説明

移動経路地図作成方法

【課題】 計算負荷が小さく、簡単な操作で以って移動経路地図を作成することができ、且つ精度が高く、いかなる走行環境下であっても確実に移動経路地図を作成することのできる移動経路地図作成方法を提供する。
【解決手段】 移動体の走行環境内にて該移動体を移動させながら移動経路上の移動体の位置座標を節点として教示し、隣接する節点同士を連結して移動経路地図を作成する移動経路地図作成方法であって、走行環境の上方に前記移動体の自己位置標定に用いられる複数のランドマークが配置され、前記移動体から撮像されたランドマーク画像を基に移動体の位置座標を測定し、該位置座標を前記節点として登録するようにし、前記移動体にて前記ランドマーク画像による自己位置標定が困難な走行環境下では、前記移動体を任意の距離移動させたときの移動状態量(オドメトリ)を基に該移動体の位置座標を測定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行する移動体に対して、走行領域内の移動可能経路が示された移動経路地図を作成する移動経路地図作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自律的に行動する移動体に関する技術は種々提案されており、またこのような移動体は各種工業にて広く利用されている。さらに近年においては、一般家庭や各種施設等においても移動体の導入が要望されており、あらゆる動作環境に対応できる移動体が必要とされている。
壁や家具等の障害物が存在する環境下にて、移動体を円滑に自律走行させるには、到達目的地に辿り着くまでの移動経路を予め移動体に教示する必要がある。
従来の一般的な移動経路の教示方法としては、例えば図10に示されるような移動体の屋内走行環境における間取り図50から、ユーザが絶対座標系(グローバル座標系)を基準として、任意の位置におけるXY座標を測定して、これを節点(ノード)52a、52b、…、52h、52i、…というように手入力で登録し、さらに、目的地51に辿り着くまでの移動経路をユーザが計画して、該計画した移動経路上に節点を追加しながら、実際の走行経路として繋ぐという方法が用いられている。
【0003】
しかし、上記した方法では移動経路の事前設定に非常に手間がかかるため、移動経路地図を簡単に設定する方法が提案されている。
特許文献1(特開平11−259659号公報)には、移動体に搭載した撮像手段を使って、移動方向の上下左右の画像を取得してリアルタイムで環境地図を作成する方法が開示されている。
また、特許文献2(特開平7−110709号公報)では、手動走行モードでジョイスティックを使って手動走行させ、移動体の左右駆動輪に設けられたエンコーダにより移動体の重心座標を検出するとともに、移動体に搭載されたセンサにより該移動体から壁、障害物等の距離を算出し、該算出した距離と前記重心座標に基づき走行地図を自動生成させる方法を提案している。
さらに、特許文献3(特開2000−254879号公報)では、ロボット先端がティーチングポイントを通過するように制御するため、一旦教示した各ティーチングポイントについて、経路の中点に動作ポイントの候補点を設定してロボットの軌道が必ず当該候補点を通過するように制御する方法が示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−259659号公報
【特許文献2】特開平7−110709号公報
【特許文献3】特開2000−254879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、周囲の照明状態などによって画像の認識精度が悪くなる。また画像処理を用いるため、CPUへの計算負荷も高く、多数の画像を用いた場合に経路作成に時間が掛かりリアルタイムの操作が行えないという問題がある。
さらに、特許文献2及び3では、移動経路地図の基準となる移動体の位置座標を検出する際に、何れの場合もオドメトリ情報に基づき位置座標を検出しているが、オドメトリを用いた場合、長距離を移動させたときに教示した位置座標に誤差が生じ、この誤差が累積してしまうと正確な移動経路地図を生成することができないという問題があった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、計算負荷が小さく、簡単な操作で以って移動経路地図を作成することができ、且つ精度が高く、いかなる走行環境下であっても確実に移動経路地図を作成することのできる移動経路地図作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、移動体の走行環境内にて該移動体を移動させながら移動経路上の移動体の任意の位置座標を節点として教示し、隣接する節点同士を連結して移動経路地図を作成する移動経路地図作成方法であって、
