説明

積層セラミックコンデンサ

【課題】 高温負荷寿命に優れた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 誘電体層5はセラミック粒子11の焼結体からなるとともに、内部電極層7は金属とセラミック成分とから構成されており、セラミック粒子11は、コア部Cと、コア部Cの周囲を取り巻くシェル部Sとからなり、シェル部Sには少なくとも希土類元素(RE)が含まれており、セラミック粒子11のうち内部電極層7に接しているセラミック粒子11は、誘電体層5の厚み方向において、内部電極層7に接した側のシェル部Sの厚みt1が内部電極層7に接していない側よりも厚い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル構造を有する結晶粒子により構成される誘電体磁器を誘電体層とする積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、多種多様な電子デバイスの回路に用いられる電子部品であり、電子デバイスの小型化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化が求められている。
【0003】
この種の積層セラミックコンデンサは、誘電体層と誘電体層との間に内部電極が介在されたものを積層し、積層体を焼結させて形成しているが、積層セラミックコンデンサの容量を低下させずに小型化するためには誘電体層を薄層化する必要がある。
【0004】
一方、誘電体層を薄層化すると、誘電体層には高電界強度の電圧が印加されることとなるため、誘電率の低下や温度特性の劣化を招いたり、高温での長時間駆動により絶縁抵抗が低下して不良品が発生し易くなり、信頼性(以下、高温負荷寿命という。)の低下を招くおそれがある。
【0005】
したがって、誘電体層の薄層化により高い電界強度の電圧が印加されても、誘電率が大きく、良好な温度特性を有し、かつ信頼性の優れた誘電体セラミックを実現する必要がある。
【0006】
そこで、近年、積層セラミックコンデンサの誘電体層に適用する誘電体磁器として、主成分であるチタン酸バリウムに、Mg、希土類元素(RE)およびMn等を含む添加成分を加えて、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子の周囲に添加成分を高濃度に固溶させた、いわゆるコアシェル構造を有する結晶粒子により構成されたものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−230149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような積層セラミックコンデンサにおいても、誘電体層がさらに薄層化された場合には、誘電体層の1層あたりにかかる電界強度がさらに高くなることに起因して、高温負荷寿命を満たさないという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高温負荷寿命に優れた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなり、前記誘電体層はセラミック粒子の焼結体からなるとともに、前記内部電極層は金属とセラミック成分とから構成されており、前記セラミック粒子は、コア部と、該コア部の周囲を取り巻くシェル部とからなり、該シェル部には少なくとも希土類元素が含まれており、前記セラミック粒子のうち前記内部電極層に接しているセラミック粒子は、前記誘電体
層の厚み方向において、前記内部電極層に接した側のシェル部の厚みが前記内部電極層に接していない側よりも厚いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温負荷寿命に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の積層セラミックコンデンサの一実施形態を示す概略断面図であり、(b)は、(a)の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層を部分的に拡大した断面図である。
【図2】本実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する内部電極層を部分的に拡大した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(a)は、本発明の積層セラミックコンデンサの一実施形態を示す概略断面図であり、(b)は、(a)の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層を部分的に拡大した断面図である。
