説明

移送用球体支持装置

【課題】 移送用球体支持装置で移送中の物体に、移送用球体支持装置の側から制動作用を与える。
【解決手段】 凹球面部材2aの凹球面10に多数の副球4を介して主球3が回転自在に支持されている。蓋部材5aが主球3の飛び出し防止用に設けられている。多数の副球4の転動を、加圧部材33が拘束する。この拘束により主球3の回転に制動作用を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に支持した球体によって物体を移動可能に支持する物体の移送用球体支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は、多数の小さい副球を介して凹球面上に大きい主球を回転自在に支持し、その主球により物体を移送可能に支持するようになっている。例えば、下面の平らな物体を幾つかの主球に支持させると、主球が回転自在であることから物体を小さい力で任意の方向に移動させることができる。
従来の移送用球体支持装置により物体を支持して移送しているとき、物体の移動を停止させる、あるいは減速させるには、移送用球体支持装置とは別の装置、例えば、ストッパ、プッシャー、ガイド等により移動方向に抵抗する方向の力を与えている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記移送中の物体が、例えばストッパで止められるとき、移送速度が大きいと衝撃が大きくなることによる不都合を回避するために、緩衝部を設けるとか、移送速度を犠牲にして低く押さえる等の手段がとられる。このような場合に、移送用球体支持装置の側で物体に制動力を与えることができれば、ある程度移送速度を早くしてもストッパ作用前に速度を低下させて衝撃を小さくできるから、移送速度の向上に有利である。
また、移送用球体支持装置は、ローラと異なり方向性を持たないため、幾つかの主球が移送物を支持している状態で、主球による支持面が少しでも傾いていると、あるいは傾くと、その傾きの方向に移動を始めてしまうから、予期しない方向の、意図しない移動が起こる恐れがある。例えば、移送中の移送物を一時的に保持したい場合には、厳密に水平を維持しなければ、移送物は保持されることなく、意図しない移動を始めてしまう。このような場合に移送用球体支持装置の側で移動を抑制することができれば、移送物を移送用球体支持装置の上に載荷したままで移送する場合などに有利である。
本発明は、移送用球体支持装置で移送中の物体に、移送用球体支持装置の側から制動作用を与えることができる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の移送用球体支持装置は、多数の副球を介して凹球面に主球を回転自在に支持した凹球面部材と、前記主球の飛び出し防止用の蓋部材とを備えた移送用球体支持装置において、前記多数の副球の転動を拘束する手段を設け、その副球の転動拘束手段で副球の転動を拘束することにより前記主球の回転に制動作用を与えることを特徴とする。
【0005】
この移送用球体支持装置では、移送する物体を主球に支持させて移動させるとき、主球が回転する。この主球の回転に伴って副球が凹球面上で転動することにより物体は小さい力で移動させることができる。転動拘束手段により副球の転動を拘束すると、主球は副球との接触部の摩擦抵抗に打ち勝って回転しなければならないから、その摩擦抵抗に相当する制動力を副球側から受けることになる。従って、移送中の物体に制動力を与えて減速又は停止させることができる。
【0006】
前記移送用球体支持装置において、前記副球の転動拘束手段が、前記主球と前記凹球面との間の副球収容間隙の開放側に、下降時に副球群の上縁部に接する環状の副球接触部を有する加圧部材を昇降可能に設け、前記加圧部材を少なくとも下降駆動する駆動手段を設けた構成とするのがよい。
この構成では、駆動手段によって加圧部材を下降させると、環状の副球接触部が凹球面に沿った状態で凹球面状をなしている副球群の上縁部に位置するものに接触して下方に向かって加圧する。この加圧作用によって副球は互いに押合う状態となり、転動できない状態となる。これにより主球が回転しようとしても副球が転動しないから、主球に制動作用を与えることになる。また、駆動手段により加圧部材を上昇させるか又は下降作用力を解除すると、主球に対する制動作用が解除される。
【0007】
更に、前記移送用球体支持装置において、前記駆動手段が、流体圧シリンダ、又は電磁石を用いたものである構成とするのがよい。流体圧シリンダを用いる場合は、流体圧力により制動力を調節しやすい利点があり、電磁石を用いる場合は、装置が大きくならない利点がある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1又は請求項2に記載の発明は、移送中の物体に移送用球体支持装置側から制動力を与えて減速又は停止させ、あるいは停止位置に保持することができる効果を奏する。
