説明

積層セラミックコンデンサ

【課題】耐湿性の高い積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】本発明に係る積層セラミックコンデンサ11は、積層された複数のセラミック層13と、複数のセラミック層13間に配置された内部電極14及び15と、を有する積層体12と、積層体12の外表面上に形成され、内部電極14及び15と電気的に接続された外部電極18及び19と、を備え、セラミック層13がCaZrO3を主成分として含み、積層体12と外部電極18及び19との間に、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物(Caが0を含む)を含む層が形成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なセラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサは、例えば、積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層間に配置された内部電極と、を有する積層体と、前記積層体の外表面上に形成され、前記内部電極と電気的に接続された外部電極と、を備えている。
【0003】
ところで、外部電極を形成する方法としては、積層体の外表面である端面上に、Cu、Ni、Ag、Ag−Pd等の金属粉末(導電成分)に、ガラスフリット、有機バインダ、溶剤等を配合してなる導電性ペーストを塗布し、焼き付ける方法が一般的に用いられている。そして、外部電極と積層体との間に、セラミックとガラスフリットが反応してなる層を形成する技術が知られている。この層は、例えば、積層体への水分やフラックスの浸入を防ぐという役割を有する。
【0004】
例えば、特許文献1には、積層体の両端面に、Siを主成分とするガラスペーストを塗布し、Siの存在比率が60%以上のガラスリッチな領域を形成し、その領域と外部電極との間に反応層を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−135063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の技術では、Siを主成分とするガラスペーストを塗布するため、工数がかかるという問題がある。また、セラミック層にCaZrO3が主成分として含まれている場合には、セラミック層中のCaとSiが過剰に反応するため、セラミックとガラスが変質して、耐湿負荷試験後の特性が劣化するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、セラミック層にCaZrO3が主成分として含まれている場合に、耐湿性の向上した積層セラミックコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層間に配置された内部電極と、を有する積層体と、前記積層体の外表面上に形成され、前記内部電極と電気的に接続された外部電極と、を備え、前記セラミック層がCaZrO3を主成分として含み、前記積層体と前記外部電極との間に、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物(Caが0を含む)を含む層が形成されていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサでは、前記(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物は、(Ba,Ca)ZnSiO4の結晶相であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る積層セラミックコンデンサでは、積層体と外部電極との間に、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物(Caが0を含む)を含む層が形成されている。この層の存在により、セラミック層中のCa成分が外部電極中へ拡散することを抑制することが可能であり、セラミック層や外部電極中のガラスの化学的安定性の劣化を抑えることができる。また、この層の存在により、積層体への水分やフラックスの浸入を防ぐことが可能である。したがって、耐湿性の高い積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】試料番号2Aの積層セラミックコンデンサにおけるLT面の断面のSEM写真である。
【図3】図2の反応層のμ−XRDチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0014】
積層セラミックコンデンサ11は、積層体12を備えている。積層体12は、積層された複数のセラミック層13と、複数のセラミック層13間の界面に沿って配置された内部電極14及び15と、を備えている。内部電極14及び15は、積層体12の外表面まで到達するように形成されている。そして、積層体12の一方の端面16まで引き出されている内部電極14と、積層体12の他方の端面17まで引き出されている内部電極15とが、積層体12の内部においてセラミック層13を介して交互に配置されている。
【0015】
内部電極14及び15の材質としては、例えばニッケル、ニッケル合金、銅及び銅合金その他の卑金属を主成分とするものが挙げられる。
【0016】
積層体12の外表面上には、外部電極18及び19が形成されている。図1では、積層体12の少なくとも端面16及び17上にそれぞれ外部電極18及び19が形成されている。外部電極18は、端面16上において、内部電極14と電気的に接続されている。また、外部電極19は、端面17上において、内部電極15と電気的に接続されている。