【0014】
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、コンデンサ本体1の両端面に外部電極3が設けられた構成となっており、そのコンデンサ本体1は誘電体層5と内部電極層7とが交互に複数積層された構造を有している。図1では誘電体層5と内部電極層7との積層状態を単純化して示しているが、誘電体層5と内部電極層7とは数百層にも及ぶ積層体となっている。なお、積層数は電子部品の特性を高められるという点で、100層以上、特に、200層以上であることが好ましい。
【0015】
本実施形態の積層セラミックコンデンサにおけるコンデンサ本体1を構成する誘電体層5はセラミック粒子11の焼結体により構成されており、そのセラミック粒子11は、コア部Cと、そのコア部Cの周囲を取り巻くシェル部Sとから構成されている。シェル部Sには少なくとも希土類元素が含まれており、セラミック粒子11のうち内部電極層7に接しているセラミック粒子11は、誘電体層5の厚み方向において、内部電極層7に接した側のシェル部Sの厚みt1が内部電極層7に接してない側の厚みt2よりも厚くなっている。これにより積層セラミックコンデンサは高温負荷寿命を高めることができる。
【0016】
積層セラミックコンデンサに電圧が印加されたときには、電荷は内部電極層7の表面付近に偏在することになるが、本発明においては、内部電極層7に接した方のセラミック粒子11のシェル部Sの厚みt1を内部電極層7側とは反対側のシェル部Sの厚みt2よりも厚くしているために、強誘電性を示し直流電流の流れやすいコア部Cへの電荷の流れを抑制する効果が高まる。これにより誘電体層5における1層あたり絶縁性が高まり、高温負荷寿命を向上させることができる。
【0017】
内部電極層7に接した側のシェル部Sの厚みt1が内部電極層7に接していない側のシェル部t2よりも厚いとは、厚みt1が厚みt2よりも5nm以上厚い場合をいい、高温負荷寿命をより高めるという点で厚みt1と厚みt2との差が10nm以上であることが望ましい。厚みt1と厚みt2との差が10nm以上であるときには絶縁破壊電圧も高めることができる。
【0018】
セラミック粒子11は、例えば、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成されており、そのセラミック粒子11の内部に位置するコア部Cは、原子%単位で表したときにチタン酸バリウムが95原子%以上であり、他の成分が検出限界以下となっている
領域である。
【0019】
一方、シェル部Sは主成分であるチタン酸バリウムとともに少なくとも希土類元素が含まれており、希土類元素の濃度が0.05原子%以上となっている領域である。
【0020】
シェル部Sは、希土類元素の濃度勾配がセラミック粒子11の表面側から内部のコア部C側に向けて0.05原子%/nm以上の範囲とする。一方、コア部Cは、シェル部Sの内側に位置し、希土類元素の濃度勾配が0.03原子%以下の範囲である。
【0021】
積層セラミックコンデンサにおいて、希土類元素はチタン酸バリウムに固溶することによって、還元焼成により生成するチタン酸バリウムの格子欠陥を補償する役割を担うことができる。このためチタン酸バリウムを主成分とするセラミック粒子11を主結晶粒子とする誘電体層5の絶縁性および高温負荷寿命を高めることが可能となる。
【0022】
本実施形態の積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層5を構成するセラミック粒子11のうち、内部電極層7に接したセラミック粒子11はコア部Cがセラミック粒子11の中心からずれた構造となっており、誘電体層5の厚み方向において、シェル部Sの厚みの厚い側が内部電極層7側に向いており、シェル部Sの厚みの薄い方が内部電極層7とは反対側に向いている。この場合、誘電体層5の厚み方向において、内部電極層7側に向いているセラミック粒子11のシェル部Sの厚みは、誘電体層5の厚み方向の中央に行くにつれて薄くなっていてもよい。
【0023】
誘電体層5を構成するセラミック粒子11は、平均粒径が0.1〜0.3μmであることが望ましい。セラミック粒子11の平均粒径が0.1μm以上であると、セラミック粒子11の表面側にシェル部Sを有するとともに、シェル部Sの内側にコア部Cを有するものにできる。セラミック粒子11の平均粒径が0.3μm以下であると、2層の内部電極層7に挟まれた誘電体層5の厚み方向に多数のセラミック粒子11を存在させることができ、表面側にシェル部Sを有するとともに、シェル部Sの内側にコア部Cを有するセラミック粒子11を誘電体層5の厚み方向に向けて多数存在させることができる。これにより誘電体層5の厚みが薄くても絶縁性の高い誘電体層5を形成できる。