走行環境の上方に前記移動体の自己位置標定に用いられる複数のランドマークが配置され、前記移動体から撮像されたランドマーク画像を基に移動体の位置座標を測定し、該位置座標を前記節点として登録することを特徴とする。
【0007】
従来用いられていたオドメトリによる移動体の位置座標検出では、移動体を長時間移動させた場合に誤差が累積するため、教示した節点並びに経路の座標が狂ってしまう惧れがあった。従って、本発明のようにランドマークを用いた自己位置標定にて測定された位置座標を節点として教示することにより、誤差の累積がなくなり、精度の高い移動経路地図を作成することができるようになる。
【0008】
また、前記移動体にて前記ランドマーク画像による自己位置標定が困難な走行環境下では、前記移動体を任意の距離移動させたときの移動状態量を基に該移動体の位置座標を測定するようにしたことを特徴とする。
このとき、前記移動状態量から位置座標を測定する際に、前記任意の距離移動させる直前の前記ランドマーク画像による自己位置標定にて取得した位置座標に、前記移動状態量から得られる相対位置変化を付加して移動体の位置座標を得ることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、ランドマークによる座標系が設定されていない場所や、或いはランドマークが撮像できない場所であって移動体の自己位置標定が不可能若しくは困難になった場合に、移動状態量を用いた経路教示方法に切り換えることにより、移動経路作成処理を中断することなく確実に移動経路地図を作成することができるようになる。尚、前記移動状態量は、移動体が具備するオドメトリにより検出することが好ましく、これにより得られる移動状態量は、該移動体の移動距離及び姿勢方位を表す情報であると良い。
このとき、移動状態量を用いた経路教示時に、ランドマークを用いた自己位置標定が可能となったら、再度処理を切り換えてランドマークによる経路教示を行うこととする。
また、前記ランドマークによる経路教示から前記移動状態量による経路教示に切り換える際に、ランドマークによる位置標定にて取得した位置座標に、移動状態量から得られた相対位置変化を付加するようにしたため、移動状態量の検出時の誤差を最小限に抑え、正確な移動経路地図を作成することが可能となる。
【0010】
さらに、前記移動体を移動させる際に、該移動体を遠隔地の制御装置から遠隔操作して節点を教示するようにしたことを特徴とする。
このように、離れた位置から移動体を遠隔操作することにより、移動体から撮像したランドマーク画像に操作者が映り込むことがなく、精度の高い自己位置標定が可能となり、正確な移動経路地図を作成することができる。
さらにまた、前記移動体を移動させる際に、冶具を介して前記移動体を手押し移動させながら節点を教示するようにしたことを特徴とする。
これは、前記ランドマーク画像に操作者が映り込むことがなく、正確な移動経路地図を作成できるとともに、移動体の移動方向に対してより確実に力を加えることが可能であるため、移動体の操作が簡便となり、一般ユーザにとって利用しやすい形態となる。
【発明の効果】
【0011】
以上記載のごとく本発明によれば、ランドマークを用いた自己位置標定にて測定された位置座標を節点として教示することにより、誤差の累積がなくなり、精度の高い移動経路地図を作成することができるようになる。
また、ランドマークによる座標系が設定されていない場所や、或いはランドマークが撮像できない場所であって移動体の自己位置標定が不可能若しくは困難になった場合に、移動状態量を用いた経路教示方法に切り換えることにより、移動経路作成処理を中断することなく確実に移動経路地図を作成することができるようになる。さらに、前記ランドマークによる経路教示から前記移動状態量による経路教示に切り換える際に、ランドマークによる位置標定にて取得した位置座標に、移動状態量から得られた相対位置変化を付加するようにしたため、移動状態量の検出時の誤差を最小限に抑え、正確な移動経路地図を作成することが可能となる。