請求項3に記載の発明は、流体圧シリンダを用いる場合は、流体圧力により制動力を調節しやすい利点があり、電磁石を用いる場合は、装置が大きくならない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の参考例の球体支持装置を、図1を用いて説明する。この移送用球体支持装置1は、同図(a)、(b)に示すように、凹球面部材2、主球3、副球4、蓋部材5、蓋部材駆動手段6等で構成されている。凹球面部材2は、短円柱状部材の上端面に凹球面10を形成されたものである。その凹球面10に多数の小径の副球4を一層に並べ、その上に大きい径の主球3を載置してある。従って、主球3は、凹球面に副球4を介して支持され、回転自在である。蓋部材5は、板状のものに主球3の上部が突出するように円孔11を設けてある。
【0010】
蓋部材駆動手段6は、主球3の制動手段としてエアシリンダ(流体圧シリンダ)12を設けたものである。そのエアシリンダ12は、シリンダ部13が上端を蓋部材5に結合しており、下方に伸延する途中部分が凹球面部材2を包囲しており、下端にロッドカバー14を設けてある。そしてピストン15は、凹球面部材2で形成され、下端部に前記ロッドカバー14を貫通したロッド部16を設けてある。ロッド部16の下部には基盤17に取付けて固定するための雄ねじ部18を設けてある。ピストン15とロッドカバー14との間に形成される圧力室19には、ロッド部16を通って設けられた流体通路20を介して圧力流体を給排できるようになっている。図中21、22はOリング、23は復帰ばねである。なお、蓋部材5は、本来は主球3や副球4が凹球面部材2側から飛び出すのを防ぐことを主目的として設けられており、凹球面部材2に固定されていたものであるが、この実施形態では別に制動機能を付加するために、下部をシリンダ部13に形成して、上下に変位可能としてある。
【0011】
この移送用球体支持装置1は、圧力室19に圧縮空気を供給していない時は、図1(a)に示すように、蓋部材5及びシリンダ部13が復帰ばね23の作用で持ち上げられており、蓋部材5の円孔11内縁と主球3との間に微小間隙24が形成され、制動されていない主球3で物体25を支持した状態である。この状態は、物体25を任意の方向へ小さい力で移動させることができる、従来の移送用球体支持装置と同じ状態である。なお、蓋部材5及びシリンダ部13の上昇位置は適当な制限手段で微小間隙24を調整できるようにしてあるものとする。圧縮空気が供給されると、シリンダ部13及び蓋部材5が復帰ばね23に抗して下降し、図1(b)に示すように、蓋部材5の円孔11内縁が主球3に上から押付けられ、主球3に制動作用を与える。従って、主球3の回転が低下し、そして停止するから、主球3に支持されて移送されていた物体25は移動速度が低下し、そして停止する。この物体25の減速及び停止動作は供給する圧縮空気の制御によって任意に制御できる。
【0012】
本発明の1実施形態の移送用球体支持装置1aを、図2を用いて説明する。この移送用球体支持装置1aは、同図(a)、(b)に示すように、凹球面部材2a、主球3、副球4、蓋部材5a、副球の転動拘束手段30等で構成されている。凹球面部材2aは、短円柱状部材の上端面に凹球面10を形成され、下端に基盤等に対する取付用の外方に突出したフランジ部31を設けたものである。その凹球面10に多数の小径の副球4を一層に並べ、その上に大きい径の主球3を載置してある。従って、主球3は、凹球面10に副球4を介して支持され、回転自在である。蓋部材5aは、円板状のものの中央部に主球3の上部が突出するように円孔11を設けたものである。この蓋部材5は、前記主球3が円孔11から突出し、円孔11の内縁が主球3に微小な隙間24を介して近接した状態に、前記凹球面部材2aに、例えば、4本の円形断面のピンからなる脚状部32によって間隔を置いて固定されている。
【0013】
副球の転動拘束手段30は、加圧部材33、とその駆動手段34によって構成されている。加圧部材33は、主球3表面と凹球面10との間の副球収容間隙の開放側、つまり上側位置に設けられ、前記脚状部32を案内部として昇降可能とされ、下降時に椀状をなす副球群の上縁部に接触する環状の接触部35を有するものであり、例えば、中心孔36を有する円形の鋼板で形成されている。駆動手段34は、加圧部材33を下方へのみ、又は下方と上方へ押圧駆動する電磁線輪である。なお、下方へのみ駆動するものとした場合には復帰ばね37を設ける。