【0024】
セラミック粒子11のコアシェル構造の分析は、以下の方法により行う。まず、積層セラミックコンデンサから内部電極層7が断面に垂直になるように露出させた試料を切り出す。この試料を透過電子顕微鏡観察用の試料を作製する研磨装置(イオンミリング)に適用できるサイズまで研磨を行う。研磨した試料は内部電極層間に誘電体層が挟持された構造を有している。
【0025】
次に、研磨した試料のイオンミリングを行う。イオンミリングした試料について透過電子顕微鏡観察を行いながら、エネルギー分散型または波長分散型の分析装置(EPMA)を用いて、内部電極層7に接したセラミック粒子11について、内部電極層7の主面にほぼ垂直な方向である誘電体層5の厚み方向に向けて5〜20nm毎に元素分析を行う。この分析は、内部電極層7に接した1個のセラミック粒子11について、その表面の位置からセラミック粒子11の中心部を通過して、そのセラミック粒子11の内部電極層7とは反対側の対向する表面まで行う。このような分析を内部電極層7に接している3〜10個のセラミック粒子11について行い、このときプローブは1〜3nmのサイズの領域に当てられるものを用いる。
【0026】
内部電極層7は、金属7aとセラミック成分7bとが複合した膜により形成されたものである。金属7aとしては、セラミック層5との同時焼成を可能とし、焼成時の酸素濃度を考慮して選択されCuやNiなどの卑金属が好適である。
【0027】
本実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する内部電極層7は希土類元素を含んでいるのが良く、さらには誘電体層5との接着性を高めるという理由から、誘電体層5を構成するセラミック粒子11と同じ主成分を含ませても良い。
【0028】
内部電極層7は、その平均厚みが厚くなると内部電極層7の途切れを低減できるために静電容量の発現に寄与できる有効な面積を確保できるが、内部電極層7の平均厚みが厚い場合には絶縁破壊試験等において高い電圧が印加された際にクラック発生しやすくなる。そこで、内部電極層7の有効面積を確保でき、クラックの発生を抑制できるという理由から内部電極層7の平均厚みは0.5〜1.5μmであることが望ましい。
【0029】
図2は、本実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する内部電極層を部分的に拡大した断面模式図である。本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、内部電極層7が希土類元素を含み、厚み方向において、内部電極層7の誘電体層側7aに内部電極層7の厚み方向の中央7bよりも、その希土類元素を多く含んでいることが望ましい。
【0030】
積層セラミックコンデンサを構成する内部電極層7が誘電体層5との界面付近に希土類元素を多く含むものであると、誘電体層5を構成するセラミック粒子11の格子欠陥をより補償し易くなり、これにより誘電体層5の絶縁性を高めることができる。この場合、内部電極層7中に含まれる希土類元素(RE)の含有量がRE換算で0.15〜0.40質量%であると、積層セラミックコンデンサの高温負荷寿命および絶縁破壊電圧をさらに高めることができるとともに、誘電体層5の比誘電率を高めることができる。
【0031】
内部電極層7に含まれる希土類元素の濃度分布(濃度勾配)もまた、セラミック粒子11のシェル部Sの厚みt1、t2を測定した試料から、EPMAを備えた透過電子顕微鏡を用いて求める。この場合、シェル部Sにおける希土類元素の濃度を求めたように、内部電極層7の主面にほぼ垂直な方向に向けて希土類元素の濃度分析を行って求める。ここで、誘電体層5側の希土類元素の濃度が厚み方向の中央よりも高いというのは、内部電極層7の厚み方向において、誘電体層5側の希土類元素の濃度が厚み方向の中央よりも0.05原子%以上高い場合とする。
【0032】
内部電極層7中に含まれる希土類元素の含有量は、積層セラミックコンデンサを内部電極層7と誘電体層5との界面で剥離し、内部電極層7を剥がして集めた膜をICP分析により求める。
【0033】