【0012】
また、前記移動体を離れた位置から遠隔操作することにより、移動体から撮像したランドマーク画像に操作者が映り込むことがなく、精度の高い自己位置標定が可能となり、正確な移動経路地図を作成することができる。
さらにまた、前記移動体を移動させる際に、該移動体を冶具を介して手押し移動することにより、移動体の操作が簡便となり、一般ユーザにとって利用しやすい形態となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施例に示す移動体の走行空間としては、一般家庭、各種施設、工場内等が挙げられるが、特に前記移動体は一般家庭内にてユーザの生活を補助、支援、介護するロボットであることが好適である。
図1は本発明の実施例に係る移動経路地図作成アルゴリズムを示すフロー、図2はランドマークを用いた経路教示からオドメトリを用いた経路教示に切り換える処理を示すフロー、図3は本発明の実施例に係る移動体を示す概略構成図である。
【実施例】
【0014】
まず、図3により本実施例の移動体の概略構成を説明する。図3に示すように本実施例に係る移動体10は、本体11と、該本体11からの各種指令に基づき図示しない駆動装置により走行を補助する左右一対の駆動輪12と、前記移動体10に指令を入力するマイク、キーボード、リモコン等の入力手段13と、該移動体10からの音声出力、画面出力等を行なうスピーカー、モニター等の出力手段14と、移動体10の上方を撮像する全方位カメラ15、移動経路地図を作成するための各種プログラムが格納された制御部20と、を具備している。
【0015】
前記全方位カメラ15は公知のカメラであって、例えば双曲面ミラーとカメラから構成され、周囲360°から双曲面に届く光をミラーで反射して丸画像を生成し、該丸画像を画像処理することにより、移動体の周囲360°に亘る全方位の動画像が取得できる。尚、前記全方位カメラ18は、このような構成のカメラに限定されるものではなく、例えば魚眼レンズのような広角カメラであれば何れでも良い。
前記制御部20は、前記制御部20は、前記駆動輪12の回転を検出するエンコーダにより移動体10の移動距離、姿勢方位変化量を検出するオドメトリデータ検出部21、グローバル座標系を基準として節点、パス経路を生成して初期経路を作成する節点,パス経路作成部22、該生成した節点の減数化を行なう減数化処理部23、前記初期経路の曲折部を抽出して端部を生成する曲折部処理部24、交差する2本のパス経路を判別して交点を生成する交点生成処理部25、パス経路に近接する節点を該パス経路に投影する節点投影処理部26、前記全方位カメラ15からの撮像画像を基に各種画像処理を行なうランドマーク画像処理部29、前記初期経路、グローバル座標系、作成した移動経路地図等を格納する記憶部27、前記移動経路地図に融合、修正等の編集処理を行う編集機能28、を有している。
【0016】
図4に移動体の手押し移動にて移動経路地図を作成する場合の模式図を示す。図4に示されるように、移動体の走行環境である屋内30には、天井面若しくは壁面上方に添付された、またはポール等で空間上方に設置された、複数のランドマーク31が設けられている。該ランドマーク31は、少なくとも3個以上設けるものとする。移動経路地図作成時には、前記移動体10は該屋内30の床部を手押し移動され、前記全方位カメラ15により前記ランドマーク31を撮像可能としている。
【0017】
次に、図1のフローを参照して移動経路地図作成アルゴリズムにつき説明する。
まず、経路教示を開始したら、前記ランドマーク31を前記全方位カメラ15により撮像し、ランドマーク座標を確認する(S1)。そして、前記制御部20によりランドマーク座標が存在し(S2)、ランドマークが見えるか否かを判別し(S3)、ランドマークが見える場合はランドマーク座標による経路教示を行う(S4)。該ランドマーク座標による経路教示は、移動体10の走行軌跡上にて任意の通過点を節点とし、該節点に到達したときにランドマークを用いた自己位置標定処理を行って基準座標系に基づく移動体10の位置座標を取得し、該位置座標を節点として教示する。前記移動体の自己位置標定処理については後述する。
一方、前記ランドマーク座標が存在しない場合、若しくはランドマークが見えない場合には、オドメトリによる経路教示を行う(S5)。