【0017】
外部電極18及び19は、例えば、導電性ペーストを積層体12の端面16及び17に塗布して焼き付けることにより形成される。導電性ペーストは、金属粉末とガラスフリットとを含んでいる。外部電極18及び19の材質としては、内部電極14及び15と同じものが挙げられる。あるいは、銀、パラジウム、銀−パラジウム合金等を主成分とするものが挙げられる。
【0018】
外部電極18及び19上には、必要に応じて、ニッケル、銅等を主成分とする第1のめっき層21及び22がそれぞれ形成されている。さらにその上には、はんだ、錫等を主成分とする第2のめっき層23及び24がそれぞれ形成されている。
【0019】
このような積層セラミックコンデンサ11において、セラミック層13は、CaZrO3を主成分として含んでいる。そして、本実施形態では、積層体12と外部電極18及び19の間に、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物(Caが0を含む)を含む層が形成されていることを特徴としている。この層の存在により、セラミック層13中のCa成分が外部電極中へ拡散することを抑制することが可能である。すなわち、Baが(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物として積層体12と外部電極18及び19との界面に存在していると、Baの方がCaよりもイオン半径が大きく電気陰性度も小さいため、熱エネルギーを得て陽イオン化しやすいため、Ca成分の外部電極への拡散を抑制すると推測される。そのため、セラミック層13や外部電極18及び19中のガラスの化学的安定性の劣化を抑えることができる。また、この層の存在により、積層体12への水分やフラックスの浸入を防ぐことができる。
【0020】
また、この層が(Ba,Ca)ZnSiO4の結晶相を含んでいることが好ましい。この場合には、層自体の化学的安定性が向上し、積層体12への水分やフラックスの浸入をより防ぐことができる。そのため、耐湿性をより向上させることができる。
【0021】
次に、この積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。本発明に係る積層セラミックコンデンサは、一例として、以下のように作製される。
【0022】
まず、セラミック層13となるべきセラミックグリーンシートを形成する。具体的には、CaZrO3を主成分とするセラミック原料粉末に、有機バインダ及び溶剤を加えて混合することによって、スラリーを作製する。そして、このスラリーを例えばドクターブレード法等によりシート成形することによって、セラミックグリーンシートを形成する。
【0023】
次に、生の積層体を形成する。具体的には、特定のセラミックグリーンシート上に、内部電極14又は15となるべき導電性ペースト膜を形成する。導電性ペースト膜は、例えばスクリーン印刷法で形成される。そして、導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層して、圧着した後、必要に応じてカットする。
【0024】
次に、生の積層体を焼成する。これにより、図1に示すような焼成後の積層体12を得る。
【0025】
次に、内部電極14及び15と電気的に接続されるように、積層体12の端面16及び17上に、それぞれ外部電極18及び19を形成する。外部電極18及び19は、導電性ペーストに積層体12を塗布して、焼き付けることにより形成する。導電性ペーストは、金属粉末とガラスフリットとを含んでおり、ガラスフリットの成分元素を適宜選定することにより、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物を含む層を形成することが可能である。
【0026】
その後、必要に応じて、外部電極18及び19上に、ニッケル、銅等のめっきを施し、第1のめっき層21及び22を形成する。そして、この第1のめっき層21及び22上に、はんだ、錫等のめっきを施し、第2のめっき層23及び24を形成する。
【0027】
以上のようにして、積層セラミックコンデンサ11を作製する。
【0028】
次に、この発明による効果を確認するため、実施した実験例について説明する。
【0029】
[実験例1]
実験例1では、外部電極用の導電性ペースト中のガラスフリットを変えた積層セラミックコンデンサを作製した。
【0030】
(A)積層セラミックコンデンサの作製
まず、セラミック層となるべきセラミックグリーンシートを形成した。具体的には、CaZrO3を主成分とするセラミック原料粉末に、有機バインダ及び溶剤を加えて混合することによって、スラリーを作製した。このスラリーをシート成形した。
【0031】
次に、生の積層体を形成した。具体的には、特定のセラミックグリーンシート上に、ニッケルを主成分として含む導電性ペーストを印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。そして、導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層して、圧着した後、カットした。
【0032】
次に、生の積層体を還元雰囲気中で1200℃の温度で焼成して、焼成後の積層体を得た。そして、焼成後の積層体をバレルすることで、端面において内部電極を露出させた。
【0033】
次に、外部電極を形成した。具体的には、積層体の端面に導電性ペーストを塗布した。そして導電性ペーストを乾燥した後、窒素雰囲気中で900℃の温度で加熱して焼き付けた。
【0034】