次に、本実施形態の積層セラミックコンデンサを製造する方法について説明する。まず、主成分粉末として、純度が99質量%以上のチタン酸バリウム粉末(以下、BT粉末という。)を用意し、これにMgO粉末、希土類元素の酸化物粉末(以下、RE粉末とする)、およびMnCO粉末を所定量添加する。用いるBT粉末の平均粒径は0.1〜0.2μmであるものが好適である。BT粉末の平均粒径が0.1〜0.2μmであると、焼成温度の適正化により、BT粉末に対する、マグネシウム、希土類元素およびマンガンの固溶を抑制することができるとともに、焼成後のセラミック粒子11がコアシェル構造を有するものにすることが可能になる。また、BT粉末を構成するBaとTiとのモル比は0.999〜1.008の範囲であることが望ましい。なお、主成分粉末としては、上記のBT粉末の他に、同様の純度を有するチタン酸バリウムにカルシウム、ストロンチウム、ジルコニウムなどから選ばれる少なくとも1種の元素を固溶させた粉末およびこれらの混合粉末を用いることもできる。また、RE粉末としては、Y粉末、Ho粉末、Er粉末、Yb粉末、Tb粉末、Dy粉末およびGd粉末から選ばれる少なくとも1種が好適なものとして用いることができる。
【0034】
次に、上記のように配合して調製した誘電体粉末に専用の有機ビヒクルを加えてセラミックスラリを調製し、次いで、ドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いてセラミックグリーンシートを形成する。この場合、セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層5の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で0.5〜3μmが好ましい。
【0035】
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストは、Ni、Cuもしくはこれらの合金粉末等の金属と、セラミック成分として、少なくともRE粉末とを含ませたものを用いる。セラミック成分として、さらに、セラミックグリーンシートを形成するための主成分粉末を添加してもよい。
【0036】
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねてシート積層体を形成する。この場合、シート積層体中における内部電極パターンは、長手方向に半パターンずつずらしてある。
【0037】
次に、シート積層体を格子状に切断して、内部電極パターンの端部が露出するようにコンデンサ本体成形体を形成する。このような積層工法により、切断後のコンデンサ本体成形体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
【0038】
次に、コンデンサ本体成形体を脱脂した後焼成する。焼成温度は、本実施形態におけるBT粉末への添加剤の固溶と結晶粒子の粒成長を抑制するという理由から1100〜1200℃が好ましい。
【0039】
また、焼成後に、再度、弱還元雰囲気にて熱処理を行う。この熱処理は還元雰囲気中での焼成において還元された誘電体磁器を再酸化し、焼成時に還元されて低下した絶縁抵抗を回復するために行うものである。その温度は結晶粒子9の粒成長を抑えつつ再酸化量を高めるという理由から900〜1100℃が好ましい。こうして誘電体磁器が高絶縁性化し、X7R特性を示す積層セラミックコンデンサを作製することができる。
【0040】
次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極3を形成する。また、この外部電極3の表面には実装性を高めるためにメッキ膜を形成しても構わない。
【0041】
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5を形成するためのセラミックグリーンシートとして、主成分粉末であるBT粉末に、MgO粉末、RE粉末およびMnCO粉末を添加したものを用いて作製されるものであることから、焼成後に得られる誘電体層5を構成するセラミック粒子11は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子の表面付近に、Mg、希土類元素およびMnが固溶したコアシェル構造を有するセラミック粒子11となる。
【0042】
これに加えて、本実施形態の積層セラミックコンデンサの製法では、内部電極パターンを形成するための導体ペーストとして金属とRE粉末とを含むものを用いることから、焼成中に、内部電極パターンに含まれているRE粉末中の希土類元素が誘電体層5側に拡散する。こうして誘電体層5を構成するセラミック粒子11のうち、内部電極層7に接している方のセラミック粒子11へ多くの希土類元素を固溶させることができる。その結果、誘電体層5の厚み方向において、内部電極層7に接した側のシェル部Sの厚みt1が内部電極層7に接していない側のシェル部Sの厚みt2よりも厚くなったセラミ
ック粒子11により構成される誘電体層5を具備する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0043】