節点毎に経路教示が終了したか否かを判別し(S6)、経路教示が終了していない場合には、再度ランドマーク座標の確認以下(S1〜)の処理を行い、移動地図を作成する。
【0018】
本実施例では、前記移動体10からランドマーク31が見える場所、即ち前記全方位カメラ15によりランドマーク31が撮像でき、これを用いて自己位置標定可能な場所では、ランドマーク31を用いた経路教示を行い、ランドマーク31が見えない場所ではオドメトリを用いて経路教示を行う。このように、原則としてランドマークを用いた経路教示を行うことにより、オドメトリを主体とする経路教示よりも誤差の少ない移動経路地図を作成することができ、さらにランドマーク31が見えない場所であっても確実に経路教示を行うことが可能となる。尚、オドメトリを用いた経路教示時に、ランドマークを用いた自己位置標定が可能となったら、再度処理を切り換えてランドマークによる経路教示を行うこととする。
【0019】
図2に、ランドマークを用いた節点登録からオドメトリを用いた節点登録に切り換える処理を示すフローを示す。この切り替え処理では、ランドマーク座標系による自己位置標定が不可能となった時点で、その直前のランドマーク座標値(X_l0,Y_l0,θ_l0)を取得する(S11)とともに、このランドマーク座標値に対応するオドメトリ値(X_r0,Y_r0,θ_r0)を取得する(S12)。これは、節点生成時に毎次ランドマーク座標値及びオドメトリ値を前記記憶部27に記憶させておき、ランドマーク座標が検出できなくなったときに、前回のランドマーク座標値及びオドメトリ値を取り出すようにすると良い。
そして、移動体10に節点となる位置を教示し(S13)、前回の節点からの移動状態量を示すオドメトリ値(X_ti,Y_ti,θ_ti)を取得する(S14)。
さらに、現位置でのオドメトリ値から前回のオドメトリ値を差し引いた偏差(δX_ti,δY_ti,δθ_ti)を計算し(S15)、この偏差を前記ランドマーク座標値に足しこんでいくことによって現位置における節点座標を算出する(S16)。現位置での節点座標は下記数式により算出される。
(数式)
δX_ti=X_ti−X_r0
δY_ti=Y_ti−Y_r0
δθ_ti=θ_ti−θ_r0
Xi=X_l0+δX_ti
Yi=Y_l0+δY_ti
θi=θ_l0+δθ_ti
【0020】
これにより得られた現位置での節点座標を前記記憶部27に登録し(S17)、さらにオドメトリ教示を継続するか否かを判断し(S18)、継続する場合には、節点教示から再度処理を繰り返す(S13〜)。終了する場合には、これらの節点と、該節点を連結したパスとからなる初期経路に対して各種処理を施し、移動経路地図を作成する。
このように、ランドマークを用いて経路教示する方法と、オドメトリを用いて経路教示する方法の2つの方法を適宜用いることにより、タンスや壁等の屋内物体や廊下などの狭隘部のようなカメラ視野からランドマークが外れて自己位置標定が困難なった場合であっても移動地図を作成することが可能となる。
また、ランドマークを用いた自己位置標定による経路教示から、オドメトリによる経路教示に切り換えた段階で、オドメトリによる計測値にはすでに誤差が累積されているが、切り換え処理において、上記したようにランドマークによる自己位置標定からオドメトリによる自己位置標定に切り換えた時点からの相対的な移動状態量を、ランドマークを用いた自己位置標定結果に足し込むことで、教示した経路の誤差を最小限に抑えることが可能である。
【0021】
ここで、図7に具体的な移動地図作成処理を示す。同図に示されるように、まず走行可能領域にて網目状に前記移動体10を手動走行させ、移動経路を手押し教示する(S21)。これは、走行軌跡上にて任意の通過点を節点とし、2個の節点間を繋ぐ線分をパス経路として前記記憶部27に登録し、複数の節点とパス経路からなる初期経路が移動可能経路であることを移動体10に教示するものである。この節点座標の登録には、上記したようにランドマークを用いた自己位置標定による経路教示、及び前記オドメトリによる経路教示を適宜用いるものとする。
さらに、前記初期経路上に存在する節点の減数化を行う(S22)。初期経路上には連続した節点が密集して存在する場合がある。従って、任意の節点を基準とし、予め設定した範囲内に複数の節点が存在する場合には、前記任意の設定以外の他の節点を削除し、パス経路を再生成するものである。これにより、冗長な節点とパス経路を削減でき、前記記憶部27の記憶容量を節約することができる。