なお、外部電極用の導電性ペーストとして、銅とガラスフリットと有機ビヒクルとを含むものを使用した。そして、導電性ペーストに含まれるガラスフリットの種類を変えて、試料番号1〜7の試料を作製した。ガラスフリットの組成は表1のとおりである。導電性ペーストとしては、銅粉末とガラスフリットと有機ビヒクルとの体積比が20:5:75の割合のものを用いた。また、有機ビヒクルとしてはアクリル樹脂を20体積%含むものを用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
外部電極の形成後、熱処理の有無により、試料番号1〜7の試料をそれぞれ二分し、二分された各試料をそれぞれ1A〜7A、1B〜7Bとした。このうち、1A〜7Aの試料のみ、窒素雰囲気中800℃にて熱処理を行った。
【0037】
その後、試料番号1A〜7A及び試料番号1B〜7Bのそれぞれについて、バレルめっき法で外部電極上にNiめっき層とSnめっき層を形成した。
【0038】
このようにして、幅(W)1.0mm、長さ(L)0.5mm、厚さ(T)0.5mmのセラミックコンデンサを得た。
【0039】
(B)特性評価
得られた積層セラミックコンデンサについて、各種特性を評価した。
【0040】
まず、積層体と外部電極との間の反応層の厚さを測定した。具体的には、積層セラミックコンデンサを樹脂埋めして、LT面が観察できるように、幅(W)方向に幅が1/2になるまで研磨した。そして、研磨面をSEMで観察して、反応層の厚さを測定した。
【0041】
次に、反応層の主成分を同定した。具体的には、SEM観察と同様に、LT面が観察できるように研磨した。そして、研磨面に露出している外部電極をイオンミリング法により除去した。その後、反応層部分をμ−XRD法で測定して、反応層の主成分の同定を行った。同定できた組成のうち、もっともXRD強度の強い組成を主成分として記載した。
【0042】
次に、内部欠陥発生率を求めた。具体的には、超音波探傷試験により、内部欠陥が発生した試料の発生率を求めた。試験は100000個の試料について行った。
【0043】
次に、耐湿負荷試験後の不良発生率を求めた。耐湿負荷試験は、温度85℃、湿度85%、試験電圧50Vの条件下で1000時間行った。そして、試験後の絶縁抵抗を測定し、1011Ω以下を不良として判定し、不良の発生率を求めた。試験は100個の試料について行った。
【0044】
次に、プレッシャークッカーバイアステスト(PCBT)後の不良発生率を求めた。PCBTは、温度125℃、圧力1.2atm、湿度95%、試験電圧50Vの条件下で500時間行った。そして、試験後の絶縁抵抗を測定し、1011Ω以下を不良として判定し、不良の発生率を求めた。試験は100個の試料について行った。PCBTは、圧力を加えて行うため、耐湿負荷試験よりも過酷な条件の試験である。
【0045】
図2に、試料番号2Aの積層セラミックコンデンサにおけるLT面の断面のSEM写真を示す。また、図3に、図2の反応層のμ−XRD測定結果を示す。また、表2に、反応層の厚さ、反応層の主成分、内部欠陥発生率、耐湿負荷試験後の不良発生率、PCBT後の不良発生率の結果を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
図2より、試料番号2Aでは、積層体と外部電極の界面に反応層が形成されていることが分かる。また、図3の反応層のμ−XRD結果より、(Ba,Ca)ZnSiO4結晶相が得られていることが分かる。
【0048】
表2から分かるように、反応層の主成分に(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物が含まれている試料番号1A〜4Bでは、内部欠陥が発生せず、耐湿負荷試験後の不良も発生しなかった。一方、反応層の主成分に(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物が含まれていない試料番号5A〜7Bでは、内部欠陥が発生し、耐湿負荷試験後に不良が発生した。
【0049】
また、熱処理を行った試料番号1A、2A、3A、4Aでは、反応層として(Ba,Ca)ZnSiO4結晶相が形成された。その結果、耐湿負荷試験よりも過酷なPCBT後にも不良が発生しなかった。
【符号の説明】
【0050】
11 積層セラミックコンデンサ
12 積層体
13 セラミック層
14、15 内部電極
16、17 端面
18、19 外部電極
21、22 第1のめっき層
23、24 第2のめっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層間に配置された内部電極と、を有する積層体と、
前記積層体の外表面上に形成され、前記内部電極と電気的に接続された外部電極と、
を備え、
前記セラミック層がCaZrO3を主成分として含み、
前記積層体と前記外部電極との間に、(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物(Caが0を含む)を含む層が形成されている、積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記(Ba,Ca)−Zn−Si系酸化物は、(Ba,Ca)ZnSiO4の結晶相である、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59742(P2012−59742A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198579(P2010−198579)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】