ間距離をl1[m]、センサA2、センサB1のセンサ間距離をL[m]、センサB1、センサB2間のセンサ間距離をl2[m]、求めたい移動体長をX[m]とする。実施例1と同様にセンサ間距離l1,l2[m]は十分に短く、始点A、終点Bでの到着、通過時の瞬間速度は実施例1で示した方法と同様に求まるものとする。
【0051】
グラフ602は移動体202の速度変化と移動体長の関係を示したグラフである。グラフ602は横軸に時刻、縦軸に速度をとったグラフであり、始点Aでの到着時刻、通過時刻、終点Bでの到着時刻、通過時刻それぞれの時刻、瞬間速度は速度変化302上の点で(tAin,Vain)、(tAout,Vaout)、(tBin,Vbin)、(tBout,Vbout)として表すことができる。また、速度変化の積分の想定しうる最大値、最小値がそれぞれ曲線604、曲線605のように存在し、最大長曲線604、最小長曲線605がともに(tAin,Vain)、(tAout,Vaout)、(tBin,Vbin)、(tBout,Vbout)を通過することが拘束条件となる。
【0052】
このとき実施例1と同様に車両の最大加速度α(α>0)、最大減速度−β(β>0)、最高速度Vmaxが与えられている場合において、移動体長Xが満たす範囲の条件式を考える。
【0053】
地点Aにおいては、実施例1とまったく同様に(式8)が成立する。地点A−B間においては新たに(tBin,Vbin)を通過する拘束条件が追加されるため、(式13)(式14)は以下の(式19)(式20)に置き換わる。
【数19】

【数20】

【0054】
(式19)(式20)の両辺を区間[tAout,tBin]で積分すると[tAout,tBin]の移動体202の移動距離L−X[m]の範囲は以下(式21)となる。
【数21】

【0055】
(式21)を変形して移動体長X[m]の式として表すと、以下(式22)のようになる。
【数22】

【0056】
(式22)は(式16)に比べて(tBin,Vbin)を通過する拘束条件が追加されたため、(式16)よりもより狭い範囲で推定が可能となる。
【0057】
地点Bにおいては、瞬間速度が算出可能となったことから、実施例1と同様に以下の(式23)が成立する。
【数23】

【0058】
以上のように、地点Bに物体検知センサを追加することにより、(式16)の条件が(式22)のように狭い範囲となり、(式23)が条件式として追加される。最終的には(式8)(式22)(式23)の二つの条件式を同時に満たす範囲が移動体長Xの範囲として求まる。すなわち、
【0059】
移動体長Xの最小値=Max(X_AMIN,L−L_X_MAX’,X_BMIN)
移動体長Xの最大値=Min(X_AMAX,L−L_X_MIN’,X_BMAX)となる。
【0060】
実施例1に比べて条件式が増えることによって、さらに移動体長Xの範囲が絞り込めることとなる。移動体長計測装置601は移動体長Xの最小値、最大値だけでなく、移動体長として最小値から最大値の範囲に含まれる移動体長を一意に出力してもよい。
【0061】
物体検知センサの数を増やすことにより、さらに条件式が増え、最も精度が高い地点での移動体長の計測結果を利用することが可能となる。
【実施例3】
【0062】
図7は、実施例1または実施例2で示した移動体長計測装置703を用いた運行管理システム701の例を示したものである。701は運行管理システム、702は列車長計測対象となる列車、703は移動体長計測装置、704は列車長計測装置、705は現場設備、706は連動装置である。移動体長計測装置703は列車702を構成する車両1台ごとの車両長を計測する。
【0063】
列車長計測装置704は、移動体長計測装置703からある一定時間間隔以内に受け取った車両長、あるいは車両長の範囲を一つの列車702とみなし、前記車両長または車両長の範囲に車両間の距離(標準的な連結器を基準に一定値を定める、例えば1[m]など)を加算して列車長、あるいは列車長の範囲を推定する。運行管理システム701の運行管理装置707は、列車長計測装置704から受け取った列車長と列車702の位置、あるいは列車の進路上の推定位置から列車702の存在区間を判断する。ここで、列車の位置は、複数箇所に移動体長計測装置703を配置することによっても把握可能である。判断した列車の在線区間に基づき連動装置706を介して現場設備705に指示を与え、例えば、信号機の現示変更、踏み切りの開閉、転てつ器の制御等を行う。
【0064】
図8は、運行管理システム701における画面例を示したものである。画面801において802は列車、803は線路配線図、804は表示メッセージ例である。列車802は移動体長計測装置703、及び列車長計測装置704によって得られた進行方向と列車長を画面801上で表示する。また列車長の推定結果から線路配線図803上の各地点での列車802の存在有無がわかるため、表示メッセージ804のように列車802の存在区間での制御指示メッセージを表示することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
201 移動体長計測装置
202 移動体
301 グラフ
302 速度変化
303 最大長曲線
304 最小長曲線
401 グラフ
405 領域
406 領域
407 領域
408 領域
502 グラフ
601 移動体長計測装置
602 グラフ
604 最大長曲線
605 最小長曲線
701 列車運行管理システム
702 列車
703 移動体長計測装置
704 列車長計測装置
705 現場設備
706 連動装置
707 運行管理装置
801 画面
802 列車
803 線路配線図
804 表示メッセージ
901 グラフ
902 速度変化
903 最小長曲線
904 最大長曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3箇所以上の物体検知センサを移動体の進行方向側方に有し、前記物体検知センサのセンサ設置位置間距離はそれぞれ異なり大小二つの距離となるよう配置し、前記物体検知センサにより前記移動体の到着時刻及び通過時刻を検知して移動体長の最小値及び最大値を推定することを特徴とする移動体長計測装置。
【請求項2】
前記センサ設置位置間距離の大きい方の距離が最大想定移動体長より大きいことを特徴とする請求項1記載の移動体長計測装置。
【請求項3】
前記センサ設置位置間距離の小さい方の距離が最小想定移動体長より小さいことを特徴とする請求項1記載の移動体長計測装置。
【請求項4】
前記物体検知センサの検出区間進入時、及び脱出時の瞬間速度または検出区間走行中の平均速度を推定し、前記瞬間速度、前記平均速度、最大加速度、最大減速度、最高速度のうち少なくとも一つを用いて移動体長の最小値及び最大値を推定することを特徴とする請求項1記載の移動体長計測装置。
【請求項5】
請求項1ないし4記載の移動体長計測装置を用いて、列車長を推定する列車長計測装置を備え、前記推定された列車長を用いて画面上へ列車存在区間を表示する表示手段または前記列車存在区間を判定して現場設備を制御する制御判定手段を備えることを特徴とする列車運行管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24693(P2013−24693A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158986(P2011−158986)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】