【0022】
そして、前記節点を減数化した初期経路に対して、曲折部処理を行なう(S23)。該曲折部処理は、前記初期経路から曲折部を判別し、該曲折部の折れ曲がり点に位置する節点に対して前後の節点の何れか一方を、他の節点と前記折れ曲がり点の節点で形成されるパス経路上に投影するものである。これにより、前記曲折部に端部が生成され、端部へ向かうパス経路が一本に統合される。
前記曲折部処理を行なった後に、節点投影処理を行なう(S24)。これは、前記パス経路の近傍に位置する対象節点を該パス経路上に投影する処理である。さらに、節点投影処理後に、前記対象節点に隣接する節点が投影処理を施されているか否かを判別し、投影されていない場合には、前記対象節点の前後のパス経路を残存させ、投影されている場合には隣接節点と対象節点間のパス経路を削除する経路統合化処理を行なう(S24)。
【0023】
前記節点投影処理を行なった後に、交点生成処理を行なう(S25)。これは、交差する2本のパス経路を判別し、交差する点に交点となる節点を新たに生成する処理である。
さらに、前記交点生成処理した後に、前記2本のパス経路の両端に位置する各既設節点と、前記生成した交点との間の距離を夫々導出し、該距離が一定の閾値以下である近接した既設節点が存在する場合には、前記生成した交点を削除するとともに前記近接した既設節点を交点と見なし、該交点と見なした既設節点を含む第1のパス経路を残存し、これに交差する第2のパス経路を削除する。そして、前記交点と見なした既設節点を一端とし、前記第2のパス経路を代替する第3のパス経路を生成する、交点追設、経路再結合処理を行なう(S26)。
このように、曲折部処理、節点投影処理、交点作成、交点追設、経路再結合処理等を行なうことにより、移動体の経路選択自由度が広がり、移動体が自律走行する際に自在に動き回ることができ、目的地までの最短距離を選択可能な合理的な移動経路地図が作成できる。
【0024】
ここで、前記移動体10の自己位置標定処理の一例につき、図8を参照して説明する。尚、本実施例に係る自己位置標定処理は、以下の方法に限定されるものではなく、ランドマークを用いた自己位置標定処理であればどのような方法でも構わない。
まず、予め、前記ランドマーク31の各位置を計測し、絶対座標系を基準とした3次元の登録位置座標を前記制御部20の記憶部27に事前登録しておく(S31)。
そして、前記移動体10の概略の自己位置を予測し、探索範囲を設定する。この自己位置の予測には、例えば車輪12の回転量と操舵角からなるオドメトリ情報を検出し、これを積分して自己位置と方位を検出する方法等を用いると良い。
このようにして自己位置を予測したら、前記移動体10に搭載された前記全方位カメラ18により天井画像(天井近傍の壁、空間を含む)を撮像する(S32)。
前記撮像した天井画像に対して、前記画像処理装置20にて二値化処理等により前記ランドマーク候補点を抽出し、該抽出したランドマーク候補点の2次元の候補点座標(並進と回転)を算出する(S33)。
さらに、前記予測した探索範囲内において、絶対座標系上の移動体走行領域内に複数の仮想点をランダムに設定し、該仮想点に移動体10の自己位置が存在すると仮定し、夫々の仮想点にて得られる画像上の前記ランドマーク31の2次元座標を、前記3次元の登録位置座標から計算する(S34)。
【0025】
図9に、前記仮想点におけるランドマーク位置L、L、L、L、Lと、前記天井画像から抽出したランドマーク候補点位置M、M、Mを示す。
前記ランドマーク位置L、L、L、L、Lの2次元座標値と、これに最も近いランドマーク候補点M、M、Mの候補点座標値との距離を計算して距離評価値を計算し(S36)、全ての仮定した自己位置に対して、前記距離評価値を計算し、最も距離が小さくなる位置を移動体10の同定位置と推定する(S37)。そして、前記制御装置25に結果を出力する(S38)。
このように、本実施例では自己位置を仮定した仮想点を複数設定し、各仮想点におけるランドマークの2次元座標と、前記全方位カメラの撮像画像より抽出したランドマーク候補点座標とを比較し、近似解を求めるようにしているため、前記ランドマークの個々の識別を必要とせず、また前記全方位カメラ18により全てのランドマークが撮像できない場合においても、安定して自己位置を同定することができる。
【0026】