まず、原料粉末として、BT粉末、MgO粉末、Y粉末およびMnCO粉末を準備した。これらの各種原料粉末を、BT粉末100質量部としたときに、MgO粉末を0.5モル、Y粉末を1.0モル、MnCO粉末を0.5モル添加し、さらに、ガラス粉末(SiO=55、BaO=20、CaO=15、LiO=10(モル%))をチタン酸バリウム粉末100質量部に対して1質量部添加して誘電体粉末を調製した。
【0044】
この誘電体粉末を直径5mmのジルコニアボールを用いて、溶媒としてトルエンとアルコールとからなる混合溶媒を添加し湿式混合した。
【0045】
次に、湿式混合した粉末を、ポリビニルブチラール樹脂を溶解させたトルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径5mmのジルコニアボールを用いて湿式混合してセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により厚みが1.5μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0046】
次に、このセラミックグリーンシートの上面にNiを主成分とする矩形状の内部電極パターンを複数形成した。内部電極パターンを形成するための導体ペーストは、平均粒径が0.3μmのNi粉末100質量部に対してチタン酸バリウム(BT)の粉末を15質量部添加し、これにさらにRE粉末としてY粉末を添加したものを用いた。
【0047】
次に、内部電極パターンを形成したセラミックグリーンシートを200枚積層し、その上面側および下面側に内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートをそれぞれ20枚積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力10Pa、時間10分の条件で密着させて、積層体を作製し、しかる後、この積層体を、所定の寸法に切断してコンデンサ本体成形体を形成した。
【0048】
次に、コンデンサ本体成形体を大気中で脱バインダ処理した後、水素−窒素の混合ガス雰囲気にて酸素分圧が10−8Paの条件にて1140℃で2時間の焼成を行いコンデンサ本体を作製した。作製したコンデンサ本体のサイズは1005型に相当するものであり、そのサイズはおおよそ、0.95mm×0.48mm×0.48mmであった。また、誘電体層の平均厚みは1μm、内部電極層の1層の平均厚みは1μm、内部電極層の1層の有効面積は0.3mmであった。なお、有効面積とは、コンデンサ本体の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層同士の重なる部分の面積のことである。
【0049】
次に、作製したコンデンサ本体に窒素雰囲気中(酸素分圧:10−6Pa)1000℃で5時間の酸化処理を行った。次に、焼成したコンデンサ本体をバレル研磨した後、その両端部にCu粉末とガラスを含んだ外部電極ペーストを塗布し、850℃、窒素中で焼き付けを行い外部電極を形成した。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に、順にNiおよびSnメッキを行い積層セラミックコンデンサを作製した。
【0050】
次に、これらの積層セラミックコンデンサについて以下の評価を行った。評価はいずれも試料数10個とし、その平均値から求めた。比誘電率は静電容量を温度25℃、周波数1.0kHz、測定電圧1Vrmsで測定し、誘電体層の厚みと内部電極層の有効面積から求めた。また、高温負荷試験は、HALT試験で代用し、温度140℃、印加電圧9.45Vの条件で行った。HALT試験での試料数は各試料20個とし、平均故障時間(M
TTF)を算出した。
【0051】
また、絶縁破壊電圧(BDV)は、絶縁抵抗計を用いて測定した。このとき電圧の昇圧レートは10V/秒とした。絶縁破壊電圧の値は、0.5A以上のリーク電流が流れ始めたか、または、試料である積層セラミックコンデンサが破壊したときの電圧値とした。
【0052】