【0014】
この移送用球体支持装置1aは、駆動手段34により加圧部材33が上方へ押圧駆動されている状態では、図2(a)に示すように、蓋部材5aの円孔11内縁と主球3との間に微小間隙24が形成され、制動されていない主球3で物体25を支持した状態である。この状態は、物体25を任意の方向へ小さい力で移動させることができる、従来の移送用球体支持装置と同じ状態である。駆動手段34により加圧部材33が下方へ押圧駆動されている状態になると、図2(b)に示すように、副球4の群の上縁部が加圧部材33により押圧されるから、副球4は自在に循環することができなくなる。つまり主球3が転がる状態、すなわち移送物を移送できる状態は、副球4が主球3の転がり方向にそって凹球面10上を転動しながら自在に循環している状態であり、この自在に循環している状態を加圧部材33の押圧力により拘束する。従って、各副球4の転動が拘束されると、主球3の転がりに対して制動力が作用する。加圧部材33の昇降駆動は駆動手段34によって任意に操作できるから、物体を支持して移送中の主球3を任意に制動できる。
【0015】
前記参考例において説明した、蓋部材5の駆動手段6は、加圧部材33の駆動手段としても適用でき、また、加圧部材33の駆動手段34は、蓋部材5の駆動手段としても適用できる。流体圧シリンダはエアシリンダとして示したが油圧シリンダとしても差支えない。また、流体圧力や電磁作用力のほかに、特定の移送用球体支持装置に所定の制動機能を持たせて使用するようなときは、駆動手段にねじを使用してもよい。
【0016】
前述した実施形態から理解されるようにように、副球4の転動を拘束することによって主球3を制動することにより、移送中の物体を減速させあるいは停止させ、また停止状態に保持することができる移送用球体支持装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の参考例の異なる状態を示し、(a)は主球の自由回転状態の縦断面図、(b)は主球の制動状態の縦断面図である。
【図2】本発明の1実施形態の異なる状態を示し、(a)は主球の自由回転状態の縦断面図、(b)は主球の制動状態の縦断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1、1a 移送用球体支持装置
2、2a 凹球面部材
3 主球
4 副球
5、5a 蓋部材
6 蓋部材駆動手段
10 凹球面
11 円孔
12 エアシリンダ(流体圧シリンダ)
13 シリンダ部
14 ロッドカバー
15 ピストン
16 ロッド部
17 基盤
18 雄ねじ部
19 圧力室
20 流体通路
21、22 Oリング
23 復帰ばね
24 微小間隙
25 物体
31 フランジ部
32 脚部
33 加圧部材
34 駆動手段
35 接触部
36 中心穴
37 復帰ばね


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の副球を介して凹球面に主球を回転自在に支持した凹球面部材と、前記主球の飛び出し防止用の蓋部材とを備えた移送用球体支持装置において、前記多数の副球の転動を拘束する手段を設け、その副球の転動拘束手段で副球の転動を拘束することにより前記主球の回転に制動作用を与えることを特徴とする移送用球体支持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移送用球体支持装置において、前記副球の転動拘束手段が、前記主球と前記凹球面との間の副球収容間隙の開放側に、下降時に副球群の上縁部に接する環状の副球接触部を有する加圧部材を昇降可能に設け、前記加圧部材を少なくとも下降駆動する駆動手段を設けたことを特徴とする移送用球体支持装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移送用球体支持装置において、前記駆動手段が、流体圧シリンダ、又は電磁石を用いたものであることを特徴とする移送用球体支持装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−281207(P2008−281207A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206814(P2008−206814)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願2002−178865(P2002−178865)の分割
【原出願日】平成14年6月19日(2002.6.19)
【出願人】(599012765)株式会社井口機工製作所 (9)
【Fターム(参考)】