また、別の実施例として、前記移動体10を遠隔操作する方法につき図5に示す。
図5に示されるように、移動体10は、遠隔地に存在する操作者によってリモートコントローラ17等の制御装置を用いて移動させるようにし、移動節点と経路を自動登録する。このように、離れた位置から移動体10を遠隔操作することにより、移動体上方に取り付けた全方位カメラ15に操作者が映り込むことがなく、精度の高い自己位置標定が可能となり、正確な移動経路地図を作成することができる。
さらに、図6に示されるように、操作者が移動体10から離れた位置から押し棒のような押し冶具18を使って移動体10を押して移動させるようにしても良い。これは、移動体の移動方向に対してより確実に力を加えることが可能であるため、遠隔操作よりも操作が簡単であり、一般ユーザにとって利用しやすい形態となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る移動経路地図作成アルゴリズムを示すフローである。
【図2】ランドマークを用いた経路教示からオドメトリを用いた経路教示に切り換える処理を示すフローである。
【図3】本発明の実施例に係る移動体を示す概略構成図である。
【図4】移動体の手押し移動にて移動経路地図を作成する場合の模式図である。
【図5】移動体の遠隔操作にて移動経路地図を作成する場合の模式図である。
【図6】移動体の冶具移動にて移動経路地図を作成する場合の模式図である。
【図7】移動経路地図作成時の具体的な処理内容を示すフローである
【図8】本実施例に係る移動体の自己位置標定アルゴリズムを示すフローである。
【図9】ランドマーク位置とランドマーク候補点の位置を夫々示す図である。
【図10】移動体の走行環境である一般家庭屋内の間取り図である。
【符号の説明】
【0028】
10 移動体
12 駆動輪
13 入力手段
14 出力手段
15 全方位カメラ
17 リモートコントローラ
18 押し冶具
20 制御部
21 オドメトリデータ検出部
22 節点,パス経路生成部
23 減数化処理部
24 曲折部処理部
25 交点生成処理部
26 節点投影処理部
27 記憶部
28 編集機能
29 ランドマーク画像処理部
31 ランドマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の走行環境内にて該移動体を移動させながら移動経路上の移動体の任意の位置座標を節点として教示し、隣接する節点同士を連結して移動経路地図を作成する移動経路地図作成方法であって、
走行環境の上方に前記移動体の自己位置標定に用いられる複数のランドマークが配置され、前記移動体から撮像されたランドマーク画像を基に移動体の位置座標を測定し、該位置座標を前記節点として登録することを特徴とする移動経路地図作成方法。
【請求項2】
前記移動体にて前記ランドマーク画像による自己位置標定が困難な走行環境下では、前記移動体を任意の距離移動させたときの移動状態量を基に該移動体の位置座標を測定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の移動経路地図作成方法。
【請求項3】
前記移動状態量から位置座標を測定する際に、前記任意の距離移動させる直前の前記ランドマーク画像による自己位置標定にて取得した位置座標に、前記移動状態量から得られる相対位置変化を付加して移動体の位置座標を得るようにしたことを特徴とする請求項2記載の移動経路地図作成方法。
【請求項4】
前記移動体を移動させる際に、該移動体を遠隔地の制御装置から遠隔操作して節点を教示するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の移動経路地図作成方法。
【請求項5】
前記移動体を移動させる際に、冶具を介して前記移動体を手押し移動させながら節点を教示するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の移動経路地図作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−242978(P2006−242978A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54281(P2005−54281)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】