誘電体層を構成するセラミック粒子のコアシェル構造の分析は以下のように行った。まず、作製した積層コンデンサから内部電極層が断面に垂直になるように露出させた試料を切り出した。次に、この試料を透過電子顕微鏡観察用の試料を作製する研磨装置(イオンミリング)に適用できるサイズまで研磨を行った。この場合、研磨した試料は内部電極層間に誘電体層が挟持された構造を有している状態になるようにした。次に、研磨した試料にイオンミリング加工を行った。次に、イオンミリングした試料について透過電子顕微鏡観察を行いながら、エネルギー分散型の分析装置(EPMA)を用いて、内部電極層に接したセラミック粒子について、内部電極層の主面にほぼ垂直な方向である誘電体層の厚み方向に向けて約5〜20nm毎に元素分析を行った。このときプローブは3nmのサイズの領域に当てられるものを用いた。また、希土類元素の濃度勾配の大きいシェル部付近は分析する箇所の間隔を狭くし、一方、希土類元素の濃度勾配の小さいコア部では分析する箇所の間隔を大きめに取った。この分析は内部電極層に接した1個のセラミック粒子について、その表面の位置からセラミック粒子の中心部を通過して、そのセラミック粒子の内部電極層7とは反対側の対向する表面まで行った。分析したセラミック粒子は表面側から中心部にかけて希土類元素の濃度が次第に減少する濃度勾配を有していたが、セラミック粒子の表面側において希土類元素の濃度勾配が0.05原子%以上を示す範囲をシェル部とし、シェル部とした範囲よりも内部側で希土類元素の濃度勾配が0.03原子%以下である範囲をコア部とした。セラミック粒子の内部電極層側のシェル部の厚みと、内部電極層とは反対側のシェル部の厚みを求めた。このような分析を内部電極層に接している5個のセラミック粒子について行い平均値を求めた。
【0053】
内部電極層に含まれる希土類元素の濃度分布(濃度勾配)もまた、セラミック粒子のシェル部Sの厚みt1、t2を測定した試料から、EPMAを備えた透過電子顕微鏡を用いて求めた。この場合、内部電極層の主面にほぼ垂直な方向に向けて希土類元素の濃度分析を行った。この場合、誘電体層側の希土類元素の濃度が厚み方向の中央よりも高いという判定は、内部電極層の厚み方向において、誘電体層側の希土類元素の濃度が厚み方向の中央よりも0.05原子%以上高い場合とした。
【0054】
内部電極層中に含まれる希土類元素の含有量は、積層セラミックコンデンサを内部電極層と誘電体層との界面でニッパを用いて剥離させ、内部電極層を剥がして集めた内部電極層の膜をICP分析により求めた。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から明らかなように、試料No.2〜12では、セラミック粒子のうち内部電極層に接しているセラミック粒子は、誘電体層の厚み方向において、内部電極層に接した側のシェル部の厚みt1が内部電極層に接していない側のシェル部の厚みt2よりも厚いものであったが、これらの試料では、高温負荷寿命(MTTF)が13時間以上、BDVが110V以上であった。
【0057】
また、内部電極層がYを含み、厚み方向の誘電体層側に希土類元素を多く含んでいる試料No.3〜12では、MTTFが16時間以上であり、BDVが120V以上であった。
【0058】
さらに、内部電極層中の前記希土類元素の含有量が0.15〜0.40質量%である試料No.3〜8では、MTTFが16時間以上、BDVが120V以上であるとともに、比誘電率が3000以上であった。
【0059】
これに対し、シェル部の厚みt1、t2に差を有しない試料No.1では、MTTFが10時間、BDVが97Vであった。
【符号の説明】
【0060】
1 コンデンサ本体
3 外部電極
5 誘電体層
7 内部電極層
11 セラミック粒子
C コア部
S シェル部
t1 セラミック粒子における内部電極層側のシェル部の厚み
t2 セラミック粒子における内部電極層側とは反対側のシェル部の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなり、
前記誘電体層はセラミック粒子の焼結体からなるとともに、
前記内部電極層は金属とセラミック成分とから構成されており、
前記セラミック粒子は、コア部と、該コア部の周囲を取り巻くシェル部とからなり、
該シェル部には少なくとも希土類元素が含まれており、
前記セラミック粒子のうち前記内部電極層に接しているセラミック粒子は、前記誘電体層の厚み方向において、前記内部電極層に接した側のシェル部の厚みが前記内部電極層に接していない側よりも厚いことを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記内部電極層が希土類元素を含み、厚み方向において、前記誘電体層側に前記希土類元素を多く含んでいることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記内部電極層中の前記希土類元素の含有量が0.15〜0.40質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−98312(P2013−98312A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238963(P2011−238963)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】